(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】広帯域可視光反射体
(51)【国際特許分類】
G02B 5/28 20060101AFI20241004BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G02B5/28
G02B5/26
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023149672
(22)【出願日】2023-09-15
(62)【分割の表示】P 2018531371の分割
【原出願日】2016-12-12
【審査請求日】2023-09-15
(32)【優先日】2015-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】キヴェル,エドワード ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ファビック,ライアン ティー.
(72)【発明者】
【氏名】ネヴィット,ティモシー ジェイ.
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0250405(US,A1)
【文献】国際公開第2015/048624(WO,A1)
【文献】特表2016-520861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/28
G02B 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
広帯域可視光反射体であって、
各々が第1の複屈折ポリマー層及び第2のポリマー層を有
し、各々が50%のf比を有する、複数の光学的繰り返し単位を含み、
前記広帯域可視光反射体は、垂直入射する380nm~430nmの非偏光状態の光の10%以上を透過し、
前記複数の光学的繰り返し単位は、前記広帯域可視光反射体が単一のパケット反射体となるように、単一のパケットに配置され、
前記広帯域可視光反射体は、CIE1931明所視応答関数を使用して決定した、少なくとも95%の明所視的加重平均R
hemi(λ)を可視スペクトルにわたってもたらす
、
広帯域可視光反射体。
【請求項2】
前記光学的繰り返し単位の各々は、光学的厚さを有し、
全ての光学的繰り返し単位の前記光学的厚さが220nm以上である、請求項1に記載の広帯域可視光反射体
。
【請求項3】
前記広帯域可視光反射体は、反射では黄色に見え、透過では青色に見える、請求項
1に記載の広帯域可視光反射体。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ポリマー多層光学フィルムは、数十~数百層の溶融ポリマー層を共押出しした後、得られたフィルムを配向又は延伸することによって形成される。これらの微小層は、異なる屈折率特質及び充分な薄さを有するため、光は、隣接した微小層間の境界面で反射される。広帯域可視光反射体は、可視スペクトルの全て又は実質的に全てに反射し、ディスプレイ及び照明用途に有用であり得る。
【発明の概要】
【0002】
一態様において、本明細書は広帯域可視光反射体に関する。詳細には、広帯域可視光反射体は複数の光学的繰り返し単位を含み、各光学的繰り返し単位は、第1の複屈折ポリマー層及び第2のポリマー層を含む。各光学的繰り返し単位は光学的厚さを有し、どの光学的繰り返し単位の光学的厚さも220nm以上である。
【0003】
別の態様において、本明細書は広帯域可視光反射体に関する。広帯域可視光反射体は、複数の光学的繰り返し単位を含み、各光学的繰り返し単位は、第1の複屈折ポリマー層及び第2のポリマー層を含む。広帯域可視光反射体は、垂直入射する380nm~430nmの非偏光状態の光の30%以上を透過する。
【0004】
更に別の態様において、本明細書は広帯域可視光反射体に関する。広帯域可視光反射体は、反射では黄色に見える。また広帯域可視光反射体は、CIE1931明所視応答関数を使用して決定した、少なくとも95%の明所視的加重平均Rhemi(λ)を可視スペクトルにわたってもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図2】多層ポリマー反射フィルムの、測定された半球反射率に対する計算された半球反射率を示すグラフである。
【
図3】比較例C1における、多層フィルムの層プロファイルを示すグラフである。
【
図4】比較例C1における、多層フィルムの軸上の透過率を示すグラフである。
【
図5】実施例1における、多層フィルムの層プロファイルを示すグラフである。
【
図6】実施例1における、多層フィルムの軸上の透過率を示すグラフである。
【
図7】比較例C1に合わせて正規化した、明所視的に重み付けした半球反射と層の厚さとの間の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0006】
多層光学フィルム、すなわち、異なる屈折率の微細層の配置によって、少なくとも部分的に望ましい透過特性及び/又は反射特性をもたらすフィルムが知られている。真空槽の中で一連の無機質材料を光学的に薄い層(「微細層」)として基材に堆積させることによって、このような多層光学フィルムを作ることが知られている。無機質多層光学フィルムは、例えばH.A Macleodによる、Thin-Film Optical Filters、第2版、Macmillan Publishing Co.(1986)、及び、A.Thelanによる、Design of Optical Interference Filters、McGraw-Hill Inc.(1989)によるテキストに記載されている。
【0007】
交互ポリマー層を共押出しすることによる多層光学フィルムも実際に示されている。例えば、米国特許第3,610,729号(Rogersによる)、同第4,446,305号(Rogersらによる)、同第4,540,623号(Imらによる)、同第5,448,404号(Schrenkらによる)、及び同第5,882,774号(Jonzaらによる)を参照されたい。これらのポリマー多層光学フィルムにおいて、個々の層の構成には、ほとんど又は専らポリマー材料が使用される。これらは、熱可塑性多層光学フィルムと呼ばれることがある。このようなフィルムは、大量生産プロセスと適合性があり、大きなシート及びロール品として作ることができる。下記の説明及び実施例は、熱可塑性多層光学フィルムに関する。
【0008】
多層光学フィルムは、異なる屈折率特質を有する個々の微細層を含み、それによって一部の光は隣接する微細層同士の間の境界面で反射する。微細層は十分に薄いため、複数の境界面で反射された光は強め合う干渉又は弱め合う干渉を受けて、多層光学フィルムに所望の反射特性又は透過特性を与える。紫外線、可視、又は近赤外線波長の光を反射するように設計された多層光学フィルムでは、各微細層は、一般に約1μm未満の光学的厚さ(物理的厚さに屈折率を乗じたもの)を有する。一般的に、層は、最も薄いものから最も厚いものへと配置され得る。いくつかの実施形態において、交互に配置された光学層は、層数の関数として実質的に直線的に変化し得る。これらの層プロファイルは、直線層プロファイルと呼ばれることがある。多層光学フィルムの外側表面にあるスキン層、又は、多層光学フィルム内に配置され、微細層の可干渉性の群(本明細書においては「パケット」と呼ぶ)を分離する保護境界層(PBL)等の、より厚い層を含めることもできる。場合によっては、保護境界層は、多層光学フィルムの交互層のうちの少なくとも1つと同じ材料であってよい。他の場合では、保護境界層は、物理的特性又はレオロジー特性のために選択される、異なる材料であってよい。保護境界層は、光学パケットの片側又は両側にあってもよい。単一パケットの多層光学フィルムの場合、保護境界層は、多層光学フィルムの外側表面の一方又は両方にあってよい。
【0009】
本明細書の目的には、パケットは一般的に光学的繰り返し単位の厚さを単調に変化させる。例えばパケットは、単調に増加、単調に減少、増加及び不変の両方、又は減少及び不変の両方であってよいが、増加及び減少の両方とはならない。このパターンに従わない1つ又はいくつかの層は、特定の光学的繰り返し層の群をパケットとして定義又は識別すること全体にとって重要ではないと理解すべきである。いくつかの実施形態において、対象のスペクトル(例えば可視スペクトル)の特定の部分範囲にわたって反射を集合的にもたらす、連続した非冗長な層のペアの最も大きな個別の群として、パケットを定義することが有用であり得る。
【0010】
場合によっては、微細層は、1/4波長積層体をもたらす厚さ及び屈折率の値を有する(すなわち、等しい光学的厚さ(f比=50%)の2つの隣接した微細層を各々が有する光学的繰り返し単位又は単位セルとして配置され、このような光学的繰り返し単位は、波長λが光学的繰り返し単位の全体の光学的厚さの約2倍である、強め合う干渉光による反射に有効である)。f比が50%とは異なる2つの微細層光学的繰り返し単位を有する多層光学フィルム、又は光学的繰り返し単位が3つ以上の微細層を含むフィルム等の、他の層配置も知られている。これらの光学的繰り返し単位の設計は、特定の高次反射を減少又は増加させるように構成することができる。例えば、米国特許第5,360,659号(Arendsらによる)及び同第5,103,337号(Schrenkらによる)を参照されたい。光学的繰り返し単位の、フィルムの厚さ軸(例えば、z軸)に沿った厚さ勾配を利用することで、人の可視領域全体及び近赤外領域まで広がる反射帯域等の拡張した反射帯域を提供することが可能であり、これにより、斜め入射角において帯域が短波長側にシフトする際でも、微細層積層体は可視スペクトル全体にわたって反射し続ける。帯域端を鋭くするように調整された厚さ勾配、すなわち高反射と高透過の間の波長移行については、米国特許第6,157,490号(Wheatleyらによる)に記述されている。
【0011】
多くの用途において、フィルムの反射特性は、「半球反射率」(Rhemi(λ))によって特徴付けられ、これは、(対象とする特定の波長又は波長範囲の)光が、可能な全ての方向から、構成要素(表面であるか、フィルムであるか、又は一群のフィルムであるかによらず)上に入射するときのその構成要素の全反射率を意味する。よって、この構成要素は、垂直方向を中心とした半球内の全ての方向からの入射光(及び全ての偏光状態、ただし別段の指定がある場合を除く)で照らされ、同じ半球内に反射された全ての光が収集される。対象の波長範囲の入射光の全光束に対する、反射光の全光束の比が、半球反射率、Rhemi(λ)をもたらす。光は、キャビティの内表面に(前面反射体であるか、背面反射体であるか、又は側面反射体であるかにかかわらず)全ての角度で入射することが多いため、バックライトリサイクルキャビティでは、反射体をそのRhemi(λ)によって特徴付けることが特に好都合となり得る。更に、垂直入射光の場合の反射率とは異なり、Rhemi(λ)は、入射角による反射率の可変性に影響されず、またこのような反射率の可変性を予め考慮し、これは、リサイクルバックライト内のいくつかの構成要素(例えばプリズム形フィルム)に対して極めて有意となり得る。
【0012】
バックライトを使用する多くの電子ディスプレイ用途において、また、一般的及び特殊な照明用途用のバックライトにおいて、バックライトの背面を形成する反射体フィルムが高い反射率特質を有すると望ましい場合があることが理解されている。実際、半球反射率スペクトルRhemi(λ)はバックライトの光出力効率と強い相関を示し、可視光スペクトル全体のRhemi(λ)の値が高いほど、バックライトの出力効率が高くなることが更に理解される。このことは、バックライトからコリメート光又は偏光を出力するように、他の光学フィルムがバックライト出口開口部を覆うように構成され得るリサイクルバックライトに、特に当てはまる。
【0013】
多層光学フィルム並びに関連する設計及び構造の更なる詳細は、米国特許第5,882,774号(Jonzaらによる)及び同第6,531,230号(Weberらによる)、PCT/WO95/17303号(Ouderkirkらによる)及び同第99/39224号(Ouderkirkらによる)、並びに表題「Giant Birefringent Optics in Multilayer Polymer Mirrors」、Science、Vol.287、March 2000(Weberらによる)という公表文献に記述されている。多層光学フィルム及びそれに関連する物品は、光学的特性、機械的特性、及び/又は化学的特性のために選択される、追加の層及びコーティングを含むことがある。例えば、UV吸収層をこのフィルムの入射側に追加して、UV光により生じる劣化から構成要素を保護する場合がある。UV硬化型アクリレート接着剤又は他の好適な材料を用いて、多層光学フィルムを、機械的に補強された層に貼り付けることができる。このような補強層は、PET又はポリカーボネート等のポリマーを含むことがあり、例えばビーズ又はプリズムを使用することによって光拡散又はコリメーション等の光学的機能を提供する構造化表面も含むことがある。追加の層及びコーティングは、引っ掻き抵抗性層、引き裂き抵抗性層、及び硬化剤も含むことができる。例えば、米国特許第6,368,699号(Gilbertらによる)を参照されたい。多層光学フィルムを作るための方法及び装置は、米国特許第6,783,349号(Neavinらによる)に記述されている。
【0014】
多層光学フィルムの反射特性及び透過特性は、それぞれの微細層の屈折率と、微細層の厚さ及び厚さ分布との関数である。各微細層は、少なくともフィルムの局所的位置で、面内屈折率nx、nyと、フィルムの厚さ方向軸に関連する屈折率nzとによって特徴付けることができる。これらの屈折率は、互いに直交するx軸、y軸、及びz軸に沿って偏光される光に対する対象材料の屈折率を、それぞれ表す。本特許出願での説明を容易にするため、別段の指定がない限り、x軸、y軸、及びz軸は、多層光学フィルム上のいかなる対象点にも適用可能なローカルな直交座標系の軸であり、微細層はx-y面に平行に延び、x軸は、Δnxの大きさを最大とするようにフィルムの面内に配向されているものとする。したがって、Δnyの大きさは、Δnxの大きさ以下であって、それより大きくないものとすることができる。更に、差Δnx、Δny、Δnzを計算する際にどの材料層から始めるかの選択は、Δnxが負でないことを必要とすることによって決定される。換言すれば、境界面を形成する2つの層の間の屈折率の差は、Δnj=n1j-n2jであり、ここでj=x、y、又はzであり、層の指定1、2は、n1x≧n2x、すなわち、Δnx≧0となるように選択される。
【0015】
実際には、屈折率は、適切な材料選択及び加工条件によって制御される。多層フィルムは、交互する2種のポリマーA、Bの多数の層、例えば数十又は数百の層を共押出しすることによって作られ、場合によってはその後この多層押出物を1つ以上の層増加装置に通し、フィルムダイを介してキャスティングし、次にこの押出物を延伸するか、その他の方法で配向して最終的なフィルムを形成する。得られるフィルムは、通常、可視又は近赤外等のスペクトルの所望の領域において、1つ以上の反射帯をもたらすように厚さと屈折率が調整されている、数百もの個別の微細層から構成される。妥当な層数によって高反射率を得るために、隣接した微細層は、通常、x軸に沿って偏光した光に対して少なくとも0.05の屈折率差(Δnx)を呈する。いくつかの実施形態において、x軸に沿って偏光した光に対する屈折率差が、配向後に可能な限り高くなるように、材料を選択する。2つの直交する偏光に対して高反射率が所望される場合には、隣接した微細層は、y軸に沿って偏光した光に対して少なくとも0.05の屈折率差(Δny)を呈するようにすることもできる。
【0016】
上記で参照した‘774号(Jonzaらによる)特許は、とりわけ、z軸に沿って偏光した光に対する隣接した微細層間の屈折率差(Δnz)を調整して、斜めに入射する光のp偏光成分に対して所望の反射率特性を得る方法を述べている。斜め入射角におけるp偏光の高い反射率を維持するために、微細層間のz屈折率の不整合Δnzは、最も大きい面内屈折率の差Δnxより実質的に小さくなるように制御して、Δnz≦0.5×Δnx又はΔnz≦0.25×Δnxとすることができる。ゼロ又はほぼゼロの大きさのz屈折率の不整合によって、p偏光に対する反射率が入射角の関数として一定又はほぼ一定である境界面が、微細層の間に生じる。更に、z屈折率の不整合Δnzは、面内屈折率の差Δnxと比較して反対の極性を有するように、すなわち、Δnz<0となるように、制御することができる。この条件は、s偏光の場合と同様に、p偏光に対する反射率が入射角の増加と共に増加する境界面をもたらす。
【0017】
‘774号(Jonzaらによる)に記述されている別の設計考慮事項は、多層反射型偏光子の空気境界面での表面反射に関する。既存のガラス部品又は別の既存のフィルムに、偏光子を透明な光学接着剤によって両面積層しない限り、このような表面反射は、光学系における所望の偏光の透過を低下させる。したがって、場合によっては反射型偏光子に反射防止(AR)コーティングを追加することが有用である場合もある。
【0018】
本明細書に記載のポリマー多層光学フィルムは、高反射性を有し得るものであり、例えば、垂直入射で測定した場合に可視光の95%又は99%、又は更には99.5%超を反射することができる。可視光は、400nm~700nm、又は場合によっては420nm~700nmの波長として特徴付けることができる。更に、本明細書に記載のポリマー多層光学フィルムは薄くてよく、場合によっては100μm、85μm、又は65μmよりも薄い。ポリマー多層光学フィルムが第3の光学パケットを含む実施形態では、フィルムは165μmより薄くてもよい。
【0019】
スキン層が追加されることがある。これは、層の構成後、かつ溶融物がフィルムダイから出る前に行われることが多い。この多層溶融物は次に、ポリエステルフィルムに関する従来の方法で、フィルムダイを通してチルロール上にキャスティングされ、次いで急冷される。その後、例えば、米国特許公開第2007/047080(A1)号、米国特許公開第2011/0102891(A1)号、及び米国特許第7,104,776号(Merrillらによる)に記載されているように、光学層のうちの少なくとも1つに複屈折が得られるように、キャストウェブが種々の方法で延伸されて、多くの場合、反射型偏光子又はミラーフィルムのいずれかが生成される。
【0020】
広帯域可視光反射体は、可視スペクトルの広い範囲をもたらし、軸上の光及び角度の付いた光の両方を反射するように設計されている。例えば、広帯域可視光反射体は、CIE1931明所視応答関数を使用して決定した、少なくとも95%の明所視的加重平均Rhemi(λ)を可視スペクトルにわたってもたらすことができる。これは、軸上で青色光を反射するために、光学的厚さが200nm又は更にはそれ未満の薄さの層のペアができるように、層プロファイルを設計することを意味する。これらの薄い層は、均一の外観、及び反射体の高い性能をもたらすため(すなわち確実に広帯域反射体を維持するため)に必要であると考えられていた。しかし、広帯域可視光反射体に使用される一般的な複屈折材料の場合、これらの薄い層には吸収が最大になる。更に、フィルムからのある角度において、これら最薄の層は、紫外線(非可視)光のみを反射するか、又は入射光に対して透明となって、システムに対していかなる反射にも寄与しないか、のいずれかである。意外にも、最も青い層を除去するか、又は最小限に抑えること(より少ない層を使用することによる、又はより鋭い層プロファイルの勾配をもたらすことによる)の利益は、軸上で青色光の一部が透過することから生ずるいかなる不利益にも勝る。中間厚さの層、例えば緑色反射層は、青色波長を覆うために、それらの反射波長をある角度においてシフトする。したがって、可視波長に明所視的に重み付けしたとき、Rhemi(λ)の増加が観測される。検査時に、このようなフィルムはブルーリークと説明される特性を有することになるので、特に意外である。ブルーリークは、青色光がフィルムを透過することを指す。透過では、反射体は青色に見える。反射では、このようなフィルムは黄色に見えることになる。このような外観の欠点にもかかわらず、本明細書で提供される実施例は、このようなフィルムがディスプレイで優れた反射性能をもたらすことができることを示し、軸上の反射率は、角度の付いた反射と比較してさほど重要ではない。この性能の改善は、可視スペクトルにわたって明所視的に平均されたRhemi(λ)の増加によって得られる。いくつかの実施形態において、任意の光学的繰り返し単位の光学的厚さは、220nm以上(これは反射した軸上の概ね440nmの波長に相応する)である。いくつかの実施形態において、任意の光学繰り返し単位の光学的厚さは、225nm以上である。いくつかの実施形態において、広帯域可視光反射体は、垂直入射する380nm~430nmの非偏光状態の光の20%以上を透過する。いくつかの実施形態において、広帯域可視光反射体は、垂直入射する380nm~450nmの非偏光状態の光の20%以上を透過する。いくつかの実施形態において、広帯域可視光反射体は、垂直入射する380nm~410nmの非偏光状態の光の30、40、又は50%以上を透過する。これらの技術的設計条件、すなわち最も青い層を最小限に抑えるか、又は除去することによって、他の高性能多層反射体と同等の、又はより優れた性能ももたらすこともでき、一方で広帯域可視光反射体の必要な全厚を減少させる。
【実施例】
【0021】
Rhemi(λ)の測定及び計算
Rhemi(λ)は、米国特許出願公開第2013/0215512号(Coggioらによる)に記載されている装置を使用して測定された。Labsphere,Inc.社(ニューハンプシャー州ノースサットン)により製造される、Spectralon(登録商標)反射コーティングを有し、3つの互いに直交するポートを有する市販の6インチの積分球を使用して試料を照らし、半球反射率スペクトルRhemi(λ)を求めた。安定化光源により、1つのポートを介して球体を照らした。Photo Research(登録商標)PR650分光光度計(カリフォルニア州チャツワースのPhoto Research Inc.社から入手可能)を使用して、第2のポートを通して球体内壁の放射輝度を測定した。試料は、第3のポート上に配置された。第3のポート上に配置された、知られている反射率基準(ニューハンプシャー州ノースサットンのLabsphere,Inc.社から入手可能なSpectralon(登録商標)Reference Target SRT-99-050)を使用して積分球壁の放射輝度の較正を行い、較正基準がある場合とない場合とで球体壁の放射輝度を測定した。Rhemi(λ)は、第3のポート上に試料を置いて測定した。すなわち、試料の半球反射率Rhemi(λ)を、その試料がある場合とない場合との球壁の放射輝度の比をとり、単純な積分球光度利得アルゴリズムを使用することによって得た。
【0022】
積分球内の平衡光度分布は、ランベルト分布と近似するものと予想され、これは、試料への入射角に対する光度の確率分布がcos(θ)として低下することを意味する。ここで、θ=0で試料に対して垂直である。
【0023】
図1は、反射フィルムの概略斜視図である。
図1は、入射角θで反射フィルム110に入射することにより、入射面132を形成する光線130を示している。反射フィルム110は、x軸に平行な第1の反射軸116及びy軸に平行な第2の反射軸114を含んでいる。光線130の入射面132は、第1の反射軸116と平行である。光線130は、入射面132内にあるp偏光成分、及び入射面132と直交するs偏光成分を有する。光線130のp偏光が、反射率R
pp-xで反射フィルムによって反射される(光線130のp偏光の電場の反射フィルム110の平面上への投射はx方向に平行である)のに対して、光線130のs偏光は反射率R
ss-yで反射フィルムによって反射される(光線130のs偏光の電場はy方向に平行である)。
【0024】
更に、
図1は、フィルム110の第2の反射軸114に平行な入射面122内で、反射フィルムに入射する光線120を示している。光線120は、入射面122内にあるp偏光成分、及び入射面122と直交するs偏光成分を有する。光線120のp偏光が、反射率R
pp-yで反射フィルムによって反射されるのに対して、光線120のs偏光は反射率R
ss-xで反射フィルムによって反射される。本明細書で更に述べるように、任意の入射面に対するp偏光及びs偏光の透過量及び反射量は、反射フィルムの特質によって決まる。
【0025】
R
hemi(λ)は、光学フィルムの微小層及び他の層要素の層の厚さプロファイルの情報から、及びフィルム内の微小層及び他の層の各々に関連付けられた屈折率値から、計算することができる。多層フィルムの光学応答用の4×4行列求解用ソフトウェアアプリケーションを使用することにより、反射スペクトル及び透過スペクトルの両方を、x軸入射面について、及びy軸入射面について、並びにp偏光及びs偏光入射光の各々について、既知の層の厚さプロファイル及び屈折率特性から計算することができる。ここから、R
hemi(λ)を下記に示す式を用いることで計算することができる。すなわち、
【数1】
式中、
【数2】
【数3】
及び
【数4】
ただし、E(θ)は光度分布である。
【0026】
米国特許第6,531,230号(Weberらによる)に概ね記載されるような、より高次のハーモニックな可視反射帯域のアレイを備えて構成された、多層ポリマー反射フィルムが得られた。多層ポリマー反射フィルムのR
hemi(λ)を、上記に述べたようなLabsphere積分球を使用して測定し、得られたスペクトル208を
図2に示す。この多層ポリマー反射フィルムの透過スペクトルをPerkinElmer L1050分光光度計(ペンシルベニア州ウォルサムのPerkinElmer Inc.社)により測定し、上記に示した式(及び測定したスペクトル入力)を用いてR
hemiを計算した。この計算において、また全ての更なるR
hemi(λ)の計算について、E(θ)は、cos(θ)に依存したランベルト光度分布とした。
図2は、多層ポリマー反射フィルムについて、計算されたR
hemi(λ)スペクトル204が、測定されたR
hemi(λ)スペクトル208とよく一致することを示している。これは、詳細な反射スペクトルに対する吸収損失の影響を含めて、広帯域可視光反射体からの反射に関連性を有する物理学を計算技術が捕捉したことを表す。
【0027】
比較例C1
PEN及びPMMAの光学的繰り返し単位を伴う単一のパケット反射体を、
図3に示される層プロファイルを用いてモデル化した。層プロファイルは、光学的繰り返し単位数に対する、各光学的繰り返し単位の合計物理的厚さである。この層プロファイルは、軸上及び角度付きの両方の可視範囲にわたる、従来の広い範囲を表す。モデル化されたフィルムは、合計厚が62.1マイクロメートルであった。
【0028】
多層フィルムの光学応答用の4×4行列求解用ソフトウェアアプリケーションを使用して、フィルムの反射スペクトルを計算した。シミュレーションに用いたPEN及びPMMAの波長依存屈折率の実部(n
x,n
y,n
z)及び虚部(k
x,k
y,k
z)を表1に示す。この計算では、屈折率の値は、表1の値の間及びそれを上回る範囲で滑らかに変化するようにとった。
【表1】
【0029】
垂直角の反射スペクトル及び透過スペクトルは、より薄い光学的繰り返し単位側に入射する光について計算された。垂直入射する非偏光状態の光の透過スペクトルが
図4に示される。フィルムの半球反射率も計算された。CIE1931明所視応答関数を使用して決定した明所視的加重平均R
hemi(λ)は、99.55%と計算され、0.45%の損失(100%-R
hemi)となった。
【0030】
実施例1
単一のパケット反射体が、全ての光学的繰り返し単位が10%厚く作られたこと以外、比較例C1の表1の値を使用して、設計、モデル化された。光学的繰り返し単位数に対する、光学的繰り返し単位の合計物理的厚さを示す層プロファイルが、
図5に示される。モデル化されたフィルムは、67.8マイクロメートルの合計厚さであった。
【0031】
垂直角の反射スペクトル及び透過スペクトルが、より薄い光学的繰り返し単位側に入射する光について計算された。垂直入射する非偏光状態の光の透過スペクトルが
図6に示される。フィルムの半球反射率も計算された。CIE1931明所視応答関数を使用して決定した明所視的加重平均R
hemi(λ)は、99.61%と計算され、0.39%の損失(100%-R
hemi)となった。
【0032】
追加のフィルムが、光学的繰り返し単位の厚さに対して異なる調整を加えることを除き、実施例1と同じ方法で設計、モデル化された。CIE1931明所視応答関数を使用して決定した明所視的加重平均R
hemi(λ)が、各フィルムごとに計算された。
図7は、比較例1の基線層プロファイルに合わせて正規化した、明所視的に平均された半球反射を示し、100%の厚さ(比較例C1の99.55%のR
hemiに相応)、105%の厚さ(99.59%のR
hemi)、110%の厚さ(実施例1の99.61%のR
hemiに相応)、115%の厚さ(99.59%のR
hemi)、及び120%の厚さ(99.48%のR
hemi)となった。
【0033】
以下は本開示による例示的な実施形態である。
【0034】
項目1 各々が第1の複屈折ポリマー層及び第2のポリマー層を有する、複数の光学的繰り返し単位を含み、
光学的繰り返し単位の各々は、光学的厚さを有し、
全ての光学的繰り返し単位の光学的厚さが220nm以上である、
広帯域可視光反射体。
【0035】
項目2 各々が第1の複屈折ポリマー層及び第2のポリマー層を有する、複数の光学的繰り返し単位を含み、
前記広帯域可視光反射体は、垂直入射する380nm~430nmの非偏光状態の光を10%以上透過する、
広帯域可視光反射体。
【0036】
項目3 垂直入射する380nm~430nmの非偏光状態の光を20%以上透過する、項目2に記載の広帯域可光視反射体。
【0037】
項目4 垂直入射する380nm~430nmの非偏光状態の光を30%以上透過する、項目2に記載の広帯域可視光反射体。
【0038】
項目5 各々が第1の複屈折ポリマー層及び第2のポリマー層を有する、複数の光学的繰り返し単位を含み、
前記広帯域可視光反射体は、反射では黄色に見え、
前記広帯域可視光反射体は、CIE1931明所視応答関数を使用して決定した、少なくとも95%の明所視的加重平均Rhemi(λ)を可視スペクトルにわたってもたらす、
広帯域可視光反射体。
【0039】
項目6 透過では青色に見える、項目5に記載の広帯域可視光反射体。
【0040】
項目7 項目1、2、又は5のうちの一項に記載の広帯域可視光反射体を準備することと、
広帯域可視光反射体をバックライトに組み込むことと
を含む、方法。
【0041】
項目8 項目1、2、又は5のいずれか一項に記載の広帯域可光視反射体を含む、バックライト。
【0042】
項目9 項目1、2、又は5のいずれか一項に記載の広帯域可視光反射体を含む、ディスプレイ。
【0043】
項目10 複数の光学的繰り返し単位が、第1のパケット及び第2のパケットに配置される、項目1、2、又は5のいずれか一項に記載の広帯域可視光反射体。
【0044】
項目11 複数の光学的繰り返し単位が、第1のパケット、第2のパケット、及び第3のパケットに配置される、項目1、2、又は5のいずれか一項に記載の広帯域可視光反射体。
【0045】
項目12 複数の光学的繰り返し単位が、単一のパケットに配置される、項目1、2、又は5のいずれか一項に記載の広帯域可視光反射体。