(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ミドルダウン抗体特徴付けのための方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/37 20060101AFI20241004BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20241004BHJP
C07K 1/12 20060101ALI20241004BHJP
C07K 1/16 20060101ALI20241004BHJP
C07K 1/26 20060101ALI20241004BHJP
C07K 1/34 20060101ALI20241004BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C12Q1/37 ZNA
G01N27/62 X
G01N27/62 V
C07K1/12
C07K1/16
C07K1/26
C07K1/34
C07K16/00
(21)【出願番号】P 2023502690
(86)(22)【出願日】2021-07-19
(86)【国際出願番号】 US2021042164
(87)【国際公開番号】W WO2022020232
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-03-07
(32)【優先日】2020-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】509163824
【氏名又は名称】ユニベルシテイト ユトレヒト ホールディング ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】サンドバル, ウェンディ ノエル
(72)【発明者】
【氏名】カヴァル, トミスラヴ
(72)【発明者】
【氏名】ヘック, アルベルト ジェー.アール.
(72)【発明者】
【氏名】ヘクト, エリザベス サラ
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】ANAL. CHEM.,2014年,86,P.3005-3012
【文献】MABS,2016年,8(2),P.318-330
【文献】INT. J. MOL. SCI.,2019年,20 4843,P.1-19
【文献】PARASITOLOGY,2001年, 122,P.415-421
【文献】J. IMMUNOL.,1970年,105(4),P.973-983
【文献】BIOTECHNOL. PROG.,2019年,35(1),P.1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C12Q
C12N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体の配列を分析するための方法であって、
a.前記抗体をカテプシンL、カテプシンD、又はカテプシンLとカテプシンDとの組み合わせによって切断して、1つ又は複数の抗体断片を得ることであって、前記抗体が、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域(CL)を含む軽鎖と、重鎖可変領域(VH)及び重鎖定常領域(CH)を含む重鎖とを含み、前記カテプシンL及び/又は前記カテプシンDが、前記VL領域と前記CL領域との間及び/又は前記VH領域と前記CH領域との間で前記抗体を切断して、VL抗体断片及び/又はVH抗体断片並びにCL抗体断片及び/又はCH抗体断片を作製する、1つ又は複数の抗体断片を得ること、
b.任意に、前記切断後に前記抗体断片の1つ又は複数を単離すること、並びに
c.前記1つ又は複数の抗体断片の質量分析(MS)を行うこと
を含
み、
切断が、前記抗体を、前記カテプシンL、前記カテプシンD、又は前記カテプシンDとカテプシンLとの組み合わせとともに、pH2~8で、室温~50°Cの温度で、50%以下の有機溶媒の存在下でインキュベートすることによって行われ、
前記抗体が天然の状態にある、方法。
【請求項2】
前記抗体が、IgG抗体、例えばヒトのIgG1抗体、IgG2抗体、IgG2A抗体、IgG2B抗体又はIgG4抗体である、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
切断が、VL断片及び/又はVH断片を生成する、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記VL断片及び/又はVH断片に対してMS分析を行う、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
前記重鎖定常領域が少なくともCH1領域を含み、任意に、ヒンジ、CH2領域及び/又はCH3領域をさらに含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
抗体重鎖定常領域が、少なくともCH1領域、ヒンジ及びCH2領域を含み、前記カテプシンL
とカテプシンD
との組み合わせが、前記CH1領域と前記ヒンジとの間で前記抗体をさらに切断する、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体が、カテプシンLとカテプシンDとの組み合わせによって切断される、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体をカテプシンL及びカテプシンDの両方と同時にインキュベートすることを含む、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
切断が、前記VL領域と前記CL領域との間及び前記VH領域と前記CH領域との間で少なくとも50
%の切断を達成するように行われる、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
切断が、前記ヒンジにおいて、又は前記ヒンジより下で、少なくとも50
%の切断を達成するように行われる、請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
切断が、抗体に対するカテプシンL及び/又はカテプシンDの比:1:20~1:2000、1:20~1:500、1:50~1:500、1:100~1:500、1:200~1:1000、1:200~1:2000、1:500~1:2000、1:1000~1:2000、又は1:20、1:50、1:100、1:200、1:300、1:400、1:500、若しくは1:1000で
行われる、請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記抗体がIgG抗体であり、カテプシンLとカテプシンDとの組み合わせによって切断され、前記切断が、VL断片、VH断片、CL断片、CH1断片、CH2断片、CH3断片、CH2-CH3断片、CL+CH1(結合)断片、F(ab’)断片及びF(ab’)2断片をもたらす、請求項1~
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記有機溶媒
が、アセトニトリル、メタノール、エタノール又はイソプロピルアルコール
である、請求項1~
12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記pHが、3~
5である、請求項
1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記pHが3.5~4.5である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記pHが4である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
30%以下の有機溶媒が存在する、請求項
1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
切断が10~30%の有機溶
媒の存在下で行われる、請求項
1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
10%以下の有機溶媒が存在する、請求項
1~13いずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記温度が37°C~50°Cである、請求項
1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
抗体の配列を分析するための方法であって、
a.前記抗体をカテプシンLとカテプシンDとの組み合わせによって切断して、少なくとも軽鎖可変領域(VL)断片及び/又は重鎖可変領域(VH)断片を含む1つ又は複数の抗体断片を得ることであって、
i.前記抗体が天然の状態にあり、
ii.前記抗体が、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域(CL)を含む軽鎖と、重鎖可変領域(VH)及び重鎖定常領域(CH)を含む重鎖とを含み、前記カテプシンL及び前記カテプシンDが、前記VL領域と前記CL領域との間及び/又は前記VH領域と前記CH領域との間で前記抗体を切断して、VL抗体断片及び/又はVH抗体断片並びにCL抗体断片及び/又はCH抗体断片を作製し、
iii.前記切断が、25°C~50°Cの温度かつ3~5のpHで、30%以下の有機溶媒の存在下で行われる、1つ又は複数の抗体断片を得ること、
b.任意に、前記切断後に前記抗体断片の1つ又は複数を単離すること、並びに
c.前記1つ又は複数の抗体断片の質量分析(MS)を行うこと
を含む、方法。
【請求項22】
切断が、抗体に対するカテプシンL及び/又はカテプシンDの比:1:20~1:2000、1:20~1:500、1:50~1:500、1:100~1:500、1:200~1:1000、1:200~1:2000、1:500~1:2000、1:1000~1:2000、又は1:20、1:50、1:100、1:200、1:300、1:400、1:500、若しくは1:1000で行なわれる、請求項
21に記載の方法。
【請求項23】
切断後、前記1つ又は複数の抗体断片を、緩衝液交換、クロマトグラフィー(例えば、高速液体クロマトグラフィーなどの液体クロマトグラフィー、若しくはキャピラリー電気泳動)、濾過(例えば、分子量カットオフ濾過)、ジスルフィド結合の還元、塩酸グアニジンへの曝露、又はアルキル化のうちの1つ又は複数に供する、請求項1~
22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
切断後の前記1つ又は複数の抗体断片が、クロマトグラフィー又は濾過によって単離される、請求項1~
23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記1つ又は複数の抗体断片が液体クロマトグラフィーによって単離される、請求項
24に記載の方法。
【請求項26】
前記質量分析(MS)が、LC-MS又はLC-MS/MSを含む、請求項
1~
25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記1つ又は複数の抗体断片が切断後に単離されない、請求項1~
23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記質量分析が、直接注入質量分析(DIMS)、静的スプレー注入質量分析、又はフローインジェクション質量分析を含む、請求項
1~
27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記質量分析のデータが、1つの抗体断片の少なくとも10アミノ酸ストレッチのアミノ酸配列を決定するために使用される、請求項
1~
28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
1つの抗体断片の少なくとも15アミノ酸ストレッチの前記アミノ酸配列が決定される、請求項
29に記載の方法。
【請求項31】
1つの抗体断片の少なくとも20アミノ酸ストレッチの前記アミノ酸配列が決定される、請求項
30に記載の方法。
【請求項32】
少なくとも1つの抗体CDR領域の前記アミノ酸配列が決定される、請求項
29~
31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記VH及び/又は前記VLのCDR1、CDR2及びCDR3の配列が決定される、請求項
32に記載の方法。
【請求項34】
VH断片及び/又はVL断片などの少なくとも1つの抗体断片の完全なアミノ酸配列が決定される、請求項
1~
33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記配列がトップダウン分析によって決定される、請求項
29~
34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記配列がさらに分析されるか、又はボトムアップ分析によって確認される、請求項
35に記載の方法。
【請求項37】
抗体VH領域及び/又はVL領域のアミノ酸配列が未知である、請求項1~
36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記抗体のアミノ酸配列が未知である、請求項1~
36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記抗体の前記CL領域及び/又は前記CH領域、例えば、前記切断から生成されたCL断片、CH1断片、CH2断片及び/又はCH3断片に対してMSを実施することを含む、請求項
1~
38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
少なくとも1つの抗体断片に対してエドマン分解を実施することをさらに含む、請求項1~
39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記抗体が前記切断後に天然の状態のままである、請求項1~
40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記抗体が、前記切断中又は前記切断後に、変性剤又はジスルフィド結合を還元する薬剤で処理されない、請求項1~
41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記抗体が、前記切断中
及び前記切断後に、そのジスルフィド結合を保持する、請求項1~
42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記切断後に1つ又は複数の抗体断片の質量分析(MS)を実施することを含み、前記抗体が天然の状態のままであり、前記MS分析の前に変性剤又はジスルフィド結合を還元する薬剤で処理されない、請求項1~
43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
抗体の配列を分析するためのキットであって、カテプシンL、カテプシンD、又はカテプシンLとカテプシンDとの組み合わせを含み、
前記抗体が、カテプシンL、カテプシンD、又はカテプシンLとカテプシンDとの組み合わせによって切断されて、1つ又は複数の抗体断片が得られ、
前記抗体が、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域(CL)を含む軽鎖と、重鎖可変領域(VH)及び重鎖定常領域(CH)を含む重鎖とを含み、前記カテプシンL及び/又は前記カテプシンDが、前記VL領域と前記CL領域との間及び/又は前記VH領域と前記CH領域との間で前記抗体を切断して、VL抗体断片及び/又はVH抗体断片並びにCL抗体断片及び/又はCH抗体断片を作製し、
キットが、任意に、切断後に前記抗体断片の1つ又は複数を単離するための手段を含み、
前記1つ又は複数の抗体断片の質量分析(MS)が行われ、
切断が、前記抗体を、前記カテプシンL、前記カテプシンD、又は前記カテプシンDとカテプシンLとの組み合わせとともに、pH2~8で、室温~50°Cの温度で、50%以下の有機溶媒の存在下でインキュベートすることによって行われ、
前記抗体が天然の状態にある、キット。
【請求項46】
抗体の配列を分析するためのキットであって、カテプシンLとカテプシンDとの組み合わせを含み、
前記抗体がカテプシンLとカテプシンDとの組み合わせによって切断されて、少なくとも軽鎖可変領域(VL)断片及び/又は重鎖可変領域(VH)断片を含む1つ又は複数の抗体断片が得られ、
i.前記抗体が天然の状態にあり、
ii.前記抗体が、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域(CL)を含む軽鎖と、重鎖可変領域(VH)及び重鎖定常領域(CH)を含む重鎖とを含み、前記カテプシンL及び前記カテプシンDが、前記VL領域と前記CL領域との間及び/又は前記VH領域と前記CH領域との間で前記抗体を切断して、VL抗体断片及び/又はVH抗体断片並びにCL抗体断片及び/又はCH抗体断片を作製し、
iii.前記切断が、25°C~50°Cの温度かつ3~5のpHで、30%以下の有機溶媒の存在下で行われ、
キットが、任意に、切断後に前記抗体断片の1つ又は複数を単離するための手段を含み、
前記1つ又は複数の抗体断片の質量分析(MS)が行われる、
キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年7月20日に出願された米国仮出願第63/053,899号の優先権を主張し、その内容全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本開示は、例えば、デノボ抗体のシーケンシング、試料中の既知の抗体の同定、又は試料中の抗体の配列の検証のための、ミドルダウン抗体特徴付け及びシーケンシングなどの抗体特徴付けシーケンシングのための新しい方法に関する。いくつかの実施形態では、本方法は、抗体をカテプシンD、カテプシンL及び/又はカテプシンD及びカテプシンLに曝露し、続いて質量分析並びに配列同定及びデコンボリューションを行うことを含む。
【背景技術】
【0003】
背景
試料中の抗体配列などのタンパク質配列を同定するために現在使用されているアプローチには、ボトムアップ分析、ミドルダウン分析、及びトップダウン分析が含まれる。大部分の場合に使用されるボトムアップ分析では、多くの場合、いくつかの異なるプロテアーゼを使用して(例えば4~5種のプロテアーゼ)、液体クロマトグラフィー(LC)及び質量分析(MS)のための比較的短い重複ペプチド(例えば、9~30アミノ酸長又は約1~5kDa)を生成することができる。そのようなプロトコルを未知の抗体の配列を決定するために行う場合(すなわち、デノボシーケンシング)、例えば、多数の質量スペクトルを生成し、次いで、プロダクトイオンピーク間の抽出されたマスシフトに関する情報を使用する特殊なシーケンシングプログラムを使用して組み立てる必要がある。このアプローチの1つの制限は、配列分析の精度が、非常に高品質のMS(例えば、タンデムMS(MS/MS)断片化効率及び低質量誤差)データを得ること、及びタンパク質全体に及ぶペプチドを検出することに依存し得ることである。さらに、ボトムアップ分析は、多数の小さなペプチドから完全なタンパク質配列に配列情報を正しくつなぎ合わせることを必要とし得るため、ソフトウェアの課題を生じ得る。より少数のペプチド又はタンパク質断片を使用するミドルダウンアプローチは、これらのソフトウェアの課題を軽減するのに役立ち得る。
【0004】
ミドルダウンアプローチは、例えば、抗体が最初に重鎖のCH1領域とCH2領域との間のヒンジ領域の近く又はヒンジ領域内で切断されて、例えばF(ab’)2断片、F(ab’)断片、Fc断片、Fd断片、VL-CL断片を生成する抗体に使用することができる。最も一般的に使用される酵素は、Streptococcus pyogenes由来のシステインプロテイナーゼ(IdeS)であり、これはヒンジ領域の後で切断してF(ab’)2断片及びFc/2断片を生成する。ジスルフィド結合の還元後、軽鎖(LC)断片、Fd’断片、及びFc断片が生じ得、それぞれ、約25kDaのサイズ及び約200アミノ酸の長さである。
【0005】
これらの比較的長い断片は、一般的なMS機器を使用して分析した場合、完全に断片化することは困難であり、したがってデノボシーケンシングには適していない可能性がある。例えば、現在一般的なMS機器としては、衝突誘起解離を用いた飛行時間、又は高エネルギー衝突解離(HCD)を用いたOrbitrap(商標)の機器が挙げられるが、これらは、電子誘起解離(非常に効率的で直交する断片化手法)がなく、紫外線光解離(非常に大きなポリペプチドにも適している)がない。したがって、限定されたカバレッジのみを提供するミドルダウンアプローチは、デノボ抗体シーケンシングのためのボトムアップシーケンシング法で補完する必要があり得る。したがって、一般に使用されている業界標準のLC-MS/MS CID及びHCD機器により適した、したがってより実用的なタンパク質断片を生成する代替ミドルダウンメソッドが必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
概要
本開示は、とりわけ、抗体を切断するための方法であって、抗体をカテプシンL、カテプシンD、又はカテプシンLとカテプシンDとの組み合わせと混合して、1つ又は複数の抗体断片を得ることを含み、抗体は、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域(CL)を含む軽鎖と、重鎖可変領域(VH)及び重鎖定常領域(CH)を含む重鎖とを含み、カテプシンL及び/又はカテプシンDは、VL領域とCL領域との間及び/又はVH領域とCH領域との間で抗体を切断して、VL抗体断片及び/又はVH抗体断片並びにCL抗体断片及び/又はCH抗体断片を作製する。いくつかの実施形態では、本方法はまた、切断後に抗体断片の1つ又は複数を単離することを含む。いくつかの実施形態では、抗体断片は、切断後に単離されない。いくつかの実施形態では、切断後、1つ又は複数の抗体断片は、質量分析によって分析される。
【0007】
例えば、本開示はまた、抗体の配列を分析するための方法であって、(a)抗体をカテプシンL、カテプシンD、又はカテプシンLとカテプシンDとの組み合わせによって切断して、1つ又は複数の抗体断片を得ることであって、抗体が、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域(CL)を含む軽鎖と、重鎖可変領域(VH)及び重鎖定常領域(CH)を含む重鎖とを含み、カテプシンL及び/又はカテプシンDが、VL領域とCL領域との間及び/又はVH領域とCH領域との間で抗体を切断して、VL抗体断片及び/又はVH抗体断片並びにCL抗体断片及び/又はCH抗体断片を作製する、1つ又は複数の抗体断片を得ること、(b)任意に、切断後に抗体断片の1つ又は複数を単離すること、並びに(c)該1つ又は複数の抗体断片の質量分析(MS)を行うこと、を含む方法も包含する。
【0008】
任意の上記方法において、いくつかの実施形態では、抗体は、IgG抗体、例えばヒトIgG1抗体、IgG2抗体、IgG2A抗体、IgG2B抗体又はIgG4抗体である。いくつかの実施形態では、切断は、VL断片及び/又はVH断片を生成する。いくつかのこのような実施形態では、MS分析は、VL断片及び/又はVH断片に対して行われる。本明細書のいくつかの方法では、重鎖定常領域は、少なくともCH1領域を含み、任意に、ヒンジ、CH2領域及び/又はCH3領域をさらに含む。本明細書のいくつかの方法では、抗体重鎖定常領域は、少なくともCH1領域、ヒンジ及びCH2領域を含み、カテプシンL及び/又はカテプシンDは、CH1領域とヒンジとの間で抗体をさらに切断する。
【0009】
いくつかの実施形態では、抗体はカテプシンLによって切断される。いくつかの実施形態では、抗体はカテプシンDによって切断される。いくつかの実施形態では、抗体は、カテプシンLとカテプシンDとの組み合わせによって切断される。いくつかの場合では、IdeS又は別のプロテアーゼなどの追加の酵素も使用される。他の場合では、切断に使用される酵素は、カテプシンLからなるか、カテプシンDからなるか、又はカテプシンLとカテプシンDとの組み合わせからなる。いくつかの場合では、本方法は、抗体をカテプシンL及びカテプシンDの両方と同時にインキュベートすることを含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、切断は、VL領域とCL領域との間及びVH領域とCH領域との間で少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は100%の切断を達成するように行われる。いくつかの場合では、切断は、ヒンジにおいて、又はヒンジより下で、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は100%の切断を達成するように行われる。いくつかの場合では、抗体は、IgG抗体であり、カテプシンLとカテプシンDとの組み合わせによって切断され、切断は、VL断片、VH断片、CL断片、CH1断片、CH2断片、CH3断片、CH2-CH3断片、CL+CH1(結合)断片、F(ab’)断片及びF(ab’)2断片をもたらす。いくつかの実施形態では、切断は、軽鎖CDR1、軽鎖CDR2、及び軽鎖CDR3のそれぞれを含む断片、例えばVL断片、F(ab’)断片、又はF(ab’)2断片、及び/又は重鎖CDR1、重鎖CDR2、及び重鎖CDR3のそれぞれを含む断片、例えばVH、F(ab’)、又はF(ab’)2断片をもたらす。
【0011】
本明細書のいくつかの方法では、切断は、抗体をカテプシンL、カテプシンD、又はカテプシンDとカテプシンLとの組み合わせとともに、pH2~8(例えば、pH2~7、pH2~6、pH3~6、pH3~5、pH2、pH2.5、pH3、pH3.5、pH4、pH4.5、pH5、pH5.5、pH6、pH7又はpH8)で、室温~50°Cの温度で、50%以下の有機溶媒(例えば、アセトニトリル、メタノール、エタノール又はイソプロピルアルコール)の存在下でインキュベートすることによって行われ、抗体は天然の状態にある。本明細書のいくつかの方法では、切断は、0~50%、5~50%、5~30%、0~30%、10~30%、0~10%、5~15%、10~20%、15~25%、又は20~30%の濃度の1つ又は複数の有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、又はアセトニトリル)の存在下で行われる。0~50%、5~50%、5~30%、0~30%、10~30%、0~10%、5~15%、10~20%、15~25%、又は20~30%の濃度の1つ又は複数の有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、又はアセトニトリル)を含む方法を含む本明細書のいくつかの方法では、pHは、3~5、例えば3、3.5、4、4.5、又は5である。いくつかのそのような場合では、pHは3.5~4.5である。いくつかのそのような場合では、pHは4である。いくつかの切断反応では、30%以下の有機溶媒が存在する。いくつかのそのような場合では、切断は、10~30%の有機溶媒(例えば、10~30%アセトニトリル、10~30%メタノール、10~30%エタノール又は10~30%イソプロピルアルコール)の存在下で行われる。いくつかの切断反応では、10%以下の有機溶媒が存在する。いくつかの切断反応では、温度は37°C~50°Cである。
【0012】
本明細書の開示はまた、抗体の配列を分析するための方法であって、(a)抗体をカテプシンLとカテプシンDとの組み合わせによって切断して、少なくとも軽鎖可変領域(VL)断片及び/又は重鎖可変領域(VH)断片を含む1つ又は複数の抗体断片を得ることであって、(i)抗体が天然の状態にあり、(ii)抗体が、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域(CL)を含む軽鎖と、重鎖可変領域(VH)及び重鎖定常領域(CH)を含む重鎖とを含み、カテプシンL及びカテプシンDが、VL領域とCL領域との間及び/又はVH領域とCH領域との間で抗体を切断して、VL抗体断片及び/又はVH抗体断片並びにCL抗体断片及び/又はCH抗体断片を作製し、(iii)切断が、25°C~50°Cの温度かつ3~5のpHで、30%以下の有機溶媒の存在下で行われる、1つ又は複数の抗体断片を得ること、(b)任意に、切断後に抗体断片の1つ又は複数を単離すること、並びに(c)1つ又は複数の抗体断片の質量分析(MS)を行うこと、を含む方法も含む。
【0013】
本明細書の任意の方法では、切断後、1つ又は複数の抗体断片を、緩衝液交換、クロマトグラフィー(例えば、高速液体クロマトグラフィーなどの液体クロマトグラフィー、又はキャピラリー電気泳動)、濾過(例えば、分子量カットオフ濾過)、ジスルフィド結合の還元、塩酸グアニジンへの曝露、又はアルキル化のうちの1つ又は複数に供してもよい。例えば、これらの工程のうちの1つ又は複数は、MS分析の前に、又はMS分析を受けている試料の一部に対して実行され得る(例えば、試料の一部の還元又はアルキル化により、これらの変更を伴うMS割り当てと伴わないMS割り当てとを比較することができる)。いくつかの実施形態では、切断後の1つ又は複数の抗体断片は、クロマトグラフィー又は濾過によって単離される。いくつかのそのような場合では、1つ又は複数の抗体断片は、液体クロマトグラフィーによって単離される。
【0014】
いくつかの実施形態では、MS分析が行われる場合、MSはLC-MS又はLC-MS/MSを含む。他の場合では、1つ又は複数の抗体断片は、切断後に単離されない。いくつかの実施形態では、質量分析が実行される場合、質量分析は、直接注入質量分析(DIMS)、静的スプレー注入質量分析、又はフローインジェクション質量分析を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、質量分析が行われる場合、質量分析のデータが、1つの抗体断片の少なくとも10アミノ酸ストレッチのアミノ酸配列を決定するために使用される。いくつかの実施形態では、1つの抗体断片の少なくとも15アミノ酸ストレッチのアミノ酸配列が決定される。いくつかの実施形態では、1つの抗体断片の少なくとも20アミノ酸ストレッチのアミノ酸配列が決定される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの抗体CDR領域のアミノ酸配列が決定される。いくつかの実施形態では、VH及び/又はVLのCDR1、CDR2及びCDR3の配列が決定される。いくつかの実施形態では、VH断片及び/又はVL断片などの少なくとも1つの抗体断片の完全なアミノ酸配列が決定される。いくつかの実施形態では、配列は、トップダウン分析によって決定される。いくつかの実施形態では、配列は、さらに分析されるか、又はボトムアップ分析によって確認される。いくつかの実施形態では、抗体VH領域及び/又はVL領域のアミノ酸配列は、未知である。いくつかの実施形態では、抗体のアミノ酸配列は、未知である。いくつかの実施形態はまた、抗体のCL領域及び/又はCH領域、例えば、切断から生成されたCL断片、CH1断片、CH2断片及び/又はCH3断片に対してMSを実施することも含む。いくつかの場合では、本明細書の任意の方法は、少なくとも1つの抗体断片に対してエドマン分解を実施することをさらに含む。本明細書のいくつかの方法では、切断は、抗体に対するカテプシンL及び/又はカテプシンDの比:1:20~1:2000、1:20~1:500、1:50~1:500、1:100~1:500、1:200~1:1000、1:200~1:2000、1:500~1:2000、1:1000~1:2000、又は1:20、1:50、1:100、1:200、1:300、1:400、1:500、若しくは1:1000で行なわれる。本明細書のいくつかの方法では、抗体は、切断後に天然の状態のままである。本明細書のいくつかの方法では、抗体は、切断中又は切断後に、変性剤又はジスルフィド結合を還元する薬剤で処理されない。本明細書のいくつかの方法では、抗体は、切断中又は切断後に、そのジスルフィド結合を保持する。本明細書のいくつかの方法は、切断後に1つ又は複数の抗体断片の質量分析(MS)を実施することを含み、抗体は天然の状態のままであり、MS分析の前に変性剤又はジスルフィド結合を還元する薬剤で処理されない。
【0016】
本開示はまた、上記の方法に従って生成された抗体断片を含む組成物を含む。いくつかの場合では、組成物は、カテプシンL、カテプシンD、又はカテプシンLとカテプシンDとの組み合わせによる切断から生成されたIgG抗体断片を含み、抗体断片は、VH断片及びVL断片の一方又は両方と、以下の断片:CL断片、CH1断片、CH2断片、CH3断片、CH2-CH3断片、CL+CH1(結合)断片、F(ab’)断片及びF(ab’)2断片の少なくとも1つ、少なくとも2つ、又は少なくとも3つを含む。いくつかの場合では、VH断片及び/又はVL断片は、90~150アミノ酸、例えば95~140アミノ酸、例えば100~140アミノ酸、又は例えば100~120アミノ酸の長さを含む。いくつかのそのような場合では、VH断片及び/又はVL断片は、10~16kDa、例えば10~13kDa、例えば10~12kDa、例えば10~11kDa、又は例えば11~12kDaの分子質量を有する。
【0017】
本開示はまた、カテプシンL、カテプシンD、又はカテプシンLとカテプシンDとの組み合わせによってタンパク質を消化するのに使用するためのキットを含み、該キットは、(a)カテプシンL及び/又はカテプシンD、(b)1つ又は複数の反応緩衝液、並びに任意に(c)タンパク質の消化に使用するための説明書を含む。いくつかの場合では、キットは、上記の方法に従って抗体を切断するのに使用するための試薬を提供する。いくつかのキットでは、反応緩衝液は、pH2~8、pH2~7、pH2~6、pH2~5、pH3~6、pH3~5、pH3~4、pH4~5、pH2、pH2.5、pH3、pH3.5、pH4、pH4.5、pH5、pH5.5、pH6、pH7又はpH8であり、反応緩衝液は、1つ又は複数の有機溶媒を含む。いくつかの実施形態では、反応緩衝液は、0~50%、5~50%、5~30%、0~30%、10~30%、0~10%、5~15%、10~20%、15~25%、又は20~30%の濃度の1つ又は複数の有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、又はアセトニトリル)を含む。いくつかの場合では、反応緩衝液はpH3、pH3.5、pH4、pH4.5又はpH5である。いくつかのキットでは、反応緩衝液はpH4である。
【0018】
前述の一般的な説明及び以下の詳細な説明の両方は、例示的かつ説明的なものにすぎず、特許請求の範囲を限定するものではないことを理解されたい。本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付の図面は、特定の実施形態又は態様を示し、説明とともに、本明細書に記載の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1A~
図1Dは、カテプシンLに曝露されたリツキシマブのスペクトルを示す。
図1A~
図1Bは、カテプシンLに曝露された全スペクトルのリツキシマブを示し、約10kDaの質量のCDR L3クリップ、約47kDaの「1アーム」クリップ、約100kDaの1アームクリップの相補体(例えば、100,238は、147,400のG1F/G1Fを有する完全モノクローナル抗体(mAb)が、水の18と一緒に47,178を欠損している)、及び約147kDaのインタクトmAbを示す。
図1C~
図1Dは、1アームクリップのm/z範囲(3000~4000)及びm範囲(45000~49000)に注目して、カテプシンLスペクトルに曝露された同じリツキシマブの電荷デコンボリューションを示す。
【0020】
【0021】
【
図3】
図3A~
図3Dは、カテプシンLに曝露されたオビヌツズマブのスペクトルを示す。
図3A~
図3Bは、完全なmAbピークを示す。148630.4Daは、G0/G0グリコシル化を有するmAbについて良好な一致であり、148,834.1は余分なGlcNAcについて良好な一致であり、149038.0は2つの余分なGlcNAcを有する。オビヌツズマブは、大部分がフコシル化グリカンを有するように糖鎖工学的に改変されている。
図3C~
図3Dは、1アームクリップを示す。
【0022】
【
図4】
図4A~
図4Hは、カテプシンDに曝露されたオビヌツズマブのスペクトルを示す。
図4A~
図4Bは、全スペクトルを示す。
図4C~
図4Dは、完全なmAbピークを示す。148628.3Daは、G0/G0グリコシル化を有するmAbについて良好な一致であり、148,832.9は余分なGlcNAcについて良好な一致であり、149034.7は2つの余分なGlcNAcを有する。
図4E~
図4Fは、完全な1アームクリップを示す。
図4G~
図4Hは、F(ab’)2クリップを示す。
【0023】
【0024】
【0025】
【
図7】
図7A~
図7Bは、カテプシンDによって消化されたリツキシマブのネイティブ質量スペクトルを示す。
図7Aは、完全なm/z範囲のデコンボリューションが9~98kDaのペプチドを与えることを示し、有意な量のインタクトAb(約147kDa)を示す。97,684のピークは、LLGGPSVF.Lのヒンジの下での切断から生成される。F(ab’)LLGGPSVF.L+F(ab’)LLGGPSV.Fによって形成された97,538などの非対称クリップも観察され、挿入図に示されている。
図7Bは、47kDa領域にわたるデコンボリューションが、IgG1結晶構造(PDB1HZH)上に示される特定の部位位置、F(ab’)で観察されるクリップの多重度を明らかにすることを示す。
【0026】
【
図8】
図8は、ヒトIgG1、IgG2-B及びIgG1抗体上のカテプシンL(灰色の線)及びカテプシンD(黒色の無地の線)単独及び組み合わせの好ましい切断部位を示す。IgG1クラスでは、カテプシンL及びDはそれぞれ、重鎖(HC)及び軽鎖(LC)CDR3、ヒンジの上方(F(ab’))、及び重鎖ヒンジ領域全体(灰色及び黒色の破線)で切断を生じた。カテプシンDのみが配列PSVFL.Fを独特に切断してF(ab’)2を得た。(黒実線。)カテプシンL及びカテプシンDの組み合わせは、各末端に菱形を有する黒い線によって示される位置でさらなる切断を生じた。エクリズマブ(IgG2-B)では、ジスルフィドパターンが異なるためヒンジ部における切断は観察されなかった。IgG1二重特異性では、抗Her2(ノブ)アームで観察されたものと比較して、Fc抗CD3アーム(ホール)における切断は観察されなかった。
【0027】
【
図9】
図9A~
図9Bは、異なる処理にわたるカテプシンL及びカテプシンDの消化効率の比較を示す。
図9Aは、表3及び11に報告されているすべての同定されたポリペプチドを示す。ポリペプチドを合計し、インタクトなトラスツズマブの強度に対して取得した。
図9Bは、主Abピークに対する比として得られたすべてのペプチドピークのUVピーク面積(EIC溶出時間に対応する)を示す。エラーバーは、測定値の標準偏差を表す。
【0028】
【
図10】
図10A~
図10Eは、ワンポットのカテプシンL及びカテプシンD消化物のUV及びTIC測定の例を示す。インセットは、それらの溶出時間ウィンドウにわたって平均化され、インタクト質量でデコンボリューションされた選択されたMSスペクトルを示す(Protein Metrics)。正確な質量は、時間、質量、及びm/z範囲、並びに電荷デコンボリューションに使用される他のパラメータに依存するため、これらの図の質量は、本明細書に開示された表に与えられた質量からわずかに変化し得る。
【0029】
【
図11】
図11A~
図11Dは、カテプシンpH4試料の静的注入のスペクトルを示す。Biorad Microspin(登録商標)カラムを使用して、超高質量範囲(UHMR)質量分析計で、試料を50mM酢酸アンモニウムに緩衝液交換した。MS1スペクトルは200m/zで17,500分解能で得られ、電荷状態は50K又は100K分解能でSIMモードで確認された。
図11Aは、Rf設定が高質量(>4000m/z)に対して調整及び最適化されたことを示す。
図11Bは、Rf設定が中範囲質量(1500~4000m/z)に対して調整及び最適化されたことを示す。
図11C及び
図11Dは、それぞれ12.1kDa種及び47kDa種の高分解能質量スペクトルを示す。
【0030】
【
図12】
図12は、カテプシンL及びカテプシンD最適化消化物のエドマン分解の割り当てを示す。「()」中のアミノ酸は、良好な信頼性で同定されたものより信頼性が低い。
【0031】
【
図13】
図13A~
図13Cは、選択されたカテプシン消化産物のMS2スペクトルを示す。
図13Aは、12.1kDa種の質量スペクトルを示す。
図13Bは、47kDa種の質量スペクトルを示す。
図13Cは、98kDa種の質量スペクトルを示す。
【0032】
【
図14】
図14A~
図14Bは、選択されたポリペプチドの上から下への注釈を示す。(
図14A)12,121.5Da及び(
図14B)98kDaの生成物のカバレッジを示す。薄い灰色のyイオンはGで終わるHC配列、濃い灰色はGG、三角はyイオン+特定されない共有結合性架橋修飾に対応している。黒色は、HC bイオン又はLC b/yイオンを表す。スペクトルをnESI注入により収集し、Xtractアルゴリズムを使用してデコンボリューションし、ProSight Lite及び社内プログラムを使用して10ppmの許容範囲で断片にマッチングさせた。
【0033】
【
図15】
図15A~
図15Cは、アミノ酸濃縮モチーフを示す。
図15Aは、カテプシンLを示す。
図15Bは、カテプシンDを示す。
図15Cは、ワンポットのカテプシンL及びカテプシンD消化物を示す。p4=p4’に対するアミノ酸選択性を、Seq2Logo 2.0[71]において評価した。
【0034】
【
図16】
図16は、最適化された消化プロトコル後に観察されたトラスツズマブ及び切断部位の分子モデルを示す。トラスツズマブ(PDB 6BI2)LCを右/上側(底面方向)に示し、HC AA 1-221を左/上側(底面方向)に示す。HC CH2及びCH3領域は黒色で示され組み合わされており、示されている構造は単一のAbアーム(抗体の半分)である。社内プログラムGYSTを使用して、完全長IgG1結晶構造(PDB 1HZH)の残基1~214にトラスツズマブF(Ab’)をアライメントし、PyMol 2.3.5でモデル化した。アライメントしたIgG1(AA228~478)のCH1、CH2、及びヒンジ領域は、トラスツズマブと90.9%の同一性を有し、すべての切断部位が同一の相同性の領域上にあった。ジスルフィド結合は示さず、Fcグリカンは白色の棒として示されている。任意の切断部位が球モデルとして示されており、黒色に着色されている。
【発明を実施するための形態】
【0035】
特定の実施形態のさらなる説明
定義
別段の定義がない限り、本発明に関連して使用される科学的及び技術的用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するものとする。
【0036】
本出願では、「又は」の使用は、特に明記しない限り、「及び/又は」を意味する。多数項従属請求項の文脈では、「又は」の使用は、1つよりも多くの先行する独立請求項又は従属請求項のいずれかのみを指す。また、「要素」又は「構成成分」などの用語は、特に明記しない限り、1つの単位を含む要素及び構成成分と、1つよりも多くのサブユニットを含む要素及び構成成分の両方を包含する。
【0037】
本明細書に記載の場合、任意の濃度範囲、パーセンテージ範囲、比率の範囲、又は整数範囲は、別段示されない限り、列挙された範囲内のあらゆる整数、及び適切な場合、それらの分数(整数の10分の1及び100分の1など)の値を含むと理解されるべきである。
【0038】
単位、接頭辞、及び記号は、国際単位系(SI)で受け入れられている形式で示されている。数値範囲は、範囲を定義する数を含む。本明細書で提供される見出しは、全体として本明細書を参照することによって有することができる本開示の様々な態様の限定ではない。したがって、以下ですぐ下に定義される用語は、本明細書をその全体で参照することによってより完全に定義される。
【0039】
本開示に従って利用される場合、以下の用語は、他に別段の指示がない限り、以下の意味を有するものと理解すべきである。
【0040】
本明細書で使用される「試料」は、分析を必要とするタンパク質又は抗体を含み得る任意の検体を指す。
【0041】
「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は互換的に使用され、アミノ酸残基のポリマーを指す。このようなアミノ酸残基のポリマーは、天然及び/又は非天然アミノ酸残基を含有し得、限定されないが、アミノ酸残基のペプチド、オリゴペプチド、二量体、三量体、及び多量体が挙げられる。この用語はまた、例えば、グリコシル化、シアリル化などの修飾を有するか、又は他の分子と複合体化したアミノ酸のポリマーを含む。
【0042】
本明細書における「ペプチド」は、4~50アミノ酸程度などのアミノ酸の比較的短いポリマーである。
【0043】
「抗体」又は「Ab」という用語は、本明細書では最も広い意味で使用され、限定されるものではないが、それらが所望の抗原結合活性を示す限り、モノクローナル抗体(mAb)、ポリクローナル抗体、及び多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)を含めた、様々な抗体構造を包含する。本明細書で使用される場合、この用語は、少なくとも重鎖の相補性決定領域(CDR)1、CDR2、及びCDR3と、少なくとも軽鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3とを含む分子であって、抗原に結合することができる分子を指す。抗体という用語には、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、及びマウス、カニクイザルなどの様々な種の抗体も含まれるが、これらに限定されない。この用語は、抗原結合断片も包含する。「抗原結合断片」という用語は、Fv、一本鎖Fv(scFv)、Fab、Fab’、及び(Fab’)2などの抗原に結合することができる抗体の断片を含むが、これらに限定されない。対照的に、「完全長抗体」は、その正常な可変領域部分及び定常領域部分のすべてを含む抗体分子を指す。他のタンパク質及びペプチドと同様に、いくつかの実施形態では、抗体は、グリコシル化などの様々なタイプの翻訳後修飾を含み得る。
【0044】
タンパク質、ポリペプチド又は抗体の「断片」(「抗体断片」)は、一般に、タンパク質から酵素によって切断された抗体又はペプチドのFc又はF(ab’)2断片など、より大きな分子の一部又は領域を指す。例えば、抗体断片などのタンパク質断片は、本開示に記載の方法における酵素的切断によって生成され得る。又は、質量分析プロセス中に生成され得る。
【0045】
本明細書における「天然の状態」にあるタンパク質又は抗体は、その天然の折り畳まれた構造及びジスルフィド結合を保持し、変性されていない、アンフォールディングされていない、又は還元されてジスルフィド結合が除去されていないものを意味する。天然の状態にあるタンパク質は、例えば、タンパク質を変性又はアンフォールディングさせることなく天然の折り畳みを弛緩させるのに十分な有機溶媒の存在下にあり得る。
【0046】
「重鎖」又は「HC」という用語は、リーダー配列の有無にかかわらず、少なくとも重鎖可変領域を含むポリペプチドを指す。いくつかの実施形態では、重鎖は、重鎖定常領域の少なくとも一部を含む。「完全長重鎖」という用語は、リーダー配列の有無にかかわらず、及びC末端リジン(K)の有無にかかわらず、完全長重鎖可変領域及び完全長重鎖定常領域を含むポリペプチドを指す。「成熟完全長重鎖」という用語は、リーダー配列を含まず、C末端リジン(K)を含む又は含まない、重鎖可変領域及び重鎖定常領域を含むポリペプチドを指す。いくつかの実施形態では、重鎖は、ピログルタミン酸修飾などの翻訳後修飾を含むが、他の場合では、重鎖はそのような修飾を含まない。
【0047】
「重鎖可変領域」又は「VH」という用語は、重鎖の重鎖相補性決定領域(CDR)1、フレームワーク領域(FR)2、CDR2、FR3、及びCDR3を含む領域を指す。いくつかの場合では、VHはまた、CDR1の前にFR1の一部又は全部を含み、及び/又は、CDR3の後にFR4の一部又は全部を含む。「完全長VH」は、CDR1、FR、CDR2、FR3、CDR3セグメントにそれぞれ先行する及び続く完全FR1及び完全FR4を含むVHである。本明細書で使用される場合、第2のセグメントの「前(prior to)」又は「先行する(precedes)」第1のタンパク質セグメントは、第1のセグメントが第2のセグメントに対してN末端であることを意味する。第2のセグメントの「後」の第1のセグメントは、第2のセグメントのC末端である。ヒトIgG抗体のVHは、EUナンバリングで、典型的には重鎖のアミノ酸1~117を含む。
【0048】
「軽鎖」又は「LC」という用語は、リーダー配列の有無にかかわらず、少なくとも軽鎖可変領域を含むポリペプチドを指す。いくつかの実施形態では、軽鎖は、軽鎖定常領域の少なくとも一部を含む。「完全長軽鎖」という用語は、リーダー配列の有無にかかわらず、完全長軽鎖可変領域及び完全長軽鎖定常領域を含むポリペプチドを指す。「成熟完全長軽鎖」という用語は、リーダー配列を含まない、軽鎖可変領域及び軽鎖定常領域を含むポリペプチドを指す。いくつかの場合では、軽鎖は翻訳後修飾を含み得るが、他の場合では含まない。
【0049】
「軽鎖可変領域」又は「VL」という用語は、軽鎖CDR1、FR2、HVR2、FR3、及びHVR3を含む領域を指す。いくつかの実施形態では、軽鎖可変領域はまた、FR1及び/又はFR4の少なくとも一部を含む。「完全長VL」は、CDR1、FR、CDR2、FR3、CDR3セグメントにそれぞれ先行する及び続く完全FR1及び完全FR4を含むVLである。ヒト抗体のVLは、EUナンバリングで、典型的には重鎖のアミノ酸1~107を含む。
【0050】
本明細書で使用される「重鎖定常領域」又は「CH」という用語は、重鎖可変領域に続き、1、2、又は3つの重鎖定常領域、CH1、CH2、及びCH3、並びにそれらの領域を連結する任意のセグメントを包含する領域を指す。IgG抗体の重鎖の定常領域は、典型的には、CH1、CH2、及びCH3と呼ばれる3つの領域を有し、CH1とCH2との間に短い「ヒンジ」領域を有する。CH2及びCH3領域は集合的に抗体の「Fc」断片を形成する。IgGクラスの抗体の「ヒンジ」領域は、抗体の天然の状態にある比較的柔軟な重鎖のCH1部分とCH2部分との間の短いアミノ酸配列領域を指す。EUナンバリングでは、ヒトIgG抗体のヒンジ領域は重鎖の約アミノ酸216~230に見られ、CH1領域は約アミノ酸118~215に見られ、CH2は約アミノ酸231~340に見られ、CH3は約アミノ酸341~447に見られる。
【0051】
非限定的な例示的重鎖定常領域には、γ、δ及びαが含まれる。非限定的な例示的重鎖定常領域には、ε及びμも含まれる。また、γ定常領域を含む抗体はIgG抗体であり、δ定常領域を含む抗体はIgD抗体であり、α定常領域を含む抗体はIgA抗体である。さらに、μ定常領域を含む抗体はIgM抗体であり、ε定常領域を含む抗体はIgE抗体である。特定のアイソタイプは、サブクラスにさらに細分することができる。例えば、IgG抗体には、IgG1抗体(γ1定常領域を含む)、IgG2抗体(γ2定常領域を含む)、IgG3抗体(γ3定常領域を含む)、及びIgG4抗体(γ4定常領域を含む)が含まれるが、これらに限定されない。IgA抗体には、IgA1抗体(α1定常領域を含む)及びIgA2抗体(α2定常領域を含む)が含まれるが、これらに限定されない。IgM抗体には、IgM1及びIgM2が含まれるが、これらに限定されない。
【0052】
いくつかの実施形態では、重鎖定常領域、フレームワーク領域、又は軽鎖定常領域は、抗体に所望の特徴を付与する1つ又は複数の突然変異(又は置換)、付加又は欠失を含む。例えば、非限定的な例示的突然変異は、IgG4モチーフCPSCPをIgG1の対応するモチーフに類似するCPPCPに変更する、ヒトIgG4ヒンジ領域(定常ドメインCH1とCH2との間)のS241P突然変異である。その突然変異は、より安定なIgG4抗体をもたらし得る。例えば、Angal et al.,Mol.Immunol.30:105-108(1993);Bloom et al.,Prot.Sci.6:407-415(1997);Schuurman et al.,Mol.Immunol.38:1-8(2001)を参照のこと。
【0053】
本明細書で使用される「軽鎖定常領域」又は「CL」という用語は、VL領域の後の領域を指し、略して「CL」と呼ばれ得る。非限定的な例示的な軽鎖定常領域には、λ及びκが含まれる。ヒト抗体のCLは、EUナンバリングで、典型的には重鎖のアミノ酸108~214を含む。
【0054】
「IgG」又は「免疫グロブリンG」抗体は、いくつかの哺乳動物抗体クラスの1つであり(他は、例えばIgA、IgMなどである)、γ定常領域を含む。これは、2つの重鎖及び2つの軽鎖から形成される四量体タンパク質である。軽鎖は、典型的には、可変領域及び軽鎖定常領域(それぞれVL及びCL)を含む。重鎖は、典型的には、重鎖可変領域(VL)と、それに続くCH1、ヒンジ、CH2、及びCH3定常領域とを含む。
【0055】
本明細書で使用される場合、カテプシンD又はLなどのプロテアーゼは、VL及びCL又はVH及びCH(すなわちCH1)などの2つの領域の「間で」抗体を切断し得る。そのような場合では、例えば、VLとCLとの間又はVHとCHとの間の切断の場合、これは、切断が、CDR3の直前、CDR3内、又はVL若しくはVHのFR4内であるが、抗体のCL又はCH(すなわちCH1)セグメント中の20番目のアミノ酸の前に起こることを意味する。これは、例えば、本明細書の実施例に示されている。例えば、CH1領域とCH2領域との間に生じる切断は、CH1領域の大部分を含有する1つの断片及びCH2領域の大部分を含有する別の断片をもたらすように、ヒンジ領域の前、ヒンジ領域内、又はヒンジ領域の後に同様に起こり得る。
【0056】
本明細書で使用される場合、特定のアミノ酸領域又は位置「に先行する(preceding)」、「の前(prior to)」、「の前(before)」又は「の上(above)」のプロテアーゼ切断部位は、切断がその領域又は位置に対してN末端で起こることを意味する。特定の位置又は領域「に続く(following)」又は「の後(after)」又は「の下(below)」に生じる切断は、その位置又は領域に対してC末端の切断を意味する。同様に、別のアミノ酸領域又は位置「に先行する(precedes)」又は「の前(prior to)」、「の前(before)」又は「の上(above)」の領域又はアミノ酸位置は、その他のアミノ酸領域又は位置に対してN末端である。別の領域又は位置に続く(follows)」又は「の後(after)」又は「の下(below)」の領域又はアミノ酸位置は、その他の領域又は位置に対してC末端である。
【0057】
「カテプシンL」は、真核細胞で発現されるリソソームプロテアーゼを含み、天然又は組換え生産され得る。カテプシンLは、ヒト又は他の哺乳動物などの様々な真核生物に由来し得る。カテプシンLはまた、カテプシンL活性を保持するが、例えば、活性、収量、貯蔵寿命又は安定性を改善し得る天然カテプシンLの遺伝子操作されたバリアントを含み得る。カテプシンLは、カテプシンL1としても知られている。いくつかの実施形態では、カテプシンLはヒトカテプシンL、例えば組換えヒトカテプシンLである。哺乳動物カテプシンLは、CTSL1遺伝子から発現される。例示的なヒトカテプシンLは、配列番号10の配列を含み、Sigma(カタログ番号C6854)から購入することもできる。
【0058】
「カテプシンD」は、真核細胞で発現されるリソソームプロテアーゼを含み、天然又は組換え生産され得る。カテプシンDは、ヒト又は他の哺乳動物などの様々な真核生物に由来し得る。カテプシンDはまた、カテプシンD活性を保持するが、例えば、活性、収量、貯蔵寿命又は安定性を改善し得る天然カテプシンDの遺伝子操作されたバリアントを含み得る。いくつかの実施形態では、カテプシンDは、組換えヒトカテプシンDなどのヒトカテプシンDである。哺乳動物のカテプシンDは、CTSD遺伝子から発現される。例示的なヒトカテプシンLは、配列番号9の配列を含み、Sigma(カタログ番号C8696)から購入することもできる。
【0059】
タンパク質又はタンパク質断片の「デノボ」シーケンシングは、完全長抗体分子又は抗原結合断片又は他の抗体断片などのそのタンパク質又は断片の配列を決定することを指し、配列は他の手段によって事前には知られていない。言い換えれば、シーケンスは、いかなる以前に知られているシーケンス情報にも依存せずに「最初から」決定される。
【0060】
「ボトムアップ」タンパク質シーケンシング方法は、タンパク質を消化して、典型的には長さ又はサイズが短い(例えば、約3~5kDa又は約5~30アミノ酸長)ペプチドを、例えばトリプシンなどの酵素により形成し、ペプチドを質量分析によって分析し、次いで、重複するペプチドの分析及び既知のタンパク質配列との比較などによって、ソフトウェアを介して組み立てる方法を指す。
【0061】
「トップダウン」シーケンシングは、インタクトなタンパク質又はポリペプチドの質量を測定し、次いで質量分析によってタンパク質全体を一連のプロダクトイオンに断片化することを含み、そこから配列情報を得ることができる。
【0062】
「ミドルダウン」シーケンシングは、タンパク質をより大きなサイズの断片(例えば約5~25kDa)に分割することを含み、次いで、それを分離し、トップダウン及び/又はボトムアップアプローチによってさらに分析することができる。このアプローチは、典型的にはプロテアーゼを使用して断片を生成する。
【0063】
本明細書で使用される場合、酵素切断反応後に1つ又は複数のタンパク質断片を「単離すること」は、汚染タンパク質からの干渉なしに断片に対して配列又は構造分析が行われ得るように、少なくとも部分的に所望のタンパク質断片を他の断片から分離すること、及び/又は少なくとも部分的に断片を酵素から分離することを指す。いくつかの場合では、所望の断片は、質量分析中に単離することができるが、他の場合では、クロマトグラフィー、濾過、又は他の方法によって少なくとも部分的に単離され得る。
【0064】
「液体クロマトグラフィー」又は「LC」は、固定相(例えば、粒状材料のカラム)及び移動相(すなわち、流体)とのそれぞれの相互作用によって試料の成分を分離するプロセスを指す。LCは、1つの分離プロセスが実行されることを意味する一次元(1D-LC)で実施されてもよく、又は第1の分離の溶出液又はその一部が異なる移動相を使用するなどの異なる分離手段を使用して第2の分離工程でさらに分離されることを意味する二次元(2D-LC)で実施されてもよい。LCは、例えば、HPLC及び逆相HPLC法を包含する。「高速液体クロマトグラフィー」又は「HPLC」は、移動相が加圧下でカラムなどの固定相に流されるLCシステムのタイプを指す。HPLCシステムは、質量分析計などの検出器に連結されてもよい。HPLCプロセスは、「順相」(「NP」又は「NP-HPLC」)又は「逆相」(「RP」又は「RP-HPLC」又は「RPLC」)で実施することができる。RPLCプロセスでは、固定相(例えば、カラム)は非極性であり、移動相は極性であり、例えば水/極性有機溶媒混合物又は勾配である。順相HPLCでは、固定相(例えば、カラム)は極性であり、移動相は非極性である。LC法はまた、ポリペプチドをサイズによって分離するためのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、並びに疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、強陽イオン交換(SCX)、強陰イオン交換(SAX)、WSX及び他の電荷-バリアント相互作用相などの電荷又は等電点(pI)によって分離する相を使用する方法を含む。
【0065】
「質量分析」又は「MS」は、試料中の1つ又は複数の分子の質量電荷比(m/z)を測定する技術を指す。本明細書で使用される場合、「タンデムMS」又は「MS/MS」は、単一イオン、複数イオン、又は質量エンベロープ全体(前駆体)が断片化チャンバに移動され、次いで断片化された生成物が質量分析器に送られるプロセスを指す。質量分析計の設計に応じて、断片化事象は、単一の質量分析器の前、2つ又は複数の異なる分析器の間、又は単一の質量分析器内で起こり得る。
【0066】
MS分析には様々な選択肢があり得る。いくつかの実施形態では、MS機器は四重極分析器を備えない。いくつかの実施形態では、MS機器は少なくとも1つの四重極を備える。いくつかの実施形態では、MS機器は少なくとも2つの四重極分析器を備える。いくつかの実施形態では、MS機器は少なくとも3つの四重極分析器を備える。いくつかのMSでは、検出器はイオントラップ、四重極、orbitrap、又はTOFである。いくつかの実施形態では、MS機器又は方法は、多重反応モニタリング(MRM)、単一イオンモニタリング(SIM)、三段四重極(TSQ)、四重極/飛行時間(QTOF)、四重極線形イオントラップ(QTRAP)、ハイブリッドイオントラップ/FTMS、飛行時間/飛行時間(TOF/TOF)、Orbitrap機器、イオントラップ機器、並列反応モニタリング(PRM)、データ依存型取得(DDA)、データ非依存型取得(DIA)、多段断片化又は時間タンデムMS/MSである。
抗体切断
【0067】
本明細書のいくつかの実施形態では、抗体は、カテプシンL、カテプシンD、又はカテプシンL若しくはカテプシンDの組み合わせにより切断される。いくつかの実施形態では、抗体はカテプシンLのみで消化され、他の酵素では消化されない。いくつかの実施形態では、抗体はカテプシンDのみで消化され、他の酵素では消化されない。いくつかの実施形態では、抗体は、カテプシンL及びカテプシンDの両方で消化されるが、他の酵素では消化されない。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの他のプロテアーゼ、例えばIdeSもまた、抗体を消化するために使用される。カテプシンL及びカテプシンD酵素の両方を使用する場合、酵素を抗体と同時に(すなわち、ワンポット反応において)、又は順次交互に、インキュベートしてよい。
【0068】
いくつかの実施形態では、抗体はIgG抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、又はIgG4抗体などのヒトIgG抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、完全長IgG抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、完全長ヒトIgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体又はIgG4抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、完全長軽鎖及び/又は完全長重鎖を有する。他の実施形態では、抗体は、完全長軽鎖を有さず、及び/又は完全長重鎖を有さない。いくつかのそのような場合では、抗体は、VL領域と少なくとも一部のCL領域とを含む軽鎖を含む。いくつかのそのような場合、抗体は、VH領域及び少なくとも一部のCH1領域、例えばCH1、ヒンジ及び少なくとも一部のCH2セグメント、又はCH1及びヒンジのみ、又はCH1のみ、又はCH1のN末端部分のみを含む。いくつかの実施形態では、抗体は、例えばF(ab’)2断片又はFab断片などの抗原結合断片である。
【0069】
いくつかの実施形態では、切断反応は、天然の状態にある抗体に対して行われ、すなわち、天然の抗体折り畳みパターンが維持され、任意のジスルフィド結合がインタクトであり、還元されない。したがって、いくつかの実施形態では、抗体は還元又は変性に供されていない。しかし、いくつかの実施形態では、抗体の状態を最適な切断のためにある程度緩和するために、最大50%の有機溶媒を添加してもよい。例えば、いくつかの実施形態では、5~30%、10~30%、0~10%、5~15%、10~20%、15~25%、又は20~30%などの0~30%の有機溶媒を添加してもよい。有機溶媒は、例えば、アセトニトリル、メタノール、エタノール又はイソプロピルアルコールを含んでもよい。
【0070】
ヒトIgG1抗体及びIgG2B抗体上の抗体の切断部位を
図8に概略的に示す。本明細書の方法では、カテプシンL及びカテプシンDの両方が、VH領域とCH領域との間並びにVL領域とCL領域との間を含む1つ又は複数の位置で抗体を切断して、それにより、少なくともVH領域の大部分及びVL領域の大部分をそれぞれ含むVH抗体断片及びVL抗体断片を抗体から切り落とすことができる。この切断はまた、切断部位に対してC末端のCL領域及びCH領域を含むCL断片及びCH断片を残す。例えば、抗体がヒトIgG1であるいくつかの実施形態では、カテプシンL及びカテプシンDの両方がまた、抗体のヒンジ領域の上で切断して、2つのF(ab’)断片(それぞれVL+CL及びVH+CH1を含む)並びにヒンジ領域とCH2領域及びCH3領域由来の追加の定常領域配列セグメントとを含む重鎖由来のさらなる断片を生じる。切断がこれらの位置の両方で、可変領域と定常領域との間及びヒンジの上で起こる場合、一組の断片は、VL断片、CL断片、VH断片、CH1断片、並びに残りの重鎖ヒンジ及び定常領域配列を含み、切断が不完全である場合はFab断片も含む。ここでも、切断の正確な位置に応じて、CH1断片は、VH領域のC末端からのアミノ酸配列を含み得、EUナンバリングによって定義されるCH1のC末端までずっと延在し得ない。したがって、断片は、CH1領域の大部分を含んでよい。抗体がヒトIgG2B抗体又はIgG4抗体である他の実施形態では、例えば、カテプシンL又はカテプシンDは、抗体中の異なるジスルフィド結合構造のためにヒンジの上で切断しない可能性がある。(
図8を参照されたい。)カテプシンL及びDの両方は、
図8に示されるように、IgG1抗体をFc部分のCH2領域とCH3領域との間でさらに切断し、切断位置の両側にCH2断片及びCH3断片を残し得る。本明細書の方法では、カテプシンDはまた、ヒンジ領域のすぐ下で切断し、その結果、F’(ab)2断片を生成し、切断部位の下にFc領域配列の全部又は大部分を有するFc断片を生成し得る。(
図8を参照されたい。)両方の酵素がヒトIgG1抗体を切断するために使用される場合、例えば、VL断片、VH断片、CL断片、CH1断片、CH2断片、CH3断片、CL+CH1(ジスルフィド結合)断片及びF(ab’)2断片に対応する一連の断片が生じ得る。いくつかの実施形態では、カテプシンD及びカテプシンLを組み合わせて、ヒトIgG1抗体由来のVL断片、VH断片、CL断片、CH1断片、CH2断片、CH3断片、CL+CH1(結合)断片及びF(ab’)断片を生成する。いくつかの実施形態では、カテプシンL若しくはカテプシンD又はカテプシンD及びカテプシンLの両方による切断は、約8~16kDa、例えば約10~16kDa、10~13kDa、10~12kDa、10~11kDa又は11~12kDaのVH断片及びVL断片を残す。いくつかの場合では、VH及びVL断片は、90~120アミノ酸程度の長さ、例えば約95~110アミノ酸の長さを有する。いくつかの場合では、同時切断又は切断ミスは、VL断片、VH断片、CL断片、CH1断片、CH2断片、CH3断片、CL+CH1断片及びF(ab’)2断片の様々な組み合わせを含む断片をもたらす。
【0071】
本明細書の実施例は、カテプシンL及び/又はカテプシンDによる既知の抗体の切断を示すデータを提供する。表5aに示すように、オビヌツズマブは、VH CDR3において、重鎖の可変部分の末端でカテプシンLによって切断された。そして、酵素は、重鎖ヒンジ領域において、いくつかの位置で切断した。これにより、例えば10~16kDaの質量を有するアミノ酸1~99及び1~135、1~136、1~137、1~138及び1~139のVH断片、並びに、より長い軽鎖断片及び重鎖断片、例えば、アミノ酸1~206及び1~218のLC断片とアミノ酸1~220のHC断片並びにLC+HC断片(20~25kDa及び45~50kDaの質量をそれぞれ有する)が得られた。(表5aを参照されたい。)以下の表5bに示すように、カテプシンDへの曝露は、重鎖ヒンジ領域においてオビヌツズマブを切断する。例えば、この切断は、約220~245アミノ酸の長さのLC+HC断片及びF(ab’)2断片をもたらす。表7、8及び10は、オビヌツズマブと同様にヒトIgG1抗体であるトラスツズマブの切断位置を示す。カテプシンLで切断されたトラスツズマブは、アミノ酸1~140及び1~102の重鎖断片(すなわち、VH断片)並びにアミノ酸1~213及び1~214及び9~196の軽鎖断片、並びにアミノ酸100~223の重鎖断片(CH1領域を含む)及びCL領域のアミノ酸残基117~214の軽鎖断片を生成した。(表8。)カテプシンDによる切断は、同様のセットの断片、残基1~214、1~213の軽鎖断片、並びに1~140及び1~102の重鎖断片、並びに残基2~222及び11~110を含む重鎖断片をもたらした。(表9。)両方の酵素による切断は、残基1~107、1~111及び1~116を含むいくつかのVL断片、残基1~202のより長いLC断片、並びに1~115位を含むVH断片、並びにアミノ酸241~349及び243~341のHC定常領域断片をもたらした。LC領域と重鎖CH1領域とを合わせた断片、並びにF(ab’)断片及びF(ab’)2断片も生成された。(表10。)カテプシンLに曝露されたヒトIgG2B抗体であるエクリズマブは、オビヌツズマブと同様に、重鎖CDR3で終わる、重鎖配列のアミノ酸1~102から1~106のVH断片をもたらす。表6は、カテプシンDが、VH CDR3においてもエクリズマブを切断し、FcからF(ab’)2をヒンジ領域の下で切断することを示す。
【0072】
したがって、いくつかの実施形態では、カセプシンL又は/及びDは、ヒトIgG1抗体に作用すると、VHとCHとの間及び/又はVLとCLとの間、特にHC及びLC CDR3の内部又は直後で切断し、CDR3の内部又は直後で終わるVH断片及びVL断片を生成する。いくつかの実施形態では、カテプシンL又は/及びDはまた、第1及び第2の鎖間ジスルフィド結合の間で抗体を切断してF(ab’)を生じる。いくつかの実施形態では、カテプシンDは、重鎖ヒンジ領域内又はそのすぐ下で切断してF(ab’)2断片を与え、これはその後、例えばVH部分とCH1部分との間及び/又はVL部分とCL部分との間でさらに切断され得る。さらに、いくつかの実施形態では、両方のプロテアーゼはCH2とCH3との間でも切断して、CH2断片及びCH3断片をCH2ドメインに沿って生成する。したがって、いくつかの実施形態では、一方又は両方の酵素による切断は、それぞれのCDR1、CDR2及びCDR3を含むVH含有断片及び/又はVL含有断片をもたらす。
【0073】
いくつかの実施形態では、切断条件は、1つ又は複数の位置におけるより大きい切断効率のために最適化される。切断効率(消化効率とも呼ばれる)は、タンパク質又は抗体の消化に言及する場合、一般に、切断される出発抗体のパーセントを指す。抗体のVH及びVLの後などの特定の位置又は部位での切断効率も評価することができる。いくつかの実施形態では、予想される各切断部位における比較的低い切断効率(例えば、少なくとも1%~50%など)が、ある範囲の断片サイズをもたらすために許容され得る。また、分析すべき抗体が比較的多い場合には、全体的な切断効率が低いことも許容され得る。他の場合では、VH抗体断片及びVL抗体断片の生成を最大化するために、特にVHとCHとの間の部位及び例えばVLとCLとの間の部位について、より高い切断効率が望ましい。いくつかの実施形態では、全体的な切断効率は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%、又は100%である。いくつかの実施形態では、VH及びVLの後の切断に関する切断効率は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%、又は100%である。切断効率は、反応の時間、温度、pH、及び有機溶媒の存在、並びに抗体の三次構造などの因子によって影響され得る。
【0074】
本開示は、VL断片、VH断片、CL断片、CH1断片、CH2断片、CH3断片、CH2-CH3断片、CL+CH1(結合)断片、F(ab’)断片及びF(ab’)2断片を含む1つ又は複数の断片を生成するカテプシンD及び/又はLによる切断反応、並びにそれらの断片を含む得られた組成物を包含する。したがって、例えば、本明細書の酵素的切断反応は、90~150アミノ酸の長さ、例えば95~140アミノ酸、100~140アミノ酸又は100~120アミノ酸の長さを含むVL断片及び/又はVH断片を生成し得る。そのようなVH断片及び/又はVL断片は、例えば10~16kDa、例えば10~13kDa、10~12kDa、10~11kDa又は11~12kDaの分子量を有し得る。天然抗体の様々な位置での切断効率に応じて、200~250アミノ酸サイズのより大きな断片(例えば、結合した軽鎖及び重鎖断片)も生成され得る。いくつかの実施形態では、F(ab’)断片及び/又はF(ab’)2断片も生成され得る。いくつかの場合では、これらの断片のすべての混合物が生じ得る。したがって、いくつかの切断反応は、以下の10種類の断片のうちの少なくとも2つを含む組成物をもたらし得る:VL断片、VH断片、CL断片、CH1断片、CH2断片、CH3断片、CH2-CH3断片、CL+CH1(結合)断片、F(ab’)断片及びF(ab’)2断片。いくつかの切断反応は、以下の10種類の断片のうちの少なくとも3つを含む組成物をもたらし得る:VL断片、VH断片、CL断片、CH1断片、CH2断片、CH3断片、CH2-CH3断片、CL+CH1(結合)断片、F(ab’)断片及びF(ab’)2断片。いくつかの切断反応は、以下の4種類の断片のうちの少なくとも2つを含む組成物をもたらし得る:VL断片、VH断片、CL断片、CH1断片、CH2断片、CH3断片、CH2-CH3断片、CL+CH1(結合)断片、F(ab’)断片及びF(ab’)2断片。いくつかの切断反応は、例えば90~150アミノ酸のVL断片及び/又はVH断片並びに以下のさらなる断片の少なくとも2つを含む組成物をもたらし得る:CL断片、CH1断片、CH2断片、CH3断片、CH2-CH3断片、CL+CH1(結合)断片、F(ab’)断片及びF(ab’)2断片。
【0075】
例えば、いくつかの実施形態では、反応は、pH2~8、pH2~7、pH2~6、pH2~5、pH3~6、pH3~5、pH3~4、pH4~5、pH2、pH2.5、pH3、pH3.5、pH4、pH4.5、pH5、pH5.5、pH6、pH7又はpH8で行われる。いくつかの実施形態では、反応緩はpH3~5、例えばpH3、pH3.5、pH4、pH4.5又はpH5で行なわれる。いくつかの実施形態では、反応はpH4で行なわれる。pHの選択はまた、カテプシンL、カテプシンD、又はカテプシンDとカテプシンLの両方が使用されるかどうかに依存し得る。
【0076】
いくつかの実施形態では、反応は、室温(約18~25°C)~50°Cで行われる。いくつかの実施形態では、反応は、30~50℃、30~45℃、30~37℃、37~45℃、40~50℃又は37~50℃の温度で行われる。例えば、より高い温度は、反応時間の短縮を可能にし得る。いくつかの実施形態では、反応は、4~30時間、例えば4~12時間、12~24時間又は12~18時間行なわれる。いくつかの実施形態では、反応緩はpH3~5、例えばpH3、pH3.5、pH4、pH4.5又はpH5及び37~50℃で行なわれる。いくつかの実施形態では、反応は、pH4、37℃で、12~24時間行われる。
【0077】
いくつかの実施形態では、カテプシンDは、例えば配列番号9のアミノ酸配列を含むヒトカテプシンDである。いくつかの実施形態では、カテプシンLは、例えば配列番号10のアミノ酸配列を含むヒトカテプシンLである。いくつかの実施形態では、切断反応は、1:20~1:2000の比のカテプシンD及び/又はカテプシンL酵素対タンパク質で行われる。いくつかの実施形態では、1:20~1:500、1:50~1:500、1:100~1:500、1:200~1:1000、1:200~1:2000、1:500~1:2000、1:1000~1:2000、又は1:20、1:50、1:100、1:200、1:300、1:400、1:500、若しくは1:1000の比が使用される。比を変化させることは、いくつかの実施形態において、切断の程度を変化させ得、ある特定の場合において、異なる切断部位の効率に影響を及ぼし得る。例えば、理論に束縛されるものではないが、酵素の量を減少させると、より低い全体的な切断効率をもたらすだけでなく、特定のよりアクセスしやすい切断部位を他のものに対して優先させることによって、得られる切断産物にも影響を及ぼし得る。したがって、いくつかの実施形態では、酵素対タンパク質の比を変化させることは、得られる切断産物の分布に影響を及ぼし得る。
【0078】
本明細書のデータは、予想外にも、カテプシンL及びカテプシンDの切断が抗体の三次構造に依存することを示した。例えば、特定の部位における切断効率は、それらの部位の近くの分子の折り畳みに応じて、又はジスルフィド結合パターンに起因して変化し得る。三次構造は、変性抗体において切断されるであろう位置での切断を遮断し得る。例えば、
図8に示すように、カテプシンD切断は、ヒトIgG1抗体のヒンジ領域の下で起こるが、その切断は、ジスルフィド結合パターンの違いにより、ヒトIgG2B抗体又はIgG4抗体では起こらない。
【0079】
したがって、いくつかの実施形態では、抗体は天然の状態において切断される。「天然の状態」にある抗体は、その一般的な天然の折り畳まれた構造及びジスルフィド結合を保持する抗体であり、すなわち、抗体は変性されていないか又はアンフォールディングされておらず、ジスルフィド結合は還元されていない。対照的に、ボトムアップ切断は、典型的には、タンパク質から小さなペプチドが容易に生成され得るように、分析されるタンパク質を変性状態で消化することによって行われる。いくつかの実施形態では、上記のように、例えば、最適な切断のために抗体の状態をある程度緩和するが、抗体が天然の状態のままであるように抗体を変性又はアンフォールディングすることを回避するために、有機溶媒を50%まで添加することができる。例えば、いくつかの実施形態では、5~30%、10~30%、0~10%、5~15%、10~20%、15~25%、又は20~30%などの0~30%の有機溶媒を添加してもよい。有機溶媒は、例えば、アセトニトリル、メタノール、エタノール又はイソプロピルアルコールを含んでもよい。いくつかの実施形態では、反応緩衝液は、50%以下の有機溶媒を含む。いくつかの実施形態では、反応緩衝液は、30%以下の有機溶媒を含む。いくつかの実施形態では、反応緩衝液は、10%以下の有機溶媒を含む。ここでもまた、先にも述べたように、いくつかの実施形態において、抗体は、その天然のジスルフィド結合パターンとの干渉を回避するために還元されていない。
【0080】
カテプシンD及びカテプシンLの両方が使用されるいくつかの実施形態では、酵素は抗体に次々に曝露されるが、他の実施形態では、同じ反応条件下で同時に抗体とインキュベートされる。いくつかの実施形態では、両方の酵素を、pH3~5、例えばpH3、pH3.5、pH4、pH4.5又はpH5の緩衝液中、及び30~50°C、例えば37°Cの温度で抗体に同時に添加する。いくつかのそのような場合では、10~30%の有機溶媒も反応混合物に添加される。予想外にも、抗体のVLとCLとの間及びVHとCHとの間の最大100%の切断効率(例えば、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%、又は100%)が、カテプシンD及びカテプシンLの両方をpH3~5、例えばpH3、pH3.5、pH4、pH4.5又はpH5の緩衝液中及び30~50°Cの温度で同時に使用した場合に観察された。
【0081】
本明細書におけるいくつかの方法では、例えば、カテプシンL/D切断は三次構造依存性であるように見えるので、抗体は切断中に天然の状態のままであり得る。いくつかの実施形態では、抗体は、切断中並びに切断後及びMS分析中に天然の状態のままである。本明細書のいくつかの方法では、抗体は、切断中又は切断後に、変性剤又はジスルフィド結合を還元する薬剤で処理されない。本明細書のいくつかの方法では、抗体は、切断中又は切断後に、そのジスルフィド結合を保持する。本明細書のいくつかの方法は、切断後に1つ又は複数の抗体断片の質量分析(MS)を実施することを含み、抗体は天然の状態のままであり、MS分析の前に変性剤又はジスルフィド結合を還元する薬剤で処理されない。したがって、いくつかの実施形態では、カテプシンL及び/又はカテプシンDによる反応で生成し得る抗体断片、例えばVL、VH、F(ab’)、F(ab’)2、又は重鎖若しくは軽鎖のCDR1、CDR2及びCDR3を含む他の断片の好ましい選択に加えて、得られた抗体断片中のジスルフィド結合を変性又は還元することなく、切断直後にMS分析を実施し得る。
【0082】
抗体の切断後、抗体を処理して酵素(単数又は複数)を除去し、緩衝液を交換し、及び/又は特定の断片を単離することができる。
切断後の任意の処理
【0083】
切断中に生成された抗体断片は、質量分析の前に様々な方法でさらに処理することができる。
【0084】
いくつかの実施形態では、抗体断片を処理してジスルフィド結合を還元することができる。ジスルフィド結合が還元されると、例えば、ジスルフィド結合によって連結された2つのポリペプチドセグメントを含む特定の断片は、2つの別個の種に解離し得る。いくつかの場合では、切断された抗体の一部は、S-S結合を還元することなく質量分析によって評価され得るが、別の部分は、評価される前に還元され得、例えば、さらなるデータを得るために、還元された断片及び還元されていない断片の両方のトップダウン分析を可能にする。いくつかの実施形態では、得られた断片は、アルキル化されてもよく、そうでなければ化学的に修飾されてもよい。
【0085】
いくつかの実施形態では、切断後、得られた断片は、様々な方法で酵素反応混合物から単離され得る。例えば、断片は、クロマトグラフィー又はサイズ濾過によって単離することができる。例えば、断片は、キャピラリー電気泳動又は液体クロマトグラフィーを介して分離され得る。又は、断片は、より高分子量の種を保持するが、特定の切断断片などのより小さな種が流れることを可能にする分子量カットオフフィルタを使用するなど、濾過によって他の成分から分離することができる。いくつかの実施形態では、例えば、所望の断片が、例えば25kDa未満、例えば約10~14kDaである場合、例えば20kDa又は30kDaの分子量カットオフフィルタを使用して、所望の断片をより大きな断片から分離することができ、この工程には、任意に、目的の断片を保持するMWフィルタ上でのフロースルーの濃縮工程が続く。所望であれば、比較的低分子量のカットオフフィルタを使用して、所望の断片をより小さい断片又は緩衝夾雑物から分離することもでき、例えば、3kDa超又は10kDa超の分子を保持するフィルタである。
【0086】
切断された抗体断片はまた、例えばpH及び他の緩衝液条件を変更するために緩衝液を交換することによって酵素反応混合物から単離され得る。これは、例えば、クロマトグラフィー又は濾過プロセス中に起こり得る。いくつかの実施形態では、断片は、それらの配列を得るための、又はそれらの配列を検証するための代替手段として、任意に、さらなる酵素的切断又はMS切断と組み合わせて、エドマン分解によって分析され得る。
【0087】
本明細書の実施形態では、上記の処理の任意の組み合わせを使用することができる。
質量分析
【0088】
抗体断片に関する配列又は構造情報を得るために、少なくとも1つの断片に対して質量分析を行うことができる。いくつかの実施形態では、MS分析は、カテプシンL若しくはD又はカテプシンLとDの両方による切断から得られたVH断片及び/又はVL断片に対して行われる。いくつかの実施形態では、トップダウン分析方法は、生成された断片の少なくとも1つに対して実行される。いくつかの実施形態では、ボトムアップアプローチが実行される。いくつかの実施形態では、トップダウン及びボトムアップアプローチの組み合わせが使用される。
【0089】
いくつかの実施形態では、断片の少なくとも1つの完全な配列が得られる。他の実施形態では、少なくとも10アミノ酸ストレッチの配列が得られる。いくつかの実施形態では、少なくとも15アミノ酸ストレッチの配列が得られる。いくつかの実施形態では、少なくとも25アミノ酸ストレッチの配列が得られる。いくつかの場合では、少なくとも50アミノ酸ストレッチの配列が得られる。いくつかの場合では、10~50、15~50、25~50又は10~25アミノ酸ストレッチのストレッチの配列が得られる。いくつかの場合では、CDR3配列は、VH断片又はVL断片について得られる。いくつかの場合では、CDR1配列、CDR2配列、及び/又はCDR3配列は、VH断片又はVL断片について得られる。いくつかの実施形態では、抗体断片の配列は、本方法の前に未知であったものであり、したがって、本方法は、その断片の配列又は部分配列をデノボで得る。
【0090】
MSは、試料中の1つ又は複数の分子の質量電荷比(m/z)を測定する。タンデムMSは、いくつかの実施形態で使用されてもよく、単一イオン、複数イオン、又は質量エンベロープ全体(前駆体)が断片化チャンバに移動され、次いで断片化された生成物が質量分析器に送られるプロセスである。質量分析計の設計に応じて、断片化事象は、単一の質量分析器の前、2つ又は複数の異なる分析器の間、又は単一の質量分析器内で起こり得る。
【0091】
MS分析には様々な選択肢があり得る。いくつかの実施形態では、MS機器は四重極分析器を備えない。いくつかの実施形態では、MS機器は少なくとも1つの四重極を備える。いくつかの実施形態では、MS機器は少なくとも2つの四重極分析器を備える。いくつかの実施形態では、MS機器は少なくとも3つの四重極分析器を備える。いくつかのMSでは、検出器はイオントラップ、四重極、Orbitrap(商標)、又は飛行時間(TOF)である。いくつかの実施形態では、MS機器又は方法は、多重反応モニタリング(MRM)、単一イオンモニタリング(SIM)、三段四重極(TSQ)、四重極/飛行時間(QTOF)、四重極線形イオントラップ(QTRAP)、ハイブリッドイオントラップ/FTMS、飛行時間/飛行時間(TOF/TOF)、Orbitrap機器、イオントラップ機器、並列反応モニタリング(PRM)、データ依存型取得(DDA)、データ非依存型取得(DIA)、多段断片化又は時間タンデムMS/MSである。いくつかの実施形態では、質量分析計は、少なくとも1つの四重極を含み、衝突誘起解離(CID)、高エネルギー衝突解離(HCD)、電子捕獲解離(ECD)、電子移動解離(ETD)、電子移動/高エネルギー衝突解離(EThcD)、又は光解離、例えばUV光解離(UVPD)から選択される解離手段を使用する。
【0092】
いくつかの実施形態では、直接注入又は静的スプレー注入又はフローインジェクション分析質量分析を使用して、1つ又は複数の抗体断片を分析する。いくつかの場合では、注入は、酵素的切断反応の直後に、又は切断反応後の緩衝液交換工程の後に行われる。いくつかの場合では、例えば、注入は、クロマトグラフィー、引き続いてLC-MSなどの質量分析などの技術を介して所望の断片を単離する代替法である。注入法では、抗体の断片(単数又は複数)を含む試料を、エレクトロスプレー又はナノスプレーイオン化による断片化のために質量分析計の装置に直接投入することができる。次いで、前駆体イオンは、任意に、質量測定及び分析のために四重極質量フィルタによって分離され、アミノ酸配列予測のために断片化され得る。
トップダウン及び/又はボトムアップ分析
【0093】
本明細書のいくつかの実施形態では、質量分析はトップダウンシーケンス分析に使用される。例えば、質量分析計を使用して、切断された抗体断片を一連のプロダクトイオンにさらに断片化することができ、それに関して配列予測が行われ得る。一例を、例えば以下の表13に示す。関連するソフトウェアを使用して、予測シーケンスをアライメントすることができる。一例を例えば
図14A及び
図14Bに示す。例えば、VH断片又はVL断片の場合、それらの断片は典型的には、分析される抗体の天然のN末端アミノ酸で始まるので、質量分析配列情報は、断片のN末端から開始してデコンボリューション及びアラインメントされ得る。したがって、N末端は、質量分析中に生成されたプロダクトイオンのアライメントのための基準点として機能し得る。例えば、VH断片又はVL断片を分析する場合、それらの断片は抗体ポリペプチド鎖のN末端にあるので、MS分析で生成されたそれらのプロダクトイオンをN末端からアライメントすることができる。この理由及び他の理由から、酵素が単一のアミノ酸で特異的に切断して断片のC末端を形成する必要はない。
【0094】
様々なソフトウェアパッケージを使用して、トップダウンMS分析からの配列情報をデコンボリューション及びアラインメントすることができる。例としては、PEAKs(商標)(Bioinformatics Solutions,Inc.)及びByos(商標)及びその構成要素ソフトウェア(Protein Metrics,Cupertino,CA,USA)が挙げられる。
【0095】
いくつかの実施形態では、本明細書中の方法は、さらなる配列分析のためのさらなるミドルダウン法及びボトムアップ法と組み合わされ得る。例えば、カテプシンL及び/又はカテプシンDによる切断は、抗体のヒンジ領域内又はその付近で切断する他の酵素、例えばプロテアーゼStreptococcus pyogenes(IdeS)(例えば、FabRICATOR(商標)(Genovis,Inc.))又はGingisKhan(商標)(Genovis)による切断と組み合わされ得る。いくつかの実施形態では、カテプシンL、カテプシンD、又はカテプシンLとカテプシンDの組み合わせは、IdeS又はGingisKhan(商標)(Genovis)と組み合わせられ得る。いくつかの実施形態では、トリプシン、パパイン、キモトリプシンなどの他のプロテアーゼを、カテプシンL、カテプシンD、又はカテプシンLとカテプシンDの両方と組み合わせてもよい。次いで、そのような切断反応からの生成物を、例えばトップダウン又はボトムアッププロセスによって分析することができる。
【0096】
いくつかの実施形態では、カテプシンL及び/又はカテプシンD切断反応から生成された断片は、ボトムアップ法によってさらに分析され得る。したがって、いくつかの実施形態では、例えば、得られた断片を還元又は変性させ、次いで、トリプシン又はパパインなどのプロテアーゼでさらに切断して、MS分析のためのより小さな断片を生成することができる。いくつかの実施形態では、例えば、配列情報を検証及び照合する手段として、トップダウン分析をボトムアップ分析と組み合わせることができる。
デノボ抗体シーケンシングワークフロー
【0097】
いくつかの実施形態では、本明細書の方法は、1つ又は複数の抗体断片の部分的又は完全なデノボ配列分析に使用することができる。一般に、デノボで配列ストレッチを決定するには、質量分析中にその配列ストレッチの完全な断片化、すなわち配列ストレッチ中の各後続アミノ酸の後の断片化が必要であり、その結果、断片化により、各連続アミノ酸残基の質量を決定することができ、したがってアミノ酸残基を同定することができる。選択された断片化方法に応じて、特定のアミノ酸ストレッチの完全な断片化を確実にするために、ジスルフィド結合の還元が質量分析の前に行われ得る。例えば、高エネルギー衝突解離(HCD)を用いたOrbitrap(商標)が断片化に使用される場合、各連続残基の後に断片化を得るために還元が必要とされ得る。他の場合では、ジスルフィド結合を事前に還元せずに、デノボ配列決定を行うことができる。他の実施形態では、抗体断片を含有する試料の一部を還元することなく分析することができ、試料の別の部分を還元後に分析することができる。
【0098】
例えば、
図14Aは、MS断片化後のトラスツズマブ軽鎖可変領域の描写を示す。その図に示すように、連続したyイオンのスパンが残基H91~E105に生じる。したがって、CDR3領域にほぼ対応するVLのこの部分の配列は、トップダウン分析によって決定することができる。そのようなトップダウン分析は、PEAKS(商標)(Bioinformatics Solutions,Inc.)又はSupernovo(商標)(Protein Metrics)又はオープンソースのプログラムなどの、質量データ及び断片のアラインメントからアミノ酸配列を決定するための市販のソフトウェアを使用することができる。VL断片などの抗体断片のさらなる部分の配列を決定するために、断片分子内のすべて又はほぼすべてのアミノ酸残基の後に断片化が起こるように、さらなる断片化頻度を使用することができる。さらに、ジスルフィド結合が断片化を妨害しないように、抗体切断産物を処理してジスルフィド結合を還元してもよい。抗体断片のより大きなセグメントをシーケンシングするために、市販のソフトウェアパラメータを調整して、例えば最大約12kDaの断片の配列のデノボ決定を可能にすることができる。例えば、プログラム内で許容される総ペプチド長を延長することができ、MS1レベルで許容される誤差許容範囲を増加させることができ、例えばpスコア又はAスコアを修正して、ジスルフィド規則の組み込みを可能にすることができる。さらに、いくつかの実施形態では、候補デノボ配列は、1つよりも多くのソフトウェアプログラムを使用して配列を決定することによって検証され得る。
キット及び製品
【0099】
本開示はまた、抗体に対して最適化されたカテプシンL、カテプシンD又はカテプシンL及びカテプシンD切断反応を行うためのキット及び製品を包含する。いくつかの実施形態では、キットは、カテプシンLを含む。いくつかの実施形態では、キットは、カテプシンDを含む。いくつかの実施形態では、キットは、カテプシンL及びカテプシンDの両方を含む。いくつかの実施形態では、キットは、カテプシンL及び/又はカテプシンDに加えて、IdeS、パパイン、トリプシン、キモトリプシン、又はGingisKhan(商標)などの1つ又は複数の追加の酵素を含む。いくつかの実施形態では、キットは、カテプシンL及び/又はカテプシンD切断反応のための1つ又は複数の反応緩衝液を含む。例えば、いくつかの実施形態では、反応は、pH2~8、pH2~7、pH2~6、pH2~5、pH3~6、pH3~5、pH3~4、pH4~5、pH2、pH2.5、pH3、pH3.5、pH4、pH4.5、pH5、pH5.5、pH6、pH7又はpH8で行われる。いくつかの実施形態では、反応緩衝液はpH3~5、例えばpH3、pH3.5、pH4、pH4.5又はpH5である。いくつかの実施形態では、反応緩衝液はpH4である。いくつかの実施形態では、反応緩衝液は、1つ又は複数の有機溶媒を含む。いくつかの実施形態では、有機溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール又はアセトニトリルである。いくつかの実施形態では、反応緩衝液は、5~50%の有機溶媒、例えば5~30%、10~30%、0~10%、5~15%、10~20%、15~25%又は20~30%を含む。いくつかの実施形態では、反応緩衝液は、50%以下の有機溶媒を含む。いくつかの実施形態では、反応緩衝液は、30%以下の有機溶媒を含む。いくつかの実施形態では、反応緩衝液は、10%以下の有機溶媒を含む。いくつかの実施形態では、製品又はキットはまた、抗体組成物に対してカテプシンD及び/又はカテプシンL切断反応を行う際に使用するための説明書を含む。
【実施例】
【0100】
実施例1.
タンパク質シーケンシングにおけるプロテオミクスの大きな成功にもかかわらず、抗体(Ab)の完全なシーケンシングは依然としてかなりの課題を呈する[1,2]。すべてのアミノ酸(及び任意のバリアント)の位置及び順序を注釈付け及び検証する目的で行われており、現在、液体クロマトグラフィー(LC)-質量分析(MS)ボトムアップ・プロテオミクス分析のための重複した理想的な長さのペプチドを生成するために、4~5種類の異なるプロテアーゼを使用することが必要である。これは、インタクト分析、又は一般的に消化に単一の酵素を使用するタンパク質検証で行われる単純な単クローン性チェックと比較して、より高い分析基準である。注釈がデノボである場合、これらの質量スペクトルは、プロダクトイオンピーク間の抽出された質量シフトに関する情報を使用する特殊なAbシーケンシングプログラムによって処理されなければならない。割り当ては、許容される質量誤差を制限する計算規則に基づいて行われ、そのような分析の成功は、MS/MSスペクトルの優れた品質に大きく依存する[3-7]。
【0101】
あるいは、抗体が最初にヒンジ領域の上又は下で切断されて、トップダウン及び/又はミドルダウンプロテオミクスによるシーケンシングのために修正可能なAbタンパク質断片を生成するミドルダウン酵素プロテオミクスアプローチが研究され始めている[8-10]。これらの方法では、使用されるプロテアーゼ又は変性剤に応じて、F(ab’)2断片、F(ab’)断片、Fc断片、Fd断片、軽鎖(LC)断片及び重鎖(HC)断片を選択的に生成することができ、それによって特にプロテアーゼStreptococcus pyogenes(IdeS)(例えば、FabRICATOR(商標)(Genovis,Inc.))が非常に普及した[10-13]。IdeSは、ヒンジの直下の特定の部位で抗体を消化し、F(ab’)2断片及びFc/2断片の均一なプールを生成するプロテアーゼである[12,13]。
【0102】
ミドルダウンの主な違いは、シーケンシングのためのボトムアップアプローチと比較した場合、比較的高分子量(HMW)の前駆体(5~25kDa)を使用することである。これらのタンパク質断片前駆体は、すべての断片イオンがマッピングされ得る、及びマッピングされるべき対応する配列を提供する。異なる断片に関するMS1インタクト情報と組み合わせると、特に高分解能で決定される場合、トップダウン及びミドルダウンのプロテオミクスアプローチは非常に強力であり得る[8-11、14-21]。
【0103】
ネイティブ質量分析[22-28]とトップダウンのプロテオミクス[14、16、20、29、30]との組み合わせは、生物治療薬の分析にさらなる利点を提供することができる。消化された複合混合物のLC分離はしばしば不十分であり、種の共溶出をもたらし、変性条件下では、これらの質量はしばしば重なり合い、シグナル対ノイズを低減し、正確な質量デコンボリューションを制限する。同様に、より高い電荷状態は、トップダウン分析において、より高い衝突エネルギー解離(HCD)断片化効率の増加をもたらすが、ネイティブ質量分析は、タンパク質がより混雑していないm/z空間に移動するときに、複数の電荷状態を包含する大きな分離幅の使用を可能にすることができる[31,32]。これにより、プロダクトイオンのシグナル対ノイズが増加し、カバレッジが高くなり、ワークフローを簡素化できる。一般に、還元されていないジスルフィド結合を有する大きなインタクトなタンパク質(>25kDa)のトップダウンは、従来は衝突誘起解離を伴う飛行時間又はHCD機器を伴うOrbitrapである、産業界で見出される現在のMS「有力な」機器へのデノボ適用のための十分なカバレッジを欠いている[31]。これらは、非常に効率的で直交的な断片化アプローチである電子誘導解離[14、18、33-36]、及び非常に大きなポリペプチドにも適している紫外線光解離[16、17、30]を欠く。複数の断片化方法がなければ、不完全なカバレッジはトップダウン及びミドルダウンの適用を制限する。したがって、これまであまり研究されていないプロテアーゼを使用して、標準的なLC-MS/MS HCD実験により適したタンパク質断片を生成する、より多くの代替的なミドルダウンワークフローを確立する未だ満たされていない必要性が存在する。
【0104】
IgG分析の分野では、最も一般的に使用されるミドルダウンタンパク質分解酵素は、ヒンジ領域の下の単一部位で優先的に切断する前述のIdeS[12,13]、及びヒンジのすぐ上で切断するGingisKHAN(商標)(Genovis,Inc.)[37]である。ほとんどの代替的なミドルダウン消化は、ポリペプチドのサイズがタンパク質の酵素への曝露時間に関連するように、無差別の酵素的又は化学的分解の速度を制御することを試みてきた。ごく最近では、オンラインペプチドマッピングにおける用途のために、Aspergillus saitoi酸プロテイナーゼがエレクトロスプレーエミッタに固定化された[38,39]。調査研究では、3~15kDaのペプチドを1:5の比で0~2分の曝露時間の間に生成した。同様に、ペプシン活性は、pHの最適化解除によって意図的に制限されており、ミドルダウンサイズ断片及びF(ab’)2ドメインが得られている[40]。また、プロテアーゼOmpT[41]及びSap9[42]によって生成されるペプチドは、一般に、サイズが1.5~15kDaの範囲であり、これは平均トリプシンペプチドサイズよりも大きい。
【0105】
市販のリソソームエンドペプチダーゼであるカテプシンL[43,44]及びD[45]は、予測不可能な切断部位を有する2つのプロテアーゼとして文献に報告されている。カテプシンは、タンパク質骨格の加水分解によるタンパク質分解に関与するリソソームに見られる酵素のファミリーの代表である[46]。カテプシンLはペプチダーゼC1ファミリーのメンバーであり、F、R又はRの後で、P2及びP1のR部位を切断することが報告されており[47-52]、アスパルチル・プロテイナーゼであるカテプシンDは、疎水性残基、特にLeuとPheとの間で切断することが報告されているが、これらの選好は引用文献全体を通して矛盾している[47、53-57]。これらの研究は、主にSDS-PAGE、タンパク質シーケンサー、又はペプチド基質マイクロアレイによるタンパク質標準、抽出物及びペプチドに対して行われている。これらの研究にわたる一貫性の1つは、酵素の無差別性にもかかわらず、驚くほど限られた数の断片を生じることである。プロテアーゼ分解速度は、酵素アイソフォーム、タンパク質配列、二次及び三次構造、緩衝成分(特に銅などの金属)及び貯蔵条件に応じて大きく異なる[58]。
【0106】
新しい酵素の評価は、特に消化部位の制限がほとんどない場合、標的タンパク質に見られる任意の位置及び任意のサイズで生成され得る多数の内部断片のために困難である。この大きな計算空間は、鎖間の可能性のあるジスルフィド結合又はFc上に見出されるグリカンなどの翻訳後修飾を含む場合、さらに拡張される。Abのカテプシン消化を特異的にマッピングするための本明細書に記載の研究は、クリップされた種の自動アノテーション機能を含むように2019年に更新されたIntact Mass(商標)アルゴリズム[59]を利用することによって可能になった。このアルゴリズムは、方法セクションでさらに詳細に説明される。
【0107】
ここで、本発明者らは、単一の標準的な消化条件を使用して、3つのIgG1抗体(トラスツズマブ、リツキシマブ、及びオビヌツズマブ)、1つのIgG2/4抗体、エクリズマブ、及びノブ・イントゥ・ホール修飾を含む1つのIgG1二重特異性抗体(抗Her2/抗CD3)を標的とする場合のカテプシンL及びDの切断部位を探索することを始める。形成されたAb断片を、高分解能ネイティブ質量分析及び変性LC-MSインタクト分析によって直接分析した。カテプシンL及びDの切断部位を、異なるpH、温度及び変性(有機パーセント)条件下で調査し、その後、Abの可変領域と定常領域との間の切断を最大化するように最適化した。本発明者らの最も興味深い知見は、本発明者らがAb軽鎖の相補性決定領域(CDR)領域を包含する約12kDaの断片を特異的に生成できることである。本発明者らが知る限り、これは、Abの高可変領域を直接標的とするミドルダウン技術の最初の実証であり、この12kDa断片を標準的なHCDで断片化することによって、本発明者らはこの領域にわたるカバレッジを最大化することができた。
A.結果
A.1.抗体のクラスにわたるカテプシンL及びカテプシンD切断部位のマッピング
【0108】
カテプシンL及びカテプシンDの切断部位を、共通の消化モチーフを探し、IgG1サブタイプとIgG2サブタイプとの間の差異を評価するために、5つの(ffive)抗体(Ab)にわたって評価した。本発明者らが知る限り、これは、インタクトAbのカテプシンL及びカテプシンD消化の最初の報告であり、類似又は非類似の相同性のものに及ぶ部位を調べるための最初の協調的努力である。
【0109】
消化物中に見出されるタンパク質断片の同定は、Intact Massを用いて行い、手動で検証した。デコンボリューションされたタンパク質断片ピークは、カテプシンプロテアーゼの両方について、すべてのAbにわたって、分子量が9~98kDaの範囲であった(表1~9、
図1~6)。カテプシンDによって切断された場合のリツキシマブの自動割り当ての例を
図7及び
図1に示す。最初に選んだ条件(pH7、2日間のインキュベーション)では、カテプシンL及びカテプシンDの酵素効率はかなり低い約1%であることが分かった。タンパク質断片のサイズ分布は大きな分子量(MW)範囲に及んだが、VLとCLとの間、VH1とCH1との間、1番目の鎖間結合と2番目の鎖間結合の間のCH1の間、及びヒンジ領域の直後(IdeS切断部位とほぼ同一の位置)の切断に対応する4つの一次種のみが観察された。より少ない存在量で、HC全体に複数の切断が観察された(表1)。
【0110】
正確な平均質量は、時間、質量、分解能、シグナル対ノイズ、及びm/z範囲、並びに電荷デコンボリューションに使用される他のパラメータに依存するので、
図1に示されている質量は、本明細書に開示されている表に与えられている質量からわずかに変化し得る(例えば、上記9964.1は表2の9963.45と同じピークである)ことに留意されたい。同様に、正確な質量は、時間、質量、及びm/z範囲、並びに電荷デコンボリューションに使用される他のパラメータに依存するため、
図2~
図6の質量も、本明細書に開示された表に与えられた質量からわずかに変化し得る。
【0111】
すべての低強度シグナルを含む場合、多数の総ピークがデコンボリューションされ、これは局所的対全体的な切断部位多様性を反映した。例えば、
図7Bでは、カテプシンDがおよそ14個の、異なるが連続したアミノ酸で切断してF(ab’)を生成し得、それらの多くは、それらの相対シグナル強度に基づいてほぼ等しい尤度で生成されたことが示されている(表2及び3)。この特定の領域では、C、D、K、T又はHの後に切断が起こることが示された。局所的な切断多様性をさらに反映して、特定の生成物は、単純な単一部位切断とは対照的に、非対称クリップの結果であることがわかった。例えば、
図7Aに示すように、97,538Daのピークは、2つのLCと、第2のHC(E1-V243)に対して1つのアミノ酸差でクリップされた1つの重鎖(E1-F244)との複合体に割り当てられる。非対称的な切断の割り当てのサポートは、トップダウン分析セクションにおいて提供される。-4個~+4個の切断部位モチーフ内のすべての同定されたペプチドにわたってアミノ酸濃縮が見られなかったことを考慮すると(表1~3)、これは、カテプシンD特異性が一次配列と同程度に二次及び三次構造によって影響され得るという仮説に適しており、この役割は消化最適化実験中に論じられる。
図1~
図6と同様に、正確な質量は、時間、質量、及びm/z範囲、並びに電荷デコンボリューションに使用される他のパラメータに依存するため、
図7に示される質量も、本明細書に開示された表に与えられた質量からわずかに変化し得る。
【0112】
図8は、IgG1及びIgG2-Bジスルフィド結合パターンを有する抗体の概略図にマッピングされたときに観察されたクリップの位置のグラフによる概要を提供する。クリップの部位は、使用されるAb及びカテプシンプロテアーゼによって変化したが(表1~9)、すべてのIgG1にわたって例外なくいくつかの規則が保持された。(1)切断は、カテプシンL及びカテプシンDによるHC及びLC CDR3の直後に起こり、(2)カテプシンDは、1
番目及び2
番目の鎖間ジスルフィドの間で切断してF(ab’)を得たが、カテプシンLは切断せず、(3)重鎖ヒンジは、ヒンジ領域の直下で両方のプロテアーゼによる可変クリッピングを起こしやすく、F(ab’)2を生じ、(4)CH2とCH3との間にカテプシンL及びカテプシンDの両方について同定された切断部位があった。
【0113】
IgG1と比較した場合、エクリズマブは同じパターンのF(ab’)切断を示したが、ヒンジ内に切断部位を明らかに欠いていた。したがって、F(ab’)に対するF(ab’)2のみが観察された。この違いは、カテプシンD及びカテプシンLの消化産物を媒介する際の三次構造の役割をさらに支持する。
A.2.消化効率の定量的最適化及び断片の割り当て
【0114】
カテプシンD及びカテプシンLが特定の部位でタンパク質を切断するかどうか、又はこれらの酵素がより無差別であるかどうかは予測不可能であったが、本発明者らは、カテプシンL及びカテプシンDが4つの主要部位でAbを特異的に切断することを見出した。この特異性は、ミドルダウン・シーケンシング・ワークフローでカテプシンD及びカテプシンLを使用する高い可能性を示した。しかしながら、消化効率は、標準条件下ではかなり劣っていた。消化効率を改善するために、消化変数としてpHを選択した[60,61]。同様に、Abの3次構造が切断に影響すると考えられることから、有機溶媒のレベルも評価した。最後に、37°C又は50°Cの温度で消化を試験した。3回の反復実験を行い、インタクトなトラスツズマブの電荷状態と消化断片との合計強度の比を比較した(
図9A)。LC-UV-MSを使用して、共イオン化種からのイオン抑制を最小限に抑え、nESI注入と比較して、相対定量を改善した。結果が一貫していることを確実にするために、ポリペプチド溶出領域にわたって合計されたUVピーク面積対Abピーク(
図9B)の比をとることによっても定量を行った。
【0115】
カテプシンLの最適pH効率はpH3であり、カテプシンDについてはpH5であることが決定され(
図9A及び
図9B参照)、傾向はMS及びUVデータによって支持された。50%メタノールでのランは、両方の酵素について増加した効率を示したが、他の条件と比較して有意に増加した変動性を有し、これはおそらくこれらの条件下でのAbの相対的不安定性によるものであった。物理的な観察は、50%メタノール試料の一部に濁りを示し、Abは沈殿するが、タンパク質断片は可溶化するため、消化比が膨らみ、変動性が増加した可能性がある。より低いメタノールレベル(10又は30%)では、対照と比較して消化効率の差はMS又はUVによって観察されなかった。UV及びMSからのデータはカテプシンL及びカテプシンDデータについて互いに直接矛盾しており、温度の影響について結論を出すことはできなかった。すべての条件にわたって、観察されたタンパク質断片は、IgG1対照研究で報告されたものとよく一致していた。例えば、11,197Daの質量は、すべてのIgG1試料にわたって検出され、HCペプチドE1-D102に対応する低豊富な種(<1e4)である。
【0116】
pH、温度、及び有機物の割合の条件にわたって観察された傾向に基づいて、最適化のための単一の方法を試験した。トラスツズマブのカテプシンL及びカテプシンDによるワンポット消化を37°Cで18時間、pH4で準備した。
図10に示すように、100%の消化効率が達成された。試料中の最も豊富な種は、CH2+CH3領域の喪失に対応し、F(ab’)2(約98kDa)を生成した。50kDa未満の種については2Da以内、100kDa未満の種については4Da以内に割り当てを行った(31.8ppmの平均誤差に相当する)。観察されたペプチドは、1Da以内のすべての消化複製物にわたって出現した(N=6)。観察された最も豊富なより小さいMWペプチドは、VH1領域、VL領域及びCl領域にマッピングされた(表10)。
【0117】
興味深いことに、対照研究で特徴付けられた47kDa種(
図7B)は、最適化された消化のLC-MS分析では観察されなかったが、後で、トップダウン分析のためのnESI注入中に観察された(
図11D)。F(ab’)2は広い溶出幅(約1分)を有し、フロントを示すので、F(ab’)共溶出物が可能である。
【0118】
LC-MSによってタンパク質全体に非常に特異的な切断部位が観察された。これにより、98kDa種を含む9つのポリペプチドが得られ、これは、すべてのデコンボリューションされたLCピーク(割り当てられた+割り当てられていない)にわたって取られた合計強度の約70%を含む。観察されたが割り当てられていないタンパク質断片の残りは、主に4~5kDaの低分子量種に属していた。より大きなポリペプチドは抗体の100%のカバレッジを提供したので、完全なリストを表11に示すが、4~5kDa種の割り当ては試みなかった。さらに、より小さい分子量では、内部消化産物を考慮するため、可能な配列割り当ての数が著しく増加し、同定された部位の完全性を維持することが重要であった。
【0119】
同定された9つのペプチドの特異性を確認するために、エドマン分解を行った。同定された7/9のタンパク質断片について配列が明確に確認された(
図12)。22,517.13Daの種をもたらす架橋質量に対応する、「PT」及び「APxxK」で始まるモチーフが観察された。低い存在量及び重複するゲルバンドは、12,488.77質量の確認を不可能にしたが、少なくともGlyで始まるタンパク質断片が予想される分子量で同定されることが観察された。
A.3.クリップされたタンパク質断片のトップダウン分析
【0120】
トップダウン分析を行って、断片化に対するポリペプチドサイズ及び構造の適合性を実証し、注釈付きトラスツズマブタンパク質断片のさらなる検証を提供した(表10)。MS2スペクトルのシグナル対ノイズを増強するために、最適化されたトラスツズマブ試料を、LCに対してnESIによってQ Exactive UHMRに注入し、前駆体を少なくとも100回のスキャンについて平均した(
図11)。プロダクトイオンを200,000の分解能の設定で同位体的に分解した(
図13)。
【0121】
プロダクトイオンの割り当ては、Freestyle 1.6(Thermo Fisher Scientific,Bremen,Germany)においてXtractアルゴリズムによって単同位体質量を抽出し、それらをProSight Lite[62]におけるそれぞれの予測配列(表10)と10ppm以内で一致させることによって行われ、システインは、ジスルフィド結合の存在を説明するためにH損失を伴っているとみなされた。続いて、yイオンNH3損失及び水損失を説明する社内データベースを構築し、残りの抽出質量と一致させた(表12)。
図14Aに示されるように、良好な配列カバレッジが12,121.5Da前駆体のN末端及びC末端で得られ、断片化効率はジスルフィド結合間で低下した。配列の割り当てを検証するために、非常に大きなプロダクトイオンを保存した(Y104及びB109)。全体として、29.4%の配列カバレッジが得られた。
【0122】
97,630Da種については、サブユニット中の多数のジスルフィド結合によって割り当てが複雑化した。鎖間及び/又は鎖内を減少させてカバレッジを改善することができたが、非対称HC切断の存在を証明するためにその結合形態のポリペプチドを検証することが重要であった(PAPELLG.GとPAPELLGG.PSVとのペアリング)。
図14Bに示すように、かなりの数のyイオンが各HC形態に特異的に対応していた。標準的なy、b、アンモニア及び水分損失イオンの割り当て後、相互連結鎖からの架橋種の存在を評価した(表13)。LCについては、HC配列NVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTから構築された修飾を考慮し、C24は架橋部位としてすべての部分配列に含まれていた。考慮されるN及びC末端結合は、それぞれHC鎖内ジスルフィド(C148~C204)又はHC鎖間ジスルフィド(鎖1、C230鎖2、C230)の開始を表した。HCについては、最後のジスルフィド内結合システインの後のアミノ酸で始まり、次いでC末端で架橋されるLC配列EVTHQGLSSPVTKSFNRGECから架橋修飾を検討した。これらの種から検出されたイオンは、カテプシンL/D消化物から生成された非対称C末端の存在を確認した(
図14B)。合計で228個の総イオンが検出され、33.7%の総カバレッジが得られ、LCのカバレッジは26.6%、HCのカバレッジは40%であった。
A.4 最適化されたカテプシンL及びDプロトコルの二重特異性抗体への適用
【0123】
最適化されたプロトコルを確立し、カテプシンの適用を二重特異性IgG1抗体(抗Her2/抗CD3)でさらに試験した。二重特異性抗体はIgG1と同一のジスルフィド結合構造を有するが、有意な構造差を示す。Fc領域中の様々なアミノ酸を突然変異させることによって、「ノブアンドホール」構造が作り出され、それによってxHer2及びxCD3鎖が増強され、ヘテロ二量体が生成される[63]。一次構造変化はこのプロセスを促進し、アミノ酸26~110の間(可変領域、CD3結合)、位置371及び408(ノブ/ホール)及び297(グリコシル化を防止する)に複数の突然変異が見られる。さらに、新たに発現された研究抗体と協働して、ほとんどの臨床的に使用される薬物製品には見られない新たな変動源(4%の二量体の存在)を導入した。
【0124】
カテプシンプロテアーゼは、F(ab’)全体を通して予想通りに挙動した(表4)。xHer2及びxCD3 LC及びHCの両方において、切断がCDR3の直後及びジスルフィド結合領域の外側に観察された。LC及びCH1定常領域は相同であり、単一のタンパク質断片を両鎖の消化産物として割り当てた。ヒンジ後の切断により5つのタンパク質断片が得られ、高度に優先され保存されたGGPSVFLFPPK配列に沿って非対称切断が生じた。興味深いことに、xCD3 CH2又はCH3領域内に他の切断は観察されなかった。抗Her2(ノブ)鎖では、ヒンジの後ろで消化が起こり、F(ab’)2(AA1-239)が得られ、数アミノ酸後にCH2+CH3断片(AA261-436)が得られた。CH3中の複数のタンパク質断片もノブ鎖中に生成された。しかしながら、xCD3鎖上で切断された唯一のFc領域は、両方の鎖にわたって同時に生じた。カテプシンプロテアーゼがかなり無差別であることを考慮すると、この違いについての最も可能性の高い説明は、二重特異性抗体の特異的三次構造である。ノブと比較して、ホールの形状又は構造の剛性が、xHer2鎖の切断によって少なくとも部分的に露出されるまで、カテプシンがこの領域で「作用」することを困難にする可能性がある。この特定のノブ/ホール効果の検証は、この研究の範囲外である多数の二重特異性の試験を必要とする。これらの構造的意味もまた、消化効率に影響を及ぼし得る。最適化されたプロトコルは、トラスツズマブの100%の消化をもたらしたが、インタクトな二重特異性の20%が残存した(デコンボリューションされたピーク強度に基づく)。これは、独特な構造の結果としてのより遅い消化を反映し得るか、又は最終消化物において4から0%に減少した二量体のより遅い消化によって部分的に引き起こされ得る。
B.考察
【0125】
MSシーケンシングのための理想的なサイズのポリペプチドをもたらすミドルダウンアプローチの開発は、トップダウン抗体シーケンシングのワークフローを前進させるために重要である。カテプシンL及びカテプシンDプロテアーゼは、このワークフローを直接可能にするために、効率的で市販されている安価なワンポット消化を提供する。
【0126】
すべての消化条件下で、VL断片、VH断片、CL断片、CH1断片、CH2断片、CH3断片、CL+CH1(結合)断片及びF(AB’)断片のカバレッジを与えるペプチドを個々に観察した。エドマン分解(N末端確認)、インタクト質量(<40ppmマッチング)及びトップダウンデータの組み合わせは、最適化された試料中の総タンパク質シグナルの70%を含む、消化物から得られた主な切断産物のシーケンシングに明確に成功した。VL領域及びVH領域は高存在量で生成され、切断はCDR3の直後で生じた。この領域は、短い領域にわたるその高い変動性のために、シーケンシングにとって最も困難な部分を表す。トップダウン・シーケンシングのための理想的なサイズでありCDR1、CDR2及びCDR3を包含するロングリードを直接シーケンシングする能力は、提示されるミドルダウンアプローチの重要な特徴である。
【0127】
最も広く採用されているIdeSプロトコルと比較して、両方の処置はF(ab’)を直接生成することができ、ヒンジの切断部位は2つのプロトコル間でほぼ同一である。還元試薬は、遊離LC又はHCを生成するためにIdeSプロトコルで使用され得るが、これらは、CID又はHCDによる完全なトップダウン・シーケンシングのためのサイズ関連の課題を提起するのに対して、カテプシンのプロトコルでは、タンパク質断片の生成は直接的なアプローチを提供する。既存のデノボボトムアップ技術と組み合わせると、タンパク質断片の生成により、インタクトAb全体ではなくAb上で局所的に、配列の質量をチェックすることが可能になる。これは、問題のある割り当てを迅速に見つけて位置特定する機会を提供する。計算ツールがトップダウンのデノボ配列に発展するにつれて、カテプシンのアプローチはシーケンシング・アラインメントの課題の多くを解決し、消化物はサイズ範囲内に留まり、高品質のプロダクトイオンスペクトルが得られる。
【0128】
HCDは、ジスルフィド結合にわたるAbの限られた配列カバレッジをもたらすことが知られている[20]。電子捕獲解離(ECD)などの代替的な断片化技術は、このシーケンシングの課題を解決し、消化混合物の直接分析を可能にすることができるが、多くの質量分析計には見られない。トップダウンHCDは、ジスルフィド結合が存在しない場合、より小さな分子量種の100%のカバレッジを達成することができる。したがって、この方法をAbデノボシーケンシングに使用すると、この論文で実証されている配列検証に対して、クロマトグラフィー又は分子量カットオフフィルタのいずれかによる試料の分画、それに続くグアニジン塩酸の処理及び浄化は、共イオン化ピークの数を制限しながら詳細な配列を可能にする。さらに、グアニジンの適用は、前駆体をより高い電荷状態に遷移させ、断片化効率をさらに改善する。
【0129】
AbにわたるカテプシンL及びカテプシンDの評価は、特にモチーフの無差別性の文脈で考慮した場合、すべてのIgG1にわたる切断部位について顕著な一貫性を示した。試験したすべての抗体(トラスツズマブ、リツキシマブ、オビヌツズマブ、エクリズマブ、及び二重特異性抗体)にわたって、組み合わせたL/D消化物を含めて、50個の独特な切断部位が同定された。カテプシンLは27部位で切断し、カテプシンDは28部位で切断した。中性部位が切断に好まれるという明確な証拠がある一方で、それ以外では両方のカテプシスプロテアーゼはp4からp4’の特定のアミノ酸に対してほとんど優先性を示さなかった(
図15)。文献は一般に、カテプシンLによる切断部位としてF及びRを報告し、これらの末端が存在したが、それらは全切断産物の10%以下を構成した。p3-p3’部位あたり濃縮された4~6個のアミノ酸間で等しい濃縮を見出したHEK293タンパク質抽出物に対するカテプシンL活性の2011年の研究と比較して、Abはモチーフ優先性の有意な低下を示し、二次構造に対して高次構造が最も重要であり得ることを示している[48]。これは、カテプシンL及びカテプシンDタンパク質活性を調べた個々の研究が、それらの報告された切断部位においてこれらの規則に対する多くの例外を特定する理由であり得る[47-57]。代替的な可能性は、それらの研究が、異なる生成物をもたらすことが知られている異なるカテプシンL及びカテプシンDアイソフォームを使用していることである[52]。さらに、カテプシンL及びカテプシンDはプロリンで切断する能力を有することが示されたが、これはすべてのプロテアーゼにわたって比較的まれであり、プロテアーゼEndoPro(登録商標)は顕著な例外である[64]。
【0130】
二次及び三次構造の潜在的な役割を調べるために、Ab上のカテプシン誘導切断部位をその結晶構造と比較した(
図16)。いかなるアルファヘリックス内にも切断は観察されず、大部分はランダムコイル内に位置していた。切断部位の残りは、ランダムコイルの末端から1~2アミノ酸の距離内であるが、ベータシートの開始部内で観察された。これらの部位の性質は、カテプシンL及びカテプシンDがAbsの秩序領域内で切断する能力が限られているが、柔軟で無秩序な領域内のほぼすべてのアミノ酸モチーフに結合し得ることを強く示唆している。切断部位は、ジスルフィド結合パターンによってさらに拘束される。ジスルフィド結合は、最終三次構造に大きな制約を与え、非結合領域と比較して、かなり低い柔軟性を示す[65]。カテプシン酵素は局所アミノ酸レベルでは無差別であり得るが、ジスルフィド結合領域の外側に見出される局所柔軟性が、切断される抗体配列を酵素ポケットの内側に配置するために必要とされる可能性がある。興味深いことに、この結論は、異なるpH、熱及び有機条件下で行われた消化効率の比較によって支持される。異なる効率が観察されたが、切断された部位は条件全体にわたって一貫していることが分かった。二次構造レベルで起こり得る変性にもかかわらず、各処理はジスルフィド結合パターンに影響を及ぼさず、この制約が切断位置を決定する際の主要な要因であることを示している。消化が二重特異性抗体にまで拡張されたとき、抗CD3アームにおけるCH2/CH3消化は、抗Her2アームにわたって見出される標準的なIgG1カテプシンL+D消化パターンとは対照的に、ヒンジ領域を超えて防止された。抗Her2切断は、抗CD3鎖と相同な一次配列及び二次構造を有する場所で生じ、カテプシンL及びカテプシンD消化を決定する際の配列の局所的柔軟性、ドメイン配向、又は他の三次(ホール)効果の役割を示唆している。
【0131】
標準条件(pH7、37oC、2日間、1:20の比)と最適化された条件を使用したトラスツズマブにおいて同定されたタンパク質断片の比較は、それらの相対存在量の興味深い差を示した(表8~10)。例えば、pH7で最も豊富な低分子量ポリペプチドは11,197Da(HC:1-102(YYCSRWGGD.F))断片であるが、最適pH4では、20kDa未満の最も豊富な断片は12,121Da(LC:1-110(RTVA.A))産物である。1つの可能性は、カテプシンL及びカテプシンDが、単一のプール中で組み合わされると、Abに結合したときに、他の酵素をクリッピングすることによって、又は化学量論効果を介して、互いの活性に影響を及ぼすことである。デコンボリューション中にカテプシンL又はカテプシンDのインタクトな質量は観察されなかった。しかしながら、観察された約25kDaの質量の一部は、カテプシンLの小さなクリップ(30kDa)又は約45kDaのカテプシンDの高度にクリップされた形態に対応し得る。これは、クリッピング評価においてデコンボリューションされた未同定種の一部を説明し得る。
【0132】
カテプシンL及びカテプシンDを使用した場合に観察されたクリッピングパターンは、カテプシン処理が、Ab中のジスルフィド結合をチェックするための比較的単純なアッセイとしても使用され得ることを示唆している。両方のカテプシンは、IgG1について約48kDaの「単一アーム」断片を生成する可能性が高いが、別個のジスルフィド結合パターンを含むIgG2-B Abについてはこれらの断片を生成しない。IgG2-Bパターンは、非還元ペプチドマッピングでは確認が困難であり、最も一般的にはLys-Cによって行われる[66,67]。
【0133】
ここで、本発明者らは、直接注入された非還元Abに対して高分解能のネイティブMS及び変性LC-MSを並行して使用した。このアプローチは、単純さ、最小限の試料調製、及び供給源内断片化がほとんど又は全くない温和な供給源条件という利点を有する。ジスルフィド結合の還元及び脱グリコシル化は、感度を改善し、質量スペクトル及びデータ分析を単純化することができるが、提示された方法に追加の工程を追加する。インタクトな割り当てを自動化する能力を有するソフトウェアの使用は、新しいプロテアーゼの評価を迅速化するのに役立ち、細胞内又は抗体副産物内の天然のクリッピングを評価するための計算資源として有望である。この方法は、シーケンシングのための理想的なサイズのタンパク質断片を生成し、限られた数のタンパク質断片(9種)にわたって分布するAbの100%のカバレッジを達成し、市販の酵素を使用し、このワークフローを堅牢で再現性のあるミドルダウン・シーケンシング・ワークフローとして適したものにする。
C.方法
C.1.化学物質及び材料
【0134】
治療用Ab、リツキシマブ(MabThera(登録商標))、オビヌツズマブ(Gazyva(登録商標))及びエクリズマブ(Soliris(登録商標))はGenmab(オランダ)からの譲渡物であり、トラスツズマブ(Herceptin(登録商標))及び抗Her2/抗CD3二重特異性はGenentech,Inc.の社内で供給された。二重特異性を除いて、すべてのAb試料は期限切れのバッチからのものであった。使用前に、Ab完全性をネイティブMSによってチェックして、あらゆる翻訳後修飾又は構造変化に対して確認し(荷電状態分布によってチェック)、Abは高い完全性を有すると予想された。検索されたすべてのアミノ酸配列は、N末端シグナルペプチドを欠いており、表14に提供されている。ジチオスレイトール(DTT)、ヨードアセトアミド(IAA)、酢酸アンモニウム(AMAC)、酢酸、ギ酸(FA)、8Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)、メタノール(MeOH)及びカテプシンL及びDは、Sigma-Aldrich(St Louis,MO)から購入し、リン酸緩衝液はLonza Group AG(Basel,CH)から購入した。アセトニトリル(ACN)は、Biosolve BV(North Brabant,NL)及びFisher Scientific(Hampton,NH)から購入した。
C.2.カテプシンL及びカテプシンDによる抗体消化
【0135】
カテプシンL及びカテプシンDによる切断に適したAbモチーフを評価するために、単一の対照条件ですべての治療用Ab(リツキシマブ、オビヌツズマブ、エクリズマブ、トラスツズマブ)にわたって消化を行った。AbsをMilli-Q水中5μMで調製し、酵素対抗体の比1:200でカテプシンL又はDで個別に処理した。試料を37℃で中性pHにて2日間インキュベートした。消化したAb試料を、10kDaカットオフフィルタ(Merck Millipore,Burlington,MA)を使用した遠心分離によって150mM水性AMAC(pH7.5)に緩衝液交換した。最終タンパク質濃度を280nmでのUV吸光度によって測定した。消化物を2~3μMに調整し、ネイティブMS分析に直接使用するか、又は標準的な天然のネイティブ・プロトコルを使用して4単位のPNGase Fとともに一晩インキュベートした[22]。PNGase F処理試料を、ネイティブMS測定の前に150mM AMAC(pH7.5)に2回目に緩衝液交換した。
【0136】
次いで、2mg/mLのストック溶液の単一Abであるトラスツズマブを使用して、異なる消化条件下で各カテプシンの切断効率を調査した。各カテプシンを1mg/mLの水に再懸濁し、異なるpH、MeOH及び温度条件を三連で試験した(表15)。消化物を、0.2mg/mLの最終Ab濃度を有する1:200の酵素対タンパク質比で調製した。pH調整調製物のために、所望のpHの50mM酢酸アンモニウムの希釈緩衝液を添加し、溶液の79%を構成した。LC-UV-MS分析のために、DAD検出器(254nm)及びExactive(商標)EMR(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)に連結されたUltimate 3000 LC上の2.1×50mm MAbPac(商標)RP HPLCカラム(80°C)に15μLを注入した。流量を300μL/分に設定し、移動相A(MPA)は99.88%水及び0.1%ギ酸及び0.02%トリフルオロ酢酸であり、B(MPB)は90% ACN、9.88%水、0.02%トリフルオロ酢酸及び0.1%ギ酸であった。MPBを1分で5から20%に、9.5分で65%に、10分で90%に増加させ、再平衡化前に90%で2分間保持した。
【0137】
L+Dの最終的なワンポット反応を、pH4.0及び温度37℃で18時間、トラスツズマブについて評価した。LC-UV-MSを使用して、上記のようにインタクトな質量を評価した。MicroBio-Spinカラムを製造者の指示に従って使用して、50mM酢酸アンモニウムに直接緩衝液交換した試料に対して、Q Exactive(商標)UHMRのトップダウン分析を行った。設定は、以下の静的nESI MSセクションに記載されるように調整した。
C.3.カテプシンL及びD断片の静的nESI MS
【0138】
試料は、500~12,000のいずれかのm/z範囲を使用して、拡張質量範囲(EMR)(Thermo Fisher Scientific)[68]又はQ Exactive(商標)UHMR[69]を有する修正されたExactive(商標)Plus Orbitrap機器で分析した。輸送多極及びイオンレンズの電圧オフセットを手動で調整して、高いm/zでのタンパク質イオンの最適な透過を達成した。窒素を3-7×10-10バールのガス圧で高エネルギー衝突解離(HCD)セルに使用した。使用したMSパラメータ:スプレー電圧1.2~1.3V、ソース温度250°C、ソース断片化及び衝突エネルギーを50から80Vに変化させ、すべてのAbについて分解能(m/z200)35,000又は70,000を変化させた。機器を、CsI溶液を使用して前述のように質量較正した[22]。
C.3.エドマン分解
【0139】
ワンポットトラスツズマブL+D消化物からのカテプシン切断抗体を4~20%Novex(商標)Tris-Glycine SDS-PAGEゲル(Thermo Fisher Scientific)で分離し、PVDF膜にエレクトロブロットし、次いで、クーマシーブリリアントブルーR-250染色で可視化した。目的のバンドを切り出し、494 Procise(商標)シーケンサー(Applied Biosystems,Foster City,CA)を用いてN末端配列分析に供した。得られた配列の混合物を、シーケンサー関連610ソフトウェア(Applied Biosystems,Foster City,CA)を使用して分析し、手動で検証した。
C.4.抗体消化産物のデータ分析
【0140】
Intact Mass(商標)v3.2-424(2018年10月)を電荷デコンボリューションに使用した(Protein Metrics,San Carlos,CA)。初期デコンボリューションでは、m/z範囲600~9,000、m範囲10,000~160,000、m/z間隔0.04、m/z平滑化シグマ0.02、0.2電荷間隔、並びにm間隔0.5及びm平滑化シグマ3.0を含むデフォルトパラメータを使用した。その後のデコンボリューションのために、パラメータを調整して最高品質の結果を得た。すべての場合において、質量ピークの最小差分は15であり、ピーク検出器シグマは5(質量ピークの最小差分の1/3)となった。自動ピークアノテーションには4Daの質量マッチング許容度を適用した。
【0141】
2019年に市販されたIntact Mass(商標)プログラムの詳細は、クリップされた種のマッチングアルゴリズムが科学文献に記載されていないので、ここで要約する。電荷デコンボリューション[27,59]の後、アルゴリズムは、「メキシカンハット」ピーク検出フィルタを使用して、強度の降順で、ピークの密集した肩に見られる質量の優先順位付けを解除して、中性質量スペクトルのピークを選ぶ。選択されたピークのピーク検出器幅(フィルタの正の部分の標準偏差、デフォルト=5Da)、質量範囲、最大数、最小質量間隔、ベースピークの最小パーセンテージ、及び最小シグナル対ノイズ比を指定する設定をカスタマイズすることができる。
【0142】
デコンボリューション及び選出されたピークは、入力されたアミノ酸配列(複数の鎖を含む)及び天然同位体存在量の表から計算された理論平均同位体質量と一致した。生物源に特徴的な13C存在量(1.079%)を特定した。平均質量を使用して、モノアイソトピック質量のオフ・バイ・ワン・ダルトン誤差を回避し、アイソトープ分解質量と未分解質量との混合物を含み得る質量スペクトルにわたって均一性を提供した。
【0143】
軽鎖又は重鎖のいずれかのペプチド結合はすべて、切断を好ましいアミノ酸に制限するのではなく、潜在的なクリップ部位と考えられた。マッチングアルゴリズムにおいて、Qで始まる接尾辞(鎖のC末端を含むがN末端を含まない配列)はpyro-Gluで始まるとは仮定されず、一方、接頭辞(鎖のN末端を含むがC末端を含まない配列)配列は仮定された。C(システイン)は、デフォルトではジスルフィド結合されていると仮定され、奇数番号の単一のCは還元されたままであり、インタクト質量はパターンを予測しようとすることなく約1Da減算する。アルゴリズムは単純な貪欲アルゴリズムである[70]:選択された各ピークは、設定された質量許容範囲内で最も近い理論質量に一致する。同じ位置で切断された同一の鎖の特別な場合を除いて、Intact Massは、単一の鎖のみを切断し、それを他のインタクトな第2の鎖と合計することによって接頭辞又は接尾辞配列を計算する。インタクトなmAbの場合、2つのLC及び2つのHCは、インタクト質量が単鎖をクリッピングし、他の3つの鎖をインタクトなままにすることによって接頭辞及び接尾辞を生成するように連結された。ソフトウェアはまた、同じ位置で切断された2つの同一の鎖、例えばCPPCPAPELLG.GPSにおけるG間で切断するIdeSプロテアーゼによって生成されたF(ab’)2断片も考慮する。クリッピングのために単一のLC+HCによって形成された「半Ab」が自動的に考慮される。
【0144】
すべての割り当てを手動で検証し、割り当てられていないすべての種を手動で評価して、アルゴリズムが割り当てを逃したかどうかを判定した。
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E.表
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5a】
【表5b】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】
【配列表】