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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
   F02D 21/08 20060101AFI20241007BHJP
   F02B 23/10 20060101ALI20241007BHJP
   F02B 31/06 20060101ALI20241007BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20241007BHJP
   F02D 41/34 20060101ALI20241007BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
F02D21/08 301A
F02B23/10 D
F02B23/10 P
F02B23/10 310E
F02B31/06 524E
F02D21/08 301C
F02D41/04
F02D41/34
F02D43/00 301J
F02D43/00 301N
F02D43/00 301U
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021053082
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022150467
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】小田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】三根 直紀
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 友巳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 厚志
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 潤三
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-122448(JP,A)
【文献】特開平08-105326(JP,A)
【文献】特開2006-057516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 1/00-23/10、31/00-31/08、
47/08-47/10
F02D 13/00-28/00、41/00-45/00
F02M 26/00-26/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンシステムであって、
燃焼室を形成する気筒と、前記気筒内において往復運動するピストンと、燃料を前記気筒内に直接噴射する燃料噴射弁と、を備えるエンジンと、
前記エンジンの前記気筒へと吸気を供給する吸気通路内に設けられ、閉弁時にスワール流を前記気筒内に生成するように構成されたスワールコントロールバルブと、
前記エンジンの排気ガスをEGRガスとして前記吸気通路に還流させるEGR通路と、
前記EGR通路上に設けられ、前記吸気通路に還流させる前記EGRガスの量を調整するEGRガス量調整機構と、
前記燃料噴射弁、前記スワールコントロールバルブ及び前記EGRガス量調整機構を制御するよう構成された制御器であって、エンジン負荷が所定の閾値以下であるときに、前記スワールコントロールバルブを閉弁するよう構成された前記制御器と、
を有し、
前記制御器は、エンジン負荷が前記閾値以下である領域内において、当該閾値を含む高負荷側の第1負荷領域では、前記第1負荷領域よりも低負荷側の第2負荷領域よりも、同一のエンジン回転数において、エンジン負荷の増加に対する前記EGRガスの量の増加率が小さくなるように、前記EGRガス量調整機構を制御するよう構成され、
前記制御器は、エンジン負荷が前記閾値を超える領域では、前記スワールコントロールバルブを全開に開弁し、且つ、エンジン負荷が当該閾値を超えると前記EGRガスの量を直ちに低下させると共に、エンジン負荷の増加に応じて前記EGRガスの量が低下するように、前記EGRガス量調整機構を制御するよう構成されている、ことを特徴とするエンジンシステム。
【請求項2】
前記制御器は、前記第2負荷領域では、エンジン負荷の増加に応じて前記EGRガスの量が増加するように、前記EGRガス量調整機構を制御する一方で、前記第1負荷領域では、エンジン負荷の増加によらずに前記EGRガスの量がほぼ一定になるように、前記EGRガス量調整機構を制御するよう構成されている、請求項1に記載のエンジンシステム。
【請求項3】
前記制御器は、エンジン負荷が前記閾値以下である領域では、前記エンジンの吸気行程中に燃料を1回のみ噴射するように前記燃料噴射弁を制御する一方で、エンジン負荷が前記閾値を超える領域では、前記エンジンの吸気行程及び圧縮行程中にわたって燃料を複数回噴射するように前記燃料噴射弁を制御するよう構成されている、請求項1又は2に記載のエンジンシステム。
【請求項4】
前記燃料噴射弁は、前記ピストンの軸線方向に対して傾いて設けられている、請求項1乃至のいずれか一項に記載のエンジンシステム。
【請求項5】
前記ピストンの冠面は、キャビティが形成されておらず、ほぼ平坦に形成されている、請求項1乃至のいずれか一項に記載のエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スワール流を気筒内に生成するスワールコントロールバルブを有するエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各気筒に吸気を供給する2つの吸気ポートの一方にスワールコントロールバルブ(以下では適宜「SCV」と表記する。)を設け、このSCVを閉側の開度(典型的には全閉)に設定することで、スワール流を気筒内に生成する技術が知られている。例えば、特許文献1には、このようなSCVの開度を、エンジンの運転状態に応じて切り替える技術が開示されている。具体的には、この技術では、エンジンの低負荷領域ではSCVを閉弁し、エンジンの高負荷領域ではSCVを開弁している。特に、低負荷領域では、スワール流が発生した状態において燃料を圧縮行程で噴射することで、エンジンの成層燃焼運転を図り、高負荷領域では、タンブル流が発生した状態において燃料を吸気行程で噴射することで、エンジンの均質燃焼運転を図っている。
【0003】
また、例えば特許文献2には、上記のようなSCVに加えて、エンジンの排気ガスをEGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスとして吸気通路に還流させるEGRシステムが設けられたエンジンにおいて、負荷が高くなるにつれて、エンジンに供給される吸気(新気+EGRガス)に含まれるEGRガスの量の割合であるEGR率を低くする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-130025号公報
【文献】特開2018-193987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1などにも記載されているように、SCVを有するエンジンシステムでは、エンジンの低負荷領域においてSCVを全閉にし、エンジンの高負荷領域においてSCVを全開にする制御が行われることが多い。他方で、エンジンの低負荷領域では、エンジンのポンピングロス低減などの観点から、吸気通路に還流させるEGRガス量を多くするようにEGRシステムを制御することが望ましい。
【0006】
ここで、エンジンの運転状態が低負荷領域から高負荷領域へと移行することで、SCVが全閉から全開へと切り替えられると、1つの吸気ポートのみが各気筒に連通した状態から、2つの吸気ポートが各気筒に連通した状態へと遷移する。そのため、SCVが全閉から全開へと切り替えられている間には、この切り替え前よりも、吸気バルブ及び排気バルブのバルブオーバーラップ期間に、排気通路から吸気通路へと排気ガスが吹き返す量(逆流する量)が多くなり、気筒内に導入される排気ガス(いわゆる内部EGRガス)の量が増加する傾向にある。その結果、上記したように低負荷領域においてEGRシステムにより比較的多量のEGRガス(いわゆる外部EGRガス)を還流させていると、SCVの全閉から全開への切り替え時に、気筒内に導入される排気ガスの総量、つまり外部EGRガスと内部EGRガスの合計量が過多となり、燃焼安定性が低下してしまう。
【0007】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、低負荷領域において全閉に設定されたスワールコントロールバルブが全開へと切り替えられるときに、EGRガスの過多による燃焼安定性の低下を改善することができるエンジンシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、エンジンシステムであって、燃焼室を形成する気筒と、気筒内において往復運動するピストンと、燃料を気筒内に直接噴射する燃料噴射弁と、を備えるエンジンと、エンジンの気筒へと吸気を供給する吸気通路内に設けられ、閉弁時にスワール流を気筒内に生成するように構成されたスワールコントロールバルブと、エンジンの排気ガスをEGRガスとして吸気通路に還流させるEGR通路と、EGR通路上に設けられ、吸気通路に還流させるEGRガスの量を調整するEGRガス量調整機構と、燃料噴射弁、スワールコントロールバルブ及びEGRガス量調整機構を制御するよう構成された制御器であって、エンジン負荷が所定の閾値以下であるときに、スワールコントロールバルブを閉弁するよう構成された制御器と、を有し、制御器は、エンジン負荷が閾値以下である領域内において、当該閾値を含む高負荷側の第1負荷領域では、第1負荷領域よりも低負荷側の第2負荷領域よりも、同一のエンジン回転数において、エンジン負荷の増加に対するEGRガスの量の増加率が小さくなるように、EGRガス量調整機構を制御するよう構成され、制御器は、エンジン負荷が閾値を超える領域では、スワールコントロールバルブを全開に開弁し、且つ、エンジン負荷が当該閾値を超えるとEGRガスの量を直ちに低下させると共に、エンジン負荷の増加に応じてEGRガスの量が低下するように、EGRガス量調整機構を制御するよう構成されている、ことを特徴とする。
【0009】
このように構成された本発明によれば、制御器は、エンジン負荷が所定の閾値未満である低負荷領域において、エンジン負荷が閾値から離れている第2負荷領域では、エンジン負荷の増加に応じてEGRガス量が増加する一方で、エンジン負荷が閾値付近である第1負荷領域では、エンジン負荷の増加に応じたEGRガス量の増加を抑える。これにより、エンジンの運転状態が低負荷領域から高負荷領域に移行することで、スワールコントロールバルブ(SCV)が全閉から全開へと切り替えられている間に、上記のように内部EGRガス量が増加したとしても、エンジン負荷の増加に応じた外部EGRガス量の増加を的確に抑制することができる。その結果、SCVの全閉から全開への切り替え時に、気筒内に導入される排気ガスの総量の増加、つまり外部EGRガスと内部EGRガスの合計量の増加を抑制でき、燃焼安定性を確保することが可能となる。また、本発明によれば、制御器は、高負荷領域では、エンジン負荷の増加に応じてEGRガス量を低下させるので、気筒内に導入される新気量を増加させてエンジン出力を向上させることができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、制御器は、第2負荷領域では、エンジン負荷の増加に応じてEGRガスの量が増加するように、EGRガス量調整機構を制御する一方で、第1負荷領域では、エンジン負荷の増加によらずにEGRガスの量がほぼ一定になるように、EGRガス量調整機構を制御するよう構成されている。
このように構成された本発明によれば、制御器は、第1負荷領域では、エンジン負荷の増加によらずにEGRガス量をほぼ一定にする。これにより、SCVの全閉から全開への切り替え時に、気筒内に導入される外部EGRガス量を効果的に抑制でき、燃焼安定性を確実に確保することが可能となる。
【0012】
本発明において、好ましくは、制御器は、エンジン負荷が閾値以下である領域では、エンジンの吸気行程中に燃料を1回のみ噴射するように燃料噴射弁を制御する一方で、エンジン負荷が閾値を超える領域では、エンジンの吸気行程及び圧縮行程中にわたって燃料を複数回噴射するように燃料噴射弁を制御するよう構成されている。
このように構成された本発明によれば、制御器は、低負荷領域において、燃料を吸気行程中に一括噴射することで、エンジンの均質燃焼を適切に実現することができ、また、高負荷領域において、燃料を吸気行程及び圧縮行程中にわたって分割噴射することで、エンジンの成層燃焼を適切に実現することができる。
【0013】
本発明において好適には、燃料噴射弁は、ピストンの軸線方向に対して傾いて設けられている。
また好適には、ピストンの冠面は、キャビティが形成されておらず、ほぼ平坦に形成されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエンジンシステムによれば、低負荷領域において全閉に設定されたスワールコントロールバルブが全開へと切り替えられるときに、EGRガスの過多による燃焼安定性の低下を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態によるエンジンシステムの概略構成図である。
図2】本発明の実施形態によるエンジンの斜視図である。
図3】本発明の実施形態によるエンジンシステムの電気的構成を示すブロック図である。
図4】本発明の実施形態によるエンジンの運転領域を示す。
図5】本発明の実施形態における、エンジン負荷とEGRバルブ開度との関係を示すマップである。
図6】本発明の実施形態に係る制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるエンジンシステムについて説明する。
【0017】
[エンジンシステムの構成]
図1は、本実施形態によるエンジンシステムの概略構成図である。図1に示すように、エンジンシステム100は、車両に搭載されるエンジン1を有する。このエンジン1は、少なくともガソリンを含有する燃料が供給されるガソリンエンジンである。具体的には、エンジン1は、気筒2が設けられたシリンダブロック4(なお、図1では、1つの気筒2のみを図示するが、例えば4つの気筒2が直列に設けられる)と、このシリンダブロック4上に配設されたシリンダヘッド6と、シリンダブロック4の下側に配設され、潤滑油が貯留されたオイルパン8とを有している。各気筒2内には、コンロッド10を介してクランクシャフト12と連結されているピストン14が往復動可能に嵌挿されている。これらのシリンダヘッド6、気筒2及びピストン14は、エンジン1の燃焼室16を画定する。
【0018】
エンジン1には、吸気通路40から吸気が供給される。この吸気通路40上には、エンジン1に供給する吸気量を調整可能なスロットルバルブ41、及び、エンジン1に供給する吸気を一時的に蓄えるサージタンク42などが設けられている。また、吸気通路40の一部分は、エンジン1に接続された吸気ポート18を構成する。
【0019】
エンジン1には、気筒2毎に、各々独立した2つの吸気ポート18及び2つの排気ポート20が接続されていると共に、これら吸気ポート18及び排気ポート20には、燃焼室16側の開口を開閉する吸気バルブ22及び排気バルブ24がそれぞれ配設されている。ここで、吸気バルブ22の開弁及びピストン14の下降に応じて、吸気ポート18から燃焼室16内に流入した吸気により、タンブル流(縦方向の渦流/縦渦)が生成される。
【0020】
また、各気筒2において、2つの吸気ポート18の一方には、当該吸気ポート18の流路を開閉するスワールコントロールバルブ(SCV)43が設けられている。なお、図1では、SCV43が設けられた一方の吸気ポート18のみを図示し、SCV43が設けられていない他方の吸気ポート18については図示していない。SCV43が閉じている場合には、2つの吸気ポート18のうちの一方のみから燃焼室16内に吸気が流入することで、スワール流(横方向の渦流/横渦)が燃焼室16内に生成される。
【0021】
エンジン1のシリンダヘッド6の下面は、燃焼室16の天井26を形成している。この天井26は、中央部からシリンダヘッド6下端まで延びる2つの対向する傾斜面を有する、いわゆるペントルーフ型となっている。また、シリンダヘッド6には、気筒2毎に、気筒2内に燃料を直接噴射する(直噴)インジェクタ(燃料噴射弁)28が取り付けられている。インジェクタ28は、ピストン14の軸線方向(つまりピストン14の移動方向)に対して傾いて設けられている。より詳しくは、インジェクタ28は、その噴口が、燃焼室16の天井26の周縁部において2つの吸気ポート18の間から斜め下方に向かってその燃焼室16内に臨むように配設されている。
【0022】
更に、エンジン1のシリンダヘッド6には、気筒2毎に、燃焼室16内の混合気に強制点火する点火プラグ32が取り付けられている。点火プラグ32は、燃焼室16の天井26の中央部から下方へ延びるように、シリンダヘッド6内を貫通して配置されている。また、シリンダヘッド6には、各気筒2の吸気バルブ22及び排気バルブ24をそれぞれ駆動するバルブ駆動機構36が設けられている。このバルブ駆動機構36は、例えば、吸気バルブ22及び排気バルブ24のリフト量を変更することが可能な可変バルブリフト機構や、クランクシャフト12に対するカムシャフトの回転位相を変更することが可能なバルブ位相可変機構である。
【0023】
上述したように、エンジン1の一側面には吸気通路40が接続されている一方で、エンジン1の他側面には、各気筒2の燃焼室16からの既燃ガス(排気ガス)を排出する排気通路44が接続されている。この排気通路44上には、排気ガスを浄化する触媒45(詳しくは触媒コンバータ)が設けられている。また、排気通路44において触媒45の下流側には、排気ガスを吸気通路40に還流させるためのEGR通路46が接続されている。このEGR通路46上には、還流させる排気ガス(EGRガス)を冷却するためのEGRクーラ47、及び、吸気通路40に還流させるEGRガスの量を調整するためのEGRバルブ48(EGRガス量調整機構)が設けられている。これらEGR通路46、EGRクーラ47及びEGRバルブ48は、EGRシステムを構成する。
【0024】
次に、図2は、本実施形態によるエンジン1のピストン14、インジェクタ28及び点火プラグ32の詳細構造を示す斜視図である。図2に示すように、インジェクタ28は、複数の噴口30を有する多噴口型のインジェクタである。インジェクタ28は、当該インジェクタ28の軸線方向が水平方向から所定角にて下方に傾斜するように設けられている。これにより、インジェクタ28の各噴口30から噴射された燃料噴霧は、燃焼室16の天井26の周縁部から斜め下方に向かって放射状に広がる。
【0025】
また、ピストン14の頂部を形成するピストン冠面14aは、その中央に向かって隆起するように凸型に形成されている。具体的には、ピストン冠面14aの中央には、ピストン14の軸線方向(換言するとピストン14の移動方向)に直交する水平面に沿った平坦面14bが、比較的広範囲にわたって形成されている。ピストン冠面14aには、所謂キャビティが形成されていない。
【0026】
また、ピストン冠面14aは、当該ピストン冠面14aのインジェクタ28側の端部から中央に向かって斜め上方に延びるインジェクタ側斜面14cと、ピストン冠面14aのインジェクタ28から離間した側(以下、必要に応じて「反インジェクタ側」)の端部から中央に向かって斜め上方に延びる反インジェクタ側斜面14dとを備えている。これらのインジェクタ側斜面14c及び反インジェクタ側斜面14dは、燃焼室16の天井26(図1参照)に沿うように形成されている。
【0027】
また、ピストン冠面14aのインジェクタ側の端部及び反インジェクタ側の端部には、水平面14eが形成されている。更に、ピストン冠面14aの反インジェクタ側斜面14dには、ピストン14と排気バルブ24との接触を回避するように窪んだ排気バルブリセス14fが形成されている。なお、ピストン14と吸気バルブ22との接触回避は、インジェクタ側斜面14cなどによって実現されるようになっている。
【0028】
次に、図3は、本実施形態によるエンジンシステム100の電気的構成を示すブロック図である。PCM(パワートレイン・コントロール・モジュール)80は、回路により構成されており、周知のマイクロコンピュータをベースとする制御器である。PCM80は、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)としての1以上のマイクロプロセッサ80aと、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリ80bと、電気信号の入出力を行う入出力バス等を備えている。
【0029】
PCM80には、各種のセンサが接続されている。具体的には、PCM80には、主に、アクセル開度センサS1及びクランク角センサS2が接続されている。アクセル開度センサS1は、アクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を検出し、クランク角センサS2は、クランクシャフト12の回転角(エンジン回転数に対応する)を検出する。これらのセンサS1、S2から出力された検出信号は、PCM80に入力される。
【0030】
PCM80は、上記のセンサS1、S2から入力された検出信号に基づいて、予め定められている制御ロジックに従って、各デバイスの制御量を演算する。制御ロジックは、メモリ80bに記憶されている。制御ロジックは、メモリ80bに記憶しているマップなどを用いて、目標量及び/又は制御量を演算することを含む。PCM80は、演算した制御量に係る制御信号を、主に、インジェクタ28、点火プラグ32、SCV43及びEGRバルブ48に出力する。
【0031】
[制御内容]
次に、本実施形態においてPCM80が行う制御内容について説明する。基本的には、PCM80は、エンジン1の運転状態の変化に応じて、SCV43の開閉を切り替える、つまりSCV43の全閉から全開への切り替え、又はSCV43の全開から全閉への切り替えを行う。こうすることで、エンジン1の運転状態に応じて、SCV43によるスワール流を燃焼室16内に導入するか否かを切り替える。
【0032】
まず、図4を参照して、SCV43を全閉又は全開に設定するエンジン1の運転領域について説明する。図4は、横軸に示されたエンジン回転数及び縦軸に示されたエンジン負荷により規定された、エンジン1の運転領域を表している。エンジン回転数が回転数閾値N1(例えば2500rpm)以下で且つエンジン負荷が負荷閾値L1以下の運転領域R1では、SCV43が全閉に設定される、つまりSCV43により生成されたスワール流を用いてエンジン1が運転される。また、この運転領域R1では、このようなスワール流が生成された状態において、エンジン1の吸気行程中に、燃料をインジェクタ28から1回のみ噴射(一括噴射)させることで、エンジン1の均質燃焼を実現するようにしている。
【0033】
他方で、エンジン回転数が回転数閾値N1を超えるか又はエンジン負荷が負荷閾値L1を超える運転領域R2では、SCV43が全開に設定される、つまりスワール流を用いずにエンジン1が運転される。また、運転領域R2においてエンジン回転数が回転数閾値N1以下である領域では、エンジン1の吸気行程中及び圧縮行程中に、燃料をインジェクタ28から複数回噴射(分割噴射)させることで、エンジン1の成層燃焼を実現するようにしている。これに対して、運転領域R2においてエンジン回転数が回転数閾値N1を超える領域では、エンジン1の吸気行程中に、燃料をインジェクタ28から1回のみ噴射(一括噴射)させることで、エンジン1の均質燃焼を実現するようにしている。
【0034】
なお、図4では、回転数閾値N1及び負荷閾値L1が一定値である例を示しているが、他の例では、エンジン負荷が高くなるほど回転数閾値N1を小さくしたり、エンジン回転数が高くなるほど負荷閾値L1を小さくしたりしてもよい。また、以下では、運転領域R1のことを適宜「低負荷領域R1」と言い換え、運転領域R2のことを適宜「高負荷領域R2」と言い換える。
【0035】
このように、PCM80は、低負荷領域R1において、スワール流を燃焼室16内に生成するようにSCV43を全閉に制御する。他方で、PCM80は、この低負荷領域R1において、基本的には、エンジン1のポンピングロス低減などの観点から、EGR通路46から吸気通路40に還流させるEGRガス量をなるべく多くするように、EGRバルブ48を制御する。
【0036】
ここで、エンジン1の運転状態が低負荷領域R1から高負荷領域R2へと移行することで、SCV43が全閉から全開へと切り替えられると、1つの吸気ポート18のみが各気筒2に連通した状態から、2つの吸気ポート18が各気筒2に連通した状態へと遷移する。そのため、SCV43が全閉から全開へと切り替えられている間には、この切り替え前(SCV43の全閉時)よりも、吸気バルブ22及び排気バルブ24のバルブオーバーラップ期間に、排気ガスが吸気通路40へと吹き返す量(逆流する量)が多くなる。これにより、エンジン1の吸気行程において、新気と一緒に燃焼室16へと導入される排気ガス(内部EGRガス)の量が増加する。その結果、上記したように低負荷領域R1においてEGR通路46から比較的多量のEGRガス(外部EGRガス)を還流させていると、SCV43の全閉から全開への切り替え時に、燃焼室16へと導入される排気ガスの総量、つまり外部EGRガスと内部EGRガスの合計量が過多となり、燃焼安定性が低下してしまう。
【0037】
本実施形態では、PCM80は、このようなSCV43の全閉から全開への切り替え時におけるEGRガス過多による燃焼安定性の低下を改善するための制御を行う。具体的には、PCM80は、エンジン負荷が負荷閾値L1以下である低負荷領域R1内において、当該負荷閾値L1を含む高負荷側の第1負荷領域では、この第1負荷領域よりも低負荷側の第2負荷領域よりも、同一のエンジン回転数において、エンジン負荷の増加に対するEGRガス量の増加率が小さくなるように、EGRバルブ48を制御する。すなわち、PCM80は、低負荷領域R1において、エンジン負荷が負荷閾値L1から離れている場合には、エンジン負荷の増加に応じてEGRガス量が増加するように、EGRバルブ48を制御する一方で、エンジン負荷が負荷閾値L1付近である場合には、エンジン負荷の増加に応じたEGRガス量の増加を抑えるように(典型的には、エンジン負荷の増加によらずにEGRガス量がほぼ一定になるように)、EGRバルブ48を制御する。
【0038】
ここで、図5を参照して、本実施形態に係る制御の基本概念について説明する。図5は、或るエンジン回転数(例えば1500rpm)において、エンジン負荷(横軸)に応じて適用されるEGRバルブ開度(縦軸)のマップを示している。図5に示すように、本実施形態では、PCM80は、低負荷領域R1において低負荷側にある領域、具体的には低負荷領域R1において所定負荷L2以下である第2負荷領域R1bでは、エンジン1のポンピングロス低減などの観点から、エンジン負荷の増加に応じて、EGRガス量を増加させるべくEGRバルブ開度を徐々に大きくしている(矢印A1)。
【0039】
特に、本実施形態では、PCM80は、低負荷領域R1において高負荷側にある領域、具体的には所定負荷L2と負荷閾値L1との間にある(つまり所定負荷L2よりも大きく且つ負荷閾値L1以下である)第1負荷領域R1aでは、上記の第2負荷領域R1bよりも、エンジン負荷の増加に対するEGRバルブ開度の増加率を小さくしている(矢印A2)。より具体的には、PCM80は、第1負荷領域R1aでは、エンジン負荷の増加によらずにEGRバルブ開度をほぼ一定にしている。こうすることで、エンジン1の運転状態が低負荷領域R1から高負荷領域R2に移行することで、SCV43が全閉から全開へと切り替えられている間に、上記のように内部EGRガス量が増加したとしても、エンジン負荷の増加に応じた外部EGRガス量の増加を的確に抑制することができる。その結果、SCV43の全閉から全開への切り替え時に、燃焼室16へと導入される排気ガスの総量の増加、つまり外部EGRガスと内部EGRガスの合計量の増加を抑制でき、燃焼安定性を確保することが可能となる。
【0040】
なお、PCM80は、第2負荷領域R1bの更に低負荷側の領域では、燃焼安定性の確保を優先するために、EGRガスを燃焼室16に導入しないように、EGRバルブ開度を0に設定している。他方で、PCM80は、高負荷領域R2では、新気量増加によるエンジン出力向上などの観点から、エンジン負荷の増加に応じて、EGRガス量を低下させるべくEGRバルブ開度を徐々に小さくしている(矢印A3)。
【0041】
次に、図6を参照して、本実施形態に係る制御の流れについて説明する。図6は、本実施形態に係る制御を示すフローチャートである。この制御は、PCM80によって所定の周期で繰り返し実行される。まず、ステップS11において、PCM80は、各種情報を取得する。具体的には、PCM80は、上記したようなアクセル開度センサS1及びクランク角センサS2の検出信号を少なくとも取得する。
【0042】
次いで、ステップS12において、PCM80は、ステップS11で取得された情報に基づき、現在のエンジン1の運転状態、具体的には現在のエンジン回転数及びエンジン負荷を特定する。この場合、PCM80は、クランク角センサS2の検出信号に対応するクランク角(クランクシャフト12の回転角)に基づき、エンジン回転数を求める。また、PCM80は、アクセル開度センサS1の検出信号に対応するアクセル開度に基づき、車両の目標トルクを求めた後、この目標トルクに対応するエンジン負荷を求める。
【0043】
次いで、ステップS13において、PCM80は、ステップS12で特定されたエンジン1の運転状態に基づき、SCV43に設定すべき弁状態を決定する、つまり全閉及び全開のいずれかを決定する。具体的には、PCM80は、エンジン回転数及びエンジン負荷が属する領域が低負荷領域R1である場合には、SCV43に設定すべき弁状態として全閉を決定し、エンジン回転数及びエンジン負荷が属する領域が高負荷領域R2である場合には、SCV43に設定すべき弁状態として全開を決定する。
【0044】
次いで、ステップS14において、PCM80は、ステップS12で特定されたエンジン1の運転状態に基づき、EGRバルブ48に設定すべきEGRバルブ開度を決定する。具体的には、PCM80は、図5に示すようなマップを参照して(なお、図5に示すようなマップは種々のエンジン回転数ごとに規定されているため、現在のエンジン回転数に対応するマップを選択するものとする)、現在のエンジン負荷において適用すべきEGRバルブ開度を決定する。そして、PCM80は、ステップS15に進む。
【0045】
次いで、ステップS15において、PCM80は、ステップS13で決定されたSCV43の弁状態、及びステップS14で決定されたEGRバルブ開度に基づき、SCV43及びEGRバルブ48を制御する。この場合、PCM80は、決定されたEGRバルブ開度に設定されるようにEGRバルブ48を制御する。また、PCM80は、ステップS13で決定されたSCV43の弁状態が現在のSCV43の弁状態と異なる場合には、SCV43の弁状態を切り替える、つまり、SCV43の全閉から全開への切り替え、又はSCV43の全開から全閉への切り替えを行う。これに対して、PCM80は、ステップS13で決定されたSCV43の弁状態が現在のSCV43の弁状態と同じ場合には、SCV43の弁状態を維持する。そして、PCM80は、図8に示すフローを抜ける。
【0046】
[作用及び効果]
次に、本実施形態によるエンジンシステム100の作用及び効果について説明する。
【0047】
本実施形態では、PCM80は、エンジン負荷がSCV43の全閉から全開への切り替えが行われる負荷閾値L1以下である低負荷領域R1内において、当該負荷閾値L1を含む高負荷側の第1負荷領域R1aでは、この第1負荷領域R1aよりも低負荷側の第2負荷領域R1bよりも、同一のエンジン回転数において、エンジン負荷の増加に対するEGRガス量の増加率が小さくなるように、EGRバルブ48を制御する。これにより、エンジン1の運転状態が低負荷領域R1から高負荷領域R2に移行することで、SCV43が全閉から全開へと切り替えられている間に、上記のように内部EGRガス量が増加したとしても、エンジン負荷の増加に応じた外部EGRガス量の増加を的確に抑制することができる。その結果、SCV43の全閉から全開への切り替え時に、燃焼室16へと導入される排気ガスの総量の増加、つまり外部EGRガスと内部EGRガスの合計量の増加を抑制でき、燃焼安定性を確保することが可能となる。
【0048】
また、本実施形態によれば、PCM80は、第1負荷領域R1aでは、エンジン負荷の増加によらずにEGRガス量がほぼ一定になるように、EGRバルブ48を制御する。これにより、SCV43の全閉から全開への切り替え時に、燃焼室16へと導入される外部EGRガス量を効果的に抑制でき、燃焼安定性を確実に確保することが可能となる。
【0049】
また、本実施形態によれば、PCM80は、高負荷領域R2では、エンジン負荷の増加に応じてEGRガス量を低下させるように、EGRバルブ48を制御するので、燃焼室16へと導入される新気量を増加させてエンジン出力を向上させることができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、PCM80は、低負荷領域R1において、燃料を吸気行程中に一括噴射することで、エンジン1の均質燃焼を適切に実現することができ、また、高負荷領域R2において、燃料を吸気行程及び圧縮行程中にわたって分割噴射することで、エンジン1の成層燃焼を適切に実現することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 エンジン
2 気筒
14 ピストン
14a ピストン冠面
16 燃焼室
18 吸気ポート
28 インジェクタ(燃料噴射弁)
32 点火プラグ
40 吸気通路
43 スワールコントロールバルブ(SCV)
44 排気通路
45 触媒
46 EGR通路
48 EGRバルブ(EGRガス量調整機構)
80 PCM(制御器)
100 エンジンシステム
図1
図2
図3
図4
図5
図6