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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】地盤の改良方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20241007BHJP
【FI】
E02D3/12 102
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024094333
(22)【出願日】2024-06-11
【審査請求日】2024-06-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519034989
【氏名又は名称】コミヤ工事有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153501
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 貴司
(72)【発明者】
【氏名】小宮 由伍
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-139123(JP,A)
【文献】特公昭50-5843(JP,B1)
【文献】特開平9-125359(JP,A)
【文献】特開平11-81301(JP,A)
【文献】特開2021-152313(JP,A)
【文献】特開2022-130793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)盛土された地盤の上面から地中方向に向けて、オーガーを挿入回転することにより第1の掘削穴を設け、該第1の掘削穴内に排水材料を投入し、
(2)前記第1の掘削穴に近接する位置において地盤の上面から地中方向に向けて、オーガーを挿入回転することにより第2の掘削穴を設け、該第2の掘削穴内に排水材料を投入し、
(3)前記第1の掘削穴と前記第2の掘削穴との間の境界領域をオーガーで堀崩させて、前記第1の掘削穴と前記第2の掘削穴を連通して排水路を形成する
ことを特徴とする盛土された地盤の改良方法
【請求項2】
前記境界領域の表面から地中方向に向けて、オーガーを挿入回転することにより前記境界領域を堀崩させ、前記双方の排水材料を混ぜ合わせることを特徴とする請求項1に記載の地盤の改良方法
【請求項3】
オーガーを前記第1又は第2の掘削穴に再び挿入し、境界領域方向へ圧力を加えながらオーガーを回転することにより前記境界領域を堀崩させ、前記双方の排水材料を混ぜ合わせることを特徴とする請求項1に記載の地盤の改良方法
【請求項4】
前記排水路が形成される盛土内に、流路穴を有する錆止め処理された鋼矢板を埋設することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の地盤の改良方法
【請求項5】
前記排水路が設けられる盛土内に、流路穴を有する錆止め処理されたH形鋼杭を用いた連杭からなる山留壁を埋設することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の地盤の改良方法
【請求項6】
前記連杭からなる山留壁は、一対のフランジ部と該一対のフランジ部をつなぐウェブ部を有するH形鋼杭を複数用い、一のH形鋼杭を他のH形鋼杭に略接する位置に交互に配置され、前記一のH形鋼杭は、フランジ部の長さが前記他のH形鋼杭のウェブ部よりも短く、ウェブ部の長さが前記他のH形鋼杭のフランジ部より長く、前記一のH形鋼杭のフランジ部を前記他のH形鋼杭のフランジ部とウェブ部に囲まれた領域内に前記他のH形鋼杭のウェブ部に略平行となるように配置して形成することを特徴とする請求項5に記載の地盤の改良方法
【請求項7】
前記(1)と前記(2)を、複数のオーガーを用いて同時に行うことを特徴とする請求項1に記載の地盤の改良方法
【請求項8】
前記排水材料として、砂、砂利、礫石、ドレーン材又は前記材料を混合した材料を用いることを特徴とする請求項1に記載の地盤の改良方法
【請求項9】
オーガーによる掘削能力を有する装置を用いて、オーガーを挿入回転することを特徴とする請求項1に記載の地盤の改良方法
【請求項10】
前記装置として、先端位置を三次元方向に移動可能なブームを有する建設機械と、前記ブームの先端に垂下された鉛直回転軸を備えた回転駆動機構とを有する装置を用いることを特徴とする請求項9に記載の地盤の改良方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、盛土により形成された地盤に関して、特に、オーガーを使用して地盤表面側から盛土中に排水路を形成する盛土された地盤の改良方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、日本列島では地震が頻発し、山間部では地震による地盤崩壊により、道路が通行止めになることも発生している。山間部において道路を造る場合、通常、道路より高い部分にある土地の土砂を、道路より低い部分にある土地に土砂を盛土して道路が造られる。
【0003】
古い時代に造られた山間部の道路では、低い部分の土地に盛土をする際、雨水や地下水が通る排水路を作らないで盛土をして道路を造っているケースも多い。また、盛土内に排水路が形成されていても、長い年月の間、十分なメンテナンスがなされていないことや設置時の想定を超える雨量等が記録されることもあり、実質的に排水路として機能していないこともある。このような道路では、盛土内部に水分が多く含まれており、一度地震が起こると、道路の周囲の盛土部分は勿論、盛土上に形成された道路自体も地盤が崩壊し崩れてしまうということも生じている。
【0004】
このような事態を避けるため近年では、盛土により形成された地盤に関して、盛土の斜面(法面)方向から、ケーシングパイプを利用して排水用のドレーン材料を埋め込んだり(先行文献1)、法面方向から、排水用のパイプを新たに挿入する等(先行文献2))、盛土内の排水の問題を解決するための補強工事に関する技術が種々提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2022-130793号公報
【文献】特開2021-152313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の盛土内部にケーシングパイプや排水パイプを挿入して行う排水路の補強工事では、盛土に挿入されるパイプ類は法面方向から挿入して打設しなければならない。山間部の道路脇の傾斜盛土部分は、法面が道路面側に露出しているため、当該露出部分の補強工事については道路上で作業可能な場合には、法面である側壁部分からに排水路を設けることができることもある。しかしながら、一般的には、法面方向からパイプ等の排水材料や排水路を挿入しようとすると、法面方向に十分な作業スペースが必要となるところ、法面方向は斜面で作業スペースが少なく、作業用の機材を設置することが困難であった。また、盛土の地盤がある程度固い場合には、パイプを盛土内部に挿入するためには、相当な圧力を加えて挿入する必要があるが、法面方向からは十分な圧力を加えることができない等、施工上の問題があった。
【0007】
実際、山間部において、道路自体が盛土上に形成されている場合、その法面方向は通常急斜面となっており、法面方向からパイプを打設することは不可能であり、道路の下に排水路を補強することが困難であった。
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、盛土の法面ではなく上面側から排水路を形成することにより、山間部にある狭い場所であっても、盛土された地盤の下に排水路を簡単かつ強固に形成する地盤の改良方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するべく、本発明による盛土された地盤の改良方法は、(1)盛土された地盤の上面から地中方向に向けて、オーガーを挿入回転することにより第1の掘削穴を設け、該第1の掘削穴内に排水材料を投入し、(2)前記第1の掘削穴に近接する位置において地盤の上面から地中方向に向けて、オーガーを挿入回転することにより第2の掘削穴を設け、該第2の掘削穴内に排水材料を投入し、(3)前記第1の掘削穴と前記第2の掘削穴との間の境界領域をオーガーで堀崩させて、前記第1の掘削穴と前記第2の掘削穴を連通して排水路を形成することを特徴とする。
【0010】
本発明による盛土された地盤の改良方法は、前記境界領域の表面から地中方向に向けて、オーガーを挿入回転することにより前記境界領域を堀崩させ、前記双方の排水材料を混ぜ合わせることを特徴とする。
【0011】
本発明による盛土された地盤の改良方法は、オーガーを前記第1又は第2の掘削穴に再び挿入し、境界領域方向へ圧力を加えながらオーガーを回転することにより前記境界領域を堀崩させ、前記双方の排水材料を混ぜ合わせることを特徴とする。
【0012】
本発明による盛土された地盤の改良方法は、前記排水路が形成される盛土内に、流路穴を有する錆止め処理された鋼矢板を埋設することを特徴とする。
【0013】
本発明による盛土された地盤の改良方法は、前記排水路が形成される盛土内に、流路穴を有する錆止め処理されたH形鋼杭を用いた連杭からなる山留壁を埋設することを特徴とする。
【0014】
本発明による盛土された地盤の改良方法は、前記連杭からなる山留壁は、一対のフランジ部と該一対のフランジ部をつなぐウェブ部を有するH形鋼杭を複数用い、一のH形鋼杭を他のH形鋼杭に略接する位置に交互に配置され、前記一のH形鋼杭は、フランジ部の長さが前記他のH形鋼杭のウェブ部よりも短く、ウェブ部の長さが前記他のH形鋼杭のフランジ部より長く、前記一のH形鋼杭のフランジ部を前記他のH形鋼杭のフランジ部とウェブ部に囲まれた領域内に前記他のH形鋼杭のウェブ部に略平行となるように配置して形成することを特徴とする。
【0015】
本発明による盛土された地盤の改良方法は、前記(1)と前記(2)を、複数のオーガーを用いて同時に行うことを特徴とする。
【0016】
本発明による盛土された地盤の改良方法は、前記排水材料として、砂、砂利、礫石、ドレーン材又は前記材料を混合した材料を用いることを特徴とする。
【0017】
本発明による盛土された地盤の改良方法は、オーガーによる掘削能力を有する装置を用いて、オーガーを挿入回転することを特徴とする。
【0018】
本発明による盛土された地盤の改良方法は、前記装置として、先端位置を三次元方向に移動可能なブームを有する建設機械と、前記ブームの先端に垂下された鉛直回転軸を備えた回転駆動機構とを有する装置を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明による方法では、オーガーを使用して、盛土の上面から地中方向に向けて掘削穴を設けた上、境界領域を堀崩させるという方法で排水路を形成するため、盛土の法面方向ではなく、盛土された上面方向(道路がある場合、道路上)から作業することが可能となり、十分な作業スペースが確保でき、山間部のような狭い場所であっても、盛土中へ排水路を新たに形成できるようになる。また、地盤が多少強固であっても、盛土された上面方向(道路がある場合、道路上)から作業できることから、上方から加重を大きくかけることができ、法面方向が急斜面の現場であったとしても、本発明の方法によれば、道路の下の盛土内に排水路を簡単に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明による盛土された地盤の改良方法の実施形態を説明する断面説明図
図2】本発明による盛土された地盤の改良方法の実施形態を説明する断面説明図
図3】本発明による盛土された地盤の改良方法の実施形態を説明する上面説明図
図4】本発明による盛土された地盤の改良方法の他の実施形態を説明するオーガー掘削移動平面図
図5】本発明による盛土された地盤の改良方法の他の実施形態を説明する側面及び平面の断面説明図
図6】本発明による盛土された地盤の改良方法に使用するH形鋼杭の連杭からなる山留壁を示す斜視説明図
図7】本発明による盛土された地盤の改良方法に使用する鋼矢板・H形鋼杭の一例を示す斜視説明図
図8】本発明による盛土された地盤の改良方法に使用する装置(穴掘建柱車)の一例を示す側面の説明図
図9】本発明による盛土された地盤の改良方法に使用するオーガーの一例を示す側面及び平面の説明図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明による盛土された地盤の改良方法は、たとえば図1乃至図3に示されるように、(1)盛土された地盤の上面から地中方向に向けて、オーガー10を回転挿入することにより第1の掘削穴1を設け、第1の掘削穴1内に排水材料7を適量投入し、その後、(2)第1の掘削穴1に近接する位置において地盤の上面から地中方向に向けて、オーガー10を挿入回転することにより第2の掘削穴2を設け、第2の掘削穴2内に排水材料7を適量投入し、さらに、(3)第1の掘削穴1と第2の掘削穴2との間の境界領域3をオーガー10で堀崩させて第1の掘削穴1と第2の掘削穴2を連通し、双方の排水材料7を混ぜ合わせて、排水路4を形成する。
【0022】
具体的な盛土された地盤の改良方法は、以下のとおりである。
【0023】
まず、盛土された場所の地面(盛土の上面)上に、盛土内に排水路を形成する位置を示す目印12を設ける。目印12は、排水路を形成する位置の地面にマーキングし、当該マーキングに従ってオーガーを使用して掘削穴を形成したり、境界領域の堀崩を進めるための目印となるものであり、たとえば、地上部分に白線を引いたり、地上の土を削ったり、地上部分がアスファルトの道路であれば、掘削穴を設ける位置のアスファルト部分を削ること等により設ける。もっとも、これに限られず、排水路を形成する位置を、地上から目視し得る形であれば、いかなる方法で行ってよい。
【0024】
次いで図1乃至図2で示されるとおり、オーガー10を目印12に合わせて、図8で示されるような装置5の回転駆動機構54を駆動し、オーガー10を回転させながら所定の深さまで掘削し、所定の深さに到達後、オーガー10を地上まで引き上げ、引き抜くことで、盛土の上面方向から地中方向に向けて、第1の掘削穴1を形成する。
【0025】
第1の掘削穴1を形成した後、第1の掘削穴1内に砂、砂利、礫石、ドレーン材又は前記材料を混合した材料等、地中に存在する水分を排水するのに適した排水材料7を適宜選択した量だけ投入する。排水材料の投入する量は、掘削穴の形状、形成する排水路の大きさ等により適宜調整する。
【0026】
再び、装置5等を用いて、オーガー10をさらに目印12に沿って既に形成された第1の掘削穴1に近接する位置にて、地盤の表面(盛土の上面)から地中方向に向けて、所定の深さまで掘削し、所定の深さに到達後、オーガー10を地上まで引き上げ、引き抜くことで、盛土の上面方向から地中方向に向けて、第2の掘削穴2を形成する。
【0027】
第2の掘削穴2を形成した後、第2の掘削穴2内に砂、砂利、礫石、ドレーン材又は前記材料を混合した材料等からなる前述の排水材料7を適宜選択した量だけ投入する。ここでも排水材料の投入量は、掘削穴の形状、形成する排水路の大きさ等により適宜調整する。
【0028】
第1の掘削穴1及び第2の掘削穴2は、盛土内に排水路4を設ける位置に到達するまで掘削し、盛土内で排水路4の深さを一定にする場合には、掘削穴の深さを揃え、他方、盛土内で排水路に傾斜を持たせる場合には、掘削穴の深さを変化させればよい。また、掘削穴の大きさについては、形成する排水路の幅に応じて適宜変化させるものとし、オーガーの形状等で調整できる。
【0029】
第1の掘削穴1及び第2の掘削穴2を形成した後、図1乃至図3で示されるように、第1の掘削穴1と第2の掘削穴2との間の境界領域3をオーガー10で堀崩させて、第1の掘削穴1と第2の掘削穴2を連通して排水路4を形成する。境界領域3とは、第1の掘削穴1の外形と第2の掘削穴2の外形との間に存在する地上表面から地中までの領域をいう。
【0030】
本発明による方法では、境界領域3を堀崩させることに意味がある。すなわち、第1の掘削穴1を形成し、その近接した位置に第2の掘削穴2を形成する場合、間隔が近すぎると、掘削中にオーガーが既に掘削した第1の掘削穴1と干渉し、所望の位置に第2の掘削穴2を形成することができないため、一定の間隔を開けなければならない。他方、第1の掘削穴1と第2の掘削穴2の間隔をあけると、その間の境界領域3が壁となってしまい、盛土内の深さ方向に排水路4を形成することができなくなってしまう。この点、同種技術として、地中にシートパイル、鋼矢板、杭等を埋設するためにオーガーを用いて地中を先行堀するような場合があるが、この場合には、境界領域3において壁が多少存在していたしても、シートパイル等を埋設する際に境界領域に圧力が加わり、壁が自然に堀崩されることから、多少間隔があいていても支障がなく、境界領域3を別途処理する必要がない。他方、本発明の一実施態様では、シートパイル等を埋設することなく、単に盛土下に排水路4を設けることができるものであり、そのような場合、境界領域3を堀崩する工程が存在しなければ、境界領域3に壁が残ってしまい、排水路4が構成できなくなる。そこで本発明では、あえて境界領域3をオーガー10で堀崩する工程を含めている点に特徴がある。
【0031】
第1の掘削穴1と第2の掘削穴2との間の境界領域3をオーガー10で堀崩させる方法としては、たとえば、境界領域3の表面(盛土上面)から地中方向に向けて、オーガー10を挿入回転することにより境界領域3を堀崩させることができる。具体的には、図2で示されるように、図8で示されるような装置5等を用いて、境界領域3の地上表面にオーガー10の先端をセットした上、回転駆動機構54により、オーガー10を回転させながら地中方向に圧力を加えることで、境界領域3の壁を上面方向から堀崩させる。圧力を加える量については、境界領域の壁の厚さや硬さ等により適宜調整する。
【0032】
また、境界領域3の表面ではなく、オーガー10を第1の掘削穴1又は第2の掘削穴2に再び挿入し、境界領域3方向(オーガーが挿入されていない掘削穴方向)へ斜め下方向に圧力を加えながらオーガー10を回転することにより、境界領域3を堀崩させることもできる。この場合も、図8で示されるような装置5等を用いて、オーガー10を駆動させて実施する。
【0033】
なお、境界領域3を堀崩したオーガー10を引き抜く際には、オーガー10をゆっくり逆回転し、オーガー10に付着している混じりあった排水材料を掘削穴の中に残しながら行う。
【0034】
その後、オーガー10で形成した掘削穴に土砂等で掘削穴の上部まで掘削穴を埋め戻して排水路4を完成させる。
【0035】
ここまで第1の掘削穴1と第2の掘削穴2の二つの掘削穴を形成して、その後境界領域3をオーガー10で堀崩させることで排水路4を形成する内容を説明したが、掘削穴は複数個形成した上で、境界領域を堀崩させることで長い排水路を形成することも当然可能である。
【0036】
たとえば、前述の第2の掘削穴2の近傍に、さらに図示しない掘削穴を形成し、その後も目印12に沿って、排水路4を設ける予定の場所に順次、同様の方法で掘削穴を形成し、同掘削穴内に排水材料を投入する。その上で、第2の掘削穴2とその隣接する箇所に設けられた掘削穴、さらに、その隣接する箇所に設けられた掘削穴との間の境界領域を順次、オーガー10で堀崩することで、最終的に所望の長さの排水路4を形成することができる。
【0037】
また前述の例では、1本のオーガーを使用する方法を説明したが、図4に示されるように複数本のオーガーを用いて実施することもできる。たとえば、装置5を用いてオーガー10を所定の深さまで埋設し、装置5からオーガー10を取り外し、オーガー10とは別のオーガー11を装置5に接続し、オーガー11を既に埋設されたオーガー10に近接する位置で所定の深さまで埋設する。その後、オーガー11を装置5から取り外し、既に埋設されているオーガー10を装置5に再度接続し、装置5の回転駆動機構54を回転させることで、オーガー10を地上まで引き上げ、これを引き抜き、掘削穴を形成し、適量の排水材料7を掘削穴内に投入する。次いで、引き抜いたオーガー10をオーガー11に近接する位置に再度埋設する。オーガー10を再度埋設した後、オーガー11を引き抜き、掘削穴を形成し、適量の排水材料7を掘削穴内に投入する。さらに、再埋設されたオーガー10に近接する位置に所定の深さまで再埋設する。これを繰り返し複数の掘削穴を構成し、その後、掘削穴間の境界領域をオーガー10で堀崩すことで、排水路4を形成することができる。また、オーガーを3本以上使用する場合も同様に行うことができる。
【0038】
上記2本のオーガーを用いた方法において、オーガー11の埋設では、オーガー10の上端部が地上に出ているため、これを目印にオーガー10と同じ深さまで埋設することで掘削穴の深さ方向を揃えることができ、一定の深さに排水路を容易に形成することができる。また、地中に残存するオーガー10の周面が穴の表面を崩れないよう押し続け山留の状態を形成し、掘削穴の壁面が崩れにくい状態とすることができ、オーガー1本で掘削した後、すぐにオーガーを引き抜き、次の穴を掘削する方法よりも崩れも少なくなる。
【0039】
以上のとおり本発明では、オーガーを使用して、地上から地中方向に向けて複数の掘削穴を設けた上、掘削穴の間の境界領域を堀崩させるという方法を利用するため、盛土の法面方向ではなく、盛土された上面方向(道路がある場合、道路上)から排水路を容易に形成することが可能となる。その結果、本発明では、たとえば、図5に示されるように、地山61に面した盛土62上に設けられた道路63において、盛土62内に網目上の排水路4(端部には排水溝64)を容易に形成することができる。
【0040】
本発明では、図5に示されるように、地山61に面した盛土62上に設けられた道路63において、盛土62をさらに補強したり、道路63自体を補強するために、排水路4が形成される位置や排水路4上だけでなく盛土62内のいずれかの位置に鋼矢板8や山留壁9をさらに形成することができる。
【0041】
具体的には、装置5を使用して、鋼矢板8やH形鋼杭91、92を所望の位置に配置し、これを建て込んだ上、圧入又は打設等の方法で埋設する。但し、鋼矢板8やH形鋼杭の連杭からなる山留壁9を盛土62内に設ける場合には、鋼矢板8やH形鋼杭の連杭からなる山留壁9が盛土62内の排水を妨げないように工夫することが必要となる。
【0042】
盛土62内の排水を妨げないようにするには、盛土62内の排水路4上に鋼矢板8や山留壁9を可能な限り設けないことが考えられるが、図5に示されるように、排水路4上に設けることが必要な場合もあり、この場合は特に、鋼矢板8や山留壁9の構造を従来とは変更したものを用いることが好ましい。具体的には、排水路4と交わる部分に流路穴85、95を有する鋼矢板8又はH形鋼杭の連杭からなる山留壁9とすることが盛土内の排水を向上させることができる点で望ましい。なお、前記流路穴85、95を有する鋼矢板8又は山留壁9については、排水路4上だけでなく、盛土62内の排水路4がない場所に設けてもよいことは言うまでもない。
【0043】
本発明で用いられる鋼矢板8やH形鋼杭の連杭からなる山留壁9は、仮設するものではなく常設するものである。たとえば本来、鋼矢板8は、現場の水対策工事に用いられるもので、現場の水位が高い場合、鋼矢板8を打設し、水対策工事が終了すれば、仮設した鋼矢板8を抜く工事を実施する。しかしながら、本発明で埋設する鋼矢板8は、盛土62内に常設するものであり、半永久的に盛土62や道路63を守り続けるという用途であるため、鋼矢板8自体に錆止め処理を行う必要がある。そのため、現場に納入し、打設する前の鋼矢板8に錆止め処理を行い、その後、打設する。また、連杭からなる山留壁9に使用されるH形鋼杭についても同様に錆止め処理を行った上で、打設する。なお、錆止め処理の方法については、既存の錆止め技術を適宜用いればよい。
【0044】
H形鋼杭の連杭からなる山留壁9としては、たとえば、図6で示されるように、一対のフランジ部と一対のフランジ部をつなぐウェブ部を有するH形鋼杭を複数用い、一のH形鋼杭92を他のH形鋼杭91に略接する位置に交互に配置され、一のH形鋼杭92は、フランジ部の長さが他のH形鋼杭91のウェブ部よりも短く、ウェブ部の長さが他のH形鋼杭91のフランジ部より長く、一のH形鋼杭92のフランジ部を他のH形鋼杭91のフランジ部とウェブ部に囲まれた領域内に他のH形鋼杭91のウェブ部に略平行となるように配置して形成する。その際、一のH形鋼杭92のウェブ部の一部を、酸素アセチレン切断機等を使用して貫通させて、排水路4と交わる部分に流路穴95を形成したものを用いると、より排水されやすいため好ましい。H形鋼杭の流路穴95の形状、大きさ、位置は現場の状況に応じて適宜選択する。
【0045】
鋼矢板8は、市販されている既存のものを準備した上で、図7(a)で示されるように、板の一部を、酸素アセチレン切断機等を使用して貫通加工して、排水路4と交わる部分に流路穴85を形成すればよい。鋼矢板の流路穴85の形状、大きさ、位置は現場の状況に応じて適宜選択する。
【0046】
以上のとおり、本発明では、オーガーを使用して、地上から地中方向に向けて複数の掘削穴を設けた上、掘削穴の間の境界領域を堀崩させるという方法を利用するため、盛土の法面方向ではなく、盛土された上面方向(道路がある場合、道路上)から排水路を容易に形成することが可能となる。
【0047】
図8は、本発明によるオーガーによる掘削や鋼矢板やH形鋼杭の埋設等に使用する装置の一例の構成を示している。装置5は、オーガーによる掘削能力がある機械であれば、どのような機械でも使用することができ、たとえば、先端位置を三次元方向に移動可能なブーム51を有する動力装置52と、ブーム51の先端に垂下された鉛直回転軸を備えた回転駆動機構54とを有しており、回転駆動機構54の回転軸55に、オーガー、鋼矢板、杭等が接続される。
【0048】
具体的には、たとえば、四輪のタイヤ自走式のトラックであって、その荷台部分に動力装置52、回転駆動機構54が搭載されていると共に、荷台部分の四隅付近には、荷台部分を地面に対して安定的に保持するためのアウトリガーが装備されている。図8に示されるものは穴掘建柱車を使用したものであるが、ミニショベル、ショベル、その他リーダー付き打設機械、車輛系建設機械、移動式クレーン建設機械等を使用したり、これらの車両を改造して、オーガーによる掘削能力を有する機械として使用することもできる。ブームを有する建柱車を使用すれば、リーダーが設けられた固定領域でしか作業できない打設機械とは異なり、道路上に車両を設置の上、ブームを動かすことで、道路両脇の傾斜した地面においても、地上方向から地面方向に対して、排水路形成の作業をすることが可能となる。
【0049】
動力装置52は、穴掘建柱車、ミニショベル、ショベル、リーダー付き打設機械、車輛系建設機械、移動式クレーン建設機械等の動力装置部分をそのまま使用したり、これらを改造してもよい。
【0050】
回転駆動機構54は、ブーム51の先端に垂下された鉛直回転軸55を備えており、回転軸の下方に取付けるオーガーを回転させる機能を果たすものであり、既存の技術のものを利用できる。なお、ブーム51は、伸縮、揺動、旋回等により吊り上げたものを三次元に移動可能な構成とされている。ブーム51は、動力装置52を介して、オーガー、鋼矢板、杭等の位置決め機能を果たす。
【0051】
本発明において使用するオーガーの形状、直径、長さ、材質等は、現場の状況、排水路を設ける位置、排水路の大きさ、境界領域の幅、硬度等によって、当業者の通常の知識を用いて、適宜選択する。
【0052】
たとえば、オーガー10(11)は、図9に示されるとおり、鋼管等からなり、その先端側(下端側)が尖った形状のものや、鋼管の外周面に掘削時に発生する土を掻揚げるための螺旋状の羽根等がついた鉄棒からなる掻揚機構17が設けられているようなものを用い、鋼管の外径寸法なども適宜選択することができる。また、オーガーの上端部分には、係合ネジやピン18等が設けられて、回転駆動機構の回転軸55と係合される。
【0053】
オーガーの形状を選択するにあたっては、掘削しやすい形状、残土が出にくい形状であること、オーガーを引き抜いたとき、できるだけ大きな穴が保てるオーガーであることを考慮して選択する。たとえば、掘削しやすい形状としては、先端側(下端側)が尖った形状のものや外周面の掻揚機構17が設けられているほうが望ましい。また、掻揚機構17は、大きければ大きいほど、掘削は進みやすく、掻揚機構17の分だけ大きな形状の穴を形成できるが残土が多く出る。他方で、掻揚機構17を小さくすれば、残土は減るものの掘削スピードが低下し、形成される穴の大きさも小さくなる。鋼管の大きさについても、太くすれば、できる限り大きな穴を形成できるが、鋼管の大きさが太くなれば、それだけ回転して掘削させるために動力が必要となる。以上のような種々の点を考慮し、オーガーの形状は状況に応じて適宜選択する。
【実施例
【0054】
穴掘建柱車5を使用して1本のオーガーを使用し、本発明を実施した場合について説明する。なお、オーガーを2本以上使用してもよいし、穴掘建柱車以外の車両を用いてもよい。
【0055】
排水路4を形成する予定の位置の地上に、事前に位置決めをするための目印12を設け、目印12の近くに穴掘建柱車5を準備する。穴掘建柱車5は、ブーム51の先端に垂下された鉛直回転軸55を備えた回転駆動機構54が取り付けられている。
【0056】
作業開始にあたり、回転駆動機構54にオーガー10を係合接続してブーム51を操作し、オーガー10の下端を目印12にしたがって掘削する位置の直上に移動させ、回転駆動機構54を作動させ、オーガー10を回転させ、掘削を開始し、所定の深さ(たとえば3メートル)まで掘削する。所定の位置まで掘削が完了すれば、回転駆動機構54を回転させることでオーガー10を地上まで引き抜き、第1の掘削穴1を形成する。
【0057】
第1の掘削穴1を形成した後、第1の掘削穴1内の底面から半分くらいまでの位置に、排水材料として砂利7を適量投入し、砂利を敷き詰める。
【0058】
再び、穴掘建柱車5を用いて、オーガー10をさらに目印12に沿って既に形成された第1の掘削穴1に近接する位置の直上に移動させ、回転駆動機構54を作動させ、オーガー10を回転させ、掘削を開始し、所定の深さ(たとえば3メートル)まで掘削する。所定の位置まで掘削が完了すれば、回転駆動機構54を回転させることでオーガー10を地上まで引き抜き、第2の掘削穴2を形成する。
【0059】
第2の掘削穴2を形成した後、第2の掘削穴2内の底面から半分くらいまでの位置に、排水材料として砂利7を適量投入し、砂利を敷き詰める。
【0060】
さらに、穴掘建柱車5を用いて、既に形成された第2の掘削穴1に近接する位置の直上にオーガー10を移動させ、さらにオーガー10で掘削することで他の掘削穴を形成し、その後も、目印に沿って、排水路4を設ける予定の場所に順次、同様の方法で掘削穴を形成する。また、これらの掘削穴を形成した後、掘削穴内の底面から半分くらいまでの位置に、排水材料として砂利7を適量投入し、砂利を敷き詰める。
【0061】
第1の掘削穴1、第2の掘削穴2、さらには隣接する掘削穴を複数形成した後、穴掘建柱車5を用いて、オーガー10を既に形成された隣接する掘削穴の間の境界領域3の直上に順次移動させ、回転駆動機構54を作動させ、オーガー10を回転させ、掘削を開始し、地中方向に圧力を加えることで、境界領域3の壁を上面方向から堀崩させ、双方の排水材料である砂利7を混ぜ合わせ、所望の位置に排水路4を形成する。
【0062】
さらに盛土62内の排水路上に鋼矢板8を打設する場合には、道路63上に配置された穴掘建柱車5に装備されているフックを使用し、図7(b)で示される流路穴85のある鋼矢板8を吊り上げ、ブーム51を操作して、オーガーを用いて形成した排水路4の形成場所上に移動させ、地中方向へさらに圧力を加え、鋼矢板8の流路穴85が排水路上にくるように、鋼矢板8を圧入又は打設して、盛土62内の排水路4上に鋼矢板8を埋設する。また、H形鋼杭の連杭からなる山留壁9を埋設する場合も同様に、H形鋼杭を圧入又は打設して、盛土62内の排水路4上に埋設する。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々、設計変更した形態が含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1 第1の掘削穴
2 第2の掘削穴
3 境界領域
4 排水路
5 装置
7 排水材料
8 鋼矢板
9 山留壁
10 オーガー
11 オーガー
12 目印
17 掻揚機構
18 ネジ又はピン
51 ブーム
52 動力装置
54 回転駆動機構
55 回転軸
61 地山
62 盛土
63 道路
64 排水溝
85 流路穴
91 他のH形鋼杭
92 一のH形鋼杭
95 流路穴

【要約】      (修正有)
【課題】盛土の法面ではなく上面側から排水路を形成することにより、山間部にある狭い場所であっても、盛土された地盤の下に排水路を簡単かつ強固に形成する地盤の改良方法を提供する。
【解決手段】本発明による盛土された地盤の改良方法は、(1)盛土された地盤の上面から地中方向に向けて、オーガー10を回転挿入することにより第1の掘削穴1を設け、第1の掘削穴1内に排水材料7を投入し、その後、(2)第1の掘削穴1に近接する位置において地盤の上面から地中方向に向けて、オーガー10を挿入回転することにより第2の掘削穴2を設け、第2の掘削穴2内に排水材料7を投入し、さらに、(3)第1の掘削穴1と第2の掘削穴2との間の境界領域3をオーガー10で堀崩させて第1の掘削穴1と第2の掘削穴2を連通し、双方の排水材料7を混ぜ合わせて、排水路4を形成する。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9