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特許7565967カシメ用パンチ、それを配置した装置及び部材を接合する方法
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  • 特許-カシメ用パンチ、それを配置した装置及び部材を接合する方法 図1
  • 特許-カシメ用パンチ、それを配置した装置及び部材を接合する方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】カシメ用パンチ、それを配置した装置及び部材を接合する方法
(51)【国際特許分類】
   B21J 15/00 20060101AFI20241004BHJP
   B21J 15/02 20060101ALI20241004BHJP
   B21J 15/10 20060101ALI20241004BHJP
   B21D 39/03 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B21J15/00 H
B21J15/02 H
B21J15/10 Z
B21D39/03 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022041080
(22)【出願日】2022-03-16
(65)【公開番号】P2023135805
(43)【公開日】2023-09-29
【審査請求日】2024-07-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】荒木 良仁
(72)【発明者】
【氏名】福岡 祐介
(72)【発明者】
【氏名】古郡 伸行
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-18444(JP,A)
【文献】実開昭62-105736(JP,U)
【文献】実開昭55-66032(JP,U)
【文献】実開昭54-66286(JP,U)
【文献】特開平5-293584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 15/00
B21J 15/02
B21J 15/10
B21D 39/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸部を有する第1部材と、前記凸部と嵌合する貫通孔を有する第2部材とを、前記凸部を塑性変形させることで接合するカシメ用パンチであって、前記凸部との接触面が前記カシメ用パンチの中心軸に対して80°以上89°以下の範囲で傾斜し、
前記接触面は、前記接触面が傾斜する方向を長軸とする楕円の形状を有し、
前記カシメ用パンチの回転軸は、前記カシメ用パンチの中心軸と一致するカシメ用パンチ。
【請求項2】
前記カシメ用パンチは超硬合金を含む、請求項に記載のカシメ用パンチ。
【請求項3】
前記接触面は、3.2以下の算術平均粗さRaを有する、請求項1又は2に記載のカシメ用パンチ。
【請求項4】
前記接触面に配置されたダイヤモンドライクカーボンで構成されたコーティングをさらに備える、請求項1乃至3の何れか1項に記載のカシメ用パンチ。
【請求項5】
請求項1乃至の何れか1項に記載のカシメ用パンチを保持する主軸と、
前記主軸に対向して配置され、前記第1部材及び前記第2部材を保持可能なテーブルと、を備え、
前記カシメ用パンチの前記中心軸と前記第1部材の中心軸とが一致するように、前記カシメ用パンチと前記第1部材が配置され、
前記主軸は、前記カシメ用パンチの前記中心軸を中心に、前記カシメ用パンチを回転させる装置。
【請求項6】
第1部材の凸部と、第2部材の貫通孔と、を嵌合し、
前記凸部との接触面が中心軸に対して80°以上89°以下の範囲で傾斜するパンチを回転及び押圧すること、
を含む、前記第1部材と前記第2部材を接合する方法であって、
前記接触面は、前記接触面が傾斜する方向を長軸とする楕円の形状を有し、
前記パンチの回転軸は、前記パンチの中心軸と一致する、部材を接合する方法。
【請求項7】
前記凸部が塑性変形されることで前記第1部材と前記第2部材を接合する請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記パンチは超硬合金を含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記接触面は研磨されている、請求項乃至の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記接触面はダイヤモンドライクカーボンでコーティングされている、請求項乃至の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記凸部の中心は前記中心軸に配置される、請求項乃至10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記貫通孔の内側面は、前記中心軸に対して平行もしくは傾斜する領域を含む、請求項乃至11の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カシメ用パンチに関する。または、本発明は、カシメ用パンチを配置した装置に関する。または、本発明は、カシメ用パンチを用いた部材を接合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属で構成された2つ以上の部材を接合する方法としては、例えば、溶接が知られている。溶接により2つ以上の部材を接合した場合、熱的影響により部材に歪が発生したり、接合した製品を使用した際の温度の影響により、溶接部の微細なクラックから亀裂が伸展する等の問題がある。
【0003】
一方、部材への熱影響を与えない接合方法として、リベットを用いたカシメ(加締め)が知られている。カシメる方法として、ブラインドリベット、プレスカシメ(例えば、特許文献1)及びスピンカシメ(例えば、特許文献2~3)が知られている。心棒を引っ張ることで、円筒状のリベット内側を変形させて固定するブラインドリベットは、心棒の破断耐力によって締結圧が決まるため、他の加締めよりも強度が低くなる問題がある。また、プレスカシメは、プレス圧力が高いため、カシメるリベットの軸が変形する問題がある。一方、スピンカシメは、プレスカシメよりは荷重圧力が高くはなく、部材への影響も小さい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平1-241346号公報
【文献】特許第2756145号
【文献】特開2003-112227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一実施形態は、リベットの軸への荷重を低減した新規なカシメ用パンチを提供することを目的の一つとする。または、リベットの軸への荷重を低減した新規なカシメ用パンチを配置した装置を提供することを目的の一つとする。または、本発明の一実施形態は、リベットの軸への荷重を低減した新規なカシメ用パンチを用いて部材を接合する方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係るカシメ用パンチは、凸部を有する第1部材と、凸部と嵌合する貫通孔を有する第2部材とを、凸部を塑性変形させることで接合するカシメ用パンチであって、凸部との接触面が中心軸に対して80°以上89°以下の範囲で傾斜する。
【0007】
カシメ用パンチは、中心軸を中心に回転してもよい。
【0008】
カシメ用パンチは、超硬合金を含んでもよい。
【0009】
接触面は、3.2以下の算術平均粗さRaを有してもよい。
【0010】
接触面に配置されたダイヤモンドライクカーボンで構成されたコーティングをさらに備えてもよい。
【0011】
本発明の一実施形態に係る装置は、上記何れかに記載のカシメ用パンチを保持する主軸と、主軸に対向して配置され、第1部材及び第2部材を保持可能なテーブルと、を備え、カシメ用パンチの中心軸と第1部材の中心軸とが一致するように、カシメ用パンチと第1部材が配置され、主軸が、カシメ用パンチの中心軸を中心に、カシメ用パンチを回転させる。
【0012】
本発明の一実施形態に係る部材の接合方法は、第1部材の凸部と、第2部材の貫通孔と、を嵌合し、凸部との接触面が中心軸に対して80°以上89°以下の範囲で傾斜するパンチを回転及び押圧すること、を含む。
【0013】
パンチは中心軸を中心に回転してもよい。
【0014】
凸部が塑性変形されることで第1部材と第2部材を接合してもよい。
【0015】
パンチが超硬合金を含んでもよい。
【0016】
パンチの接触面は研磨されていてもよい。
【0017】
パンチの接触面はダイヤモンドライクカーボンでコーティングされていてもよい。
【0018】
凸部の中心は中心軸に配置されてもよい。
【0019】
貫通孔の内側面は、中心軸に対して平行もしくは傾斜する領域を含んでもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一実施形態は、リベットの軸への荷重を低減した新規なカシメ用パンチを提供する。または、本発明の一実施形態は、リベットの軸への荷重を低減した新規なカシメ用パンチを配置した装置を提供する。または、本発明の一実施形態は、リベットの軸への荷重を低減した新規なカシメ用パンチを用いて部材を接合する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係るカシメ用パンチ10を示す模式図である。
図2】(A)は本発明の一実施形態に係る装置1000の正面図であり、(B)は装置1000の側面図である。
図3】本発明の一実施形態に係るカシメ用パンチ10を用いた部材の接合方法を示す模式図である。
図4】本発明の一実施形態に係るカシメ用パンチ10を用いた部材の接合方法を示す模式図である。
図5】従来のスピンカシメによる部材の接合方法を示す模式図である。
図6】従来のスピンカシメによる部材の接合方法を示す模式図である。
図7】(A)は、比較例1のリベットをカシメた部材の上面図であり、(B)は、比較例1のリベットをカシメた部材の断面の光学顕微鏡像である。
図8】実施例1のリベットをカシメた部材の断面の光学顕微鏡像である。
図9】(A)は、実施例6のリベットをカシメた部材の上面を示す図であり、(B)は、断面の光学顕微鏡像である。
図10】(A)は、一実施例の製品100を示す上面図であり、(B)は、製品100の断面端図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下に示す実施形態は本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0023】
本実施形態で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号又は類似の符号(数字の後にA、Bなどを付しただけの符号)を付す。また、図面の寸法比率は説明の都合上実際の比率とは異なったり、構成の一部が図面から省略されたりする場合がある。なお、本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの序数は、説明を簡潔にするためだけに用いられており、限定的に解釈されるべきではない。
【0024】
本発明者らが、鋭意検討した結果、従来のスピンカシメは、リベットの凸部(端部)を塑性変形させて、貫通孔の径よりもリベットの端部を拡張させる際に、拡張した端部と貫通孔の間に空隙が生じることが明らかとなった。図5は、従来のスピンカシメによる部材の接合方法を示す模式図である。第1の部材110と第2の部材120には、リベット130を配置するための貫通孔140が配置される。第1の部材110側で貫通孔140から突出したリベット130の凸部(端部)131を、従来のスピンカシメ用パンチ90でカシメる。従来のスピンカシメ用パンチ90は、従来のスピンカシメ用パンチ90の中心軸Aに対して、直交する(90°)接触面93を有する。また、従来のスピンカシメ用パンチ90の中心軸Aは、リベット130の中心軸Bに対して、θ傾斜するように、スピンカシメ装置(図示せず)に取り付けられる。θは、一例として、3~5°である。
【0025】
スピンカシメ装置を駆動することにより、従来のスピンカシメ用パンチ90は、中心軸Aを回転軸として回転させながら、リベット130の凸部131に押し当てられる。このとき、図5の矢印で示したように、リベット130の凸部131に対して、従来のスピンカシメ用パンチ90が押圧する方向は、リベット130の中心軸Bに対して、θ傾斜方向となる。また、従来のスピンカシメ装置は、リベット130の中心軸Bに対して、スピンカシメ用パンチ90をθ傾斜させた状態で、リベット130の中心軸Bを回転軸として、スピンカシメ用パンチ90全体を回転させる。したがって、カシメ工程の初期段階において、スピンカシメ用パンチ90は、リベット130の中心軸Bを回転軸として、リベット130の凸部131の角部に接触する。
【0026】
図6は、従来のスピンカシメによる部材の接合方法を示す模式図である。図6は、カシメ工程の終期段階を示す。従来のスピンカシメ装置は、リベット130の中心軸Bに対して、スピンカシメ用パンチ90を回転させながら、リベット130の中心軸Bを回転軸として、スピンカシメ用パンチ90全体を回転させ、さらに、リベット130の中心軸B方向に、第1の部材110に接するまで、スピンカシメ用パンチ90を移動させる。このカシメ工程により、リベット130の凸部131を構成する材料は塑性変形して、リベット130の中心軸B方向(鉛直方向D1)及び第1の部材110の面方向(水平方向D2)に移動して、リベット130の凸部131は、貫通孔140の径よりも拡張して、第1の部材110と第2の部材120がリベット130により接合される。
【0027】
しかし、図6に示したように、従来のスピンカシメ用パンチ90が押圧する方向が、リベット130の中心軸Bに対して、θ傾斜方向であるため、塑性変形したリベット130の凸部131を構成する材料は、第1の部材110に配置された貫通孔140の拡径部145に空隙135を生じる。このような空隙135は、製品を使用した際の温度の影響により膨張して、リベット130に微細なクラックを生じさせる可能性がある。
【0028】
[カシメ用パンチ]
図1は、本発明の一実施形態に係るカシメ用パンチ10を示す模式図である。カシメ用パンチ10は、公知のマシニングセンタ(図示せず)に接続して使用することができる。カシメ用パンチ10は、概略円筒の形状を有する。マシニングセンタ等に接続するカシメ用パンチ10の上面15は、円形であってもよい。断面視したカシメ用パンチ10の側面11は、鉛直方向D1を上底及び下底とする台形の形状を有する。また、リベットを押圧するためのカシメ用パンチ10の接触面13は、カシメ用パンチ10の中心軸Aに対して、θ傾斜している。一実施形態において、θは、80°以上89°以下の範囲であることが好ましい。このため、接触面13は、θ傾斜する方向を長軸とする楕円の形状を有する。
【0029】
一実施形態において、カシメ用パンチ10は、リベットに対する耐摩耗性の観点から、超硬合金またはNi基合金を含むことが好ましく、超硬合金で構成されることがより好ましい。本明細書において、超硬合金は、周期律表IVa、Va、VIa族金属の炭化物をFe、Co、Niなどの鉄系金属で焼結した複合材料であり、例えば、WC-Co系合金、WC-TiC-Co系合金、WC-TaC-Co系合金、及びWC-TiC-TaC-Co系合金等から選択することができるが、これらに限定されるものでなはい。また、Ni基合金は、例えば、インコネル、インコロイ、ニモニック及びハステロイ等から選択することができるが、これらに限定されるものでなはい。
【0030】
また、一実施形態において、リベットをカシメる際の摩擦の低減の目的から、接触面13は研磨されいてもよい。例えば、接触面13には、ダイヤモンド砥石等により研磨した鏡面加工を施すことが好ましい。一実施形態において、接触面13は、算術平均粗さRaが、3.2以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0.1以下であることがさらに好ましい。このような接触面13は、リベットとの接触抵抗が低減され、摩擦熱の発生を抑制することができる。カシメ用パンチ10がこのような接触面13を有することにより、アルミニウム等で構成されるリベットをカシメる際に、アルミニウムが接触面13に溶着することを抑制することができる。
【0031】
また、一実施形態において、リベットをカシメる際の耐摩耗性の観点から、接触面13は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)で構成されたコーティングを備えることが好ましい。なお、接触面13にDLCの膜を形成する技術には公知の被膜技術を適用可能であるため、詳細な説明は省略する。DLCのコーティングを備える接触面13は、リベットをカシメる際の摩擦の低減の目的からも好ましい。DLCのコーティングを備える接触面13は、リベットとの接触抵抗が低減され、摩擦熱の発生を抑制することができる。カシメ用パンチ10がこのような接触面13を有することにより、アルミニウム等で構成されるリベットをカシメる際に、アルミニウムが接触面13に溶着することを抑制することができる。
【0032】
カシメ用パンチ10は、中心軸Aに直交する径(直径)を有するが、後述するリベットを配置する部材の貫通孔の拡径部の最大径(直径)よりも1~2mm大きな径を有すればよい。貫通孔の拡径部の最大径(直径)よりも小さな径を有するカシメ用パンチを用いると、拡径部の縁部にリベットの材料が充填されないリング状の隙間が生じるため、好ましくない。また、カシメ用パンチ10は、中心軸Aに平行な長さを有するが、必要な強度が得られる範囲、且つ取り扱いが可能な範囲の長さであれば、特には限定されない。なお、明細書において、カシメ用パンチ10の長さは、上面15から最も遠い接触面13の点迄の距離と定義する。
【0033】
[カシメ用パンチを配置した装置]
上述したカシメ用パンチ10を用いてカシメを行う装置について説明する。図2は、本発明の一実施形態に係る装置1000を説明する模式図であり、図2(A)は装置1000の正面図であり、図2(B)は装置1000の側面図である。装置1000は、カシメ用パンチ10を保持する主軸1111と、主軸1111に対向して配置され、リベット130及び第1の部材110と第2の部材120を保持可能なテーブル1151と、を備える。カシメ用パンチ10の中心軸Aとリベット130の中心軸Bとが一致するように、カシメ用パンチ10とリベット130が配置される。主軸1111はカシメ用パンチ10を着脱可能に把持するチャックを有し、カシメ用パンチ10の中心軸Aを中心に、カシメ用パンチ10を回転させる。
【0034】
一実施形態において、装置1000は、例えば、主軸111を回転可能に支持する主軸ヘッド1113、主軸ヘッド1113を支持するコラム1123、コラム1123を支持するベッド1121を有する。主軸ヘッド1113は、主軸台1141に移動可能に支持される。また、主軸台1141は、移動可能にコラム1123に支持される。ここで、図4(A)において、紙面の左右方向をX軸方向とし、X軸方向に直交する紙面の上下方向をZ軸方向とする。
【0035】
主軸ヘッド1113と主軸台1141との間には、2本のレール1143がZ軸方向に平行に配置される。主軸ヘッド1113は、Z軸方向にスライドして移動可能に2本のレール143に係合する。2本のレール1143の間には、例えば、ボールねじ(図示せず)が配置され、ボールねじが主軸ヘッド1113に接続される。また、ボールねじの一端には、Z軸駆動装置1147に接続され、主軸ヘッド1113をZ軸方向に移動させる。Z軸駆動装置1147は、ボールねじを回転させるためのモータである。このような機構により、主軸ヘッド1113は主軸1111を回転させながらZ軸方向に変位可能とされている。すなわち、主軸ヘッド1113は、主軸1111がカシメ用パンチ10を保持した状態で、主軸1111を回転させながらZ軸方向に移動させることができる。
【0036】
主軸台1141とコラム1123との間には、2本のレール1133がX軸方向に平行に配置される。主軸台1141は、X軸方向にスライドして移動可能に2本のレール1133に係合する。2本のレール1133の間には、例えば、ボールねじ1135が配置され、ボールねじ1135が主軸台1141に接続される。また、ボールねじ1135の一端には、X軸駆動装置1137に接続され、主軸台1141をX軸方向に移動させる。X軸駆動装置1137は、ボールねじ1135を回転させるためのモータである。
【0037】
図2(B)において、紙面の左右方向をY軸方向とし、Y軸方向に直交する紙面の上下方向をZ軸方向とする。テーブル1151とベッド1121との間には、2本のレール1153がY軸方向に平行に配置される。テーブル1151は、Y軸方向にスライドして移動可能に2本のレール1153に係合する。2本のレール1153の間には、例えば、ボールねじ(図示せず)が配置され、ボールねじがテーブル1151に接続される。また、ボールねじの一端には、Y軸駆動装置1157に接続され、テーブル1151をY軸方向に移動させる。Y軸駆動装置1157は、ボールねじを回転させるためのモータである。
【0038】
図示しないが、装置1000には、装置1000を制御可能な制御装置が接続される。制御装置は、例えば、コンピュータと装置1000を制御するためのプログラムを含む。制御装置は、主軸ヘッド1113の回転数、主軸ヘッド1113のX軸方向及びZ軸方向の位置、及びテーブル1151のY軸方向の位置を制御する。このような構成を有する装置1000は、カシメ用パンチ10と、テーブル1151に配置して固定されるリベット130及び第1の部材110と第2の部材120との位置関係を、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に任意に変更可能である。
【0039】
装置1000に上述した本実施形態に係るカシメ用パンチ10を配置し、図4に示すように、カシメ用パンチ10の中心軸Aとリベット130の中心軸Bとが一致するように、カシメ用パンチ10とリベット130を配置する。一実施形態において、公知のマシニングセンタに、本実施形態に係るカシメ用パンチ10を配置することにより、装置1000を構成することができる。なお、本実施形態においては、3軸のマシニングセンタを用いる例に説明したが、本実施形態に係る装置1000は、これに限定されるものではない。カシメ用パンチ10の中心軸Aとリベット130の中心軸Bとが一致するように、カシメ用パンチ10とリベット130を配置可能な構造を有する限り、4軸又は5軸のマシニングセンタを装置1000に用いることもできる。
【0040】
[部材の接合方法]
図3は、本発明の一実施形態に係るカシメ用パンチ10を用いた部材の接合方法を示す模式図である。第1の部材110と第2の部材120には、リベット130を配置するための貫通孔140が配置される。第1の部材110側で貫通孔140から突出したリベット130の凸部(端部)131を、本実施形態に係るカシメ用パンチ10でカシメる。上述したように、カシメ用パンチ10にいて、接触面13は中心軸Aに対して、θ傾斜している。カシメ用パンチ10は、上述した装置1000に接続される。
【0041】
カシメ用パンチ10の中心軸Aが鉛直方向D1と概略一致、好ましくは鉛直方向D1と一致するように、装置1000に接続される。これにより、接触面13は鉛直方向D1に対して、θ傾斜した状態で配置される。一実施形態において、θは、80°以上89°以下の範囲である。
【0042】
なお、本実施形態においては、カシメ用パンチ10として、リベット130を配置するための貫通孔140の拡径部145の最大径(直径)よりも1~2mm大きな径を有するカシメ用パンチを選択する。貫通孔140の拡径部145の最大径(直径)よりも小さな径を有するカシメ用パンチを用いると、第1の部材110の表面と拡径部145により規定される縁部にリベット130の材料が充填されないリング状の隙間が生じるため、好ましくない。
【0043】
リベット130の凸部131は、第1の部材110と第2の部材120に配置された貫通孔140と嵌合し、リベット130の中心軸Bはカシメ用パンチ10の中心軸Aに一致するように配置される。なお、リベット130は、特には限定されず、公知のリベットを用いることができ、市販品であってもよく、専用品であってもよい。リベット130は、アルミニウムやニッケル等のカシメにより塑性変形が可能で、第1の部材110と第2の部材120を接合可能な公知の材料で構成される。
【0044】
カシメ用パンチ10とリベット130をこのような配置として、中心軸Aを回転軸として、カシメ用パンチ10を回転させ、リベット130凸部131を押圧して、リベット130の凸部131を構成する材料は塑性変形させる。リベット130の凸部131を構成する材料は、リベット130の中心軸B方向(鉛直方向D1)及び第1の部材110の面方向(水平方向D2)に移動して、リベット130の凸部131は、貫通孔140の径よりも拡張して、第1の部材110と第2の部材120がリベット130により接合される。このとき、拡径部145がリベット130の凸部131を構成する材料により隙間なく、完全に充填されること好ましい。
【0045】
本実施形態においては、図3に示したように、カシメ用パンチ10が押圧する方向が、リベット130の中心軸Bと一致するため、塑性変形したリベット130の凸部131を構成する材料は、カシメ用パンチ10の接触面13に沿って、第1の部材110に配置された貫通孔140の拡径部145の縁部方向及び鉛直方向D1に流動し、拡径部145に充填され、従来のスピンカシメ用パンチ90を用いた場合のような空隙が生じるのを抑制することができる。
【0046】
一実施形態において、貫通孔140の内側面は、リベット130の中心軸Bに対して平行もしくは傾斜する領域を含んでもよい。一実施形態において、貫通孔140の拡径部145は、中心軸Bに対してθ傾斜していてもよい。一実施形態において、θは0°以上60°以下の範囲であってもよく、30°以上45°以下の範囲であることが好ましい。貫通孔140の拡径部145がこの範囲の傾斜を有することにより、塑性変形したリベット130の凸部131を構成する材料が、空隙を生じることなく、拡径部145に充填され、製品を使用した際の温度の影響によるリベット130の微細なクラックの発生を抑制することができる。
【実施例
【0047】
[比較例1]
比較例1として、上述した従来のスピンカシメ用パンチ90を用いてリベットをカシメた。貫通孔140の径が2.6mm、及び拡径部145の径が4.7mmである部材、径が2.58mmのリベット130、径が5.0mmの従来のスピンカシメ用パンチ90を用い、スピンカシメ用パンチ90を5°傾斜させた状態でスピンカシメ装置に接続し、12kNの荷重でリベット130を部材にカシメた。図7は、比較例1のリベットをカシメた部材を示す図である。図7(A)は、比較例1のリベットをカシメた部材の上面図であり、図7(B)は、比較例1のリベットをカシメた部材の断面の光学顕微鏡像である。従来のスピンカシメ用パンチ90を用いた場合、外観(上面図)ではカシメた状態が良好であると判断されたが、断面の光学顕微鏡像から、貫通孔140の拡径部145とリベット130の凸部131を構成する材料との間に空隙135が生じていることが明らかとなった。また、貫通孔140と接するリベット130の一部に変形137が生じることが明らかとなった。
【0048】
[実施例1]
実施例1として、上述した本発明に係るカシメ用パンチ10を用いてリベットをカシメた。中心軸Aに対して5°傾斜した接触面13を有し、径が6mmの実施例1のカシメ用パンチ10、貫通孔140の径が2.7mm、及び拡径部145の径が4.7mmである部材、径が2.58mmのリベット130を用い、カシメ用パンチ10の中心軸Aをリベット130の中心軸Bに一致させた状態でマシニングセンタに接続し、50mm/minの送り速度でリベット130を部材にカシメた。なお、拡径部145は、中心軸Bに対して30°傾斜している。図8は、実施例1のリベットをカシメた部材の断面の光学顕微鏡像である。実施例1のカシメ用パンチ10を用いた場合、断面の光学顕微鏡像から、貫通孔140の拡径部145は、リベット130の凸部131を構成する材料で全て充填され、空隙は認められなった。また、貫通孔と接するリベット130の一部にも変形は生じなかった。
【0049】
[実施例2]
実施例1で用いたリベット、及び拡径部145が中心軸Bに対して30°傾斜している3種類の部材を用いた。を用い、中心軸Aに対して5°傾斜した接触面13を有し、径が6mmの実施例6のカシメ用パンチ10と、カシメ用パンチ10の中心軸Aをリベット130の中心軸Bに一致させた状態でマシニングセンタに接続し、50mm/minの送り速度でリベット130を部材にカシメた。その後、エンドミルを用いて、カシメた部材及びリベットの表面を切削した。
【0050】
図9(A)は、実施例2のリベットをカシメた部材の上面を示す図であり、図9(B)は、断面の光学顕微鏡像を示す。実施例2では、貫通孔140及び拡径部145にリベット130の材料が完全に充填され、表面を切削して平坦化しても、部材とリベットの良好な接合が確認された。
【0051】
[密着性の評価]
拡径部145が中心軸Bに対して30°傾斜し、径が2.7mmの貫通孔140を有し、直径60mm、厚さ4mmの円板状のアルミ(A6061-T6)材で構成された第1の部材110と、直径各辺が100mm×100mm、厚さ10mmの板状のアルミ(A6061-T6)材で構成された第2の部材120を、径が2.7mmのリベット130を用いて接合した製品100を製造した(図10)。中心軸Aに対して5°傾斜した接触面13を有し、径が6mmのカシメ用パンチ10を用いた。製品100の第2の部材120を固定した状態で、第1の部材110を引っ張り、その力を測定した。その結果、67kgf以上で引っ張っても製品100は破壊されなかった。
【0052】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明したが、本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、本実施形態のカシメ用パンチ及び部材を接合する方法を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。さらに、上述した各実施形態は、相互に矛盾がない限り適宜組み合わせが可能であり、各実施形態に共通する技術事項については、明示の記載がなくても各実施形態に含まれる。
【0053】
上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、又は、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0054】
10 カシメ用パンチ、11 側面、13 接触面、15 上面、90 スピンカシメ用パンチ、93 接触面、100 製品、110 第1の部材、120 第2の部材、130 リベット、131 凸部、135 空隙、137 変形、140 貫通孔、145 拡径部、1000 装置、1111 主軸、1113 主軸ヘッド、1121 ベッド、1123 コラム、1133 レール、1137 軸駆動装置、1141 主軸台、1143 レール、1147 軸駆動装置、1151 テーブル、1153 レール、1157 軸駆動装置
図1
図2
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図8
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図10