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特許7566046ガス検体を監視するためのシステム及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ガス検体を監視するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/00 20060101AFI20241004BHJP
   G01N 27/02 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G01N33/00 C
G01N27/02 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022576795
(86)(22)【出願日】2021-06-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-18
(86)【国際出願番号】 US2021037258
(87)【国際公開番号】W WO2021257470
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2024-02-08
(31)【優先権主張番号】63/040,260
(32)【優先日】2020-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519336805
【氏名又は名称】ネクセリス イノベーション ホールディングス,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グレン、ブラッドリー
(72)【発明者】
【氏名】カミングス、スティーブン ランドール
(72)【発明者】
【氏名】フランク、ニコラス ブラニガン
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-550531(JP,A)
【文献】特開2020-122892(JP,A)
【文献】特表2019-530037(JP,A)
【文献】特表2009-539103(JP,A)
【文献】特開2000-149961(JP,A)
【文献】特開2019-184571(JP,A)
【文献】特開2019-090805(JP,A)
【文献】特開2016-145800(JP,A)
【文献】特開平11-237298(JP,A)
【文献】特開平10-253566(JP,A)
【文献】特表平11-500843(JP,A)
【文献】特開平09-072871(JP,A)
【文献】特開平06-082405(JP,A)
【文献】特開平06-066747(JP,A)
【文献】特許第2923033(JP,B2)
【文献】特許第2645564(JP,B2)
【文献】特開2022-045329(JP,A)
【文献】特開2020-060570(JP,A)
【文献】特開2007-248352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00
G01N 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又は複数の検知電極を有する少なくとも1つのガス・センサによって、ガス供給源によって放出された少なくとも1つのガス検体を監視するステップであって、前記少なくとも1つのガス・センサが、前記少なくとも1つのガス・センサの初期の現場配備前に、機械学習(ML)アルゴリズム又は深層学習(DL)アルゴリズムのうちの一方を利用して、前記ガス供給源によって放出された前記少なくとも1つのガス検体を、非OGE干渉ガス放出からオフ・ガス事象(OGE)又は熱暴走事象(TRE)のうちの一方又は両方を含む事象であると分類するように先験的に事前訓練されている、ステップを含む方法であって、
前記ガス供給源によって放出された前記少なくとも1つのガス検体を分類するように前記少なくとも1つのガス・センサを先験的に事前訓練するための前記ML又はDLアルゴリズムの前記利用が、
前記少なくとも1つのガス・センサの前記1つ又は複数の検知電極のそれぞれによって、前記ガス供給源によって潜在的に放出され得る複数の既知のガス検体の一つ一つを継続時間にわたって検出して、前記複数の既知のガス検体の前記一つ一つの固有の特性を表すそれぞれのセンサ信号を生成するように、前記少なくとも1つのガス・センサを訓練するステップと、
前記複数の既知のガス検体の前記一つ一つの対応する複数の特徴を抽出するために、前記生成されたそれぞれのセンサ信号を前記継続時間にわたって前処理するステップと、
前記抽出された対応する複数の特徴を処理して、前記OGE及び前記TREのうちの一方又は両方についての偽陽性放出の決定境界を確立し、残りの一つ一つの非OGEタイプの干渉ガス放出についてそれぞれの決定境界を確立するステップと、
前記ガス供給源によって放出された前記少なくとも1つの前記ガス検体を前記非OGE干渉ガス放出から前記OGE又は前記TREのうちの一方又は両方であると分類するために、前記ML又はDLアルゴリズムにおける前記確立された決定境界を、センサの現場配備後のための1つ又は複数の候補モデルとしてメモリに記憶するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記ガス供給源が、再充電可能なリチウム・イオン電池システム又は電気エネルギー貯蔵システムを含み、前記OGE又は前記TREが、リチウム・イオン電池のオフ・ガス、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸メチル・エチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ビニレン、二酸化炭素、一酸化炭素、炭化水素、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、プロパン、ベンゼン、トルエン、水素、酸素、窒素酸化物、揮発性有機化合物、有毒ガス、塩化水素、フッ化水素、硫化水素、硫黄酸化物、アンモニア、及び塩素を含む、1つまたは複数の可燃性ガス又は有毒ガスの放出の検出を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのガス・センサの前記1つ又は複数の検知電極のそれぞれによって生成される前記それぞれのガス・センサ信号が、第2の並列抵抗とコンデンサとの対と直列にカスケード接続された第1の並列抵抗器とコンデンサとの対を有する等価インピーダンス回路モデルに基づくインピーダンス値を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記等価インピーダンス回路モデルにおける前記第1の並列抵抗器とコンデンサとの対が、放出された異なる検体ガスの組合せに曝露されたときの前記少なくとも1つのガス・センサ応答のダイナミクスをシミュレートする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記センサの前記等価インピーダンス回路モデルが、前記第1の並列抵抗器とコンデンサとの対に接触抵抗を直列にカスケード接続することをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
所与の固定入力電圧Vについて所与のインピーダンス値Rにおいて、ラプラス領域における前記ガス・センサについての入力/出力伝達関数を算出することをさらに含み、前記入力/出力伝達関数が、次のように、
【数2】

として表現され、式中、Rcが接触抵抗であり、Rnが第1の並列抵抗であり、Rsが第2の並列抵抗であり、CPEが、一般的な2次RC回路を説明するための利得の等価静電容量である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ML又はDLアルゴリズムによって事前訓練された前記少なくとも1つのガス・センサによる前記ガス供給源によって放出された前記少なくとも1つのガス検体の前記検出が、基準センサの使用を不要にする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ガス供給源によって放出された前記少なくとも1つのガス検体を検出する際の前記少なくとも1つのガス・センサの前記ML又はDLアルゴリズム事前訓練が、温度の変化、相対湿度の変化、及び偽陽性の報告につながる環境内の酸素分圧に影響を与える他のガスのうちの1つ又は複数によって引き起こされる環境外乱による前記センサのインピーダンス変化を区別することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記複数の既知のガス検体の前記一つ一つの前記対応する複数の特徴の前記抽出における前記少なくとも1つのガス・センサの前記MLアルゴリズム事前訓練が、移動平均算出、ボリンジャ・バンド、最小電極インピーダンス、最大インピーダンス変化速度、前記少なくとも1つのガス・センサ上の前記1つ又は複数の検知電極のそれぞれの最大インピーダンス回復速度、主成分分析を含む機能の組合せ(PCA)、線形判別分析を含む特徴のいずれか1つ又は組合せを利用することを含み、前記DLアルゴリズムが、前記複数の既知のガス検体の前記一つ一つにおける前記対応する複数の特徴の前記抽出における前記少なくとも1つのガス・センサの前記DLアルゴリズム事前訓練が、ニューラル・ネットワークの隠れ層に内部的に含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記OGE又は前記TREについての偽陽性放出の前記決定境界と前記残りの一つ一つのタイプの非OGE干渉ガス放出についてそれぞれの決定境界との前記確立における前記少なくとも1つのガス・センサの前記ML又はDLアルゴリズム事前訓練が、サポート・ベクタ・マシン、判別分析又は最近傍アルゴリズム、ナイーブ・ベイズ及びニューラル・ネイバ、線形回帰、GLM、サポート・ベクタ回帰、GPR、アンサンブル法、決定木、並びに畳み込みニューラル・ネットワーク(CNN)、インセプション・タイム・アーキテクチャ、エコー状態ネットワーク、及び長短期記憶(LSTM)ネットワークのうちの少なくとも1つを含むDLニューラル・ネットワークを含む決定方法のいずれかを使用して、前記生成されたセンサ信号を評価することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ガス供給源を有する筐体と、
前記ガス供給源によって放出された少なくとも1つのガス検体を監視するために配備される1つ又は複数の検知電極を有する少なくとも1つのガス・センサであって、前記少なくとも1つのガス・センサが、前記ガス供給源によって放出された前記少なくとも1つのガス検体を、非OGE干渉ガス放出からオフ・ガス事象(OGE)又は熱暴走事象(TRE)のうちの一方又は両方を含む事象であると検出及び分類するために、プロセッサによる実行のためにメモリにプログラム・コードとして記憶された機械学習(ML)アルゴリズム又は深層学習(DL)アルゴリズムのうちの一方を利用して、前記配備前に先験的に事前訓練されている、少なくとも1つのガス・センサと
を含む、システムであって、
前記ガス供給源によって放出された前記少なくとも1つのガス検体を分類するように前記少なくとも1つのガス・センサを先験的に事前訓練するための前記ML又はDLアルゴリズムの前記利用が、前記プロセッサに、
前記少なくとも1つのガス・センサの前記1つ又は複数の検知電極のそれぞれによって、前記ガス供給源によって潜在的に放出され得る複数の既知のガス検体の一つ一つを継続時間にわたって検出して、前記複数の既知のガス検体の前記一つ一つの固有の特性を表すそれぞれのセンサ信号を生成し、
前記複数の既知のガス検体の前記一つ一つの対応する複数の特徴を抽出するために、前記生成されたそれぞれのセンサ信号を前記継続時間にわたって前処理し、
前記抽出された対応する複数の特徴を処理して、前記OGE及び前記TREのうちの一方又は両方についての偽陽性放出の決定境界を確立し、残りの一つ一つの非OGEタイプの干渉ガス放出についてそれぞれの決定境界を確立し、
前記ガス供給源によって放出された前記少なくとも1つの前記ガス検体を前記非OGE干渉ガス放出から前記OGE又は前記TREのうちの一方又は両方であると分類するために、前記ML又はDLアルゴリズムにおける前記確立された決定境界を、センサの現場配備後のための1つ又は複数の候補モデルとしてメモリに記憶する
ように、センサの初期の現場配備前に前記少なくとも1つのガス・センサを事前訓練させる、システム。
【請求項12】
前記少なくとも1つのガス・センサの前記1つ又は複数の検知電極のそれぞれによって生成される前記それぞれのガス・センサ信号が、第2の並列抵抗とコンデンサとの対と直列にカスケード接続された第1の並列抵抗器とコンデンサとの対を有する等価インピーダンス回路モデルに基づくインピーダンス値を含み、前記等価インピーダンス回路モデルにおける前記第1の並列抵抗器とコンデンサとの対が、放出された異なるガスに曝露されたときの前記少なくとも1つのガス・センサ応答のダイナミクスをシミュレートする、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記ML又はDLアルゴリズムによって事前訓練された前記少なくとも1つのガス・センサによる前記ガス供給源によって放出された前記少なくとも1つのガス検体の前記検出が、基準センサの使用を不要にする、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記複数の既知のガス検体の前記一つ一つの前記対応する複数の特徴の前記抽出における前記少なくとも1つのガス・センサの前記ML又はDLアルゴリズム事前訓練が、移動平均算出、ボリンジャ・バンド、最小電極インピーダンス、最大インピーダンス変化速度、前記少なくとも1つのガス・センサ上の前記1つ又は複数の検知電極のそれぞれの最大インピーダンス回復速度、主成分分析を含む機能の組合せ(PCA)、線形判別分析のうちのいずれか1つ又は組合せを利用することを含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項15】
前記OGE又は前記TREについての偽陽性放出の前記決定境界と前記残りの一つ一つのタイプの非OGE干渉ガス放出についてそれぞれの決定境界との前記確立における前記少なくとも1つのガス・センサの前記ML又はDLアルゴリズム事前訓練が、サポート・ベクタ・マシン、判別分析又は最近傍アルゴリズム、ナイーブ・ベイズ及びニューラル・ネイバ、線形回帰、GLM、サポート・ベクタ回帰、GPR、アンサンブル法、決定木、並びに畳み込みニューラル・ネットワーク(CNN)、インセプション・タイム・アーキテクチャ、エコー状態ネットワーク、及び長短期記憶(LSTM)ネットワークのうちの少なくとも1つを含むDLニューラル・ネットワークを含む決定方法のいずれかを使用して、前記生成されたセンサ信号を評価することを含む、請求項11に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年6月17日に出願した「Systems And Methods For Monitoring A Gas Analyte」と題する米国仮特許出願第63/040,260号の優先権及び利益を主張するものである。本出願は、2020年12月29日に米国特許第10,877,011(B2)号として発行された、2017年6月29日に出願した米国出願第15/637,381号についても言及しており、当該米国出願は、参照により全体が本明細書に組み込まれている、2016年6月29日に出願した「SYSTEMS AND METHODS FOR ANALYTE DETECTION AND CONTROL」と題する米国仮出願第62/356,111号及び2017年2月3日に出願した「SYSTEMS INCLUDING AN ENERGY STORAGE ENCLOSURE AND MONITORING THEREOF」と題する米国仮出願第62/454,516号の利益を主張するものである。
【0002】
本開示は、一般に、オフ・ガス事象(OGE:off-gas event)又は熱流出事象(TRE:thermal run off event)を非OEG干渉ガス(interfering gas)放出と区別するよう先験的に事前訓練されたガス・センサによって、ガス供給源を有する閉鎖型システム内の放出されたガスを監視及び分類するためのシステム並びに方法に関する。
【背景技術】
【0003】
電池は、高密度電気エネルギーを貯蔵することができる電子デバイスである。あらゆる電池と同様に、放電中及び充電中に熱暴走(TRE:thermal runaway event)状態が発生する場合がある。例えば、熱暴走は、電池(例えば、電池のセル)内の短絡、電池の不適切な使用、物理的な乱用、製造上の欠陥、又は極端な外部温度に対する電池の曝露によって始まる可能性がある。熱暴走は、引き出され得る熱よりも多くの熱が生成され得る点まで電池の内部反応速度が上昇した際に発生し、これにより、内部反応速度と生成される熱との両方がさらに上昇することになる。
【0004】
熱暴走状態の影響は、電池のタイプに依存し得る。例えば、鉛酸電池などの浸水型電解質電池では、熱暴走状態により電解質が蒸発し、その結果、オフ・ガス事象(OGE)としても知られる周囲環境への危険な電解質ガスの漏洩につながる可能性がある。電気自動車、ラップトップ、携帯電話などのデバイスで使用され得るリチウム・イオン電池などの密閉型電池では、熱暴走状態により膨張が発生する可能性があり、その結果、密閉型電池が爆発し、危険な電解質ガスが周囲環境に放出されるか又は火災の危険が生じる恐れがある。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、オフ・ガス事象(OGE)又は熱流出事象(TRE)を非OGE干渉ガス放出と区別するよう先験的に事前訓練されたガス・センサによって、ガス供給源を有する閉鎖型システム内の放出されたガスを監視及び分類するためのシステム並びに方法に関する。事前訓練は、機械学習(ML:machine learning)アルゴリズム又は深層学習(DL:Deep Learning)アルゴリズムのうちの一方を利用して、複数の既知のガス検体を検出してそれぞれの固有の特性を有するセンサ信号を生成し、センサ信号から特徴を抽出して、非OGEタイプの干渉ガス放出からのOGE又はTREの偽陽性放出の決定境界又は推定確率を確立するように、ガス・センサを事前訓練する。確立された決定境界又は推定確率は、放出されたガスをOGE又はTREのうちの一方又は両方であると分類して非OGEタイプの干渉ガス放出と区別するための現場配備用の候補モデルとして実装され得る。
【0006】
ガス供給源を有する閉鎖型システム内の放出されたガスを監視及び分類するための方法は、1つ又は複数の検知電極を有する少なくとも1つのガス・センサによってガス検体の放出についてガス供給源を監視するステップを含み得、少なくとも1つのガス・センサは、センサの初期の現場配備前に、機械学習(ML)アルゴリズム又は深層学習(DL)アルゴリズムのうちの一方を利用して、放出されたガス検体を、非OGE干渉ガス放出からオフ・ガス事象(OGE)又は熱暴走事象(TRE)のうちの一方又は両方を含む事象であると分類するように先験的に事前訓練されている。
【0007】
一実例では、放出されたガス検体を分類するように少なくとも1つのガス・センサを先験的に事前訓練するためのML又はDLアルゴリズムの利用は、少なくとも、(1)少なくとも1つのガス・センサの1つ又は複数の検知電極のそれぞれによって複数の既知のガス検体の一つ一つを継続時間にわたって検出して、複数の既知のガス検体の一つ一つの固有の特性を表すそれぞれのセンサ信号を生成するように、少なくとも1つのガス・センサを訓練するステップと、(2)複数の既知のガス検体の一つ一つの対応する複数の特徴を抽出するために、生成されたそれぞれのセンサ信号を継続時間にわたって前処理するステップと、(3)抽出された対応する複数の特徴を処理して、OGE及びTREのうちの一方又は両方についての偽陽性放出の決定境界を確立し、残りの一つ一つの非OGEタイプの干渉ガス放出についてそれぞれの決定境界を確立するステップと、(4)ガス供給源によって放出されたガス検体を非OGE干渉ガス放出からOGE又はTREのうちの一方又は両方であると分類するために、ML又は推定確率DLアルゴリズムを提供する事前訓練済みニューラル・ネットワークにおける確立された決定境界を、センサの現場配備後のための1つ又は複数の候補モデルとしてメモリに記憶するステップとを含み得る。
【0008】
別の実施例では、ガス供給源を有する閉鎖型システム内の放出されたガスを監視及び分類するためのシステムは、ガス供給源を有する筐体と、ガス検体の放出についてガス供給源を監視するために配備される1つ又は複数の検知電極を有する少なくとも1つのガス・センサとを含み得、少なくとも1つのガス・センサは、放出されたガス検体を、オフ・ガス事象(OGE)、干渉ガス放出事象、及び熱暴走事象(TRE)のうちの1つ又は複数を含む事象であると検出及び分類するために、プロセッサによる実行のためにメモリにプログラム・コードとして記憶された機械学習(ML)アルゴリズム又は深層学習(DL)アルゴリズムのうちの一方を利用して、配備前に先験的に事前訓練されている。
【0009】
一実例では、放出されたガス検体を分類するように少なくとも1つのガス・センサを先験的に事前訓練するためのML又はDLアルゴリズムの利用は、プロセッサに、(1)少なくとも1つのガス・センサの1つ又は複数の検知電極のそれぞれによって複数の既知のガス検体の一つ一つを継続時間にわたって検出して、複数の既知のガス検体の一つ一つの固有の特性を表すそれぞれのセンサ信号を生成すること、(2)複数の既知のガス検体の一つ一つの対応する複数の特徴を抽出するために、生成されたそれぞれのセンサ信号を継続時間にわたって前処理すること、(3)抽出された対応する複数の特徴を処理して、OGE及びTREのうちの一方又は両方についての偽陽性放出の決定境界を確立し、複数の既知のガス検体から残りの一つ一つの非OGEタイプの干渉ガスについてそれぞれの決定境界を確立すること、並びに(4)ガス供給源によって放出されたガス検体をOGE、干渉ガス事象、及びTREのうちの1つ又は複数であると分類するために、ML又はDLアルゴリズムにおける確立された決定境界を、センサの現場配備後のための1つ又は複数の候補モデルとしてメモリに記憶することを実行するように、センサの初期の現場配備前に少なくとも1つのガス・センサを事前訓練させる。
【0010】
オフ・ガス事象(OGE)又は熱流出事象(TRE)を非OGE干渉ガス放出と区別するよう先験的に事前訓練されたガス・センサによって、ガス供給源を有する閉鎖型システム内の放出されたガスを監視及び分類するための本開示のシステムは、機械可読命令を記憶するための非一過性メモリとして実装され得る。プロセッサは、非一過性メモリにアクセスし、機械上で機械可読命令を実行して、1つ又は複数の検知電極を有する少なくとも1つのガス・センサによってガス検体の放出についてガス供給源を監視することを含むステップを実行し得、少なくとも1つのガス・センサは、センサの初期の現場配備前に、機械学習(ML)アルゴリズム又は深層学習(DL)アルゴリズムのうちの一方を利用して、放出されたガス検体を、非OGE干渉ガス放出からオフ・ガス事象(OGE)又は熱暴走事象(TRE)のうちの一方又は両方を含む事象であると分類するように先験的に事前訓練されている。
【0011】
一実例では、機械可読命令が、ML又はDLアルゴリズムを利用して、放出されたガス検体を分類するように少なくとも1つのガス・センサを先験的に事前訓練し得ることは、少なくとも、(1)少なくとも1つのガス・センサの1つ又は複数の検知電極のそれぞれによって複数の既知のガス検体の一つ一つを継続時間にわたって検出して、複数の既知のガス検体の一つ一つの固有の特性を表すそれぞれのセンサ信号を生成するように、少なくとも1つのガス・センサを訓練するステップと、(2)複数の既知のガス検体の一つ一つの対応する複数の特徴を抽出するために、生成されたそれぞれのセンサ信号を継続時間にわたって前処理するステップと、(3)抽出された対応する複数の特徴を処理して、OGE及びTREのうちの一方又は両方についての偽陽性放出の決定境界を確立し、残りの一つ一つの非OGEタイプの干渉ガス放出についてそれぞれの決定境界を確立するステップと、(4)ガス供給源によって放出されたガス検体を非OGE干渉ガス放出からOGE又はTREのうちの一方又は両方であると分類するために、ML又はDLアルゴリズムにおける確立された決定境界を、センサの現場配備後のための1つ又は複数の候補モデルとしてメモリに記憶するステップとを含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】オフ・ガス事象(OGE)を監視するためのシステム100の一実例を示す図である。
図2】オフ・ガス事象(OGE)、熱暴走事象(TRE)、及び干渉(非OGE)ガス事象を含む事象の監視並びに検出をシミュレートするガス・センサの等価電気回路モデルの一実例を示す図である。
図3A図2に示すガス・センサの等価電気回路モデルからML特徴として抽出されるインピーダンス及び静電容量の変化として示されるオフ・ガス事象を示す図である。
図3B図2に示すガス・センサの等価電気回路モデルからML特徴として抽出されるインピーダンス及び静電容量の変化として示される別個のオフ・ガス事象を示す図である。
図4】OGEガス供給源からの単一電極ガス・センサに対するOGEの一実例を示す図である。
図5】既存のアルゴリズムを用いた単一電極ガス・センサに対する干渉ガス供給源からの偽陽性検出の一実例を示す図である。
図6】OGEガス供給源からの少なくとも1つの電極のガス・センサに対するOGEの一実例を示す図である。
図7】非OGEガス供給源からの少なくとも1つの電極のガス・センサに対する干渉ガス事象の一実例を示す図である。
図8】機械学習(ML)分類設計プロセスの一実例を示す図である。
図9】真のOGEを偽のOGEから分離する決定境界の一実例を示す図であり、この決定境界は、訓練済みMLアルゴリズムにおいて抽出された特徴によって確立される。
図10】MLアルゴリズムを用いて訓練された決定境界における真のオフ・ガス事象及び偽のオフ・ガス事象並びに他のガスの選択性の一実例を示す図である。
図11A】機械学習(ML)又は深層学習(DL)アルゴリズムを適用する例示的なガス・センサ事前訓練の流れ図である。
図11B】機械学習(ML)又は深層学習(DL)アルゴリズムを適用する例示的なガス・センサ事前訓練の流れ図である。
図12】深層学習(DL)訓練における畳み込みニューラル・ネットワークの実装を示す図である。
図13】DL訓練における長短期記憶(LSTM:Long Short-Term Memory)ニューラル・ネットワークの実装を示す図である。
図14】時系列分類のためのDLフレームワークを示す図である。
図15】DLアルゴリズムを実行するための畳み込みニューラル・ネットワーク・アーキテクチャの一実例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、一般に、配備されたガス・センサが、ガス放出事象を検出するために現場でさらに訓練する必要も基準ガス・センサを使用する必要もないように、現場での最初の配備前に先験的に事前訓練された(すなわち、工場で事前訓練された)少なくとも1つのガス・センサによって、オフ・ガス事象(OGE)、熱暴走事象(TRE)、及び干渉(非OGE)ガス事象のうちのいずれか1つについて、ガス供給源(例えば、電池)を有する閉鎖型システムを監視するためのシステム及び方法に関する。
【0014】
耐用期間を過ぎた電池は徐々に劣化する可能性があり、その結果、容量、サイクル寿命、及び安全性が低下する恐れがある。劣化した電池は、「オフ・ガス」と呼ばれ得るガスを放出し得る。一実例では、オフ・ガスは、充電サイクル及び放電サイクルなどのサイクル状態中に電池によって放出され得る。電池の劣化の1つ又は複数の原因には、電池の不適切な使用、物理的な乱用、製造上の欠陥、極端な外部温度に対する電池の曝露、過充電、又は同類のものが含まれ得る。
【0015】
本明細書に記載のシステム及び方法は、サイクル状態中にオフ・ガス事象(OGE)を検出し、熱暴走事象(TRE)状態の早期警告を提供することができる。一実例では、早期警告は、論理信号出力、可聴警報、視覚警報、火災抑制、他のシステム及びユーザとの通信を含み得る。サイクル状態中に検出されたオフ・ガスは、電池が熱暴走の危険にさらされているという警告として解釈され得る。早期警告を提供することによって、熱暴走状態に対応して引き起こされる火災、爆発、及び怪我を大幅に軽減することができる。さらに、本明細書に記載のシステム及び方法は、オフ・ガス状態について任意のタイプの電池を監視するように構成され得る。したがって、本明細書に記載のシステム及び方法は、リチウム・イオン電池、鉛酸電池を監視するために使用され得る。より広範な用途では、本明細書に記載のシステム及び方法は、原子炉環境、油井若しくはガス井の掘削プラットフォーム、石炭ガス火力発電機、又は同類のものなどにおいて可燃性ガス又は有毒ガスのガス漏れを検出するための、ガス供給源を有する任意の閉鎖型システムに適用可能であり得る。
【0016】
「オフ・ガス」、「放出されたガス」、及び「ガス検体」という用語は、本明細書では交換可能に使用され得、電池などのガス供給源の化学反応のガス副産物を指す。オフ・ガス(すなわち、「放出されたガス」及び「ガス検体」)は、揮発性電解質溶媒、電池の電解質混合物の揮発性成分、又は同類のものなどの電解質ガスを含むことができる。揮発性電解質又はオフ・ガス検体種には、少なくとも次の可燃性ガス又は有毒ガス、すなわち、リチウム・イオン電池のオフ・ガス、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸メチル・エチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ビニレン、二酸化炭素、一酸化炭素、炭化水素、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、プロパン、ベンゼン、トルエン、水素、酸素、窒素酸化物、揮発性有機化合物、有毒ガス、塩化水素、フッ化水素、硫化水素、硫黄酸化物、アンモニア、及び塩素、又は同類のものが含まれ得る。加えて、「電極」及び「パッド」という用語は、導電性端子を意味するように交換可能に使用され得る。
【0017】
さらに、本明細書に記載のシステム及び方法は、複数の電池筐体を有するように構成され得る。したがって、本明細書に記載のシステム及び方法は、電池筐体内に配置された1つ又は複数の電池によって放出されるガス検体(「オフ・ガス」)を監視するために使用され得る。本明細書で使用される「電池筐体」という用語は、1つ又は複数の電池を部分的に封入することができる任意のハウジングを指す。一実例では、電池筐体は、通気型及び非通気型の電池筐体を含むことができる。通気型電池筐体は、吸気及び排気を含むことができる換気システムを含むことができる。さらに別の一実例では、電池筐体は、電池輸送コンテナを含むことができる。
【0018】
さらに、本明細書で使用される「プロセッサ」という用語は、コンピュータ、コントローラ、集積回路(IC:integrated circuit)、マイクロチップ、又はロジックを実装することが可能な任意の他のデバイスなど、機械可読命令を実行することが可能な任意のデバイスを指すことができる。本明細書で使用される「メモリ」という用語は、揮発性メモリ(例えば、ランダム・アクセス・メモリ)、不揮発性メモリ(例えば、ハード・ディスク・ドライブ、ソリッド・ステート・ドライブ、フラッシュ・メモリ、若しくは同類のもの)又はそれらの組合せなど、非一過性コンピュータ記憶媒体を指すことができる。
【0019】
図1は、オフ・ガス事象(OGE)を監視するためのシステム100の一実例を示す。システム100は、電池102などの少なくともガス供給源と、電池102からのガス検体102aの放出を監視するために配備された少なくともガス・センサ104とを含む。電池102は、筐体を有する(すなわち、保護ケースで封入された)リチウム・イオン電池であり得る。一実施例では、ガス・センサ104は、半導体タイプのガス・センサ、又は電池102から放出されるガス検体102a(例えば、化学蒸気)を検出する任意の好適なガス・センサであり得る。
【0020】
ほとんどの他のシステムとは異なり、配備されたガス・センサ104により、電池102内のオフ・ガス事象(OGE)の検出のためにシステム100内で別個の基準センサを使用してリアルタイムのセンサ信号104aから移動平均を算出する必要がなくなる。実装において、ガス・センサ104は、1つ又は複数の検知電極104bを有し、且つ、メモリ108に記憶された機械学習(ML)又は深層学習(DL)アルゴリズム108a(プログラム・コード)のうちの一方を使用して(例えば、製造中に)先験的に事前訓練されたセンサとすることができ、機械学習(ML)又は深層学習(DL)アルゴリズム108aは、プロセッサ106によって実行されて、ガス・センサ104が、任意の放出されたガス検体102aを、オフ・ガス事象(OGE)、熱暴走事象(TRE)、及び干渉ガス放出事象(すなわち、非OGE)のうちの1つ又は複数を含む事象としてリアルタイムで検出及び分類することを可能にする。一実例では、ガス・センサ104、プロセッサ106、及びメモリ108は、ASIC半導体チップなどの統合チップ101であり得る。他の実例では、ガス・センサ104、プロセッサ106、及びメモリ108はそれぞれ、配線ハーネスを介して電気的に接続された又はプリント回路基板(PCB:printed circuit board)に取り付けられた別個の構成要素であり得る。
【0021】
事前訓練済みのガス・センサ104は、基準ガス・センサの必要性も、一旦現場に配備されたガス・センサ104を再訓練する必要性もなしに、ガス・センサ104によって検出されたセンサ信号104aをOGE及びTREのうちの一方であるとして非OGE干渉ガスと区別するために、ML又はDLアルゴリズム108aを候補モデルとしてメモリ108に記憶し得る。
【0022】
アルゴリズム108aの機械学習及び訓練のステップは、システム100におけるセンサ104の物理的な試運転又は設置前に、製造プロセス中に工場において先験的に又は任意の時にオフラインで実行され得る。センサ104がシステム100で試運転されると、リアルタイムの適応は必要なくなる。さらに代替として、別の任意選択では、ML又はDLアルゴリズム108aは、事前に再訓練されていない又はデータベースにリストされていなかった他のガス検体との新たな遭遇を学習するように、センサ104によって再訓練又は更新され得る。ML又はDLアルゴリズムを使用したこの事前訓練の目的は、OGEを検出することだけでなく、さらに、センサ104によって検出された他のガス供給源を識別できるようにして、基準センサを不要にすることである。
【0023】
一実例では、少なくとも1つのガス・センサ104上でML又はDLアルゴリズム108aを利用して先験的に事前訓練することは、少なくとも、(1)少なくとも1つのガス・センサ104の1つ又は複数の検知電極104bのそれぞれによって複数の既知のガス検体(すなわち、訓練用のガス)の一つ一つを継続時間にわたって検出して、データベースを確立するために複数の既知のガス検体の一つ一つの固有の特性を表すそれぞれのセンサ信号104aを生成するように、少なくとも1つのガス・センサを訓練するステップと、(2)複数の既知のガス検体102aの一つ一つの対応する複数の特徴(例えば、インピーダンス及び静電容量、図3A図3Bから図7を参照)を抽出するために、生成されたそれぞれのセンサ信号104aを継続時間にわたって前処理するステップと、(3)抽出された対応する複数の特徴を処理して、OGE及びTREのうちの一方又は両方についての偽陽性放出の決定境界(図9及び図10を参照)を確立し、残りの一つ一つの非OGEタイプの干渉ガス放出についてそれぞれの決定境界を確立するステップと、(4)ガス供給源(例えば、電池102)によって放出されたガス検体102aを非OGE干渉ガス放出からOGE又はTREのうちの一方又は両方であると分類するために、ML又はDLアルゴリズム(108a)における確立された決定境界を、センサの現場配備後のための1つ又は複数の候補モデルとしてメモリに記憶するステップとを含み得る。システム100に事故又は損傷を引き起こさないよう予防策を講じるように警告するため又は画面上に表示するために、アラート警報又は論理信号などの出力信号110が送信され得る。
【0024】
一実例では、ガス供給源は、再充電可能なリチウム・イオン電池システム又は電気エネルギー貯蔵システム102とすることができ、OGE又はTREにおいて放出されるガス検体は、少なくとも次の可燃性ガス又は有毒ガス、すなわち、いくつか例を挙げると、リチウム・イオン電池のオフ・ガス、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸メチル・エチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ビニレン、二酸化炭素、一酸化炭素、炭化水素、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、プロパン、ベンゼン、トルエン、水素、酸素、窒素酸化物、揮発性有機化合物、有毒ガス、塩化水素、フッ化水素、硫化水素、硫黄酸化物、アンモニア、及び塩素のうちの1つ又は組合せであり得る。
【0025】
実際には、事前訓練中のML又はDL学習法は、図2に示すようなセンサ104の等価回路モデル200に基づき得る。説明のために、図2は、半導体ガス・センサの等価回路モデルを表し得る。しかしながら、他のガス・センサが、他の等価回路モデルを使用して、別の伝達関数で表現される場合もある。図示されたガス・センサのタイプ及び等価回路モデルの実例は限定的なものではない。
【0026】
図2の等価インピーダンス回路モデル200は、少なくとも1つのガス・センサ104の1つ又は複数の検知電極104bのそれぞれによって生成されるそれぞれのガス・センサ信号が、第2の並列抵抗器RsとコンデンサCPEsとの対206と直列にカスケード接続された第1の並列抵抗器RnとコンデンサCPEvrとの対204に基づくインピーダンス値を含み得ることを示す。等価回路モデル200における第1の並列抵抗器とコンデンサとの対204は、放出された異なる検体ガス102aの組合せに曝露され得る少なくとも1つのガス・センサ応答104aのダイナミクスをシミュレートし得る。センサ104のインピーダンス等価回路モデル200は、第1の並列抵抗器RnとコンデンサCPEvrとの対204に接触抵抗Rcを直列にカスケード接続することをさらに含む。
【0027】
出力インピーダンスR、ラプラス領域内の固定入力電圧Vを有するガス・センサ104が与えられる場合、等価回路モデル200について、次のように表現され得る対応する入力/出力伝達関数
【数1】

が展開され得、式中、Rcは接触抵抗であり、Rn及びRsは回路モデルの抵抗であり、CPEvr及びCPEsは回路モデルの利得の静電容量である。
【0028】
回路モデル200内の複数の既知のガス検体102aの一つ一つによって引き起こされる、電気要素(Rc、Rn、Rs、CPEvr、CPEs)からの経時的なインピーダンス値(すなわち、抵抗及び静電容量)の変化(図3A図3Bから図7を参照)は、検出された既知のガス検体の固有の特性又は性質を表す訓練用のセンサ信号104aとして送信され得る。ML又はDL学習法は、ガス供給源(すなわち、電池102)から放出された検出されたガス検体102aの監視及び検出をシミュレートし、したがって、ガス放出事象を、オフ・ガス事象(OGE)、熱暴走事象(TRE)、及び干渉(非OGE)ガス事象のうちの1つ又は組合せとして分類する。既知のガス検体は、少なくとも次の可燃性ガス又は有毒ガス、すなわち、いくつか例を挙げると、リチウム・イオン電池のオフ・ガス、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸メチル・エチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ビニレン、二酸化炭素、一酸化炭素、炭化水素、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、プロパン、ベンゼン、トルエン、水素、酸素、窒素酸化物、揮発性有機化合物、有毒ガス、塩化水素、フッ化水素、硫化水素、硫黄酸化物、アンモニア、及び塩素を含むがこれらに限定されない、訓練用のOGE又はTREで言及されたガスであり得る。
【0029】
一実例では、最小二乗法などの推定技法及び勾配アルゴリズムを使用する数学的表現を使用して、ガス・センサ104の等価モデル200における等価抵抗及び等価静電容量が抽出され得る。実際には、ガス検体102aの放出を検出する際の少なくとも1つのガス・センサ104のML又はDLアルゴリズム事前訓練は、温度の変化、相対湿度の変化、及び偽陽性の報告につながる環境内の酸素分圧に影響を与える他のガスのうちの1つ又は複数によって引き起こされる環境外乱によるセンサのインピーダンス変化を区別することを含み得る。
【0030】
一実例では、複数の既知のガス検体の一つ一つの対応する複数の特徴の抽出における少なくとも1つのガス・センサ104のMLアルゴリズム事前訓練(図8を参照)は、移動平均算出、ボリンジャ・バンド、最小電極インピーダンス、最大インピーダンス変化速度、少なくとも1つのガス・センサ104上の少なくとも1つの電極104bのそれぞれの最大インピーダンス回復速度、主成分分析を含む機能の組合せ(PCA:principal component analysis)、線形判別分析を含む特徴のいずれか1つ又は組合せを利用することを含み得、DLアルゴリズムは、複数の既知のガス検体の一つ一つにおける対応する複数の特徴の抽出における少なくとも1つのガス・センサのDLアルゴリズム事前訓練は、DLニューラル・ネットワークの隠れ層に内部的に含まれる(図11A図11B、及び図12を参照)。
【0031】
別の実例では、OGE又はTREについての偽陽性放出の決定境界と残りの一つ一つのタイプの非OGE干渉ガス放出についてそれぞれの決定境界との確立における少なくとも1つのガス・センサのML又はDLアルゴリズム事前訓練は、サポート・ベクタ・マシン、判別分析又は最近傍アルゴリズム、ナイーブ・ベイズ及びニューラル・ネイバ、線形回帰、GLM、サポート・ベクタ回帰、GPR、アンサンブル法、決定木、並びに畳み込みニューラル・ネットワーク(CNN)(図12)及び長短期記憶(LSTM)ネットワーク(図11A図11B)のうちの少なくとも1つを含むDLニューラル・ネットワークを含む決定方法のうちのいずれか1つを利用して、生成されたセンサ信号104aを評価することを含み得る。
【0032】
図3A及び図3Bは、受信したセンサ信号104aからの2つの別個のオフ・ガス事象を示しており、これらのオフ・ガス事象は、図2に示すようにガス・センサ104の等価電気回路モデルからML特徴として抽出される、継続時間にわたるインピーダンス及びキャパシタンスの変化(例えば、図3Aの領域320Aから領域330Aへの急激な変化、図3Bの領域320Bから330Bへの急激な変化)として示されている。これらのデータは、決定境界を確立するためのML及びDL機械学習アルゴリズムのための訓練パラメータであり得る(図9図10を参照)。
【0033】
図4は、OGEガス供給源からの単一電極ガス・センサ104に対するOGEの実例を示す。一実例では、センサ信号104aのパラメータは、少なくとも、出力信号110において警報の生成を引き起こし得る、継続時間にわたるインピーダンスの値、移動平均の値の変化を含み得る。同様に、図5は、既存のアルゴリズムを用いた単一電極ガス・センサに対する干渉ガス供給源(非OGE)からの偽陽性検出の一実例を示す。
【0034】
図6は、OGEガス供給源からの少なくとも1つの電極ガス・センサに対するOGEの一実例を示す。図7は、非OGEガス供給源からの少なくとも1つの電極ガス・センサに対する干渉ガス事象の一実例を示す。ガス・センサ内の各電極の固有の応答は、OGEとエネルギー貯蔵施設内の一般的な干渉ガスとを区別する能力をML学習アルゴリズムに提供する。
【0035】
MLアルゴリズムは、OGEの識別だけでなく、どの干渉ガスが存在するかを識別して他の診断機能を可能にする固有の選択性を有する。比較すると、実質的には、ガス・センサ104内の電極104bの数が増加すると、検出されたガス検体の識別を助けるための固有の特性又は属性(例えば、フィンガ・プリント)の数が多くなる。同様に、1つ又は複数の検知電極から抽出された特徴は、OGE、TRE、及び非OGEタイプの干渉ガス事象の偽陽性決定境界をより正確に確立する際に1つ又は複数の次元の動的応答を確立することができ、したがって、ガス検体のタイプの識別と同様に事象の分類においても、(誤差の確率を低減することによって)訓練済み候補モデルにおける信頼性及び正確度が向上する。
【0036】
図8は、機械学習(ML)分類設計プロセスの実例、すなわち、MLアルゴリズムがどのように開発され得るかを示す。事前訓練(教師あり学習)の手法は、アルゴリズム開発フェーズのデータ前処理ステップにおいてヒューリスティックなインピーダンス情報と物理ベースのインピーダンス情報との両方を使用して(ガス・センサ104からの)多くの信号特徴を組み合わせ得る。この手法は、センサ・セット製品に含まれる温度、圧力、相対湿度などの環境測定値も含み得る。例えば、信号特徴には、移動平均、ボリンジャ・バンド、最小電極インピーダンス、インピーダンス変化の最大速度、各電極のインピーダンスの最大回復速度、主成分分析(PCA)、及び線形判別分析が含まれ得る。さらに、他の技法を使用した、OGE又はTREを非OGEと区別するためのガス・センサの事前訓練(教師あり学習)には、サポート・ベクタ・マシン、判別分析又は最近傍アルゴリズム、時系列値の分布の基本統計(例えば、位置、広がり、ガウス性、外れ値の性質)、線形相関(例えば、自己相関、パワー・スペクトルの特徴)、定常性(例えば、スライディング・ウィンドウ測定、予測誤差)、情報理論及びエントロピ/複雑性などの分類技法も含まれ得るが、これらに限定されない。
【0037】
以下の表1は、複数の電極104bのそれぞれにおけるセンサ信号104aから抽出された異なる特徴のいくつかの実例を提供し、これらの特徴は、(図8及び図11A図11Bのプロセスに示すように)先験的な訓練のために且つガス検体102aをOGE、TRE、及び非OGE干渉ガス事象のうちの1つであると分類するための決定境界を確立するために、ML又はDLアルゴリズム108aにおいて利用され得る。機械学習は、教師あり学習技法であり、線形回帰、最近傍、サポート・ベクタ回帰、及びニューラル・ネットワークを訓練に利用して、現場でガス・センサ104を配備するときに使用する候補モデル854を確立し得る。
【表1】
【0038】
表1は、前のセクションで言及したガスのタイプごとに少なくとも1つの電極のそれぞれから抽出された特徴のいくつかの実例を示す。表1には、生データから抽出された様々な特徴とともに変換済みデータが一覧表示されており、これらのデータは、最適化プロセスを使用して候補モデルを作成するために使用され、最適化プロセスでは、フィッティング・データを使用するなどしてモデル・パラメータを検索し、フィッティングに使用されていないテスト・データを使用してモデル・パラメータを評価し、最適な性能が達成され得るまで候補モデルを調整する。深層学習における特徴抽出は、ニューラル・ネットワークの内部に組み込むことができ(図11A図11B図12図13、並びに図14A及び図14Bを参照)、分類前に実行される必要はない。
【0039】
別の実例では、事前訓練プロセスの一部として、既知のガス検体から抽出された特徴を使用して、検出されたガス検体組成物中の各識別されたガス検体の概算の百分率%又は百万分率ppmを十分に定量化するようにML又はDLアルゴリズムを訓練することができ、これは、OGE、TRE、及び非OGEのうちの1つ又は組合せをガス供給源からの干渉ガス放出として分類することを支援するのに有用であり得る。以下の表2は、検出されたガス検体組成物のいくつかの実例を示し得る。
【表2】
【0040】
図9は、真のOGE910を偽のOGE920から分離する決定境界930の実例を示し、この決定境界は、過去の継続時間にわたって訓練済みMLアルゴリズム108aにおいて抽出された特徴によって確立される。領域910内はOGEが検出されたことを意味し、領域920内は非OGEを意味する。実際には、決定境界930は、時系列データに基づいて高次元(すなわち、3次元よりもはるかに高い次元)になるため、図9及び図10に示す実例によってすべての決定境界プロットを描写することはほとんど不可能になる。
【0041】
図10は、MLアルゴリズム108aによって訓練された決定境界1030における真のOGE1010及び偽のOGE並びに他のガス(1021~1029)の選択性の実例を示す。図8が、プロット内の他の抽出された特徴に対応するいくつかの次元の複合を示し、検出された可能な限りの干渉ガスごとに異なる決定境界を示し得ることを除いて、ML又はDLアルゴリズム108aは、図8に示すものと同様のプロセス又は技法を使用して決定境界を訓練するという同じ考え方を使用した選択性アルゴリズムを含み得る。両方の技法(すなわち、複合次元)を使用することの背景にある考え方は、偽陽性をより簡単に検出できるようにするとともに、どのガスが検出されているかを識別することによってユーザに何らかの診断情報を提供することである。異なる領域(1021~1029)は、異なるタイプの干渉ガスが事前訓練済みガス・センサ104を通じてどのように検出され得るかを示す。図10は、ML又はDLアルゴリズムが偽陽性干渉ガスを識別できるようにする決定境界を含む、真のOGE領域1010対いくつかの偽陽性(非OGE)領域(1021~1029)の両方を示す。
【0042】
図11A及び図11Bは、機械学習(ML)アルゴリズムを利用して、複数の既知のガス検体によってガス・センサ104を事前訓練するための例示的な流れ図を示す。例えば、ステップ1102において、既知のガス検体ごとに、ガス・センサ104の多電極104bから抵抗及び静電容量などの生信号104aが生成され、ステップ1104における特徴抽出(例えば、継続時間にわたるインピーダンス又は伝達関数の変化)のためにプロセッサに送信され得る。特徴抽出ステップ1104は、時間領域アナログ信号を周波数領域信号に変換するための時間周波数変換(離散コサイン変換DCT又は離散フーリエ変換DFTなど)を含み得る。ステップ1106において、抽出された特徴は、適宜に体系化され得る。ステップ1108において、体系化されたデータに機械学習(ML)アルゴリズムを適用して、候補モデル1110(多次元決定境界構築など)を確立する。複数の既知のガス検体の残りについてステップ1102からステップ1110を繰り返すことによって、候補モデル1110を、データベースを確立する又は複合決定境界プロットを構築するように更新して(ステップ1111を参照)、MLアルゴリズム108aの訓練を完了し、MLアルゴリズム108aは、プロセッサ106によって実行されるためにメモリ108に記憶される。図11Bは、図11AのML学習ステップ1108の詳細を示す。より具体的には、ステップ1108は、訓練ステップ1108aから1108nを繰り返すことによって達成され得る。訓練ステップのそれぞれ(例えば、1108a)は、畳み込み演算、整流線形ユニット(ReLU:rectified linear unit)演算、及びプーリング演算の演算を逐次的に実行することを含み得る。配備モデル1112は、多電極ガス・センサ104と連動してガス検体分類を実行する場合の、現場対応のMLアルゴリズムとなる。
【0043】
同様に、これらの所望の分類は、図12及び図13に示すような事前訓練済みの畳み込みニューラル・ネットワーク(例えば、畳み込みニューラル・ネットワークCNN及び長短期記憶(LSTM))及び自動信号特徴抽出を利用して、図11A図11Bに示すように深層学習(DL)アルゴリズムによって実現され得る。
【0044】
図14は、時系列分類のためのDLフレームワークの一実例を示す。図15は、抽出された特徴を使用してDLアルゴリズム事前訓練を実行するための畳み込みニューラル・ネットワーク・アーキテクチャの一実例を示す。深層学習(DL)アルゴリズムは、非線形関数を実装する複数の層(図14図15を参照)から構成され得る。各層は、前の層の出力から入力として受け取り、その出力を計算する非線形変換(すなわち、逐次パイプライン処理技法)を適用する。これらの非線形変換は、フィッティング・プロセスにおいて訓練可能なパラメータによって決定され得る。実装され得るいくつかの深層学習アーキテクチャには、畳み込みニューラル・ネットワーク(図11Bを参照)、インセプション・タイム、及びエコー状態ネットワークが含まれ得る。
【0045】
本明細書では上記の特定の実例を図示及び説明しているが、特許請求される主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく他の様々な変更及び修正を加えることができることを理解されたい。さらに、本明細書では特許請求される主題の様々な態様を説明してきたが、そのような態様を組み合わせて利用する必要はない。したがって、添付の特許請求の範囲は、特許請求される主題の範囲内にあるすべてのそのような変更及び修正を包含することが意図されている。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15