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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】遠隔制御装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/09 20060101AFI20241004BHJP
   G16Y 10/40 20200101ALI20241004BHJP
   G16Y 20/20 20200101ALI20241004BHJP
   G16Y 40/30 20200101ALI20241004BHJP
【FI】
G08G1/09 V
G16Y10/40
G16Y20/20
G16Y40/30
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024510467
(86)(22)【出願日】2023-11-16
(86)【国際出願番号】 JP2023041216
【審査請求日】2024-02-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】亀岡 翔太
(72)【発明者】
【氏名】細江 陽平
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特許第7330398(JP,B1)
【文献】特開平11-215124(JP,A)
【文献】特表2023-503483(JP,A)
【文献】特開平7-336250(JP,A)
【文献】特開平7-234855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
G16Y 10/40
G16Y 20/20
G16Y 40/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークを介して1以上の移動体を制御する遠隔制御装置であって、
前記移動体の参照経路に基づいて前記移動体の制御量を演算する移動体制御演算部を備え、
前記移動体制御演算部は、制御演算部を備え、
前記制御演算部は、
確率分布をもつ確率的な伝送遅延に依存する前記移動体の動特性をモデル化した状態方程式を制約条件とし、評価関数に基づく確率計画問題を逐次解くことで最適系列を演算する確率系最適化演算部と、
前記最適系列を前記移動体の前記制御量に変換する制御決定部と、
を備え、
前記確率系最適化演算部は、
確率的なパラメータの確率過程モデルに基づいて、期待値演算を含む確率的な評価関数を確定的な評価関数に変換する確率系評価関数変換部と、
前記確定的な評価関数の最適化問題を解くことによって、前記確率計画問題を解く確定系最適化演算部と、
で構成される、
遠隔制御装置。
【請求項2】
ネットワークを介して1以上の移動体を制御する遠隔制御装置であって、
前記移動体の参照経路に基づいて前記移動体の制御量を演算する移動体制御演算部を備え、
前記移動体制御演算部は、制御演算部を備え、
前記制御演算部は、
確率分布をもつ確率的な伝送遅延に依存する前記移動体の動特性をモデル化した状態方程式を制約条件とし、評価関数に基づく確率計画問題を逐次解くことで最適系列を演算する確率系最適化演算部と、
前記最適系列を前記移動体の前記制御量に変換する制御決定部と、
を備え、
前記確率系最適化演算部は、
確率的なパラメータの確率過程モデルに基づいて、確率的な評価関数を確定的な評価関数に変換する確率系評価関数変換部と、
前記確定的な評価関数の最適化問題を解くことによって、前記確率計画問題を解く確定系最適化演算部と、
で構成され、
前記確率系評価関数変換部は、前記確率過程モデルに基づいて定義される写像および漸化式を用いて、前記確率的な評価関数を前記確定的な評価関数に変換する、
隔制御装置。
【請求項3】
ネットワークを介して1以上の移動体を制御する遠隔制御装置であって、
前記移動体の参照経路に基づいて前記移動体の制御量を演算する移動体制御演算部を備え、
前記移動体制御演算部は、制御演算部を備え、
前記制御演算部は、
確率分布をもつ確率的な伝送遅延に依存する前記移動体の動特性をモデル化した状態方程式を制約条件とし、評価関数に基づく確率計画問題を逐次解くことで最適系列を演算する確率系最適化演算部と、
前記最適系列を前記移動体の前記制御量に変換する制御決定部と、
を備え、
前記確率系最適化演算部は、
確率的なパラメータの確率過程モデルに基づいて、確率的な評価関数を確定的な評価関数に変換する確率系評価関数変換部と、
前記確定的な評価関数の最適化問題を解くことによって、前記確率計画問題を解く確定系最適化演算部と、
で構成され、
前記遠隔制御装置は、周囲情報から障害物の移動を予測し、その予測結果を障害物予測情報として出力する障害物移動予測部を更に備え、
前記確率系最適化演算部は、前記参照経路および前記障害物予測情報から前記確定系最適化演算部で制約条件として扱われる確定的な制約条件を出力し、
前記確定系最適化演算部は、前記確定的な評価関数を前記確定的な制約条件の下で最適化する、
隔制御装置。
【請求項4】
ネットワークを介して1以上の移動体を制御する遠隔制御装置であって、
前記移動体の参照経路に基づいて前記移動体の制御量を演算する移動体制御演算部を備え、
前記移動体制御演算部は、制御演算部を備え、
前記制御演算部は、
確率分布をもつ確率的な伝送遅延に依存する前記移動体の動特性をモデル化した状態方程式を制約条件とし、評価関数に基づく確率計画問題を逐次解くことで最適系列を演算する確率系最適化演算部と、
前記最適系列を前記移動体の前記制御量に変換する制御決定部と、
を備え、
前記確率系最適化演算部は、
確率的なパラメータの確率過程モデルに基づいて、確率的な評価関数を確定的な評価関数に変換する確率系評価関数変換部と、
前記確定的な評価関数の最適化問題を解くことによって、前記確率計画問題を解く確定系最適化演算部と、
で構成され、
前記制御演算部は、
前記移動体の前後方向の制御を行うための、前後方向系列を出力する前後方向制御部と、
前記移動体の横方向の制御を行うための横方向最適系列を出力する横方向制御部と、
を備え、
前記横方向制御部は、前記前後方向系列を確定的なパラメータとして参照し、前記確率系最適化演算部で最適化を行うことで、前記横方向最適系列を演算する、
隔制御装置。
【請求項5】
前記前後方向制御部は、前記移動体の前後方向の動特性を用いて前後方向の最適系列を演算する、
請求項4に記載の遠隔制御装置。
【請求項6】
前記遠隔制御装置は、1以上の前記移動体のそれぞれの前記制御量を演算する1以上の前記移動体制御演算部を備え、
前記遠隔制御装置は、グローバル行動計画部を更に備え、
前記グローバル行動計画部は、1以上の前記移動体のそれぞれの目標行動を計画し、
1以上の前記移動体制御演算部のそれぞれは、1以上の前記移動体の目標行動をとりまとめたグローバル目標行動に従って、前記移動体の前記制御量を演算する、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の遠隔制御装置。
【請求項7】
前記グローバル行動計画部は、1以上の前記移動体の優先度を計画し、
1以上の前記移動体制御演算部のそれぞれは、1以上の前記移動体の優先度に従って前記移動体の前記制御量を演算し、自己が制御する前記移動体よりも優先度の高い前記移動体の前記制御量を制約条件として使用する、
請求項6に記載の遠隔制御装置。
【請求項8】
ネットワークを介して1以上の移動体を制御する遠隔制御装置であって、
前記移動体の参照経路に基づいて前記移動体の制御量を演算する移動体制御演算部を備え、
前記移動体制御演算部は、制御演算部を備え、
前記制御演算部は、
確率分布をもつ確率的な伝送遅延に依存する前記移動体の動特性をモデル化した状態方程式を制約条件とし、評価関数に基づく確率計画問題を逐次解くことで最適系列を演算する確率系最適化演算部と、
前記最適系列を前記移動体の前記制御量に変換する制御決定部と、
を備え、
前記確率系最適化演算部は、
確率的なパラメータの確率過程モデルに基づいて、確率的な評価関数を確定的な評価関数に変換する確率系評価関数変換部と、
前記確定的な評価関数の最適化問題を解くことによって、前記確率計画問題を解く確定系最適化演算部と、
で構成され、
前記遠隔制御装置は、1以上の前記移動体のそれぞれの前記制御量を演算する1以上の前記移動体制御演算部を備え、
前記遠隔制御装置は、グローバル行動計画部を更に備え、
前記グローバル行動計画部は、1以上の前記移動体のそれぞれの目標行動を計画し、
1以上の前記移動体制御演算部のそれぞれは、1以上の前記移動体の目標行動をとりまとめたグローバル目標行動に従って、前記移動体の前記制御量を演算し、
前記移動体制御演算部は、制御量保持部を更に備え、
前記制御量保持部は、1以上の前記移動体の過去の前記制御量を保持し、過去の前記制御量を1以上の前記移動体制御演算部に出力し、
1以上の前記移動体制御演算部は、1以上の前記移動体の過去の前記制御量を制約条件として使用して、前記移動体の前記制御量を演算する、
隔制御装置。
【請求項9】
ネットワークを介して1以上の移動体を制御する遠隔制御装置であって、
前記移動体の参照経路に基づいて前記移動体の制御量を演算する移動体制御演算部を備え、
前記移動体制御演算部は、制御演算部を備え、
前記制御演算部は、
確率分布をもつ確率的な伝送遅延に依存する前記移動体の動特性をモデル化した状態方程式を制約条件とし、評価関数に基づく確率計画問題を逐次解くことで最適系列を演算する確率系最適化演算部と、
前記最適系列を前記移動体の前記制御量に変換する制御決定部と、
を備え、
前記確率系最適化演算部は、
確率的なパラメータの確率過程モデルに基づいて、確率的な評価関数を確定的な評価関数に変換する確率系評価関数変換部と、
前記確定的な評価関数の最適化問題を解くことによって、前記確率計画問題を解く確定系最適化演算部と、
で構成され、
前記遠隔制御装置は、前記伝送遅延の前記確率分布に関する情報である伝送遅延分布情報を推定する伝送遅延分布推定部を更に備え、
前記確率系評価関数変換部は、前記伝送遅延分布情報を用いて、前記確率的な評価関数を前記確定的な評価関数に変換する、
隔制御装置。
【請求項10】
ネットワークを介して1以上の移動体を制御する遠隔制御装置であって、
前記移動体の参照経路に基づいて前記移動体の制御量を演算する移動体制御演算部を備え、
前記移動体制御演算部は、制御演算部を備え、
前記制御演算部は、
確率分布をもつ確率的な伝送遅延に依存する前記移動体の動特性をモデル化した状態方程式を制約条件とし、評価関数に基づく確率計画問題を逐次解くことで最適系列を演算する確率系最適化演算部と、
前記最適系列を前記移動体の前記制御量に変換する制御決定部と、
を備え、
前記確率系最適化演算部は、
確率的なパラメータの確率過程モデルに基づいて、確率的な評価関数を確定的な評価関数に変換する確率系評価関数変換部と、
前記確定的な評価関数の最適化問題を解くことによって、前記確率計画問題を解く確定系最適化演算部と、
で構成され、
前記最適化問題の計算時間のばらつきを確率分布として表現し、ランダムなサンプリング時刻として前記状態方程式に組み込む、
隔制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ネットワークを介して移動体を遠隔地から制御する遠隔制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体の遠隔制御においては、ネットワークに介在する伝送遅延により移動体の動作が不安定となる可能性がある。この課題を解決するための技術として、例えば下記の特許文献1には、伝送遅延の確率分布を用いて制御ゲインを設定することで、移動体の動作が不安定となる現象を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6940036号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Yohei Hosoe and Tomomichi Hagiwara, Equivalent Stability Notions, Lyapunov Inequality, and Its Application in Discrete-Time Linear Systems with Stochastic Dynamics Determined by an i.i.d. Process, IEEE TRANSACTIONS ON AUTOMATIC CONTROL, 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、移動体が移動する際の参照となる参照経路は曲率を有している。しかし、特許文献1の技術では参照経路の情報を使用しておらず、参照経路が曲率を有する場合に、移動体の参照経路への追従性が低下するおそれがある。
【0006】
本開示は以上のような課題を解決するためになされたものであり、移動体の参照経路が曲率を有する場合でも、移動体の参照経路への追従性を高く維持できる遠隔制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る遠隔制御装置は、ネットワークを介して1以上の移動体を制御する遠隔制御装置であって、前記移動体の参照経路に基づいて前記移動体の制御量を演算する移動体制御演算部を備え、前記移動体制御演算部は、制御演算部を備え、前記制御演算部は、確率分布をもつ確率的な伝送遅延に依存する前記移動体の動特性をモデル化した状態方程式を制約条件とし、評価関数に基づく確率計画問題を逐次解くことで最適系列を演算する確率系最適化演算部と、前記最適系列を前記移動体の前記制御量に変換する制御決定部と、を備え、前記確率系最適化演算部は、確率的なパラメータの確率過程モデルに基づいて、期待値演算を含む確率的な評価関数を確定的な評価関数に変換する確率系評価関数変換部と、前記確定的な評価関数の最適化問題を解くことによって、前記確率計画問題を解く確定系最適化演算部と、で構成される。

【発明の効果】
【0008】
本開示に係る遠隔制御装置によれば、移動体の参照経路が曲率を有する場合でも、移動体の参照経路への追従性を高く維持できる。
【0009】
本開示の目的、特徴、態様、および利点は、以下の詳細な説明と添付図面とによって、より明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1における遠隔制御装置の機能ブロック図である。
図2】実施の形態1における第1の移動体制御演算部の機能ブロック図である。
図3】移動体制御量が制御入力の場合の移動体の構成を示す図である。
図4】実施の形態1における制御演算部の機能ブロック図である。
図5】ネットワーク制御系に関する説明図である。
図6】移動体の構成の一例に関する説明図である。
図7】移動体の状態方程式の説明図である。
図8】伝送遅延の時系列の例を示す図である。
図9】伝送遅延モデル部の例を示す図である。
図10】実施の形態2における遠隔制御装置の機能ブロック図である。
図11】実施の形態2における移動体制御演算部の機能ブロック図である。
図12】実施の形態2における確率系最適化演算部の機能ブロック図である。
図13】制約生成に関する説明図である。
図14】実施の形態3における制御演算部の第1の構成例を示す図である。
図15】速度計画部の出力に関する説明図である。
図16】実施の形態3における制御演算部の第2の構成例を示す図である。
図17】実施の形態4における遠隔制御装置の機能ブロック図である。
図18】実施の形態4における移動体制御演算部の第1の構成例を示す図である。
図19】実施の形態4における移動体制御演算部の第2の構成例を示す図である。
図20】交差点付近の動作に関する説明図である。
図21】実施の形態4における移動体制御演算部の第3の構成例を示す図である。
図22】対向時の動作に関する説明図である。
図23】対向時の動作に関する説明図である。
図24】遠隔制御装置のハードウェア構成例を示す図である。
図25】遠隔制御装置のハードウェア構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施の形態1>
図1は、実施の形態1における遠隔制御システムの構成を示す図である。図1のように、遠隔制御システムは、遠隔制御装置10と、移動体20と、ネットワーク30と、物体情報取得部40と、環境情報取得部50と、地図データベース60とにより構成される。
【0012】
図1においては、1台の移動体20(第1の移動体20-1)を制御する場合の遠隔制御装置10の構成の一例が示されている。ただし、移動体20は複数台でもよい。
【0013】
ネットワーク30は、遠隔制御システムに含まれる各種の構成要素をケーブルや電波などで相互に接続する。遠隔制御システムの各構成要素は、ネットワーク30を介してデータを送受信することができる。ネットワーク30としては、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネット、電話回線、無線通信など様々な方式のものがある。ただし、ネットワーク30はこれらに限定されず、遠隔制御装置10と遠隔地に存在する移動体20とのデータの送受信が可能な媒体であればどのようなものでもよい。
【0014】
移動体20としての第1の移動体20-1は、遠隔制御装置10から送信される移動体制御量に基づいて走行する。第1の移動体20-1の構成については、後で詳細に説明する。
【0015】
物体情報取得部40は、移動体20の周囲もしくは移動体20自体に設置される1以上のセンサで構成される。物体情報取得部40は、移動体20の周囲に存在する、例えば自動車、自転車、歩行者などの障害物の位置および姿勢(以下「位置・姿勢」と称す)ならびに速度を、周囲情報として取得する。また、物体情報取得部40は、移動体20の位置・姿勢および速度を、移動体情報として取得する。物体情報取得部40は、移動体20に内界センサが設置されている場合には、内界センサにより検出される情報も移動体情報として取得してもよい。物体情報取得部40は、ネットワーク30を介して、移動体情報および周囲情報を遠隔制御装置10へ送信する。
【0016】
物体情報取得部40は、時刻同期部41を有している。時刻同期部41は、移動体20内の時刻同期部21、環境情報取得部50内の時刻同期部51、および遠隔制御装置10内の時刻同期部11と連携し、データ送受信のタイミングを同期させる機能を有する。
【0017】
これらの時刻同期部11,21,41,51は、屋外ではGNSS(Global Navigation Satellite System)センサを用いることで時刻同期が可能である(GNSSはもともと全地球レベルでの時刻同期システムである)。また、屋内では、時刻同期部11,21,41,51は、ネットワーク30上に設置されたNTPサーバ(Network Time Protocol)にアクセスすることで時刻同期が可能である。
【0018】
環境情報取得部50は、物体情報取得部40と同様、移動体20の周囲に設置される1以上のセンサで構成される。環境情報取得部50は、信号機や停止線などの情報を、環境情報として取得する。環境情報取得部50は、ネットワーク30を介して、環境情報を遠隔制御装置10へ送信する。
【0019】
なお、環境情報は、物体情報取得部40により取得される周囲情報に含まれてもよい。本実施の形態では、環境情報は周囲情報に含まれるものとする。よって、以下の説明では、環境情報および周囲情報をまとめて「周囲情報」と称する。また、環境情報取得部50で使用されるセンサは、移動体20に設置されてもよい。
【0020】
環境情報取得部50は、時刻同期部51を有している。時刻同期部51は、移動体20内の時刻同期部21、物体情報取得部40の時刻同期部41、および遠隔制御装置10内の時刻同期部11と連携し、データ送受信のタイミングを同期させる機能を有する。
【0021】
物体情報取得部40および環境情報取得部50で使用されるセンサは、例えばカメラ、LiDAR(Light Detection and Ranging)、およびレーダなどである。カメラは、前方、側方、および後方を撮影できる位置に設置されており、撮影した画像から、例えば移動体20の周囲の区画線、および障害物の位置・速度などの情報を取得する。LiDARは、レーザを周辺に照射し、周辺の物体に反射して戻ってくるまでの時間差を検出することにより、物体の位置を検出する。レーダは、周囲にレーダ照射を行い、その反射波を検出することで、周辺に存在する障害物のレーダに対する相対距離および相対速度を測定し、その測定結果を出力する。
【0022】
なお、移動体20の周囲の障害物などの絶対位置を検出可能なGNSSセンサがそれぞれの障害物に設置されている場合や、移動体20に設置されている場合で、かつGNSSセンサがネットワーク30を介して絶対位置情報を遠隔制御装置10へ送信可能な場合、移動体情報および周囲情報の検出がGNSSセンサにより可能となるため、物体情報取得部40は不要となる。
【0023】
地図データベース60は、移動体20の周囲の地図データを格納している。図1では、遠隔制御装置10内の移動体制御演算部15が地図データベース60と接続されているが、移動体制御演算部15に限らず、遠隔制御装置10内の各構成要素が地図データベース60に対しアクセスすることができる。移動体20が自動車である場合、地図データベース60には道路の中央座標情報、停止線の情報、白線の情報、および走行可能領域の情報など、自動車の走行に関するデータが含まれることが多い。移動体20が屋内で移動するモビリティロボットである場合は、移動範囲内の構造物の配置や、通路の位置を示したデータ等が含まれている場合が多い。
【0024】
遠隔制御装置10は、時刻同期部11と、受信部12と、伝送遅延計測部13と、伝送遅延分布推定部14と、移動体制御演算部15と、送信部16とを備える。
【0025】
時刻同期部11は、移動体20内の時刻同期部21、環境情報取得部50内の時刻同期部51、物体情報取得部40の時刻同期部41と連携し、データ送受信のタイミングを同期させる機能を有する。
【0026】
受信部12は、物体情報取得部40からの移動体情報および周囲情報と、環境情報取得部50からの周囲情報(環境情報)と、移動体20からの移動体情報とを受信する。
【0027】
移動体情報は、第1の状態量、第2の状態量、および時刻情報を含む。第1の状態量は、移動体20の位置および速度、加速度、角速度などのセンサによって取得される状態量である。第2の状態量は、センサで取得されない状態量であり、後に説明する状態推定部1502などで推定される。時刻情報は、たとえば時刻同期部51で同期された時刻や、時刻同期処理のための情報などである。
【0028】
移動体制御演算部15は、第1の移動体制御演算部15-1を備える。第1の移動体制御演算部15-1は、地図データベース60からの地図情報と、受信部12からの周囲情報および移動体情報とに基づいて、移動体20の移動を制御するための移動体制御量を生成する。移動体制御量は、移動体20を制御するための信号であり、目標経路や目標軌道、移動体20のアクチュエータへの指令値などである。
【0029】
本開示では、移動体20に追従させる経路の位置座標のことを「目標経路」という。また、目標経路の情報に、経路の各点への到達時間の指示など、位置座標以外の指示が含まれる場合、その目標経路のことを「目標軌道」という。目標経路には目標速度(到達時間の指示と同等)が含まれている場合もある。なお、目標軌道に目標経路とともに含まれる情報は、目標速度あるいは目標位置に限定されず、移動体20の状態量であれば何でもよい。
【0030】
伝送遅延計測部13は、時刻同期部11で同期された時刻を用いて、第1の移動体20-1と遠隔制御装置10との間で生じている伝送遅延を計測する。伝送遅延は、移動体情報に含まれる送信時刻と、遠隔制御装置10で移動体情報を受信した受信時刻との差から求めることができる。
【0031】
また、遠隔制御装置10は、移動体20に時刻同期部21が設置されていない場合には以下のようにして伝送遅延を計測することができる。すなわち、まず遠隔制御装置10からパケットを移動体20に送信し、それと同時にその時刻を記録しておく。移動体20で、そのパケットを受信したと同時に遠隔制御装置10に送信し、遠隔制御装置10で受信した時刻と、送信した時刻との差とから伝送遅延を求めることができる。このように求めた伝送遅延はRTT(Round Trip Time)と言われる。同様に、移動体20側で時刻を記録するようにすれば、移動体20から見たRTTを求めることもできる。
【0032】
伝送遅延分布推定部14は、伝送遅延計測部13からの伝送遅延情報を用いて、伝送遅延の確率分布の情報である伝送遅延分布情報を推定する。伝送遅延分布情報は、事前に作成された伝送遅延モデル(伝送遅延の確率分布、伝送遅延のモードなどのモデル)に基づいて推定される。なお、伝送遅延の確率分布の推定を行わず、事前に作成された伝送遅延の確率分布のモデルを、伝送遅延分布情報としてもよく、その場合、伝送遅延分布推定部14は不要となる。
【0033】
送信部16は、ネットワーク30を介して、第1の移動体制御演算部15-1からの移動体制御量を第1の移動体20-1へ送信する。
【0034】
図2は、本実施の形態における第1の移動体制御演算部15-1の構成の一例を示すブロック図である。第1の移動体制御演算部15-1は、参照経路生成部1501と状態推定部1502と、制御演算部1503とを備える。なお、遠隔制御装置10が2以上の移動体20を遠隔制御する場合、移動体制御演算部15には、第2の移動体制御演算部15-2、第3の移動体制御演算部15-3などが追加されるが、それらも同様に、参照経路生成部1501と状態推定部1502と、制御演算部1503とを備える。
【0035】
参照経路生成部1501は、地図データベース60から取得した地図情報および移動体20の位置・姿勢情報から、参照となる経路である参照経路を生成する。移動体20が自動車である場合、参照経路は、車線の中央を表す経路などである。参照経路生成部1501は、ダイクストラ法やA*法などの一般的な方法により、移動体20の初期位置・姿勢から目標位置・姿勢に至るまでの経路を計算し、それを参照経路とすることもできる。
【0036】
状態推定部1502は、受信部12からの移動体情報および、参照経路生成部1501からの参照経路、伝送遅延計測部13からの伝送遅延情報に基づいて、移動体20の状態量のうち第1の状態量とは別の第2の状態量を推定する。第2の状態量は、センサで取得されない状態量である。状態推定部1502は、移動体20の動特性をモデル化した状態方程式と、移動体情報とに基づいて、オブザーバやカルマンフィルタ、パーティクルフィルタなどを適用することで第2の状態量を推定する。遠隔制御装置10は、センサで取得されない第2の状態量も用いて移動体20を制御するため、より精度よく移動体20を遠隔制御することができる。第2の状態量が参照経路との偏差等を含む場合は、状態推定部1502は参照経路情報を利用する。第2の状態量がない場合、すなわち全ての状態量がセンサ等で取得できる場合は、状態推定部1502は不要になる。
【0037】
制御演算部1503は、状態推定部1502からの状態量(第1の状態量および第2の状態量の両方を含む)と参照経路生成部1501からの参照経路に基づいて、移動体20を参照経路に追従させるための移動体制御量を演算する。制御演算部1503の処理については、後ほど詳しく説明する。
【0038】
ここで、移動体20について説明する。移動体20とは、自身のもつ車輪やプロペラ、脚、クローラなどの移動機構により、基準座標系に対する自身のボディ座標系の位置・姿勢を変化させることができる物体である。例えば、例えば自動車、飛行体、ドローン、脚ロボット、探査機、および農作機などである。これら以外にも移動できる物体は移動体20として扱うことができる。なお、移動体20が複数ある場合は、それらの組み合わせでもよい。
【0039】
図3は、本実施の形態における第1の移動体20-1の構成の一例を示すブロック図である。第1の移動体20-1は、時刻同期部21と、内界センサ22と、送信部23と、受信部24と、指令値演算部25と、アクチュエータ26とを備える。遠隔制御装置10が2以上の移動体20、すなわち、第2の移動体20-2、第3の移動体20-3なども遠隔制御する場合、それらも同様に、時刻同期部21と、内界センサ22と、送信部23と、受信部24と、指令値演算部25と、アクチュエータ26とを備える。
【0040】
時刻同期部21は、遠隔制御装置10の時刻同期部11、環境情報取得部50内の時刻同期部51、物体情報取得部40の時刻同期部41と連携し、データ送受信のタイミングを同期させる機能を有する。
【0041】
内界センサ22は、移動体20に設置され、内界情報を移動体情報として出力する。内界情報とは、移動体20の加速度、速度、角加速度、角速度などの慣性に関する情報に加え、移動体20の内部の状態を把握するために必要な情報である。例えば自動車の場合、内界センサ22は、例えば車速センサ、IMU(Inertial Measurement unit)センサ、操舵角センサ、および操舵トルクセンサなどである。
【0042】
送信部23は、ネットワーク30を介して、内界センサ22からの移動体情報を遠隔制御装置10の受信部24へ送信する。
【0043】
受信部24は、遠隔制御装置10の送信部16からの移動体制御量を受信する。
【0044】
指令値演算部25は、内界センサ22からの移動体情報と、受信部24からの移動体制御量とに基づいて、移動体制御量を電流値などに変換し、アクチュエータ26へ出力する。
【0045】
アクチュエータ26は、移動体20の移動機構を駆動するため駆動源であり、移動体20が自動車の場合、電動モータ、車両駆動装置およびブレーキ制御装置などである。この場合、指令値演算部25は、自動車のステアリングを目標操舵量に追従させるために、電動モータへ供給すべき電流値を演算し、演算結果を電動モータへ出力する。
【0046】
次に、第1の移動体制御演算部15-1の制御演算部1503について、図4を用いて説明する。制御演算部1503は、確率系最適化演算部1511と、制御決定部1512とで構成される。
【0047】
確率系最適化演算部1511は、伝送遅延分布情報、移動体20の状態量および参照経路から、予め定めた評価関数を最小化または最大化する最適化演算を行い、最適系列を制御決定部1512に出力する機能を有する。
【0048】
制御決定部1512は、確率系最適化演算部1511からの最適系列を用いて、移動体制御量を決定する機能を有する。
【0049】
本開示に係る技術は、確率モデル予測制御と呼ばれる技術に関している。そこで、ここではまず確率モデル予測制御の説明を行う。
【0050】
なお、以下では、確率変数で表される量を扱う場合「確率的」とし、確率変数で表されない確定的な量を扱う場合は「確定的」とする。また、確率分布として、確率変数が実数を取る場合に使用される確率密度関数を前提に説明を行うが、確率変数が離散値を取る離散確率分布なども同様である。また、以下では、ξは各要素がそれぞれの確率分布に従って値が変動するZ次元の確率的なベクトルであるとする。
【0051】
通常のモデル予測制御は、有限の評価区間であるホライズン間の望ましい挙動を評価関数として表現し、状態方程式で表される制御対象(本開示では移動体20に相当)の動特性および、状態や入力の制約を制約条件とした制約付き最適制御問題を時々刻々と解くことで、制御入力を逐次決定する制御手法である。
【0052】
確率モデル予測制御はこの考えをベースとして、制御対象の状態変数や外乱を確率変数として扱う制御手法である。以下では次の離散時間状態方程式を考える。
【0053】
【数1】
【0054】
数式(1)において、xは時刻k(kは整数)における制御対象の状態を表すn次元のベクトル、uは制御入力を表すm次元のベクトル、zは評価出力を表すr次元のベクトルである。以下では下付きのkは時刻kを表すとする。A(ξ)、B(ξ)、B(ξ)、C(ξ)、D(ξ)、D(ξ)をそれぞれ、ξによって定まるn×n、n×m、n×1、r×n、r×m、r×1の行列であり、これらの行列はその要素がξに依存するような確率的な行列となる。数式(1)では、A:=A(ξ)、Bu,k:=B(ξ)、Bw,k:=B(ξ)、C:=C(ξ)、Du,k:=D(ξ)、Dw,k:=D(ξ)としている。これらの行列が確率的なため、x、zは確率変数となる。
【0055】
確率モデル予測制御では、前述のように時々刻々と制約付き最適制御問題を解くことが行われる。そのためにまず、長さがN(Nは1以上の自然数)のホライズンを考え、ホライズンの初期時刻k=kから終端時刻k=k+Nまでの数式(1)の応答に関する評価関数Jを次の数式(2)のように取る。
【0056】
【数2】
【0057】
ここで、Pはn×n、Qはr×r、Rはm×mの確定的な正定な対称行列である。正定とは、その固有値が0以上の実数の固有値を持つ行列のことである。Pは、制御対象が安定となるように設定され、QとRはホライズン間でzおよびuをどのような挙動とさせるかの仕様によって設定される。上付きのTは転置を表す。ホライズンの初期の状態xk0は状態推定部1502により推定される。E[f]は、写像fに関する期待値演算を表している。すなわち、E[f]は、fが依存している確率変数の同時確率密度関数pとfを掛けた量の多重積分を意味している。より具体的には、xk0+Nはξk0からξk0+Nに依存するため、E[f]は、例えば、次の数式(3)で表される。
【0058】
【数3】
【0059】
期待値演算は線形性を持つため、写像fとgの線形和に対する期待値演算は、次の数式(4)のようになる。
【0060】
【数4】
【0061】
以下では、数式(2)のような形の評価関数を「確率系評価関数」と呼称する。
【0062】
以下、ホライズン間での入力系列Uを、次の数式(5)のように定め、最適化対象の変数ベクトルとして扱うこととする。
【0063】
【数5】
【0064】
このときUはN・m次元のベクトルとなる。また、同様にホライズンN間の状態系列Xs,Nを次の数式(6)のように定める。
【0065】
【数6】
【0066】
このとき、Xs,Nはn・(N-1)次元のベクトルとなる。
【0067】
確率モデル予測制御の場合、状態系列は確率変数となるため、状態系列に対するn個の制約は、次の数式(7)のように確率的となる。
【0068】
【数7】
【0069】
ここで、Hはn×n・(N-1)の確定的な行列である。Hはn次元のベクトルである。βはn次元のベクトルであり、その要素がそれぞれ0から1の範囲の実数を取る。Prはその事象が生じる確率を表しており、数式(7)はHs,Nの各要素がH以下となる確率が、β以上であることを示している。本開示では、数式(7)のような制約を「機会制約」と呼ぶ。
【0070】
一方、次のような状態系列の期待値に対するn個の確定的な制約条件も課すことができる。
【0071】
【数8】
【0072】
ここで、Hはn×n・(N-1)の確定的な行列である。hはn次元のベクトルである。本開示では、数式(8)のような制約を「期待値制約」と呼ぶ。
【0073】
また、入力系列自体にもnc個の確定的な制約条件を課すことができる。
【0074】
【数9】
【0075】
ここで、Hはn×N・mの確定的な行列である。hはn次元のベクトルである。本開示では、数式(9)のような制約を「入力制約」と呼ぶ。
【0076】
これらをまとめると、確率モデル予測制御問題は、数式(1)を状態方程式とし、数式(7)、(8)および(9)を制約条件とし、数式(2)の評価関数Jを最小化するUを探索する最適化問題となる。すなわち、確率モデル予測制御問題は、次の数式(10)のように表させる。
【0077】
【数10】
【0078】
ここで、数式(10)はJの最小化として記載したが、Jを-Jとすれば最大化問題となるため、以降ではJの最小化と最大化は区別せず、最小化で統一する。なお、数式(2)の確率的な最適化問題は最適化変数Uについて2次形式で書かれているため、確率的な2次計画問題となっている。また制約条件を数式(7)、(8)および(9)としたが、それらのすべて用いる必要はなく、問題に適切な制約条件が設定される。
【0079】
数式(10)を解く方法については、様々な手法が提案されているが、その解法やアルゴリズムによっては解が近似解となる場合や、最適化演算に時間がかかるなどの課題がある。本開示では、確率変数ξの確率分布が既知であるとして、確率的な最適化問題である数式(10)を、写像を用いて確定的な最適化問題に変換する技術について開示する。
【0080】
確定的な制約付き最適化問題には、Active Set法や内点法など、効率的かつ高速で最適解を得ることができるアルゴリズムやソルバが多数存在する。以下、これらを「確定的ソルバ」と呼称する。確率的な最適化問題である数式(10)を解くより、一度確定的な最適化問題に変換し、確定的ソルバを用いて解くことで、効率的かつ高速に確率的な最適化問題を解くことができる。
【0081】
図4に戻り、確率系最適化演算部1511について説明する。確率系最適化演算部1511は、確率系評価関数変換部1521および確定系最適化演算部1522で構成される。
【0082】
確率系評価関数変換部1521は、移動体20の状態量および参照経路から、確率系評価関数を、次の式(11)のようなUに関する2次形式の確定的な評価関数に変換する機能を有する。
【0083】
【数11】
【0084】
ここで、HはN・m×N・mの行列、cはN・m次元のベクトルである。const.はUに関する最適化に寄与しない定数項であり、以下では無視する。なお以下では、数式(11)で表せる評価関数を「確定系評価関数」と呼称する。
【0085】
確定系最適化演算部1522は、確率系評価関数変換部1521からの確定系評価関数を、前述した確定的ソルバを用いて、確定系評価関数を最小化するUを求め、最適系列として出力する。
【0086】
以下では具体的に確率系評価関数変換部1521の機能である、数式(2)の確率系評価関数を、数式(11)の確定的な評価関数に変換する具体的な計算方法について述べる。ここでは例として、数式(2)の1項目、すなわち次の数式(12)の計算について説明する。
【0087】
【数12】
【0088】
数式(1)の離散時間状態方程式より、xk0+Nは、次の数式(13)のように書ける。
【0089】
【数13】
【0090】
ここで、次の数式(14)のように定める。
【0091】
【数14】
【0092】
そうすると、数式(13)は次の数式(15)のように書ける。
【0093】
【数15】
【0094】
したがって、数式(12)は、次の数式(16)のように、Uに関する2次形式で書ける。
【0095】
【数16】
【0096】
ここでは数式(2)のうち、数式(12)の項について述べたが、残りの項についても同様にUに関する2次形式で書けるため、数式(2)は最終的に数式(12)の2次形式に変換できる。
【0097】
数式(16)に含まれる期待値演算Eの部分をオフライン処理もしくはオンライン処理で計算することで、確定的ソルバで解ける形となる。なお、期待値演算Eには、例えば次の数式(17)などの計算が含まれる。
【0098】
【数17】
【0099】
k0とAk0が独立でないことから、次の数式(18)の関係が成り立つことに注意が必要である。このことが、確率系評価関数を確定系評価関数に変換することを困難にしている。
【0100】
【数18】
【0101】
本開示の方法によれば、数式(17)のような計算を、写像を用いることで厳密にかつ高速に計算することが可能になる。
【0102】
なお、数式(16)に含まれるようなEの計算については大きく分けて2つの方法がある。1つ目は確率変数ξの従う確率分布を用いてξk0からξk0+Nまでのサンプルパスを複数生成し、数式(17)の標本平均を求める方法である。これは大数の法則に基づく計算であるが、サンプルパスの数が十分でなければ精度が悪く、また計算効率も非常に悪いため、オンライン処理での計算には不向きである。ただし、オフライン処理で事前に標本平均により期待値演算Eの部分を計算しメモリに記録しておき、オンライン処理で該当部分を読み出して使用することは可能である。
【0103】
2つ目の方法は、ξの時刻kに関する関係、すなわち確率過程モデルを用いて解析的に計算する方法である。この方法については、確率過程モデルごとに写像を定義することで、高速に期待値の計算が可能となる。この写像は確率過程モデルによって異なるが、本開示では例として、ξが時刻kに対して独立同分布(「Independent and identical distribution」、以下では「i.i.d.」と略記する)に従う場合と、隠れマルコフモデル(「Hidden Markov Model」、以下では「HMM」と略記する)に従う場合について説明する。その他の確率過程モデルも、モデルごとに同様に写像を定義することが可能である。
【0104】
以下では写像の説明のため、数式(2)の確率系評価関数を、数式(11)に変換する際に生じる項、すなわち次の数式(19)の計算について説明をする。
【0105】
【数19】
【0106】
まず、ξがi.i.d.に従う場合について説明する。ξがi.i.d.に従う場合、ξの確率分布の形状は、時間的に不変であり,かつ値の出方に関して時間的依存性を有しない。i.i.d.の場合、非特許文献1に記載の補題2が使用できる。すなわち、任意のn×nの対称行列Mに対して、次の数式(20)が成り立つことを利用する。
【0107】
【数20】
【0108】
なお、〇と×が合わさった演算記号はクロネッカ積を表す。ここで、Gは、以下の数式(21)を満たすn’×n2の行フルランク行列HAを、数式(22)のようにn’×nの行列HAi(i=1,…,n)に分解し、さらに数式(23)のように表すことによって得られるn’・n×nの行列である。
【0109】
【数21】
【0110】
【数22】
【0111】
【数23】
【0112】
ここで、row(A)は、行列Aの各要素を1行目から順番に並べた行ベクトルである。なお、数式(20)でA(すなわちk=0の場合)のみを考慮しているのは、ξがi.i.d.であり、k=0の場合を考慮すれば十分なためである。
【0113】
数式(20)を用いて、写像VAAを次の数式(24)のように定義する。
【0114】
【数24】
【0115】
この写像を用いて数式(19)を計算する。i.i.d.の場合、異なる時刻ではξは独立であるので、次の数式(25)が成り立つ。
【0116】
【数25】
【0117】
数式(3)を考慮すれば、数式(19)は次の数式(26)のように表すことができる。
【0118】
【数26】
【0119】
ここで、数式(24)の写像を用いれば、次の数式(27)の関係が得られる。
【0120】
【数27】
【0121】
これを繰り返すと、Xを数式(19)とし、X=Pとした漸化式として、次の数式(28)が得られ、効率的にかつ厳密に数式(19)の計算が可能になる。
【0122】
【数28】
【0123】
ここでは、数式(19)の計算について写像を用いた方法を説明したが、数式(2)の確率系評価関数を、数式(11)の確定系評価関数に変換する際に生じる他の項についても同様に写像を定義することで効率的に計算が可能である。たとえば、次の数式(29)などの項が生じるため、数式(20)と同様に、下の数式(30)を満たすGBuを用いて、数式(30)の写像を定義する。
【0124】
【数29】
【0125】
【数30】
【0126】
【数31】
【0127】
この写像を用いると、数式(29)は次の数式(32)のように計算が可能である。
【0128】
【数32】
【0129】
なお、GBuはBu,0を用いて数式(21)、(22)および(23)と同様の手順で求めることができる。
【0130】
このように、i.i.d.の場合は、写像を定義することで、確率系評価関数を確定系評価関数に変換することができる。
【0131】
次に、ξがHMMに従う場合について説明する。HMMは、離散もしくは連続の確率分布に従う系列を出力するモード(状態)が、各モード間で定められた遷移確率に従って遷移するとして構築された確率モデルである。以下、HMMにおける各モードに対応した確率分布を出力分布と呼ぶこととする。
【0132】
HMMの出力およびモードの遷移について説明する。例えば、HMMがある時刻においてモードAであった場合、モードAの確率分布に従った系列を出力する。一方、モードは他のモードへある遷移確率にしたがって遷移し、出力の確率分布が変化する場合もある。例えばモードAからモードBに遷移した場合、モードBである時間区間では、モードBの確率分布に従った系列が出力される。HMM内で現在どのモードかは直接観測できず、その出力系列のみ観測されるため、「隠れ(Hidden)」とされている。
【0133】
以下では、HMMはL個のモードで構成されているとし、それぞれのモードをモード1、モード2、・・・、モードLと呼称する。各モードの出力分布はそれぞれD、D、・・・、Dであり、各時刻kにおけるモードをσ(すなわち、σは1,2,・・・,Lをとる)とする。また、ηは時刻kにおけるHMMが出力する出力系列とし、ηは各時刻においてD、D、・・・、Dのいずれかの出力分布に従うとする。分布Djに従うηは、確率変数η(j)と書くこととする。なお以下では、同じモードになる時刻でのηは各時刻で独立であるとする。また、確率変数ξを、次の式(33)のように表すこととし、σによりその出力分布が異なることを表す。
【0134】
【数33】
【0135】
モードiからモードjへの遷移確率をpijとし、HMMの各モード間の遷移は、既約かつ非周期的なマルコフ連鎖に従うとすると、次の数式(34)の関係が得られる。
【0136】
【数34】
【0137】
数式(35)および(36)で表される遷移行列Πと、時刻kにおける確率ベクトルAとを用いると、モードの時間遷移は数式(37)以下のように表すことができる。
【0138】
【数35】
【0139】
【数36】
【0140】
【数37】
【0141】
次に、i.i.d.の場合の説明と同様に、数式(19)を例にHMMで定義される写像について述べる。HMMの場合、ξが1時刻前のξk-1のみに依存することから、条件付き確率を用いると、次の数式(38)が成り立つ。
【0142】
【数38】
【0143】
数式(3)を考慮すれば、数式(19)は、条件付き期待値を用いて、次の数式(39)のように表すことができる。
【0144】
【数39】
【0145】
数式(39)の条件付き期待値は、ξのうちηには依存せずσのみに依存することから、条件としてσのみを記載している。なお、σk0-1は、kより1時刻前のモードである。
【0146】
数式(39)の計算は、HMMのモードがホライズン間でどのようなパスを経由するかを考慮する必要がある。その考慮のため、時刻kにおけるL個のモードに対応したn×nの行列M(i)(i=1,2,・・・,L)および、M(i)を並べた順序列Mt,kを、次の数式(40)のように定義する。
【0147】
【数40】
【0148】
また、次の数式(41)および(41)で表される写像を定義する。
【0149】
【数41】
【0150】
【数42】
【0151】
ここで、GAiは、モードiでの確率分布Dおよびその出力η(i)を用いて、次の数式(43)のように表される行列である。
【0152】
【数43】
【0153】
Aiは、数式(21)、(22)および(23)と同様の手順で求めることができる。
【0154】
数式(40)、(41)および(42)を用いて、数式(39)を計算する。まず、次の数式(44)のように表すと、数式(39)の最も内部の部分は、数式(45)のように表すことができる。
【0155】
【数44】
【0156】
【数45】
【0157】
ここで、次の数式(46)の漸化式を用いると、数式(39)はさらに、数式(47)のように表すことができる。
【0158】
【数46】
【0159】
【数47】
【0160】
これを繰り返すと、次の数式(48)が計算できる。
【0161】
【数48】
【0162】
この数式(48)は、σk0-1で条件付けられている。この計算のため、時刻k-1での確率ベクトルAk0-1を考える。時刻k-1でHMMがどのモードかを観測できる場合、例えば時刻k-1でモード1であった場合はAk0-1=[1 0 ・・・ 0]で与えられる。また、時刻k-1でのHMMが観測できない場合は、各モードの初期確率によりAk0-1が与えられ、例えば各モードの確率は一様とみなして、次の式(49)などを利用することができる。
【0163】
【数49】
【0164】
このようにして与えられる時刻k-1での確率ベクトルAk0-1を用いれば、次の数式(50)が得られる。
【0165】
【数50】
【0166】
このようにして、効率的にかつ厳密に数式(19)の計算が可能になる。ただし、Ak0-1,iは確率ベクトルAk0-1のi番目の要素である。
【0167】
数式(39)のようなその他の項についても同様に写像と漸化式を定義すればよい。HMMの場合は、このようにして写像を定義することで、確率系評価関数を確定系評価関数に変換することができる。
【0168】
また、ホライズン長さNやHMMの遷移行列Πの要素pijは固定値ではなく、移動体20の周辺の環境に合わせてオンラインで変化させてもよい。
【0169】
ここで説明した確率系評価関数変換部1521での処理は、状態xk0、HMMの初期確率Ak0-1や遷移確率pijなどのオンラインで異なる値を取る項に関わる部分を除けば、多くの部分で確定的な行列や数値となる。そのため、オンライン時に変化しない行列や数値は、オフラインで計算後、メモリに記憶しておき、オンライン時に読み出して利用することで、オンライン処理の高速化が可能である。これにより、ホライズン長さNの増減に対しても高速に処理が可能となる。
【0170】
例えば、i.i.d.の場合、ξの確率分布の形状が変わらない限り、数式(24)の写像で使用されるGは、オンラインで得られる情報によって変化しない。そのため、オフライン処理でGを計算しておき、オンライン処理の際にはGを読み出し後、数式(28)の漸化式を用いることで、確率系評価関数を確定系評価関数に変換が可能である。数の漸化式の計算自体は処理負荷が小さいため、高速に確率系評価関数を確定系評価関数に変換可能となる。
【0171】
また、HMMの場合も同様に、η(i) の確率分布の形状が変わらない限り、数式(41)の写像で使用されるGAiはオンラインで得られる情報で変化しない。そのため、i.i.d.の場合と同様に、オフラインで計算し記録されたGAiをオンライン時に読み出して、数式(46)の漸化式を計算することで、高速に確率系評価関数を確定系評価関数に変換可能となる。
【0172】
以下で説明する制御決定部1512も同様に、オンラインで得られる情報で変化しない行列や数値については、オフライン計算とメモリへの記録、オンライン処理時に読み出すことにより高速化が可能である。
【0173】
なお、移動体20の周囲環境によっては、移動体20の制御時にξやη(i) の確率分布の形状が変化する場合も考えられる。その際は、写像に使用されるGやGAiをオンライン処理で再度計算し直すか、事前に確率分布のパターンが複数あることがわかっている場合は、それぞれのパターンでの確率分布でGやGAiを計算しておき、オンライン処理では確率分布のパターンに合わせたGやGAiを読み出して使用すればよい。
【0174】
このように、確率系評価関数変換部1521は、ξの確率過程モデルを用いることで、確率系評価関数を確定系評価関数に変換する。
【0175】
図4に戻り、制御決定部1512の具体的な動作について説明する。制御決定部1512は、確率系最適化演算部1511から出力されるUの最適系列を用いて、移動体20を制御するための移動体制御量に変換する。
【0176】
移動体制御量は、前述の通り、目標経路や目標軌道、移動体20のアクチュエータ26への指令値である。アクチュエータ26の指令値の場合は、Uに含まれるuk0が制御決定部1512から出力されるが、計算の遅れなどを考慮して、Uに含まれる項、例えばuk0+1などを出力してもよい。
【0177】
移動体制御量として、目標経路や目標軌道を出力する場合は、Uと数式(1)の移動体20の状態方程式とから求める。すなわち、次の数式(51)が用いられる。
【0178】
【数51】
【0179】
数式(51)において、Ψ、Θu,N、およびΘw,Nは、それぞれ以下の数式(52)、(53)および(54)のとおりである。
【0180】
【数52】
【0181】
【数53】
【0182】
【数54】
【0183】
制御決定部1512では、Xs,Nから移動体20の制御に必要な量を抽出し、目標経路もしくは目標軌道として移動体制御量を出力する。しかし、Xs,Nはξの確率分布に依存するため、目標経路や目標軌道も確率分布を持つ。移動体20がそのような確率分布を持った目標経路や目標軌道に対応して制御可能であればそのままでよいが、通常は確率分布から、確定的な目標経路や目標軌道に変換する必要がある。変換の方法は期待値を取る方法や分布の最大値を取る方法など様々あるが、ここではXs,Nの期待値E[Xs,N]を、数式(55)として、E[Xs,N]から目標経路や目標軌道を生成する方法について述べる。
【0184】
【数55】
【0185】
なお、ここでもξがi.i.d.の場合とHMMの場合について説明し、例としてE[Ψ]の計算について述べる。
【0186】
ξがi.i.d.の場合、数式(25)に示したように、ξは時刻kに対して独立であるため、E[Ψ]は次の数式(56)のように計算することが可能である。
【0187】
【数56】
【0188】
ξがHMMの場合、数式(38)に示したように、ξはξk-1に依存する。そのため、例えば、次の数式(57)が成り立つ。
【0189】
【数57】
【0190】
確率系評価関数変換部1521の場合と同様に、時刻kにおけるL個のモードに対応したn×nの行列N (i)(i=1,2,・・・,L)および、N (i)を並べた、次の数式(58)の順序列Nt,kを用いる。
【0191】
【数58】
【0192】
ここで、次の数式(59)で表される写像を定義する。
【0193】
【数59】
【0194】
この写像により、次の数式(60)が得られ、数式(61)のような漸化式が得られる。
【0195】
【数60】
【0196】
【数61】
【0197】
この写像と漸化式とにより、数式(57)は、各モードの初期確率Ak0-1を用いて、次の数式(62)のように計算することが可能である。
【0198】
【数62】
【0199】
ここまで、i.i.d.やHMMのE[Ψ]の計算方法について説明した。E[Θu,N]およびE[Θw,N]についても同様に計算するとが可能である。
【0200】
制御決定部1512は、このように最適系列Uの一部の抽出や、E[Xs,N]を求めることにより、目標経路や目標軌道を生成する。
【0201】
次に、移動体20を遠隔制御する方法について説明する。制御対象(本開示における移動体20)を、ネットワークを介して制御するシステムはネットワーク制御系と呼ばれ、制御対象の状態方程式を導出するためのモデルとして使用される。ここではネットワーク制御系での離散時間状態方程式について説明する。
【0202】
図5は、遠隔制御装置10が移動体20を制御するネットワーク制御系を説明するためのブロック図である。図5において、実線は連続値で表現された信号の入出力を意味し、破線は離散値で表現された信号の入出力を意味する。
【0203】
センサにより取得される移動体20の移動体情報は離散値であるため、移動体情報はサンプラSの出力値に相当する。移動体情報はネットワーク30を介して遠隔制御装置10へ送信されるため、その際に伝送遅延(ここではアップロード伝送遅延Dup)が発生する。移動体情報は、このアップロード伝送遅延Dup分だけ遅れて制御器Ψに入力される。制御器Ψは、移動体情報やその他の情報に基づいて、移動体20を制御するための制御量を出力する。この制御量は、制御演算部1503が出力する移動体制御量に相当する。制御量はネットワーク30を介して移動体20へ送信されるため、その際に伝送遅延(ここではダウンロード伝送遅延Ddw)が発生する。ある時刻で移動体20に入力される制御量は、次に入力されるまでの間、ホールダHによって一定値となる。すなわち、ホールダHは0次ホールドの機能を有する。0次ホールドされた制御量は、移動体20に入力される。
【0204】
ここで、制御対象Pcの連続時間状態方程式は、次の数式(63)のように表される。
【0205】
【数63】
【0206】
、uは連続時間における状態と入力である。上付きの「’」は時間微分を表す。図5のSおよびHは、次の数式(64)を満たすサンプリング時刻tのもとで動作するサンプラおよび0次ホールドである。
【0207】
【数64】
【0208】
サンプリング間隔をh=tk+1-tとすると、図5のようなネットワーク制御系においてhは一定ではなく、非周期的なサンプリングとなる。図5のDupおよびDdwは各時刻kにおいて、送信元から送信先への到達をτuk、τdkだけ遅らせる遅延要素である。
【0209】
ここで確率過程ξを考える。ξ=[ξuk,ξdkとし、定数ε、ε>0を用いて、伝送遅延を次の数式(65)のように表現する。
【0210】
【数65】
【0211】
このとき、次の数式(66)が成り立つ。
【0212】
【数66】
【0213】
ここで、ε、εは確率的に変動する伝送遅延以外の、物理的に決まる伝送遅延としている。サンプラSとホールダHにより、数式(63)は、次の数式(67)のように離散時間状態方程式に変換される。
【0214】
【数67】
【0215】
ここで、連続信号と離散信号の関係は、数式(68)のとおりである。
【0216】
【数68】
【0217】
このとき、Ak、u,kおよびBw,kは次の数式(69)で与えられる。
【0218】
【数69】
【0219】
これよりA、Bu,kおよびBw,kは、ξに依存するランダム行列となる。数式(67)は制御入力がuではなくuk-1となっており、xに応じて決定するuを時刻kの入力として求めることができない。そこで、新たな状態xekを追加した、数式(70)で表される拡大系を用意する。
【0220】
【数70】
【0221】
ここで求めた数式(70)を数式(1)と読み替え、hを伝送遅延が従う確率分布でモデル化することで、前述した制御演算部1503に適用することができる。
【0222】
これまでに遠隔制御装置10の処理について説明した。ここでは、より具体的な例を提示するため、移動体20が自動車の場合について説明する。図6は、移動体20が自動車の場合の移動体20の構成の一例を示す図である。
【0223】
移動体20である自動車200において、ドライバー(すなわち運転者)が自動車200を操作するためのステアリングホイール201は、ステアリング軸202に結合されている。ステアリング軸202は、ラックアンドピニオン機構204のピニオン軸が連接されている。ラックアンドピニオン機構204のラック軸は、ピニオン軸の回転に応じて往復移動自在であり、その左右両端にはタイロッド205を介してフロントナックル206が接続されている。フロントナックル206は、操舵輪としての前輪を回転自在に支持すると共に、車体フレームに転舵自在に支持されている。
【0224】
ドライバーがステアリングホイール201を操作して発生したトルクはステアリング軸202を回転させ、ラックアンドピニオン機構204が、ステアリング軸202の回転に応じてラック軸を左右方向へ移動させる。ラック軸の移動により、フロントナックル206が図示しないキングピン軸を中心に回動し、それにより前輪が左右方向へ転舵する。よって、ドライバーは、自動車200が前進・後進する際にステアリングホイール201を操作することで、自動車200の横移動量を変化させることができる。なお、自動車200が、完全自動運転などを行うドライバー非搭乗型である場合、ステアリングホイール201のようなドライバー操作のための構成要素は不要となる。
【0225】
自動車200には、図3に示した内界センサ22として、車速センサ220、IMUセンサ221、操舵角センサ222、および操舵トルクセンサ223などが設置されている。
【0226】
また、自動車200には、図3に示したアクチュエータ26として、横方向の運動を実現するための電動モータ203、自動車200の前後方向の運動を制御するための車両駆動装置207、およびブレーキ制御装置210などが設置されている。
【0227】
電動モータ203は、一般的にはモータとギアとで構成され、ステアリング軸202にトルクを与えることで、ステアリング軸202を自在に回転させることができる。つまり、電動モータ203は、ドライバーのステアリングホイール201の操作と独立して、前輪を自在に転舵させることができる。
【0228】
車両駆動装置207は、自動車200を前後方向に駆動する。車両駆動装置207は、例えばエンジンやモータなどの駆動源で得られた駆動力を、図示しないトランシミッションとシャフトとを介して、前輪および後輪を回転させる。これにより、車両駆動装置207は、自動車200の駆動力を自在に制御することが可能である。
【0229】
ブレーキ制御装置210は、自動車200を制動するものであり、自動車200の前輪および後輪それぞれに設置されたブレーキのブレーキ量を制御する。一般的なブレーキは、前輪および後輪と共に回転するディスクロータに、油圧を用いてパッドを押し付けることによって、制動力を発生させる。
【0230】
カメラ230は、自動車200の周囲に存在する区画線、障害物などを検出し、物体情報取得部40として機能する。
【0231】
移動体制御装置250は、図3に示した指令値演算部25に相当し、自動車200の走行を制御する。すなわち、移動体制御装置250は、内界センサ22である車速センサ220、IMUセンサ221、操舵角センサ222、操舵トルクセンサ223などで取得される移動体情報と、遠隔制御装置10から受信した移動体制御量とに基づいて、アクチュエータ26である電動モータ203、車両駆動装置207、ブレーキ制御装置210などを制御する。
【0232】
なお、図示は省略するが、自動車200には、図3に示した時刻同期部21、送信部23および受信部24も搭載されている。
【0233】
自動車200に搭載された各装置は、自動車200内のCAN(Controller Area Network)やLAN(Local Area Network)などを用いてネットワーク30の一部を構成しており、ネットワーク30を介してそれぞれの動作に必要な情報を取得することが可能である。また、内界センサ22である車速センサ220、IMUセンサ221、操舵角センサ222、および操舵トルクセンサ223も、ネットワーク30を介して相互にデータの送受信が可能である。
【0234】
移動体20の動特性ごとにその動特性をモデル化した連続時間状態方程式が求まる。本開示では各種の移動体20へ適用可能な遠隔制御装置10を提供するが、ここでは移動体20が自動車200である場合を例として詳細に説明する。なお、移動体20を制御する方法は数多く提案されているが、本実施の形態では参照経路に対する横方向の運動の制御方法ついて説明する。
【0235】
まず、移動体20の横方向の動特性を表す連続時間状態方程式について、図7を用いて説明する。図7のX軸、Y軸を持つ座標系は基準座標系であり、x軸、y軸を持つ座標系はボディ座標系である。基準座標系で表された参照経路に対する移動体20の横偏差および偏角をそれぞれ、e、eθとすると、移動体20の横方向の連続時間状態方程式は次の数式(71)で表される。
【0236】
【数71】
【0237】
数式(71)において、x、A、Bcu、Bcwは、次の数式(72)のとおりである。
【0238】
【数72】
【0239】
上付きの「’」は時間微分を表す。また、各記号は以下のように定義されている。
:車速[m/s]
δ:舵角[rad]
κ:参照経路の曲率[1/m]
m:質量[kg]
:重心-前車輪軸間距離[m]
:重心-後車輪軸間距離[m]
:ヨー軸周りの慣性モーメント[kg・m2]
:前輪コーナリングスティフネス[N/rad]
:後輪コーナリングスティフネス[N/rad]
:参照経路から自動車の重心までの横偏差[m]
’:eの時間微分[m/s]
θ:参照経路から自動車の重心までの偏角[rad]
θ’:eθの時間微分[rad/s]
コーナリングスティフネスとは、移動体20に発生する横力と横滑り角との関係を表す比例係数であり、例えば、乾燥面と湿潤面、凍結面など移動体20と路面の接触面の状態によって変化する値である。
【0240】
参照経路の曲率κについては、ホライズンN間の予測値が必要となる。その予測の方法として複数考えられるが、ホライズンN間でκは一定値をとると仮定し、ホライズン間で同じκの値を用いるのが最も簡単な方法である。
【0241】
その他の方法として、移動体20は等速で参照経路上を運動するなどの仮定により、ホライズンN間での移動体20の参照経路上の予測位置を求める。参照経路の情報として、参照経路上の各点の曲率が含まれている場合は、その予測位置での参照経路の曲率を読み出して使用すればよい。また、参照経路がスプラインや多項式などで表現されている場合は、予測位置での曲率を計算できる。すなわち、例えば参照経路がY=fr(X)等で表現されている場合は、予測位置での曲率は次の数式(73)で求まる。
【0242】
【数73】
【0243】
なお、参照経路がX、Y点群などで表現されている場合は、点群を一度スプラインや多項式の滑らかな関数で近似し、数式(73)を計算することにより曲率が求まる。また、曲率をばらつきのあるパラメータとして扱い、確率分布をもつ確率変数としてξに含め、数式(1)に組み入れることが可能である。
【0244】
数式(71)の連続時間状態方程式を伝送遅延の確率分布より定まるサンプリング間隔hおよび、数式(69)および(70)を用いれば、数式(1)の形で移動体20の遠隔制御の状態方程式が導かれる。なお、hは伝送遅延のみを含む説明をしたが、確定系最適化演算部1522は、その処理時間にばらつきが生じるため、hに確率系最適化演算部1511の処理時間のばらつきを表現した確率変数を含めてもよい。
【0245】
次に伝送遅延の確率モデルについて述べる。確率モデルには、確率分布の形状および、確率分布の時間依存性、すなわち確率過程モデルを考慮する必要がある。
【0246】
伝送遅延の確率分布の形状について、例えばレイリー分布や対数正規分布などが提案されているが、本開示の方法は確率分布の形状に何を使ってもよい。そのため、例えば事前に伝送遅延のデータを計測しておき、そのデータを用いてヒストグラムを作成し、得られたヒストグラムを伝送遅延の確率分布として扱うことも可能である。
【0247】
また、確率過程モデルについてはすでに説明したi.i.d.やHMMなどが考えられるが、本開示の方法においては、数式(24)や数式(41)のような写像が定義できればどのようなモデルを使っても問題ない。
【0248】
ここでは、伝送遅延がHMMでモデル化できる理由について、図8図9を用いて説明する。図8は、伝送遅延の時系列の例を示す説明図である。図は横軸に時刻、縦軸に伝送遅延量を取った系列であり、伝送遅延計測部13の出力を用いて容易に取得することができる。
【0249】
伝送遅延は、専用回線などを使わない場合、一般に一定の値を取ることはほとんどなく、常にばらついた値を取る。その様子は図8に示す通りであるが、ばらつき方が、ある時間区間ごとに変化していることがわかる。図の時間区間1や時間区間3、あるいは時間区間4や時間区間6はそれぞれ同程度のばらつき方をしており、時間区間2や、時間区間5は明らかに大きな伝送遅延が生じやすい区間となっている。
【0250】
ここで、伝送遅延はHMMに従って系列を出力していると考えると、同傾向のばらつき方をする時間区間ではHMMにおける同じモードであるとみなすことができる。すなわち時間区間1と時間区間3、時間区間2と時間区間4は同じモードであると考え、それぞれモード1、モード2とし、同様に時間区間2や時間区間5は、それぞれモード3、モード4などと考えることができる。
【0251】
これらをHMMで表すと、図9のようにモデル化できる。図9は全部で4モードを持つHMMである。モード1では、比較的平均と分散が小さな正規分布を出力としたHMMを構成することができる。モード2では、平均と分散が大きな正規分布を出力としたHMMを構成することができる。モード3では、平均値の小さな指数分布を出力としたHMMを構成することができる。モード4では、平均値の大きな指数分布を出力としたHMMを構成することができる。ただし、これらの分布はあくまでイメージであり,実際の通信遅延は正規分布のように負の値をとることはないことに注意する必要がある。
【0252】
ここで、pij(i=1,2,3,4、j=1,2,3,4)を遷移元のモードiから遷移先のモードjへの遷移確率としており、たとえば遷移元モードを1とした場合に、p11,p12、p13はそれぞれモード1からモード1、モード1からモード2、モード1からモード3への遷移確率を表している。モード2、モード3、モード4についてもそれぞれ同様である。このようにして伝送遅延モデルの一例としてHMMで伝送遅延をモデル化することができる。
【0253】
伝送遅延がこのようなモデルとなる理由について、本開示に係る技術の考案者らの見解を述べる。一般なネットワーク30の場合、データの送受信の単位であるパケットを正しい送り先に効率的にかつ、高い信頼性で届けるため、経路制御が行われる。この経路制御によって、パケットの経路が変更される場合があり、モードの遷移はその経路の切り替わりの状況を表現していると解釈することができる。このような経路制御は、小規模なネットワーク30では、その頻度が少ないが、大規模なネットワーク30の場合、経路の切り替わりの頻度や伝送遅延のばらつき方の変化が大きくなる。このような経路の切り替わりはHMMにおけるモードの切り替わりと解釈することができる。ただし、実際にはその他の要因、例えば移動体20の周囲の状況なども原因となり得る。
【0254】
本開示では、HMMの説明に図9の構成を用いたが、モードの増減や、各モードの確率分布は任意に設定することができる。
【0255】
伝送遅延がHMMでモデル化できる場合、HMMのモードを伝送遅延分布推定部14で推定し、確率系評価関数演算部での処理に利用することができる。すなわち、ホライズンN間の初期のモード確率として使用することもできる。
【0256】
次に、数式(1)のzを設計する。まず自動車を参照経路に追従させるために、xの要素をすべて0に収束させる必要がある。したがって、次の数式(74)の関係が成り立つようにすれば、制御演算部1503はxが0に収束するような最適系列を出力する。
【0257】
【数74】
【0258】
ここでは、数式(74)のようにzを設計したが、移動体20の位置・姿勢にノイズが加わる場合には、eやeθに乗法的ノイズや加法的ノイズを加えるようにすれば、それらを考慮することが可能となる。この場合、確率変数を新たに考慮し、加法的ノイズの場合はDw,kにかかる要素にその確率変数を設定し、乗法的ノイズの場合はCのeとeθにかかる要素にその確率変数を設定すればよい。また、同様にしてe’やeθ’の確率分布も考慮することができる。
【0259】
数式(72)において、Bcwは参照経路の曲率を考慮した項となっている。本開示では、この項を考慮した状態方程式を用いることで、特許文献1で考慮できなかった参照経路の曲率を考慮することができ、参照経路への追従性を向上させる効果が発生する。
【0260】
なお、本開示では評価関数を数式(2)のように最適化変数Uに対して2次計画問題としているが、1次の計画問題、すなわち評価関数をUに対して1次となるようにしてもよい。この場合、線形計画問題と呼ばれるが、本開示で示した方法と同様の方法で、確率計画問題から確定的な最適化問題に変換が可能である。この場合、確定的ソルバとして線形計画法などを用いた効率的なソルバを用いればよい。
【0261】
また、本開示では数式(72)のような状態方程式を使用したが、移動体20に合わせて変更する必要がある。
【0262】
なお、数式(72)で使用されている質量mや慣性モーメントI、コーナリングスティフネスCやCのパラメータは、乗員の数や自動車と路面との接触面の状態によって変化する場合がある。これらについて、直接観測することはできないが、確率分布はわかっている場合、その確率分布をもつ確率変数をξに含め、数式(1)に組み入れることが可能である。これにより、より高精度な移動体制御が可能となる。なお、自動車以外の移動体20についても、移動体20の動特性の不確かな部分を確率変数に加えることで、より高精度な移動体制御が可能となる。
【0263】
本開示に示す方法では、参照経路の情報(現在時刻から見たらホライズン間での未来の情報)を使用するため、参照経路に曲率を含む場合においても参照経路への追従性を向上可能な遠隔制御装置10を提供できる。
【0264】
<実施の形態2>
実施の形態2では、移動体20の周辺に障害物が存在する場合でも障害物を回避することで安全を確保可能な遠隔制御装置10を提供する。なお、実施の形態1と同じ内容の点については説明を省略する。
【0265】
図10は、実施の形態2における遠隔制御装置10の機能ブロック図を表す。実施の形態1の遠隔制御装置10の構成(図1)に対して、障害物移動予測部17が追加される。
【0266】
障害物移動予測部17は、受信部12からの周囲情報や地図データベース60からの地図情報を用いて、ホライズンNの間の障害物の位置を予測し、その予測結果を障害物予測情報として出力する機能を有する。障害物の移動の予測方法として、例えば周囲情報に障害物の速度情報が含まれる場合は、障害物が等速直線運動を行うと仮定し予測する方法、機械学習により学習された障害物移動予測モデルを用いて予測する方法など既存の様々な方法が適用できる。障害物移動予測部17は、ホライズンN間の障害物の位置が予測できれば、どのような方法を用いてもよい。
【0267】
図11は、実施の形態2における移動体制御演算部15(第1の移動体制御演算部15-1)の構成である。実施の形態2の移動体制御演算部15の構成(図2)に対して、障害物移動予測部17からの障害物予測情報が、制御演算部1503で使用できるように結合される。
【0268】
図12は、実施の形態2における確率系最適化演算部1511の機能ブロック図である。実施の形態1の制御演算部1503(図4)が備える確率系最適化演算部1511の構成に対して、制約演算部1523が追加されている。
【0269】
制約演算部1523は、参照経路および障害物予測情報を用いて障害物を回避するための確定的な制約条件を生成する機能を有する。ここで確定的な制約条件とは、次の数式(75)のように確率を含まないn個の制約条件であり、本開示では「確定系制約条件」と呼称する。
【0270】
【数75】
【0271】
ここで、Hはn×m・Nの確定的な行列であり、hはn次元のベクトルである。
【0272】
確率モデル予測制御における制約条件として、数式(7)、(8)、(9)のように、機会制約、期待値制約、入力制約などがあることはすでに示した。このうち、入力制約については、数式(7)をそのまま利用すればよい。また、期待値制約については、数式(8)におけるE[Xs,N]を、数式(55)を用いて計算すればよい。すでに示したようにi.i.d.やHMMなどの確率過程モデルを用いれば、高速かつ厳密に計算が可能となる。
【0273】
機会制約を確定的な制約条件に変換する方法は、チェビシェフの不等式、カンテリの不等式などの確率不等式を用いる方法、一般化多項式カオスによる方法、期待値制約へ変換する方法(保守的近似)など、様々提案されている。これらの手法を用いれば、数式(7)の機会制約は、確定的な制約条件に変換することができる。
【0274】
制約演算部1523は、機会制約、期待値制約、入力制約を合わせて、数式(75)のような確定系制約条件を演算し、確定系最適化演算部1522に出力する。
【0275】
確定系最適化演算部1522は、確率系評価関数変換部1521からの確定系評価関数を、制約演算部1523からの確定系制約条件のもとで最適化を行い、最適系列を出力する。
【0276】
制約演算部1523の動作の説明について、図13を用いて説明する。図13では、自動車の参照経路を、間隔が2Lの区画線の間の中心線としており、静止している障害物が参照経路の付近に存在するシーンが示されている。自動車はこの場合、静止障害物に近寄らないような制約を守る必要がある。図13の黒点はホライズンNの間の、参照経路近傍の移動体20の予測位置であり、移動体20が参照経路上を等速で運動するなどの仮定により求まる。
【0277】
制約演算部1523はこのような場合、静止障害物に必要以上に近寄らないようにするために、静止障害物を含むような大きさの回避領域を設定し、この回避領域に対して制約を設定する。図13の場合は、区画線の位置に対してLoだけ内側に回避領域を設定している。ホライズンN間の時刻、k=k+i、k=k+i、k=k+iに静止障害物の回避領域に近づくような予測がされたとする。これらの時刻での横位置偏差ey,k0+i1、ey,k0+i2、ey,k0+i3について次の数式(76)のような機会制約を設定する。
【0278】
【数76】
【0279】
βcについては例えば0.95のように設定すれば95%以上の確率で、移動体20が回避領域に入らないようにすることができる。また、期待値制約で問題ない場合は、次の数式(77)のようにすればよい。
【0280】
【数77】
【0281】
なお、その他の時刻でのeについては区画線の間からはみ出さないような制約を設定する。このようにey,k0+i1、ey,k0+i2、ey,k0+i3は関する制約は、適当なDcと、Xs,Nにより表現ができるため、数式(7)のように書くことができる。
【0282】
本実施の形態では、静止障害物の回避の例について述べたが、障害物が移動する場合でも同様に障害物を回避することができる。具体的には、ホライズンN間の障害物の予測位置に合わせて、制約を設ければよい。
【0283】
なお、障害物移動予測部17で伝送遅延の確率分布を考慮して、移動体20の位置やその確率分布を予測してもよい。
【0284】
本実施の形態の構成により、障害物を回避可能な遠隔制御装置10が提供できる。
【0285】
<実施の形態3>
実施の形態3では、移動体20の横方向と前後方向の制御を分離することで、前後方向と横方向の移動の制御を同時に行うことが可能な遠隔制御装置10を提供する。なお、実施の形態1、2と同じ内容の点については説明を省略する。
【0286】
そのような遠隔制御装置10が必要な理由を説明する。ここで、前後方向とは、図7のボディ座標系においてはx軸方向を示し、横方向とは、y軸方向を示す。一般に制御対象が移動体である場合は、その運動拘束により、前後方向の移動と横方向の移動とが連成する。そのため、前後方向と横方向の運動を同時に制御することが望ましいが、この場合、移動体20の状態方程式が状態に対して非線形となり、扱いが複雑になる。実際に、数式(72)のように横方向の状態方程式に速度vが含まれていることがわかる。このため、前後方向についてまず制御を行い、その情報を用いて横方向の制御を行うのが好適である。
【0287】
以下、実施の形態3における遠隔制御装置10の移動体制御演算部15が備える制御演算部1503の2つの構成例を示す。
【0288】
図14に、実施の形態3における制御演算部1503の第1の構成例を示す。図14のように、第1の構成例における制御演算部1503は、前後方向制御部1531、横方向制御部1532および制御決定部1533で構成される。
【0289】
前後方向制御部1531は、参照経路、障害物予測情報、状態量を用いて、ホライズンN間の前後方向系列を出力する機能を有する。横方向制御部1532は、前後方向系列、参照経路、障害物予測情報、状態量を用いて、ホライズンN間の横方向最適系列を出力する機能を有する。制御決定部1533は、前後方向系列および横方向最適系列から移動体20を制御するための移動体制御量を決定する。
【0290】
前後方向制御部1531は、更に速度計画部1541で構成される。速度計画部1541の出力について、図15を用いて説明する。図15において、横軸は時刻、縦軸はその時刻での速度を表しており、速度計画部1541はホライズンの開始時刻kからk+Nまでのそれぞれの時刻での速度を前後方向系列として演算し、出力する。特に、図15では通常走行区間、カーブ区間、アプローチ区間、停車区間での速度系列を示しており、通常走行では指定された速度、カーブ区間では参照経路の曲率に合わせた減速、アプローチ区間では、障害物手前で停止するための減速、停車区間では停車を維持するような速度系列の例を示している。前後方向制御部1531は、このような動作をする速度計画部1541からの前後方向系列を出力する。
【0291】
横方向制御部1532は、更に確率系最適化演算部1551で構成される。確率系最適化演算部1551は、前後方向制御部1531からの前後方向系列を反映し、横方向最適系列を演算する。いま、前後方向系列を考慮するため、数式(1)を外部からのパラメータqに依存するように書き直す。すなわち、横方向制御部1532は、数式(1)を次の数式(78)のように書き直す。
【0292】
【数78】
【0293】
数式(78)では、A、B、B、C、D、Dの行列が、確率変数ξと外部からの確定的なパラメータqに依存していることを表している。本開示の場合、qは前後方向制御部1531からの前後方向系列に相当する。より具体的には、数式(72)のように状態方程式が速度vに依存しているため、qをホライズン間のvとみなすことに相当する。
【0294】
この場合、確率系評価関数変換部1521で使用される数式(24)や数式(41)の写像を変更する必要がある。たとえば、数式(24)の場合、Gがqに依存するようになる。すなわち、写像VAAは次の数式(79)のように定義される。
【0295】
【数79】
【0296】
(q)の計算方法については、数式(21)、(22)および(23)の計算の過程において、A(ξ)ではなくA(ξ,q)として計算すればよい。G(q)については、qが得られた際に逐次計算するとしてもよいが、計算に時間がかかるためオンライン処理に向かない。そのため、事前にqの範囲、例えば0[km/h]から100[km/h]の範囲でしか制御しない場合には、その速度間をNq点で分割し、その分割された点をq,q,・・・,qNqとし、それぞれの分割点でのG(q)のマップをオフライン処理で求める。オンライン処理ではオフライン処理で求めたマップを用いて内挿等により効率的にG(q)を用いることができる。これにより、qに応じて写像を定義することができる。
【0297】
ここではi.i.d.の場合の写像について述べたが、HMMの場合の写像についても同様の方法でqに応じて写像を定義することができる。
【0298】
制御決定部1533は、前後方向系列および横方向最適系列から、移動体制御量を出力する。具体的には、実施の形態1と同様に、目標経路や目標軌道、移動体20のアクチュエータ26への指令値を出力する。
【0299】
制御演算部1503の第1の構成例により、移動体20の横方向のみではなく、前後方向も同時に制御可能な遠隔制御装置10が提供できる。
【0300】
図16に、実施の形態3における制御演算部1503の第2の構成例を示す。この構成では、前後方向の制御に確率モデル予測制御を適用することで、さらに性能向上が可能な遠隔制御装置10を提供する。本実施の形態に示す構成により、加速度の変化を抑えるなど、乗り心地を向上させることができる。第1の構成例との違いは、前後方向制御部1531が確率系最適化演算部1542と前後方向制御決定部1543で構成されている点である。本構成では、前後方向制御部1531においても確率モデル予測制御を用いることが特徴となる。
【0301】
確率系最適化演算部1542は、参照経路、障害物予測情報、状態量を用いて、前後方向最適系列を出力する。
【0302】
移動体20の前後方向の状態方程式は、目標加速度uから車速vまでの連続時間状態方程式を、時定数Tの一次遅れ系としてモデル化すると、前後方向加速度αおよび重力加速度g、参照経路の勾配θを用いて次の数式(80)のように表すことができる。
【0303】
【数80】
【0304】
数式(80)におけるx、A、Bau、Bawは、次の数式(81)のとおりである。なお、θは地図データベース60などに含まれるとしている。
【0305】
【数81】
【0306】
実施の形態1で示した横方向の連続時間状態方程式の場合と同様に、サンプリング間隔をhとした場合の数式(69)(70)を用いた離散化および拡大系の構築後、数式(74)のような出力を考慮し、数式(2)の評価関数を構築すればよい。
【0307】
このとき、評価関数のQについてαを抑えるように調整を行えば、乗り心地を向上させることができる。また、障害物が前方にある場合には、制約条件を適切に設定することで、障害物の手前で停止させることや、障害物が移動している場合はその速度に追従させるなどの挙動を実現することができる。
【0308】
確率系最適化演算部1542のその他の処理については実施の形態1に説明した確率系最適化演算部1511の内容と同様であり、ホライズンN間の移動体20の前後方向最適系列UaNが出力される。
【0309】
前後方向制御決定部1543は、前後方向最適系から、前後方向系列を出力する機能を有する。具体的には、前後方向最適系列UaNおよび数式(80)、数式(51)を用いて、ホライズンN間の速度の系列を出力する。
【0310】
また、本開示では数式(81)のような状態方程式を使用したが、移動体20に合わせて変更する必要がある。
【0311】
本実施の形態の構成により、前後方向の乗り心地を考慮可能な遠隔制御装置10が提供できる。
【0312】
<実施の形態4>
実施の形態4では、複数の移動体20を同時に制御することが可能な遠隔制御装置10を提供する。なお、実施の形態1、2、3と同じ内容の点については説明を省略する。
【0313】
図17は、本実施の形態において2以上の移動体20を制御する場合の遠隔制御装置10の構成の一例を示すブロック図である。図17の遠隔制御装置10の構成は、移動体20が複数の移動体(第1の移動体20-1、第2の移動体20-2、・・・、第Mの移動体20-M)を含む点、グローバル行動計画部18を更に備える点、および移動体制御演算部15が複数の移動体を制御する複数の移動体制御演算部(第1の移動体制御演算部15-1、第2の移動体制御演算部15-2、・・・、第Mの移動体制御演算部15-M)を含む点で、図1図10とは異なる。これら以外は、図1図10と同じであるため、説明を省略する。
【0314】
受信部12は、物体情報取得部40からの移動体情報と周囲情報、環境情報取得部50からの周囲情報、および各々の移動体20からの移動体情報を受信する。
【0315】
伝送遅延計測部13は、受信部12からの移動体情報に基づいて、2以上の移動体20のそれぞれの伝送遅延を演算する。
【0316】
伝送遅延分布推定部14は、伝送遅延計測部13からの2以上の移動体20のそれぞれの伝送遅延情報に基づいて、2以上の移動体20のそれぞれの伝送遅延分布情報を演算する。
【0317】
グローバル行動計画部18は、周囲情報および移動体情報を用いて、2以上の移動体20のそれぞれのグローバル目標行動を演算し、移動体制御演算部15に出力する機能を有する。目標行動とはそれぞれの移動体20の目標となる行動であり、例えば、通常走行、減速する、障害物回避する、停止する、車線変更する、路肩回避する、緊急回避するなどである。目標行動は、これらの行動を数値的もしくはシンボリック(例えば、目標行動A、目標行動Bなど)に表現したものを含む。また目標行動は、それぞれの行動の目標となる信号、例えば停止する場合は目標の停止位置、車線変更する場合は目標の車線番号などが含まれている。
【0318】
グローバル目標行動は、それぞれの移動体20への目標行動をまとめた信号である。また、グローバル目標行動は、2以上の移動体20の行動順を示す優先度を含む場合もある。
【0319】
移動体制御演算部15は、グローバル行動計画部18からのグローバル目標行動および周囲情報、移動体情報を用いて2以上の移動体20を制御するための移動体制御量を演算する。詳細については、後ほど説明する。
【0320】
なお、伝送遅延分布推定部14は、2以上の移動体20のネットワーク30の環境や周囲の状況がほぼ同等とみなせる場合は、それら2以上の移動体20の伝送遅延分布情報を同じとみなす。例えば移動体20が第1の移動体20-1および第2の移動体20-2の2台である場合、伝送遅延分布推定部14は、第1の移動体20-1の伝送遅延分布情報と第2の移動体20-2の伝送遅延分布情報とを同じとみなす。すなわち、第1の移動体20-1の伝送遅延分布情報もしくは第2の移動体20-2の伝送遅延情報のどちらかを一方を使用して単一の伝送遅延分布を演算し、第1の移動体制御演算部15-1および第2の移動体制御演算部15-2に出力する。このような構成では、伝送遅延分布推定の演算が一度で済み、計算負荷を下げることができる。移動体20が3台以上の場合にも同様である。
【0321】
送信部16は、ネットワーク30を介して、移動体制御演算部15が出力する複数の移動体20の移動体制御量を、複数の移動体20へ送信する。例えば、第1の移動体制御演算部15-1からの移動体制御量は、第1の移動体20-1へ送信され、第2の移動体制御演算部15-2からの移動体制御量は、第2の移動体20-2へ送信される。
【0322】
以下、実施の形態4における遠隔制御装置10が備える移動体制御演算部15の3つの構成例を示す。
【0323】
図18に、実施の形態4における移動体制御演算部15の第1の構成例を示す。図18の移動体制御演算部15は、第1の移動体20-1、第2の移動体20-2、・・・、第Mの移動体20-Mをそれぞれ制御する第1の移動体制御演算部15-1、第2の移動体制御演算部15-2、・・・、第Mの移動体制御演算部15-Mを備える。例えば、第1の移動体制御演算部15-1は、障害物予測情報と、地図情報と、第1の移動体20-1の移動体情報と、第1の移動体20-1の目標行動と、第1の移動体20-1の伝送遅延分布情報とに基づいて、第1の移動体20-1への制御量を演算する。同様に、第2の移動体制御演算部15-2は、障害物予測情報と、地図情報と、第2の移動体20-2の移動体情報と、第2の移動体20-2の目標行動と、第2の移動体20-2の伝送遅延分布情報とに基づいて、第2の移動体20-2への制御量を演算する。
【0324】
このような構成とすることで、複数の移動体20を遠隔制御することができる。ただしこの構成ではグローバル行動計画が、移動体20それぞれの目標行動を計画する必要があり、処理が複雑となり、かつ処理負荷が高くなる傾向がある。移動体20の台数が少ない場合は第1の構成例で問題ないが、以下に示す第2の構成例および第3の構成例が好適である。
【0325】
図19に、実施の形態4における移動体制御演算部15の第2の構成例を示す。図19の移動体制御演算部15も、複数の移動体20を制御する第1の移動体制御演算部15-1、第2の移動体制御演算部15-2、・・・、第Mの移動体制御演算部15-Mを備える。ただし、第1の移動体制御演算部15-1、第2の移動体制御演算部15-2、・・・、第Mの移動体制御演算部15-Mのそれぞれが制御する移動体20は、グローバル行動計画部18で演算された複数の移動体20それぞれの優先度によって決まる。ここで、優先度は、高いものから順に、優先度1、優先度2、・・・と表すものとする。すなわち、第1の移動体制御演算部15-1は、優先度1の移動体20の移動体制御量を演算し、第2の移動体制御演算部15-2は、優先度2の移動体20の移動体制御量を演算する。
【0326】
また、第1の移動体制御演算部15-1、第2の移動体制御演算部15-2、・・・、第Mの移動体制御演算部15-Mによる移動体制御量の演算は、優先度の高い順に行われる。つまり、第1の移動体制御演算部15-1、第2の移動体制御演算部15-2、・・・、第Mの移動体制御演算部15-Mのそれぞれは、先に演算が完了した自己が制御する移動体20よりも優先度の高い他の移動体20の移動体制御量から求められる目標軌道を、自身の制約条件として使用する。
【0327】
具体的には、まず、第1の移動体制御演算部15-1が、優先度1の移動体20の制御量を演算し、その次に、第2の移動体制御演算部15-2が、優先度2の移動体20の制御量を演算する。このとき、第2の移動体制御演算部15-2は、すでに演算が完了した優先度1の移動体制御量を制約条件として、優先度2の移動体20の移動体制御量を演算する。優先度3以降の移動体20の制御量も同様に、すでに演算が完了している他の移動体20の移動体制御量を制約条件として演算される。
【0328】
優先度に応じて複数の移動体20を制御する例として、交差点で複数台の移動体20を制御する例を、図20を用いて説明する。図20は、交差点付近に第1の移動体20-1と第2の移動体20-2が接近しているシーンである。
【0329】
グローバル行動計画部18は、第1の移動体20-1および第2の移動体20-2のそれぞれに優先度を付与する。図20の状況では、第1の移動体20-1の方が先に交差点に進入するため、グローバル行動計画部18は、第1の移動体20-1に対して優先度1を付与し、第2の移動体20-2には優先度2を付与する。また、グローバル行動計画部18は、第1の移動体20-1および第2の移動体20-2それぞれの目標行動(例えば、通常走行など)を、グローバル目標行動として出力する。
【0330】
移動体制御演算部15においては、まず第1の移動体制御演算部15-1が優先度1の移動体20、すなわち第1の移動体20-1の移動体制御量を演算する。第1の移動体20-1は、第2の移動体20-2よりも優先度が高いので、第1の移動体20-1についてはそのまま交差点を通過するような移動体制御量が演算される。
【0331】
次に、第2の移動体制御演算部15-2が、優先度2の移動体20、すなわち第2の移動体20-2の移動体制御量を演算する。このときすでに第1の移動体20-1の移動体制御量が演算されており、第1の移動体20-1の移動体制御量には目標軌道、すなわちホライズンN間の第1の移動体20-1の位置・姿勢などの情報が含まれている。第2の移動体制御演算部15-2は、第1の移動体20-1の位置の情報を制約条件として扱い、第2の移動体20-2の移動体制御量を演算する。図20の例では、第1の移動体20-1がそのまま交差点を通過する目標軌道が制約として扱われるため、その制約条件により、第2の移動体20-2については交差点の手前の位置で停止するような移動体制御量が演算される。
【0332】
このような構成とすることで、グローバル行動計画部18が行う処理は、各移動体20の優先度を定める処理などの簡単な処理でよくなる。しかし、各移動体20の移動体制御量の演算処理が、それよりも優先度が高い他の移動体20の移動体制御量の演算処理が完了するのを待って行われるため、全体の処理時間は比較的が長くなる傾向になる。移動体20の数が少ない場合はこの構成で良いが、多い場合には第3の構成例が好適である。
【0333】
図21に、実施の形態4における移動体制御演算部15の第3の構成例を示す。図21の移動体制御演算部15は、第1の移動体20-1、第2の移動体20-2、・・・、第Mの移動体20-Mをそれぞれ制御する第1の移動体制御演算部15-1、第2の移動体制御演算部15-2、・・・、第Mの移動体制御演算部15-Mと、制御量保持部1504とで構成されている。
【0334】
制御量保持部1504は、過去に演算したすべての移動体20の移動体制御量を保持し、現在の演算時において、1時刻以上過去の移動体制御量を読み出し、第1の移動体制御演算部15-1、第2の移動体制御演算部15-2、・・・、第Mの移動体制御演算部15-Mのそれぞれに出力する機能を有する。なお、初期時刻においては、制御量保持部1504に保持された移動体制御量は0とみなされる。もしくは、それぞれの移動体20の参照経路を初期時刻での移動体制御量とみなしてもよい。
【0335】
第1の移動体制御演算部15-1、第2の移動体制御演算部15-2、・・・、第Mの移動体制御演算部15-Mのそれぞれは、グローバル行動計画からの目標行動および、制御量保持部1504からの過去の移動体制御量を用いて、それぞれの移動体制御量を演算する。なお、過去の移動体制御量は、第1の移動体制御演算部15-1、第2の移動体制御演算部15-2、・・・、第Mの移動体制御演算部15-Mのそれぞれにおいて、第2の構成例の場合と同様、制約条件として扱われる。
【0336】
複数の移動体20を制御する例として、狭路で複数台の移動体20を制御する例を、図22および図23を用いて説明する。図22および図23は、狭路で、対向する第1の移動体20-1と第2の移動体20-2とが接近しており、さらに静止障害物があるシーンである。
【0337】
時刻t0において、まずグローバル行動計画部18は、図22のように第1の移動体20-1、第2の移動体20-2とも通常走行するような目標行動を出力する。以後、グローバル行動計画の目標行動は変わらないとする。第1の移動体20-1は目標行動である通常走行を実行しようとするが、静止障害物が近いため、第1の移動体制御演算部15-1は、第1の移動体20-1が静止障害物を回避するように、第1の移動体20-1の移動体制御量を演算する。第2の移動体制御演算部15-2は、第2の移動体20-2がそのまま通常走行するように、第2の移動体20-2の移動体制御量を演算する。制御量保持部1504は、このように演算された第1の移動体20-1および第2の移動体20-2の移動体制御量を保持する。
【0338】
時刻t1においては、制御量保持部1504から、第1の移動体制御演算部15-1および第2の移動体制御演算部15-2に、第1の移動体20-1および第2の移動体20-2の過去の移動体制御量が出力される。第1の移動体制御演算部15-1および第2の移動体制御演算部15-2は、第1の移動体20-1および第2の移動体20-2の過去の移動体制御量を、制約条件として利用する。具体的には、第1の移動体20-1を制御する第1の移動体制御演算部15-1では、第2の移動体20-2の過去の移動体制御量が制約として扱われ、第2の移動体20-2を制御する第2の移動体制御演算部15-2では、第1の移動体20-1の過去の移動体制御量が制約として扱われる。
【0339】
第1の移動体制御演算部15-1は、時刻t0での第2の移動体20-2の移動体制御量を制約として扱うので、図23のように、第1の移動体20-1が、静止障害物を回避した後、第2の移動体20-2を避けるような第1の移動体20-1の移動体制御量を演算する。第2の移動体制御演算部15-2は、時刻t0での第1の移動体20-1の移動体制御量を制約として扱うので、図23のように、第2の移動体20-2が、第1の移動体20-1と衝突しないよう、自動的に停止するような第2の移動体20-2の移動体制御量を演算する。
【0340】
このようにすることで、グローバル行動計画部18は簡素な処理でよく、また移動体20の台数が多かったとしても、全体の処理時間を抑えることができる。
【0341】
<ハードウェア構成例>
図24および図25は、それぞれ遠隔制御装置10のハードウェア構成の例を示す図である。図1図10または図17に示した遠隔制御装置10の構成要素の各機能は、例えば図24に示す処理回路300により実現される。すなわち、遠隔制御装置10は、移動体20の参照経路に基づいて移動体20の制御量を演算し、ネットワーク30を介して1以上の移動体20を制御するための処理回路300を備える。移動体20の制御量の演算は、確率分布をもつ確率的な伝送遅延に依存する移動体20の動特性をモデル化した状態方程式を制約条件とし、評価関数に基づく確率計画問題を逐次解くことで最適系列を演算する処理と、最適系列を移動体20の制御量に変換する処理とを含み、最適系列を演算する処理は、確率的なパラメータの確率過程モデルに基づいて、確率的な評価関数を確定的な評価関数に変換する処理と、確定的な評価関数の最適化問題を解くことによって、確率計画問題を解く処理とを含む。
【0342】
処理回路300は、専用のハードウェアであってもよいし、メモリに格納されたプログラムを実行するプロセッサ(中央処理装置(CPU:Central Processing unit)、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSP(Digital Signal Processor)とも呼ばれる)を用いて構成されていてもよい。
【0343】
処理回路300が専用のハードウェアである場合、処理回路300は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものなどが該当する。遠隔制御装置10の構成要素の各々の機能が個別の処理回路で実現されてもよいし、それらの機能がまとめて一つの処理回路で実現されてもよい。
【0344】
図25は、処理回路300がプログラムを実行するプロセッサ301を用いて構成されている場合における遠隔制御装置10のハードウェア構成の例を示している。この場合、遠隔制御装置10の構成要素の機能は、ソフトウェア等(ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせ)により実現される。ソフトウェア等はプログラムとして記述され、メモリ302に格納される。プロセッサ301は、メモリ302に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。すなわち、遠隔制御装置10は、プロセッサ301により実行されるときに、遠隔制御装置10は、移動体20の参照経路に基づいて移動体20の制御量を演算する処理と、ネットワーク30を介して1以上の移動体20を制御する処理とが結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ302を備える。換言すれば、このプログラムは、遠隔制御装置10の構成要素の動作の手順や方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。
【0345】
ここで、メモリ302は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)などの、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD(Digital Versatile Disc)およびそのドライブ装置のほか、今後使用されるあらゆる記憶媒体であってもよい。
【0346】
以上、遠隔制御装置10の構成要素の機能が、ハードウェアおよびソフトウェア等のいずれか一方で実現される構成について説明した。しかしこれに限ったものではなく、遠隔制御装置10の一部の構成要素を専用のハードウェアで実現し、別の一部の構成要素をソフトウェア等で実現する構成であってもよい。例えば、一部の構成要素については専用のハードウェアとしての処理回路300でその機能を実現し、他の一部の構成要素についてはプロセッサ301としての処理回路300がメモリ302に格納されたプログラムを読み出して実行することによってその機能を実現することが可能である。
【0347】
以上のように、遠隔制御装置10は、ハードウェア、ソフトウェア等、またはこれらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。
【0348】
なお、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
【0349】
上記した説明は、すべての態様において、例示であって、例示されていない無数の変形例が想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0350】
10 遠隔制御装置、11 時刻同期部、12 受信部、13 伝送遅延計測部、14 伝送遅延分布推定部、15 移動体制御演算部、1501 参照経路生成部、1502 状態推定部、1503 制御演算部、1504 制御量保持部、1511 確率系最適化演算部、1512 制御決定部、1521 確率系評価関数変換部、1522 確定系最適化演算部、1523 制約演算部、1531 前後方向制御部、1532 横方向制御部、1533 制御決定部、1541 速度計画部、1542 確率系最適化演算部、1543 前後方向制御決定部、1551 確率系最適化演算部、16 送信部、17 障害物移動予測部、18 グローバル行動計画部、20 移動体、21 時刻同期部、22 内界センサ、23 送信部、24 受信部、25 指令値演算部、26 アクチュエータ、30 ネットワーク、40 物体情報取得部、41 時刻同期部、50 環境情報取得部、51 時刻同期部、60 地図データベース、200 自動車、201 ステアリングホイール、202 ステアリング軸、203 電動モータ、204 ラックアンドピニオン機構、205 タイロッド、206 フロントナックル、207 車両駆動装置、208 シャフト、209 加減速制御装置、210 ブレーキ制御装置、211 ブレーキ、212 操舵制御装置、213 ピニオン軸、214 ラック軸、215 前輪、216 後輪、220 車速センサ、221 IMUセンサ、222 操舵角センサ、223 操舵トルクセンサ、230 カメラ、250 移動体制御装置、300 処理回路、301 プロセッサ、302 メモリ。
【要約】
遠隔制御装置(10)は、移動体(20)の参照経路に基づいて移動体(20)の制御量を演算する移動体制御演算部(15)を備える。移動体制御演算部(15)は、制御演算部(1503)を備える。制御演算部(1503)は、確率分布をもつ確率的な伝送遅延に依存する移動体(20)の動特性をモデル化した状態方程式を制約条件とし、評価関数に基づく確率計画問題を逐次解くことで最適系列を演算する確率系最適化演算部(1511)と、最適系列を移動体(20)の制御量に変換する制御決定部(1512)とを備える。確率系最適化演算部(1511)は、確率的なパラメータの確率過程モデルに基づいて、確率的な評価関数を確定的な評価関数に変換する確率系評価関数変換部(1521)と、確定的な評価関数の最適化問題を解くことによって、確率計画問題を解く確定系最適化演算部(1522)とで構成される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25