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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20241004BHJP
   H03K 17/08 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H03K17/08 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2024532828
(86)(22)【出願日】2023-06-16
(86)【国際出願番号】 JP2023022435
【審査請求日】2024-05-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松崎 公洋
(72)【発明者】
【氏名】恩田 航平
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/077785(WO,A1)
【文献】特開2004-266921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流回路部と負荷との間で電力変換を行う2相以上で構成された主回路部、前記直流回路部と前記主回路部とを接続する配線上の2点間のインダクタンス成分に発生する電圧を検出する電圧検出部、第1閾値電圧を生成するための電源および第2閾値電圧を生成するための電源を共通とし、前記電源の電圧を抵抗分圧によって前記第1閾値電圧および前記第2閾値電圧を生成する閾値電圧生成部、前記電圧検出部で検出した電圧が前記第1閾値電圧を超えた場合に検出信号を出力する第1の比較器と前記第1の比較器の前記検出信号があらかじめ定められた時間以上継続した場合に継続時間に応じた電圧が前記第2閾値電圧を超えることにより短絡が発生したことを検出する第2の比較器とを有する短絡検出部、を備えた電力変換装置。
【請求項2】
直流回路部と負荷との間で電力変換を行う主回路部、前記直流回路部と前記主回路部とを接続する配線上の2点間のインダクタンス成分に発生する電圧を検出する電圧検出部、前記電圧検出部で検出した電圧が第1閾値電圧を超えた場合に検出信号を出力する第1の比較器と前記第1の比較器の前記検出信号があらかじめ定められた時間以上継続した場合に短絡が発生したことを検出する第2の比較器とを有する短絡検出部、を備え、
前記第1の比較器の前記検出信号があらかじめ定められた時間以上継続した場合に継続時間に応じた電圧が第2閾値電圧を超えることにより前記第2の比較器が短絡であると判定するとともに、インバータで構成された前記主回路部の複数相のスイッチングにより前記電圧検出部で検出される電圧が時間的に重なって検出される場合、前記第2閾値電圧は、重なって検出される前記複数相の電圧値が前記第1閾値電圧以上である期間の時間幅に基づいて決定されることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
前記第1閾値電圧および前記第2閾値電圧を生成する閾値電圧生成部を有し、前記第1閾値電圧を生成するための電源および前記第2閾値電圧を生成するための電源は、共通とすることを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記第1の比較器は反転入力端子と非反転入力端子を有し、前記反転入力端子に第1閾値電圧を入力し、前記非反転入力端子に前記電圧検出部から出力された電圧を入力することを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記第1の比較器は反転入力端子と非反転入力端子を有し、前記非反転入力端子に第1閾値電圧を入力し、前記反転入力端子に前記電圧検出部から出力された電圧を入力することを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記第1の比較器はオープンコレクタもしくはオープンドレインとし、前記第2閾値電圧を生成するための電源と前記第1の比較器の出力をプルアップするための電源を共通とすることを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記第1の比較器はプッシュプル構成であり、前記第2閾値電圧を生成するための電源と前記第1の比較器の電源とを共通とすることを特徴とした請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記直流回路部と前記主回路部とを接続する正側の配線と負側の配線の電圧差の変化に応じて前記第1閾値電圧を変化させることを特徴とする請求項6に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記電圧検出部に、前記主回路部で生じる電流脈動を除去するためのローパスフィルタを備えたことを特徴とする請求項2から7のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記第1の比較器の前記検出信号があらかじめ定められた時間以上継続した場合に継続時間に応じた電圧に変換するための積分器を前記第1の比較器と前記第2の比較器との間に備えたことを特徴とする請求項2から8のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項11】
数の前記負荷および複数の前記主回路部で構成されている場合、前記電圧検出部は複数の前記主回路部と前記直流回路部とが接続された配線上の電圧を検出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記短絡検出部が短絡を検出した場合、前記直流回路部および前記主回路部内にあるパワー半導体素子を全てオフ状態とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項13】
直流回路部と負荷との間で電力変換を行う主回路部、前記直流回路部と前記主回路部とを接続する配線上の2点間のインダクタンス成分に発生する電圧を検出する電圧検出部、前記電圧検出部で検出した電圧が第1閾値電圧を超えた場合に検出信号を出力する第1の比較器と前記第1の比較器の前記検出信号があらかじめ定められた時間以上継続した場合に短絡が発生したことを検出する第2の比較器とを有する短絡検出部、を備え、
前記直流回路部と前記主回路部を接続する正負の配線間にコンデンサが接続され、前記インダクタンス成分Lを含む前記コンデンサと前記主回路部内のパワー半導体素子との間のインダクタンスをLloop、前記インダクタンス成分Lを含まない前記コンデンサと前記パワー半導体素子との間のインダクタンスをLa、前記パワー半導体素子の素子耐圧をVdsp、前記直流回路部の最大電圧をVdcmax、前記パワー半導体素子の最大電流傾きをdi/dt、およびLloop=La+Lとすると、
【数1】
の関係が成り立つことを特徴とする電力変換装置。
【請求項14】
直流回路部と負荷との間で電力変換を行う主回路部、前記直流回路部と前記主回路部とを接続する配線上の2点間のインダクタンス成分に発生する電圧を検出する電圧検出部、前記電圧検出部で検出した電圧が第1閾値電圧を超えた場合に検出信号を出力する第1の比較器と前記第1の比較器の前記検出信号があらかじめ定められた時間以上継続した場合に短絡が発生したことを検出する第2の比較器とを有する短絡検出部、を備え、
前記第1の比較器と前記第2の比較器との間に積分器を備え、前記積分器によって第1の比較器の検出信号の継続時間を電圧に変換し、前記検出信号があらかじめ定められた時間以上継続した場合に前記変換した電圧が第2閾値電圧を超えることにより前記第2の比較器が短絡と判定し、
前記第1の比較器はオープンコレクタもしくはオープンドレインとし、前記第2閾値電圧を生成するための電源と前記第1の比較器の出力をプルアップするための電源を共通とすることを特徴とする電力変換装置。
【請求項15】
直流回路部と負荷との間で電力変換を行う主回路部、前記直流回路部と前記主回路部とを接続する配線上の2点間のインダクタンス成分に発生する電圧を検出する電圧検出部、前記電圧検出部で検出した電圧が第1閾値電圧を超えた場合に検出信号を出力する第1の比較器と前記第1の比較器の前記検出信号があらかじめ定められた時間以上継続した場合に短絡が発生したことを検出する第2の比較器とを有する短絡検出部、を備え、
前記第1の比較器と前記第2の比較器との間に積分器を備え、前記積分器によって第1の比較器の検出信号の継続時間を電圧に変換し、前記検出信号があらかじめ定められた時間以上継続した場合に前記変換した電圧が第2閾値電圧を超えることにより前記第2の比較器が短絡と判定し、
前記第1の比較器はプッシュプル構成であり、前記第2閾値電圧を生成するための電源と前記第1の比較器の電源とを共通とすることを特徴とする電力変換装置。
【請求項16】
直流回路部と負荷との間で電力変換を行う主回路部、前記直流回路部と前記主回路部とを接続する配線上の2点間のインダクタンス成分に発生する電圧を検出する電圧検出部、前記電圧検出部で検出した電圧が第1閾値電圧を超えた場合に検出信号を出力する第1の比較器と前記第1の比較器の前記検出信号があらかじめ定められた時間以上継続した場合に短絡が発生したことを検出する第2の比較器とを有する短絡検出部、を備え、
前記第1の比較器と前記第2の比較器との間に積分器を備え、前記積分器によって第1の比較器の検出信号の継続時間を電圧に変換し、前記検出信号があらかじめ定められた時間以上継続した場合に前記変換した電圧が第2閾値電圧を超えることにより前記第2の比較器が短絡と判定し、
前記第1の比較器はオープンコレクタもしくはオープンドレインとし、前記第2閾値電圧を生成するための電源と前記第1の比較器の出力をプルアップするための電源を共通とし、
前記直流回路部と前記主回路部とを接続する正側の配線と負側の配線の電圧差の変化に応じて前記第1閾値電圧を変化させることを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置において、スイッチとしての役割を担うパワー半導体は欠かせないものとなっている。電力変換装置の品質を確保する上で、パワー半導体の故障もしくはノイズ誤動作によって生じた過電流を検知して電力変換を停止し、装置の破壊または発火を防止する機能を備えることが知られている。例えば、特許文献1ではインバータとコンデンサとの間に電流を限流する限流リアクトルを設け、その限流リアクトルの両端電圧を取得することで短絡を検知する方式が記載されている。
【0003】
特許文献1では、限流リアクトルを用いているため、短絡電流が制限され、限流リアクトルを用いない場合に比べ、短絡開始から素子破壊までの時間が長くなる。従って、短絡検知から遮断までの時間に裕度ができる。さらに、限流リアクトルによって電流の傾きを一定とするため、限流リアクトル両端電圧のばらつき要素も限流リアクトル自身のインダクタンスと印加される電圧のみとなる。このため、設計も容易でかつ、ゲート抵抗およびパワー半導体のスイッチング特性に関わる入力容量またはゲート閾値電圧が変わっても誤検知することもない。
加えて、高速な短絡検知を可能とするために、限流リアクトル両端電圧の一定値以下の電圧をツェナーダイオードといったバイアス回路によってカットし、その電圧が定められた時間以上になるか否かで短絡時の過電流と通常動作時の電流を識別して短絡を検知している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭58-11993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、限流リアクトルを用いると装置が大型化し、コストアップとなる課題がある。このため、限流リアクトルを用いずに、配線中の寄生インダクタンスに生じる電圧を用いて短絡検知を行った場合、パワー半導体の印加電圧、素子特性のばらつき、および電力変換装置の動作モードによって、寄生インダクタンスに生じる電圧がばらつく。このばらつきにより検出回路の設計が困難で、かつ裕度がないため誤検知する恐れがある。
【0006】
本開示は、上述のような問題を解決するためになされたもので、寄生インダクタンスに生じた電圧を用いて短絡検知する場合においても、設計が容易で、誤検知に対する裕度がある短絡検出回路を有する電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の電力変換装置は、直流回路部と負荷との間で電力変換を行う2相以上で構成された主回路部、直流回路部と主回路部とを接続する配線上の2点間のインダクタンス成分に発生する電圧を検出する電圧検出部、第1閾値電圧を生成するための電源および第2閾値電圧を生成するための電源を共通とし、電源の電圧を抵抗分圧によって第1閾値電圧および第2閾値電圧を生成する閾値電圧生成部、電圧検出部で検出した電圧が第1閾値電圧を超えた場合に検出信号を出力する第1の比較器と第1の比較器の検出信号があらかじめ定められた時間以上継続した場合に継続時間に応じた電圧が第2閾値電圧を超えることにより短絡が発生したことを検出する第2の比較器とを有する短絡検出部、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の電力変換装置によれば、配線中のインダクタンス成分に生じた電圧を用いて短絡検出をする場合においても、設計が容易で、誤検知に対する裕度がある短絡検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態1に係る電力変換装置の具体的な構成の一例を示す回路構成図である。
図3】実施の形態1に係る電力変換装置の電圧検出部および短絡検出部の構成を示すブロック図である。
図4】実施の形態1に係る電力変換装置の電圧検出部および短絡検出部の回路構成の一例を示す図である。
図5】パワー半導体素子のスイッチング時のノイズ成分を説明するターンオン時電流電圧波形図である。
図6】パワー半導体素子におけるターンオフ時のサージ電圧を説明する電流電圧波形の模式波形図である。
図7】実施の形態1に係る電力変換装置における短絡検出部の動作原理を説明する模式波形図である。
図8】実施の形態1に係る電力変換装置の閾値電圧を決定する方法を説明する(a)1相がスイッチングする場合と(b)2相がスイッチングする場合の検知用L電圧および第2比較器入力電圧の模式波形図である。
図9】実施の形態1に係る電力変換装置の短絡検出回路おける裕度を説明する模式図であり、(a)は電源Vccが共通ではなく、(b)は電源Vccが共通の場合である。
図10】実施の形態2に係る電力変換装置の電圧検出部および短絡検出部の回路構成の一例を示す図である。
図11】実施の形態2に係る電力変換装置における短絡検出部の動作原理を説明する模式波形図である。
図12】実施の形態2に係る電力変換装置の短絡検出回路おける裕度を説明する模式図である。
図13】実施の形態3に係る電力変換装置の電圧検出部および短絡検出部の回路構成の一例を示す図である。
図14】実施の形態3に係る電力変換装置の短絡検出回路部おける裕度を示す模式図である。
図15】実施の形態3に係る電力変換装置の電圧検出部および短絡検出部の回路構成の一例を示す図である。
図16】実施の形態4に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
図17】実施の形態4に係る電力変換装置の具体的な構成の一例を示す回路構成図である。
図18】実施の形態に係る電力変換装置の制御部をマイコンとした場合のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係る電力変換装置の好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、同一内容および相当部については同一符号を配し、その詳しい説明は省略する。以降の実施形態も同様に、同一符号を付した構成について重複した説明は省略する。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。図1において、電力変換装置10は、直流回路部100と負荷120との間で電力変換を行うもので、主回路部11とこの主回路部11を制御する制御部12とで構成される。
【0012】
制御部12は、電圧検出部13と短絡検出部200を備える。電圧検出部13は、直流回路部100と電力変換装置10との接続配線部110に設定した2点N1、N2間の寄生インダクタンス(インダクタンス成分)111に発生する電圧を検出する。短絡検出部200は、電圧検出部13の出力に基づき電力変換装置内の短絡発生の有無を判定する。
【0013】
図1では、接続配線部110の差電圧を検出する箇所として、負側配線上の2点N1、N2を設定する例を記載しているが、正側配線の2点を用いて検出してもよい。正側2点の場合、コモンモードノイズの影響を受けない利点があるが、短絡検知信号を短絡検出部200に伝達する場合に絶縁処理が必要となる。
【0014】
接続配線部110の配線に関しても、基板上の配線だけでなく、ケーブルおよびパワー半導体素子内の配線でもよい。また、主回路部11を制御するための電流検出用チップ抵抗が主回路部11と直流回路部100間に存在するのであれば、チップ抵抗のインダクタンス成分を用いて電圧を検出してもよい。なお、チップ抵抗で検出する場合は、抵抗成分による電圧上昇分もあるので、電圧検出部13に微分回路を設けて抵抗成分による電圧上昇分を除去すれば、検出裕度を改善することができる。
【0015】
図2は、実施の形態1に係る電力変換装置の具体的な構成の一例を示す回路構成図である。図2において、直流回路部100は交流電源100bと交流電圧から直流電圧に変換する3相PWMコンバータ100aを有し、主回路部11は3相の交流負荷である3相電動機120aを駆動する3相インバータ11pを有している。
【0016】
3相電動機120aを駆動する3相インバータ11pは、空調および冷蔵庫といった家電、電動自動車または産業用機器などで幅広く適用されている。
【0017】
3相PWMコンバータ100aは、交流リアクトル101aとパワー半導体素子Ma~Mfとコンデンサ14で構成される。また、3相インバータ11pは、パワー半導体素子M1~M6で構成される。なお、本実施の形態では、パワー半導体モジュールとしてMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field effect Transistor)を例として記載しているが、これに限られるものではなく、スイッチング素子として機能するものであればよい。また、パワー半導体素子の個数、電力変換装置10の相数、および直流回路部100または負荷120の数、詳細な回路構成においても以降の説明に限られるものでないことは明らかである。
【0018】
また、図2では、コンデンサ14を直流回路部100に搭載しているが、主回路部11にコンデンサ14を設けてもよく、直流回路部100および主回路部11の両方に設けてもよい。したがって、コンデンサ14の個数および箇所に限定はない。なお、コンデンサ14は必ずしも交流電源100bに起因する周波数成分を平滑する必要はなく、電解コンデンサ以外に、フィルムコンデンサまたはセラミックコンデンサを用いても良い。
【0019】
図3は実施の形態1に係る電力変換装置の電圧検出部13および短絡検出部200のブロック図である。電圧検出部13は、接続配線部110上の間隔を隔てて設定した2点N1、N2間のインダクタンス成分111に発生する電圧VLをモニタする構成となっている。また、短絡検出部200は、インダクタンス成分111に流れる電流ILが過電流状態にあることを検出する構成となっている。以降、電圧VLを検知用L電圧VLと称し、電流ILを検知用L電流ILと称す。
【0020】
具体的には、電圧検出部13は、検知用L電圧VLに重畳するスイッチングなどに起因するノイズ成分を除去するフィルタ回路13aを搭載する。また、短絡検出部200は、一定の電圧以上になると信号を出力する第1比較器201、第1比較器201の信号を積分して信号の時間幅を電圧に変換する積分器202、積分器202の出力電圧があらかじめ定めた一定値以下もしくは以上になった場合に過電流検知信号Sscを出力する第2比較器203で構成される。
【0021】
なお、検知用L電圧VLに重畳するノイズ成分が過電流の傾きによる電圧上昇に対して小さい場合は、フィルタ回路13aを設けなくてもよい。また、検知用L電圧VLが小さい場合は、オペアンプで構成する増幅器などを追加して増幅してもよい。
【0022】
図4は、実施の形態1に係る電力変換装置の電圧検出部13および短絡検出部200の回路構成の一例を示す図である。フィルタ回路13aは、抵抗R1とコンデンサC1とで構成されるローパスフィルタとなっており、配線上の設定点N1、フィルタ回路13aの接地点GND(図4中、白抜きの三角)およびコンデンサC1の一端が接続され、配線上の設定点N2とフィルタ回路13aの抵抗R1の一端が接続される。コンデンサC1の他端と抵抗R1の他端は接続され、第1比較器201に接続されている。
【0023】
ここで、SiC-MOSFET、GaN-HEMT(High Electron Mobility Transistor)、Si-IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)といった高速スイッチング動作するパワー半導体素子を3相インバータ11pのスイッチング素子として用いる場合、例えばMOSFETを例にとると、図5に示すようにスイッチング電流であるドレイン電流Idが、ターンオンした直後に周波数fsnで脈動する場合がある。この脈動電流が、電圧検出部13の配線に電圧として重畳し誤検出を招くので、フィルタ回路13aにローパスフィルタを設ける場合は、カットオフ周波数をfsn以下とすればよい。
【0024】
また、上述の高速スイッチング動作するパワー半導体素子(例えばMOSFET)を3相インバータ11pに適用した場合、図6の破線で示す低速時に比べ、実線で示す高速時におけるターンオフ時のドレイン-ソース間電圧(サージ電圧)Vdsが大きくなり(図6中、Vdsmax)、素子耐圧Vdspを超えて素子を破壊するので、以下の式(1)の条件を満たすように短絡検知用のインダクタンスを設定しなければならない。なお、この例において、パワー半導体素子をMOSFETとして説明したが、この限りでない。
【0025】
【数1】
【0026】
式(1)において、短絡検知用のインダクタンス成分111をL[H]、インダクタンス成分111を含むコンデンサとパワー半導体素子(MOSFET)間のインダクタンスをLloop[H]、インダクタンス成分111を含まないコンデンサとMOSFET素子間のインダクタンスをLa[H]、MOSFET素子の素子耐圧をVdsp[V]、直流回路部100の最大電圧をVdcmax[V]、MOSFET素子の最大電流傾きをdi/dtとする。ただし、Lloop=La+Lである。
【0027】
図4中、フィルタ回路13aの出力である抵抗R1とコンデンサC1の他端は、第1比較器201の非反転入力端子(+)に接続され、第1比較器201の反転入力端子(-)には、閾値電圧生成部204から生成された第1閾値電圧Vref1が入力される。第1比較器201の出力は抵抗R2とコンデンサC2で構成される積分器202に接続される。第1比較器201の出力が抵抗R2の一端に接続され、コンデンサC2の一端が接地点GNDに接続される。積分器202は、抵抗R2とコンデンサC2で構成したが、オペアンプを用いた積分回路を用いてもよい。
【0028】
積分器202の出力には、第2比較器203の非反転入力端子(+)が接続され、第2比較器203の反転入力端子(-)には閾値電圧生成部204から生成された第2閾値電圧Vref2が入力される。第2比較器203の出力が過電流検知信号Sscとなる。
【0029】
閾値電圧生成部204は、第1閾値電圧Vref1および第2閾値電圧Vref2ともに共通の電源Vccを抵抗分圧R3~R5によって生成されている。詳細は後述するが、共通の電源Vccとすることで、検出回路の裕度が改善される利点がある。なお、図示していないが第1比較器201および第2比較器203の電源は閾値電圧生成部204の電源Vccを用いても良いし、その他の電源を用いてもよい。
【0030】
図7は、実施の形態1に係る電力変換装置における短絡検出部200の動作原理を示す模式波形図である。上段から順に検知用L電流IL、検知用L電圧VL、第1比較器201の出力電圧、第2比較器203の入力電圧、過電流検知信号Sscを示している。図7中の実線波形は、短絡時の波形例を示しており、点線波形は、通常のスイッチング動作であるターンオン動作時の波形例を示している。図7の動作原理説明では、簡略化のためスイッチング時のノイズ成分は発生しないとし、フィルタ回路13aの存在は無視している。
【0031】
通常スイッチング動作時は、オンするパワー半導体素子により、ある相に負荷電流ILoadが流れている状態である。また、オンする直前はその相のオンしていないパワー半導体素子に接続されたダイオードに負荷電流ILoadが流れているとする。短絡時は、負荷電流ILoadが流れていない状態のアーム短絡とし、オンするパワー半導体素子がある相の対側の素子は、破壊され、もしくは誤信号が入力され、既にオンしている状態とする。
【0032】
時刻t0において、3相インバータ内のある1相中の正側もしくは負側パワー半導体素子がオンすることで、検知用L電流ILが流れ始めるので、検知用L電圧VLもそれに応じて上昇する。次に、時刻t1において検知用L電圧VLが第1閾値電圧Vref1より大きくなり、第1比較器201の出力電圧が上昇し、ハイ(High)の検出信号となる。
【0033】
第1比較器201の出力電圧がハイ(High)の検出信号になることで第2比較器203の入力電圧が積分器202によって徐々に上昇し始める。なお、図7からわかるように第1比較器201の出力電圧のハイ(High)の時間幅を、積分器202によって第2比較器203の入力電圧の高さに変換している。このように変換することで、設計が安易で、誤検知に対する裕度がある。ここまでは、通常スイッチング動作時も短絡時も同じ動作となる。
【0034】
時刻t2の通常スイッチング動作時において、検知用L電流ILは負荷電流ILoadまでしか流れないため、検知用L電流ILの傾きも緩やかになっていき、検知用L電圧VLも第1閾値電圧Vref1より低くなる。そのため、第1比較器201の検出信号の出力電圧もハイ(High)からロー(Low)の状態に切り替わり、第2比較器203の入力電圧も徐々に低下し始める。その後、検知用L電流ILが負荷電流ILoadとなると、スイッチング動作を完了する。
【0035】
時刻t2の短絡時において、検知用L電流ILは通常のスイッチング動作と違って負荷によって電流を制限されないので、時刻t2においても、検知用L電流ILは上昇し続ける。そのため、検知用L電圧VLも第1閾値電圧Vref1より大きな値を維持し続け、第2比較器203の入力電圧も上昇を継続する。
【0036】
時刻t3の短絡時において、第2比較器203の入力電圧が継続して上昇し、あらかじめ定めた一定時間経過時、すなわち第2閾値電圧Vref2より第2比較器203の入力電圧が大きくなり、過電流検知信号Sscがハイ(High)となり、短絡を検出する。以上より、実施の形態1の検出回路を用いて、通常のスイッチング動作時と短絡時を判別できることがわかる。なお、実施の形態1のような電力変換装置で短絡検知をした場合、3相PWMコンバータ100aおよび3相インバータ11pのパワー半導体素子をオフ状態に制御すれば、アーム短絡による装置破壊を防止することができる。
【0037】
短絡検出部200の動作原理説明では、第1閾値電圧Vref1と第2閾値電圧Vref2の値は、ある1つのパワー半導体素子がオンする通常スイッチングと、アーム短絡が識別できるように設定した例で説明したが、3相インバータ11pの電力変換装置で誤検知しない検出回路とするには、第1閾値電圧Vref1および第2閾値電圧Vref2を3相インバータ11pの動作条件に基づいて決定する必要がある。
【0038】
実施の形態1の検知方式は、図7からもわかるように第1比較器201の入力電圧が第1閾値電圧Vref1を超えた検出信号の時間幅の違いによって、通常スイッチングと短絡を識別している。なお、上述の説明では、フィルタ回路13aを無視した検知用L電圧VLで説明している。そのため、誤検知しないようにするためには、まず、通常スイッチング動作時は第1比較器201の入力電圧が第1閾値電圧Vref1を超える最大時間幅条件を求め、短絡時は第1比較器201の入力電圧が第1閾値電圧Vref1を超える最小時間幅条件を求める。
【0039】
その後、最大と最小の時間幅条件における第2比較器203の入力電圧をそれぞれ求め、互いのピーク値の間に第2閾値電圧Vref2を設定すればよい。図7においても、第2閾値電圧Vref2が通常スイッチング動作時と短絡時の第2比較器203の入力電圧ピークの間に設定されていることがわかる。
【0040】
通常スイッチング動作時において、最大時間幅となる電流条件は主回路部11と負荷120が最大電流で動作している時である。これは、電流値が大きいほど電流立ち上がり時間が長くなるので、検知用L電圧VLの時間幅も大きくなるからである。
上述した短絡検出部200の動作原理説明では、動作モードにおいて、ある1つのパワー半導体素子がオンする場合としたが、例えば3相インバータ11pにおいて、PWM制御にて電動機120aに3相交流電圧を出力する場合、2相がほぼ同じタイミングでパワー半導体素子がターンオン動作をする場合がある。
【0041】
図8は、3相インバータ11pのある1相が最大負荷電流でスイッチングした場合と、2相がほぼ同じタイミングでスイッチングをした場合の検知用L電圧VLを示している。2相スイッチング時の電流の合計値を最大負荷電流としている。図8より、設定する第1閾値電圧Vref1によっては、1相が最大電流でスイッチングした時の時間幅t1swより、互いの電流の傾きdi/dtが重なる、すなわち検知用L電圧VLが重なって生じる2相がほぼ同じタイミングでスイッチングした時の時間幅t2swの方が大きいことがわかる。そのため、1相スイッチングのみで第2閾値電圧Vref2を決めてしまうと誤検知してしまう恐れがあるので、第2閾値電圧Vref2は2相以上の電流傾きが重なっている最大時間幅条件に基づいて決定しなければならない。
【0042】
上述した短絡検出部200の動作原理説明では、短絡時は負荷電流が流れていない状態でのアーム短絡としていたが、負荷電流が流れている時にパワー半導体素子が破壊して短絡が発生するモードがある。これをオン中短絡と称す。負荷電流が流れていない状態でのアーム短絡は0[A]~飽和電流までとなるが、オン中短絡は、負荷電流ILoad~飽和電流となるため、検知用L電圧VLが発生している時間が短くなる。したがって、オン中短絡も検知対象とする場合は、オン中短絡時の最小時間幅条件に基づいて第2閾値電圧Vref2を設定すればよい。
【0043】
上述した短絡検出部200の回路構成では、閾値電圧生成部204の電源Vccを第1および第2閾値電圧ともに共通としている。これは、限流リアクトルを用いず、高速スイッチングするパワー半導体素子を電力変換装置に用いた場合においても、誤検知に対する裕度を改善するためである。
【0044】
すなわち、図9に閾値電圧生成部204の、電源を共通化していない場合(図9(a))と電源を共通化している場合(図9(b))の検出回路の裕度を表す図を示す。図中の実線は短絡時の最小電圧線を示しており、破線は通常スイッチング動作時の最大電圧線を示している。縦軸が第1比較器201の入力電圧となっており、フィルタ回路がない場合は検知用L電圧VLとなる。横軸が第2比較器203の入力電圧なっており、これは、第1比較器201の入力電圧の各高さにおける時間幅と同義である。
【0045】
図9の短絡時を示す実線および通常スイッチング動作時を示す破線の中間に第1および第2閾値電圧Vref1、Vref2を設定すれば、短絡時と通常スイッチング動作時を識別できる。例えば、図9における点Aの縦軸の値が第1閾値電圧Vref1、点Aの横軸の値が第2閾値電圧Vref2を表している。
【0046】
閾値電圧生成部204の電源Vccを共通化していない場合、第1閾値電圧Vref1を決定する電源と第2閾値電圧Vref2を決定する電源が、同じ正の範囲もしくは同じ負の範囲でばらつく場合と、正と負の異なる範囲でばらつく場合があるため、図9(a)のように閾値電圧のばらつきは、点線で表された四角形の範囲となる。なお、この点線で表された四角形が短絡を表す実線もしくは通常スイッチング時を表す破線に触れると、誤検知する。
【0047】
これに対し、閾値電圧生成部204の電源を共通化した場合、第1閾値電圧Vref1と第2閾値電圧Vref2は、同じ正の値もしくは同じ負の値でばらつく場合のみとなるので、図9(b)のように閾値電圧のばらつきはグラフの右上から右下の点線で表した矢印でしかばらつかないようになる。そのため、実線の矢印で表された裕度が図9(a)に比べ、図9(b)において改善されていることがわかる。したがって、仮に短絡時または通常スイッチング時の特性がゲート抵抗、ゲート閾値電圧、入力容量、ゲート電圧、温度などによって変わったとしても、誤検知しにくい検出回路とすることが可能となる。
【0048】
検知用L電圧VLの一定電圧値以下をツェナーダイオード等によってカットし、その電圧があらかじめ定められた一定時間以上となったら短絡を検知することも可能であるが、実施の形態1では図4に示すように、2つの比較器201、203と共通の電源から閾値電圧が生成される短絡検出部200とし、第1比較器201の入力電圧が第1閾値電圧Vref1を超えた時間があらかじめ定められた一定時間以上となったら短絡を検知している。
この理由としては、仮にツェナーダイオードをバイアス回路に用いる場合だと、ツェナー電圧のばらつきがあるため図9(a)と同じようなばらつき方となることがある。また、ツェナーダイオードには並列で存在する寄生容量の電圧依存性が大きく、カットする電圧であるツェナー電圧の電流依存性もある。そのため、フィルタ回路にローパスフィルタを設けている場合は、ツェナーダイオードの寄生容量の電圧依存性で、カットオフ周波数が電圧によって大きく変わってしまうので、フィルタ回路13aの設計の複雑化を招く。
【0049】
フィルタ回路13aを用いてない場合においても、寄生容量の電圧特性によって、ツェナーダイオード後の電圧波形が、検知用L電圧VLをツェナー電圧以下でカットした波形と同じにならないため、実測またはシミュレーション解析にてツェナーダイオード後の電圧を取得し、それを基に第1および第2閾値電圧Vref1、Vref2を設定しなければならない。対して、2つの比較器201、203で短絡検出部200を構成すれば、検知用L電流ILおよび検知用L電圧VLより閾値電圧を決定することができるので設計が容易になる。
さらに、ツェナーダイオードではツェナー電圧の電流依存性があるため、図9(a)の縦軸の閾値変動範囲がさらに拡大するため、検出回路としての裕度もさらに減少してしまう。
【0050】
以上のように、実施の形態1に係る電力変換装置10は、直流回路部100と3相インバータ11pとの接続配線部110に設定したN1、N2の2点間のインダクタンス成分111に発生する検知用L電圧VLを検出する電圧検出部13および2つの比較器201、203で構成される短絡検出部200によって、設計が安易でかつ、誤検知に対して十分裕度のある短絡検出をすることができる。結果、変換器の故障または発火等の事故への波及を防止することが可能となる。
【0051】
実施の形態2.
実施の形態1では、フィルタ回路13aの出力電圧を第1比較器201の非反転入力端子(+)に接続し、第1閾値電圧Vref1を第1比較器201の反転入力端子(-)に接続していた。実施の形態2においては、フィルタ回路13aの出力を第1比較器201の反転入力端子(-)に接続し、第1閾値電圧Vref1を第1比較器201の非反転入力端子(+)に接続するようにした。このような構成により、実施の形態1における図9(b)の裕度が低い箇所を改善することができる。
【0052】
図10は、実施の形態2係る電力変換装置の電圧検出部13および短絡検出部200の回路構成の一例を示す図である。なお、電力変換装置全体の構成は実施の形態1と同じであるので、図示と説明は省略する。
【0053】
フィルタ回路13aは、抵抗R1とコンデンサC1とで構成されるローパスフィルタとなっており、配線上の設定点N1とフィルタ回路13aの接地点GNDおよびコンデンサC1の一端が接続され、配線上の設定点N2とフィルタ回路13aの抵抗R1の一端が接続される。フィルタ回路13aの出力であるコンデンサC1の他端と抵抗R1の他端は接続され、第1比較器201の反転入力端子(-)に接続されている。第1比較器201の非反転入力端子(+)には、閾値電圧生成部204から生成された第1閾値電圧Vref1が入力される。第1比較器201の出力は、抵抗R2とコンデンサC2で構成される積分器202に接続される。第1比較器201の出力が抵抗R2の一端に接続され、コンデンサC2の一端が接地点GNDに接続される。
【0054】
積分器202の出力には、第2比較器203の非反転入力端子(+)が接続され、第2比較器203の反転入力端子(-)は閾値電圧生成部204から生成された第2閾値電圧Vref2が入力される。第2比較器203の出力が過電流検知信号Sscとなる。閾値電圧生成部204は、第1閾値電圧Vref1および第2閾値電圧Vref2ともに共通の電源Vccを抵抗分圧R3~R6によって分圧することで生成されている。
【0055】
図11は、実施の形態2に係る電力変換装置における短絡検出部200の動作原理を示す模式波形図である。上段から順に検知用L電流IL、検知用L電圧VL、第1比較器201の出力電圧、第2比較器203の入力電圧、過電流検知信号Sscを示している。図11中の実線波形は、短絡時の波形例を示しており、点線波形は、通常のスイッチング動作であるターンオン動作時の波形例を示している。なお、負荷電流等の前提条件は実施の形態1と同じである。
【0056】
時刻t0において、3相インバータ内のある1相中の正側もしくは負側パワー半導体素子がオンすることで、検知用L電流ILが流れ始めるので、検知用L電圧VLもそれに応じて上昇する。次に、時刻t1において検知用L電圧VLが第1閾値電圧Vref1より大きくなり、第1比較器201の出力電圧がハイ(High)からロー(Low)の状態となる。なお、ハイ(High)の状態を5V、ロー(Low)の状態を0Vとする。
【0057】
第1比較器201の出力電圧がロー(Low)になることで第2比較器203の入力電圧が積分器202によって徐々に下降し始める。なお、図11からわかるように第1比較器201の出力電圧のロー(Low)の時間幅を、積分器202によって第2比較器203の入力電圧の高さに変換している。ここまでは、通常のスイッチング動作時も短絡時も同じ動作となる。
【0058】
時刻t2の通常スイッチング動作時において、検知用L電流ILは負荷電流ILoadまでしか流れないため、検知用L電流ILの傾きも緩やかになっていき、検知用L電圧VLも第1閾値電圧Vref1より低くなる。そのため、第1比較器201の出力電圧もロー(Low)からハイ(High)の状態に切り替わり、第2比較器203の入力電圧も徐々に上昇し始める。その後、検知用L電流ILが負荷電流ILoadとなると、スイッチング動作を完了する。
【0059】
時刻t2の短絡時において、短絡時の検知用L電流ILは通常のスイッチング動作時と違って負荷によって電流を制限されないので、時刻t2においても、検知用L電流ILは上昇し続ける。そのため、検知用L電圧VLも第1閾値電圧Vref1より大きな値を維持し続け、第2比較器203の入力電圧も下降を継続する。
【0060】
時刻t3の短絡時において、第2比較器203の入力電圧が継続して下降し、第2閾値電圧Vref2より第2比較器203の入力電圧が小さくなり、過電流検知信号Sscがロー(Low)となり、短絡を検出する。以上より、実施の形態2の検出回路を用いて、通常のスイッチング動作時と短絡時を判別できることがわかる。
【0061】
図12に実施の形態2おける検出回路の裕度を表す図を示す。図中の実線は短絡時の最小電圧線を示しており、点線は通常スイッチング動作時の最大電圧線を示している。縦軸が第1比較器201の入力電圧となっており、フィルタ回路13aがない場合は検知用L電圧VLとなる。横軸が第2比較器203の入力電圧なっており、これは、第1比較器201の入力電圧の各大きさにおける時間幅と同義である。
【0062】
図12の短絡および通常スイッチング線の中間、例えば点Bに第1および第2閾値電圧を設定すれば、短絡と通常スイッチングを識別できる。図12における点Bの縦軸の値が第1閾値電圧Vref1、点Bの横軸の値が第2閾値電圧Vref2を表している。
【0063】
実施の形態1に対し、第1比較器201の入力の反転、非反転を逆にしたため、図12に示すように横軸方向の数値の大きさの順序が反転した形となるため、第1および第2閾値電圧Vref1、Vref2の変動方向と、通常スイッチング動作時および短絡時の最大最小電圧線が平行に近い形となる。そのため、実施の形態1における図9(b)の閾値変動を表す矢印の右上および左下部の低い裕度を、実施の形態2の構成とすることで改善することができる。
【0064】
以上のように、実施の形態2に係る電力変換装置は、フィルタ回路13aの出力を第1比較器201の反転入力端子(-)に接続し、第1閾値電圧Vref1を第1比較器の非反転入力端子(+)に接続することで、実施の形態1の短絡検出部200の短絡検出のための裕度が低い箇所を改善することができる。
【0065】
実施の形態3.
実施の形態1および実施の形態2では、第1比較器201の種類について指定せず、ロー(Low)もしくはハイ(High)を出力する回路としていた。実施の形態3においては、第1比較器201の種類をオープンコレクタもしくはオープンドレインとし、さらに、閾値電圧生成部204の電源Vccと第1比較器201の出力部をプルアップする電源を共通とする構成とする。実施の形態3は、実施の形態1および実施の形態2の短絡検出部200の裕度を改善するものである。
【0066】
図13は、実施の形態3に係る電力変換装置の電圧検出部13および短絡検出部200の回路構成の一例を示す図である。なお、電力変換装置全体の構成は実施の形態1と同じなので、図示と説明は省略する。
【0067】
フィルタ回路13aは、抵抗R1とコンデンサC1とで構成されるローパスフィルタとなっており、配線上の設定点N1、フィルタ回路13aの接地点GNDおよびコンデンサC1の一端が接続され、配線上の設定点N2とフィルタ回路13aの抵抗R1の一端が接続される。フィルタ回路13aの出力であるコンデンサC1の他端と抵抗Rの他端は接続され、第1比較器201の非反転入力端子(+)に接続される。第1比較器201の反転入力端子(-)には、閾値電圧生成部204から生成された第1閾値電圧Vref1が入力される。
【0068】
ここで、第1比較器201はオープンコレクタもしくはオープンドレインタイプとし、第1比較器201の出力には抵抗R2とコンデンサC2で構成される積分器202の抵抗R2およびコンデンサC2の一端と、閾値電圧生成部204の電源Vccと接続されたプルアップ抵抗R7の一端が接続される。積分器202のコンデンサC2の一端が接地点GNDに接続され、積分器202の出力には、第2比較器203の非反転入力端子(+)が接続される。
【0069】
第2比較器203の反転入力端子(-)は閾値電圧生成部204から生成された第2閾値電圧Vref2が入力される。第2比較器203の出力が過電流検知信号Sscとなる。閾値電圧生成部204は、第1閾値電圧Vref1および第2閾値電圧Vref2ともに共通の電源Vccを抵抗分圧R3~R6によって分圧することで生成されている。
【0070】
なお、実施の形態3は実施の形態1と同じく、第1比較器201の反転入力端子(-)に第1閾値電圧Vref1を接続し、非反転入力端子(+)にフィルタ回路13aの出力を接続としたが、実施の形態2のように反対に接続してもよい。また、実施の形態3は第2閾値電圧Vref2の電源と第1比較器201の出力をプルアップする電源が共通であればよく、第1閾値電圧Vref1生成用の電源は共通でなくてもよい。
【0071】
実施の形態3に係る電力変換装置における短絡検出の動作原理に関しては、実施の形態1と同じなので、図示と説明は省略する。
図14に実施の形態3おける短絡検出部200の裕度を表す図を示す。図中の実線は短絡時の最小電圧線を示しており、点線は通常スイッチング動作時の最大電圧線を示している。縦軸が第1比較器201の入力電圧となっており、フィルタ回路13aがない場合は検知用L電圧VLとなる。横軸が第2比較器203の入力電圧なっており、これは、第1比較器201の入力電圧の各大きさにおける時間幅と同義である。
【0072】
図14の短絡および通常スイッチング線の中間、例えば点Cに第1および第2閾値を設定すれば、短絡と通常スイッチングを識別できる。図14における点Cの縦軸の値が第1閾値電圧Vref1、点Cの横軸の値が第2閾値電圧Vref2を表している。
【0073】
実施の形態3の構成とすることで、閾値電圧生成部204の電源がばらついて第2閾値電圧Vref2がある比率で変化したとしても、第2比較器203の入力電圧も同じような比率で変化するため、横軸の第2閾値電圧Vref2は変動しない。
【0074】
ここで、実施の形態3では第1比較器201の種類をオープンコレクタもしくはオープンドレインとしたが、第1比較器201をプッシュプル構成とし、図15に示すように閾値電圧生成部204の電源Vccと第1比較器の電源電圧を共有としても、実施の形態3と同じ効果が得られる。これは、閾値電圧生成部204の電源がばらついて第2閾値電圧Vref2がある比率で変化したとしても、第2比較器203の入力電圧も同じような比率で変化するためである。
【0075】
図14の構成とすることで横軸の第2閾値電圧Vref2の変動分はなくなったが、縦軸の第1閾値電圧Vref1には変動分がある。これをさらに改善するためには、接続配線部110の正側と負側の電圧差の変化の大小に応じて、第1閾値電圧Vref1を大小に変動させればよい。これは、直流回路部100の電圧差が大きくなると、それに伴って図14の実線で示す短絡最小電圧幅線が縦軸および横軸ともに増加するからである。電圧差が大きい時に、第1閾値電圧が増加するが、その分、短絡最小電圧幅線も縦軸および横軸ともに増加するので、短絡に対する誤検知の裕度が改善される。具体的な回路例としては、直流回路部100の正側から抵抗分圧によって第1閾値電圧Vref1を生成する構成がある。
【0076】
これまで閾値電圧のばらつきに関しては、検知裕度に大きく影響する電源のばらつきのみを考慮していたが、他にも分圧抵抗のばらつきなどもあるため、設計する場合はこれらも考慮すればよい。
以上より、実施の形態3において、第1比較器201の種類をオープンコレクタもしくはオープンドレインとし、さらに、閾値電圧生成部204の電源Vccと第1比較器201の出力をプルアップする電源を共通とすることで、実施の形態1および実施の形態2よりも短絡検出部200の裕度をさらに改善することができる。
【0077】
実施の形態4.
本実施の形態4は、実施の形態1で例に挙げた電力変換装置の主回路部構成が異なり、主回路部を多並列化した場合の短絡検知に関するものである。
図16は、実施の形態4に係る電力変換装置の構成の一例であるブロック図を示す。図16において、電力変換装置10は、直流回路部100と負荷である電動機120a、120bとの間で電力変換を行うもので、主回路部11a、11bおよび電動機120a、120bが並列化された構成となる。
【0078】
主回路部11a、11bとこの主回路部11a、11bを制御する制御部12とで構成され、制御部12は直流回路部100と電力変換装置10との接続配線部110に設定した配線上の設定点N1、N2間のインダクタンス成分111に発生する電圧を検出する電圧検出部13および電圧検出部13の出力に基づき電力変換装置内の短絡発生の有無を判定する短絡検出部200を備えている。なお、図16では、電圧検出用のインダクタンス成分111は1つのみの構成としているが、主回路部11a、11bにそれぞれ電圧検出用のインダクタンス成分を設けてもよい。
【0079】
図17は、実施の形態4に係る電力変換装置の具体的な構成を示すブロック図である。ここでは、直流回路部100は交流電源100bと、交流電圧から直流電圧に変換する3相PWMコンバータ100a、主回路部11a、11bは3相の交流負荷である3相電動機120a、120bを駆動する3相インバータを一例として示している。
【0080】
3相PWMコンバータ100aは交流リアクトル101aとパワー半導体素子Ma~Mfとコンデンサ14aで構成され、主回路部11a、11bはパワー半導体素子M1~M12とコンデンサ14bで構成される。実施の形態1と同様に、直流回路部100、主回路部11の構成、パワー半導体素子の種類、個数、電力変換装置10の相数、コンデンサの個数および箇所等は限定されない。
【0081】
本実施の形態4は、2つの3相電動機120a、120bを駆動する2並列構成の電力変換装置で、例えば、空気調和機の室外機回路に採用されている。1つが圧縮機用の3相電動機で、残りの1つがファン用の3相電動機となる。
電圧検出部13および短絡検出部200の構成は実施の形態1~3のいずれかの構成で良く、短絡検出部200の動作原理に関しても、同じである。ただし、3相インバータが1つのみの構成の場合は2相の最大電流傾きdi/dtが重なる場合を考慮して第2閾値電圧Vref2を決定していだが、多並列化された主回路部11a、11bの場合は、最大電流傾きdi/dtが重なる相数がさらに増加するので、di/dtが重なる相数が最大時の時間幅に基づいて、第2閾値電圧Vref2を決定しなければならない。
【0082】
実施の形態4の構成においても、共通の制御部12に備えた電圧検出部13および短絡検出部200により、並列接続された主回路部11a、11bの共通の経路となる接続配線部110に設定された配線上の設定点N1、N2間のインダクタンス成分111に発生する短絡を検出し、電力変換器の動作を停止して保護することができる。なお、実施の形態4のような電力変換装置で短絡検知をした場合、3相PWMコンバータ100aおよび並列化された主回路部11a、11bのパワー半導体素子をオフ状態にすれば、アーム短絡による装置破壊を防止することができる。
【0083】
これまで、主回路部において本開示の短絡検知の実施方法について述べてきたが、直流回路部100においても、本方式は適用可能であることは明らかである。また、短絡検出回路に関しては、アナログ回路を用いて短絡検出を行っていたが、これをFPGA(Field-programmable gate array)またはマイコン(Microcontroller)といったデジタル回路を用いて短絡検出を行ってもよい。
【0084】
図18にマイコンを使用した場合のハードウェアの一例を示す。プロセッサ1000と記憶装置2000から構成され、図示していないが、記憶装置はランダムアクセスメモリ等の揮発性記憶装置と、フラッシュメモリ等の不揮発性の補助記憶装置とを具備する。また、フラッシュメモリの代わりにハードディスクの補助記憶装置を具備してもよい。プロセッサ1000は、記憶装置2000から入力されたプログラムを実行することにより、上述した短絡検出を行う。この場合、補助記憶装置から揮発性記憶装置を介してプロセッサ1000にプログラムが入力される。また、プロセッサ1000は、電圧検出部により検出された電圧のデータ、演算結果等のデータを記憶装置2000の揮発性記憶装置に出力してもよいし、揮発性記憶装置を介して補助記憶装置にデータを保存してもよい。さらにマイコンを使用した場合、3相PWMコンバータ100aおよび並列化された主回路部11、11a、11bのパワー半導体素子をオフ状態にするための信号を出力することは容易である。
【0085】
本開示は、様々な例示的な実施の形態および実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、および機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
したがって、例示されていない無数の変形例が、この明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるとする。
【符号の説明】
【0086】
10:電力変換装置、11、11a、11b:主回路部、12:制御部、13:電圧検出部、13a:フィルタ回路、100:直流回路部、110:接続配線部、111:インダクタンス成分、120:負荷、200:短絡検出部、201:第1比較器、202:積分器、203:第2比較器、204:閾値電圧生成部。
【要約】
直流回路部(100)と負荷(120)との間で電力変換を行う主回路部(11)、直流回路部(100)と主回路部(11)とを接続する配線に設定した2点間のインダクタンス成分に発生する電圧を検出する電圧検出部(13)、電圧検出部(13)で検出した電圧が第1閾値電圧を超えた場合に検出信号を出力する第1の比較器(201)と第1の比較器(201)の検出信号があらかじめ定められた時間以上継続した場合に短絡が発生したことを検出する第2の比較器(203)とを有する短絡検知部(200)を備えたことにより、設計が安易でかつ、誤検知に対して十分裕度のある短絡検知とすることができる。
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