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特許7566277磁気シート、磁気筆記システムおよび消去方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】磁気シート、磁気筆記システムおよび消去方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/17 20190101AFI20241007BHJP
   G02F 1/1673 20190101ALI20241007BHJP
   G02F 1/16757 20190101ALI20241007BHJP
   B43L 1/00 20060101ALI20241007BHJP
   B43L 19/00 20060101ALI20241007BHJP
   G09F 9/37 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
G02F1/17
G02F1/1673
G02F1/16757
B43L1/00 C
B43L19/00 Z
G09F9/37
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021085454
(22)【出願日】2021-05-20
(65)【公開番号】P2022178567
(43)【公開日】2022-12-02
【審査請求日】2024-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】504462711
【氏名又は名称】Zero Lab株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】古賀 律生
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-195365(JP,A)
【文献】特開昭54-014193(JP,A)
【文献】特開2021-006844(JP,A)
【文献】特開平11-309987(JP,A)
【文献】特開2002-062548(JP,A)
【文献】特開2019-072908(JP,A)
【文献】特許第6986791(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0336896(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/17
G02F 1/1673
G02F 1/16757
B43L 1/00
B43L 19/00
G09F 9/37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のシートと第2のシートとの間に複数のマイクロカプセルが配置され、各マイクロカプセルが少なくとも磁性粒子クラスター化した磁性粒子、非磁性粒子クラスター化した非磁性粒子、沈殿防止剤および溶剤を含み、前記磁性粒子の一部が残留磁気特性のある材料を含む、磁気シートであって、
前記第1のシートの面上で静止状態の磁石を水平方向に移動させたときに前記第1のシート側から印加される磁力線に応答してマイクロカプセル内の磁性粒子が回転移動し、回転移動した磁性粒子がマイクロカプセルの表面部分から離れた位置に静止する、磁気シート。
【請求項2】
前記磁石は、S極とN極を一対とする単一の磁石を複数含む、請求項1に記載の磁気シート。
【請求項3】
前記磁石は、相対的に強力な磁力線を発生する第1の磁石と、相対的に弱い磁力線を発生する第2の磁石とを含む、請求項に記載の磁気シート。
【請求項4】
前記磁石は、前記第1のシート面から第1の距離で離間された第1の磁石と、第1の距離よりも大きい第2の距離で離間された第2の磁石とを含む、請求項に記載の磁気シート。
【請求項5】
請求項1ないしいずれか1つに記載の磁気シートと、前記磁気シートに描画された文字や図形を消去するための前記磁石を含む磁気消去具と、前記磁気シートに文字や図形を描画するための磁気筆記具とを含む、磁気筆記システム。
【請求項6】
前記磁気消去具は、前記磁石と前記磁気シートとの間に、磁力線の方向および強さを制御するための磁性部材を含む、請求項5に記載の磁気筆記システム。
【請求項7】
第1のシートと第2のシートとの間に複数のマイクロカプセルが配置され、各マイクロカプセルが少なくとも磁性粒子クラスター化した磁性粒子、非磁性粒子クラスター化した非磁性粒子、沈殿防止剤および溶剤を含み、前記磁性粒子の一部が残留磁気特性のある材料を含む、磁気シートの消去方法であって、
前記第1のシートの面上で静止状態の磁石を水平方向に移動させたときに前記第1のシート側から印加される磁力線に応答してマイクロカプセル内の磁性粒子を回転移動させ、回転移動させ磁性粒子をマイクロカプセルの表面部分から離れた位置に静止させる、消去方法。
【請求項8】
前記第2のシートの面上で静止状態の磁石を水平方向に移動させたときに前記第2のシート側から印加される磁力線に応答してマイクロカプセル内の磁性粒子を回転移動させ、回転移動させた磁性粒子をマイクロカプセルの表面部分から離れた位置に静止させる、請求項に記載の消去方法。
【請求項9】
前記第1のシート側から回転する磁力線が印加されたとき、当該磁力線に反応した磁性粒子が前記磁力線の回転方向と反対方向に回転移動し、マイクロカプセルの中心部付近に凝集して静止する、請求項7または8に記載の消去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁界を作用させ任意の文字、図形、記号等を描画するための磁気シートまたは磁気パネルに関し、特に複数のマイクロカプセルを持つ磁気シートの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気シート上を移動させ、磁気シートに磁界を作用させて移動軌跡に応じた文字、図形、記号等を描画するための磁気ペン(特許文献1)、あるいは磁気シート上を移動させることで描画された文字、図形、記号を消去するための磁気消去具(特許文献2)などが開示されている。
【0003】
磁気シートに関し、特許文献3は、非磁性体基板と保護層との間にマイクロカプセル層を設け、マイクロカプセル層内に磁性粉と非磁性粉を含有する大粒径のマイクロカプセルと磁性粉も非磁性粉も含まない小粒径のマイクロカプセルとを配列させた磁気ディススプレイを開示している。大粒径のマイクロカプセル群の粒子間に生じる空隙部を小粒径のマイクロカプセル群によって充填されるため、マイクロカプセルの充填が高密度になり、ピンホールの発生が抑制される。また、特許文献4は、上消し可能なマイクロカプセル磁気泳動型の磁気シート(または磁気パネル)を開示している。マイクロカプセルは、分散液、白色顔料、添加剤及び磁性粒子を内包し、マイクロカプセルの平均粒径が50~650μmであり、磁性粒子が異なる磁性粒子を2種以上有することで、記録表面側から全面消去または部分消去を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6179788号公報
【文献】特許第6213886号公報
【文献】特許第2850056号公報
【文献】特許第4089808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3、4に開示される磁気シートは、マイクロカプセルの充填密度を高めたり、あるいは記録面側からの消去を可能にするためにマイクロカプセルの径の大きさ等を調整するものであり、このような磁気シートには、描画時の描画スピードや消去時の残像を抑えた表示特性をさらに改善することが求められている。
【0006】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、描画時や消去時の表示特性を改善した磁気シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る磁気シートは、第1のシートと第2のシートとの間に複数のマイクロカプセルが配置され、各マイクロカプセルが少なくとも磁性体、非磁性体、沈殿防止剤および溶剤を含むものであって、前記第1のシートの面上で静止状態の磁石を水平方向に移動させたときに前記第1のシート側から印加される磁力線に応答してマイクロカプセル内の磁性体が回転移動し、回転移動した磁性体がマイクロカプセルの表面部分から離れた位置に静止する。
【0008】
ある実施態様では、前記磁石が長手方向に延在するとき、S極とN極が当該長手方向に沿って延在する。ある実施態様では、前記磁石のS極とN極が水平方向に隣接する。ある実施態様では、前記磁石のS極とN極が垂直方向に隣接する。ある実施態様では、前記磁石がS極とN極とが水平方向において交互に隣接する複数の磁石を含み、前記磁石の摺動方向は、磁石のS極とN極との配列方向と概ね垂直である。ある実施態様では、前記磁性体は、前記沈殿防止剤のチキソトロピー特性によって静止状態を保持する。ある実施態様では、前記磁性体は、残留磁気によって互いに引き付けられ静止する。ある実施態様では、前記第1のシート側から回転する磁力線が印加されたとき、当該磁力線に反応した前記磁性体が前記磁力線の回転方向と反対方向に回転移動し、マイクロカプセルの中心部付近に凝集して静止する。
【0009】
本発明に係る磁気筆記システムは、上記記載の磁気シートと、前記磁気シートに描画された文字や図形を消去するための磁気消去具と、前記磁気シートに文字や図形を描画するための磁気筆記具とを含む。
【0010】
本発明に係る磁気シートの消去方法は、第1のシートと第2のシートとの間に複数のマイクロカプセルが配置され、各マイクロカプセルが少なくとも磁性体、非磁性体、沈殿防止剤および溶剤を含む磁気シートのものであって、前記第1のシートの面上で静止状態の磁石を水平方向に移動させたときに前記第1のシート側から印加される磁力線に応答してマイクロカプセル内の磁性体を回転移動させ、回転移動させ磁性体をマイクロカプセルの表面部分から離れた位置に静止させる。ある実施態様では、前記第2のシートの面上で静止状態の磁石を水平方向に移動させたときに前記第2のシート側から印加される磁力線に応答してマイクロカプセル内の磁性体を回転移動させ、回転移動させた磁性体をマイクロカプセルの表面部分から離れた位置に静止させる。ある実施態様では、前記第1のシート側から回転する磁力線が印加されたとき、当該磁力線に反応した前記磁性体が前記磁力線の回転方向と反対方向に回転移動し、マイクロカプセルの中心部付近に凝集して静止する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、静止状態の磁石から印加される磁力線によりマイクロカプセルの磁性粒子または磁性体の移動を高精度に制御することができるため、従来と比較して、描画時や消去時の磁気シートの表示特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例に係る磁気シートの概要を説明する図である。
図2】本実施例に係る描画時のマイクロカプセルの磁性粒子の状態を模式的に示す図である。
図3】本実施例に係る描画時のマイクロカプセルの模式的な断面図である。
図4】本実施例に係る消去時のマイクロカプセルの模式的な断面図である。
図5】本実施例に係る消去時のマイクロカプセルに作用する磁力線の強度の変化を説明する図である。
図6】本実施例に係る消去時のマイクロカプセル内に発生する渦流および回流を説明する図である。
図7】磁力線が強く作用する範囲Aのマイクロカプセルの動作を説明する図である。
図8】磁力線が中程度に作用する範囲Bのマイクロカプセルの動作を説明する図である。
図9】磁力線が弱く作用する範囲Cのマイクロカプセルの動作を説明する図である。
図10】磁力線が作用しない範囲Dのマイクロカプセルの動作を説明する図である。
図11A】磁気シート上に描画された文字の一例を示す写真である。
図11B図11Aの丸の範囲の描画後の磁性体の様子を示す拡大写真である。
図12A】磁気シートを消去中の図11Aの丸の範囲の磁性体の様子を示す拡大写真であり、図5および図7の範囲Aの消去状態に対応する写真である。
図12B】磁気シートを消去中の図11Aの丸の範囲の磁性体の様子を示す拡大写真であり、図5および図8の範囲Bの消去状態に対応する写真である。
図12C】磁気シートを消去中の図11Aの丸の範囲の磁性体の様子を示す拡大写真であり、図5および図9の範囲Cの消去状態に対応する写真である。
図12D】磁気シートを消去中の図11Aの丸の範囲の磁性体の様子を示す拡大写真であり、図5および図10の範囲Dの消去状態に対応する写真である。
図13】本発明の第2の実施例に係る磁気筆記システムを示し、図13(A)は、磁気シートに磁石が静止した磁気消去具を適用した断面図を示し、図13(B)は、その斜視図である。
図14】静止した磁石から生成される磁力線がマイクロカプセルに作用する例を模式的に示す図である。
図15図15(A)は、磁気ペンにより描画したときのマイクロカプセル内の磁性粒子および非磁性粒子の配置を模式的に示した図、図15(B)~(F)は、磁気消去具を摺動させたときのマイクロカプセル内の磁性粒子および非磁性粒子の挙動を模式的に示した図である。
図16】本発明の第2の実施例の変形例に係る磁石を例示する図である。
図17】本発明の第2の実施例の変形例に係る磁石を例示する図である。
図18】本発明の第2の実施例の変形例に係る磁気消去具および磁石を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明に係る磁気シートは、磁気筆記具が磁気シートの描画面上を移動したときの磁気筆記具からの磁力線または磁界により移動軌跡に応じた文字、図形、絵等を表示し、磁気消去具からの回転する磁力線または磁界が磁気シートの描画面または裏面に印加したとき、描画された文字等を消去する。本発明の実施例で参照する図面は、発明を理解し易くするために各部を強調しており、実際の製品の大きさや形状とは必ずしも同一ではないことに留意すべきである。
【実施例
【0014】
次に、本発明の実施例について図面を参照して説明する。本発明の実施例に係る磁気シートの平面形状は、特に限定されないが、例えば矩形状を有する。矩形状のサイズは、50インチ以上であることができ、オフィスや家庭における壁掛け用の磁気表示システムまたは磁気筆記システムとして使用することができる。このような磁気筆記システムで特徴的な点は、磁気シート上に文字等を描画したり、描画した文字等を保持するための電力は事実上不要である。また、描画された文字等を消去する場合にも、電力は必ずしも不要であり、仮に必要としてもそれは磁力線を変化させるための極わずかな電力である。さらに消去の際に消去カスやごみを発生させることもない。それ故、磁気筆記システムは、電力を必要とする液晶パネルを用いた筆記システムやマーカーにより描画する電子黒板と比較すると、非常に経済的であり、かつ環境にも優れたデバイスである。
【0015】
図1(A)、(B)は、本発明の実施例に係る磁気筆記システム10の概略断面を示す。磁気筆記システム10は、磁気シート100、磁気ペン200および磁気消去具300を有する。文字等を描画するとき、磁気ペン200を磁気シート100上で移動させ、磁気ペン200に含まれる磁石202からの磁力線を磁気シート100に印加する。磁気ペン200をY方向に移動させたとき、その移動方向に応じた線が描画される。また、描画された文字等を消去するとき、磁気消去具300を磁気シート100上で移動しつつ、磁気消去具300からの回転された磁力線を磁気シート100に印加する。磁気消去具300は、例えば、磁石302を回転させ、Y方向に移動しながら回転する磁力線を磁気シート100に印加する。
【0016】
磁気シート100は、上部支持体(シート)110と、下部支持体(シート)120と、両支持体の間に形成されたマイクロカプセル層130とを含んで構成される。上部支持体110および下部支持体120は、例えば、透明の樹脂製のシートから構成される。上部支持体110は、磁気シートの描画面を提供し、下部支持体120は、マイクロカプセルおよびバインダーを保持し、かつ磁気シートの非描画面を提供し、上部支持体110および下部支持体120は、50~150umの厚さである。
【0017】
マイクロカプセル層130は、複数のマイクロカプセル140を配列し、上部支持体110と下部支持体120との間隔が概ね300~500um程度になるように、マイクロカプセル層130の厚さが調整される。マイクロカプセル140は概ね球状であり、その外径は、50~500umであり、好ましくは、200~300umである。
【0018】
マイクロカプセル140は、内部に磁性体(例えば、黒色の四酸化鉄(Fe)の粒子および適量のフェライト粒子)、非磁性体(例えは、白色の酸化チタン粒子)、高沸点溶剤、低沸点溶剤、消泡剤、沈殿防止剤(例えば、チキソトロピー特性を有する微粉珪酸アエロジル)、および分散剤を含む。チキソトロピー特性は、一度静止すると粘性が増加する特性を持つ。
【0019】
マイクロカプセル140に含まれる上記含有物の配合比率は、磁気ペンまたは磁気消去具からの磁力線に応答してマイクロカプセル内の磁性体の可動が正確に制御されるようにするため、以下の特性を満足するように決定される。
【0020】
A.描画時
(1)磁気ペンで描画された線(黒色の磁性体)は、描画後もその位置に静止し、黒色の磁性体は、できるだけ非磁性体(白色の酸化チタン粒子)から分離している必要がある。図2は、マイクロカプセル140を磁気シート100の描画面側から見下ろしたときの模式図である。磁気ペン200で描画したとき、磁気ペン200からの磁力線に沿って磁性粒子142が吸引され、静止される。なお、磁性粒子142の高さ方向の静止位置は、マイクロカプセル140の上部である。
【0021】
(2)磁気ペン200で描画したとき、比較的弱い磁力線で磁性粒子142をマイクロカプセル140の内壁面に吸引できることが必要である。内壁面に磁性粒子142を吸引させることはシャープな描画線を形成することができる。図3は、磁気ペン200の磁力線をマイクロカプセル140に印加したときの様子を示す模式的な断面図である。磁気ペン200は、磁性材料から構成されたハウジング204の端部に磁石202を収容し、ハウジング204の端部には、円形状の開口206が形成される。マイクロカプセル140には、開口206を介して磁石202からの制御された磁力線が作用する。これにより、磁性粒子142は、非磁性粒子(例えば、TiO)144から分離し、マイクロカプセル140の上方の内壁面に吸引され、静止する。
(3)マイクロカプセル140内の磁性粒子142は、外部からの比較的弱い磁力線に敏感に反応(可動)することが必要である。マイクロカプセル140の内壁面に引き寄せられた磁性粒子142は、消去完了時にマイクロカプセル140の中心部近傍に移動して凝集して存在することになるため、比較的弱い磁力線に反応し可動し易くなる。
【0022】
B.消去時
(1)磁気消去具300により描画された文字等を消去させるときは、外部からの回転する磁力線に磁性粒子142が反応し、磁性粒子142が磁力線の回転方向と反対方向にマイクロカプセル140内を回転移動するような磁力線を印加する必要がある。図4は、回転する磁力線をマイクロカプセルに印加したときの模式的な断面図である。磁気消去具300の磁石302を回転軸Cを中心に時計方向Raに回転しつつ磁気シート100上を水平に移動させるとき、その回転する磁力線に応答して、マイクロカプセル140内の磁性粒子142が反時計方向Rbに回転し、この回転によりマイクロカプセル140内の流体に渦流が発生し、遠心力による内圧差でマイクロカプセル140の中心部に向かう回流が発生する。
【0023】
(2)外部からの回転する磁力線によって発生する渦流の強度は、磁力線の強度に比例することが必要である。外部からの回転する磁力線は、磁気消去具300を磁気シート100の描画面上を平行移動させることでマイクロカプセル内に作用する。この場合、磁気消去具300からの磁力線の強度は、“強”、“中”、“弱”に連続的に変化する。この様子を図5に模式的に示す。同図に示すように、磁気消去具300の磁石302は一定の回転速度で回転しつつ速度Vで磁気シート100上を移動する。また、磁石302は、磁気シート100の描画面から距離Hで離間される。距離Hは、磁石302からの磁力線が適切に磁気シート100に作用する大きさである。磁気消去具300を水平方向に移動させたとき、磁石302に近接する範囲Aは、磁力線が強く作用し、それより離れた範囲Bは、磁力線が中程度に作用し、それより離れた範囲Cは、磁力線が弱く作用し、さらにそれより離れた範囲Dは、磁力線が殆ど作用しないかまたはマイクロカプセル140の中心部付近に磁性粒子が静止する範囲である。
【0024】
(3)磁力線が強く作用する範囲Aは、描画された磁性粒子がマイクロカプセル140の内壁面に引き寄せられそこに静止した状態にある。磁性粒子が停止したとき、沈殿防止剤のチキソトロピー特性により粘性が増加すると共に磁性粒子の残留磁気により磁性粒子の可動性が減少し、静止位置が保持される。消去するためには、磁性粒子の静止状態を保持していた力を解除する大きな力を印加することが必要である。つまり、静止状態にある磁性粒子に強い磁力線に印加して磁性粒子を回転始動させることが必要である。
【0025】
強い磁力線が作用すると、磁性粒子の回転で発生する強い渦流のため、描画後に静止していた磁性粒子は、分解して数個~数十個の磁性粒子の凝集塊としてマイクロカプセル140内を回転し始める。磁性粒子は強い磁力線によって凝集しようとするが、マイクロカプセル内に生じる渦流によって複数の凝集塊に分解される。図6は、回転する磁力線を印加したときのマイクロカプセル140内の渦流P1、P2、P3、P4を例示している。図6(A)は、マイクロカプセル140の断面を横方向または水平方向から見たときの渦流を模式的に示す図であり、図6(B)は、図6(A)の断面に発生する回流を模式的に示す図であり、図6(C)は、図6(A)と90度異なる方向からマイクロカプセル140を見たときの渦流を模式的に示す図である。
【0026】
図6(A)に示すように、回転する磁力線と反対方向に磁性粒子が回転移動し、これが原動力となってマイクロカプセル140内に流体の渦流P1、P2、P3、P4が発生する。マイクロカプセル140の中心を通る水平軸HCを中心に磁性粒子が回転するとき、マイクロカプセル内で発生する渦流による遠心力は、中心部側で非常に弱いか作用せず、端部側で大きくなる。つまり、渦流P1、P2、P3、P4による遠心力F1、F2、F3、F4は、F1>F2>F3>F4の関係になる。この渦流P1、P2、P3、P4の遠心力F1、F2、F3、F4の内圧差によって、図6(B)に示すように周縁から中心部付近に向かう回流Q1、Q2、Q3、Q4が発生する。このため、磁性粒子の凝集塊は中心部に集まり易く、適切な磁力線の強度および回転速度を印加したとき、回流により磁性粒子が中心部付近に集まる現象が顕著になる。
【0027】
描画後の静止状態の範囲A(図5)の磁性粒子は、回転する強い磁力線の作用により凝集しようとするが、渦流による力が強いため、磁性粒子が溶剤の粘性の反力または摩擦力により数十個の凝集塊に分解され、分解された複数の凝集塊がマイクロカプセルの渦流と回流に沿って激しく回転する。また、磁力線の影響を受けない非磁性体は、渦流の遠心力によってマイクロカプセル140の内壁面に分散される。この様子を図7に模式的に示す。
【0028】
磁力線が中程度に作用する範囲B(図5)では、渦流が遅くなるため、範囲Aのときに数十個に分解した凝集塊が磁力線の作用で大きくなり、その数が減少し、そのような凝集塊が渦流と中心に向かう回流の作用でマイクロカプセル内を回転することにより、溶剤に含まれる非磁性粒子との分離が容易になり可動が容易になる。この様子を図8に模式的に示す。
【0029】
磁力線が弱く作用する範囲C(図5)では、マイクロカプセル140の中心に向かう回流によって凝集塊が中心部に集まり始める。マイクロカプセルの中心部は渦流と回流が弱くなり、チキソトロピー特性により粘性が増加するため、磁性粒子が中心部に凝集して停止すると、そこに保持され易くなる。この様子を図9に模式的に示す。
【0030】
範囲Aないし範囲Cでは、非磁性体(酸化チタン粒子)は、渦流と回流とともに回転し、磁性粒子と分離し、マイクロカプセル140の内壁に均一に分布しそこに静止する。磁力性が作用しない範囲Dでは、磁性粒子142がマイクロカプセル140の中心部付近に静止する。また、磁性粒子142には残留磁気が働くため、磁性粒子が互いに引き付け合い、中心部付近への磁性粒子142の静止が促進される。この様子を図10に示す。こうして消去が完了する。
【0031】
本実施例の磁気シートを用いた磁気筆記システムには、次のような特徴がある。
磁気シート100は、上下の透明フィルム(またはシート)110、120と、上下の透明フィルム間にサンドイッチされたマイクロカプセル層130とを含み、マイクロカプセル層130は、複数のマイクロカプセル140とそれらを結合するバインダーとを含み、各マイクロカプセル140には、外部からの磁力線に反応する磁性体または磁性粒子が充填される。マイクロカプセル内の磁性粒子の移動は、描画時および消去時に作用される磁力線に応答して高精度に制御される。
【0032】
このような磁気シートを用いた場合、描画は、磁気シートの両面110、120のいずれからでも可能であり、消去もまた、磁気シートの両面110、120のいずれかより可能である。また、適量の沈殿防止剤および残留磁気効果より、描画後の黒(コントラスト)の保持が可能であり、磁力線の強度に応じて、マイクロカプセル内の磁性粒子を連続的/段階的に反応させる特性のため、経時変化が少ない。さらにマイクロカプセル内の成分の可動を良くすることで、磁力線を制御したシャープな磁力線を有する磁気ペンでシャープな描画線を得ることができる。消去後は、磁性体の凝集塊がマイクロカプセルの中心部近傍に存在しているので、磁気シートの上下のいずれの面からでも微弱な磁力線に反応する。
【0033】
非磁性体としての酸化チタン粒子(白)は静止状態に近くなるまで渦流で回転しているため、マイクロカプセル内壁に均一に分布する。この結果、屈折率の大きい(ダイヤモンドより大きい)特性として外部光を良く反射するため、従来の消去方法である、シート裏面からストライプ状(N/S)の磁石を接触させて消去する場合よりも磁気シートの白色が改善される。
【0034】
マイクロカプセルの特有の応答特性により、外部から作用される回転する磁力線の条件は下記のファクターに基づき決定される。
1.磁力線の強度:磁力線が強すぎると、渦流および回流が大きくなり、磁性粒子は回転し続け、マイクロカプセルの中心部付近に凝集することができなくなり、消去が不完全になる。
2.磁力線の回転数:磁力線の回転数が速くなりすぎると、磁性粒子が回転する磁力線に応答することができず、適切に回転移動できず、マイクロカプセルの中心部付近に凝集することができなくなり、消去が不完全になる。
3.磁気シート面からの距離:磁力線の強度は、磁気シート面からの距離の関数である。
4.磁力線の移動速度:磁力線の移動速度が速すぎると、磁性粒子が移動速度に応答することができず、図5に示す範囲A~Dの挙動をすることができなくなり、消去が不完全となる
【0035】
マイクロカプセルは球体であり、マイクロカプセルが磁力線に応答する範囲(ベクトル)は、360度である。渦流で発生する遠心力によって中心部付近に向けて回流の流れが発生し、四酸化鉄が凝集しながら中心部に集まる。
【0036】
マイクロカプセル内の磁性体は、磁界の中では磁化し、磁力線に沿って凝集する特性がある。本例で使用される磁性体は四酸化鉄であり、磁界がなくなると凝集する力は作用しなくなる。そこで、凝集力を補助するため、四酸化鉄より透磁力および残留磁気特性のあるフェライトを適量に添加し、四酸化鉄の凝集力を補うことが好ましい。フェライトは、磁力線が消滅した後、短時間、残留磁気を保持し、四酸化鉄は凝集し易くなる。
【0037】
マイクロカプセル内の磁性体と非磁性体と溶剤との容量比は十分考慮する必要があり、磁性体(黒)が多いと、消去時にマイクロカプセル内の中心部に移動するがマイクロカプセルの表面から透けて見えるので、白色の明るさが低下し灰色がかってしまう。また、磁性体が少ないと、描画時の黒色が少ないため、描画線が薄くなり、コントラストが低下してしまう。溶剤に対して磁性体および非磁性体の容量比が大きいと可動性が低下する。
【0038】
本実施例に係るマイクロカプセルに包含される材料の配合例の一例を示す。
磁性体:四酸化鉄粒子(黒色)および適量のフェライト粒子は、0.1~0.3umの小粒子(1.0~1.5重量%)と2~3umの中粒子(1.0~1.5重量%)との合成から構成される。あるいは、1~3um程度の大きさにクラスター化された磁性粒子(1.0~1.5重量%)。クラスター化された磁性粒子は、例えば、0.1~0.3umの粒子を固めたものである。
非磁性体:酸化チタン(白)粉体は、0.2~0.3umの粒子(11.0~13.0重量%)。あるいは、0.8~1.0um程度の大きさにクラスター化された非磁性粒子(11.0~13.0重量%)。
高沸点溶剤:フタル酸ジプチル(38.0~41.0重量%)
低沸点溶剤:トリエン(40.0~44.0重量%)
消泡剤(適量)
沈殿防止剤:微粉珪酸アエロジル(0.3~0.5重量%)
分散剤(適量)
マイクロカプセルの外径は、磁気シートの解像度、製造工程の難易度およびコスト面を考慮して、30um~1,100umである。また、必要に応じて、上下の透明フィルム110、120との間にマイクロカプセルを支持するためのバインダーを含む。
【0039】
磁性体と非磁性体の可動性と分離性は、コントラストや消去時および描画時の性能を向上させるための重要な特性である。磁性体にサイズの異なる粒子を混在させることで磁性体の可動性が向上し、コントラストも向上する。
【0040】
可動性の向上を図るため、磁性粒子をクラスター加工することが好ましい。クラスター加工は、複数の磁性粒子を一定の大きさに球状化することである。磁性粒子をクラスター加工し、その塊を適量混合し、磁性粒子とクラスター化された磁性粒子を混在させ、可動性を向上した磁性粒子を(黒)として使用する。塊は、磁性粒子を数十個集合させた球状の塊なので、可動性が向上する。また、複数のサイズのクラスター化された磁性粒子を混在させるようにしてもよい。
【0041】
さらに、非磁性粒子をクラスター加工し、その塊と適量に混合し、可動性を向上した非磁性粒子を(白)として使用することが好ましい。クラスターは球形であり、その大きさは制御可能である。非磁性粒子をクラスター加工し、その塊を適量混合し、非磁性粒子とクラスター化された非磁性粒子を混在させ、可動性を向上した非磁性粒子として使用する。非磁性粒子をクラスター化することで、描画時に磁力線に沿ってマイクロカプセルの内壁に吸引して静止された磁性体の隙間に入り難くなり、磁性粒子のコントラストの低下を防止するとともに回転する磁力線に反応し易くなる。
【0042】
図11Aないし図12Dに、実際のマイクロカプセル内の磁性粒子を観察した写真を示す。図11Aは、磁気シート上に描画された文字の一例を示し、丸で示された範囲の磁性粒子を観察する。図11Bは、描画後の図11Aの丸の範囲の磁性体の様子を示す拡大写真であり、磁性粒子がマイクロカプセル内の上側に引き寄せられ、そこに静止していることがわかる。
【0043】
図12Aは、磁気シートに回転する磁界を与えたときの消去中の回転する磁性粒子の凝集塊の図11Aの丸の範囲の磁性体の様子を示す拡大写真であり、これは、図5および図7の範囲Aの消去状態に対応するものである。図12Bは、図5および図8の範囲Bの消去状態に対応する拡大写真、図12Cは、図5および図9の範囲Cの消去状態に対応する拡大写真、図12Dは、図5および図10の範囲Dの消去状態に対応する拡大写真である。図12Aないし図12Dからも明らかように、消去が進むにつれ磁性体がマイクロカプセルの中心部付近に入り込み、最終的にマイクロカプセルが綺麗な白色となり、消去が完了していることがわかる。
【0044】
上記した第1の実施例では、磁気消去具の磁石を回転させて消去を行う例を示したが、第2の実施例では、磁気筆記具の磁石を静止させて消去を行うものである。
【0045】
図13(A)、(B)は、第2の実施例に係る磁気消去具を磁気シートに適用した例を示しており、図13(A)は、磁気シートおよび磁気消去具の概略断面図、図13(B)は、その斜視図である。第2の実施例に係る磁気消去具400は、例えば、矩形状のハウジング410を有し、ハウジング410の内部空間内に静止した磁石420が収容される。ハウジング410は、磁力線(または磁界)を透過可能な材料(例えば、プラスチックなど)から構成される。ある実施態様では、ハウジング410の底面は、磁気消去具400の摺動を容易にするため概ね平坦であり、その底面には、滑りを円滑にするための部材を取り付けるようにしてもよい。また、他の実施態様では、底面には開口が形成され、磁石420の一部または全部が露出されるようにしてもよい。
【0046】
ハウジング410内に収容された磁石420は、例えば矩形状を有し、その底面は、磁気シート100の上部シート110から一定の距離hだけ離間される。この距離hは、磁気シート100の消去に適切な磁界を与えるように適宜選択される。磁石420によって生成された磁界は、ハウジング410の底面を介して磁気シート100のマイクロカプセル140に作用する。ユーザーは、図13(B)に示すように、磁気消去具400を磁気シート100上で摺動させ、摺動させた領域に描画された文字等を消去する。Yは、摺動方向を示し、440は、消去範囲を示している。
【0047】
図14は、磁石420からの磁力線がマイクロカプセルに作用する状態を模式的に示した断面図である。磁石420のN極は、上部シート110に対向し、そこから距離hで離間され、N極の上方にS極が形成される。N極からS極に向けて磁力線Fが生成され、この磁力線Fが上部シート110を介してマイクロカプセル140に適切に作用するように、磁界が制御される。具体的には、磁石420の大きさ、形状、マイクロカプセルまでの距離h等のパラメータが調整される。
【0048】
これらのパラメータの調整を最適化することで、磁気消去具400を磁気シート100上で摺動させたとき、第1の実施例のときと同様に、回転する磁力線と同等の磁力線Fの変化をマイクロカプセル140に作用させ、マイクロカプセル140内の磁性粒子を回転移動させる。
【0049】
図15(A)は、描画時のマイクロカプセル内の磁性粒子を模式的に示した図、図15(B)~(F)は、磁気消去具400をY方向に摺動させたときにマイクロカプセル内の作用する磁力線によって移動する磁性粒子を模式的に示した図である。
【0050】
磁気ペン200による描画を行ったとき、マイクロカプセル140の表面近傍には、図15(A)に示すように、磁性粒子142が凝固した状態で静止する。磁性粒子142の下方には、チタン粒子等の非磁性粒子144が静止する。このような描画状態から磁気消去具400をY方向に摺動させて消去を行う。
【0051】
磁石420をY方向に移動を開始させ、図15(B)に示すように、磁力線F1がマイクロカプセル140に影響を及ぼし始まる位置に磁石420が到達すると、マイクロカプセル140内の磁性粒子142の凝固した塊が分解し始め、磁性粒子142の群とした集合体になる。
【0052】
マイクロカプセル140内の磁性粒子142は、磁石420がY方向に移動するとき、これと同じ方向に移動しようとする。図15(C)に示すように、磁石420がマイクロカプセル140に接近すると、磁力線F2が磁力線F1のときよりも垂直方向に近づくように変化し、この磁力線の変化に応答して、磁性粒子142は、磁力線F2に沿うように、かつ磁石420の移動方向と同じ方向にマイクロカプセル140内を回転移動する。このとき、磁性粒子142は、磁力線によって磁化されて凝集され易くなり、磁力線の作用によりマイクロカプセル内の表面近傍において僅かではあるが磁性粒子142と非磁性粒子144の入れ替わりが発生する。
【0053】
図15(D)に示すように、磁石420がマイクロカプセル140のほぼ真上にくると、垂直な磁力線F3がマイクロカプセル140に作用し、磁力線F3に倣うように磁性粒子142が垂直方向に並ぶ。このとき、磁性粒子142が磁化されているため、中心方向に凝集する力が働くことで、マイクロカプセル140の表面近傍でさらに非磁性粒子(チタン粒子)144との入れ替わりが促進される。
【0054】
次に、図15(E)に示すように、磁石420がマイクロカプセル140を幾分通り過ぎると、磁力線F4が磁石420の移動方向と反対方向に傾斜し始め、この磁力線F4に倣うように磁性粒子142が回転移動する。このとき、非磁性粒子144がマイクロカプセル内の表面に移動し、磁性粒子142は、凝集しつつ非磁性粒子144と入れ替わり、マイクロカプセル140の内部(中心方向)へ移動する。
【0055】
次に、磁石420がマイクロカプセル140を通り過ぎ、磁力線がマイクロカプセル140に作用させることができる限界の位置に到達すると、図15(F)に示すように、磁力線F5がかなり水平方向に傾斜し、それに沿うように磁性粒子142が回転移動してマイクロカプセル140の内部(中心方向)に移動し、マイクロカプセル内の表面近傍において確実に磁性粒子142と非磁性粒子144との入れ替わりが生じる。さらに磁石420がY方向に移動すると、磁石420の磁力線はもはやマイクロカプセルに作用せず、磁力線F5により回転移動した磁性粒子142は、マイクロカプセル140の中心部付近に静止し、そこで凝集し、磁性粒子142の凝集塊は、非磁性粒子144によって取り囲まれる。マイクロカプセル140の表面近傍には、非磁性粒子144が存在するため、上方からマイクロカプセル140を観察すると、磁性粒子142がマイクロカプセルの上部から見えず、概ね非磁性粒子144の白色が観察され、消去が可能になる。
【0056】
このように、マイクロカプセル140上で1つの磁石420をY方向に移動させると、磁力線の変化によってマイクロカプセル140内の磁性粒子142は、おおよそ3/4回転移動する。そして、磁性粒子142は、回転移動と共に磁化され、凝集し易くなり、マイクロカプセル140の内表面から中心方向に移動し、非磁性粒子144との入れ替わりが発生する。もし、磁石420を何度もY方向に繰り返し移動させれば、それは、第1の実施例のときの磁石を回転させて消去すると同じことになる。
【0057】
次に、第2の実施例の変形例について説明する。図16(A)は、磁気消去具400の磁石500を示し、図16(B)は、磁石500による消去動作を示している。磁石500は、一対のS極とN極とを含む単一の磁石500A、500B、500Cを水平方向に3つ備えている。このとき、各磁石500A、500B、500CのS極とN極とは交互になるように配置される。
【0058】
磁石500をY方向に摺動させて消去を行うとき、マイクロカプセル140には、3つの磁石500A、500B、500Cからの磁力線が連続的に作用する。最初の磁石500Aがマイクロカプセル140上を通過するとき、図15(B)~(F)に示すように磁性粒子142が概ね3/4回転移動し、次の磁石500Bがマイクロカプセル上を通過するとき、図15(F)の位置に静止した磁性粒子142は未だ凝集塊となっていないため、次の磁石500Bの磁力線F1に容易に反応し回転移動することができる。磁石500Bがマイクロカプセル140を通過後、次の磁石500Cの磁力線がマイクロカプセルに作用し、磁性粒子は、図15(B)~(F)の回転移動を繰り返す。その結果、マイクロカプセル140上を3つの磁石500A、500B、500Cが移動することで、マイクロカプセル140内の磁性粒子142は、概ね3回転近く回転移動されることになる。
【0059】
このように複数の磁石をY方向に移動させることで、マイクロカプセル140に連続的に変化する磁力線を作用させ、それに応じてマイクロカプセル140内の磁性粒子142を連続的に回転移動させて磁性粒子の回転移動の回数を増加させ、磁性粒子142と非磁性粒子144との入れ替わりを確実にし消去性を向上させることができる。このような連続する回転移動は、マイクロカプセル140内の磁性粒子等の特性のばらつきにより、1回転の磁力線に応答できない磁性粒子をより反応させ、消去性を向上させることができる。さらに、連続的な回転移動は、マイクロカプセル140内に渦流を生じさせ、渦流による遠心力の内圧差によって回流が発生し、磁性粒子が中心部に集まり易くなる。
【0060】
次に、第2の実施例のさらなる変形例について説明する。図17に、当該変形例についての磁石を示す。図17(A)に示す磁石510は、相対的に強力な磁力線を発生する磁石510Aと、相対的に弱い磁力線を発生する磁石510Bとを有する。磁石510Aは、例えば、3つの磁石を結合したものであり、磁石510Bは、磁石510Aよりもサイズの小さい3つの磁石を結合したものである。磁石510は、磁気シート100の上部シート110から適切な距離hに離間されるように、磁気消去具400のハウジング内に収容される。
【0061】
磁気ペンによる描画から時間が経過すると、磁性粒子の凝固塊の動きが悪くなる(つまり、消え難くなる)。このような場合、最初に強力な磁力線を発生する磁石510Aをマイクロカプセル140に作用させることで磁性粒子の凝集塊を分解し、次に、適正な磁力線を発生する磁石510Bをマイクロカプセル140に作用させて消去を行う。
【0062】
図17(B)に示す磁石520は、強力な磁力線を発生する磁石520Aと、その両側に相対的に弱い磁力線を発生する磁石520B、520Cとを有する。図17(A)の磁石510は、磁石510Aが先に作用するように磁石510を摺動させる必要があるが、図17(B)のように両側に磁石520B、520Cを配置することで、磁石520Aによる磁性粒子の凝集塊の分解後に、必ず適正な磁力線の磁石520B、520Cのいずれかを作用させることできる。従って、任意の方向に磁石520を摺動させて消去することができる。
【0063】
図17(C)は、磁石と磁気シートとの間の距離を異ならせることで、事実上、マイクロカプセルに作用させる磁力線の強さを調整する。磁石530は、距離h1だけ離間された磁石530Aと、距離h2だけ離間された磁石530Bと、距離h3だけ離間された磁石530Cとを含む。磁石530A、530B、530Cは、同一のサイズの磁石であるが、h1<h2<h3の関係により、磁石530Aからの磁力線がマイクロカプセル140に最も強く作用し、磁石530Cからの磁力線がマイクロカプセル140の最も弱く作用する。このように磁力線のマイクロカプセルに作用する大きさは、磁石のサイズによって調整する以外にも、マイクロカプセルからの距離によって調整することが可能である。
【0064】
次に、第2の実施例のさらなる変形例について説明する。図18(A)、(B)は、ハウジング内に磁性部材を収容する磁気消去具400Aを例示する断面図である。図18(A)は、平板状の磁性部材430を例示し、図18(B)は、湾曲された板状の磁性部材432を例示する。磁性部材430、432は、磁界を透過可能な材料から構成され、磁石420から発生される磁界を制御する。磁性部材430、432は、磁石420の下方に配置され、磁石420によって生成された磁力線の方向および強さを制御する。なお、磁性部材430、432を板状に構成したが、これ以外にも、例えば、メッシュ状や積層構造にしてもよい。
【0065】
さらに、磁気消去具400内に収容される磁石は、図18(C)に示すように、N極とS極との配置が水平となる磁石540であってもよいし、図18(D)、(E)に示すように、円柱状の磁石550、560であってもよい。
【0066】
さらに上記実施例では、磁気消去具400を磁気シート100の上部シート110上を摺動させて消去を行ったが、磁気消去具400を磁気シート100の下部シート110上を摺動させて消去を行うことも可能である。この場合、磁気消去具400からの磁力線は、下部シート120を介してマイクロカプセル140の表面近傍(上部シート側)の磁性粒子を回転移動させ、回転移動させた磁性粒子を表面近傍から離れた位置に静止させる。
【0067】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0068】
100:磁気シート
110:上部支持体(シート)
120:下部支持体(シート)
130:マイクロカプセル層
140、140A、140B、140C:マイクロカプセル
142、142A、142B、142C:磁性粒子
144、144A、144B、144C:非磁性粒子
200:磁気ペン
202:磁石
300:磁気消去具
302:磁石
400、400A:磁気消去具
410:ハウジング
420、500、510、520、530、540、550、560:磁石
430、432:磁性部材
440:消去領域
Y:摺動方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図12D
図13
図14
図15
図16
図17
図18