(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】覆工板の位置ズレ防止構造、覆工板の敷設方法
(51)【国際特許分類】
E01C 9/08 20060101AFI20241007BHJP
【FI】
E01C9/08 A
(21)【出願番号】P 2018152087
(22)【出願日】2018-08-10
【審査請求日】2021-08-05
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】593187397
【氏名又は名称】株式会社横山基礎工事
(74)【代理人】
【識別番号】100166039
【氏名又は名称】富田 款
(72)【発明者】
【氏名】横山 弘介
【合議体】
【審判長】有家 秀郎
【審判官】▲高▼橋 祐介
【審判官】太田 恒明
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3142771(JP,U)
【文献】特開2003-20607(JP,A)
【文献】特開2015-59412(JP,A)
【文献】特開2015-59411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 9/00 - 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並行する3本以上の梁上に支持されるように敷設した鋼製の覆工板の位置ズレを防止する構造であって、前記3本以上の梁の端に位置する梁上で前記鋼製の覆工板の位置ズレを防止する構造において、
覆工板の位置ズレを防止するストッパーと係合可能に形成され、前記ストッパーと協動して前記覆工板の位置ズレを防止するための係合部を有する覆工板と、
前記覆工板を敷設した並行する3本以上の梁のうち端にある梁の上面に長手方向に沿って前記覆工板の側面に固設され、前記覆工板が具備する係合部に差し込むことで係合可能なストッパーを有する突出構造物と、
を有することを特徴とする覆工板の位置ズレ防止構造。
【請求項2】
前記突出構造物は、前記覆工板の地覆を配置する梁の上面に長手方向に沿って固設される、ことを特徴とする請求項1に記載の覆工板の位置ズレ防止構造。
【請求項3】
前記覆工板の位置ズレ防止構造は、並行する3本以上の梁上に覆工板を敷設してなる構造体において用いられ、
前記突出構造物は、両端にある梁のそれぞれの上面に長手方向に沿って固設される、
ことを特徴とする請求項1に記載の覆工板の位置ズレ防止構造。
【請求項4】
覆工板の前記係合部は、その隣接位置に敷設される他の覆工板が具備する係合部との組み合わせによって、組み合せ係合部を形成し、
複数の係合部からなる前記組み合せ係合部に対し前記ストッパーを係合させることによって、隣り合う覆工板の位置ズレが防止される、
ことを特徴とする請求項1に記載の覆工板の位置ズレ防止構造。
【請求項5】
覆工板の前記係合部の切欠きおよび係合するストッパーは、
前記覆工板の上面側エッジ部に設けられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の覆工板の位置ズレ防止構造。
【請求項6】
覆工板は、その係合部と係合するストッパーの落下を防止するための落下防止部を更に具備する、
ことを特徴とする請求項1に記載の覆工板の位置ズレ防止構造。
【請求項7】
覆工板の前記係合部は、
突出構造物の前記ストッパーを挿入可能な切欠き部、または、
突出構造物の前記ストッパーが螺合可能な内ネジが形成された穴、
からなることを特徴とする請求項1に記載の覆工板の位置ズレ防止構造。
【請求項8】
覆工板の前記係合部は、
突出構造物の前記ストッパーを挿入可能な切欠き部、または、
突出構造物の前記ストッパーが螺合可能な内ネジが形成された穴、
が覆工板の側面に設けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の覆工板の位置ズレ防止構造。
【請求項9】
突出構造物が有する前記ストッパーは、独立した別部材として構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の覆工板の位置ズレ防止構造。
【請求項10】
覆工板の上下方向の動きを規制する押さえ部材を更に具備している、
ことを特徴とする請求項1に記載の覆工板の位置ズレ防止構造。
【請求項11】
突出構造物が有する前記押さえ部材は、独立した別部材として構成されている、
ことを特徴とする請求項10に記載の覆工板の位置ズレ防止構造。
【請求項12】
突出構造物が有する前記ストッパーと前記押さえ部材が一体的である、
ことを特徴とする
請求項10に記載の覆工板の位置ズレ防止構造。
【請求項13】
前記突出構造物は、地覆を構成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の覆工板の位置ズレ防止構造。
【請求項14】
請求項1に記載の
覆工板の位置ズレ防止構造を用いて、並行する3本以上の梁上に
鋼製の覆工板を敷設する方法であって、
係合部を有する一の覆工板を敷設する工程と、
前記一の覆工板の隣接位置に、係合部を有する他の覆工板を敷設する工程と、
前記一の覆工板の係合部と前記他の覆工板の係合部の組み合わせによって構成される組み合せ係合部に対し、覆工板の位置ズレを防止するストッパーを係合させる工程と、
を含む覆工板の敷設方法。
【請求項15】
請求項1に記載の
覆工板の位置ズレ防止構造を用いて、並行する3本以上の梁上に
鋼製の覆工板を敷設する方法であって、
覆工板の位置ズレを防止するためのストッパーを設置する工程と、
係合部を有する一の覆工板を敷設する工程と、
前記一の覆工板の隣接位置に、係合部を有する他の覆工板を敷設する工程と、
を含んでおり、
前記一の覆工板の係合部と前記他の覆工板の係合部の組み合わせによって構成される組み合せ係合部に対し、前記ストッパーが係合するように、前記一の覆工板および前記他の覆工板をそれぞれ敷設する、ことを特徴とする覆工板の敷設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種工事で利用可能な覆工板と、この覆工板を用いた施工で利用可能な突出構造物と、覆工板を敷設し固定するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼製の覆工板は、地下鉄工事をはじめ、地下街の建設・地下配管工事など各種路面掘削工事開削工の上面を塞ぐ目的で用いられるほか、仮設構台・桟橋用の床板として広く利用されている。
【0003】
覆工板の敷設にあたっては、従来より、H形鋼などからなる受桁の上面に、覆工板を複数枚敷き並べるとともに、並べた覆工板が位置ズレしないように、複数の覆工板一枚一枚を受桁に対して専用金具により締結する方法が採用されてきた。
【0004】
しかしながら、上記従来技術における覆工板の固定作業は、覆工板の表面側にいる作業員だけでは進めることができず、覆工板の下方に専用足場を組み、覆工板の裏面側にも作業員が回り込んで、覆工板の表裏の両側の作業員が協動してボルト等の締めつけを行う必要があった。したがって、従来の覆工板敷設方法は、専用足場などの設置が必要であり、また、作業員が覆工板の裏面側に回り込んで狭小なスペースで煩雑な締結作業を行う必要があり、そのための工費・工期が余分にかかるという問題があった。また、こういった煩雑な作業が、急速施工の妨げとなっているといった問題があった。
また、覆工板を敷設した後であっても、繰り返し荷重や振動などにより締結が緩むことがあり、従来の方法で敷設された覆工板の場合には、作業員が覆工板の裏面側に回り込み狭小なスペースでボルトやナットを締め付けなどのメンテナンスを行う必要があった。
さらに、従来の覆工板敷設方法は、例えば桟橋構築の場合では、施工に用いる覆工板の枚数が著しく多く、そのため、隣接する覆工板が互いにぶつかり合うときの衝突音・接触音が大きな騒音となって近隣に被害を及ぼしていた。
【0005】
上述した種々の問題を解決するための覆工板取付器具が、特許文献1(特開2015-059411号公報)において提案されている。この器具を利用して覆工板を取り付けることで、覆工板の敷設・固定が簡便になり、従来よりも短期・低コストで作業完了することが可能になる。
しかしながら、敷き並べた覆工板の間には僅かな隙間があるため、上述した器具だけでは、隣接する覆工板のぶつかり合いや接触などに起因する騒音(覆工板が横にズレることで生じる衝突音や接触音)を十分に抑制することはできなかった。
【0006】
そこで、上述した騒音問題に鑑み、隣接する覆工板の間の僅かな隙間に薄板状のストッパーを差し込んで介在させて覆工板の横ズレを抑制し、これによって上述した騒音の抑制を図ることが本願出願人によって提案された。
しかしなら、隣接する覆工板の間にストッパーが介在した状態で、これらの覆工板が一体となって横ズレすると、ストッパーが薄板状である故に、該ストッパーが容易に破断し、ストッパーとしての機能を失うといった問題が生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで上述した従来技術の問題点に鑑み、この出願の発明の目的は、覆工板のぶつかり合いや接触などで発生する騒音を確実に抑制でき、また、このような騒音抑制効果を簡易な構成で確実に維持できるような、新たな覆工板、突出構造物、覆工板の敷設方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、並行する複数本の梁上に敷設される覆工板であって、
覆工板の位置ズレを防止するストッパーと係合可能に形成され、前記ストッパーと協動して梁と平行な面上における覆工板の位置ズレを防止するための係合部を有する覆工板によって達成される。
【0009】
上記覆工板の係合部は、その隣接位置に敷設される他の覆工板が具備する係合部との組み合わせによって、組み合せ係合部を形成してもよい。
この場合、複数の係合部からなる前記組み合せ係合部に対し前記ストッパーを係合させることによって、隣り合う覆工板の位置ズレが防止される。
【0010】
また上記覆工板の係合部は、例えば、
前記ストッパーを挿入可能な切欠き部、または、
前記ストッパーが螺合可能な内ネジが形成された穴、
からなる。
【0011】
また上記覆工板は、係合部と係合しているストッパーの落下を防止するための落下防止部を更に具備してもよい。
【0012】
また上記目的は、並行する複数本の梁上に敷設される覆工板のセットであって、
係合部を有する一の覆工板と、
前記一の覆工板の隣接位置に敷設され、係合部を有する他の覆工板と、を有し、
前記一の覆工板の係合部と前記他の覆工板の係合部の組み合わせが、これらの覆工板の位置ズレを防止するストッパーと係合可能な組み合せ係合部を構成する、ことを特徴とする覆工板のセットによって達成される。
【0013】
また上記目的は、
並行する複数本の梁上に覆工板を敷設してなる構造体において用いられ、
両端にある梁のそれぞれの上面に長手方向に沿って固設される突出構造物であって、
上記の覆工板が具備する係合部と係合可能なストッパーを有する突出構造物によって達成される。
【0014】
また上記目的は、
並行する複数本の梁上に覆工板を敷設する方法であって、
係合部を有する一の覆工板を敷設する工程と、
前記一の覆工板の隣接位置に、係合部を有する他の覆工板を敷設する工程と、
前記一の覆工板の係合部と前記他の覆工板の係合部の組み合わせによって構成される組み合せ係合部に対し、覆工板の位置ズレを防止するストッパーを係合させる工程と、
を含む覆工板の敷設方法によって達成される。
【0015】
また上記目的は、
並行する複数本の梁上に覆工板を敷設する方法であって、
覆工板の位置ズレを防止するためのストッパーを設置する工程と、
係合部を有する一の覆工板を敷設する工程と、
前記一の覆工板の隣接位置に、係合部を有する他の覆工板を敷設する工程と、
を含んでおり、
前記一の覆工板の係合部と前記他の覆工板の係合部の組み合わせによって構成される組み合せ係合部に対し、前記ストッパーが係合するように、前記一の覆工板および前記他の覆工板をそれぞれ敷設する、ことを特徴とする覆工板の敷設方法によって達成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の覆工板は、例えば切欠き部やボルト穴などからなる係合部を有しており、この係合部は、覆工板の位置ズレを防止するストッパー(覆工板とは別の部材)と係合可能に形成されている。覆工板の「係合部」とこれに対する「ストッパー」の係合関係は、例えば凹凸嵌合やネジ結合(螺合)などによって確保される。
このように、ストッパーと係合可能な“専用”の係合部を、あらかじめ覆工板に形成しておくことで、ストッパーの設計の自由度が大幅に広がり、該ストッパーに十分な強度と耐久性を持たせることができる。
すなわち、覆工板が外力を受けて、ストッパーと一体となって位置ズレ(梁と平行な面上における覆工板の位置ズレ)を起こそうとしても、ストッパーに十分な強度と耐久性を持たせているので、ストッパーの破断や損壊などの事態を防止することができる。したがって、「梁と平行な面上における覆工板の位置ズレの防止」という機能を長期にわたって確実に維持することができる。
【0017】
また本発明の覆工板は、その隣接位置に敷設される他の覆工板が具備する係合部との組み合わせによって、機能的にひとつの「組み合せ係合部」を形成する。そして、複数の係合部からなる「組み合せ係合部」に対し、機能的にひとつのストッパーを係合させることによって、隣り合う複数の覆工板の位置ズレが同時に防止される。
したがって、一のストッパーで複数の覆工板(隣接する少なくとも2つの覆工板)の位置ズレを同時に食い止めることができるので、覆工板と同数のストッパーを揃える必要が無くなり、覆工板を用いた施工の部品点数を抑制することができる。
【0018】
また本発明の覆工板に形成される係合部は、前述したとおり、
・ストッパーを挿入可能な切欠き部、または、
・ストッパーが螺合可能な内ネジが形成された穴、
などから構成される。
これによりストッパーと係合部の係合関係の確保が簡単になり、簡易な構成で覆工板の位置ズレを確実に防止することができる。
【0019】
また本発明の覆工板は、その係合部に対し係合するストッパーが、覆工板から離れてその下方へ落下するのを防止するための「落下防止部」を更に具備している。
これにより、ストッパーが(破断や劣化、取り付け不良等の何らかの理由により)落下し得る事態が生じた場合でも、落下防止部が在ることによって、ストッパーが落下防止部の手前に留まり、橋梁等の構造物の下に向かって落下することが無くなる。
したがって、このような落下防止部を覆工板に設けることで、ストッパーの落下に起因する重大事故を未然に防止することができ、ストッパーを使う場合でも安全を確実に確保することができる。
【0020】
また本発明は、上述した覆工板単体のみならず、組み合せ係合部を形成可能な複数の覆工板からなる「覆工板のセット」にも及んでいる。
このような覆工板セットを用いて桟橋施工などを実施することで、隣接する覆工板どうしの衝突音・接触音などに起因する騒音を抑制可能な橋などを、簡単かつ確実に構築することができ、また、そのような騒音抑制のための部材の耐久性に優れた橋などを構築することができる。
【0021】
また本発明は、前述した覆工板が具備する係合部と係合可能なストッパーを具備する「突出構造物」にも及んでいる。この突出構造物は、並行する複数本の梁上に覆工板を敷設してなる構造体(例えば桟橋、橋梁)の構築において用いられる。
そして、本発明の突出構造物は、両端にある梁のそれぞれの上面に長手方向に沿って固設される突出構造物であるため、覆工板の係合部に対してストッパーを係合させるにあたって、覆工板や梁の裏面側に作業員が回り込む必要が無いため、係合関係を確保するための作業が簡単である。
【0022】
また本発明は、前述した特徴を具備する覆工板の「敷設方法」にも及んでいる。
この方法を利用して覆工板を敷設することで、敷設された覆工板上を走行する重機やトラックなどから外力を受けても、容易に位置ズレ(梁と平行な面上における覆工板の位置ズレ)を起こさない構造物を、簡単かつ確実に構築することができる。
【0023】
なお、本発明に係る覆工板の敷設方法では、覆工板の敷設工程と、ストッパーの設置工程の順序は、特に限定されない。例えば、先行してストッパーを設置して、その後の工程で覆工板を敷設する場合には、ストッパーが覆工板の位置決めのための基準となって、覆工板を設計通りの位置に簡単かつ確実に敷設できるといった優れた効果が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】一例として桟橋施工における覆工板の敷設の様子を示す平面図と断面図である。
【
図3A】第1実施形態に係る覆工板敷設方法の一工程を示す部分断面図である。
【
図3B】
図3Aに示す工程の後の工程であって、第1実施形態に係る覆工板敷設方法の一工程を示す部分断面図である。
【
図3C】
図3Bに示す工程の後の工程であって、第1実施形態に係る覆工板敷設方法の一工程を示す図である。
【
図4】平面図であって、覆工板が具備する係合部(切欠き部)と、突出構造物(地覆材)が具備するストッパー(凸状部材)が、互いに係合する前の状態を(a)が示し、係合した後の状態を(b)が示している。
【
図5】第2実施形態に係る突出構造物(地覆材)を示す断面斜視図である。
【
図6A】第2実施形態に係る覆工板敷設方法の一工程を示す部分断面図である。
【
図6B】
図6Aに示す工程の後の工程であって、第2実施形態に係る覆工板敷設方法の一工程を示す部分断面図である。
【
図7A】第3実施形態に係る覆工板敷設方法の一工程を示す部分断面図である。
【
図7B】
図7Aに示す工程の後の工程であって、第3実施形態に係る覆工板敷設方法の一工程を示す部分断面図である。
【
図7C】
図7Bに示す工程の後の工程であって、第3実施形態に係る覆工板敷設方法の一工程を示す部分断面図である。
【
図7D】
図7Cに示す実施形態を地覆材(車止め)の側から見た様子を示す斜視図である。地覆材(車止め)の図示は省略する。
【
図7E】
図7Cに示す実施形態を斜めから見た様子を示す断面斜視図である。
【
図7F】
図7C・
図7Eに示す工程の後の工程であって、第3実施形態に係る覆工板敷設方法の一工程を示す部分断面図である。
【
図8】他の実施形態に係る覆工板敷設方法の一工程を示す図である。
【
図9】他の実施形態に係る平面図であって、覆工板が具備する係合部(ボルト穴)と、突出構造物(地覆材)が具備するストッパー(ボルト)が、互いに係合する前の状態を(a)が示し、係合した後の状態を(b)が示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、覆工板、覆工板のセット、突出構造物、覆工板の敷設方法に関するものである。
鋼製の覆工板は、地下鉄工事・地下街の建設・地下配管工事など各種路面掘削工事開削工の上面を塞ぐ目的などで利用されるほか、仮設構台・桟橋用の床板として広く利用されている。
以下、覆工板の用途の具体例として桟橋を挙げて、本発明の具体的実施形態について説明する。
【0026】
(覆工板を用いた構造物の概要)
覆工板の用途の一例である桟橋は、本実施形態の場合では
図1に示すように、主として、並行する4本の主桁(梁)3と、これらの主桁を相互に繋げる横桁2を具備している。主桁(梁)が「並行する」状態とは、平行に並んで設置されている状態をはじめとして、路面乃至作業面を確保する範囲を覆工できるように、複数の主桁(梁)が必要範囲に並んで固定されている状態を含む概念である。
【0027】
4本の主桁3のうち、両端(幅員方向の両側)に位置する主桁3,3のそれぞれの上面には、主桁長手方向に沿って突出構造物5が立設状態(直立した姿勢で)で固定されている。この突出構造物5(突起状構造物)は、本実施形態では地覆材(いわゆる車止め)を構成する。以下、突出構造物を「地覆材」と称する。
【0028】
覆工受桁をなす4本の並行な主桁3は、それぞれH形鋼(又はI形鋼などでも可)で構成されている。
図3Cに示すように、主桁3の上フランジ4の上面側には、地覆材5が直立状態(すなわち主桁の上面から更に上に突き出した状態)で固設され、ボルト締結されている。つまり、地覆材5は、主桁3の上フランジ4から更に上に突き出した状態で確りと固定されている。
【0029】
なお、本実施形態では、一例として4本の主桁を具備する桟橋に覆工板を敷設する場合について説明しているが、敷設対象の主桁の本数は特に限定されるものではなく、少なくとも2本の主桁を具備していれば本発明を適用して覆工板を固定することが可能である。したがって、例えば2本の主桁を含んで構成される「人道橋」の構築にあたっても、本発明を適用することが可能である。
【0030】
(覆工板)
本実施形態で利用する覆工板1は、一例として
図1に示すように、一枚一枚が、敷設前の状態ですでに桟橋の幅員サイズの寸法を有している。このような幅広の一体構造の覆工板を、
図1(a)に示すように、複数本の主桁の上面に長手方向に沿って敷き並べて固定する。
【0031】
また
図2に示すように、覆工板1は、後述する地覆材5のストッパー9(
図3B参照)と係合可能に形成された「係合部12」を有している。本実施形態の場合では、覆工板1の四隅に係合部12が形成されている。
【0032】
覆工板1の係合部12に対しストッパー9が嵌り合うように係合することで、その横方向の位置ズレ(すなわち主桁3と平行な面上における覆工板1の位置ズレ)が防止される。ストッパー9は、突出構造物の一例である地覆材5が具備する構成であり、その詳細については後述する。
【0033】
覆工板1が具備する係合部12は、
図2に示す実施形態では一例として、ストッパー9が嵌合可能な切欠き部で構成されている。係合部12を切欠き部で構成する場合には、この切欠き部にストッパー9を嵌め合せたり差し込んだりすることで、両者が係合する。
【0034】
係合部12とストッパー9が互いに係合することで、これらが協動し、主桁3と平行な面上における覆工板1の位置ズレが防止される。つまり、覆工板1がストッパー9に引っ掛かって動かなくなる。
【0035】
また、本実施形態で利用する覆工板1の係合部12は、
図2に示すように、その隣接位置に敷設される他の覆工板1が具備する係合部12と組み合わさることによって、機能的にひとつの「組み合せ係合部14」を形成する。本実施形態において「組み合せ係合部」とは、2つの係合部12,12の組み合わせによって構成される部分(隣接する2つの切欠き部の組み合わせ)を指している。
【0036】
隣り合う2つの係合部12,12からなる「組み合せ係合部14」に対しストッパー9を係合させることによって、具体的には、「組み合せ係合部14」に対しストッパー9を差し込むことで、隣り合う覆工板1,1がストッパー9(地覆材5から突き出た凸状部材)に引っ掛かってその位置ズレが確実に防止される。
図4参照。
【0037】
なお、本実施形態では、一例として係合部12を覆工板1の四隅に形成しているが、係合部は覆工板1の端(エッジ部)に形成されていれば足り、必ずしも四隅に形成されている必要はない。また、両サイドに各1つの係合部を形成するといった態様を採用することも可能である。
【0038】
また、上記構成に加えて、本実施形態の覆工板1は、
図3A~
図3Cの断面図に示すように、ストッパー9(後述)の落下を防止するための底蓋部15(落下防止部)を具備している。
すなわち、本実施形態の覆工板1において、その上側には
図3A~
図3Cに示すように切欠き形状である係合部12が形成されているが、その下側(つまり係合部12の真下)には、切欠き形状は無く、底蓋部15(落下防止部)が設けられている。つまり、本実施形態の覆工板1には、底蓋つきの切欠きが設けられている。
底蓋部15(落下防止部)の機能作用については後述する。
【0039】
(突出構造物/地覆材)
突出構造物の一例である地覆材5(車止め)は、並行する複数本の主桁上に覆工板を敷設してなる桟橋などの構造体において用いられ、
図1に示すように、両端にある主桁3,3のそれぞれの上面において(主桁3の長手方向に沿って)固設される。
【0040】
本実施形態において地覆材5は、
図3Bに示すように一例として断面略コ字状の溝形鋼からなる本体(地覆材本体)を含んで構成され、その本体(溝形鋼)のウェブ6には、覆工板1が具備する係合部12と係合するストッパー9が溶接されている。本実施形態では、ウェブ6に対しストッパー9が接する部分の全長にわたって溶接されている。なお、ストッパー9の長さは図示するような形態に特に限定されず、例えば、後述する別の実施形態(
図7C、
図7E参照)の如く、ストッパーの長さを短くしてもよい。
【0041】
このストッパー9は、その機能(主桁上での覆工板1の位置ズレを防止するという機能)を発揮する状態では、覆工板1の方向に突き出るように地覆材5の本体(溝形鋼)に固定されている。図示する実施形態では、ストッパー9は、凸状部材であって、組み合わせ係合部14からなる凹部(切欠き部)に嵌合可能な最大サイズを有している。つまり、組み合わせ係合部14にストッパー9が係合することで、隣接する覆工板1,1の間にガタツキは無くなる。
【0042】
主桁3の上に敷設された覆工板1は、完成した桟橋の上を重機やトラックなどが走行したときにタイヤ等から外力を受けて、主桁3と平行な面上において位置ズレ(横滑り)を起こそうとする。
しかしながら、本実施形態の場合には、主桁3を横切る方向の動きは、両端で突き出ている地覆材5によって妨げられる。すなわち、地覆材5が、両端にある主桁3のそれぞれの上面に突き出した状態で長手方向に沿って固設されているので、主桁3を横切る方向の覆工板1の動きは、上方に突き出た地覆材5,5によって妨げられる。
また、主桁3の長手方向の動きは、ストッパー9によって妨げられる。すなわち、必要強度を満たす形状・サイズのストッパー9が、突出構造物である地覆材5に対し確りと溶接されているので、主桁3の長手方向の動きは、地覆材5に固設されたストッパー9によって妨げられる。つまり、覆工板1は、ストッパー9に引っ掛かっているため、外力を受けても主桁3の長手方向に動くことができない。
このように、本実施形態によれば、主桁3と平行な面上におけるあらゆる方向の動き(覆工板の動き、横滑り)が、地覆材5とそのストッパー9によって確実に妨げられている。
【0043】
したがって、ストッパー9は、覆工板1の上を重機やトラックなどが走行したときの外力を受けても破断しない強度を有し、また、破断しないように地覆材5に対して強固に溶接されている。
【0044】
なお、ストッパー9が短くて、地覆材5等の突出構造物に対する溶接長が短い場合には、ストッパーが破断し易くなることが想定される。このような場合に、仮にストッパーが破断して落下すると、構築している橋梁等の下に落下することになり、重大事故につながる危険性がある。
【0045】
これに対し、本実施形態の覆工板1では、
図3A~
図3Cに示すように、係合部12と向かい合う位置(覆工板の底部)は切り欠くこと無く残し、底蓋部15(落下防止部)として機能させている。これにより、仮にストッパー9が破断した場合でも、底蓋部15が在ることによって、それより下に落下すること無くその手前にストッパー9が留まり、橋梁等の下に落下することがなくなる。
【0046】
したがって、このような底蓋部15を覆工板1に設けることで、ストッパー9の落下に起因する重大事故を未然に防止することができ、やむを得ず溶接長の短いストッパーを使う場合などでも安全を確実に確保することができる。
【0047】
(覆工板敷設方法)
次に、桟橋を具体例に挙げて、覆工板敷設方法の具体的手順について説明する。
【0048】
はじめに、
図1、
図3Aに示すように、両端の主桁3,3間に架け渡すようにして、必要枚数の覆工板1を配置する。
【0049】
本実施形態で敷設する各覆工板は、
図1に示すように、覆工板単体が、両端の主桁3,3間に架設可能なサイズを有している。すなわち、幅員サイズとほぼ同サイズの一体構造の覆工板を両端の主桁間に架け渡す(すなわち幅員方向に架設する)。このような一枚構成の覆工板を、
図1に示すように、桟橋の主桁長手方向に複数枚敷き並べて敷設する。したがって、
図1に示すような覆工板を用いることで、幅員方向に覆工板を継ぎ合わせる必要がなく、該覆工板の両端エッジ部を主桁に固定するだけで足りるようになる。
【0050】
次に、
図3Bに示すように、並行する4本の主桁3のうち、両端(すなわち幅員方向の両側)にある主桁3,3の上フランジ4の上面側において、該主桁の上面側の長手方向に沿って地覆材5を配置する。
このとき、
図3B、
図4に示すように、地覆材5のストッパー9が、組み合わせ係合部14(隣り合う2つの係合部12,12)に確りと差し込まれた状態に至るように、地覆材5を主桁3の上に位置決めする。これにより、組み合わせ係合部14に対し地覆材5のストッパー9が係合した状態が確保され、また、両端にある主桁3,3のそれぞれの上面に突き出た地覆材5,5によって覆工板1が挟まれた状態(すなわち地覆材5,5の間に覆工板1が位置する状態)が確保される。
上記の状態が確保されたら、
図3Cに示すように、該主桁3の上面側の長手方向に沿って地覆材5の下フランジ7をボルト締結により固設する。これにより、ストッパー9が係合部12から外れることが無く、両者の係合状態が確実に維持される。
【0051】
なお、地覆材5の固設方法は、必ずしも
図3Cに例示するようなボルト締結に限定されるものではなく、溶接などの他の手段を利用して固設することも可能である。また、この地覆材5は、主桁3の上フランジ4の上面側に突設される突出構造物の一例である。
【0052】
以上の要領で、必要枚数の覆工板1を敷き並べるとともに、覆工板1の右サイドに地覆材5を取り付け、また、覆工板1の左サイドに地覆材5を取り付ける。これにより、並行する複数本の主桁上に覆工板を敷設する作業が完了する。
【0053】
【0054】
第2実施形態において、突出構造物の一例である地覆材5(車止め)は、ストッパー9に加えて、
図5、
図6A、
図6Bに示すような押さえ部材10を有している。その他の構成は、前述した実施形態と同様である。
【0055】
ストッパー9は、前述した実施形態と同様に、本体(溝形鋼)のウェブ6と接触する部分の全長にわたって、該ウェブ6に対し溶接されている。
【0056】
押さえ部材10は、敷設した覆工板1が動かないように押さえ付けるための部材であり、ウェブ6に対し溶接やボルトによって確りと固定される。この押さえ部材10は、例えば断面略L字状の球平形鋼で構成されている。
【0057】
地覆材5のウェブ6に固設された球平形鋼からなる押さえ部材10は、その盛り上がった凸部11が覆工板1の上下方向の動きを規制(邪魔)するように、地覆材5に対して固設される。この押さえ部材10は、単に覆工板1の上下方向の動きを妨げるように該覆工板に近接する位置に固設してもよいが、好ましくは、覆工板1に下向きの押し付け力を印加し続けるように該覆工板の上面側エッジ部に圧接した状態で地覆材5に固設することが好ましい。
【0058】
上述したとおり、
図5~
図6Bに示す押さえ部材10は、主桁3の上に敷設された覆工板1が少なくとも上下方向に動かないように、該覆工板の上面側エッジ部を押さえ付ける役割を担っている。したがって、敷設された覆工板1に対して下側から強風が吹きつけても、或いは、敷設された覆工板が振動などを受けても、該覆工板が持ち上がることがないので、通行の安全が確保される。
【0059】
したがって、本実施形態の地覆材5(車止め)では、
上下方向における覆工板の動きは、押さえ部材10によって規制され、また、
横における覆工板の動きは、ストッパーによって規制されるので、
本実施形態によれば、覆工板のぶつかり合いや接触などで発生する騒音を更に抑制することが可能になる。
【0060】
(第3実施形態)
第3実施形態を
図7A~
図7Fに示す。
本実施形態における覆工板敷設手順の概要は、
図7A~
図7Fに順に示すとおりである。
【0061】
第3実施形態で敷設する覆工板1は、前述した実施形態と同様に係合部12(切欠き部)を有しているが、
図7Aに示すようにその切欠き長さ(覆工板厚さ方向の切欠き長さ)は、前述した実施形態よりも短く設定されている。
図3Aと
図7Aを比較して参照のこと。
すなわち、本実施形態では
図7C・
図7Eに示すとおり、ストッパー9の全長が短く設定されており、そのため、覆工板1に形成する係合部12(切欠き部)は、短いストッパー9との係合関係を確保するのに必要最小限の切欠き長さを具備していれば足りる。そのため、本実施形態で覆工板1に形成する係合部12(切欠き部)は、その切欠き長さが前述した実施形態よりも遥かに短く設定されている。
このような特徴により、覆工板1に係合部12(切欠き部)を設けるときの加工の手間を大幅に省くことができ、係合部12(切欠き部)を簡単に形成できるようになる。
【0062】
また本実施形態では、押さえ部材10とストッパー9を一体的に具備する覆工板留め金具8を用いる。この覆工板留め金具8の取り付け対象である地覆材5(車止め)は、断面略コ字状の溝形鋼で構成されている。
【0063】
覆工板留め金具8の一部である押さえ部材10は、敷設した覆工板1が動かないように押さえ付けるための部材であり、例えば断面略L字状の球平形鋼で構成されている。
【0064】
また、覆工板留め金具8の一部であるストッパー9は、前述したとおり、前述した実施形態のものよりも短く形成されている。この短いストッパー9は、
図7C~
図7Eに示すとおり、押さえ部材10の底面に対し溶接されている。
【0065】
上述した押さえ部材10とストッパー9を具備する覆工板留め金具8は、覆工板を実際に敷設する状況に至った段階で、
図7C~
図7Eに示すように、覆工板の係合部12(切欠き部)にストッパー9を係合させつつ、覆工板留め金具8を地覆材5(車止め)に対し取り付ける。またその際には、覆工板留め金具8を、
図7C・
図7Eに示すように地覆材5(車止め)のウェブ6に対しボルト等を利用して固定される。
【0066】
このように、本実施形態では、覆工板を実際に敷設する状況に至った段階で覆工板留め金具8を地覆材5(車止め)に対し取り付けるので、施工前に資材を保管している段階では、地覆材5(車止め)にはストッパー9は付いておらず、また押さえ部材10も付いていない。すなわち、地覆材5(車止め)は、その本体である溝形鋼の形態のままで保管し運搬することができる。
【0067】
したがって、断面略コ字状の溝形鋼などからなる地覆材5(車止め)の製造上の工数と複雑さ(加工難度)が軽減されるので、製造コストを低く抑えることができるばかりでなく、多数保管するうえで嵩張ることが無く、また、地覆材5を傷めること無く限られた保管スペースでの管理・保全が容易になる。
【0068】
更に、地覆材5(車止め)と覆工板留め金具8(押さえ部材10、ストッパー9)を別部材として構成することにより、例えば、ストッパー9が一か所破損したとしても、ストッパー9部分(およびその本体となる押さえ部材10部分)を交換すればよく、その結果地覆材5は破損の影響を受けないため、修復費用がかからず、ランニングコストとなる保守費用の削減にも寄与する。
【0069】
また、押さえ部材10とストッパー9を具備する覆工板留め金具8を独立したひとつの金具として構成することで、需要に応じて覆工板留め金具だけを提供することができる。
【0070】
(その他の実施形態)
上述した実施形態は本発明の実施態様の一例であって、特許請求の範囲に記載の本発明を上記実施形態に限定する趣旨ではない。
【0071】
例えば、
図3B~
図4に例示した「覆工板1が具備する係合部12」、「地覆材5が具備するストッパー9」は、本発明の具体的実施形態の一例であって、これらに替えて例えば
図8や
図9に例示するような実施形態を採用することも可能である。
【0072】
図8、
図9に例示する実施形態では、覆工板1に形成する係合部12を、ストッパーが螺合可能な内ネジが形成されたボルト穴で構成している。このように係合部を「内ネジが形成された穴」で構成する場合には、このボルト穴(ネジ穴)に、ストッパー9として機能するボルトを螺合させることで、両者が係合する。
【0073】
また、本発明で利用可能な「係合部」や「ストッパー」は、上述した実施形態で採用したものに限定されるものではなく、本発明の効果・目的を達成できるものであれば、名称を問わずいかなる形状の部材でも利用できる。
【0074】
また、上述した実施形態では、主桁に突設する「突出構造物」の具体例として地覆材(いわゆる車止め)を挙げ、また、その具体的材料として溝形鋼を挙げたが、本発明で利用可能な突出構造物はこれに限定されるものではなく、本発明の効果・目的を達成できるものであれば、名称を問わずいかなる材料でも利用できる。
【0075】
また、上述した実施形態では、覆工板の敷設対象として桟橋の主桁を具体例として挙げたが、本発明の適用対象はこれに限定されるものではなく、覆工板の敷設が必要なその他の工事、例えば、地下鉄工事をはじめ、地下街の建設・地下配管工事など各種路面掘削工事開削工の上面を塞ぐ際に利用することもでき、また、仮設構台、人道橋などの床板設置の際にも利用することが可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 覆工板
2 横桁
3 主桁(梁/覆工受桁)
4 上フランジ
5 地覆材(突出構造物/突起状構造物/車止め)
6 ウェブ
7 下フランジ
8 覆工板留め金具
9 ストッパー(凸状部/ボルト)
10 押さえ部材
11 凸部
12 係合部(切欠き部/ボルト穴)
14 組合せ係合部
15 底蓋部(落下防止部)