(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】リチウムイオンセル用複合カソードの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1391 20100101AFI20241004BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20241004BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241004BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241004BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241004BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20241004BHJP
H01M 4/64 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H01M4/1391
H01M4/131
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/62 Z
H01M4/66 A
H01M4/64 A
(21)【出願番号】P 2021553775
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(86)【国際出願番号】 IN2020050223
(87)【国際公開番号】W WO2020183494
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】201941009925
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】521119902
【氏名又は名称】インディアン スペース リサーチ オーガニゼーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エス アラヴァムサン
(72)【発明者】
【氏名】マーシー ティーディー
(72)【発明者】
【氏名】ビビン ジョン
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-545859(JP,A)
【文献】特表2006-505914(JP,A)
【文献】特開2017-188203(JP,A)
【文献】特開2014-203572(JP,A)
【文献】特開2015-201283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)活物質、導電性希釈剤、
溶剤、およびバインダーを、遊星型混合機中で混合して、カソードスラリーを調製する工程;
(ii)前記カソードスラリーをアルミニウム箔基板上に、塗布ゾーン(coating zone)中で、速度0.2~0.8m/分で塗布する工程;および
(iii)カソードを、カレンダー処理装置で、温度50~150℃でカレンダー処理する工程;
を含
み、
前記活物質が、LiCoO
2
、LiNi
x
Co
y
Al
z
O
2
、LiNi
x
Co
y
Mn
z
O
2
からなる群から選択され、
前記導電性希釈剤が、アセチレンブック、グラファイト、カーボンナノチューブ、およびこれらの混合物からなる群から選ばれ、
前記溶剤が、1-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、およびジメチルホルムアミドからなる群から選ばれ、
前記バインダーが、ポリフッ化ビニリデン、およびフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる群から選択され、
前記活物質の量が、前記カソードスラリーの総質量に対して47~53質量%であり、
前記導電性希釈剤の量が、前記カソードスラリーの総質量に対して2~6質量%であり、
前記溶剤の量が、前記カソードスラリーの総質量に対して38~44質量%であり、
前記バインダーの量が、前記カソードスラリーの総質量に対して2~7質量%である、
リチウムイオンセル用複合カソードの製造方法。
【請求項2】
前記遊星型混合機中での混合前に、材料を乾燥させる工程をさらに含む、
請求項1に記載のリチウムイオンセル用複合カソードの製造方法。
【請求項3】
前記導電性希釈剤が、アセチレンブラックおよびグラファイトから選択される、
請求項1に記載のリチウムイオンセル用複合カソードの製造方法。
【請求項4】
前記導電性希釈剤が、アセチレンブラックおよびグラファイトの組合せである、
請求項1に記載のリチウムイオンセル用複合カソードの製造方法。
【請求項5】
前記活物質および前記導電性希釈剤を乾式混合し、混合を継続しながら
、バインダー溶液の添加、および
前記溶剤の添加を
異なるタイミングで行う、
請求項1に記載のリチウムイオンセル用複合カソードの製造方法。
【請求項6】
前記アルミニウム箔基板の厚さが、15~25μmである、
請求項1に記載のリチウムイオンセル用複合カソードの製造方法。
【請求項7】
前記塗布後のカソードの厚さが、150~300μmである、
請求項1に記載のリチウムイオンセル用複合カソードの製造方法。
【請求項8】
前記カレンダー処理後の前記カソードの最終的な厚みが、140~200μmである、
請求項1に記載のリチウムイオンセル用複合カソードの製造方法。
【請求項9】
電極塗布(electrode coating)を行う部屋の相対湿度が2~15%である、
請求項1に記載のリチウムイオンセル用複合カソードの製造方法。
【請求項10】
前記塗布後、塗布装置の乾燥ゾーン(drying zone)にて、前記カソードを温度50~150℃で乾燥させる工程をさらに含む、
請求項1に記載のリチウムイオンセル用複合カソードの製造方法。
【請求項11】
前記カソードのカレンダー処理が、速度3~5m/分、温度50~150℃で行われる、
請求項1に記載のリチウムイオンセル用複合カソードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合カソードの製造方法に関する。より具体的には、本発明は剥離強度、比容量、および保持容量が優れるリチウムイオンセル用複合カソードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオンセルは、例えば携帯電話、カメラ、ノート型パソコン等の種々の機器、さらには軍事製品、航空機、宇宙機器、電気自動車等のハイテク機器の電源としてかなりの注目を集めている。
【0003】
一般に、リチウムイオンセルは、カソード、アノード、および電解質を主要な構成要素として含む。リチウムイオンセルの性能は、使用される電極の特性に依存し、当該電極の特性は、使用される材料の種類、電極の組成、および電極の製造技術に依存する。
【0004】
リチウムイオンセルのカソード用の活物質として、多数のリチウム化金属酸化物およびリン酸塩が使用されてきた。リチウムイオンセルのカソード材料には、高い比容量、良好なサイクル性能、レート特性、および安全性が求められる。さらに、例えば人工衛星等、いくつかの用途では、セルの電圧を確認することで、任意の時点での充電状態を予測できるように、フラットな放電曲線ではなく、傾斜した放電曲線を示すことが求められる。
【0005】
比容量を有するリチウムイオンセルのためのカソード材料や、電極の組成、さらにはこれを用いたプロセスについて、多くの研究開発がなされてきた。
【0006】
米国特許第5,672,446号明細書は、カソードがリチウム化コバルト酸化物、リチウム化マンガン酸化物、リチウム化ニッケル酸化物、LixNi1-yCoyO2(xは好ましくは1程度であり、yは好ましくは0.1~0.9である)、LiNiVO4、またはLiCoVO4を含む電気化学電池を開示している。
【0007】
良好な比容量および容量保持率を達成するための、ローディングレベル(loading level)、厚さ、含水量、および剥離強度等のカソード特性に優れた複合カソードの効果的な製造方法、ならびに当該製造のためのシステムの提供は有用である。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、電気自動車、打ち上げロケット、人工衛星、潜水艦、航空機等といった様々な用途に適用可能な、優れたカソード特性を有するリチウムイオンセルのための、リチウムイオンセル用複合カソードの製造方法の提供にあり、当該製造方法は、(i)活物質、導電性希釈剤、およびバインダーを遊星混合機で混合して、カソードスラリーを調製する工程;(ii)前記スラリーをアルミニウム箔基板上に、塗布装置で0.2~0.8m/分の速度で塗装する工程;および(iii)カソードを、カレンダー処理装置で温度50~150℃でカレンダー処理する工程を含む。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の詳細な説明の目的を鑑みると、明示的に反する特定がなされている場合を除いて、本発明は様々な代替的なバリエーションや、工程の順序を含むと理解されるべきである。さらに、操作例を除いて、あるいは他に示されている場合を除き、材料の量等といった、明細書で使用されている全ての数字は、全ての場合において、「約」という記載に変更できると理解されるべきである。さらに、特記しない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲に記載されるすべてのパーセンテージは、全組成物の質量に対する量であることを指す。
【0010】
このように、本発明を詳細に説明する前に、本発明は、例示されるシステムや、方法のパラメータに限定されず、当然変更できることが理解されるべきである。また、本明細書で使用される用語は、本発明の特定の実施形態を説明することのみを目的としており、いかなる意味でも本発明の範囲を限定することを意図するものではないことも理解されるべきである。
【0011】
本願で議論される特定事項の実施例等、本明細書に記載の例として挙げられている用途は、例示に過ぎず、本発明の範囲および意味、さらにいずれの例示用語を限定するものでもない。同様に、本発明は、本明細書における様々な実施形態に限定されない。
【0012】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が関連する技術分野の当業者によって一般的に理解される用語と同じ意味を有する。もし矛盾が生じた場合には、定義を含めて本書類が優先される。
【0013】
なお、本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されている、単数形「a」、「an」及び「the」は、明示しない限り、対象物が複数である場合もある。例えば、「ポリマー(polymer)」との記載には、2種以上のポリマーも含む。
【0014】
「好ましい(preffered)」や「好ましくは(prefferable)」は、との記載は、特定の状態において、特定の効果を奏する本発明の実施形態を指す可能性がある。ただし、他の実施形態もまた、同一のまたは異なる状態において、好ましい場合がある。さらに、1つ、または1つ以上の好ましい実施形態の列挙は、他の実施形態が有用でないことを意味するものではなく、本発明の範囲から他の実施形態を排除することを意図するものでもない。
【0015】
さらに、含む(「comprising」、「including」、「containing」、「involving」等)という用語は、オープンエンドであると理解されるべきである。すなわち、含むこと、を意味し、限定的に解釈されない。
【0016】
一態様では、本出願は、以下の工程を含む、リチウムイオンセル用複合カソードの製造方法を提供する。
(i)活物質、導電性希釈剤、およびバインダーを、遊星型混合機で混合し、カソードスラリーを調製する工程;
(ii)前記スラリーをアルミニウム箔基板上に、塗布装置で、速度0.2~0.8m/分で塗布する工程;および
(iii)カソードを、カレンダー処理装置で温度50~150℃でカレンダー処理する工程。
【0017】
一実施形態では、カソードスラリーを、溶剤の存在下、活物質、導電性希釈剤、およびバインダーを、遊星型混合機で混合することにより、調製する。
【0018】
一実施形態では、活物質が、LiCoO2、LiNixCoyAlzO2、LiNixCoyMnzO2等から選択される。好ましい実施形態では、活物質はLiNixCoyAlzO2である。
【0019】
一実施形態では、導電性希釈剤は、アセチレンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ等、もしくはこれらの組合せから選択される。好ましい実施形態では、アセチレンブラックおよびグラファイトの混合物が導電性希釈剤として使用される。
【0020】
アセチレンブラックは単独で、リチウムイオンセルのカソードの導電性希釈剤として広く使用されている。アセチレンブラックは、平均粒径が数十ナノメートルから数百ナノメートルの高体積粒子である。そのため、アセチレンブラックと活物質との接触が、表面接触ではなく、点接触になりやすい。その結果、活物質と導電性助剤との間の接触抵抗が高くなる。また、活物質と導電助剤との接点を増やすために、導電助剤の量を増やすと、カソード中の活物質の割合が減少し、結果的に電池の放電性能が低下する。従来技術における当該欠点を回避するために、本開示では、アセチレンブラックとグラファイトとの混合物が導電性希釈剤として使用される。これにより、成分の均一な分布、およびカソードの比容量の増加に基づく好ましいカソード特性が実現される。
【0021】
一実施形態では、バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体等から選択される。具体的な実施形態では、バインダーはポリフッ化ビニリデンである。バインダーは、電極中の構成材料間の接着性を良好にするだけでなく、構成材料を基板上に結着する。バインダーは、セルに使用される材料と親和性を有する必要があり、さらにセルの動作電圧ウィンドウで電気化学的に安定でなければならない。
【0022】
一実施形態では、溶剤は、1-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)等から選択される。好ましい実施形態では、溶剤として1-メチル-2-ピロリドンが使用される。
【0023】
上述の方法は、遊星型混合機で混合する前に、材料を乾燥させる工程を含む。カソードの水分含有量は、リチウムイオンセルの効率、可逆容量、およびサイクルライフに影響を及ぼす重要な因子である。カソードの水分量は、LiNixCoyAlzO2のように、湿気に敏感な材料にとって非常に重要である。そのため、カソードスラリーの調製に使用される材料を混合前に乾燥させて、水分を除去する。
【0024】
PVDFを除く粉末材料は、600~700mmHgの真空下、150~230℃で20~36時間乾燥させる。PVDFは、600~700mmHgの真空下、50~80℃で2~7時間、乾燥させる。
【0025】
活物質、導電性希釈剤、およびバインダーの混合によるカソードスラリーの調製は、遊星型混合機中で行う。カソードの材料は、インレットから遊星型混合機に供給する。当該遊星型混合機は、遊星ブレードと高速分散機とを含む。遊星型混合機物による材料の混合は、材料の均一な混合を確実にするとともに活物質の粉砕を抑制し、優れた性能特性を有するカソードの形成を補助する。
【0026】
一実施形態において、遊星ブレードの速度は、40~160rpmである。
【0027】
一実施形態において、上記分散機の速度は450~600rpmの範囲である。
【0028】
材料を混合する際の順序は、カソードの電気化学的特性の決定に非常に重要である。本開示では、カソードスラリーの調製工程を、高速分散機を備えた遊星型混合機で行う。カソードスラリー調製の最初のステップとして、粉末状の材料を、より低速で乾式混合し、続いて必要な量のPVDF溶液を加える。次いで、混合を続けながら、カソードスラリーの粘度が所望の状態まで低下するまで、異なる間隔(different intervals)でNMPを添加する。
【0029】
スラリーの調製は、相対湿度2~15%の湿度制御環境下で実施する。
【0030】
具体的な実施形態におけるスラリーの粘度は、100rpmの速度で2000~15000cpsである(ブルックフィールド粘度計 RVDV-1 Primeにて、スピンドルS-06を使用して測定)。スラリーの粘度は、電極の特性の決定に重要な役割を果たす。粘度は、ローディングレベルの制御性、剥離強度、およびこれに伴うサイクル中の電極の性能を決定する。
【0031】
一実施形態では、活物質の量が、カソードスラリーの総質量に対して47~53質量%である。
【0032】
一実施形態では、導電性希釈剤の量が、カソードスラリーの総質量に対して2~6質量%である。
【0033】
一実施形態では、バインダーの量が、カソードスラリーの総質量に対して2~7質量%である。
【0034】
一実施形態では、溶剤の量が、カソードスラリーの総質量に対して38~44質量%である。
【0035】
電極の組成は、その電気化学的特性を決定する際に非常に重要である。電極中の活物質の濃度は、電極によって供給される容量を決定する。導電性希釈剤は、電極の導電性を向上させるために必要である。バインダーは、電極中の構成材料どうしを接着するだけでなく、構成材料を基板上に結着する。活物質の濃度が高いと、高比容量となる。しかし、セルの良好なサイクル特性およびレート性能のためには、導電性希釈剤およびバインダーを最適な濃度にすることが求められる。
【0036】
当該製造方法は、塗布装置でカソードスラリーを、アルミニウム箔基板上に塗布する工程をさらに含む。一実施形態において、アルミニウム箔基板の厚さは、15~25μmである。
【0037】
アルミニウム箔基板上へのカソードスラリーの塗布は、塗布装置内で行う。遊星型混合機で調製したカソードスラリーは、塗布装置に移す」。塗布装置は、コンマリバース方式で駆動する。コンマリバースブレードとアプリケーターとの間隔は、アルミニウム箔基板上への活物質の所望のローディングレベルに応じて調整する。一実施形態では、上記ギャップの設定値は、150~300μmである。
【0038】
本開示におけるカソードスラリーの塗布工程では、a)塗布を開始するために、スラリーをスラリーダムに供給し、b)コンマリバースブレードとアプリケーターとの間のギャップに基づいて、スラリーを箔上に移動させ、c)スラリーで被覆された箔について、2つの加熱ゾーンを通過させ、d)一方の側に塗膜を形成した箔について、他方の側に塗膜を形成するため、箔を反転させる。
【0039】
塗布装置は、複数の加熱ゾーンを備える。スラリーが塗布された箔について、加熱ゾーンを通過させる。箔の一方の側に対する塗膜形成が完了した後、他方の側に塗膜を形成するため、箔を反転させる。塗布速度および温度は、2つの加熱ゾーンを通過した後のカソードの乾燥に基づいて設定する。
【0040】
一実施形態では、カソードは、塗布装置の加熱ゾーンにて、50~150℃で乾燥させる。
【0041】
乾燥されたカソードを、最終的にロール状に巻きとる。一実施形態では、塗布速度は、0.2~0.8m/分である。
【0042】
カソードの塗布工程における環境は、カソードの特性決定に重要であり、特に湿度に敏感なLiNixCoyAlzO2のような材料では重要である。湿度の状態が適切に維持されないと、塗布の際にスラリーが厚くなり、スラリーが基板上に均一に広がり難くなる。
【0043】
一実施形態では、塗布工程を、相対湿度2~15%で行う。塗布後のカソードは、600~700mmHgの真空下、温度60~100℃で、3~10時間乾燥させる。一実施形態では、両面コーティング後のカソードの厚さが、150~300μmである。
【0044】
製造方法の次の工程は、カレンダー処理装置内でのカソードのカレンダー処理を含む。一実施形態では、カソードのカレンダー処理を、速度3~5m/分で行う。一実施形態では、カソードのカレンダー処理を、カレンダー処理装置内で温度50~150℃で行う。
【0045】
カレンダー処理装置は、予熱ゾーンと、カソードをプレスするための2つの加熱ロールとを備える。本開示に基づいて製造するロール状のカソードは、予熱ゾーンを通され、カレンダー処理装置のローラによって、速度3~5m/分で厚さ140~200μmにプレスされる。
【0046】
一実施形態では、予熱ゾーンの温度は、80~150℃である。一実施形態では、カレンダーロールの温度は、50~100℃である。
【0047】
本開示に従ってこのように製造されたカソードは、グラファイトアノードと対になるように組み立てられ、リチウムイオンセルとされる。本開示に従って製造されたリチウムイオンセルは、優れたセル性能を示す。本開示に基づくカソード、およびグラファイトアノードを有するリチウムイオン電池は、2000サイクル、C/2~1C充放電速度、100%放電深さで、80%を超える容量保持率を示した。
【0048】
一実施形態において、カソードの剥離強度は、200~500gf/cmである。
【0049】
一実施形態において、カソードの比容量は、C/10レート、4.1Vで160~165mAh/gである。
【0050】
本開示に係るリチウムイオンセル用複合カソードは、(i)70~93%のLiNixCoyAlzO2(x=0.8、y=0.15、およびz=0.05)と、(ii)2~15%のアセチレンブラックと、(iii)2~15%のグラファイトと、(iv)2~15%のポリフッ化ビニリデンを含む。いくつかの実施形態では、複合カソード中の活物質が、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物、リチウム鉄リン酸塩等であってもよい。
【0051】
以下の実施例は、クレームされた発明をより良く説明するために提供されるものであり、本発明の範囲を限定するものとして何ら解釈されるべきではない。以下に記載される全ての特定材料および方法は、本発明の範囲内に入る。これらの特定の組成物、材料、および方法は、本発明を限定することを意図するものではなく、単に本発明の範囲内に入る特定の実施形態を例示することを意図するものである。当業者は、発明能力を発揮することなく、本発明の範囲から逸脱することなく、同等の材料および方法で変形できる。このような変形も本発明の範囲内に含まれることを、本発明者らは意図している。
【実施例】
【0052】
セル特性に優れたリチウムイオンセル用複合カソードの調製について、以下の実施例に記載する。
【0053】
[実施例1]
LiNixCoyAlzO2系カソードの電極製造方法を以下に示す。
【0054】
当該カソードは、活物質としてLiNixCoyAlzO2、導電性希釈剤としてアセチレンブラックおよびグラファイトの混合物、およびバインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含む。電極組成は、LiNixCoyAlzO2:85~90%、アセチレンブラック:3~6%、グラファイト:4~7%、PVDF:3~8%である。1-メチル-2-ピロリドン(NMP)を、電極スラリーの調製の際の溶剤として用いる。上記活物質、上記導電性希釈剤、および上記PVDFは、真空下で混合前に乾燥させる。電極の製造は、スラリー調製、電極コーティング、およびカレンダー処理を含む。
【0055】
スラリーの調製は、高速分散機を備える遊星型混合機で行う。LiNixCoyAlzO2および導電性希釈剤を、遊星攪拌装置で、遊星ブレード速度50~80rpmおよび分散機速度450~500rpmにて乾式混合し、続いて遊星ブレード速度50~150rpmで混合を継続しながら、ポリフッ化ビニリデン溶液を添加し、さらにポリフッ化ビニリデン溶液とは異なる時間間隔でNMPを添加してスラリーを調製する。NMPの体積は、スラリーの固形分が60~62%となるように調整する。
【0056】
電極コーティングには、コンマリバース法で駆動する塗布装置を用いる。当該コーティングには、厚さ15μmのアルミニウム箔を用いた。コンマリバースブレードとアプリケーターとの間隔が180~230μmとなるように調整した。スラリーをスラリーダムに充填し、塗布を行う。塗布は、速度0.4~0.7m/分で行う。加熱ゾーンの温度は、70~130℃に保つ。乾燥後の電極は、装置からロール状に巻き取る。次いで、電極を、真空下、60~100℃で5~7時間乾燥させる。両面コーティング後の電極の厚さは180~220μmである。
【0057】
電極のカレンダー処理は、予熱処理ゾーンおよびカレンダーロールを有するカレンダー処理装置で行う。予熱温度は100~120℃、カレンダーロール温度は50~80℃とする。最終的な電極の厚さを140~170μmとするため、ロール状の電極を速度4~5m/分で予熱ロールおよびカレンダーロールを通過させる。
【0058】
[実施例2]
LiNixCoyMnzO2系カソードの電極製造方法を以下に記述する。
【0059】
当該カソードは、活物質としてLiNixCoyMnzO2、導電性希釈剤としてアセチレンブラックおよびグラファイト、ならびにバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含む。電極組成はLiNixCoyMnzO2:86~93%、アセチレンブラック:2~5%、グラファイト:3~7%、PVDF:2~6%である。溶媒としてNMPを使用する。上記活物質、上記導電性希釈剤、および上記PVDFは、真空下で混合前に乾燥させる。電極の製造は、スラリーの調製、電極コーティング、およびカレンダー処理を含む。
【0060】
スラリーの調製は高速分散機を有する遊星型混合機で行う。5~10%(質量)のPVDF溶液をNMP中で調製する。LiNixCoyMnzO2および導電性希釈剤を、遊星型混合機内で、遊星ブレードの速度50~100rpm、分散機速度450~550rpmで乾式混合する。次いで、ポリフッ化ビニリデン溶液を添加し、さらに遊星ブレード速度60~150rpmで混合を続けながら、異なる時間間隔でNMPを添加する。NMPの体積は、スラリーの固形分濃度が58~62%となるように調整する。
【0061】
電極コーティングには、コンマリバース法の塗布装置を用いる。当該コーティングには厚さ20μmのアルミニウム箔を用いた。コンマリバースブレードとアプリケーターとの間隔が、230~250μmとなるように調整した。スラリーをスラリーダムに充填し、塗布を行う。塗布は、速度0.3~0.7m/分で行う。加熱ゾーンの温度は、80~130℃に保つ。乾燥後の電極は、装置からロール状に巻き取る。次いで、電極を、真空下、80~100℃で5~7時間乾燥させる。両面コーティング後の電極の厚さは200~240μmである。
【0062】
電極のカレンダー処理は、予熱処理ゾーンとカレンダーロールとを備えるカレンダー処理装置で行う。予熱温度は100~120℃であり、カレンダーロール温度は60~90℃とする。最終的な電極の厚さを160~190μmとするため、ロール状の電極を、速度4~5m/分で予熱ロールおよびカレンダーロールを通過させる。
【0063】
[実施例3]
LiCoO2系カソードの電極製造方法を以下に示す。
【0064】
当該カソードは、活物質としてLiCoO2、導電性希釈剤としてアセチレンブラックおよびグラファイトの混合物、ならびにバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含む。電極組成はLiCoO2:87~93%、アセチレンブラック:2~5%、グラファイト:2~4%、PVDF:3~5%である。1-メチル-2-ピロリドン(NMP)を、電極スラリー調製のための溶剤として用いる。活物質、導電性希釈剤、およびPVDFは、真空乾燥させる。電極の製造は、スラリーの調製、電極コーティングおよびカレンダー処理を含む。
【0065】
スラリーの調製は高速分散機を有する遊星型混合機で行う。LiCoO2および導電性希釈剤を、攪拌装置内で、遊星ブレード速度40~90rpm、および分散機速度450~550rpmで乾式混合を行い、続いて遊星ブレード速度50~150rpmで混合を継続しながら、ポリフッ化ビニリデン溶液を添加し、さらにポリフッ化ビニリデンとは異なる時間間隔でNMPを添加してスラリーを調製する。NMPの体積は、スラリーの固形分が57~60%となるように調整する。
【0066】
電極コーティングには、コンマリバース法で駆動する塗布装置を用いる。当該コーティングには、厚さ15~20μmのアルミニウム箔を使用する。コンマリバースブレードとアプリケーターとの間隔が、230~250μmとなるように調整した。スラリーをスラリーダムに充填し、塗布を行う。塗布は、速度0.4~0.6m/分で行う。加熱ゾーンの温度は、75~135℃に保持する。乾燥後の電極は、装置からロール状に巻き取る。次いで、電極を、真空下、70~100℃で5~7時間乾燥させる。塗膜形成後の電極の厚さは260~300μmである。
【0067】
電極のカレンダー処理は、予熱処理ゾーンおよびカレンダーロールを有するカレンダー処理装置で行う。予熱温度は100~120℃、カレンダーロール温度は50~80℃とする。最終的な電極の厚さを170~200μmとするため、ロール状の電極を速度4~5m/分で予熱ロールおよびカレンダーロールを通過させる。
【0068】
【0069】