(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】光パルス試験装置及び光パルス試験方法
(51)【国際特許分類】
G01M 11/00 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
G01M11/00 R
(21)【出願番号】P 2022096102
(22)【出願日】2022-06-14
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100163876
【氏名又は名称】上藤 哲嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100187045
【氏名又は名称】梅澤 奈菜
(72)【発明者】
【氏名】高須 涼太
(72)【発明者】
【氏名】村上 太一
(72)【発明者】
【氏名】石田 耕大
【審査官】橘 皇徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-053542(JP,A)
【文献】特開平06-167417(JP,A)
【文献】特開2022-073128(JP,A)
【文献】特開2006-101021(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0259242(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のパルス幅で測定系のOTDR波形を測定するOTDR波形測定部と、
前記OTDR波形測定部が測定した前記OTDR波形から、前記測定系内で発生した各イベントの開始点のレベル、損失及び反射減衰量を算出するイベント解析部と、
前記イベント解析部が算出した前記各イベントの開始点のレベル、損失及び反射減衰量から、前記各イベントの開始点及び終了点の累計損失を前記複数のパルス幅のそれぞれについて算出し、前記各イベントの開始点及び終了点のそれぞれについて所要のSN比以上を確保できるパルス幅を決定し、前記各イベントの開始点及び終了点それぞれの前記パルス幅における累計損失を統合して解析結果とする解析結果統合部と、
を備える光パルス試験装置。
【請求項2】
前記イベント解析部は、前記OTDR波形測定部が測定した前記OTDR波形から、前記測定系内で発生した各イベントの開始点の位置及び終了点の位置を算出し、
前記解析結果統合部は、前記解析結果として、前記複数のパルス幅について前記イベント解析部が算出した前記各イベントの開始点の位置、終了点の位置、及び反射減衰量を統合する
ことを特徴とする請求項1に記載の光パルス試験装置。
【請求項3】
複数のパルス幅で測定系のOTDR波形を測定するOTDR波形測定ステップと、
前記OTDR波形測定ステップで測定した前記OTDR波形から、前記測定系内で発生した各イベントの開始点のレベル、損失及び反射減衰量を算出するイベント解析ステップと、
前記イベント解析ステップで算出した前記各イベントの開始点のレベル、損失及び反射減衰量から、前記各イベントの開始点及び終了点の累計損失を前記複数のパルス幅のそれぞれについて算出し、前記各イベントの開始点及び終了点のそれぞれについて所要のSN比以上を確保できるパルス幅を決定し、前記各イベントの開始点及び終了点それぞれの前記パルス幅における累計損失を統合して解析結果とする解析結果統合ステップと、
を備える光パルス試験方法。
【請求項4】
前記イベント解析ステップにおいて、前記OTDR波形測定ステップで測定した前記OTDR波形から、前記測定系内で発生した各イベントの開始点の位置及び終了点の位置を算出し、
前記解析結果統合ステップにおいて、前記解析結果として、前記複数のパルス幅について前記イベント解析ステップで算出した前記各イベントの開始点の位置、終了点の位置、及び反射減衰量を統合する
ことを特徴とする請求項3に記載の光パルス試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、イベントに応じて複数のパルス幅でOTDR波形の測定を行い、測定したOTDR波形の解析結果を統合する光パルス試験装置及び光パルス試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測定したOTDR(Optical Time Domain Reflectometer)波形に基づいて、測定系内で発生したイベントを検出する方法が知られている(例えば特許文献1を参照。)。関連技術に係る装置では、測定系のOTDR波形を測定し、測定したOTDR波形における変化点を抽出し、変化点でイベントが発生した場合の理想波形を生成する。その後、測定したOTDR波形と、理想波形との差分を抽出し、差分量がある場合には、当該差分量のある位置に未検出のイベントがあるとして、OTDR波形に含まれる全イベントを検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
関連技術では、ダイナミックレンジ及びSN比と、距離分解能とのトレードオフ関係を考慮して事前に決めた測定条件に従って、OTDR波形を測定していた。そのため、ダイナミックレンジ及びSN比を確保するためにパルス幅を大きくすると、近接するイベントを検出できないという課題があった。また、距離分解能を確保するためにパルス幅を小さくすると、ダイナミックレンジが小さくなり、遠端側のイベントを検出できない、あるいは、測定系内に発生した小さな損失や小さなレベル差等のイベントがノイズ成分に埋もれて検出できないという課題があった。
【0005】
前記課題を解決するために、本開示は、OTDR波形に含まれる各イベントを検出することができる光パルス試験装置及び光パルス試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示の光パルス試験装置及び光パルス試験方法は、OTDR波形に含まれるイベント毎に累計損失に応じてパルス幅を決定し、決定したパルス幅でOTDR波形の測定を行い、測定したOTDR波形の解析結果を統合することとした。
【0007】
具体的には、本開示に係る光パルス試験装置は、
複数のパルス幅で測定系のOTDR波形を測定するOTDR波形測定部と、
前記OTDR波形測定部が測定した前記OTDR波形から、前記測定系内で発生した各イベントの開始点のレベル、損失及び反射減衰量を算出するイベント解析部と、
前記イベント解析部が算出した前記各イベントの開始点のレベル、損失及び反射減衰量から、前記各イベントの開始点及び終了点の累計損失を前記複数のパルス幅のそれぞれについて算出し、前記各イベントの開始点及び終了点のそれぞれについて所要のSN比以上を確保できるパルス幅を決定し、前記各イベントの開始点及び終了点それぞれの前記パルス幅における累計損失を統合して解析結果とする解析結果統合部と、
を備える。
【0008】
本開示に係る光パルス試験装置では、
前記イベント解析部は、前記OTDR波形測定部が測定した前記OTDR波形から、前記測定系内で発生した各イベントの開始点の位置及び終了点の位置を算出し、
前記解析結果統合部は、前記解析結果として、前記複数のパルス幅について前記イベント解析部が算出した前記各イベントの開始点の位置、終了点の位置、及び反射減衰量を統合してもよい。
【0009】
具体的には、本開示に係る光パルス試験方法は、
複数のパルス幅で測定系のOTDR波形を測定するOTDR波形測定ステップと、
前記OTDR波形測定ステップで測定した前記OTDR波形から、前記測定系内で発生した各イベントの開始点のレベル、損失及び反射減衰量を算出するイベント解析ステップと、
前記イベント解析ステップで算出した前記各イベントの開始点のレベル、損失及び反射減衰量から、前記各イベントの開始点及び終了点の累計損失を前記複数のパルス幅のそれぞれについて算出し、前記各イベントの開始点及び終了点のそれぞれについて所要のSN比以上を確保できるパルス幅を決定し、前記各イベントの開始点及び終了点それぞれの前記パルス幅における累計損失を統合して解析結果とする解析結果統合ステップと、
を備える。
【0010】
本開示に係る光パルス試験方法は、
前記イベント解析ステップにおいて、前記OTDR波形測定ステップで測定した前記OTDR波形から、前記測定系内で発生した各イベントの開始点の位置及び終了点の位置を算出し、
前記解析結果統合ステップにおいて、前記解析結果として、前記複数のパルス幅について前記イベント解析ステップで算出した前記各イベントの開始点の位置、終了点の位置、及び反射減衰量を統合してもよい。
【0011】
なお、上記各発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、OTDR波形に含まれる各イベントを検出することができる光パルス試験装置及び光パルス試験方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態1に係る光パルス試験装置の概略構成と使用形態の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0015】
(実施形態1)
本実施形態に係る光パルス試験装置の概略構成の一例を
図1に示す。本実施形態に係る光パルス試験装置10は、複数のパルス幅で測定系20のOTDR波形を測定するOTDR波形測定部11と、OTDR波形測定部11が測定したOTDR波形から測定系20内で発生した各イベントの開始点のレベル、損失及び反射減衰量を算出するイベント解析部12と、イベント解析部12が算出した各イベントの開始点のレベル、損失及び反射減衰量から、各イベントの開始点及び終了点の累計損失を複数のパルス幅のそれぞれについて算出し、各イベントの開始点及び終了点のそれぞれについて所要のSN比以上を確保できるパルス幅を決定し、各イベントの開始点及び終了点それぞれのパルス幅における累計損失を統合して解析結果とする解析結果統合部13と、を備える。ここで、本実施形態では、PON構成を備える測定系20を用いて説明するが、これに限定されない。
【0016】
(OTDR波形測定ステップ)
OTDR波形測定部11は、複数のパルス幅で測定系20のOTDR波形を測定する。ここで、複数のパルス幅は、後述するように、解析結果統合部13が決定してもよい。この場合、OTDR波形測定部11は、解析結果統合部13がパルス幅を決定する都度、OTDR波形の測定を行う。
【0017】
(イベント解析ステップ)
イベント解析部12は、OTDR波形測定部11が測定したOTDR波形から測定系20内で発生した各イベントの開始点の位置、開始点のレベル、終了点の位置、損失及び反射減衰量を算出する。イベント解析部12は、OTDR波形に対して、LSA(Least Square Approximation法)法を用いて各イベントの開始点の位置、開始点のレベル、終了点の位置、損失及び反射減衰量を算出してもよい。LSA法とは、OTDR波形に対して、直線近似を用いてイベントを検出する方法である。また、イベント解析部12は、OTDR波形に対して、イベントモデル関数を非線形フィッティングして各イベントの開始点の位置、開始点のレベル、終了点の位置、損失及び反射減衰量を算出してもよい。非線形フィッティングとは、非線形関数であるイベントモデル関数と、OTDR波形との間で最小二乗法を行うことをいう。ここで、非線形フィッティングにおいて、各イベントの開始点の位置、開始点のレベル、終了点の位置、損失及び反射減衰量の初期値を算出するために、OTDR波形に微分法を用いて各イベントの開始点の位置を推定してもよいし、OTDR波形にウェーブレット変換を用いて各イベントの開始点の位置を推定してもよい。
【0018】
(解析結果統合ステップ)
解析結果統合部13は、イベント解析部12が算出した各イベントの開始点のレベル、損失及び反射減衰量に基づき、各イベントにおける開始点の累計損失及び終了点の累計損失を求める。求めた累計損失のうち、最遠端側のイベントの終了点の累計損失から、最遠端側のイベントについて所要のSN比以上を確保できるパルス幅を決定する。
【0019】
本実施形態では、OTDR波形の口元レベル(入射端のレベル)とノイズピークレベルとの差をマージンαとし、OTDR波形のSN比が1となるレベルとノイズピークレベルとの差をマージンαmとして、式(1)を満たすダイナミックレンジ(以下「ダイナミックレンジ」を「DR」と略記する。)を有するパルス幅を「所要のSN比以上を確保できるパルス幅」とする。
(数1)
累計損失+αm≦DR≦累計損失+α (1)
【0020】
最遠端側のイベントの終了点について、所要のSN比以上を確保できるパルス幅が複数あるときは、パルス幅の大きい方から順に測定用パルス幅とし、各パルス幅について、OTDR波形測定部11に測定系20のOTDR波形を測定させる。
【0021】
また、解析結果統合部13は、OTDR波形測定部11がOTDR波形を未測定の場合は、測定系20の構成から累計損失の初期値を算出し、累計損失の初期値からパルス幅を決定してもよい。例えば、測定系20が「1×4-1×32」のPON構成の場合、3dB×7=21dBを累計損失の初期値としてもよい。
【0022】
解析結果統合部13は、最遠端側のイベントの終了点について所要のSN比以上を確保できるパルス幅のそれぞれについてOTDR波形の測定した後、同様に、最遠端側のイベントの開始点について所要のSN比以上を確保できるパルス幅を決定し、各パルス幅についてOTDR波形を測定する。なお、最遠端側のイベントの開始点について所要のSN比以上を確保できるパルス幅のうち、終了点について所要のSN比以上を確保できるパルス幅と重複するパルス幅については、OTDR波形を新たに測定せず、既に測定したOTDR波形を使用してもよい。
【0023】
解析結果統合部13は、最遠端側のイベントの終了点及び開始点について所要のSN比以上を確保できるパルス幅のそれぞれについてOTDR波形の測定が完了した後、同様にして、次に最遠端側となるイベントの終了点及び開始点について、所要のSN比以上を確保できるパルス幅を決定し、各パルス幅についてOTDR波形を測定する。
【0024】
このようにして、解析結果統合部13は、OTDR波形に含まれるイベントの全てについて、遠端側から順に、終了点及び開始点のそれぞれについて、所要のSN比以上を確保できるパルス幅を決定し、各パルス幅についてOTDR波形を測定する。なお、イベント間で所要のSN比以上を確保できるパルス幅が重複する場合は、OTDR波形を新たに測定せず、既に測定したOTDR波形を使用してもよい。なお、本実施形態では、遠端側のイベントからパルス幅を決定したが、これに限定されない。
【0025】
解析結果統合部13は、OTDR波形に含まれる各イベントについて算出した、パルス幅毎のイベントの開始点の位置、終了点の位置、開始点の累計損失及びイベントによる損失を統合して解析結果とするイベントテーブルを備える。
【0026】
解析結果統合部13は、OTDR波形から各イベントの開始点及び終了点のそれぞれにおける累計損失を算出するごとにイベントテーブルを更新する。
【0027】
具体的には、解析結果統合部13は、各イベント毎に、開始点及び終了点の累計損失を算出できたパルス幅のうち、最も広いパルス幅における開始点及び終了点の累計損失をそれぞれイベントの開始点及び終了点における累計損失としてもよい。なお、開始点における累計損失とは、開始点のレベルから距離0kmにおけるレベルを差し引いた値とする。終了点における累計損失とは、終了点のレベルから距離0kmにおけるレベルを差し引いた値とする。また、イベントにおける損失は、イベントの終了点の累計損失からイベントの開始点の累計損失を差し引いた値とする。
【0028】
解析結果統合部13は、解析結果として、複数のパルス幅についてイベント解析部12が算出した各イベントの開始点の位置、終了点の位置、及び反射減衰量を統合してもよい。具体的には、解析結果統合部13は、各イベントの開始点の位置、反射減衰量について、測定した複数のパルス幅の中で、そのイベントを検出していて、そのイベントの開始点が所要のノイズ振幅以下の最小パルス幅の値を採用してもよい。各イベントの終了点の位置については、解析結果統合部13は、測定した複数のパルス幅の中で、そのイベントを検出していて、そのイベントの終了点が所要のノイズ振幅以下の最小パルス幅の値を採用してもよい。
【0029】
解析結果統合部13は、事前にパルス幅の候補を複数用意し、その中から前述したようにパルス幅を決定してもよい。
【0030】
以上説明したように、本開示により、OTDR波形に含まれる各イベントを検出することができる光パルス試験装置及び光パルス試験方法を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本開示に係る光パルス試験装置及び光パルス試験方法は、光学測定器産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
10:光パルス試験装置
11:OTDR波形測定部
12:イベント解析部
13:解析結果統合部
20:測定系