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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】炭素-金属複合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20241007BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20241007BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
C01B32/05
B01J20/20 A
B01J20/30
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018205263
(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公開番号】P2020070209
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-08-06
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)開催日:平成30年 2月27日 (2)集会名、開催場所:平成29年度 国立大学法人山梨大学 工学部 応用化学科 卒業論文発表会、国立大学法人山梨大学(山梨県甲府市武田四丁目4番37号)
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(73)【特許権者】
【識別番号】592037907
【氏名又は名称】株式会社デイ・シイ
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 尚哉
(72)【発明者】
【氏名】阪根 英人
(72)【発明者】
【氏名】須崎 一定
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】小野 久子
【審判官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-313021(JP,A)
【文献】奈良田卓郁ら,第40回炭素材料学会年会要旨集,2013年,p.51,PI03
【文献】井上勝利ら,分析化学,1995年,第44巻,p.283-287
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B32/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩の水溶液にキトサンを加えて撹拌することによって、前記キトサンにニッケルイオン、亜鉛イオンのうち一種類以上を吸着させ、前記水溶液の濾過による固体分離および洗浄乾燥により得られたニッケルイオン、亜鉛イオンのうち一種類以上を吸着させたキトサンをそのまま不活性ガス下で、600℃以上で加熱して炭素化させることで、金属を担持した炭素-金属複合物を製造することを特徴とする炭素-金属複合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キトサンに重金属イオンを吸着させた後、炭素化させることによって、簡便に炭素-金属複合物を得ることができる炭素-金属複合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
活性炭はその広い面積を活かして吸着・分離材として様々な応用展開が進められている。従来の活性炭は低分子量、低沸点、極めて毒性の高い毒性ガスの吸着に対して、吸着量・吸着保持力が小さい。その克服のために、活性炭中への金属粒子の担持・分散は有効な手段である。
【0003】
一般的に、金属-炭素複合体の調製方法としては活性炭前駆体(原料)から活性炭を調製し、さらに金属添加物を活性炭に含浸後、熱処理等により、金属酸化物を生成する方法が用いられる。
【0004】
また、資源豊富なバイオマス資源であり、多岐に亘る分野で応用展開や実用化が進められているキトサンは非常に有用な材料である。キトサンの炭素化物利用が加速されれば、多様なニーズに適したバイオマス資源の新たな利用形態の展開を図ることができる。
【0005】
炭素材料の高機能化に関する研究が多くなされている中で、特に炭素材料への金属元素の導入・担持は簡便かつ有効な手段である。本発明は資源豊富なバイオマス資源であるキトサンと金属種の複合化において、キトサンの金属吸着能に着目したものである。
【0006】
各金属イオンを吸着させたキトサンを炭素化することで、極めて簡便な方法で高炭素化収率の金属-炭素複合体が得られることが考えられ、導入した金属による機能性の付与が期待できる。キトサンを利用した発明として例えば特許文献1、2に記載される発明がある。
【0007】
特許文献1には、セルロース誘導体、及び/又は、架橋キトサン誘導体を含み、金属イオンを回収することができる吸着材が開示されている。
【0008】
特許文献2には、ゼオライトとキトサンとが化学的に結合された多孔性混成体とその製造方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献3には、金属の可溶性塩とキトサンを溶解させた溶液にアンモニア水等のアルカリ水溶液加えて得られるキトサン金属錯体の沈殿物を分離、乾燥させてキトサンの金属錯体を製造する工程と、その金属錯体を不活性ガス雰囲気中で500~1200℃の温度で焼成して炭化物を得る工程と、その炭化物を800~1100℃の温度で水蒸気と反応させて表面活性化させる工程とからなる金属含有多孔体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2016-040032号公報
【文献】特許第4818105号公報
【文献】特開2003-313021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明に係る炭素-金属複合物の製造方法は、金属塩の水溶液にキトサンを加えて撹拌することによって、前記キトサンにニッケルイオン、亜鉛イオンのうち一種類以上を吸着させ、前記水溶液の濾過による固体分離および洗浄乾燥により得られたニッケルイオン、亜鉛イオンのうち一種類以上を吸着させたキトサンをそのまま不活性ガス下で、600℃以上で加熱して炭素化させることで、金属を担持した炭素-金属複合物を製造することを特徴とするものである。
【0012】
本発明は、上述のような課題の解決を図ったものであり、極めて簡便な方法でキトサンから炭素-金属複合物を製造することができる炭素-金属複合物の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る炭素-金属複合物の製造方法は、キトサンに金属イオンを吸着させ、金属イオンを吸着させた前記キトサンを加熱して炭素化させることで、金属を担持した炭素-金属複合物を製造することを特徴とするものである。
【0014】
キチンは、N-アセチル-D-グルコサミンがβ-1.4-結合で直鎖状に連なった多糖であり、キトサンはキチンのアルカリ処理による誘導体である。両者ともに直鎖状の化学構造を示すバイオマス資源の1種である。キチンとキトサンはカニ、エビなど甲殻類の殻、昆虫の表皮、イカなどの軟体動物の骨格や殻、キノコなど細菌細胞壁に広く分布している。
【0015】
キトサンは分子構造中に1級アミノ基と水酸基を有する。これにより、キトサンは金属と錯体をつくる際、環状キレート構造を有し、多くの化学反応に対して好ましい触媒活性を示す。また、キトサンは重金属吸着能を有する。
【0016】
このようなキトサンの重金属イオン吸着特性に注目すると、各重金属イオン吸着後のキトサンを炭素化することで、金属微粒子を担持した新たな機能性炭素材料として捉えることができる。糖類であるキトサンの重金属イオン吸着能を利用して金属イオン吸着を行い、これを炭素化することで、金属担持炭素体ができる。
【0017】
キトサンに吸着させる金属イオンとしては、例えば銅イオン、ニッケルイオン、亜鉛イオンあるいは、これらの組み合わせを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
キトサンに金属イオンを吸着させた後に加熱して炭素化させる炭素化温度は600℃以上が望ましい。炭素化により80~100nm程度の金属微粒子が炭素体中に分散される。高温にするほど金属の担持量が多くなるたり、また金属との相互作用により炭素-金属複合体が高比表面積化するため、炭素化の温度が高い方が好ましい。
【0019】
例えば、Cu、Ni、Znのイオンをキトサン中に吸着させた後に、600℃以上、好ましくは800℃以上で加熱して炭素化するという単純なプロセスで、Cu微粒子、Ni微粒子、Zn微粒子を炭素体中に高分散させた炭素-金属複合体を製造することができる。
【0020】
金属Znの融点、沸点は420℃、907℃であることから、これらの温度域以上では溶融や蒸発などによって明確な結晶性を示さない。チャー燃焼でZnOの混在が確認されたことより、低結晶性のZnとして存在していると推察される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の炭素-金属複合物の製造方法は、各金属イオンを吸着させたキトサンを1段階焼成で炭素化することで、極めて安価・簡便なプロセスで金属微粒子を高分散させた炭素-金属複合体が作製でき、担持した金属の触媒能を付与した新規吸着材として応用展開が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明によりキトサンに金属イオンを吸着させた後、炭素化させる実験手順の概略を示すフローチャートである。
図2】各炭素化試料の炭素化収率を示すグラフである。
図3】各資料のXRDパターンを示すグラフである。
図4】1000℃で炭素化させた場合の-196℃における各試料のN2吸着等温線を示すグラフである。
図5】重金属の吸着試験におけるAs(III)の濃度経時変化を示すグラフである。
図6】重金属の吸着試験におけるCr(VI)の濃度経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施例としての実験について説明する。
【0024】
1.実験方法
(1) 金属イオン吸着CSの調製
実験手順は図1のフローチャートに従った。出発原料には、富士フイルム和光純薬株式会社製のChitosan 100(以下CSと記載する)を用いた。酢酸銅一水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)、酢酸ニッケル四水和物(関東化学株式会社製)、酢酸亜鉛二水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)をそれぞれ純水に溶解させ、濃度0.05 mol/Lの水溶液を150 mL調製し、これらにCSを3g加え、室温で3時間浸漬・撹拌した。
【0025】
反応後、吸引ろ過機により固液分離し、固体は大量の純水を用いて十分洗浄した。各固体試料は70℃の乾燥機にて24時間乾燥させ、Cuイオン吸着キトサン、Niイオン吸着キトサン、Znイオン吸着キトサンを得た(以下、CS-Cu、CS-Ni、CS-Znと記載する)。
【0026】
(2) 炭素化処理
原料CSならびに、調製したCS-Cu、CS-Ni、CS-Znの各試料をアルミナボートに秤量し、セラミックス製管状炉中にて600℃、800℃及び1000℃で炭素化した(CS-Cu-1000などと記述)。炭素化条件は、不活性ガスとしてのN2雰囲気下、昇温速度10℃/minで行い、各炭素化温度にて1時間保持とした。得られた炭素体はアルミナ乳鉢で粉砕し、各測定に供した。
【0027】
2.実験結果
(1) 炭素化前後の試料の外観と炭素化収率
各試料の炭素化前後の外観に関しては、CS-Cu、CS-Ni、CS-Znはそれぞれ濃青色、淡緑色、白色を呈した。これらを炭素化したところ、600 °C以上の炭素化はいずれも黒色粉末に変化した。キトサンはセルロース同様、固相炭素化を経る炭素前駆体であることから、炭素化過程で溶融による著しい形態変化は示さず、各イオン吸着の有無に関わらずいずれも炭素化前のフレーク状形態がそのまま熱収縮した炭素体となった。
【0028】
図2に各炭素化試料の炭素化収率を示す。原料CSは、800 °Cまでは33 wt%の炭素化収率であるが、それ以降で30 wt%に低下し、窒素成分の脱離が示唆された。これに対して、各金属イオンを吸着させた試料では、各金属と炭素の複合体(あるいは混合物)となっていると予想されるため、CS炭素体よりも炭素化収率は高い。
【0029】
一方で、炭素化温度に伴う収率の減少率はCS炭素体と比べて明らかに大きい。特にCS-Znは他の試料よりも炭素化収率の低下が著しく、炭素または金属の消耗が大きいことが示唆される。
【0030】
(2) 各炭素体のXRD測定による評価
図3に各温度で炭素化した試料のX線回折パターンを示す。全ての炭素体において、固相炭素化炭素に特有のアモルファス炭素由来のブロードな回折パターンが得られた。さらに、CS-Cu、CS-Niではそれぞれの金属に帰属される鋭い回折ピークが検出された。
【0031】
また、800 °C以上で炭素化したCS-Cu炭素体ではCuOのピークも確認された。CS-Cu、CS-Niの特徴的な回折ピークは、それぞれの金属Cu、Niの(111)、(200)、(220)の結晶面に帰属される。
【0032】
また、CS-Niでは、26 °付近に炭素の(002)に起因する回折ピークが他の試料よりも明瞭であり、Ni金属による触媒炭素化効果によって炭素の結晶性が高められていることが推測される。測定の結果、他の金属と比べNiを担持した試料のピークが明瞭であることからミラー指数の回折ピークの半値幅よりシェラーの式から求めた各金属Cu、Niの結晶子サイズは、80-100 nmであると見積もられた。
【0033】
一方, CS-Zn炭素体では金属Znに起因するピークは発現されなかった。金属Znの融点、沸点は420 °C、907 °Cであることから、これらの温度域以上では溶融や蒸発などによって明確な結晶性を示さないだけでなく、1000 °C炭素化ではその大部分が系外に消失し、炭素化収率の著しい低下を示したものと推測される。
【0034】
以上のことより、CS-Cu、CS-Niを不活性雰囲気下で炭素化することで、金属Cu、Niを担持した炭素体が得られることが確認された。
【0035】
(3) 各炭素体中の金属担持量及び化学組成
表1に灰分法によって求めた各炭素体中の各金属担持量を示す。表中には、炭素化前の金属イオン吸着量を併記した。灰分法により求めた金属担持量は、ICP発光分光分析により求めた炭素化前の金属イオン吸着量と比較すると、炭素化過程をより高温にしていくことで徐々に消失しているが金属となって担持できることが認められた。
【0036】
【表1】
【0037】
CS-Zn炭素体において、前述のようにXRD回折パターンからは金属Znは確認されなかったが、チャー燃焼でZnOの混在が確認されたことより、低結晶性のZnとして存在していると推察される。
【0038】
(4) 細孔構造の評価
各炭素体の細孔構造については、全自動ガス吸着装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、Belsorp-miniII)を用い、-196℃におけるN2吸着等温線から評価した。前処理条件は、300℃、24時間のArガス置換とした。また、得られた吸着等温線からBET法、αs法によりBET比表面積、αs比表面積を算出した。
【0039】
図4に各炭素体の-196 °CにおけるN2吸着等温線を示し、表2に各炭素体のBET比表面積を示す。
【0040】
【表2】
【0041】
金属を担持させたことでBET比表面積が増加しており、特に、CS-Ni、CS-ZnがCS原料よりBET比表面積が著しく大きい結果となった。担持させる金属種によって炭素-金属複合体の細孔特性を変化させることが可能となる。
【0042】
また、明瞭な金属担持が認められたCS-Cu、CS-Ni炭素体では吸脱着のヒステリシスが現れていることから、炭素による金属の還元によってメソ孔以上の大きな孔径の細孔が導入されたことが示唆される。
【0043】
一方、CS-Zn炭素体では、他の炭素体よりも極低相対圧での吸着量の立ち上がりが大きく、ミクロ孔がより導入されていることがうかがえる。沸点以上の炭素化処理によるZnの消失が微細孔を誘導したものと予想される。
【0044】
(5) 重金属の吸着特性
ヒ素As吸着測定及びクロムCr吸着測定は、As(III)を0.1 ppm含む溶液300 mL、Cr(VI)を0.5 ppm含む溶液300 mLに、固液比が1 : 100になるようそれぞれ各炭素体を3g加え、3時間吸着試験を行った。試料液のpHは硝酸を用いて5.0に調製した。溶液の濃度を測定することによって重金属の吸着量を評価した。
【0045】
As(III)の分析方法としてJIS K 0102 61.21に従い、水素化物発生原子吸光法を用いて分析した。試料を前処理しAsをAsH3とし、H-Arフレーム中に導入し、Asによる原子吸光を波長193.7 nmで測定することで定量した。
【0046】
図5のグラフに示されるように、CS-Cu-1000試料が最も早くかつ飽和吸着量に到達した。N2吸着測定やH2O吸着測定より、CS-Cu-1000の細孔表面積は小さいにもかかわらず吸着速度、吸着量が大きいことから、As吸着において担持した金属CuはAsとの相互作用があることが推察される。
【0047】
CS-Cu-1000、CS-Ni-1000試料の吸着量が多いことは、各試料に担持した金属Cu、Niの酸化触媒活性により吸着物質であるAs(III)がAs(V)に酸化され、高い吸着能を示したと推察できる。また吸着経時変化より、CS-Cu、CS-Ni両炭素体は吸着したAsを再放出することはなかった
【0048】
Cr(VI)の分析方法としてJIS K 0102 65.2.11に従い、ジフェニルカルバジド吸光光度法を用いて分析した。試料に1,5-ジフェニルカルボノヒドラジド(ジフェニルカルバジド)を加え、生成した赤紫色の錯体の吸光度を測定することで定量した。
【0049】
図6のグラフに示されるように、いずれも類似の経時変化であることから金属担持による効果は認められなかった。活性炭のCr(IV)吸着について、pH 4~6.5の範囲では活性炭に容易に吸着する。本吸着測定はpH 5.0で測定しているため、全試料において良好な吸着挙動を示し、金属担持の優位性を示さなかったものと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6