(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】レーダ信号処理装置、レーダ装置およびレーダ信号処理方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/524 20060101AFI20241004BHJP
G01S 13/90 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G01S13/524
G01S13/90 129
(21)【出願番号】P 2024543837
(86)(22)【出願日】2022-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2022042303
【審査請求日】2024-07-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山岡 智也
(72)【発明者】
【氏名】影目 聡
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/208638(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2022/0196823(US,A1)
【文献】特開2019-152500(JP,A)
【文献】特開平04-301584(JP,A)
【文献】国際公開第2015/064467(WO,A1)
【文献】特開2004-198275(JP,A)
【文献】特開2005-009979(JP,A)
【文献】国際公開第2017/103973(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ信号を周波数変換する周波数変換部と、
周波数変換された前記レーダ信号から、周波数領域における目標の信号成分を抽出する目標抽出部と、
前記目標の信号成分を逆周波数変換する周波数逆変換部と、
逆周波数変換された前記目標の信号成分の位相を抽出する位相抽出部と、
抽出された位相をフィッティングすることで、前記目標の運動成分に関する運動パラメータを表す多項式の項の係数を特定する係数特定部と、
特定された前記多項式の各項の係数を用いて、前記目標の運動パラメータを推定する推定部と、を備えた
ことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項2】
前記位相抽出部は、前記目標の信号成分の位相をアンラップする
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ信号処理装置。
【請求項3】
前記目標抽出部は、前記目標の信号成分以外の成分に0値を設定する
ことを特徴とする請求項
1に記載のレーダ信号処理装置。
【請求項4】
前記係数特定部は、抽出された位相を最小二乗法によりフィッティングする
ことを特徴とする請求項
1に記載のレーダ信号処理装置。
【請求項5】
前記レーダ信号における前記目標の運動成分を補償する補償部を備えた
ことを特徴とする請求項
1に記載のレーダ信号処理装置。
【請求項6】
周波数変換された前記レーダ信号の平均処理を行う平均部を備え、
前記目標抽出部は、前記レーダ信号の平均処理により得られた信号系列を用いて、周波数領域における前記目標の信号成分を抽出する
ことを特徴とする請求項3に記載のレーダ信号処理装置。
【請求項7】
前記目標抽出部は、前記信号系列を前記レーダ信号に乗算した信号を用いて、前記目標の信号成分を抽出する
ことを特徴とする請求項6に記載のレーダ信号処理装置。
【請求項8】
SAR画像から目標の信号成分を抽出する目標抽出部と、
抽出された前記目標の信号成分を周波数変換する周波数変換部と、
周波数変換された前記目標の信号成分の位相を抽出する位相抽出部と、
抽出された位相をフィッティングすることで、前記目標の運動成分に関する運動パラメータを表す多項式の項の係数を特定する係数特定部と、
特定された前記多項式の各項の係数を用いて、前記目標の運動パラメータを推定する推定部と、を備えた
ことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項9】
前記位相抽出部は、前記目標の信号成分の位相をアンラップする
ことを特徴とする請求項8に記載のレーダ信号処理装置。
【請求項10】
前記係数特定部は、抽出された位相を最小二乗法によりフィッティングする
ことを特徴とする請求項
8に記載のレーダ信号処理装置。
【請求項11】
アンテナ部と、
前記アンテナ部から前記レーダ信号の電波を送信させ、前記アンテナ部に到来した電波を受信して前記レーダ信号の受信信号を生成する送受信回路と、
前記受信信号を入力して、前記受信信号から抽出した前記目標の運動成分に関する運動パラメータを推定する請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のレーダ信号処理装置と、を備えた
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項12】
アンテナ部と、
前記アンテナ部からレーダ信号の電波を送信させ、前記アンテナ部に到来した電波を受信して前記SAR画像を生成する送受信回路と、
前記SAR画像を入力して、前記SAR画像から抽出した前記目標の運動成分に関する運動パラメータを推定する請求項8から請求項10のいずれか1項に記載のレーダ信号処理装置と、を備えた
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項13】
レーダ信号処理装置のレーダ信号処理方法であって、
周波数変換部が、レーダ信号を周波数変換するステップと、
目標抽出部が、周波数変換された前記レーダ信号から、周波数領域における目標の信号成分を抽出するステップと、
周波数逆変換部が、前記目標の信号成分を逆周波数変換するステップと、
位相抽出部が、逆周波数変換された前記目標の信号成分の位相を抽出するステップと、
係数特定部が、抽出された位相をフィッティングすることで、前記目標の運動成分に関する運動パラメータを表す多項式の項の係数を特定するステップと、
推定部が、特定された前記多項式の各項の係数を用いて、前記目標の運動パラメータを推定するステップと、を備えた
ことを特徴とするレーダ信号処理方法。
【請求項14】
レーダ信号処理装置のレーダ信号処理方法であって、
目標抽出部が、SAR画像から目標の信号成分を抽出するステップと、
周波数変換部が、抽出された前記目標の信号成分を周波数変換するステップと、
位相抽出部が、周波数変換された前記目標の信号成分の位相を抽出するステップと、
係数特定部が、抽出された位相をフィッティングすることで、前記目標の運動成分に関する運動パラメータを表す多項式の項の係数を特定するステップと、
推定部が、特定された前記多項式の各項の係数を用いて、前記目標の運動パラメータを推定するステップと、を備えた
ことを特徴とするレーダ信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ信号処理装置、レーダ装置およびレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルスドップラーレーダまたは合成開口レーダ(Synthetic Aperture Radar;以下、SARと記載する。)は、目標で反射して受信されたレーダ信号の位相を解析することにより、当該位相の関数を与える多項式を推定することも可能である。推定した多項式を用いることにより、雑音のない理想状態における目標の運動パラメータの推定が可能である。ここで、運動パラメータとは、目標の運動成分に関するパラメータである。
【0003】
ただし、レーダ信号には一般的に過大な雑音が含まれており、レーダ信号の位相の解析が困難である場合が多い。例えば、非特許文献1に記載される離散多項式位相変換(Discrete Polynomial-phase Transform;以下、DPTと記載する。)は、レーダ信号の位相の関数を与える多項式の各項の係数を、クラメール-ラオ バウンド(Cramer-Rao Bound;以下、CRLBと記載する。)に漸近する精度で推定することが可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】S. Peleg, and B. Friedlander, “ The discrete polynomial-phase transform ” IEEE Transactions on Signal Processing, vol. 43, pp.1901-1914, Aug. 1995.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載される従来の技術は、レーダ信号のS/N(Signal to Noise power ratio)が7dB程度の比較的に高い値でないと、多項式の各項の係数をCRLBに達する精度で推定することができない。すなわち、従来の技術では、レーダ信号に過大な雑音が含まれていると、位相の関数を与える多項式を高い精度で推定できず、当該多項式を用いた目標の運動パラメータの推定ができないという課題があった。
【0006】
本開示は上記課題を解決するものであり、雑音の影響を低減させて目標の運動パラメータを推定することができる、レーダ信号処理装置、レーダ装置およびレーダ信号処理方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るレーダ信号処理装置は、レーダ信号に対して周波数変換により積分を行う周波数変換部と、周波数変換されたレーダ信号から、周波数領域における目標の信号成分を抽出する目標抽出部と、目標の信号成分を逆周波数変換する周波数逆変換部と、逆周波数変換された目標の信号成分の位相を抽出する位相抽出部と、抽出された位相をフィッティングすることで、目標の運動成分に関する運動パラメータを表す多項式の項の係数を特定する係数特定部と、特定された多項式の各項の係数を用いて、目標の運動パラメータを推定する推定部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、周波数変換して信号を積分することにより、当該信号に含まれる目標の信号成分を強調させることができるので、目標の信号成分の他に信号に含まれる雑音の影響を低減させることができる。これにより、本開示に係るレーダ信号処理装置は、雑音の影響を低減させて目標の運動パラメータを推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】実施の形態1に係るレーダ信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】レーダ信号処理装置の処理対象データを生成する処理を示すフローチャートである。
【
図4】実施の形態1に係るレーダ信号処理方法を示すフローチャートである。
【
図6】
図6Aおよび
図6Bは、実施の形態1に係るレーダ信号処理装置の機能を実行するハードウェア構成を示すブロックである。
【
図7】実施の形態2に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【
図8】実施の形態2に係るレーダ信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【
図9】実施の形態2に係るレーダ信号処理方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
パルスドップラーレーダにより受信されたスロータイムの時刻tにおける目標のレーダ信号は、下記式(1)で表現される。下記式(1)において、Aは目標の受信信号の振幅である。r
0はレーダと目標との間の平均距離であり、v
0は目標の平均速度であり、a
0は目標の平均加速度であり、j
0は平均躍度である。躍度は、加速度を時間微分したものである。なお、以下の説明において、レンジ方向の次元は考慮しないものとする。
【0011】
しかしながら、下記式(2)に示すように、実際の受信信号r(t)には、雑音成分n(t)が含まれる。
【0012】
受信信号r(t)に対してパルス方向の周波数変換を行うことにより、下記式(3)に示す信号R(f)に変換される。信号R(f)では、受信信号r(t)に含まれる目標の信号成分がドップラー周波数領域において積分されている。これにより、目標の信号成分が強調され、目標を抽出できるようになる。下記式(3)において、R(f)=F
t[ ](f)は、時刻tから周波数fへの周波数変換を表す記号である。信号R(f)と閾値とを比較した結果に基づいて、目標の信号成分が抽出される。目標の信号成分のドップラー周波数に着目することにより、目標の運動パラメータとして平均速度v
0を推定することができる。
【0013】
積分された目標の信号成分を抽出することにより、不要信号である雑音を、大幅に低減することができる。目標の信号成分が存在する区間外に0値を挿入(設定)することで、信号R(f)は信号R’(f)となる。さらに、信号R’(f)を逆周波数変換することにより、信号s’(t)となる。信号s’(t)は、信号s(t)と比べて、目標の信号成分が残余している一方で、不要信号成分が大幅に低減されている。
【0014】
信号s’(t)の位相系列をアンラップしながら抽出することにより、時刻tにおける位相の変化量を示す関数θ(t)が得られる。関数θ(t)により得られる値を、例えば最小二乗法によるフィッティングで多項式近似を行うことにより、関数θ(t)を与える多項式のk次項の係数p
kが推定される。下記式(4)および下記式(5)に従い、係数p
kを用いることにより、目標の平均加速度a
0および平均躍度j
0を推定することが可能である。ドップラー周波数領域における目標の信号成分の抽出の過程で、不要信号が低減されているので、目標の運動パラメータを精度よく推定することができる。
【0015】
次に、SARにおけるアジマス方向の速度推定について説明する。
ドップラー率は、下記式(6)によって与えられる。下記式(6)において、v
pは、プラットフォームの移動速度である。θはスクイント角である。λは波長であり、R
0はレーダと目標との最近接距離である。ドップラー率は、目標が静止していることが前提である。
【0016】
上記式(6)に対して目標のアジマス方向の速度v
tを導入することにより、ドップラー率は、下記式(7)で表される。下記式(7)に示す目標のドップラー率を用いることにより、目標のアジマス方向の速度成分を推定することが可能である。
【0017】
ドップラー率を有する受信信号から得られるドップラー周波数領域における目標の信号成分は、上記受信信号に対してレンジ圧縮を行い、さらにレンジセルマイグレーションを補正することにより、下記式(8)で表される。下記式(8)において、S(r,f
d)は、目標の信号のレンジ―ドップラー周波数成分である。rは、レンジであり、f
dは、ドップラー周波数である。A(r,f
d)は、レンジ圧縮して得られるレンジの包絡線とアジマス方向のアンテナパターンとにより得られる振幅変動である。K
tは、目標のアジマス方向の速度成分が含まれるドップラー率である。f
0は、中心周波数である。αf
dは、SAR画像内のアジマス方向の結像位置とレンジ方向の速度成分とに応じて発生する線形位相項であり、n(r,f
d)は、雑音成分を表す項である。
【0018】
受信信号に対して、アジマス圧縮のための参照関数を乗算することにより、目標の信号成分は、下記式(9)に示すように変化する。下記式(9)において、K
oは、参照関数のドップラー率である。目標がアジマス方向に速度成分を有していない場合、K
t=K
0となるので、ドップラー周波数成分の位相項の2次の成分が消失する。このため、目標がSAR画像上で理想的に結像する。このように得られた信号成分に対してアジマス逆周波数変換を行うことにより、SAR画像が生成される。
【0019】
SAR画像から目標の信号成分を抽出し、抽出した信号成分に対してアジマスFFT(周波数変換)を行うことにより、目標のドップラー周波数成分が得られる。この目標のドップラー周波数成分の位相をアンラップし、アンラップにより得られた関数θ(t)に対して多項式近似を行う。多項式近似により得られた多項式を最小二乗法によって求め、上記式(9)を用いることにより、下記式(10)に示す多項式の2次の項の係数p
2が得られる。
【0020】
関数θ(t)を与える多項式の2次の項の係数p
2と目標のアジマス方向の速度v
tとは、一定の関係を有している。上記式(10)が示す係数p
2を用いることにより、下記式(11)に示す目標のアジマス方向の速度v
estを推定することができる。なお、下記式(11)において、K
tは、下記式(12)で表される。
【0021】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係るレーダ装置1の構成を示すブロック図である。
図1において、レーダ装置1は、例えば地上に固定的に設けられたり、航空機などのプラットフォームに備えられたりして、目標の運動パラメータを推定する装置であり、アンテナ部2、送受信回路3、記憶装置4、およびレーダ信号処理装置5を備える。アンテナ部2は、送信信号の電波を放射する送信用の素子アンテナと、到来した電波を受信する受信用の素子アンテナと、を備える。例えば、アンテナ部2は、送信用の素子アンテナと受信用の素子アンテナとをそれぞれ1つまたは複数備える。また、送信用の素子アンテナと受信用の素子アンテナの機能を一つの素子アンテナが兼務してもよい。
【0022】
送受信回路3は、アンテナ部2からレーダ信号の電波を送信させ、アンテナ部2に到来した電波を受信してレーダ信号の受信信号を生成する。送受信回路3が生成した受信信号は、記憶装置4が備える記憶部41に生データとして記憶される。記憶装置4は、送受信回路3とレーダ信号処理装置5との間で有線通信または無線通信により接続されている。レーダ信号処理装置5は、記憶部41に記憶された生データを用いて、目標の運動パラメータを推定する。なお、送受信回路3は、記憶装置4を介さず、レーダ信号処理装置5に直接生データを出力してもよい。
【0023】
送受信回路3は、
図1に示すように、切り換え部31、増幅部32a、増幅部32b、乗算部33a、乗算部33b、発振部34、フィルタ部35、A/D変換部36、および信号生成部37を備える。切り換え部31は、送受信を切り換える回路である。例えば、切り換え部31は、送信時にはアンテナ部2における送信用の素子アンテナと増幅部32aとを接続して、アンテナ部2における受信用の素子アンテナと増幅部32bとの接続を切る。さらに、切り換え部31は、受信時には受信用の素子アンテナと増幅部32bとを接続して、送信用の素子アンテナと増幅部32aとの接続を切る。
【0024】
増幅部32aは、送信信号を増幅する。増幅部32aが増幅した送信信号は、切り換え部31を介して、アンテナ部2に出力される。増幅部32bは、切り換え部31を介してアンテナ部2が受信した電波信号を取得し、取得した信号を増幅して乗算部33bに出力する。乗算部33aは、信号生成部37が生成した信号に対して、発振部34が生成した搬送波を乗算する。
【0025】
信号生成部37が生成した信号は、搬送波が乗算されると、周波数がアップコンバードされた送信信号となる。乗算部33bは、増幅部32bが増幅した信号に対して、発振部34が生成した搬送波を乗算する。アンテナ部2が受信した信号は、搬送波が乗算されると、周波数がダウンコンバートされた信号となる。発振部34は、搬送波を生成して乗算部33aおよび乗算部33bに出力する。
【0026】
フィルタ部35は、ダウンコンバートされた信号のうち、使用周波数帯域外の信号成分を抑圧する。A/D変換部36は、フィルタ部35を通過した信号をアナログ/デジタル変換することにより受信信号を生成する。A/D変換部36によってデジタル信号に変換された受信信号は、生データとして記憶部41に格納される。
また、A/D変換部36は、受信信号の生データをレーダ信号処理装置5へ直接出力してもよい。
【0027】
信号生成部37は、目標が存在する空間に送信信号の電波として放射される信号を生成する。例えば、信号生成部37は、パルス信号に基づいて信号を生成する。なお、
図1では、送受信回路3が信号生成部37を備える場合を示したが、信号生成部37は、送受信回路3とは別に設けられた制御装置が備えてもよい。
【0028】
図2は、実施の形態1に係るレーダ信号処理装置5の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、レーダ信号処理装置5は、パルス圧縮部51、補償部52-1,52-2,・・・,52-M、周波数変換部53-1,53-2,・・・,53-M、平均部54-1,54-2,・・・,54-M、目標抽出部55、周波数逆変換部56、位相抽出部57、係数特定部58および推定部59を備える。
【0029】
パルス圧縮部51は、記憶部41または送受信回路3から生データを入力し、生データである受信信号に対してパルス圧縮を行う。例えば、信号生成部37が、チャープパルスの信号を生成した場合、パルス圧縮部51は、チャープパルスの受信信号に対してパルス圧縮を行う。
【0030】
補償部52-1,52-2,・・・,52-Mは、受信信号における目標の運動成分を補償する。Mは、1以上の整数である。例えば、補償部52-1,52-2,・・・,52-Mが、目標の運動成分の発生によるドップラー周波数領域上での変化を補償することにより、ドップラー周波数後のスペクトルの電力が改善される。
【0031】
周波数変換部53-1,53-2,・・・,53-Mは、それぞれ、入力した受信信号を周波数変換する。例えば、受信信号は、周波数変換部53-1,53-2,・・・,53-Mによってドップラー周波数領域の信号に変換される。平均部54-1,54-2,・・・,52-Mは、周波数変換された受信信号の平均処理を行う。例えば、平均部54-1,54-2,・・・,52-Mは、ドップラー周波数領域の信号に変換された受信信号に対して、ドップラー周波数方向に移動平均を行う。
【0032】
目標抽出部55は、周波数変換された受信信号から、周波数領域における目標の信号成分を抽出する。例えば、目標抽出部55は、受信信号の平均処理により得られた信号系列を用いて、ドップラー周波数領域における目標の信号成分を抽出する。そして、目標抽出部55は、平均処理により得られた信号のうち、目標の信号成分に起因して信号値が最大となったものを抽出する。
【0033】
周波数逆変換部56は、目標抽出部55によって抽出された目標の信号成分を逆周波数変換する。例えば、周波数逆変換部56は、目標の信号成分に周波数逆変換を行い、時間領域の信号に戻す。位相抽出部57は、周波数逆変換部56によって逆周波数変換された目標の信号成分の位相を抽出する。例えば、位相抽出部57は、目標の信号成分の位相をアンラップして、位相の関数を取得する。
【0034】
係数特定部58は、位相抽出部57によって抽出された位相をフィッティングすることで、目標の運動パラメータを表す多項式の項の係数を特定する。例えば、係数特定部58は、抽出された位相を最小二乗法によりフィッティングすることで、位相の関数を与える多項式を求め、求めた多項式の各項の係数を特定する。推定部59は、係数特定部58によって特定された前記多項式の各項の係数を用いて、目標の運動パラメータを推定する。
【0035】
なお、レーダ信号処理装置5は、受信信号を周波数変換して目標の信号成分を積分することにより、雑音の影響を低減するものである。このため、レーダ信号処理装置5には、
図2に示した構成要素のうち、周波数変換部53-1,53-2,・・・,53-M、目標抽出部55、周波数逆変換部56、位相抽出部57、係数特定部58および推定部59を備えていればよく、これら以外の構成要素は備えていなくてもよい。
また、パルス圧縮部51、補償部52-1,52-2,・・・,52-M、および平均部54-1,54-2,・・・,54-Mは、レーダ信号処理装置5とデータのやり取りが可能な外部装置が備えてもよい。
【0036】
レーダ信号処理装置5の処理対象データである生データ(受信信号)を生成する処理を詳細に説明する。
図3は、レーダ信号処理装置5の処理対象データを生成する処理を示すフローチャートである。まず、信号生成部37が、パルス信号に基づいて信号を生成する(ステップST1)。例えば、信号生成部37は、送信すべき信号としてチャープパルス信号を生成し、乗算部33aに出力する。
なお、信号生成部37が生成する信号は、チャープパルス信号に限定されるものではなく、単純なパルス信号であってもよいし、そのほかのパルス信号であってもよい。
【0037】
乗算部33aは、信号生成部37が生成した信号に対し、発振部34が生成した搬送波を乗算することにより、当該信号の周波数をアップコンバードする(ステップST2)。アップコンバードされた送信信号は、増幅部32aに出力される。増幅部32aは、入力した送信信号の電力を増幅する(ステップST3)。増幅部32aが増幅した送信信号は切り換え部31に出力される。送信時、切り換え部31は、アンテナ部2における送信用の素子アンテナと増幅部32aとを接続している。これにより、送信信号は、切り換え部31を介して増幅部32aからアンテナ部2へ出力される。アンテナ部2は、送信信号を電波として空間に放射する(ステップST4)。
【0038】
空間に放射された送信信号の電波は、空間に存在する目標で散乱または反射され、散乱または反射された電波がアンテナ部2に到来する。アンテナ部2は、到来した電波を受信する(ステップST5)。受信時、切り換え部31は、アンテナ部2における受信用の素子アンテナと増幅部32bとを接続している。このため、アンテナ部2が電波として受信した信号は、切り換え部31を介して増幅部32bに出力される。増幅部32bは、入力した信号の電力を増幅する(ステップST6)。
【0039】
乗算部33bは、増幅部32bが増幅した信号に対し、発振部34が生成した搬送波を乗算することにより、当該信号の周波数をダウンコンバートする(ステップST7)。
フィルタ部35は、乗算部33bによりダウンコンバートされた信号のうち、使用周波数帯域外の信号成分を抑圧する(ステップST8)。フィルタ部35を通過した信号は、A/D変換部36に出力される。A/D変換部36は、フィルタ部35を通過した信号をA/D変換し、デジタル信号の受信信号を生成する(ステップST9)。A/D変換部36が生成した受信信号は、生データとして記憶部41に格納される。
【0040】
次に、実施の形態1に係るレーダ信号処理方法について説明する。
図4は、実施の形態1に係るレーダ信号処理方法を示すフローチャートであり、目標の運動パラメータを推定する処理を示している。
図5A、
図5B、
図5C、
図5Dおよび
図5Eは、
図4のレーダ信号処理方法で処理された信号の特性を示す図である。
信号生成部37が生成した信号がチャープパルスである場合に、パルス圧縮部51は、記憶部41から取得した生データに対してパルス圧縮を行う(ステップST1A)。
アンテナ部2が受信した信号にそれぞれ対応する生データを受信信号s
0(n,h)とする。ここで、nはレンジセル番号であり、hはパルス番号である。
【0041】
例えば、パルス圧縮部51は、受信信号s0(n,h)に対してレンジ方向の周波数変換を行い、この周波数変換により得られた信号成分にレンジ圧縮用の参照関数を乗算し、続いて、レンジ方向の逆周波数変換を行う。これにより、受信信号s0(n,h)は、パルス圧縮済み信号s1(r,h)となる。ここで、rはレンジビンである。
【0042】
補償部52-1,52-2,・・・,52-Mは、パルス圧縮済み信号s
1(r,h)に対して加速度成分を補償する(ステップST2A)。例えば、補償部52-1,52-2,・・・,52-Mは、目標の加速度の一次推定結果の候補としてa
1,・・・,a
m,・・・,a
Mを用意しておき、下記式(13)に従って加速度成分を補償する。下記式(13)において、s
2,m(r,h)は、パルス圧縮済み信号s
1(r,h)の加速度成分を補償して得られる信号である。N
hはパルス数、Tはパルス繰り返し周期、λは、信号の波長である。
パルス圧縮済み信号s
1(r,h)は加速度成分を補償することにより、
図5Aに示す波形の信号aとなる。この信号aには、目標の信号成分と雑音成分とが含まれる。
【0043】
信号s2,m(r,h)は、目標の加速度の一次推定結果の候補が平均加速度a0に近い値を有する場合、加速度成分の発生によるドップラー周波数領域上での目標の速度成分の広がりが軽減される。そこで、補償部52-1,52-2,・・・,52-Mが、パルス圧縮済み信号s1(r,h)を加速度等の運動成分を補償することにより、周波数変換部53-1,53-2,・・・,53-Mによる周波数変換後の信号スペクトルの電力が改善される。
また、周波数変換後に高いピーク電力を示すs2,m(r,h)におけるamを、平均加速度a0に近い値を有する加速度成分の推定結果の候補とすることも可能である。
なお、補償を行う運動成分を加速度としたが、その他の運動成分で補償してもよいし、複数の運動成分を補償してもよい。
【0044】
周波数変換部53-1,53-2,・・・,53-Mは、加速度成分の補償が行われた信号にs
2,m(r,h)にパルス方向の周波数変換を行い、信号S
2,m(r,f)を生成する(ステップST3A)。ここで、fはドップラー周波数である。
信号S
2,m(r,f)は、
図5Bに示すスペクトルbとなる。
図5Bに示すように、目標の信号成分に対応する周波数帯域がピーク帯域となっている。
【0045】
続いて、平均部54-1,54-2,・・・,54-Mが、信号S2,m(r,f)の電力成分についてドップラー周波数方向に移動平均を行うことにより、信号pm(r,f)を生成する(ステップST4A)。これにより、受信信号のドップラー周波数スペクトルから、目標の信号成分を抽出する際に、スペクトルにおける雑音電力成分の影響が低減される。
【0046】
例えば、平均部54-1,54-2,・・・,54-Mは、信号S
2,m(r,f)の電力成分についてドップラー周波数方向にピクセルn
wごとの移動平均を行う。
なお、n
wの値は任意の大きさでよいが、下記式(14)および下記式(15)に従って、n
wを設定してもよい。下記式(14)および下記式(15)において、v
resoは速度分解能である。また、n
wは加速度補償後に残余する加速度による速度広がりの最大値を速度分解能v
resoで除算し、得られた値を四捨五入して整数値にしたものである。v
resoは、ドップラー周波数スペクトルの幅の目安となる。ここでは、a
mが等間隔に設定されているものとしている。移動平均を行って得られるp
m(r,f)は、移動平均の効果によって雑音が低減されている。
【0047】
なお、平均部54-1,54-2,・・・,54-Mは、移動平均して得られた信号系列を重みとし、これらの重みをS2,m(r,f)に乗算してpm(r,f)を算出してもよい。移動平均を行うと雑音が抑圧できるが、目標の速度広がりがない場合は、信号電力の低下が顕著となる。そこで、移動平均を行って得られる重みを信号S2,m(r,f)に乗算することにより、重みが移動平均によって得られていることから雑音を低減できる。さらに、信号S2,m(r,f)に重みを乗算してpm(r,f)を算出しているので、信号電力の低減を緩和することも可能である。
【0048】
目標抽出部55は、平均部54-1,54-2,・・・,54-Mのそれぞれが算出した複数のpm(r,f)のうち、最大値のpm(r,f)を取得し、取得したpm(r,f)の中で最大電力を有するpmmax(r,f)を求める。ここで、目標抽出部55は、最大電力を有する信号pmmax(r,f)のドップラー周波数ビンfmax、レンジビンrmax、およびmの値に対応するmmaxを求める。mmaxに対応する加速度成分の一次推定結果をammaxとする。
【0049】
さらに、目標抽出部55は、下記式(16)に従って、信号S
2,mmax(r
max,f)から、目標の信号成分を抽出する(ステップST5A)。下記式(16)において、f
wは、ドップラー周波数ビン数n
wに対応するドップラー周波数幅である。また、周波数変換ポイント数(FFTポイント数)をNとした場合に、雑音電力はn
w/Nに低減する。なお、目標抽出部55による信号成分の切り出しの長さはn
wである。ただし、切り出しの長さ自体は、任意の長さであってもよい。
【0050】
下記式(16)では、
図5Cに示すように、目標抽出部55が目標の信号成分以外の成分に0値が設定されたスペクトルcとなる。すなわち、D(f)は目標が抽出されているものの、抽出された区間以外には0が挿入され、雑音などの不要信号が低減される。
これにより、受信信号が低S/Nであっても、精度よく、速度、加速度および躍度といった、高次の運動パラメータを推定することができる。
【0051】
周波数逆変換部56は、目標抽出部55が算出したD(f)を逆周波数変換し、信号d(t)を生成する(ステップST6A)。上述したように、雑音成分が低減されるので、信号d(t)は、
図5Dに示す波形の信号dとなる。信号dには、目標の信号成分が含まれるが、雑音成分は少なくなっている。
【0052】
位相抽出部57は、信号d(t)の位相をアンラップして、位相の関数θ(t)を生成する(ステップST7A)。例えば、位相抽出部57は、関数θ(t)に対して、下記式(17)で表される距離変化特性Δr(t)を算出する。この位相Δr(t)を解析することにより、レーダと目標との相対距離の変化についての情報が得られる。位相Δr(t)は、
図5Eに示す波形の信号eとなる。
【0053】
続いて、係数特定部58は、Δr(t)に対して、最小二乗法によるフィッティングを行う(ステップST8A)。これにより、関数θ(t)を与える多項式が得られ、多項式のk次の項の係数pkが特定される。
【0054】
推定部59は、多項式のk次の項の係数p
kのうち、係数p
1、p
2およびp
3を用い、下記式(18)、下記式(19)および下記式(20)に従って目標の推定速度v
est、推定加速度a
estおよび推定躍度j
estを推定する(ステップST9A)。
【0055】
なお、係数特定部58は、上記と同様の効果が得られるのであれば、Δr(t)のフィッティングには最小二乗法を用いず、他のフィッティング方法を用いてもよい。
推定部59は、推定速度vest、推定加速度aestおよび推定躍度jestを出力して、動作を完了する。
【0056】
これまでの説明では、レンジビンrmaxの1レンジビンに限定して処理を解説したが、複数のレンジビンで運動パラメータの推定を行い、得られた値の平均値または中間値を求めて、推定精度を向上させてもよい。
【0057】
また、一連のパルス列を一括して処理したが、分割して処理を行って、得られる結果を合成してもよい。
【0058】
さらに、推定する運動パラメータを、速度、加速度および躍度としたが、これらよりも高次の運動成分を推定してもよい。
【0059】
次に、レーダ信号処理装置5の機能を実現するハードウェア構成について説明する。
レーダ信号処理装置5が備えるパルス圧縮部51、補償部52-1,52-2,・・・,52-M、周波数変換部53-1,53-2,・・・,53-M、平均部54-1,54-2,・・・,54-M、目標抽出部55、周波数逆変換部56、位相抽出部57、係数特定部58および推定部59の機能は、処理回路により実現される。すなわち、レーダ信号処理装置5は、
図4に示したステップST1AからステップST9Aまでの処理を実行するための処理回路を備える。処理回路は、専用のハードウェアであってもよいが、メモリに記憶されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)であってもよい。
【0060】
図6Aは、レーダ信号処理装置5の機能を実現するハードウェア構成を示すブロック図である。
図6Bは、レーダ信号処理装置5の機能を実現するソフトウェアを実行するハードウェア構成を示すブロック図である。
図6Aおよび
図6Bにおいて、入力インタフェース100は、レーダ信号処理装置5が記憶部41から取得するデータを中継するインタフェースである。出力インタフェース101は、推定部59から外部装置へ出力される目標の運動パラメータの推定結果を中継するインタフェースである。
【0061】
処理回路が
図6Aに示す専用のハードウェアの処理回路102である場合、処理回路102は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、または、これらを組み合わせたものが該当する。レーダ信号処理装置5が備えるパルス圧縮部51、補償部52-1,52-2,・・・,52-M、周波数変換部53-1,53-2,・・・,53-M、平均部54-1,54-2,・・・,54-M、目標抽出部55、周波数逆変換部56、位相抽出部57、係数特定部58および推定部59の機能を、別々の処理回路で実現してもよく、これらの機能をまとめて一つの処理回路で実現してもよい。
【0062】
処理回路が
図6Bに示すプロセッサ103である場合、レーダ信号処理装置5が備えるパルス圧縮部51、補償部52-1,52-2,・・・,52-M、周波数変換部53-1,53-2,・・・,53-M、平均部54-1,54-2,・・・,54-M、目標抽出部55、周波数逆変換部56、位相抽出部57、係数特定部58および推定部59の機能は、ソフトウェア、ファームウェアまたはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。なお、ソフトウェアまたはファームウェアは、プログラムとして記述されてメモリ104に記憶される。
【0063】
プロセッサ103は、メモリ104に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、レーダ信号処理装置5が備えるパルス圧縮部51、補償部52-1,52-2,・・・,52-M、周波数変換部53-1,53-2,・・・,53-M、平均部54-1,54-2,・・・,54-M、目標抽出部55、周波数逆変換部56、位相抽出部57、係数特定部58および推定部59の機能を実現する。例えば、レーダ信号処理装置5は、プロセッサ103によって実行されるときに
図4に示したステップST1AからステップST9Aの処理が結果的に実行されるプログラムを記憶するためのメモリ104を備えている。これらのプログラムは、パルス圧縮部51、補償部52-1,52-2,・・・,52-M、周波数変換部53-1,53-2,・・・,53-M、平均部54-1,54-2,・・・,54-M、目標抽出部55、周波数逆変換部56、位相抽出部57、係数特定部58および推定部59が行う処理の手順または方法を、コンピュータに実行させるものである。メモリ104は、コンピュータを、パルス圧縮部51、補償部52-1,52-2,・・・,52-M、周波数変換部53-1,53-2,・・・,53-M、平均部54-1,54-2,・・・,54-M、目標抽出部55、周波数逆変換部56、位相抽出部57、係数特定部58および推定部59として機能させるためのプログラムが記憶されたコンピュータ可読記憶媒体であってもよい。
【0064】
メモリ104は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically-EPROM)(登録商標)などの不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVDなどが該当する。
【0065】
レーダ信号処理装置5が備えるパルス圧縮部51、補償部52-1,52-2,・・・,52-M、周波数変換部53-1,53-2,・・・,53-M、平均部54-1,54-2,・・・,54-M、目標抽出部55、周波数逆変換部56、位相抽出部57、係数特定部58および推定部59の機能の一部を、専用のハードウェアで実現し、他の一部はソフトウェアまたはファームウェアで実現してもよい。例えば、パルス圧縮部51、補償部52-1,52-2,・・・,52-M、周波数変換部53-1,53-2,・・・,53-M、平均部54-1,54-2,・・・,54-Mの各機能は専用のハードウェアである処理回路102により実現し、目標抽出部55、周波数逆変換部56、位相抽出部57、係数特定部58および推定部59の各機能は、プロセッサ103がメモリ104に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより実現してもよい。このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアまたはこれらの組み合わせにより上記機能を実現することが可能である。
【0066】
以上のように、実施の形態1に係るレーダ信号処理装置5は、レーダ信号を周波数変換する周波数変換部53-1,53-2,・・・,53-Mと、周波数変換されたレーダ信号から、周波数領域における目標の信号成分を抽出する目標抽出部55と、目標の信号成分を逆周波数変換する周波数逆変換部56と、逆周波数変換された目標の信号成分の位相を抽出する位相抽出部57と、抽出された位相をフィッティングすることにより、目標の運動成分に関する運動パラメータを表す多項式の項の係数を特定する係数特定部58と、特定された多項式の各項の係数を用いて、目標の運動パラメータを推定する推定部59を備える。周波数変換して信号を積分することにより、当該信号に含まれる目標の信号成分を強調させることができるので、目標の信号成分の他に信号に含まれる雑音の影響を低減させることが可能である。これにより、レーダ信号処理装置5は、雑音の影響を低減させて目標の運動パラメータを推定することができる。
また、レーダ信号処理装置5をパルスドップラーレーダに適用することにより、目標の加速度および躍度といった高次の運動パラメータを、受信信号に含まれる雑音の影響を低減しながら高精度に推定することができる。
従来の技術では、目標の運動成分で信号を補償する補償量の間隔でしか運動パラメータを推定できなかったが、レーダ信号処理装置5は、受信信号を周波数変換して雑音の影響を低減してから目標の信号成分の位相を解析するので、従来の補償間隔を補間するように目標の運動パラメータを高精度に推定することができる。
【0067】
実施の形態1に係るレーダ信号処理装置5において、位相抽出部57は、目標の信号成分の位相をアンラップする。これにより、目標の信号成分の位相を示す関数を算出することができる。
【0068】
実施の形態1に係るレーダ信号処理装置5において、目標抽出部55は、目標の信号成分以外の成分に0値を設定する。このように、雑音の低減を周波数領域の0挿入によって行い、平均処理を用いていないので、信号の情報が欠損せず、高精度に運動パラメータを推定が可能となる。これは、信号にドップラー周波数フィルタ上の雑音を低減するフィルタを並列に並べて、雑音が低減された複数の信号の中から、最も信頼性の高い信号を選んで位相を解析する処理と等価である。目標の信号成分を抽出し、それ以外の帯域に0値を挿入することで雑音を低減するので、演算量の増大を伴うことなく、信頼性の高い運動パラメータの推定を実現できる。
【0069】
実施の形態1に係るレーダ信号処理装置5において、係数特定部58は、抽出された位相を最小二乗法によりフィッティングする。これにより、位相の関数を与える多項式を算出することができる。
【0070】
実施の形態1に係るレーダ信号処理装置5において、レーダ信号における目標の運動成分を補償する補償部52-1,52-2,・・・,52-Mを備える。目標の運動成分で受信信号を補償することにより、周波数変換後の受信信号のスペクトルの電力を改善することができる。
【0071】
実施の形態1に係るレーダ信号処理装置5は、周波数変換されたレーダ信号の平均処理を行う平均部54-1,54-2,・・・,54-Mを備える。目標抽出部55は、レーダ信号の平均処理により得られた信号系列を用いて、周波数領域における目標の信号成分を抽出する。これにより、スペクトルにおける雑音電力成分の影響が低減され、受信信号のドップラー周波数スペクトルから、目標の信号成分を特定しやすくなる。
【0072】
実施の形態1に係るレーダ信号処理装置5において、目標抽出部55は、信号系列をレーダ信号に乗算した信号を用いて、目標の信号成分を抽出する。このように、レーダ信号に、平均処理により得られた信号系列を重みとして乗算することにより、信号電力の低減を緩和することができる。
【0073】
実施の形態1に係るレーダ装置1は、アンテナ部2と、アンテナ部2からレーダ信号の電波を送信させ、アンテナ部2に到来した電波を受信してレーダ信号の受信信号を生成する送受信回路3と、受信信号を入力して、受信信号から抽出した目標の運動成分に関する運動パラメータを推定するレーダ信号処理装置5とを備える。これにより、レーダ装置1は、雑音の影響を低減させて目標の運動パラメータを推定することができる。
【0074】
実施の形態1に係るレーダ信号処理方法は、周波数変換部53-1,53-2,・・・,53-Mが、レーダ信号を周波数変換するステップと、目標抽出部55が、周波数変換されたレーダ信号から、周波数領域における目標の信号成分を抽出するステップと、周波数逆変換部56が、目標の信号成分を逆周波数変換するステップと、位相抽出部57が、逆周波数変換された目標の信号成分の位相を抽出するステップと、係数特定部58が、抽出された位相をフィッティングすることで、目標の運動成分に関する運動パラメータを表す多項式の項の係数を特定するステップと、推定部59が、特定された多項式の各項の係数を用いて、目標の運動パラメータを推定するステップとを備える。当該方法をレーダ信号処理装置5が実行することにより、雑音の影響を低減させて目標の運動パラメータを推定することができる。
【0075】
実施の形態2.
図7は、実施の形態2に係るレーダ装置1Aの構成を示すブロック図である。
図7において、
図1と同一の構成要素には同一の符号を付与しており、重複した説明を省略する。
図7において、レーダ装置1Aは、例えば、航空機または人工衛星など移動するプラットフォームに備えられ、目標の運動パラメータを推定する装置であり、アンテナ部2、送受信回路3A、記憶装置4A、およびレーダ信号処理装置5Aを備える。
また、レーダ装置1Aは、プラットフォームにアンテナ部2、送受信回路3Aおよび記憶装置4Aを設け、地上局としてレーダ信号処理装置5Aを設けて、プラットフォームと地上局との間を通信回線で接続したものであってもよい。
【0076】
送受信回路3Aは、
図7に示すように、切り換え部31、増幅部32a、増幅部32b、乗算部33a、乗算部33b、発振部34、フィルタ部35、A/D変換部36、信号生成部37、および画像生成部38を備える。画像生成部38は、A/D変換部36が変換したデジタル信号の受信信号を用いてSAR画像を生成する。SAR画像の生成方法は、例えば、参考文献1に記載されている。
(参考文献1)
I. G. Cumming and F. H. Wong, Digital Processing of Synthetic Aperture Radar Data. Norwood, MA: Artech House, 2005.
【0077】
記憶装置4Aは、記憶部41Aを備える。記憶部41AにはSAR画像が格納される。レーダ信号処理装置5Aは、記憶部41Aに格納されたSAR画像から目標の信号成分を抽出する。また、レーダ信号処理装置5Aは、送受信回路3Aから直接取得したSAR画像から目標の信号成分を抽出してもよい。
【0078】
図8は、実施の形態2に係るレーダ信号処理装置5Aの構成を示すブロック図である。
図8に示すように、レーダ信号処理装置5Aは、目標抽出部55A、周波数変換部60、位相抽出部57A、係数特定部58A、および推定部59Aを備える。
なお、レーダ信号処理装置5Aが備える目標抽出部55A、周波数変換部60、位相抽出部57A、係数特定部58Aおよび推定部59Aの機能は処理回路により実現される。すなわち、レーダ信号処理装置5Aは、後述する
図9に示したステップST1BからステップST6Bまでの処理を実行するための処理回路を備える。処理回路は、専用のハードウェアであってもよいが、メモリに記憶されたプログラムを実行するCPUであってもよい。
【0079】
目標抽出部55Aは、SAR画像から目標の信号成分を抽出する。周波数変換部60は、目標抽出部55Aによって抽出された目標の信号成分を周波数変換する。位相抽出部57Aは、周波数変換部60により周波数変換された目標の信号成分の位相を抽出する。
【0080】
係数特定部58Aは、位相抽出部57Aにより抽出された位相をフィッティングすることで、目標の運動成分に関する運動パラメータを表す多項式の項の係数を特定する。推定部59Aは、係数特定部58Aにより特定された多項式の各項の係数を用いて目標の運動パラメータを推定する。
【0081】
図9は、実施の形態2に係るレーダ信号処理方法を示すフローチャートである。
目標抽出部55Aは、CFAR(constant false alarm rate)またはMTI(moving target indicator)といった手法を用いて、SAR画像の中から移動目標を検出する(ステップST1B)。ここで、レンジビンをrとし、アジマスビンをaとし、SAR画像の画素をi(r,a)とする。
SAR画像から抽出した目標に対応するもののうち、最大電力を有するレンジビンをr
maxとし、アジマスビンをa
maxとする。
【0082】
目標抽出部55Aは、SAR画像から、下記式(21)で表される、目標の信号成分に対応する信号列d(a)を抽出する(ステップST2B)。下記式(21)において、cは、アジマスビンを抽出するサンプル長を決定する定数である。
【0083】
d(a)は、0値の挿入を行っていることから、雑音とクラッタとが低減された目標の信号成分である。cは、大きければ雑音またはクラッタなどの不要成分が混入して信頼性が下がるが、小さいとサンプル点数が少ないことから信頼性が低下するので、適切に与えられる必要がある。設定されたcに対してアジマスビンを抽出する長さは2c+1と決定される。
【0084】
周波数変換部60は、信号列d(a)に対してアジマス周波数変換を行って、S(f)を生成する(ステップST3B)。信号列S(f)の位相項の2次成分には、目標のアジマス方向の速度に起因して、上記式(9)で表される特性が与えられている。
【0085】
位相抽出部57Aは、信号列S(f)の位相項を抽出してアンラップを行い、位相列θ(f)を算出する(ステップST4B)。
係数特定部58Aは、位相列θ(f)に対して多項式近似を行うための最小二乗法を行い、2次の係数p2を導出する(ステップST5B)。なお、系列の端は、アジマス方向のアンテナパターンの端であり、信号対雑音電力比が悪いので、除外してもよい。
また、上記と同様の効果が得られるのであれば、最小二乗法以外のフィッティング手法であってもよい。
推定部59Aは、2次の係数p2より、上記式(11)および上記式(12)を用い、目標のアジマス方向の速度推定値であるvestを算出する(ステップST6B)。
【0086】
なお、レンジビンrmaxの1レンジビンに限定して処理を説明したが、複数のレンジビンで運動パラメータの推定を行い、得られた値の平均値または中間値を求めて、推定精度を向上させてもよい。
【0087】
以上のように、実施の形態2に係るレーダ信号処理装置5Aは、SAR画像から目標の信号成分を抽出する目標抽出部55Aと、抽出された目標の信号成分を周波数変換する周波数変換部60と、周波数変換された目標の信号成分の位相を抽出する位相抽出部57Aと、抽出された位相をフィッティングすることで、目標の運動成分に関する運動パラメータを表す多項式の項の係数を特定する係数特定部58Aと、特定された多項式の各項の係数を用いて、目標の運動パラメータを推定する推定部59Aを備える。これにより、レーダ信号処理装置5は、SAR画像から雑音の影響を低減させて目標を抽出することができ、目標の運動パラメータを推定することができる。さらに、SAR画像が1枚であっても、検出された目標について、雑音の影響を低減して、アジマス方向の速度を推定することが可能である。
【0088】
実施の形態2に係るレーダ信号処理装置5Aにおいて、位相抽出部57Aは、目標の信号成分の位相をアンラップする。これにより、目標の信号成分の位相を示す関数を算出することができる。
【0089】
実施の形態2に係るレーダ信号処理装置5Aにおいて、係数特定部58Aは、抽出された位相を最小二乗法によりフィッティングする。これにより、位相の関数を与える多項式を算出することができる。
【0090】
実施の形態2に係るレーダ装置1Aは、アンテナ部2と、アンテナ部2からレーダ信号の電波を送信させ、アンテナ部に到来した電波を受信してSAR画像を生成する送受信回路3Aと、SAR画像を入力して、SAR画像から抽出した目標の運動成分に関する運動パラメータを推定するレーダ信号処理装置5Aを備える。これにより、レーダ装置1Aは、雑音の影響を低減させてSAR画像から目標の運動パラメータを推定することができる。
【0091】
実施の形態2に係るレーダ信号処理方法は、目標抽出部55Aが、SAR画像から目標の信号成分を抽出するステップと、周波数変換部60が、抽出された目標の信号成分を周波数変換するステップと、位相抽出部57Aが、周波数変換された目標の信号成分の位相を抽出するステップと、係数特定部58Aが、抽出された位相をフィッティングすることで、目標の運動成分に関する運動パラメータを表す多項式の項の係数を特定するステップと、推定部59Aが、特定された多項式の各項の係数を用いて、目標の運動パラメータを推定するステップを備える。これにより、雑音の影響を低減させてSAR画像から目標の運動パラメータを推定することができる。
【0092】
なお、各実施の形態の組み合わせまたは実施の形態のそれぞれの任意の構成要素の変形もしくは実施の形態のそれぞれにおいて任意の構成要素の省略が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本開示に係るレーダ信号処理装置は、例えば、各種のレーダ装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0094】
1,1A レーダ装置、2 アンテナ部、3,3A 送受信回路、4、4A 記憶装置、5,5A レーダ信号処理装置、31 切り換え部、32a,32b 増幅部、33a,33b 乗算部、34 発振部、35 フィルタ部、36 A/D変換部、37 信号生成部、38 画像生成部、41,41A 記憶部、51 パルス圧縮部、52-1,52-2,・・・,52-M 補償部、53-1,53-1,・・・,53-M,60 周波数変換部、54-1,54-2,・・・,54-M 平均部、55,55A 目標抽出部、56 周波数逆変換部、57,57A 位相抽出部、58,58A 係数特定部、59,59A 推定部、100 入力インタフェース、101 出力インタフェース、102 処理回路、103 プロセッサ、104 メモリ。
【要約】
レーダ信号処理装置(5)は、レーダ信号を周波数変換する周波数変換部(53-1,53-2,・・・,53-M)と、周波数変換されたレーダ信号から、周波数領域における目標の信号成分を抽出する目標抽出部(55)と、目標の信号成分を逆周波数変換する周波数逆変換部56と、逆周波数変換された目標の信号成分の位相を抽出する位相抽出部(57)と、抽出された位相をフィッティングすることで、目標の運動成分に関する運動パラメータを表す多項式の項の係数を特定する係数特定部(58)と、特定された多項式の各項の係数を用いて、目標の運動パラメータを推定する推定部(59)を備える。