(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】電力変換装置、電動機駆動装置及び冷凍サイクル適用機器
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241004BHJP
H02P 21/05 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M7/48 M
H02P21/05
(21)【出願番号】P 2023566035
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2021045576
(87)【国際公開番号】W WO2023105761
(87)【国際公開日】2023-06-15
【審査請求日】2023-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】豊留 慎也
(72)【発明者】
【氏名】畠山 和徳
(72)【発明者】
【氏名】堤 翔英
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/059350(WO,A1)
【文献】特開2019-176680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 21/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷を駆動する電動機に交流電力を供給する電力変換装置であって、
交流電源から印加される電源電圧を整流するコンバータと、
前記コンバータの出力端に接続されるコンデンサと、
前記コンデンサの両端に接続されるインバータと、
前記インバータの動作を制御して前記負荷の振動を抑制する振動抑制制御を行う制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記コンデンサから前記インバータに出力されるコンデンサ出力電流の脈動を低減する励磁電流補償部と、
前記交流電源と前記コンバータとの間に流れる電源電流に含まれる高調波成分が低減するように、前記励磁電流補償部が生成する励磁電流補償値を制限する励磁電流補償制限部と、
を備える電力変換装置。
【請求項2】
前記励磁電流補償部は、前記インバータから前記電動機に供給される電力である電動機電力が、設定電力値よりも小さくなる第1の期間で前記電動機に損失を発生させる
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記励磁電流補償部は、前記負荷の振動を抑制するためのトルク電流補償値が負の値となる第1の期間で前記電動機に損失を発生させる
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記励磁電流補償制限部は、前記電源電流の高調波成分に基づいて前記励磁電流補償値を制限するための制限値を生成する
請求項1から3の何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制限値は、特定の周波数成分が電源高調波規格を満たしているかを判定するための閾値である電源高調波規格値と、前記電源電流に基づいて演算される前記高調波成分の次数成分とに基づいて演算される
請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記励磁電流補償制限部は、前記コンデンサから前記インバータに出力されるコンデンサ出力電流の機械角周波数成分に基づいて前記励磁電流補償値を制限するための制限値を生成する
請求項1から3の何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記制限値は、特定の周波数成分が電源高調波規格を満たしているかを判定するための閾値である電源高調波規格値と、前記コンデンサ出力電流に基づいて抽出される前記機械角周波数成分とに基づいて演算される
請求項6に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記制御装置は、
トルク電流又は励磁電流に基づいて、励磁電流指令値を生成する指令値生成部を備え、
前記励磁電流補償値は、前記励磁電流指令値に重畳される
請求項1から7の何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
請求項1から8の何れか1項に記載の電力変換装置を備える電動機駆動装置。
【請求項10】
請求項1から8の何れか1項に記載の電力変換装置を備える冷凍サイクル適用機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、負荷を駆動する電動機に交流電力を供給する電力変換装置、電動機駆動装置及び冷凍サイクル適用機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置は、交流電源から印加される電源電圧を整流するコンバータと、コンバータの出力端に接続されるコンデンサと、コンデンサから出力される直流電圧を交流電圧に変換して電動機に印加するインバータとを備える。
【0003】
下記特許文献1には、圧縮機を駆動する電動機の状態に応じて、負荷トルクの脈動成分であるトルク脈動を適切に補償することで振動の増加を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
冷凍サイクル適用機器の応用製品の1つである空気調和機においては、電源電流に含まれる高調波成分による障害を抑制するため、電源電流の高調波に関する規制が定められている。例えば、日本国内においては、日本工業規格(JIS)によって電源電流の高調波に対して制限値である規格値が定められている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、電源電流の高調波に関する考慮がなされていない。このため、特許文献1の技術を使用して、電源周波数と非同期の周波数で電動機のトルク脈動の補償成分を発生させると、電源電流がその極性の正と負との間でアンバランス状態となり、電源電流の高調波成分が増加してしまうという問題がある。
【0007】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、電動機のトルク脈動を補償しつつ、電源電流の高調波成分の増加を抑制できる電力変換装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本開示に係る電力変換装置は、負荷を駆動する電動機に交流電力を供給する電力変換装置である。電力変換装置は、交流電源から印加される電源電圧を整流するコンバータと、コンバータの出力端に接続されるコンデンサと、コンデンサの両端に接続されるインバータとを備える。また、電力変換装置は、インバータの動作を制御して負荷の振動を抑制する振動抑制制御を行う制御装置を備える。制御装置は、コンデンサからインバータに出力されるコンデンサ出力電流の脈動を低減する励磁電流補償部と、交流電源とコンバータとの間に流れる電源電流に含まれる高調波成分が低減するように、励磁電流補償部が生成する励磁電流補償値を制限する励磁電流補償制限部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る電力変換装置によれば、電動機のトルク脈動を補償しつつ、電源電流の高調波成分の増加を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1に係る電力変換装置の構成例を示す図
【
図2】実施の形態1に係る電力変換装置が備えるインバータの構成例を示す図
【
図3】実施の形態1に係る電動機駆動装置における振動抑制制御無しのときの動作の状態を示す図
【
図4】実施の形態1に係る電動機駆動装置における振動抑制制御有りのときの動作の状態を示す図
【
図5】実施の形態1に係る電力変換装置が備える制御装置の構成例を示すブロック図
【
図8】実施の形態1に係る制御装置が備える電圧指令値演算部の構成例を示すブロック図
【
図9】実施の形態1に係る電圧指令値演算部が備える速度制御部の構成例を示すブロック図
【
図10】実施の形態1に係る電圧指令値演算部が備える振動抑制制御部の構成例を示すブロック図
【
図11】実施の形態1に係るγ軸電流補償部への入力信号であるγ軸電流制限値を生成するγ軸電流制限値生成部の構成例を示すブロック図
【
図12】実施の形態1に係るγ軸電流補償制限部の第1の構成例を示すブロック図
【
図13】実施の形態1に係るγ軸電流補償制限部が備える制限値演算部の動作説明に供するフローチャート
【
図14】実施の形態1に係るγ軸電流制限値生成部が備える第2のリミッタの動作説明に供するフローチャート
【
図15】実施の形態1に係るγ軸電流補償制限部の第2の構成例を示すブロック図
【
図16】実施の形態1に係るγ軸電流補償部の動作説明に供する波形図
【
図17】実施の形態1に係る電圧指令値演算部が備えるγ軸電流補償部の動作説明に供するフローチャート
【
図18】実施の形態1の変形例に係る電圧指令値演算部の構成例を示すブロック図
【
図19】
図18に示すγ軸電流補償部の動作説明に供するフローチャート
【
図20】実施の形態1に係るγ軸電流補償制限部が備える電源高調波規格値演算部の構成例を示すブロック図
【
図21】実施の形態1に係る電源高調波規格値演算部が備える電流高調波限度値演算部の演算処理の説明に供する図
【
図22】実施の形態1に係るγ軸電流補償制限部が備える次数成分演算部の構成例を示すブロック図
【
図23】実施の形態1の変形例に係るγ軸電流補償制限部の構成例を示すブロック図
【
図24】実施の形態1の変形例に係るγ軸電流補償制限部が備える機械角周波数成分抽出部の構成例を示すブロック図
【
図25】実施の形態1に係るγ軸電流補償制御による効果の説明に供する図
【
図26】実施の形態1に係るγ軸電流補償制限制御による作用の説明に供する図
【
図27】実施の形態1に係る電力変換装置が備える制御装置を実現するハードウェア構成の一例を示す図
【
図28】実施の形態2に係る冷凍サイクル適用機器の構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照し、本開示の実施の形態に係る電力変換装置、電動機駆動装置及び冷凍サイクル適用機器について詳細に説明する。なお、以下の説明において、「接続」という文言は、構成要素同士が直接的に接続される場合と、構成要素同士が他の構成要素を介して間接的に接続される場合との双方を含んでいる。
【0012】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る電力変換装置2の構成例を示す図である。
図2は、実施の形態1に係る電力変換装置2が備えるインバータ30の構成例を示す図である。電力変換装置2は、交流電源1及び圧縮機8に接続される。圧縮機8は、被駆動時に負荷トルクが周期的に変動する特性を有する負荷の一例である。圧縮機8は、電動機7を有する。電動機7の一例は、3相永久磁石同期電動機である。電力変換装置2は、交流電源1から印加される電源電圧を所望の振幅及び位相を有する交流電圧に変換して電動機7に印加する。電力変換装置2は、リアクタ4と、コンバータ10と、コンデンサ20と、インバータ30と、電圧検出部82と、電流検出部83,84と、制御装置100とを備える。電力変換装置2と、圧縮機8が備える電動機7とによって、電動機駆動装置50が構成される。
【0013】
コンバータ10は、4つのダイオードD1,D2,D3,D4を備える。4つのダイオードD1~D4は、ブリッジ接続され、整流回路を構成する。コンバータ10は、4つのダイオードD1~D4から構成される整流回路によって、交流電源1から印加される電源電圧を整流する。コンバータ10において、入力側の一端はリアクタ4を介して交流電源1に接続され、入力側の他端は交流電源1に接続されている。また、コンバータ10において、出力側はコンデンサ20に接続されている。なお、リアクタ4は、コンバータ10とコンデンサ20との間、即ちコンバータ10の出力側に接続される構成もある。
【0014】
コンバータ10は、整流機能と共に、整流電圧を昇圧する昇圧機能を有するものであってもよい。昇圧機能を有するコンバータは、ダイオードに加え、もしくはダイオードに代え、1以上のトランジスタ素子、もしくはトランジスタ素子とダイオードとが逆並列に接続された1以上のスイッチング素子を備えて構成することができる。なお、昇圧機能を有するコンバータにおけるトランジスタ素子又はスイッチング素子の配置、及び接続は公知であり、ここでの説明は省略する。
【0015】
コンデンサ20は、直流母線22a,22bを介してコンバータ10の出力端に接続される。直流母線22aは正側の直流母線であり、直流母線22bは負側の直流母線である。コンデンサ20は、コンバータ10から印加される整流電圧を平滑する。コンデンサ20としては、電解コンデンサ、フィルムコンデンサなどが例示される。
【0016】
インバータ30は、直流母線22a,22bを介してコンバータ10の出力端に接続されると共に、コンデンサ20の両端に接続される。インバータ30は、コンデンサ20によって平滑された直流電圧を圧縮機8への交流電圧に変換して、圧縮機8の電動機7に印加する。電動機7に印加される電圧は、周波数及び電圧値が可変の3相交流電圧である。
【0017】
インバータ30は、
図2に示すように、インバータ主回路310と、駆動回路350とを備える。インバータ主回路310は、スイッチング素子311~316を備える。スイッチング素子311~316の各々には、還流用の整流素子321~326が逆並列接続されている。
【0018】
インバータ主回路310において、スイッチング素子311~316としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)などを想定しているが、スイッチングを行うことが可能な素子であれば、どのようなものを用いてもよい。なお、スイッチング素子311~316がMOSFETの場合、MOSFETは構造上、寄生ダイオードを有するため、還流用の整流素子321~326を逆並列接続しなくても同様の効果を得ることができる。
【0019】
また、スイッチング素子311~316を形成する材料については、ケイ素(Si)だけでなく、ワイドバンドギャップ半導体である炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンド等を用いてもよい。ワイドバンドギャップ半導体を用いてスイッチング素子311~316を形成することにより、損失をより少なくすることが可能となる。
【0020】
駆動回路350は、制御装置100から出力されるPWM(Pulse Width Modulation)信号Sm1~Sm6に基づいて、駆動信号Sr1~Sr6を生成する。駆動回路350は、駆動信号Sr1~Sr6によってスイッチング素子311~316のオンオフを制御する。これにより、インバータ30は、周波数可変、且つ電圧可変の3相交流電圧を、出力線331~333を介して電動機7に印加することができる。
【0021】
PWM信号Sm1~Sm6は、論理回路の信号レベル、例えば、0V~5Vの大きさを持つ信号である。PWM信号Sm1~Sm6は、制御装置100の接地電位を基準電位とする信号である。一方、駆動信号Sr1~Sr6は、スイッチング素子311~316を制御するのに必要な電圧レベル、例えば、-15V~+15Vの大きさを持つ信号である。駆動信号Sr1~Sr6は、それぞれ対応するスイッチング素子の負側の端子、即ちエミッタ端子の電位を基準電位とする信号である。
【0022】
電圧検出部82は、コンデンサ20の両端電圧を検出することで母線電圧Vdcを検出する。母線電圧Vdcは、直流母線22a,22b間の電圧である。電圧検出部82は、例えば直列接続された抵抗で分圧する分圧回路を備える。電圧検出部82は、検出した母線電圧Vdcを、分圧回路を用いて制御装置100での処理に適した電圧、例えば5V以下の電圧に変換し、アナログ信号である電圧検出信号として制御装置100に出力する。電圧検出部82から制御装置100に出力される電圧検出信号は、制御装置100内の図示しないAD(Analog to Digital)変換部によってアナログ信号からデジタル信号に変換され、制御装置100での内部処理に用いられる。
【0023】
電流検出部83は、交流電源1とコンバータ10との間に流れる電流である電源電流Iinを検出する。電流検出部83は、検出した電源電流Iinを、アナログ信号である電流検出信号として制御装置100に出力する。電流検出部83から制御装置100に出力される電流検出信号は、制御装置100内の図示しないAD変換部によってアナログ信号からデジタル信号に変換され、制御装置100での内部処理に用いられる。
【0024】
電流検出部84は、直流母線22bに挿入されたシャント抵抗を備える。電流検出部84は、シャント抵抗を用いて、コンデンサ出力電流idcを検出する。コンデンサ出力電流idcは、インバータ30への入力電流、即ちコンデンサ20からインバータ30に出力される電流である。電流検出部84は、検出したコンデンサ出力電流idcを、アナログ信号である電流検出信号として制御装置100に出力する。電流検出部84から制御装置100に出力される電流検出信号は、制御装置100内の図示しないAD変換部によってアナログ信号からデジタル信号に変換され、制御装置100での内部処理に用いられる。
【0025】
制御装置100は、前述したPWM信号Sm1~Sm6を生成してインバータ30の動作を制御する。具体的に、制御装置100は、PWM信号Sm1~Sm6に基づいて、インバータ30の出力電圧の角周波数ωe及び電圧値を変化させる。
【0026】
インバータ30の出力電圧の角周波数ωeは、電動機7の電気角での回転角速度を定めるものである。本稿では、この回転角速度も同じ符号ωeで表すことにする。電動機7の機械角での回転角速度ωmは、電動機7の電気角での回転角速度ωeを極対数Pで割ったものに等しい。従って、電動機7の機械角での回転角速度ωmと、インバータ30の出力電圧の角周波数ωeとの間には、以下の(1)式で表される関係がある。なお、本稿では、回転角速度を単に「回転速度」と称し、角周波数を単に「周波数」と称することがある。
【0027】
【0028】
電動機駆動装置50の適用例が、例えば空気調和機である場合、圧縮機8の振動を低減するために、電動機7の回転速度変動が小さくなるように制御することが行われる。電動機7の回転速度変動が小さくなると、圧縮機8の振動が小さくなる。このため、回転速度変動を小さくする制御は、一般的に「振動抑制制御」と呼ばれる。このとき、制御装置100は、インバータ30の動作を制御して、圧縮機8の振動を抑制する振動抑制制御を行う。
【0029】
次に、電動機駆動装置50における振動抑制制御及びその必要性について、
図3及び
図4を用いて説明する。
図3は、実施の形態1に係る電動機駆動装置50における振動抑制制御無しのときの動作の状態を示す図である。
図4は、実施の形態1に係る電動機駆動装置50における振動抑制制御有りのときの動作の状態を示す図である。
【0030】
図3及び
図4には、圧縮機8がシングルロータリ圧縮機である場合の電動機7の機械角1回転における圧縮機8の負荷トルク、電動機7の出力トルク、電動機7の回転速度、及び制御装置100におけるトルク電流補償値の関係が示されている。
図3は、制御装置100が電動機7の出力トルクを一定に制御した状態を示している。一方、
図4は、制御装置100が、電動機7の出力トルクを圧縮機8の負荷トルクに一致させるようにトルク電流補償値を制御して回転速度を一定に制御した状態を示している。
【0031】
図3から分かるように、制御装置100が電動機7の出力トルクを一定に制御すると、電動機7の出力トルクと圧縮機8の負荷トルクとの差で回転速度が変動する。回転速度が変動すると、圧縮機8で振動、騒音などが発生する。回転速度の変動が極端に大きくなると、電動機7が脱調し、停止する可能性がある。
【0032】
そのため、実施の形態1に係る制御装置100には、電動機7の出力トルクを圧縮機8の負荷トルクに一致させるように制御する振動抑制制御の機能が具備されている。振動抑制制御の詳細については、後述する。
【0033】
次に、制御装置100の構成について、
図5を参照して説明する。なお、本稿では、制御装置100に構築される制御部の座標系として、位置センサレス制御において一般的に用いられるγδ軸座標系で説明するが、これに限定されない。例えば、電動機7が永久磁石モータである場合において、磁極のN極をd軸とし、d軸に直交する軸をq軸とするdq軸座標系を用いてもよい。この際、制御装置100の処理において、γ軸とd軸との間に軸誤差がないようにγ軸が設定されていれば、γ軸及びδ軸を、それぞれd軸及びq軸として取り扱うことが可能である。また、γ軸とd軸との間に軸誤差がある場合であっても、軸誤差分の差異を考慮して制御量を取り扱えば、γ軸及びδ軸を、それぞれd軸及びq軸と見なすことが可能である。
【0034】
図5は、実施の形態1に係る電力変換装置2が備える制御装置100の構成例を示すブロック図である。制御装置100は、運転制御部102と、インバータ制御部110とを備える。
【0035】
運転制御部102は、外部から指令情報Qeを受け、この指令情報Qeに基づいて、周波数指令値ωe*を生成する。周波数指令値ωe*は、以下の(2)式に示すように、電動機7の回転速度の指令値である回転速度指令値ωm*に極対数Pを乗算することで求めることができる。
【0036】
【0037】
制御装置100は、冷凍サイクル適用機器としての空気調和機を制御する場合、指令情報Qeに基づいて、空気調和機の各部の動作を制御する。指令情報Qeは、例えば、図示しない温度センサで検出された温度、図示しない操作部であるリモコンから指示される設定温度を示す情報、運転モードの選択情報、運転開始及び運転終了の指示情報などである。運転モードとは、例えば、暖房、冷房、除湿などである。なお、運転制御部102については、制御装置100の外部にあってもよい。即ち制御装置100は、外部から周波数指令値ωe*を取得する構成であってもよい。
【0038】
インバータ制御部110は、電流復元部111と、3相2相変換部112と、γ軸電流指令値生成部113と、電圧指令値演算部115と、電気位相演算部116と、2相3相変換部117と、PWM信号生成部118とを備える。
【0039】
電流復元部111は、電流検出部84で検出されたコンデンサ出力電流idcに基づいて、電動機7に流れる相電流iu,iv,iwを復元する。電流復元部111は、電流検出部84で検出されたコンデンサ出力電流idcの検出値を、PWM信号生成部118で生成されたPWM信号Sm1~Sm6に基づいて定められるタイミングでサンプリングすることによって、相電流iu,iv,iwを復元することができる。なお、出力線331~333に電流検出器を設け、相電流iu,iv,iwを直接検出して3相2相変換部112に入力してもよい。この構成の場合、電流復元部111は不要である。
【0040】
3相2相変換部112は、電流復元部111で復元された相電流iu,iv,iwを、後述する電気位相演算部116で生成された電気位相θeを用いて、励磁電流であるγ軸電流iγ、及びトルク電流であるδ軸電流iδ、即ちγ-δ軸の電流値に変換する。
【0041】
γ軸電流指令値生成部113は、δ軸電流iδに基づいて、励磁電流指令値であるγ軸電流指令値iγ*を生成する。より詳細に説明すると、γ軸電流指令値生成部113は、δ軸電流iδに基づいて、電動機7の出力トルクが設定値以上もしくは最大値となる電流位相角を求め、求めた電流位相角に基づいて、γ軸電流指令値iγ*を演算する。なお、電動機7の出力トルクに代えて、電動機7に流れる電動機電流を用いてもよい。この場合、電動機7に流れる電動機電流が設定値以下もしくは最小値となる電流位相角に基づいて、γ軸電流指令値iγ*が演算される。また、本稿では、γ軸電流指令値生成部を単に「指令値生成部」と呼ぶことがある。
【0042】
また、
図5では、δ軸電流iδに基づいてγ軸電流指令値iγ*を求める構成が示されているが、この構成に限定されない。δ軸電流iδに代え、γ軸電流iγに基づいてγ軸電流指令値iγ*を求めてもよい。また、γ軸電流指令値生成部113は、弱め磁束制御によってγ軸電流指令値iγ*を決定してもよい。
【0043】
電圧指令値演算部115は、運転制御部102から取得した周波数指令値ωe*と、電流検出部83から取得した電源電流Iinと、3相2相変換部112から取得したγ軸電流iγ及びδ軸電流iδと、γ軸電流指令値生成部113から取得したγ軸電流指令値iγ*とに基づいて、γ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*を生成する。更に、電圧指令値演算部115は、γ軸電圧指令値Vγ*と、δ軸電圧指令値Vδ*と、γ軸電流iγと、δ軸電流iδとに基づいて、周波数推定値ωestを推定する。
【0044】
電気位相演算部116は、電圧指令値演算部115から取得した周波数推定値ωestを積分することで、電気位相θeを演算する。
【0045】
2相3相変換部117は、電圧指令値演算部115から取得したγ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*、即ち2相座標系の電圧指令値を、電気位相演算部116から取得した電気位相θeを用いて、3相座標系の出力電圧指令値である3相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換する。
【0046】
PWM信号生成部118は、2相3相変換部117から取得した3相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*と、電圧検出部82で検出された母線電圧Vdcとを比較することによって、PWM信号Sm1~Sm6を生成する。なお、PWM信号生成部118は、PWM信号Sm1~Sm6を出力しないようにすることによって、電動機7を停止させることも可能である。
【0047】
次に、本願の課題が生じる理由について説明する。
図6及び
図7は、それぞれ本願の課題の説明に供する第1及び第2の図である。本願の課題については、[発明が解決しようとする課題]の項において簡単に説明したが、ここでは更に詳細な説明を加える。
【0048】
まず、負荷が、例えばシングルロータリ圧縮機、スクロール圧縮機、ツインロータリ圧縮機といったトルク脈動を有する負荷である場合、前述した振動抑制制御が行われる。一般的な振動抑制制御では、電動機7の出力トルクが圧縮機8のトルク脈動に追従するようにトルク電流補償値を発生させてインバータ30を制御することが行われる。しかしながら、この制御を単純に行うと、[発明が解決しようとする課題]の項においても説明したように、電源電流Iinがその極性の正と負との間でアンバランス状態となり、電源電流Iinの高調波成分が増加してしまうという問題が生ずる。
【0049】
図6及び
図7には、上段部から順に、電源電圧Vin、電源電流Iin及びコンデンサ出力電流idcの波形が示されている。
図6及び
図7の横軸は時間を表している。
【0050】
図6の中段部には、電源電流Iinにおける正側の波形のピーク値と負側の波形のピーク値とが異なる様子、即ち電源電流Iinの極性の正負間でピーク値がアンバランスとなる状態が示されている。このようなアンバランスが生じると、下段部に示されるように、コンデンサ出力電流idcに脈動が生ずる。これにより、電源電流Iinには、多くの高調波成分が含まれるようになる。
【0051】
なお、コンデンサ出力電流idcの脈動は、負荷トルクが大きく、負荷のイナーシャが小さい程大きくなり、振動抑制制御時においては、負荷トルクが大きいときに顕著に表れることが、本願発明者らによって見出されている。また、コンデンサ出力電流idcの脈動は、ツインロータリ圧縮機及びスクロール圧縮機よりも、シングルロータリ圧縮機の方が大きくなることが、本願発明者らによって見出されている。
【0052】
また、
図7の下段部には、コンデンサ出力電流idcが一定である理想的な状態が示されている。このような理想的な状態では、
図7の中段部に示されるように、電源電流Iinにおける正側の波形のピーク値と負側の波形のピーク値とが等しくなり、電源電流Iinにおける正負間のアンバランスは生じない。従って、電源電流Iinに含まれ得る高調波成分は、
図6の場合と比べて非常に小さくなる。
【0053】
上述したように、電源電流Iinに含まれ得る高調波成分は、コンデンサ出力電流idcの脈動に関係する。そこで、実施の形態1に係る制御装置100が備える電圧指令値演算部115は、振動抑制制御の実施時に電源電流Iinに含まれ得る高調波成分を低減する制御を行う。
【0054】
図8は、実施の形態1に係る制御装置100が備える電圧指令値演算部115の構成例を示すブロック図である。
図8に示すように、電圧指令値演算部115は、周波数推定部501と、減算部502,509,510と、速度制御部503と、γ軸電流補償部504と、振動抑制制御部505と、加算部506,507と、γ軸電流制御部511と、δ軸電流制御部512とを備えている。また、
図9は、実施の形態1に係る電圧指令値演算部115が備える速度制御部503の構成例を示すブロック図である。なお、
図9には、速度制御部503の前段に位置する減算部502も図示している。
【0055】
周波数推定部501は、γ軸電流iγと、δ軸電流iδと、γ軸電圧指令値Vγ*と、δ軸電圧指令値Vδ*とに基づいて、電動機7に印加される電圧の周波数を推定し、推定した周波数を周波数推定値ωestとして出力する。
【0056】
減算部502は、周波数指令値ωe*に対する、周波数推定部501で推定された周波数推定値ωestとの差分(ωe*-ωest)を算出する。
【0057】
速度制御部503は、回転座標系におけるトルク電流指令値であるδ軸電流指令値iδ*を生成する。より詳細に説明すると、速度制御部503は、減算部502で算出された差分(ωe*-ωest)に対して、比例積分演算、即ちPI(Proportional Integral)制御を行って、差分(ωe*-ωest)をゼロに近付けるδ軸電流指令値iδ*を演算する。
【0058】
図9には、速度制御部503の構成例が示されている。
図9に示すように、速度制御部503は、周波数偏差に基づいて電流指令値を生成する制御部である。速度制御部503は、比例制御部611、積分制御部612及び加算部613を備えている。
【0059】
速度制御部503において、比例制御部611は、減算部502から取得した、周波数指令値ωe*と周波数推定値ωestとの差分(ωe*-ωest)に対して比例制御を行い、比例項iδ_p*を出力する。積分制御部612は、減算部502から取得した、周波数指令値ωe*と周波数推定値ωestとの差分(ωe*-ωest)に対して積分制御を行い、積分項iδ_i*を出力する。加算部613は、比例制御部611から取得した比例項iδ_p*と、積分制御部612から取得した積分項iδ_i*とを加算して、δ軸電流指令値iδ*を生成する。
【0060】
以上のように、速度制御部503は、周波数推定値ωestを周波数指令値ωe*に一致させるようなδ軸電流指令値iδ*を生成して出力する。
【0061】
図8に戻り、振動抑制制御部505は、周波数推定部501から取得した周波数推定値ωestに基づいて、振動抑制制御におけるδ軸電流指令値iδ*の補償値であるδ軸電流補償値iδ_trq*を生成する。具体的には、振動抑制制御部505は、電動機7の出力トルクが圧縮機8の負荷トルクの周期的変動に追従するようにδ軸電流補償値iδ_trq*を生成する。
【0062】
δ軸電流補償値iδ_trq*は、周波数推定値ωestの脈動成分、特に周波数がωmnである脈動成分を抑制するための制御量の成分である。ここで、「周波数推定値ωestの脈動成分、特に周波数がωmnである脈動成分」とは、周波数推定値ωestを表す値である直流量の脈動成分、特に脈動周波数がωmnである脈動成分を意味する。なお、mは直流量に関係するパラメータであり、nは電動機7が駆動する負荷である圧縮機8を示すパラメータである。nについては、例えば、圧縮機8がシングルロータリ圧縮機である場合は1とし、ツインロータリ圧縮機である場合は2とする。このnは3以上であってもよい。なお、本稿では、δ軸電流補償値を「トルク電流補償値」と呼ぶことがある。
【0063】
γ軸電流補償部504は、周波数指令値ωe*と、速度制御部503が出力するδ軸電流指令値iδ*と、γ軸電流制限値iγ_lcc_lim*とに基づいて、γ軸電流補償値iγ_lcc*を生成する。γ軸電流補償値iγ_lcc*は、コンデンサ出力電流idcの脈動を低減するための制御量の成分である。また、γ軸電流制限値iγ_lcc_lim*は、γ軸電流補償値iγ_lcc*を制限するための制御量の成分である。γ軸電流補償値iγ_lcc*及びγ軸電流制限値iγ_lcc_lim*の詳細については、後述する。なお、本稿では、γ軸電流補償値を「励磁電流補償値」と呼ぶことがある。また、本稿では、γ軸電流補償部を「励磁電流補償部」と呼び、γ軸電流補償部504による制御を「γ軸電流補償制御」又は「励磁電流補償制御」と呼ぶことがある。また、本稿では、γ軸電流制限値iγ_lcc_lim*を用いてγ軸電流補償値iγ_lcc*を制限する制御を「γ軸電流補償制限制御」又は「励磁電流補償制限制御」と呼ぶことがある。
【0064】
加算部506は、γ軸電流指令値iγ*と、γ軸電流補償部504から取得したγ軸電流補償値iγ_lcc*とを加算、即ちγ軸電流指令値iγ*にγ軸電流補償値iγ_lcc*を重畳してγ軸電流指令値iγ**を生成する。生成したγ軸電流指令値iγ**は、減算部509に入力される。
【0065】
加算部507は、δ軸電流指令値iδ*と、振動抑制制御部505から取得したδ軸電流補償値iδ_trq*とを加算、即ちδ軸電流指令値iδ*にδ軸電流補償値iδ_trq*を重畳してδ軸電流指令値iδ**を生成する。生成したδ軸電流指令値iδ**は、減算部510に入力される。
【0066】
減算部509は、γ軸電流指令値iγ**に対するγ軸電流iγの差分(iγ**-iγ)を算出する。減算部510は、δ軸電流指令値iδ**に対するδ軸電流iδの差分(iδ**-iδ)を算出する。
【0067】
γ軸電流制御部511は、減算部509で算出された差分(iγ**-iγ)に対して比例積分演算を行って、差分(iγ**-iγ)をゼロに近付けるγ軸電圧指令値Vγ*を生成する。γ軸電流制御部511は、このようなγ軸電圧指令値Vγ*を生成することで、γ軸電流iγをγ軸電流指令値iγ**に一致させる制御を行う。
【0068】
δ軸電流制御部512は、減算部510で算出された差分(iδ**-iδ)に対して比例積分演算を行って、差分(iδ**-iδ)をゼロに近付けるδ軸電圧指令値Vδ*を生成する。δ軸電流制御部512は、このようなδ軸電圧指令値Vδ*を生成することで、δ軸電流iδをδ軸電流指令値iδ**に一致させる制御を行う。
【0069】
上記の制御において、減算部509から出力されてγ軸電流制御部511に入力されるγ軸電流指令値iγ**には、γ軸電流補償部504から取得したγ軸電流補償値iγ_lcc*が含まれている。従って、γ軸電流制御部511が、γ軸電流補償値iγ_lcc*に基づいて生成したγ軸電圧指令値Vγ*に基づいてインバータ30を制御することで、コンデンサ出力電流idcの脈動を抑制することができる。
【0070】
次に、振動抑制制御部505の構成について説明する。
図10は、実施の形態1に係る電圧指令値演算部115が備える振動抑制制御部505の構成例を示すブロック図である。振動抑制制御部505は、演算部550と、余弦演算部551と、正弦演算部552と、乗算部553,554と、ローパスフィルタ555,556と、減算部557,558と、周波数制御部559,560と、乗算部561,562と、加算部563とを備える。
【0071】
演算部550は、周波数推定値ωestを積分し、極対数Pで除算することによって電動機7の回転位置を示す機械角位相θmnを算出する。余弦演算部551は、機械角位相θmnに基づいて、余弦値cosθmnを算出する。正弦演算部552は、機械角位相θmnに基づいて、正弦値sinθmnを算出する。
【0072】
乗算部553は、周波数推定値ωestに余弦値cosθmnを乗算し、周波数推定値ωestの余弦成分ωest・cosθmnを算出する。乗算部554は、周波数推定値ωestに正弦値sinθmnを乗算し、周波数推定値ωestの正弦成分ωest・sinθmnを算出する。乗算部553,554で算出される余弦成分ωest・cosθmn及び正弦成分ωest・sinθmnには、周波数がωmnである脈動成分の他、周波数がωmnより高い周波数の脈動成分、即ち高調波成分が含まれている。
【0073】
ローパスフィルタ555,556は、伝達関数が1/(1+s・Tf)で表される一次遅れフィルタである。ここで、sはラプラス演算子である。Tfは時定数であり、周波数ωmnよりも高い周波数の脈動成分を除去するように定められる。なお、「除去」には、脈動成分の一部が減衰、即ち低減される場合が含まれるものとする。時定数Tfについては、速度指令値に基づいて運転制御部102で設定され、運転制御部102がローパスフィルタ555,556に通知してもよいし、ローパスフィルタ555,556が保持していてもよい。ローパスフィルタ555,556については、一次遅れフィルタは一例であって、移動平均フィルタなどであってもよいし、高周波側の脈動成分を除去できればフィルタの種類は限定されない。
【0074】
ローパスフィルタ555は、余弦成分ωest・cosθmnに対してローパスフィルタリングを行なって、周波数ωmnよりも高い周波数の脈動成分を除去し、低周波数成分ωest_cを出力する。低周波数成分ωest_cは、周波数推定値ωestの脈動成分のうち、周波数がωmnである余弦成分を表す直流量である。
【0075】
ローパスフィルタ556は、正弦成分ωest・sinθmnに対してローパスフィルタリングを行なって、周波数ωmnよりも高い周波数の脈動成分を除去し、低周波数成分ωest_sを出力する。低周波数成分ωest_sは、周波数推定値ωestの脈動成分のうち、周波数がωmnである正弦成分を表す直流量である。
【0076】
減算部557は、ローパスフィルタ555から出力された低周波数成分ωest_cとゼロとの差分(ωest_c-0)を算出する。減算部558は、ローパスフィルタ556から出力された低周波数成分ωest_sとゼロとの差分(ωest_s-0)を算出する。
【0077】
周波数制御部559は、減算部557で算出された差分(ωest_c-0)に対して比例積分演算を行って、差分(ωest_c-0)をゼロに近付ける電流指令値の余弦成分iδ_trq_cを算出する。周波数制御部559は、このようにして余弦成分iδ_trq_cを生成することで、低周波数成分ωest_cをゼロに一致させるための制御を行う。
【0078】
周波数制御部560は、減算部558で算出された差分(ωest_s-0)に対して比例積分演算を行って、差分(ωest_s-0)をゼロに近付ける電流指令値の正弦成分iδ_trq_sを算出する。周波数制御部560は、このようにして正弦成分iδ_trq_sを生成することで、低周波数成分ωest_sをゼロに一致させるための制御を行う。
【0079】
乗算部561は、周波数制御部559から出力された余弦成分iδ_trq_cに余弦値cosθmnを乗算してiδ_trq_c・cosθmnを生成する。iδ_trq_c・cosθmnは、周波数n・ωestを持つ交流成分である。
【0080】
乗算部562は、周波数制御部560から出力された正弦成分iδ_trq_sに正弦値sinθmnを乗算してiδ_trq_s・sinθmnを生成する。iδ_trq_s・sinθmnは、周波数n・ωestを持つ交流成分である。
【0081】
加算部563は、乗算部561から出力されたiδ_trq_c・cosθmnと、乗算部562から出力されたiδ_trq_s・sinθmnとの和を求める。振動抑制制御部505は、加算部563で求められたものを、δ軸電流補償値iδ_trq*として出力する。
【0082】
次に、上述したγ軸電流制限値iγ_lcc_lim*について説明する。
図11は、実施の形態1に係るγ軸電流補償部504への入力信号であるγ軸電流制限値iγ_lcc_lim*を生成するγ軸電流制限値生成部540の構成例を示すブロック図である。
図11に示すように、γ軸電流制限値生成部540は、第1のリミッタ541と、γ軸電流補償制限部542と、減算部543と、第2のリミッタ544とを備える。
【0083】
第1のリミッタ541は、加算部506に入力されるγ軸電流指令値iγ*と、加算部507が出力するδ軸電流指令値iδ**と、運転制御部102から取得した周波数指令値ωe*とに基づいて、第1のγ軸電流制限値iγ_lim1*を生成する。第1のγ軸電流制限値iγ_lim1*は、以下に示す手法、及び手順によって演算することができる。
【0084】
まず、インバータ30から電動機7に供給される有効電力である電動機電力をPmで表す。この電動機電力Pmは、以下の(3)式で表すことができる。
【0085】
【0086】
上記(3)式に示される記号の意味は、以下の通りである。
Vγ:電動機7におけるγ軸電圧
Vδ:電動機7におけるδ軸電圧
iγ:電動機7に流れるγ軸電流
iδ:電動機7に流れるδ軸電流
Ra:電動機7における相抵抗
ωe:インバータ30の出力電圧の周波数(電気角)
Lγ:電動機7におけるγ軸インダクタンス
Lδ:電動機7におけるδ軸インダクタンス
φa:電動機7における誘起電圧定数
【0087】
また、コンデンサ20からインバータ30に供給される電力をPdcで表すと、Pm≒Pdcと考えることができる。従って、上記(3)式から、コンデンサ出力電流idcは、以下の(4)式で表すことができる。
【0088】
【0089】
上記(4)式の右辺第1項は、電動機7の銅損を表す項であり、上記(4)式の右辺第2項は、電動機7の機械出力(以下「電動機機械出力」と呼ぶ)を表す項である。即ち、コンデンサ出力電流idcは、電動機7の銅損、及び電動機機械出力の影響を受けることが分かる。
【0090】
第1のリミッタ541は、第1のγ軸電流制限値iγ_lim1*の候補として2つの候補値、具体的には、第1の候補値iγ_lim1と、第2の候補値iγ_lim2とを演算する。これらの候補値のうち、第1の候補値iγ_lim1は、例えば、以下の(5)式を用いて演算する。
【0091】
【0092】
上記(5)式において、“Ie”は、インバータ30における過電流遮断保護の閾値から決定される相電流iu,iv,iwのリミット値を実効値表記したものであり、過電流遮断保護の閾値よりも10%から20%程度低めに設定するのが一般的である。第1の候補値iγ_lim1は、上記(5)式に示されるように、実効値Ieの2乗値を3倍した値からδ軸電流指令値iδ**の2乗値を引いてその平方根をとり、更にその平方根からγ軸電流指令値iγ*の絶対値を引くことで求めることができる。
【0093】
上記(5)式は、電動機7の低速度域においては、そのまま用いることができるが、電動機7の高速度域においては、修正する必要がある。高速度域では、電圧飽和の影響によって流せるδ軸電流が減少してしまうからである。δ軸電流指令値iδ**が過大な状態になると、積分器のワインドアップ現象によって制御が不安定に陥るケースがあることが知られている。上記(5)式では、速度上昇に伴う最大δ軸電流の低下が考慮されていない。このため、ここでは、最大δ軸電流の低下を加味した数式を導出する。
【0094】
まず、高速領域では、γδ軸電圧のリミット値をVomとした場合、このリミット値Vomに対して、以下の(6)式の関係が成り立つ。
【0095】
【0096】
上記(6)式におけるリミット値Vomは、γδ平面上の電圧制限円の半径を表しており、δ軸電流指令値iδ**、γ軸電流指令値iγ**及びリミット値Vom間には、(Vγ**)2+(Vδ**)2=Vom2の関係がある。上記(6)式は、この式に定常状態の電圧方程式における対応する要素を代入し、電機子抵抗による電圧降下を無視して整理したものである。(6)式をγ軸電流iγについて解くと、以下の(7)式が得られる。
【0097】
【0098】
第2の候補値iγ_lim2の演算には、上記(7)式を用いる。従って、δ軸電流iδをδ軸電流指令値iδ**まで流したときの第2の候補値iγ_lim2は、δ軸電流指令値iδ**を上記(7)式に代入した、以下の(8)式を用いて演算することができる。
【0099】
【0100】
以上により、第1のγ軸電流制限値iγ_lim1*は、上記(5)式、及び(8)式の両方を勘案して、以下の(9)式のように決定される。
【0101】
【0102】
上記(9)式において、“MIN“は、最小のものを選択する関数である。
【0103】
以上のように、第1のリミッタ541は、上記(5)式、及び(8)式の演算を行い、それらの演算値のうちの小さい方を第1のγ軸電流制限値iγ_lim1*として減算部543及び第2のリミッタ544に出力する。
【0104】
次に、γ軸電流補償制限部542について説明する。γ軸電流補償制限部542は、交流電源1とコンバータ10との間に流れる電源電流Iinに含まれる高調波成分が低減するように、γ軸電流補償部504が生成するγ軸電流補償値iγ_lcc*を制限するための制御量を生成する制御部である。γ軸電流補償制限部542は、γ軸電流iγと、δ軸電流iδと、γ軸電圧指令値Vγ*と、δ軸電圧指令値Vδ*と、電源電流Iinとに基づいて、第2のγ軸電流制限値iγ_lim2*を生成する。なお、本稿では、第2のγ軸電流制限値iγ_lim2*を「励磁電流制限値」又は単に「制限値」と呼ぶことがある。
【0105】
γ軸電流補償制限部542は、生成した第2のγ軸電流制限値iγ_lim2*を減算部543に出力する。なお、第2のγ軸電流制限値iγ_lim2*の詳細、及び第2のγ軸電流制限値iγ_lim2*を生成するためのγ軸電流補償制限部542の構成については、後述する。
【0106】
減算部543は、第1のγ軸電流制限値iγ_lim1*と、第2のγ軸電流制限値iγ_lim2*との差分値であるΔiγ_lim*=iγ_lim1*-iγ_lim2*を算出して、第2のリミッタ544に出力する。第2のリミッタ544は、差分値Δiγ_lim*と、第1のγ軸電流制限値iγ_lim1*とに基づいて、γ軸電流制限値iγ_lcc_lim*を生成する。前述したように、γ軸電流制限値iγ_lcc_lim*は、γ軸電流補償部504への入力信号となる。
【0107】
次に、γ軸電流補償制限部542の構成について説明する。
図12は、実施の形態1に係るγ軸電流補償制限部542の第1の構成例を示すブロック図である。γ軸電流補償制限部542は、電源高調波規格値演算部701と、次数成分演算部702と、減算部703と、積分部704と、制限値演算部705とを備える。
【0108】
電源高調波規格値演算部701は、γ軸電流iγと、δ軸電流iδと、γ軸電圧指令値Vγ*と、δ軸電圧指令値Vδ*とに基づいて、電源高調波規格値Iin_lim_nを演算する。電源高調波規格値Iin_lim_nは、ある特定の周波数成分が電源高調波規格を満たしているかを判定するための閾値である。
【0109】
次数成分演算部702は、電流検出部83から取得した電源電流Iinに基づいて、電源電流Iinに含まれる特定の次数の高調波成分である次数成分Iin_nを演算する。次数成分演算部702が演算する次数成分Iin_nは、電源高調波規格値演算部701が演算する電源高調波規格値Iin_lim_nと比較するためのものであり、それぞれの高調波成分の次数は同じである。
【0110】
減算部703は、電源高調波規格値演算部701から出力された電源高調波規格値Iin_lim_nと、次数成分演算部702から出力された次数成分Iin_nとの差分(Iin_lim_n-Iin_n)を算出する。
【0111】
積分部704は、伝達関数がK/sで表される演算器である。sはラプラス演算子であり、Kは乗算係数である。積分部704は、減算部703から出力される差分(Iin_lim_n-Iin_n)に対して積分演算を行う。なお、ここでの積分演算は一例であり、積分演算に代えて比例積分演算を行ってもよい。積分部704の出力である積分値Iin_kは、制限値演算部705に入力される。
【0112】
図13は、実施の形態1に係るγ軸電流補償制限部542が備える制限値演算部705の動作説明に供するフローチャートである。制限値演算部705は、積分部704から積分値Iin_kを取得する(ステップS11)。制限値演算部705は、積分値Iin_kを0と比較する(ステップS12)。積分値Iin_kが0未満である場合(ステップS12,Yes)、制限値演算部705は、第2のγ軸電流制限値iγ_lim2*を積分値Iin_kとし(ステップS13)、演算した第2のγ軸電流制限値iγ_lim2*を出力する(ステップS15)。積分値Iin_kが0以上である場合(ステップS12,No)、制限値演算部705は、第2のγ軸電流制限値iγ_lim2*を0に設定し(ステップS14)、設定した第2のγ軸電流制限値iγ_lim2*を出力する(ステップS15)。
【0113】
上述の処理により、γ軸電流補償制限部542は、電源高調波規格値Iin_lim_nと、次数成分Iin_nとを演算し、次数成分Iin_nが電源高調波規格値Iin_lim_nを超える分だけの第2のγ軸電流制限値iγ_lim2*を演算する。後述するγ軸電流補償部504の処理では、ここで演算された第2のγ軸電流制限値iγ_lim2*によって、γ軸電流補償制御の補償値であるγ軸電流補償値iγ_lcc*が制限されるようにγ軸電流補償制御が行われる。これにより、電源電流Iinにおける特定の次数成分Iin_nが電源高調波規格に適合するように、γ軸電流補償制御が実施されることになる。
【0114】
図14は、実施の形態1に係るγ軸電流制限値生成部540が備える第2のリミッタ544の動作説明に供するフローチャートである。第2のリミッタ544は、第1のリミッタ541から第1のγ軸電流制限値iγ_lim1*を取得し、減算部543から差分値Δiγ_lim*を取得する(ステップS21)。第2のリミッタ544は、差分値Δiγ_lim*を0と比較する(ステップS22)。差分値Δiγ_lim*が0未満である場合(ステップS22,Yes)、第2のリミッタ544は、γ軸電流制限値iγ_lcc_lim*を0に設定し(ステップS23)、設定したγ軸電流制限値iγ_lcc_lim*を出力する(ステップS27)。差分値Δiγ_lim*が0以上である場合(ステップS22,No)、第2のリミッタ544は、差分値Δiγ_lim*と第1のγ軸電流制限値iγ_lim1*とを比較する(ステップS24)。差分値Δiγ_lim*が第1のγ軸電流制限値iγ_lim1*よりも大きい場合(ステップS24,Yes)、第2のリミッタ544は、γ軸電流制限値iγ_lcc_lim*を第1のγ軸電流制限値iγ_lim1*に設定し(ステップS25)、設定したγ軸電流制限値iγ_lcc_lim*を出力する(ステップS27)。差分値Δiγ_lim*が第1のγ軸電流制限値iγ_lim1*以下である場合(ステップS24,No)、第2のリミッタ544は、γ軸電流制限値iγ_lcc_lim*を差分値Δiγ_lim*に設定し(ステップS26)、設定したγ軸電流制限値iγ_lcc_lim*を出力する(ステップS27)。
【0115】
上述の処理により、γ軸電流制限値生成部540が生成するγ軸電流制限値iγ_lcc_lim*は、最大値が第1のγ軸電流制限値iγ_lim1*に制限され、最小値がゼロに制限されてγ軸電流補償部504に出力される。
【0116】
なお、
図12では、低減させる高調波成分の数が1つである場合のγ軸電流補償制限部542の構成例を示したが、低減させる高調波成分の数が2以上の場合についても同様に構成することができる。
図15は、実施の形態1に係るγ軸電流補償制限部542の第2の構成例を示すブロック図である。
図15において、
図12と同一又は同等の構成要素については同一の符号で示している。
【0117】
図15において、1段目の電源高調波規格値演算部701は、γ軸電流iγと、δ軸電流iδと、γ軸電圧指令値Vγ*と、δ軸電圧指令値Vδ*とに基づいて、電源高調波規格値Iin_lim_2を演算する。電源高調波規格値Iin_lim_2は、高調波の次数が“2”、即ち2次の電源高調波規格値である。同様に、2段目の電源高調波規格値演算部701は、γ軸電流iγと、δ軸電流iδと、γ軸電圧指令値Vγ*と、δ軸電圧指令値Vδ*とに基づいて、電源高調波規格値Iin_lim_3を演算する。電源高調波規格値Iin_lim_3は、高調波の次数が“3”、即ち3次の電源高調波規格値である。
【0118】
また、1段目の次数成分演算部702は、電源電流Iinに基づいて、次数成分Iin_2を演算する。次数成分Iin_2は、電源電流Iinに含まれる2次の高調波成分である。同様に、2段目の次数成分演算部702は、電源電流Iinに基づいて、次数成分Iin_3を演算する。次数成分Iin_3は、電源電流Iinに含まれる3次の高調波成分である。
【0119】
1段目の減算部703では、電源高調波規格値Iin_lim_2と、次数成分Iin_2との差分(Iin_lim_2-Iin_2)が算出される。差分(Iin_lim_2-Iin_2)は、対応する積分部704で積分処理が施され、積分値Iin_k2が出力される。2段目の減算部703では、電源高調波規格値Iin_lim_3と、次数成分Iin_3との差分(Iin_lim_3-Iin_3)が算出される。差分(Iin_lim_3-Iin_3)は、対応する積分部704で積分処理が施され、積分値Iin_k3が出力される。これらの積分値Iin_k2,Iin_k3は、加算部706で加算されて制限値演算部705に出力される。制限値演算部705では、
図13のフローチャートに従って処理が行われ、前述した第2のγ軸電流制限値iγ_lim2*が生成されて出力される。
【0120】
なお、
図15では、低減させる高調波成分の数が2つ(2次及び3次)の場合を例示しているが、低減させる高調波成分の数が3以上の場合には処理段数を逐次増やし、加算部706で加算するように構成すればよい。また、加算部706の数は段数と同じである必要はなく、それぞれの積分部704の出力が加算されて制限値演算部705に入力される構成であればどのような構成でもよい。また、
図12及び
図15の構成は一例であり、これらの例に限定されない。振動抑制制御の補償値が制限されるように動作する制御系であればよく、どのような構成の制御系を用いて実現してもよい。
【0121】
次に、実施の形態1に係る電圧指令値演算部115が備えるγ軸電流補償部504における動作の要点について、
図16を参照して説明する。
図16は、実施の形態1に係るγ軸電流補償部504の動作説明に供する波形図である。
【0122】
図16の左図には、γ軸電流補償制御を実施していない場合の電動機電力Pm、電動機機械出力及び電動機7の銅損に関する波形が示されている。γ軸電流補償制御を実施していない場合とは、γ軸電流補償制御の機能を働かせていないことを意味する。また、
図16の右図には、γ軸電流補償制御を実施している場合の電動機電力Pm、電動機機械出力及び電動機7の銅損に関する波形が示されている。γ軸電流補償制御を実施している場合とは、γ軸電流補償制御の機能を働かせていることを意味する。両図において、実線は電動機電力Pmを表し、一点鎖線は電動機機械出力を表し、二点鎖線は電動機7の銅損を表している。また、横軸は時間を表している。なお、γ軸電流補償制御の機能を働かせないようにするには、
図8のγ軸電流補償部504の動作を停止させる、若しくはγ軸電流補償部504の出力を加算部506に入力させないようにすればよい。
【0123】
前述したように、圧縮機8は、トルク脈動を有する負荷である。このため、速度脈動、δ軸電流の脈動が必然的に発生し、その結果として、
図16の左図に示されるように、電動機電力Pm及び電動機機械出力も脈動する。また、上記(4)式において、電動機機械出力を表す右辺第二項の電力は、電動機7の銅損を表す右辺第一項の電力に比べて支配的である。このため、右辺第二項の電力が脈動すると、コンデンサ出力電流idcも脈動が大きくなり、電源電流Iinに含まれる高調波成分が大きくなってしまう。
【0124】
そこで、実施の形態1では、コンデンサ出力電流idcの脈動を低減するため、電動機電力Pmが、設定電力値よりも小さくなる期間において、電動機7の銅損を大きくする制御を実施する。なお、本稿では、電動機電力Pmが設定電力値よりも小さくなる期間を、適宜「第1の期間」と呼ぶ。
【0125】
ここで、上記(4)式の右辺第1項及び第2項から理解できるように、δ軸電流iδを大きくすることで電動機7の銅損は増加するが、電動機7の機械出力も大きくなってしまう。このため、実施の形態1では、γ軸電流iγを大きくすることで電動機7の銅損を増加させる手法を採用する。
【0126】
図16の左図には、設定電力値が電動機電力Pmの平均値である平均電力値Pavgである場合の例が示されている。なお、ここで言う平均電力値Pavgは、実施の形態1によるγ軸電流補償制御を実施しないときの電動機電力Pmの平均値である。また、
図16の左図には、電動機電力Pmと平均電力値Pavgとによって囲まれる部分がハッチングで示されている。このハッチングで示される部分の時間軸方向の幅は、上述した第1の期間に対応している。また、
図16の右図には、γ軸電流iγを大きくする制御により、第1の期間において、電動機7の銅損が増加し、電動機電力Pmにおける下側に凸の部分の波形が持ち上げられて、電動機電力Pmの脈動幅が減少していることが示されている。
【0127】
なお、γ軸電流iγを流す方向は、正及び負のうちの何れの方向でもよい。電動機7の銅損は、電流の2乗に正比例するので、正及び負の何れの方向でも電動機7に銅損を発生させることが可能である。従って、電動機7の銅損を増加するには、γ軸電流iγの絶対値を増加させればよい。
【0128】
また、電動機7が、例えば埋込型の永久磁石モータである場合、γ軸電流iγを流す方向は、負であることが好ましい。以下、この点について説明する。
【0129】
上記(4)式の右辺第2項において、“(Lγ-Lδ)iγ”は、リラクタンストルクに関する電力を表す項である。電動機7が、埋込型の永久磁石モータである場合、γ軸インダクタンスLγとδ軸インダクタンスLδとの間の関係は、一般的にLγ<Lδとなる。この関係は、「逆突極」と呼ばれる。電動機7が逆突極である場合において、γ軸電流iγを負方向に流した場合、上記“(Lγ-Lδ)iγ”の値は、正になる。従って、γ軸電流iγを負方向に流した場合、リラクタンストルクの値が正になるので、電動機7の駆動が安定化する方向の制御となる。これにより、電源電流の高調波成分の増加を抑制しつつ、電動機7が脱調状態となる可能性を低く抑えることができる。
【0130】
また、電力変換装置2が弱め磁束制御の機能を有し、且つ電動機7が逆突極である場合、過変調領域において弱め磁束制御を行う際には、γ軸電流iγは、負の方向に流される。従って、γ軸電流iγを負の方向に流す制御は、逆突極性の電動機7において、弱め磁束制御には、好都合である。
【0131】
図17は、実施の形態1に係る電圧指令値演算部115が備えるγ軸電流補償部504の動作説明に供するフローチャートである。
【0132】
制御装置100において、γ軸電流補償部504は、過去に演算した電動機電力Pmに基づいて、平均電力値Pavgを演算する(ステップS31)。また、γ軸電流補償部504は、周波数指令値ωe*及びδ軸電流指令値iδ*に基づいて、今回の電動機電力Pmを演算する(ステップS32)。更に、γ軸電流補償部504は、電動機電力Pmを平均電力値Pavgと比較する(ステップS33)。
【0133】
電動機電力Pmが平均電力値Pavgを下回っていない場合(ステップS34,No)、ステップS32に戻り、ステップS32,S33の処理が繰り返される。一方、電動機電力Pmが平均電力値Pavgを下回っている場合(ステップS34,Yes)、γ軸電流補償部504は、γ軸電流補償値iγ_lcc*を生成して加算部506に出力する(ステップS35)。γ軸電流補償部504は、γ軸電流補償値iγ_lcc*を生成してから規定時間が経過したか否かを判定する(ステップS36)。規定時間が経過していない場合(ステップS36,No)、ステップS32に戻り、ステップS32からの処理が繰り返される。一方、規定時間が経過している場合(ステップS36,Yes)、ステップS31に戻り、ステップS31からの処理が繰り返される。
【0134】
上記の処理について、一部補足する。ステップS35において、加算部506に出力するγ軸電流補償値iγ_lcc*の絶対値は、γ軸電流制限値生成部540から出力されるγ軸電流制限値iγ_lcc_lim*を超えないように制御する。このように制御することで、他の制御、具体的には、振動抑制制御及び弱め磁束制御に対し、γ軸電流補償制御の優先度を低くすることができる。これにより、他の制御との干渉を防ぎつつ、γ軸電流補償制御において最大限に流すことができるγ軸電流iγを決定することができる。即ち、電動機7に対する速度制御及び振動抑制制御に必要なδ軸電流指令値iδ**を確保しつつ、弱め磁束制御に必要なγ軸電流指令値iγ**を確保することができる。
【0135】
なお、γ軸電流制限値iγ_lcc_lim*を用いたγ軸電流補償制御によれば、γ軸電流補償値iγ_lcc*の形状は矩形波になるが、必ずしも矩形波に限定されるものではない。γ軸電流補償値iγ_lcc*の形状は、γ軸電流制限値iγ_lcc_lim*を最大振幅とする、三角波、台形波又は正弦波であってもよい。
【0136】
また、ステップS36における規定時間は、電動機電力Pmの周期と、平均電力値Pavgとに基づいて決定することができる。また、ステップS31における平均電力値Pavgは、1周期前の電動機電力Pmに基づいて演算してもよいし、1周期前を含む複数周期の電動機電力Pmに基づいて演算してもよい。また、ステップS32では、計測値ではなく、指令値である周波数指令値ωe*及びδ軸電流指令値iδ*に基づいて電動機電力Pmを演算しているので、γ軸電流補償制御を実施しない場合の電動機電力Pmの把握が可能となる。
【0137】
また、
図17のフローチャートでは、電動機電力Pm、及びその平均値である平均電力値Pavgに基づいて、γ軸電流補償値iγ_lcc*を演算しているが、これに限定されない。電動機7の回転速度は一定であると見なし、δ軸電流指令値iδ*、及びその平均値に基づいて、γ軸電流補償値iγ_lcc*を演算してもよい。或いは、電動機7のδ軸電流iδは一定であると見なし、周波数推定値ωest、及びその平均値に基づいて、γ軸電流補償値iγ_lcc*を演算してもよい。
【0138】
なお、実施の形態1に係る電圧指令値演算部115は、
図18のように構成されていてもよい。
図18は、実施の形態1の変形例に係る電圧指令値演算部115Aの構成例を示すブロック図である。
図18では、
図8に示すγ軸電流補償部504がγ軸電流補償部504Aに置き替えられている。また、
図18の構成では、γ軸電流補償部504Aの入力信号が、δ軸電流指令値iδ*からδ軸電流補償値iδ_trq*に変更されている。その他の構成は、
図8の構成と同一又は同等であり、同一又は同等の構成要素には同一の符号を付して示すと共に、重複する説明は割愛する。
【0139】
図16の左図において、電動機電力Pmが平均電力値Pavgを下回るときは、δ軸電流補償値iδ_trq*が負となるときと等価である。このため、γ軸電流補償部504Aは、δ軸電流補償値iδ_trq*に基づいて、γ軸電流補償制御を行うことが可能である。
【0140】
図19は、
図18に示すγ軸電流補償部504Aの動作説明に供するフローチャートである。
【0141】
制御装置100において、γ軸電流補償部504Aは、δ軸電流補償値iδ_trq*及びγ軸電流制限値iγ_lcc_lim*を取得する(ステップS41)。δ軸電流補償値iδ_trq*がゼロ未満、即ちδ軸電流補償値iδ_trq*が負である場合(ステップS42,Yes)、γ軸電流補償部504Aは、γ軸電流補償値iγ_lcc*をγ軸電流制限値iγ_lcc_lim*に設定し(ステップS43)、設定したγ軸電流補償値iγ_lcc*を出力する(ステップS45)。なお、γ軸電流iγの補償方向は負であるため、ステップS43の処理では、γ軸電流制限値iγ_lcc_lim*にマイナスの符号を付している。また、δ軸電流補償値iδ_trq*がゼロ以上、即ちδ軸電流補償値iδ_trq*が非負である場合(ステップS42,No)、γ軸電流補償部504Aは、γ軸電流補償値iγ_lcc*をゼロに設定し(ステップS44)、設定したγ軸電流補償値iγ_lcc*を出力する(ステップS45)。この
図19に示すフローチャートによる制御によっても、上述した効果が得られる。
【0142】
次に、γ軸電流補償制限部542の詳細な構成及び動作について説明する。
図20は、実施の形態1に係るγ軸電流補償制限部542が備える電源高調波規格値演算部701の構成例を示すブロック図である。電源高調波規格値演算部701は、電動機電力演算部751と、電流高調波限度値演算部752と、係数乗算部753とを備える。
【0143】
まず、電動機電力演算部751は、上記の(3)式を用いて電動機電力Wを演算する。但し、ここでの電動機電力Wは、(3)式におけるγ軸電圧Vγ及びδ軸電圧Vδを、それぞれγ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*に置き替えて演算される。
【0144】
電流高調波限度値演算部752は、電動機電力Wに基づいて電流高調波限度値を演算する。係数乗算部753は、電流高調波限度値演算部752が演算した電流高調波限度値に対して、どの程度のマージンを見込んだ値とするかを決める係数K1を乗算する。係数乗算部753による演算結果は、前述した電源高調波規格値Iin_lim_nとして出力される。
【0145】
次に、電流高調波限度値演算部752による具体的な演算例を説明する。
図21は、実施の形態1に係る電源高調波規格値演算部701が備える電流高調波限度値演算部752の演算処理の説明に供する図である。
図21には、JIS_C_61000-3-2に規定されている600W超の空気調和機に適用する限度値の計算手順を示す表が示されている。具体的に、
図21の左側には、3次~39次までの奇数次高調波の最大許容高調波電流の計算式と、2次~40次までの偶数次高調波の最大許容高調波電流の計算式とが示されている。例えば、5次の最大許容高調波電流は、上記(3)式を用いて演算した電動機電力Wを“1.14+0.00070(W-600)”の式に代入して電流高調波限度値を計算する。なお、式中の数値“1.14”については、機器の定格電圧に基づき、右側の枠内に示されている換算式を用いて換算する。計算例が示されているように、定格電圧が100Vである場合には“1.14”に代えて“2.62”を使用し、定格電圧が200Vである場合には“1.14”に代えて“1.31”を使用する。また、定格電圧が220V、230V、240Vの場合には、“1.14”をそのまま使用する。
【0146】
なお、
図21は一例であり、電流高調波限度値の演算はこの例に限定されない。γ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*に代えて、d軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*、d軸電流id及びq軸電流iqを用いて演算してもよい。また、電動機電力演算部751と電流高調波限度値演算部752との間にLPF(Low Pass Filter)を入れ、電動機電力Wの演算値に含まれる高調波を除去してから、上述した演算を行ってもよい。また、
図21では、2次~40次までの高調波成分の演算を行っているが、これらの高調波成分に加え、40次を超える高調波成分の演算を行ってもよい。
【0147】
次に、次数成分演算部702について説明する。
図22は、実施の形態1に係るγ軸電流補償制限部542が備える次数成分演算部702の構成例を示すブロック図である。次数成分演算部702は、第1の演算ブロック702-1と、第2の演算ブロック702-2とを備える。
【0148】
第1の演算ブロック702-1は、電源電流Iinに基づいて、(n-1).5次~n.5次(nは2以上の整数)の実効値Iin_xを演算する。例えばn=3、即ち3次の高調波成分の場合、(n-1).5次~n.5次の高調波成分は、2.5次、2.6次、…、3.0次、…、3.4次、及び3.5次の11個の高調波成分である。第1の演算ブロック702-1では、高調波成分の周波数に同期した位相角θxの余弦値cosθx及び正弦値sinθxが電源電流Iinの検出値に乗算され、ローパスフィルタを通すことで直交成分Iin_c,Iin_sが演算される。更に、直交成分Iin_c,Iin_sの2乗平方根が演算され、1/√2を乗算することで、(n-1).5次~n.5次の実効値Iin_xが演算される。
【0149】
第2の演算ブロック702-2では、(n-1).5次~n.5次の各々の実効値Iin_xが2乗され、それらの2乗値を加算した加算値の平方根を演算することで、次数成分Iin_nが演算される。なお、加算処理においては、11個の高調波成分の両端に位置する(n-1).5次及びn.5次の成分は、隣接する次数間で重複するため、1/2を乗算してから加算される。
【0150】
なお、
図22の演算例は一例であり、次数成分Iin_nの演算はこの例に限定されない。各次の高調波成分を更に細かく区分して演算してもよい。また、電流高調波限度値の演算と同様に、40次を超える高調波成分の演算を行ってもよい。
【0151】
次に、実施の形態1に係るγ軸電流補償制限部542の変形例について説明する。
図23は、実施の形態1の変形例に係るγ軸電流補償制限部542Aの構成例を示すブロック図である。γ軸電流補償制限部542Aは、電源高調波規格値演算部701Aと、減算部703と、積分部704と、制限値演算部705と、機械角周波数成分抽出部708とを備える。なお、
図12に示すγ軸電流補償制限部542と同一又は同等の構成部には、同一の符号を付して示している。
【0152】
機械角周波数成分抽出部708は、電流検出部84から取得したコンデンサ出力電流idcに基づいて、コンデンサ出力電流idcに含まれる機械1f成分idc_m1fを抽出して減算部703に出力する。「機械1f成分」とは、電動機7における機械角周波数の1倍、即ち機械角周波数の成分である。電動機7の負荷が、例えばシングルロータリ圧縮機である場合、機械1f成分は、コンデンサ出力電流idcに含まれる脈動成分のうちで最も支配的な周波数成分である。
【0153】
電源高調波規格値演算部701Aは、電源高調波規格値idc_m1f_limを演算して減算部703に出力する。電源高調波規格値演算部701Aが演算する電源高調波規格値idc_m1f_limは、機械角周波数成分抽出部708が演算する機械1f成分idc_m1fと比較するための閾値となるものである。
【0154】
図12及び
図15に示す電源高調波規格値演算部701は、γ軸電流iγと、δ軸電流iδと、γ軸電圧指令値Vγ*と、δ軸電圧指令値Vδ*とに基づいて、電源高調波規格値Iin_lim_nを演算していた。一方、
図23に示す電源高調波規格値演算部701Aは、特定の入力信号を用いずに電源高調波規格値idc_m1f_limを生成する。電源高調波規格値idc_m1f_limの生成には、どのような手法を用いてもよい。一例を挙げると、種々の電動機7の負荷に対して、当該負荷を駆動する際のコンデンサ出力電流idcのデータを実験的に取得し、当該データを解析することで得た値をテーブルで保持しておくことが考えられる。テーブルで保持されるデータについては、後述するメモリ202に記憶させておけばよい。
【0155】
図24は、実施の形態1の変形例に係るγ軸電流補償制限部542Aが備える機械角周波数成分抽出部708の構成例を示すブロック図である。前述したように、機械角周波数成分抽出部708は、コンデンサ出力電流idcに基づいて、コンデンサ出力電流idcに含まれる機械1f成分idc_m1fを抽出する。
図24に示す機械角周波数成分抽出部708では、機械1f成分の周波数に同期した位相角θm1fの余弦値cosθm1f及び正弦値sinθm1fがコンデンサ出力電流idcの検出値に乗算され、ローパスフィルタを通すことで直交成分idc_c,idc_sが演算される。更に、直交成分idc_c,idc_sの2乗平方根を2倍することで機械1f成分idc_m1fが演算される。
【0156】
図24の機械角周波数成分抽出部708の処理について補足する。コンデンサ出力電流idcは直流電流であるため、余弦値cosθm1f及び正弦値sinθm1fを乗算して抽出する手法では、実際の値の半分の値となる。このため、直交成分idc_c,idc_sの2乗平方根に対して、この値が2倍される。このようにして、意図する機械1f成分idc_m1fが抽出される。
【0157】
なお、
図23及び
図24の機械角周波数成分抽出部708は、コンデンサ出力電流idcに含まれる機械1f成分idc_m1fを抽出しているが、これに限定されない。機械角周波数成分抽出部708は、機械1f成分idc_m1fに加え、電動機7における機械角周波数の2倍の成分である機械2f成分を抽出するようにしてもよい。機械2f成分を抽出することで、電源電流Iinに含まれる高調波成分の抑制に余裕ができ、その余裕分を振動抑制制御のδ軸電流指令、又は弱め磁束制御のγ軸電流指令に使うことができる。
【0158】
図25は、実施の形態1に係るγ軸電流補償制御による効果の説明に供する図である。
図25の左部には、γ軸電流補償制御が実施されない場合の電源電流及びコンデンサ出力電流の波形が示されている。また、
図25の右部には、γ軸電流補償制御が実施された場合の電源電流及びコンデンサ出力電流の波形が示されている。
【0159】
γ軸電流補償制御が実施されない場合、
図25の左部に示されるように、コンデンサ出力電流の脈動が大きくなっている。これにより、電源電流のピーク値が変動し、電源電流に含まれる高調波成分が増加することが示されている。これに対し、γ軸電流補償制御が実施された場合、
図25の右部に示されるように、コンデンサ出力電流の脈動が小さくなっている。これにより、電源電流のピーク値がほぼ一定となり、電源電流に含まれる高調波成分が低減されることが示されている。
【0160】
図26は、実施の形態1に係るγ軸電流補償制限制御による作用の説明に供する図である。具体的に、
図26には、上段側から順に、電動機7の回転速度、電動機7の出力トルク及び負荷トルク、γ軸電流、δ軸電流、電源電流、三相電流、コンデンサ出力電流、機械1f成分のフィルタ値、並びに制御偏差の波形が示されている。制御偏差は、γ軸電流補償制限制御の偏差である。なお、横軸は時間を表している。
【0161】
図26の上から3番目の波形に着目すると、γ軸電流補償制御の開始によって、γ軸電流iγの振幅が-10[A]に設定され、その後のγ軸電流補償制限制御によって、γ軸電流iγの振幅が-7.5[A]に制限されている。また、下から2番目の波形に着目すると、起動から約9秒後、即ちγ軸電流補償制限制御の開始から約2秒後において、機械1f成分のフィルタ値が目標値である1.7に収束していることが分かる。また、最下段の波形に着目すると、起動から約12秒後、即ちγ軸電流補償制限制御の開始から約5秒後において、制御偏差が概ね0の値に収束していることが分かる。これらの動作波形により、γ軸電流補償制限制御が有効、且つ安定的に動作していることが分かる。
【0162】
以上説明したように、実施の形態1に係る電力変換装置によれば、制御装置は、励磁電流補償部及び励磁電流補償制限部を備える。励磁電流補償部は、負荷の振動を抑制する振動抑制制御が行われる際に、コンデンサからインバータに出力されるコンデンサ出力電流の脈動を低減する励磁電流補償制御を行う。この制御により、電源電流がその極性の正と負との間でアンバランス状態となることを回避でき、電源電流に含まれ得る高調波成分の増加を抑制することが可能となる。また、励磁電流補償制限部は、励磁電流補償制御が行われる際に、交流電源とコンバータとの間に流れる電源電流に含まれる高調波成分が低減するように、励磁電流補償部が生成する励磁電流補償値を制限する励磁電流補償制限制御を行う。これにより、電動機のトルク脈動を補償しつつ、電源電流の高調波成分の増加を抑制することが可能となる。
【0163】
なお、上述した励磁電流補償制御は、インバータから電動機に供給される電力である電動機電力が、設定電力値よりも小さくなる第1の期間において、電動機に損失を発生させることで実現できる。設定電力値は、第1の制御を実施しないときの電動機電力の平均値であってもよい。また、この励磁電流補償制御は、負荷の振動を抑制するためのトルク電流補償値が負の値となる第1の期間において、電動機に損失を発生させることでも実現できる。
【0164】
また、励磁電流補償値を制限するための制限値は、電源電流の高調波成分、又はコンデンサからインバータに出力されるコンデンサ出力電流の機械角周波数成分に基づいて生成することができる。この制限値を用いて励磁電流補償値を制限することにより、電源電流における正負間のアンバランス状態が抑制されるので、電源高調波規格への適合が容易となる。これにより、コンバータの回路定数及びコンバータのスイッチング方法を変更又は修正する必要がなくなるので、安価で信頼性の高い電動機駆動装置を得ることが可能となる。また、電源高調波の低減により、電源力率も上昇するので、無駄な電流を流す必要がなくなる。これにより、コンバータ側の効率を上昇させることができる。
【0165】
また、実施の形態1に係る電力変換装置によれば、電源高調波規格への適合が制御装置の自動的な制御によって実施されるので、コンバータ及びコンバータ周辺の回路定数に関する調整が簡易になり、安価で信頼性が高く、開発負荷の小さい電動機駆動装置を得ることが可能となる。
【0166】
次に、電力変換装置2が備える制御装置100のハードウェア構成について説明する。
図27は、実施の形態1に係る電力変換装置2が備える制御装置100を実現するハードウェア構成の一例を示す図である。制御装置100は、プロセッサ201及びメモリ202により実現される。
【0167】
プロセッサ201は、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、DSP(Digital Signal Processor)ともいう)、又はシステムLSI(Large Scale Integration)である。メモリ202は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリー、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)といった不揮発性又は揮発性の半導体メモリを例示できる。またメモリ202は、これらに限定されず、磁気ディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、又はDVD(Digital Versatile Disc)でもよい。
【0168】
実施の形態2.
図28は、実施の形態2に係る冷凍サイクル適用機器900の構成例を示す図である。実施の形態2に係る冷凍サイクル適用機器900は、実施の形態1で説明した電力変換装置2を備える。実施の形態2に係る冷凍サイクル適用機器900は、空気調和機、冷蔵庫、冷凍庫、ヒートポンプ給湯器といった冷凍サイクルを備える製品に適用することが可能である。なお、
図28において、実施の形態1と同様の機能を有する構成要素には、実施の形態1と同一の符号を付している。
【0169】
冷凍サイクル適用機器900は、実施の形態1における電動機7を内蔵した圧縮機901と、四方弁902と、室内熱交換器906と、膨張弁908と、室外熱交換器910とが冷媒配管912を介して取り付けられている。
【0170】
圧縮機901の内部には、冷媒を圧縮する圧縮機構904と、圧縮機構904を動作させる電動機7とが設けられている。
【0171】
冷凍サイクル適用機器900は、四方弁902の切替動作により暖房運転又は冷房運転をすることができる。圧縮機構904は、可変速制御される電動機7によって駆動される。
【0172】
暖房運転時には、実線矢印で示すように、冷媒が圧縮機構904で加圧されて送り出され、四方弁902、室内熱交換器906、膨張弁908、室外熱交換器910及び四方弁902を通って圧縮機構904に戻る。
【0173】
冷房運転時には、破線矢印で示すように、冷媒が圧縮機構904で加圧されて送り出され、四方弁902、室外熱交換器910、膨張弁908、室内熱交換器906及び四方弁902を通って圧縮機構904に戻る。
【0174】
暖房運転時には、室内熱交換器906が凝縮器として作用して熱放出を行い、室外熱交換器910が蒸発器として作用して熱吸収を行う。冷房運転時には、室外熱交換器910が凝縮器として作用して熱放出を行い、室内熱交換器906が蒸発器として作用し、熱吸収を行う。膨張弁908は、冷媒を減圧して膨張させる。
【0175】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0176】
1 交流電源、2 電力変換装置、4 リアクタ、7 電動機、8 圧縮機、10 コンバータ、20 コンデンサ、22a,22b 直流母線、30 インバータ、50 電動機駆動装置、82 電圧検出部、83,84 電流検出部、100 制御装置、102 運転制御部、110 インバータ制御部、111 電流復元部、112 3相2相変換部、113 γ軸電流指令値生成部、115,115A 電圧指令値演算部、116 電気位相演算部、117 2相3相変換部、118 PWM信号生成部、201 プロセッサ、202 メモリ、310 インバータ主回路、311~316 スイッチング素子、321~326 整流素子、331~333 出力線、350 駆動回路、501 周波数推定部、502,509,510,543,557,558,703 減算部、503 速度制御部、504,504A γ軸電流補償部、505 振動抑制制御部、506,507,563,613,706 加算部、511 γ軸電流制御部、512 δ軸電流制御部、540 γ軸電流制限値生成部、541 第1のリミッタ、542,542A γ軸電流補償制限部、544 第2のリミッタ、550 演算部、551 余弦演算部、552 正弦演算部、553,554,561,562 乗算部、555,556 ローパスフィルタ、559,560 周波数制御部、611 比例制御部、612 積分制御部、701,701A 電源高調波規格値演算部、702 次数成分演算部、702-1 第1の演算ブロック、702-2 第2の演算ブロック、704 積分部、705 制限値演算部、708 機械角周波数成分抽出部、751 電動機電力演算部、752 電流高調波限度値演算部、753 係数乗算部、900 冷凍サイクル適用機器、901 圧縮機、902 四方弁、904 圧縮機構、906 室内熱交換器、908 膨張弁、910 室外熱交換器、912 冷媒配管、D1,D2,D3,D4 ダイオード。