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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】電池用タブリード
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/184 20210101AFI20241007BHJP
   H01M 50/193 20210101ALI20241007BHJP
   H01M 50/197 20210101ALI20241007BHJP
   H01M 50/198 20210101ALI20241007BHJP
   H01M 50/534 20210101ALI20241007BHJP
   H01M 50/586 20210101ALI20241007BHJP
   H01M 50/591 20210101ALI20241007BHJP
   H01M 50/178 20210101ALN20241007BHJP
【FI】
H01M50/184 C
H01M50/193
H01M50/197
H01M50/198
H01M50/534
H01M50/586
H01M50/591
H01M50/178
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021535216
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2021003376
(87)【国際公開番号】W WO2021153777
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2020014715
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】松村 友多佳
(72)【発明者】
【氏名】藤田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉羽 利紀
(72)【発明者】
【氏名】椎名 和聡
(72)【発明者】
【氏名】島田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】岡本 峻介
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-16975(JP,A)
【文献】特開2016-91939(JP,A)
【文献】特開2009-259739(JP,A)
【文献】特開2014-220176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M50/10-50/198
H01M50/50-50/598
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リード導体、及び前記リード導体の熱融着部を被覆する樹脂層を備える電池用タブリードであって、
前記樹脂層が、前記リード導体側に設けられた導体接着層、中間層、及び前記中間層の前記導体接着層側とは反対側に設けられた包材接着層を有し、
前記導体接着層は、ポリオレフィン樹脂を含み、
前記中間層は、架橋されたポリオレフィン樹脂を含み、かつ
前記包材接着層は、ポリオレフィン樹脂を含み、200℃の弾性率が0.1MPa以上15MPa以下である、電池用タブリード。
【請求項2】
前記包材接着層は、200℃の弾性率が1.0MPa以上10MPa以下である請求項1に記載の電池用タブリード。
【請求項3】
前記中間層を形成するポリオレフィン樹脂が、ポリプロピレン樹脂、又は、ポリプロピレン樹脂及び熱可塑性エラストマーを90:10から60:40の質量比で含有する樹脂組成物である請求項1又は請求項2に記載の電池用タブリード。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマーが、エチレン・ブテン共重合樹脂、エチレン・オクテン共重合樹脂、オレフィン結晶・エチレンブテン・オレフィン結晶ブロックポリマー及びPP系エラストマーから選ばれる少なくとも1種の樹脂である請求項3に記載の電池用タブリード。
【請求項5】
前記導体接着層に含まれるポリオレフィン樹脂が、無水マレイン酸変性ポリオレフィンである請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電池用タブリード。
【請求項6】
前記導体接着層の厚みが、20μm以上250μm以下である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電池用タブリード。
【請求項7】
前記包材接着層の厚みが、前記リード導体の厚みの、0.1倍以上1.0倍以下である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電池用タブリード。
【請求項8】
前記包材接着層の厚みが、10μm以上200μm以下である請求項7に記載の電池用タブリード。
【請求項9】
前記樹脂層は、3層以上の層からなる請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の電池用タブリード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池用タブリードに関する。
本出願は、2020年1月31日出願の日本出願第2020-014715号に基づく優先権を主張し、これらの日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
電池に使用されるリード線として、電池の正極や負極に接続されるリード導体と前記リード導体を被覆する絶縁性の樹脂層からなる電池用タブリードが提案されている。
特許文献1には、リード導体の熱融着部の両表面に一対の絶縁フィルムが張り付けられたリード部材(タブリード)であって、前記絶縁フィルムを架橋層と接着層との2層構造とし、リード導体の熱融着部を接着層で覆いその外側を架橋層で覆ったものが開示されている。
【0003】
特許文献2には、リード導体と、前記リード導体の少なくとも一部を直接被覆する第1の絶縁層と、前記第1の絶縁層を被覆する第2の絶縁層とを有し、前記第2の絶縁層を、オレフィン結晶・エチレンブテン・オレフィン結晶ブロックポリマーとポリプロピレンとを質量比10:90~40:60で含有する樹脂組成物の架橋体から形成した非水電解質電池用リード線(タブリード)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-103245号公報
【文献】WO2018/074090号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示は、リード導体、及び前記リード導体の熱融着部を被覆する樹脂層を備える電池用タブリードであって、
前記樹脂層が、前記リード導体側に設けられた導体接着層、中間層、及び前記中間層の前記導体接着層側とは反対側に設けられた包材接着層を有し、
前記導体接着層は、ポリオレフィン樹脂を含み、
前記中間層は、架橋されたポリオレフィン樹脂を含み、かつ
前記包材接着層は、ポリオレフィン樹脂を含み、200℃の弾性率が0.1MPa以上15MPa以下である、電池用タブリードに関する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本開示のタブリードの一例の熱融着部の近傍を表す斜視図である。
図2】本開示のタブリードの熱融着部の断面を模式的に示す模式断面図である。
図3】従来のタブリードの熱融着部の断面を模式的に示す模式断面図である。
図4】本開示のタブリードを使用する非水電解質電池の一例の断面構造を示す断面図である。
図5】本開示のタブリードを用いた熱融着部を模式的に示す断面図である。
図6】従来のタブリードを用いた熱融着部を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1、2に記載されているように、リード導体の熱融着部を接着層で覆いさらにその外側を架橋された樹脂からなる架橋層で覆ったタブリードを用いることにより、熱融着時におけるリード導体と封入容器の金属層との短絡を防ぎながらリード導体との優れた接着性を得ることができる。その結果、得られた電池は、電解液の漏出や外部からの水分の浸入等を抑制することができる。
【0008】
しかし、このようなタブリードを用い、電池の封入容器の開口部を熱融着により封止した場合、タブリードの架橋層と封入容器のラミネートフィルムとの間が密着せず空隙(架橋層とラミネートフィルムの熱可塑性樹脂層との間が充分に埋まらず空隙となる箇所)が生じる場合があることが見出された。特にリード導体が平板形状でその厚みが厚い場合、この空隙が発生しやすい。空隙が発生すれば、電解液の漏出や電池内部への水分の進入等が生じやすくなるので、電池の信頼性(電池の性能が低下しにくい性質)の点で問題となる。そこで、開口部を熱融着する工程(包材シール工程)における前記のような空隙の発生が防止されるタブリードの開発が望まれる。
【0009】
本開示は、電池、特に非水電解質電池に用いるタブリードであって、電池を製造する際の封入容器の開口部の熱融着時に、リード導体と封入容器の金属層との短絡を充分防止できかつ樹脂層とリード導体とは充分密着されるとともに、タブリードと封入容器のラミネートフィルムは充分密着し、樹脂層とラミネートフィルムの熱可塑性樹脂層との間の空隙の発生が抑制されるタブリードを提供することを課題とする。
【0010】
[課題を解決するための手段]
本発明者は検討の結果、リード導体の熱融着部を被覆する樹脂層を、リード導体と接着可能な導体接着層及び架橋された樹脂からなる中間層とともに、前記中間層の前記導体接着層とは反対側に設けられる包材接着層を含むものとし、前記包材接着層をポリオレフィン樹脂を用いて形成された特定範囲の弾性率を有するものとすれば、前記の課題を解決するタブリードが得られることを見出し、本開示の電池用タブリードを完成した。
【0011】
前記課題を解決するためになされた本開示の態様は、
リード導体、及び前記リード導体の熱融着部を被覆する樹脂層を備える電池用タブリードであって、
前記樹脂層が、前記リード導体側に設けられた導体接着層、中間層、及び前記中間層の前記導体接着層側とは反対側に設けられた包材接着層を有し、
前記導体接着層は、ポリオレフィン樹脂を含み、
前記中間層は、架橋されたポリオレフィン樹脂を含み、かつ
前記包材接着層は、ポリオレフィン樹脂を含み、200℃の弾性率が0.1MPa以上15MPa以下である、電池用タブリードである。
【0012】
本開示のより好ましい態様において、前記包材接着層は、200℃の弾性率が1.0MPa以上10MPa以下である。
【0013】
[本開示の効果]
本開示の電池用タブリードを用いて電池、例えば非水電解質電池を製造すれば、封入容器の開口部を熱融着する際に、樹脂層とリード導体は充分密着されるとともに、リード導体と封入容器の金属層との短絡の発生を充分に防止できる。さらに、樹脂層とラミネートフィルム(封入容器)の熱可塑性樹脂層との間が密着され層間の空隙の発生が抑制されるので、電解液の漏出や外部から電池内への水分の侵入等の問題を抑制することができ、信頼性に優れた電池を容易に製造することができる。
【0014】
[本開示を実施するための形態]
以下、本開示を実施するための形態について具体的に説明する。なお、本発明は、以下の内容に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0015】
本開示の態様は、
リード導体、及び前記リード導体の熱融着部を被覆する樹脂層を備える電池用タブリードであって、
前記樹脂層が、前記リード導体側に設けられた導体接着層、中間層、及び前記中間層の前記導体接着層側とは反対側に設けられた包材接着層を有し、
前記導体接着層は、ポリオレフィン樹脂を含み、
前記中間層は、架橋されたポリオレフィン樹脂を含み、かつ
前記包材接着層は、ポリオレフィン樹脂を含み、200℃の弾性率が0.1MPa以上15MPa以下である、電池用タブリードである。
【0016】
(本開示の電池用タブリードの構成)
本開示の電池用タブリード(以下、単にタブリードともいう)は、リード導体及びリード導体の熱融着部を被覆する樹脂層を備え、前記樹脂層は、導体接着層及び中間層に加えて包材接着層を有することを特徴とする。
図1は、本開示の電池用タブリードの一例の熱融着部の近傍を表す斜視図である。図1中、1はリード導体、2は樹脂層である。図1で示されるように、リード導体1の熱融着部A(封入容器の封止時に熱融着される部分)の表面は樹脂層2で被覆されている。封入容器とリード導体1とはこの樹脂層2を介して接着(熱融着)される。
【0017】
図2は、図1の電池用タブリードの熱融着部の断面を模式的に示す模式断面図である。樹脂層2は、導体接着層3、中間層4及び包材接着層5からなる。図3は、従来の電池用タブリードの熱融着部の断面を模式的に示す断面図である。図3中、11はリード導体、21は樹脂層であり、樹脂層21は、導体接着層31及び架橋層41からなる。図2で表される本開示の電池用タブリードは、導体接着層3、中間層4に加えて、包材接着層5を有する点で、図3で表される従来の電池用タブリードとは異なっている。
【0018】
樹脂層2は、導体接着層3、中間層4及び包材接着層5を必須の構成要素とするが、他の層を有していてもよい。例えば、導体接着層3と中間層4の間、及び/又は、中間層4と包材接着層5の間に、これらの層間の接着性を向上させるための層を設けてもよい。導体接着層3、中間層4及び包材接着層5にはポリオレフィン樹脂が用いられているため、前記層間の接着性を向上させるための層を設ける場合、当該層としては、ポリオレフィン樹脂が用いられた層が好ましい。
このように、樹脂層2は、3層以上の層からなるものであってもよい。
【0019】
次に、本開示の電池用タブリードの各構成要素について説明する。
【0020】
(導体接着層)
導体接着層は、前記樹脂層においてリード導体側に設けられた層であり、リード導体と接着する。
導体接着層は、リード導体に接着可能な熱可塑性のポリオレフィン樹脂を含む。前記ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン系エラストマー、スチレン系エラストマー、エチレンとメタクリル酸等の共重合体をNa、Mg、K等で架橋させたアイオノマー樹脂等を挙げることができる。導体接着層に含まれる樹脂は、リード導体に対する接着強度が大きい樹脂が好ましい。前記導体接着層に含まれる樹脂としては、上述したポリオレフィン樹脂をマレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、エポキシ基によって変性した樹脂も、変性によりリード導体との接着強度が向上するので好ましく使用される。特に無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂が好ましく使用できる。
【0021】
導体接着層は、リード導体に接着可能な熱可塑性のポリオレフィン樹脂のみで構成されていてもよいし、他の成分を含んでいてもよい。導体接着層には、難燃剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、滑剤、着色剤等の各種添加剤を混合することが可能である。リード導体に接着可能な熱可塑性のポリオレフィン樹脂と各種添加剤とを含む導体接着層は、前記のポリオレフィン樹脂及び前記の添加剤をオープンロール、加圧ニーダー、単軸混合機、2軸混合機等の既知の混合装置を用いて混合した後、Tダイ成形、インフレーション成形等の押出成形によってフィルム状の層とすることにより作製することができる。
導体接着層の最適の厚みは、リード導体の厚みにより変動するが、通常20μm以上250μm以下が好ましい。
【0022】
(中間層)
中間層は、架橋されたポリオレフィン樹脂を含む。中間層は、形成材料にポリオレフィン樹脂を用いることにより、リード導体に接着可能なポリオレフィン樹脂で形成された導体接着層との優れた接着性が得られる。特に、導体接着層を構成するポリオレフィン樹脂と同じ化学構造又は類似する化学構造のポリオレフィン樹脂を用いると導体接着層とのより優れた接着性が得られる。
前記架橋されたポリオレフィン樹脂としては、例えば、架橋されたポリプロピレン樹脂、又は、ポリプロピレン樹脂及び熱可塑性エラストマーを90:10から60:40の質量比で含有する樹脂組成物の架橋体を挙げることができる。この樹脂組成物は、架橋性に優れるので、中間層の形成にこの樹脂組成物を用いることにより、下記の架橋助剤の量を低減しても架橋可能となり、架橋助剤による成形設備や製品への悪影響を抑制することができる。
前記熱可塑性エラストマーとしては、エチレン・ブテン共重合体樹脂、エチレン・オクテン共重合体樹脂、オレフィン結晶・エチレンブテン・オレフィン結晶ブロックポリマー、三井化学社製タフマーPN2070等のポリプロピレン系エラストマー等を挙げることができる。前記熱可塑性エラストマーとしては、これらから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0023】
ポリオレフィン樹脂は、架橋させることで耐熱変形性が向上し、樹脂の融点以上に加熱されても熱変形しにくいものとなる。そこで、架橋されたポリオレフィン樹脂を含む中間層をリード導体の熱融着部の表面に設けることにより、封入容器の開口部にタブリードを熱融着させるときでも中間層の熱変形、溶融が抑制され、リード導体と封入容器の金属層との短絡を防止することができる。
【0024】
ポリオレフィン樹脂を架橋する方法としては、電子線やガンマ線等の電離放射線の照射による架橋、パーオキサイド等による化学架橋、シラン架橋等を挙げることができる。これらのなかでは、生産性や制御の容易さ等の観点から、電離放射線の照射による方法が好ましい。
電離放射線の照射により架橋する場合、前記中間層の形成材料には、架橋前のポリオレフィン樹脂とともに、必要に応じて架橋助剤が添加されてもよい。この架橋助剤としては、分子中に不飽和基を少なくとも2個以上含む化合物を挙げることができ、具体的にはトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリス(2-アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチングリコールジメタクリレート等を挙げることができる。
【0025】
中間層を構成するオレフィン樹脂が架橋していることは、例えば、サンプルをキシレンに120℃で24時間浸漬した後、不溶分が残留することで確認することができる。
架橋されたポリオレフィン樹脂における架橋の程度は、ゲル分率が20%から90%となる程度が好ましい。ここでゲル分率とは、以下に示す方法により測定した値である。
(ゲル分率の測定方法)
サンプル(架橋されたポリオレフィン樹脂(中間層))の約1.0g(この重量をW1とする)を、キシレンに120℃で24時間浸漬した後、液体部分を廃棄し、固体部分を120℃で3時間加熱して乾燥しキシレン成分を除去する。その後、固体部分の重量(W2とする)を測定し、(W2/W1)×100(%)をゲル分率とする。
【0026】
ゲル分率が20%未満では、架橋が不十分でリード導体と封入容器の金属層との短絡の防止が不十分となる傾向がある。一方、ゲル分率が90%を超えると、包材接着層との接着性が低下し電解液の漏出等が生じやすくなる傾向がある。架橋助剤の量や電離放射線の照射量は、架橋の程度が上記範囲内になるとともに樹脂の劣化等を生じない範囲より選択することが好ましい。
【0027】
中間層を構成するオレフィン樹脂が架橋していることは、上述した方法以外に、中間層の加熱変形残率によっても確認することができる。この場合、中間層の加熱変形残率を熱機械分析(TMA(Thermal Mechanical Analysis))法によって測定し、当該加熱変形残率が20%以上であると、前記オレフィン樹脂が架橋していると判断することとする。
【0028】
中間層の形成材料には、上述したポリオレフィン樹脂や架橋助剤の他に、難燃剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、滑剤、着色剤等の各種添加剤を混合することができる。前記形成材料が、ポリオレフィン樹脂と、任意成分である架橋助剤及び添加剤を含有する場合、中間層の作製は、架橋前のポリオレフィン樹脂、架橋助剤及び添加剤をオープンロール、加圧ニーダー、単軸混合機、2軸混合機等の既知の混合装置を用いて混合した後、Tダイやインフレーション押出機等により押出成形してフィルム状の層とし、その後、上述した方法によって、得られたフィルム状の層に含まれるオレフィン樹脂を架橋することにより行うことができる。前記中間層は、架橋されたポリオレフィン樹脂のみで構成されていてもよいし、架橋されたポリオレフィン樹脂と架橋助剤や酸化防止剤など、他の成分とを含んで構成されていてもよい。
中間層の最適の厚みは、リード導体の厚みにより変動するが、通常10μmから200μmが好ましい。
【0029】
(包材接着層)
包材接着層は、以下に示す方法等で測定された200℃の弾性率が0.1MPa以上15MPa以下であり、ポリオレフィン樹脂を含む層である。包材接着層は、中間層に対して導体接着層とは反対側に設けられる。前記の範囲の弾性率を有し、ポリオレフィン樹脂を含む包材接着層を設けることにより、樹脂層とラミネートフィルム(封入容器)との間での空隙(樹脂層とラミネートフィルムの熱可塑性樹脂層との間が充分に埋まらず空隙となる箇所)の発生を抑制することができる(以下、空隙の発生を抑制する性質を「埋まり性」と言うことがある)。従って、電解液の漏出や外部からの水分の浸入等の問題が抑制され、信頼性に優れた(電池の性能の低下が抑制された)非水電解質電池を製造することができる。
【0030】
(200℃の弾性率の測定方法)
前記200℃の弾性率の測定方法を以下に示す。
タブリードの絶縁フィルムについて、各層を観察できるようにミクロトームを用いて断面出しを行う。原子間顕微鏡(オックスフォード・インスツルメント社製アサイラムリサーチCypher ES)を使用し、シリコン製・先端径公称20nmの圧子を用いて、1μm間隔、1Hzの速度にて、200℃環境下で、フィルム厚みと平行方向に20点、垂直方向に20点、計400点程度のフォースカーブ測定のマッピングを行う。得られたデータを基に1MPa間隔でのヒストグラムを作成し、その最頻値を「200℃の弾性率」と定義する。
【0031】
包材接着層の200℃の弾性率が0.1MPa未満の場合は、熱融着時に、樹脂の流れ出しが大きくなりリード導体の表面やリード導体の端部に大きく濡れ広がる問題が生じやすくなる。
一方、包材接着層の200℃の弾性率が15MPaを超える場合は、リード導体の端部近傍の樹脂層とラミネートフィルムの熱可塑性樹脂層との間を充分に埋めにくくなり、空隙が発生しやすくなる。その結果、電解液漏れや外部からの水分の浸入等の問題が生じやすくなる。前記200℃の弾性率は、好ましくは、1.0MPa以上10.0MPa以下の範囲である。
包材接着層を形成するためのポリオレフィン樹脂の200℃の弾性率は、0.1MPa以上15MPa以下が好ましく、1.0MPa以上10MPa以下がより好ましい。
【0032】
包材接着層には、前記の範囲の弾性率に加えて、中間層及び封入容器のラミネートフィルムの熱可塑性樹脂層との優れた接着性が望まれる。従って、包材接着層を形成するポリオレフィン樹脂としては、中間層の形成材料である架橋前のポリオレフィン樹脂と同じ又は類似の化学構造のポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0033】
包材接着層の厚みは、通常10μm以上200μm以下が好ましいが、この好ましい範囲はリード導体の厚みにより変動し、リード導体の厚みの0.1倍以上1.0倍以下が好ましい。包材接着層の厚みが前記範囲より薄い場合は、リード導体の端部近傍の樹脂層とラミネートフィルムの熱可塑性樹脂層との間を樹脂で埋めにくくなり、空隙が発生しやすくなる(埋まり性が低下する)。一方、包材接着層を前記範囲より厚くした場合も、包材接着層を溶融させるために多量の熱が必要になるので、樹脂の溶融が不十分となりやすく埋まり性は低下する。
ただし、ラミネートフィルムの(タブリードの樹脂層と熱融着する側の)熱可塑性樹脂層(シーラント層)の厚みが薄い場合は、樹脂層とラミネートフィルムの前記熱可塑性樹脂層との間を充分に埋め、空隙の発生を抑制するためには、包材接着層を厚くすることが望まれる。ラミネートフィルムのシーラント層がポリオレフィン樹脂からなる場合は、通常、ラミネートフィルムのシーラント層(前記熱可塑性樹脂層)と包材接着層の合計の厚みを80μm以上とすることが好ましい。
【0034】
包材接着層は、ポリオレフィン樹脂のみで構成されていてもよいし、他の成分を含んでいてもよい。包材接着層には、難燃剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、滑剤、着色剤等の各種添加剤を混合することが可能である。ポリオレフィン樹脂と各種添加剤とを含む包材接着層の作製は、ポリオレフィン樹脂及び前記の添加剤をオープンロール、加圧ニーダー、単軸混合機、2軸混合機等の既知の混合装置を用いて混合した後、Tダイやインフレーション押出機等により、フィルム状に押出成形して行うことができる。
【0035】
(リード導体)
リード導体の形状は特に限定されないが、非水電解質電池であるリチウムイオン電池に使用されるリード導体としては、厚み50μmから2mm、幅1mmから200mm程度の平板形状の金属が好ましい場合が多い。リード導体として使用される金属としては、アルミニウム、チタン、ニッケル、銅、ニッケルめっき銅等を挙げることができる。前記リード導体が、リチウムイオン電池に使用される場合、正極板に接続されるリード導体としては、アルミニウムもしくはチタン又はこれらの合金が好適な場合が多く、負極板に接続されるリード導体としては、ニッケルもしくは銅又はこれらの合金が好適な場合が多い。
【0036】
(本開示のタブリードの作製)
本開示のタブリードは、例えば、平板形状のリード導体の熱融着部に該当する位置(図1のAの部分)の両表面に、導体接着層、中間層及び包材接着層をこの順序で含む樹脂層を、導体接着層がリード導体側となるように密着させた後加熱して、導体接着層(樹脂層)とリード導体とを熱融着させる方法により作製することができる。
導体接着層、中間層及び包材接着層を含む樹脂層は、上述した方法等で作製されたフィルム状の各層を重ね合わせ、熱ラミネートにより貼りあわせることにより作製することができる。
前記熱融着や熱ラミネートのときの加熱温度、圧力、加熱時間は、従来のタブリードの作製の場合と同様であり、従来知られている条件を参考にして、必要により簡易な予備実験を行って適宜調整することにより、決定することができる。
【0037】
(非水電解質電池の製造)
電池の封入容器を形成するラミネートフィルムは金属層とその両表面を絶縁被覆する熱可塑性樹脂層(シーラント層)からなる。
非水電解質電池の封入容器は、例えば、所定の大きさの矩形とした前記ラミネートフィルムを一対用意し、これらを対向するように重ねあわせ、矩形の周囲3辺を、シール機を用いて所定の加熱条件で所望のシール幅だけ熱融着して作製することができる。このようにして一辺に開口部を有する袋状の封入容器を作製することができる。
封入容器の作製方法としては、他にも、前記ラミネートフィルムの深絞り加工等を挙げることができる。封入容器の作製方法は、一辺に開口部を有する袋状の封入容器を作製でき、内部に前記電池構成部材を収めるための容積を設けることができる方法であれば特に限定されない。
【0038】
前記のようにして作製された封入容器に、前記の本開示のタブリードをその一端に接続した正極板及び負極板、及び電解液等を入れる。タブリードの熱融着部すなわちリード導体の表面を覆う樹脂層が、封入容器の開口部に位置するようにして、タブリードの他端を封入容器の外部へ延ばした後、前記開口部を加熱、加圧して熱融着(包材シール)することにより、非水電解質電池を製造することができる。
前記熱融着(包材シール)の際の加熱温度、加圧の圧力、加熱加圧の時間は、非水電解質電池の製造において従来採用されている条件を参考にし、必要により簡易な予備実験を行って適宜調整することにより、容易に選択することができる。
【0039】
図4は、前記のようにして製造された非水電解質電池の構造を示す断面図である。図4中、6は正極板、7は負極板、8は正極板6又は負極板7にその一端が接続された本開示のタブリードであり、9はリード導体の熱融着部の表面を覆う樹脂層である。図4中、52は非水電解質であり、53は封入容器51のシール部である。図4に示されるように、タブリード8の樹脂層9は、封入容器51の熱融着部10(開口部)に位置している。
【0040】
封入容器51の熱融着部10は、加熱、加圧により熱融着(包材シール)されている。図5、6は、熱融着された後の熱融着部の様子を示す図である。図5は、本開示のタブリードを用いた熱融着部の断面を模式的に示す模式断面図であり、図6は、従来のタブリードを用いた熱融着部の断面を模式的に示す模式断面図である。
【0041】
図5、6の例では、ラミネートフィルム101は、アルミニウムの箔からなる金属層102と、金属層102の第1の表面を被覆するポリアミド樹脂層103及び金属層102の第2の表面を被覆するポリプロピレン樹脂からなるシーラント層104から構成されている。また、図5の例では、樹脂層2は、導体接着層3、中間層4及び包材接着層5を含む。図6の例では、樹脂層21は、導体接着層31及び架橋層41を含む。図5の例の樹脂層2が含む中間層4、及び図6の例の樹脂層21が含む架橋層41は、いずれも架橋された樹脂を含む層であり、熱融着時の加熱によって架橋された樹脂を含む層は変形しにくい。そのため、図5、6の例では、金属層102とリード導体1又はリード導体11との短絡が防止されている。
【0042】
図6の例では、リード導体11の端部の近傍のシーラント層104と架橋層41の間に、空隙105が生じているが、図5の例では、リード導体1の端部の近傍のシーラント層104と中間層4の間((105)で示される部分)は包材接着層5により埋められている。
包材接着層5を、熱溶融時の加熱により溶融するポリオレフィン樹脂(ポリプロピレン樹脂等)を用いて形成することにより熱溶融時にポリオレフィン樹脂(ポリプロピレン樹脂等)が溶融し、リード導体1の端部の近傍のシーラント層104と中間層4の間に生じる空隙を埋めることができる。その結果、電解液の漏出や外部からの水分の浸入等の問題を抑制することができる。
【0043】
なお、本発明のタブリードが適用される電池は、上記の非水電解質電池に限定されるものではなく、封入容器が、金属箔又は金属層を含むラミネートフィルム、ラミネート材により形成されている電池であれば特に限定されない。
【実施例
【0044】
(リード導体の作製)
表1、2の「導体:材質」の欄に記載の材質からなり、同表に記載の厚みを有し、幅が50mm、長さが45mmの導体板を用意してリード導体とした。
【0045】
(樹脂層)
1)以下に示す樹脂a)、b)又はc)を使用し、単層用Tダイフィルム成形機を用いて、押出温度220℃、引取速度10m/minの条件で、表1、2に示す材質、厚みのフィルム(層)を成膜した。
a)アドマーQE060:無水マレイン酸変性ポリプロピレン、200℃での弾性率 3.2MPa、三井化学社製(表中では「金属接着性PP」と示す。)
b)ノーブレンFL6747:ポリプロピレン、200℃での弾性率 4.4MPa、住友化学社製(表中では「PP」と示す。)
c)ノーブレンS131:ポリプロピレン、200℃での弾性率 32MPa、住友化学社製(流動性が低いポリプロピレン:表中では「PP2」と示す。)
表中で「架橋PP」と示す層は、b)ノーブレンFL6747(「PP」)の層に、電子線照射装置を用いて、加速電圧120kVの電子線を線量が120kGyとなるように照射して樹脂を架橋した層である。同じ条件で架橋した樹脂の200℃での弾性率は19MPaである。
各層のフィルムを10mm幅として、表1、2に記載の順序(表中の第1の層から第5の層の順)で重ねて、ラミネーター機を用いて熱圧着し樹脂層(積層フィルム)を作製した。
【0046】
(タブリードの作製)
上述した方法で作製した樹脂層を第1の層がラミネートフィルム側(最外層:包材接着層)となるように前記リード導体の両表面に重ね、熱圧着(熱プレス)してタブリードを作製した。
【0047】
(ラミネートフィルムの作製)
表1、2に記載の材質(融点135℃のPP)からなり、同表に記載の厚みを有するシーラント(ラミネートフィルムのシーラント層)を押出ラミネート成形により、表1、2に記載の厚みを有するアルミニウム箔に貼り付ける(アルミニウム箔との界面には接着性PP樹脂を塗布)。
その後、前記アルミニウム箔側に溶剤接着剤を塗工し、その上に押出成形により作製され表1、2に記載の厚みを有するポリアミドフィルムを重ねた後、室温でロール圧着して前記ポリアミドフィルムを貼り付けた。その後、A3サイズの長方形に切断しラミネートフィルムを作製した。
【0048】
前記で得られたタブリードの両表面に、前記で得られたラミネートフィルムをシーラントがタブリード側となるように重ねた後、熱圧着(熱プレス)した。得られたサンプルについて、以下の方法にて導体の端部近傍の埋まり性を判定した。その結果を表1、2の「埋まり性」の欄に示す。
【0049】
(埋まり性の判定方法)
前記サンプルの導体端部を切り出して、エポキシ樹脂に埋め込み、研磨機にて研磨した。研磨された断面を、光学顕微鏡により10から100倍の観察を行い、1μm径以上の空隙の有無を調べた。観察の結果、空隙が見られなかった場合を良好とし、空隙が見られた場合を不良として、表1、2の「埋まり性」の欄に示した。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
表1、2に示す結果より、架橋された樹脂(PP)からなる層の外側(熱融着されるラミネートフィルム側)に、架橋されていない樹脂(PP)からなり、200℃の弾性率が0.1MPa以上15MPa以下の範囲内にある層を設けた実験2~4、6~10では、ラミネートフィルムとタブリードとを熱融着する際のラミネートフィルムとタブリードとの間の空隙の発生が抑制されており、埋まり性が向上していることが示されている。
一方、架橋されていない樹脂(PP)からなり、200℃の弾性率が0.1MPa以上15MPa以下の範囲内にある層を設けず、架橋された樹脂(PP)からなる層が最外層(熱融着されるラミネートフィルムと接する層:包材接着層)となる実験1、5、及び最外層側が架橋されていない樹脂(PP)からなるが、200℃での弾性率が15MPaを超える層である実験11では、空隙が見られ、埋まり性が劣っていた。
【0053】
すなわち、優れた埋まり性を得るためには、架橋された樹脂(PP)からなる層の外側に、200℃での弾性率が0.1MPa以上15MPa以下であり、架橋されていない樹脂(PP)からなる層を設ける必要があることが示されている。
【0054】
ただし、埋まり性が向上している実験2~4、6~10の中でも、架橋された樹脂(PP)からなる層(中間層)の外側にある架橋されていない層(包材接着層)の厚みとシーラント層の厚みの合計が80μm未満である実験8(包材接着層(最外層:PP)の厚み25μm、シーラント層の厚み50μmの計75μm)では、他の場合より埋まり性が劣り、ラミネートフィルムとタブリード間の空隙の発生は、抑制されてはいるが、充分に防止できなかった。この結果より、包材接着層とラミネートフィルムのシーラント層の厚みは合計で80μm以上が好ましいことが示されている。
【符号の説明】
【0055】
1、11 リード導体
2、21 樹脂層
3、31 導体接着層
4 中間層
41 架橋層
5 包材接着層
A 熱融着部
6 正極板
7 負極板
8 タブリード
9 樹脂層
10 熱融着部
51 封入容器
52 非水電解質
53 シール部
101 ラミネートフィルム
102 金属層(アルミニウムの箔)
103 ポリアミド樹脂層
104 シーラント層(ポリプロピレン樹脂)
105 空隙
図1
図2
図3
図4
図5
図6