(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】リチウム前駆体の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 26/12 20060101AFI20241004BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20241004BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20241004BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20241004BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20241004BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20241004BHJP
C22B 3/16 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C22B26/12
H01M10/54
C22B7/00 C
C22B1/02
C22B3/04
C22B3/22
C22B3/16
(21)【出願番号】P 2022520241
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(86)【国際出願番号】 KR2020012632
(87)【国際公開番号】W WO2021066362
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-06-07
(31)【優先権主張番号】10-2019-0121933
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ホン スク ジュン
(72)【発明者】
【氏名】キム ジ ミン
(72)【発明者】
【氏名】ソン スン レル
(72)【発明者】
【氏名】ハ ドン ウク
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-094227(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1897134(KR,B1)
【文献】特開2004-011010(JP,A)
【文献】特開2011-094228(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2020238(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル、コバルト及びマンガンを含むリチウム複合酸化物を含む正極活物質混合物を準備するステップと、
前記正極活物質混合物を不活性気体雰囲気下で炭素系固体物質と反応させ、リチウム酸化物を含む予備前駆体混合物を形成するステップと、
前記予備前駆体混合物を水洗処理してリチウム前駆体を分離するステップと
、を含
み、
前記予備前駆体混合物を形成するステップは、840℃~1,200℃で行われ、前記不活性気体雰囲気は、還元性気体を含まない、リチウム前駆体の回収方法。
【請求項2】
前記予備前駆体混合物を形成するステップにおいて、リチウム酸化物の重量に対して1/10以下の炭酸リチウムが生成される、請求項
1に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項3】
前記炭素系固体物質は、カーボンブラック、活性化炭素、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、およびコークスからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項4】
前記不活性気体は、アルゴンまたは窒素を含む、請求項1に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項5】
前記予備前駆体混合物を形成するステップは、前記正極活物質混合物と前記炭素系固体物質とを乾式混合することを含む、請求項1に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項6】
前記乾式混合は、流動層反応器によって行われる、請求項
5に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項7】
前記予備前駆体混合物を形成するステップは、前記正極活物質混合物と前記炭素系固体物質とを4:1~9:1の重量比で反応させる、請求項1に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項8】
前記水洗処理は、前記リチウム酸化物の少なくとも一部をリチウム水酸化物に変換することを含む、請求項1に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項9】
前記予備前駆体混合物は、遷移金属含有混合物をさらに含み、
前記水洗処理によってリチウム水酸化物水溶液が生成され、前記遷移金属含有混合物は沈殿する、請求項1に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項10】
前記水洗処理は、二酸化炭素フリー(CO
2-free)雰囲気で行われる、請求項1に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項11】
前記リチウム複合酸化物は、下記化学式1で表される、請求項1に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【化1】
(化学式1中、Mは、Mn、Na、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Ge、Sr、Ag、Ba、Zr、Nb、Mo、Al、GaおよびBからなる群より選択され、0<x≦1.1、2≦y≦2.02、0.5≦a≦1、0≦b≦0.5である。)
【請求項12】
前記正極活物質混合物は、廃リチウム二次電池から得られる、請求項1に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項13】
前記正極活物質混合物を準備するステップは、前記廃リチウム二次電池から正極集電体、正極活物質、結合剤および導電材を含む正極を分離するステップと、
分離された前記正極を粉砕または有機溶媒処理して前記正極集電体を除去するステップと
、を含む、請求項
12に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項14】
前記不活性気体雰囲気は、酸化性気体を含まない、請求項1に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム前駆体の回収方法に関する。より詳細には、正極活物質混合物からリチウム前駆体を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、充電と放電の繰り返しが可能な電池であり、情報通信及びディスプレイ産業の発展につれてカムコーダー、携帯電話、ノートパソコンなどの携帯用電子通信機器に広く適用されてきた。二次電池としては、例えば、リチウム二次電池、ニッケル-カドミウム電池、ニッケル-水素電池などが挙げられる。中でもリチウム二次電池は、動作電圧および単位重量当たりのエネルギー密度が高く、充電速度および軽量化に有利な点で積極的に開発及び適用されてきた。
【0003】
リチウム二次電池は、正極、負極及び分離膜(セパレーター)を含む電極組立体と、前記電極組立体を含浸させる電解質とを含むことができる。前記リチウム二次電池は、前記電極組立体および電解質を収容する、例えば、パウチ状の外装材をさらに含むことができる。
【0004】
前記リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム複合酸化物を用いることができる。前記リチウム複合酸化物は、さらに、ニッケル、コバルト、マンガンなどの遷移金属を共に含有することができる。
【0005】
前記正極活物質としてのリチウム複合酸化物は、リチウム前駆体と、ニッケル、コバルトおよびマンガンを含有するニッケル-コバルト-マンガン(NCM)前駆体とを反応させて製造することができる。
【0006】
前記正極活物質に前述した高コストの有価金属が用いられることにより、正極材の製造に製造コストの20%以上がかかっている。また、近年、環境保護への関心が高まることによって、正極活物質のリサイクル方法の研究が進められている。前記正極活物質のリサイクルのためには、廃正極から前記リチウム前駆体を高効率、高純度で再生する必要がある。
【0007】
例えば、韓国公開特許第2015-0002963号公報では、湿式方法を用いたリチウムの回収方法を開示しているが、コバルト、ニッケルなどを抽出して残りの廃液から湿式抽出によってリチウムを回収しているので、回収率が過度に低下し、廃液から多くの不純物が発生することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、正極活物質混合物から高純度、高収率および高効率でリチウム前駆体を回収する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の例示的な実施形態によるリチウム前駆体の回収方法は、リチウム複合酸化物を含む正極活物質混合物を準備するステップと、前記正極活物質混合物を不活性気体雰囲気下で炭素系固体物質と反応させ、リチウム酸化物を含む予備前駆体混合物を形成するステップと、前記予備前駆体混合物を水洗処理してリチウム前駆体を分離するステップとを含む。
【0010】
例示的な実施形態では、前記予備前駆体混合物を形成するステップは、740℃以上の温度で行うことができる。
【0011】
例示的な実施形態では、前記予備前駆体混合物を形成するステップは、840℃~1,200℃で行うことができる。
【0012】
例示的な実施形態では、前記予備前駆体混合物を形成するステップにおいて、リチウム酸化物の重量に対して1/10以下の炭酸リチウムが生成され得る。
【0013】
例示的な実施形態では、前記炭素系固体物質は、カーボンブラック、活性化炭素、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、およびコークスからなる群より選択される少なくとも1つを含むことができる。
【0014】
例示的な実施形態では、前記不活性気体は、アルゴンまたは窒素を含むことができる。
【0015】
例示的な実施形態では、前記予備前駆体混合物を形成するステップは、前記正極活物質混合物と前記炭素系固体物質とを乾式混合することを含むことができる。
【0016】
例示的な実施形態では、前記乾式混合は、流動層反応器によって行うことができる。
【0017】
例示的な実施形態では、前記予備前駆体混合物を形成するステップは、前記正極活物質混合物と前記炭素系固体物質とを4:1~9:1の重量比で反応させることができる。
【0018】
例示的な実施形態では、前記水洗処理は、前記リチウム酸化物の少なくとも一部をリチウム水酸化物に変換することを含むことができる。
【0019】
例示的な実施形態では、前記予備前駆体混合物は、遷移金属含有混合物をさらに含み、前記水洗処理によってリチウム水酸化物水溶液が生成され、前記遷移金属含有混合物は沈殿し得る。
【0020】
例示的な実施形態では、前記水洗処理は、二酸化炭素フリー(CO2-free)雰囲気下で行うことができる。
【0021】
例示的な実施形態では、前記リチウム複合酸化物は下記化学式1で表すことができる。
【0022】
【0023】
化学式1中、Mは、Mn、Na、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Ge、Sr、Ag、Ba、Zr、Nb、Mo、Al、GaおよびBからなる群より選択され、0<x≦1.1、2≦y≦2.02、0.5≦a≦1、0≦b≦0.5であってもよい。
【0024】
例示的な実施形態では、前記正極活物質混合物は、廃リチウム二次電池から得ることができる。
【0025】
例示的な実施形態では、前記正極活物質混合物を準備するステップは、前記廃リチウム二次電池から正極集電体、正極活物質、結合剤および導電材を含む正極を分離するステップと、分離された前記正極を粉砕または有機溶媒処理して前記正極集電体を除去するステップとを含むことができる。
【0026】
例示的な実施形態では、前記不活性気体雰囲気は、酸化性気体および還元性気体を含まなくてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の例示的な実施形態によると、正極活物質混合物を不活性気体雰囲気下で炭素系固体物質と反応させることにより、高純度のリチウム前駆体を高収率および高効率で得ることができる。
【0028】
正極活物質と炭素系固体物質の反応によってリチウム酸化物が生成され、リチウム酸化物は、前記反応の温度条件で凝集しなくなり得る。これにより、追加の粉砕工程を経ずにリチウム前駆体を効率的に分離できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、例示的な実施形態によるリチウム前駆体の再生方法を説明するための概略的なフローチャートである。
【
図2】
図2は、例示的な実施形態によるリチウム酸化物の形成を確認するためのX線回折(XRD)グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の例示的な実施形態では、リチウム複合酸化物を含む正極活物質混合物を不活性気体雰囲気下で炭素系固体物質と反応させ、水洗処理するリチウム前駆体の回収方法を提供する。これにより、高収率および高効率でリチウム前駆体を回収することができる。
【0031】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態をより具体的に説明する。但し、これらの実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、本発明を制限するものではない。
【0032】
本明細書で使用される用語「前駆体」は、電極活物質に含まれる特定の金属を提供するために、前記特定の金属を含む化合物を包括的に指すものとして使用される。
【0033】
図1は、例示的な実施形態によるリチウム前駆体の再生方法を説明するための概略的なフローチャートである。
【0034】
図1に示すように、リチウム複合酸化物を含む正極活物質混合物を準備することができる(例えば、S10ステップ)。前記正極活物質混合物は、電気素子、化学素子から取得または再生されるリチウム含有化合物を含むことができる。前記正極活物質混合物は、非限定的な例として、リチウム酸化物、炭酸リチウム、リチウム水酸化物などの様々なリチウム含有化合物をさらに含むことができる。
【0035】
例示的な実施形態によると、前記正極活物質混合物は、廃リチウム二次電池から得ることができる。前記廃リチウム二次電池は、実質的に再使用(充放電)ができないリチウム二次電池を含み、例えば寿命が尽きて充放電効率が大幅に低下したリチウム二次電池、または衝撃や化学反応によって破壊されたリチウム二次電池を含むことができる。
【0036】
前記廃リチウム二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在する分離膜とを含む電極組立体を含むことができる。前記の正極および負極は、それぞれ正極集電体および負極集電体上にコーティングされた正極活物質層および負極活物質層を含むことができる。
【0037】
例えば、前記正極活物質層に含まれた正極活物質は、リチウムおよび遷移金属を含有する酸化物を含むことができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質は、ニッケル、コバルトおよびマンガンを含むNCM系リチウム酸化物であってもよい。前記正極活物質としてのNCM系リチウム酸化物は、リチウム前駆体およびNCM前駆体(例えば、NCM酸化物)を、例えば共沈反応によって互いに反応させて製造することができる。
【0039】
しかし、本発明の実施形態は、前記NCM系リチウム酸化物を含む正極材だけでなく、リチウム含有正極材に共通して適用することができる。
【0040】
これにより、本発明の実施形態によると、リチウム前駆体としてリチウム酸化物(Li2O)またはリチウム水酸化物(LiOH)を高選択比で再生する方法を提供することができる。
【0041】
例えば、前記廃リチウム二次電池から前記正極を分離して廃正極を回収することができる。前記正極は、前述のように正極集電体(例えば、アルミニウム(Al))および正極活物質層を含み、前記正極活物質層は、前述した正極活物質に加えて、導電材及び結合剤を共に含むことができる。
【0042】
前記導電材は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブなどの炭素系物質を含むことができる。前記結合剤は、例えば、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニリデンフルオリド(polyvinylidenefluoride,PVDF)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)などの樹脂物質を含むことができる。
【0043】
回収された前記正極から前記正極活物質混合物を準備することができる。いくつかの実施形態では、前記正極活物質混合物は、粉砕処理などの物理的方法により粉末状に製造することができる。前記正極活物質混合物は、前述のようにリチウム-遷移金属酸化物の粉末を含み、例えばNCM系リチウム酸化物粉末(例えば、Li(NCM)O2)を含むことができる。
【0044】
いくつかの実施形態では、前記粉砕処理の前に回収された前記正極を熱処理することもできる。これにより、前記粉砕処理時の正極集電体の脱着を促進することができ、前記結合剤および導電材を少なくとも部分的に除去することができる。前記熱処理の温度は、例えば約100~500℃、好ましくは約350~450℃であってもよい。
【0045】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質混合物は、回収された前記正極を有機溶媒に浸漬させた後に得ることができる。例えば、回収された前記正極を有機溶媒に浸漬させて前記正極集電体を分離除去し、遠心分離によって前記正極活物質を選択的に抽出することができる。
【0046】
前述の工程により、実質的にアルミニウムのような正極集電体成分が実質的に完全に分離除去され、前記導電材及び結合剤に由来する炭素系成分の含有量が除去または減少された前記正極活物質混合物を得ることができる。
【0047】
例えば、前記リチウム複合酸化物は、リチウムと遷移金属とを含む酸化物を含むことができる。前記遷移金属は、例えば、ニッケル、コバルト、マンガンなどを含むことができる。
【0048】
いくつかの実施形態では、前記リチウム複合酸化物は下記化学式1で表すことができる。
【0049】
【0050】
化学式1中、Mは、Mn、Na、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Ge、Sr、Ag、Ba、Zr、Nb、Mo、Al、GaおよびBからなる群より選択され、0<x≦1.1、2≦y≦2.02、0.5≦a≦1、0≦b≦0.5であってもよい。
【0051】
例示的な実施形態によると、Ni含有量が0.5モル比以上のリチウム複合酸化物をリチウム酸化物に効果的に変換できる。
【0052】
前記正極活物質混合物は不活性気体雰囲気下で炭素系固体物質と反応させ、予備前駆体混合物を形成することができる(例えば、S20ステップ)。前記予備前駆体混合物は、リチウム酸化物を含むことができる。
【0053】
前記正極活物質混合物と前記炭素系固体物質は、740℃以上の温度で反応することができる。前記温度範囲では、前記正極活物質混合物に含まれた前記リチウム複合酸化物をリチウム酸化物に変換することができる。例えば、反応温度が740℃未満であると、リチウム酸化物が形成されず、炭酸リチウムが形成されることがある。
【0054】
例示的な実施形態では、前記正極活物質混合物と前記炭素系固体物質とを740℃以上の温度で反応させることができる。この場合、前記反応によって生成される炭酸リチウムは、リチウム酸化物の重量に対して1/10以下であり得る。これにより、工程によるリチウム回収収率を増加させることができる。好ましくは、前記反応は840℃以上の温度で行うことができる。この場合には、炭酸リチウムが実質的に生成されなくなり得る。本明細書で「実質的に生成されない」とは、リチウム酸化物100重量部に対して1重量部以下に形成されることを意味し得る。
【0055】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質混合物と前記炭素系固体物質との反応温度は1,200℃以下であってもよい。前記反応温度が1,200℃を超えると、前記正極活物質混合物、遷移金属含有混合物、リチウム酸化物などが互いに反応して副生成物が形成されることがある。そのため、リチウム前駆体の純度および収率が低下することがある。
【0056】
例示的な実施形態では、前記炭素系固体物質は、結晶質または非晶質の炭素物質を含むことができる。例えば、カーボンブラック、活性化炭素、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、およびコークスからなる群より選択される少なくとも1つを含むことができる。好ましくは、カーボンブラックまたは活性化炭素が、前記正極活物質混合物と効果的に反応できる。前記炭素系固体物質は、前記リチウム複合酸化物と反応時に酸化し、前記リチウム複合酸化物の分解を促進することができる。
【0057】
例示的な実施形態では、前記不活性気体は、アルゴンまたは窒素を含むことができる。例えば、前記正極活物質混合物と前記炭素系固体物質とが反応する反応器の内部は、前記不活性気体で置換することができる。これにより、前記反応器の内部を不活性気体雰囲気に形成することができる。例えば、前記置換は、パージング(purging)を含むことができる。
【0058】
いくつかの実施形態では、前記不活性気体雰囲気は、酸化性気体または還元性気体を含まなくてもよい。例えば、反応器の内部が前記不活性気体のみで満たされた雰囲気を含むことができる。これにより、例えば、還元性気体である二酸化炭素気体とリチウム成分との反応によって炭酸リチウムなどが形成されるなどの、副生成物の形成を抑制することができる。
【0059】
例えば、前記酸化性気体は酸素ガスを含むことができ、前記還元性気体は水素ガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガスなどを含むことができる。
【0060】
例示的な実施形態では、前記正極活物質混合物と前記炭素系固体物質とは乾式混合することができる。例えば、前記反応器内に溶媒などの液状物質が添加されなくてもよい。前記反応器内において、前記正極活物質混合物と前記炭素系固体物質とを撹拌することができる。
【0061】
例示的な実施形態では、前記反応器は流動層反応器を含むことができる。例えば、前記乾式混合は、流動層反応器内で行うことができる。前記正極活物質混合物と前記炭素系固体物質を前記流動層反応器内に投入し、前記流動層反応器内で反応させることができる。
【0062】
例えば、前記流動層反応器の下部に前記不活性気体を注入し、前記正極活物質混合物の底部から前記不活性気体を通過させることができる。これにより、前記流動層反応器の下部からサイクロンが形成され、前記正極活物質混合物と前記炭素系固体物質とを効果的に混合できる。
【0063】
例示的な実施形態では、前記正極活物質混合物と前記炭素系固体物質は、4:1~9:1の重量比で混合することができる。前記正極活物質混合物の使用量が4:1未満であると、リチウム酸化物の取得率が低下することがある。前記正極活物質混合物の使用量が9:1を超えると、前記正極活物質混合物からリチウム酸化物への変換が不十分になることがある。好ましくは、前記正極活物質混合物と前記炭素系固体物質とは、5:1~9:1の重量比で混合することができる。
【0064】
例示的な実施形態では、前記予備前駆体混合物は、遷移金属含有混合物をさらに含むことができる。前記遷移金属含有混合物は、遷移金属、遷移金属含有酸化物などを含むことができる。前記遷移金属は、ニッケル、コバルト、マンガンなどを含むことができる。
【0065】
前記遷移金属含有混合物の遷移金属成分は、前記リチウム複合酸化物に由来するものであってもよい。例えば、前記リチウム複合酸化物がリチウム酸化物に変換される反応で前記遷移金属成分が分離され、前記遷移金属含有混合物を形成することができる。この場合、前記リチウム複合酸化物が分解され、リチウム酸化物および前記遷移金属含有混合物を形成することができる。
【0066】
前記予備前駆体混合物は水洗処理することができる(例えば、S30ステップ)。前記水洗処理により、前記予備前駆体混合物中の前記リチウム酸化物を分離し、リチウム前駆体として提供することができる。
【0067】
例示的な実施形態では、前記水洗処理は、前記リチウム酸化物の少なくとも一部を水に溶解し、リチウム水酸化物に変換することができる。例えば、リチウム水酸化物は水溶性であり、リチウム水酸化物水溶液が生成され得る。
【0068】
この場合、前記予備前駆体混合物からリチウム酸化物を選択的に分離できる。前記予備前駆体混合物中のリチウム酸化物を除いた成分は、前記水溶液の底部(前記反応器の底部)に沈殿し得る。例えば、前記遷移金属含有混合物が沈殿し得る。
【0069】
ろ過処理によって前記遷移金属含有混合物を分離し、高純度のリチウム水酸化物を含むリチウム前駆体を得ることができる。
【0070】
例えば、前記リチウム水酸化物水溶液を分離し、水を蒸発させるかまたは再結晶、分別結晶などによって結晶化して、リチウム水酸化物またはリチウム酸化物の形態のリチウム前駆体を回収することができる。
【0071】
いくつかの実施形態では、沈殿分離された前記遷移金属含有混合物は、酸溶液で処理して各遷移金属の酸塩形態の前駆体を形成することができる。一実施形態では、前記酸溶液として硫酸を使用することができる。この場合には、前記遷移金属前駆体として、NiSO4、MnSO4およびCoSO4をそれぞれ回収することができる。
【0072】
いくつかの実施形態では、前記水洗処理は、二酸化炭素(CO2)が排除された条件で行うことができる。例えば、CO2フリー雰囲気(例えば、CO2が除去された空気(air)雰囲気)で前記水洗処理を行うので、リチウム炭酸化物の再生性を防止することができる。
【0073】
一実施形態では、前記水洗処理時に提供される水をCO2欠乏ガスを用いてパージ(例えば、窒素パージ)して、CO2フリー雰囲気を組成することができる。
【0074】
比較例では、リチウム複合酸化物を水素で還元処理する場合、リチウム水酸化物が形成され得る。リチウム水酸化物の融点は462℃であり、前記水素還元処理の温度条件(450~700℃)では、形成されたリチウム水酸化物が部分的に溶融することがある。そのため、前記水素還元処理後の冷却過程でリチウム水酸化物が互いに凝集したり、前記遷移金属含有混合物と凝集することがある。この場合には、リチウム水酸化物を効果的に分離するために、凝集したリチウム水酸化物を粉砕する必要がある。
【0075】
例示的な実施形態によると、リチウム複合酸化物のリチウム成分はリチウム酸化物に変換され得る。リチウム酸化物の融点は約1,438℃であり、前記リチウム複合酸化物と前記炭素系固体物質は、リチウム酸化物の融点未満の温度で反応することができる。これにより、リチウム酸化物は凝集せず、追加の粉砕工程なしにリチウム酸化物を効率的に分離できる。
【0076】
以下、本発明の理解を助けるために具体的な実施例及び比較例を含む実験例を提示するが、これらの実験例は本発明を例示するものに過ぎず、添付の特許請求の範囲を制限するものではない。これらの実施例に対し、本発明の範疇および技術思想の範囲内で種々の変更および修正を加えることが可能であることは当業者にとって明らかであり、これらの変形および修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然のことである。
【0077】
実験例1
廃リチウム二次電池から正極を分離した後、前記正極内の集電体を除去し、正極活物質混合物を準備した。
【0078】
前記正極としては、組成が約LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2の正極活物質、デンカブラック(Denka Black)導電材およびPVDFバインダーを92:5:3の重量比で含む正極活物質層が形成されたものを使用した。
【0079】
前記正極活物質混合物を常温(30℃)でXRD分析(X-Ray Diffraction Spectroscopy)した結果を
図2に示す。
【0080】
また、アルゴンガスで置換した反応器内に、前記正極活物質混合物(25g)と粒径約0.5μmのカーボンブラック(5g)を投入して撹拌しながら、500~900℃の温度で60分ずつ反応させた。各温度で反応したサンプルをXRD分析(X-Ray Diffraction Spectroscopy)した結果を
図2に示す。
図2に示すように、740℃から酸化リチウムが示され始めた。
【0081】
実験例2
廃リチウム二次電池から正極を分離した後、前記正極内の集電体を除去し、正極活物質混合物を準備した。
【0082】
前記正極としては、組成が約LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2の正極活物質、デンカブラック導電材およびPVDFバインダーを92:5:3の重量比で含む正極活物質層が形成されたものを使用した。前記正極活物質混合物(25g)と粒径約0.5μmのカーボンブラック(3g)を投入して撹拌しながら、600℃及び900℃まで昇温した。
【0083】
前記正極活物質混合物とカーボンブラックがそれぞれ600℃及び900℃の温度で反応した試料を抽出し、前記試料中のリチウム化合物の含有量をXRD分析に基づいてリートベルト法(Rietveld method)による結晶構造解析から物質相別の分率を求めて下記表1に示す。
【0084】
【0085】
表1に示すように、600℃ではLi2CO3物質が生成されたが、900℃ではLi2O物質のみが生成されたことを確認した。