(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】3価クロムめっき液及び3価クロムめっき方法
(51)【国際特許分類】
C25D 3/06 20060101AFI20241007BHJP
C25D 17/10 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
C25D3/06
C25D17/10 101B
(21)【出願番号】P 2020118275
(22)【出願日】2020-07-09
【審査請求日】2023-05-02
(31)【優先権主張番号】P 2019130342
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉兼 祐介
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 寛生
(72)【発明者】
【氏名】長尾 敏光
(72)【発明者】
【氏名】片山 順一
(72)【発明者】
【氏名】北田 敦
(72)【発明者】
【氏名】安達 謙
(72)【発明者】
【氏名】邑瀬 邦明
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/117230(WO,A1)
【文献】特開2002-285375(JP,A)
【文献】特開昭54-134038(JP,A)
【文献】特表昭63-501744(JP,A)
【文献】特表2018-528327(JP,A)
【文献】特表2010-540781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/06
C25D 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)3価クロムイオン、
(B)アルカリ金属ハロゲン化物及びアルカリ土類金属ハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属ハロゲン化物、
(C)ホウ素化合物、及び、
(D)グリコール類、水溶性高分子、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤及びフッ素系界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の分散剤
を含み、
前記金属ハロゲン化物は、塩化カルシウム及び塩化リチウムからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記金属ハロゲン化物の含有量は、2mol/L以上である、
ことを特徴とする3価クロムめっき液。
【請求項2】
前記金属ハロゲン化物の含有量は、4mol/L以上である、請求項1に記載の3価クロムめっき液。
【請求項3】
前記金属ハロゲン化物は、塩化カルシウム
を含む、請求項1又は2に記載の3価クロムめっき液。
【請求項4】
前記ホウ素化合物は、ホウ酸、ホウ酸塩及び酸化ホウ素からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれかに記載の3価クロムめっき液。
【請求項5】
前記ホウ素化合物の含有量は、5~100g/Lである、請求項1~4のいずれかに記載の3価クロムめっき液。
【請求項6】
前記分散剤は、水溶性高分子である、請求項1~5のいずれかに記載の3価クロムめっき液。
【請求項7】
前記分散剤の含有量は、0.01~100g/Lである、請求項1~6のいずれかに記載の3価クロムめっき液。
【請求項8】
(A)3価クロムイオン、
(B)アルカリ金属ハロゲン化物及びアルカリ土類金属ハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属ハロゲン化物、
(C)ホウ素化合物、及び、
(D)グリコール類、水溶性高分子、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤及びフッ素系界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の分散剤
を含む3価クロムめっき液に、カソードとして被めっき物を浸漬し、且つ、アノードを浸漬して電解めっきを行う工程を含み、
前記金属ハロゲン化物は、塩化カルシウム及び塩化リチウムからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記3価クロムめっき液中の前記金属ハロゲン化物の含有量は、2mol/L以上である、
ことを特徴とする3価クロムめっき方法。
【請求項9】
前記アノードは、金属クロムを含有する可溶性アノードである、請求項8に記載の3価クロムめっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3価クロムめっき液及び3価クロムめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高い硬度と優れた耐食性、耐摩耗性等を備えたクロムめっきは、自動車部品、成型用金型、圧延ロール、印刷ロールなどに広く利用されている。特に、成形金型やロールなどの用途では、いわゆる硬質クロムめっきと称されるクロムめっきが行われている。上述の用途に利用されるクロムめっきには、めっき皮膜の外観が優れていることが要求される。
【0003】
従来、クロムめっきを施すために用いられるクロムめっき液として、6価クロムを含む6価クロムめっき液が用いられている。
【0004】
しかしながら、近年では有害な6価クロムめっき液を使用することによる環境への負荷が懸念されており、6価クロムめっき液に替わる代替技術が検討されている。
【0005】
このため、6価クロムと比較して環境への負荷が低い3価クロムを含む3価クロムめっき浴を用いることが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1では、形成されるめっき皮膜の硬度及び耐摩耗性については十分に検討されていない。3価クロムめっき液により形成された3価クロムめっき皮膜は、6価クロムめっき液により形成された6価クロムめっき皮膜よりも耐摩耗性が劣る傾向があり、耐摩耗性の改善が要求されている。
【0007】
更に、特許文献1では、3価クロムめっき液の電流効率については検討されていない。3価クロムめっきは、用途によっては厚付けめっきが必要になる場合があり、析出速度が要求される。このため、3価クロムめっき液には、高い電流効率を示すことが望まれている。
【0008】
従って、めっき皮膜の外観が優れており、硬度及び耐摩耗性に優れた3価クロムめっき皮膜を形成することができ、且つ、電流効率に優れた3価クロムめっき液、及び、当該3価クロムめっき液を用いた3価クロムめっき方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、めっき皮膜の外観が優れており、硬度及び耐摩耗性に優れた3価クロムめっき皮膜を形成することができ、且つ、電流効率に優れた3価クロムめっき液を提供することを目的とする。本発明は、また、めっき皮膜の外観が優れており、硬度及び耐摩耗性に優れた3価クロムめっき皮膜を形成することができ、電流効率に優れた3価クロムめっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、上記(A)~(D)成分を含み、(B)成分である金属ハロゲン化物の含有量が2mol/L以上である3価クロムめっき液によれば、上記目的を達成できることを見出した。また、本発明者は、上記3価クロムめっき液を用い、当該3価クロムめっき液に、カソードとして被めっき物を浸漬し、且つ、アノードを浸漬して電解めっきを行う工程を含む3価クロムめっき方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記の3価クロムめっき液及び3価クロムめっき方法に関する。
1.(A)3価クロムイオン、
(B)アルカリ金属ハロゲン化物及びアルカリ土類金属ハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属ハロゲン化物、
(C)ホウ素化合物、及び、
(D)グリコール類、水溶性高分子、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤及びフッ素系界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の分散剤
を含み、
前記金属ハロゲン化物の含有量は、2mol/L以上である、
ことを特徴とする3価クロムめっき液。
2.前記金属ハロゲン化物の含有量は、4mol/L以上である、項1に記載の3価クロムめっき液。
3.前記金属ハロゲン化物は、塩化カルシウム及び塩化リチウムからなる群より選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の3価クロムめっき液。
4.前記ホウ素化合物は、ホウ酸、ホウ酸塩及び酸化ホウ素からなる群より選択される少なくとも1種である、項1~3のいずれかに記載の3価クロムめっき液。
5.前記ホウ素化合物の含有量は、5~100g/Lである、項1~4のいずれかに記載の3価クロムめっき液。
6.前記分散剤は、水溶性高分子である、項1~5のいずれかに記載の3価クロムめっき液。
7.前記分散剤の含有量は、0.01~100g/Lである、項1~6のいずれかに記載の3価クロムめっき液。
8.(A)3価クロムイオン、
(B)アルカリ金属ハロゲン化物及びアルカリ土類金属ハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属ハロゲン化物、
(C)ホウ素化合物、及び、
(D)グリコール類、水溶性高分子、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤及びフッ素系界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の分散剤
を含む3価クロムめっき液に、カソードとして被めっき物を浸漬し、且つ、アノードを浸漬して電解めっきを行う工程を含み、
前記3価クロムめっき液中の前記金属ハロゲン化物の含有量は、2mol/L以上である、
ことを特徴とする3価クロムめっき方法。
9.前記アノードは、金属クロムを含有する可溶性アノードである、項8に記載の3価クロムめっき方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の3価クロムめっき液は、めっき皮膜の外観が優れており、硬度及び耐摩耗性に優れた3価クロムめっき皮膜を形成することができ、且つ、優れた電流効率を示すことができる。また、本発明の3価クロムめっき方法は、上記3価クロムめっき液を用いており、めっき皮膜の外観が優れており、硬度及び耐摩耗性に優れた3価クロムめっき皮膜を形成することができ、電流効率に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1の3価クロムめっき皮膜の断面写真を示す図である。
【
図2】比較例1の6価クロムめっき皮膜の断面写真を示す図である。
【
図3】比較例2の3価クロムめっき皮膜の断面写真を示す図である。
【
図4】比較例3の3価クロムめっき皮膜の断面写真を示す図である。
【
図5】比較例4の3価クロムめっき皮膜の断面写真を示す図である。
【
図6】実施例21の3価クロムめっき液を用いた3価クロムめっき方法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.3価クロムめっき液
本発明の3価クロムめっき液は、(A)3価クロムイオン、(B)アルカリ金属ハロゲン化物及びアルカリ土類金属ハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属ハロゲン化物、(C)ホウ素化合物、及び、(D)グリコール類、水溶性高分子、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤及びフッ素系界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の分散剤を含み、前記金属ハロゲン化物の含有量は、2mol/L以上である。
【0016】
従来のめっき液では、めっき液中における金属の十分な溶解度を得るために、錯形成剤の添加が行われていた。このため、錯形成剤の添加により、窒素、炭素、硫黄等が混入して、生産性の低下、めっき物の品質の低下を生じており、且つ、めっき液の管理が困難であった。
【0017】
また、従来のめっき液を用いてめっき処理を行うと、水素生成等の副反応が生じる場合がある。その結果、主反応であるめっき物の生成に使われる電気量(電流効率)が低下するために、めっき物の生産性が低下する。特に、クロムめっきでは、吸蔵水素がクラック発生の直接原因となるために、得られためっき物のめっき皮膜の品質に影響が生じる。
【0018】
本発明の3価クロムめっき液は、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分を含むので、(B)成分であるアルカリ金属ハロゲン化物及びアルカリ土類金属ハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属ハロゲン化物を、2mol/L以上の高濃度で含有することができ、これにより、錯形成剤を用いることなく、めっき液として使用することができる。本発明の3価クロムめっき液は、錯形成剤を含む必要がないため、窒素、炭素、硫黄等の不純物の混入が抑制されており、このため、めっき皮膜の外観が優れており、硬度及び耐摩耗性に優れた3価クロムめっき皮膜を形成することができ、且つ、優れた電流効率を示すことができる。
【0019】
本発明の3価クロムめっき液は、(B)成分であるアルカリ金属ハロゲン化物及びアルカリ土類金属ハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属ハロゲン化物を、2mol/L以上の高濃度で含有することにより、溶媒分子が金属イオンに配位し、安定化するため、めっき皮膜を形成する際に、水素生成等の副反応が抑制されており、めっき皮膜の生産性が向上し、めっき皮膜の品質への影響が低減される。
【0020】
本発明の3価クロムめっき液は、また、(C)成分及び(D)成分を含むことにより、3価クロムめっき皮膜の外観を向上させることができ、硬度及び耐摩耗性に優れた3価クロムめっき皮膜を形成することができる。
【0021】
以下、本発明の3価クロムめっき液について、具体的に説明する。
【0022】
1.3価クロムめっき液
(A)成分
本発明の3価クロムめっき液は、(A)成分として、3価クロムイオンを含む。3価クロムイオンは、3価クロムめっき液中に含まれる溶媒に3価クロム化合物を溶解させることにより、3価クロムめっき液中に存在する。
【0023】
3価クロム化合物としては、溶媒に水溶性の3価クロム化合物であればよく、例えば、塩化クロム、硫酸クロム、塩基性硫酸クロム等が挙げられる。これらの中でも、不溶性の塩を生成しにくい点で、塩化クロムが好ましい。3価クロム化合物は、一種単独で、又は二種以上を混合して用いることができる。
【0024】
3価クロムイオンの濃度については、特に限定的ではないが、例えば、2~100g/Lが好ましく、5~70g/Lがより好ましい。
【0025】
(B)成分
本発明の3価クロムめっき液は、(B)成分として、アルカリ金属ハロゲン化物及びアルカリ土類金属ハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属ハロゲン化物を含む。
【0026】
アルカリ金属ハロゲン化物としては特に限定されず、アルカリ金属の塩化物、臭化物が挙げられる。アルカリ金属ハロゲン化物としては、塩化リチウム、臭化リチウムが好ましく、塩化リチウムがより好ましい。
【0027】
アルカリ土類金属ハロゲン化物としては特に限定されず、アルカリ土類金属の塩化物、臭化物が挙げられる。アルカリ土類金属ハロゲン化物としては、塩化カルシウム、臭化カルシウムが好ましく、塩化カルシウムがより好ましい。
【0028】
上記金属ハロゲン化物としては、塩化カルシウム、塩化リチウムを好適に用いることができ、塩化カルシウムをより好適に用いることができる。
【0029】
上記金属ハロゲン化物は、一種単独で、又は二種以上を混合して用いることができる。
【0030】
3価クロムめっき液中の金属ハロゲン化物の含有量は、2mol/L以上である。金属ハロゲン化物の含有量が2mol/L未満であると、めっき皮膜の外観が劣り、硬度及び耐摩耗性が低下する。金属ハロゲン化物の含有量は、4mol/L以上が好ましく、4.2mol/L以上がより好ましい。また、金属ハロゲン化物の含有量は、18mol/L以下が好ましく、15mol/L以下がより好ましく、10mol/L以下が更に好ましく、7mol/L以下が特に好ましい。金属ハロゲン化物の含有量の上限が上記範囲であることにより、3価クロムめっき皮膜を形成する際の塩素ガス等のハロゲンガスの発生をより一層抑制することができる。
【0031】
(C)成分
本発明の3価クロムめっき液は、(C)成分として、ホウ素化合物を含む。
【0032】
ホウ素化合物としては特に限定されず、ホウ酸;ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等のホウ酸塩;酸化ホウ素等が挙げられる。これらの中でも、不溶性の塩を生成しにくいの点で、ホウ酸、酸化ホウ素が好ましい。ホウ素化合物は、一種単独で、又は二種以上を混合して用いることができる。
【0033】
ホウ素化合物の濃度については、特に限定的ではないが、5~100g/Lが好ましく、10~90g/Lがより好ましく、10~80g/Lが更に好ましく、20~80g/L特に好ましい。ホウ素化合物の含有量が上記範囲であると、3価クロムめっき液を用いて形成された3価クロムめっき皮膜の外観がより一層向上し、硬度及び耐摩耗性がより一層向上する。
【0034】
(D)成分
本発明の3価クロムめっき液は、(D)成分として、グリコール類、水溶性高分子、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤及びフッ素系界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の分散剤を含む。分散剤は、一種単独で、又は二種以上を混合して用いることができる。
【0035】
グリコール類としては特に限定されず、アルキルグリコール及びその誘導体が挙げられる。アルキルグリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられる。
【0036】
本発明の3価クロムめっき液は、(D)成分として、水溶性高分子を含むことが好ましい。本発明の3価クロムめっき液が水溶性高分子を含むことにより、形成された3価クロムめっき皮膜の孔食の発生が抑制され、3価クロムめっき皮膜の外観がより一層向上し、硬度及び耐摩耗性がより一層向上する。限定的な解釈を望むものではないが、水溶性高分子が孔食抑制作用を発揮する一因としては、孔食の原因となる塩化物イオン等のハロゲン化物イオンを捕捉することが考えられる。
【0037】
水溶性高分子は、上記機能を発揮し得るものである限り、特に制限されない。水溶性高分子としては、例えば、ポリアルキレングリコール(例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール)、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリアミド、ポリイミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリコール-グリセリルエーテル、ポリオキシプロピレングリコール-グリセリルエーテル、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールブロックエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルグリコール、ポリオキシプロピレンアルキルグリコール、ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリ(2-ヒドロキシ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン)(PHP)、ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等の合成高分子;タンパク質、多糖(デキストラン、デンプン、セルロール、セルロール誘導体等)等の天然又は半合成高分子等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは合成高分子が挙げられ、より好ましくはポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリビニルアルコール等が挙げられ、さらに好ましくはポリアルキレングリコールが挙げられ、さらに好ましくはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールが挙げられる。
【0038】
水溶性高分子は、2種以上の構成単位で形成されたコポリマーとすることもできる。この場合、例えば、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー等が挙げられる。
【0039】
水溶性高分子の平均分子量としては、好ましくは200~20000、より好ましくは200~5000、さらに好ましくは200~2000である。ここでの平均分子量とは、数平均分子量又は重量平均分子量のいずれであってもよく、これらの平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等により測定できる。
【0040】
アニオン界面活性剤としては特に限定されず、アルキル硫酸エステルナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム塩、ジアルキルスルホコハク酸等が挙げられる。
【0041】
両性界面活性剤としては特に限定されず、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン等が挙げられる。
【0042】
フッ素系界面活性剤としては特に限定されず、フッ素系アニオン界面活性剤が挙げられる。フッ素系界面活性剤としては、市販品を用いることができる。フッ素系界面活性剤の市販品としては、例えば、フタージェント110(株式会社ネオス製 フッ素系アニオン界面活性剤)が挙げられる。
【0043】
分散剤としては、グリコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール-グリセリルエーテル、ポリオキシプロピレングリコール-グリセリルエーテル、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールブロックエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム塩が好ましく、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールがより好ましい。
【0044】
分散剤の濃度については、特に限定的ではないが、0.01~100g/Lが好ましく、0.1~50g/Lがより好ましく、0.1~30g/Lが更に好ましく、0.1~20g/Lが特に好ましい。分散剤の含有量が上記範囲であると、3価クロムめっき液を用いて形成された3価クロムめっき皮膜の外観がより一層向上し、硬度及び耐摩耗性がより一層向上する。
【0045】
(他の添加剤)
本発明の3価クロムめっき液は、上記(A)~(D)成分以外の他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤としては、通常の3価クロムめっき液に使用される錯化剤、フッ化物、電導塩、塩素発生抑制剤、析出促進剤、ミスト防止剤、ピット防止剤等が挙げられる。
【0046】
錯化剤としては、3価クロムに対する錯化能を有する化合物であれば特に限定されない。錯化剤としては、水溶性カルボン酸化合物等の、カルシウムとの不溶性の塩を形成しない錯化剤が好ましい。このような錯化剤としては、例えば、ギ酸、酢酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸、グリシン、及びそれらの塩等が挙げられる。
【0047】
フッ化物としては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化ホウ素、フッ化カルシウム、フッ化アルミニウム等を用いることができる。
【0048】
電導性塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、塩化バリウム等の塩化物塩を用いることができる。
【0049】
塩素発生抑制剤としては、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化アンモニウム等の臭化物を用いることができる。
【0050】
析出促進剤としては、サッカリンナトリウム、ジチオン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、チオシアンナトリウム等の硫黄化合物を用いることができる。
【0051】
3価クロムめっき液
本発明の3価クロムめっき液は、上記した(A)~(D)成分、及び、必要に応じて、他の添加剤を溶媒に溶解させたものであり、各成分を溶解させる順序は任意である。
【0052】
3価クロムめっき液に用いられる溶媒としては、上記(A)~(D)成分を溶解させることができれば特に限定されず、例えば、水を用いることができる。
【0053】
本発明の3価クロムめっき液のpHは特に限定されず、-2~4が好ましく、-1~2がより好ましい。
【0054】
2.3価クロムめっき方法
本発明の3価クロムめっき方法は、
(A)3価クロムイオン、
(B)アルカリ金属ハロゲン化物及びアルカリ土類金属ハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属ハロゲン化物、
(C)ホウ素化合物、及び、
(D)グリコール類、水溶性高分子、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤及びフッ素系界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の分散剤
を含む3価クロムめっき液に、カソードとして被めっき物を浸漬し、且つ、アノードを浸漬して電解めっきを行う工程を含み、
前記3価クロムめっき液中の前記金属ハロゲン化物の含有量は、2mol/L以上である3価クロムめっき方法である。
【0055】
本発明の3価クロムめっき方法では、上述の本発明の3価クロムめっき液を用いることにより、めっき皮膜の外観が優れており、硬度及び耐摩耗性に優れた3価クロムめっき皮膜を形成することができ、且つ、優れた電流効率を示すことができる。
【0056】
(工程)
本発明の3価クロムめっき方法は、上述の本発明の3価クロムめっき液に、カソードとして被めっき物を浸漬し、且つ、アノードを浸漬して電解めっきを行う工程を含む。
【0057】
アノードとしては特に限定されず、種々の不溶性アノード、または可溶性アノードを使用することができる。
【0058】
不溶性アノードとしては、例えば、カーボン、Ti/Pt(Tiに白金系コーティングを施したもの)、Ti/Ir酸化物(TiにIr酸化物コーティングを施したもの)、Ti/Ru酸化物(TiにRu酸化物コーティングを施したもの)、Ti/Ir酸化物-Ru酸化物(TiにIr酸化物とRu酸化物を混合させてコーティングを施したもの)、Ti/Ir酸化物-Ta酸化物(TiにIr酸化物とTa酸化物を混合させてコーティングを施したもの)、Ti/Pt/Ir酸化物-Ru酸化物(Ti/PtにIr酸化物とRu酸化物を混合させてコーティングを施したもの)、Ti/Pt/Ir酸化物-Ta酸化物(Ti/PtにIr酸化物とTa酸化物を混合させてコーティングを施したもの)、ステンレス、アルミニウム、鉛合金(Pb-Sn合金、Pb-Ag合金、Pb-Sb合金)、鉛酸化物(一酸化鉛、二酸化鉛、三酸化鉛、四酸化三鉛)、鉛、酸化スズ、カーボン、ダイヤモンド電極(窒素やホウ素を含んだダイヤモンドをシリコンやニオブなどの基体に被覆したもの)、ITO電極(インジウムスズ電極)等を挙げることができる。これらの中でも、耐久性に優れる点で、カーボン電極を用いることが好ましい。
【0059】
可溶性アノードとしては特に限定されず、金属クロムを含有する可溶性アノードを用いることが好ましい。本発明の3価クロムめっき方法では、3価クロムめっき液として、金属ハロゲン化物の含有量が2mol/L以上である3価クロムめっき液が用いられるため、アノードにおいて塩素ガス等のハロゲンガスが発生し易くなる場合がある。しかしながら、金属クロムを含有する可溶性アノードを用いると、電解めっきを行う際に可溶性アノードから溶出した金属クロム(Cr0)が3価クロムイオン(Cr3+)となる反応が起こり、これによりハロゲンガスの発生をより一層抑制することができる。
【0060】
可溶性アノードとして用いられる金属クロムは、通常金属クロム電極として用いられ、電解めっきにより金属クロム(Cr0)が溶出して3価クロムイオン(Cr3+)となる反応を生じることができれば特に限定されない。金属クロムを含有する可溶性アノード中の、金属クロムの含有量は、95質量%以上が好ましく、98質量%以上がより好ましく、99質量%以上が更に好ましい。すなわち、可溶性アノードとしては、金属クロムからなる可溶性アノードを好適に用いることができる。
【0061】
本発明の3価クロムめっき方法では、上記3価クロムめっき液に、カソードとして被めっき物が浸漬される。被めっき物は特に限定されず、例えば、金型、圧延ロール、印刷ロールなどの作製に用いられる鉄,ステンレス,黄銅,亜鉛ダイカストなどの金属素材;ニッケル、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、モリブデンなどの他の金属素材が挙げられる。このような被めっき物では、3価クロムめっき皮膜として、50μm程度以上の厚付けめっきが行われることがある。
【0062】
上記工程における3価クロムめっき液の温度は、20~70℃が好ましく30~60℃がより好ましい。3価クロムめっき液の温度の下限が上記範囲であることにより、3価クロムめっき皮膜の外観、硬度及び耐摩耗性がより一層向上する。また、3価クロムめっき液の温度の上限が上記範囲であることにより、3価クロムめっき皮膜の付き回り性がより一層向上する。
【0063】
電解めっきの際の印加電圧は、被めっき物の大きさにより適宜設定すればよく、1~50Vが好ましく、3~20Vがより好ましい。印加電圧の下限が上記範囲であることにより、3価クロムめっき皮膜の外観、硬度及び耐摩耗性がより一層向上し、電流効率がより一層向上する。また、印加電圧の上限が上記範囲であることにより、ハロゲンガスの発生がより一層抑制される。
【0064】
電解めっきの際の印加電流は、0.1~5000Aが好ましく、1~1000Aがより好ましい。印加電流値の下限が上記範囲であることにより、3価クロムめっき皮膜の外観、硬度及び耐摩耗性がより一層向上し、電流効率がより一層向上する。また、印加電流の上限が上記範囲であることにより、ハロゲンガスの発生がより一層抑制される。
【0065】
電解めっきの際の電流密度は、特に限定はなく、被めっき物の種類に応じて適宜決めればよく、例えば1~20A/dm2の電流密度範囲から適切な電流密度範囲を適宜決めればよい。
【0066】
上記工程におけるめっき時間は、目的とする3価クロムめっき皮膜の膜厚に応じて適宜決定すればよく、例えば、1~600分が好ましく、2~300分がより好ましい。印加時間の下限が上記範囲であると、被めっき物の表面に3価クロムめっき皮膜がより一層十分に形成され、3価クロムめっき皮膜と被めっき物との密着性がより一層向上する。また、印加時間の上限が上記範囲であると、めっき外観がより一層向上する。
【0067】
上記工程におけるアノード/カソード面積比は、特に限定はなく、被めっき物の種類に応じて適宜決めればよく、例えば0.5~3のアノード/カソード面積比範囲から適切なアノード/カソード面積比を適宜決めればよい。
【0068】
上記工程では、電解めっきの際、3価クロムめっき液を撹拌してもよい。撹拌の方法は特に限定的されず、例えば、空気または窒素によるバブリング撹拌、ポンプによる循環撹拌、めっき液中で被めっき物を揺動することによる攪拌等が挙げられる。
【0069】
以上に説明した工程により被めっき物に3価クロムめっきが施され、3価クロムめっき皮膜が形成された物品を得ることができる。
【0070】
本発明の3価クロムめっき方法では、更に、3価クロムめっき皮膜が形成された物品をアルカリ溶液により洗浄する洗浄工程を有していてもよい。3価クロムめっき皮膜が形成された物品では、3価クロムめっき皮膜に発生するクラックや、被めっき物と3価クロムめっき皮膜との界面に3価クロムめっき液が残存し、3価クロムめっき皮膜や被めっき物の腐食を促進する場合がある。本発明の3価クロムめっき方法では、洗浄工程を有することにより、残存する3価クロムめっき液を除去することができ、上記腐食を抑制することができる。
【0071】
洗浄工程に用いられるアルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物としては特に限定されず、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム、アンモニア等が挙げられる。
【0072】
3価クロムめっき皮膜が形成された物品の洗浄方法としては特に限定されず、上記アルカリ溶液が、3価クロムめっき皮膜が形成された物品に接触すればよい。例えば、3価クロムめっき皮膜が形成された物品をアルカリ溶液に浸漬させる洗浄方法、3価クロムめっき皮膜が形成された物品にアルカリ溶液をスプレー噴霧する方法等が挙げられる。
【0073】
アルカリ溶液中のアルカリ化合物の含有量は特に限定されず、0.01~10mol/Lが好ましく、0.1~7mol/Lがより好ましく、0.1~5mol/Lが更に好ましく、1~5mol/Lが特に好ましい。アルカリ化合物の含有量の下限が上記範囲であると、残存した3価クロムめっき液をより一層効果的に除去することができ、3価クロム皮膜が形成された物品の腐食をより一層抑制することができる。また、アルカリ化合物の含有量の上限が上記範囲であると、3価クロム皮膜が形成された物品へのアルカリ化合物の付着が抑制されて、3価クロムめっき皮膜の外観がより一層向上する。
【0074】
アルカリ溶液の温度は特に限定されず、20℃以上が好ましく40℃以上がより好ましい。アルカリ溶液の温度の下限が上記範囲であると、残存した3価クロムめっき液をより一層効果的に除去することができ、3価クロム皮膜が形成された物品の腐食をより一層抑制することができる。アルカリ溶液の温度の上限は、アルカリ溶液の蒸発を抑制することができれば特に限定されず、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、70℃以下が更に好ましい。
【0075】
洗浄工程における洗浄時間は特に限定されず、1分以上が好ましく3分以上がより好ましい。洗浄時間の下限が上記範囲であると、残存した3価クロムめっき液をより一層効果的に除去することができ、3価クロム皮膜が形成された物品の腐食をより一層抑制することができる。洗浄時間の上限は特に限定されず、30分以下が好ましく、15分以下がより好ましい。洗浄時間の上限が上記範囲であると、3価クロム皮膜が形成された物品へのアルカリ化合物の付着が抑制されて、3価クロムめっき皮膜の外観がより一層向上する。
【0076】
3.3価クロムめっき方法により、3価クロムめっき皮膜が形成された物品
以上説明した3価クロムめっき方法により、3価クロムめっき皮膜が形成された物品を得ることができる。物品としては特に限定されず、硬度、耐食性、及び耐摩耗性を要求される物品が好適である。このような物品としては、自動車部品;成型用金型;各種機械類の摩耗しやすい部品;工具類;印刷、製紙、圧延、フィルム加工、製鉄に用いられるロール等が挙げられる。
【実施例】
【0077】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0078】
1.3価クロムめっき皮膜の評価
被めっき物として、鉄板(60mm×90mm×t0.3mm)を用意し、下記表1に示す処理工程により処理を行い、クロムめっきを施した。なお、被めっき物のクロムめっきの有効面積は0.39dm2(60mm×65mm)であった。
【0079】
【0080】
各実施例及び比較例のクロムめっき工程について、以下に説明する。
【0081】
比較例1
(6価クロムめっき液の調製)
溶媒としての水に、無水クロム酸250 g/L、硫酸2.5 g/Lを添加して、6価クロムめっき液を1L調製した。
【0082】
(6価クロムめっき)
被めっき物に、上記比較例1の6価クロムめっき液を用いて、液温:40℃、印加電流値:4.68A(陰極電流密度:12A/dm2)、めっき時間:180分の条件で6価クロムめっきを施して、試験片を調製した。
【0083】
実施例1~20、比較例2~4
表2及び表3に示す原料を各表に示す配合で混合し、各実施例及び比較例のめっき液を1L調製した。
【0084】
【0085】
【0086】
次いで、電解めっきに用いる陰極(カソード)として表4の被めっき物、及び、陽極(アノード)を用いて、下記表4の条件で電解めっきを施して、試験片を調製した。
【0087】
【0088】
上記実施例及び比較例で調製された試験片を用いて、下記評価を行った。
【0089】
(めっき皮膜外観)
倒立型金属顕微鏡((株)ニコンインステック製 型番ECLIPSE MA100)を用いて、倍率1000倍の条件でクロムめっき皮膜の断面写真を撮影して観察し、下記評価基準に従って評価した。なお、
図1に実施例1、
図2に比較例1、
図3に比較例2、
図4に比較例3、
図5に比較例4のクロムめっき皮膜の断面写真を示す。
○:光沢外観が均一である
△:めっき皮膜表面に凹凸が多い
×:めっき皮膜が脆く、不均一である
【0090】
(カソード電流効率)
クロムめっき皮膜の断面観察により得られたクロムめっき皮膜の膜厚より算出した。すなわち、カソード電流効率は、下記式
(カソード電流効率)=(クロムめっき皮膜の物質量増加に使用された電気量(C))/(通電した電気量(C))×100(%)
で算出される。
【0091】
実施例及び比較例において、通電した電気量は、2.34(A)×3600(s)で示される。クロムめっき皮膜の物質量増加に使用された電気量は、クロムめっき時の反応がCr3++3e-→Crの3電子反応であり、ファラデー定数が96500C/molであることから、(クロムめっき皮膜の物質量(mol))×3×96500 (C/mol)で示される。クロムめっき皮膜の物質量は、クロムの密度が7.19 g/cm3、クロムのモル質量が52.00g/molであることから、[クロムめっきの膜厚(μm)×0.0001×39(cm2)×7.19(g/cm3)]/52.00(g/mol)で示される。従って、カソード電流効率は下記式により算出される。
【0092】
【0093】
(ビッカース硬度)
ビッカース硬度計((株)ミツトヨ製HM-200)を用いて、荷重0.05kgfの条件でクロムめっき皮膜の断面にダイヤモンド圧子を押し付け、その圧痕から算出して、クロムめっき皮膜の硬度を評価した。
【0094】
(耐摩耗性)
スガ摩耗試験機(スガ試験機社製 NUS-ISO-3)を用いて、荷重2000gf、研磨紙#240、研磨回数500回の条件により試験を行い、摩耗前後の試験片の重量を測定し、その差を摩耗量として算出することにより耐摩耗性を評価した。
【0095】
結果を表5及び表6に示す。
【0096】
【0097】
【0098】
表5及び表6の結果から、上記(A)~(D)成分を含有し、(B)成分である金属ハロゲン化物の含有量が2mol/L以上である3価クロムめっき液を用いて3価クロムめっき皮膜を形成した実施例1~20では、めっき皮膜の外観が優れており、硬度及び耐摩耗性に優れた3価クロムめっき皮膜を形成することができており、且つ、優れた電流効率を示すことが分かった。
【0099】
これに対し、(A)成分を含まず、6価クロムめっき液を用いており、且つ、(B)~(D)成分を含まない比較例1では、カソード電流効率が低くなっており、電流効率が劣ることが分かった。
【0100】
また、(C)成分及び(D)成分を含まない比較例2、並びに、(D)成分を含まない比較例3では、3価クロムめっき皮膜が脆くなったため、めっき皮膜外観が劣り、カソード電流効率、ビッカース硬度、耐摩耗性試験における摩耗量が測定できなかった。
【0101】
更に、(C)成分を含まない比較例4では、3価クロムめっき皮膜の硬度が十分でないため、めっき皮膜外観が劣っており、ビッカース硬度が低く、耐摩耗性に劣ることが分かった。
【0102】
2.3価クロムめっき方法による塩素ガス抑制の評価
表7に示す原料を表7に示す配合で混合し、実施例21の3価クロムめっき液を1L調製した。
【0103】
【0104】
次いで、
図6に示す電解めっき槽
により、下記表8の条件で電解めっきを行った。
図6は、実施例21の3価クロムめっき液を用いた3価クロムめっき方法の一例を示す模式図である。
図6では、電解めっきに用いる陰極(カソード)として表8の被めっき物1、及び、陽極(アノード)2を3価クロムめっき液3に浸漬して電解めっきを行っている。アノード2として、下記表9のNo.1~No.5に示すアノードを用いて、3価クロムめっきを施した。各アノード毎に、
図6に示すように、陽極2の近傍において、3価クロムめっき液の液界面から、高さhが1cmとなる位置に気体検知管4の検出口5を設置して、塩素ガスを検出し、塩素ガスの濃度を測定した。なお、検知管は、気体検知管(塩素パッシブドジチューブ(No.8D)、(株)ガステック製)を使用した。また、測定は3回行い、塩素ガス平均濃度を算出して測定結果とした。結果を表9に示す。
【0105】
【0106】
【0107】
表9の結果から、3価クロムめっき液中の(B)成分である金属ハロゲン化物の濃度が2mol/L以上と高い濃度であっても、金属クロムからなる可溶性アノードを用いることで、有害な塩素ガスの発生がより一層抑制されることが分かった。
【符号の説明】
【0108】
1.被めっき物(カソード)
2.陽極(アノード)
3.3価クロムめっき液
4.気体検知管
5.気体検知管の検出口
h.液界面から、気体検知管の検出口までの高さ