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特許7565962硫黄懸濁液タンクの堆積抑制装置および硫黄懸濁液タンクの堆積抑制方法
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  • 特許-硫黄懸濁液タンクの堆積抑制装置および硫黄懸濁液タンクの堆積抑制方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】硫黄懸濁液タンクの堆積抑制装置および硫黄懸濁液タンクの堆積抑制方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 17/00 20060101AFI20241004BHJP
   C10B 27/00 20060101ALI20241004BHJP
   F23G 7/04 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C01B17/00 Z
C10B27/00 Z
F23G7/04 601N
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022026737
(22)【出願日】2022-02-24
(65)【公開番号】P2023122954
(43)【公開日】2023-09-05
【審査請求日】2024-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000156961
【氏名又は名称】関西熱化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二俣 謙
(72)【発明者】
【氏名】坂本 和隆
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-114113(JP,A)
【文献】特開平08-000949(JP,A)
【文献】特開平08-215532(JP,A)
【文献】特開昭53-059261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 17/00 - 17/98
C10B 27/00
F23G 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉ガスに対する脱硫処理で得られる硫黄を含む硫黄懸濁液を貯蔵するタンク内に設けられ、前記タンクの内周壁面を向く回転軸と前記回転軸に設けられた撹拌翼とを有し、前記撹拌翼の回転により前記タンク内の前記硫黄懸濁液を撹拌する撹拌機と、
前記タンク内の前記硫黄懸濁液を取込口から取り込み、前記取込口とは異なる少なくとも1つの排出口から前記硫黄懸濁液を前記タンク内に吐出する循環機構と、を備え、
前記少なくとも1つの排出口は、エダクタが取り付けられた少なくとも1つのエダクタ排出口を含み、
前記少なくとも1つのエダクタ排出口の噴射方向は、平面視において前記回転軸の延長線に交差する方向または前記回転軸の延長線上にある前記内周壁面に向かう方向に設定されている、硫黄懸濁液タンクの堆積抑制装置。
【請求項2】
前記エダクタ排出口は、平面視における前記タンクの中心から見て複数の方位に配置されており、
前記エダクタ排出口は、第1エダクタ排出口と、第2エダクタ排出口とを含み、
前記第1エダクタ排出口の噴射方向は、平面視において前記回転軸の延長線に交差する方向または前記回転軸の延長線上にある前記内周壁面に向かう方向であり、且つ、平面視において前記タンクの周方向に沿う方向であり、
前記第2エダクタ排出口の噴射方向は、平面視で前記タンクの周方向に沿う方向である、請求項1に記載の硫黄懸濁液タンクの堆積抑制装置。
【請求項3】
前記撹拌機の前記回転軸の延長線に沿って発生する噴流は、平面視で前記タンクの周方向に沿った時計回りまたは反時計回りのいずれかの第1方向に沿っており、
前記エダクタ排出口の噴射方向は、平面視で前記タンクの周方向に沿った時計回りまたは反時計回りのうち前記第1方向と同方向に沿っている、請求項1又は2に記載の硫黄懸濁液タンクの堆積抑制装置。
【請求項4】
前記エダクタ排出口の噴射方向は、前記タンクの内周壁面に対して接線方向に沿っている、請求項1~3のいずれかに記載の硫黄懸濁液タンクの堆積抑制装置。
【請求項5】
コークス炉ガスに対する脱硫処理で得られる硫黄を含む硫黄懸濁液を貯蔵するタンク内に設けられ、前記タンクの内周壁面を向く回転軸と前記回転軸に設けられた撹拌翼とを有する撹拌機を用い、前記撹拌翼の回転により前記タンク内の前記硫黄懸濁液を撹拌することと、
取込口及び前記取込口とは異なる少なくとも1つの排出口を有する循環機構を用い、前記タンク内の前記硫黄懸濁液を取込口から取り込み、前記少なくとも1つの排出口から前記硫黄懸濁液を前記タンク内に吐出することと、
を含み、
前記少なくとも1つの排出口は、エダクタが取り付けられた少なくとも1つのエダクタ排出口を含み、
前記少なくとも1つのエダクタ排出口の噴射方向は、平面視において前記回転軸の延長線に交差する方向または前記回転軸の延長線上にある前記内周壁面に向かう方向に設定されている、硫黄懸濁液タンクの堆積抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、硫黄懸濁液タンクの堆積抑制装置および硫黄懸濁液タンクの堆積抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭を乾留してコークスを製造する工程において、コークス炉ガスが発生する。コークス炉ガスには、石炭に含まれる硫黄分に由来する硫化水素が含まれるため、硫化水素を除去する脱硫処理が行われる(例えば、特許文献1参照)。脱硫方法としては、吸収剤としてのNHOHと、脱硫触媒としてのピクリン酸を含有するアルカリ性水溶液(以下、「吸収液」ともいう)をコークス炉ガスに接触させ、硫化水素を硫化水素アンモニウム(NHSH)として吸収し、この硫化水素アンモニウムをピクリン酸によって酸化して硫黄に変換する方法が広く用いられている。得られた硫黄は、吸収液と共に、脱硫廃液処理装置に送られる。脱硫廃液処理装置において、遠心分離機により硫黄懸濁液と濾液に分離され、硫黄懸濁液がタンクに貯留される。硫黄懸濁液は、タンクから必要に応じて濃硫酸を製造する次工程へ送られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5584018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
硫黄懸濁液は、硫黄の粒子を含むため、流れがなければ硫黄粒子がタンクの底に沈降して堆積してしまう。硫黄粒子の沈降を抑制するために、タンク下部に撹拌機が設けられ、撹拌機における撹拌翼を有する回転軸が回転することで噴流を発生させる。
【0005】
しかしながら、撹拌機で硫黄懸濁液を撹拌しても、タンク内に硫黄が堆積してしまい、メンテナンス時にタンク内に堆積した硫黄を削り取るなどの清掃作業のコスト、及び除去した硫黄の処分コストなどが多大となる問題がある。
【0006】
本開示は、タンクに貯留される硫黄懸濁液に含まれる硫黄の堆積を抑制可能な、硫黄懸濁液タンクの堆積抑制装置および堆積抑制方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の硫黄懸濁液タンクの堆積抑制装置は、コークス炉ガスに対する脱硫処理で得られる硫黄を含む硫黄懸濁液を貯蔵するタンク内に設けられ、前記タンクの内周壁面を向く回転軸と前記回転軸に設けられた撹拌翼とを有し、前記撹拌翼の回転により前記タンク内の前記硫黄懸濁液を撹拌する撹拌機と、前記タンク内の前記硫黄懸濁液を取込口から取り込み、前記取込口とは異なる少なくとも1つの排出口から前記硫黄懸濁液を前記タンク内に吐出する循環機構と、を備え、前記少なくとも1つの排出口は、エダクタが取り付けられた少なくとも1つのエダクタ排出口を含み、前記少なくとも1つのエダクタ排出口の噴射方向は、平面視において前記回転軸の延長線に交差する方向または前記回転軸の延長線上にある前記内周壁面に向かう方向に設定されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態の硫黄懸濁液タンクの堆積抑制装置に関する概略構造図。
図2】第1実施形態の硫黄懸濁液タンクの堆積抑制装置を示す平面図。
図3】エダクタに関する断面説明図。
図4】第2実施形態の硫黄懸濁液タンクの堆積抑制装置を示す平面図。
図5】従来例の硫黄懸濁液タンクにおける硫黄堆積箇所を示す平面図。
図6】撹拌機側から下方を見た斜視図であり、撹拌機で噴射されて流れる硫黄粒子の様子を示すシミュレーション結果を示す図。
図7】変形例の硫黄懸濁液タンクの堆積抑制装置を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
以下、第1実施形態の硫黄懸濁液タンクの堆積抑制装置及び方法を、図面を用いて説明する。図1に示すように、タンク2は、硫黄懸濁液F1を貯留する。硫黄懸濁液は、コークス炉ガス(COG)に対する脱硫処理で得られる。脱硫処理において、コークス炉ガス(COG)は、吸収塔10において硫化水素(HS)が回収され、回収された硫化水素は、再生塔11において硫黄(S)に変化される。硫黄は、吸収液(アルカリ性水溶液)と共に、遠心分離機12(サルファデカンタ)に送られ、硫黄懸濁液F1と濾液F2に分離される。硫黄懸濁液F1が硫黄懸濁液タンク2(単にタンク2と表記する場合がある)に貯留される。
【0010】
図1及び図2に示すように、タンク2は、全体として円柱形状に形成されている。平面視(鉛直方向に平行な視線)においてタンク2の内周壁面20は、円形に形成されている。タンク2は、タンク2内に撹拌機3を有する。撹拌機3は、硫黄懸濁液F1の沈降を抑制するために、硫黄懸濁液F1を撹拌させる。撹拌機3は、動力部の動力により回転する回転軸30と回転軸から放射状に延びる複数の撹拌翼31とを有する。撹拌翼31は、回転軸30の延長方向に向けて噴流を形成する方向に傾斜している。具体的には、撹拌翼31は、回転軸30の軸に平行な方向に対して傾斜すると共に、回転軸30の軸に直交する方向に対して傾斜している。回転軸30は、内周壁面20からタンク2内を向く横向きに設置されており、内周壁面20を向いている。撹拌機3の吐出量は、約3910m/hであるが、一例であり、これに限定されない。例えば、約2867m/hで運用することも可能である。遠心分離機12からタンク2内に投入される硫黄懸濁液F1の量は6m/hであるが、一例であり、これに限定されない。
【0011】
タンク2は、硫黄懸濁液F1を循環させる循環機構4を有する。循環機構4は、タンク2内の硫黄懸濁液F1を取込口40から取り込み、取込口40とは異なる排出口42、43から硫黄懸濁液F1をタンク2内に吐出する。タンク2の底は、取込口40が最も低くなるように傾斜している。循環機構4は、ポンプ41によりタンク2内の硫黄懸濁液F1を取込口40から取り込み、排出口42、43から吐出可能であると共に、次工程の装置に硫黄懸濁液F1を送出可能に構成されている。第1実施形態では、排出口42、43は、タンク2の上部から硫黄懸濁液F1をタンク2内に吐出する1つのタンクトップ排出口42と、タンク2の内周壁面20から硫黄懸濁液F1をタンク2内に吐出する複数(第1実施形態では3つ)のタンクサイド排出口43と、を含む。タンクトップ排出口42の吐出量は2m/hであり、タンクサイド排出口43の1つあたりの排出口に至る吐出量は12m/hであるが、一例であり、これらに限定されない。
【0012】
排出口(タンクサイド排出口43)は、エダクタ44が取り付けられたエダクタ排出口43(タンクサイド排出口43)と、エダクタ44が取り付けられていないエダクタ無し排出口(タンクトップ排出口42)とを含んでいる。第1実施形態は、全てのタンクサイド排出口43にエダクタ44が取り付けられているが、少なくとも1つのタンクサイド排出口43にエダクタ44が取り付けられていればよい。図3は、エダクタ44に関する断面説明図である。図3に示すように、タンクサイド排出口43の先端にエダクタ44が取り付けられている。タンクサイド排出口43は、12m/hで硫黄懸濁液F1を吐出する。エダクタ44は、タンク2内の硫黄懸濁液F1に含侵しており、12m/hで吐出された硫黄懸濁液F1がタンク2内の硫黄懸濁液F1を引き込んで吐出量が52m/hに増大されて噴射される。
【0013】
図3に示すように、エダクタ排出口43は、平面視におけるタンク2の中心C1から見て複数の方位に配置されている。複数のタンクサイド排出口43は、第1エダクタ排出口43aと、第2エダクタ排出口43bとを含んでいる。第1エダクタ排出口43aの噴射方向D1は、平面視において回転軸30の延長線L1上にある内周壁面20に向かう方向である。これにより、撹拌機3の回転軸30の回転による噴流が内周壁面20に衝突する圧力を低減でき、撹拌機3の噴流に載った硫黄粒子が内周壁面20に衝突する勢いを弱めることができ、硫黄粒子の内周壁面20への衝突による硫黄粒子の粒径の増大を抑制でき、硫黄の堆積を抑制可能となる。また、第1エダクタ排出口43aは、平面視でタンク2の周方向に沿った時計回りに沿っている。第1エダクタ排出口43aが、撹拌機3の噴流が内周壁面20に衝突することを弱めるため、硫黄の堆積を抑制する効果の寄与度が高いと考える。
【0014】
第2エダクタ排出口43bの噴射方向D2、D3は、平面視でタンク2の周方向に沿った時計回りに沿っている。第1エダクタ排出口43a及び第2エダクタ排出口43bは、平面視でタンク2の周方向に沿った時計回り又は反時計回りのうちの同方向(時計回り)に沿っている。複数のエダクタ排出口43が、タンク2の周方向に沿った時計回り又は反時計回りのうちの同方向に沿っているので、硫黄懸濁液F1が流れやすくなる。
【0015】
第1エダクタ排出口43a及び第2エダクタ排出口43bの噴射方向D1、D2、D3は、タンク2の内周壁面20に対して接線方向に沿っている。これにより、エダクタ排出口43による噴射が、タンク2の内周壁面20に沿うので、タンク2内を旋回する流れを発生させやすくしている。
【0016】
<第2実施形態>
第2実施形態は、図4に示すように、エダクタ排出口43の噴射方向を変更している。エダクタ排出口43は、第1エダクタ排出口43aと、第2エダクタ排出口43bとを含む。第1エダクタ排出口43aの噴射方向D1は、平面視において回転軸30の延長線L1上にある内周壁面20に向かう方向である。第1エダクタ排出口43aが、撹拌機3の噴流が内周壁面20に衝突することを弱めるため、硫黄の堆積を抑制する効果の寄与度が高いと考える。第2エダクタ排出口43bの噴射方向D2、D3は、平面視でタンク2の周方向に沿った反時計回りに沿っている。第1エダクタ排出口43a及び第2エダクタ排出口43bは、平面視でタンク2の周方向に沿った時計回り又は反時計回りのうちの同方向(反時計回り)に沿っている。
【0017】
<第1実施形態及び第2実施形態の効果>
従来例は、図5に示すように、第1実施形態及び第2実施形態のタンクサイド排出口43にエダクタ44を設けていない。従来例では、3年間で主にタンク2内の斜線部分(図5参照)にドラム缶1200本分の硫黄が堆積してしまった。6カ月でドラム缶約200本の硫黄が堆積したことになる。なお、ドラム缶1本分の硫黄は約250kgである。
一方、第1実施形態で6カ月運用し、第2実施形態で6カ月運用したところ、いずれも6カ月でドラム缶約2~5本分しか硫黄が堆積しなかった。第1実施形態と第2実施形態では、第1実施形態の堆積硫黄の方が第2実施形態の堆積硫黄よりも少ないが、両者の効果に大差がないと考えている。6カ月で10本と多めに見積もっても、硫黄の堆積量を5%以下まで劇的に低減できていることがわかる。
【0018】
本開示の効果のメカニズムについて本発明者らは次のように考えている。
遠心分離機12からタンク2に至る硫黄懸濁液F1に含まれる硫黄の平均粒子径は2.2μmである。実際の撹拌機3及び循環機構4の駆動条件と同じ条件で、株式会社アールフロー社製の流体解析ソフト「R-Flow」を用いてシミュレーションを行った結果を図6に示す。図6は、図2及び図4と同じ撹拌機3側から下方を見た斜視図であり、撹拌機3で噴射されて流れる硫黄粒子の様子を示すシミュレーション結果を示す図である。シミュレーション条件は、実物と同じように、タンク2の直径が約13.5mであり、硫黄懸濁液F1の液面高さが約6mであり、撹拌機3の設置高さが約75cmであり、タンク2の底面傾斜は1/50に設定している。エダクタ排出口43は撹拌機3と同じ高さ位置に設置されている。同じ高さ位置は厳密に同一ではなく、高さ方向で一部重なるかまたは設置高さの差が1m以内である。図6に示すように、平均粒子径が2.2μmでは沈降しないことが分かった。しかし、実際には、図5にて斜線で示す部分に硫黄が大量に堆積する。図6に示すシミュレーション結果によれば、平均粒子径が350μm以上になると、硫黄粒子の流動性がなくなり、堆積することがわかる。これは、図5に示す現実の堆積状況に合致する。したがって、実際のタンク2内の堆積状況とシミュレーション結果から、硫黄懸濁液F1の硫黄粒子が成長し、粒径が増大して粒子が蓄積していると考える。粒径が増大してしまう原因は、硫黄粒子がコロイド粒子として存在する場合に、撹拌機3の噴流が直線状(図2の延長線L1)に進行して内周壁面20に衝突し、硫黄粒子が内周壁面20に衝突して凝集し、粒子径が増大していると仮定した。第1実施形態や第2実施形態のように撹拌機3の噴流が内周壁面20に衝突することを弱めるようにエダクタ44で噴射したところ、粒子の堆積を大幅に抑制でき、このメカニズムが正しいと考えている。
【0019】
撹拌機3による吐出量は約3910m/hであり、エダクタ1つの吐出量は52m/hである。強い噴流が内周壁面20に衝突することを抑制する意味において、エダクタ1つの単位時間あたりの吐出量が、撹拌機1つの単位時間あたりの吐出量よりも低いことが好ましい。硫黄懸濁液の性状やタンクの容量、撹拌機の性能によって一概にいえないが、エダクタの吐出量が撹拌機の吐出量よりも低いことを示す一例として、エダクタ1つの単位時間あたりの吐出量は、撹拌機1つの単位時間あたりの吐出量の2分の1以下、より好ましくは3分の1以下、より好ましくは5分の1以下、更に好ましくは10分の1以下にすることが好ましい一例として挙げられる。
【0020】
なお、撹拌機3のみで硫黄粒子の堆積を抑制するための別のアプローチとして、タンク2全体領域の流速が硫黄粒子の沈降速度を上回るようにする必要があると考えた場合には、現行の撹拌機3を10台以上設置しなければならないと計算できる。このアプローチは、コストが増大すること、上記のように撹拌機3が増えることで、内周壁面20に衝突する機会が増えて硫黄粒子の粒径が成長してしまうおそれがある。よって、吐出量が同程度の撹拌機3を複数設けることは、硫黄粒子の堆積抑制の効果が得られない可能性が高いと考えている。
【0021】
<変形例>
(1)撹拌機3の噴流が内周壁面20に直接衝突することを低減するためには、図7に示すように、エダクタ排出口43の噴射方向D1は、平面視において撹拌機3の回転軸30の延長線L1に交差する方向である、としてもよい。これにより、撹拌機3の噴流が内周壁面20に直接衝突することを低減でき、硫黄粒子の粒径の成長を低減できるので、硫黄粒子の堆積を低減可能となる。また、図7に示すように、撹拌機3の噴流の内周壁面20への衝突を低減するためには、エダクタ排出口43を1つ設けるだけでも足りる。
【0022】
(2)第1実施形態および第2実施形態のように複数のエダクタ排出口43の噴射方向は、タンク2の周方向の時計回りまたは反時計回りのいずれか一方に統一されているが、各々のエダクタ排出口43の噴射方向が時計回りまたは反時計回りのいずれか一方に統一されていなくてもよい。
【0023】
(3)第1実施形態及び第2実施形態のように、撹拌機3の噴射方向は、平面視でタンク2の周方向のうち時計回りに沿っているが、これに限定されない。撹拌機3の噴射方向が、平面視でタンク2の周方向のうち反時計回りに沿っていてもよい。
【0024】
以上、特に限定されないが、第1実施形態及び第2実施形態のように、硫黄懸濁液タンク2の堆積抑制装置は、コークス炉ガス(COG)に対する脱硫処理で得られる硫黄を含む硫黄懸濁液F1を貯蔵するタンク2内に設けられ、タンク2の内周壁面20を向く回転軸30と回転軸30に設けられた撹拌翼31とを有し、撹拌翼31の回転によりタンク2内の硫黄懸濁液F1を撹拌する撹拌機3と、タンク2内の硫黄懸濁液F1を取込口40から取り込み、取込口40とは異なる少なくとも1つの排出口43から硫黄懸濁液F1をタンク2内に吐出する循環機構4と、を備え、少なくとも1つの排出口43は、エダクタ44が取り付けられた少なくとも1つのエダクタ排出口43を含み、少なくとも1つのエダクタ排出口43の噴射方向D1は、平面視において回転軸30の延長線L1に交差する方向または回転軸30の延長線L1上にある内周壁面20に向かう方向に設定されている、としてもよい。
第1実施形態及び第2実施形態のように、硫黄懸濁液タンク2の堆積抑制方法は、コークス炉ガス(COG)に対する脱硫処理で得られる硫黄を含む硫黄懸濁液F1を貯蔵するタンク2内に設けられ、タンク2の内周壁面20を向く回転軸30と回転軸30に設けられた撹拌翼31とを有する撹拌機3を用い、撹拌翼31の回転によりタンク2内の硫黄懸濁液F1を撹拌することと、取込口40及び取込口40とは異なる少なくとも1つの排出口43を有する循環機構4を用い、タンク2内の硫黄懸濁液F1を取込口40から取り込み、少なくとも1つの排出口43から硫黄懸濁液F1をタンク2内に吐出することと、を含み、少なくとも1つの排出口43は、エダクタ44が取り付けられた少なくとも1つのエダクタ排出口43を含み、少なくとも1つのエダクタ排出口43の噴射方向D1は、平面視において回転軸30の延長線L1に交差する方向または回転軸30の延長線L1上にある内周壁面20に向かう方向に設定されている、としてもよい。
この構成によれば、撹拌機3の回転軸30の延長線L1の沿う噴流がエダクタ排出口43からの噴射によって弱められるので、撹拌機3の噴流によって硫黄粒子が内周壁面20に衝突する機会を低減し、硫黄粒子の成長を抑制できるので、硫黄の堆積を抑制可能となる。
【0025】
特に限定されないが、第1実施形態及び第2実施形態のように、エダクタ排出口43は、平面視におけるタンク2の中心から見て複数の方位に配置されており、エダクタ排出口43は、第1エダクタ排出口43aと、第2エダクタ排出口43bとを含み、第1エダクタ排出口43aの噴射方向D1は、平面視において回転軸30の延長線L1に交差する方向または回転軸30の延長線L1上にある内周壁面20に向かう方向であり、且つ、平面視においてタンク2の周方向に沿う方向であり、第2エダクタ排出口43bの噴射方向D2、D3は、平面視でタンク2の周方向に沿う方向である、としてもよい。
この構成によれば、第1エダクタ排出口43aが、撹拌機3の噴流が内周壁面20に直接至ることを抑制すると共に、タンク2内に旋回流を生じさせて硫黄懸濁液F1を流れやすくできる場合がある。また、第2エダクタ排出口43bの噴射方向D2、D3が、平面視でタンク2の周方向に沿う方向であるので、タンク2内に旋回流を生じさせて硫黄懸濁液F1を流れやすくできる場合がある。
【0026】
特に限定されないが、第1実施形態及び第2実施形態のように、撹拌機3の回転軸30の延長線L1に沿って発生する噴流は、平面視でタンク2の周方向に沿った時計回りまたは反時計回りのいずれかの第1方向(時計回り)に沿っており、エダクタ排出口43の噴射方向D1は、平面視でタンク2の周方向に沿った時計回りまたは反時計回りのうち第1方向と同方向に沿っている、としてもよい。
この構成によれば、撹拌機3の噴流によってタンク2に生じる旋回流と同じ方向にエダクタ排出口43が噴射することになるので、タンク2内に旋回流を生じさせて硫黄懸濁液F1を流れやすくできる場合がある。
【0027】
特に限定されないが、第1実施形態及び第2実施形態のように、エダクタ排出口43の噴射方向D1は、タンク2の内周壁面20に対して接線方向に沿っている、としてもよい。
この構成によれば、タンク2内に旋回流を生じさせて硫黄懸濁液F1を流れやすくできる場合がある。
【0028】
特に限定されないが、第1実施形態及び第2実施形態のように、エダクタ排出口1つの単位時間あたりの吐出量は、撹拌機1つの単位時間あたりの吐出量の10分の1以下である、としてもよい。
撹拌機3と同程度の吐出量を持つ機構を複数設ければ、タンク2の流れが増大するが、その代わりに、硫黄懸濁液F1内の硫黄粒子が内周壁面20に衝突する機会が増えて硫黄粒子の粒径が増大して堆積が増加するおそれがある。これに対して、エダクタ排出口1つの単位時間あたりの吐出量を、撹拌機1つの単位時間あたりの吐出量の10分の1以下にしているので、エダクタ排出口43の噴流が硫黄粒子を内周壁面20に衝突させることを避けて、エダクタ排出口43の噴流が撹拌機3の噴流の内周壁面20への衝突を弱める効果が奏しやすくなる。
【0029】
以上、本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0030】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0031】
2…タンク
3…撹拌機
30…回転軸
31…撹拌翼
4…循環機構
40…取込口
43…エダクタ排出口(排出口)
43a…第1エダクタ排出口
43b…第2エダクタ排出口
F1…硫黄懸濁液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7