(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】加工魚の製造システム及び加工魚の製造方法
(51)【国際特許分類】
A22C 25/14 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
A22C25/14
(21)【出願番号】P 2024029167
(22)【出願日】2024-02-28
【審査請求日】2024-07-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390023456
【氏名又は名称】株式会社極洋
(74)【代理人】
【識別番号】100125450
【氏名又は名称】河野 広明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英樹
(72)【発明者】
【氏名】久保 研二
(72)【発明者】
【氏名】松村 梨沙
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 允朗
【審査官】芝井 隆
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第115669710(CN,A)
【文献】特開平03-043040(JP,A)
【文献】特開2023-010115(JP,A)
【文献】特開2004-321031(JP,A)
【文献】米国特許第06368203(US,B1)
【文献】特開昭63-141541(JP,A)
【文献】特開昭61-195638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A22C 25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腹膜に対して背側に腎臓を有し、該腹膜から腹側の内臓が露出するまで腹部が切断された後、該内臓が除去された魚体に対して、該腹膜に向けて前記腹側から吐出されるとともに、該腹膜に到達したときの該腹膜が受ける圧力が1.1MPa以上5MPa以下である、
直進流の第1水含有液を吐出する第1吐出部と、
前記第1水含有液によって該腹膜の少なくとも一部が切断又は破断された後に、前記腎臓に向けて前記腹側から吐出されるとともに、前記腎臓に到達したときの該腎臓が受ける圧力が0.02MPa以上0.06MPa以下である、
第2水含有液を吐出する第2吐出部と、を備える、
加工魚の製造システム。
【請求項2】
前記第1水含有液と前記第2水含有液との供給源が同一である、
請求項1に記載の加工魚の製造システム。
【請求項3】
前記魚体を搬送する搬送部と、
前記第1吐出部に接近する方向への相対速度が100mm/秒以上600mm/秒以下となるように、該搬送部の搬送速度を制御する制御部と、をさらに備える、
請求項1又は請求項2に記載の加工魚の製造システム。
【請求項4】
前記第2吐出部は、扇状流、台形流、直進流、回転流、膜状流、角錐流及び円錐流の群から選択される1種の前記第2水含有液を吐出する、
請求項1又は請求項2に記載の加工魚の製造システム。
【請求項5】
腹膜に対して背側に腎臓を有し、該腹膜から腹側の内臓が露出するまで腹部が切断された後、該内臓が除去された魚体に対して、該腹膜に向けて前記腹側から吐出されるとともに、該腹膜に到達したときの該腹膜が受ける圧力が1.1MPa以上5MPa以下である、
直進流の第1水含有液を吐出する第1吐出工程と、
前記第1水含有液によって該腹膜の少なくとも一部が切断又は破断された後に、前記腎臓に向けて前記腹側から吐出されるとともに、前記腎臓に到達したときの該腎臓が受ける圧力が0.02MPa以上0.06MPa以下である、
第2水含有液を吐出する第2吐出工程と、を含む、
加工魚の製造方法。
【請求項6】
前記第1吐出工程において、前記第1水含有液を吐出する第1吐出部に接近する方向への相対速度が100mm/秒以上600mm/秒以下となるように前記魚体を搬送する搬送工程をさらに備える、
請求項5に記載の加工魚の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工魚の製造システム、加工魚の製造方法及び加工魚に関する。
【背景技術】
【0002】
市民の生活水準が向上する中で、豊富な食材を安定的に市場に提供し続けることは、食材の加工品を製造販売する企業の使命といえるが、その実現は容易ではない。例えば、魚介類を商いとする企業にとっては、食材となる魚介類の水揚量が原料価格、ひいては消費者への販売価格に直接影響することになる。しかしながら、たとえ原料価格が高騰したとしても、その取引態様をあらゆる角度から見直し、創意工夫することにより、可能な限り消費者への販売価格に対する影響を抑える努力が企業に求められる。
【0003】
原料が魚(魚体)の場合、原料価格を抑えるための1つの工夫として、取引される原料の切断方法を変更することによって原料の一次加工処理に対する負担を抑える手段が採用されている。一次加工処理の負担を軽減した加工魚の一例は、魚のメフンと呼ばれる腎臓の除去工程を省いた、又は該腎臓の除去が不十分な状態の加工魚である。該加工魚は、前述のとおり、加工負担が軽減されることから原料価格を抑えることに貢献し得るが、魚体の利用態様によっては二次加工の際に確度高い腎臓の除去作業が必要となるため、二次加工を行う者にとっては、むしろ加工負担が増加する場合がある。
【0004】
特に、背骨に沿って存在する腎臓は魚肉にこびり付いていることが多いため、一次加工の際に該腎臓が除去されていない、又は該腎臓の除去が不十分な状態の加工魚に対して、該腎臓を除去するための二次加工としての作業負担は大きい。そのため、これまでに、魚の腎臓を除去する装置が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、腹膜を有する魚種においては、腎臓が該腹膜よりも背側に存在することから、腎臓を除去する前に腹膜を切断又は除去することが必要となり、加工業者の作業負担はさらに増えることになる。具体的には、腎臓を除く内臓を除去するために魚(魚体)の腹側に切れ目を入れたとしても、該腹膜が該腎臓を覆っていて、該腎臓が云わば「守られて」いるため、該腹膜を切断又は除去した後でないと、腎臓を取り除くことが非常に困難となる。加えて、上述のとおり、腎臓は魚肉にこびり付いていることが多いことから腎臓の除去作業自体が加工業者にとって相当大きな負担となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、腎臓が該腹膜よりも背側に存在する魚種に対して、加圧されて吐出した液体のみによって該腹膜及び該腎臓の切断又は除去を簡便に実現し得るとともに、衛生面にも配慮した加工魚の製造システム、及びその製造方法の実現に大きく貢献するものである。
【0008】
本発明者は、腎臓が該腹膜よりも背側に存在する魚種、換言すれば、魚体の腹側から切れ目を入れた場合に腹膜が腎臓を覆っている魚種に対する、刃物による腹膜の切断と、刃物やブラシ等による腎臓除去の作業効率の悪さと、該作業による加工コストの上昇という課題に着目した。そこで、本発明者は、腎臓除去のための処理の一部であっても魚体(より狭義には、可食部となる魚肉等)に刃物やブラシを接触させることを避けたうえで、前述の課題、すなわち腹膜と腎臓の除去作業の効率化及び/又は迅速化、ひいては加工コストの低減を実現すべく鋭意検討を行った。具体的には、本発明者らは、刃物(切除、削ぎ落し)やブラシ(擦り取り)を用いることなく、より衛生面にも配慮した、加圧されて吐出する液体によって上記課題が解決される可能性を探るべく研究と分析を重ねた。
【0009】
その結果、本発明者は、加圧された吐出液の形状が持つ特徴によって、該吐出液が担う役割を異ならせ得ることに着目した。その上で、本発明者は、主に腹膜を切断する役割を担う1つ目の液体吐出手段と、その後に主に腹膜及び腎臓の除去、又は該腹膜と該腎臓とを除去するとともに魚肉の洗浄を担う2つ目の液体吐出手段とを採用することが、上述の課題の少なくとも一部を解決し得ることを知得した。また、本発明者は、さらに創意工夫を重ねることにより、確度高く上述の課題を解決し得る手段を見出し、本発明を創出した。
【0010】
本発明の1つの加工魚の製造システムは、腹膜に対して背側に腎臓を有し、該腹膜から腹側の内臓が露出するまで腹部が切断された後、該内臓が除去された魚体に対して、該腹膜に向けて該腹側から吐出されるとともに、該腹膜に到達したときの該腹膜が受ける圧力が1.1MPa以上5MPa以下である、生理学的に許容可能な直進流の第1水含有液を吐出する第1吐出部と、該第1水含有液によって該腹膜の少なくとも一部が切断又は破断された後に、該腎臓に向けて前述の腹側から吐出されるとともに、該腎臓に到達したときの該腎臓が受ける圧力が0.02MPa以上0.06MPa以下である、生理学的に許容可能な第2水含有液を吐出する第2吐出部と、を備える。
【0011】
この加工魚の製造システムによれば、腹膜に対して背側に腎臓を有する上述の魚体に対して、上述の第1吐出部及び第2吐出部という、2種類の役割の異なる吐出部を採用することにより、確度高く、腹膜の切断及び除去に加えて、腎臓の除去を実現し得る。より具体的には、第1吐出部から吐出する、比較的高圧の直進流の第1水含有液が、主に腹膜の切断という役割を担い、その後の第2吐出部から吐出する比較的低圧の第2水含有液が、主に腹膜及び腎臓の除去、及び/又は魚肉の洗浄という役割を担い得る。その結果、該腹膜及び該腎臓の切断又は除去を簡便に実現し得るとともに、生理学的に許容可能な水含有液による処理であるため、衛生面の向上にも寄与し得る。また、第1吐出部及び第2吐出部から吐出される流体として水含有液を採用するため、例えば、気体と比較して確度高く上述の各役割を実現し得る。
【0012】
また、本発明の1つの加工魚の製造方法は、腹膜に対して背側に腎臓を有し、該腹膜から腹側の内臓が露出するまで腹部が切断された後、該内臓が除去された魚体に対して、該腹膜に向けて前記腹側から吐出されるとともに、該腹膜に到達したときの該腹膜が受ける圧力が1.1MPa以上5MPa以下である、生理学的に許容可能な直進流の第1水含有液を吐出する第1吐出工程と、前述の第1水含有液によって該腹膜の少なくとも一部が切断又は破断された後に、該腎臓に向けて前述の腹側から吐出されるとともに、該腎臓に到達したときの該腎臓が受ける圧力が0.02MPa以上0.06MPa以下である、生理学的に許容可能な第2水含有液を吐出する第2吐出工程と、を含む。
【0013】
この加工魚の製造方法によれば、腹膜に対して背側に腎臓を有する上述の魚体に対して、上述の第1吐出工程及び第2吐出工程という、2種類の役割の異なる吐出工程を採用することにより、確度高く、腹膜の切断及び除去に加えて、腎臓の除去を実現した加工魚を製造し得る。より具体的には、第1吐出工程において、比較的高圧の直進流の第1水含有液が、主に腹膜の切断という役割を担い、その後の第2吐出工程において、比較的低圧の第2水含有液が、主に腹膜及び腎臓の除去、及び/又は魚肉の洗浄という役割を担い得る。その結果、該腹膜及び該腎臓の切断又は除去を簡便に実現し得るとともに、生理学的に許容可能な水含有液による処理であるため、製造された加工魚に対する衛生面の向上にも寄与し得る。また、第1吐出工程及び第2吐出工程において吐出される流体として水含有液を採用するため、例えば、気体と比較して確度高く上述の各役割を実現し得る。
【0014】
なお、本願における「魚肉の洗浄」とは、腎臓の除去とは異なり、該腎臓が除去された後に現れる、腎臓が接していた(例えば、腎臓がこびり付いていて、云わば「隠れていた」)部位の魚肉を含む、魚肉自身に対する除菌又は減菌、あるいは夾雑物の除去又は低減の処理を意味する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の1つの加工魚の製造システム及び本発明の1つの加工魚の製造方法によれば、腎臓が該腹膜よりも背側に存在する魚種に対して、該腹膜及び該腎臓の切断又は除去を簡便に実現し得るとともに、生理学的に許容可能な水含有液による処理であるため、衛生面の向上にも寄与し得る。
【0016】
また、本発明の1つの加工魚は、腹膜と該腹膜に対して背側の腎臓とが水含有液のみによって取り除かれているため衛生面に優れるとともに、該腹膜と該腎臓の除去が確度高く実現された加工魚である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1の実施形態における加工魚の製造システムの構成の概要を示す側面図である。
【
図2】第1の実施形態における加工魚の製造システムの構成の概要を示す平面図である。
【
図3】
図1の第1吐出部及び第2吐出部の拡大図である。
【
図4】第1の実施形態の加工魚の製造工程を示すフローチャートである。
【
図5】第1の実施形態における加工魚の製造前の、魚体の腹膜及び腎臓を示す写真である。
【
図6】第1の実施形態における加工魚の製造後の、魚体の腹膜及び腎臓が除去された状態を示す写真である。
【
図7】第1の実施形態の変形例(1)における加工魚の製造システムの構成の概要を示す側面図である。
【
図8】第1の実施形態の変形例(1)における加工魚の製造システムの構成の概要を示す平面図である。
【
図9】第1の実施形態の変形例(2)における加工魚の製造システムの構成の概要を示す側面図である。
【
図10】第1の実施形態の変形例(2)における加工魚の製造システムの構成の概要を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態における加工魚の製造システム、加工魚の製造方法、及び加工魚を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。尚、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしも互いの縮尺を保って記載されるものではない。また、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
【0019】
<第1の実施形態>
本実施形態の加工魚の製造システム100及び加工魚の製造方法においては、次の各構成を用いて後述する各工程(各ステップ)が行われる。
図1は、本実施形態における加工魚の製造システム100の構成の概要を示す側面図である。また、
図2は、本実施形態における加工魚の製造システム100の構成の概要を示す平面図である。また、
図3は、
図1の第1吐出部10及び第2吐出部20の拡大図である。また、
図5は、本実施形態における加工魚の製造前の、魚体の腹膜及び腎臓を示す写真である。加えて、
図6は、本実施形態における加工魚の製造後の、魚体の腹膜及び腎臓が除去された状態を示す写真である。
【0020】
(第1の実施形態の加工魚の製造システム構成)
本実施形態の加工魚の製造システム100は、
図1乃至
図3、並びに
図5及び
図6に示すように、処理対象となる魚体Fに向けて、生理学的に許容可能な直進流の第1水含有液12を吐出する第1吐出部10と、生理学的に許容可能な第2水含有液22を吐出する第2吐出部20と、を備える。なお、本実施形態における各水含有液を吐出する「吐出部」という用語は、「噴射部」と読み替えることができる。また、第1吐出部10及び第2吐出部20は、いずれも、本実施形態の効果が奏され得る限り公知のノズルを採用することができる。
【0021】
より具体的には、本実施形態の魚体Fは、
図5に示すように、腹膜Mに対して背側に腎臓Kを有し、腹膜Mから腹側の内臓が露出するまで腹部が切断された後、該内臓が除去された魚体Fである。
【0022】
また、本実施形態の第1吐出部10は、該魚体Fの主に腹膜Mに向けて、該腹側から直進流の第1水含有液12を吐出する。この直進流の第1水含有液12は、腹膜Mの少なくとも一部を切断又は破断(以下、総称して「切断」という。)することができる圧力になるように加圧されている。
【0023】
また、本実施形態の第2吐出部20は、第1水含有液12によって腹膜Mの少なくとも一部が切断された後に、主に腎臓Kに向けて、第1水含有液12と同様に魚体Fの腹側から、第2水含有液を吐出する。この第2水含有液22は、少なくとも、前述の切断された腹膜Mと腎臓Kとを除去する、又は腹膜Mと腎臓Kとを除去するとともに魚体Fにおける魚肉の洗浄をすることができる圧力になるように加圧されている。
【0024】
また、第1吐出部10から吐出される第1水含有液12が魚体F(特に、腹膜M)に直接的に届く範囲が限られている場合は、例えば、第1吐出部10の上部(例えば、魚体Fから離れた側の端部)を支点とする首振り運動又は回転運動、あるいは該上端を基点とする上下運動(魚体Fに対する近接離間運動)を、例えばステッピングモーター又はサーボモーターを用いて行う制御部90(図面上、詳細な配線は省略されている)(又は制御工程)を設けることによって、第1水含有液12が魚体Fに直接的に届く範囲を拡げること、及び/又は魚体Fの動きに合わせて、例えば、第1吐出部10から吐出する第1水含有液12の向きが腹膜Mに対して略垂直となるように、例えばステッピングモーター又はサーボモーターを用いて制御する制御部90(又は制御工程)を設けることも採用し得る他の一態様である。
【0025】
なお、本実施形態の第2吐出部20は扇状流の第2水含有液22を吐出するが、第2水含有液22の形態(吐出形状又は噴射形状(以下、代表的に「吐出形状」という。))は、扇状流に限定されない。第2吐出部は、扇状流、台形流、直進流、回転流、膜状流、角錐流及び円錐流の群から選択される1種の第2水含有液22を吐出することにより、本実施形態の少なくとも一部も効果が奏され得る。例えば、腹膜M上の第2水含有液の滞留を防止又は抑制し得る観点、及び/又はより確度高く、効率的に腹膜Mの残渣又は腎臓Kを除去し得る観点から言えば、第2水含有液22の形態のうち、扇状流を採用することは、好適な一態様である。また、第1吐出部10と同様に、第2吐出部20から吐出される第2水含有液22が魚体F(特に、腹膜M及び腎臓K)に直接的に届く範囲が限られている場合は、例えば、公知の機構を用いて、第2吐出部20の上端(魚体Fから離れた側の端部)を支点とする首振り運動又は回転運動、あるいは該上端を基点とする上下運動(魚体Fに対する近接離間運動)を行うことによって、第2水含有液22が魚体Fに直接的に届く範囲を拡げることも採用し得る他の一態様である。
【0026】
また、第1吐出部10及び第2吐出部20のいずれにおいても、吐出された第1水含有液12又は第2水含有液22が魚体Fに到達したときの圧力の強弱を、いわば強制的に与えることによって、より確度高く、腹膜Mの少なくとも一部を切断する、腹膜Mと腎臓Kとを除去する、又は腹膜Mと腎臓Kとを除去するとともに魚体Fにおける魚肉の洗浄をすることができるため、第1吐出部10及び/又は第2吐出部20が、上述の首振り運動又は回転運動、あるいは上下運動する制御部90(又は制御工程)を設けることは、採用し得る他の好適な一態様である。上述の各運動を制御することにより、魚種、腹膜Mの強度、腎臓Kと魚肉とのこびり付き方等の違いに応じた処理が可能となり得る。
【0027】
本実施形態においては、
図1及び
図2、並びに
図5に示すように、腹膜Mに対して背側に腎臓Kを有し、腹膜Mから腹側の内臓が露出するまで腹部が切断された後、該内臓が除去された魚体Fが、切断された該腹部(より狭義には、腹膜M)を第1吐出部10及び第2吐出部20に向けた(曝した)状態で加工魚の製造システム100に向けて(矢印が示す方向へ)送られることにより、主として次の(1)及び(2)の各処理が行われる。なお、本実施形態においては、頭部が切断された状態の魚体Fが採用されているが、頭部が切断されていない魚体Fであっても、腹膜Mから腹側の内臓が露出するまで腹部が切断された魚体Fであれば、本実施形態の効果が奏され得る。
(1)主に腹膜Mの少なくとも一部を切断する処理
(2)主に腹膜M及び腎臓Kの除去する処理、又は腹膜Mと腎臓Kとを除去するとともに魚肉の洗浄する処理
【0028】
本実施形態の加工魚の製造システム100は、該製造システム100内に送られてきた魚体Fに対して安定的に上述の(1)及び(2)の処理が行われるためのガイド部50が設けられている。また、本実施形態においては、ガイド部50の一部であって、ガイド部50の端部が屈曲して形成された縁部52が備える貫通孔と、第1吐出部10と第2吐出部20とを収容する収容部30が備える貫通孔とを利用した公知の固定機構(例えば、ボルト及びナット)により、第1吐出部10、第2吐出部20及び収容部30の位置及び向きを固定することができる。なお、本実施形態においては、第1吐出部10から吐出する第1水含有液12の向きが腹膜Mを構成する面に対して略鉛直又は略垂直となるようにしていることは、確度高く腹膜M及び腎臓Kの除去を実現し得るため好適な一態様である。
【0029】
加えて、加工魚の製造システム100は、魚体Fに対して上述の(1)及び(2)の処理を連続的に、間欠的に、又は不連続に行うために、駆動部を用いてプーリ40a,40bの駆動を制御する駆動制御部80(図面上、詳細な配線は省略されている)により、ベルト42a,42bを回転させて、搬送台P上の1つ又は複数の魚体Fを搬送する搬送部(ベルトコンベア)40を備える。従って、駆動制御部80は、加工魚の製造システム100に送られてきた魚体Fの搬送速度を、例えばサーボモーターを用いて制御し得る。
【0030】
また、第1吐出部10から吐出される第1水含有液12、及び第2吐出部20から吐出される第2水含有液22の吐出圧力及び吐出量は、公知手段によって制御され得る。例えば、第1水含有液12及び第2水含有液22が、公知の加圧ポンプを用いて、図示しない第1水含有液12の貯蔵部及び第2水含有液22の貯蔵部から各供給管を介して、第1吐出部20及び第2吐出部20に送給されることも採用され得る。なお、本実施形態においては、制御部90が該吐出圧力及び該吐出量を制御する制御工程が行われる。
【0031】
また、本実施形態における第1水含有液12及び第2水含有液22は、生理学的に許容可能な液体であれば、特に限定されない。代表的な該液体は、水である。従って、本実施形態においては、第1水含有液12及び第2水含有液22として、いずれも生理学的に許容可能な不純物を含む水を採用する。なお、第1水含有液12及び第2水含有液22は、必ずしも純水であることを要しない。
【0032】
また、該水の代わりに、次の(a1)乃至(e1)を採用することは、加圧されて吐出した液体のみによって該腹膜M及び該腎臓Kの切断又は除去を簡便に実現し得るという、本実施形態において奏し得る効果に加えて、次の(a2)乃至(e2)に示す別の、又は追加的な効果も奏され得ることから、好適な一態様である。
(a1)旨味用調味液、塩味用調味液、甘味用調味液、酸味用調味液、苦味用調味液、及び照り焼きタレや味噌ダレ等のタレ類を含む群から選択される少なくとも1種の調味液
(a2)調味効果
(b1)次亜塩素酸ナトリウム水、電解水(酸性電解水、次亜塩素酸水、強酸性電解水、微酸性電解水、弱酸性電解水、中性電解水、電解次亜水を含む)、オゾン水、及びアルカリイオン水を含む群から選択される少なくとも1種の殺菌水、又はアルコール類
(b2)殺菌効果又は滅菌効果
(c1)保水剤、pH調整剤、及び結着剤を含む群から選択される少なくとも1種を含む水含有液
(c2)保水作用による、食感の向上(例えば、ぷりぷりとした食感の実現)、及び/又はドリップの低減効果
(d1)砂糖水、水飴、又はサラダ油に代表されるペースト状又はジェル状の水含有液を含む水含有液であって、粘度(1mPa・s超100000mPa・s以下)を有する水含有液
(d2)腹膜Mの切断をより確度高く実現し得る、又はより容易に(吐出圧力の低減化を)実現し得る効果
(e1)砂糖及び液糖を含む群から選択される少なくとも1種の糖度(Brix値が1%超83%以下)を有する水含有液
(e2)腹膜Mの切断をより確度高く実現し得る、又はより容易に(吐出圧力の低減化を)実現し得る効果
【0033】
(第1の実施形態の加工魚の製造方法)
図4は、本実施形態の加工魚の製造工程を示すフローチャートである。
図4に示すように、本実施形態の加工魚の製造工程は、次の(x)及び(y)の各工程を含む。
(x)腹膜Mに対して背側に腎臓Kを有し、腹膜Mから腹側の内臓が露出するまで腹部が切断された後、該内臓が除去された魚体Fに対して、腹膜Mに向けて腹側から吐出されるとともに、腹膜Mに到達したときの腹膜Mが受ける圧力が所定の圧力である、直進流の第1水含有液12を吐出する第1吐出工程(ステップS1)
(y)第1水含有液12によって腹膜Mの少なくとも一部が切断された後に、腎臓Kに向けて魚体Fの腹側から吐出されるとともに、腎臓Kに到達したときの腎臓Kが受ける圧力が所定の圧力である、第2水含有液22を吐出する第2吐出工程(ステップS2)
【0034】
なお、前述のステップS1の前に、例えば、処理対象となる魚体Fの表面の滑り等の汚れを除去するため洗浄工程(代表的には水洗工程)(ステップS0)が導入されることは、採用し得る一態様である。
【0035】
本実施形態の搬送工程においては、上述のとおり、搬送部(ベルトコンベア)40によって魚体Fが、切断された該腹部(より狭義には、腹膜M)を第1吐出部10及び第2吐出部20に向けた(曝した)状態で加工魚の製造システム100に向けて(矢印が示す方向へ)送られる。本実施形態においては、魚体Fは、後述する第1吐出工程(ステップS1)及び第2吐出工程(ステップS2)の各工程を経た後、回転刃60により2つに(
図2における、プーリ40a側とプーリ40b側に)切断される。
【0036】
まず、第1吐出工程(ステップS1)において、第1吐出部10は、処理対象となる魚体Fの腹膜Mに向けて腹側から吐出されるとともに、腹膜Mに到達したときの腹膜Mが受ける圧力が所定の圧力となる直進流の第1水含有液12を吐出する。ここで、第1吐出工程における所定の圧力は、後述する実施例と本発明者による研究と分析の結果によって得られる具体的な数値範囲である。
【0037】
その結果、魚体Fにおける腹膜Mの少なくとも一部が、第1水含有液12によって切断される。
【0038】
その後、第2吐出工程(ステップS2)において、第2吐出部20は、処理対象となる魚体Fの腎臓Kに向けて魚体Fの腹側から吐出されるとともに、腎臓Kに到達したときの腎臓Kが受ける圧力が所定の圧力となる第2水含有液22を吐出する。ここで、第2吐出工程における所定の圧力は、後述する実施例と本発明者による研究と分析の結果によって得られる具体的な数値範囲である。
【0039】
また、
図4は、本実施形態の加工魚の製造工程を示す一例に過ぎない、例えば、本実施形態の加工魚の処理方法の変形例においては、
図4に示す第2吐出工程(ステップS2)の前後に、又は魚体Fが回転刃60により2つに切断された前後に、保管工程、凍結工程、切り身加工工程、整形工程、調味工程、及び/又は包装工程等の工程が行われることも採用され得る他の一態様である。
【0040】
上述のとおり、本実施形態の加工魚の製造システム100及び該加工魚の製造方法によれば、例えば、
図6に示すように、腹膜Mに対して背側に腎臓Kを有する魚体Fを加工処理の対象としたときに、確度高く、該腹膜の一部切断又は一部除去が実現され得る。加えて、本実施形態の加工魚の製造システム100及び該加工魚の製造方法によれば、該腎臓が除去された場合であっても魚肉への刃物やブラシによる損傷がない加工魚を提供することができる。そして、本実施形態の加工魚によれば、腹膜M及び腎臓Kが刃物やブラシによって除去されたものではないため、外観及び衛生面に優れた加工魚を提供することが可能となる。これは、加工魚の付加価値を高めることにも貢献し得る。
【0041】
<第1の実施形態の変形例(1)>
本変形例の加工魚の製造システム200及び加工魚の製造方法においては、第1の実施形態の加工魚の製造システム100における制御部90が複数の弁92a,92bを備えた手動の制御手段に変更された点、魚体Fの搬送機構及び搬送工程が変更された点、及び回転刃60が設けられていない点を除いて、第1の実施形態の加工魚の製造システム100及び加工魚の製造方法と同様である。したがって、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0042】
図7は、本変形例における加工魚の製造システム200の構成の概要を示す側面図である。また、
図8は、本変形例における加工魚の製造システム200の構成の概要を示す平面図である(なお、図面を見易くするため、一部の構成は記載されていない)。
【0043】
本変形例の加工魚の製造システム200においては、第1水含有液12と第2水含有液22とを1種類の(換言すれば、同一の供給源から供給される)水含有液(代表的には水)としたうえで、
図7及び
図8に示すように、加圧ポンプ98が該水含有液を、配管98aを経由して1つの貯蔵部91内に送り込む。その後、圧力計94aを見ながら、手動で弁(第1調整弁,以下、単に「弁」という。)92aを調整することにより第1吐出部10への第1水含有液12の送給圧力を設定するとともに、圧力計94bを見ながら、手動で弁(第2調整弁,以下、単に「弁」という。)92bを調整することにより第2吐出部20への第2水含有液22の送給圧力を設定する。その結果、第1水含有液12は、加圧ポンプ98から、配管98a、貯蔵部91、弁92a、及び配管96aを経由して、第1吐出部10から、後述する搬送手段によって搬送される魚体Fに向けて吐出される。また、第2水含有液22は、加圧ポンプ98から、配管98a、貯蔵部91、弁92b及び配管96bを経由して、第2吐出部20から、後述する搬送手段によって搬送される魚体Fに吐出される。なお、第1実施形態においても説明したとおり、魚体Fにとっては、第1水含有液12によって腹膜Mの少なくとも一部が切断又は破断された後に、第2水含有液22を受けることになる。
【0044】
また、本変形例においては、第1の実施形態の魚体Fを搬送する搬送部(ベルトコンベア)40の代わりに、2つの搬送部(ベルトコンベア)240,240’を備える搬送機構が採用される。
【0045】
具体的には、本変形例の搬送機構は、プーリ240a,240b及びベルト242a,242bを備える1つ目の搬送部240と、プーリ240a’,240b’及びベルト244a,244bを備える2つ目の搬送部240’と、ガイド部50と、搬送台Pとを備える。
【0046】
2つの搬送部240,240’は、第1の実施形態と同様に、駆動部を用いて各プーリ240a,240b,240a’,240b’の駆動を制御する駆動制御部80により、各ベルト242a,242b,244a,244bを回転させて、搬送台P上の1つ又は複数の魚体Fを搬送する。本変形例においては、より確度高く腎臓Kを除去し得る観点から、第1吐出部10から吐出される第1水含有液12による下記(1)の処理と、第2吐出部20から吐出される第2水含有液22による下記(2)の処理とが行われる時間の間隔を短くする(好適には、10秒以内にする)ために、2つの搬送部240,240’は近接して(例えば、第1吐出部10と第2吐出部20との間が1m以内)設けられている。
(1)主に腹膜Mの少なくとも一部を切断する処理
(2)主に腹膜M及び腎臓Kの除去する処理、又は腹膜Mと腎臓Kとを除去するとともに魚肉の洗浄する処理
【0047】
しかしながら、本変形例における2つの搬送部240,240’(より詳細には、第1吐出部10及び第2吐出部20)の配置場所は本変形例が示す例に限定されない。第1の実施形態の効果と同様の効果が奏される限り、搬送部240,240’が離間されて配置されることは、例えば、第1吐出部10及び/又は第2吐出部20の設置作業の容易性、あるいはメンテナンスの容易性を得る観点から、採用し得る他の一態様である。
【0048】
なお、本変形例の加工魚の製造システム200は回転刃60を備えていないが、第1の実施形態の製造システム100と同様に、製造システム200内において魚体Fが回転刃60により2つに切断されることも採用され得る。
【0049】
本変形例の加工魚の製造システム200を採用した場合であっても、腹膜M及び腎臓Kが刃物やブラシによって除去されたものではないため、第1の実施形態と同様に、外観及び衛生面に優れた加工魚を提供することが可能となる。これは、加工魚の付加価値を高めることにも貢献し得る。
【0050】
<第1の実施形態の変形例(2)>
本変形例の加工魚の製造システム300及び加工魚の製造方法においては、第1の実施形態の加工魚の製造システム100における第1吐出部10と第2吐出部20に供給される水含有液の種類が互いに異なる点、制御部90が複数の弁92a,92bを備えた手動の制御手段に変更された点、魚体Fの搬送機構及び搬送工程が変更された点、及び回転刃60が設けられていない点を除いて、第1の実施形態の加工魚の製造システム100及び加工魚の製造方法と同様である。また、第1吐出部10と第2吐出部20に供給される水含有液の種類が互いに異なる点を除いて、第1の実施形態の変形例(1)の加工魚の製造システム200及び加工魚の製造方法と同様である。したがって、第1の実施形態又は第1の実施形態の変形例(1)と重複する説明は省略され得る。
【0051】
図9は、本変形例における加工魚の製造システム300の構成の概要を示す側面図である。また、
図10は、本変形例における加工魚の製造システム300の構成の概要を示す平面図である(なお、図面を見易くするため、一部の構成は記載されていない)。
【0052】
本変形例の加工魚の製造システム300においては、第1水含有液12と第2水含有液22とを異なる水含有液としたうえで、
図9及び
図10に示すように、加圧ポンプ98aが第1水含有液(例えば、水)12を、配管398aを経由して貯蔵部91a内に送り込む。一方、加圧ポンプ98bが第2水含有液(例えば、次亜塩素酸ナトリウム水)22を、配管398bを経由して貯蔵部91b内に送り込む。
【0053】
その後、圧力計94aを見ながら、手動で弁92aを調整することにより第1吐出部10への第1水含有液12の送給圧力を設定するとともに、圧力計94bを見ながら、手動で弁92bを調整することにより第2吐出部20への第2水含有液22の送給圧力を設定する。その結果、第1水含有液12は、配管398a、貯蔵部91a、弁92a、及び配管96aを経由して、第1吐出部10から、後述する搬送手段によって搬送される魚体Fに向けて吐出される。また、第2水含有液22は、配管398b、貯蔵部91b、弁92b及び配管96bを経由して、第2吐出部20から、後述する搬送手段によって搬送される魚体Fに吐出される。
【0054】
また、本変形例の搬送機構は、プーリ240a,240b及びベルト242a,242bを備える1つ目の搬送部240と、プーリ240a’,240b’及びベルト244a,244bを備える2つ目の搬送部240’と、2つのガイド部50a,50bと、搬送台Pとを備える。
【0055】
図9及び
図10に示すように、本変形例の搬送機構は、第1の実施形態の変形例(1)の搬送機構とは異なり、1つ目の搬送部240に対応するガイド部50aと、2つ目の搬送部240’に対応するガイド部50bとが完全に分離している。
【0056】
本変形例においても、より確度高く腎臓Kを除去し得る観点、及びガイド部50a,50bによる安定した下記(1)及び(2)の処理を行う観点から、第1吐出部10から吐出される第1水含有液12による下記(1)の処理と、第2吐出部20から吐出される第2水含有液22による下記(2)の処理とが行われる時間の間隔を短くする(好適には、10秒以内にする)ために、2つの搬送部240,240’は近接して(例えば、第1吐出部10と第2吐出部20との間が1m以内)設けられている。
(1)主に腹膜Mの少なくとも一部を切断する処理
(2)主に腹膜M及び腎臓Kの除去する処理、又は腹膜Mと腎臓Kとを除去するとともに魚肉の洗浄する処理
【0057】
本変形例の加工魚の製造システム300を採用した場合であっても、腹膜M及び腎臓Kが刃物やブラシによって除去されたものではないため、第1の実施形態と同様に、外観及び衛生面に優れた加工魚を提供することが可能となる。これは、加工魚の付加価値を高めることにも貢献し得る。なお、本変形例の搬送機構は、上述のとおり、1つ目の搬送部240に対応するガイド部50aと2つ目の搬送部240’に対応するガイド部50bとが完全に分離している。そのため、該搬送機能の清掃及び/又はメンテナンスが、第1の実施形の態加工魚の製造システム100における搬送機構の清掃及び/又はメンテナンスと比較して格段に容易になる点は特筆に値する。
【0058】
<実施例>
本発明者は、第1水含有液12によって腹膜Mの少なくとも一部を切断することを可能にする圧力範囲と、第2水含有液22によって少なくとも一部が切断された腹膜Mと腎臓Kとを除去する、又は腹膜Mと腎臓Kとを除去するとともに魚体Fにおける魚肉の洗浄をする圧力範囲とを調べるための実験を行った。
【0059】
なお、本実験における第1水含有液12は直進流であり、第2水含有液22は扇状流である。また、第1吐出部10の最大の設定吐出圧力は18.5MPaであり、第2吐出部20の最大の設定吐出圧力は16MPaである。また、本実験においては、第1吐出部10及び第2吐出部20は収容部30に固定されている。加えて、第1吐出部10の先端と魚体Fとの距離は略無い状態(例えば、10mm以下)とした。同様に、第2吐出部20の先端と魚体Fとの距離は略無い状態とした。
【0060】
本発明者は、まず、第1吐出部10及び第2吐出部20に対する制御部90の設定吐出圧力(以下、「第1圧力」という。)ではなく、実際に魚体Fが第1水含有液12又は第2水含有液22を受ける圧力(以下、「第2圧力」という。)に着目した。そこで、第1圧力と第2圧力との相関関係を調査する予備実験を行った。
【0061】
具体的には、公知の秤と第1吐出部10の先端との距離を略無くした状態で、該秤に対して第1吐出部10から吐出される第1水含有液12の設定吐出圧力を変化させたときの、実際に魚体Fが受ける圧力の変化を調査した。また、同様に、第2吐出部20から吐出される第2水含有液22の設定吐出圧力を変化させたときの、実際に魚体Fが受ける圧力の変化を調査した。その結果、いずれも、設定吐出圧力に対して実際に魚体Fが受ける圧力が正比例する相関関係が確認された。
【0062】
上述の予備実験の結果を踏まえ、実際に魚体Fに対して、水産加工業者が通常の加工魚の製造過程において用いられる搬送速度(約100mm/秒~約600mm/秒)を採用したうえで、第1水含有液12を吐出することによって腹膜Mを完全に又は略完全に切断することを可能にする、圧力の下限値(測定値A)と圧力の上限値(測定値B)とを調査した。
【0063】
同様に、第2水含有液22を吐出することによって少なくとも一部が切断された腹膜Mと腎臓Kとを完全に又は略完全に除去する、又は腹膜Mと腎臓Kとを完全に又は略完全に除去するとともに魚体Fにおける魚肉の洗浄をすることを可能にする、圧力の下限値(測定値A)と圧力の上限値(測定値B)とを調査した。なお、上記の各測定値Bは、魚体F(特に、可食部の中心となる魚肉)を、所謂商品価値を低下させてしまう程度まで破壊又は破損する圧力とした。
【0064】
[実施例1]
本実施例の魚体Fは、鮭(より詳細には、紅鮭)である。
【0065】
一例として、本実施例の第1吐出部10から吐出される第1水含有液12の、上述の圧力の下限値(測定値A)に対応する第1圧力(設定吐出圧力)は2.5MPaであり、第2圧力(実際に魚体Fが受ける圧力)は1.26MPaであった。また、本実施例の第2吐出部20から吐出される第2水含有液22の、上述の測定値Aに対応する第1圧力は5MPaであり、第2圧力は0.0274MPaであった。
【0066】
また、一例として、本実施例の第1吐出部10から吐出される第1水含有液12の、上述の圧力の上限値(測定値B)に対応する第1圧力は12.5MPaであり、第2圧力は3.81MPaであった。また、本実施例の第2吐出部20から吐出される第2水含有液22の、上述の測定値Bに対応する第1圧力は10MPaであり、第2圧力は0.0499MPaであった。
【0067】
[実施例2]
本実施例の魚体Fは、ハマチ(我が国の地域によっては、ブリと呼ばれる場合がある)である。
【0068】
一例として、本実施例の第1吐出部10から吐出される第1水含有液12の、上述の圧力の下限値(測定値A)に対応する第1圧力(設定吐出圧力)は5MPaであり、第2圧力(実際に魚体Fが受ける圧力)は1.91MPaであった。また、本実施例の第2吐出部20から吐出される第2水含有液22の、上述の測定値Aに対応する第1圧力は4MPaであり、第2圧力は0.0236MPaであった。
【0069】
また、一例として、本実施例の第1吐出部10から吐出される第1水含有液12の、上述の圧力の上限値(測定値B)に対応する第1圧力は16.5MPaであり、第2圧力は4.83MPaであった。また、本実施例の第2吐出部20から吐出される第2水含有液22の、上述の測定値Bに対応する第1圧力は10MPaであり、第2圧力は0.0499MPaであった。
【0070】
表1は、上述の実施例1及び実施例2の一例としての結果を示している。
【0071】
【0072】
表1に示すように、実施例1及び実施例2の各測定値A及び各測定値Bから、第1吐出部10から吐出される第1水含有液12が魚体Fの腹膜Mの少なくとも一部を切断し得るために、好適な圧力範囲が存在することを本発明者は知得した。また、第2吐出部20から吐出される第2水含有液22が魚体Fの腹膜Mと腎臓Kとを除去する、又は腹膜Mと腎臓Kとを除去するとともに魚体Fにおける魚肉の洗浄をすることを実現するために、好適な圧力範囲が存在することを本発明者は知得した。
【0073】
上述のとおり、第1の実施形態においては、第1吐出部10から吐出される第1水含有液12の吐出形状と圧力範囲とを所定の形状及び好適な範囲に設定するとともに、第2吐出部20から吐出される第2水含有液22の吐出形状と圧力範囲とを所定の形状及び好適な範囲に設定することにより、例えば、
図6に示すように、腹膜Mに対して背側に腎臓Kを有する魚体Fを加工処理の対象としたときに、該腹膜の一部切断又は一部除去が実現された加工魚を確度高く製造し得る。加えて、第1の実施形態においては、該腎臓が除去された場合であっても魚肉への刃物やブラシによる損傷がない加工魚が提供され得る。
【0074】
また、第1の実施形態においては、刃物やブラシを用いることなく、加圧されて吐出した水含有液のみによって腹膜M及び腎臓Kの確度高い切断と除去とを非常に簡便に実現し得ることは特筆に値する。
【0075】
<その他の実施形態>
ところで、第1の実施形態においては第1吐出部10が固定されているが、仮に第1吐出部10が首振り運動等を行っていた場合であっても、本実施例の効果の少なくとも一部の効果が奏され得る。例えば、駆動制御部80が、第1吐出部10に接近する方向への相対速度が100mm/秒以上600mm/秒以下(より好適には、350mm/秒以上550mm/秒以下)となるように、搬送部40による搬送速度を制御している場合は、より確度高く、腹膜Mの少なくとも一部を切断することが可能となる。
【0076】
上述の数値範囲よりも搬送速度(又は、相対速度)が遅い場合は、特に第1吐出部10から吐出される第1水含有液12が魚体Fに接する時間が長くなるため、腹膜Mのみならず、可食部の中心となる魚肉を、所謂商品価値を低下させてしまう程度まで破壊又は破損する、あるいは加工魚としての品質を損なう危険性が高まる。一方、上述の数値範囲よりも搬送速度(又は、相対速度)が速い場合は、第1吐出部10から吐出される第1水含有液12が魚体Fに接する時間が短くなるため、腹膜Mを確度高く切断することができなくなる危険性が高まるとともに、第2吐出部20から吐出される第2水含有液22が魚体Fに接する時間が短くなるため、第1水含有液12によって切断された腹膜Mと腎臓Kとを確度高く除去する、又は腹膜Mと腎臓Kとを確度高く除去するとともに魚体Fにおける魚肉の洗浄をすることができなくなる危険性が高まる。
【0077】
同様に、仮に第2吐出部20が首振り運動等を行っていた場合であっても、本実施例の効果の少なくとも一部の効果が奏され得る。例えば、駆動制御部80が、第2吐出部20に接近する方向への相対速度が100mm/秒以上600mm/秒以下(より好適には、350mm/秒以上550mm/秒以下)となるように、搬送部40による搬送速度を制御している場合は、より確度高く、腹膜Mの少なくとも一部を切断することが可能となる。
【0078】
また、第1の実施形態における表1に示された第1吐出部10に関する各数値は、第1水含有液12を吐出することによって腹膜Mを完全に又は略完全に切断することを可能にする値を示している。なお、本発明者の研究と分析によれば、第1水含有液12を吐出することによって腹膜Mの少なくとも一部を切断することを可能にするためには、第1水含有液12が腹膜Mに到達したときの腹膜Mが受ける圧力を1.1MPa以上5MPa以下とすることが見出された。見方を変えると、第1水含有液12を吐出することによって腹膜Mの少なくとも一部を切断することを可能にするための第1吐出部10の設定吐出圧力(第1圧力)の範囲は、1.8MPa以上18MPa以下である。
【0079】
同様に、表1に示された第2吐出部20に関する各数値は、第2水含有液22を吐出することによって、第1水含有液12によって切断された腹膜Mと腎臓Kとを完全に又は略完全に除去する、又は腹膜Mと腎臓Kとを完全に又は略完全に除去するとともに魚体Fにおける魚肉の洗浄をすることを可能にする値を示している。なお、本発明者の研究と分析によれば、第2水含有液22を吐出することによって腹膜Mと腎臓Kとを商業上採用され得る程度に除去する、又は腹膜Mと腎臓Kとを商業上採用され得る程度に除去するとともに魚体Fにおける魚肉の洗浄をすることを可能にするためには、第2水含有液22が腎臓Kに到達したときの腎臓Kが受ける圧力を0.02MPa以上0.06MPa以下とすることが見出された。見方を変えると、第1水含有液12を吐出することによって腹膜Mの少なくとも一部を切断することを可能にするための第2吐出部20の設定吐出圧力(第1圧力)の範囲は、3MPa以上13MPa以下である。
【0080】
また、第1の実施形態においては、第1水含有液12及び第2水含有液22の温度は、約10℃であるが、第1の実施形態における第1水含有液12及び第2水含有液22の魚体Fへの接触によって本実施形態の少なくとも一部の効果が奏される温度範囲であれば、該温度は適宜選定され得る。代表的な該温度の範囲は、-114℃超60℃以下(より好適には、4℃以上20℃以下)である。
【0081】
また、第1の実施形態における第1吐出部10の先端と魚体Fとの距離、及び第2吐出部20の先端と魚体Fとの距離は、略無い状態であったが、該距離は、第1の実施形態における第1水含有液12及び第2水含有液22の魚体Fへの接触によって本実施形態の少なくとも一部の効果が奏される距離であれば、該距離は適宜選定され得る。代表的な該距離の範囲は、0mm超70mm以下(より好適には、0mm超30mm以下)である。
【0082】
また、
図1乃至
図3においては示されていないが、本実施形態の変形例において、第1吐出部10及び/又は第2吐出部20からの各水含有液の吐出方向を傾斜させることができる。例えば、鉛直下向きを0°としたときに、魚体Fの進行方向と直交方法(つまり、0°)のみならず、該進行方向に対して逆方向に向けて0°超90°未満に傾斜した方向に吐出する第1吐出部10及び/又は第2吐出部20、あるいは、鉛直下向きを0°としたときに、魚体Fの該進行方向に向けて0°超90°未満に傾斜した方向に吐出する第1吐出部10及び/又は第2吐出部20も、採用し得る他の一態様である。なお、第1吐出部20からの吐出方向が傾斜しているときには、該吐出口と魚体Fとの距離が長くなるため、第1の実施形態に効果が奏され得る第2圧力の数値範囲内に吐出方向の角度を調整することが求められる。
【0083】
また、上述の第1の実施形態の変形例(1)及び(2)においては、複数の弁92a,92bを備えた手動の制御手段を説明しているが、複数の弁92a,92bが手動制御の代わりに制御部90によって、例えばサーボモーターを用いて自動制御されることも採用し得る他の一態様である。
【0084】
以上述べたとおり、上述の実施形態、各変形例及び各実施例の開示は、それらの実施形態、変形例及び実施例の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、実施形態及び各変形例に基づく他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する他の変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の1つの加工魚の製造システム及び加工魚の製造方法、並びに加工魚は、食品業、飲食業及び水産業に限らず、該加工魚を扱う各種の産業(航空産業及び鉄道産業など)においても極めて有用である。
【符号の説明】
【0086】
F 魚体
K 腎臓(メフン)
M 腹膜
10 第1吐出部
12 第1水含有液
20 第2吐出部
22 第2水含有液
30 収容部
40,240,240’ 搬送部
40a,40b,240a,240b,240a’,240b’ プーリ
42a,42b,242a,242b,244a,244b ベルト
50,350 ガイド部
52 縁部
60 回転刃
80 駆動制御部
90 制御部
91,91a,91b 貯蔵部
92a,92b 弁
94a,94b 圧力計
96a,96b,98,398a,398b 配管
98,98a,98b 加圧ポンプ
100,200,300 加工魚の製造システム
【要約】
【課題】腎臓が該腹膜よりも背側に存在する魚種に対して、加圧されて吐出した液体のみによって該腹膜及び該腎臓の切断又は除去を簡便に実現し得る加工魚の製造システム、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の1つの加工魚の製造システム100は、腹膜に対して背側に腎臓を有し、該腹膜から腹側の内臓が露出するまで腹部が切断された後、該内臓が除去された魚体Fに対して、該腹膜に向けて該腹側から吐出されるとともに、該腹膜に到達したときの該腹膜が受ける圧力が所定の圧力範囲内である、生理学的に許容可能な直進流の第1水含有液を吐出する第1吐出部10と、該第1水含有液によって該腹膜の少なくとも一部が切断又は破断された後に、該腎臓に向けて前述の腹側から吐出されるとともに、該腎臓に到達したときの該腎臓が受ける圧力が所定の圧力範囲内である、生理学的に許容可能な第2水含有液を吐出する第2吐出部20と、を備える。
【選択図】
図1