(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】腸内環境改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/12 20160101AFI20241007BHJP
A61K 31/19 20060101ALI20241007BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
A23L33/12
A61K31/19
A61P1/14
(21)【出願番号】P 2020016353
(22)【出願日】2020-02-03
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2019065869
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】盤若 明日香
(72)【発明者】
【氏名】坪田 潤
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 建吾
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大介
(72)【発明者】
【氏名】近藤 昭彦
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0093860(US,A1)
【文献】国際公開第2005/021013(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0290792(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-ヒドロキシ酪酸を有効成分として含有し、健常なヒトの腸内環境を改善する腸内環境改善用組成物であって、前記腸内環境改善は、腸内におけるpH値の減少、酢酸濃度の増加、酪酸濃度の増加のうち少なくとも何れか1つに加え
、腸内細菌内におけるグルタミン酸濃度の増
加である、腸内環境改善用組成物。
【請求項2】
前記腸内環境改善は、さらに腸内におけるアンモニア濃度の減少効果を有する請求項1に記載の腸内環境改善用組成物。
【請求項3】
前記3-ヒドロキシ酪酸を0.01~10重量体積%含有する請求項1
または2に記載の腸内環境改善用組成物。
【請求項4】
さらに添加剤を含有する請求項1
~3の何れか一項に記載の腸内環境改善用組成物。
【請求項5】
経口摂取される態様としてある請求項1~
4の何れか一項に記載の腸内環境改善用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内環境を改善する腸内環境改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
腸内環境を整えることは疾病予防・健康維持において重要である。特許文献1には、「腸内に生息する有用菌に選択的に働き、増殖を促進したりその活性を高めることによって宿主の健康に有利に作用する物質」であるプレバイオティクスの成分として、オリゴ糖、食物繊維、B.G.S(ビフィズス菌産生刺激物質)などの難消化性食品成分が該当することが記載してある。
【0003】
特許文献2には、プロバイオティックスとは、腸内フローラの制御を通して、宿主に有益な影響をもたらす微生物及び物質であることが記載してある。
【0004】
プレバイオティクスやプロバイオティックスの具体例として、例えば非特許文献1には、糖の発酵により産生する酢酸などの有機酸が腸内pHを低下させることにより一部の有害菌(悪玉菌)の生育を抑制することが記載してあり、非特許文献2には、腸内細菌が産生する酪酸が体内に取り込まれて炎症やアレルギー等を抑える免疫細胞を増やすことなどが記載してある。また、非特許文献3には、有害菌がアンモニアなどの有害物質をつくり、腸をアルカリ性にすることが記載してある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-29065号公報
【文献】特開2002-193817号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】「乳酸菌の生理機能とその要因」、日本調理科学会誌 Vol.46,No.2,129~133(2013)
【文献】インターネット<URL:https://www.keio.ac.jp/ja/press_release/2013/kr7a4300000cq4cd-att/131112_2.pdf>
【文献】インターネット<URL:http://city-hospital-shiogama.jp/data/eiyodayori/30-9-10-eiyodayori.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、腸内におけるpH値や種々の有機酸の濃度等、複数の因子が腸内環境に影響を与えている。そのため、このような複数の因子の値を変動させて腸内環境を改善できる簡便な組成物があれば望ましい。
【0008】
従って、本発明の目的は、腸内環境を改善する新規かつ簡便な腸内環境改善用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る腸内環境改善用組成物の特徴構成は、健常なヒトの腸内環境を改善する腸内環境改善用組成物であって、前記腸内環境改善は、腸内におけるpH値の減少、酢酸濃度の増加、酪酸濃度の増加のうち少なくとも何れか1つに加え、腸内細菌内におけるグルタミン酸濃度の増加である点にある。
【0010】
3-ヒドロキシ酪酸やその塩(以下3HBと称する、また、3HBと称する場合、特にその単量体を指すものとする)は、もともと人の体内に存在する物質であるため生体親和性が高く、例えば糖質に代わるエネルギー源や健康食品として期待されているものである。
【0011】
本発明の腸内環境改善用組成物は、所定濃度の3HBを有効成分として含有させるだけでよいため、簡便な組成物とすることができる。
【0012】
後述の実施例において、腸内環境を模した培養系に所定濃度の3HBを添加することで、アンモニア濃度の減少、pH値の減少、酢酸および酪酸濃度の増加傾向、腸内細菌内のグルタミン酸濃度の増加が認められている。
【0013】
即ち、pH値の減少および酢酸濃度が増加すれば、腸内のアルカリ性を酸性側に改善して有害菌の生育を抑制することができ、有用菌の増殖を相対的に促進させることが期待できる。また、酪酸濃度が増加すれば免疫細胞が増加することとなり、免疫機能を調整して各種疾患の抑制・予防効果が期待できる。さらに、腸内細菌内のグルタミン酸濃度が増加すれば、腸内細菌の生育を促進させることが期待できる。このように本発明の腸内環境改善用組成物を摂取することで複数の因子の値を変動させ、容易に健康状態の維持又は改善を図ることが期待される。
また、本発明に係る腸内環境改善用組成物は、腸内環境改善として、さらに腸内におけるアンモニア濃度の減少効果を有する。
腸内環境改善として、さらに腸内におけるアンモニア濃度の減少効果を有することにより、腸内細菌の生育を促進させることが期待できる。
【0014】
本発明に係る腸内環境改善用組成物の更なる特徴構成は、前記3-ヒドロキシ酪酸を0.01~10重量体積%含有した点にある。
【0015】
本構成のように3-ヒドロキシ酪酸の濃度を上記の範囲にすれば、腸内環境において、アンモニア濃度の減少、pH値の減少、酢酸および酪酸濃度の増加、腸内細菌内におけるグルタミン酸濃度の増加といった効果を、コストが嵩むことなく確実に得ることができる。
【0016】
本発明に係る腸内環境改善用組成物の更なる特徴構成は、さらに添加剤を含有した点にある。
【0017】
本構成によれば、様々な添加剤を含有することで、種々の態様で医薬品・食品・飼料等として供することができる。
【0018】
本発明に係る腸内環境改善用組成物の更なる特徴構成は、経口摂取される態様とした点にある。
【0019】
本構成によれば、例えば錠剤や液剤等に製剤して医薬組成物又は機能性食品として、手軽に摂取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】サンプル1~9(3HBNa濃度0.5重量体積%)のアンモニア濃度の増減率をそれぞれ示したグラフである。
【
図2】サンプル1~9(3HBNa濃度0.5重量体積%)のpH変動値をそれぞれ示したグラフである。
【
図3】サンプル1~9(3HBNa濃度0.5重量体積%)の酪酸濃度の増減率をそれぞれ示したグラフである。
【
図4】サンプル1~9(3HBNa濃度0.5重量体積%)の酢酸濃度の増減率をそれぞれ示したグラフである。
【
図5】サンプル1,2において3HBNa濃度を0.2,0.5,0.72重量体積%とした場合のアンモニア濃度の増減率をそれぞれ示したグラフである。
【
図6】サンプル1,2において3HBNa濃度を0.2,0.5,0.72重量体積%とした場合のpH変動値をそれぞれ示したグラフである。
【
図7】サンプル11~14の3HBの消費速度と細胞内グルタミン酸濃度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の腸内環境改善用組成物は、3-ヒドロキシ酪酸(3HB)を有効成分として含有している。
【0022】
本明細書における「腸内環境改善用組成物」とは、摂取することで腸内の環境を改善することができる組成物のことをいうものとする。本明細書における「腸内環境改善」とは、腸内における例えばpH値の減少、酢酸濃度の増加および酪酸濃度の増加のうち少なくとも何れか1つに加え、腸内細菌内におけるグルタミン酸濃度の増加に起因して、腸内環境が改善されることをいうものとする。
「腸内環境改善」とは、さらに腸内におけるアンモニア濃度が減少することに起因して腸内環境が改善されることもいうものとする。
【0023】
3HBは、例えば3HB生産性のハロモナス菌を添加した発酵プロセスを行い、得られた発酵液からハロモナス菌を分離除去し、精製することにより得られる。発酵プロセスは、果汁等の糖質栄養源を含有する原料液に、3HB生産性のハロモナス菌をそのまま添加し、好気発酵、微好気発酵を順に行うプロセスとして実施することができる(特開2013-081403号公報)。これにより、糖質が3HBに変換され、発酵液中に生産されることになる。生産された3HBは、常法にて、膜分離等による分離精製を経たのち、純粋な3HBとして用いられる。
【0024】
本発明の腸内環境改善用組成物において、3-ヒドロキシ酪酸(3HB)の含有濃度は0.01~10重量体積%とするのがよく、好ましくは0.17~0.59重量体積%(3HBNa濃度換算:0.2~0.72重量体積%)とするのがよい。
【0025】
3HBの含有濃度を上記の範囲とすれば、腸内環境において、アンモニア濃度の減少、pH値の減少、酢酸および酪酸濃度の増加、腸内細菌内におけるグルタミン酸濃度の増加といった効果を、コストが嵩むことなく確実に得ることができる。3HBの含有濃度を0.01重量体積%未満とすれば、当該効果は期待でき難くなる。また、3HBの含有濃度を10重量体積%を超える濃度とすれば、腸内環境改善用組成物のコストが嵩むため、好ましくない。
【0026】
本発明の腸内環境改善用組成物は、そのまま経口摂取してもよいし、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤(粉剤)、コーティング剤、糖衣剤、乳剤、液剤、シロップ剤などに製剤して経口摂取してもよい。
【0027】
本発明の腸内環境改善用組成物は、3HBを有効成分として含有する医薬組成物又は機能性食品として供するのが好ましい。特に機能性食品の態様であれば、日常的に経口摂取できるため、手軽に腸内環境を改善することができると考えられる。
【0028】
当該機能性食品とは、例えば特定保健用食品(体の生理学的機能などに影響を与える保健機能成分を含み、特定の効能が認められる食品)、栄養機能食品(栄養成分の補給・補完のために利用する食品)、健康補助食品、栄養補助食品などの態様で供されるものを指す。当該機能性食品に含まれる本発明の腸内環境改善用組成物の割合は、当業者が適宜設定すればよい。
【0029】
本発明の腸内環境改善用組成物は、製剤の際には、医薬上、薬理的に許容される添加剤と混合してもよい。医薬上許容される様々な添加剤を含有することで、種々の態様で医薬品・食品・飼料等として供することができる。
【0030】
当該添加剤としては、例えば、乳糖・白糖・ブドウ糖・ソルビトール等の賦形剤、デンプン・ゼラチン・等の結合剤、ステアリン酸・硬化油・ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、バレイショデンプン等の崩壊剤、ラウリル硫酸ナトリウム等の湿潤剤、ポリエチレングリコール等の安定剤、ラウリル硫酸ナトリウム・ソルビタンモノ脂肪酸エステル等の界面活性剤、ベンジルアルコール・パラオキシ安息香酸エチル・安息香酸等の保存剤、ステビア・アスパルテーム等の甘味料、コハク酸、リンゴ酸等の酸味剤、植物油・動物油脂等の各種油脂、ロイヤルゼリー・人参等の生薬、グルタミン・システイン・ロイシン・アルギニン等のアミノ酸、エチレングリコール・ポリエチレングリコール等の多価アルコール、寒天・ゼラチン・キサンタンガム・澱粉・デキストリン等の天然高分子、ビタミンC・ビタミンB群等のビタミン、カルシウム・マグネシウム・亜鉛・鉄等のミネラル、マンナン・ペクチン・ヘミセルロース等の食物繊維、pH調製剤、酸化防止剤、呈味成分、芳香剤、着色料、等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
ヒトの腸内には細菌が常在し、腸内細菌叢を構成している。腸内細菌叢の状態は、宿主の年齢、疾病、微生物感染、ストレス、栄養成分、薬物投与等種々の要因により変動し、腸内細菌叢が悪化して、有害菌(悪玉菌)が有用菌(善玉菌)よりも優勢となると、宿主の健康に悪い影響を及ぼす原因となる。
【0032】
本発明の腸内環境改善用組成物は、腸内環境において、アンモニア濃度の減少、pH値の減少、酢酸および酪酸濃度の増加、腸内細菌内におけるグルタミン酸濃度の増加等が期待できる。
【0033】
即ち、アンモニア濃度の減少、pH値の減少および酢酸濃度が増加すれば、腸内のアルカリ性を酸性側に改善して有害菌(クロストリジウム属細菌や大腸菌など)の生育を抑制することができ、有用菌(ビフィズス菌などのビフィドバクテリウム属細菌、ラクトバチルス属細菌など)の増殖を相対的に促進させることが期待できる。また、酪酸濃度が増加すれば免疫細胞(制御性T細胞など)が増加することとなり、免疫機能を調整して各種疾患の抑制・予防効果が期待できる。
腸内においては、酢酸などの有機酸の増加によりpHが減少し、その結果有害菌の生育が抑制され、アンモニア濃度が減少すると考えられる。
【0034】
このように本発明の腸内環境改善用組成物を摂取することで、容易に健康状態の維持又は改善を図ることが期待される。
【0035】
即ち、本発明の腸内環境改善用組成物を、投与対象であるヒトや動物に摂取させることで、腸内環境を改善することができる。
【0036】
本発明の腸内環境改善用組成物の摂取量は、投与対象であるヒトや動物の年齢、体重、摂取経路、摂取回数等により異なり、上記の濃度範囲内で種々の量を設定することができる。また、本発明の腸内環境改善用組成物は、他の医薬、治療又は予防法等と併用してもよい。
【0037】
本発明の腸内環境改善用組成物は、もともと人の体内に存在する物質である3HBを有効成分として含有するため、安全性が高く、かつ抵抗感なく経口摂取することができる。
【0038】
また、有効成分として含まれる3HBは安定した化合物であり、食品などの加工処理に適しているため、種々の食品に添加して継続的に摂取することができる。
【実施例】
【0039】
〔実施例1〕
腸内環境を模した培養方法(特開2018-198560号公報)を利用し、所定濃度の3HBを培養系に添加することで、3HBが腸内環境にどのような影響を与えるかを調べる実験を行った。尚、3HBは、pH調整にNaOHを用いて3HBNa(3-ヒドロキシ酪酸ナトリウム)塩として回収したものを使用した。
【0040】
10人の健常者(成人男性6名、成人女性4名)の糞便試料を用いて、(a)蒸留水を添加(コントロール)或いは(b)0.5重量体積%3HBNa(3HB濃度換算:0.41重量体積%)を添加、の2条件において、上記の培養方法を用いて30時間の嫌気条件で培養を実施した。培養の詳細は以下の通りとした。
【0041】
マルチチャンネル培養器(Bio Jr.8;エイブル株式会社製)を用いるヒト大腸を模した1回バッチ式培養装置を作製した。当該装置は、複数の並列した独立の容器を備え、各容器に、100mLのオートクレーブ(115℃にて15分間)した岐阜大学処方嫌気性培地(GAM培地[Code 05422];日水製薬株式会社製)を収容した。
当該培地の培養開始時のpHは6.5に調整した。
【0042】
前記培地に0.5重量体積% 3HBNaを添加した培地を作製して、上記と同様に培養開始時にpHを6.5に調整した。37℃にて1時間、0.2μm PTFE膜(ポール・コーポレーション製)を通して濾過滅菌した窒素および二酸化炭素混合ガス(N2:CO2=80:20)を曝気(15mL/分)することにより、培養容器の嫌気性条件を構築した。
【0043】
接種物の調製のため、各糞便試料(サンプル1~10)を、1%のL-アスコルビン酸(和光純薬工業株式会社製)を添加した0.1Mリン酸緩衝液(pH6.5,NaH2PO4および0.1M Na2HPO4の2:1混合物からなる)2mL中に懸濁した。100μLの上記糞便懸濁液を各培地含有容器内に接種して、嫌気培養を開始した。培養の間、培地に濾過滅菌した混合ガスを曝気することにより、嫌気性条件を維持した。
【0044】
培養開始時および30時間後に培養液の一部を回収した。また、培養開始時および30時間後のpHデータを採取した。培養30時間後に回収した試料(培養液)については3HBNaの定量に使用した。尚、糞便試料および培養液は、測定に供するまで-20℃下に保管した。
【0045】
3HBNa量は、回収した培養液を使用して高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により常法に従って測定した。
【0046】
表1に、各サンプルにおける培養30時間後の3HBNaを定量し、その消費率を算出した結果を示した。
【0047】
【0048】
この結果、サンプル1~9について、1.8~100%の消費率であった。サンプル10は消費率0%であり3HBNaを全く消費しないと認められた。そのため、サンプル10を除外したサンプル1~9について、以下の実験に供した。
【0049】
〔実施例2〕
サンプル1~9における培養30時間後のそれぞれのアンモニア濃度を測定した。アンモニア濃度は、培養30時間後に回収した培養液を使用し、アンモニア試薬AmVer HR TNT(東亜ディーケーケー株式会社)およびDRB200リアクター(HACH製)により常法に従って測定した。3HBNaを添加しないコントロールのサンプルについても同様にアンモニア濃度を測定した。
【0050】
結果を
図1に示した。
図1には、3HBNaを添加しないコントロールのアンモニア濃度を基準とした場合のサンプル1~9のアンモニア濃度の増減率をそれぞれ示した。この結果、サンプル1~9のアンモニア濃度の増減率は、コントロールのアンモニア濃度に比べて同等(サンプル1:-0.2%)かそれ以下であり、最も少ないアンモニア濃度の増減率を示したのはサンプル2(約-30%)であった。アンモニア濃度の増減率の全サンプルの平均は約-17%であった。
【0051】
これより、腸内環境を模した実施例1の培養方法によって、3HBNaを添加することによってアンモニア濃度を減少させることができると判明した。従って、本発明の腸内環境改善用組成物(3HBNa濃度0.5重量体積%)を摂取した場合に、腸内で発生するアンモニア濃度を減少させることができ、これにより、腸内のアルカリ性を酸性側に改善できることが期待できると認められた。
【0052】
〔実施例3〕
サンプル1~9において、培養30時間後に回収した培養液を使用してそれぞれのpH値を測定した。結果を
図2に示した。
図2には、3HBNaを添加しないコントロールのpH値(6.5)を基準とし、各サンプル1~9のpH値が変動した値をそれぞれ示した。
【0053】
この結果、サンプル1~9のpH変動値は-0.03~-0.68であった。最も大きく変動したのはサンプル8(-0.68)であった。pH変動値の全サンプルの平均は約-0.28であった。
【0054】
これより、腸内環境を模した実施例1の培養方法によって、3HBNaを添加することによってpH値を減少させることができると判明した。従って、本発明の腸内環境改善用組成物(3HBNa濃度0.5重量体積%)を摂取した場合に、腸内のpH値を減少させることができ、これにより、腸内のアルカリ性を酸性側に改善できることが期待できると認められた。
【0055】
〔実施例4〕
サンプル1~9において、培養30時間後に回収した培養液を使用してそれぞれの有機酸(短鎖脂肪酸:酪酸、酢酸)の濃度を測定した。これら有機酸の濃度は、3HBNaの定量と同様に高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により常法に従って測定した。
【0056】
結果を
図3,4に示した。
図3には、3HBNaを添加しないコントロールの酪酸濃度を基準とした場合のサンプル1~9の酪酸濃度の増減率をそれぞれ示した。また、
図4には、3HBNaを添加しないコントロールの酢酸濃度を基準とした場合のサンプル1~9の酢酸濃度の増減率をそれぞれ示した。
【0057】
この結果、
図3より酪酸濃度は、サンプル3,4,6~9の6サンプルがコントロールの酪酸濃度より増えており、特にサンプル7~9では増減率+50%以上であった。サンプル1,2においても酪酸濃度の増減率は-6~-8%程度であった。また、
図4より酢酸濃度の増減率は、サンプル1,3,4,6,9の5サンプルがコントロールの酪酸濃度より増えていた。サンプル7,8においても酢酸濃度の増減率は、0~-3%程度であった。
【0058】
これより、腸内環境を模した実施例1の培養方法によって、3HBNaを添加したサンプルは酪酸および酢酸の濃度が増加する傾向があることが判明した。従って、本発明の腸内環境改善用組成物(3HBNa濃度0.5重量体積%)を摂取した場合に、腸内において有害菌の生育を抑制し、有用菌の増殖を相対的に促進する等、腸内環境を改善できることが期待できると認められた。
【0059】
〔実施例5〕
サンプル1,2において、上述したように3HBNa濃度が0.5重量体積%(3HB濃度換算:0.41重量体積%)である場合に加えて、3HBNa濃度を0.2重量体積%(3HB濃度換算:0.17重量体積%)および0.72重量体積%(3HB濃度換算:0.59重量体積%)とした場合における培養30時間後のそれぞれのアンモニア濃度を測定した。結果を
図5に示した。
図5には、3HBNaを添加しないコントロールのアンモニア濃度を基準とした場合のサンプル1,2のアンモニア濃度の増減率をそれぞれ示した。
【0060】
この結果、サンプル1のアンモニア濃度の増減率は-0.1%(3HBNa濃度0.5重量体積%)~-15%(3HBNa濃度0.72重量体積%)であり、サンプル2のアンモニア濃度の増減率は-7%(3HBNa濃度0.2重量体積%)~約-39%(3HBNa濃度0.72重量体積%)であった。これらサンプルのアンモニア濃度の増減率の平均は約-16%であった。
【0061】
これより、腸内環境を模した実施例1の培養方法によって、3HBNaの濃度を種々変更した場合であってもアンモニア濃度を減少させることができると判明した。特にサンプル2においては3HBNa濃度を高く(0.5~0.72重量体積%)すれば、効果的にアンモニア濃度を減少させることができると認められた。
【0062】
〔実施例6〕
サンプル1,2において、上述したように3HBNa濃度が0.5重量体積%である場合に加えて、3HBNa濃度を0.2重量体積%および0.72重量体積%とした場合における培養30時間後のそれぞれのpH値を測定した。結果を
図6に示した。
図6には、3HBNaを添加しないコントロールのpH値(6.5)を基準とし、各サンプル1,2のpH値が変動した値をそれぞれ示した。
【0063】
この結果、サンプル1のpH変動値は-0.13(3HBNa濃度0.2重量体積%)~-0.56(3HBNa濃度0.72重量体積%)であり、サンプル2のpH変動値は-0.13(3HBNa濃度0.2重量体積%)~-0.28(3HBNa濃度0.72重量体積%)であった。
【0064】
これより、腸内環境を模した実施例1の培養方法によって、3HBNaの濃度を種々変更した場合であってもpH値を減少させることができると判明した。特にサンプル1においては3HBNa濃度を高く(0.5~0.72重量体積%)すれば、効果的にpH値を減少させることができると認められた。
【0065】
〔実施例7〕
サンプル1において、上述したように3HBNa濃度が0.5重量体積%である場合に加えて、3HBNa濃度を0.2重量体積%および0.72重量体積%とした場合における培養30時間後のそれぞれの酢酸の濃度を測定した。
【0066】
3HBNaを添加しないコントロールの酢酸濃度を基準とした場合の酢酸濃度の増減率は、+41.7%(3HBNa濃度0.2重量体積%)、+37.9%(3HBNa濃度0.5重量体積%)、+21.7%(3HBNa濃度0.72重量体積%)であった(図外)。
【0067】
同様に、サンプル2において、3HBNa濃度を0.2重量体積%とした場合の酢酸濃度の増減率は+5.4%であった(図外)。
【0068】
また、サンプル2において、3HBNa濃度を0.2重量体積%とした場合における培養30時間後の酪酸の濃度を測定したところ、酪酸の増減率は+7.0%であった(図外)。
【0069】
これより、腸内環境を模した実施例1の培養方法によって、3HBNaの濃度を種々変更した場合であっても酪酸および酢酸の濃度が増加する傾向があると認められた。
【0070】
〔実施例8〕
4人の健常者の糞便試料(サンプル11~14)を用いて、0.5重量体積%3HBNa(3HB濃度換算:0.41重量体積%)を添加し、上記特開2018-198560号公報記載の培養方法を用いて21時間の嫌気条件で培養を実施した。尚、培養の詳細については実施例1と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0071】
21時間後の培養液を回収し、回収した培養液について、3HBNa量を上記と同様に、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により常法に従って測定した。また、各サンプルを更に3時間培養した時点(培養開始後24時間経過した時点)での培養液を回収し、同様に3HBNa量を測定した。各サンプルにおける培養開始後21時間経過した時点での3HBNa量及び24時間経過した時点での3HBNa量を基に、培養開始後21時間経過した時点における3HBの消費速度を算出した。
【0072】
また、21時間後の培養上清から菌体(細胞)を回収した。回収した細胞の重量を600nmの光学密度(OD600)に基づいてサンプル間で同量となるように調整した上で、4-ポリテトラフルオロエチレンメンブレンフィルター(ミリポオ社製、孔径0.45μm、直径47mm)を用いてろ過した。
【0073】
尚、サンプル11~14の乾燥細胞重量は、下記(数1)を用いて推定した。
(数1)
乾燥細胞重量(mg)=0.0582×OD600×細胞懸濁液(μL)
【0074】
ろ過後すぐに、細胞を冷リン酸緩衝生理食塩水(137mM NaCl、8.10mM Na2HPO4、2.68mM KCl及び1.47mM KH2PO4)で洗浄し、洗浄した細胞を含むメンブレンフィルターを50mL遠心管に移して液体窒素で凍結した。
【0075】
その後、冷メタノール・ジルコニアビーズで細胞壁を破砕した後にクロロホルムでタンパク質を除去することで菌体代謝物を抽出し、抽出物の水相(700μL)を真空乾燥した。尚、乾燥後の抽出物は、分析に供するまで-80℃で保存した。
【0076】
乾燥した抽出物を氷上で解凍し、20mg/mLのメトキシアミン塩酸塩を含むピリジン100μL中において30℃で90分間誘導体化し、その後、N-メチル-N-(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(GLサイエンス社製)を添加し、37℃で30分間インキュベートした。
【0077】
誘導体化したサンプル(1μL)について、GCMSQP-2010システム(島津製作所製)を使用してガスクロマトグラフ-四重極質量分析(GC-Q-MS)を行い、グルタミン酸濃度を定量し、これを細胞内(菌体内)グルタミン酸濃度とした。尚、GC-Q-MSで使用したカラムは、CP-SIL8CB-MS(膜厚0.25μm、内径0.25mm、長さ30m)である。
【0078】
図7に、各サンプルにおける3HBの消費速度(mM/h)と細胞内グルタミン酸濃度(μmol/g-cell(細胞1g当たりのモル量))との関係を示した。同図から分かるように、3HBの消費速度が速くなるほど細胞内グルタミン酸濃度が増加している。このことから、腸内細菌の3HB利用能と腸内細菌内のグルタミン酸濃度との間には高い相関性があり、3HBを摂取した場合に、3HB利用能が高いほどグルタミン酸濃度が増加することがわかる。
【0079】
ここで、腸内細菌中のグルタミン酸濃度が高いほど菌体の増殖が促進することが報告されている(Biotechnol Biofuels, 2019, 12:72)。これらのことから、3HBを摂取することによって腸内細菌内のグルタミン酸濃度が増加して腸内細菌の生育が促進されることにより、3HBを摂取することによる腸内環境改善効果が発現すると推測できる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の腸内環境改善用組成物は、腸内環境を改善するために利用できる。