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特許7566216分離画像取得方法、分離画像取得装置、及び分離画像取得プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】分離画像取得方法、分離画像取得装置、及び分離画像取得プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2024537453
(86)(22)【出願日】2023-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2023046652
【審査請求日】2024-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2023027522
(32)【優先日】2023-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】樋口 貴文
(72)【発明者】
【氏名】池村 賢一郎
(72)【発明者】
【氏名】加茂 航
(72)【発明者】
【氏名】加藤 なつみ
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-541179(JP,A)
【文献】国際公開第2005/036143(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0208076(US,A1)
【文献】国際公開第2023/026742(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/83
G01N 15/00-G01N 15/1492
G06T 7/00-G06T 7/90
G01N 33/48-G01N 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる波長特性を有する複数の光学状態における複数の参照蛍光画像に基づいて取得された、蛍光像を分離した蛍光分離画像を得るための画像分離情報を複数記憶した記憶部から所望の画像分離情報を選択する選択ステップと、
複数波長の励起光のそれぞれを試料に照射する照射ステップと、
前記複数波長の励起光のそれぞれによって前記試料から生じた複数の蛍光のそれぞれについて、複数の反射波長域及び複数の透過波長域を有する蛍光フィルタ部を介して、前記複数の光学状態のうちの少なくとも1つの光学状態における対象蛍光画像を取得する取得ステップと、
前記複数の蛍光のそれぞれについて、前記取得ステップにおいて取得された前記対象蛍光画像と、前記選択ステップで選択された前記画像分離情報とに基づいて、蛍光分離画像を生成する生成ステップと、
を備える分離画像取得方法。
【請求項2】
前記画像分離情報は、前記複数の参照蛍光画像を取得した際の画像取得条件と紐づけて記憶され、
前記選択ステップでは、前記対象蛍光画像の取得時の画像取得条件に対応する画像取得条件に紐づけられた前記画像分離情報を選択する、
請求項1に記載の分離画像取得方法。
【請求項3】
前記生成ステップでは、前記対象蛍光画像及び選択された前記画像分離情報を基に補正された画像分離情報である補正画像分離情報を取得する、
請求項1又は2に記載の分離画像取得方法。
【請求項4】
前記生成ステップでは、前記補正画像分離情報及び前記対象蛍光画像を用いて前記蛍光分離画像を生成する、
請求項3に記載の分離画像取得方法。
【請求項5】
前記生成ステップでは、前記対象蛍光画像及び前記画像分離情報を基に前記蛍光分離画像を補正する、
請求項1又は2に記載の分離画像取得方法。
【請求項6】
前記生成ステップでは、前記対象蛍光画像及び前記画像分離情報を基に生成した前記蛍光分離画像を学習済み推論モデルに入力し、前記学習済み推論モデルの出力を補正された前記蛍光分離画像として得る、
請求項1又は2に記載の分離画像取得方法。
【請求項7】
前記生成ステップでは、前記対象蛍光画像及び前記画像分離情報を学習済み推論モデルに入力し、前記学習済み推論モデルの出力を補正された前記蛍光分離画像として得る、
請求項1又は2に記載の分離画像取得方法。
【請求項8】
前記複数の光学状態は、前記蛍光を光学フィルタを透過させた状態である第1光学状態と、前記蛍光を前記光学フィルタを透過させない状態である第2光学状態を少なくとも含む、
請求項1又は2に記載の分離画像取得方法。
【請求項9】
前記生成ステップでは、前記画像分離情報と、前記第2光学状態において取得された前記対象蛍光画像とを基に、蛍光分離画像を生成する、
請求項8に記載の分離画像取得方法。
【請求項10】
異なる波長特性を有する複数の光学状態における複数の参照蛍光画像に基づいて取得された、蛍光像を分離した蛍光分離画像を得るための画像分離情報を記憶した記憶部と、
複数の波長分布の励起光のそれぞれを試料に照射する照射装置と、
複数波長の前記励起光のそれぞれによって前記試料から生じた複数の蛍光のそれぞれについて、複数の反射波長域及び複数の透過波長域を有する蛍光フィルタ部を介して、前記複数の光学状態のうちの少なくとも1つの光学状態における対象蛍光画像を取得する画像取得装置と、
蛍光画像を処理する画像処理装置と、を備え、
前記画像処理装置は、
前記記憶部に記憶された複数の画像分離情報の中から所望の画像分離情報を選択し、
前記複数の蛍光のそれぞれについて、前記画像取得装置において取得された前記対象蛍光画像と、選択した前記画像分離情報とに基づいて、蛍光分離画像を生成する、
分離画像取得装置。
【請求項11】
前記記憶部は、前記画像分離情報を、前記複数の参照蛍光画像を取得した際の画像取得条件と紐づけて記憶し、
前記画像処理装置は、前記対象蛍光画像の取得時の画像取得条件に対応する画像取得条件に紐づけられた前記画像分離情報を選択する、
請求項10に記載の分離画像取得装置。
【請求項12】
前記画像処理装置は、
前記蛍光分離画像の生成において、前記対象蛍光画像及び選択された前記画像分離情報を基に補正された画像分離情報である補正画像分離情報を取得する、
請求項10又は11に記載の分離画像取得装置。
【請求項13】
前記画像処理装置は、
前記蛍光分離画像の生成において、前記補正画像分離情報及び前記対象蛍光画像を用いて前記蛍光分離画像を生成する、
請求項12に記載の分離画像取得装置。
【請求項14】
前記画像処理装置は、
前記蛍光分離画像の生成において、前記対象蛍光画像及び前記画像分離情報を基に前記蛍光分離画像を補正する、
請求項10又は11に記載の分離画像取得装置。
【請求項15】
前記画像処理装置は、
前記蛍光分離画像の生成において、前記対象蛍光画像及び前記画像分離情報を基に生成した前記蛍光分離画像を学習済み推論モデルに入力し、前記学習済み推論モデルの出力を補正された前記蛍光分離画像として得る、
請求項10又は11に記載の分離画像取得装置。
【請求項16】
前記画像処理装置は、
前記蛍光分離画像の生成において、前記対象蛍光画像及び前記画像分離情報を学習済み推論モデルに入力し、前記学習済み推論モデルの出力を補正された前記蛍光分離画像として得る、
請求項10又は11に記載の分離画像取得装置。
【請求項17】
前記複数の光学状態は、前記蛍光を光学フィルタを透過させた状態である第1光学状態と、前記蛍光を前記光学フィルタを透過させない状態である第2光学状態を少なくとも含む、
請求項10又は11に記載の分離画像取得装置。
【請求項18】
前記画像処理装置は、
前記蛍光分離画像の生成において、前記画像分離情報と、前記第2光学状態において取得された前記対象蛍光画像とを基に、蛍光分離画像を生成する、
請求項17に記載の分離画像取得装置。
【請求項19】
複数の波長分布の励起光のそれぞれを試料に照射することにより、複数波長の前記励起光のそれぞれによって前記試料から生じた複数の蛍光のそれぞれについて、複数の反射波長域及び複数の透過波長域を有する蛍光フィルタ部を介して取得される、異なる波長特性を有する複数の光学状態における複数の参照蛍光画像を基に、蛍光分離画像を生成するための分離画像取得プログラムであって、
コンピュータに対して、
複数の参照蛍光画像に基づいて取得された、蛍光を分離した蛍光分離画像を得るための画像分離情報を複数記憶する記憶処理と、
前記記憶された複数の画像分離情報の中から、所望の画像分離情報を選択する選択処理と、
前記複数の蛍光のそれぞれについて前記複数の光学状態のうち少なくとも1つの光学状態において取得された対象蛍光画像と、選択した前記画像分離情報とに基づいて、蛍光分離画像を生成する生成処理と、
を実行させる分離画像取得プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態の一側面は、分離画像取得方法、分離画像取得装置、及び分離画像取得プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、生体組織等の試料を対象に複数の試料内物質を同時に染色する多重染色の手法が用いられている。そして、多重染色が行われた試料内の物質を観察するために、試料に励起光を照射して蛍光画像を取得することも行われている。例えば、下記非特許文献1には、複数の波長域の蛍光を観察した蛍光画像をブラインドアンミキシングして試料内物質ごとの分離画像を得るために、非負値行列因子分解(NMF: Nonnegative Matrix Factorization)の手法を適用することが開示されている。また、下記非特許文献2には、蛍光画像をアンミキシングする手法として、蛍光画像をクラスタリングして、クラスタリングされた各画素群で蛍光強度の最大値を抽出し、その最大値を基に分離画像を生成することが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Binjie Qin et al.,“Target/Background Classification Regularized Nonnegative Matrix Factorization for Fluorescence Unmixing”, IEEE TRANSACTIONS ON INSTRUMENTATION AND MEASUREMENT, VOL.65, NO.4, APRIL 2016
【文献】Tristan D. McRae et al.,“Robust blind spectral unmixing for fluorescence microscopy using unsupervised learning”, PLOS ONE, December 2,2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような従来の手法においては、励起光の種類、あるいは観察する蛍光色素の数等に応じてアンミキシングの計算時間が増加しスループットの低下を招く傾向にある。
【0005】
そこで、実施形態の一側面は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、アンミキシングによる分離画像の取得時のスループットの向上を図ることが可能な分離画像取得方法、分離画像取得装置、及び分離画像取得プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の第一の側面に係る分離画像取得方法は、異なる波長特性を有する複数の光学状態における複数の参照蛍光画像に基づいて取得された、蛍光像を分離した蛍光分離画像を得るための画像分離情報を複数記憶した記憶部から所望の画像分離情報を選択する選択ステップと、複数波長の励起光のそれぞれを試料に照射する照射ステップと、複数波長の励起光のそれぞれによって試料から生じた複数の蛍光のそれぞれについて、複数の反射波長域及び複数の透過波長域を有する蛍光フィルタ部を介して、複数の光学状態のうちの少なくとも1つの光学状態における対象蛍光画像を取得する取得ステップと、複数の蛍光のそれぞれについて、取得ステップにおいて取得された対象蛍光画像と、選択ステップで選択された画像分離情報とに基づいて、蛍光分離画像を生成する生成ステップと、を備える。
【0007】
あるいは、実施形態の第二の側面に係る分離画像取得装置は、異なる波長特性を有する複数の光学状態における複数の参照蛍光画像に基づいて取得された、蛍光像を分離した蛍光分離画像を得るための画像分離情報を記憶した記憶部と、複数の波長分布の励起光のそれぞれを試料に照射する照射装置と、複数波長の励起光のそれぞれによって試料から生じた複数の蛍光のそれぞれについて、複数の反射波長域及び複数の透過波長域を有する蛍光フィルタ部を介して、複数の光学状態のうちの少なくとも1つの光学状態における対象蛍光画像を取得する画像取得装置と、蛍光画像を処理する画像処理装置と、を備え、画像処理装置は、記憶部に記憶された複数の画像分離情報の中から所望の画像分離情報を選択し、複数の蛍光のそれぞれについて、画像取得装置において取得された対象蛍光画像と、選択した画像分離情報とに基づいて、蛍光分離画像を生成する。
【0008】
あるいは、実施形態の第三の側面に係る分離画像取得プログラムは、複数の波長分布の励起光のそれぞれを試料に照射することにより、複数波長の励起光のそれぞれによって試料から生じた複数の蛍光のそれぞれについて、複数の反射波長域及び複数の透過波長域を有する蛍光フィルタ部を介して取得される、異なる波長特性を有する複数の光学状態における複数の参照蛍光画像を基に、蛍光分離画像を生成するための分離画像取得プログラムであって、コンピュータに対して、複数の参照蛍光画像に基づいて取得された、蛍光を分離した蛍光分離画像を得るための画像分離情報を複数記憶する記憶処理と、記憶された複数の画像分離情報の中から、所望の画像分離情報を選択する選択処理と、複数の蛍光のそれぞれについて複数の光学状態のうち少なくとも1つの光学状態において取得された対象蛍光画像と、選択した画像分離情報とに基づいて、蛍光分離画像を生成する生成処理と、を実行させる。
【0009】
上記第一の側面、上記第二の側面、あるいは上記第三の側面によれば、複数の参照蛍光画像を基に取得された複数の画像分離情報から所望の画像分離情報が選択され、異なる波長分布の励起光を用いて、試料の蛍光像を蛍光フィルタ部を介して、複数の参照蛍光画像のいずれかの光学状態と同じ光学状態で捉えた対象蛍光画像が取得され、取得された対象蛍光画像と、選択された画像分離情報とを用いて蛍光分離画像が生成される。これにより、観察に用いる励起光の種類、あるいは、観察する蛍光色素の数が多い場合であっても、過去に取得された画像分離情報を活用してアンミキシングすることができ、アンミキシングの計算量を抑えることができる。その結果、アンミキシングによる分離画像の取得時のスループットの向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一側面によれば、アンミキシングによる分離画像の取得時のスループットの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態にかかる蛍光色素画像取得システム1の概略構成図である。
図2図1の画像取得装置3の構成を示す斜視図である。
図3図1の画像処理装置5のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図4図1の画像処理装置5の機能構成を示すブロック図である。
図5図4の行列取得部203による第1のクラスタリング機能によってクラスタリングされた画素群のイメージを示す図である。
図6】試料Sに含まれる複数の蛍光色素の励起光の吸収率の波長特性を示すグラフである。
図7図4の行列取得部203によって特定された重心蛍光波長の分布を示すグラフである。
図8図4の行列取得部203による第2のクラスタリング機能によってクラスタリングされた画素群のイメージを示す図である。
図9図4の行列取得部203によって再生成される行列データY’及び蛍光色素行列データX’のイメージを示す図である。
図10】実施形態に係る分離画像取得方法の手順を示すフローチャートである。
図11】本実施形態に係る蛍光色素画像取得システム1によって対象蛍光画像を基に生成された蛍光色素画像の一例を示す図である。
図12】本実施形態に係る蛍光色素画像取得システム1によってミキシング行列の補正をせずに対象蛍光画像を基に生成された蛍光色素画像の一例を示す図である。
図13】変形例に係る画像処理装置5Aの機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0013】
図1は、実施形態にかかる分離画像取得装置である蛍光色素画像取得システム1の概略構成図である。蛍光色素画像取得システム1は、観察対象である生体組織等の試料内の蛍光色素の分布を特定するための蛍光色素画像(蛍光分離画像)を生成するための装置である。蛍光色素画像取得システム1によって生成される画像は、その画像の解析を通じた、薬剤の開発、治療法の検討等の目的に用いられる。そのため、蛍光色素画像取得システム1には、定量的に試料に含まれる多くの物質(蛍光色素)の分布を特定可能な画像を高スループットで生成することが求められる。蛍光色素画像取得システム1は、試料Sに励起光を照射してそれに応じて生じた蛍光の画像を取得する画像取得装置3と、画像取得装置3によって取得された画像をデータ処理する画像処理装置5とを備えている。画像取得装置3と画像処理装置5とは、それらの間で有線通信あるいは無線通信を用いて画像データが送受信可能に構成されていてもよいし、記録媒体を介して画像データが入出力可能に構成されていてもよい。
【0014】
図2は、図1の画像取得装置3の構成を示す斜視図である。図2においては、励起光の光路を矢印付きの点線で示し、蛍光の光路を矢印付きの実線で示す。画像取得装置3は、励起光源(照射装置)7、光源側フィルタセット9a、ダイクロイックミラー11、カメラ側フィルタセット(蛍光フィルタ部)9b、波長情報取得光学系(光学フィルタ)13、カメラ(画像取得装置)15を含んで構成される。
【0015】
励起光源7は、複数の波長帯(波長分布)の励起光を切り替えて照射可能な光源であり、例えば、LED(Light Emitting Diode)光源、複数の単色レーザ光源からなる光源、あるいは白色光源と波長選択光学素子を組み合わせた光源などである。光源側フィルタセット9aは、励起光源7の励起光の光路上に設けられ、所定の複数の波長帯の光を透過させる性質を有するマルチバンドパスフィルタである。この光源側フィルタセット9aの透過波長帯は、使用されうる励起光の複数の波長帯に応じて設定される。ダイクロイックミラー11は、光源側フィルタセット9aと試料Sとの間に設けられ、励起光を試料Sに向けて反射し、それに応じて試料Sから発せられる蛍光を透過する性質を有する光学部材である。カメラ側フィルタセット9bは、ダイクロイックミラー11によって透過される蛍光の光路上に設けられ、所定の複数の波長帯の光を透過させる性質を有するマルチバンドパスフィルタである。このカメラ側フィルタセット9bの透過波長帯は、観察対象の試料Sに含みうる蛍光色素において生じる蛍光の波長帯に応じて設定される。詳細には、カメラ側フィルタセット9bは、その波長特性として、複数の蛍光の波長帯に対応した透過波長帯(透過波長域)と、それらの複数の透過波長帯の間の反射波長帯(反射波長域)とを有する。
【0016】
波長情報取得光学系13は、カメラ側フィルタセット9bによって透過される蛍光の光路上に着脱可能に支持され、蛍光の波長情報を取得するための光学系である。すなわち、波長情報取得光学系13は、試料Sからの蛍光の光路上に配置された状態(第1光学状態)と蛍光の光路上から離脱した状態(第2光学状態)との2つの状態を切り替え可能に設けられる。なお、波長情報取得光学系13は、波長特性の異なる複数の光学状態を実現できればよく、例えば、異なる波長特性を有する2つ以上の蛍光フィルタを備えた蛍光フィルタセットなどであってもよい。波長情報取得光学系13は、第1光学状態では、試料Sにおいて生じてダイクロイックミラー11及びカメラ側フィルタセット9bを透過した蛍光を、所定の波長特性でカメラ15に向けて透過させる。波長情報取得光学系13は、第1光学状態とは異なる第2光学状態では、ダイクロイックミラー11及びカメラ側フィルタセット9bを透過した蛍光を、そのままの光学状態(波長情報取得光学系13を透過させないで)でカメラ15に入射させる。例えば、波長情報取得光学系13としては、波長が大きくなるに従って透過率が線形的に大きくなるような透過率の波長特性を有するダイクロイックミラー(傾斜フィルタとも言う。)が用いられる。また、波長情報取得光学系13として、波長が小さくなるに従って透過率が線形的に小さくなるような透過率の波長特性を有するダイクロイックミラー(傾斜フィルタ)を用いてもよい。このようなダイクロイックミラーを用いた波長情報取得光学系13は、蛍光を異なる二通りの波長透過特性でカメラ15に入射させることができる。
【0017】
カメラ15は、N個(Nは2以上の整数、例えば、2048×2048)の画素によって構成される二次元画像を撮像する撮像装置であり、波長情報取得光学系13が蛍光の光路上に切り替えられた際(第1光学状態の時)に、波長情報取得光学系13を透過した蛍光を撮像して第1蛍光画像を取得するカメラである。また、カメラ15は、波長情報取得光学系13が蛍光の光路上から離脱された際(第2光学状態の時)に、波長情報取得光学系13を透過しない蛍光を撮像し、第2蛍光画像を取得する。カメラ15は、励起光源7によって照射された複数の波長帯の励起光のそれぞれによって試料Sから生じた複数の蛍光のそれぞれについて、第1蛍光画像及び第2蛍光画像を取得する。カメラ15は、取得した第1蛍光画像及び第2蛍光画像を、通信を用いて、あるいは記録媒体を介して、画像処理装置5に出力する。
【0018】
次に、図3および図4を参照して、画像処理装置5の構成を説明する。図3は、画像処理装置5のハードウェア構成の一例を示すブロック図であり、図4は、画像処理装置5の機能構成を示すブロック図である。
【0019】
図3に示すように、画像処理装置5は、物理的には、プロセッサであるCPU(Central Processing Unit)101、記録媒体であるRAM(Random Access Memory)102又はROM(Read Only Memory)103、通信モジュール104、及び入出力モジュール106等を含んだコンピュータ等であり、各々は電気的に接続されている。なお、画像処理装置5は、入出力デバイスとして、ディスプレイ、キーボード、マウス、タッチパネルディスプレイ等を含んでいてもよいし、ハードディスクドライブ、半導体メモリ等のデータ記録装置を含んでいてもよい。また、画像処理装置5は、複数のコンピュータによって構成されていてもよい。
【0020】
図4に示すように、画像処理装置5は、機能的な構成要素として、情報検索部(選択部)201、画像取得部202、行列取得部203、行列補正部204、画像生成部205、及び画像分離情報格納部(記憶部)206を備えている。なお、情報検索部201及び画像分離情報格納部206は、画像処理装置5に接続された外部装置であってもよい。図4に示す画像処理装置5の各機能部は、CPU101及びRAM102等のハードウェア上にプログラム(実施形態にかかる分離画像取得プログラム)を読み込ませることにより、CPU101の制御のもとで、通信モジュール104、及び入出力モジュール106等を動作させるとともに、RAM102におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。画像処理装置5のCPU101は、このコンピュータプログラムを実行することによって図4の各機能部を機能させ、後述する分離画像取得方法に対応する処理を順次実行する。
【0021】
なお、CPU101は、単体のハードウェアでもよく、ソフトプロセッサのようにFPGAのようなプログラマブルロジックの中に実装されたものでもよい。RAMやROMについても単体のハードウェアでもよく、FPGAのようなプログラマブルロジックの中に内蔵されたものでもよい。このコンピュータプログラムの実行に必要な各種データ、及び、このコンピュータプログラムの実行によって生成された各種データは、全て、ROM103、RAM102等の内蔵メモリ、又は、ハードディスクドライブなどの記憶媒体に格納される。以下、画像処理装置5の機能的な構成要素の機能について詳細に説明する。
【0022】
情報検索部201は、試料Sを対象とした第1蛍光画像あるいは第2蛍光画像の取得時の画像取得条件、第1蛍光画像及び第2蛍光画像を基にしたミキシング行列(画像分離情報)の推定処理に関する情報(推定処理情報)、及び、画像分離情報格納部206へのミキシング行列の保存時の保存設定情報等を基に、画像分離情報格納部206に格納されたデータから所望のミキシング行列を検索する(選択する)。情報検索部201は、検索に用いる画像取得条件、推定処理情報、及び保存設定情報等を、画像処理装置5の入出力モジュール106を介してユーザから入力された情報に基づいて設定してもよいし、画像取得装置3等の外部装置から送信された情報に基づいて設定してもよいし、画像処理装置5のRAM102あるいはROM103等から参照した情報に基づいて設定してもよい。
【0023】
上記の画像取得条件としては、試料Sの種類、試料Sに付されたバーコードの情報、試料Sに含まれる蛍光色素の種類、試料Sの染色の日時、試料Sの測定日時、励起光の種類、各励起光の強度、フィルタの種類あるいは数(傾斜フィルタの有無など)、カメラの種類、対物レンズの種類あるいは倍率、各励起光の露光時間、環境温度、取得された蛍光画像そのもののデータ、等が挙げられる。上記の推定処理情報としては、推定処理に用いられるソフトウェアのバージョン情報、推定処理に用いたアルゴリズム、パラメータ、あるいはオプション、推定処理に要した時間、等が挙げられる。上記の保存設定情報としては、保存したユーザ名、プロジェクト名、アッセイ名、ミキシング行列名、タグ情報(自由に付したキーワード、SNSのハッシュタグ)等、が挙げられる。
【0024】
画像分離情報格納部206には、後述する行列取得部203によって取得されたミキシング行列が、そのミキシング行列の基となった複数の蛍光画像(例えば、第1蛍光画像及び第2蛍光画像)の取得時の画像取得条件、そのミキシング行列の取得時に用いた推定処理に関する推定処理情報、及び、そのミキシング行列の保存時の保存設定情報に紐づけて記憶されている。情報検索部201は、ユーザ、外部装置等によって設定された画像取得条件、推定処理情報、あるいは保存設定情報を含む検索キーに一致あるいは対応(類似)する情報に紐づけられたミキシング行列を検索する(選択する)。そして、情報検索部は201は、ミキシング行列の検索結果を画像取得部202及び行列取得部203に引き渡す。このとき、情報検索部201は、上述した画像取得条件、推定処理情報、及び保存設定情報の各項目のうち少なくとも1つの項目を検索キーとして用いてミキシング行列を検索する。情報検索部201は、少なくとも画像取得条件の項目を1以上含む検索キーを用いてミキシング行列を検索する。
【0025】
画像取得部202は、情報検索部201による検索処理において画像取得条件等の検索キーが一致あるいは対応(類似)するミキシング行列が見つからなかった場合は、ミキシング行列を新たに取得するために、画像取得装置3から、第1蛍光画像(第1参照蛍光画像)及び第2蛍光画像(第2参照蛍光画像)を取得する。
【0026】
具体的には、情報検索部201によってミキシング行列が見つからなかった場合は、画像取得部202は、試料Sを対象とした予め指定されたC個(Cは2以上の整数)の第1参照蛍光画像を、画像取得装置3から取得する。これらのC個の第1参照蛍光画像は、第1光学状態において、C個の波長帯の励起光が試料Sにそれぞれ照射されて、それに応じて試料Sから生じた蛍光を撮像することによって生成されるN個の画素によって構成される蛍光画像である。このとき、取得される第1参照蛍光画像の個数C(試料Sに照射される励起光の波長帯の数C)は、試料Sに含まれうる蛍光色素の最大の数以上になるように予め指定される。また、画像取得部202は、同様にして、第2光学状態において、C個の第2参照蛍光画像を取得する。
【0027】
一方で、画像取得部202は、情報検索部201によってミキシング行列が見つかった場合は、第1光学状態における蛍光画像は取得することなく、上記と同様にして、第2光学状態において試料Sを対象としたC個の蛍光画像を、蛍光色素画像を取得するためのC個の対象蛍光画像として取得する。
【0028】
行列取得部203は、画像取得部202によって取得されたC組の第1参照蛍光画像及び第2参照蛍光画像を基に、ミキシング行列を取得する。このミキシング行列の取得の機能は、クラスタリング機能及び統計値計算機能を含む。
【0029】
行列取得部203のクラスタリング機能について説明する。
【0030】
行列取得部203は、C組の第1参照蛍光画像及び第2参照蛍光画像のそれぞれを対象にして、一方の蛍光画像の蛍光強度(輝度値)と他方の蛍光画像の蛍光強度との比を計算することにより、蛍光の波長分布の重心を示す重心蛍光波長を推定する。このとき、行列取得部203は、下記のクラスタリング処理によってクラスタリングされた画素群を対象にして、一方の蛍光画像の蛍光強度の平均値と他方の蛍光画像の蛍光強度の平均値を計算し、これらの平均値の比を計算する。行列取得部203は、推定した重心蛍光波長を、蛍光波長に関する波長情報として取得する。
【0031】
行列取得部203は、画像取得部202によって取得されたC個の第1参照蛍光画像、C個の第2参照画像及び取得した波長情報を基に、C個の第1参照蛍光画像及びC個の第2参照蛍光画像を構成するN個の画素を対象にクラスタリングを実行する。クラスタリングの処理に先立って、行列取得部203は、C個の第1参照蛍光画像及びC個の第2参照蛍光画像のそれぞれを構成するN個の画素の蛍光強度の値を並列に一次元に配列した行列データYを生成する。
【0032】
行列取得部203は、蛍光強度のC個の波長帯の励起光毎の分布情報を基に、第2参照蛍光画像のN個の画素をC個の画素群にクラスタリングする機能(第1のクラスタリング機能)を有する。詳細には、行列取得部203は、蛍光強度の一番大きい励起光の波長帯が同一である画素を同一の画素群にクラスタリングする。図5には、行列取得部203による第1のクラスタリング機能によってクラスタリングされた画素群のイメージを示し、図6には、試料Sに含まれる複数の蛍光色素の励起光の吸収率の波長特性が示されている。図5に示すように、試料Sに含まれる蛍光色素が、蛍光色素C、蛍光色素C、蛍光色素Cの3種類であり、6種類の波長帯の励起光を用いて6個の第2参照蛍光画像が得られた場合を想定すると、行列取得部203は、6個の第2参照蛍光画像GC~GCに含まれるN個の画素を、6個の画素群PGr~PGrにクラスタリングする。図6に示すように、一般に、種類の異なる蛍光色素は異なる吸収率の波長特性を有し、3種類の蛍光色素C,C,Cも異なるピーク波長を有する波長特性CW,CW,CWを有する。従って、励起光の6種類の波長帯EW,EW,EW,EW,EW,EWにおいて、吸収率が一番大きい蛍光色素は3種類の蛍光色素C,C,Cのうちの1つと決まっている。例えば、波長帯EWの励起光の吸収率が一番大きいのは蛍光色素Cであり、波長帯EWの励起光の吸収率が一番大きいのは蛍光色素Cであり、波長帯EWの励起光の吸収率が一番大きいのは蛍光色素Cである。この性質を利用して、行列取得部203は、第1のクラスタリング機能により、N個の画素を、同じ蛍光色素が分布する範囲の画素群にクラスタリングできる。ただし、第1のクラスタリング機能によりクラスタリングされた6個の画素群PGr~PGrは、3種類の蛍光色素C,C,Cに1対1には対応していない。
【0033】
加えて、行列取得部203は、波長情報を基に、第1のクラスタリング機能によってクラスタリングしたC個の画素群をさらにL個(Lは2以上N-1以下の整数)の画素群にクラスタリングする機能(第2のクラスタリング機能)を有する。ここで、クラスタリングする画素群の数Lは、例えば試料Sに存在しうる蛍光色素の種類の数に対応させて、画像処理装置5内に記憶されるパラメータとして予め設定される。画素群の数Lは、励起光の種類や励起光の波長分布の数Cに応じて決められてもよいし、励起光の種類や励起光の波長分布の数Cとは無関係に決められてもよい。すなわち、行列取得部203は、第1のクラスタリング機能によってクラスタリングしたC個の画素群毎に、その画素群に対応する励起光の波長帯を対象にして推定された重心蛍光波長を特定する。より具体的には、行列取得部203は、ある波長帯の吸収率が一番大きいとしてクラスタリングした画素群を対象にした波長情報を取得し、取得した波長情報を基に重心蛍光波長を特定する。この際、その波長帯に対応して得られた一組の第1参照蛍光画像及び第2参照蛍光画像の画素群における蛍光強度の平均値を用いて、波長情報が取得される。さらに、行列取得部203は、C個の画素群毎に特定した重心蛍光波長の間の距離(値の近さ)を判断することにより、C個の画素群をL個の画素群にクラスタリングする。そして、行列取得部203は、C個の第1参照蛍光画像の画素の蛍光強度の値、及びC個の第2参照蛍光画像の画素の蛍光強度の値を一次元に並列に配列した行列データYを、L個の画素群毎のクラスタ行列に分割して再生成する。
【0034】
図7には、行列取得部203によって特定された重心蛍光波長の分布を示し、図8には、行列取得部203による第2のクラスタリング機能によってクラスタリングされた画素群のイメージを示している。図7及び図8に示す例では、第1のクラスタリング機能によってクラスタリングされた6個の画素群PGr~PGr毎に重心蛍光波長FW~FWが特定され、重心蛍光波長の距離が互いに近い画素群PGrと画素群PGrとが、新たな画素群PGr01にクラスタリングされ、同様に、画素群PGrと画素群PGrとが画素群PGr02にクラスタリングされ、画素群PGrと画素群PGrとが画素群PGr03にクラスタリングされる。これにより、C個の蛍光画像の画素を試料Sに含まれると想定される蛍光色素の分布に対応したL個の画素群に分けることができる。ただし、第2のクラスタリング機能による分割数Lは、蛍光画像の数C(励起光の波長帯の数C)以下に設定される。
【0035】
次に、行列取得部203の統計値計算機能について説明する。
【0036】
行列取得部203は、試料Sを対象にして得られたL個のクラスタ行列を基に、C個の第1参照蛍光画像及びC個の第2参照蛍光画像からK個(Kは2以上C以下の整数)の蛍光色素のそれぞれの分布を示すK個の蛍光色素画像を生成するためのミキシング行列Aを求める。一般に、非負値行列因子分解(NMF)の演算方式によれば、観測値行列である行列データYと、K個の蛍光色素画像を画素毎に一次元に並列に配列した蛍光色素行列データXとの関係は、ミキシング行列Aを用いて、下記式;
Y=AX
で表わされる。ここで、Yは、C×2行N列の行列データであり、Aは、C×2行K列の行列データであり、Xは、K行N列の行列データである。逆に、ミキシング行列Aの値が求まれば、蛍光色素行列データXは、ミキシング行列Aの逆行列A-1と行列データYとを用いて、下記式;
X=A-1
によって導き出すことができる(この処理をアンミキシングと言う。)。
【0037】
ここで、行列取得部203は、クラスタリング機能によって生成された行列データYを、クラスタリング機能によってクラスタリングされた画素群単位で圧縮することによって、行列データY’を再生成する。詳細には、行列取得部203は、行列データYの各行の蛍光強度を対象に、クラスタリングされたクラスタ行列の画素群毎に統計値を計算し、各行の画素群を、計算した統計値を有する1つの画素に圧縮する。これにより、行列取得部203は、C×2行L列の行列データである行列データY’を再生成する。行列取得部203は、統計値として、蛍光強度の積算値に基づいた平均値を計算してもよいし、蛍光強度の最頻値を計算してもよいし、蛍光強度の中間値を計算してもよい。
【0038】
さらに、行列取得部203は、再生した行列データY’、及び、蛍光色素行列データXから同様にして圧縮される蛍光色素行列データX’にも、ミキシング行列Aを含む下記式;
Y’=AX’
が成立する性質を利用して、行列データY’を基にミキシング行列Aを導出する。図9には、行列取得部203によって再生成される行列データY’、及びそれに対応する蛍光色素行列データX’のイメージを示している。図9に図示される1つの升目は行列データの1つの要素を表している。このように、3つの画素群PGr01~PGr03に分割された蛍光色素行列データX及び行列データYは、画素群PGr01~PGr03毎の統計値を代表値として、3列の蛍光色素行列データX’及び行列データY’に圧縮されたデータである。
【0039】
行列取得部203は、次のようにして、行列データY’を基にミキシング行列Aを導出する。すなわち、行列取得部203は、ミキシング行列Aに初期値を設定し、ミキシング行列Aの値を順次変更しながら下記のロス関数(損失値)Losを計算し、ロス関数Losの値を低減させるようなミキシング行列Aを導出する。なお、このロス関数には、L1ノルムλ|A|(λは正則化項を重視する度合いを示す係数)等の正則化項が追加されてもよい。
【数1】

上記式中、jは行列データの行の位置(2つの蛍光画像毎の励起光の波長帯に対応)を示すパラメータであり、行列の添え字1jは、1番目のクラスタ行列のj番目の行の行列データを示し、行列の添え字2jは、2番目のクラスタ行列のj番目の行の行列データを示し、行列の添え字3jは、3番目のクラスタ行列のj番目の行の行列データを示す。また、パラメータa、b、cは、行列データY’の各列の統計値の平均値を示している。
【0040】
上記のように、行列取得部203は、クラスタリング機能によって分割されたL個のクラスタ行列毎に、C×2個の行列データY’の統計値を参照してロス関数を計算し、L個のロス関数の和を基にロス関数Losを計算し、そのロス関数Losを基にミキシング行列Aを求める。この際、行列取得部203は、L個のクラスタ行列毎に計算したロス関数を、C×2個の行列データY’の統計値の平均値a,b,cで除算することによって補正してから、補正したロス関数の和を計算することによってロス関数Losを求めている。なお、行列取得部203は、L個のクラスタ行列毎のロス関数を、差分値Y’-AX’の励起光の波長帯毎の行成分を励起光の各波長帯に対応するC×2個の統計値を用いて除算して補正することによって、計算してもよい。
【0041】
なお、上記式は、次のように一般化することもできる。つまり、行列取得部203は、次のようにして、行列データY’を基にミキシング行列Aと蛍光色素行列データX’を導出する。すなわち、行列取得部203は、ミキシング行列Aと蛍光色素行列データX’に初期値を設定し、ミキシング行列Aと蛍光色素行列データX’の値を順次変更しながら下記式を用いてロス関数(損失値)Losを計算し、ロス関数Losの値を低減させるようなミキシング行列Aと蛍光色素行列データX’を導出する。なお、このロス関数には、L1ノルムλ|A|(λは正則化項を重視する度合いを示す係数)等の正則化項が追加されてもよい。また、ミキシング行列Aと蛍光色素行列データX’が非負値になるような制約をかけて計算してもよい。
【数2】

上記式中、jは行列データの行の位置(励起光の波長帯に対応)を示すパラメータであり、iは行列データの列の位置(i番目のクラスタに対応)を示すパラメータである。また、wijは行列データの各要素の重みを表しており、各要素の値またはその標準偏差から計算しても良い。また、wijを全て同じ値にして各要素の重みを考慮しないことも可能である。なお、上記式における行列データY’の各列の統計値の平均値をa、b、c、…とし、w1j=1/a、w2j=1/b、w3j=1/cと置き換えた式は、先に示したロス関数Losの式と同じとなる。
【0042】
上記のように、行列取得部203は、クラスタリング機能によって分割されたL個のクラスタ行列毎に、C×2個の行列データY’の統計値を参照してロス関数を計算し、L個のロス関数Losの和を基にロス関数Losを計算し、そのロス関数Losを基にミキシング行列Aを求める。なお、行列取得部203は、L個のクラスタ行列毎のロス関数Losを、差分値Y’-AX’の励起光の波長帯毎の行成分を励起光の各波長帯に対応するC×2個の統計値を用いて除算して補正することによって、計算してもよい。
【0043】
行列取得部203は、上述したクラスタリング機能及び統計値計算機能を用いて取得したミキシング行列(蛍光を分離した蛍光色素画像を得るための画像分離情報)を、画像取得条件、推定処理情報、及び保存設定情報等に紐づけて画像分離情報格納部206に記憶する。ミキシング行列に紐づけられる画像取得条件、推定処理情報、及び保存設定情報は、第1蛍光画像あるいは第2蛍光画像の取得時に対応した情報、ミキシング行列の推定時に対応した情報、あるいは、ミキシング行列の保存時に対応した情報である。
【0044】
行列補正部204は、情報検索部201によってミキシング行列が見つかった場合は、当該ミキシング行列と画像取得部202によって取得されたC個の対象蛍光画像とを基に、補正されたミキシング行列である補正ミキシング行列を取得する。すなわち、行列補正部204は、C個の対象蛍光画像の画素の蛍光強度の値を一次元に並列に配列した行列データYを生成する。また、行列補正部204は、検索されたミキシング行列Aの要素の中から第2蛍光画像の行に対応した、C行K列の行列データをミキシング行列Aとして抽出する。さらに、行列補正部204は、行列データYと、ミキシング行列Aとを用いて、補正されたミキシング行列(補正画像分離情報)Aを取得する。ここで、ミキシング行列Aは、ミキシング行列Aの要素のうちで第2蛍光画像の行に対応した行のみを含むC行K列の行列データである。
【0045】
例えば、補正されたミキシング行列の取得は、次のようにして実行される。行列補正部204は、行列データYを、クラスタリング機能によってクラスタリングし画素群単位で圧縮することによって、行列データY’を再生成する。このクラスタリングは、例えば、C個の波長帯毎の蛍光強度の分布を基に、行列取得部203における処理と同様に行われる。そして、行列補正部204は、ミキシング行列Aを初期値として用いて、下記式;
L=||Y’-AX’||
によって計算されるユークリッド距離を最小にするミキシング行列A及び蛍光色素行列データX’を求める。ここで、上記の式に代えて、下記式のような正則化項が追加された式が使用されてもよい。
L=||Y’-AX’||+λ||A-A||
正則化項の追加により、初期値からのずれが大きくなりすぎないように制御することができる。上記正則化項のほか、行列Aについてスパース性の制約をかけるために、L1ノルム||A||などの項が追加されてもよい。また、ミキシング行列Aの要素のうち正しい値と予想される値は固定してその他の要素の値を補正するようにしてもよい。また、ユークリッド距離の代わりに、Kullback-Leibler divergence、Itakura-Saito divergence等のロス関数が用いられてもよい。
【0046】
画像生成部205は、情報検索部201によってミキシング行列が見つからなかった場合は、観察対象の試料Sを対象にして得られたC個の第2参照蛍光画像に対して、行列取得部203によって新たに取得されたミキシング行列Aを用いてアンミキシングすることによって、K個の蛍光色素画像を取得する。具体的には、画像生成部205は、ミキシング行列Aからミキシング行列Aを抽出し、C個の第2参照蛍光画像を基に生成された行列データYに、ミキシング行列Aの逆行列A -1を適用することにより、蛍光色素行列データXを計算する。
【0047】
画像生成部205は、情報検索部201によってミキシング行列が見つかった場合は、観察対象の試料Sを対象にして得られたC個の対象蛍光画像に対して、行列補正部204によって補正されたミキシング行列Aを用いて、上記の手順と同様にアンミキシングすることによって、蛍光色素行列データXを計算する。
【0048】
そして、画像生成部205は、蛍光色素行列データXからK個の蛍光色素画像を再生し、再生したK個の蛍光色素画像を出力する。このときの出力先は、ディスプレイ、タッチパネルディスプレイ等の画像処理装置5の出力デバイスであってもよいし、画像処理装置にデータ通信可能に接続された外部の装置であってもよい。
【0049】
次に、本実施形態に係る蛍光色素画像取得システム1を用いた試料Sを対象にした観察処理の手順、すなわち、本実施形態に係る分離画像取得方法の流れについて説明する。図10は、蛍光色素画像取得システム1による観察処理の手順を示すフローチャートである。
【0050】
まず、画像処理装置5の情報検索部201によって、設定された画像取得条件等を検索キーとして、画像分離情報格納部206に格納されたデータの中からミキシング行列Aが検索される(ステップS1)。検索の結果、ミキシング行列が見つからなかった場合(ステップS2;No)、画像処理装置5の画像取得部202によって、試料Sの蛍光観察の結果であるC個の第1参照蛍光画像及びC個の第2参照蛍光画像が取得される(ステップS3)。
【0051】
次に、画像処理装置5の行列取得部203によって、C個の第1参照蛍光画像及びC個の第2参照蛍光画像を基に、ミキシング行列Aが取得される(ステップS4)。その後、行列取得部203によって、取得されたミキシング行列Aが、画像取得条件等に紐づけられて画像分離情報格納部206に記憶される(ステップS5;記憶ステップ)。さらに、画像生成部205によって、C個の第2参照蛍光画像のN個の画素を並列に配列した行列データYと、ミキシング行列Aから抽出された行列Aとを基に、蛍光色素行列データXが取得される(ステップS6)。
【0052】
一方で、検索の結果ミキシング行列が見つかった場合(ステップS2;Yes)、画像処理装置5の画像取得部202によって、試料Sの蛍光観察の結果であるC個の対象蛍光画像が取得される(ステップS7;取得ステップ)。次に、画像処理装置5の行列補正部204によって検索されたミキシング行列Aからミキシング行列Aが抽出される(選択される)(ステップS8)。さらに、行列補正部204によって、C個の対象蛍光画像から生成された行列データYと、ミキシング行列Aとを用いて補正されたミキシング行列Aが取得される(ステップS9)。そして、画像生成部205によって、行列データYとミキシング行列Aとを基に、蛍光色素行列データXが取得される(ステップS10;生成ステップ)。なお、補正されたミキシング行列Aを画像分離情報格納部206に記憶させてもよい。
【0053】
最後に、画像処理装置5の画像生成部205により、ステップS6あるいはステップS10で取得された蛍光色素行列データXからK個の蛍光色素画像が再生され、これらのK個の蛍光色素画像が出力される(ステップS11;生成ステップ)。以上により、試料Sを対象にした観察処理が完了する。
【0054】
以上説明した蛍光色素画像取得システム1によれば、C個の第1参照蛍光画像とC個の第2参照蛍光画像とを基に取得された、蛍光色素画像を得るための複数のミキシング行列から所望のミキシング行列が選択され、第1参照蛍光画像と第2参照蛍光画像のいずれかの光学状態と同じ光学状態で捉えたC個の対象蛍光画像が取得され、取得されたC個の対象蛍光画像と、選択されたミキシング行列とを用いて蛍光色素画像が生成される。これにより、観察に用いる励起光の種類、あるいは、観察する蛍光色素の数が多い場合であっても、過去に取得されたミキシング行列を活用してアンミキシングすることができ、アンミキシングの計算量を抑えることができる。その結果、アンミキシングによる蛍光色素画像の取得時のスループットの向上を図ることができる。
【0055】
また、本実施形態では、過去に取得された蛍光画像を基に生成されたミキシング行列の中で画像取得条件が対応するミキシング行列が選択され、選択されたミキシング行列を利用してアンミキシングされている。その結果、対象蛍光画像に適したミキシング行列が選択されるので、取得される蛍光色素画像の分離精度を向上させることができる。
【0056】
また、本実施形態では、対象蛍光画像及び検索されたミキシング行列を基に、補正されたミキシング行列を取得している。これにより、過去に取得されたミキシング行列が対象蛍光画像を用いて補正されるので、対象蛍光画像に適したアンミキシングが行われ、取得される蛍光色素画像の分離精度をさらに向上させることができる。
【0057】
また、本実施形態では、補正されたミキシング行列及び対象蛍光画像を用いて蛍光色素画像を生成している。この場合、対象蛍光画像に適したアンミキシングが行われ、取得される蛍光色素画像の分離精度をさらに向上させることができる。つまり、過去に生成されたミキシング行列は、ミキシング行列の推定に用いた過去の蛍光画像のノイズの影響により誤差を含むことがある。この場合に、対象蛍光画像にそのままミキシング行列を用いると、異なる性質のノイズを含んだ対象蛍光画像から生成される蛍光色素画像の誤差が大きくなる傾向にある。これに対して、本実施形態では、対象蛍光画像を基に補正されたミキシング行列を用いるので、生成される蛍光色素画像の誤差を抑えることができる。
【0058】
図11には、本実施形態に係る蛍光色素画像取得システム1によって対象蛍光画像を基に生成された蛍光色素画像の一例を示している。また、図12には、本実施形態に係る蛍光色素画像取得システム1によってミキシング行列の補正をせずに対象蛍光画像を基に生成された蛍光色素画像の一例を示している。図11及び図12における互いに対応する位置に、同じ蛍光色素画像が示されている。このように、本実施形態によれば、ミキシング行列の補正によって一部の蛍光色素画像(特に右上の蛍光色素画像)の画質が大きく改善されていることが分かった。
【0059】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0060】
例えば、本実施形態の画像取得装置3においては、波長情報取得光学系13を着脱することによって第1蛍光画像及び第2蛍光画像を取得していた。その代わりに、画像取得装置3は、2つのカメラを備え、それぞれのカメラで波長情報取得光学系13を透過する蛍光、及び波長情報取得光学系13を反射する蛍光を検出させることによって、異なる2つ以上の光学状態における蛍光画像を取得するように構成されていてもよい。
【0061】
また、その代わりに、画像取得装置3は、RGBカラーカメラなどのカラーカメラを備え、カラーカメラからの出力される波長特性ごとの画像データに基づいて、参照蛍光画像及び対象蛍光画像を取得してもよい。このような場合でも、異なる2つ以上光学状態における蛍光画像を取得するように構成される。さらに、また、その代わりに、画像取得装置3は、ハイパースペクトルカメラを備え、ハイパースペクトルカメラからの出力される波長特性ごとの画像データに基づいて、蛍光画像を取得してもよい。このような場合でも、異なる2つ以上光学状態における蛍光画像を取得するように構成される。
【0062】
また、画像処理装置5の行列補正部204は、情報検索部201によってミキシング行列が見つかった場合にミキシング行列Aを補正するように機能していた。これに対して、画像処理装置5の行列補正部204は、情報検索部201によるミキシング行列の検索結果に関わらずに、常にミキシング行列Aを補正するように機能してもよい。
【0063】
図13には、変形例に係る画像処理装置5Aの機能構成を示している。画像処理装置5Aの画像処理装置5との相違点は、行列補正部204及び画像生成部205の代わりに、画像補正部204A及び画像出力部205Aを備え、ミキシング行列を補正せずに蛍光色素行列データXを補正する機能を有する点である。
【0064】
画像補正部204Aは、C個の対象蛍光画像に対して、情報検索部201によって検索されたミキシング行列Aから抽出されたミキシング行列Aをそのまま用いてアンミキシングすることによって、蛍光色素行列データXを生成する。そして、画像補正部204Aは、行列データY及びミキシング行列Aを用いて補正された蛍光色素行列データXを生成する。
【0065】
例えば、補正された蛍光色素行列データXの取得は次のようにして実行される。画像補正部204Aは、ミキシング行列A及び最初に生成した蛍光色素行列データXを初期値として、下記式;
L=||Y-AX||
によって計算されるユークリッド距離を最小にするミキシング行列A及び蛍光色素行列データXを求めることができる。ここで、上記式に代えて、下記式のような正則化項が追加された式が使用されてもよい。
L=||Y-AX||+λ(|ΔX|+|ΔX|)
この正則化項は、Total Variation Lossの正則化項であり、行列データXを画像としてx、y方向それぞれの微分のL1ノルムが計算された項である。また、上記式にミキシング行列Aに関する正則化項が組み合わされた式が使用されてもよい。
【0066】
画像出力部205Aは、画像補正部204Aによって補正された蛍光色素行列データXからK個の蛍光色素画像を再生し、再生したK個の蛍光色素画像を出力する。
【0067】
上記の変形例によれば、過去に取得されたミキシング行列と対象蛍光画像とを基に補正された蛍光色素画像を得ることができ、取得される蛍光色素画像の分離精度をさらに向上させることができる。
【0068】
また、他の変形例として、画像処理装置5Aの画像補正部204Aは、以下の2通りの方法のいずれかによって、補正された蛍光色素行列データXを得てもよい。
【0069】
第1の方法として、画像補正部204Aは、C個の対象蛍光画像に対して、情報検索部201によって検索されたミキシング行列Aから抽出されたミキシング行列Aをそのまま用いてアンミキシングすることによって、蛍光色素行列データXを生成する。そして、画像補正部204Aは、生成した蛍光色素行列データXを学習済み推論モデルに入力し、学習済み推論モデルの出力を、補正された蛍光色素行列データXとして取得する。なお、画像補正部204Aは、推論モデルの学習時には、行列取得部203においてアンミキシングによって導出された蛍光色素行列データXと、ミキシング行列Aをそのまま用いてC個の対象蛍光画像を対象にアンミキシングすることによって得られた蛍光色素行列データXとの組み合わせを訓練データとして用いることにより、学習済み推論モデルを構築することができる。
【0070】
このような第1の方法によれば、生成された蛍光色素画像を推論モデルに入力し、推論モデルの出力を基に補正された蛍光色素画像を得ることができる。その結果、取得される蛍光色素画像の分離精度をさらに向上させることができる。
【0071】
また、第2の方法として、画像補正部204Aは、C個の対象蛍光画像を基にした行列データYと、情報検索部201によって検索されたミキシング行列Aから抽出されたミキシング行列Aとを、学習済み推論モデルに入力し、学習済み推論モデルの出力を、補正された蛍光色素行列データXとして取得する。なお、画像補正部204Aは、推論モデルの学習時には、行列取得部203においてアンミキシングによって導出された蛍光色素行列データXと、検索されたミキシング行列Aから抽出されたミキシング行列Aと、C個の対象蛍光画像を基にした行列データYとの組み合わせを訓練データとして用いることにより、学習済み推論モデルを構築することができる。
【0072】
上記の第2の方法によれば、対象蛍光画像及びミキシング行列を推論モデルに入力し、推論モデルの出力を基に補正された蛍光色素画像を得ることができる。その結果、取得される蛍光色素画像の分離精度をさらに向上させることができる。
【0073】
上記第一の側面においては、画像分離情報は、複数の参照蛍光画像を取得した際の画像取得条件と紐づけて記憶され、選択ステップでは、対象蛍光画像の取得時の画像取得条件に対応する画像取得条件に紐づけられた画像分離情報を選択する、ことが好適である。上記第二の側面においては、記憶部は、画像分離情報を、複数の参照蛍光画像を取得した際の画像取得条件と紐づけて記憶し、画像処理装置は、対象蛍光画像の取得時の画像取得条件に対応する画像取得条件に紐づけられた画像分離情報を選択する、ことが好適である。これにより、過去に取得された蛍光画像を基に生成された画像分離情報の中で画像取得条件が対応する画像分離情報が選択され、選択された画像分離情報を利用してアンミキシングされる。その結果、取得される分離画像の分離精度を向上させることができる。
【0074】
また、上記第一の側面においては、生成ステップでは、対象蛍光画像及び選択された画像分離情報を基に補正された画像分離情報である補正画像分離情報を取得する、ことも好適である。また、上記第二の側面においては、画像処理装置は、蛍光分離画像の生成において、対象蛍光画像及び選択された画像分離情報を基に補正された画像分離情報である補正画像分離情報を取得する、ことも好適である。これにより、過去に取得された画像分離情報が対象蛍光画像を用いて補正されるので、対象蛍光画像に適したアンミキシングが行われ、取得される分離画像の分離精度をさらに向上させることができる。
【0075】
また、上記第一の側面においては、生成ステップでは、補正画像分離情報及び対象蛍光画像を用いて蛍光分離画像を生成する、ことも好適である。また、上記第二の側面においては、画像処理装置は、蛍光分離画像の生成において、補正画像分離情報及び対象蛍光画像を用いて蛍光分離画像を生成する、ことも好適である。この場合、対象蛍光画像に適したアンミキシングが行われ、取得される分離画像の分離精度をさらに向上させることができる。
【0076】
また、上記第一の側面においては、生成ステップでは、対象蛍光画像及び画像分離情報を基に蛍光分離画像を補正する、ことが好適である。また、上記第二の側面においては、画像処理装置は、蛍光分離画像の生成において、対象蛍光画像及び画像分離情報を基に蛍光分離画像を補正する、ことが好適である。この場合も、過去に取得された画像分離情報と対象蛍光画像とを基に補正された蛍光分離画像を得ることができ、取得される分離画像の分離精度をさらに向上させることができる。
【0077】
さらに、上記第一の側面においては、生成ステップでは、対象蛍光画像及び画像分離情報を基に生成した蛍光分離画像を学習済み推論モデルに入力し、学習済み推論モデルの出力を補正された蛍光分離画像として得る、ことも好適である。さらに、上記第二の側面においては、画像処理装置は、蛍光分離画像の生成において、対象蛍光画像及び画像分離情報を基に生成した蛍光分離画像を学習済み推論モデルに入力し、学習済み推論モデルの出力を補正された蛍光分離画像として得る、ことも好適である。この場合、生成された蛍光分離画像を推論モデルに入力し、推論モデルの出力を基に補正された蛍光分離画像を得ることができる。その結果、取得される分離画像の分離精度をさらに向上させることができる。
【0078】
またさらに、上記第一の側面においては、生成ステップでは、対象蛍光画像及び画像分離情報を学習済み推論モデルに入力し、学習済み推論モデルの出力を補正された蛍光分離画像として得る、ことも好適である。またさらに、画像処理装置は、蛍光分離画像の生成において、対象蛍光画像及び画像分離情報を学習済み推論モデルに入力し、学習済み推論モデルの出力を補正された蛍光分離画像として得る、ことも好適である。こうすれば、対象蛍光画像及び画像分離情報を推論モデルに入力し、推論モデルの出力を基に補正された蛍光分離画像を得ることができる。その結果、取得される分離画像の分離精度をさらに向上させることができる。
【0079】
さらにまた、上記第一の側面においては、複数の光学状態は、蛍光を光学フィルタを透過させた状態である第1光学状態と、蛍光を光学フィルタを透過させない状態である第2光学状態を少なくとも含む、ことも好適である。さらにまた、上記第二の側面においては、複数の光学状態は、蛍光を光学フィルタを透過させた状態である第1光学状態と、蛍光を光学フィルタを透過させない状態である第2光学状態を少なくとも含む、ことも好適である。こうすれば、2種類の光学状態における蛍光画像を基に蛍光の波長情報を取得させることができ、その波長情報を基にした蛍光画像の画素群のクラスタリングの結果得られた画像分離情報を記憶することができる。これにより、全体の計算時間を削減しつつ精度の高い分離画像を取得することができる。
【0080】
また、上記第一の側面においては、生成ステップでは、画像分離情報と、第2光学状態において取得された対象蛍光画像とを基に、蛍光分離画像を生成する、ことも好適である。また、上記第二の側面においては、画像処理装置は、蛍光分離画像の生成において、画像分離情報と、第2光学状態において取得された対象蛍光画像とを基に、蛍光分離画像を生成する、ことも好適である。かかる構成を採れば、第2光学状態における対象分離画像を用いてアンミキシングすることで精度の高い分離画像を取得することができる。
【0081】
実施形態の分離画像取得方法は、[1]「異なる波長特性を有する複数の光学状態における複数の参照蛍光画像に基づいて取得された、蛍光像を分離した蛍光分離画像を得るための画像分離情報を複数記憶した記憶部から所望の画像分離情報を選択する選択ステップと、複数波長の励起光のそれぞれを試料に照射する照射ステップと、前記複数波長の励起光のそれぞれによって前記試料から生じた複数の蛍光のそれぞれについて、複数の反射波長域及び複数の透過波長域を有する蛍光フィルタ部を介して、前記複数の光学状態のうちの少なくとも1つの光学状態における対象蛍光画像を取得する取得ステップと、前記複数の蛍光のそれぞれについて、前記取得ステップにおいて取得された前記対象蛍光画像と、前記選択ステップで選択された前記画像分離情報とに基づいて、蛍光分離画像を生成する生成ステップと、を備える分離画像取得方法」である。
【0082】
実施形態の分離画像取得方法は、[2]「前記画像分離情報は、前記複数の参照蛍光画像を取得した際の画像取得条件と紐づけて記憶され、前記選択ステップでは、前記対象蛍光画像の取得時の画像取得条件に対応する画像取得条件に紐づけられた前記画像分離情報を選択する、上記[1]に記載の分離画像取得方法」であってもよい。
【0083】
実施形態の分離画像取得方法は、[3]「前記生成ステップでは、前記対象蛍光画像及び選択された前記画像分離情報を基に補正された画像分離情報である補正画像分離情報を取得する、上記[1]又は[2]に記載の分離画像取得方法」であってもよい。
【0084】
実施形態の分離画像取得方法は、[4]「前記生成ステップでは、前記補正画像分離情報及び前記対象蛍光画像を用いて前記蛍光分離画像を生成する、上記[3]に記載の分離画像取得方法」であってもよい。
【0085】
実施形態の分離画像取得方法は、[5]「前記生成ステップでは、前記対象蛍光画像及び前記画像分離情報を基に前記蛍光分離画像を補正する、上記[1]又は[2]に記載の分離画像取得方法」であってもよい。
【0086】
実施形態の分離画像取得方法は、[6]「前記生成ステップでは、前記対象蛍光画像及び前記画像分離情報を基に生成した前記蛍光分離画像を学習済み推論モデルに入力し、前記学習済み推論モデルの出力を補正された前記蛍光分離画像として得る、上記[1]又は[2]に記載の分離画像取得方法」であってもよい。
【0087】
実施形態の分離画像取得方法は、[7]「前記生成ステップでは、前記対象蛍光画像及び前記画像分離情報を学習済み推論モデルに入力し、前記学習済み推論モデルの出力を補正された前記蛍光分離画像として得る、上記[1]又は[2]に記載の分離画像取得方法」であってもよい。
【0088】
実施形態の分離画像取得方法は、[8]「前記複数の光学状態は、前記蛍光を光学フィルタを透過させた状態である第1光学状態と、前記蛍光を前記光学フィルタを透過させない状態である第2光学状態を少なくとも含む、上記[1]~[7]のいずれかに記載の分離画像取得方法」であってもよい。
【0089】
実施形態の分離画像取得方法は、[9]「前記生成ステップでは、前記画像分離情報と、前記第2光学状態において取得された前記対象蛍光画像とを基に、蛍光分離画像を生成する、上記[8]に記載の分離画像取得方法」であってもよい。
【0090】
実施形態の分離画像取得装置は、[10]「異なる波長特性を有する複数の光学状態における複数の参照蛍光画像に基づいて取得された、蛍光像を分離した蛍光分離画像を得るための画像分離情報を記憶した記憶部と、複数の波長分布の励起光のそれぞれを試料に照射する照射装置と、複数波長の前記励起光のそれぞれによって前記試料から生じた複数の蛍光のそれぞれについて、複数の反射波長域及び複数の透過波長域を有する蛍光フィルタ部を介して、前記複数の光学状態のうちの少なくとも1つの光学状態における対象蛍光画像を取得する画像取得装置と、蛍光画像を処理する画像処理装置と、を備え、前記画像処理装置は、前記記憶部に記憶された複数の画像分離情報の中から所望の画像分離情報を選択し、前記複数の蛍光のそれぞれについて、前記画像取得装置において取得された前記対象蛍光画像と、選択した前記画像分離情報とに基づいて、蛍光分離画像を生成する、分離画像取得装置」である。
【0091】
実施形態の分離画像取得装置は、[11]「前記記憶部は、前記画像分離情報を、前記複数の参照蛍光画像を取得した際の画像取得条件と紐づけて記憶し、前記画像処理装置は、前記対象蛍光画像の取得時の画像取得条件に対応する画像取得条件に紐づけられた前記画像分離情報を選択する、上記[10]に記載の分離画像取得装置」であってもよい。
【0092】
実施形態の分離画像取得装置は、[12]「前記画像処理装置は、前記蛍光分離画像の生成において、前記対象蛍光画像及び選択された前記画像分離情報を基に補正された画像分離情報である補正画像分離情報を取得する、上記[10]又は[11]に記載の分離画像取得装置」であってもよい。
【0093】
実施形態の分離画像取得装置は、[13]「前記画像処理装置は、前記蛍光分離画像の生成において、前記補正画像分離情報及び前記対象蛍光画像を用いて前記蛍光分離画像を生成する、上記[12]に記載の分離画像取得装置」であってもよい。
【0094】
実施形態の分離画像取得装置は、[14]「前記画像処理装置は、前記蛍光分離画像の生成において、前記対象蛍光画像及び前記画像分離情報を基に前記蛍光分離画像を補正する、上記[10]又は[11]に記載の分離画像取得装置」であってもよい。
【0095】
実施形態の分離画像取得装置は、[15]「前記画像処理装置は、前記蛍光分離画像の生成において、前記対象蛍光画像及び前記画像分離情報を基に生成した前記蛍光分離画像を学習済み推論モデルに入力し、前記学習済み推論モデルの出力を補正された前記蛍光分離画像として得る、上記[10]又は[11]に記載の分離画像取得装置」であってもよい。
【0096】
実施形態の分離画像取得装置は、[16]「前記画像処理装置は、前記蛍光分離画像の生成において、前記対象蛍光画像及び前記画像分離情報を学習済み推論モデルに入力し、前記学習済み推論モデルの出力を補正された前記蛍光分離画像として得る、上記[10]又は[11]に記載の分離画像取得装置」であってもよい。
【0097】
実施形態の分離画像取得装置は、[17]「前記複数の光学状態は、前記蛍光を光学フィルタを透過させた状態である第1光学状態と、前記蛍光を前記光学フィルタを透過させない状態である第2光学状態を少なくとも含む、上記[10]~[16]のいずれかに記載の分離画像取得装置」であってもよい。
【0098】
実施形態の分離画像取得装置は、[18]「前記画像処理装置は、前記蛍光分離画像の生成において、前記画像分離情報と、前記第2光学状態において取得された前記対象蛍光画像とを基に、蛍光分離画像を生成する、上記[17]に記載の分離画像取得装置」であってもよい。
【0099】
実施形態の分離画像取得プログラムは、[19]「複数の波長分布の励起光のそれぞれを試料に照射することにより、複数波長の前記励起光のそれぞれによって前記試料から生じた複数の蛍光のそれぞれについて、複数の反射波長域及び複数の透過波長域を有する蛍光フィルタ部を介して取得される、異なる波長特性を有する複数の光学状態における複数の参照蛍光画像を基に、蛍光分離画像を生成するための分離画像取得プログラムであって、コンピュータに対して、複数の参照蛍光画像に基づいて取得された、蛍光を分離した蛍光分離画像を得るための画像分離情報を複数記憶する記憶処理と、前記記憶された複数の画像分離情報の中から、所望の画像分離情報を選択する選択処理と、前記複数の蛍光のそれぞれについて前記複数の光学状態のうち少なくとも1つの光学状態において取得された対象蛍光画像と、選択した前記画像分離情報とに基づいて、蛍光分離画像を生成する生成処理と、を実行させる分離画像取得プログラム」である。
【符号の説明】
【0100】
1…蛍光色素画像取得システム、3…画像取得装置、5,5A…画像処理装置、7…励起光源(照射装置)、9a…光源側フィルタセット、9b…カメラ側フィルタセット(蛍光フィルタ部)、11…ダイクロイックミラー、15…カメラ(画像取得装置)、13…波長情報取得光学系(光学フィルタ)、201…情報検索部(選択部)、202…画像取得部、203…行列取得部、204…行列補正部、204A…画像補正部、205…画像生成部、205A…画像出力部、206…画像分離情報格納部(記憶部)、C,C,C…蛍光色素、GC~GC…蛍光画像、PGr01~PGr03,PGr~PGr…画素群、S…試料。

【要約】
蛍光色素画像取得システム1は、複数の波長分布の励起光のそれぞれを試料Sに照射する励起光源7と、複数波長の励起光のそれぞれによって試料Sから生じた複数の蛍光について、カメラ側フィルタセット9bを介して、波長特性の異なる複数の光学状態における対象蛍光画像を取得するカメラ15と、画像処理装置5と、を備え、画像処理装置5は、蛍光を分離した蛍光色素画像を得るためのミキシング行列を複数記憶し、複数の蛍光のそれぞれについて、カメラ15において一の光学状態において取得された対象蛍光画像と、選択したミキシング行列とに基づいて、蛍光色素画像を生成する。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13