(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】光電センサおよび光測距装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/486 20200101AFI20241007BHJP
G01C 3/06 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
G01S7/486
G01C3/06 120Q
(21)【出願番号】P 2020137786
(22)【出願日】2020-08-18
【審査請求日】2023-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000242600
【氏名又は名称】北陽電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】山本 明人
(72)【発明者】
【氏名】笠原 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】有馬 諭
(72)【発明者】
【氏名】百鳥 達裕
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-014535(JP,A)
【文献】特表2018-528437(JP,A)
【文献】特開2019-028060(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0069322(US,A1)
【文献】特開2011-117799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48- 7/51
G01S 17/00-17/95
G01C 3/00- 3/32
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視領域内の物体を検出する光電センサであって、
監視領域に向けて測定光を出力する投光部と、
測定光が物体に当たって拡散反射した反射光を電流信号に変換する受光部と、
前記受光部で変換した電流信号を電圧信号に変換する前置増幅器と、
前記前置増幅器の出力信号を第1増幅率A1で増幅する第1増幅器と、前記第1増幅器の出力信号を第1閾値Vth1で二値化する第1二値化回路を備えた第1信号処理系統と、
前記前置増幅器の出力信号を第2増幅率A2で増幅する第2増幅器と、前記第2増幅器の出力信号を第2閾値Vth2で二値化する第2二値化回路を備えた第2信号処理系統と、
前記投光部から出力される測定光の出力時期と、前記第1信号処理系統または前記第2信号処理系統から出力される二値化信号の立上り時期と、に基づいて前記光電センサから物体までの距離を算出する距離演算回路と、
前記第1信号処理系統から出力される二値化信号に基づいて前記距離演算回路で算出した第1距離と、前記第2信号処理系統から出力される二値化信号に基づいて前記距離演算回路で算出した第2距離と、の差分が所定の距離閾値未満の場合に前記第1距離を出力する出力選択回路と、
を備え、
前記第1閾値Vth1と前記第2閾値Vth2、および、前記第1増幅率A1と前記第2増幅率A2とが、以下の関係式
1<(Vth2/Vth1)<α=(A2/A1)
を満たすように設定されている光電センサ。
【請求項2】
前記出力選択回路が、前記第2距離が所定の遠隔距離閾値以上の場合に前記第2距離を出力する請求項1記載の光電センサ。
【請求項3】
前記二値化信号のパルス幅に基づいて前記距離演算回路で算出した距離を補正する距離補正回路を備えている請求項1または2記載の光電センサ。
【請求項4】
前記二値化信号のパルス幅が所定の閾値以上の場合に前記距離演算回路による距離の算出を許容し、前記パルス幅が所定の閾値未満の場合に前記距離演算回路による距離の算出を禁止する時間判定回路を備えている請求項
1から3の何れかに記載の光電センサ。
【請求項5】
前記第1信号処理系統および前記第2信号処理系統の双方から同時期に二値化信号が出力される場合に前記第1信号処理系統から出力される二値化信号を選択し、前記第2信号処理系統のみから二値化信号が出力される場合に前記第2信号処理系統から出力される二値化信号を選択して前記距離演算回路に出力する信号選択回路を備えている請求項
1から4の何れかに記載の光電センサ。
【請求項6】
第1信号処理系統の出力信号および前記第2信号処理系統の出力信号の双方を外部に出力する出力インタフェース回路を備えている請求項1記載の光電センサ。
【請求項7】
前記投光部から出力される測定光を所定方向に偏向する光偏向部、および/または、前記投光部から出力される測定光を所定方向に偏向走査する光走査部を備えている請求項
1から6の何れかに記載の光電センサを備えた光測距装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電センサおよび光測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、広いダイナミックレンジにわたって、受信信号を可能な限り信号に忠実に増幅することを目的とした、監視領域内の物体を検出するための光電センサが開示されている。
【0003】
当該光電センサは、光を発信するための発光器と、物体に当たって拡散反射された光を光電流に変換するための受光器と、前記光電流から導出される受信信号から物体の特性を測定するための評価部とを備え、前記受光器と前記評価部との間には、前記拡散反射光をより大きいダイナミックレンジで検出するために、より高感度の増幅器を有する高感度受信経路と、より低感度の増幅器を有する低感度受信経路とが設けられ、前記拡散反射光の強度に応じて、前記高感度受信経路または前記低感度受信経路において、前記受信経路に分割された光電流から前記受信信号を生成する。
【0004】
そして、少なくとも前記低感度受信経路がダイオードアレイを備えており、該ダイオードアレイの順方向電圧を用いて前記拡散反射光の強度の閾値が規定され、前記閾値を上回った場合のみ光電流が前記低感度受信経路を流れるように構成されている。
【0005】
上述の光電センサによれば、受信信号が、各個々の受信経路のダイナミックレンジより広いダイナミックレンジ内で、ほとんど情報を失わずに増幅される。順方向電圧を上回った場合のみ、電流が低感度受信経路の増幅器に流入し、受信出力が小さい場合は、光電流全体が高感度受信経路に導かれるので、感度損失が生じない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載された光電センサは、ダイオードアレイを備えた単一または複数の低感度受信経路と高感度受信経路の其々に高価なトランスインピーダンスアンプを備える必要があり部品コストが嵩むという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、複数のトランスインピーダンスアンプを用いることなく広いダイナミックレンジで適切に光を検出することができる安価な光電センサおよび光測距装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的達成をするため、本発明による光電センサの第一の特徴構成は、監視領域内の物体を検出する光電センサであって、監視領域に向けて測定光を出力する投光部と、測定光が物体に当たって拡散反射した反射光を電流信号に変換する受光部と、前記受光部で変換した電流信号を電圧信号に変換する前置増幅器と、前記前置増幅器の出力信号を第1増幅率A1で増幅する第1増幅器と、前記第1増幅器の出力信号を第1閾値Vth1で二値化する第1二値化回路を備えた第1信号処理系統と、前記前置増幅器の出力信号を第2増幅率A2で増幅する第2増幅器と、前記第2増幅器の出力信号を第2閾値Vth2で二値化する第2二値化回路を備えた第2信号処理系統と、前記投光部から出力される測定光の出力時期と、前記第1信号処理系統または前記第2信号処理系統から出力される二値化信号の立上り時期と、に基づいて前記光電センサから物体までの距離を算出する距離演算回路と、前記第1信号処理系統から出力される二値化信号に基づいて前記距離演算回路で算出した第1距離と、前記第2信号処理系統から出力される二値化信号に基づいて前記距離演算回路で算出した第2距離と、の差分が所定の距離閾値未満の場合に前記第1距離を出力する出力選択回路と、を備え、前記第1閾値Vth1と前記第2閾値Vth2、および、前記第1増幅率A1と前記第2増幅率A2とが、以下の関係式 1<(Vth2/Vth1)<α=(A2/A1)を満たすように設定されている点にある。
【0010】
投光部から出力された測定光が物体に当たって拡散反射した反射光が受光部で検出されて電流信号に変換され、当該電流信号が前置増幅器で電圧信号に変換されて第1信号処理系統と第2信号処理系統に入力される。第1信号処理系統では当該電圧信号が第1増幅器により第1増幅率A1で増幅された後に第1閾値Vth1の第1二値化回路で二値化されたパルス信号が出力される。同様に第2信号処理系統では当該電圧信号が第2増幅器により第2増幅率A2(A1<A2)で増幅された後に第2閾値Vth2(Vth1<Vth2)の第2二値化回路で二値化されたパルス信号が出力される。さらに、第1閾値Vth1と第2閾値Vth2、および、前記第1増幅率A1と前記第2増幅率A2とが、1<(Vth2/Vth1)<α=(A2/A1)との関係式を満たすように設定されるため、第1信号処理系統で二値化出力が得られないような低レベルの入力信号であっても第2信号処理系統で二値化出力が得られるようになる。
【0011】
距離演算回路は、測定光の出力時期と二値化信号の立上り時期つまり拡散反射光の検出時期とから光電センサと物体間の光の伝播時間を算出し、光の伝播時間と光の速度とに基づいて光電センサから物体までの距離を算出する。
【0012】
第1距離と第2距離との差分が所定の距離閾値未満の場合には、同一の物体からの拡散反射光である可能性が高いため、出力選択回路は適正に増幅された第1信号処理系統から出力される二値化信号に基づいて得られた第1距離を出力する。
【0013】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記出力選択回路が、前記第2距離が所定の遠隔距離閾値以上の場合に前記第2距離を出力する点にある。
【0014】
第2距離が所定の遠隔距離閾値以上の場合には、ゲインの小さな第1増幅器を備えた第1信号処理系統では正確な距離の算出が困難となると判断して、第1距離の算出の有無にかかわらず第2距離を出力することで、光電センサからの距離が短い範囲から長い範囲までの広範囲で精度の高い距離を出力できるようになる。
【0015】
同第三の特徴構成は、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記二値化信号のパルス幅に基づいて前記距離演算回路で算出した距離を補正する距離補正回路を備えている点にある。
【0016】
二値化信号の立ち上がりエッジは二値化回路へ入力される電圧信号の特性によって変動し、電圧信号のピーク値が高ければ急峻に立ち上がり、電圧信号のピーク値が低ければ緩やかに立ち上がる。そのため、二値化信号の立上り時期から立下り時期までの時間であるパルス幅に基づいて二値化回路へ入力される電圧信号のピーク値が推定できるようになる。そこで、距離補正回路は予め基準とされる電圧信号に対する二値化信号の立上り時期となるように各二値化信号の立上り時期に対する補正量を求め、補正量に対応する距離を補正距離として、距離演算回路で算出した距離を補正する。
【0017】
同第四の特徴構成は、上述した第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記二値化信号のパルス幅が所定の閾値以上の場合に前記距離演算回路による距離の算出を許容し、前記パルス幅が所定の閾値未満の場合に前記距離演算回路による距離の算出を禁止する時間判定回路を備えている点にある。
【0018】
受光部で検出された光に対応して得られた二値化信号のパルス幅が測定光のパルス幅に比べて非常に短い場合には外乱と判断することができる。そこで、時間判定回路は、二値化信号のパルス幅が所定の閾値以上の場合に真正な拡散反射光であると判断して距離演算回路による距離の算出を許容し、パルス幅が所定の閾値未満の場合に外乱と判断して距離演算回路による距離の算出を禁止する。
【0019】
同第五の特徴構成は、上述した第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記第1信号処理系統および前記第2信号処理系統の双方から同時期に二値化信号が出力される場合に前記第1信号処理系統から出力される二値化信号を選択し、前記第2信号処理系統のみから二値化信号が出力される場合に前記第2信号処理系統から出力される二値化信号を選択して前記距離演算回路に出力する信号選択回路を備えている点にある。
【0020】
ゲインの小さな第1増幅器を備えた第1信号処理系統と、ゲインの大きな第2増幅器を備えた第2信号処理系統から其々二値化信号が出力される場合には、第2信号処理系統に備えた第2増幅器にゲイン圧縮が生じて波形なまりが発生している可能性がある。そのため信号選択回路が第1信号処理系統から出力される二値化信号を選択することで、より正確な距離が得られるようになる。また、第2信号処理系統のみから二値化信号が出力される場合には、第1信号処理系統では二値化できなかった微弱な電圧信号に対してゲインの高い第2増幅器で適正に増幅されて得られた二値化信号を選択することで、微弱な電圧信号でも適正に距離を算出することができるようになる。
【0021】
同第六の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、第1信号処理系統の出力信号および前記第2信号処理系統の出力信号の双方を外部に出力する出力インタフェース回路を備えている点にある。
【0022】
出力インタフェース回路を介して第1信号処理系統の出力信号および前記第2信号処理系統の出力信号の双方を外部に出力することで、光電センサの使用者が光電センサの使用状況に応じて、臨機応変に第1信号処理系統と第2信号処理系統の各特性を考慮した距離演算を行なうことができる。
【0023】
本発明による光測距装置の特徴構成は、前記投光部から出力される測定光を所定方向に偏向する光偏向部、および/または、前記投光部から出力される測定光を所定方向に偏向走査する光走査部を備えている上述した第一から第六の何れかの特徴構成を備えた光電センサを備えた点にある。
【0024】
上述した何れかの特徴構成を備えた光電センサの投光部から出力される測定光を偏向または走査する光偏向部および/または光走査部を備えることにより、特定の方向に存在する物体までの距離を求める光測距装置が実現できる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、複数のトランスインピーダンスアンプを用いることなく広いダイナミックレンジで光を検出することができる安価な光電センサおよび光測距装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図3】増幅器の出力信号の大きさと二値化信号の関係説明図
【
図4】同一の入力信号に対する第1増幅器と第2増幅器の出力信号の説明図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明による光電センサおよび光測距装置の実施形態を説明する。
図1には、光電センサ1を備えた光測距装置200、および光電センサ1に組み込まれた信号処理回路100が示されている。光測距装置200は、透光窓を備えたケーシング(図中、破線で示す筒状体として例示されている。)Cに収容され、監視領域内の物体を検出する光電センサ1と、光電センサ1から出力される測定光を監視領域に向けて走査し、監視領域に存在する物体の表面から拡散反射された反射光を光電センサ1に導く光走査部10と、を備えている。
【0028】
光電センサ1は、ケーシングCに備えた透光窓を介して監視領域に向けて測定光を出力する投光部2と、投光レンズ15と、投光レンズ15で波形整形された測定光が監視領域に存在する物体に当たって拡散反射した反射光を集光する集光レンズ12と、集光レンズ12により集光された反射光を受光して電流信号に変換する受光部3と、受光部3で変換した電流信号を処理する信号処理回路100を備えている。信号処理回路100は、基板上にマウントされた複数の回路素子で構成され、実際にはケーシングCの底部などに収容される。
【0029】
光走査部10は投光部2から出力された測定光を監視領域に向けて偏向するとともに、物体からの反射光を受光部3に導く偏向ミラー11と、偏向ミラー11を回転軸P周りに回転駆動するモータ13と、モータ13の回転速度を検知するエンコーダ14を備えている。エンコーダ14は外周に所定間隔でスリットが形成され回転軸P周りに回転する円盤14Aと、円盤14Aに形成されたスリットを透過する光を検出する透過型のフォトインタラプタ14Bで構成されている。
【0030】
偏向ミラー11は回転軸Pに対して45度傾斜する姿勢で固定され、回転軸Pの軸心上に受光部3、集光レンズ12、投光部2、投光レンズ15が其々配置されている。投光部2から出力された測定光は、投光レンズ15を通過して平行光に波形整形された後に光ガイド16に沿って伝播し、偏向ミラー11で直角に偏向され、偏向ミラー11の回転とともに偏向走査されて監視領域に出力される。
【0031】
物体からの反射光が光ガイド16の周囲空間を伝播して偏向ミラー11に入射し、回転軸Pの軸心方向に偏向された後に集光レンズ12を通過して受光部3に入射する。投光部2として近赤外域のレーザー光を出力するレーザーダイオードが用いられ、受光部3としてアバランシェフォトダイオードが用いられている。
【0032】
信号処理回路100は、モータ駆動回路20、投光部駆動回路30、受光部駆動回路40、受光信号処理回路50、システム制御回路60、入出力制御回路70、メモリ80などを備えている。
【0033】
システム制御回路60はFPGAなどで構成され、モータ駆動回路20、投光部駆動回路30、受光部駆動回路40、受光信号処理回路50に対して制御するとともに測距演算を行ない、演算結果をメモリ80に格納する回路ブロックである。
【0034】
入出力制御回路70はメモリ80に格納された演算結果を読み出して必要な処理を行ない、イーサネット(登録商標)を介して外部装置との間で処理結果などの信号を遣り取りする回路ブロックである。なお、外部装置との間の通信インタフェースはイーサネット(登録商標)に限るものではない。
【0035】
モータ駆動回路20は、エンコーダ14からのパルス信号をシステム制御回路60に伝達し、システム制御回路60からの制御信号に基づいてモータ13を駆動する回路である。
【0036】
投光部駆動回路30は、システム制御回路60からの制御信号に基づいて投光部2を構成するレーザーダイオードをパルス駆動する回路であり、システム制御回路60はエンコーダ14からのパルス信号に基づいて偏向ミラー11の回転位置を把握するとともにレーザーダイオードの駆動タイミングを把握して投光部駆動回路30に制御信号を出力する。
【0037】
図2に示すように、受光部駆動回路40は、受光部3を構成するアバランシェフォトダイオードの駆動電圧を制御する回路で、受光部3の近傍温度を検知する温度センサSthと高圧発生回路を備え、システム制御回路60からの制御信号に基づいて高圧発生回路の出力電圧を調整する。システム制御回路60は温度センサの出力に基づいて受光部3の温度特性を補償するべく、高圧発生回路の出力電圧を所定電圧(本実施形態では約150V)近傍で可変制御する。
【0038】
図1,2に示すように、受光信号処理回路50は、反射光がアバランシェフォトダイオード3で光電変換された電流信号を処理する回路で、電流信号を電圧信号に変換するトランスインピーダンスアンプTIAを用いた前置増幅器51と、前置増幅器51の出力信号を第1増幅率A1で増幅する第1増幅器52と、第1増幅器52の出力信号を第1閾値Vth1で二値化する第1二値化回路53を備えた第1信号処理系統50Aと、前置増幅器51の出力信号を第2増幅率A2で増幅する第2増幅器54と、第2増幅器54の出力信号を第2閾値Vth2で二値化する第2二値化回路55を備えた第2信号処理系統50Bを備えている。
【0039】
アバランシェフォトダイオード3で光電変換された電流信号は抵抗分圧回路を介して分圧され、カップリングコンデンサを介して直流成分が除去された交流信号に変換された後に前置増幅器51に入力される。
【0040】
第1増幅器52はOPアンプを用いた反転増幅器AMP1で構成され、第2増幅器54はOPアンプを用いた反転増幅器AMP2(54A)と差動増幅器AMP3(54B)で構成される。第2増幅器54は単一の反転増幅器であってもよい。
【0041】
第1閾値Vth1と第2閾値Vth2は、以下の関係式を満たすように設定されている。
1<(Vth2/Vth1)<α=(A2/A1)
つまり、Vth1<Vth2<α×Vth1、1<α=A2/A1
これにより、第1信号処理系統50Aで二値化出力が得られないような低レベルの入力信号であっても第2信号処理系統50Bで二値化出力が得られるようになる。
【0042】
本実施形態では、前置増幅器51の増幅率が80dBに設定され、第1増幅器52の第1増幅率A1が16dB、第2増幅器54の第2増幅率A2が41dBに設定されている。第1増幅率A1に対する第2増幅率A2の真数表示での比の値α=A2/A1は、対数表示の増幅率の差の値(25dB(=41dB-16dB))に等しい。したがって、増幅率の比の値αは約17.8であり、1より大きい。
【0043】
また、第1閾値Vth1が0.16V、第2閾値Vth2が0.40Vに設定されている。第1閾値Vth1に対する第2閾値Vth2の真数表示での比の値は2.5であり、1より大きく、かつ、値αよりも小さく、上述の関係式が成立する。なお、第1閾値Vth1に対する第2閾値Vth2の対数表示での差の値は7.96dBであり、0dBより大きく、かつ、第1増幅率A1に対する第2増幅率A2の対数表示の増幅率の差の値(25dB)よりも小さい。
【0044】
つまり、第1信号処理系統50Aが低感度信号処理系、第2信号処理系統50Bが高感度信号処理系となる。前置増幅器51の出力信号が第1信号処理系統50Aと第2信号処理系統50Bとにそれぞれ供給されるので、低感度な第1信号処理系統50Aで二値化出力が得られないような低レベルの入力信号であっても、高感度な第2信号処理系統50Bで二値化出力が得られるようになる。
【0045】
システム制御回路60には、上述したモータ駆動回路20、投光部駆動回路30、受光部駆動回路40に対する制御に加えて、距離演算回路、距離補正回路、時間判定回路などを備え、入出力制御回路70には出力選択回路などを備えている。距離演算回路、距離補正回路、時間判定回路は、光走査部10の単位走査の度に作動して監視領域内の物体までの距離および走査角度を算出し、その結果をメモリ80に格納する。
【0046】
第1信号処理系統50Aに備えた第1二値化回路53、および第2信号処理系統50Bに備えた第2二値化回路55で二値化された信号がシステム制御回路60の距離演算回路に入力されて、距離演算回路に備えた時間ディジタイザ回路(Time-to-Digital Converter)により、投光部2に対する駆動信号の出力時期と光電変換された反射光の二値化信号の立ち上がり時期との時間差が算出され、当該時間差と光速に基づいて物体までの距離が算出される。また、エンコーダ14からのパルス信号に基づいて把握される各測定光の出力時の偏向ミラー11の回転位置(走査角度)から測定光の走査角度が求まるので、物体までの距離と方位が定まる。
【0047】
つまり、距離演算回路は、投光部2から出力される測定光の出力時期と、第1信号処理系統50Aまたは第2信号処理系統50Bから出力される二値化信号の立上り時期と、に基づいて光電センサから物体までの距離を算出するように構成されている。
【0048】
図3に示すように、増幅器52,54で増幅された反射光に相当する電圧信号は、グランドレベルから立上る立上り時期からその後にグランドレベルに立下る立下り時期までの時間ΔTが同一であってもピーク値が異なると其々に立上りの傾きが異なり、同じ閾値電圧Vthで二値化した場合でも、ピーク値の低い電圧信号に対する二値化信号はピーク値の高い電圧信号に対する二値化信号よりも立上り時期が遅くパルス幅も短くなる(
図3では、ピーク値の低い電圧信号に対する二値化信号のパルス幅をΔTL、ピーク値の低い電圧信号に対する二値化信号のパルス幅をΔTH、と表記している。)。
【0049】
従って、二値化信号の立ち上がり時期は二値化回路53,55へ入力される電圧信号の特性によって変動し、電圧信号のピーク値が高ければ急峻に立ち上がり、電圧信号のピーク値が低ければ緩やかに立ち上がる。そして、二値化信号の立上り時期から立下り時期までの時間であるパルス幅と、本来反射光が到達した時点t0から二値化信号の立ち上がり時点までの時間差との間に所定の相関関係がある。そのため、任意の二値化信号のパルス幅(例えばΔTL,ΔTH)に基づいて本来反射光が到達した時点t0から二値化信号の立ち上がり時点までの時間差(例えばdt1,dt2)を推定することができる。
【0050】
そこで、上述の相関関係に基づいて任意の電圧信号に対する二値化信号のパルス幅から本来反射光が到達した時点t0までの時間差dtを求める補正テーブルを予め準備しておくことにより補正量(時間差dt)が求まる。なお、補正テーブルに代えて補正式を用いることも可能である。
【0051】
実際には、光測距装置200に備えた投光部2、受光部3、回路素子の部品ばらつきや機械公差の影響を排除するために、ケーシングCに収容され基準距離が既知の基準反射板からの反射光に対する電圧信号を基準電圧信号として検出し、投光部2に対する駆動信号の出力時期と基準電圧信号を二値化した立上り時期との時間差から求まる距離が基準距離となるように、当該基準電圧信号の立上り時点t0に対する時間差dtを補正する補正係数が求められ、当該補正係数で上述した補正テーブルの各補正量(時間差dt)が補正される。
【0052】
距離補正回路は、任意の二値化信号に対して補正テーブルから補正量(時間差dt)を求め、上述した補正係数で補正した補正量に基づいて補正距離を算出し、上述の距離演算回路で算出した距離を増減補正する。なお、距離補正回路は、第1信号処理系統50Aに対する補正テーブルと、第2信号処理系統50Bに対する補正テーブルと、をそれぞれ別に備えてもよい。
【0053】
時間判定回路は、二値化信号のパルス幅が所定の閾値以上の場合に距離演算回路による距離の算出を許容し、二値化信号のパルス幅が所定の閾値未満の場合に距離演算回路による距離の算出を禁止するように構成されている。
【0054】
受光部3で検出された光に対応して得られた二値化信号のパルス幅が測定光のパルス幅に比べて非常に短い場合には外乱と判断することができる。そこで、時間判定回路は、二値化信号のパルス幅が所定の閾値以上の場合に真正な拡散反射光であると判断して距離演算回路による距離の算出を許容し、パルス幅が所定の閾値未満の場合に外乱と判断して距離演算回路による距離の算出を禁止する。所定の閾値として測定光のパルス幅の0.2倍~0.4倍の範囲の値を設定することが好ましいが、この値に限るものではない。少なくとも測定光のパルス幅より短い値に設定されていればよい。
【0055】
このようにして、第1信号処理系統50Aおよび第2信号処理系統50Bを経て入力された各二値化信号に対して物体までの距離および方位が其々算出される。さらに、算出された各値がフィルタ処理されて、検出対象として適正な物体と判定された距離および方位がメモリ80に格納される。
【0056】
フィルタ処理として、隣接する走査方向に沿って所定数以上連続して物体が検出され、且つ、各距離の差分が所定値以内であれば有効な物体であると判定し、それ以外であればノイズとして除去するようなサイズ判定フィルタなどを採用することができる。このような処理により雨滴や霧などの外乱を排除することができる。
【0057】
入出力制御回路70に備えた出力選択回路は、単位走査周期ごとにメモリ80に書き込まれた距離および方位を読み出して、第1信号処理系統50Aに対応する第1距離と第2信号処理系統50Bに対応する第2距離との差分を算出し、差分が所定の距離閾値未満の場合、つまり同一物体と判断できる場合に第1距離を外部機器に出力する。
【0058】
第1距離と第2距離との差分が所定の距離閾値未満の場合には、同一の物体からの拡散反射光である可能性が高いため、出力選択回路は適正に増幅された第1信号処理系統から出力される二値化信号に基づいて得られた第1距離を出力し、第2距離が所定の遠隔距離閾値以上の場合には、ゲインの小さな第1増幅器を備えた第1信号処理系統では正確な距離の算出が困難となると判断して、第1距離の算出の有無にかかわらず第2距離を出力することで、光電センサからの距離が短い範囲から長い範囲までの広範囲で精度の高い距離を出力できるようになる。
【0059】
また、出力選択回路は、第2距離が所定の遠隔距離閾値以上の場合に第2距離を出力するように構成されている。低感度な第1信号処理系統50Aでは検出できなかった遠方の物体であっても、高感度な第2信号処理系統50Bでは検出できるためである。
【0060】
さらに、出力選択回路は、検出された物体までの距離が予め設定された近距離閾値未満となる場合に出力しない近距離除去機能を備えている。これにより、ケーシングCの汚れに起因した反射光を有効な物体として出力するようなことが回避される。近距離閾値は、低感度な第1信号処理系統50Aと高感度な第2信号処理系統50Bで、各々個別の値に設定してもよい。
【0061】
図4には、ある走査角度で出力した測定光に対応して第1信号処理系統50Aに備えた第1増幅器52の出力信号と第2信号処理系統50Bに備えた第2増幅器54の出力信号が示されている。ケーシングCの汚れに起因した反射光に対する近距離信号、第1エコー信号、第2エコー信号、第3エコー信号が示されている。
【0062】
このような場合に、上述した出力選択回路により、近距離閾値未満となる汚れに対応する信号は排除され、ほぼ同距離にある第1エコーや第2エコーは第1信号処理系統50Aに備えた第1増幅器52の出力信号を二値化した信号に基づいて距離が求められ、遠距離閾値以上となる第3エコーは第2信号処理系統50Bに備えた第2増幅器54の出力信号を二値化した信号に基づいて距離が求められる。なお、
図4に示すように、第2増幅器54により増幅された第1エコーや第2エコーの信号波形は過飽和しているため、正確な距離を算出することが困難となる。
【0063】
なお、上述したフィルタ処理により第1エコーが無効な物体、例えば雨や霧に対応する信号であると判断する場合には第1エコーは無効な信号と判断して出力を回避するように構成される。その他衝突防止のため、近距離の第1エコーの距離を優先して処理するシステムや、細い物体の背後にある物体の検知のため第2エコーを利用するシステムなど、目的に応じて適宜各種フィルタ処理と組み合わせてエコーを選択・利用するシステムが可能である。
【0064】
以下、別実施形態を示す。
上述した実施形態で説明した出力選択回路の機能をシステム制御回路60に備えてもよい。具体的に、第1信号処理系統50Aおよび第2信号処理系統50Bの双方から同時期に二値化信号が出力される場合に第1信号処理系統50Aから出力される二値化信号を選択し、第2信号処理系統50Bのみから二値化信号が出力される場合に第2信号処理系統50Bから出力される二値化信号を選択して距離演算回路に出力するように構成すればよい。双方から同時期に二値化信号が出力される場合とは、二値化信号の立ち上がりエッジの時間差が所定の許容範囲に入る場合をいう。
【0065】
上述した実施形態では、光電センサ1に備えた投光部2から出力される測定光を所定方向に偏向走査する光走査部10を備えた光測距装置200について説明したが、投光部から出力される測定光を所定の一方向に偏向する光偏向部を備えた光測距装置を構成することも可能である。
【0066】
上述した実施形態では、光測距装置200に組み込まれた光電センサ1を説明したが、単独の光電センサ1であってもよい。
【0067】
光電センサ1に備えた第1信号処理系統50Aの出力信号および第2信号処理系統50Bの出力信号の双方を測定光の出力時期を示す信号と共にそのまま外部に出力する出力インタフェース回路を備えてもよい。光電センサ1の使用者が光電センサの使用状況に応じて、臨機応変に第1信号処理系統と第2信号処理系統の各特性を考慮した距離演算を行なうことができる。
【0068】
上述した実施形態の受光信号処理回路50は、反射光がアバランシェフォトダイオード3で光電変換された電流信号を電圧信号に変換するトランスインピーダンスアンプTIAを用いた前置増幅器51を備え、前置増幅器51の出力信号が第1信号処理系統50Aと第2信号処理系統50Bとにそれぞれ供給されるが、前置増幅器51の出力信号を第n増幅率Anで増幅する第n増幅器と、第n増幅器の出力信号を第n閾値Vthnで二値化する第n二値化回路を備えた第n信号処理系統50nをさらに備えていてもよい(n:3以上の整数)。
【0069】
第(n-1)信号処理系統と、第n信号処理系統とは、第(n-1)閾値Vth(n-1)と第n閾値Vthn、並びに第(n-1)増幅率A(n-1)と第n増幅率Anとが以下の関係式を満たすように設定されていればよい。
1<(Vthn/Vth(n-1))<α=(An/A(n-1))
これにより、第(n-1)信号処理系統で二値化出力が得られないような低レベルの入力信号であっても第n信号処理系統で二値化出力が得られる。
【0070】
また、第n信号処理系統50nは、低感度の第1信号処理系統50Aと、高感度の第2信号処理系統50Bとの間の中間感度の処理系統として設けられてもよい。少なくとも、第1信号処理系統50Aと第2信号処理系統50Bとが関係式 1<(Vth2/Vth1)<α=(A2/A1)を満たしていればよく、前置増幅器51の出力信号を第n増幅率Anで増幅する第n増幅器と、第n増幅器の出力信号を第n閾値Vthnで二値化する第n二値化回路と、を備えていればよい。
【0071】
上述の実施形態は何れも本発明の一実施例に過ぎず、当該記載により本発明の範囲が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明による作用効果を奏する範囲において適宜変更することができることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、複数のトランスインピーダンスアンプを用いることなく広いダイナミックレンジで光を検出することができる安価な光電センサおよび光測距装置を実現できる。
【符号の説明】
【0073】
1:光電センサ
2:投光部
3:受光部
10:光走査部
11:偏向ミラー
12:集光レンズ
20:モータ駆動回路
30:投光部駆動回路
40:受光部駆動回路
50:受光信号処理回路
50A:第1信号処理系統
50B:第2信号処理系統
51:前置増幅器
52:第1増幅器
53:第1二値化回路
54:第2増幅器
55:第2二値化回路
60:システム制御回路
70:入出力制御回路
80:メモリ
100:信号処理回路