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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】風車ブレードの避雷装置
(51)【国際特許分類】
   F03D 80/30 20160101AFI20241007BHJP
   H05F 3/04 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
F03D80/30
H05F3/04 F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020147477
(22)【出願日】2020-09-02
(65)【公開番号】P2022042182
(43)【公開日】2022-03-14
【審査請求日】2022-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 生吾
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 誠
(72)【発明者】
【氏名】箕田 充志
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-040280(JP,A)
【文献】米国特許第08449259(US,B1)
【文献】特開2005-299620(JP,A)
【文献】特開2012-149569(JP,A)
【文献】特開2013-194645(JP,A)
【文献】特開2017-098008(JP,A)
【文献】特開2007-100658(JP,A)
【文献】特表2018-538172(JP,A)
【文献】特許第5565529(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 80/30
H05F 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FRP部材よりなるブレード(6)の先端部周面にレセプター(7)を設置し、該レセプター(7)の外周位置に受雷時の雷電流をレセプター(7)に誘導する誘導シート(9)を配置した風車ブレードの避雷装置であって、上記誘導シート(9)をテープ状の炭素繊維強化プラスチックとし、レセプター(7)を中心として所定角度間隔で放射状に複数個配置し、ブレード(6)の表面に接着固定してなる風車ブレードの避雷装置。
【請求項2】
レセプター(7)の外周と誘導シート(9)のレセプター側の端部との間に放電スペースとなるギャップ(G)を設けてなる請求項1に記載の風車ブレードの避雷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、風車ブレードの避雷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来風車ブレードの先端部表面に設けた金属製のレセプター(受雷部)に対して、金属製又はマスキングテープ等の非導電性テープをレセプター外周に向って導く避雷装置が特許文献1等によって知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5789826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献の発明は誘導シートの周縁とブレード表面に段差を設け又はブレード表面に溝状の高低差(誘導溝)を形成し、この段差や表面の高低差の部分に雷電流を誘導するため、必ずしも高低差部分が導電性を備えることは必要ないものの、この高低差部分に雨水が溜ることによって雷電流の誘導性能が高まることを期待しているように、誘導シート自体が導電体であることが望ましいことは明らかである。
【0005】
他方、従来誘導シートとしては、ブレードの重量化を避けるために低比重(低重量)で導電性に富んだアルミテープ等の金属テープが用いられているが、金属テープを装着するにはブレード先端の加工が必要である他、FRP製のブレード表面への金属テープの接着は金属部の劣化や剥離等を招くため耐久性が乏しいという問題がある。
また誘導溝を形成する場合も溝形成の加工が必要なため、いずれも加工コストが嵩むという点では共通する。
【0006】
さらにアルミテープを用いた場合、テープ自体及びFRP製ブレードへの接着剤の耐候性に乏しい他、強力な風圧の影響を受けて段差(エッジ)も摩耗により長期の形状保持が困難である。またブレード表面に誘導溝を形成した場合も溝断面の変形や長期使用によって溝内への付着物により効果の持続が難しいという難点がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の装置は、第1にFRP部材よりなるブレード6の先端部周面にレセプター7を設置し、該レセプター7の外周位置に受雷時の雷電流をレセプター7に誘導する誘導シート9を配置した風車ブレードの避雷装置であって、上記誘導シート9をテープ状の炭素繊維強化プラスチックとし、レセプター7を中心として所定角度間隔で放射状に複数個配置し、ブレード6の表面に接着固定してなることを特徴としている。
【0008】
第2に、レセプター7の外周と誘導シート9のレセプター側の端部との間に放電スペースとなるギャップGを設けてなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成される本発明によれば、誘導シートとして受雷を招き易く従来使用されることがなかったCFRPを使用することにより、次のような効果を奏する。
【0010】
(1)誘導シートが導電体であるため受雷時の雷電流の誘導が降雨の有無にかかわらず確実になる他、一般に軽量なFRPが使用されるブレードとの接着性や耐久性及び作業性にも優れ、取付けのためのブレード先端の下加工も必要なく比較的低コストで製造できる。
【0011】
(2)アルミ等の軽量金属と比較しても高強度且つ軽量(アルミより40%以下)で発電効率も向上する。特にアルミに比して熱伝導性も高く熱膨張性が低いためFRP製のブレードに対し、悪影響を及ぼすことがない他、加工性も良く汚れの付着が少なく汚れ落としや補修等のメンテナンスも行い易くなるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明が適用される発電用風車の全体正面図である。
図2】(A)は本発明の1実施形態を示す風車用ブレードの先端部拡大正面図、(B)は同じくブレード先端の避雷部の拡大断面図である。
図3】本発明における放電実験の方法を示すレセプターと誘導シートの配置正面図である。
図4】(A),(B)は図3の方法による交流放電の実験結果におけるレセプターと誘導シートの配置及びこれに対する放電電極(放電点)のy軸方向とx軸方向の配置位置毎の放電電圧の変化をそれぞれ示すグラフである。
図5】(A),(B)は図3の方法によるインパルス放電実験結果におけるレセプターと誘導シートの配置及びこれに対する方電極(放電点)のy軸方向とx軸方向の配置位置毎の放電電圧の変化をそれぞれ示すグラフである。
図6】(A)~(C)はいずれも図3の方法による交流放電が誘導状態(方向)を放電点位置毎に示す写真であり、(A)は図3における放電点(y=0,ギャップ10)、(B)は放電点2(y=25,ギャップ10)、(C)は放電点4(y=25、但しギャップ25)の場合をそれぞれ示す。
図7】(A)~(C)はいずれも図3の方法によるインパルス放電が誘導状態(方向)を放電点位置毎に示す写真であり、(A)は図3における放電点(y=0,ギャップ10)、(B)は放電点2(y=25,ギャップ10)、(C)は放電点4(y=25、但しギャップ25)の場合をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1図2(A),(B)は本発明の1実施形態を示し、風力発電装置(風車)1は、上下方向の支柱2と、発電機を内装するとともに支柱2の上端部に支持固定されたナセル3と、ナセル3に回転自在に軸支されて発電機に直結された前後方向の回転軸(図示せず)を備えたローター4と、回転軸の軸回りに所定ピッチ毎(図示する例では等角度ピッチ毎)に設置されたブレード6とを備えた風車である。
【0014】
該風車に設置された複数枚(図示する例では3枚)のブレード6は、正面視ローター4から放射状に延びる中空のFRP部材であって、前後方向の風を受けることにより、ローター4を自身の軸回りに回転作動させ、このローター4の回転動力が発電機に伝動されることにより、発電が行われる。
【0015】
前記発電装置は、前記ブレード6の先端部(回転軸から遠い側の端部)の前後(表裏)両面側にそれぞれに設けられる受雷部となるレセプター7と、該レセプター7の周辺に落雷した際の雷電流をレセプター7に誘導する誘導手段とを備え、前記レセプター7に落雷した際の雷電流(放電電流)は、ダウンコンダクター(避雷導線)8によりブレード6の内部とナセル3内と支柱2内を介してアース接続される。
【0016】
上記レセプター7は、アルミ合金その他の金属部材よりなる直径100mm程度の円板状のデスクであり、ブレード6の先端表面に装着され、中空のブレード内部に設けられたブロック状の金属部材にボルト締着等により締着固定されており(いずれも図示せず)、さらにブレード内のダウンコンダクター8に接続される。
【0017】
上記レセプター7の外周位置には、所定間隔のギャップGを介して複数本(本例では8本)のテープ状の誘導シート9が放射状に且つ等角度間隔にブレード6の表面に接着固定され、ブレード表面に沿って配置されている。レセプター7と誘導シート9は接続又は近接させても良いが、境界部や周縁下に溜った水分の落雷時の雷電流による水蒸気爆発を防止するため、所定範囲のギャップGを設けることが望ましく、ギャップGを設けた場合の落雷時の放電の誘導性能については、後述する実験により確認される。
【0018】
上記誘導シート9は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製であり、この例では厚み0.5~1.0mm、幅30mmのものが使用されており、長さを含めこれらの寸法はブレード6の幅とレセプター7の設置位置に応じて図2に示す配置形態に応じて決められる。またそれ自体がFRPの一種である誘導シート9は、シート自体及びブレード6のFRPのプラスチックと馴染み易い接着剤を使用することにより、ブレード6と一体的に固着され、強力で耐久性のある接着力が得られる。
【0019】
ちなみにCFRPは軽量で抗張力が鉄の約2.6倍(アルミ合金の約5倍以上)あるため、車両や航空機,ラジコン,ロボット等の機体材料として注目されているものの、導電体であるため風車ブレードの材料としては落雷を招き易く、一般的にはその使用が避けられている。
【0020】
しかしCFRPは導電性があり、熱伝導率が高く熱膨張率が低い他、外力や外部環境による変形や劣化が少なく、さらにFRP製ブレードに対しては接着強度や接着の耐久性、耐候性等に優れているので、外気や風雨に曝される風車ブレード表面に接着する避雷装置の材料としては最も適しているものと考えられる。
【0021】
次に本発明の避雷装置の避雷機能の効果確認実験につき、図3図7に基いて説明する。
図3は、本発明のブレード6に相当するFRP製の平板16の表面にアルミテープからなるレセプター7を貼着固定して(図示しない)ダウンコンダクターに接続し、レセプター7上縁から縦(y軸)方向にギャップGを介して、左右(x軸方向)幅30mm程度のCFRP製テープからなる誘導シート9を貼着配置している。
【0022】
これに対し、誘導シート9の左端から左方向(x軸方向)に25mm離れた位置で且つ誘導シート9の下端から縦軸(y軸)方向に25mmずつ離した印加点1~4と、レセプター7(GND)上端から印加点を変化させて高電圧を印加した場合の印加点に対応した電圧及び放電の誘導方向を確認するものである。尚、レセプター7と誘導シート9の寸法及びこれらの配置関係は前記実施形態と略同一スケールで行った。また、誘導テープ9は一般に使用されているものを使用したので、スペックは明らかではないが、導電性やFRPとの接着固定性等を考慮して任意に選択できる。
【0023】
1.交流放電について
1-1.実験方法
次の条件で交流電圧を印加し、各点の放電電圧の変化と誘導方向を観察した。
(1)放電電極・・・針電極
(2)印加点 ・・・印加点1,2,3,4の各点
(3)各印加点の位置
イ.x軸方向・・・各点共レセプター左側辺より25mmの位置

ロ.y軸方向・・・ギャップG(レセプター7の下端)より各25mmずつプラス変化 (印加点1・・・G=25mm,同2・・・50mm,同3・・・7 5mm,同4・・・100mm)
(4)印加回路・・・各点5回(平均値採用)
【0024】
1-2.実験結果
図4(A)は各印加点1~4のギャップGの距離(幅)10,15,20,25(mm)毎の放電電圧の変化を、同図(B)は印加点のレセプター7(GND)からの距離の変化と放電電圧の関係を示している。
上記結果から、レセプター7に近い点では、ギャップGが大きいほど、また印加点がレセプター7から離れるほどそれぞれ放電電圧が大きくなり、飽和する傾向にあることが判明した。
【0025】
2.インパルス放電について
2-1.実験方法
各点に下記条件でインパルス電圧を印加し、各点での50%フラッシュオーバー電圧の変化と誘導方向を調べた。
(1)電極及び印加点・・・前記1.の交流放電と同一
(2)試験方法 ・・・昇降法
(3)印加回数 ・・・各点20回(平均値を採用)
(4)印加幅 ・・・2kV
【0026】
2-2.実験結果
図5(A)は、印加点1~4のギャップ幅10,15,20,25(mm)毎の放電電圧の変化、同図(B)は印加点のレセプター(GND)からの距離の変化と50%フラッシュオーバー電圧の関係を示している。
図5(A),(B)の結果からは、ギャップ幅が大きいほど50%フラッシュオーバー電圧が大きくなり、印加点がレセプターから離れるほど50%フラッシュオーバー電圧が大きくなって飽和する傾向にあることが判る。
【0027】
3.放電の誘導方向について
3-1.誘導シートへの放電が誘導された確率
前記実験において、誘導シートとレセプター間のギャップGを10,15,20,25(mm)とした各場合の誘導シートへの交流電圧及びインパルス電圧による放電の誘導の確率(%)を、図3に示す印加点1~4につき調べた結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1によれば、印加点がレセプターに近接すると、交流放電、インパルス放電ともに、直接レセプターに誘導され、レセプターから離れると誘導シートに誘導されることが確認できる。
【0030】
3-2.放電の誘導方向についての観察
図6(A)~(C),図7(A)~(C)は、針電極11を用いた交流電圧とインパルス電圧による印加点1,2,4における放電の誘導状態を示す写真であり、図中Gはギャップ幅(mm)を、yは印加点の誘導シート9の下端からの距離(mm)を示している。
【0031】
上記図6(A),(B)及び図7(A),(B)の放電の誘導方向は、いずれも前述した表1の記載内容と一致し且つその一部を示している。
【0032】
4.実験結果の考察
一般に風力発電機の風車では、回転の有無に関わらず殆どの落雷が風車の最上部、即ちブレードの先端で受雷されるため、レセプターもブレードの先端に設置される。本実験では風車ブレードに使用されるFRP板上のレセプター回りに、受雷時の雷電流をレセプターに誘導するCFRP製の誘導テープを異なるギャップを介して配置し、レセプター及び誘導テープに対する交流放電及びインパルス放電による高電圧の印加点の距離のわずかな違いに伴う雷電流の誘導性能の違いを比較した。
【0033】
その結果、ブレードに対して安定的且つ耐久性を持って接着固定できるCFRP製の誘導テープを用いた場合及び誘導テープとレセプター間にギャップを設けた場合でも、雷電流をレセプターに効果的に誘導できることが明らかになった。
【0034】
また、いずれの放電の場合も上記ギャップが大きい程、そして印加点がレセプターから離れる程放電電圧は高くなるが、風力発電機にとって大きな障害とはならないことも明らかである。
【符号の説明】
【0035】
1 風力発電装置
6 ブレード
7 レセプター
8 避雷導線(ダウンコンダクター)
9 誘導シート
G ギャップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7