(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】帰還型増幅器
(51)【国際特許分類】
H03F 1/34 20060101AFI20241004BHJP
H03F 1/26 20060101ALI20241004BHJP
H03F 1/42 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H03F1/34
H03F1/26
H03F1/42
(21)【出願番号】P 2024517028
(86)(22)【出願日】2022-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2022024252
(87)【国際公開番号】W WO2023243068
(87)【国際公開日】2023-12-21
【審査請求日】2024-03-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久樂 顕
(72)【発明者】
【氏名】神岡 純
【審査官】東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第212231409(CN,U)
【文献】特開平8-130419(JP,A)
【文献】特開2011-23841(JP,A)
【文献】特開平4-361410(JP,A)
【文献】特開平5-110343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/00-3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子に接続された制御端子、第1の端子および第2の端子を有し、制御端子に入力された制御信号により第1の端子と第2の端子とのコンダクタンスが制御され、第1の端子が接地されている増幅用トランジスタと、
前記増幅用トランジスタが有する制御端子と第2の端子との間に負帰還を与える第1の帰還回路と、
出力端子と前記増幅用トランジスタが有する第2の端子との間に設けられ、かつ、前記第1の帰還回路と直列に接続されており、前記第1の帰還回路を介して前記増幅用トランジスタが有する制御端子と第2の端子との間に正帰還を与える第2の帰還回路と、
前記第1の帰還回路と直列に接続され、前記第2の帰還回路と並列に接続されており、使用周波数帯域外の高周波領域における帰還型増幅器の安定係数を調整するための第3の帰還回路と、を備え
、
前記第3の帰還回路におけるインピーダンスの絶対値は、入力信号の周波数が高くなるにつれて減少する
ことを特徴とする帰還型増幅器。
【請求項2】
前記第1の帰還回路は、レジスタンス性要素を含む回路である
ことを特徴とする請求項1に記載の帰還型増幅器。
【請求項3】
前記第1の帰還回路は、抵抗とキャパシタが直列に接続された直列回路である
ことを特徴とする請求項2に記載の帰還型増幅器。
【請求項4】
前記第3の帰還回路は、レジスタンス性要素を含む回路である
ことを特徴とする請求項3に記載の帰還型増幅器。
【請求項5】
前記第2の帰還回路は、リアクタンス性要素を含む回路である
ことを特徴とする請求項4に記載の帰還型増幅器。
【請求項6】
前記第3の帰還回路におけるインピーダンスの絶対値は、前記第2の帰還回路におけるインピーダンスの絶対値よりも大きく、
両インピーダンスの絶対値の差分は、入力信号の周波数が高くなるにつれて小さくなる
ことを特徴とする請求項5に記載の帰還型増幅器。
【請求項7】
前記第2の帰還回路は、前記増幅用トランジスタが有する第2の端子と前記出力端子との間に直列に接続されたインダクタであり、
当該第2の帰還回路におけるインピーダンスの絶対値は、入力信号の周波数が高くなるにつれて増加する
ことを特徴とする請求項6に記載の帰還型増幅器。
【請求項8】
前記第2の帰還回路は、前記増幅用トランジスタが有する第2の端子と前記出力端子との間に直列に接続されたインダクタであり、
当該第2の帰還回路は、前記使用周波数帯域における高周波領域で出力容量と直列共振する
ことを特徴とする請求項
1に記載の帰還型増幅器。
【請求項9】
キャパシタを介して接地されかつ抵抗を介して電源に接続された制御端子、第1の端子および第2の端子を有し、制御端子に入力された制御信号により第1の端子と第2の端子とのコンダクタンスが制御される一つまたは複数のトランジスタを備え、
一つまたは複数の前記トランジスタは、前記増幅用トランジスタと直列に接続され、
前記増幅用トランジスタが有する第2の端子は、一つまたは複数の前記トランジスタを介して前記第2の帰還回路に接続されている
ことを特徴とする請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載の帰還型増幅器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、帰還型増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
帰還型増幅器は、無線通信装置が受信した高周波信号を増幅する増幅器の一つであり、広帯域にわたり良好なインピーダンス整合が得られる。例えば、非特許文献1には、高電子移動度トランジスタ(HEMT)を用いた帰還型増幅器が記載されている。この増幅器では、増幅用のトランジスタのドレイン端子にインダクタンスを接続することで、電圧の帰還量が低減され、高周波領域で利得が向上することに伴い広帯域で利得の平坦性が確保される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Mingqi Chen et al, “A 1-25 GHz GaN HEMT MMIC Low-Noise Amplifier,” IEEE MICROWAVE AND WIRELESS COMPONENTS LETTERS, VOL. 20, NO. 10, OCTOBER 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載された従来の帰還型増幅器は、トランジスタのドレイン端子に装荷するインダクタンス値を大きくしていくと、高周波数の領域(以下、高周波領域という。)、例えば数十GHz以上で増幅特性が不安定になるという課題があった。
【0005】
本開示は上記課題を解決するものであり、高利得で低雑音指数の特性が得られ、かつ、高周波領域で増幅特性が不安定になることを防止できる帰還型増幅器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る帰還型増幅器は、入力端子に接続された制御端子、第1の端子および第2の端子を有し、制御端子に入力された制御信号により第1の端子と第2の端子とのコンダクタンスが制御され、第1の端子が接地されている増幅用トランジスタと、増幅用トランジスタが有する制御端子と第2の端子との間の経路に負帰還を与える第1の帰還回路と、出力端子と増幅用トランジスタが有する第2の端子との間の経路に設けられ、かつ第1の帰還回路と直列に接続されており、第1の帰還回路を介して、増幅用トランジスタが有する制御端子と第2の端子との間の経路に正帰還を与える第2の帰還回路と、第1の帰還回路と直列に接続され、第2の帰還回路と並列に接続されており、使用周波数帯域外の高周波領域における帰還型増幅器の安定係数を調整するための第3の帰還回路と、を備え、第3の帰還回路におけるインピーダンスの絶対値は、入力信号の周波数が高くなるにつれて減少する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、第1の帰還回路が、増幅用トランジスタの制御端子と第2の端子との間に負帰還を与え、第2の帰還回路が、増幅用トランジスタが有する制御端子と第2の端子との間に正帰還を与え、第3の帰還回路が、使用周波数帯域外の高周波領域における帰還型増幅器の安定係数を調整する。これにより、本開示に係る帰還型増幅器は、高利得で低雑音指数の特性が得られ、かつ、高周波領域で増幅特性が不安定になることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る帰還型増幅器の構成を示す回路図である。
【
図2】実施の形態1に係る帰還型増幅器の変形例(1)の構成を示す回路図である。
【
図3】安定係数と周波数との関係を示すグラフである。
【
図5】雑音指数と周波数との関係を示すグラフである。
【
図6】実施の形態1に係る帰還型増幅器の変形例(2)の構成を示す回路図である。
【
図7】インピーダンスの絶対値と周波数との関係を示すグラフである。
【
図8】実施の形態2に係る帰還型増幅器の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る帰還型増幅器1の構成を示す回路図である。帰還型増幅器1は、入力端子2に入力された高周波信号を増幅し、増幅した信号を出力端子3から出力する。帰還型増幅器1は、例えば、モノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)増幅器である。帰還型増幅器1は、
図1に示すように、増幅用トランジスタT、インダクタL1、第1の帰還回路FB1、第2の帰還回路FB2および第3の帰還回路FB3を備えて構成される。例えば、帰還型増幅器1の使用時には、帰還型増幅器1の使用周波数帯域内の周波数の高周波信号が入力端子2に入力される。また、帰還型増幅器1が無線通信装置に利用される場合、使用周波数帯域は通信規格で定められる。
【0010】
増幅用トランジスタTは、制御端子、第1の端子および第2の端子を有し、制御端子に入力された直流電圧により、第1の端子と第2の端子が導通されるトランジスタである。また、増幅用トランジスタTは、インダクタL1を介して第1の端子が接地されている。
【0011】
例えば、増幅用トランジスタTがFET(電界効果トランジスタ)である場合、制御端子はゲート端子であり、第1の端子はソース端子であり、第2の端子はドレイン端子である。また、増幅用トランジスタTとして用いられるFETは、例えば、GaN(窒化ガリウム)-HEMT等のソースフィールドプレートを有した高耐圧のFETである。
【0012】
図1に示すように、増幅用トランジスタTのゲート端子には、入力端子2が接続されており、ソース端子は、インダクタL1を介して接地されている。さらに、ドレイン端子には、第2の帰還回路FB2および第3の帰還回路FB3がそれぞれ接続されている。なお、
図1ではバイアス回路等の記載を省略したが、増幅用トランジスタTとして用いるFETが増幅作用を持つように、ゲート端子とドレイン端子には、適切な直流電圧が印加されているものとする。
【0013】
第1の帰還回路FB1は、増幅用トランジスタTが有するゲート端子とドレイン端子との間に負帰還を与える。例えば、第1の帰還回路FB1は、レジスタンス性要素を含む回路である。例えば、レジスタンス性要素は、使用周波数帯域内の低周波領域で負帰還量を与える抵抗である。
【0014】
第2の帰還回路FB2は、出力端子3と増幅用トランジスタTが有するドレイン端子との間に設けられ、かつ第1の帰還回路FB1と直列に接続されている。使用周波数帯域内の周波数において、第2の帰還回路FB2は、
図1において破線の矢印Aで示すように、第1の帰還回路FB1を介して増幅用トランジスタTが有するゲート端子とドレイン端子との間に正帰還を与える。例えば、第2の帰還回路FB2は、リアクタンス性要素を含む回路である。リアクタンス性要素は、例えば、増幅用トランジスタTのドレイン端子と出力端子3との間に直列に接続されたインダクタである。
【0015】
第3の帰還回路FB3は、第1の帰還回路FB1と直列に接続され、第2の帰還回路FB2と並列に接続されており、使用周波数帯域外の高周波領域における帰還型増幅器1の安定係数を調整するためのものである。帰還型増幅器1の安定係数を所望の値に調整する第3の帰還回路FB3を用いることで、
図1において一点鎖線の矢印Bで示すように、増幅用トランジスタTが有するドレイン端子と第1の帰還回路FB1との間で、使用周波数帯域外の高周波領域の増幅特性が安定する。例えば、第3の帰還回路FB3は、レジスタンス性要素を含む回路である。レジスタンス性要素は、例えば、増幅用トランジスタTが有するドレイン端子と第1の帰還回路FB1との間に接続された抵抗である。
【0016】
次に、実施の形態1に係る帰還型増幅器の具体的な構成について説明する。
図2は、帰還型増幅器1の変形例(1)である帰還型増幅器1Aの構成を示す回路図である。帰還型増幅器1Aは、帰還型増幅器1の回路構成を具体化したものであり、例えばMMIC増幅器である。
図2において、抵抗R1とキャパシタC1が直列に接続された直列回路は、
図1に示した第1の帰還回路FB1である。すなわち、帰還型増幅器1Aが備える第1の帰還回路FB1は、レジスタンス性要素として抵抗R1を含む回路である。
【0017】
インダクタL2は、
図1に示した第2の帰還回路FB2である。すなわち、帰還型増幅器1Aが備える第2の帰還回路FB2は、リアクタンス性要素としてインダクタL2を含む回路である。抵抗R2は、
図1に示した第3の帰還回路FB3である。すなわち、帰還型増幅器1Aが備える第3の帰還回路FB3は、レジスタンス性要素として抵抗R2を含む回路である。
【0018】
抵抗R1は、使用周波数帯域で負帰還量を与える帰還抵抗である。抵抗R1には、帰還型増幅器1Aの入出力の反射特性を改善するために、帰還型増幅器1Aの入出力インピーダンスが適切な値になる抵抗値(例えば、300Ω)を有したものが用いられる。また、使用周波数帯域における低周波領域で帰還量を十分に与えるため、キャパシタC1には、抵抗R1の1/10以下程度のインピーダンス値であるものが用いられる。
【0019】
また、キャパシタC1は、増幅用トランジスタTのゲート端子とドレイン端子との間の直流(DC)を遮断するDCカット用のキャパシタとして用いられる。なお、増幅用トランジスタTの直流バイアスに対して影響がなければ、すなわちゲート端子とドレイン端子との間の直流が許容範囲内であれば、帰還型増幅器1AはキャパシタC1を備えていなくてもよい。
【0020】
なお、第1の帰還回路FB1は、抵抗R1とキャパシタC1の直列回路にインダクタを直列に接続したものであってもよい。このように構成された第1の帰還回路FB1であっても、増幅用トランジスタTが有するゲート端子とドレイン端子との間に負帰還を与えることができる。すなわち、第1の帰還回路FB1は、増幅用トランジスタTが有するゲート端子とドレイン端子との間に負帰還を与える構成であれば、実施の形態1および実施の形態2において任意な構成要素の追加または省略が可能である。
【0021】
インダクタL2は、増幅用トランジスタTのドレイン端子と出力端子3との間に直列に接続されたインダクタであり、帰還型増幅器1Aのインピーダンス整合回路の構成要素である。インダクタL2のインダクタンス値を変えることにより、増幅用トランジスタTが増幅する高周波信号の位相を、周波数ごとに変えることが可能である。
【0022】
インダクタL2には、使用周波数帯域外の高周波領域において、入力端子2に入力される高周波信号の位相と出力端子3から出力される高周波信号の位相とを近づけるインダクタンス値であるものを用いる。これにより、インダクタL2は、
図2において破線の矢印A1で示すように正帰還を与え、帰還型増幅器1Aの利得が調整される。
【0023】
例えば、インダクタL2には、使用周波数帯域における高周波側端部の周波数の0.8倍から1.2倍までの周波数(使用周波数帯域における高周波領域)で、増幅用トランジスタTの出力容量Cdsと共振(直列共振)するインダクタンス値であるものが用いられる。インダクタL2を用いることにより、帰還型増幅器1Aは、入力端子2に入力される高周波信号の位相と出力端子3から出力される高周波信号の位相とが同相付近となって、利得が上昇し、かつ雑音指数が低減する。
なお、インダクタL2のインダクタンス値は、増幅用トランジスタTのソース端子に接続されているインダクタL1のインダクタンス値よりも大きい値である。
【0024】
なお、第2の帰還回路FB2は、インダクタL2に他のリアクタンス性要素を追加したものであってもよい。このように構成された第2の帰還回路FB2であっても、増幅用トランジスタが有する制御端子と第2の端子との間の経路に正帰還を与えることができる。すなわち、第2の帰還回路FB2は、増幅用トランジスタが有する制御端子と第2の端子との間の経路に正帰還を与える構成であれば、実施の形態1および実施の形態2において任意な構成要素の追加または省略が可能である。
【0025】
抵抗R2は、
図2において一点鎖線の矢印B1で示すように、増幅用トランジスタTのドレイン端子と第1の帰還回路FB1(キャパシタC1)との間で、使用周波数帯域外の高周波領域における帰還型増幅器1Aの安定係数を調整するために用いられる。安定係数は帰還型増幅器1Aの安定性を表す係数であり、Kファクタとも呼ばれる。安定係数の値が小さくなると、帰還型増幅器1Aの増幅特性が不安定になり発振する場合がある。
そこで、抵抗R2としては、使用周波数帯域外の高周波領域において帰還型増幅器1Aの安定係数が所望の値となる抵抗値を有するものが用いられる。
【0026】
なお、第3の帰還回路FB3は、抵抗R2に対してキャパシタを直列に接続したものであってもよい。このように構成された第3の帰還回路FB3であっても、使用周波数帯域外の高周波領域における帰還型増幅器1Aの安定係数を調整することができる。すなわち、第3の帰還回路FB3は、使用周波数帯域外の高周波領域における帰還型増幅器1Aの安定係数を調整することが可能な構成であれば、実施の形態1および実施の形態2において任意な構成要素の追加または省略が可能である。
【0027】
図3は、安定係数と周波数との関係を示すグラフであり、使用周波数帯域C、使用周波数帯域C外の低周波側の領域(以下、低周波領域という。)および使用周波数帯域C外の高周波領域を含む周波数帯域における入力信号の周波数に対する帰還型増幅器の安定係数の変化をシミュレーション計算した結果を示している。
【0028】
図3において、破線K1は、
図2に示した帰還型増幅器1Aの構成のうち、インダクタL2を短絡させ、抵抗R2を開放させた回路についての安定係数の変化を示している。
なお、当該回路は、帰還型増幅器1Aの構成のうち、第2の帰還回路FB2であるインダクタL2を除き、さらに第3の帰還回路FB3である抵抗R2を除いた帰還型増幅器である。
【0029】
一点鎖線K2は、帰還型増幅器1Aの構成のうち、抵抗R2を開放させた回路についての安定係数の変化を示している。なお、当該回路は、帰還型増幅器1Aの構成のうち、第3の帰還回路FB3である抵抗R2を除いた帰還型増幅器である。実線Kは、帰還型増幅器1Aの安定係数の変化を示している。例えば、
図3の横軸に沿った破線で示す値“1”は、安定係数の所望の値である。
【0030】
第1の帰還回路FB1を有するが、第2の帰還回路FB2および第3の帰還回路FB3を有さない帰還型増幅器は、破線K1から明らかなように、入力信号の周波数が使用周波数帯域C外で高周波数になるにつれて、安定係数が低下して不安定な増幅特性となる。
すなわち、使用周波数帯域Cにおける高周波数側端部(
図3の縦軸に平行な破線のうち、紙面右側に記載した破線が示す周波数)から入力信号の周波数が高くなるにつれて、破線K1が示す安定係数は、所望の値である“1”を下回っている。
【0031】
これに対して、第1の帰還回路FB1および第2の帰還回路FB2を有するが、第3の帰還回路FB3を有さない帰還型増幅器では、使用周波数帯域Cにおける高周波数側端部でインダクタL2が正帰還を与えることにより損失が減少する。このため、一点鎖線K2から明らかなように、使用周波数帯域C外の高周波領域で入力信号の周波数が高くなっても安定係数の変化は小さく、安定係数は平坦な特性となる。ただし、使用周波数帯域C外では、安定係数は、所望の値である“1”を下回っている。
【0032】
第1の帰還回路FB1、第2の帰還回路FB2および第3の帰還回路FB3のすべてを有する帰還型増幅器1Aにおいては、第3の帰還回路FB3が、使用周波数帯域C外の高周波領域における安定係数が所望の値(ここでは“1”)となるように調整する。
なお、第3の帰還回路FB3は、安定係数が所望の値に近づくように調整してもよい。帰還型増幅器1Aの安定係数は、使用周波数帯域C外の高周波領域において、所望の値を上回った値で、入力信号の周波数に対して平坦な特性であればよい。
【0033】
例えば、第3の帰還回路FB3である抵抗R2として、抵抗値が600Ωである抵抗を用いる。これにより、実線K3から明らかなように、使用周波数帯域C外の高周波領域において、帰還型増幅器1Aの安定係数が“1”を上回った値で入力信号の周波数に対して平坦な特性となり、帰還型増幅器1Aの増幅特性が安定する。
【0034】
帰還型増幅器1Aは、第1の帰還回路FB1、第2の帰還回路FB2および第3の帰還回路FB3を備えることで、使用周波数帯域C外の高周波領域における増幅特性の安定性を確保しつつ、使用周波数帯域Cの高周波側端部における損失を低減することが可能である。
【0035】
図4は、利得と周波数との関係を示すグラフであって、使用周波数帯域C、使用周波数帯域C外の低周波領域および使用周波数帯域C外の高周波領域を含む周波数帯域における入力信号の周波数に対する帰還型増幅器の利得の変化をシミュレーション計算した結果を示している。
図4において、破線G1は、
図2に示した帰還型増幅器1Aの構成のうち、インダクタL2を短絡させ、抵抗R2を開放させた回路の利得の変化を示している。当該回路は、帰還型増幅器1Aの構成のうち、インダクタL2および抵抗R2を除いた帰還型増幅器である。
【0036】
実線G2は、帰還型増幅器1Aの利得の変化を示している。すなわち、実線G2が示す利得は、
図3において実線K3で示した安定係数で動作する帰還型増幅器1Aの利得である。
図4から明らかなように、帰還型増幅器1Aは、第1の帰還回路FB1のみを有する帰還型増幅器に比べて、使用周波数帯域C内、特に使用周波数帯域Cにおける高周波領域で利得が向上し、かつ、使用周波数帯域C内での利得の平坦性が向上する。
【0037】
図5は、雑音指数と周波数との関係を示すグラフであって、使用周波数帯域C、使用周波数帯域C外の低周波領域および使用周波数帯域C外の高周波領域を含む周波数帯域における入力信号の周波数に対する帰還型増幅器の雑音指数の変化をシミュレーション計算した結果を示している。なお、雑音指数は、帰還型増幅器の入力側の信号対雑音比と出力側の信号対雑音比との比である。また、
図5の横軸に平行な破線で示す雑音指数の値は、低周波領域における雑音指数の目安となる値である。
【0038】
図5において、破線NF1は、
図2に示した帰還型増幅器1Aの構成のうち、インダクタL2を短絡させ、抵抗R2を開放させた回路の雑音指数の変化を示している。当該回路は、帰還型増幅器1Aの構成のうち、インダクタL2および抵抗R2を取り除いた帰還型増幅器である。すなわち、破線NF1に示す雑音指数は、
図3において破線K1で示した安定係数で動作し、
図4において破線G1で示した利得を有した帰還型増幅器の雑音指数である。
【0039】
実線NF2は、帰還型増幅器1Aの雑音指数の変化を示している。すなわち、NF2が示す雑音指数は、
図3において実線K3で示した安定係数で動作し、
図4において実線G2で示した利得を有した帰還型増幅器1Aの雑音指数である。
図5から明らかなように、帰還型増幅器1Aにおいて、第2の帰還回路FB2であるインダクタL2が、使用周波数帯域Cにおける高周波端部(
図5の縦軸に平行な破線のうち、紙面右側に記載した破線が示す周波数)で正帰還を与える。これにより、高周波端部の周波数を有した帰還型増幅器1Aの入力側から出力側への高周波信号がなくなり、NF2が示す雑音指数は低減する。
【0040】
帰還型増幅器1Aでは、第3の帰還回路FB3である抵抗R2による損失が生じるが、インダクタL2の効果によって当該損失が相殺され、実線NF2に示すような雑音指数となる。このように、帰還型増幅器1Aは、使用周波数帯域C外の高周波領域で損失を与えて増幅特性を安定化させ、使用周波数帯域C内で損失を低下させることで、使用周波数帯域Cでの利得が向上し、かつ利得の平坦性を確保できる。
【0041】
次に、実施の形態1に係る帰還型増幅器の変形例を用いて、第3の帰還回路が、使用周波数帯域外の高周波領域で主に損失を与える理由を説明する。
図6は、帰還型増幅器1の変形例(2)である帰還型増幅器1Bの構成を示す回路図である。帰還型増幅器1Bは、帰還型増幅器1の回路構成を具体化したものであり、例えばMMIC増幅器である。
図6において、抵抗R1とキャパシタC1が直列に接続された直列回路は、
図1に示した第1の帰還回路FB1である。すなわち、帰還型増幅器1Bが備える第1の帰還回路FB1は、レジスタンス性要素として抵抗R1を含む回路である。
【0042】
インダクタL2は、
図1に示した第2の帰還回路FB2である。すなわち、帰還型増幅器1Bが備える第2の帰還回路FB2は、リアクタンス性要素としてインダクタL2を含む回路である。インダクタL2は、使用周波数帯域外の高周波領域において、入力端子2に入力される高周波信号の位相と出力端子3から出力される高周波信号の位相とを近づけるインダクタンス値であるものが用いられる。これにより、インダクタL2は、
図6において破線の矢印A2で示すように正帰還を与え、帰還型増幅器1Bの利得が調整される。
【0043】
抵抗R2と伝送線路TL1が直列に接続された直列回路4は、
図1に示した第3の帰還回路FB3である。すなわち、帰還型増幅器1Bが備える第3の帰還回路FB3は、レジスタンス性要素として抵抗R2および伝送線路TL1を含む回路である。直列回路4は、
図6において一点鎖線の矢印B2で示すように、増幅用トランジスタTのドレイン端子と第1の帰還回路FB1(キャパシタC1)との間で、使用周波数帯域外の高周波領域における帰還型増幅器1Bの安定係数を調整するために用いられる。また、直列回路4は、高周波信号の増幅を安定化させる安定化回路としても機能する。
【0044】
図7は、インピーダンスの絶対値と周波数との関係を示すグラフであって、使用周波数帯域C、使用周波数帯域C外の低周波領域および使用周波数帯域C外の高周波領域を含む周波数帯域における入力信号の周波数に対する帰還型増幅器のインピーダンスの絶対値の変化をシミュレーション計算した結果を示している。
【0045】
図7において、破線ZL2は、
図2または
図6に示した帰還型増幅器1Aまたは1Bが備える第2の帰還回路FB2であるインダクタL2のインピーダンスの絶対値を示している。一点鎖線ZR2は、帰還型増幅器1Aが備える第3の帰還回路FB3である抵抗R2のインピーダンスの絶対値を示している。
【0046】
実線Z5は、帰還型増幅器1Bが備える第3の帰還回路FB3である、抵抗R2と伝送線路TL1が直列に接続された直列回路4のインピーダンスの絶対値を示している。
なお、ZL2、ZR2およびZ5は、それぞれ、インダクタL2、抵抗R2、および、抵抗R2と伝送線路TL1との直列接続の各インピーダンスの絶対値をシミュレーションした結果である。
【0047】
破線ZL2から明らかなように、インダクタL2は、入力信号の周波数が高くなるにつれてインピーダンスの絶対値が大きくなる。また、カットオフ周波数以下では、一点鎖線ZR2から明らかなように、抵抗R2のインピーダンスの絶対値は、インダクタL2のインピーダンスの絶対値よりも大きいが、入力信号の周波数によらず、ほぼ一定である。このため、両者のインピーダンスの絶対値の差は、入力信号の周波数が高くなるにつれて小さくなる。
【0048】
また、直列回路4のインピーダンスの絶対値は、実線Z5から明らかなように、入力信号の周波数が高くなるにつれて低下する。このため、直列回路4のインピーダンスの絶対値は、抵抗R2のインピーダンスの絶対値よりも、インダクタL2のインピーダンスの絶対値との差分が小さくなる。
【0049】
インダクタL2のインピーダンスの絶対値との差分が小さくなるので、一点鎖線ZR2が示す抵抗R2または実線Z5が示す直列回路4のインピーダンスの絶対値は、相対的に小さく見える。これにより、特に、使用周波数帯域C外の高周波領域において、抵抗R2または直列回路4を通る電力が大きくなり、増幅特性が安定する。
このように、実施の形態1に係る帰還型増幅器は、入力信号の周波数が高くなるにつれて、第3の帰還回路FB3のインピーダンスの絶対値と第2の帰還回路FB2のインピーダンスの絶対値との差分が小さくなるので、高周波側だけ損失を与えることができる。
【0050】
以上のように、実施の形態1に係る帰還型増幅器1は、増幅用トランジスタTと、増幅用トランジスタTのゲート端子とドレイン端子との間に負帰還を与える第1の帰還回路FB1と、増幅用トランジスタTが有するゲート端子とドレイン端子との間に正帰還を与える第2の帰還回路FB2と、第1の帰還回路FB1と直列に接続され、第2の帰還回路FB2と並列に接続されており、使用周波数帯域外の高周波領域における帰還型増幅器1の安定係数を調整するための第3の帰還回路FB3を備える。
第2の帰還回路FB2によって使用周波数帯域内で正帰還が与えられ、第3の帰還回路FB3によって使用周波数帯域外の高周波領域における帰還型増幅器1の安定係数が所望の値となるように調整されるので、帰還型増幅器1は、高利得で低雑音指数の特性が得られ、かつ、高周波領域で増幅特性が不安定になることを防止できる。
【0051】
実施の形態1に係る帰還型増幅器1において、第1の帰還回路FB1は、レジスタンス性要素を含む回路である。第1の帰還回路FB1に含まれるレジスタンス性要素は、増幅用トランジスタTのゲート端子とドレイン端子との間に負帰還を与えることができる。
【0052】
実施の形態1に係る帰還型増幅器1Aにおいて、第1の帰還回路FB1は、抵抗R1とキャパシタC1が直列に接続された直列回路である。レジスタンス性要素である抵抗R1が、増幅用トランジスタTのゲート端子とドレイン端子との間に負帰還を与えることができる。また、キャパシタC1は、増幅用トランジスタTのゲート端子とドレイン端子との間の直流を遮断することができる。
【0053】
実施の形態1に係る帰還型増幅器1において、第3の帰還回路FB3は、レジスタンス性要素を含む回路である。レジスタンス性要素によって使用周波数帯域外の高周波領域で損失を与えて増幅特性を安定化させることができる。
【0054】
実施の形態1に係る帰還型増幅器1において、第2の帰還回路FB2は、リアクタンス性要素を含む回路である。リアクタンス性要素が正帰還を与えることにより、入力信号の周波数が使用周波数帯域外で高周波数になるにつれて安定係数を平坦な特性にすることができる。
【0055】
実施の形態1に係る帰還型増幅器1Aまたは1Bにおいて、第3の帰還回路FB3におけるインピーダンスの絶対値は、カットオフ周波数以下では、第2の帰還回路FB2におけるインピーダンスの絶対値よりも大きく、両インピーダンスの絶対値の差分は、入力信号の周波数が高くなるにつれて小さくなる。これにより、第3の帰還回路FB3が、使用周波数帯域外の高周波領域で主に損失を与えるので、使用周波数帯域外の高周波領域における増幅特性を安定化させることができる。
【0056】
実施の形態1に係る帰還型増幅器1Aまたは1Bにおいて、第2の帰還回路FB2は、増幅用トランジスタTが有するドレイン端子と出力端子3との間に直列に接続されたインダクタL2である。インダクタL2のインピーダンスの絶対値は、入力信号の周波数が高くなるにつれて増加する。これにより、第2の帰還回路FB2におけるインピーダンスの絶対値と第3の帰還回路FB3におけるインピーダンスの絶対値との差分を、入力信号の周波数が高くなるにつれて小さくできる。
【0057】
実施の形態1に係る帰還型増幅器1Aまたは1Bにおいて、第3の帰還回路FB3におけるインピーダンスの絶対値は、入力信号の周波数が高くなるにつれて減少する。これにより、第2の帰還回路FB2におけるインピーダンスの絶対値と第3の帰還回路FB3におけるインピーダンスの絶対値との差分を、入力信号の周波数が高くなるにつれて小さくできる。
【0058】
実施の形態1に係る帰還型増幅器1Aにおいて、第2の帰還回路FB2は、増幅用トランジスタTが有するドレイン端子と出力端子3との間に直列に接続されたインダクタL2である。第2の帰還回路FB2は、使用周波数帯域における高周波領域で出力容量Cdsと直列共振する。これにより、帰還型増幅器1Aは、入力端子2に入力される高周波信号の位相と出力端子3から出力される高周波信号の位相とが同相付近となって、利得が上昇し、雑音指数を低減できる。
【0059】
実施の形態2.
図8は、実施の形態2に係る帰還型増幅器1Cの構成を示す回路図である。帰還型増幅器1Cは、入力端子2に入力された高周波信号を増幅し、増幅した信号を出力端子3から出力する。帰還型増幅器1Cは、例えば、MMIC増幅器である。帰還型増幅器1Cは、
図8に示すように、抵抗R1、抵抗R2、抵抗R3、キャパシタC1、キャパシタC2、インダクタL1、インダクタL2、増幅用トランジスタT1および増幅用トランジスタT2を備える。入力端子2には、使用周波数帯域内の周波数の信号が入力される。
【0060】
増幅用トランジスタT1は、制御端子、第1の端子および第2の端子を有し、制御端子に入力された直流電圧により第1の端子と第2の端子が導通されるトランジスタである。増幅用トランジスタT1は、インダクタL1を介して第1の端子が接地され、第2の端子が、増幅用トランジスタT2が有する第1の端子に接続されている。例えば、増幅用トランジスタT1がFETである場合、制御端子はゲート端子であり、第1の端子はソース端子であり、第2の端子はドレイン端子である。また、増幅用トランジスタT1として用いられるFETは、例えば、GaN-HEMT等のソースフィールドプレートを有した高耐圧のFETである。
【0061】
増幅用トランジスタT2は、制御端子、第1の端子および第2の端子を有し、制御端子に入力された直流電圧により第1の端子と第2の端子が導通されるトランジスタである。増幅用トランジスタT2の制御端子は、キャパシタC2を介して接地され、かつ抵抗R3を介して制御電圧が供給される。増幅用トランジスタT2が有する第1の端子は、増幅用トランジスタT1の第2の端子に接続され、第2の端子は、第2の帰還回路FB2であるインダクタL2を介して出力端子3に接続され、第3の帰還回路FB3である抵抗R2を介して、第1の帰還回路FB1に含まれるキャパシタC1と接続されている。
【0062】
例えば、増幅用トランジスタT2がFETである場合、制御端子はゲート端子であり、第1の端子はソース端子であり、第2の端子はドレイン端子であり、ゲート端子に供給されるゲート電圧Vg(制御電圧)によりソース端子とドレイン端子との間が導通される。また、増幅用トランジスタT2として用いられるFETは、例えば、GaN-HEMT等のソースフィールドプレートを有した高耐圧のFETであってもよい。
【0063】
増幅用トランジスタT2は、増幅用トランジスタT1とカスコード接続された、ゲート接地トランジスタである。増幅用トランジスタT2は、ゲート接地容量を変えることで、ゲート端子とソース端子との間に生じる容量にかかる電圧が変化する。このため、増幅用トランジスタT2を有した帰還型増幅器1Cは、ソース接地トランジスタ(増幅用トランジスタT)のみを備える帰還型増幅器と比べて高い利得が得られる。
【0064】
図8には、一個の増幅用トランジスタT2を備えた帰還型増幅器1Cを示したが、帰還型増幅器1Cは、複数個の増幅用トランジスタT2を備えてもよい。
例えば、増幅用トランジスタT2が複数個ある場合、これらの増幅用トランジスタT2は、隣り合ったもののソース端子とドレイン端子が順に接続される(直列接続)。増幅用トランジスタT2が直列接続された直列回路に一方の端部にある増幅用トランジスタT2が有するソース端子は、増幅用トランジスタT1が有するドレイン端子と接続され、上記直列回路の他方の端部にある増幅用トランジスタT2が有するドレイン端子は、インダクタL2および抵抗R2に接続される。
なお、MMICである帰還型増幅器1Cは、複数のFETを、整合回路を介して縦接続した多段増幅器であってもよい。
【0065】
帰還型増幅器1Cにおいて、第1の帰還回路FB1は、抵抗R1とキャパシタC1とが直列に接続された直列回路である。帰還型増幅器1Aと同様に、抵抗R1には、帰還型増幅器1Cの入出力の反射特性を改善するため、帰還型増幅器1Cの入出力インピーダンスが適切な値になる抵抗値を有したものが用いられる。また、使用周波数帯域における低周波領域で帰還量を十分に与えるため、キャパシタC1には、抵抗R1の1/10以下程度のインピーダンス値であるものが用いられる。
【0066】
また、キャパシタC1は、増幅用トランジスタT1のゲート端子とドレイン端子との間の直流を遮断するDCカット用のキャパシタとして用いられる。なお、増幅用トランジスタT1の直流バイアスに対して影響がなければ、すなわちゲート端子とドレイン端子との間の直流が許容範囲内であれば、帰還型増幅器1Cは、キャパシタC1を備えていなくてもよい。
【0067】
インダクタL2は、使用周波数帯域外の高周波領域において、入力端子2に入力される高周波信号の位相と出力端子3から出力される高周波信号の位相とを近づけるインダクタンス値であるものが用いられる。インダクタL2は、
図8において破線の矢印A3で示すように正帰還を与えて、帰還型増幅器1Cの利得が調整される。
【0068】
例えば、インダクタL2には、使用周波数帯域における高周波側端部の周波数の0.8倍から1.2倍までの周波数で増幅用トランジスタT2の出力容量Cdsと直列共振するインダクタンス値であるものが用いられる。インダクタL2を用いることにより、帰還型増幅器1Cは、入力端子2に入力される高周波信号の位相と、出力端子3から出力される高周波信号の位相とが同相付近となって、利得が上昇し、かつ雑音指数が低減する。
なお、インダクタL2のインダクタンス値は、増幅用トランジスタT1のソース端子に接続されているインダクタL1のインダクタンス値よりも大きい値である。
【0069】
抵抗R2は、
図8において一点鎖線の矢印B3で示すように、増幅用トランジスタT1と増幅用トランジスタT2が直列に接続された直列回路のうち、増幅用トランジスタT2のドレイン端子とキャパシタC1との間で、使用周波数帯域外の高周波領域における帰還型増幅器1Cの安定係数を調整するために用いられる。例えば、抵抗R2には、使用周波数帯域外の高周波領域で帰還型増幅器1Cの安定係数が所望の値となる抵抗値を有するものが用いられる。
【0070】
帰還型増幅器1Cにおいても、第3の帰還回路FB3である抵抗R2による損失が生じるが、インダクタL2の効果によって当該損失が相殺され、
図5に示した実線NF2のような雑音指数となる。このように、帰還型増幅器1Cは、使用周波数帯域外の高周波領域で損失を与えて増幅特性を安定化させ、使用周波数帯域内で損失を低下させることで、使用周波数帯域での利得が向上し、かつ利得の平坦性を確保できる。
【0071】
帰還型増幅器1Cは、
図8に示す構成要素を有することにより、実線K3が示す安定係数の周波数特性が得られ、実線G2が示す利得の周波数特性が得られ、実線NF2が示す雑音指数の周波数特性が得られ、実線Z5が示すインピーダンスの絶対値の周波数特性が得られる。
【0072】
また、帰還型増幅器1Cが備える第3の帰還回路FB3は、
図6に示した帰還型増幅器1Bと同様に、抵抗R2と伝送線路TL1との直列回路4であってもよい。直列回路4のインピーダンスの絶対値は、
図7に示した実線Z5のように、入力信号の周波数が高くなるにつれて低下する。このため、直列回路4のインピーダンスの絶対値は、抵抗R2のインピーダンスの絶対値よりも、インダクタL2のインピーダンスの絶対値との差分が小さくなる。インダクタL2のインピーダンスの絶対値との差分が小さくなるので、使用周波数帯域外の高周波領域において直列回路4を通る電力が大きくなり増幅特性が安定する。
【0073】
以上のように、実施の形態2に係る帰還型増幅器1Cは、キャパシタC2を介して接地されかつ抵抗R3を介して電源に接続されたゲート端子、ソース端子およびドレイン端子を有し、ゲート端子に入力された直流電圧によりソース端子とドレイン端子との間のコンダクタンスが制御される増幅用トランジスタT2を備える。増幅用トランジスタT2は、増幅用トランジスタT1と直列に接続される。増幅用トランジスタT1が有するドレイン端子は、増幅用トランジスタT2を介してインダクタL2に接続されている。カスコード接続された増幅用トランジスタT1および増幅用トランジスタT2を備えるので、帰還型増幅器1Cは、帰還型増幅器1Aまたは1Bに比べて高い利得が得られる。さらに、帰還型増幅器1Cは、帰還型増幅器1、1Aまたは1Bと同様に、高利得で低雑音指数の特性が得られ、かつ、高周波領域で増幅特性が不安定になることを防止できる。
【0074】
実施の形態1および2に係る帰還型増幅器がGaN-MMICである場合を示したが、帰還型増幅器は、基板材料をGaAs等に変えるか、MMICではなく、ディスクリート部品等を用いた構造であってもよい。
【0075】
実施の形態1および2において、増幅用トランジスタが有する第1の端子(ソース端子)がインダクタL1を介して接地された帰還型増幅器を示したが、インダクタL1は必須ではなく、インダクタL1を介さずにソース端子を接地したものであってもよい。また、増幅用トランジスタには、セルフバイアス回路を用いてもよい。
【0076】
実施の形態1および2において、増幅用トランジスタT、T1またはT2がFETである場合を示したが、増幅用トランジスタT、T1またはT2は、バイポーラトランジスタであってもよい。この場合、制御端子がベース端子、第1の端子がエミッタ端子、第2の端子がコレクタ端子である。
【0077】
なお、各実施の形態の組み合わせまたは実施の形態のそれぞれの任意の構成要素の変形もしくは実施の形態のそれぞれにおいて任意の構成要素の省略が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本開示に係る帰還型増幅器は、例えば、無線通信装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0079】
1,1A,1B,1C 帰還型増幅器、2 入力端子、3 出力端子、4 直列回路、C1,C2 キャパシタ、Cds 出力容量、FB1 第1の帰還回路、FB2 第2の帰還回路、FB3 第3の帰還回路、L1,L2 インダクタ、R1,R2,R3 抵抗、T,T1,T2 増幅用トランジスタ、TL1 伝送線路。