(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】骨障害の治療または予防に使用するためのマキベリー抽出物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/185 20060101AFI20241004BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20241004BHJP
A61K 31/353 20060101ALI20241004BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20241004BHJP
【FI】
A61K36/185
A61P19/08
A61K31/353
A23L33/105
(21)【出願番号】P 2021550158
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2020054951
(87)【国際公開番号】W WO2020173968
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-06-16
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518367035
【氏名又は名称】アンクラム エクストラクト ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Anklam Extrakt GmbH
【住所又は居所原語表記】Johann-Friedrich-Bottger-Str. 4 D-17389 Anklam Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボンレンダー,ベルント
(72)【発明者】
【氏名】ラング,シュテファニー
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恵子
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-167174(JP,A)
【文献】特表2013-508347(JP,A)
【文献】特表2004-507582(JP,A)
【文献】Minerva Cardioangiol.,2015年,63(suppl.1 to No.2) ,pp.1-12
【文献】PLOS ONE,2014年,9(5),e97177, page 1-11
【文献】Antioxidants,2019年09月,8,386, page 1-19,doi:10.3390/antiox8090386
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A61K 31/33-33/44
A61P
A23L 5/40-5/49
A23L 31/00-31/15
A23L 33/00-33/29
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先天性骨欠損、骨変形、脊椎変形、骨肉腫、骨形成異常症、骨軟化症(くる病)、骨形成不全症(脆弱骨疾患)、パジェット病の群から選択される骨疾患または骨欠損の治療または予防に使用するための医薬または栄養補給剤であって、
前記医薬または栄養補給剤は、マキベリー抽出物を含み、
前記マキベリー抽出物が、最小限25%(w/w)のデルフィニジンと最小限35%(w/w)の
総アントシアニンとを含み、
前記
マキベリー抽出物が、
a)
マキベリーを含む植物材料の粗抽出物を得るステップと、
b)前記粗抽出物を濾過するステップと、
c)前記粗抽出物を吸着剤と接触させ、前記吸着
剤に前記アントシアニンを吸着させるステップと、
d)前記吸着剤を洗浄するステップと、
e)前記吸着剤から前記アントシアニンを溶出して、アントシアニンが富化された組成物を得るステップとによって得ら
れる、医薬または栄養補給剤。
【請求項2】
前記マキベリー抽出物が
、40:60(v/v)~60:40(v/v)
、41:59(v/v)または50:50(v/v)の水/アルコール抽出剤によって得られる、請求項1に記載の医薬または栄養補給剤。
【請求項3】
前記アルコール抽出剤が、エタノール、特に96%エタノールである、請求項2に記載の医薬または栄養補給剤。
【請求項4】
ステップd)で水を使用し、ステップe)でエタノールを使用する、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬または栄養補給剤。
【請求項5】
ステップc)からステップd)までの前記吸着剤が、樹脂、特にポリマー樹脂また
はポリスチレン樹脂である、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬または栄養補給剤。
【請求項6】
前記医薬または栄養補給剤が、前記マキベリー抽出物を含む担体物質を含む製剤であって、糖衣錠、錠剤、フィルムコーティング錠、粉末剤、カプセル
または希釈液の形態をなし
、滴剤、ジュースもしくはシロップ、軟膏、乳剤、粒状剤、粉末剤、点鼻スプレー、液体もしくは固体の吸入製剤、圧迫包帯、創傷および歯肉の被覆、タンポナーデ、扁桃塗布液、うがい液、リンス液、注射剤、輸液、顆粒、腸溶錠、トローチ、懸濁液、湿布、点鼻薬、吸入剤、ローション、座剤、または経腸栄養剤を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬または栄養補給剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、骨損傷、骨疾患または骨欠損の治療または予防、骨損傷の治癒促進および骨形成促進に使用するためのマキベリーに関する。本明細書に開示される特定の実施形態は、特に、骨折治療、ならびに骨形成および骨再生に用いられる。特に、本発明は、先天性骨欠損、骨変形、脊椎変形、骨肉腫、骨形成異常症、骨軟化症(くる病)、骨形成不全症(脆弱骨疾患)、骨パジェット病、変形性関節症の群から選択される骨損傷、骨疾患または骨欠損の治療または予防に使用するための医薬または栄養補給剤の製造におけるマキベリー抽出物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
骨は、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、コラーゲンおよび水を含む多くの成分を含む生体組織であり、骨基質の吸収および沈着によって継続的に補充されている。骨折の場合、通常の治療は、折れた骨を元の場所に整復し、骨の位置を安定させ、次いで骨治癒過程が起こるのを待つことである。骨の治癒は、一般に3つの期、すなわち反応期、修復期およびリモデリング期を含むと考えられる複雑な過程である。
【0003】
反応期において、骨折部位に血腫が形成され、プロスタグランジンの媒介によって炎症細胞および線維芽細胞が骨に浸潤する。これによって、肉芽組織の形成、血管組織の増殖および間葉系細胞の遊走が起こる。修復期において、線維芽細胞は、血管の増殖を支援する基質の形成を開始する。血管増殖が進行するに従って、コラーゲンマトリックスが形成され、同時に類骨が分泌され、それに続いて石灰化が起こり、それによって修復部位の周りに柔らかい仮骨(軟骨)が形成される。数週間から数ヶ月後に軟骨は骨化し、骨折片間に線維性骨の架橋を形成する。リモデリング期の間に、治癒骨は、その元の形状、構造および機械強度に復元される。リモデリング期は、数ヶ月から数年にわたって徐々に行われるが、適切な骨強度は、通常は、3ヶ月から6ヶ月で得られる。
【0004】
マキベリーは、チリワインベリー(アリストテリア・チレンシス(Aristotelia chilensis))とも呼ばれ、チリおよびアルゼンチンに位置するパタゴニアの原生林にのみ生育する天然のベリーである。現在まで、産業栽培はほとんど行われておらず、このベリーの大部分は、依然として野生植物から採取されている。パタゴニア地域はアンデス山脈に近く、寒い夜、暑い昼および強烈な紫外線照射という極めて過酷な気候を示す。これらの条件は、マキベリーに特有のファイトケミカルプロファイルをもたらす。この果物は、その驚くべき健康促進効果と貴重な成分とで知られているため、深紫から黒のこの小さなベリーは、先住民のマプチェインディアンによって何世紀にもわたって摂取されてきた。今日では、マキベリーは、その優れた抗酸化作用によって、枸杞(クコ)およびアサイーに次いで「スーパーフルーツ」とみなされている。チリでは、このベリーはジャム、ジュース、アイスクリームおよびリキュールに用いられており、日常生活の一部である。
【0005】
果物や野菜に含まれるポリフェノールなどの天然化合物が広範囲の生物学的効果および薬理効果を有することを示唆する証拠が増えてきている。その中で、ポリフェノールのサブグループである、ヘスペリジン、ケルセチンおよびルテオリンを含むいくつかのフラボノイドは、卵巣切除動物モデルにおいて骨量減少の予防効果を発揮することが示されている(非特許文献1)。同様に、ブルーベリーからのアントシアニン高含量化合物も、卵巣切除ラットモデルにおいて骨量減少に対して保護特性を有することが報告された(非特許文献2)。
【0006】
現行の抗骨粗鬆症薬、たとえばいくつかのビスホスホネート、抗RANKL抗体および選択的エストロゲン受容体モジュレーターは広く使用されており、それらの骨保護効果は確立されている。しかしながら、これらの薬物は破骨細胞活性を抑制することによって抗吸収作用を示し、これは骨リモデリングの抑制をもたらす可能性がある。このように、修復過程の欠如により骨内で生じる微細損傷は、治療後に正常な骨密度(BMD:bone mineral density)に到達できていた場合であってもかなりの割合の骨粗鬆症患者においてなぜ骨折が起こるのか、の理由であると考えられている。骨の健康を維持し可動性を確保するために、縦骨成長が停止した後でも、骨吸収後に適切な量の新たな骨が形成される必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Tsuji,M.;Yamamoto,H.;Sato,T.;Mizuha,Y.;Kawai,Y.;Taketani,Y.;Kato,S.;Terao,J;Inakuma,T.;Takeda,E. Dietary quercetin inhibits bone loss without effect on the uterus in ovariectomized mice(食餌性ケルセチンは、卵巣切除マウスの子宮に影響することなく骨量減少を抑制する).J.Bone Miner. Metab.第27巻,673~681ページ(2009年),doi:10.1007.
【文献】Devareddy,L.;Hooshmand,S.;Collins,J.K.;Lucas,E.A.;Chai,S.C.;Arjmandi,B.H. Blueberry prevents bone loss in ovariectomized rat model of postmenopausal osteoporosis(ブルーベリーは、閉経後骨粗鬆症の卵巣切除ラットモデルにおいて骨量減少を予防する」).J.Nutr.Biochem.第19巻,694~699ページ(2008年).
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、Delphinol(登録商標)が、in vitroで骨芽細胞の成熟および石灰化を増強させることを示す図である。
【
図2-1】
図2-1は、Delphinol(登録商標)が、骨芽細胞分化関連遺伝子発現に影響を与えることを示す図である。
【
図2-2】
図2-2は、Delphinol(登録商標)が、骨芽細胞分化関連遺伝子発現に影響を与えることを示す図である。
【
図2-3】
図2-3は、Delphinol(登録商標)が、骨芽細胞分化関連遺伝子発現に影響を与えることを示す図である。
【
図3】
図3は、卵巣切除(OVX)誘発骨減少症マウスモデルの実験プロトコルを示す図である。
【
図4-1】
図4-1は、OVX誘発骨減少マウスモデルにおける、Delphinol(登録商標)の抗吸収作用および骨新形成作用の組織形態計測学的分析を示す図である。
【
図4-2】
図4-2は、OVX誘発骨減少マウスモデルにおける、Delphinol(登録商標)の抗吸収作用および骨新形成作用の組織形態計測学的分析を示す図である。
【
図5】
図5は、sRANKL誘発骨減少マウスモデルの実験プロトコルを示す図である。
【
図6-1】
図6-1は、sRANKL誘発骨減少マウスモデルにおける、Delphinol(登録商標)の抗吸収作用および骨形成作用の組織形態計測学的分析を示す図である。
【
図6-2】
図6-2は、sRANKL誘発骨減少マウスモデルにおける、Delphinol(登録商標)の抗吸収作用および骨形成作用の組織形態計測学的分析を示す図である。
【
図7】
図7は、炎症性NF-κBシグナル伝達経路および抗炎症治療戦略を示す図である。
【
図8】
図8は、核へのNF-κBの移動の抑制を示す図である。
【発明の概要】
【0009】
したがって、先天性骨欠損、骨変形、脊椎変形、骨肉腫、骨形成異常症、骨軟化症(くる病)、骨形成不全症(脆弱骨疾患)、骨パジェット病、変形性関節症の群から選択される骨損傷、骨疾患または骨欠損の治療または予防に有用な薬物を提供することが本発明の目的である。
【0010】
驚くべきことに、本発明者らは、本明細書に開示されたマキベリー抽出物が、新たな骨形成を誘導することによって骨修復を促進することを見出した。
【0011】
したがって、対象者における骨の形成、修復または再生を促進する方法であって、それを必要とする対象者に、本明細書に開示されるマキベリー抽出物の有効量を投与することを含む方法が本明細書に開示される。
【0012】
対象者は、骨損傷、骨欠損または骨疾患を患っていてもよく、またこのような損傷、欠損または疾患を受けやすいかまたはその素因を有していてもよい。損傷は、たとえば、骨折または、骨折によって生じる骨欠乏であってもよい。疾患は、特に、先天性骨欠損、骨変形、脊椎変形、骨肉腫、骨形成異常症、骨軟化症(くる病)、骨形成不全症(脆弱骨疾患)、骨パジェット病、変形性関節症の群から選択される骨疾患であってもよい。
【0013】
言及したすべての損傷、疾患および欠損は、Pschyrembel(たとえばhttps://www.pschyrembel.de/)で詳細に説明されている。
【0014】
マキベリー抽出物によって、損傷または疾患の治癒の速度または程度を高めてもよい。この抽出物または組成物によって、骨形成、骨修復または骨再生を促進させてもよい。この損傷、欠損または疾患は、急性または慢性であってもよい。新骨形成、損傷骨または別様の不良骨の修復、または骨の再生が望ましいかまたは有益な、本明細書に開示された実施形態に関連する損傷、欠損および疾患の範囲を、当業者は容易に理解するであろう。ほんの一例として、この損傷は、たとえば、骨折または半月板損傷などの損傷の結果であってもよい。好ましい実施形態において、前記の欠損および疾患は、異常な骨代謝、骨形成または骨吸収を特徴とするかまたはそれに関連する、先天性骨欠損、骨変形、脊椎変形、骨肉腫、骨形成異常症、骨軟化症(くる病)、骨形成不全症(脆弱骨疾患)、骨パジェット病、変形性関節症の群から選択される。
【0015】
したがって、特にマキベリー抽出物の抗酸化的防御に関するアプローチは、骨量減少の一次予防に重要であるが、一方でこのアプローチによって後の人生での骨折のリスクを低下させ、損傷または疾患の治癒手順を改善させてもよい。さらに、マキベリー抽出物は、抗炎症作用を示すことが有利である。
【0016】
マキベリー抽出物は、原料、好ましくは果物およびベリーから得られるそれぞれの画分に基づいて、水/アルコールおよび他の溶媒によって得ることができる。このような方法は、最新技術において周知である。
【0017】
水/アルコール抽出剤は、40:60(v/v)~60:40(v/v)、特に41:59(v/v)、または50:50(v/v)の比率で用いられる。
【0018】
本発明のすべての実施形態におけるアルコールとして、特にエタノール、特に80%以上のエタノール(v/v)、例えば96%エタノール(v/v)が用いられる。
【0019】
好ましい実施形態において、マキベリー抽出物は、有効成分としてアントシアニン(糖を含む)、特にデルフィニジン配糖体(いわゆるデルフィニジン)で富化されている。特に、マキベリー抽出物は、デルフィニジン‐3‐サンブビオシド‐5‐グルコシド、デルフィニジン‐3,5‐ジグルコシド、デルフィニジン‐3‐サンブビオシドまたはデルフィニジン‐3‐グルコシドで富化されている。さらに、デルフィニジン‐3‐O‐ガラクトシド、デルフィニジン3‐O‐グルコシド、シアニジン‐3‐O‐ガラクトシド、デルフィニジン‐3‐O‐アラビノシド、シアニジン‐3‐O‐グルコシド、ペツニジン‐3‐O‐ガラクトシド、ペツニジン‐3‐O‐グルコシド、シアニジン‐3‐O‐アラビノシド、ペオニジン‐3‐O‐ガラクトシド、ペツニジン‐3‐O‐アラビノシド、マルビジン‐3‐O‐ガラクトシド、ペオニジン‐3‐O‐グルコシド、マルビジン‐3‐O‐グルコシド、ペオニジン‐3‐O‐アラビノース、マルビジン‐3‐O‐アラビノースは、マキベリー抽出物の好ましい化合物である。
【0020】
【0021】
【0022】
好ましい実施形態において、マキベリー抽出物は、
a)植物材料の粗抽出物を得るステップと、
b)前記粗抽出物を濾過するステップと、
c)前記粗抽出物を吸着剤、好ましくは樹脂、例えばポリマー樹脂、特にポリスチレン樹脂に接触させ、前記樹脂に前記アントシアニンを吸着させるステップと、
d)前記吸着剤、特に樹脂を洗浄するステップと、
e)前記吸着剤から前記アントシアニンを溶出して、アントシアニンが富化された組成物を得るステップと、
によって得ることができる。
【0023】
したがって、本発明は、最小限25%(w/w)のデルフィニジンと最小限35%(w/w)の総アントシアニンとを含むように規格化されたマキベリー抽出物を指す。
【0024】
好ましい実施形態において、ステップd.)で水を使用する。さらに好ましい実施形態において、ステップe.)でエタノールを使用する。
【0025】
好ましい実施形態において、ステップa.)の植物材料は、果物および/またはベリーから選択される。
【0026】
このような得られた抽出物は、前記の処理ステップにより、独特で特別な組成の成分を有する。
【0027】
本明細書で使用される場合、用語「治療する」および「治療」または「予防する」および「予防」は、状態または症状を治療し、状態または疾患の形成を予防し、または別様に状態もしくは疾患または他のいかなる望ましくない症状の進展も予防し、妨ぎ、遅らせ、または回復させるためのありとあらゆる使用を意味する。したがって、用語「治療する」および「治療」または「予防する」および「予防」は、それらの最も広い意味とみなされる。たとえば、治療は、必ずしも対象者が完全回復まで治療されることを意味しない。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「対象者」は、ヒトおよび動物を含む。通常は、対象者はヒトまたは患者である。
【0029】
好ましくは、マキベリー抽出物は、1以上の薬学的に許容される担体または希釈剤をさらに含む医薬組成物として製剤化される。
【0030】
本発明のマキベリー抽出物を用いて製造される医療用医薬品は、経口、非経口、局所、筋肉内、関節周囲、関節内、静脈内、腹腔内、皮下、または直腸に投与することができる。本発明は、本発明のマキベリー抽出物に、薬学的に適切で生理学的に許容される媒体と、任意選択でさらなる適切な有効成分、添加剤または補助物質とを加えて投与用薬剤の適切な剤形をもたらす機能を特徴とする医療用医薬品の製造プロセスに関する。適切な固体または液体のガレヌス剤形の調製品または製剤には、たとえば、粒状剤、粉末剤、糖衣錠、錠剤、(マイクロ)カプセル、座剤、シロップ、ジュース、懸濁液、乳剤、滴剤また注射液だけでなく、従来の補助物質の調製に用いられ、有効成分を遅延放出する調製物(たとえば賦形物質)、調製品の崩壊をもたらす薬剤、結合剤、コーティング剤、膨張剤、滑り促進剤または滑沢剤、風味改良剤、甘味料および可溶化剤などがある。補助物質として、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、ラクトース、マンニトールおよび他の糖、滑石粉、乳タンパク質、ゼラチン、デンプン、セルロースおよびその誘導体、動物および植物油、たとえばタラ肝油、ひまわり油、落花生[油]またはゴマ油、ポリエチレングリコール、ならびに溶媒、たとえば滅菌水および1価または多価アルコール、たとえばグリセリンなど、を挙げてもよい。
【0031】
マキベリー抽出物を医薬品の調製品に用いるとき、たとえば注射剤(乳化性、懸濁性、非水性など)または、使用前に乳化または懸濁させる固形注射剤、輸液、粉末剤、顆粒、錠剤、カプセル、腸溶錠、トローチ、内用液剤、懸濁液、乳剤、シロップ、外用液剤、湿布、点鼻薬、吸入剤、軟膏、ローション、座剤、経腸栄養剤などの、経口または非経口投与に有利に用いられる任意の剤形で投与してもよい。これは、病状に応じて、単独または組み合わせのいずれかで使用してもよい。これらは、製造用の薬理学的および薬学的に許容されるアジュバントを主要薬物に添加する従来の方法に従って調製してもよい。
【0032】
医療用医薬品は、好ましくは、各単位が、活性成分として規定量の本発明のマキベリー抽出物を含む投与単位で製造され投与される。錠剤、カプセル、糖衣錠または座剤などの固体の投与単位の場合は、この用量は1~1000mg、好ましくは50~300mgにすることができ、アンプル剤形の注射液の場合は、この用量は、0.3~300mg、好ましくは10~100mgにすることができる。
【0033】
体重50~100kg、たとえば70kgの成人患者の治療には、1日量の有効成分20~1000mg、好ましくは有効成分100~500mgが必要とされる。しかしながら、特定の条件下では、より高いまたはより低い1日量を投与することもできる。1日量の投与は、個々の投与単位剤形またはいくつかのより小さな投与単位剤形での一度だけの投与で、または規定の間隔での細分化した量の複数回の投与で行うことができる。
【0034】
以下に、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。しかしながら、これらの実施例は、本発明の保護の範囲を何ら限定するものではない。
【0035】
これらの実施例は、いくつかの図面も参照する。それらの凡例は下記に示す。
実施例:
Delphinol(登録商標)(maquisupreme(登録商標)という商標名もある)は、Anklam Extrakt社(ドイツ)によってGMP条件下で製造される、マキベリーの高水溶性粉末状抽出物である。Delphinol(登録商標)は、最小限25%のデルフィニジンと最小限35%の総アントシアニン(前出)とを含むように規格化されている。
実施例1:
骨芽細胞の分化および機能に対するDelphinol(登録商標)の効果
in vitroでMC3T3‐E1骨芽細胞にDelphinol(登録商標)を用いることによって、この抽出物が多層増殖を刺激し、それによって、培養物のアリザリンレッドS染色(
図1、左パネル)によって用量依存的に検出されるミネラル沈着の著しい増加をもたらすことを明らかにすることができた。骨結節形成の過程で、Delphinol(登録商標)は、骨芽細胞マーカー酵素ALPの活性を著しく刺激した(
図1、右パネル)。
実施例2:
さらにDelphinol(登録商標)は、破骨細胞分化特異的遺伝子、すなわち骨形成タンパク質(Bmp)2、Bmp4、Runx2およびOsx、骨の恒常性を制御することが知られている2つの骨特異的転写因子、骨の細胞外マトリックスであり組織の石灰化に重要な役割を果たしていることが公知のマトリックス細胞外リン糖タンパク質(Mepe)および、骨γ‐カルボキシグルタミン酸タンパク質(骨glaタンパク質)としても知られ、骨形成のマーカーでもあるオステオカルシン(Ocn)(
図2)をアップレギュレートした。
実施例3:
2つのin vivoマウスモデルにおける、骨量減少に対するDelphinol(登録商標)の経口投与の保護作用およびタンパク同化作用
骨の形成および骨芽細胞の石灰化についてのin vitro所見をin vivoアプローチで検証するために、2つの骨減少症マウスモデル、すなわち卵巣切除(OVX)誘発およびsRANKL誘発骨量減少モデルを行い、ASBMR Histomorphometry Nomenclature Committee(Dempsterら(2013年),https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23197339)の方法に従ってマイクロCTスキャンを用いて大腿骨構造の解析を行った。
【0036】
OVX誘発モデル用に、雌マウスに卵巣切除または擬似手術を行った。術後7日目から開始して、卵巣切除したマウスに、Delphinol(登録商標)(0.75mg/日)または不活性媒体のいずれかを計28日間経口投与した。23日目と26日目に、2種類の蛍光分子(テトラサイクリンおよびカルセイン)を注入して、大腿骨の骨微細構造の解析を可能にした。
実施例4:
マイクロCTスキャンから作成した大腿骨遠位部の3次元の矢状中央部は、Delphinol(登録商標)投与群で観察された海綿骨が、媒体群または偽群マウスの海綿骨よりも厚いことを明らかにし、これは、Delphinol(登録商標)が、破骨細胞数の著しい減少(N.Oc/BS)、高い骨量(BV/TV)および浸食の少ない表面(ES/BS)に見られるように、骨吸収を抑制するだけでなく、in vitroの所見と矛盾することなく骨形成(BFR/TV)および類骨量(OV/TV)を加速させることができることも示唆した(
図4)。
実施例5:
2番目の骨減少症マウスモデル用に、雌マウスを、無処置対照群、媒体群またはDelphinol(登録商標)群のいずれかにグループ化した。後者の群にはDelphinol(登録商標)0.75mgをそれぞれ21日間投与した。7日目および8日目に、媒体群およびDelphinol(登録商標)群の腹腔内にsRANKLを注入した。OVXモデルと同様に、骨微細構造に関する後の試験のために、16日目と19日目に、2種類の蛍光分子、テトラサイクリン(TC)およびカルセイン(CAL)を注入した(
図5)。
実施例6:
マイクロCTスキャンから作成した大腿骨遠位部の3次元の矢状中央部は、Delphinol(登録商標)投与群で観察された海綿骨が、媒体群または無処置対照群マウスの海綿骨よりも厚いことを明らかにし、これは、Delphinol(登録商標)が、破骨細胞数の著しい減少(N.Oc/BS)、より増加した骨量(BV/TV)およびより浸食の減少した表面(ES/BS)に見られるように、骨減少症を抑制するだけでなく、in vitroの所見と矛盾することなく骨形成(BFR/TV)および類骨量(OV/TV)を刺激することができることも示唆した(
図6)。
実施例7:
NF‐κB炎症経路に対するDelphinol(登録商標)の効果
NF‐κBは、幅広い種類の免疫受容体と相互作用し、酸化ストレスによっても刺激を受ける場合がある、周知であり重点的に検査される主要な炎症メディエーターである。ひとたび活性化されれば、NF‐κBは、今度は、細胞質から核に移動し、(たとえばサイトカインおよびケモカインをコードする)多数の炎症誘発性遺伝子の発現を誘導し、これにより炎症性疾患の病原性プロセスの一因となる場合がある(
図7)。
実施例8:
NF‐κB活性サブユニットp65の核内移行に対するDelphinol(登録商標)の影響の試験は、Delphinol(登録商標)が、p65サブユニットの細胞核へのLPS誘発移動をほぼ完全に抑制したことを明らかにした。これは、MC3T3‐E1骨芽細胞の細胞質染色(
図8)によって明確に示される。LPS(細菌化合物)を用いて細胞を免疫刺激した。LPSが強い酸化ストレスを誘発してNF‐κB炎症性シグナル伝達カスケードを活性化させることは公知である。