(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】コーティング組成物、コーティング膜および物品、光学機器、照明機器
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20241004BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20241004BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20241004BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20241004BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/20
C09D7/65
(21)【出願番号】P 2023527170
(86)(22)【出願日】2021-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2021021603
(87)【国際公開番号】W WO2022259326
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 夏実
(72)【発明者】
【氏名】吉田 育弘
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/181676(WO,A1)
【文献】特開2011-246603(JP,A)
【文献】特開2006-265462(JP,A)
【文献】特開2013-32421(JP,A)
【文献】国際公開第2014/034514(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108329856(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 7/61
C09D 7/20
C09D 7/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が3nm以上25nm以下であるシリカ微粒子と、
金属酸化物微粒子と、
沸点が150℃以上300℃以下である溶剤と、
水と、
を含み、
前記シリカ微粒子の含有量は、0.1質量%以上5質量%以下であり、
前記溶剤の含有量は、20質量%以上70質量%以下であ
り、
前記金属酸化物微粒子の含有量は、前記シリカ微粒子に対して2質量%以上、80質量%以下であり、
前記金属酸化物微粒子の平均粒径は、1nm以上25nm以下である
ことを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
含有量が前記シリカ微粒子に対して5質量%以上50質量%以下であるフッ素樹脂粒子をさらに含むことを特徴とする請求項
1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
含有量が前記シリカ微粒子に対して10質量%以上40質量%以下である非揮発性および親水性の有機物である非揮発性親水性有機物をさらに含むことを特徴とする請求項1
または2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
請求項
1に記載のコーティング組成物によって基材上に形成されたコーティング膜であって、
前記基材上に配置され、前記シリカ微粒子と前記金属酸化物微粒子とが凝集してなるシリカ微粒子層を備えることを特徴とするコーティング膜。
【請求項5】
請求項
2に記載のコーティング組成物によって基材上に形成されたコーティング膜であって、
前記基材上に配置され、前記シリカ微粒子と前記金属酸化物微粒子とが凝集してなるシリカ微粒子層を備え、
前記フッ素樹脂粒子は、部分的に前記コーティング膜の表面に露出し、かつ前記シリカ微粒子層中に分散した状態で配置されていることを特徴とするコーティング膜。
【請求項6】
請求項
3に記載のコーティング組成物によって基材上に形成されたコーティング膜であって、
前記基材上に配置され、前記シリカ微粒子と前記金属酸化物微粒子とが凝集してなるシリカ微粒子層を備え、
前記非揮発性親水性有機物は、前記シリカ微粒子層中の欠陥内に充填されていることを特徴とするコーティング膜。
【請求項7】
膜厚が20nm以上250nm以下であることを特徴とする請求項
4から
6のいずれか1つに記載のコーティング膜。
【請求項8】
前記基材の表面は、60°鏡面光沢が50以上であることを特徴とする請求項
4から
6のいずれか1つに記載のコーティング膜。
【請求項9】
請求項
4から
8のいずれか1つに記載のコーティング膜を備えることを特徴とする物品。
【請求項10】
アウターを備える光学機器であって、前記アウターの外側と内側のどちらか一方または両方の表面に、請求項
4から
8のいずれか1つに記載のコーティング膜を備えることを特徴とする光学機器。
【請求項11】
レンズを備える光学機器であって、前記レンズの表面に請求項
4から
8のいずれか1つに記載のコーティング膜を備えることを特徴とする光学機器。
【請求項12】
照明カバーを備える照明機器であって、前記照明カバーの外側と内側のどちらか一方または両方の表面に請求項
4から
8のいずれか1つに記載のコーティング膜を備えることを特徴とする照明機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリカ微粒子を含むコーティング組成物、コーティング膜および物品、光学機器、照明機器に関する。
【背景技術】
【0002】
車両や建築物のガラス、ヘッドライトの透明プラスチックのカバーといった基材などの表面には、それら以外を構成する部材であるゴム製品やプラスチック自体に含まれる可塑剤や添加剤などの有機物が揮発し、その揮発した有機物が基材の表面に付着することで曇りが生じるフォギング現象が発生し、基材の透明性が低下することが知られている。そして、この基材の曇りを抑制する様々な技術が提案されている。例えば、この曇りの原因となる有機物を分解および除去する技術として、特許文献1には、膜厚が10~200nmの光触媒活性を示す金属酸化物の薄膜をガラスの表面に形成する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の技術では、光触媒が光エネルギーを受けて励起されることにより、薄膜に付着した有機物を分解するため、薄膜に付着した有機物を完全に除去するには時間を要するという問題があった。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、従来に比して、フォギング現象による基材の曇りを速やかに解消するとともに、コーティング膜の高い透明性を維持することができるコーティング組成物、コーティング膜および物品、光学機器、照明機器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示のコーティング組成物は、平均粒径が3nm以上25nm以下であるシリカ微粒子と、金属酸化物微粒子と、沸点が150℃以上300℃以下である溶剤と、水とを含む。シリカ微粒子の含有量は、0.1質量%以上5質量%以下である。溶剤の含有量は、20質量%以上70質量%以下である。金属酸化物微粒子の含有量は、シリカ微粒子に対して2質量%以上、80質量%以下である。金属酸化物微粒子の平均粒径は、1nm以上25nm以下である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、従来に比して、フォギング現象による基材の曇りを速やかに解消するとともに、コーティング膜の高い透明性を維持することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1によるコーティング組成物を用いたコーティング膜の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】実施の形態1によるコーティング組成物を用いたコーティング膜の効果を説明するための図である。
【
図3】実施の形態1によるコーティング組成物を用いたコーティング膜の製造方法の一例を模式的に示す断面図である。
【
図4】実施の形態1によるコーティング組成物を用いたコーティング膜の製造方法の手順の一例を模式的に示す断面図である。
【
図5】実施の形態1によるコーティング組成物を用いたコーティング膜の製造方法の手順の一例を模式的に示す断面図である。
【
図6】実施の形態1によるコーティング組成物を用いたコーティング膜の製造方法の手順の一例を模式的に示す断面図である。
【
図7】実施の形態2によるコーティング膜を有する光学機器の一例を示す正面図である。
【
図9】実施の形態2によるコーティング膜を有する光学機器の一例を示す正面図である。
【
図11】実施の形態2によるコーティング膜を有する光学機器の一例を示す正面図である。
【
図13】実施の形態2によるコーティング膜を有する光学機器の一例を示す正面図である。
【
図15】実施の形態3によるコーティング膜を有する照明機器の一例を示す正面図である。
【
図17】実施例及び比較例の評価結果をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示の実施の形態にかかるコーティング組成物、コーティング膜、物品、光学機器、照明機器を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
実施の形態1.
<コーティング組成物>
実施の形態1によるコーティング組成物は、シリカ微粒子と、金属酸化物微粒子と、高沸点溶剤と、水と、を含む。また、実施の形態1によるコーティング組成物は、フッ素樹脂粒子と、非揮発性親水性有機物と、をさらに含んでもよい。以下に、コーティング組成物に含まれる成分について説明する。
【0011】
<シリカ微粒子>
実施の形態1によるコーティング組成物に含まれるシリカ微粒子は、コーティング膜のベースとなる成分である。コーティング組成物にシリカ微粒子と金属酸化物微粒子とを配合することで、コーティング組成物によって形成されるコーティング膜において透明性が高い親水性表面を形成及び維持することができる。本実施の形態1のコーティング組成物によって形成されるコーティング膜は、シリカ微粒子と金属酸化物微粒子とが凝集して形成されるため、ナノメートルオーダーでみると多孔質である。コーティング膜の表面は親水性であるため、疎水性の汚れの付着を抑制する能力を向上することができ、また付着した水が、拡がり易くなり、付着した水を流れ落ち易くすることができる。また付着した水の拡がりがよくなるため、膜表面と汚れの間に水が入り込み汚れが流れ落ちやすくなる。
【0012】
さらに、シリカ微粒子がベースとなる本実施の形態1のコーティング組成物によって形成されるコーティング膜は、多孔質で低密度であるため、コーティング膜表面と埃などの付着物との間の相互作用が小さくなり汚れが付着し難くなる。本実施の形態1のコーティング組成物によって形成されるコーティング膜に、フォギング現象による曇りの原因となる有機物が付着した場合、有機物はこのシリカ微粒子に浸透するため、すみやかに曇りが解消され、透明性を維持できる。ここでフォギング現象による曇りとは、コーティング膜の表面に付着する可塑剤や溶剤などの有機物の凹凸により、光散乱することで白く曇って見えるものである。また、金属酸化物微粒子が含まれているため、有機物18の吸収にムラが生じても、視認性には影響がなく、高い透明性、均一性が維持される。
【0013】
シリカ微粒子は、ほかの無機粒子と比較して屈折率が低く、基材として一般的に用いられるプラスチックなどの透明樹脂およびガラスなどの屈折率に近い値を有する。基材とコーティング膜との屈折率が同程度であれば、それらの界面および表面における光反射によって白く見えることが抑制され、基材の色調を損ない難い。
【0014】
シリカ微粒子の平均粒径は、3nm以上25nm以下であることが好ましく、特に4nm以上10nm以下であることが好ましい。ここで、平均粒径とは、レーザ光散乱式または動的散乱式の粒度分布計で測定したときの一次粒子の平均粒径の値を意味する。また、一次粒子とは、粒子の最小単位であって、それ以上分割されない粒子のことをいう。複数の一次粒子が一塊となった一次粒子の集合体は、二次粒子と称される。シリカ微粒子の平均粒径が3nm未満であると、コーティング膜が緻密になり過ぎ、膜表面と汚れとの間に働く分子間力が大きくなってしまい、所望の防汚性を得られないことがある。シリカ微粒子の平均粒径が25nmよりも大きくなると、コーティング膜の表面の凹凸が大きくなり過ぎ、白濁が生じ易くなる。また、シリカ微粒子の平均粒径は、3nm以上25nm以下であり、かつコーティング膜には金属酸化物微粒子が含まれている。これにより、適度な緻密さを有するコーティング膜となり、コーティング膜の表面ではフォギング現象による曇りの原因となる有機物が浸透しやすくなり、有機物はこのシリカ微粒子からなる多孔質膜に浸透するため、すみやかに曇りが解消され、高い透明性を維持できる。またコーティング膜の表面と埃などの汚れとの接触面積が小さくなるため、十分な防汚性を得ることができる。ここで、防汚性は、汚れが付着しがたい性質または付着した汚れが除去されやすい性質のことを意味する。
【0015】
シリカ微粒子のコーティング組成物中の含有量は、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上2質量%以下であることが好ましい。シリカ微粒子のコーティング組成物中の含有量が0.1質量%未満である場合には、形成したコーティング膜が薄くなり過ぎてしまい、所望の防汚性を得ることができないことがある。一方、シリカ微粒子のコーティング組成物中の含有量が5質量%より多い場合には、コーティング膜が厚くなり過ぎてしまい、クラックおよび凹凸ができ、白濁し易くなることがある。以上より、シリカ微粒子のコーティング組成物中の含有量は、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。特に、シリカ微粒子のコーティング組成物中の含有量が0.5質量%以上2質量%以下である場合には、適度な厚さを有する均一なコーティング膜を形成することができ、十分な防汚性を得ることができる。
【0016】
上記のような特徴を有するシリカ微粒子は、公知の方法に従って調製することができる。例えば、ケイ酸ナトリウムの水溶液から調製される、あるいはゾルゲル法によって調整されるコロイダルシリカをシリカ微粒子として利用することができる。シリカ微粒子は、球状のもののほか、中空形状、鱗片状、棒状等の異形形状のものであってもよい。鱗片状のシリカ微粒子を用いた場合には、得られる膜強度が高くなる傾向がある。そのため、摩耗耐性が要求される用途には鱗片状のシリカ微粒子を用いることで好ましい結果が得られる。鱗片状シリカと球状シリカとを混合することで透明性塗膜の強度の両立を図ることも可能である。また、シリカ微粒子が数珠状に連結されたものが用いられてもよい。
【0017】
<金属酸化物微粒子>
本実施の形態1のコーティング組成物に含まれる金属酸化物の微粒子は高屈折率を示すとともに、コーティング膜として形成された場合に透明性を示すものが好ましい。高屈折率の金属酸化物の微粒子を含むことで、コーティング膜にフォギング現象による曇りの原因となる有機物が浸透した場合のむらを目立ちにくくする効果があり、コーティング膜の透明性および均一性に寄与する。シリカ微粒子をベースとするコーティング膜は多孔質であるため、コーティング膜としては空気を加味した屈折率となる。高屈折率の金属酸化物の微粒子を含む場合は、シリカ微粒子のみからなるシリカ微粒子層と比較して、コーティング膜の屈折率が高くなっている。このため金属酸化物の微粒子を含む膜の屈折率と有機物の屈折率との差が小さくなり、有機物がコーティング膜に浸透した場合のむらが目立ちにくくなり、コーティング膜の透明性および均一性を実現できる。
【0018】
金属酸化物の微粒子の屈折率は1.6以上が好ましい。金属酸化物の屈折率が1.6以上であれば、本実施の形態1のコーティング組成物で形成されたコーティング膜を形成した場合、コーティング膜に有機物が浸透した際のむらが小さくなる。
【0019】
金属酸化物としては、高い光触媒作用を示すものも利用できる。光触媒作用を有する金属酸化物の微粒子をコーティング膜に含むことで、コーティング膜に浸透する有機物が太陽光や人工光の照射環境下で分解される。さらに親水性を示すため、表面に付着する汚れを洗い流すセルフクリーニング性を有する。
【0020】
金属酸化物としては、単一金属の酸化物であってもよいし、2種以上の酸化物の固溶体であってもよいし、複合酸化物であってもよい。例えば単一金属酸化物には、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化マグネシウムが含まれる。2種以上の酸化物の固溶体としては、酸化インジウムスズなどが挙げられる。複合酸化物は、例えばチタン酸バリウム、灰チタン石、スピネル等である。光触媒作用を有する金属酸化物を含む本実施の形態1のコーティング組成物で形成されたコーティング膜を樹脂で形成される基材面に塗布する場合、例えばアパタイト被覆酸化チタンであれば、樹脂を分解することがない。
【0021】
金属酸化物の微粒子の平均粒径は1nm以上25nm以下が好ましく、特に2nm以上10nm以下が好ましい。ここで平均粒径とは、レーザ光散乱式または動的散乱式の粒度分布計で測定したときの一次粒子の平均粒径の値を意味する。粒径が25nmより大きくなるとコーティング膜表面での光散乱が増加しヘイズが増加してしまう場合がある。金属酸化物微粒子の平均粒径が1nm以下であるとコーティング膜が緻密になり過ぎ、フォギング現象による曇りの原因となる有機物が浸透し難くなる場合がある。特に、金属酸化物の微粒子の平均粒径が2nm以上10nm以下である場合には、適度なち密さを有するコーティング膜となり、フォギング現象による曇りの原因となる有機物がより浸透しやすくなる。
【0022】
金属酸化物の微粒子のコーティング組成物中の含有量は、シリカ微粒子に対して80質量%以下、2質量%以上が好ましく、特に50質量%以下、5質量%以上が好ましい。シリカ微粒子に対して80質量%以下、2質量%以上であれば、屈折率を適度に調整でき、フォギング現象による曇りの原因となる有機物がコーティング膜に浸透した際のむらを抑制する効果が得られやすい。
【0023】
金属酸化物の微粒子の形状としては球状、粒状、中空状、楕円球状、立方体状、直方体状、針状、柱状、棒状、筒状、鱗片状等が挙げられる。多孔性のコーティング膜を形成することを考慮すると、前記形状としては、球状、楕円球状、柱状等が好ましい。
【0024】
<高沸点溶剤>
本実施の形態1によるコーティング組成物に含まれる高沸点溶剤は、常温に比して高い沸点を有する溶剤であり、後述するように150℃以上300℃以下である沸点を有する溶剤である。高沸点溶剤は、コーティング膜の形成過程におけるコーティング組成物の乾燥速度を制御できる。これによって、コーティング組成物中のシリカ微粒子の初期濃度を保ったまま液膜を形成することができ、塗布の途中でのシリカ微粒子の凝集を防ぐことができる。さらに、高沸点溶剤の含有量を乾燥時間が長くなるように変化させることで、塗布後の液膜をレベリングさせることができる。これらの効果によって均一なコーティング膜を得ることができる。
【0025】
高沸点溶剤の沸点は、150℃以上300℃以下であることが好ましい。高沸点溶剤の沸点が150℃未満であると、乾燥速度が速くなり過ぎてしまい、シリカ微粒子の凝集防止および塗布後の液膜のレベリングの効果が得られない。一方、高沸点溶剤の沸点が300℃を超えると、コーティング膜中に溶剤が残存し易くなり、所望の特性を有するコーティング膜が得られない。以上より、高沸点溶剤の沸点は、150℃以上300℃以下であることが好ましい。
【0026】
高沸点溶剤の水に対する溶解度は特に限定されないが、70質量%以上であることが好ましい。水に対する溶解度が70質量%未満であると、水に対して分離し易くなってしまうからである。
【0027】
高沸点溶剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチルラクテート、ジエチレングリコーノレジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコーノレジメチルエーテル、ジェチレングリコーノレエチルメチノレエーテル、ジエチレングリコールイソプロピノレメチルエーテノレ、ジプロピレングリコーノレモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテノレ、ジエチレングリコーノレモノメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテノレ、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジェチレングリコーノレモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコーノレモノメチルエーテル、ジエチレングリコーノレジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンなどが挙げられる。また、これらを単独または1種以上を組み合わせたものを高沸点溶剤として用いることができる。
【0028】
コーティング組成物における高沸点溶剤の含有量は、20質量%以上70質量%以下であり、好ましくは30質量%以上50質量%以下である。高沸点溶剤の含有量が20質量%未満であると、シリカ微粒子の凝集防止効果および塗布後の液膜のレベリングの効果が十分に得られない。また、高沸点溶剤の含有量が70質量%よりも多い場合には、コーティング組成物中のシリカ微粒子および任意に含ませることができるフッ素樹脂粒子の溶解性が低下し凝集し易くなる。以上より、コーティング組成物における高沸点溶剤の含有量は、20質量%以上70質量%以下であることが好ましい。特に、コーティング組成物における高沸点溶剤の含有量が30質量%以上50質量%以下である場合には、コーティング組成物による液膜中のシリカ微粒子およびフッ素樹脂粒子の分散状態を保ちつつ、液膜のレベリング効果を得ることができるため、均一で透明性が高いコーティング膜を形成することができる。
【0029】
<水>
実施の形態1によるコーティング組成物に含まれる水としては、特に限定されず、水道水、純水、RO(Reverse Osmosis)水、脱イオン水などを用いることができる。RO水は、逆浸透膜を用いて水道水から不純物を取り除いた水である。コーティング組成物におけるシリカ微粒子の分散安定性を向上させる観点から、水に含まれるカルシウムイオンまたはマグネシウムイオン等のイオン性不純物が少ない方が好ましい。具体的には、水に含まれる2価以上のイオン性不純物が200ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましい。2価以上のイオン性不純物が200ppmよりも多いと、シリカ微粒子の凝集が起こり、コーティング組成物の流動性の低下による塗布性の低下およびコーティング膜の透明性の低下を生じる可能性があるからである。
【0030】
コーティング組成物における水の含有量は、特に限定されないが、25質量%以上80質量%以下であることが好ましく、50質量%以上70質量%以下であることがより好ましい。水の含有量が25質量%未満であると、コーティング組成物中のシリカ微粒子および任意に含ませることができるフッ素樹脂粒子の溶解性が低下し、凝集し易くなる場合がある。また、水の含有量が25質量%未満であると、コーティング膜が厚くなり、クラックなどの欠陥が生じ易くなることがある。一方、水の含有量が80質量%を超えると、組成物中の固形分の量が少なくなり過ぎてしまい、コーティング膜を効率良く形成することが難しくなることがある。以上より、コーティング組成物における水の含有量は、25質量%以上80質量%以下であることが好ましい。特に、コーティング組成物における水の含有量が50質量%以上70質量%以下である場合には、コーティング組成物による液膜中のシリカ微粒子およびフッ素樹脂粒子の分散状態を維持でき、適度な厚さの均一で透明性が高いコーティング膜を形成することができる。
【0031】
<フッ素樹脂粒子>
実施の形態1によるコーティング組成物は、フッ素樹脂粒子を含むこともできる。フッ素樹脂粒子を配合することで、形成されるコーティング膜に部分的に疎水性表面を形成することができる。これによって、汚れの付着を防止する能力を向上させることができる。また、フッ素樹脂粒子によって形成されるコーティング膜の表面に潤滑性を付与することができる。これによって、コーティング膜の耐摩耗性を向上させることができる。
【0032】
フッ素樹脂粒子としては特に限定されないが、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、ETFE(エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー)、ECTFE(エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PVF(ポリフッ化ビニル)、フルオロエチレン・ビニルエーテル共重合体、フルオロエチレン・ビニルエステル共重合体、これらの共重合体および混合物、並びにこれらのフッ素樹脂にほかの樹脂を混合したものなどから形成される粒子が挙げられる。
【0033】
フッ素樹脂粒子の平均粒径は、80nm以上550nm以下であることが好ましく、100nm以上500nm以下であることがより好ましい。フッ素樹脂粒子の平均粒径が80nm未満であると、コーティング膜の表面に疎水性部分を十分に形成できない場合がある。一方、フッ素樹脂粒子の粒径が550nmを超える場合には、コーティング膜の表面の凹凸が大きくなり、汚れが引っ掛かり易くなるため、所望の防汚性が得られない場合がある。また、コーティング膜の表面の凹凸によって、光散乱が発生し、コーティング膜が白濁してしまうこともある。以上より、フッ素樹脂粒子の平均粒径は、80nm以上550nm以下であることが好ましい。特に、フッ素樹脂粒子の平均粒径が100nm以上500nm以下である場合には、フッ素樹脂粒子による疎水性面と適度な凹凸とを有するコーティング膜となるため、十分な防汚性を得ることができる。
【0034】
また、棒状または鱗片状のフッ素樹脂粒子を用いて形成されるコーティング膜の表面の凹凸をなるべく少なくすることで、コーティング膜の透明性を向上させることができる。さらに、低分子成分または溶剤等を含み、塗布時には柔軟性を有し、塗布後にはこれらの成分が揮発して固化する様なフッ素樹脂粒子の分散液を用いることで、得られる膜の平滑性および透明性を向上させることも可能である。
【0035】
フッ素樹脂粒子は、公知の方法に従って調整することができる。フッ素樹脂粒子が水中に分散した状態で市販されているものを、当該コーティング組成物の原料として用いることができる。
【0036】
フッ素樹脂粒子のコーティング組成物中の含有量は、シリカ微粒子の含有量に対して5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、特に10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。コーティング組成物中におけるシリカ微粒子の含有量に対するフッ素樹脂粒子の含有量が5質量%未満であると、コーティング膜の表面における疎水性表面の割合が低くなり、所望の防汚性が得られないことがある。一方、シリカ微粒子の含有量に対するフッ素樹脂粒子の含有量が50質量%よりも多いと、コーティング膜に粉塵が付着し易くなる傾向があり好ましくない。以上より、コーティング組成物中におけるシリカ微粒子の含有量に対するフッ素樹脂粒子の含有量は、5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。特に、コーティング組成物中におけるシリカ微粒子の含有量に対するフッ素樹脂粒子の含有量が10質量%以上30質量%以下である場合には、適度な割合で親水性表面と疎水性表面とを有するコーティング膜となるため、十分な防汚性を得ることができる。
【0037】
<非揮発性親水性有機物>
実施の形態1によるコーティング組成物には、非揮発性で親水性の有機物である非揮発性親水性有機物を含むこともできる。非揮発性親水性有機物を配合することで、形成されたコーティング膜のボイドを埋めることができ、コーティング膜の内部における散乱を減少させ、コーティング膜の透明性を向上させることができる。また、コーティング組成物の塗布性を向上させることができる。
【0038】
非揮発性親水性有機物としては特に限定されないが、潮解性を持たず、非揮発性の各種の有機物を利用することができる。非揮発性親水性有機物の一例は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジメチコンコポリオール、およびこれらの混合物である。
【0039】
非揮発性親水性有機物として、界面活性剤を用いることもできる。界面活性剤としては特に限定されないが、シリカ微粒子の凝集等を起こし難いノニオン系界面活性剤が好ましい。ただし、添加量、溶媒のpH等に注意すればアニオン系界面活性剤およびカチオン系界面活性剤も利用可能である。
【0040】
ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアマイド、ソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステルなどが挙げられる。
【0041】
アニオン系界面活性剤としては、高級アルコールサルフェート(Na塩またはアミン塩)、アルキルアリルスルホン酸塩(Na塩またはアミン塩)、アルキルナフタレンスルホン酸塩(Na塩またはアミン塩)、アルキルナフタレンスルホン酸塩縮合物、アルキルホスフェート、ジアルキルスルフォサクシネート、ロジン石鹸、脂肪酸塩(Na塩またはアミン塩)などが挙げられる。
【0042】
カチオン系界面活性剤としては、オクタデシルアミンアセテート、イミダゾリン誘導体アセテート、ポリアルキレンポリアミン誘導体またはその塩、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、トリエチルアミノエチルアルキルアミドハロゲニド、アルキルピリジニウム硫酸塩、アルキルトリメチルアンモニウムハロゲニドなどが挙げられる。
【0043】
非揮発性親水性有機物は、特に限定されないが、平均分子量が400以上500,000以下のものを用いることができ、平均分子量が700以上100,000以下のものが好ましい。平均分子量が400より低い場合には、非揮発性親水性有機物の添加量が多い場合に、粉塵の付着が多くなる場合があり好ましくない。また、平均分子量が500,000を超える場合は、コーティング液の流動性が低下し、均質なコーティングが困難になる場合がある。以上より、非揮発性親水性有機物の平均分子量が400以上500,000以下のものであることが望ましい。特に、非揮発性親水性有機物の平均分子量が700以上100,000以下である場合には、適度な流動性を有するため、コーティング膜のボイドを埋めた、透明性が高いコーティング膜を得ることができる。
【0044】
非揮発性親水性有機物のコーティング組成物中の含有量は、シリカ微粒子の含有量に対して10質量%以上40質量%以下であることが好ましく、特に10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。コーティング組成物中におけるシリカ微粒子の含有量に対する非揮発性親水性有機物の含有量が10質量%未満であると、形成されるコーティング膜の内部のボイドを十分に埋めることできない場合、あるいはコーティング組成物の拡がり性が低くなる場合があり、コーティング膜の透明性が不十分となることがある。一方、シリカ微粒子の含有量に対する非揮発性親水性有機物の含有量が40質量%よりも多いと、コーティング膜が軟らかくなり過ぎ、耐久性が不十分となることがある。以上より、コーティング組成物中におけるシリカ微粒子の含有量に対する非揮発性親水性有機物の含有量が10質量%以上40質量%以下であることが好ましい。特に、非揮発性親水性有機物のコーティング組成物中の含有量が10質量%以上30質量%以下である場合には、コーティング膜のボイドを十分に埋める効果が得られるため、透明性が高いコーティング膜を形成することができる。
【0045】
<その他>
実施の形態1によるコーティング組成物は、本開示の効果を阻害しない範囲において、様々な特性をコーティング組成物に付与する観点から、当該技術分野において公知の成分を含むことができる。このような成分の例としては、カップリング剤、シラン化合物などが挙げられる。これらの成分の配合量は、本開示の効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、使用する成分の種類に応じて適宜調整すればよい。
【0046】
上記のような成分を含む実施の形態1によるコーティング組成物の製造方法は、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法に準じて行うことができる。具体的には、上記の各成分を配合して混合擾枠することによってコーティング組成物を調製することができる。
【0047】
つぎに、上記のコーティング組成物を用いて作製されるコーティング膜について説明する。
【0048】
<コーティング膜>
実施の形態1によるコーティング組成物を基材上に塗布し、乾燥させることで、コーティング膜が形成される。
【0049】
図1は、実施の形態1によるコーティング組成物を用いたコーティング膜の構造の一例を模式的に示す断面図である。なお、ここでは、コーティング組成物が、シリカ微粒子、金属酸化物微粒子、高沸点溶剤、水、フッ素樹脂粒子および非揮発性親水性有機物を含む場合を例に挙げる。
【0050】
コーティング膜10は、基材20上に配置され、シリカ微粒子15(後述の
図6などで示す)と金属酸化物微粒子17とが凝集してなるシリカ微粒子層11を有する。フッ素樹脂粒子12は、コーティング膜10の表面、すなわちシリカ微粒子層11の表面に露出しているものと、露出していないものとがある。つまり、フッ素樹脂粒子12は、コーティング膜10の表面に部分的に露出し、かつシリカ微粒子層11中に分散した状態で配置されている。
【0051】
図1には、塗布されたコーティング組成物の液膜の乾燥時にシリカ微粒子15の凝集によって形成される欠陥の一例であるクラック13を模式的に示している。実際には、明確なクラック13ではなく、小さい空隙を形成している場合も多い。従来では、これらの欠陥が光を散乱し膜の白濁の原因となっている。しかし、実施の形態1によるコーティング組成物を用いたコーティング膜10では、これらの欠陥の内部に、非揮発性親水性有機物14が充填された状態となる。このことで光散乱が抑制され、コーティング膜10の透明性が増すことになる。また、非揮発性親水性有機物14が添加されていることによって、これらの欠陥の発生自体を抑制する効果も得られる。
【0052】
図1に示されるように、実施の形態1によるコーティング組成物を用いたコーティング膜10の表面は、シリカ微粒子15に起因する親水性の部分と、フッ素樹脂粒子12に起因する疎水性の部分と、の両方を備える。
【0053】
また、後述するように、実施の形態1によるコーティング組成物は、高沸点溶剤を含むため、基材20にコーティング組成物に塗布して液膜を形成してから乾燥してコーティング膜10が形成されるまでの時間が、従来に比して長くなる。そのため、塗布後の液膜がレベリングされ、その状態でコーティング膜10が形成される。その結果、表面の凹凸が平滑化されたコーティング膜10が得られ、従来に比して透明性を高くすることができる。
【0054】
コーティング膜10の膜厚は20nm以上250nm以下であることが好ましい。膜厚が20nmよりも薄いと、コーティング膜が薄過ぎて所望の防汚性を得ることできない。また、膜厚が250nmよりも厚いと、コーティング膜10の表面の凹凸が大きくなり白濁する場合がある。以上より、コーティング膜10の膜厚は20nm以上250nm以下であることが好ましい。また、コーティング膜10の膜厚が80nm以上150nm以下である場合、特に100nm前後の場合には、反射防止機能をコーティング膜10に付与することができ、コーティング膜10が塗布される基材20の透過率を向上させることができる。
【0055】
図2は、実施の形態1に係るコーティング組成物を用いたコーティング膜の効果を説明するための図である。ここで、
図2aは、ガラスなどの基材上にコーティング膜を塗布することなく、直接、フォギング現象による曇りの原因となる有機物が付着した様子を示している。基材20の表面にフォギング現象による曇りの原因となる有機物18が微小な液滴として付着し、これが光を散乱して基材の白濁を生じてさせている。
【0056】
図2bは、従来のコーティング組成物を用いたコーティング膜の一例として、基材上にシリカ微粒子のみからなる膜が形成された状態で、フォギング現象による曇りの原因となる有機物18が付着した様子を示している。有機物18は、シリカ微粒子層11に吸収されるため、
図2aで説明したように、基材上で液滴を生成することはないため、大きな光散乱を生じない。しかし、
図2bにおける有機物18を吸収した部分21b、すなわち膜の最表面に近い部分と、有機物18を吸収していない部分22b、すなわち基材に近い部分の屈折率の差が大きくなるため、透過率のムラを生じ透明性を損なったり、ぎらつきを生じたりする。シリカ微粒子のみからなる膜は多孔質膜であるため、膜の屈折率は空気の屈折率を加味した値となっている。
図2bにおける有機物18を吸収した部分21bは有機物の屈折率を加味した値となる。このため、
図2bにおける有機物18を吸収した部分21bと有機物18を吸収していない部分22bでは屈折率の差が大きくなる。また、気流などの有機物への暴露条件や基材の温度の違いなどにより、有機物18の吸収量が異なる部分が生じた場合、コーティング膜の透過率も異なったものとなってしまうという問題がある。
【0057】
図2cは、実施の形態1に係るコーティング組成物を用いたコーティング膜にフォギング現象による曇りの原因となる有機物18が付着した様子を示している。実施の形態1に係るコーティング組成物を用いたコーティング膜は高屈折率の金属酸化物微粒子が含まれているため、膜の屈折率が
図2bで説明した従来のシリカ微粒子のみからなるコーティング膜より高い値、すなわち有機物の屈折率に近い値となる。このため、
図2cにおける有機物18を吸収した部分21c、すなわち膜の最表面に近い部分と、有機物18を吸収していない部分22c、すなわち基材に近い部分の屈折率の差が、
図2bで説明したシリカ微粒子のみからなる膜の場合と比較して小さくなる。このため、有機物18の吸収にムラが生じても、視認性には影響がなく、高い透明性、均一性が維持される。
【0058】
<基材>
基材は、コーティング膜の形成対象となる部材である。一例では、基材は、物品を構成する部材である。また、基材としては、透明なガラスまたは透明なプラスチックを用いることができる。透明な基材にコーティング膜を形成する場合には、基材の透明性を悪化させない他、適切なコーティング膜の膜厚設計によって反射防止効果が得られ、光透過率を向上させることもできる。また、非透明な基材にコーティング膜を形成する場合においては、基材の色調を変化させない処理ができるという利点がある。光沢面の場合には、上述の反射防止効果により色の深みまたは鮮やかさを向上させる効果も得られる。光沢度が高い表面ではフォギング現象による曇りが目立ちやすいため、60°鏡面光沢が50以上の基材表面に実施の形態1に係るコーティング組成物を用いたコーティング膜を形成すると、特にフォギング現象による基材の曇りを抑制する効果が得られやすい。黒色等の有色の基材では、光沢度によらず、基材表面に実施の形態1に係るコーティング組成物を用いたコーティング膜を形成すると、特にフォギング現象の抑制の効果が得られやすい。透明や白色の基材であって、光沢度が低い基材表面では、もともとフォギング現象による曇りが発生しても目立ちにくい。
【0059】
<製造方法>
図3は、実施の形態1によるコーティング組成物を用いたコーティング膜の製造方法の一例を模式的に示す断面図である。コーティング組成物を含浸させた布状物31をコータであるブロック30に固定し、布状物31を固定した面を基材20に密着させて滑らせることで、基材20上にコーティング組成物が塗布される。これによって、基材20上には、コーティング組成物からなる液膜が形成される。布状物31とブロック30とを組み合わせることで、均一な圧を布状物31にかけながら少量のコーティング組成物を基材20上に塗布することができ、均一なコーティング膜を形成できる。
【0060】
布状物31の厚さは5mm以下が好ましい。5mmよりも厚いと、コーティング組成物の含浸量が多くなり過ぎるため、均一に塗布できないことがあるためである。ここで、布状物31は、織布、不織布、紙など、繊維を集積したものを指す。布状物31の素材は、コーティング組成物を含浸できるものであれば特に限定されない。布状物31の一例は、レーヨン製の布である。なお、繊維くずが発生するとコーティングの欠陥となるため、できるだけ短繊維を含まないものが好ましい。
【0061】
ブロック30の形状は特に限定されないが、基材20の表面に沿って滑らせることができるものが好ましい。すなわち、基材20の表面に沿った形状の面を有するブロック30を用いることが好ましい。
【0062】
ブロック30の材質は、特に限定されない。一例では、ブロック30の材質は、ポリカーボネイトである。また、ブロック30の材質として、コーティング組成物を含浸できるものを用いることもできる。連通孔を有する各種材質のスポンジをブロック30として利用することができるが、スポンジの孔は、孔径が0.05mm以上2mm以下であることが好ましく、0.1mm以上1.5mm以下であることがさらに好ましい。孔径が0.05mm未満の場合には、十分なコーティング組成物の塗布が困難である。また、孔径が2mmを超える場合には、コーティング組成物の塗布量が多くなり過ぎてしまい、液膜にむらが生じ易いため好ましくない。以上より、スポンジの孔は、孔径が0.05mm以上2mm以下であることが好ましい。
【0063】
以上に説明したコーティング方法は、広い面積に安定的に塗布する方法であるが、コーティング方法としてはこのほかにも、浸漬法、ブラシを用いた塗布法、スプレーコート法、各種のコータを用いた塗布法などを用いることができる。また、コーティング組成物を基材20にかけ流して塗布することもできる。
【0064】
図4から
図6は、実施の形態1によるコーティング組成物を用いたコーティング膜の製造方法の手順の一例を模式的に示す断面図である。まず、基材20上にコーティング組成物を塗布して液膜を形成する液膜形成工程が実施される。
図4には、基材20上にコーティング組成物を塗布した直後の液膜10Aの初期状態が示されている。
図4に示されるように、初期状態では、塗布されたコーティング組成物による液膜10Aの厚さにむらがある。また、液膜10A中には、シリカ微粒子15と金属酸化物微粒子17とが溶媒16中で凝集せずに分散した状態にある。ついで、この状態で液膜10Aを乾燥させる乾燥工程が実施される。
【0065】
実施の形態1によるコーティング組成物には、高沸点溶剤が含まれているので、塗布後にすぐにコーティング組成物中の溶媒16が揮発してしまうことはなく、高沸点溶剤の含有量に応じた時間をかけて、溶媒16が揮発する。この期間中に、
図5に示されるように、液膜10Aは徐々にレベリングされることで、液膜10Aの上面は平坦となる。また、このとき、シリカ微粒子15と金属酸化物微粒子17とは液膜10A中で凝集せずに、分散状態を保っている。
【0066】
その後、最終的に溶媒16が乾燥すると、
図6に示されるようにシリカ微粒子15と金属酸化物微粒子17とが凝集してシリカ微粒子層11を有するコーティング膜10が形成される。
【0067】
コーティング組成物を乾燥させる方法としては、コーティングした液膜10Aの面に温度むらを生じさせないことが重要となる。塗布後は自然乾燥させることが好ましい。気流で乾燥を加速する場合には、基材20の温度よりも15℃以上の高温の気流を用いないことが好ましい。基材20の温度よりも15℃以上の高温の気流を用いる場合には、コーティングした液膜10Aの面に温度むらが生じ、乾燥後に得られるコーティング膜10にもむらが生じてしまう。気流の速さとしては、特に限定されないが、25m/秒以下であることが好ましい。気流の速さが25m/秒を超えると、乾燥前の液膜10Aが乱され、均一なコーティング膜10が得られない場合があるからである。
【0068】
実施の形態1では、コーティング組成物は、シリカ微粒子と金属酸化物微粒子と高沸点溶剤と水とを含むようにした。シリカ微粒子の平均粒径は、3nm以上25nm以下であり、コーティング組成物中のシリカ微粒子の含有量は0.1質量%以上5質量%以下である。また、高沸点溶剤の沸点は、150℃以上300℃以下であり、コーティング組成物中の高沸点溶剤の含有量は20質量%以上70質量%以下である。これによって、本実施の形態1のコーティング組成物によって形成されるコーティング膜に、フォギング現象による曇りの原因となる有機物が付着した場合、有機物はこのシリカ微粒子に浸透するため、すみやかに曇りが解消され、透明性を維持できる。また、金属酸化物微粒子が含まれているため、有機物18の吸収にムラが生じても、視認性には影響がなく、高い透明性が維持される。
【0069】
実施の形態2.
実施の形態2では、物品である光学機器に実施の形態1で説明したコーティング組成物を用いたコーティング膜を形成する場合を説明する。
図7~
図14は、実施の形態2によるコーティング膜を有する光学機器の一例を示す図である。この内、
図7~
図12は、光学機器の一例として、ヘッドライト40、50、60が挙げられる。また、
図13及び
図14は光学機器の一例として、カメラ100が挙げられる。
図7は、実施の形態2によるコーティング膜を有する光学機器の一例を示す、リフレクターを有するヘッドライト40の正面図であり、
図8は、
図7のA-A断面図である。また、
図9は、実施の形態2によるコーティング膜を有する光学機器の一例を示す、レンズとアウターを有するヘッドライト50の正面図であり、
図10は、
図9のB-B断面図である。また、
図11は、実施の形態2によるコーティング膜を有する光学機器の一例を示す、ヘッドライト60の正面図であり、
図12は、
図11のC-C断面図である。また、。
図13は、実施の形態2によるコーティング膜を有する光学機器の一例を示す、カメラ100の正面図であり、
図14は、
図13のD-D断面図である。
【0070】
図7~
図14に示されているように、ヘッドライトは、光源43、53、63を有する。その他の構成としては、光源を覆っているアウター42の内部にリフレクター41を有するヘッドライト40や、レンズ54がアウター52で覆われたヘッドライト50や、アウターがなくレンズ64がむき出しとなるヘッドライト60が挙げられる。ヘッドライトは密閉されかつ高温になるため、ヘッドライト内部の部材から有機物が揮発し、アウターの内側やレンズ表面が曇るフォギング現象に起因する曇りが発生する場合がある。そこで、ヘッドライトを構成するアウターの内側やレンズ表面にコーティング膜10を形成することで、フォギング現象に起因する曇りを発生することなく、透明性を維持できる。
【0071】
また、アウターの外側やむき出しのレンズの表面にコーティング膜10を形成することで、親水の効果を得ることができる。表面に水滴が付着すると水滴がレンズとして働き、配光値が変化する場合がある。親水性であれば水が拡がり水滴が形成しないため、配光値を維持できる。また、アウターの外側やむき出しのレンズの表面にコーティング膜を形成することで、防汚効果を得ることができ、汚れによる配光値の変化を防ぐことができる。さらに、反射防止機能を有するようにコーティング膜の膜厚を調整することによって、コーティング膜が塗布される部材の透過率を向上させることもできる。
【0072】
カメラ100は、筐体110内に、カメラ本体部111と、レンズ112と、を備える。屋内外でカメラ100を利用する場合には、レンズ112の表面に汚れが付着する場合がある。そこで、レンズ112の表面に実施の形態1で説明したコーティング膜10を形成することで、カメラ100で撮像される画像に影響を与えることなく、長期間汚れの付着を防止できる。
【0073】
実施の形態2では、カメラ100のレンズ112にコーティング膜10を形成した。コーティング膜10は、従来に比して透明性が高いので、コーティング膜10の塗布前と同等のレンズ112の集光性能を期待することができる。また、反射防止機能を有するようにコーティング膜10の膜厚を調整することによって、コーティング膜10が塗布されるレンズ112の透過率を向上させることもできる。
【0074】
実施の形態3.
実施の形態3では、物品である照明機器に実施の形態1で説明したコーティング組成物によるコーティング膜を形成する場合を説明する。
図15は、実施の形態3によるコーティング膜を有する照明機器の一例を示す正面図であり、
図16は、
図15のE-E断面図である。実施の形態3では、照明機器200は、光を放射する本体部210と、本体部210を覆う照明カバー211と、を備える。
【0075】
照明機器200では、部品からの熱分解物や配合物が揮発し照明カバー211の内側に付着しフォギング現象による曇りが発生する場合がある。また、環境中の揮発性有機物が照明カバー211の外側に付着し、フォギング現象による曇りが発生する場合がある。照明カバー211の内側や外側に実施の形態1で説明したコーティング組成物によるコーティング膜を形成することで、曇りの発生を抑制し長期間透明性を維持できる。また、照明カバー211の外側に実施の形態1で説明したコーティング組成物によるコーティング膜を形成することで、外部からの塵埃等に対する防汚効果も得ることができる。
【実施例】
【0076】
以下に、実施例および比較例によって本開示の詳細を説明するが、これらによって本開示が限定されるものではない。
【0077】
<コーティング組成物の調製方法およびコーティング膜の形成方法>
[実施例1]
平均粒径が12nmであるシリカ微粒子を含むコロイダルシリカ(日産化学工業株式会社製、NH4+安定型アルカリ性ゾル、ST-N)と、平均粒径が2nmである金属酸化物微粒子である酸化スズ微粒子を含む酸化スズゾル(多木化学株式技社製、セラメースS―8)と、高沸点溶剤として沸点が230℃のジエチレングリコールモノブチルエーテルと、水としての脱イオン水と、を配合し、混合攪拌することによってコーティング組成物を調製する。このコーティング組成物において、シリカ微粒子の含有量を1質量%とし、酸化スズ微粒子の含有量を0.2質量%とし、ジエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量を50質量%とし、脱イオン水の含有量を残部とする。
【0078】
得られたコーティング組成物を、不織布(クラレクラフレックス株式会社製、製品名:クラクリーン(登録商標)ワイパー、使用繊維:レーヨン)に含侵させて、ポリカ―ボネート製のブロックに固定する。不織布面をガラス基材(50mm×50mm×1mm)に密着させて滑らせた後、25℃で24時間乾燥させて、コーティング膜を形成する。
【0079】
[実施例2]
高沸点溶剤のジエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量を20質量%に変更すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0080】
[実施例3]
高沸点溶剤のジエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量を21質量%に変更すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0081】
[実施例4]
高沸点溶剤のジエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量を55質量%に変更すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0082】
[実施例5]
高沸点溶剤のジエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量を69質量%に変更すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0083】
[実施例6]
高沸点溶剤のジエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量を70質量%に変更すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0084】
[実施例7]
高沸点溶剤のジエチレングリコールモノブチルエーテルの代わりに、沸点が171℃のジプロピレングリコールジメチルエーテルを用いること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0085】
[実施例8]
シリカ微粒子の含有量を0.2質量%に変更すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0086】
[実施例9]
シリカ微粒子の含有量を4質量%に変更すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0087】
[実施例10]
シリカ微粒子の平均粒径を5nmに変更すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0088】
[実施例11]
シリカ微粒子の平均粒径を20nmに変更すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0089】
[実施例12]
酸化スズ微粒子の含有量を0.7質量%に変更すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0090】
[実施例13]
酸化スズゾルを平均粒径10nmの酸化ジルコニウムを含む酸化ジルコニウム分散液(堺化学工業株式会社、SZR-GCW)に変更すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0091】
[実施例14]
酸化スズゾルを平均粒径8nmの酸化セリウムゾル(多木化学株式会社製、B-10)に変更すること以外は実施例1と同様 にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0092】
[実施例15]
フッ素樹脂粒子としてPTFE粒子(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製、製品名:31JR)を、シリカ微粒子に対して10質量%添加すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。PTFE粒子の平均粒径は0.25μmである。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0093】
[実施例16]
フッ素樹脂粒子としてPTFE粒子(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製、製品名:31JR)を、シリカ微粒子に対して40質量%添加すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。PTFE粒子の平均粒径は0.25μmである。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0094】
[実施例17]
非揮発性親水性有機物としてポリエチレングリコール(東京化成工業株式会社製、製品名:ポリエチレングリコール400)を、シリカ微粒子に対して15質量%添加すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。ポリエチレングリコールの平均分子量は380以上420以下である。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0095】
[実施例18]
非揮発性親水性有機物としてポリエチレングリコール(東京化成工業株式会社製、製品名:ポリエチレングリコール400)を、シリカ微粒子に対して35質量%添加すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。ポリエチレングリコールの平均分子量は380以上420以下である。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0096】
[実施例19]
実施例1のコーティング組成物を、アクリル基材(ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)、50mm×50mm×2mm)に塗布すること以外は、実施例1と同様にコーティング膜を形成する。
【0097】
[実施例20]
実施例1のコーティング組成物を、ガラス基材(50mm×50mm×1mm)にスプレー塗布した後、25℃で24時間乾燥させ、コーティング膜を形成する。
【0098】
[比較例1]
高沸点溶剤のジエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量を15質量%に変更すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0099】
[比較例2]
高沸点溶剤のジエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量を19質量%に変更すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0100】
[比較例3]
高沸点溶剤のジエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量を71質量%に変更すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0101】
[比較例4]
高沸点溶剤のジエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量を75質量%に変更すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0102】
[比較例5]
高沸点溶剤のジエチレングリコールモノブチルエーテルの代わりに、沸点が87℃のエタノールを用いること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0103】
[比較例6]
シリカ微粒子の代りにリチウムシリケート(日産化学工業株式会社製、製品名:リチウムシリケート45)に変更すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0104】
[比較例7]
シリカ微粒子の平均粒径を30nmに変更すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0105】
[比較例8]
シリカ微粒子の含有量を0.05質量%に変更すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0106】
[比較例9]
シリカ微粒子の含有量を7質量%に変更すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0107】
[比較例10]
酸化スズ微粒子を添加しないこと以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0108】
[比較例11]
フッ素樹脂粒子としてPTFE粒子(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製、製品名:31JR)を、シリカ微粒子に対して60質量%添加すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。PTFE粒子の平均粒径は0.25μmである。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0109】
[比較例12]
非揮発性親水性有機物であるポリエチレングリコール(東京化成工業株式会社製、製品名:ポリエチレングリコール400)を、シリカ微粒子に対して50質量%添加すること以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製する。ポリエチレングリコールの平均分子量は380以上420以下である。また、実施例1と同様にして、ガラス基材上にコーティング膜を形成する。
【0110】
<コーティング膜の評価方法>
実施例1から20および比較例1から12のコーティング組成物で形成されるコーティング膜について膜厚を測定し、透明性の評価、耐フォギング性の評価、フォギング試験後の外観評価、さらに透明性および防汚性を評価する。
【0111】
・膜厚の測定
基材上に形成されるコーティング膜を一部削りとり、3D測定レーザ顕微鏡(オリンパス株式会社製)を用いて、コーティング膜と基材との段差を測定することで、膜厚を測定する。コーティング膜の膜厚の測定結果を、以下の基準によって分類する。
1:膜厚が20nm未満のもの
2:膜厚が20nm以上で250nm以下のもの
3:膜厚が250nmを超えるもの
【0112】
・透明性の評価
ヘイズガードi(BYK社製)を用いて、コーティング膜のクラリティを測定する。コーティング膜のクラリティの測定結果を、以下の基準によって評価し、クラリティが90%以上であると透明性が高いと判断する。
1:クラリティが95%以上のもの
2:クラリティが95%未満90%以上のもの
3:クラリティが90%未満のもの
【0113】
・耐フォギング性の評価
直径9cm、高さ19cmのガラス瓶にフタル酸ビス(2―エチルへキシル)を1mL入れ、コーティングしたサンプル板でガラス瓶の口を覆う。ガラス瓶の底を80℃の湯浴で30分間加熱した後、サンプル板のヘイズをヘイズガードi(BYK社製)で測定し、フォギング試験前の初期値と比較した。ヘイズ値の差ΔHazeが4未満であると耐フォギング性が高いと判断する。
1:ΔHazeが2未満
2:ΔHazeが3以上7未満
3:ΔHazeが7以上
【0114】
・フォギング試験後の外観評価
ヘイズガードi(BYK社製)を用いて、フォギング試験後のコーティング膜のクラリティを測定する。コーティング膜のクラリティの測定結果を、以下の基準によって評価し、クラリティが90%以上であると透明性が高いと判断する。
1:クラリティが95%以上のもの
2:クラリティが95%未満90%以上のもの
3:クラリティが90未満%以上のもの
【0115】
・防汚性の評価
防汚性能として、コーティング膜に対する親水性汚損物質である砂塵の固着性を評価する。具体的には、温度25℃、湿度50%の条件下で、1μm以上3μm以下の範囲を中心粒径とするJIS(Japanese Industrial Standards)試験用紛体である関東ローム粉塵をエアでコーティング膜に吹き付ける。その後、コーティング膜に吹きつけた関東ローム粉塵をメンディングテープ(住友スリーエム株式会社製)に転写する。粉塵を転写したテープを貼り付けた別の透明基材において、分光光度計(株式会社島津製作所製、製品名:UV-3100PC)によって波長550nmにおける吸光度を測定する。吸光度は、以下の基準によって評価し、吸光度が0.3未満であると防汚性が高いと判断する。
1:吸光度が0.2未満のもの
2:吸光度が0.2以上0.3未満のもの
3:吸光度が0.3以上のもの
【0116】
図17は、実施例1から20と比較例1から12の評価結果をまとめた図である。
図17に示されるように、実施例1から14のコーティング組成物は、シリカ微粒子の平均粒径が3nm以上25nm以下の範囲にあり、コーティング組成物中のシリカ微粒子の含有量が0.1質量%以上5質量%以下の範囲にある。また、実施例1から14のコーティング組成物は、金属酸化物微粒子を含んでいる。また、実施例1から14のコーティング組成物は、高沸点溶剤の沸点が150℃以上300℃以下の範囲にあり、コーティング組成物中の高沸点溶剤の含有量が20質量%以上70質量%以下の範囲にある。そのため、これらのコーティング組成物を用いて形成されるコーティング膜は、透明性、耐フォギング性、フォギング試験後の透明性、および防汚性が良好である。
【0117】
また、実施例15,16のコーティング組成物は、フッ素樹脂粒子を、シリカ微粒子に対して5質量%以上50質量%以下の範囲で含むので、透明性、耐フォギング性、フォギング試験後の外観評価、および防汚性が良好である。同様に、実施例17,18のコーティング組成物は、シリカ微粒子に対する非揮発性親水性有機物の含有量が10質量%以上40質量%以下の範囲で非揮発性親水性有機物を含むので、透明性、耐フォギング性、フォギング試験後の透明性、および防汚性が良好である。
【0118】
さらに、実施例19でアクリル基材に形成されるコーティング膜、および実施例20でスプレー塗布によって形成されるコーティング膜も、透明性、耐フォギング性、フォギング試験後の外観評価、および防汚性が良好である。すなわち、コーティング膜は、基材がガラスであってもアクリルであっても透明性、耐フォギング性、フォギング試験後の透明性、および防汚性性が良好である。不織布を用いた塗布によって形成されるコーティング膜でもスプレー塗布によって形成されるコーティング膜でも、透明性、耐フォギング性、フォギング試験後の透明性、および防汚性は良好である。
【0119】
これに対して、比較例1,2では、透明性、フォギング試験後の透明性、および防汚性の評価が低い。これは、高沸点溶剤の添加量が不十分であることから、均一膜を形成する効果を十分に得られないためであると考えられる。比較例3,4では、透明性、フォギング試験後の透明性、および防汚性の評価が低い。これは、高沸点溶剤の添加量が過剰であることから、シリカ微粒子および金属酸化物の分散性が低下し、コーティング膜の表面の凹凸が大きくなるためであると考えられる。
【0120】
比較例5では、透明性、耐フォギング性、フォギング試験後の透明性、および防汚性の評価が低い。これは、溶剤として使用したエタノールの沸点が87℃であり、他の高沸点溶剤の沸点と比較して低いためであると考えられる。比較例6では緻密な膜となるため透明性、耐フォギング性、フォギング試験後の透明性、および防汚性の評価が低い。比較例7ではシリカ微粒子の粒径が大きすぎるため、透明性、フォギング試験後の透明性、および防汚性の評価が低い。比較例8ではシリカ微粒子の添加量が少なく薄膜となるため、耐フォギング性、フォギング試験後の透明性、および防汚性の評価が低い。比較例9ではシリカ微粒子の添加量が多く厚膜となるため、透明性、フォギング試験後の透明性、および防汚性の評価が低い。比較例10ではフォギング試験後の透明性の評価が低い。コーティング膜が金属酸化物を含んでおらず、フォギングの原因となる有機物が浸透した際のむらが目立つためである。比較例11では、透明性およびフォギング試験後の透明性の評価が低い。これは、フッ素樹脂粒子の添加量が過剰であることから、凹凸が大きくなり白濁するためであると考えらえる。比較例12では、耐フォギング性、フォギング試験後の透明性、および防汚性の評価が低い。これは、非揮発性親水性有機物の添加量が過剰であることから、フォギングの原因となる有機物の浸透の効果が小さくなり、さらに汚れが付着しやすくなるためである。
【0121】
<物品にコーティング組成物を適用した実施例>
[実施例21]
実施例1のコーティング組成物を不織布(クラレクラフレックス株式会 社製、製品名:クラクリーンワイパー、使用繊維:レーヨン)に含侵させ、ヘッドライトのアウターの内側に密着させ滑らせて塗布した後、25℃で24時間自然乾燥させ、コーティング膜を形成する。
【0122】
[実施例22]
ガラス製照明のカバーの内側に、実施例1のコーティング組成物をスプレー塗布し、25℃で24時間自然乾燥させる。
【0123】
実施例21および22では、コーティング膜をそれぞれの基材に形成したが、基材の見た目に変化はない。すなわち、実施例21おおび22で形成されるコーティング膜は、高い透明性を有している。
【0124】
直径9cm、高さ19cmのガラス瓶にフタル酸ビス(2―エチルへキシル)を1mL入れ、ガラス瓶上部に切断した基材を固定し、ガラス瓶を密閉する。ガラス瓶の底を80℃の湯浴で30分間加熱した後、基材のヘイズを測定する。ヘイズガードi(ビッグガードナー社製)を用いてヘイズを測定したところ、5%以下であり高い耐フォギング性を有していることが分かる。また、温度25℃、湿度50%の条件下で、1μm以上3μm以下の範囲を中心粒径とするJIS試験用紛体である関東ローム粉塵をエアで吹き付けた後、それぞれの物品に軽く振動を与える。その結果、実施例21および22のコーティング膜を形成した各物品において、粉塵が落下することから、実施例21および22で形成されるコーティング膜は、高い防汚性を有していることが分かる。
【0125】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0126】
10 コーティング膜、10A 液膜、11 シリカ微粒子層、12 フッ素樹脂粒子、13 クラック、14 非揮発性親水性有機物、15 シリカ微粒子、16 溶媒、17 金属酸化物微粒子、18 曇りの原因となる有機物、20 基材、21b シリカ微粒子のみからなる膜における有機物を吸収した部分、21c コーティング膜における有機物を吸収した部分、22b シリカ微粒子のみからなる膜における有機物を吸収していない部分、22c コーティング膜における有機物を吸収していない部分、30 ブロック、31 布状物、40 リフレクターを有するヘッドライト、41 リフレクター、 42、52 アウター、 43、53、63 光源、50 レンズとアウターを有するヘッドライト、 54、64 レンズ、60 レンズを有するヘッドライト、100 カメラ、110,310 筐体、111 カメラ本体部、112 レンズ、200 照明機器、210 本体部、211 照明カバー。