(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】構造体
(51)【国際特許分類】
G01N 1/34 20060101AFI20241007BHJP
B01D 24/00 20060101ALI20241007BHJP
B01D 29/00 20060101ALI20241007BHJP
B05D 1/02 20060101ALI20241007BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20241007BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20241007BHJP
G01N 21/03 20060101ALN20241007BHJP
G01N 21/27 20060101ALN20241007BHJP
【FI】
G01N1/34
B01D29/00 Z
B05D1/02 Z
B05D3/00 B
G01N1/10 B
G01N21/03 Z
G01N21/27 A
(21)【出願番号】P 2020162727
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】内村 浩美
(72)【発明者】
【氏名】薮谷 智規
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/189005(WO,A1)
【文献】特表2014-529083(JP,A)
【文献】特開2011-095271(JP,A)
【文献】特開2009-288103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/34
G01N 1/10
B05D 1/02
B05D 3/00
B01D 24/00
G01N 21/03
G01N 21/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材
に設けられた該基材の表裏を貫通
する貫通孔を有する貫通孔領域部と、
前記基材に設けられた前記貫通孔領域部に連続
する液体供給部と、を有する本体部を備え、
該本体部の
基材は、
該基材内に形成された、前記液体供給部と前記貫通孔とを連通する、液体が毛細管現象によって通液可能な複数の空隙を有しており、
前記貫通孔は、
液体を表面張力によって保持し得る大きさに形成されている
ことを特徴とする構造体。
【請求項2】
前記本体部は、
前記基材が、
毛細管現象によって内部を通液可能な複数の透水性材料を備えている
ことを特徴とする請求項1記載の構造体。
【請求項3】
前記本体部は、
前記基材が、
毛細管現象によって内部を通液可能な複数の透水性材料と、該透水性材料間に配置された複数の不透水性材料と、を備えており、
前記空隙が、
前記透水性材料と前記不透水性材料によって形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の構造体。
【請求項4】
前記本体部は、
前記基材が、
ナノファイバーからなる複数のナノファイバー層と、該複数のナノファイバー層間に配置された不透水性材料と、を備えており、
前記空隙が、
前記ナノファイバー層と前記不透水性材料によって形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の構造体。
【請求項5】
前記本体部の基材は、
前記基材の表面に位置するナノファイバー層が、該ナノファイバー層を貫通する孔を有している
ことを特徴とする請求項4記載の構造体。
【請求項6】
前記本体部は、
前記基材が、裏面側に形状を保持するための形状保持層を有している
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の構造体。
【請求項7】
前記本体部には、
前記液体供給部における前記貫通孔領域側に液体拡散防止部材が設けられている
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の構造体。
【請求項8】
前記本体部には、
前記貫通孔領域部において、一方または他方の面にカバー部材が設けられている
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の構造体。
【請求項9】
前記カバー部材には、
前記貫通孔領域部の貫通孔が位置する箇所に孔が形成されている
ことを特徴とする請求項8記載の構造体。
【請求項10】
前記貫通孔の開口径が、50μm~2000μmである
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の構造体。
【請求項11】
前記基材が、ろ紙である
ことを特徴とする請求項2記載の構造体。
【請求項12】
液体をろ過するために用いられるろ過具を用いたろ過方法であって、
前記ろ過具が、
基材の表裏を貫通した貫通孔を有する貫通孔領域部と、該貫通孔領域部に連続した液体供給部と、を有する本体部を備え、該本体部は、前記基材内に、前記貫通孔に連通する、液体が毛細管現象によって通液可能な複数の空隙を有しており、前記貫通孔は、液体を表面張力によって保持し得る大きさに形成されている構造体であり、
該構造体の液体供給部に液体を供給し、該構造体の貫通孔に形成された液膜を吸引する
ことを特徴とする液体ろ過方法。
【請求項13】
前記液体が、体液である
ことを特徴とする請求項12記載の液体ろ過方法。
【請求項14】
前記液体が、血液である
ことを特徴とする請求項13記載の液体ろ過方法。
【請求項15】
液体噴霧具を用いて液体を噴霧する方法であって、
前記液体噴霧具が、
基材の表裏を貫通した貫通孔を有する貫通孔領域部と、該貫通孔領域部に連続した液体供給部と、を有する本体部を備え、該本体部は、前記基材内に、前記貫通孔に連通する、液体が毛細管現象によって通液可能な複数の空隙を有しており、前記貫通孔は、液体を表面張力によって保持し得る大きさに形成されている構造体であり、
該構造体の液体供給部に液体を供給し、該構造体の貫通孔に形成された液膜に対して空気を吹き付ける
ことを特徴とする液体噴霧方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体に関する。さらに詳しくは、医学や、生化学、薬学、化学、食品、環境、工学などの様々な分野に広く利用される構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、少量の液体を有効利用する技術の開発が様々な分野で進められてきている。例えば、医学分野においては、血液や尿などの体液から目的成分を定性して病気を簡易的に診断することが可能となってきている(特許文献1~5)。
【0003】
特許文献1には、フォトリソグラフィー法を用いて処理した多層構造を有する簡易分析チップが開示されている。このチップの流路の先端部には、各種発色性材料を備えた検出部が設けられており、試料中に分析成分が存在すれば検出部の発色度合いを目視で判断したり、反射光の変化量に基づいて試料中の目的成分の量を把握する旨の記載がある。
特許文献2~4にも同様の簡易分析チップや試験紙が開示されており、対象成分の存在量に応じた色調変化(比色法)、すなわち基材表面の反射光(散乱光)の変化量を目視や画像処理として数値化する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-230125号公報
【文献】特表2014-529083号公報
【文献】特開2013-53869号公報
【文献】特開2009-115822号公報
【文献】特開2013-148592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~5の技術は、あくまでも医学分野に特化した技術であり、他の分野(例えば、工学や環境、食品分野など)に利用できる技術ではなく、これらの文献には、他の用途に利用することも全く想定されておらず、このような記載や示唆もない。
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、少ない試料を様々な分野に用いることができる構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の構造体は、基材の表裏を貫通した貫通孔を有する本体部を備えており、該本体部は、前記基材内部に、前記貫通孔に連通する、液体が毛細管現象によって通液可能な複数の空隙を有しており、前記貫通孔は、液体を表面張力によって保持し得る大きさに形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の構造体によれば、本体部の液体供給部に液体の試料(以下、単に液体という)を供給すれば、供給した液体が基材内部を通って貫通孔内に液膜(液相ともいう)を形成させることができので、この液膜を所望の用途に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】
図1の本体部10のIIA-IIA線概略断面拡大図であり、(X)、(Y)は、基材10aを他の材質で形成した場合の概略説明図である。
【
図3】本実施形態の構造体1の概略平面説明図および概略断面説明図である。
【
図4】本実施形態の構造体1を分光分析用チップとして利用した概略説明図である。
【
図5】本実施形態の構造体1の貫通孔11hに形成される液膜Lfの液面形状の変化の概略説明図である。
【
図6】本実施形態の構造体1の貫通孔11hが楕円形状をしたものの概略説明図である。
【
図9】本実施形態の構造体1をろ過具として利用した概略説明図である。
【
図10】本実施形態の構造体1の概略説明図である。
【
図11】本実施形態の構造体1を液体噴霧具として利用した概略説明図である。
【
図12】実験1に使用した構造体1の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明の本実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態の構造体は、少量の液体を様々な分野に利用できるようにしたことに特徴を有している。
【0011】
明細書において液体とは、本実施形態の構造体の供給する際に流動性を有する液状のものであればとくに限定されない。例えば、液体に用いられる溶媒としては、水やアルコール、有機溶媒や工業的に使用される溶剤など様々な溶媒(単独または混合したものでもよい)を採用することができる。また、液体は、含有成分が溶解した状態のものであっても、分散した状態であっても、一部が沈殿した状態であっても、どのような状態でもとくに限定されない。例えば、血液や尿などの体液や、河川などの環境水、工場から排出される工場排水などのほか、人用や動物用などの様々な医療用の薬剤(液体状のものや粉体や固体状のものを水や溶剤などに溶解・分散したものなども含まれる)、食品、工業製品などを試料とすることができるが、これらに限定されないことは言うまでもない。
【0012】
本実施形態の構造体の特徴について詳細に説明する前に、まず、構造体の概略について説明する。
【0013】
(構造体1の概略)
構造体1は、液体が通液可能な基材10aを有する本体部10を備えており、この本体部10は、貫通孔領域部11と、液体供給部12と、を備えている。本体部10の基材10a内部には、液体が毛細管現象によって通液可能な複数の空隙10hが形成されている。そして、本体部10の貫通孔領域部11は、基材10aの表裏を貫通する貫通孔11hを有している。この貫通孔11hの内壁には、複数の空隙10hの開口が形成されている。つまり、基材10a内部に形成された空隙10hは、貫通孔11hに連通するように形成されており、空隙10hの開口が貫通孔11hの内壁面に位置するように形成されている。さらに、この貫通孔10は、液体を表面張力によって保持し得る大きさに形成されている。
【0014】
以上のごとき構成であるので、構造体1の液体供給部12に対して所望の液体Lを供給すれば、基材10a内の空隙10hを毛細管現象によって貫通孔領域部11まで移動させることができる。基材10a内には、液体Lが毛細管現象によって通液可能な微細な空隙10hからなる空隙ネットワークが形成されているので、液体Lはこの空隙ネットワークを移動しながら液体L中の不純物(夾雑成分)などが分離・除去されて貫通孔11hまで移動する。つまり、本体部10は、基材10aが有するフィルター機能により液体Lを液体供給部12から貫通孔領域部11まで移動させることができる。具体的には、基材10aが有するフィルター機能により液体L中に存在する複数の成分は、その大きさによって適切に篩分けされる。例えば、供給された液体L中に目的成分と不純物が存在する場合、液体L中の成分が目的成分と不純物に分離除去しながら、貫通孔領域部11まで移動させることができる。
【0015】
貫通孔領域部11まで到達した液体Lは、貫通孔11hの内壁面に形成された空隙10hの開口から貫通孔11h内に流入する。このとき、空隙10h内を通って空隙10hの開口に到達した液体Lは、まず、表面張力によって貫通孔11hの内壁に沿って貫通孔11hの内壁面に広がる。そして、貫通孔11hの内壁面を覆った液体Lは、貫通孔11hの中心に向かって広がる。貫通孔11hの中心に向かって広がる液体Lの膜は、空気の層を断面円形状にするように貫通孔11hの中心方向に向かって閉じ込めながら広がる。そして、最終的にこの空気の層がはじければ、中心に向かって広がった液体Lが連結して、貫通孔11h内に液体Lの膜(マクロ的には液膜Lfであり、ミクロ的には液相Lfともいえるが、以下では単に液膜Lfという)が形成される。この液膜Lfは、表面張力によって貫通孔11h内に保持されているので、貫通孔11hの表面開口11haおよび裏面開口11hbに保持層などを設けなくても貫通孔11h内において保持された状態を維持できる。そして、上記のごとく貫通孔11h内に形成させた液膜Lfは、様々な用途に用いることができる。詳細は後述するが、構造体1は、例えば、以下のような用途に利用することができる。
【0016】
分光分析機を用いて液膜Lfを分析すれば、液体L中の目的成分を分析することができる。つまり、構造体1は、分光分析用チップとして利用することができる。
また、貫通孔11に液膜Lfを形成した状態で本体部10の貫通孔領域部11の一方の面側から他方の面側に向かって空気などを吹き付ければ、他方の面側に向かって液膜Lfからなる液滴を噴霧することができる。つまり、構造体1は、液体噴霧具として利用することができる。
さらに、貫通孔11に形成した液膜Lfを吸引手段(例えば、ピペットなど)で吸引することにより、液膜Lの体積以上の液体Lを吸引することができる。つまり、構造体1は、液体Lをろ過するためのろ過具として利用することができる。
【0017】
貫通孔11hの数は、用途に応じて適宜調整することができる。例えば、1個でもよいし、複数個形成してもよい。なお、複数とは、2個以上を意味する。
【0018】
まず、本体部10の貫通孔領域部11に複数の貫通孔11hが形成されている場合について説明する。
【0019】
本体部10の基材10a内には、毛細管現象によって液体が通液可能な空隙10hが複数形成されている。このため、一の貫通孔11hに試料が供給されると、隣接する他の貫通孔11hにも自動的に液体Lを移動(つまり展開)させることができる。貫通孔11hに供給された液体Lは、表面張力によって貫通孔11h内に保持されて液膜Lfを形成する。そして、本体部10において、この現象が連続的に行われ、複数の貫通孔11h全体に液体Lの液膜Lfを形成させることができる。この液膜Lfを形成する液体Lの量は、貫通孔11hの大きさや液体Lの性状に依存するが、表面張力により液膜Lfが形成できる非常に少量(例えば1μL~150μL程度)である。
【0020】
このため、分光分析用チップとして構造体1を用いる場合には、貫通孔11hに形成された液膜Lfを分析すれば、液体L中の目的成分を定量することができる。しかも複数の液膜Lfから均質なデータを得ることができるようになる。つまり、一度の測定で、複数の液膜Lfのデータを解析することができるようになる。言い換えれば、分光分析に構造体1を用いれば、少ない試料量であっても、液体L中の目的成分を精度よく定量することができるようになる。
【0021】
また、液体噴霧具として構造体1を用いる場合には、均質な複数の液滴を対象物に対して噴霧することができる。さらに、液膜Lfが消滅したとしても消滅した液膜Lfの貫通孔11h内には、上記のごとく空隙10h開口から液体Lが連続的に供給されるので、すぐにつぎの液膜Lfが形成される。このため、液膜Lfを液滴状に噴霧する場合には連続した操作が可能となる。
しかも、液膜Lfを噴霧状に形成して利用する場合には、均質かつ小さな液滴を簡単に形成することができる。具体的には、上述したように構造体1の本体部10の貫通孔領域部11の一の面から空気などで吹き付けるだけの簡単な構造で上記のごとき液滴を形成することができる。
このため、噴霧の対象となる対象物に対して適切に液体Lを付着させることができる。このような噴霧の対象はとくに限定されない。しかも、本体部10の基材10a内を移動させることにより液体Lをろ過した状態の液膜Lfを形成させることができるので、噴霧対象に応じて液滴の質を調整することも可能となる。
さらに、構造体1を液体噴霧具として分析用機器や噴霧機器の一部に使用する場合には、ネブライザーとして機能させることが可能である。例えば、構造体1の本体部10の液体供給部12に液剤等を供給する構造にすれば、貫通孔11h内に連続的に液膜Lfを形成させることができる。そして、本体部10の貫通孔領域部11の一の面に向かって空気等を吹き付ければ、他方の面から液剤を霧状に噴霧することができる。しかも、貫通孔11hの大きさを調整すれば、液滴の大きさをコントロールすることができる。さらに、構造体1の素材を後述するろ紙等にすればコストも安くできるので、使い捨てタイプとして利用することも可能である。
【0022】
また、構造体1をろ過具として用いる場合には、貫通孔11hから本体部10によりろ過された液体Lを吸引手段(例えば、ピペット等)により吸引することにより連続した吸引が可能となる。具体的には、吸引手段により貫通孔11h内から液膜Lfを吸引すれば、この貫通孔11hの周囲の基材10a内部に存在する液体Lをこの貫通孔11hに誘導しながら連続した吸引が可能となる。このため、貫通孔11hに形成される液膜Lの体積以上の液体Lをより適切に吸引することができるようになる。
【0023】
つぎに、本体部10の貫通孔領域部11に1個の貫通孔11hが形成されている場合について説明する。
【0024】
貫通孔11hが1個の場合であっても複数の貫通孔11hが形成された場合と同様の用途に使用することができるので、用途に応じて適宜調整すればよい。
例えば、構造体1をろ過具として用いる場合には、貫通孔11hの周囲の基材10a内部に存在する液体Lをこの1個の貫通孔11hに誘導させやくなる。このため、複数個の貫通孔11hを形成した場合に比べて、液膜Lf状の液体Lの吸引時間を短くできる可能性がある。
【0025】
なお、上記例では、本体部10の液体供給部12に対して液体Lを供給する場合について説明したが、貫通孔領域部11の一の箇所に液体Lを供給しても上述した場合と同様に貫通孔11h内に均質に液体Lを展開して液膜Lfを形成させることができるのはいうまでもない。
【0026】
また、液体供給部12における液体Lの滴下箇所は、液体L中の不純物の量に応じて適宜調整すればよい。例えば、液体L中の不純物が少ない場合には、貫通孔領域部11に近い箇所に供給し、不純物が多い場合には、貫通孔領域部11からできるだけ離れた箇所に滴下すればよい。
【0027】
(構造体1の詳細)
つぎに、構造体1の構造を詳細に説明する。
【0028】
(基材10a)
構造体1の本体部10の基材10aは、板状の部材であり、内部に毛細管現象によって液体が通液可能な空隙10hが形成されていれば、材質はとくに限定されない。
基材10aは、透水性材料10bだけを備えた構成としてもよいし、透水性材料10bと不透水性材料10cとを備えた構成としてもよいし、ナノファイバーnfからなるナノファイバー層10dと不透水性材料10cとを備えた構成としてもよいし、透水性材料10bと不透水性材料10cとナノファイバー層10dとを備えた構成としてもよい。なお、各材質についての詳細は後述する。
【0029】
基材10aの厚みは、貫通孔11h内に形成される液膜Lfの分析に影響しない程度であれば、とくに限定さない。例えば、基材10aの厚み(基材10aの表面10saと裏面10sbとの距離)は、0.01mm~10mm程度となるように形成される。
【0030】
とくに、構造体1を分光分析用チップとして利用する場合、吸光光度法では、セルにおける光路長が長ければ通過する光の吸光量が多くなるので感度を高くすることができるから、液体L中の目的成分の濃度を適切に定量することができる。
このため、構造体1においても、同様に、光路長に相当する液膜Lfの液膜長さRを長くすることにより、液体L中の目的成分の定量をより適切に行うことができるようになる。しかしながら、光路長つまり貫通孔領域部11における厚さ方向の長さをあまり長くすると、透過光において、貫通孔11hの内面の材質に基づく影響が発生する可能性がある。具体的には、貫通孔11h内に展開した液膜Lfに基づく光吸収だけでなく、貫通孔11hの内面の材質に基づく照射光L1の吸収や散乱等による影響により、液膜Lf中の目的成分以外の透過光量の減少、すなわち測定への悪影響(感度の低下、測定精度の悪化)が発生する可能性がある。例えば、基材10aの材質にもよるが、本体部10の貫通孔領域部11における厚みが10mmよりも厚い場合、測定値において、基材10aの材質に基づく非特異な光の吸収が発生する可能性が生じる。一方、例えば、貫通孔領域部11における厚みが0.01mmよりも薄くなりすぎると、液膜Lfの液膜長さRが短くなる結果、光路長が短くなりすぎてしまい、液体L中の目的成分の濃度を適切に測定することができなくなる可能性がある。また、貫通孔領域部11における厚みが、上記値よりも薄くなると、貫通孔11hの形状が変化しやすくなる。
したがって、吸光光度法に基づく分析方法の観点では、構造体1は、本体部10の貫通孔領域部11における厚みが、例えば、0.01mm以上、10mm以下である。なお、厚みの下限値は、好ましくは0.05mm以上であり、より好ましくは0.1mm以上ある。また、厚みの上限値は、好ましくは5mm以下であり、より好ましくは3mm以下であり、さらに好ましくは1.5mm以下である。
【0031】
また、蛍光分光分析法に基づく場合も吸光光度法と同様に、貫通孔領域部11における厚みを厚くすれば、液膜Lfの液膜長さRを長く(つまり光路長を長く)できる一方、貫通孔11hの内面の材質に基づく影響が発生する可能性がある。具体的には、液膜Lfの液膜長さRを長くしすぎると(つまり貫通孔領域部11における厚みを厚くしすぎると)、透過光において、貫通孔11hの内面の材質に基づく影響が発生する可能性がある。より具体的には、貫通孔11h内に展開した液膜Lfに基づく光吸収だけでなく、上述した吸光光度法の場合と同様の測定への悪影響(感度の低下、測定精度の悪化)が発生する可能性がある。一方、貫通孔領域部11における厚みを薄くしすぎると、液膜Lfの液膜長さRが短くなる結果、光路長が短くなり、適切な蛍光強度を得られない。
したがって、蛍光分光分析法に基づく分析方法の観点では、構造体1は、本体部10の貫通孔領域部11における厚みが、吸光光度法に基づく場合と同様の範囲内となるように調製するのが望ましい。
【0032】
さらに、構造体1を色調分析に利用する場合、上述した吸光光度法や蛍光分光分析法と同様に、貫通孔領域部11における厚みを厚くすれば、液膜Lfの液膜長さRを長く(つまり光路長を長く)できる。そして、この液膜長さRが長くなれば、液膜Lf中の目的成分由来の吸光あるいは蛍光に基づく色調変化量を高くすることができる。一方、貫通孔領域部11における厚みを厚くしすぎると、透過光において、貫通孔11hの内面の材質に基づく光の影響が発生する可能性がある。具体的には、貫通孔11h内に展開した液膜Lfに基づく光吸収だけでなく、貫通孔11hの内面の材質に基づく光吸収の影響により、液膜Lf中の目的成分の濃度に基づかない色調変化や色調が暗くなるなど、色調変化を視認できにくくなる、すなわち測定への悪影響(測定精度の悪化)が発生する可能性がある。
したがって、色調分析法に基づく分析方法の観点では、構造体1は、本体部10の貫通孔領域部11における厚みが、吸光光度法に基づく場合と同様の範囲内となるように調製するのが望ましい。
【0033】
なお、上記例は、本体部10の貫通孔領域部11の厚みが液体Lを供給した際、基材10aの材質が膨潤等により変動しない場合について説明したものである。
具体的には、貫通孔11h内全体を満たすように液体Lを供給して、本体部10の貫通孔領域部11に形成された貫通孔11h内にほぼ均一な液膜Lfを形成する。このとき、液膜Lfの液膜長さRは、乾燥状態の貫通孔11hの貫通軸方向の長さ(つまり本体部10の貫通孔領域部11の厚み方向の距離)とほぼ同じ長さになる。一方、本体部10の基材10aの材質が、液体Lを吸収して膨潤等する場合には、液体Lを上述した場合に供給すれば、本体部10の貫通孔領域部11の厚み方向の距離は、乾燥状態よりも長くなる。このとき、基材10aの膨潤に伴い、貫通孔11hの貫通軸方向の長さも長くなる。
このため、液膜Lfの液膜長さRが長くなるので、光路長も基材10aが乾燥した状態の貫通孔11hの貫通軸方向の長さよりも長くなる。つまり、基材10aの厚みが薄くても、液体Lにより膨潤等を生じやすい材質を基材10aの材質として採用すれば、分析に適切な光路長を維持させることができるようになる。よって、基材10aの厚みを薄くしても、基材10aの材質を調整することにより、液体L中の目的成分の濃度を適切に定量することが可能となる。
なお、液体Lの性状により液膜Lfの液膜面Lsが凸状のメニスカス形状になる液体Lを供給すれば、液膜長さRをより長くできるので、光路長もより長くできる。
【0034】
(基材10aの大きさ、形状)
本体部10の形状や大きさは、分析に影響しない程度の形状や大きさであれば、とくに限定されない。
例えば、円形状、矩形状、放射形状、らせん形状など様々な形状を採用することができる。また大きさは、用途に応じて適宜調整すればよく、以下に記載の大きさや形状に限定されるものではない。
例えば、構造体1を分光分析用チップとして利用する場合、構造体1は、分光計SMにセットできる程度の大きさであればよく、液体噴霧具として利用する場合には、液体が噴霧し易い大きさとなるように形成すればよい。
また、本体部10の形状もとくに限定されない。例えば、一辺が0.1cm~5cm程度の正方形状に形成することができ、長方形状にした場合には、短辺が0.1cm~5cm程度、長辺が0.1cm以上10cm程度となるように形成することができる。さらに、円形状にする場合には、例えば、直径が0.1cm~5cm程度となるように形成することができる。
【0035】
(基材10a中の空隙10h)
本体部10の基材10aは、内部に上述した液体が毛細管現象によって通液可能な複数の空隙10hが形成されている。
この基材10a内部の空隙10hは、液体が毛細管現象によって通液可能となるように形成されていれば、その空隙の幅はとくに限定されない。例えば、空隙10hの幅が0.1μm~2000μm程度となるように形成することができ、より好ましくは0.2μm~1000μm以下である。そして、より好ましくは0.4μm~1000μm以下、さらに好ましくは1μm以上1000μm以下、さらにより好ましくは1μm以上200μm以下となるように形成する。
そして、基材10a内において、複数の空隙10hが、網目状に形成されている。つまり、基材10a内において、隣接する空隙10h同士が互いに連通するように複数の空隙10hが網目状に形成されている。言い換えれば、基材10a内には、液体が毛細管現象によって通液可能な微細な空隙ネットワークが形成されているのである。
【0036】
なお、基材10a中に占める複数の空隙10hの割合は、とくに限定されない。
例えば、基材10aの材質としては、透水性材料10bであるセルロース繊維からなる一般的に市販されている実験用のろ紙や、ろ布(フエルト)、不織布等を採用することができる。このような一般的な材質を用いて基材10aを形成した場合、その空隙率(ろ紙等の一定体積あたりの空隙10hの体積が占める割合)は、50%~95%程度である。
例えば、基材10aとしてろ紙を用いた場合、その材質にもよるが、セルロース系であれば60%~95%であり、シリカ系であれば90%、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系であれば50%~85%であり、ガラス系であれば80%~90%であり、レーヨン・ポリエステル系不織布であれば80%~90%である。
【0037】
基材10aは、上述したように、透水性材料10bだけを備えた構成、水性材料12と不透水性材料10cとを備えた構成、ナノファイバー層10dと不透水性材料10cとを備えた構成、全てを備えた構成など、様々な構成にできる。
以下、本体部10の基材10aの材質(透水性材料10b、不透水性材料10c、ナノファイバー層10d)をより具体的に説明する。
【0038】
(透水性材料10b)
透水性材料10bは、細い繊維fが束状になった繊維集合体であり、水などの液体をその内部に浸透させたり、または表面に沿って流したりできる性質を有するものであれば、とくに限定されない。
なお、基材10aは、透水性材料10bだけを用いてある程度の空隙率を有する構造にしてもよい。このような構造のものとしては、例えば、後述する市販のろ紙を挙げることができる。
【0039】
透水性材料10bとしては以下のような材質のものを採用することができる。
例えば、透水性材料10bを構成する繊維fとしては、セルロース繊維、繊維、麻繊維、パルプ繊維等の天然素材のもの(天然繊維)のほか、合成樹脂系材料(例えば、ポリエステルや、ナイロン、レーヨン、アクリル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ニトロセルロース、カーボンなど)を原料とした合成樹脂製の繊維(化学繊維)やスチールウール、銅、銀などを原料とした金属製の繊維(金属繊維)、ケイ素やチタンなど酸化物、マグネシウムなどの水酸化物、カルシウムなどの炭酸塩、バリウムなどの硫酸塩等の無機化合物系材料を原料とした繊維fなどを採用することができる。もちろん、上述したように2種以上を適宜混合したものも使用することができる。
【0040】
透水性材料10bは、複数の上記繊維fが束状になった集合体である。そして、透水性材料10bは、繊維f間に、基材10aの空隙10hより狭い幅を有する微細な隙間10bhを有している。この隙間10bhは、例えば、数μm~数十μm程度の幅を有している。このため、透水性材料10bは、水などの液体が接すれば、液体を繊維f間の微細な隙間10bhに浸透させることができる。一旦繊維f間に入り込んだ液体は、この隙間10bhを形成する繊維f表面と液体との表面張力等の相互作用によって自動的に隙間10bh内を移動する。つまり、透水性材料10bは、試料が接触すれば内部に浸透させて、毛細管現象により隙間10bhを移動させる機能を有している。
【0041】
基材10aが、上記のごとき透水性材料10bだけを複数用いて所定の空隙率を有する構造とする。この場合、基材10aの網目状の空隙10hは、透水性材料10b間に形成された複数の空隙10hと透水性材料10b内の複数の隙間10bhとによって形成される。このような構造を有する基材10aとし使用することができるものとしては、例えば、上述した、市販のろ紙(例えば、後述する実施例に記載のろ紙が挙げられる)や、ろ布(フエルト)、不織布などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0042】
なお、透水性材料10bには、透水性材料10b自体を製造する際に不純物として混入または意図的に混入させた微細な無機顔料などを含んでいてもよい。なぜなら、このような微細な不純物は液体Lが移動する流路の形成に寄与しないからである。
【0043】
(不透水性材料10c)
不透水性材料10cは、内部に水などの液体が浸透しない性質を有するものである。
不透水性材料10cは、基材10aにおいて、複数の透水性材料10b間に配置されるものである。
不透水性材料10cの材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)のほか、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などの合成樹脂製のもののほか、カーボン製、ガラス製、シリカ製、金属製、炭酸カルシウム製、二酸化ケイ素製などを挙げることができる。とくに、試料として血液など動物の体液を用いる場合、これらの液体と反応性の低いPET製の不透水性材料10cを使用するのが好ましい。
【0044】
不透水性材料10cの形状は、とくに限定されず、塊状や球状、短い繊維状等の種々の形状を有する材料を採用することができる。また、この不透水性材料10cは、繊維状のものを複数からまるように形成したものを採用してもよい。
不透水性材料10cの形状として繊維状を採用する場合、その大きさはとくに限定されない。例えば、繊維状の不透水性材料10cは、繊維径が10μm~500μm程度、繊維長が20μm~5mm程度のものや、繊維径が50μm~100μm程度、繊維長が50μm~1mm程度のものを用いることができる。
【0045】
基材10aが、上記のごとき繊維状の不透水性材料10cと透水性材料10bとを備えた構造とする。この場合、基材10a内に所定の空隙幅を有する空隙10hを形成し易くなる。そして、基材10aの網目状の空隙10hは、透水性材料10b同士間の空隙10h、透水性材料10bと不透水性材料10c間の空隙10h、不透水性材料10c同士間の空隙10h、および透水性材料10b内の隙間10bhと、によって形成される。このため、基材10a内により複雑な網目状の空隙10hが形成される。
【0046】
とくに、基材10aが不透水性材料10cと透水性材料10bを用いた構造とすれば、以下の利点を有する。
まず、基材10aが不透水性材料10cを備えている。この透水性材料13は、基材10a内において、複数の透水性材料10b間に配置される。しかも、この複数の不透水性材料10cは、基材10a中に不均一(ランダム)に存在する。
このため、基材10aの内部には、複数の網目状の空隙10hが形成される。つまり、基材10aの内部には、網目状の空隙ネットワークが形成される。そして、この網目状の空隙10hは、液体Lが流れるための空隙10hの幅(つまり流路幅)が、液体Lが流れる方向(流路方向)に向かってより変化する(不均一に変化する)ように形成される。
すると、液体Lを基材10aの貫通孔領域の近くに滴下すれば、滴下された液体Lは基材10a内部へ浸透して、複数の網目状の空隙11内を移動しながら貫通孔11hへ向かう。そして、液体Lは、この網目状の空隙10h内を移動している間に、不純物が分離・除去される。つまり、構造体1の本体部10の基材10aは、液体L中の不純物等を分離・除去するフィルター機能を有しているのである。
ついで、基材10aが透水性材料10bを備えている。この透水性材料10bは、その内部に、液体Lが毛細管現象により移動することができる複数の隙間10bhを有している。
したがって、基材10aは、不透水性材料10cと、透水性材料10bと、を備えることにより、内部に形成される上記空隙ネットワークをより複雑化させることができる。つまり、構造体1の本体部10の基材10aは、透水性材料10bを備えることにより、より高いフィルター機能を発揮することができるようになる。
【0047】
以上のごとく、構造体1を分光分析用チップとして利用する場合、本体部10の基材10aが有するフィルター機能は、つぎの順に高くなる。まず、透水性材料10bのみで基材10a形成する場合、ついで透水性材料10bと不透水性材料10cを用いて基材10aを形成する場合、そして後述するナノファイバー層10dと不透水性材料10cを用いて基材10aを形成する場合の順に高くなる。言い換えれば、基材10aは、内部の空隙10hの不均一さが、フィルター機能の高くなるのと同様の順に高くなる傾向にある。
このため、液体L中の目的成分を定量する際には、液体L中の不純物の量に応じて適宜本体部10の基材10a構造を調整することにより、液体Lの目的成分を適切に定量できるようになる。具体的には、不純物を多く含む液体Lを分析する場合には、透水性材料10bのみを用いて形成する基材10aよりも、透水性材料10bと不透水性材料10cを用いた基材10aや後述するナノファイバー層10dと不透水性材料10cを用いた基材10aを使用するのが好ましい。
【0048】
(透水性材料10bと不透水性材料10cの配合割合)
基材10aを構成する透水性材料10bと不透水性材料10cの配合割合は、上記フィルター機能を発揮することができれば、とくに限定されない。
例えば、両者の配合割合(質量割合)としては、例えば、透水性材料10b:不透水性材料10c=1:9~9:1となるように配合することができる。
【0049】
なお、上記例では、不透水性材料10cが透水性材料10bやナノファイバー層10d間に配置される構成の基材10aについて説明したが、基材10aを不透水性材料10cのみを用いて形成してもよい。具体的には、複数の繊維状の不透水性材料10cを絡まるようにしてろ紙のような構造の基材10aを形成してもよい。
【0050】
(ナノファイバー層10dと不透水性材料10c)
つぎに、基材10aが、ナノファイバー層10dと不透水性材料10cとを備える場合を具体的に説明する。
基材10aは、複数のナノファイバー層10dと複数の不透水性材料10cとを備えることにより、その内部に、複数のナノファイバー層10dと、この複数のナノファイバー層10d間に配置された複数の不透水性材料10cを有する構造になる。この複数のナノファイバー層10dには、後述するように、不透水性材料10cの影響により、表裏を貫通する孔が複数形成されている。
【0051】
基材10a内には、隣接するナノファイバー層10d間、ナノファイバー層10dと不透水性材料10c間、および隣接する不透水性材料10c間との間に複数の網目状の空隙10h(網目状の空隙ネットワーク)が形成されている。
この複数の不透水性材料10cは、複数のナノファイバー層10dによって束ねられるようにして配置されている。そして、複数の不透水性材料10cを束ねた構造にすることにより、隣接する不透水性材料10c間の距離を短くすることができる。このため、隣接する不透水性材料10c間の空隙10hの幅(流路幅)を小さくすることができる。
したがって、本体部10の基材10aは、ナノファイバー層10dと不透水性材料10cとを備えることにより、内部に形成される複数の空隙10hの流路幅をより複雑化させることができる。つまり、基材10a内に形成される上記空隙ネットワークをさらに複雑化させることができる。
よって、構造体1の本体部10の基材10aは、ナノファイバー層10dと不透水性材料10cとを備えることにより、より優れたフィルター機能を発揮することができるようになる。
【0052】
ナノファイバー層10dは、微細繊維であるナノファイバーnfから形成された膜状のものである。具体的には、ナノファイバー層10dは、複数のナノファイバーnfが絡み合って集合した集合体である。
ナノファイバー層10dを構成するナノファイバーnfとしては、合成樹脂製のものや天然素材のものを使用することができる。
【0053】
天然素材のものとしては、セルロースナノファイバーnfを挙げることができる。このセルロースナノファイバーnfは、その表面に多数の水酸基を有するので、一般的な合成樹脂製のナノファイバーnfに化学的に親水性の官能基を結合させたものに比べて親水性が高い。つまり、水に濡れやすいという性質を有する。
このため、このセルロースナノファイバーnfを用いたナノファイバー層10d(セルロースナノファイバー層10d、単にCNF層10Dということがある)を用いて基材10aを形成することにより、複数のCNF層10D間に形成された空隙10hで発生する毛細管作用をより向上させることができる。
したがって、基材10aが、複数のCNF層10Dを備えることにより、基材10a内部における液体Lの移動をよりスムースにさせることができるという利点が得られる。言い換えれば、基材10aが、複数のCNF層10Dを備えることにより、優れたフィルター機能を発揮しつつ、高い吸水機能を発揮するようになる。
【0054】
なお、このようなセルロースナノファイバーnfの大きさは、とくに限定されない。
例えば、平均繊維径が1~100nm程度、平均繊維長が100nm~1μm程度のものを使用することができる。
【0055】
基材10aを構成するナノファイバー層10dの原料となるナノファイバーnfと不透水性材料10cの配合割合は、とくに限定されない。
例えば、セルロースナノファイバーnfと不透水性材料10cを質量割合において、セルロースナノファイバーnf:不透水性材料10c=1:9~9:1となるように配合することができる。
【0056】
なお、ナノファイバーnfからなるナノファイバー層は、一般的には、水などの液体を通しにくい性質を有している。そして、このようなナノファイバー層だけで基材を形成すれば、基材表面で液体ははじかれてしまい、基材内部へ浸透させることはできない。
一方、構造体1の本体部10の基材10aは、ナノファイバー層10dの原料となるナノファイバーnfと不透水性材料10cを混合したものを用いて形成される。このため、基材10a内部および基材10a表面に配置されるナノファイバー層10dには、表裏を貫通する微細な孔が複数形成される。
したがって、本体部10の基材10aがナノファイバー層10dを有する構成であっても、液体Lの供給操作において、液体Lを基材10aの表面に滴下すれば、最外層(つまり基材10a表面)に位置するナノファイバー層10dにはじかれることなく基材10a内へ滴下した液体Lを浸透させることができる。
【0057】
また、上記例では、本体部10の基材10aが、透水性材料10bや不透水性材料10c、ナノファイバー層10dを有する構造について説明したが、基材10aの材質がこれらに限定されるものではなく、上述した空隙10h構造を有していれば、これら以外に様々な添加剤等を含んでもよい。例えば、液体L中の不純物を吸着するものや、着脱機能を有する顔料や、基材の濡れ性を制御するものなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0058】
(形状保持層10e)
構造体1の本体部10は、基材10a形状を保持するための形状保持層10eを有するようにしてもよい。
具体的には、本体部10は、表面側の基材10aと、この基材10aの下方に位置する基材10aよりも膨潤しにくい材質で形成された形状保持層10eを有する構造としてもよい。より具体的には、本体部10は、形状保持層10eの表面が上層の基材10aの裏面と接するように積層されかつ背面が本体部10の裏面として機能するように形成することができる。そして、この本体部10では、貫通孔11hが、基材10aと形状保持層10eを貫通するように形成されている。つまり、貫通孔11hの背面開口11hbが、本体部10の形状保持層10eの裏面に位置するように形成されている。
【0059】
例えば、基材10aが液体L中の溶媒等によって膨潤し易い添加剤等(例えば、アクリル酸ポリマーゲルなど)を含む場合、液体Lを供給すると、上記添加剤等によって基材10aが膨潤する可能性がある。基材10aが膨潤すれば、その応力が貫通孔11hに集中しやすくなる。
ここで、基材10aの膨潤に伴い、貫通孔11hの大きさ(例えば、貫通孔11hの開口が変化したり、貫通孔11hの長さ(貫通孔11hの表面開口面と裏面開口面との距離)が変化する可能性がある。かかる現象が生じれば、液体Lを複数の貫通孔11h内に供給して貫通孔11h内に液膜Lfを形成した際、液膜Lfの厚みにばらつきが生じる可能性がある。つまり、構造体1を分光分析用チップとして利用する場合、各貫通孔11hに形成された液膜Lfに基づく光路長がばらつく可能性がある。この状態で分光計SMに構造体1をセットして分析すれば、液体L中の目的成分の定量値にばらつきが生じる可能性がある。
しかしながら、上記のごとく構造体1の本体部10が形状保持層10eを有する構造とすれば、液体L供給に基づく基材10aの膨潤を形状保持層10eで抑制することができるようになる。このため、本体部10の基材10aが液体Lによって膨潤し易い添加剤等を含有する場合であっても、上記構造となるように形成すれば、液体L中の目的成分を適切に定量することができる。
【0060】
この形状保持層10eは、上述したように基材10aよりも膨潤しにくい材質で形成されていれば、とくに限定されない。
例えば、形状保持層10eは、膨潤しにくい紙製(例えば、耐水性を有する紙製)、プラスチックなどの樹脂製、木製、金属製、ガラスなどの板状の部材を空隙層11aに積層するように貼り合わせて形成してもよい。また、基材10aの裏面側から接着剤やプラスチックなどの樹脂やナノファイバー分散液などを含浸させて基材10aの裏面側に形状保持層10eを形成してもよい。
【0061】
形状保持層10eを上述した板状の部材を基材10aに積層するように貼り合わせて形成した構成とする場合、この板状の部材の外縁が基材10aの外縁よりも外方に向かって張り出した外縁部を有するように形成することができる。この場合、取り扱う際に、かかる外縁部を把持する部分として利用することができるので、コンタミネーションを防止つつ取り扱い性を向上させることができる。
【0062】
(貫通孔11h)
本体部10の貫通孔11hは、基材10aの表裏を貫通するように形成されていればよい。
例えば、貫通孔11hは、中心軸CLと基材10aの面方向が直交するように形成してもよく、交差するように形成してもよく、用途に応じて適宜調整すればよい。
例えば、構造体1を分光分析用チップとして利用する場合や液体噴霧具として利用する場合には、貫通孔11hは、中心軸CLが基材10aの面方向に対して略直交するように形成するのが好ましい。
具体的には、貫通孔11hは、基材10aの表面に形成された貫通孔11hの表面開口11haの中心と、基材10aの裏面に形成された貫通孔11hの裏面開口11hbの中心を結ぶ貫通孔11hの中心軸CLが基材10a面(表面10saおよび/または裏面10sb)に対して略直交するように、基材10aの表裏を貫通して形成されている。貫通孔11hの中心軸CLが基材面10sa、10sbに対して略直交するように形成することにより、詳細は後述するが、液体Lを分析する際の精度を向上させたり、噴霧方向の精度を向上させることができるようになる。
【0063】
なお、構造体1を分光分析用チップとして利用する場合には、構造体1の本体部10の貫通孔11h内に形成される液膜Lfの膜厚の長さRが、光路長に相当する。
【0064】
本明細書において、液体Lが複数の貫通孔11h内に略均一に展開されている、とは、各貫通孔11h内に略同じ量の液体Lが供給されて、各貫通孔11h内において略同じ膜厚の液膜Lfが形成された状態を意味しており、貫通孔11h内に展開された液体L量はとくに限定されない。
例えば、各貫通孔11h内全体が液体Lで満たされるように展開された状態や、液体Lが各貫通孔11h内の半分程度に展開された状態や、図示しないが、液体Lが各貫通孔11h内の三分の一程度に添加された状態などを挙げることができる。
【0065】
また、各貫通孔11hに展開された液体Lの液膜Lfの長さR(具体的には、液膜Lfの膜厚の厚さ方向の長さをいい、以下単に液膜長さRという)は、貫通孔11hの中心軸CLに沿って計測することができる。
例えば、液膜Lfの液膜長さRは、液膜Lfの上面Lsaと貫通孔11hの中心軸CLが交差する点Pと、液膜Lfの底面Lsbと貫通孔11hの中心軸CLが交差する点Qの距離で求めることができる。
例えば、液膜Lfの上面Lsaと基材10aの表面10saが略面一となり、液膜Lfの底面Lsbと基材10aの裏面10sbが略面一となるように貫通孔11h内全体が液体Lで満たされるように展開された場合、液膜Lfの液膜長さRと、貫通孔11hの軸方向の長さ(貫通孔11hの貫通軸方向の長さ)は略同じになる。言い換えれば、液膜Lfの液膜長さRは、基材10aの貫通孔領域における厚さ方向の距離と略同じになる。
【0066】
一方、液膜Lfの形状は、液体Lの性状により変化する。
例えば、液膜Lfは、液体Lの表面張力により上面Lsaや底面Lsbが凸状のメニスカス形状に形成されることがある。つまり、この液体Lの量が貫通孔11h内で満たされるように本体部10に供給すれば、液膜Lfの液膜長さRは、貫通孔11hの軸方向の長さよりも長くなる。なお、このような凸状のメニスカス形状を形成する液体Lとしては、水を溶媒とする水溶液のものを挙げることができる。
また、その逆に、液膜Lfは、液膜Lfの上面Lsaや底面Lsbが凹状のメニスカス形状に形成されることがある。そして、上記と同様にこの液体Lを貫通孔11h内全体に展開すれば、液膜Lfの液膜長さRは、貫通孔11hの軸方向の長さよりも短くなる。
【0067】
なお、明細書では、液体Lが貫通孔11h内に満たされた状態における、貫通孔領域部11の貫通孔領域の断面視において、液膜Lfの液面Ls(上面Lsa、底面Lsb)と基材面10s(表面10sa、裏面10sb)は、ほぼフラットな状態にあるという。つまり、上述したような液膜Lfの液面Lsと基材面10sが面一な状態はもちろん、液膜Lfの凸状または凹状に形成されているような状態も、本明細書におけるフラットな状態に含まれる。
とくに、構造体1をろ過具として利用する場合には、貫通孔11h内において、上記のごとく液膜Lfの表面が基材面10sとほぼフラットな状態となるように形成するのが好ましい。この場合、吸引時における空気の流入を抑制できるので、基材10a内をろ過しながら貫通孔11hまで移動させた液体Lをピペット等で吸引し易くなる。
【0068】
構造体1は、液体Lの供給量を調整することにより、本体部10の基材面10sに滞留層を形成させることができる。そして、この滞留層は、構造体1を分光分析用チップとして利用する際に利点として機能させることができる。以下、説明する。
【0069】
液膜Lfが上面Lsaや底面Lsbを凸状に形成する液体Lを複数の貫通孔11h内が満たされるように本体部10に供給した場合、液膜Lfの貫通孔11hの表面開口11haおよび/または裏面開口11hbから突出するように形成された凸状部が、隣接する他の凸上部と連結することがある。この現象が、複数の貫通孔11hに形成された液膜Lf全体で生じれば、基材10aの貫通孔領域の表面および/または裏面に液体Lが滞留した層(滞留層)を形成させることができる。
【0070】
構造体1を分光分析用チップとして利用する場合、この滞留層により光路長を長くできる。具体的には、液膜Lfの上面Lsaが基材10aの表面10saと面一となる場合に比べて長くできる。つまり、供給する液体L量を多くすることができる。そして、滞留層が形成されることにより複数の貫通孔11h内に確実に液膜Lfを形成させることができる。
このため、液体L中の目的成分を測定した際の感度を向上させることができる。しかも、複数の貫通孔11h内への液膜Lf形成がより適切に行われるので、液体L中の目的成分の定量値の精度をより向上させることができる。
したがって、基材10a表面に滞留層を形成させることにより、液体Lの目的成分を感度よく測定することがきるので、液体L中の濃度を精度よく安定して定量することができるようになる。とくに、構造体1の本体部10の基材10aに貫通孔11hが複数形成されていれば、同時に複数の液膜Lfから目的成分の濃度を算出することができるので、より精度の高い定量を行うことができるようになる
そして、構造体1で液膜Lfに使用される液体Lの量を非常に少なくでき、かつ複数の貫通孔11hを有する場合には均質な液膜Lfを形成できる。このため、試料量が少なく従来技術の分光分析法では分析に適さない試料であっても、構造体1を用いれば、液体L中の目的成分を適切に定量することができるようになる。
【0071】
貫通孔11h内に形成される液膜Lfは、貫通孔11h内に保持された状態である。つまり、液膜Lf自体の材質は、液体そのものである。
このため、従来技術のように試料をプラスチックやガラスなどセルで保持した際に生じるセルの材質に起因する照射光の吸収等の影響を抑制できる。例えば、従来のプラスチック製のセルでは、紫外域300nm以下で使用することができないし、有機溶媒や強酸を使用することができない。また、従来のガラス製や石英製のセルでは、強アルカリ溶液を使用することができない。
したがって、従来の技術のようにセルの材質の影響に基づく分析方法の選択を行う必要がなくなるので、分析の自由度を向上させることができるという利点も得られる。
【0072】
なお、本体部10の基材10aの貫通孔11h内に液体L中の目的成分と反応する検出材料を担持させてもよい。
この検出材料としては、液体L中の目的成分により抗原抗体反応や蛍光反応などを生じる様々な反応試薬を適宜選択し採用することができる。この場合、貫通孔11h内に液膜Lfが形成すれば、その液膜Lf中の目的成分と検出材料が反応するようになる。この反応した状態を分光分析に基づいて測定すれば、より選択的に目的成分を定量できるようになる。
【0073】
貫通孔11hは、中心軸CLが上述したように基材10aの基材面10sに対して略直交するように形成されている。なお、本明細書では、この略直交するとは、貫通孔11hのアスペクト比(貫通孔11hの開口幅と貫通孔11hの長さの比)の観点から、両者のなす角が90度±5度を示すことを意味する。
例えば、構造体1を分光分析用チップとして利用する場合、液体L中の目的成分を適切に定量する上では、貫通孔11h内に形成される液膜Lfに入射する照射光L1の入射角と透過光L2の減衰率に基づいて、アスペクト比が、tan5°(0.087)の逆数である11よりも高くならないように調整するのが好ましい。
また、例えば、構造体1を液体噴霧具として利用する場合、貫通孔11hの中心軸CL方向に沿って液滴を飛ばすことができるので、対象物に対して液滴状の液体Lを適切に噴霧することができる。
【0074】
また、構造体1を分光分析用チップとして利用する場合、分光計SMにセットした構造体1の本体部10の貫通孔領域部11に対して光軸が略直交するように照射光L1が照射される。この照射された照射光L1は、本体部10の貫通孔11hに形成された液膜Lfを透過して透過光L2が生成される。このとき貫通孔11hが基材10aの基材面10sに対して略直交するように形成されているので、液膜Lfが、照射光L1の光軸に対して略平行となるように形成できる。このため、液膜Lfに対して照射された照射光L1の光軸に対して、略同軸の光軸を有する透過光2を形成できる。すると、液膜Lf中の目的成分の濃度を透過光2に基づいて適切に定量することができる。一方、貫通孔11hの中心軸CLと基材10aの基材面10sのなす角が上記範囲を外れれば、適切な透過光L2が得られなくなる傾向にある。
したがって、構造体1を分光分析用チップとして利用する場合において、液体L中の目的成分を適切に定量するという観点では、貫通孔11hは、基材10aの基材面10sに対して略直交するように形成されているのが望ましい。
【0075】
なお、液体L中の目的成分の定性を行う場合には、上記なす角が90度±15度範囲であればよい。言い換えれば、液体L中の目的成分を定性する上では、貫通孔11h内に形成される液膜Lfに入射する照射光L1の入射角と透過光L2の減衰率に基づいて、アスペクト比が、tan15°(0.268)の逆数である4よりも高くならないように調整するのが好ましい。
【0076】
(貫通孔11hの形状・大きさ)
この貫通孔11hの大きさや形状は、貫通孔11h内に液体Lを供給した際に表面張力によって液膜Lfが形成された状態を保持し得る機能を有していれば、とくに限定されない。
【0077】
貫通孔11hの形状としては、円形や楕円形状のほか、矩形状や三角形状等など様々な形状に形成することができる。
例えば、貫通孔11hの形状として、開口11ha、11hbの一部の曲率が他の曲率と比べて大きくなるような三角形状や楕円形状などの非円形状を採用する場合には、基材10a中の空隙10hを移動してきた液体Lが貫通孔11hの内壁面に到達した際に曲率の大きい箇所から貫通孔11h内へ侵入する傾向にある。つまり、非円形状を採用すれば、円形に形成する場合と比べて、液体Lを効率よく貫通孔11h内に展開させやすい傾向にある。
【0078】
貫通孔11hの大きさは、内部に供給された液体Lを表面張力によって液膜Lfの状態を保持できる大きさであれば、とくに限定されない。
【0079】
例えば、略円形の貫通孔11hでは、表面開口11haおよび/または裏面開口11hbの大きさが、50μm以上となるように形成するのが好ましい。貫通孔11hの開口の大きさが50μmよりも小さいと貫通孔10の形状を安定させにくい傾向にある。一方、液体Lの粘性にもよるが、貫通孔11hの大きさの上限は上記のごとく液膜Lfを形成することができればとくに限定されないが、例えば、貫通孔11hの開口が、2000μmよりも小さくなるように形成される。
したがって、貫通孔11hの形状が略円形の場合、開口11ha、11hbの内径が50μm~2000μmであり、より好ましくは50μm~1000μmであり、さらに好ましくは100μm~600μmである。
【0080】
例えば、楕円形状の貫通孔11hでは、開口11ha、11hbの長径(長軸方向の長さ)が50μm~2000μmであり、長径と直交する短径(短軸方向の長さ)が長径よりも短くなるように形成されており、より好ましくは長径が50μm~500μm、単径がこの長径よりも短くなるように形成される。
【0081】
また、例えば、材質としてセルロース繊維からなるろ紙を基材10aとして採用し、この基材10aに対して楕円形状の貫通孔11hを形成する場合、貫通孔11hは、開口11ha、11hbの長径が300μm~2000μm、短径が250μm~1000μmとなるように形成できる。
また、例えば、材質としてガラス繊維からなるろ紙を基材10aとして採用し、この基材10aに対して楕円形状の貫通孔11hを形成する場合、貫通孔11hは、開口11ha、11hbの長径が350μm~2000μm、短径が300μm~400μmとなるように形成できる。
さらに、例えば、材質としてニトロセルロース繊維からなるろ紙を基材10aとして採用し、この基材10aに対して楕円形状の貫通孔11hを形成する場合、貫通孔11hは、開口11ha、11hbの長径が250μm~2000μm、短径が200μm~300μmとなるように形成できる。
【0082】
とくに、構造体1を液体噴霧具として利用する場合、液膜Lを液滴の状態のまま対象物に到達させたい場合には、貫通孔11hが一の開口から他方の開口に向かってすり鉢状となるように形成するのが好ましい。つまり貫通孔11の貫通軸方向の形状がすり鉢状となるように形成するのが好ましい。
例えば、貫通孔11hの開口(表面開口11ha、裏面開口11hb)が略円形であり、空気等を吹き付ける側の貫通孔11の開口を表面開口11haとする場合、貫通孔11hが、表面開口11haから裏面開口11hbへ向かってをすり鉢状となるように形成する。つまり、貫通孔11hの表面開口11haの直径が、裏面開口11hbの直径よりも大きくなるように形成する。貫通孔11hをかかる形状に形成すれば、液滴(貫通孔11から空気等により吹出されて液滴状になった液体L)を真っ直ぐに飛ばし易い傾向にある。つまり、液滴が飛散することなく、貫通孔11hの貫通軸に沿って液滴状のまま飛ばし易くなるので、対象物に対して適切に液滴を噴霧し易くなる。
【0083】
一方、液滴を分散しながら飛散させたい場合には、貫通孔11hの形状を上記とは逆の構造にすればよい。具体的には、貫通孔11hの開口(表面開口11ha、裏面開口11hbへ)が略円形であり、空気等を吹き付ける側の貫通孔11の開口を表面開口11haとする場合、貫通孔11hが、裏面開口11hbから表面開口11haへ向かってをすり鉢状となるように形成する。言い換えれば、逆すり鉢状に形成する。つまり、貫通孔11hの裏面開口11hbの直径が、表面開口11haの直径よりも大きくなるように形成する。貫通孔11hをかかる形状に形成すれば、空気等により液膜Lが吹きだされる際に貫通軸の中心付近はやや真っ直ぐに、その周辺はやや広がりながらふきだすことが可能になる。つまり、液膜Lを液滴状に吹き飛ばす場合と比べて、液滴を広がりながら噴霧することが可能となる。このため、例えば、対象物に対して広い範囲に液滴を噴霧したい場合などには、貫通孔11hを上記構造とするのが好ましい傾向にある。
【0084】
(貫通孔11hの数)
貫通孔11hは、複数を基材10aの貫通孔領域に形成することがき、その数は、とくに限定されない。
例えば、内径が約250μmの略円形の貫通孔11hの場合または長径が約300μm、短径が約200μmの楕円形状の貫通孔11hの場合、貫通孔領域部11において、貫通孔11hは、100個~1000個/cm2となるように形成することができる。
とくに、貫通孔11hが複数形成されていれば、液膜Lfの数も複数となることから、構造体1を分光分析用チップとして利用する場合には得られるデータ数も多くでき、液体噴霧具として利用する場合には液滴を多くできる。
このため、構造体1を分光分析用チップとして利用する場合には、液体L中の目的成分の定量精度を向上させることができる。また、貫通孔11hを複数形成することにより、分光計SMを用いた測定において、貫通孔11hに形成された液膜Lfの位置合わせが行い易くなる。このため、分析時の操作性を向上させることができるようになる。さらに、貫通孔11hを複数形成することにより、得られる定量値のバラツキを抑制できるので、各貫通孔11hの形状のバラツキをある程度大きくできる。このため、貫通孔11hの加工精度を低くできるので、構造体1の生産性を向上させることができる。
また、構造体1を液体噴霧具として利用する場合には、微細な液滴状に形成した液体Lを対象物に対して適切に噴霧することができる。しかも、貫通孔11hを複数形成することにより、対象物に対する液膜Lfの位置合わせが行い易くなるため、噴霧の操作性を向上させることができる。
【0085】
一方、貫通孔11hを単一の孔とする場合には、基材10aのコストを少なくでき、貫通孔11hの加工時間を少なくできるという利点を有する。
【0086】
貫通孔11hを形成する方法は、上記大きさや形状にできればとくに限定されない。
【0087】
例えば、貫通孔10を形成する方法としては、レーザーや機械的パンチング、酸、塩基、有機溶媒等エッチングを用いることができる。とくに、レーザーを用いた形成方法では、基材10aに対して貫通孔11hを略直交するように形成し易いという利点が得られる。
また、本体部10の基材10aの素材として熱に溶けやすいものを採用する場合には、レーザーの熱により素材が溶融して、貫通孔11hの内壁面に形成された空隙10hの開口が閉塞されることがある。このため、このような素材を採用した基材10aに対してレーザー加工を行う場合には、レーザー加工で貫通孔11hを形成した後、内壁面に形成された溶融素材をドリル等で除去する工程を追加するのが望ましい。この場合、貫通孔11hの内壁面に複数の空隙10hの開口を適切に露出させることができるようになる。
【0088】
(液体拡散防止部材30)
構造体1の本体部10は、液体供給部12の基材表面10sに液体拡散防止部材30を備えた構造としてもよい。
【0089】
液体Lを供給する際、液体Lは、基材10a内に浸透する前に基材表面10sを貫通孔領域部11へ向かって移動する現象が発生することがある。かかる現象が発生すれば、供給した液体Lの一部がそのままの状態で貫通孔11h内へ侵入することになる。このため、ろ過した液体Lの液膜Lfを貫通孔11h内に形成することを目的としている場合には、かかる現象の出現は好ましくない。
そこで、本体部10に対して液体Lのろ過機能を適切に発揮させる上では、構造体1の本体部10は、液体供給部12に供給した液体Lが基材10a内に浸透する前に基材表面10sを貫通孔領域部11へ向かって移動することを防止する機能を有する液体拡散防止部材30を備えた構造とするのが好ましい。この液体拡散防止部材30は、液体供給部12に対して供給した液体Lが基材表面10sを移動して貫通孔領域部11に形成された貫通孔11hに到達するのを防止するための部材である。つまり、液体拡散防止部材30は、未ろ過の液体Lが基材表面10sを上滑りすることを防止するための部材である。
【0090】
液体拡散防止部材30は、上記機能を発揮するように設けられていればよい。
例えば、液体拡散防止部材30は、本体部10の液体供給部12と貫通孔領域部11の境界部分における基材表面10sを覆うように設けることができる。具体的には、液体拡散防止部材30は、板状またはフィルム状の部材であり、本体部10の軸方向(液体供給部12から貫通孔領域部11に向かう方向)に対して交差するように本体部10(液体供給部12および/または貫通孔領域部11)の軸方向に沿った両端縁同士を連結するように設けることができる。また、例えば、液体拡散防止部材30は、上記機能(未ろ過の液体Lが基材表面10sを上滑りすることを防止する機能)を発揮するものであれば、板状またはフィルム状の液体拡散防止部材30の両端縁が上記本体部10の両端縁近傍に位置するように設けてもよい。
また、液体拡散防止部材30の基材表面10sに設ける位置は、上記境界部分に限定されない。例えば、フィルム状の液体拡散防止部材30を、液体供給部12の液体Lを供給する箇所近傍から近接する貫通孔11hの近傍付近までを覆うように設けてもよい。
【0091】
液体拡散防止部材30は、上記機能を発揮できる構造であればとくに限定されない。例えば、液体拡散防止部材30は、上述したようにフィルム状や板状の部材などを採用することができるが、かかる部材に限定されず、例えば、基材表面10sの上層部とした構造としてもよい。
【0092】
液体拡散防止部材30の素材は、とくに限定されない。例えば、プラスチックやナイロン、ポリエチレンなどの合成樹脂のほか、紙、天然樹脂、ガラス、ナノファイバーなどを挙げることができるが、これらに限定されないのはいうまでもない。
【0093】
なお、上記例では、液体拡散防止部材30を液体供給部12における貫通孔領域部11側に設ける場合について説明したが、上記機能を発揮させることができれば、貫通孔領域部11に設けてもよい。例えば、液体拡散防止部材30は、貫通孔領域部11において、貫通孔11hの周縁部を囲むように設けてもよい。
【0094】
(カバー部材20)
構造体1の本体部10は、貫通孔領域部11において、一方および/または他方の面にカバー部材20(表面カバー部材20a、裏面カバー部材20b)を設けてもよい。
例えば、カバー部材20は、本体部10の貫通孔領域部11に形成された貫通孔11hの開口11ha、11hbを覆うように設けることができる。カバー部材20を設けることにより、貫通孔11hの立体的形状を安定化させることができる。
このカバー部材20は、構造体1の用途に応じて適宜調整すればよい。
【0095】
例えば、構造体1を分光分析用チップとして利用する場合には、本体部10の貫通孔領域部11において、両面にカバー部材20を設けてもよいし、一方の面にだけカバー部材20を設けてもよい。分析時間を要する場合、カバー部材20により液膜Lfの蒸発等を抑制または防止することができるようになる。つまり、液膜Lfの揮発による液体L中の目的成分の濃度変化を防止できるようになる。例えば、構造体1を加温して液膜Lf中の成分を反応させるような場合、貫通孔11h内に形成された液膜Lfが揮発し易くなるが、カバー部材を設けることによりかかる揮発を防止することができるようになる。このため、液膜Lfを形成した後、測定までの時間を要するような場合には、カバー部材を設けた構造とすることにより、液体L中の目的成分をより適切に定量することができるようになる。しかも、カバー部材20により貫通孔11h内に形成される液膜Lfの厚みの揺らぎを防止することができるので、液体L中の目的成分の定量性をより向上させることが可能となる。
なお、構造体1を分光分析用チップとして利用する場合には、カバー部材20の素材は、光透過性を有するものであれば、とくに限定されず、例えば、プラスチックやガラス、ナノファイバーなどを採用することができる。
【0096】
また、例えば、構造体1をろ過具として利用する場合には、貫通孔11hに形成された液膜Lfを吸引手段で吸引する面とは反対側の面にカバー部材20を設けることができる。この場合、吸引手段により貫通孔11hに形成された液膜Lfを吸引する際、カバー部材20により気泡の混入の防止することができる。このため、連続した吸引を適切に行うことができるようになる。なお、構造体1をろ過具として利用する場合には、カバー部材20の素材は、とくに限定されない。
【0097】
さらに、例えば、構造体1を液体噴霧具として利用する場合には、カバー部材において、貫通孔11hが位置する箇所に表裏を貫通する孔を形成したカバー部材20を設けることができる。なお、この貫通孔11hが位置する箇所とは、個々の貫通孔11hに対応する箇所だけでなく、複数の貫通孔11hをまとめた箇所も含む概念である。例えば、カバー部材20の一の孔の内方に複数の貫通孔11hを位置するように形成したカバー部材を貫通孔領域部11に設けることができる。この場合、噴霧する液滴の範囲を、カバー部材20の孔により調整することができる。なお、構造体1を液体噴霧具として利用する場合には、カバー部材20の素材は、とくに限定されない。
【0098】
構造体1をろ過具や分光分析用チップとして利用する場合、カバー部材20には、検出やろ過に有利な試薬を担持させてもよい。つまり、カバー部材の貫通孔11hに相当する箇所を反応場として用いることもできる。具体的には、この反応場では、液体L中の目的成分と結合する反応試薬などの検出材料やろ過に有利な抗凝血剤などをカバー部材20(表面カバー部材20aおよび/または背面カバー部材20b)の内方の面(貫通孔領域部11に対向する面)に設けておく。検出材料をカバー部材20に設ける方法は、とくに限定されず、例えば、検出材料を担持させたり、保持させたりして設けることができる。検出材料をカバー部材20に保持または担持させる方法としては、検出材料をカバー部材の上記内方の面に塗布等して乾燥させる方法を採用することができる。そして、カバー部材20に保持させた面に液体が接触すれば、塗布した検出材料が溶出するようにする。すると、構造体1の液体供給部12に供給された液体Lが貫通孔11h内まで到達し液膜Lfを形成し、この液膜Lfの液面がカバー部材20の内面に接触すれば、カバー部材20から検出に有利な検出材料を液膜Lfに溶出させることができる。液膜Lf中に目的成分が存在すれば、目的成分と検出材料を結合させることができる。この検出材料が照射光L1中の特定の波長を吸収するものであれば、分光分析において、液膜Lf中の目的成分に基づく光吸収が生じるので、液体L中の目的成分をより適切に定量することができるようになる。また、反応した液膜Lfを吸引手段で吸引すれば、反応した目的成分を含有した液体Lを得ることができる。
【0099】
また、例えば、カバー部材20の内面に検出材料を担持させた場合には、カバー部材20の内面に担持させた検出材料に目的成分を吸着または結合させることができる。つまりカバー部材20の内面に直接、目的成分を保持させることができるので、かかる状態の液膜Lfに照射光L1を照射すれば、上述した場合と同様に目的成分を適切に定量できる。
【0100】
さらに、検出材料をカバー部材20に設ける方法として、カバー部材20の表面および内部に検出材料が存在するようにしてもよい。例えば、カバー部材20を形成する材質(例えば、プラスチックやナノファイバーnfなど)に検出材料を混合したカバー部材20を形成する。このカバー部材20を用いれば、カバー部材20の内面およびカバー部材20の内面からやや内部に位置する検出材料に目的成分を吸着または結合させることができる。この場合、カバー部材20の内面および内部において、光吸収などを生じさせることができる。この場合、より安定して液体L中の目的成分を適切に定量することができるようになる。
【0101】
<構造体1を利用した分光分析法>
構造体1を分光分析用チップとして利用する際の分光分析について説明する。
まず、分光計SM等の概略を説明した後に、詳細な説明を行う。
【0102】
明細書中の分光分析法とは、光を試料に照射して得られる光に基づいて試料中の目的成分を分析する手法のことを意味しており、得られた光の解析手段は様々な方法を用いることができる。例えば、解析手段としては、吸光光度法、蛍光分光分析法または色調分析などを用いることができる。
【0103】
(分光計SM)
図中の符号SMは、分光分析に用いられる分光計を示している。
分光計SMは、構造体1を設置するための測定窓を有するステージと、ステージの測定窓に設置した構造体1の本体部10の貫通孔領域部11の貫通孔11h内に形成された液膜Lfに対して照射光L1を照射する光源手段と、光源手段から照射された光が液膜Lfを透過した透過光L2を受光する受光手段と、この受光手段で受光した光を解析する解析手段と、を備えている。
【0104】
なお、分光計SMのステージの測定窓は、分光計SMのステージの表裏を連通して形成されており、構造体1を設置し保持するための測定用の連通孔である。
分光計SMに用いられる受光手段および解析手段としては、吸光光度法、蛍光分光分析法または色調分析などを用いることができる。
以下、各分析方法を用いて液体L中の目的成分を分析する場合を順に説明する。
【0105】
(吸光光度法または蛍光分光分析法を用いる場合)
まず、吸光光度法または蛍光分光分析法を用いる場合について説明する。
分光計SMには、ステージの測定窓を挟むようにして、光源手段と受光手段が配置されている。
光源手段は、光源と、光源から放出された光を照射する光照射ファイバとを備えている。光照射ファイバは、基端が光源に接続されており、光源からの光を先端の照射面から照射光L1として照射できるようになっている。
受光手段は、光照射ファイバと、この光照射ファイバから照射された照射光L1が測定窓に配置して構造体1の本体部10の貫通孔領域部11の貫通孔11hに形成された液膜Lfを通過(透過)し、この透過した光(透過光L2)を受光する光受光ファイバと、を備えている。この光受光ファイバは、基端が解析手段に接続されており、先端の受光面で受光した透過光L2を解析手段へ伝搬できるようになっている。この解析手段は、受光手段の光受光ファイバから伝搬された光をデータ信号に変換して、変換されたデータ信号に基づいて液体L中の目的成分の濃度を算出する機能を有している。
【0106】
光照射ファイバと光受光ファイバの設置方法はとくに限定されない。
例えば、測定窓を介して、光照射ファイバの光軸上に光受光ファイバの受光面が位置するように、光照射ファイバと光受光ファイバを配置することができる。具体的には、測定窓の下方に光照射ファイバが配置される。このとき、光照射ファイバの照射面が、測定窓の開口面に対向するように配置される。つまり、光照射ファイバは、照射面から照射した照射光L1の光軸が、測定窓の開口面に対して直交するように配置される。そして、光受光ファイバは、光照射ファイバを設置した逆の位置、つまり、測定窓の上方に、光照射ファイバの照射面から照射された照射光L1が本体部10の貫通孔領域部11の液膜Lfを透過した透過光L2を受光面で受光できるように配置される。
そして、分光計SMの測定窓に構造体1の本体部10の貫通孔領域部11を配置すれば、下方から順に、光照射ファイバの照射面、構造体1の本体部10の貫通孔領域部11、光受光ファイバの受光面が位置するように設置することができる。
【0107】
すると、この分光計SMでは、照射光L1を照射した際、この照射光L1の照射領域には、本体部10の貫通孔領域部11の貫通孔11h(貫通孔11hに形成された液膜Lf)および光受光ファイバの受光面が位置するようにセットすることができる。そして、光受光ファイバでは、液膜Lfを透過した透過光L2を受光面で適切に受光できるようにセットすることができる。
【0108】
なお、吸光光度法に基づき液体L中の目的成分の濃度を算出する場合には、モノクロメータを設けた構成にするのが望ましい。このモノクロメータは、光源から照射された光のうち特定の波長の光を選択する機能を有するものであり、光源と光照射ファイバの先端の照射面との間に設けられる。例えば、モノクロメータとしては、プリズムや回折格子、光学フィルタなどが利用することができる。プリズムを利用した場合には、広い波長帯の電磁波(光)を選択することができるという利点がある。
【0109】
また、蛍光分光分析法に基づき液体L中の目的成分の濃度を算出する場合には、照射光L1の光軸と受光ファイバの受光面との位置関係を適切に調整するのが望ましい。
具体的には、光照射ファイバからの照射された照射光L1(蛍光分光分析法では励起光といい、以下、当該分析法では、励起光L1という)が受光ファイバに直接入射しない構成となるように光学系を配置する。このような配置にすることにより、蛍光分析を適切に行うことができる。より具体的には、光照射ファイバからの照射された励起光L1により、構造体1の本体部10の貫通孔領域部11の貫通孔11h内に形成された液膜Lf中の目的成分が蛍光を発する。この蛍光は、照射された励起光L1に対して長波長側にシフトする。そして、この目的成分に基づく蛍光を適切に検出することにより、目的成分の濃度を適切に定量することができる。このためには、以下のような構成を採用する。
例えば、本体部10の貫通孔領域部11に形成された液膜Lfを透過した透過光L2のうち、低波長側の光成分を排除する光学フィルターを本体部10の貫通孔領域部11と受光ファイバとの間に配置する構成とする。または、目的成分に基づく蛍光は、ランダムな方向に放射されるので、光照射ファイバからの照射された励起光L1の光軸を外した方向(例えば、光照射ファイバからの照射された励起光L1の進行方向に対して垂直方向)に受光ファイバの受光面を配置する構成とする。
【0110】
(色調分析を用いる場合)
つぎに、色調分析を用いる場合について説明する。
色調分析を用いる場合には、光受光ファイバに替えて、光照射ファイバの反対側に光学顕微鏡を設けた構成とする。
この構成は、光学顕微鏡により構造体1の本体部10の貫通孔領域部11の貫通孔11h内に形成された液膜Lfの状態を光学顕微鏡で観察できる構成であれば、とくに限定されない。
例えば、光学顕微鏡は、基端が解析手段に接続されており、観察した本体部10の貫通孔領域部11の貫通孔11h内の液膜Lfの画像をデータ化して解析手段へ送信できるようになっている。
この解析手段は、光学顕微鏡から送信された画像データに基づいて液体L中の目的成分の濃度を算出する機能を有している。例えば、この解析手段は、光学顕微鏡から送信された画像データに基づく着色を色空間(RGBやL*A*B*(エルスター・エースター・ビースター)などの表色系)を用いて解析し、得られた値から液体L中の目的成分の濃度を算出する機能を有している。
【0111】
以上のごとき構成の分光計SMに、本体部10の貫通孔領域部11の貫通孔11h内に液体Lの液膜Lfを形成した構造体1をセットして、本体部10の貫通孔領域部11に対して照射光L1を照射する。照射された照射光L1は、貫通孔11h内に形成された液膜Lfを透過して、透過光L2を生成させる。そして、この透過光L2を分光分析法より分析すれば、液体L中の目的成分の濃度を適切に定量することができる。つまり、構造体1の本体部10が、従来の分光分析で用いられるセルと同様の機能を発揮するのである。具体的には、構造体1の本体部10の基材10aが、従来の分光分析法に用いられるセルに相当するものである。そして、基材10aの各貫通孔11h内に形成された液膜Lfが、従来のセルに収容された試料に相当するものである。
したがって、構造体1は、本体部10の基材10aが石英やガラス、プラスチックなど光を透過する透明素材で形成されていないにも関わらず、従来の分光分析法と同様の原理で液体L中の目的成分を定量することができるようになっている。
【0112】
(吸光光度法に基づく液体L中の目的成分の定量)
以下では、まず、分光分析法のうち吸光光度法に基づいて液体L中の目的成分を定量する場合を代表として詳細に説明する。
【0113】
なお、本体部10の貫通孔11hに供給される液体L量は、各貫通孔11h内全体を液体Lで満たして、貫通孔11h内全体に液膜Lfが形成されるように供給する場合を代表として説明する。
【0114】
また、以下で説明する分光計SMおよび構造体1は、代表例として説明するものであり、分光計SMおよび構造体1は、以下に示す構造および構成に限定されるものではない。
【0115】
分光計SMは、光照射ファイバをステージの下方に位置し、連通孔を挟んだ反対側の上方に光受光ファイバを設けたものを用いる。
構造体1の本体部10は、材質がろ紙(所定の空隙率を有する)であり、その大きさおよび形状としては、短辺が約50mm、長辺が150mmの長方形状に形成する。この本体部10は、一の短辺側に一辺が約5mm四方の貫通孔領域部11を有し、この貫通孔領域部11に連続する他方の短辺側に液体供給部12を有するように形成されている。
本体部10の貫通孔領域部11には、直径100μm~1000μm程度の円形状の貫通孔11hが200個~300個/cm2形成されている。
【0116】
(液体Lの展開)
まず、本体部10の液体供給部12に所定量の液体Lを供給して、本体部10の貫通孔領域部11まで液体Lを展開させる。
供給された液体Lは、滴下した表面付近から基材10a内へ浸透する。基材10a内に表面から内部へ浸透した液体Lは、基材10a内に形成された空隙10hを毛細管現象により移動しながら貫通孔領域部11の貫通孔11h内へ向かって移動する。
基材10a内の複数の空隙10hは液体が毛細管現象により通液可能に形成されている。このため、空隙10h内に侵入した液体Lは、自動的に滴下位置から離れるように空隙10h内を移動する。この空隙10hは、複数の貫通孔11hに連通して形成されている。つまり、貫通孔11hの内壁面には、無数の空隙10hの開口が形成されている。このため、空隙10h内を移動した液体Lが一の貫通孔11hに到達すれば、貫通孔11hの内壁面に形成された空隙10hの開口から貫通孔11hへ侵入し、内壁面に沿って広がるようにして貫通孔11h内へ液体Lが供給される。そして、最終的には、貫通孔11hへ侵入した液体Lは、貫通孔11hの表面張力によって貫通孔11hを塞ぐように液膜Lfを形成する。一方、この貫通孔11hは、複数の空隙10hにより隣接する貫通孔11hと連通されている。このため、一の貫通孔11h内へ侵入した液体Lは、液膜Lf長さが基材10aの貫通孔領域部11の厚さ(基材10aの厚さ方向の距離)とほぼ同じ程度の長さに保持された状態を維持しながら、隣接する貫通孔11hへ移動する。
【0117】
このような現象が連続的に生じることによって、液体Lは、本体部10の貫通孔領域部11の貫通孔領域に形成された複数の貫通孔11hへほぼ均一に展開され、各貫通孔11h内にほぼ均一な液膜Lfが形成される。
しかも、貫通孔11hに形成される液膜Lfは、その表面および裏面が貫通孔領域の表面に対してほぼフラットな状態となるように形成されるので、その液膜Lf長さを貫通孔11hの貫通軸方向の線の距離(つまり基材10aの貫通領域の厚さ)とほぼ同じ長さにできる。
【0118】
したがって、構造体1の本体部10の液体供給部12に液体Lを滴下するようにして供給すれば、液体Lを、本体部10の基材10a内部に形成された空隙10hを毛細管現象により自動的に移動させながら複数の貫通孔11h内に展開して、各貫通孔11h内に均質な液膜Lfを形成させることができる。つまり、光路長が均一な液膜Lfを本体部10の貫通孔領域部11に複数形成することができる。
【0119】
(測定および定量)
上記構造体1を、分光計SMのステージにセットする。
このとき、構造体1の本体部10の貫通孔領域部11がステージの連通孔の開口上に位置するように設置する。このとき貫通孔11hが基材10aに対して直交するように形成されているので、液膜Lfを照射光L1の光軸に対して平行となるように配置することができる。
この状態で、光源を作動させて、光照射ファイバから構造体1の本体部10の貫通孔領域部11に対して照射光L1を照射する。
この照射光L1は、貫通孔11h内に形成された液膜Lfの下面から上面に向かって真っ直ぐに液膜Lfを透過する。このとき、液膜Lf中に照射光L1に反応する物質が存在すれば、液膜Lfに入射した照射光L1と液膜Lfを透過した透過光L2では、光の成分が異なる状態になる。
【0120】
この液膜Lfを透過した透過光L2は、分光計SMのステージ上方に設けられた光受光ファイバの受光面で受光される。この光受光ファイバで受光された透過光L2は、解析手段へ送信される。
解析手段では、光受光ファイバから送信された透過光L2をデータ信号に変換する。そして、変換されたデータ信号に基づいて液体L中の目的成分の濃度が算出(つまり定量)される。
【0121】
以上のごとく、まず構造体1の本体部10の液体供給部12に液体Lを供給して貫通孔領域部11の各貫通孔11h内に液膜Lfを形成する。各液膜Lfはほぼ同じ状態で各貫通孔11h内に保持されている。
この本体部10を分光計SMにセットすれば、液膜Lfから得られる透過光L2に基づいて液体L中の目的成分の濃度を定量することができる。つまり、本体部10において、分光分析に必要な光路長を有する試料を均一な状態で形成することができる。
したがって、構造体1の本体部10は、従来の分光分析法に用いられる石英やガラスなどの透明なセルと同様の機能を発揮させることができる。しかも、液体Lを供給する貫通孔11hの大きさが小さい(例えば約50μm)にも関わらず、液体L中の目的成分を分光分析法に基づいて精度よく定量することができる。
【0122】
なお、濃度の算出には、一般的な吸光光度法の算出方法に基づいて算出することができる。例えば、試料中の目的成分の濃度は、吸光度と濃度との関係に基づき作成した検量線法や標準添加法を用いて算出してもよいし、試料中に内部標準物質を添加した内部標準法により算出してもよい。
また、液体Lの測定においては、同じ構造体1を用いたブランク測定をあらかじめ行うのが望ましい。具体的には、目的成分を含有しないブランク試料を調製し、同じ構造体1を用いて液体Lと同様の分析を行えば、構造体1に起因するバックグラウンドの吸光を補正できるなど、データのバラツキ等を抑制することができるので、目的成分の定量分析の精度をより向上させることができるという利点が得られる。
【0123】
また、液体Lを本体部10の液体供給部12に滴下するだけで、自動的に複数の貫通孔11h内に液体Lを均一に供給することができるので、液体L供給の煩雑化な構造を設けなくてもよいという利点が得られる。
【0124】
さらに、供給した液体Lは、本体部10の基材10a内を毛細管現象によって移動し、貫通孔11h内には表面張力によって保持されるので、構造体1を水平に維持しなくても(例えば、本体部10の基材10aを垂直方向に固定したとしても)、試料を本体部10の基材10a内に移動させることができる。このため、構造体1の配置状態に関わらず、本体部10に形成された複数の貫通孔11h内に均質な液膜Lfを形成させることができる。
【0125】
(色調分析に基づく液体L中の目的成分の定量)
つぎに、分光分析法のうち色調分析を用いて液体L中の目的成分を定量する場合について、詳細に説明する。
【0126】
上述したように分光計SMのステージに構造体1をセットして、光照射ファイバから照射光L1を本体部10に対して照射する。すると、複数の貫通孔11h内に形成された液膜Lfは、液体L中の目的成分の濃度によって色調が変化する。本実施形態の色調分析は、この変化した液膜Lfの色調変化に基づいて液体L中の目的成分を定量するという技術である。
【0127】
光学顕微鏡は、基端が解析手段に接続されており、観察した貫通孔11h内に形成された液膜Lfの画像をデータ化して解析手段へ送信できるようになっている。
解析手段では、画像データに基づいて試料中の目的成分の濃度が算出される。具体的には、解析手段は、画像データに基づく着色を色空間(RGBやL*A*B*(エルスター・エースター・ビースター)などの表色系)を用いることによって、試料中の目的成分の濃度が算出できるようになっている。
つまり、試料中(つまり液膜Lf中)に存在する目的成分とその濃度には、成分に固有の吸収波長と吸収量が存在するので、光学顕微鏡で観測された画像データに基づく色調から試料中の物質同定と定量を行うことが可能となる。
【0128】
光学顕微鏡は、倍率を自在に調整することができるので、本体部10の貫通孔領域部11の複数の貫通孔11hのうち一つの貫通孔11h内に形成された液膜Lfの色調の分析が可能となる。この場合、貫通孔11hの径の大きさに関わらず試料中の物質同定と定量を行うことが可能となる。
一方、複数の貫通孔11h内に形成された液膜Lfの色調を合算して平均化してもよい。データを平均化することによって、試料中の目的成分の定量性と再現性を向上させることが可能となる。つまり、構造体1を用いれば、少ない試料量であっても、色調分析に基づいて試料中の目的成分の濃度を適切に定量することができる。
【0129】
なお、光照射ファイバから照射される光は、単一波長でもよいし白色光でもよい。測定対象となる目的成分が限定されている場合、その成分の極大吸収波長付近の単色光(例えば、LED)でよいし、複数の目的成分を同時に測定したり、目的成分の反応を動的に観察するような時間分解測定を行うときには、幅広い波長を持つ白色光としてもよい。
【0130】
また、試料中の目的成分の濃度算出は、例えば、XY表色系やLab表色系として色調を数値化して2軸平面ないし3軸空間に表現し、濃度既知の溶液を測定し、濃度と色調に基づく数値の相関から試料中の目的成分の濃度を算出することができる。
【0131】
さらに、上述したように構造体1の本体部10がカバー部材20を設けた状態において、貫通孔11h内に液膜Lfを形成させた際、試料中の目的成分と反応して呈色等を生じる物質を設けた構成としてもよい。例えば、カバー部材20の内方の面(つまり基材10aの表面側または背面側に位置する面)に試料中の目的成分と反応して呈色等を生じる反応試薬を担持等させておけば、試料中の目的成分の濃度等に反応させることができる。
すると、目的成分の濃度が低くても、呈色等の色調変化に基づいて試料中の目的成分を定量することができるようになる。しかも、試料中の目的成分が照射光によって反応しないような場合であっても、反応試薬を設けることによって、目的成分の濃度を算出することが可能となるので、分析の自由度を向上させることが可能となる。
【0132】
<構造体1をろ過具として利用する液体ろ過方法>
構造体1をろ過具として利用する液体ろ過方法について説明する。
まず、概略を説明する。
構造体1の液体供給部12に液体Lを供給する。液体Lは、基材10a内を貫通孔領域部11へ向かって移動し、貫通孔領域部11に形成された貫通孔11h内に液膜Lfを形成する。この液膜Lfをピペット等の吸引手段を用いて吸引することにより、ろ過された液体Lを得ることができる。しかも、得られるろ過された液体L量は、液膜Lfの体積以上の量を得ることができることに特徴を有している。
【0133】
構造体1の本体部10は、形状保持層10eを有する基材10aを採用することができる。具体的には、形状保持層10eの表面上にナノファイバー層10dと不透水性材料10cを含有する基材10aが積層するように形成されている。
本体部10の大きさおよび形状は、短辺が約50mm、長辺が150mmの長方形状に形成されている。この本体部10は、一の短辺側に一辺が約5mm四方の貫通孔領域部11を有し、この貫通孔領域部11に連続する他方の短辺側に液体供給部12を有するように形成されている。液体供給部12には、基材表面10sに液体拡散防止部材30が設けられている。この液体拡散防止部材30は、一辺が本体部10の短辺の長さと略同じ約5mmの正方形状に形成されている。つまり、本体部10は、液体供給部12の貫通孔領域部11側の基材表面10sが液体拡散防止部材30により覆われた構造となっている。
この本体部10の貫通孔領域部11には、貫通孔11hが形成されている。そして、この貫通孔11hの裏面開口11hbを覆うように、カバー部材20(裏面カバー部材20b)が貫通孔領域部11の裏面側に設けられている。
貫通孔11hは、貫通孔領域部11において、近傍の本体部10の短辺(液体供給部12とは反対側の短辺)から3mm~5mmの箇所に貫通孔11hの中心が位置するように形成されている。形成される貫通孔11hの数は1個であり、直径が約1000μm程度の円形状に形成されている。つまり、本体部10は、平面視において、一の短辺から他の短辺に向かって液体Lを供給する箇所、液体拡散防止部材30、貫通孔11hの順に構成されている。
【0134】
(液体Lの展開)
まず、本体部10の液体供給部12に所定量の液体Lを供給して、本体部10の貫通孔領域部11まで液体Lを展開させる。
供給された液体Lは、滴下した表面付近から基材10a内へ浸透する。このとき、一部の液体Lは基材表面10sを滑って貫通孔領域部11へ移動しようとするが、液体拡散防止部材30によりその移動が防止される。このため、供給した全ての液体Lを滴下した付近の基材表面10sから基材10a内へ浸透させることができる。
基材10a内に表面から内部へ浸透した液体Lは、基材10a内に形成された空隙10hを毛細管現象により移動しながら貫通孔領域部11の貫通孔11h内へ向かって移動する。
基材10a内の複数の空隙10hは液体が毛細管現象により通液可能に形成されている。このため、空隙10h内に侵入した液体Lは、自動的に滴下位置から離れるように空隙10h内を移動する。この空隙10hは、複数の貫通孔11hに連通して形成されている。つまり、貫通孔11hの内壁面には、無数の空隙10hの開口が形成されている。このため、空隙10h内を移動した液体Lが一の貫通孔11hに到達すれば、貫通孔11hの内壁面に形成された空隙10hの開口から貫通孔11hへ侵入し、内壁面に沿って広がるようにして貫通孔11h内へ液体Lが供給される。そして、最終的には、貫通孔11hへ侵入した液体Lは、貫通孔11hの表面張力によって貫通孔11hを塞ぐように液膜Lfを形成する。一方、貫通孔領域部11には、貫通孔11hの周囲を取り囲むように空隙10h内を移動した液体Lが存在している。
【0135】
(吸引方法)
ついで、貫通孔領域部11の貫通孔11hに形成された液膜Lfを吸引手段を用いて吸引する。この吸引手段は、先端の大きさが貫通孔11hの開口と略同じかやや小さいものを採用することができる。例えば、吸引手段としては、市販のマイクロピペットなどを用いることができる。吸引手段の先端部を貫通孔11hに挿入し、貫通孔11hに形成された液膜Lfを吸引する。このとき、貫通孔11hの裏面開口11hbがカバー部材20(裏面カバー部材20b)で覆われているので、吸引時に貫通孔11hの裏面開口11hbから液体Lが漏れだすのを防止するとともに、液膜Lf吸引時の気泡混入を防止することができる。このため、吸引を続けることにより、貫通孔11hの内壁面にある無数の空隙10hの開口に基づく毛細管現象により、貫通孔11hの内壁面にある無数の空隙10hの開口に基づく毛細管現象により貫通孔11hの体積以上の液体Lを吸引することができる。つまり、構造体1を利用することにより、吸引手段の微弱な減圧によりろ過された液体Lを簡単に採取することができる。
【0136】
<構造体1を液体噴霧具として利用する液体噴霧方法>
構造体1を液体噴霧具として利用する液体噴霧方法について説明する。
まず、概略を説明する。
構造体1の液体供給部12に液体Lを供給する。液体Lは、基材10a内を貫通孔領域部11へ向かって移動し、貫通孔領域部11に形成された貫通孔11h内に液膜Lfを形成する。この状態において、貫通孔領域部11の一の面側から他方の面側に向かって空気等を吹き付ける。すると、空気等により液膜Lfは貫通孔11hから分離され液滴状となり、空気等とともに吹き付け方向に向かって移動する。吹き付け方向に対象物が存在すれば、この対象物に対して液膜Lfから形成された液滴を塗布することができる。つまり、構造体1を液体噴霧具として利用すれば、液膜Lfを液滴に形成した状態で対象物に対して塗布することができ、しかも、特別な送液装置や微細な液滴を形成するための特別な装置を用いなくても微細な液滴を簡単に形成することができるようにしたことに特徴を有している。
【0137】
構造体1の本体部10は、形状保持層10eを有する基材10aを採用することができる。具体的には、基材10aの材質としてろ紙を採用し、この基材10aを形状保持層10eの表面上に積層するようにして本体部10を形成する。
本体部10の大きさおよび形状は、短辺が約50mm、長辺が150mmの長方形状に形成されている。この本体部10は、一の短辺側に一辺が約5mm四方の貫通孔領域部11を有し、この貫通孔領域部11に連続する他方の短辺側に液体供給部12を有するように形成されている。液体供給部12には、基材表面10sに液体拡散防止部材30が設けられている。この液体拡散防止部材30は、一辺が本体部10の短辺の長さと略同じ約5mmの正方形状に形成されている。つまり、本体部10は、液体供給部12の貫通孔領域部11側の基材表面10sが液体拡散防止部材30により覆われた構造となっている。
本体部10の貫通孔領域部11には、各端縁から1mm程度内方に直径100μm~1000μm程度の円形状の貫通孔11hが200個~300個/cm2形成されている。
なお、本体部10は、液体拡散防止部材30を設けない構造であってもよい。
【0138】
(液体Lの展開)
まず、本体部10の液体供給部12に所定量の液体Lを供給して、本体部10の貫通孔領域部11まで液体Lを展開させる。
供給された液体Lは、滴下した表面付近から基材10a内へ浸透する。このとき、一部の液体Lは基材表面10sを滑って貫通孔領域部11へ移動しようとするが、液体拡散防止部材30によりその移動が防止される。このため、供給した全ての液体Lを滴下した付近の基材表面10sから基材10a内へ浸透させることができる。
基材10a内に表面から内部へ浸透した液体Lは、基材10a内に形成された空隙10hを毛細管現象により移動しながら貫通孔領域部11の貫通孔11h内へ向かって移動する。
基材10a内の複数の空隙10hは液体が毛細管現象により通液可能に形成されている。このため、空隙10h内に侵入した液体Lは、自動的に滴下位置から離れるように空隙10h内を移動する。この空隙10hは、複数の貫通孔11hに連通して形成されている。つまり、貫通孔11hの内壁面には、無数の空隙10hの開口が形成されている。このため、空隙10h内を移動した液体Lが一の貫通孔11hに到達すれば、貫通孔11hの内壁面に形成された空隙10hの開口から貫通孔11hへ侵入し、内壁面に沿って広がるようにして貫通孔11h内へ液体Lが供給される。そして、最終的には、貫通孔11hへ侵入した液体Lは、貫通孔11hの表面張力によって貫通孔11hを塞ぐように液膜Lfを形成する。一方、この貫通孔11hは、複数の空隙10hにより隣接する貫通孔11hと連通されている。このため、一の貫通孔11h内へ侵入した液体Lは、液膜Lf長さが基材10aの貫通孔領域部11の厚さ(基材10aの厚さ方向の距離)とほぼ同じ程度の長さに保持された状態を維持しながら、隣接する貫通孔11hへ移動する。
【0139】
このような現象が連続的に生じることによって、液体Lは、本体部10の貫通孔領域部11の貫通孔領域に形成された複数の貫通孔11hへほぼ均一に展開され、各貫通孔11h内にほぼ均一な液膜Lfが形成される。
しかも、貫通孔11hに形成される液膜Lfは、その表面および裏面が貫通孔領域の表面に対してほぼフラットな状態となるように形成されるので、その液膜Lf長さを貫通孔11hの貫通軸方向の線の距離(つまり基材10aの貫通領域の厚さ)とほぼ同じ長さにできる。
【0140】
したがって、構造体1の本体部10の液体供給部12に液体Lを滴下するようにして供給すれば、液体Lを、本体部10の基材10a内部に形成された空隙10hを毛細管現象により自動的に移動させながら複数の貫通孔11h内に展開して、各貫通孔11h内に均質な液膜Lfを形成させることができる。つまり、均質な膜厚を有する液膜Lfを本体部10の貫通孔領域部11に複数形成させることができる。
【0141】
(噴霧方法)
ついで、本体部10の貫通孔領域部11の複数の貫通孔11h内に液膜Lfが形成された状態において、貫通孔領域部11の一の面から他方の面側に向かって空気を吹き付ける。すると、貫通孔11hに形成された液膜Lfは、空気の風圧により貫通孔11hから吹き飛ばされて反対側の面に形成された貫通孔11hの開口から微細な液滴となって空気の進行方向に向かって吹出される(つまり噴霧される)。
この微細な液滴は、貫通孔11hの大きさに依存する傾向にあるので、貫通孔11hの大きさを調整することにより、液滴の大きさを調整することが可能となる。
【実施例】
【0142】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
【0143】
[実験1:本発明の構造体をろ過具として利用した実験]
近年、コロナウイルス感染症でも課題となっている、疾病の迅速な診断に対する社会的ニーズは高まる一方である。また、臨床検査以外にも、突発的な環境汚染、食中毒の発生時には、被害の最小化に向けた原因特定のための現場分析が必要であり、そのための小型、迅速かつ現場で簡易に分析できるバイオチップや小型分析デバイス開発の一層の促進が求められている。これらの試料には分析対象物以外の夾雑物(粒子や凝集物)が多く含まれており、それらが分析に悪影響を与えるため、夾雑物のろ過が行われる。
一般的なろ過は、ろ紙やフィルター等の繊維の空隙サイズに応じて粒子等の夾雑物をろ別する。通常は、検液を重力的に自然流下させたり、ろ過効率の向上のためにポンプやシリンジ等で減圧、加圧を行う必要がある。ただ、自然流下ではろ過効率が低く、広大なろ過面積が必要となること、ポンプやシリンジポンプ等は高価であり、可搬性(持ち運び性)が低いことなど、既存のろ過デバイスの小型の分析チップ等への適用性に課題が残されている。そのため現場分析に適した小型のろ過デバイスの開発が求められている。さらに、血液、糞便、工業排水など固形分が非常に多い試料では、ろ過に使用されるフィルター基材の目詰まり等が発生することによるろ過効率の低下が問題となっている。
【0144】
上記問題を解決するため、迅速診断や現場分析に適した小型かつ簡易なろ過デバイスの開発を目的に、シート化した繊維層をろ過基材として、試料を毛細管現象によりポンプ等を使用することなく(ポンプレス)に繊維層に展開したのち、ろ別された試料液をチップ末端に設置した穿孔(本実施形態の貫通孔に相当する)から採取できる基材を作製した。
試料採取する穿孔は、数百μm~数mm程度の孔(つまりろ過基材の表裏を貫通した貫通孔)であり、繊維層を展開したろ液が表面張力で液膜を形成する。液膜に試料採取用のチップを挿入し、ピペット等の微弱な減圧を印可することで、ろ液を吸引、採取することが可能である。
【0145】
ろ過基材は、(PET)の微細繊維(繊維幅:1.0デシテックス、繊維長:0.2mm)とバインダー混合したものを耐水紙(耐水紙:LBP-WPF22MDP、サンワサプライ、紙厚220μm、A4サイズ)上に塗工し、乾燥することで作製した。典型的な条件として、PET繊維量90%、バインダー10%としている。
原料の調製条件は以下のとおりである。
1)バインダーにPET繊維を加えて手で混合し、よく攪拌する
2)自転・公転ミキサー[株式会社シンキー:あわとり練太郎ARE-310]を用いてさらに混合、脱泡する
【0146】
ろ過基材原料の耐水紙上への塗工は、アプリケーター[PI1210@テスター産業]を用いた。塗工スピードはspeed20mm/sで行った。最終的な塗工膜厚に応じてアプリケーターのクリアランスを調整した。
塗工した用紙をカール防止のための乾燥用の鉄枠に挟み込み、速やかに熱風乾燥機[OFW-60SB-R@ETTAS]で乾燥を行った。乾燥条件は、次の通りである(熱風乾燥60℃ 25min→熱風乾燥80℃ 15min→熱風乾燥150℃ 30min)。
【0147】
作製したろ過基材をチップ化するために、所定の形状にレーザー加工(ユニバーサルシステムズ、ILS9.75、レーザー最大出力40w,プロッタースピード 最大3500mm s
-1))を行った。レーザー加工では、周囲を長方形に目打加工した(完全に切断するのではなく、非切削部を周囲の微小に残すことで、大判基材にチップが保持されるようにしている)。レーザー加工条件は、レーザー出力20%,速度8%、駆動パルスレートPPI=1000とした。典型的なろ過チップ個片のサイズは、短辺方向5mm、長辺方向13mmとした(
図12)。
続いて、試料採取部のドリル穿孔に向けたガイド孔(約0.5mm)をレーザー加工にて作製した。その後、ガイド孔中にドリル「M655D、株式会社マキタ、ドリル直径1mm」を用いて穿孔を加工した。ろ過に際して未ろ過試料が上滑りすることを防止するための機構(未ろ過の試料が基材表面を流れて穿孔に到達しないようにする)のために表面にテープ(メンディングテープ、スリーエムジャパン株式会社)を貼合した(貼合位置:基材中央部に5mm幅)。また、基材裏面からの試料の漏れ出し防止と穿孔からの試料採取時の気泡混入防止のために、穿孔分の耐水紙側にもメンディングテープを貼合した。バイオチップの完成図を
図12に示す。
穿孔の写真を
図13に示す。なお、ドリル穿孔径(
図12で表面繊維が削り取られた部分の直径)は、長辺方向1000.2±159.0,短片方向986.1±14.5μm(n=5)であった。
【0148】
人工血液試料のろ過の進展状況を
図14に示す。
検体試料は薄膜シート状を迅速に展開し、ろ別された清浄な試料がもう一方の端部に浸透して穿孔に到達した。
ピペットチップによる試料採取状況を
図15に示す。穿孔には表面張力により液膜が生じ、穿孔からピペットチップ等でろ別された液膜試料を採取可能であった。ろ過は毛細管現象で自動的に進行し、従来のポンプや加圧等のろ過のための補助機構は必要としない。
基材の試料滴下位置に試料[擬似血液:山科精器株式会社,PB-10Rと銅フタロシアニン水溶液(40mM)を99:1で混合したもの]を滴下し、バイオチップ内で試料をろ過しつつ浸液するかを調査した。滴下180s後に10μL用マイクロピペット(マイクロピペット リサーチプラスV 0.5-10μL)の試料採取量を10μLにセットした状態で、ピペットチップ先端(ピペットのプッシュボタンを第一ストップまで押し込んだ状態)を穿孔に挿入した。ゆっくり(20s以上かけて)プッシュボタンを戻してろ過後の血漿試料を吸い上げた。
本実験の結果を表に示す。インク膜厚が大きくなるにつれ、基材からの採取量も増加している。
【0149】
【0150】
ろ過基材厚みを220.8,329.2μmとした基材では、穿孔から5mg以上の試料を採取することができた。この5mg以上の試料採取については、穿孔の理論上の体積(穿孔の直径1mm、膜厚300μmの場合、空隙の理論上の体積は0.23μLであり、水の比重が1gmL-1とすると、0.23mgとなる)から換算される以上のろ液量として採取可能であった。これは、穿孔周囲の基材に存在するろ液を穿孔から減圧吸引できていることを示唆している。ろ液がろ過基材に毛細管現象で広く展開し、基材内部の連通した空隙層に緩やかに保持されており、チップ先端からの微弱な減圧でも圧力損失少なくろ液を吸引できるものと考えられる。
【0151】
[実験2:本発明の構造体を液体用の液体噴霧具として利用した実験]
液体噴霧は産業分野では、塗工、印刷、検査、混合等で汎用される要素技術である。これまでの液体噴霧のためのデバイスは、超音波印加、二流体ノズル、クロスフローネブライザー、ニューマティック(同軸)ネブライザー、グリッドネブライザー等が知られている。ただ、いずれも噴霧部の精密な加工や、耐圧部品が必要であること、別添の送液ポンプ、ガス流路、超音波発生装置が必要になるなど、持ち運び性、コスト性に改善の余地があった。
【0152】
上記問題を解決するため、紙などの繊維からなる流路を用いて、毛細管現象に基づき試料を送液し、流路先端に調製した穿孔に生じた液膜に気流を送ることで微小な液滴を噴霧できるデバイスを作製する。基材に含まれる空隙により毛細管現象が生じることから、ポンプを利用することなく適切な場所に液体を送液できる。さらに、流路先端に微小な穿孔(本実施形態の貫通孔に相当する)を加工し、表面張力に基づき穿孔に液膜を形成させた後、液膜に空気圧を印可することで微小な液滴を発生させることが可能と考えた。
【0153】
噴霧基材の基となるろ紙貼合シートを作製した。ろ紙貼合シートはポリスチレン製の耐水基材(プレカットバッキングシート、GL-187,Lohmann社製)上に、ろ紙(クロマトグラフィー用ろ紙、No.590)を貼合した。バッキングシートにはあらかじめ粘着剤が塗工されており、ろ紙を貼合したのち、耐水基材とろ紙の張り合わせを確実にするためにプレスした(プレス圧:0.3kgcm-2)した。
【0154】
作製したシートに、液膜形成用の穿孔(つまり噴霧基材の表裏を貫通する貫通孔)を加工した。レーザー加工にはユニバーサルシステムズのILS9.75を使用した(レーザー最大出力40w,プロッタースピード 最大3500mms-1)。レーザー加工条件は次のとおりである。レーザー出力10%,速度5%、駆動パルスレートPPI=40とした。レーザーはバッキングシート側から照射した。なお、レーザー出力15%時の孔径はバッキングシート側で331.8μm,ろ紙側で116.3μm(N=6),孔密度7.0個/mm2となった。穿孔はろ紙貼合シート先端から0.5mmのところを上端として、長辺方向に4mm幅で作製した。
【0155】
基材作製条件で作製された噴霧基材を5(横)×40(縦)mmにカッターを用いて裁断した。小型のガラス容器(容量2mL)に少量(0.3mL)程度の着色された水溶媒(純水に銅フタロシアニンテトラスルホン酸ナトリウムを溶解した試料、濃度10mmol dm-3)を添加し、その容器内に穿孔を形成した噴霧基材を垂直に設置した。なお、噴霧基材の下部と着色液が2mm程度接触する程度の条件で浸漬した。穿孔に空気噴霧器(エアーダスター、AD400FL,株式会社オリエンテック、設定空気圧(約50kPa))からの風圧を印加した。
【0156】
図16に示すように試料液は噴霧基材のろ紙部分をポンプ等を用いることなく先端まで進液した。これは、ろ紙内の空隙による毛細管現象に基づき進液しているものと思われる。噴霧基材の穿孔が着色しており、穿孔が液体で充填されていることが示唆された。
液体進液時の噴霧基材の穿孔についての光学顕微鏡観察結果を
図17に示す。穿孔内部が着色しており、数百μmの微細孔に液体の表面張力で液膜が形成されているものと思われる。続いて、穿孔に空気を噴霧したところ、孔表面から液滴が噴霧された(
図18)。穿孔出口側に白色の紙を設置し、噴霧された液滴をトラップした。液滴をトラップ後の紙表面の写真を
図19に示す。
数百μmから数mm径の液滴が穿孔出口の白色紙に衝突したことが
図19から判明した。ろ紙表面に付着した液滴径を光学顕微鏡像から計測したところ308±81μm(n=20)であった。液膜が風圧で穿孔内壁から吹き飛ばされることで出口側から液滴が吐出されるものと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明の構造体は、医学や、生化学、薬学、化学、環境、食品、工業などの分野に利用される用具として適している。
【符号の説明】
【0158】
1 構造体
10 本体部
10a 基材
10b 透水性材料
10c 不透水性材料
10d ナノファイバー層
10h 基材中の空隙
11 貫通孔領域部
11h 貫通孔
12 液体供給部
Lf 貫通孔内に形成される液膜