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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】クラッチ制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/06 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
F16D28/00 A
F16D48/06 102
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024510067
(86)(22)【出願日】2023-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2023010112
(87)【国際公開番号】W WO2023182104
(87)【国際公開日】2023-09-28
【審査請求日】2024-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2022045432
(32)【優先日】2022-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】小野 惇也
(72)【発明者】
【氏名】竜▲崎▼ 達也
(72)【発明者】
【氏名】都築 遼平
(72)【発明者】
【氏名】海部 佑磨
(72)【発明者】
【氏名】加納 準一郎
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/087512(WO,A1)
【文献】特開2012-202472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 28/00
F16D 48/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機(13)と出力対象(21)との間の動力伝達を断接するクラッチ装置(26)と、
前記クラッチ装置(26)を作動させるための駆動力を出力するクラッチアクチュエータ(50)と、
前記クラッチアクチュエータ(50)の駆動力を受けて前記クラッチ装置(26)を作動させるレリーズ機構(38)と、
前記クラッチアクチュエータ(50)を駆動制御する制御部(40)と、
前記クラッチアクチュエータ(50)の出力値を検出する第一検出部(40b)と、
前記レリーズ機構(38)の作動量を検出する第二検出部(57d,58d)と、を備え、
前記制御部(40)は、前記第一検出部(40b)の検出情報と前記第二検出部(57d,58d)の検出情報とを択一的に用いて、前記クラッチアクチュエータ(50)の作動を制御することを特徴とするクラッチ制御装置。
【請求項2】
前記制御部(40)は、前記クラッチアクチュエータ(50)の駆動による前記クラッチ装置(26)の自動制御中に、クラッチ操作子によるマニュアル操作の介入を可能とし、前記マニュアル操作の介入があった場合は、予め定めたマニュアル操作介入制御に移行するものであり、
前記制御部(40)は、前記第一検出部(40b)の検出情報と前記第二検出部(57d,58d)の検出情報とを参照し、前記マニュアル操作の介入を検出し、かつ、前記マニュアル操作介入制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のクラッチ制御装置。
【請求項3】
前記制御部(40)は、前記第一検出部(40b)の検出情報を用いた制御と前記第二検出部(57d,58d)の検出情報を用いた制御とを、前記クラッチ装置(26)における動力伝達不能な切断状態から動力伝達を開始するクラッチ接続ポイント(TP)で切り替えることを特徴とする請求項1に記載のクラッチ制御装置。
【請求項4】
前記制御部(40)は、電源がオン又はオフされたときに、前記クラッチ接続ポイント(TP)を確認して更新することを特徴とする請求項3に記載のクラッチ制御装置。
【請求項5】
前記クラッチ接続ポイント(TP)が予め定めた閾値を超えたことを、当該クラッチ制御装置の使用者に通知する通知手段(40c)を備え、
前記制御部(40)は、前記クラッチ接続ポイント(TP)が予め定めた閾値を超えた場合に、前記通知手段(40c)を作動させることを特徴とする請求項3又は4に記載のクラッチ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ制御装置に関する。
本願は、2022年3月22日に、日本に出願された特願2022-045432号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年の鞍乗り型車両において、クラッチ装置の断接操作を電気制御により自動で行うようにした自動クラッチシステムが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特許第5004915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術では、油圧アクチュエータからスレーブシリンダに油圧を供給してクラッチ装置を切断する構成である。
しかし、クラッチ容量を油圧で制御するシステムでは、クラッチ容量を荷重でコントロールできる一方で、従動部材の作動位置を荷重のみで推定しなければならない。このため、例えばクラッチ装置のタッチポイント(接続し始める作動位置)付近の制御が難しいという課題がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、クラッチ装置の断接を制御するクラッチ制御装置において、クラッチ装置の状況に応じて最適な制御を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決手段として、本発明の態様は以下の構成を有する。
(1)本発明の態様に係るクラッチ制御装置は、原動機(13)と出力対象(21)との間の動力伝達を断接するクラッチ装置(26)と、前記クラッチ装置(26)を作動させるための駆動力を出力するクラッチアクチュエータ(50)と、前記クラッチアクチュエータ(50)の駆動力を受けて前記クラッチ装置(26)を作動させるレリーズ機構(38)と、前記クラッチアクチュエータ(50)を駆動制御する制御部(40)と、前記クラッチアクチュエータ(50)の出力値を検出する第一検出部(40b)と、前記レリーズ機構(38)の作動量を検出する第二検出部(57d,58d)と、を備え、前記制御部(40)は、前記第一検出部(40b)の検出情報と前記第二検出部(57d,58d)の検出情報とを択一的に用いて、前記クラッチアクチュエータ(50)の作動を制御する。
本発明の上記(1)に記載のクラッチ制御装置によれば、クラッチ装置の作動状態に応じて、クラッチ装置の制御に用いるパラメータを、クラッチアクチュエータの出力値とレリーズ機構の作動量との何れかに切り替えることが可能である。例えば、半クラッチ領域等、レリーズ機構の作動量に対してクラッチアクチュエータの出力値の変化が大きい領域では、クラッチアクチュエータの出力値を用いてクラッチアクチュエータの作動を制御する。また、クラッチ切断領域等、レリーズ機構の作動量に対してクラッチアクチュエータの出力値の変化が小さい領域では、レリーズ機構の作動量を用いてクラッチアクチュエータの作動を制御する。このように、クラッチ装置の作動状態に応じて、出力値センサと作動量センサとを使い分けることで、クラッチアクチュエータを適切に制御することができる。
【0007】
(2)上記(1)に記載のクラッチ制御装置では、前記制御部(40)は、前記クラッチアクチュエータ(50)の駆動による前記クラッチ装置(26)の自動制御中に、クラッチ操作子によるマニュアル操作の介入を可能とし、前記マニュアル操作の介入があった場合は、予め定めたマニュアル操作介入制御に移行するものであり、前記制御部(40)は、前記第一検出部(40b)の検出情報と前記第二検出部(57d,58d)の検出情報とを参照し、前記マニュアル操作の介入を検出し、かつ、前記マニュアル操作介入制御を行ってもよい。
本発明の上記(2)に記載のクラッチ制御装置によれば、クラッチ装置の作動状態に応じて、マニュアル操作の介入を検出するパラメータであり、かつ、マニュアル操作介入制御に用いるパラメータを、クラッチアクチュエータの出力値とレリーズ機構の作動量との何れかに切り替えることが可能である。例えば、半クラッチ領域等、レリーズ機構の作動量に対してクラッチアクチュエータの出力値の変化が大きい領域では、クラッチアクチュエータの出力値及びレリーズ機構の位置を用いて、マニュアル操作の介入を検出およびマニュアル操作介入制御を行う。また、クラッチ切断領域等、レリーズ機構の作動量に対してクラッチアクチュエータの出力値の変化が小さい領域では、レリーズ機構の角度(位置)に対するモータ負荷の変化を用いて、マニュアル操作の介入を検出するとともにマニュアル操作介入制御を行う。これにより、クラッチ装置の状態に応じて適切にマニュアル操作の介入を可能とすることができる。
【0008】
(3)上記(1)に記載のクラッチ制御装置では、前記制御部(40)は、前記第一検出部(40b)の検出情報を用いた制御と前記第二検出部(57d,58d)の検出情報を用いた制御とを、前記クラッチ装置(26)における動力伝達不能な切断状態から動力伝達を開始するクラッチ接続ポイント(TP)で切り替えてもよい。
本発明の上記(3)に記載のクラッチ制御装置によれば、半クラッチ領域等、レリーズ機構の作動量に対してクラッチアクチュエータの出力値の変化が大きい領域では、クラッチアクチュエータの出力値を用いてクラッチアクチュエータの作動を制御する。また、クラッチ切断領域等、レリーズ機構の作動量に対してクラッチアクチュエータの出力値の変化が小さい領域では、レリーズ機構の作動量を用いてクラッチアクチュエータの作動を制御する。これにより、クラッチ装置の状態に応じて適切にクラッチアクチュエータを制御することができる。
【0009】
(4)上記(3)に記載のクラッチ制御装置では、前記制御部(40)は、電源がオン又はオフされたときに、前記クラッチ接続ポイント(TP)を確認して更新してもよい。
本発明の上記(4)に記載のクラッチ制御装置によれば、クラッチ接続ポイントが随時確認されて更新されるので、エンジン温度やクラッチ摩耗等の影響がある場合にも、クラッチ接続ポイントが適宜補正される。これにより、クラッチ装置の状態に応じて適切にクラッチアクチュエータを制御することができる。
【0010】
(5)上記(3)又は(4)に記載のクラッチ制御装置は、前記クラッチ接続ポイント(TP)が予め定めた閾値を超えたことを、当該クラッチ制御装置の使用者に通知する通知手段(40c)を備え、前記制御部(40)は、前記クラッチ接続ポイント(TP)が予め定めた閾値を超えた場合に、前記通知手段(40c)を作動させてもよい。
本発明の上記(5)に記載のクラッチ制御装置によれば、クラッチ摩耗が増加したり装置の異常が生じたりした場合に、速やかに使用者に通知することが可能となり、クラッチ装置の適切な制御を維持しやすくすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の態様によれば、クラッチ装置の断接を制御するクラッチ制御装置において、クラッチ装置の状況に応じて最適な制御を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の自動二輪車の右側面図である。
図2】上記自動二輪車の変速機およびチェンジ機構の断面図である。
図3】上記自動二輪車の変速システムのブロック図である。
図4】上記自動二輪車のクラッチ制御モードの遷移を示す説明図である。
図5図1のV矢視図であり、クラッチアクチュエータの軸方向視を示す。
図6】上記クラッチアクチュエータの軸方向に沿う展開断面図である。
図7】クラッチ装置を作動させるレリーズシャフトの斜視図である。
図8図7のVIII-VIII断面図である。
図9】上記レリーズシャフトの半クラッチ領域での作用を示す図8に相当する断面図であり、(a)はクラッチアクチュエータでの駆動時、(b)はマニュアル介入時をそれぞれ示す。
図10】上記レリーズシャフトの待機位置での作用を示す図8に相当する断面図であり、(a)はクラッチアクチュエータでの駆動時、(b)はマニュアル介入時をそれぞれ示す。
図11】上記クラッチアクチュエータを右カバーに取り付けた状態の図6に相当する断面図である。
図12】クラッチ制御の特性を示すグラフであり、縦軸はクラッチアクチュエータの出力値、横軸をレリーズ機構の作動量をそれぞれ示す。
図13図12に相当するグラフであり、実施形態の第一の作用を示す。
図14図12に相当するグラフであり、実施形態の第二の作用を示す。
図15】上記自動二輪車の要部を示す右側面図である。
図16】上記自動二輪車の要部を示す上面図である。
図17】上記自動二輪車の要部を示す分解斜視図である。
図18】実施形態の変形例のクラッチアクチュエータの要部を示す斜視図である。
図19】上記変形例のクラッチアクチュエータの車両搭載状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ以下に説明する車両における向きと同一とする。また以下の説明に用いる図中適所には、車両前方を示す矢印FR、車両左方を示す矢印LH、車両上方を示す矢印UP、が示されている。
【0014】
<車両全体>
図1に示すように、本実施形態は、鞍乗り型車両の一例としての自動二輪車1に適用されている。自動二輪車1の前輪2は、左右一対のフロントフォーク3の下端部に支持されている。左右フロントフォーク3の上部は、ステアリングステム4を介して、車体フレーム5の前端部のヘッドパイプ6に支持されている。ステアリングステム4のトップブリッジ上には、バータイプの操向ハンドル4aが取り付けられている。
【0015】
車体フレーム5は、ヘッドパイプ6と、ヘッドパイプ6から車幅方向(左右方向)中央を下後方へ延びるメインフレーム7と、メインフレーム7の後端部の下方に設けられるピボットフレーム8と、メインフレーム7およびピボットフレーム8の後方に連なるシートフレーム9と、を備えている。ピボットフレーム8には、スイングアーム11の前端部が揺動可能に枢支されている。スイングアーム11の後端部には、自動二輪車1の後輪12が支持されている。
【0016】
左右メインフレーム7の上方には、燃料タンク18が支持されている。燃料タンク18の後方でシートフレーム9の上方には、前シート19および後シート19aが支持されている。燃料タンク18の後部の左右両側には、車幅方向内側に凹んだニーグリップ部18aが形成されている。左右ニーグリップ部18aは、前シート19に着座した運転者の左右の膝周辺の内側に整合するように形成されている。前シート19の下方の左右両側には、運転者が足首から先の足部を載せるステップ18bが支持されている。
【0017】
メインフレーム7の下方には、自動二輪車1の原動機を含むパワーユニットPUが懸架されている。パワーユニットPUは、その前側に位置するエンジン(内燃機関、原動機)13と、後側に位置する変速機21と、を一体に有している。エンジン13は、例えばクランクシャフト14の回転軸を左右方向(車幅方向)に沿わせた複数気筒エンジンである。
【0018】
エンジン13は、クランクケース15の前部上方にシリンダ16を起立させている。クランクケース15の後部は、変速機21を収容する変速機ケース17とされている。クランクケース15の右側部には、変速機ケース17の右側部に渡る右カバー17aが取り付けられている。右カバー17aは、クラッチ装置26を覆うクラッチカバーでもある。パワーユニットPUは、後輪12と例えばチェーン式伝動機構(不図示)を介して連係されている。
【0019】
<変速機>
図2を併せて参照し、変速機21は、メインシャフト22およびカウンタシャフト23ならびに両シャフト22,23に跨る変速ギヤ群24を有する有段式のトランスミッションである。カウンタシャフト23は変速機21ひいてはパワーユニットPUの出力軸を構成している。カウンタシャフト23の左端部は、変速機ケース17の後部左側に突出し、上記チェーン式伝動機構を介して後輪12に連結されている。
【0020】
変速機21のメインシャフト22及びカウンタシャフト23は、クランクシャフト14の後方に配置されている。メインシャフト22の右端部には、クラッチ装置26が同軸配置されている。クラッチ装置26は、エンジン13のクランクシャフト14と変速機21のメインシャフト22との間の動力伝達を断接させる。クラッチ装置26は、乗員によるクラッチ操作子(例えば不図示のクラッチレバー)の操作、および後に詳述するクラッチアクチュエータ50の作動、の少なくとも一方により断接作動する。
【0021】
クラッチ装置26は、例えば湿式多板クラッチであり、いわゆるノーマルクローズクラッチである。クランクシャフト14の回転動力は、クラッチ装置26を介してメインシャフト22に伝達され、メインシャフト22から変速ギヤ群24の任意のギヤ対を介してカウンタシャフト23に伝達される。カウンタシャフト23におけるクランクケース15の後部左側に突出した左端部には、上記チェーン式伝動機構のドライブスプロケット27が取り付けられている。
【0022】
変速機ケース17内で変速機21の近傍には、変速ギヤ群24のギヤ対を切り替えるチェンジ機構25が収容されている。チェンジ機構25は、両シャフト22,23と平行な中空円筒状のシフトドラム32の回転により、その外周に形成されたリード溝のパターンに応じて複数のシフトフォーク32aを作動させ、変速ギヤ群24における両シャフト22,23間の動力伝達に用いるギヤ対を切り替える。
【0023】
ここで、自動二輪車1は、変速機21の変速操作(シフトペダル(不図示)の足操作)のみを運転者が行い、クラッチ装置26の断接操作は上記シフトペダルの操作に応じて電気制御により自動で行うようにした、いわゆるセミオートマチックの変速システム(自動クラッチ式変速システム)を採用している。
【0024】
<変速システム>
図3に示すように、上記変速システム30は、クラッチアクチュエータ50、ECU40(Electronic Control Unit、制御部)、各種センサ41~46,57d,58d、各種装置47,48,50を備えている。
ECU40は、車体の挙動を検知する加速度センサ41、シフトドラム32の回転角から変速段を検知するギヤポジションセンサ42、およびチェンジ機構25のシフトスピンドル31(図2参照)に入力された操作トルクを検知するシフト荷重センサ43(例えばトルクセンサ)からの検知情報、ならびにスロットル開度を検知するスロットル開度センサ44、車速を検知する車速センサ45およびエンジン回転数を検知するエンジン回転数センサ46等からの各種の車両状態検知情報等に基づいて、点火装置47および燃料噴射装置48を作動制御するとともに、クラッチアクチュエータ50を作動制御する。
【0025】
図5図6を併せて参照し、クラッチアクチュエータ50は、クラッチ装置26を断接するために、レリーズシャフト53に付与する作動トルクを制御する。クラッチアクチュエータ50は、駆動源としての電気モータ52(以下、単にモータ52という。)と、モータ52の駆動力をレリーズシャフト53に伝達する減速機構51と、を備えている。減速機構51は、第一リダクション軸57および第二リダクション軸58を備え、これら各軸57,58には、回転角度を検出する第一回転角度センサ57dおよび第二回転角度センサ58dが設けられている。
【0026】
ECU40は、予め設定された演算プログラムに基づいて、クラッチ装置26を断接するためにモータ52に供給する電流値を演算する。モータ52への供給電流は、モータ52に出力させるトルクとの相関から求められる。モータ52の目標トルクは、レリーズシャフト53に付与する作動トルク(後述するレリーズシャフトトルク)に比例する。モータ52に供給する電流値は、ECU40に含む電流センサ40bで検出される。この検出値の変化に応じて、クラッチアクチュエータ50が作動制御される。クラッチアクチュエータ50については後に詳述する。
【0027】
<クラッチ装置>
図2図11に示すように、実施形態のクラッチ装置26は、複数のクラッチ板35を軸方向で積層した多板クラッチであり、右カバー17a内の油室に配置された湿式クラッチである。クラッチ装置26は、クランクシャフト14から回転動力が常時伝達されて駆動するクラッチアウタ33と、クラッチアウタ33内に配置されてメインシャフト22に一体回転可能に支持されるクラッチセンタ34と、クラッチアウタ33及びクラッチセンタ34の間に積層されてこれらを摩擦係合させる複数のクラッチ板35と、を備えている。
【0028】
積層されたクラッチ板35の右方(車幅方向外側)には、クラッチ板35と略同径のプレッシャープレート36が配置されている。プレッシャープレート36は、クラッチスプリング37の弾発荷重を受けて左方に付勢され、積層されたクラッチ板35同士を圧接(摩擦係合)させる。これにより、クラッチ装置26は、動力伝達可能な接続状態となる。クラッチ装置26は、外部からの入力のない通常時には接続状態となるノーマルクローズクラッチである。
【0029】
上記圧接(摩擦係合)の解除は、右カバー17a内側のレリーズ機構38の作動によりなされる。レリーズ機構38の作動は、乗員によるクラッチレバー(不図示)の操作、およびクラッチアクチュエータ50によるトルクの付与、の少なくとも一方によりなされる。
【0030】
<レリーズ機構>
図2図11に示すように、レリーズ機構38は、メインシャフト22の右側部内に軸方向で往復動可能に保持されたリフターシャフト39と、リフターシャフト39と軸方向を直交させて配置され、右カバー17aの外側部に軸心回りに回動可能に保持されたレリーズシャフト53と、を備えている。図中線C3は上下方向に延びるレリーズシャフト53の中心軸線を示す。レリーズシャフト53は、メインシャフト22の軸方向視(車両側面視)で、垂直方向に対して上側ほど後側に位置するように軸方向を後傾させている(図1参照)。レリーズシャフト53の上部は、右カバー17aの外側に突出し、このレリーズシャフト53の上部に、従動クラッチレバー54が一体回転可能に取り付けられている。従動クラッチレバー54は、上記クラッチレバーと操作ケーブル(不図示)を介して連結されている。
【0031】
レリーズシャフト53における右カバー17aの内側に位置する下部には、偏心カム部38aが備えられている。偏心カム部38aは、リフターシャフト39の右端部に係合している。レリーズシャフト53は、軸心回りに回動することで、偏心カム部38aの作用によりリフターシャフト39を右方に移動させる。リフターシャフト39は、クラッチ装置26のプレッシャープレート36と一体的に往復動可能に構成されている。したがって、リフターシャフト39が右方へ移動すると、プレッシャープレート36がクラッチスプリング37の付勢力に抗して右方に移動(リフト)し、積層されたクラッチ板35同士の摩擦係合を解除させる。これにより、ノーマルクローズのクラッチ装置26が、動力伝達不能な切断状態となる。
【0032】
なお、レリーズ機構38は、偏心カム機構に限らず、ラック&ピニオンや送りネジ等を備えるものでもよい。上記クラッチレバーと従動クラッチレバー54とを連結する機構は、操作ケーブルに限らず、ロッドやリンク等を備えるものでもよい。
【0033】
<クラッチ制御モード>
図4に示すように、本実施形態のクラッチ制御装置40Aは、三種のクラッチ制御モードを有している。クラッチ制御モードは、自動制御を行うオートモードM1、手動操作を行うマニュアルモードM2、および一時的な手動操作を行うマニュアル介入モードM3、の三種のモード間で、クラッチ制御モード切替スイッチ49(図3参照)およびクラッチ操作子の操作に応じて適宜遷移する。なお、マニュアルモードM2およびマニュアル介入モードM3を含む対象をマニュアル系M2Aという。
【0034】
オートモードM1は、自動発進・変速制御により走行状態に適したクラッチ容量を演算してクラッチ装置26を制御するモードである。マニュアルモードM2は、乗員によるクラッチ操作指示に応じてクラッチ容量を演算してクラッチ装置26を制御するモードである。マニュアル介入モードM3は、オートモードM1中に乗員からのクラッチ操作指示を受け付け、クラッチ操作指示からクラッチ容量を演算してクラッチ装置26を制御する一時的なマニュアル操作モードである。なお、マニュアル介入モードM3中に、例えば乗員がクラッチ操作子の操作をやめた状態(完全にリリースした状態)が規定時間続くと、オートモードM1に戻るよう設定されてもよい。
【0035】
例えば、クラッチ制御装置40Aは、システム起動時には、オートモードM1でクラッチオンの状態(接続状態)から制御を始める。また、クラッチ制御装置40Aは、エンジン13停止時(システムオフ時)には、オートモードM1でクラッチオンに戻るように設定されている。ノーマルクローズのクラッチ装置26において、クラッチオン時には、クラッチアクチュエータ50のモータ52への電力供給が無くて済む。一方、クラッチ装置26のクラッチオフ状態(切断状態)には、モータ52への電力供給を保持する。
【0036】
オートモードM1は、クラッチ制御を自動で行うことが基本であり、レバー操作レスで自動二輪車1を走行可能とする。オートモードM1では、スロットル開度、エンジン回転数、車速およびシフトセンサ出力等に基づき、クラッチ容量をコントロールしている。これにより、自動二輪車1をスロットル操作のみでエンスト(エンジンストップまたはエンジンストール(engine stall)の意)することなく発進可能であり、かつシフト操作のみで変速可能である。また、オートモードM1では、乗員が上記クラッチレバーを握ることで、マニュアル介入モードM3に切り替わり、クラッチ装置26を任意に切ることが可能である。
【0037】
一方、マニュアルモードM2では、乗員によるレバー操作により、クラッチ容量をコントロール可能とする(すなわちクラッチ装置26を断接可能とする)。オートモードM1とマニュアルモードM2とは、例えば自動二輪車1の停車中かつ変速機21のニュートラル中に、クラッチ制御モード切替スイッチ49(図3参照)を操作することで、相互に切り替え可能である。なお、クラッチ制御装置40Aは、マニュアル系M2A(マニュアルモードM2又はマニュアル介入モードM3)への遷移時にマニュアル状態であることを示すインジケータを備えてもよい。
【0038】
マニュアルモードM2は、クラッチ制御を手動で行うことが基本であり、上記クラッチレバーの作動角(ひいてはレリーズシャフト53の作動角)に応じてクラッチ容量を制御可能である。これにより、乗員の意思のままにクラッチ装置26の断接をコントロール可能である。なお、マニュアルモードM2であっても、クラッチ操作なしにシフト操作がされたときは、クラッチ制御が自動で介入可能である。以下、レリーズシャフト53の作動角をレリーズシャフト作動角という。
【0039】
オートモードM1では、クラッチアクチュエータ50により自動でクラッチ装置26の断接が行われるが、上記クラッチレバーに対するマニュアルクラッチ操作が行われることで、クラッチ装置26の自動制御に一時的に手動操作を介入させることが可能である(マニュアル介入モードM3)。
【0040】
また、例えば操向ハンドル4aに取り付けられたハンドルスイッチには、上記クラッチ制御モード切替スイッチ49が設けられている。これにより、通常の運転時に乗員が容易にクラッチ制御モードを切り替えることが可能である。
【0041】
<クラッチアクチュエータ>
図1に示すように、クランクケース15右側の右カバー17aの後上部には、クラッチアクチュエータ50が取り付けられている。
図5図6を併せて参照し、クラッチアクチュエータ50は、モータ52と、モータ52の駆動力をレリーズシャフト53に伝達する減速機構51と、を備えている。
モータ52は、例えばDCモータであり、例えばレリーズシャフト53と軸方向を平行にして配置されている。モータ52は、駆動軸55を上方に突出させるように配置されている。
【0042】
実施形態では、単一のクラッチアクチュエータ50に対し、複数(二つ)のモータ52を備えている。以下、クラッチアクチュエータ50の車両前方側に位置するモータ52を第一モータ521、第一モータ521に対して車両後方側かつ車幅方向内側に位置するモータ52を第二モータ522、と称する。図中線C01,C02はそれぞれ各モータ521,522の中心軸線(駆動軸線)を示す。説明都合上、両モータ521,522をモータ52と総称することがある。また、両軸線C01,C02を軸線C0と総称することがある。
【0043】
減速機構51は、モータ52から出力される回転動力を減速してレリーズシャフト53に伝達する。減速機構51は、例えばレリーズシャフト53と軸方向を平行にしたギヤ列を備えている。減速機構51は、各モータ521,522の駆動軸55に一体に設けられる駆動ギヤ55aと、各駆動ギヤ55aが噛み合う第一リダクションギヤ57aと、第一リダクションギヤ57aと同軸の第一小径ギヤ57bと、第一小径ギヤ57bが噛み合う第二リダクションギヤ58aと、第二リダクションギヤ58aと同軸の第二小径ギヤ58bと、第二小径ギヤ58bが噛み合う被動ギヤ63aと、各ギヤを収容するギヤケース59と、を備えている。
【0044】
第一リダクションギヤ57aおよび第一小径ギヤ57bは、第一支持軸57cに一体回転可能に支持され、これらが第一リダクション軸57を構成している。第二リダクションギヤ58aおよび第二小径ギヤ58bは、第二支持軸58cに一体回転可能に支持され、これらが第二リダクション軸58を構成している。第一支持軸57cおよび第二支持軸58cは、それぞれギヤケース59に回転可能に支持されている。第二リダクションギヤ58aは、第二支持軸58c中心の扇形ギヤであり、第二支持軸58cの前方かつ車幅方向外側に広がるように設けられている。図中線C1は第一リダクション軸57の中心軸線、線C2は第二リダクション軸58の中心軸線をそれぞれ示す。
【0045】
被動ギヤ63aは、レリーズシャフト53に一体回転可能に設けられている。被動ギヤ63aは、レリーズシャフト53中心の扇形ギヤであり、レリーズシャフト53の前方に広がるように設けられている。減速機構51における下流側のギヤは回転角度が小さく、第二リダクションギヤ58aおよび被動ギヤ63aを回転角度が小さい扇形ギヤとすることが可能である。
【0046】
その結果、減速機構51ひいてはクラッチアクチュエータ50の小型化が可能となる。すなわち、減速比を稼ぐために大径の減速ギヤを設ける場合にも、この減速ギヤの噛み合い範囲以外を切り欠いて扇形とすることで、特に減速機構51の車幅方向外側への張り出しを抑えることが可能であり、かつ減速機構51の軽量化を図ることが可能である。
【0047】
係る構成により、モータ52とレリーズシャフト53とは、減速機構51を介して常時連動可能である。これにより、クラッチアクチュエータ50で直接的にクラッチ装置26を断接させるシステムが構成されている。
【0048】
各ギヤは、軸方向厚さを抑えた偏平の平歯車であり、ギヤケース59も、軸方向の厚さを抑えた偏平状に形成されている。これにより、減速機構51が車両側面視で目立ち難くなる。ギヤケース59の上面側には、第一リダクション軸57および第二リダクション軸58の各々の一端部に連結されてこれらの回転角度を検出する第一回転角度センサ57dおよび第二回転角度センサ58dが設けられる。
【0049】
モータ52は、ギヤケース59の前部から下方に突出するように配置される。これにより、モータ52が右カバー17aにおけるクラッチ装置26を覆う膨出部17bを前方に避けて配置可能となり、クラッチアクチュエータ50の車幅方向外側への張り出しが抑えられる。
【0050】
モータ52の駆動力は、駆動ギヤ55aと第一リダクションギヤ57aとの間で減速され、かつ第一小径ギヤ57bと第二リダクションギヤ58aとの間で減速され、さらに第二小径ギヤ58bと被動ギヤ63aとの間で減速されて、レリーズシャフト53に伝達される。
【0051】
実施形態では、減速機構51のギヤ列の最終段(第二小径ギヤ58bおよび被動ギヤ63aの間)よりも手前に、レリーズシャフト53の初期位置(クラッチ切断方向とは逆の戻り方向の停止位置)を規定するストッパ59aを備えている。ストッパ59aは、例えばギヤケース59の内側に一体形成され、扇形の第二リダクションギヤ58aの側辺を当接させることで、第二リダクションギヤ58aの停止位置を規定する。減速機構51の最終段に比べてトルクの小さい段階にストッパ59aを設けることで、ギヤケース59の強度を抑えた上で確実にレリーズシャフト53の初期位置を規定することができる。減速により最もトルクが大きくなる最終段への過大荷重入力を防ぎ、ギヤを小型軽量にすることができる。
【0052】
<クラッチアクチュエータの配置>
図15図17に示すように、クラッチアクチュエータ50は、車両側面視で、燃料タンク18右側のニーグリップ部18aの鉛直下方に配置されている。クラッチアクチュエータ50は、図16の車両上面視で、燃料タンク18右側のニーグリップ部18aよりも車幅方向外側に張り出して配置されている。図中線L1は運転者の脚の大腿部、線L2は膝から下の下腿部、線L3は足首から先の足部をそれぞれイメージしている。
【0053】
運転者の脚は、車両側面視で、ニーグリップ部18aから後下方へ斜めに下腿部L2を延ばし、ステップ18bに足部L3を載せる。クラッチアクチュエータ50は、ニーグリップ部18aよりも車幅方向外側に張り出すが、車両側面視で運転者の脚の下腿部L2を前方に避けた配置となる。これにより、運転者の脚の配置スペースに対するクラッチアクチュエータ50の干渉が抑えられる。クラッチアクチュエータ50は、運転者が脚を伸ばして足部L3を着地させた場合にも、車両側面視で運転者の脚の下腿部L2を前方に避けた配置となる。この点でも、運転者の脚の配置スペースに対するクラッチアクチュエータ50の干渉が抑えられる。
【0054】
図17を参照し、右カバー17aは、車両側面視でクラッチ装置26と同軸の円形の範囲を、車幅方向外側に膨出した膨出部17bとしている。膨出部17bにおける後上方に臨む部位には、残余の部位に対して外側面を車幅方向内側に変化させたカバー凹部17cが形成されている。カバー凹部17cは、車両側面視で半円形状をなしている。
【0055】
カバー凹部17cの上記半円形状の弦部分は、車両側面視でレリーズシャフト53の軸方向と直交する直線状に形成されている。この弦部分は、膨出部17bの外側面を段差状に変化させる段差部17dを形成している。段差部17dは、車両側面視で後ろ下がりに傾斜している。段差部17dには、レリーズシャフト53の上部が斜め上後方に突出している。レリーズシャフト53は、カバー凹部17cの段差部17dを貫通してカバー外側に突出している。クラッチアクチュエータ50は、カバー凹部17cに入り込むように配置された状態で、右カバー17aに取り付けられている。
【0056】
<レリーズシャフト>
図6図8に示すように、レリーズシャフト53は、クラッチアクチュエータ50からの入力と乗員の操作による入力とを個別に受けて回動可能とするために、複数の要素に分割されている。
レリーズシャフト53は、上部を構成する上部レリーズシャフト61と、下部を構成する下部レリーズシャフト62と、上部レリーズシャフト61の下端部と下部レリーズシャフト62の上端部とに跨って配置される中間レリーズシャフト63と、を備えている。
【0057】
上部レリーズシャフト61は、円柱状をなし、ギヤケース59の上ボス部59bに回転可能に支持されている。上部レリーズシャフト61は、上端部がギヤケース59の外側に突出し、この上端部に従動クラッチレバー54が一体回転可能に支持されている。従動クラッチレバー54には、クラッチ操作子の操作による回動(クラッチ切断方向の回動)とは逆方向の付勢力を従動クラッチレバー54に付与するリターンスプリング54sが取り付けられている。
【0058】
下部レリーズシャフト62は、円柱状をなし、下部が右カバー17aの内側に回転可能に支持されている。下部レリーズシャフト62におけるギヤケース59内に臨む下部には、レリーズ機構38の偏心カム部38aが形成されている。下部レリーズシャフト62の下端部には、クラッチ切断方向の回動とは逆方向の付勢力を下部レリーズシャフト62に付与する下部リターンスプリング62sが取り付けられている。
【0059】
上部レリーズシャフト61の下端部には、断面扇形をなして軸方向に延びる手動操作側カム61bが設けられている。
下部レリーズシャフト62の上端部には、周方向又は軸方向で手動操作側カム61bを避けた範囲で、断面扇形をなして軸方向に延びるクラッチ側カム62bが設けられている。
【0060】
上部レリーズシャフト61の下端部(手動操作側カム61b)と下部レリーズシャフト62の上端部(クラッチ側カム62b)とは、互いに周方向で避けつつ軸方向位置をラップさせている(又は互いに軸方向で避けつつ周方向位置をラップさせている)。これにより、手動操作側カム61bの周方向一側面61b1でクラッチ側カム62bの周方向他側面62b2を押圧し、下部レリーズシャフト62を回転させることが可能である(図9(b)、図10(b)参照)。
【0061】
手動操作側カム61bの周方向他側面61b2とクラッチ側カム62bの周方向一側面62b1とは、周方向又は軸方向で互いに離間している。これにより、クラッチ側カム62bにクラッチアクチュエータ50からの入力があった場合には、上部レリーズシャフト61から独立して下部レリーズシャフト62が回転可能である(図9(a)、図10(a)参照)。
【0062】
中間レリーズシャフト63は、上部レリーズシャフト61の下端部と下部レリーズシャフト62の上端部との係合部分(上下シャフト係合部)を挿通可能な円筒状をなしている。中間レリーズシャフト63には、被動ギヤ63aが一体回転可能に支持されている。
中間レリーズシャフト63には、断面扇形をなして軸方向に延びる制御操作側カム63bが設けられている。
【0063】
中間レリーズシャフト63および被動ギヤ63aは、クラッチアクチュエータ50の他の構成部品に対する接触を抑えている。具体的に、中間レリーズシャフト63は、ギヤケース59に支持する軸受けの他には、上部レリーズシャフト61の下端部(手動操作側カム61b)および下部レリーズシャフト62の上端部(クラッチ側カム62b)に内周部を接触させるのみである。また、被動ギヤ63aは、第二小径ギヤ58bにギヤ歯を接触させるのみである。これにより、制御ギヤである被動ギヤ63aのフリクションを極力低減し、レリーズシャフト53の制御の精度を向上させている。
【0064】
中間レリーズシャフト63の制御操作側カム63bと下部レリーズシャフト62のクラッチ側カム62bとは、互いに周方向で避けつつ軸方向位置をラップさせている(又は互いに軸方向で避けつつ周方向位置をラップさせている)。これにより、制御操作側カム63bの周方向一側面63b1でクラッチ側カム62bの周方向他側面62b2を押圧し、下部レリーズシャフト62を回転させることが可能である。
【0065】
また、制御操作側カム63bは、上部レリーズシャフト61の手動操作側カム61bを軸方向又は径方向で避けて配置されている。これにより、クラッチアクチュエータ50からの入力をクラッチ側カム62bに伝達する際、上部レリーズシャフト61から独立して下部レリーズシャフト62を回転可能である。また、手動操作があった場合には、上部レリーズシャフト61を制御側の中間レリーズシャフト63から独立して回転可能である。
【0066】
制御操作側カム63bの周方向他側面63b2とクラッチ側カム62bの周方向一側面62b1とは、周方向で互いに離間している。これにより、クラッチ側カム62bに手動操作側カム63bからの入力があった場合には、中間レリーズシャフト63から独立して下部レリーズシャフト62が回転可能である。
【0067】
図11図17を参照し、クラッチアクチュエータ50は、上部レリーズシャフト61および中間レリーズシャフト63を、ギヤケース59で回動可能に保持している。クラッチアクチュエータ50は、上部レリーズシャフト61および中間レリーズシャフト63を含んで一体のアクチュエータユニット50Aを構成している。
【0068】
下部レリーズシャフト62は、右カバー17aに回転可能に保持されている。右カバー17aの上記カバー凹部17cの段差部17dには、下部レリーズシャフト62の上端部が突出する開口部17eが設けられるとともに、ギヤケース59の締結部17fが設けられる。ギヤケース59における上記カバー凹部17cの段差部17dとの対向部分には、下部レリーズシャフト62の上端部をギヤケース59内に臨ませる開口部59cが設けられる。
【0069】
係る構成において、アクチュエータユニット50Aを右カバー17aに取り付けると、上部レリーズシャフト61、中間レリーズシャフト63および下部レリーズシャフト62が相互に連結されて、直線状のレリーズシャフト53を構成する。
【0070】
実施形態のパワーユニットPUは、クラッチ装置26の断接操作を電気制御で行わずに運転者の操作で行うマニュアルクラッチ式のパワーユニットに対し、右カバー17aおよびレリーズシャフト53を交換し、アクチュエータユニット50Aを後付けすることで構成可能である。このため、機種違いのパワーユニットに対しても、アクチュエータユニット50Aを取り付け可能であり、多機種間でアクチュエータユニット50Aを共有して容易にセミオートマチックの変速システム(自動クラッチ式変速システム)を構成可能である。
【0071】
<クラッチ制御>
次に、実施形態のクラッチ制御について、図12のグラフを参照して説明する。図12のグラフは、上記オートモードM1におけるクラッチ特性をイメージしている。図12のグラフにおいて、縦軸はレリーズシャフト53に付与されるトルク(Nm)およびクラッチ容量(%)、横軸はレリーズシャフト53の作動角(deg)をそれぞれ示している。
【0072】
レリーズシャフト53に発生するトルクは、モータ52への供給電流とモータ52が発生するトルクとの相関から、モータ52への供給電流値に基づき得られるトルク値に、減速機構51の減速比を乗じて算出されるトルク値に相当する。以下、レリーズシャフト53のトルクをレリーズシャフトトルクという。レリーズシャフト作動角とレリーズシャフトトルクとの相関をグラフ中線L11で示す。レリーズシャフト作動角とクラッチ容量との相関をグラフ中線L12で示す。
【0073】
ノーマルクローズクラッチのオートモードM1において、レリーズシャフトトルク(モータ出力)が「0」のとき、クラッチ装置26に対する操作入力(切断側への入力)はなく、クラッチ容量は100%となる。すなわち、クラッチ装置26は接続状態を維持する。この状態は、図12の横軸の領域Aに相当する。領域Aは、従動クラッチレバー54の遊び領域である。領域Aでは、モータ出力がなく、レリーズシャフトトルクは「0」で推移する。領域Aでは、クラッチ装置26の作動がなく、クラッチ容量は100%で推移する。
【0074】
図8を併せて参照し、領域Aでは、レリーズシャフト53の手動操作側カム61bの周方向一側面61b1がクラッチ側カム62bの周方向他側面62b2を押圧せず、リターンスプリング54sの付勢力によりクラッチ側カム62bから離間している(図8中鎖線で示す)。領域Aでは、従動クラッチレバー54は、手動操作側カム61bがクラッチ側カム62bに対して図中角度A1だけ接近離反可能な遊び状態にある。例えば、領域Aでは、制御操作側カム63bの周方向一側面63b1がクラッチ側カム62bの周方向他側面62b2に当接した状態にある。
【0075】
図12を参照し、レリーズシャフト作動角が増加して遊び領域Aを過ぎると、レリーズシャフト作動角が半クラッチ領域Bに移行する。
【0076】
図9(a)を併せて参照し、半クラッチ領域Bでは、制御操作側カム63bがクラッチ側カム62bを押圧して下部レリーズシャフト62を回転させる。レリーズシャフトトルクが増加すると、レリーズ機構38がクラッチ装置26をリフト作動させ、クラッチ容量を減少させる。すなわち、クラッチ装置26は、一部の動力伝達を可能とした半クラッチ状態となる。図12中符号SPは、遊び領域Aから半クラッチ領域Bに切り替わる作動の開始位置(作動開始位置)を示す。半クラッチ領域Bにおいてマニュアル操作が介入すると、手動操作側カム61bがクラッチ側カム62bに当接し、制御操作側カム63bと協働して下部レリーズシャフト62を回転させる(図9(b)参照)。
【0077】
レリーズシャフト作動角が、半クラッチ領域Bの終点であるタッチポイントTPを過ぎると、レリーズシャフトトルクの増加は、半クラッチ領域Bよりも緩やかになる。レリーズシャフト作動角におけるタッチポイントTP以降の領域は、例えば、クラッチ容量が「0」相当のまま推移するクラッチ切断領域Cとなる。クラッチ切断領域Cは、例えば、レリーズシャフト53等が機械的な作動限界位置まで作動するための作動余裕領域である。クラッチ切断領域Cでは、レリーズシャフトトルクが微増する。この増加分は、クラッチ装置26のリフト部品の移動に伴うクラッチスプリング荷重の増加分に相当する。図12中符号EPは、クラッチ切断領域Cの終点であるフルリフト位置を示す。
【0078】
例えば、クラッチ切断領域Cの中間には、待機位置DPが設定される。待機位置DPでは、クラッチ装置26が接続を開始するタッチポイントTPよりも若干高いレリーズシャフトトルクが付与される。タッチポイントTPでは、作動誤差により若干のトルク伝達が生じることがあるが、待機位置DPまでレリーズシャフトトルクを付与することで、クラッチ装置26のトルク伝達は完全に遮断される。また、待機位置DPでは、フルリフト位置EPに対して若干低いレリーズシャフトトルクが付与されることで、クラッチ装置26の無効詰めを行うことが可能となる。すなわち、待機位置DPでは、クラッチ装置26における各部のガタや作動反力のキャンセル等が可能となり、クラッチ装置26の接続時の作動応答性を高めることができる。
【0079】
図13を参照し、半クラッチ領域Bにおいて、モータ52の駆動は、リフト荷重に基づき制御される。
係る制御では、まず、クラッチスプリング37の弾発力に基づき、予めクラッチスプリング荷重を設定する。次に、レリーズシャフトトルクに応じて、クラッチ装置26に作用するリフト荷重(クラッチスプリング荷重に抗する操作荷重)を推定する。そして、クラッチスプリング荷重からリフト荷重を減じた荷重を、実際にクラッチ装置26に作用させるクラッチ押付荷重とする。
【0080】
クラッチ容量は、「クラッチ押付荷重/クラッチスプリング荷重」で求められる。クラッチ容量が目標値となるように、モータ52への供給電力を制御し、レリーズシャフトトルクひいてはリフト荷重を制御する。上記作動開始位置SPおよびタッチポイントTPの各々におけるモータ電流値およびレバー作動角は、予め既定値に設定するか、あるいは後述するように、自動二輪車1の電源オフ時等に学習制御によって設定する。
【0081】
センシング構成の一例として、モータ制御装置(ECU40)内に電流センサ40bを設け、この検出値をモータトルクに換算し、さらにレリーズシャフトトルク(クラッチ操作トルク)に換算することが挙げられる。
【0082】
図13に示すように、半クラッチ領域Bにおいて、上記クラッチレバーの操作(マニュアル操作)の介入があると、予め設定したレリーズシャフトトルクの相関線L11に対し、レリーズシャフトトルクの実測値が減少する(図中F部参照)。このとき、レリーズシャフトトルクの減少量が予め定めた閾値d1を越えると、マニュアル操作の介入があったものと判定し、予め定めたマニュアル操作介入制御に移行する。
【0083】
マニュアル操作介入制御では、例えば予め定めた規定時間内は、レリーズシャフトトルクが閾値d1だけ減少した後のトルクd2を維持するように、モータ52をフィードバック制御する。このときの電流制御中は、タッチポイントTP以降では角度に応じた電流制限を設けており、途中でモータ出力はほぼ0となる。その時の負荷が十分に低いので、マニュアル介入したと判断する。これにより、上記クラッチレバーの操作後に急にモータ52からのトルクが無くなることによる違和感を抑止することができる。上記規定時間の経過後は、徐々にレリーズシャフトトルクを減少させることで(図中G部参照)、上記違和感を抑えつつモータ52を駆動し続けることによる電力消費を抑えることができる。
【0084】
クラッチ切断領域Cにおいて、モータ52の駆動は、レバー位置(角度)に基づき制御される。
前述のように、クラッチ切断領域Cでは、クラッチ装置26のリフトに伴うレリーズシャフトトルクの増加が少ない。このため、クラッチ切断領域Cでは、レリーズシャフト作動角に基づき、モータ52への供給電力を制御する。これにより、クラッチ装置26が接続を開始するタッチポイントTP以降において、クラッチ装置26の切れ量をより細かく制御することが可能となる。
【0085】
センシング構成の一例として、第一リダクション軸57および第二リダクション軸58にそれぞれ第一回転角度センサ57dおよび第二回転角度センサ58dを設け、これらの検出値をレリーズシャフト作動角(クラッチ操作角)に換算することが挙げられる。第一回転角度センサ57dおよび第二回転角度センサ58dは、フェール用に一対設けているが、これらの何れか一方のみとしてもよい。
【0086】
図13に示すように、クラッチ切断領域Cにおいて、上記クラッチレバーの操作(マニュアル操作)の介入があると、予め設定したレリーズシャフトトルクの相関線L11に対し、レリーズシャフトトルクの実測値が減少する(図中H部参照)。
【0087】
図10(a)を併せて参照し、例えば、オートモードM1において、制御操作側カム63bがクラッチ側カム62bに付与するトルクは、待機位置DPに至るまでのトルクを上限とされる。クラッチ側カム62bが待機位置DPを越えてフルリフト位置EPに至るまでのトルクは、上記クラッチレバーを握り込むマニュアル操作が介入し、待機位置DPを越えるだけのトルクが手動操作側カム61bからクラッチ側カム62bに付与された場合である(図10(b)参照)。このとき、制御操作側カム63bはクラッチ側カム62bから離間し、モータ出力は実質0となる。
【0088】
待機位置DPに至る手前であっても、レリーズシャフト作動角がタッチポイントTPを越えたクラッチ切断領域Cにあると、マニュアル操作の介入によって、レリーズシャフトトルクの実測値は実質0となる。したがって、クラッチ切断領域Cにおいて、レリーズシャフトトルクの実測値が実質0となる範囲に変化した場合には、マニュアル操作の介入があったものと判定し、予め定めたマニュアル操作介入制御に移行する。
【0089】
マニュアル操作介入制御では、予め定めた規定時間内は、レリーズシャフト作動角が実質的なクラッチ切断位置であるタッチポイントTPを維持するように、モータ出力を保持する。これにより、マニュアル操作の介入後にクラッチレバーが急に解放された場合にもエンストの発生を抑止する。
【0090】
このように、クラッチ装置26の状況に応じて、荷重(電流)制御と位置(角度)制御とを使い分けることで、より細やかなクラッチ制御(クラッチ装置26の状態や特性に応じた最適な制御)を行うことが可能となる。
また、実施形態では、レリーズシャフト作動角に対するモータ52の電流値(トルク値に換算)の変化を、予め定めたタイミングで学習(更新)し、クラッチ装置26の状況に応じた目標値を設定する。この目標値とECU40の電流センサ40bの検出値とに基づき、モータ52の駆動がフィードバック制御される。
【0091】
<制御基準値の補正>
次に、実施形態のタッチポイントTP等における電流と角度とを学習する制御について、図14のグラフを参照して説明する。図14のグラフは、図12図13に示したクラッチ特性を示す相関線L11が、クラッチ板35の摩耗やエンジン13の温度(例えば冷却水温)に応じて変化する様を示す。図14において、縦軸はレリーズシャフトトルク(Nm)、横軸はレリーズシャフト作動角(deg)をそれぞれ示している。
【0092】
実施形態では、例えば自動二輪車1のメインスイッチ(電源)のオフ時において、クラッチ容量制御の際の0点(作動開始位置SPおよびタッチポイントTP)を補正する。モータ52の電流制御では、温度変化がモータトルクに影響することから、相関線L11の高さが温度によって変化する(図中J参照)。そこで、例えば、エンジン温度が80度以上か否か(エンジン暖機後か否か)といった複数の温度範囲の各々で、0点の補正を行う。このときの0点はメモリに記憶し、次回のクラッチ容量制御に利用する。
【0093】
また、上記同様のタイミングで、レリーズシャフト作動角に規定値以上の減少が生じているか否かを判定する。レリーズシャフト作動角が大きく減少している場合、クラッチ板35の磨耗が生じている虞がある。
【0094】
すなわち、ノーマルクローズクラッチにおいて、クラッチ板35が摩耗すると、リフターシャフト39がレリーズ機構38から離れる側に移動する。これにより、クラッチ板35が摩耗すると、レリーズ機構38の遊びが減る。これにより、レリーズシャフト53は、少ない作動角でクラッチ装置26を切断側に作動させる。これにより、遊び領域Aから半クラッチ領域Bに切り替わる作動開始位置SPにおいて、レリーズシャフト作動角が減少する(図中K参照)。したがって、作動開始位置SPのレリーズシャフト作動角が規定値以上に減少している場合、クラッチ板35の磨耗が生じていると予測することが可能である。クラッチ板35の摩耗を予測(検出)した場合には、メータ装置等に備えるインジケータ40c(図3参照)を利用して、ユーザに警告を行うことができる。
【0095】
タッチポイントTP等におけるモータ電流とレバー作動角とは、自動二輪車1の電源オフ時に毎回学習する。これにより、高い精度でタッチポイントTP等を利用した制御を行うことが可能となり、かつ、クラッチ板35の磨耗を予測(検出)することも可能となる。
レバー作動角とモータ電流との関係から、クラッチ装置26が接続を開始するタッチポイントTPでのモータ電流とレバー作動角とを学習する。これにより、フリクションや磨耗、温度の影響を踏まえて、クラッチ制御を行うことが可能となる。
【0096】
以上説明したように、上記実施形態におけるクラッチ制御装置は、エンジン13と変速機21との間の動力伝達を断接するクラッチ装置26と、上記クラッチ装置26を作動させるための駆動力を出力するクラッチアクチュエータ50と、上記クラッチアクチュエータ50の駆動力を受けて上記クラッチ装置26を作動させるレリーズ機構38と、上記クラッチアクチュエータ50を駆動制御するECU40と、上記クラッチアクチュエータ50の出力値を検出する電流センサ40bと、上記レリーズ機構38の作動量を検出する回転角度センサ57d,58dと、を備え、上記ECU40は、上記電流センサ40bの検出情報と上記回転角度センサ57d,58dの検出情報とを択一的に用いて、上記クラッチアクチュエータ50の作動を制御する。
この構成によれば、クラッチ装置26の作動状態に応じて、クラッチ装置26の制御に用いるパラメータを、クラッチアクチュエータ50の出力値とレリーズ機構38の作動量との何れかに切り替えることが可能である。例えば、半クラッチ領域B等、レリーズ機構38の作動量に対してクラッチアクチュエータ50の出力値の変化が大きい領域では、クラッチアクチュエータ50の出力値を用いてクラッチアクチュエータ50の作動を制御する。また、クラッチ切断領域C等、レリーズ機構38の作動量に対してクラッチアクチュエータ50の出力値の変化が小さい領域では、レリーズ機構38の作動量を用いてクラッチアクチュエータ50の作動を制御する。このように、クラッチ装置26の作動状態に応じて、出力値センサと作動量センサとを使い分けることで、クラッチアクチュエータ50を適切に制御することができる。
【0097】
また、上記クラッチ制御装置において、上記ECU40は、上記クラッチアクチュエータ50の駆動による上記クラッチ装置26の自動制御中に、クラッチ操作子によるマニュアル操作の介入を可能とし、上記マニュアル操作の介入があった場合は、予め定めたマニュアル操作介入制御に移行するものであり、上記ECU40は、上記電流センサ40bの検出情報と上記回転角度センサ57d,58dの検出情報とを参照し、上記マニュアル操作の介入を検出し、かつ、上記マニュアル操作介入制御を行う。
この構成によれば、クラッチ装置26の作動状態に応じて、マニュアル操作の介入を検出するパラメータであり、かつ、マニュアル操作介入制御に用いるパラメータを、クラッチアクチュエータ50の出力値とレリーズ機構38の作動量との何れかに切り替えることが可能である。例えば、半クラッチ領域B等、レリーズ機構38の作動量に対してクラッチアクチュエータ50の出力値の変化が大きい領域では、クラッチアクチュエータ50の出力値及びレリーズ機構の位置を用いて、マニュアル操作の介入を検出およびマニュアル操作介入制御を行う。また、クラッチ切断領域C等、レリーズ機構38の作動量に対してクラッチアクチュエータ50の出力値の変化が小さい領域では、レリーズ機構38の作動量(角度、位置)に対するモータ52負荷の変化を用いて、マニュアル操作の介入を検出するとともにマニュアル操作介入制御を行う。これにより、クラッチ装置26の状態に応じて適切にマニュアル操作の介入を可能とすることができる。
【0098】
また、上記クラッチ制御装置において、上記ECU40は、上記電流センサ40bの検出情報を用いた制御と上記回転角度センサ57d,58dの検出情報を用いた制御とを、上記クラッチ装置26における動力伝達不能な切断状態から動力伝達を開始するタッチポイントTPで切り替える。
この構成によれば、半クラッチ領域B等、レリーズ機構38の作動量に対してクラッチアクチュエータ50の出力値の変化が大きい領域では、クラッチアクチュエータ50の出力値を用いてクラッチアクチュエータ50の作動を制御する。また、クラッチ切断領域C等、レリーズ機構38の作動量に対してクラッチアクチュエータ50の出力値の変化が小さい領域では、レリーズ機構38の作動量を用いてクラッチアクチュエータ50の作動を制御する。これにより、クラッチ装置26の状態に応じて適切にクラッチアクチュエータ50を制御することができる。
【0099】
また、上記クラッチ制御装置において、上記ECU40は、電源がオン又はオフされたときに、上記タッチポイントTPを確認して更新する。
この構成によれば、タッチポイントTPが随時確認されて更新されるので、エンジン温度やクラッチ摩耗等の影響がある場合にも、タッチポイントTPが適宜補正される。これにより、クラッチ装置26の状態に応じて適切にクラッチアクチュエータ50を制御することができる。
【0100】
また、上記クラッチ制御装置において、上記タッチポイントTPが予め定めた閾値を超えたことを、当該クラッチ制御装置の使用者に通知するインジケータ40cを備え、上記ECU40は、上記タッチポイントTPが予め定めた閾値を超えた場合に、上記インジケータ40cを作動させる。
この構成によれば、クラッチ摩耗が増加したり装置の異常が生じたりした場合に、速やかに使用者に通知することが可能となり、クラッチ装置26の適切な制御を維持しやすくすることができる。例えば、インジケータ40cはメータ等に配置され、使用者が視覚的に確認できる。
【0101】
<クラッチアクチュエータの変形例>
ここで、図18図19を参照し、クラッチアクチュエータ50の変形例について説明する。
上記実施形態のクラッチアクチュエータ50は、モータ52および減速機構51の各軸とレリーズシャフト53とを互いに軸方向を平行にして配置しているが、図18図19の変形例のクラッチアクチュエータ150は、モータ52および減速機構51の各軸とレリーズシャフト53とを互いに軸方向を直交させた配置としている。変形例では、例えば第二小径ギヤ58bおよび被動ギヤ63aといった互いに噛み合うギヤ対を、互いに軸方向を直交させるギヤ(例えばねじ歯車やかさ歯車等)で構成している。
【0102】
変形例のクラッチアクチュエータ150では、モータ52および減速機構51の各軸とレリーズシャフト53とを互いに軸方向を直交させて配置している。また、モータ52および減速機構51の各軸とクラッチ装置26とを互いに軸方向を平行にして配置している。これにより、減速機構51に減速比を稼ぐための大径の減速ギヤを設ける場合にも、この減速ギヤを単純な円形としたままで、特に減速機構51の車幅方向外側への張り出しを抑えることができる。また、軸方向寸法の大きいモータ52を、右カバー17aおよびクランクケース15等を避けつつ減速機構51の車幅方向に突出させるように配置することができる。すなわち、シリンダ16の側方または後方のスペースを利用してモータ52の配置スペースを稼ぎ、クラッチアクチュエータ150を効率よく配置することができる。これにより、車両側面視で外観されるクラッチユニットのサイズを抑えて外観性を向上させるとともに、エンジン13側部に張り出すクラッチユニットのボリュームを抑えて車体バンク角への影響を抑えることができる。
【0103】
本発明は上記実施例に限られるものではなく、例えば、クラッチ操作子は、クラッチレバーに限らず、クラッチペダルやその他の種々操作子であってもよい。クラッチ装置は、エンジンと変速機との間に配置されるものに限らず、原動機と変速機以外の任意の出力対象との間に配置されるものでもよい。原動機は内燃機関に限らず電気モータであってもよい。
上記実施形態のようにクラッチ操作を自動化した鞍乗り型車両への適用に限らず、マニュアルクラッチ操作を基本としながら、所定の条件下でマニュアルクラッチ操作を行わずに駆動力を調整して変速を可能とする、いわゆるクラッチ操作レスの変速装置を備える鞍乗り型車両にも適用可能である。
また、上記鞍乗り型車両には、運転者が車体を跨いで乗車する車両全般が含まれ、自動二輪車(原動機付自転車及びスクータ型車両を含む)のみならず、三輪(前一輪かつ後二輪の他に、前二輪かつ後一輪の車両も含む)又は四輪の車両も含まれ、かつ電気モータを原動機に含む車両も含まれる。
そして、上記実施形態における構成は本発明の一例であり、当該発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0104】
1 自動二輪車(鞍乗り型車両)
13 エンジン(原動機)
21 変速機(出力対象)
26 クラッチ装置
38 レリーズ機構
40 ECU(制御部)
40A クラッチ制御装置
40b 電流センサ(第一検出部)
40c インジケータ(通知手段)
50,150 クラッチアクチュエータ
57d,58d 回転角度センサ(第二検出部)
TP タッチポイント(クラッチ接続ポイント)
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