(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】地上設備
(51)【国際特許分類】
B64G 3/00 20060101AFI20241004BHJP
B64G 1/62 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B64G3/00
B64G1/62
(21)【出願番号】P 2023073972
(22)【出願日】2023-04-28
(62)【分割の表示】P 2022501890の分割
【原出願日】2021-02-16
【審査請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2020024455
(32)【優先日】2020-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002491
【氏名又は名称】弁理士法人クロスボーダー特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】迎 久幸
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-066175(JP,A)
【文献】特開平02-296598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/26
B64G 1/62
B64G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進装置を具備する人工衛星を制御する地上設備において、
前記人工衛星の残存推薬量を監視し、前記残存推薬量が計画よりも減損した場合に、前記人工衛星の軌道上での現在までの運用年数Lx
であって前記人工衛星の衛星設計寿命より短期間のLx年と、現時点での
前記残存推薬量
とに基づいて、現時点での
前記残存推薬量が現時点からLx年未満で大気圏突入に要する
必要最低限の推薬量かを算出し、現時点
での前記残存推薬量が必要最低限の推薬量の場合に、前記人工衛星の軌道上運用
を終了
すると判定する地上設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、人工衛星、推薬管理方法、地上設備、および、管理事業装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、数百から数千機に及ぶ大規模衛星コンステレーション、所謂メガコンステレーションの構築が始まり、軌道上における衛星の衝突のリスクが高まっている。また、故障により制御不能となった衛星、あるいは、ロケットの残骸といったスペースデブリが増加している。
このような宇宙空間における衛星およびスペースデブリといった宇宙物体の急激な増加に伴い、宇宙交通管制(STM)では、宇宙物体の衝突を回避するための国際的なルール作りの必要性が高まっている。
【0003】
特許文献1には、同一の円軌道に複数の衛星から成る衛星コンステレーションを形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来では、メガコンステレーションを構成する衛星が、軌道上におけるミッションを終了し、宇宙空間に大量に滞留する虞がある。
しかしながら、特許文献1には、メガコンステレーションを構成する衛星が、ミッションを終了した後に、宇宙空間に大量に滞留することを防ぐ方式については記載されていない。
【0006】
本開示は、推薬量が計画よりも減損した場合に軌道上物体数が増え続けてしまうリスクを解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る地上設備は、
推進装置を具備する人工衛星を制御する地上設備において、
前記人工衛星の軌道上での現在までの運用年数Lxと現時点での推薬量とに基づいて、現時点での推薬量が現時点からLx年未満で大気圏突入に要する推薬量かを算出し、現時点からLx年未満で大気圏突入に要する推薬量に基づいて、人工衛星の軌道上運用の終了を判定する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る地上設備によれば、推薬量が計画よりも減損した場合に軌道上物体数が増え続けてしまうリスクを解消することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】複数衛星が連携して地球の全球に亘り通信サービスを実現する例。
【
図2】単一軌道面の複数衛星が地球観測サービスを実現する例。
【
図3】極域近傍で交差する複数の軌道面を有する衛星コンステレーションの例。
【
図4】極域以外で交差する複数の軌道面を有する衛星コンステレーションの例。
【
図5】衛星コンステレーション形成システムの構成図。
【
図6】衛星コンステレーション形成システムの衛星の構成図。
【
図7】衛星コンステレーション形成システムの地上設備の構成図。
【
図8】衛星コンステレーション形成システムの機能構成例。
【
図9】実施の形態1の比較例であるメガコンステレーションの打ち上げによる宇宙物体数の推移を示す図。
【
図10】実施の形態1に係る衛星における推薬量と打ち上げ後経過年数の関係を示す図。
【
図11】実施の形態1に係る衛星により構成されたメガコンステレーションの打ち上げによる宇宙物体数の推移を示す図。
【
図12】実施の形態1に係るデオービット期間を短縮する方法を示す図。
【
図13】実施の形態1の変形例に係る地上設備700の構成図。
【
図14】実施の形態2に係る衛星における推薬量と打ち上げ後経過年数の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について、図を用いて説明する。なお、各図中、同一または相当する部分には、同一符号を付している。実施の形態の説明において、同一または相当する部分については、説明を適宜省略または簡略化する。また、以下の図面では各構成の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。また、実施の形態の説明において、「上」、「下」、「左」、「右」、「前」、「後」、「表」、「裏」といった方向あるいは位置が示されている場合がある。それらの表記は、説明の便宜上、そのように記載しているだけであって、装置、器具、あるいは部品といった構成の配置および向きを限定するものではない。
【0011】
実施の形態1.
以下の実施の形態に係る宇宙交通管理システムの前提となる衛星コンステレーションの例について説明する。
【0012】
図1は、地上に対し、複数衛星が連携して地球70の全球に亘り通信サービスを実現する例を示す図である。
図1は、全球に亘り通信サービスを実現する衛星コンステレーション20を示している。
同一軌道面を同一高度で飛行している複数の衛星の各衛星では、地上に対する通信サービス範囲が後続衛星の通信サービス範囲とオーバーラップしている。よって、このような複数の衛星によれば、地上の特定地点に対して、同一軌道面上の複数の衛星が時分割的に交互に交代しながら通信サービスを提供することができる。また、隣接軌道面を設けることにより、隣接軌道間の地上に対する通信サービスを面的に網羅することが可能となる。同様に、地球の周りに多数の軌道面を概ね均等配置すれば、全球に亘り地上に対する通信サービスが可能となる。
【0013】
図2は、単一軌道面の複数衛星が地球観測サービスを実現する例を示す図である。
図2は、地球観測サービスを実現する衛星コンステレーション20を示している。
図2の衛星コンステレーション20は、光学センサあるいは合成開口レーダーといった電波センサである地球観測装置を具備した衛星が同一軌道面を同一高度で飛行する。このように、地上の撮像範囲が時間遅れで後続衛星がオーバーラップする衛星群300では、地上の特定地点に対して軌道上複数の衛星が時分割的に交互に交代しながら地上画像を撮像することにより地球観測サービスを提供する。
【0014】
このように、衛星コンステレーション20は、各軌道面の複数の衛星からなる衛星群300により構成される。衛星コンステレーション20では、衛星群300が連携してサービスを提供する。衛星コンステレーション20とは、具体的には、
図1に示すような通信事業サービス会社、あるいは、
図2に示すような観測事業サービス会社による1つの衛星群から成る衛星コンステレーションを指す。
【0015】
図3は、極域近傍で交差する複数の軌道面21を有する衛星コンステレーション20の例である。また、
図4は、極域以外で交差する複数の軌道面21を有する衛星コンステレーション20の例である。
図3の衛星コンステレーション20では、複数の軌道面の各軌道面21の軌道傾斜角が約90度であり、かつ、複数の軌道面の各軌道面21が互いに異なる面に存在する。
図4の衛星コンステレーション20では、複数の軌道面の各軌道面21の軌道傾斜角が約90度ではなく、かつ、複数の軌道面の各軌道面21が互いに異なる面に存在する。
【0016】
図3の衛星コンステレーション20では、任意の2つの軌道面が極域近傍の地点で交差する。また、
図4の衛星コンステレーション20では、任意の2つの軌道面が極域以外の地点で交差する。
図3では、極域近傍において、衛星30の衝突が発生する可能性がある。また、
図4に示すように、軌道傾斜角が90度よりも傾斜している複数の軌道面の交点は軌道傾斜角に応じて極域から離れていく。また、軌道面の組合せによって赤道近傍を含む多様な位置で軌道面が交差する可能性がある。このため、衛星30の衝突が発生する可能性のある場所が多様化する。衛星30は人工衛星の例であり、本実施の形態において衛星を人工衛星と読み替えてもよい。
例えば、衛星30は、100機以上の人工衛星から構成された衛星コンステレーションであるメガコンステレーションを構成する。
【0017】
ここで、
図5から
図8を用いて衛星コンステレーション20を形成する衛星コンステレーション形成システム600における衛星30と地上設備700の一例について説明する。例えば、衛星コンステレーション形成システム600は、メガコンステレーション事業装置、LEOコンステレーション事業装置、あるいは衛星事業装置のような衛星コンステレーション事業を行う事業者により運用される管理事業装置40である。LEOは、Low Earth Orbitの略語である。
【0018】
***構成の説明***
図5は、本実施の形態に係る衛星30から構成されるメガコンステレーションを形成する衛星コンステレーション形成システム600の構成図である。
衛星コンステレーション形成システム600は、コンピュータを備える。
図5では、1つのコンピュータの構成を示しているが、実際には、衛星コンステレーション20を構成する複数の衛星の各衛星30、および、衛星30と通信する地上設備700の各々にコンピュータが備えられる。そして、複数の衛星の各衛星30、および、衛星30と通信する地上設備700の各々に備えられたコンピュータが連携して、衛星コンステレーション形成システム600の機能を実現する。以下において、衛星コンステレーション形成システム600の機能を実現するコンピュータの構成の一例について説明する。
【0019】
衛星コンステレーション形成システム600は、衛星30と地上設備700を備える。衛星30は、地上設備700の通信装置950と通信する衛星通信装置32を備える。
図5では、衛星30が備える構成のうち衛星通信装置32を図示している。
【0020】
衛星コンステレーション形成システム600は、プロセッサ910を備えるとともに、メモリ921、補助記憶装置922、入力インタフェース930、出力インタフェース940、および通信装置950といった他のハードウェアを備える。プロセッサ910は、信号線を介して他のハードウェアと接続され、これら他のハードウェアを制御する。衛星コンステレーション形成システム600のハードウェアについては、
図8において後述する地上設備700のハードウェアと同様である。
【0021】
衛星コンステレーション形成システム600は、機能要素として、衛星コンステレーション形成部11を備える。衛星コンステレーション形成部11の機能は、ハードウェアあるいはソフトウェアにより実現される。
衛星コンステレーション形成部11は、衛星30と通信しながら衛星コンステレーション20の形成を制御する。
【0022】
図6は、本実施の形態に係る衛星30の構成図である。
衛星30は、衛星制御装置31と衛星通信装置32と推進装置33と姿勢制御装置34と電源装置35とを備える。その他、各種の機能を実現する構成要素を備えるが、
図6では、衛星制御装置31と衛星通信装置32と推進装置33と姿勢制御装置34と電源装置35について説明する。衛星30は、宇宙物体60の一例である。
【0023】
衛星制御装置31は、推進装置33と姿勢制御装置34とを制御するコンピュータであり、処理回路を備える。具体的には、衛星制御装置31は、地上設備700から送信される各種コマンドにしたがって、推進装置33と姿勢制御装置34とを制御する。
衛星通信装置32は、地上設備700と通信する装置である。具体的には、衛星通信装置32は、自衛星に関する各種データを地上設備700へ送信する。また、衛星通信装置32は、地上設備700から送信される各種コマンドを受信する。
【0024】
推進装置33は、衛星30に推進力を与える装置であり、衛星30の速度を変化させる。具体的には、推進装置33は、化学推進装置、または電気推進装置である。
化学推進装置は、一液性ないし二液性燃料を用いたスラスタである。電気推進装置としては、イオンエンジンまたはホールスラスタである。
【0025】
姿勢制御装置34は、衛星30の姿勢と衛星30の角速度と視線方向(Line Of Sight)といった姿勢要素を制御するための装置である。姿勢制御装置34は、各姿勢要素を所望の方向に変化させる。もしくは、姿勢制御装置34は、各姿勢要素を所望の方向に維持する。姿勢制御装置34は、姿勢センサとアクチュエータとコントローラとを備える。姿勢センサは、ジャイロスコープ、地球センサ、太陽センサ、スター・トラッカ、スラスタおよび磁気センサといった装置である。アクチュエータは、姿勢制御スラスタ、モーメンタムホイール、リアクションホイールおよびコントロール・モーメント・ジャイロといった装置である。コントローラは、姿勢センサの計測データまたは地上設備700からの各種コマンドにしたがって、アクチュエータを制御する。
電源装置35は、太陽電池、バッテリおよび電力制御装置といった機器を備え、衛星30に搭載される各機器に電力を供給する。
【0026】
衛星制御装置31に備わる処理回路について説明する。
処理回路は、専用のハードウェアであってもよいし、メモリに格納されるプログラムを実行するプロセッサであってもよい。
処理回路において、一部の機能が専用のハードウェアで実現されて、残りの機能がソフトウェアまたはファームウェアで実現されてもよい。つまり、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアまたはこれらの組み合わせで実現することができる。
専用のハードウェアは、具体的には、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGAまたはこれらの組み合わせである。
ASICは、Application Specific Integrated Circuitの略称である。FPGAは、Field Programmable Gate Arrayの略称である。
【0027】
本実施の形態に係る衛星30は、推進装置33に用いられる推薬であって、衛星30が衛星設計寿命である第1期間年の軌道上運用後に、軌道離脱してから第1期間年未満の期間で大気圏突入するために必要な量の推薬を保有する。
また、本実施の形態の推薬管理方法は、衛星30が、推進装置33に用いられる推薬であって、衛星30が衛星設計寿命である第1期間年の軌道上運用後に、軌道離脱してから第1期間年未満の期間で大気圏突入するために必要な量の推薬を保有する方法である。
なお、衛星設計寿命とは、衛星が軌道上で運用可能な期間であり、衛星軌道上寿命、あるいは単に設計寿命ともいう。
【0028】
図7は、衛星コンステレーション形成システム600が備える地上設備700の構成図である。
地上設備700は、全ての軌道面の多数衛星をプログラム制御する。地上設備700は、地上装置の例である。地上装置は、地上アンテナ装置、地上アンテナ装置に接続された通信装置、あるいは電子計算機といった地上局と、地上局にネットワークで接続されたサーバあるいは端末としての地上設備から構成される。また、地上装置には航空機、自走車両、あるいは移動端末といった移動体に搭載された通信装置を含んでも良い。
【0029】
地上設備700は、各衛星30と通信することによって衛星コンステレーション20を形成する。地上設備700は、プロセッサ910を備えるとともに、メモリ921、補助記憶装置922、入力インタフェース930、出力インタフェース940、および通信装置950といった他のハードウェアを備える。プロセッサ910は、信号線を介して他のハードウェアと接続され、これら他のハードウェアを制御する。地上設備700のハードウェアについては、
図8において後述する。
【0030】
地上設備700は、機能要素として、軌道制御コマンド生成部510と、解析予測部520を備える。軌道制御コマンド生成部510および解析予測部520の機能は、ハードウェアあるいはソフトウェアにより実現される。
【0031】
通信装置950は、衛星コンステレーション20を構成する衛星群300の各衛星30を追跡管制する信号を送受信する。また、通信装置950は、軌道制御コマンド55を各衛星30に送信する。
解析予測部520は、衛星30の軌道を解析予測する。
軌道制御コマンド生成部510は、衛星30に送信する軌道制御コマンド55を生成する。
軌道制御コマンド生成部510および解析予測部520は、衛星コンステレーション形成部11の機能を実現する。すなわち、軌道制御コマンド生成部510および解析予測部520は、衛星コンステレーション形成部11の例である。
【0032】
図8は、衛星コンステレーション形成システム600の機能構成例を示す図である。
衛星30は、さらに、衛星コンステレーション20を形成する衛星コンステレーション形成部11bを備える。そして、複数の衛星の各衛星30の衛星コンステレーション形成部11bと、地上設備700の各々に備えられた衛星コンステレーション形成部11とが連携して、衛星コンステレーション形成システム600の機能を実現する。なお、衛星30の衛星コンステレーション形成部11bは、衛星制御装置31に備えられていてもよい。
【0033】
地上設備700は、プロセッサ910を備えるとともに、メモリ921、補助記憶装置922、入力インタフェース930、出力インタフェース940、および通信装置950といった他のハードウェアを備える。プロセッサ910は、信号線を介して他のハードウェアと接続され、これら他のハードウェアを制御する。
【0034】
プロセッサ910は、衛星30を制御する衛星制御プログラムを実行する装置である。衛星制御プログラムは、地上設備700の各構成要素の機能を実現するプログラムである。
プロセッサ910は、演算処理を行うIC(Integrated Circuit)である。プロセッサ910の具体例は、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)である。
【0035】
メモリ921は、データを一時的に記憶する記憶装置である。メモリ921の具体例は、SRAM(Static Random Access Memory)、あるいはDRAM(Dynamic Random Access Memory)である。
補助記憶装置922は、データを保管する記憶装置である。補助記憶装置922の具体例は、HDDである。また、補助記憶装置922は、SD(登録商標)メモリカード、CF、NANDフラッシュ、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ブルーレイ(登録商標)ディスク、DVDといった可搬の記憶媒体であってもよい。なお、HDDは、Hard Disk Driveの略語である。SD(登録商標)は、Secure Digitalの略語である。CFは、CompactFlash(登録商標)の略語である。DVDは、Digital Versatile Diskの略語である。
【0036】
入力インタフェース930は、マウス、キーボード、あるいはタッチパネルといった入力装置と接続されるポートである。入力インタフェース930は、具体的には、USB(Universal Serial Bus)端子である。なお、入力インタフェース930は、LAN(Local Area Network)と接続されるポートであってもよい。
出力インタフェース940は、ディスプレイといった表示機器941のケーブルが接続されるポートである。出力インタフェース940は、具体的には、USB端子またはHDMI(登録商標)(High Definition Multimedia Interface)端子である。ディスプレイは、具体的には、LCD(Liquid Crystal Display)である。
【0037】
通信装置950は、レシーバとトランスミッタを有する。通信装置950は、具体的には、通信チップまたはNIC(Network Interface Card)である。
【0038】
衛星制御プログラムは、プロセッサ910に読み込まれ、プロセッサ910によって実行される。メモリ921には、衛星制御プログラムだけでなく、OS(Operating System)も記憶されている。プロセッサ910は、OSを実行しながら、衛星制御プログラムを実行する。衛星制御プログラムおよびOSは、補助記憶装置922に記憶されていてもよい。補助記憶装置922に記憶されている衛星制御プログラムおよびOSは、メモリ921にロードされ、プロセッサ910によって実行される。なお、衛星制御プログラムの一部または全部がOSに組み込まれていてもよい。
【0039】
地上設備700は、プロセッサ910を代替する複数のプロセッサを備えていてもよい。これら複数のプロセッサは、衛星制御プログラムの実行を分担する。それぞれのプロセッサは、プロセッサ910と同じように、衛星制御プログラムを実行する装置である。
【0040】
衛星制御プログラムにより利用、処理または出力されるデータ、情報、信号値および変数値は、メモリ921、補助記憶装置922、または、プロセッサ910内のレジスタあるいはキャッシュメモリに記憶される。
【0041】
地上設備の各部の「部」を「処理」、「手順」、「手段」、「段階」あるいは「工程」に読み替えてもよい。また、各部の「部」を「処理」に読み替えた各処理の「処理」を「プログラム」、「プログラムプロダクト」、「プログラムを記憶したコンピュータ読取可能な記憶媒体」または「プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体」に読み替えてもよい。「処理」、「手順」、「手段」、「段階」あるいは「工程」は、互いに読み換えが可能である。
衛星制御プログラムは、地上設備700の各部の「部」を「処理」、「手順」、「手段」、「段階」あるいは「工程」に読み替えた各処理、各手順、各手段、各段階あるいは各工程を、コンピュータに実行させる。また、衛星制御方法は、地上設備700が衛星制御プログラムを実行することにより行われる方法である。
衛星制御プログラムは、コンピュータ読取可能な記録媒体に格納されて提供されてもよい。また、衛星制御プログラムは、プログラムプロダクトとして提供されてもよい。
【0042】
本実施の形態に係る地上設備700は、推進装置33を具備する衛星30を制御する。地上設備700は、衛星30が衛星設計寿命である第1期間年の軌道上運用後に、軌道離脱してから第1期間年未満の期間で大気圏突入するために必要な量の推薬を、衛星30が保有するように衛星30を制御する。
【0043】
図9は、本実施の形態の比較例であるメガコンステレーションの打ち上げによる宇宙物体数の推移を示す図である。
メガコンステレーションの登場により、軌道上物体数が激増することが懸念される。
IADCによるスペースデブリ低減ガイドライン(Space Debris Mitigation Guidelines)によれば、軌道上ミッション終了後の衛星を25年以内に大気圏突入させることが規定されている。IADCは、国際機関間スペースデブリ調整委員会(The Inter-agency Space Debris Coordination Committeeの略語である。仮に、10000機の衛星の設計寿命が5年と仮定すると、第一世代の衛星群が軌道上ミッションを終了してから軌道離脱して、大気圏突入する場合、第一世代の衛星群は合計30年間宇宙空間に滞留することになる。
【0044】
サービス継続のために第二世代衛星を10000機を打ち上げた時点で、軌道上の衛星数は20000機となる。このように、軌道上物体数は、ロケット上段を含めて20000を超す数に増加する。同様に第一世代衛星群が大気圏突入するまでに第六世代衛星群まで打ち上げると、軌道上物体数は60000を超す状況となる。軌道上物体数が過多になった状態で軌道上衝突事故が発生すると、衝突が連鎖して止まらなくなるケスラーシンドロームを誘引する可能性が指摘されている。よって、軌道上物体数が30年間に6倍に増加する状況は回避する必要がある。
【0045】
図10は、本実施の形態に係る衛星30における推薬量と打ち上げ後経過年数の関係を示す図である。
図11は、本実施の形態に係る衛星30により構成されたメガコンステレーションの打ち上げによる宇宙物体数の推移を示す図である。
【0046】
軌道上物体数が増大することの対策として、衛星の軌道上寿命が、軌道上ミッション終了後の衛星を大気圏突入させるまでのデオービット期間よりも長くなるように設定する。このとき、第二世代衛星群の打ち上げ時点では、第一世代衛星群が宇宙空間に滞留しているので、宇宙物体総数は2倍強に増加する。しかし、第三世代衛星群の打ち上げ時点においては、第一世代衛星が大気圏突入する。よって、宇宙物体総数は2倍強のまま維持され、その後の世代交代により単調増加するリスクが解消できる。
【0047】
図10に示すように、本実施の形態に係る衛星30は、衛星設計寿命である第1期間L1年の軌道上運用後に、軌道離脱してから第1期間L1年未満の期間で大気圏突入するために必要な量の推薬を保有する。このように、衛星設計寿命である第1期間L1年の衛星が、第1期間L1年の間、軌道上ミッションを実行し、その後、軌道離脱してから第1期間L1年未満の期間で大気圏突入することができれば、宇宙物体総数は2倍強のまま維持される。
また、本実施の形態では、衛星設計寿命が、軌道上ミッション終了後の衛星を大気圏突入させるまでのデオービット期間よりも長くなる推薬管理方法を実現する。つまり、本実施の形態の推薬管理方法では、衛星は、衛星設計寿命である第1期間L1年の軌道上運用後に、軌道離脱してから第1期間L1年未満の期間で大気圏突入するために必要な量の推薬を保有する。
【0048】
図11に示すように、衛星設計寿命である第1期間が10年の第一世代の衛星は、約10年の間、軌道上ミッションを実行する。そして、第一世代の衛星が軌道上ミッションを終了するより少し前に、第二世代の衛星が打ち上げられる。第二世代の衛星が打ち上げられる時期と概ね同時期に第一世代の衛星はデオービット期間に入る。第一世代の衛星は、軌道離脱してから約10年未満の期間で大気圏突入するので、このときの宇宙物体総数は2倍強のまま維持される。一方、第三世代の衛星が打ち上げられる際には、第一世代の衛星は既に大気圏突入しているので、やはり、宇宙物体総数は2倍強のまま維持される。
【0049】
図12は、本実施の形態に係るデオービット期間を短縮する方法を示す図である。
衛星30(人工衛星)のデオービット期間を短縮する方法としては、軌道上進行方向と逆向きに推進する(推力を得る)ように推進装置を動作させるのが有効である。より多く噴射する程、減速効果が大きくなり、大気圏突入までの時間が短縮できる。このためデオービット期間の短縮効果は、軌道離脱時点に保有する推薬の量に依存する。
【0050】
***本実施の形態の効果の説明***
このように、本実施の形態に係る人工衛星、推薬管理方法、および地上設備によれば、メガコンステレーションの軌道上物体数が定常運用衛星数の2倍強程度に維持できるので、ケスラーシンドローム防止ができるという効果がある。また、推薬管理方法を実行する地上設備は、例えば、メガコンステレーション事業装置、LEOコンステレーション事業装置、あるいは、衛星事業装置といった管理事業装置である。
【0051】
また、本実施の形態に係る人工衛星、推薬管理方法、および地上設備では、人工衛星は、衛星設計寿命L1年の軌道上運用後において、軌道離脱してからL1年未満の期間で大気圏突入するのに要する推薬を保有する。
本実施の形態では、人工衛星が設計寿命を全うしてから軌道離脱する例を示している。人工衛星は、衛星設計寿命L1年の運用時点において、軌道離脱後L1年未満で大気圏突入するのに必要な推薬を保有している。よって、後継機の更に後継機を打ち上げる前には大気圏突入するので、軌道上物体数が増え続けるリスクが解消できるという効果がある。
【0052】
***他の構成***
本実施の形態では、地上設備700の機能がソフトウェアで実現される。変形例として、地上設備700の機能がハードウェアで実現されてもよい。
【0053】
図13は、本実施の形態の変形例に係る地上設備700の構成を示す図である。
地上設備700は、プロセッサ910に替えて電子回路909を備える。
電子回路909は、地上設備700の機能を実現する専用の電子回路である。
電子回路909は、具体的には、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ロジックIC、GA、ASIC、または、FPGAである。GAは、Gate Arrayの略語である。
地上設備700の機能は、1つの電子回路で実現されてもよいし、複数の電子回路に分散して実現されてもよい。
別の変形例として、地上設備700の一部の機能が電子回路で実現され、残りの機能がソフトウェアで実現されてもよい。
【0054】
プロセッサと電子回路の各々は、プロセッシングサーキットリとも呼ばれる。つまり、地上設備700の機能は、プロセッシングサーキットリにより実現される。
【0055】
実施の形態2.
本実施の形態では、主に、実施の形態1と異なる点および実施の形態1に追加する点について説明する。
本実施の形態において、実施の形態1と同様の機能を有する構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
なお、衛星30、衛星コンステレーション形成システム600、および地上設備700の構成は、実施の形態1と同様である。
【0056】
本実施の形態では、不慮の事由により推薬量が計画よりも減損した場合の人工衛星の推薬管理方法について説明する。不慮の事由とは、例えば、打ち上げ後軌道投入までに想定以上に推薬を消耗してしまった、あるいは、推薬リークにより想定外の減損があるといった場合である。本実施の形態に係る推薬管理方法では、残存推薬を運用継続して、結果として軌道上運用した期間L2年の時点で、保有する推薬量が軌道離脱後L2年未満で大気圏突入するのに必要な推薬量を見越して運用を終了する。
【0057】
図14は、本実施の形態に係る衛星30における推薬量と打ち上げ後経過年数の関係を示す図である。
本実施の形態に係る衛星30は、衛星30の打ち上げ後に衛星設計寿命である第1期間L1年よりも短期間である第2期間L2年の軌道上運用後に、軌道離脱してから第2期間L2年未満で大気圏突入するために必要な量の推薬を保有する。
また、本実施の形態に係る推薬管理方法は、衛星30が、衛星30の打ち上げ後に衛星設計寿命である第1期間L1年よりも短期間である第2期間L2年の軌道上運用後に、軌道離脱してから第2期間L2年未満で大気圏突入するために必要な量の推薬を保有する方法である。
【0058】
また、本実施の形態に係る地上設備700は、衛星30が、衛星30の打ち上げ後に衛星設計寿命であるL1年よりも短期間であるL2年の軌道上運用後に、軌道離脱してからL2年未満で大気圏突入するために必要な量の推薬を保有するように衛星30を制御する。
【0059】
図14では、衛星30は、想定外の推薬消耗に伴い、衛星設計寿命であるL1年よりも短期間のL2年の軌道上運用後において、軌道離脱してからL2年未満の期間で大気圏突入するのに要する推薬を保有している。
本実施の形態に係る推薬管理方法では、残存推薬を運用継続して、結果として軌道上運用した期間L2年の時点で、保有する推薬量が軌道離脱後L2年未満で大気圏突入するのに必要な推薬量を見越して運用を終了する。この結果、軌道上滞留期間はL2×2未満となるので、軌道上物体数が増え続けるリスクが解消できるという効果がある。
【0060】
例えば、地上設備700は、軌道上での現在までの運用年数Lxと現時点での推薬量とに基づいて、現時点での推薬量が現時点からLx年未満で大気圏突入に要する推薬量かを算出する。地上設備700は、現時点からLx年未満で大気圏突入に要する推薬量に基づいて、衛星の軌道上運用の終了を判定してもよい。
【0061】
以上のように、本実施の形態に係る人工衛星、推薬管理方法、および地上設備によれば、不慮の事由により設計寿命よりも短期間L2年の軌道上運用の後に軌道離脱する場合であっても、軌道離脱後L2年未満で大気圏突入する推薬量を保有している。よって、実施の形態1と同様に軌道上物体数が増え続けるリスクを解消できるという効果がある。
【0062】
実施の形態3.
本実施の形態では、主に、実施の形態1,2と異なる点および実施の形態1,2に追加する点について説明する。
本実施の形態において、実施の形態1,2と同様の機能を有する構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
なお、衛星30、衛星コンステレーション形成システム600、および地上設備700の構成は、実施の形態1と同様である。
【0063】
本実施の形態では、軌道離脱してから大気圏突入するまでの時間よりも長い衛星設計寿命を有する人工衛星(衛星30)について説明する。
【0064】
人工衛星は、軌道上でのミッション終了後に25年以内に、大気圏突入する、あるいは、墓場軌道と呼ばれる、定常運用中の人工衛星に悪影響を及ぼさない軌道に遷移することが推奨されている。
しかしながら定常運用数が1万機を超えるメガコンステレーションの設計寿命が25年よりも短い場合、軌道上物体総数が以下のように3倍以上に増加する。具体的には、第一世代の衛星群がミッション終了後にデオービットし、第二世代の衛星群を打上げて運用してミッション終了後にデオービットし、第三世代の衛星群を打ち上げる段階において、未だ第一世代の衛星群がデオービット途中である。このため、軌道上物体総数が3倍以上に増加することになる。
【0065】
例えば、設計寿命が5年の場合は第六世代衛星打ち上げまで第一世代衛星が宇宙空間を滞留しているため、軌道上物体総数は6倍に及ぶ。よって、宇宙物体衝突のリスクが高まり、一度爆裂的な衝突が発生した場合に、飛散した破片の2次衝突が連鎖して、ケスラーシンドロームと呼ばれる連鎖衝突が止まらない事態に至るリスクもある。
【0066】
この物体数増加を抑制する有効な手段は、人工衛星の衛星設計寿命を、軌道離脱してから大気圏突入するまでの時間よりも長く設定することである。
この場合、第二世代衛星の設計寿命に至る前に第一世代衛星が大気圏突入を完了するので、第三世代以降に単調増加的に物体数が増加するのを抑止できるという効果がある。
【0067】
上記の衛星設計寿命の延伸を実現する手段としては、搭載推薬増加あるいは冗長構成による寿命延伸、設計あるいは製造品質向上、搭載機器あるいは部品の設計寿命延伸といった方策により設計寿命期間を延伸する対策が有効である。
またミッション終了後に衛星進行方向に対して推進装置を逆噴射して、デオービット期間を短縮する対策も有効である。
【0068】
以上の実施の形態1から3では、地上設備の各部を独立した機能ブロックとして説明した。しかし、地上設備の構成は、上述した実施の形態のような構成でなくてもよい。地上設備の機能ブロックは、上述した実施の形態で説明した機能を実現することができれば、どのような構成でもよい。また、地上設備は、1つの装置でも、複数の装置から構成されたシステムでもよい。
【0069】
また、実施の形態1から3のうち、複数の部分を組み合わせて実施しても構わない。あるいは、これらの実施の形態のうち、1つの部分を実施しても構わない。その他、これらの実施の形態を、全体としてあるいは部分的に、どのように組み合わせて実施しても構わない。
すなわち、実施の形態1から3では、実施の形態1から3の部分の自由な組み合わせ、あるいは任意の構成要素の変形、もしくは実施の形態1から3において任意の構成要素の省略が可能である。
【0070】
なお、上述した実施の形態は、本質的に好ましい例示であって、本開示の範囲、本開示の適用物の範囲、および本開示の用途の範囲を制限することを意図するものではない。上述した実施の形態は、必要に応じて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0071】
20 衛星コンステレーション、21 軌道面、30 衛星、31 衛星制御装置、32 衛星通信装置、33 推進装置、34 姿勢制御装置、35 電源装置、41 メガコンステレーション事業装置、42 LEOコンステレーション事業装置、43 衛星事業装置、60 宇宙物体、70 地球、55 軌道制御コマンド、600 衛星コンステレーション形成システム、11,11b 衛星コンステレーション形成部、300 衛星群、700 地上設備、510 軌道制御コマンド生成部、520 解析予測部、909 電子回路、910 プロセッサ、921 メモリ、922 補助記憶装置、930 入力インタフェース、940 出力インタフェース、941 表示機器、950 通信装置。