(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】スイッチング素子駆動回路
(51)【国際特許分類】
H03K 17/08 20060101AFI20241004BHJP
H03K 17/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H03K17/08 Z
H03K17/00 B
(21)【出願番号】P 2023537775
(86)(22)【出願日】2021-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2021027649
(87)【国際公開番号】W WO2023007569
(87)【国際公開日】2023-02-02
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】日山 一明
【審査官】間宮 嘉誉
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-68071(JP,A)
【文献】特開2001-211059(JP,A)
【文献】国際公開第2019/008817(WO,A1)
【文献】特開2012-186605(JP,A)
【文献】特開平8-18417(JP,A)
【文献】特開2010-10811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03K 17/08
H03K 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ゲート構造のゲート電極を有するNチャネルのスイッチング素子を駆動対象としたスイッチング素子駆動回路であって、
外部より受ける素子制御信号に基づきゲート駆動信号を出力するゲート駆動用回路と、
前記ゲート駆動用回路の出力と前記スイッチング素子のゲート電極との間に介挿され、一端が前記ゲート駆動用回路の出力側の第1のノードに接続され、他端が前記スイッチング素子のゲート電極側の第2のノードに接続されるゲート抵抗と、
エミッタが前記第2のノードに接続され、コレクタが基準電位に接続されるPNPバイポーラトランジスタと、
アノードが前記第1のノードに接続され、カソードが前記PNPバイポーラトランジスタのベースと第3のノードで接続されるダイオードと、
一端が前記第3のノードに接続されるベース接続抵抗と、
前記素子制御信号に基づきベース駆動信号を出力するベース駆動用回路とを備え、前記ベース駆動信号が前記ベース接続抵抗の他端に付与され、
前記第2のノードより得られる電圧が前記スイッチング素子のゲート電圧となり、
前記ゲート駆動用回路は、
前記素子制御信号が前記スイッチング素子のオン状態を指示するオン動作期間において、前記ゲート駆動信号のゲート駆動電圧を電源電圧に設定し、
前記素子制御信号が前記スイッチング素子のオフ状態を指示するオフ動作期間において、前記ゲート駆動信号の前記ゲート駆動電圧を基準電位に設定し、
前記ベース駆動用回路は、
前記オン動作期間において、前記ベース駆動信号のベース駆動電圧を基準電位に設定し、
前記オフ動作期間の少なくとも一部期間において、前記ベース駆動信号によって前記PNPバイポーラトランジスタをオフさせる、
スイッチング素子駆動回路。
【請求項2】
請求項1記載のスイッチング素子駆動回路であって、
前記素子制御信号は“H”レベルで前記オン動作期間を示し、“L”レベルで前記オフ動作期間を示し、
前記ゲート駆動用回路及び前記ベース駆動用回路は共に“H”レベルを電源電圧、“L”レベルを基準電位として動作し、
前記ゲート駆動用回路は、前記素子制御信号を入力し前記ゲート駆動信号を出力するゲート駆動用バッファであり、前記ゲート駆動信号は前記素子制御信号と同一の論理レベルを示し、
前記ベース駆動用回路は、前記素子制御信号を入力し前記ベース駆動信号を出力するベース駆動用バッファであり、前記ベース駆動信号は前記素子制御信号と反対の論理レベルを示す、
スイッチング素子駆動回路。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のスイッチング素子駆動回路であって、
前記PNPバイポーラトランジスタのコレクタは検出用抵抗を介して基準電位に接続され、前記PNPバイポーラトランジスタのコレクタと前記検出用抵抗の一端とが第4のノードで接続され、
前記第4のノードより得られる信号が過電流検出信号となる、
スイッチング素子駆動回路。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載のスイッチング素子駆動回路であって、
前記PNPバイポーラトランジスタのコレクタはカレントミラー回路を介して基準電位に接続され、
前記カレントミラー回路は、
前記PNPバイポーラトランジスタのコレクタと第4のノードで接続され、前記第4のノードを流れる参照電流を受け、前記第4のノードとは異なる電流経路に設けられる第5のノードにミラー電流を流し、前記ミラー電流は前記参照電流との間に電流量比例関係を有する、
スイッチング素子駆動回路。
【請求項5】
請求項1記載のスイッチング素子駆動回路であって、
前記素子制御信号は“H”レベルで前記オン動作期間を示し、“L”レベルで前記オフ動作期間を示し、
前記ゲート駆動用回路及び前記ベース駆動用回路は共に“H”レベルを電源電圧、“L”レベルを基準電位として動作し、
前記ゲート駆動用回路は、前記素子制御信号を入力し前記ゲート駆動信号を出力するゲート駆動用バッファであり、前記ゲート駆動信号は前記素子制御信号と同一論理レベルを示し、
前記ベース駆動用回路は、前記素子制御信号及び前記ゲート電圧を入力し、シンク制御信号を前記ベース駆動信号として出力するシンク制御回路であり、
前記スイッチング素子は前記ゲート電圧が閾値電圧を上回る時にオン状態となり、
前記シンク制御回路は、
前記素子制御信号が“L”レベルを示し、かつ、前記ゲート電圧が前記閾値電圧を上回るターンオフ開始期間に、前記シンク制御信号によって前記PNPバイポーラトランジスタをオフさせ、前記オフ動作期間における前記少なくとも一部期間は前記ターンオフ開始期間であり、
前記ターンオフ開始期間以外の時、前記シンク制御信号を前記ベース駆動電圧として基準電位に設定する、
スイッチング素子駆動回路。
【請求項6】
請求項2記載のスイッチング素子駆動回路であって、
前記ゲート駆動用バッファは、
一方電極に電源電圧を受け、制御電極に前記素子制御信号を受けるソース側トランジスタと、
一方電極が基準電位に設定され、制御電極に前記素子制御信号を受けるシンク側トランジスタとを含み、
前記ゲート駆動信号はソース側ゲート駆動信号とシンク側ゲート駆動信号とを含み、前記ソース側トランジスタの他方電極より得られる信号が前記ソース側ゲート駆動信号となり、前記シンク側トランジスタの他方電極より得られる信号が前記シンク側ゲート駆動信号となり、
前記ソース側トランジスタは、前記素子制御信号が“H”を示す際にオン状態となり、
前記シンク側トランジスタは、前記素子制御信号が“L”を示す際にオン状態となり、
前記ゲート抵抗はソース側ゲート抵抗とシンク側ゲート抵抗とを含み、
前記ダイオードはソース側ダイオードとシンク側ダイオードとを含み、
前記第1のノードはソース側第1のノードとシンク側第1のノードとを含み、
前記ソース側トランジスタの他方電極は前記ソース側第1のノードで前記ソース側ゲート抵抗の一端に接続され、
前記シンク側トランジスタの他方電極は前記シンク側第1のノードで前記シンク側ゲート抵抗の一端に接続され、
前記ソース側ゲート抵抗の他端及び前記シンク側ゲート抵抗の他端は前記第2のノードに共通に接続され、
前記ソース側ダイオードのアノードは前記ソース側第1のノードに接続され、カソードは前記第3のノードに接続され、
前記シンク側ダイオードのアノードは前記シンク側第1のノードに接続され、カソードは前記第3のノードに接続される、
スイッチング素子駆動回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、過電流状態となったスイッチング素子の負荷電流の増加を抑える機能を有するスイッチング素子駆動回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体スイッチング素子として、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やSiC構造のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等が採用されている。
【0003】
半導体スイッチング素子の負荷短絡を原因として、半導体スイッチング素子を流れる負荷電流が過度に増加する過電流状態が生じると、半導体スイッチング素子がダメージを受けてしまう。そこで、半導体スイッチング素子のオン電圧の増加に基づき、半導体スイッチング素子の過電流状態を検出することにより、半導体スイッチング素子を過電流状態から保護する保護回路が設けられる。このような過電流検出機能を有する保護回路は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0004】
従来の保護回路は、誤動作を防止するために半導体スイッチング素子のターンオンから一定期間は保護回路の過電流検出機能をマスクしている。
【0005】
過電流検出機能を実現する他の方法として、スイッチング素子に並列に接続される小面積の電流センス用セルに流れる電流をシャント抵抗で検出する第2の方法がある。この第2の方法はIPM(Intelligent Power Module)等で一般的に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した保護回路は、半導体スイッチング素子のオン電圧を過電流検出パラメータとして利用している。具体的には、半導体スイッチング素子のオン電圧が事前に定めた過電流検出用の閾値電圧を越えた場合に過電流状態と判定している。
【0008】
しかしながら、上記保護回路はでは、半導体スイッチング素子がターンオンし、オン電圧が過電流検出用の閾値電圧以下に下がるまでの一定期間、過電流状態の判定を行わないマスク期間を設ける必要があった。なお、上述した一定期間は、例えば、「ミラー期間」と呼ばれている。
【0009】
このように、従来の保護回路は、ターンオン直後のマスク期間中は過電流検出機能が無効化されるため、スイッチング素子の過電流状態を検出できない期間が存在するという問題点があった。
【0010】
次に、IPM等のスイッチング素子に並列に接続される小面積の電流センス用セルに流れる電流をシャント抵抗で検出する第2の方法について考える。第2の方法の場合、ターンオン時のスイッチングノイズ等による誤動作を防止するために、電流センス用セルにて検出した信号に対しカットオフ周波数の低いローパスフィルタを設ける必要があるため、ターンオン直後の過電流状態の検出が遅れてしまう問題点があった。
【0011】
さらに、スイッチング素子に電流センス用セルを組み込むため、電流センス用セル及び配線のためのパッド等が余分に必要となり、電流センス用セルを含むスイッチング素子の製造コストが増加する問題点もあった。
【0012】
本開示では、上記のような問題点を解決し、スイッチング素子のターンオン直後においても、過電流状態のスイッチング素子を流れる負荷電流の増加を抑制することができるスイッチング素子駆動回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示のスイッチング素子駆動回路は、絶縁ゲート構造のゲート電極を有するNチャネルのスイッチング素子を駆動対象としたスイッチング素子駆動回路であって、外部より受ける素子制御信号に基づきゲート駆動信号を出力するゲート駆動用回路と、前記ゲート駆動用回路の出力と前記スイッチング素子のゲート電極との間に介挿され、一端が前記ゲート駆動用回路の出力側の第1のノードに接続され、他端が前記スイッチング素子のゲート電極側の第2のノードに接続されるゲート抵抗と、エミッタが前記第2のノードに接続され、コレクタが基準電位に接続されるPNPバイポーラトランジスタと、アノードが前記第1のノードに接続され、カソードが前記PNPバイポーラトランジスタのベースと第3のノードで接続されるダイオードと、一端が前記第3のノードに接続されるベース接続抵抗と、前記素子制御信号に基づきベース駆動信号を出力するベース駆動用回路とを備え、前記ベース駆動信号が前記ベース接続抵抗の他端に付与され、前記第2のノードより得られる電圧が前記スイッチング素子のゲート電圧となり、前記ゲート駆動用回路は、前記素子制御信号が前記スイッチング素子のオン状態を指示するオン動作期間において、前記ゲート駆動信号のゲート駆動電圧を電源電圧に設定し、前記素子制御信号が前記スイッチング素子のオフ状態を指示するオフ動作期間において、前記ゲート駆動信号の前記ゲート駆動電圧を基準電位に設定し、前記ベース駆動用回路は、前記オン動作期間において、前記ベース駆動信号のベース駆動電圧を基準電位に設定し、前記オフ動作期間の少なくとも一部期間において、前記ベース駆動信号によって前記PNPバイポーラトランジスタをオフさせる。
【発明の効果】
【0014】
上記オン動作期間において、負荷短絡等によりスイッチング素子を流れる負荷電流が増加するに伴い、スイッチング素子のオン電圧が増加する。その結果、スイッチング素子のゲート電極に寄生する帰還容量を介してスイッチング素子のゲート電圧が上昇し、ゲート駆動信号のゲート駆動電圧よりもゲート電圧が高くなるため、スイッチング素子を流れる負荷電流がさらに増加する正帰還状態となる。
【0015】
一方、上述した負荷電流の増加に伴うゲート電圧の上昇によって、PNPバイポーラトランジスタのエミッタ電圧が上昇することにより、PNPバイポーラトランジスタのベース・エミッタ間電圧が負方向に変化する。このため、スイッチング素子を流れる負荷電流が過度に増加する過電流状態時に、ベース・エミッタ間電圧はPNPバイポーラトランジスタがオン状態となるレベルに変化する。
【0016】
その結果、本開示のスイッチング素子駆動回路において、スイッチング素子の過電流状態時にPNPバイポーラトランジスタは必ずオン状態となるため、スイッチング素子のゲート電圧の上昇を抑制して、スイッチング素子を流れる負荷電流の増加を効果的に抑制することができる。
【0017】
さらに、本開示のスイッチング素子駆動回路は、PNPバイポーラトランジスタのベース・エミッタ間電圧を過電流検出パラメータとして用いているため、スイッチング素子のターンオン直後においても支障無く過電流状態の有無を検出することができる。
【0018】
したがって、本開示のスイッチング素子駆動回路は、スイッチング素子のターンオン直後においても、過電流状態のスイッチング素子を流れる負荷電流の増加を抑制することができる。
【0019】
本開示の目的、特徴、局面、および利点は、以下の詳細な説明と添付図面とによって、より明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施の形態1であるスイッチング素子駆動回路の回路構成を示す回路図である。
【
図3】実施の形態2であるスイッチング素子駆動回路の回路構成を示す回路図である。
【
図4】実施の形態3であるスイッチング素子駆動回路の回路構成を示す回路図である。
【
図5】実施の形態4であるスイッチング素子駆動回路の回路構成を示す回路図である。
【
図6】実施の形態5であるスイッチング素子駆動回路の回路構成を示す回路図である。
【
図7】実施の形態5における他のバッファの回路構成を示す回路図である。
【
図8】IGBTのターンオン動作及びターンオフ動作を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<従来の保護回路の課題>
図8は一般的なIGBTのターンオン動作及びターンオフ動作を示す波形図である。以下、
図8を参照して、従来のIGBTの過電流状態時の保護回路の課題を説明する。
【0022】
同図に示すように、時刻t1にゲート電圧VGが立ち上がることによりターンオン動作が開始される。その後、時刻t11でゲート電圧VGは下方基準ラインLB2を越え、さらに上昇する。時刻t11の経過後、一定の電圧値を維持するミラー期間を経て、時刻t2から再び上昇した後、ゲート電圧VGは想定最大電圧値となり安定する。
【0023】
ターンオン動作時に、コレクタ電流Icは上昇し、時刻t12で下方基準ラインLB1に到達し、時刻t13で上方基準ラインLT1に到達する。そして、時刻t2以降において、コレクタ電流Icは通常の想定最大電流値となり安定する。
【0024】
ターンオン動作時にコレクタ・エミッタ間電圧VCEは下降し、時刻t13より後の時刻t14で閾値電圧VRを下回り、時刻t2以降でコレクタ・エミッタ間電圧VCEは最小電圧値で安定する。
【0025】
なお、下方基準ラインLB1はコレクタ電流Icの想定最大電流値の10%ラインを示し、上方基準ラインLT1はコレクタ電流Icの想定最大電流値の90%ラインを示している。下方基準ラインLB2はゲート電圧VGの想定最大電圧値の90%ラインを示している。
【0026】
ゲート電圧VGが下方基準ラインLB2に達した時刻t11から、コレクタ電流Icが上方基準ラインLT1に達する時刻t12までの期間がスイッチング遅延時間tdonとなる。また、時刻t12からコレクタ電流Icが上方基準ラインLT1に達する時刻t13までの期間が立ち上がり期間trとなる。
【0027】
なお、ターンオフ動作は、従来の課題との関連性が希薄なため、説明を省略する。
【0028】
図8に示す閾値電圧VRは、オン電圧となるコレクタ・エミッタ間電圧VCEに対する過電流状態検出用の閾値電圧となる。従来の保護回路は、コレクタ・エミッタ間電圧VCEが閾値電圧VRを上回ると、スイッチング素子であるIGBTが過電流状態であると判定する過電流検出機能を有していた。
【0029】
しかしながら、
図8に示すように、ターンオン開始時刻t1から時刻t14までは、コレクタ・エミッタ間電圧VCEは閾値電圧VRより高い状態となっている。すなわち、IGBT1の過電流状態の有無と関係なく、ターンオン直後の期間は、コレクタ・エミッタ間電圧VCEは閾値電圧VRより高くなっている。
【0030】
このため、過電流の誤検出を回避すべく、時刻t1から時刻t14までの期間をマスク期間として、保護回路は上述した過電流検出機能を無効化していた。
【0031】
このように、従来の保護回路は、IGBT等のスイッチング素子のターンオン直後のマスク期間中は過電流検出機能を無効化する必要があるため、IGBT等のスイッチング素子の負荷短絡等を原因として、スイッチング素子が過電流状態となる異常現象を検出できないという課題を有している。
【0032】
また、閾値電圧VRは温度特性や製造プロセスにおけるバラツキの影響を受けるため、正確に設定することが難しい。このため、オン電圧であるコレクタ・エミッタ間電圧VCEを過電流検出パラメータとした場合、IGBTの過電流状態を正確に検出することができないという課題も有している。
【0033】
<実施の形態1>
図1は本開示の実施の形態1であるスイッチング素子駆動回路51の回路構成を示す回路図である。
【0034】
スイッチング素子駆動回路51は、電源電圧Vccを動作用電源電圧として受け、駆動対象となるIGBT1のオン・オフ動作を駆動制御している。
【0035】
図1に示すように、NチャネルのIGBT1は、絶縁ゲート構造のゲート電極を有するNチャネルのスイッチング素子となる。IGBT1のコレクタは負荷21に接続され、エミッタが接地レベルの基準電位GNDに設定されている。負荷21には電源20の正極が接続され。電源20の負極は基準電位GNDに設定される。
【0036】
実施の形態1のスイッチング素子駆動回路51は、バッファ2、反転バッファ3、PNPバイポーラトランジスタQ1、抵抗11、抵抗12、及びダイオードD1を主要構成要素として含んでいる。
【0037】
バッファ2は外部より受ける素子制御信号S0に基づきゲート駆動信号S2を出力するゲート駆動用バッファである。実施の形態1では、バッファ2によってゲート駆動用回路が構成している。
【0038】
抵抗11は、バッファ2の出力とIGBT1のゲート電極との間に介挿される。抵抗11の一端がバッファ2の出力側のノードN1に接続され、他端がIGBT1のゲート電極側のノードN2に接続される。抵抗11はゲート抵抗として機能し、ノードN1及びN2が第1及び第2のノードとなる。抵抗11はゲート抵抗値RGを有している。
【0039】
ノードN2より得られる電圧がゲート電圧VGとなり、IGBT1はゲート電圧VGが閾値電圧Vthを上回る時にオン状態となる。
【0040】
過電流緩和用トランジスタであるPNPバイポーラトランジスタQ1はエミッタがノードN2に接続され、コレクタが基準電位GNDに直接接続される。
【0041】
過電流検出用ダイオードであるダイオードD1はバッファ2の出力とPNPバイポーラトランジスタQ1のベースとの間に介挿される。すなわち、ダイオードD1のアノードがノードN1に接続され、ダイオードD1のカソードがPNPバイポーラトランジスタQ1のベースとノードN3にて接続される。ノードN3が第3のノードとなる。
【0042】
ベース接続抵抗である抵抗12の一端はノードN3に接続される。抵抗12はベース電流用抵抗として機能し、抵抗値Rbを有している。
【0043】
反転バッファ3は、素子制御信号S0に基づきベース駆動信号S3を出力するベース駆動用バッファとして機能する。反転バッファ3より出力されるベース駆動信号S3は抵抗12の他端に付与される。実施の形態2では、反転バッファ3によってベース駆動用回路を構成している。
【0044】
素子制御信号S0は、IGBT1におけるオン動作期間を指示する“H”レベルと、IGBT1におけるオフ動作期間を指示する“L”レベルとのうち、一方のレベルを示している。これら“H”及び“L”レベルが論理レベルとなる。
【0045】
バッファ2及び反転バッファ3は共に“H”レベルを電源電圧Vcc、“L”レベルを基準電位GNDとして動作する。
【0046】
すなわち、バッファ2のゲート駆動信号S2のゲート駆動電圧V2は、“H”レベルの電源電圧Vcc及び“L”レベルの基準電位GNDのうち一方の電圧を示し、反転バッファ3のベース駆動信号S3のベース駆動電圧V3は、“H”レベルの電源電圧Vcc及び“L”レベルの基準電位GNDのうち一方の電圧を示す。
【0047】
バッファ2は素子制御信号S0を入力し、ゲート駆動信号S2を出力する。この際、ゲート駆動信号S2は、素子制御信号S0が示す論理レベルと、同一論理レベルを示す。
【0048】
すなわち、素子制御信号S0が“H”の場合、ゲート駆動電圧V2は“H”レベルの電源電圧Vccとなり、素子制御信号S0が“L”の場合、ゲート駆動電圧V2は“L”レベルの基準電位GNDとなる。
【0049】
反転バッファ3は素子制御信号S0を入力し、ベース駆動信号S3を出力する。この際、ベース駆動信号S3は、素子制御信号S0が示す論理レベルと、反対の論理レベルを示す。
【0050】
すなわち、素子制御信号S0が“H”の場合、ベース駆動電圧V3は“L”レベルの基準電位GNDとなり、素子制御信号S0が“L”の場合、ベース駆動電圧V3は“H”レベルの電源電圧Vccとなる。
【0051】
なお、バッファ2及び反転バッファ3はそれぞれIGBT1をオン/オフする際にIGBT1のゲート容量を充放電できるように、IGBT1のゲート電極のゲート容量に応じて適切な駆動能力を有している。バッファ2及び反転バッファ3それぞれの増幅形態は、電圧増幅でなく電流増幅が採用されることが一般的である。また、ゲート抵抗となる抵抗11は、半導体スイッチング素子となるIGBT1のスイッチング速度の調整のために設けられる。
【0052】
素子制御信号S0を“L”から“H”に立ち上げることによりIGBT1に対するターンオン動作が行える。通常のターンオン動作時には、IGBT1のゲート電圧VGは、バッファ2のゲート駆動信号S2におけるゲート駆動電圧V2に従い上昇する。但し、バッファ2の出力とIGBT1のゲート電極との間に抵抗11が介挿されているため、抵抗11に駆動電流IGが流れる。このため、ゲート電圧VGは、以下の式(1)で決定する。
【0053】
VG=V2-IG×RG…(1)
【0054】
このとき、反転バッファ3のベース駆動信号S3のベース駆動電圧V3は基準電位GNDとなる。すなわち、PNPバイポーラトランジスタQ1のベースとなるノードN3は抵抗12を介して基準電位GNDにプルダウンされる。一方、ノードN3はダイオードD1のカソードに接続されるため、PNPバイポーラトランジスタQ1のベース電位VBは以下の式(2)で表される。
【0055】
VB=V2-1VF…(2)
なお、式(2)において、VFはダイオードD1の順方向電圧である。
【0056】
したがって、PNPバイポーラトランジスタQ1のベース・エミッタ間電圧VBEは、以下の式(3)で表される。
【0057】
VBE=VB-VG=-1VF+IG×RG…(3)
【0058】
このため、PNPバイポーラトランジスタQ1は通常のオン動作期間においてオフ状態となる。
【0059】
ここで、IGBT1に負荷短絡等が生じると、IGBT1の出力電流となるコレクタ電流Icが増加し活性動作状態となり定格電流を越え、コレクタ・エミッタ間電圧VCEも電源電圧Vcc以上に増加する。このように、IGBT1の負荷短絡等を原因として、IGBT1を流れる負荷電流が過度に増加する過電流状態が発生する。
【0060】
このため、IGBT1のゲート電極に寄生する帰還容量を介しゲート電圧VGが上昇し、ゲート駆動電圧V2よりも高くなる。なお、帰還容量は、正確にはIGBT1のコレクタ,ゲート間の寄生容量である。
【0061】
ゲート電圧VGとゲート駆動電圧V2との関係が{V2<VG}になると、IGBT1のゲート電極から抵抗11を経由して、バッファ2の出力側に駆動電流IGが流れる。すなわち、IGBT1の通常のオン動作時と反対方向に駆動電流IGが流れる。
【0062】
したがって、IGBT1の過電流状態時は、ゲート電圧VGとゲート駆動電圧V2との関係は以下の式(4)のように変化する。
【0063】
VG=V2+IG×RG…(4)
【0064】
式(4)に示すように、ゲート電圧VGが変化した結果、PNPバイポーラトランジスタQ1のベース・エミッタ間電圧VBEは、以下の式(5)のように負方向に変化する。
【0065】
VBE=-1VF-IG×RG…(5)
【0066】
式(5)に示すように変化したベース・エミッタ間電圧VBEによって、PNPバイポーラトランジスタQ1がオン状態となり、ノードN2から基準電位GNDに向けて電流を流すことができる。
【0067】
その結果、実施の形態1のスイッチング素子駆動回路51は、IGBT1のゲート電圧VGの上昇を抑制することができる。PNPバイポーラトランジスタQ1のベースにノードN3で接続される抵抗12の抵抗値Rbは、PNPバイポーラトランジスタQ1がオンする際、PNPバイポーラトランジスタQ1にベース電流が流れるように設定される。
【0068】
一方、ターンオフ動作時には反転バッファ3のベース駆動信号S3のベース駆動電圧V3は電源電圧Vccまで上昇するため、抵抗12を介してPNPバイポーラトランジスタQ1のベース電位はプルアップされる。
【0069】
その結果、ターンオフ動作期間中にPNPバイポーラトランジスタQ1はオフ状態を維持するため、PNPバイポーラトランジスタQ1がターンオフ動作に影響を与えることはない。
【0070】
ターンオン動作時を含むIGBT1のオン動作期間において、負荷短絡等によってIGBT1を流れる負荷電流が増加するに伴い、IGBT1のオン電圧であるコレクタ・エミッタ間電圧VCEが増加する。その結果、IGBT1のゲート電極に寄生する帰還容量を介してIGBT1のゲート電圧VGが上昇し、ゲート駆動信号S2のゲート駆動電圧V2よりもゲート電圧VGが高くなるため、IGBT1を流れる負荷電流がさらに増加する正帰還状態となる。
【0071】
一方、上述した負荷電流の増加に伴うゲート電圧VGの上昇によって、PNPバイポーラトランジスタQ1のエミッタ電圧が上昇することにより、PNPバイポーラトランジスタQ1のベース・エミッタ間電圧VBEが上述した式(5)に示すように負方向に変化する。このため、IGBT1を流れる負荷電流が過度に増加する過電流状態時には、ベース・エミッタ間電圧VBEはPNPバイポーラトランジスタQ1がオン状態となるレベルに変化する。
【0072】
その結果、IGBT1の過電流状態時にPNPバイポーラトランジスタQ1は必ずオン状態となるため、実施の形態1のスイッチング素子駆動回路51は、IGBT1のゲート電圧VGの上昇を抑制して、IGBT1を流れる負荷電流の増加を効果的に抑制することができる。
【0073】
従来のスイッチング素子駆動回路は、過電流緩和用トランジスタとなるPNPバイポーラトランジスタQ1を有していないため、上述した正帰還状態を解消できない。
【0074】
一方、実施の形態1のスイッチング素子駆動回路51におけるPNPバイポーラトランジスタQ1は、IGBT1のゲート電圧VGが帰還容量を介して上昇し電源電圧Vccを越え始めると直ちにオン状態となる。このため、スイッチング素子駆動回路51は、IGBT1のゲート電圧VGの上昇を速やかに抑制し、コレクタ電流Icの増加を抑制して、IGBT1の過電流状態を早期に解消することができる。したがって、IGBT1が過電流状態となり破壊されることもない。
【0075】
図2は実施の形態1の効果を示す波形図である。同図において、ゲート・エミッタ間電圧VGE1及びコレクタ電流IC1は、スイッチング素子駆動回路51によってIGBT1が駆動される場合のゲート・エミッタ間電圧VGE及びコレクタ電流Icである。
【0076】
一方、ゲート・エミッタ間電圧VGE0及びコレクタ電流IC0は、PNPバイポーラトランジスタQ1を有さない従来のスイッチング素子駆動回路によってIGBTが駆動される場合のゲート・エミッタ間電圧VGE及びコレクタ電流Icである。
【0077】
なお、IGBT1のエミッタは接地レベルの基準電位GNDに設定されているため、ゲート電圧VGとゲート・エミッタ間電圧VGEとはほぼ同一値となる。
【0078】
図2では、素子制御信号S0としてパルス幅3μsの矩形波が入力されており、電源電圧Vccは15Vに設定されている。
【0079】
同図に示すように、ゲート・エミッタ間電圧VGE1が電源電圧Vccである15Vを越え、IGBT1の負荷電流が増加する過電流状態となっても、PNPバイポーラトランジスタQ1がオン状態となることにより、速やかに15V付近までゲート・エミッタ間電圧VGE1を低下させている。
【0080】
一方、ゲート・エミッタ間電圧VGE0は15Vを越える過電流状態となっても、15V付近までゲート・エミッタ間電圧VGE0を低下させることができない。なお、
図2で示すゲート・エミッタ間電圧VGE0が緩やかに低下しているのは、ゲート駆動用回路にシンク機能を持たせていることに起因している。
【0081】
また、コレクタ電流Icに関し、コレクタ電流IC1では、ピーク電流を5600A程度に抑制している。一方、コレクタ電流IC0ではピーク電流が約7000Aまで増加している。このように、実施の形態1のスイッチング素子駆動回路51は、従来のスイッチング素子駆動回路と比較して短絡電流のピーク値を20%程度低減できている。
【0082】
図2に示すように、スイッチング素子駆動回路51によって、IGBT1の過電流状態時にPNPバイポーラトランジスタQ1がオン状態となることにより、ゲート・エミッタ間電圧VGE及びコレクタ電流Icの低減化が図られる結果、過電流状態を緩和することができる。
【0083】
さらに、実施の形態1のスイッチング素子駆動回路51は、PNPバイポーラトランジスタQ1のベース・エミッタ間電圧VBEを過電流検出パラメータとして用いているため、IGBT1のターンオン直後においても支障無く速やかに過電流状態の有無を検出することができる。
【0084】
なぜならば、IGBT1のオン電圧となるコレクタ・エミッタ間電圧VCEを過電流検出パラメータとして用いる従来の保護回路のように、IGBT1のターンオン直後において一定期間、過電流検出機能を停止するマスク期間を設定する必要がないからである。
【0085】
したがって、実施の形態1のスイッチング素子駆動回路51は、IGBT1のターンオン直後においても、過電流状態のIGBT1を流れる負荷電流の増加を抑制することができる。
【0086】
さらに、PNPバイポーラトランジスタQ1がオン状態となるベース・エミッタ間電圧VBEは温度特性や製造プロセスのバラツキの影響を受けにくいため、スイッチング素子駆動回路51は正確にIGBT1の過電流状態の有無を検出することができる。
【0087】
加えて、実施の形態1のスイッチング素子駆動回路51は、電流センス用セル等をIGBT1に組み込む必要がなくなる分、IGBT1に関する製造コストの低減化を図ることができる。
【0088】
素子制御信号S0に対し、ゲート駆動信号S2のゲート駆動電圧V2とベース駆動信号S3のベース駆動電圧V3とは互いに反対の論理レベルを示している。このため、素子制御信号S0が“L”となるIGBT1のオフ動作期間において、ゲート駆動信号S2のゲート駆動電圧V2は“L”の基準電位GNDとなり、ベース駆動信号S3のベース駆動電圧V3は“H”の電源電圧Vccとなる。
【0089】
このため、IGBT1のオフ動作期間に、ベース接続抵抗である抵抗12を介して電源電圧VccがPNPバイポーラトランジスタQ1のベースに付与される。
【0090】
したがって、IGBT1のオフ動作期間の全期間において、ベース駆動信号S3によってPNPバイポーラトランジスタQ1はオフ状態にされる。
【0091】
その結果、実施の形態1のスイッチング素子駆動回路51は、IGBT1のターンオフ時に、PNPバイポーラトランジスタQ1は必ずオフ状態となっているため、PNPバイポーラトランジスタQ1の存在がIGBT1のターンオフ動作に悪影響を与えることはない。
【0092】
さらに、ゲート駆動用回路を1単位のゲート駆動用バッファとなるバッファ2で構成し、ベース駆動用回路を1単位のベース駆動用バッファとなる反転バッファ3で構成しているため、本開示のスイッチング素子駆動回路51を比較的簡単な回路構成で実現することができる。
【0093】
なお、IGBT1のターンオン速度を調整するために、素子制御信号S0は矩形波ではなく、立上りがランプ波形や段階的に増加する波形にしてもよい。この場合においても、IGBT1の負荷短絡等の異常発生時に素子制御信号S0が矩形の場合と同様に、IGBT1のゲート電圧VGの上昇する現象が発生する。しかし、上述したように、IGBT1の過電流状態時にPNPバイポーラトランジスタQ1がオン状態となることにより、ゲート電圧VGの上昇を抑制し、IGBT1の過電流状態を早期に解消することができる。
【0094】
<実施の形態2>
図3は本開示の実施の形態2であるスイッチング素子駆動回路52の回路構成を示す回路図である。
【0095】
図1で示した実施の形態1のスイッチング素子駆動回路51と同様な箇所は同一符号を付して説明を適宜省略する。以下、実施の形態2のスイッチング素子駆動回路52の特徴部分を中心に説明する。
【0096】
PNPバイポーラトランジスタQ1のコレクタは検出用抵抗である抵抗13を介して基準電位GNDに接続される。PNPバイポーラトランジスタQ1と抵抗13の一端とがノードN4にて接続される。抵抗13は抵抗値Rsを有している。
【0097】
第4のノードとなるノードN4より得られる検出信号S13は、IGBT1の過電流状態の有無を示す過電流検出信号となる。
【0098】
このような構成のスイッチング素子駆動回路52において、実施の形態1と同様、IGBT1の負荷短絡等が発生した際にIGBT1のゲート電圧VGの上昇を抑えるために、PNPバイポーラトランジスタQ1がオン状態となる。
【0099】
すると、IGBT1のゲート電極からPNPバイポーラトランジスタQ1及び抵抗13を介して基準電位GNDへ電流I13が流れる。その際、抵抗値Rsを有する抵抗13による電圧降下が生じる。
【0100】
その結果、検出信号S13が示す検出電圧V13は以下の式(6)となる。
【0101】
V13=I13×Rs…(6)
【0102】
一方、IGBT1が過電流状態で無い場合、PNPバイポーラトランジスタQ1はオフ状態となるため、ノードN4はフローティング状態となり、有意な検出電圧V13を得ることができない。
【0103】
したがって、実施の形態2のスイッチング素子駆動回路52から出力される検出信号S13の検出電圧V13に基づき、スイッチング素子駆動回路52の外部からIGBT1の過電流状態の有無を検出することができる。
【0104】
このように、実施の形態2のスイッチング素子駆動回路52は、実施の形態1の効果に加え、以下の効果を奏する。
【0105】
実施の形態2のスイッチング素子駆動回路52は、過電流検出信号となる検出信号S13が示す検出電圧V13から比較的簡単に、IGBT1における過電流状態の有無を検出することができる。
【0106】
その結果、スイッチング素子駆動回路52の外部に設けた保護回路により素子制御信号S0がオフ動作を指示する“L”レベルになるように保護動作を行うことができる。
【0107】
加えて、保護回路が保護動作を実行する前に、オン状態となるPNPバイポーラトランジスタQ1によって、IGBT1のゲート電圧VGの上昇を事前に抑制できているため、保護回路の保護動作が遅延することによってIGBT1に破壊等の不具合が生じる現象を防止することができる。
【0108】
<実施の形態3>
(実施の形態2の課題)
実施の形態2のスイッチング素子駆動回路52において、抵抗13の抵抗値Rsを大きくすると、式(6)で示した検出電圧V13を大きくすることができるため、検出信号S13の検出感度を高めることができる。しかしながら、抵抗値Rsを大きくすると、PNPバイポーラトランジスタQ1のコレクタ電位が高くなることにより、オン状態のPNPバイポーラトランジスタQ1を流れる電流量が低下する分、PNPバイポーラトランジスタQ1によるIGBT1のゲート電圧VGの上昇抑制効果を低下させてしまう。すなわち、抵抗13の抵抗値Rsの増減に関し、検出信号S13の検出感度とゲート電圧VGの上昇抑制効果とはトレードオフの関係となる。
【0109】
(実施の形態3の構成)
図4は本開示の実施の形態3であるスイッチング素子駆動回路53の回路構成を示す回路図である。
【0110】
図1で示した実施の形態1のスイッチング素子駆動回路51と同様な箇所は同一符号を付して説明を適宜省略する。以下、実施の形態3のスイッチング素子駆動回路53の特徴部分を中心に説明する。
【0111】
PNPバイポーラトランジスタQ1のコレクタはノードN4にてカレントミラー回路15に接続される。ノードN4が第4のノードとなる。
【0112】
カレントミラー回路15は、NPNバイポーラトランジスタQ2及びQ3を主要構成要素として含んでいる。NPNバイポーラトランジスタQ2及びQ3間でベースを共有している。
【0113】
NPNバイポーラトランジスタQ2はベース,コレクタ間が接続され、コレクタがノードN4でPNPバイポーラトランジスタQ1のコレクタと接続され、エミッタが基準電位GNDに接続される。NPNバイポーラトランジスタQ3のエミッタは基準電位GNDに設定され、コレクタに接続されるノードN5より得られるカレントミラー信号S15が過電流検出信号となる。ノードN5は第5のノードとなる。
【0114】
このように、PNPバイポーラトランジスタQ1のコレクタはカレントミラー回路15を介して基準電位GNDに接続される。
【0115】
上述した構成のカレントミラー回路15は、PNPバイポーラトランジスタQ1のコレクタに接続されるノードN4を流れる参照電流I4を受け、ノードN4と異なる電流経路に設けられるノードN5にミラー電流I5を流している。
【0116】
そして、NPNバイポーラトランジスタQ2及びQ3を互いに同一サイズで構成した場合、ミラー電流I5は参照電流I4と同一の電流量となる。すなわち、ミラー電流I5は参照電流I4との間に電流量比例関係を有する。
【0117】
したがって、ノードN5に図示しない検出用抵抗の一端を接続し、検出用抵抗の他端を基準電位GNDに接続することにより、実施の形態2と同様、ノードN5より得られる電圧を検出電圧とすることができる。この検出電圧に基づきIGBT1の過電流状態の有無を検出することができる。
【0118】
このとき、ミラー電流I5は参照電流I4とは互いに独立した電流経路を流れるため、ミラー電流I5対応の検出用抵抗の抵抗値を大きくしても、PNPバイポーラトランジスタQ1によるゲート電圧VGの上昇抑制効果に影響を与えることはない。なぜなら、ミラー電流I5対応の検出用抵抗の抵抗値を大きくしても、PNPバイポーラトランジスタQ1のコレクタ電位は高くならず、オン状態のPNPバイポーラトランジスタQ1を流れる電流の電流量に影響を与えないからである。
【0119】
すなわち、ミラー電流I5対応の検出用抵抗の抵抗値の増減に関し、ミラー電流I5対応の上記検出電圧の検出感度とゲート電圧VGの上昇抑制効果とは互いに独立した関係となり、実施の形態2のようにトレードオフの関係とはならない。
【0120】
このような構成の実施の形態3のスイッチング素子駆動回路53は、実施の形態1の効果に加え、以下の効果を奏する。
【0121】
実施の形態3のスイッチング素子駆動回路53は、カレントミラー回路15の参照電流I4でなく、ミラー電流I5を過電流検出対象とすることができるため、カレントミラー回路15の存在がPNPバイポーラトランジスタQ1の動作に影響を与えることがない。
【0122】
したがって、実施の形態3のスイッチング素子駆動回路53は、カレントミラー回路15のミラー電流I5を過電流検出対象として検出用抵抗の抵抗値を十分高く設定することにより、PNPバイポーラトランジスタQ1の動作に影響を与えることなく、ミラー電流I5の有無からIGBT1における過電流状態の有無を感度良く検出することができる。
【0123】
<実施の形態4>
図5は本開示の実施の形態4であるスイッチング素子駆動回路54の回路構成を示す回路図である。
【0124】
図1で示した実施の形態1のスイッチング素子駆動回路51と同様な箇所は同一符号を付して説明を適宜省略する。以下、実施の形態4のスイッチング素子駆動回路54の特徴部分を中心に説明する。
【0125】
実施の形態4のスイッチング素子駆動回路54では、実施の形態1の反転バッファ3に代えてシンク制御回路16をベース駆動用回路として用いている。
【0126】
シンク制御回路16は、素子制御信号S0及びゲート電圧VGを入力し、シンク制御信号S16をベース駆動信号として出力している。なお、前述したように、IGBT1はゲート電圧VGが閾値電圧Vthを上回る時にオン状態となる。
【0127】
シンク制御回路16は、素子制御信号S0が“L”レベルを示し、かつ、ゲート電圧VGが閾値電圧Vthを上回るターンオフ開始期間に、以下の状態(1)及び(2)のうち、いずれかの状態となる。
【0128】
状態(1)…シンク制御信号S16がハイインピーダンス状態となる。
【0129】
状態(2)…シンク制御信号S16はベース駆動電圧として電源電圧Vccに設定される。
【0130】
なお、状態(1)はシンク制御回路16の出力がハイインピーダンス状態、すなわち、フローティング状態になることを意味する。状態(2)はシンク制御信号S16のベース駆動電圧が電源電圧Vccに設定されることを意味する。
【0131】
状態(1)のとき、ノードN3に接続される抵抗12は無効化され、抵抗12にベース電流を流すことはできないため、PNPバイポーラトランジスタQ1がオフ状態となる。
【0132】
状態(2)のとき、ノードN3の電位は十分高く設定されるため、PNPバイポーラトランジスタQ1はオフ状態となる。
【0133】
すなわち、シンク制御回路16は、ターンオフ開始期間に、シンク制御信号S16によってPNPバイポーラトランジスタQ1をオフ状態にしている。
【0134】
さらに、シンク制御回路16は、上記ターンオフ開始期間以外の時、シンク制御信号S16をベース駆動電圧として基準電位GNDに設定している。
【0135】
なお、上述した動作を行うシンク制御回路16は、論理素子等を用いて既存技術で構成することができる。
【0136】
このような構成の実施の形態4のスイッチング素子駆動回路54は、実施の形態1と同様な効果を奏し、さらに、以下の効果を奏する。
【0137】
実施の形態4のスイッチング素子駆動回路54は、上述したターンオフ開始期間において、シンク制御信号S16によってPNPバイポーラトランジスタQ1をオフ状態にしている。このターンオフ開始期間がオフ動作期間に含まれる少なくとも一部期間となる。
【0138】
このため、上記ターンオフ開始期間において、PNPバイポーラトランジスタQ1の存在がIGBT1のターンオフ動作に悪影響を与えることはない。
【0139】
さらに、素子制御信号S0が“L”レベルを示すオフ動作期間においても、ゲート電圧VGが閾値電圧Vthを下回る場合、シンク制御信号S16は基準電位GNDに設定されている。すなわち、PNPバイポーラトランジスタQ1はベース・エミッタ間電圧VBEに基づくオン/オフ動作が行える。
【0140】
したがって、実施の形態4のスイッチング素子駆動回路54は、必要に応じてPNPバイポーラトランジスタQ1をオンさせることにより、ターンオフ開始期間を除くオフ動作期間中にゲート電圧VGを基準電位GNDで安定化させるシンク動作を行うことができる。
【0141】
その結果、実施の形態4のスイッチング素子駆動回路54は、ターンオフ開始期間を除くオフ動作期間中にシンク動作を行うことにより、IGBT1のオフ動作期間に外来ノイズ等が発生することによって、ゲート電圧スパイクによってIGBT1が誤ってオン状態になる誤点弧を防止することができる。
【0142】
一般にシンク動作を行うゲートシンク回路は、スイッチング素子駆動回路とは別に設けているが、実施の形態4のスイッチング素子駆動回路54は、シンク動作を併せて行っているため、別途、ゲートシンク回路を設ける必要はない。
【0143】
さらに、シンク制御回路16は、素子制御信号S0が“H”レベルを示すオン動作期間では、ベース駆動電圧として基準電位GNDを示すシンク制御信号S16を出力するため、IGBT1のオン動作期間中にPNPバイポーラトランジスタQ1はベース・エミッタ間電圧VBEに基づくオン/オフ動作が行える。
【0144】
したがって、実施の形態4のスイッチング素子駆動回路54において、IGBT1の過電流状態時にPNPバイポーラトランジスタQ1は必ずオン状態となるため、実施の形態1と同様、IGBT1のゲート電圧VGの上昇を抑制して、IGBT1の負荷電流の増加を効果的に抑制することができる。
【0145】
<実施の形態5>
図6は本開示の実施の形態5であるスイッチング素子駆動回路55の回路構成を示す回路図である。
【0146】
図1で示した実施の形態1のスイッチング素子駆動回路51と同様な箇所は同一符号を付して説明を適宜省略する。以下、実施の形態5のスイッチング素子駆動回路55の特徴部分を中心に説明する。
【0147】
実施の形態5のスイッチング素子駆動回路55では、実施の形態1のバッファ2に代えてバッファ2Xをゲート駆動用回路として用いている。
【0148】
さらに、実施の形態5のスイッチング素子駆動回路55は、実施の形態1の抵抗11に代えて抵抗11A及び11Bを用い、実施の形態1のダイオードD1に代えてダイオードD1A及びD1Bを用いている。
【0149】
バッファ2XはNPNバイポーラトランジスタQ4及びPNPバイポーラトランジスタQ5を主要構成要素として含んでいる。
【0150】
NPNバイポーラトランジスタQ4は一方電極であるコレクタに電源電圧Vccを受け、制御電極であるベースに素子制御信号S0を受ける。このNPNバイポーラトランジスタQ4がソース側トランジスタとなる。
【0151】
NPNバイポーラトランジスタQ4は、素子制御信号S0が“H”を示す際にオン状態となり、NPNバイポーラトランジスタQ4の他方電極であるエミッタからゲート駆動信号S21が得られる。したがって、素子制御信号S0が“H”の時、ゲート駆動信号S21のゲート駆動電圧V21は電源電圧Vccとなる。このゲート駆動信号S21がソース側ゲート駆動信号となる。
【0152】
一方、NPNバイポーラトランジスタQ4は、素子制御信号S0が“L”を示す際にオフ状態となる。したがって、素子制御信号S0が“L”の時、ゲート駆動信号S21はフローティング状態となる。
【0153】
PNPバイポーラトランジスタQ5は一方電極であるコレクタが基準電位GNDに設定され、制御電極であるベースに素子制御信号S0を受ける。このPNPバイポーラトランジスタQ5がシンク側トランジスタとなる。
【0154】
PNPバイポーラトランジスタQ5は、素子制御信号S0が“L”を示す際にオン状態となり、PNPバイポーラトランジスタQ5の他方電極であるエミッタからゲート駆動信号S22が得られる。したがって、素子制御信号S0が“L”の時、ゲート駆動信号S22のゲート駆動電圧V22は基準電位GNDとなる。このゲート駆動信号S22がシンク側ゲート駆動信号となる。
【0155】
一方、PNPバイポーラトランジスタQ5は、素子制御信号S0が“H”を示す際にオフ状態となる。したがって、素子制御信号S0が“H”の時、ゲート駆動信号S22はフローティング状態となる。
【0156】
このように、実施の形態5では、ゲート駆動信号としてソース側ゲート駆動信号であるゲート駆動信号S21とシンク側ゲート駆動信号であるゲート駆動信号S22とを含んでいる。そして、ゲート駆動電圧としてソース側ゲート駆動電圧であるゲート駆動電圧V21とシンク側ゲート駆動電圧であるゲート駆動電圧V22とを含んでいる。
【0157】
実施の形態5で示したバッファ2XはNPNバイポーラトランジスタQ4のエミッタと、PNPバイポーラトランジスタQ5のエミッタとが電気的に分離されている。なお、実施の形態1~実施の形態4で示したバッファ2は、バッファ2Xと同様なバイポーラトランジスタ対Q4及びQ5で構成される場合、NPNバイポーラトランジスタQ4のエミッタとPNPバイポーラトランジスタQ5のエミッタが電気的に接続される。
【0158】
抵抗11Aは、NPNバイポーラトランジスタQ4のエミッタとIGBT1のゲート電極との間に介挿される。抵抗11Aの一端がNPNバイポーラトランジスタQ4のエミッタ側のノードN11に接続され、他端がIGBT1のゲート電極側のノードN2に接続される。抵抗11Aがソース側ゲート抵抗となり、ノードN11がソース側第1のノードとなる。抵抗11Aはゲート抵抗値RGonを有している。
【0159】
抵抗11Bは、PNPバイポーラトランジスタQ5のエミッタとIGBT1のゲート電極との間に介挿される。抵抗11Bの一端がPNPバイポーラトランジスタQ5のエミッタ側のノードN12に接続され、他端がIGBT1のゲート電極側のノードN2に接続される。抵抗11Bがシンク側ゲート抵抗となり、ノードN12がシンク側第1のノードとなる。抵抗11Bはゲート抵抗値RGoffを有している。
【0160】
このように、実施の形態5では、ゲート抵抗として、ソース側ゲート抵抗となる抵抗11Aとシンク側ゲート抵抗となる抵抗11Bとを含んでいる。
【0161】
同様に、第1のノードはソース側第1のノードとなるノードN11とシンク側第1のノードとなるノードN12とを含んでいる。
【0162】
ダイオードD1AはアノードがノードN11に接続され、カソードがノードN3に接続される。ダイオードD1Aはソース側ダイオードとなる。
【0163】
ダイオードD1BはアノードがノードN12に接続され、カソードがノードN3に接続される。ダイオードD1Bはシンク側ダイオードとなる。
【0164】
このように、実施の形態5では、過電流検出用ダイオードとして、ソース側ダイオードとなるダイオードD1Aとシンク側ダイオードとなるダイオードD1Bとを含んでいる。
【0165】
抵抗12の一端はノードN3に接続される。抵抗12はベース電流用抵抗として機能し、抵抗値Rbを有している。
【0166】
このように、実施の形態5では、ソース側トランジスタであるNPNバイポーラトランジスタQ4に対応して、ノードN11、抵抗11A、及びダイオードD1Aを含むソース側構成要素群を有している。
【0167】
同様に、シンク側トランジスタであるPNPバイポーラトランジスタQ5に対応して、ノードN12、抵抗11B及びダイオードD1Bを含むシンク側構成要素群を有している。
【0168】
ソース側構成要素群とシンク側構成要素群とは互いに独立した電流経路に設けられるため、ソース側構成要素群とシンク側構成要素群との間で互いに電気的な影響を受けない。
【0169】
したがって、抵抗11Aのゲート抵抗値RGonと抵抗11Bのゲート抵抗値RGoffとを互いに独立して設定することができる。以下、この点を詳述する。
【0170】
素子制御信号S0が“H”レベルの時、バイポーラトランジスタ対Q4及びQ5のうち、NPNバイポーラトランジスタQ4がオン状態となり、PNPバイポーラトランジスタQ5がオフ状態となる。
【0171】
したがって、ゲート駆動信号S21及びS22のうち、ゲート駆動信号S21のみが有効になる結果、上記ソース側構成要素群が有効となり、上記シンク側構成要素群が無効化される。すなわち、ノードN11に接続される抵抗11A及びダイオードD1Aが有効となり、ノードN12に接続される抵抗11B及びダイオードD1Bは無効化される。
【0172】
したがって、抵抗11Aのゲート抵抗値RGonをターンオン専用の抵抗値として設定することができる。このとき、抵抗11Bのゲート抵抗値RGoffはターンオン動作に全く関与しない。
【0173】
一方、素子制御信号S0が“L”レベルの時、バイポーラトランジスタ対Q4及びQ5のうち、PNPバイポーラトランジスタQ5がオン状態となり、NPNバイポーラトランジスタQ4がオフ状態となる。
【0174】
したがって、ゲート駆動信号S21及びS22のうち、ゲート駆動信号S22のみが有効になる結果、上記シンク側構成要素群が有効となり、上記ソース側構成要素群が無効化される。すなわち、ノードN12に接続される抵抗11B及びダイオードD1Bが有効となり、ノードN11に接続される抵抗11A及びダイオードD1Aは無効化される。
【0175】
したがって、抵抗11Bのゲート抵抗値RGoffをターンオフ専用の抵抗値として設定することができる。このとき、抵抗11Aのゲート抵抗値RGonはターンオフ動作に全く関与しない。
【0176】
このような構成の実施の形態5のスイッチング素子駆動回路55は、実施の形態1と同様な効果を奏し、さらに以下の効果を奏する。
【0177】
実施の形態5のスイッチング素子駆動回路55は、ターンオン時における専用のゲート抵抗としてソース側ゲート抵抗である抵抗11Aを用い、ターンオフ時における専用のゲート抵抗としてシンク側ゲート抵抗である抵抗11Bを用いている。すなわち、ターンオン時とターンオフ時で用いるゲート抵抗を変えている。
【0178】
したがって、ターンオン時におけるターンオン速度を抵抗11Aのゲート抵抗値RGonによって個別に設定することができ、かつ、ターンオフ時におけるターンオフ速度を抵抗11Bのゲート抵抗値RGoffによって個別に設定することができる。
【0179】
なお、IGBT1の過電流状態時におけるスイッチング素子駆動回路55の動作内容が実施の形態1の場合と異なる。以下、この点を説明する。
【0180】
IGBT1のオン動作期間において、IGBT1に負荷短絡等が生じIGBT1のゲート電圧VGがゲート駆動信号S21のゲート駆動電圧V21より高くなると、IGBT1のゲート電極から抵抗11Bを介し、バッファ2Xのシンク側出力端子となるノードN12に向けて電流が流れる。
【0181】
その結果、ダイオードD1BによってノードN3の電位がプルアップされる。このとき、IGBT1のゲートからノードN12に向けて流れる電流量をI12とすると、PNPバイポーラトランジスタQ1のベース・エミッタ間電圧VBEは、次の式(7)で表される。
【0182】
VBE=-1VF-I12×RGoff…(7)
なお、式(7)において、VFはダイオードD1Bの順方向電圧である。
【0183】
式(7)に示すように変化したベース・エミッタ間電圧VBEによって、PNPバイポーラトランジスタQ1がオン状態となり、ノードN2から基準電位GNDに向けて電流を流すことができる。
【0184】
その結果、実施の形態5のスイッチング素子駆動回路55は、実施の形態1と同様、IGBT1のゲート電圧VGの上昇を抑制し、IGBT1を流れる負荷電流の増加を抑制することができる。したがって、IGBT1が過電流状態となり破壊されることもない。
【0185】
図7は他のバッファ2Yの回路構成を示す回路図である。同図において、バッファ2YはPMOSトランジスタQ14及びNMOSトランジスタQ15を主要構成要素としている。
【0186】
バッファ2Yは、バッファ2Xと異なり、素子制御信号S0が“L”レベルでオン動作を指示し、“H”レベルでオフ動作を指示することを前提とした回路である。
【0187】
PMOSトランジスタQ14は一方電極であるソースに電源電圧Vccを受け、制御電極であるゲートに素子制御信号S0を受ける。このPMOSトランジスタQ14がソース側トランジスタとなる。
【0188】
PMOSトランジスタQ14は、素子制御信号S0が“L”を示す際にオン状態となり、他方電極となるドレインよりゲート駆動信号S21を得ることができる。したがって、素子制御信号S0が“L”の時、ゲート駆動信号S21のゲート駆動電圧V21は電源電圧Vccとなる。ゲート駆動信号S21がソース側ゲート駆動信号となる。
【0189】
NMOSトランジスタQ15は一方電極であるソースが基準電位GNDに設定され、制御電極であるゲートに素子制御信号S0を受ける。このNMOSトランジスタQ15がシンク側トランジスタとなる。
【0190】
NMOSトランジスタQ15は、素子制御信号S0が“H”を示す際にオン状態となり、他方電極であるドレインよりゲート駆動信号S22を得ることができる。したがって、素子制御信号S0が“H”の時、ゲート駆動信号S22のゲート駆動電圧V22は基準電位GNDとなる。このゲート駆動信号S22がシンク側ゲート駆動信号となる。
【0191】
このように、MOSFET対Q14及びQ15を用いたバッファ2Yをバッファ2Xに置き換えても良い。なお、スイッチング素子駆動回路55において、バッファ2Xをバッファ2Yに置き換えた場合、反転バッファ3を非反転のバッファに置き換える必要がある。
【0192】
また、実施の形態5においても、実施の形態1と同様、IGBT1のターンオン速度を調整するために、素子制御信号S0は矩形波ではなく、立上りがランプ波形や段階的に増加する波形にしてもよい。この場合においても、IGBT1の負荷短絡等の異常発生時には素子制御信号S0が矩形の場合と同様に、IGBT1のゲート電圧VGの上昇現象が発生する。しかし、上述したように、IGBT1の過電流状態時にPNPバイポーラトランジスタQ1がオン状態となることにより、ゲート電圧VGの上昇を抑制し、IGBT1の過電流状態を早期に解消することができる。
【0193】
<その他>
上述した実施の形態では、絶縁ゲート構造のゲート電極を有するNチャネルの半導体スイッチング素子としてNチャネルのIGBT1を示した。スイッチング素子としてIGBT以外の他のNチャネルのスイッチング素子を用いても良い。他のスイッチング素子として、例えば、SiC構造のNチャネルのMOSFETが考えられる。
【0194】
また、基準電位GNDは接地レベルに限定されず、接地レベル以外の基準となり得る固定電位として基準電位を設定しても良い。
【0195】
本開示は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、本開示がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、本開示の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0196】
1 IGBT、2,2X バッファ、3 反転バッファ、11,11A,11B,12,13 抵抗、15 カレントミラー回路、16 シンク制御回路、51~55 スイッチング素子駆動回路、D1,D1A,D1B ダイオード、N1~N5,N11,N12 ノード、Q1,Q5 PNPバイポーラトランジスタ、Q2,Q3,Q4 NPNバイポーラトランジスタ。