(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】コンフォメーションが安定化されたRSV融合前Fタンパク質
(51)【国際特許分類】
C07K 14/08 20060101AFI20241007BHJP
C12N 15/40 20060101ALI20241007BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241007BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241007BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241007BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241007BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241007BHJP
A61K 39/12 20060101ALI20241007BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
C07K14/08 ZNA
C12N15/40
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/12
A61P31/14
(21)【出願番号】P 2020506859
(86)(22)【出願日】2018-08-07
(86)【国際出願番号】 US2018045463
(87)【国際公開番号】W WO2019032480
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-08-02
(32)【優先日】2017-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】320010479
【氏名又は名称】カルダー・バイオサイエンシズ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】140 58th Street,Building A,Unit 8J,Brooklyn,New York,NY 11220,U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】マーシャル、クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ヨンドラ、マーク
(72)【発明者】
【氏名】マリアニ、ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ゾンバック、アーロン
(72)【発明者】
【氏名】ギドワニ、ソナル
【審査官】三谷 直也
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-527253(JP,A)
【文献】特表2016-519658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C07K 1/00-19/00
A61K 39/00-39/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)配列番号81の第26~109位のアミノ酸残基を含むか、若しくはこれらからなるF2ポリペプチド、及び、配列番号81の第137~513位のアミノ酸残基を含むか、若しくはこれらからなるF1ポリペプチド、又は (ii)配列番号81の第26~109位のアミノ酸残基にわたって少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、若しくはこれらからなるF2ポリペプチド、及び、配列番号81の第137~513位のアミノ酸残基にわたって少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸残基を含むか、若しくはこれらからなるF1ポリペプチド、を含む変異RSV F分子であって、
前記変異RSV F分子は、(a)第428位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合に第428位の残基に相当するアミノ酸におけるチロシン、(b)第185位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合に第185位の残基に相当するアミノ酸におけるチロシン、(c)第226位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合に第226位の残基に相当するアミノ酸におけるチロシン、及び (d)第198位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合に第198位の残基に相当するアミノ酸におけるチロシン、を含み、並びに、
前記変異RSV F分子は、融合前のコンフォメーションをとることが可能な成熟RSV F三量体を形成することが可能であるか、又は、処理されてそのような三量体を形成することが可能である、
変異RSV F分子。
【請求項2】
膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを含む、請求項1に記載の変異RSV F分子。
【請求項3】
前記分子が、膜貫通ドメイン又は細胞質ドメインを含まない、請求項1に記載の変異RSV F分子。
【請求項4】
前記分子が、RSV A型又はRSV B型分子である、請求項1~3のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項5】
前記分子が融合前特異的抗体に結合する、請求項1~4のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項6】
前記分子が抗原部位
【数1】
を認識する抗体に結合する、請求項1~5のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項7】
前記分子が、D25、5C4、AM22、及びAM14からなる群から選択される抗体に結合する、請求項1~6のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項8】
前記F2ポリペプチドのC末端が、ジスルフィド結合によって前記F1ポリペプチドのN末端に連結している、請求項1~7のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項9】
前記F2ポリペプチドのC末端が、人工的に導入されたペプチドリンカーによって前記F1ポリペプチドのN末端に連結している、請求項1~8のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項10】
84個のアミノ酸残基を有するF2ポリペプチド、及び375個のアミノ酸残基を有するF1ポリペプチドを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項11】
74~84個のアミノ酸残基を有するF2ポリペプチド、及び、365~375個のアミノ酸残基を有するF1ポリペプチドを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項12】
(a)配列番号41~81のいずれかの第26~109位のアミノ酸残基を含むか、又はこれらからなるF2ポリペプチド、及び、(b)配列番号41~81のいずれかの第137~513位のアミノ酸残基を含むか、又はこれらからなるF1ポリペプチドを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項13】
(a)配列番号41~81のいずれかの第26~109位のアミノ酸残基の74~84個のアミノ酸を含むか、又はこれらからなるF2ポリペプチド、及び、(b)配列番号41~81のいずれかの第137~513位のアミノ酸残基の365~375個のアミノ酸を含むか、又はこれらからなるF1ポリペプチドを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項14】
(a)配列番号81の第26~109位のアミノ酸残基を含むか、又はこれらからなるF2ポリペプチド、及び、(b)配列番号81の第137~513位のアミノ酸残基を含むか、又はこれらからなるF1ポリペプチドを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項15】
(a)配列番号81の第26~109位のアミノ酸残基の74~84個のアミノ酸を含むか、又はこれらからなるF2ポリペプチド、及び、(b)配列番号81の第137~513位のアミノ酸残基の365~375個のアミノ酸を含むか、又はこれらからなるF1ポリペプチドを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項16】
前記分子が、1つ以上のジチロシン架橋により融合前のコンフォメーションで安定化されている、請求項1~15のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の変異RSV F分子
によって形成された成熟RSV F三量体。
【請求項18】
前記
三量体分子が、3つ以上のジチロシン架橋により融合前のコンフォメーションで安定化されてい
る、請求項
17に記載の
成熟RSV F
三量体。
【請求項19】
前記分子が、(a)第428位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシン、及び、(b)第185位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシンの間に、ジチロシン架橋を含む、請求項1~
16のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項20】
前記分子が、(a)第198位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合に相当するアミノ酸残基おけるチロシン、及び、(b)第226位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシンの間に、ジチロシン架橋を含む、請求項1~
16及び19のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項21】
前記分子が、(i)第198位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシン、及び、第226位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシンの間のジチロシン架橋、並びに、(ii)第428位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシン、及び、第185位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシンの間のジチロシン架橋の両者を含む、請求項1~
16及び19~20のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項22】
請求項19に記載の変異RSV F分子によって形成された成熟RSV F三量体であって、前記
三量体分子が、3つのジチロシン架橋を含
み、前記架橋の各々が、(a)第428位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシン、及び、(b)第185位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシンの間にある、
成熟RSV F三量体。
【請求項23】
請求項20に記載の変異RSV F分子によって形成された成熟RSV F三量体であって、前記
三量体分子が、3つのジチロシン架橋を含
み、前記架橋の各々が、(a)第198位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシン、及び、(b)第226位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシンの間にある、
成熟RSV F三量体。
【請求項24】
請求項21に記載の変異RSV F分子によって形成された成熟RSV F三量体であって、前記
三量体分子が、6つのジチロシン架橋を含
み、前記ジチロシン架橋のうち、(i)3つが、第198位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシン、及び、第226位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシンの間にあり、(ii)3つが、第428位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシン、及び、第185位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシンの間にある、
成熟RSV F三量体。
【請求項25】
前記分子が、1つ以上の人工的に導入された非DT架橋をさらに含む、請求項1~
16及び19~21のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項26】
前記分子が、1つ以上の人工的に導入されたジスルフィド結合をさらに含む、請求項1~
16、19~21及び25のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項27】
前記分子がシステインへの1つ以上の点変異をさらに含む、請求項1~
16、19~21及び25~26のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項28】
前記ジスルフィド結合が2つのシステインの間に形成され、前記システインのうちの一方又は両方が点変異によって導入されたものである、請求項26に記載の変異RSV F分子。
【請求項29】
前記分子が、第155位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるシステインへの点変異
を更に有する、請求項1~
16、19~21及び25~28のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項30】
前記分子が、第290位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるシステインへの点変異
を更に有する、請求項1~
16、19~21及び25~29のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項31】
前記分子が、(a)第155位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるシステインへの点変異、及び、(b)第290位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるシステインへの点変異の両者
を更に有する、請求項1~
16、19~21及び25~30のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項32】
前記分子が、1つ以上の人工的に導入された空洞充填変異を含む、請求項1~
16、19~21及び25~31のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項33】
前記分子が、第190位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるフェニルアラニンへの点変異
を更に有する、請求項32に記載の変異RSV F分子。
【請求項34】
前記分子が、第207位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるロイシンへの点変異
を更に有する、請求項32に記載の変異RSV F分子。
【請求項35】
前記分子が、(a)第190位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるフェニルアラニンへの点変異、及び、(b)第207位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるロイシンへの点変異の両者
を更に有する、請求項32に記載の変異RSV F分子。
【請求項36】
前記分子が、58W、83W、87F、90L、153W、190F、203W、207L、220L、260W、296F、及び298Lからなる群から選択される1つ以上の空洞充填変異を含み、前記空洞充填変異は、配列番号81のアミノ酸番号付けで、それぞれ、第58位、第83位、第87位、第90位、第153位、第190位、第203位、第207位、第220位、第260位、第296位、及び第298位のアミノ酸残基
に導入されている、請求項32に記載の変異RSV F分子。
【請求項37】
前記分子が異種オリゴマー形成ドメインを含む、請求項1~
16、19~21及び25~36のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項38】
前記異種オリゴマー形成ドメインが三量体形成ドメインである、請求項37に記載の変異RSV F分子。
【請求項39】
前記三量体形成ドメインが、フォールドン(foldon)ドメイン、GCN4ドメイン、又はT4フィブリニチンドメインである、請求項38に記載の変異RSV F分子。
【請求項40】
前記三量体形成ドメインが、配列番号93を含むフォールドン(foldon)ドメインである、請求項38に記載の変異RSV F分子。
【請求項41】
前記分子が、前記RSV F分子の検出に有用な1つ以上のタグを含む、請求項1~
16、19~21及び25~40のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項42】
前記分子が、前記RSV F分子の精製に有用な1つ以上のタグを含む、請求項1~
16、19~21及び25~41のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項43】
前記タグが、Strepタグ、StrepIIタグ、FLAGタグ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)タグ、緑色蛍光タンパク質(GFP)タグ、ヘマグルチニンA(HA)タグ、ヒスチジン(His)タグ、ルシフェラーゼタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)タグ、c-Mycタグ、プロテインAタグ、及びプロテインGタグからなる群から選択される、請求項41又は42に記載の変異RSV F分子。
【請求項44】
前記タグが配列番号95を含む、請求項41又は42に記載の変異RSV F分子。
【請求項45】
前記タグが配列番号96を含む、請求項41又は42に記載の変異RSV F分子。
【請求項46】
前記タグがタンパク質分解で切断可能なタグである、請求項41~45のいずれか一項に記載の変異RSV F分子。
【請求項47】
(i)配列番号81の第26~109位のアミノ酸残基を含むか、若しくはこれらからなるF2ポリペプチド、及び、配列番号81の第137~513位のアミノ酸残基を含むか、若しくはこれらからなるF1ポリペプチド、又は (ii)配列番号81の第26~109位のアミノ酸残基にわたって少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、若しくはこれらからなるF2ポリペプチド、及び、配列番号81の第137~513位のアミノ酸残基にわたって少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸残基を含むか、若しくはこれらからなるF1ポリペプチド、を含む変異RSV F分子であって、
前記変異RSV F分子は、(i)(a)第428位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸、(b)第226位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸、(c)第185位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸、及び (d)第198位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸、の各々におけるチロシン、(ii)第190位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるフェニルアラニン、並びに、(iii)第207位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるロイシン、を含み、並びに、
前記変異RSV F分子は、融合前のコンフォメーションをとることが可能な成熟RSV F三量体を形成することが可能であるか、又は、処理されてそのような三量体を形成することが可能である、
変異RSV F分子。
【請求項48】
配列番号81の第26~109位及び第137~513位のアミノ酸残基を含む、請求項47に記載の変異RSV F分子。
【請求項49】
(i)配列番号81の第26~109位のアミノ酸残基を含むか、若しくはこれらからなるF2ポリペプチド、及び、配列番号81の第137~513位のアミノ酸残基を含むか、若しくはこれらからなるF1ポリペプチド、又は (ii)配列番号81の第26~109位のアミノ酸残基にわたって少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、若しくはこれらからなるF2ポリペプチド、及び、配列番号81の第137~513位のアミノ酸残基にわたって少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸残基を含むか、若しくはこれらからなるF1ポリペプチド、を含む可溶型成熟三量体型RSV F分子であって、
前記可溶型成熟三量体型RSV F分子は、(a)第428位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸、(b)第226位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸、(c)第185位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸、及び (d)第198位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸、の各々におけるチロシンを含み、並びに、
前記可溶型成熟三量体型RSV F分子は、融合前のコンフォメーションをとることが可能である、
可溶型成熟三量体型RSV F分子。
【請求項50】
配列番号81の第26~109位及び第137~513位のアミノ酸残基を含む、請求項49に記載の可溶型成熟三量体型RSV F分子。
【請求項51】
(i)配列番号81の第26~109位のアミノ酸残基を含むか、若しくはこれらからなるF2ポリペプチド、及び、配列番号81の第137~513位のアミノ酸残基を含むか、若しくはこれらからなるF1ポリペプチド、又は (ii)配列番号81の第26~109位のアミノ酸残基にわたって少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、若しくはこれらからなるF2ポリペプチド、及び、配列番号81の第137~513位のアミノ酸残基にわたって少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸残基を含むか、若しくはこれらからなるF1ポリペプチド、を含む可溶型成熟三量体型RSV F分子であって、
前記可溶型成熟三量体型RSV F分子は、(i)(a)第428位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸、(b)第226位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸、(c)第185位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸、及び (d)第198位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸、の各々におけるチロシン、(ii)第190位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるフェニルアラニン、並びに、(iii)第207位のアミノ酸残基、又は配列番号81とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるロイシン、を含み、並びに、
前記可溶型成熟三量体型RSV F分子は、融合前のコンフォメーションをとることが可能である、
可溶型成熟三量体型RSV F分子。
【請求項52】
配列番号81の第26~109位及び第137~513位のアミノ酸残基を含む、請求項51に記載の可溶型成熟三量体型RSV F分子。
【請求項53】
前記分子が1つ以上のDT架橋を含み、pre-Fコンフォメーションで安定化されている、請求項47~52のいずれか一項に記載のRSV F分子。
【請求項54】
請求項1~53のいずれか一項に記載の変異RSV F分子をコードする核酸。
【請求項55】
請求項54に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項56】
請求項54に記載の核酸分子を含む細胞。
【請求項57】
請求項55に記載のベクターを含む細胞。
【請求項58】
請求項1~53のいずれか一項に記載の変異RSV分子を含む医薬組成物。
【請求項59】
アジュバントをさらに含む、請求項58に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年8月7日に出願された米国特許仮出願第62/542,247号、2018年2月12日に出願された米国特許仮出願第62/629,685号、2018年3月8日に出願された米国特許仮出願第62/640,467号、および2018年5月22日に出願された米国特許仮出願第62/674,791号の優先権の利益を主張するものであり、これらの各々の内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願はASCIIフォーマットで電子的に提出された配列表を含み、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。2018年8月3日に作成された前記ASCIIによる複製物は、Avatar_009_WO1_SL.txtという名称であり、サイズは452,739バイトである。
【0003】
連邦政府による資金提供を受けた研究の記載
本発明は、アメリカ国立衛生研究所によって与えられた認可番号AI112124の下、政府支援を受けてなされた。本発明において政府はある一定の権利を有する。
【0004】
参照による援用
参照による援用を許容する法的範囲のみを目的として、本明細書で引用されるすべての文献の内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0005】
米国では、毎年400~500万人の小児がRSウイルス(RSV)に感染し、乳幼児の入院の最も大きな原因となっている(約150,000人の入院者数)。全世界では1歳未満の乳幼児における死者の6.7%をRSVが占め、マラリアに次いで第2位である。加えて、高齢および免疫不全の対象をはじめとした他の高リスク群にも深刻な脅威となっており、米国において概算で180,000人の入院者数と12,000人の死者数をさらに生み出している。RSVに対する現行のフロントライン治療は存在せず、現在認可されているRSVに対する唯一の予防的治療は、認可済みのモノクローナル抗体シナジス(登録商標)(パリビズマブ)の受動的投与であり、これはRSV融合(F)タンパク質を認識し、重症疾患の発生率を約50%減少させる。シナジス(登録商標)による予防は高コストであるため、その使用は未熟児および先天性心疾患を有する生後24ヶ月未満の乳幼児にのみ限定される。総説としては、Costelloら, “Targeting RSV with Vaccines and Small Molecule Drugs, Infectious Disorders,” Drug Targets, 2012, vol. 12, no. 2.を参照されたい。より有効で、理想的には費用対効果のより高いRSVワクチンの開発は、莫大な価値があるものと思われる。
【0006】
RSV Fタンパク質は、RSVエンベロープ糖タンパク質である。自然界では、RSV Fタンパク質は、「F0」で表記される単一の前駆体ポリペプチドとして翻訳される。F0前駆体ポリペプチドは一般に長さが574アミノ酸であり、そのうち第1~25位のアミノ酸がシグナルペプチドを構成する。前駆体ポリペプチドF0は前駆体三量体を形成し、これは細胞プロテアーゼによりタンパク質分解で切断されて、Pep 27ポリペプチド、F1ポリペプチド、およびF2ポリペプチドを生じる。F2ポリペプチドは、典型的に、F0前駆体の第26~109位のアミノ酸残基を含む。F1ポリペプチドは、典型的に、F0前駆体の第137~574位のアミノ酸残基を含む。F1ポリペプチドとF2ポリペプチドとがジスルフィド結合によって連結されて、RSV F「プロトマー」と呼ばれるヘテロ二量体を形成する。かかるプロトマー3つが、RSV F分子の成熟三量体型形態を形成する。
【0007】
RSV Fタンパク質は、RSVに対する防御に関係する強力な中和抗体を誘導することが知られている。近年、RSV Fタンパク質三量体の融合前のコンフォメーション(以下、「融合前F」または「pre-F」という場合がある)が、ヒト血清中における中和活性の最も大きな決定因子であることが示されている。これまでに単離された最も強力な中和抗体(nAb)もまた、融合前のコンフォメーションにのみ特異的に結合する。しかし、可溶型pre-Fは非常に不安定で、融合後のコンフォメーションに容易に移行するため、ワクチン用免疫原としてのその有用性が限定されている。
【0008】
融合前のコンフォメーションで安定化されたRSV Fタンパク質は、RSVワクチン免疫原の候補で、非常に価値がある可能性がある。
【0009】
RSV Fタンパク質(強力な中和AbであるD25に結合したもの)のその融合前のコンフォメーションにおける結晶構造は、McLellanら, 2013, Science, 340, p. 1113-1117に記載されており、その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0010】
RSV Fをそのpre-Fコンフォメーションで安定化しようとする目的で、いくつかの異なる手法が開発されている。たとえば、これまでにMarshallらは、RSV Fタンパク質のある特定の位置における、「チロシンへの」点変異およびジチロシン(DT)架橋を導入することを記載している。国際特許出願PCT/US2014/048086を参照されたい。他の手法は、RSV Fタンパク質のある特定の位置における、「システインへの」変異、ジスルフィド結合、および/または空洞充填アミノ酸置換を導入することを含んでいる。米国特許第9738689号明細書、米国特許第9950058号明細書、またはMcLellanら(2013) Science 342: 592-598を参照されたい。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、これまでに国際特許出願PCT/US2014/048086にてMarshallらによって記載された研究を超える、一定の新たな進展と改善をもたらすものであり、PCT/US2014/048086に記載されておらず、PCT/US2014/048086に記載された分子と比較して、さらには、他のRSV F変異体およびRSV F免疫原の候補と比較して改善された特性を有する、ある種の新規の変異RSV F分子を提供することを含むが、これに限定されない。本明細書の実施例に示すように、これらの新規の変異RSV F分子を認められている前臨床動物モデルを使用してインビボで動物に投与したとき、それらは高い免疫原性を示す。
【0012】
一部の態様において、本発明は、第428位のアミノ酸位置におけるチロシン(標準的な慣習に従って「Try」または「Y」と略記する)への点変異、すなわち、「428Y変異」を含む変異RSV F分子を提供する。本明細書の実施例でさらに説明するように、かかる428Y変異を含む変異RSV F分子(「428Y変異体」という)は、428Y変異ではなく427Y変異を含む以外は同一である変異RSV F分子と比較して、改善された特性を有する。これらの改善された特性には、(i)ワクチン接種後の血清中和力価がおよそ5倍に増加すること、(ii)抗原部位IV-Vに特異的な抗体および融合前の特定の抗原部位「O」(翻訳文注:「O」は、
【0013】
【0014】
という文字を意味する。以下、この注記は省略する。また、「o」はその小文字である。)に特異的な抗体への結合によって決定される抗原プロファイルが、著しく改善されること、ならびに(iii)RSV F三量体型複合体の産生量が六量体型複合体と比較して著しく増加することが含まれる。これらの発見に基づき、本発明は、成熟RSV F三量体、1つ以上のDT架橋により融合前のコンフォメーションにコンフォメーションが固定された成熟RSV F三量体、これらの様々な前駆体、およびこれらの様々な構成要素(F1およびF2ポリペプチドならびにプロトマーを含む)が含まれるがこれらに限定されない、新規の改善された様々な変異RSV F分子を提供する。また、本発明は、かかる変異RSV F分子のアミノ酸配列、かかる変異RSV F分子をコードする塩基配列、かかる塩基配列を含むベクター、かかる塩基配列またはベクターを含む、および/または発現する細胞、かかる変異RSV F分子の製造方法、ならびに、RSVに対するワクチン接種のためのインビボでの使用および抗体製造のための免疫原としての使用を含むがこれらに限定されない、かかる変異RSV F分子の使用方法を提供する。
【0015】
したがって、一態様において、本発明は、第428位のアミノ酸位置におけるチロシンへの点変異(すなわち、428Y変異)、または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、第428位に相当するアミノ酸位置におけるチロシンへの点変異を含む変異RSV F分子を提供する。一部の態様において、かかる変異RSV F分子は、428Y変異をそれぞれが含むRSV F単量体またはプロトマーであるか、またはこれを含む。一部の態様において、かかる変異RSV F分子は、3つの428Y変異を含むRSV F三量体(たとえば、成熟RSV F三量体)であるか、またはこれを含む。
【0016】
一部の態様において、428Y変異を含むかかる変異RSV F分子はまた、第226位のアミノ酸位置におけるチロシンへの点変異(すなわち、226Y変異)、または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、第226位に相当するアミノ酸位置におけるチロシンへの点変異を含む。一部の態様において、かかる変異RSV F分子は、428Y変異と226Y変異の両者をそれぞれが含むRSV F単量体またはプロトマーであるか、またはこれを含む。一部の態様において、かかる変異RSV F分子は、3つの428Y変異と3つの226Y変異とを含むRSV F三量体(たとえば、成熟RSV F三量体)であるか、またはこれを含む。
【0017】
一部の態様において、428Y変異を含むかかる変異RSV F分子はまた、第185位のアミノ酸位置におけるチロシンへの点変異(すなわち、185Y変異)、または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、第185位に相当するアミノ酸位置におけるチロシンへの点変異を含む。一部の態様において、かかる変異RSV F分子は、428Y変異と185Y変異の両者をそれぞれが含むRSV F単量体またはプロトマーであるか、またはこれを含む。一部の態様において、かかる変異RSV F分子は、3つの428Y変異と3つの185Y変異とを含むRSV F三量体(たとえば、成熟RSV F三量体)であるか、またはこれを含む。
【0018】
一部の態様において、かかる変異RSV F分子はまた、(a)第226位のアミノ酸位置におけるチロシンへの点変異(すなわち、226Y変異)、または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、第226位に相当するアミノ酸位置におけるチロシンへの点変異と、(b)第185位のアミノ酸位置におけるチロシンへの点変異(すなわち、185Y変異)、または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、第185位に相当するアミノ酸位置におけるチロシンへの点変異の両者を含む。一部の態様において、かかる変異RSV F分子は、428Y変異と、226Y変異と、185Y変異とをそれぞれが含むRSV F単量体またはプロトマーであるか、またはこれを含む。一部の態様において、かかる変異RSV F分子は、3つの428Y変異と、3つの226Y変異と、3つの185Y変異とを含むRSV F三量体(たとえば、成熟RSV F三量体)であるか、またはこれを含む。
【0019】
本明細書に記載の様々な変異RSV F分子の各々は、他の様々な変異を含むこともできる。
【0020】
一部の態様において、本明細書に記載される変異RSV F分子はまた、1つ以上のさらなるチロシンへの変異、たとえば、国際特許出願PCT/US2014/048086(国際公開第2015/013551号)に記載されたチロシンへの変異のうちの1つ以上を含み、同文献の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0021】
一部の態様において、本明細書に記載される変異RSV F分子はまた、1つ以上のシステインへの変異、たとえば、1つ以上または米国特許第9738689号、米国特許第9950058号、またはMcLellanら(2013) Science 342: 592-598に記載されたものを含み、これらの文献の各々は参照により本明細書に組み込まれる。一部のかかる態様において、RSV F分子は、米国特許第9738689号、米国特許第9950058号、またはMcLellanら(2013) Science 342: 592-598に記載される、いわゆる「DS」変異を含む。たとえば、一部の態様において、RSV F分子は、155C変異、290C変異、または155C変異と290C変異の両者を含む。
【0022】
一部の態様において、本明細書に記載される変異RSV F分子はまた、1つ以上の空洞充填アミノ酸置換、たとえば、1つ以上または米国特許第9738689号、米国特許第9950058号、またはMcLellanら(2013) Science 342: 592-598に記載されるものを含み、これらの文献の各々は参照により本明細書に組み込まれる。一部のかかる態様において、RSV F分子は、米国特許第9738689号、米国特許第9950058号、またはMcLellanら(2013) Science 342: 592-598に記載される、いわゆる「Cav1」変異を含む。たとえば、一部の態様において、RSV F分子は、S190F空洞充填変異、V207L空洞充填変異、またはS190F空洞充填変異とV207L空洞充填変異の両者を含む。
【0023】
一部の態様において、本明細書に記載される変異RSV F分子は、異種三量体形成ドメインをさらに含む。かかる態様の一部において、三量体形成ドメインはフォールドン(foldon)ドメインである。
【0024】
一部の態様において、本明細書に記載される変異RSV F分子は、RSV F分子の検出および/または精製に有用であり得る、1つ以上のタグをさらに含む。一部の態様において、かかるタグは切断可能なタグであってもよい。かかる態様の一部において、タグは、Hisタグ、 Strepタグ、またはStrepIIタグである。
【0025】
本明細書に記載される変異RSV F分子の各々は、膜結合型または可溶型(すなわち、非膜結合型)形態のいずれかで提供することができる。一部の態様において、膜結合型形態には、天然に存在するRSV Fタンパク質の膜貫通および細胞質ドメインが含まれ、これらの詳細(配列を含む)は、本明細書の詳細な説明に示される。一部の態様において、膜結合型形態は、他の、すなわち、RSV Fタンパク質に本来備わっていない膜貫通および細胞質ドメインを含んでいてもよい。一部の態様において、本明細書に記載される変異RSV F分子の可溶型(すなわち、非膜結合型)形態が使用される。可溶型形態は、RSV F分子が医薬組成物の成分として使用される場合、たとえば、RSVに対する防御のためのワクチンとして使用する場合に特に有用であり得る。本明細書に記載される変異RSV F分子のかかる可溶型は、たとえば、本明細書の詳細な説明でさらに説明するように、膜貫通および細胞質ドメインを除去することによって作製することができる。一部のかかる態様において、本明細書の詳細な説明でさらに説明するように、異種配列を付加して、膜貫通および細胞質ドメイン、たとえば、異種三量体形成ドメイン、たとえば、フォールドン(foldon)ドメインを置きかえてもよい。
【0026】
本明細書に記載される変異RSV F分子の各々は、1つ以上のDT架橋を含み、そのpre-Fコンフォメーションにコンフォメーションが固定された、成熟RSV F三量体の形態で提供することができる。かかるコンフォメーションが固定されたRSV F分子は、この明細書の詳細な説明および実施例の項で説明するように、ならびに/または国際特許出願PCT/US2014/048086(国際公開第2015/013551号)で記載されるように、DT架橋反応を行うことによって作製することができ、同文献の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0027】
一部の態様において、本発明は、少なくとも1つのDT架橋を含む、本明細書に記載される変異RSV F分子を提供する。一部の態様において、本発明は、少なくとも3つのDT架橋を含む、本明細書に記載される三量体型変異RSV F分子を提供する。一部の態様において、本発明は、少なくとも6つのDT架橋を含む、本明細書に記載される三量体型変異RSV F分子を提供する。
【0028】
一部の態様において、本発明は、少なくとも1つのDT架橋を含み、少なくとも1つのDT架橋の少なくとも1つのチロシンがチロシンへの点変異によって導入された、本明細書に記載される変異RSV F分子を提供する。一部の態様において、本発明は、少なくとも3つのDT架橋を含み、少なくとも3つのDT架橋の各々の少なくとも1つのチロシンがチロシンへの点変異によって導入された、本明細書に記載される三量体型変異RSV F分子を提供する。
【0029】
たとえば、一部の態様において、DT架橋は、第198位の残基におけるチロシン(一般に、天然に存在するチロシン)と第226位の残基における導入されたチロシン(すなわち、226Y変異の結果生じたもの)の間に導入されて、分子内198Y-226Y DT架橋を形成する。これにより、3つの分子内DT架橋を含むRSV F三量体が創出される。
【0030】
一部の態様において、DT架橋は、第185位の残基における導入されたチロシン(すなわち、185Y変異の結果生じたもの)と第428位の残基における導入されたチロシン(すなわち、428Y変異の結果生じたもの)の間に導入されて、185Y-428Y分子間DT架橋を形成する。これにより、3つの分子間DT架橋を含むRSV F三量体が創出される。
【0031】
さらに一部の態様において、198Y-226Y分子内DT架橋と185Y-428Y分子間DT架橋の両者が導入される。これにより、6つのDT架橋、すなわち、3つの分子内DT架橋と3つの分子間DT架橋とを含むRSV F三量体が創出される。
【0032】
一部の態様において、本発明は、本明細書に記載される変異RSV F分子のうちの1つ以上を含む、組成物を提供する。一部のかかる態様において、組成物は医薬組成物であり、すなわち、その成分は生きている対象への投与に適する。一部のかかる態様において、医薬組成物は、1つ以上のアジュバントを含む。例示的なアジュバントとしてはアラムアジュバントが挙げられるが、これに限定されない。一部の態様において、医薬組成物は担体を含む。一部の態様において、医薬組成物は免疫賦活剤を含む。一部の態様において、組成物はRSVワクチンであるか、またはその一部を形成するか、またはワクチン接種の方法において使用することができる。
【0033】
一部の態様において、本発明は、本明細書に記載される様々な異なる変異RSV F分子をコードする、核酸分子を提供する。一部の態様において、本発明は、かかる核酸分子を含むベクターを提供する。一部の態様において、本発明は、かかる核酸分子またはベクターを含む細胞を提供する。
【0034】
一部の態様において、本発明は、対象におけるRSVを治療または予防するための方法を提供する。一部の態様において、本発明は、対象にRSVのワクチン接種を行う方法を提供する。一部の態様において、本発明は、対象においてRSV中和抗体の産生を誘発する方法を提供する。かかる方法の各々は、有効量の本明細書に記載される変異RSV F分子、またはかかる変異RSV F分子を含む有効量の医薬組成物を対象に投与することを含む。一部のかかる態様において、対象は非ヒト哺乳動物である。たとえば、一部の態様において、対象は、前臨床試験を行うのに有用な非ヒト哺乳動物、たとえば、齧歯類(たとえば、マウスまたはコットンラット)または非ヒト霊長類であってもよい。一部の態様において、対象はヒトであってもよい。対象がヒトである態様において、ヒト対象は任意の年齢とすることができる。一部の態様において、ヒト対象は乳幼児である。一部の態様において、ヒト対象は小児である。一部の態様において、ヒト対象は生後24ヶ月未満である。一部の態様において、ヒト対象は成人である。一部の態様において、ヒト対象は50歳超である。一部の態様において、ヒト対象は60歳超である。
【0035】
一部の態様において、本発明は、本明細書に記載される変異RSV F分子を免疫原として使用して抗RSV F抗体を製造するための方法を提供する。かかる抗体は、研究用途および治療的用途をはじめとした様々な用途に有用であり得る。たとえば、一部の態様において、かかる方法は、本明細書に記載される変異RSV F分子を、抗体の製造に有用な動物対象、たとえば、マウスまたはウサギに投与することを含む。一部の態様において、対象は、完全ヒト抗体を産生できるように遺伝子改変された動物であってもよい。他の態様において、ライブラリースクリーニング法、たとえば、ファージディスプレイスクリーニング法が挙げられるがこれらに限定されない、抗体製造に有用な他の系において、本明細書に記載される変異RSV F分子を免疫原として使用することができる。
【0036】
本発明のこれらの側面および他の側面について、この特許出願の詳細な説明、実施例、特許請求の範囲、図面、および図面の簡単な説明でさらに説明するが、これらの項のすべてが相互に組み合わせて読まれることが意図されている。さらに、本明細書に記載した本発明の様々な態様を、様々な異なる様式で組み合わせることができること、ならびに、かかる組合せが本発明の範囲内であることを、当業者は認識するはずである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本明細書に記載されるRSV F分子を哺乳動物細胞内で発現するための、例示的な核酸ベクター。
【
図2】198Y-226Y DT架橋(「設計1」)と185Y-428Y DT架橋(設計2)とを含む変異RSV F分子の概略図。分子の構造中の抗原部位「O」、IV、およびVを示す。
【
図3】
図3A;DT架橋反応を行った後、部位「O」に結合する融合前特異的mAbであるD25を用いたELISAにより、198Yと226Yの間の分子内架橋(「設計1」)によって導入された安定性を、4℃で2週間にわたって測定した。
図3B;ウェスタンブロッティングによりWTと比較することで、185Yと428Yの間の分子間DT結合形成(「設計2」)についてアッセイを行った(モタビズマブは一次Abである)。F
1タンパク質は三量体(TM)の大きさまで移動する。
【
図4】DT架橋AVR02を製造するための例示的なプロトコールの概略図。
【
図5】規格化するためにモタビズマブを使用し、コンフォメーションの完全性を調べるために抗原部位IV/Vに結合する抗体(
図5A)および部位「O」に結合する抗体(
図5B)を使用したELISAによる、DS-Cav1、428Y RSV F変異体の未架橋体(AVR02)、および428Y変異体のDT架橋体(DT-AVR02)のコンフォメーションの完全性についての比較。
【
図6】37℃で100時間の熱負荷後における、部位「O」の抗原性。
図6A;4℃および37℃でのインキュベーション後における、5C4(部位「O」)による、428Y RSV F変異体(AVR02)および428Y RSV F変異体のDT架橋体(DT-AVR02)に対する保持された結合の比較。
図6B;37℃での100時間のインキュベーション後における、DS-Cav1およびDT-AVR02に対する保持された5C4およびD25の結合。各対の左の棒は5C4である。各対の右の棒はD25である。
図6C;4℃で5週間後における、5C4(部位「O」)による428Y RSV F変異体(AVR02)に対する保持された結合。
【
図7】マウスにおけるインビボでのDT架橋428Y RSV F変異体(DT-AVR02またはDT-preF)の有効性。中和力価。アラムを添加したDSCAV1またはDT-AVR02のいずれかでワクチン接種した動物から得た、RSV-ウミシイタケルシフェラーゼ中和力価。
【
図8】例示的なワクチン接種スケジュールの概略図。
【
図9】コットンラットにおける、DT架橋428Y RSV F変異体(DT-AVR02またはDT-preFという)のインビボでの有効性。+39日目における、Alhydrogel(登録商標)2%のアジュバントが追加されたDT架橋428Y RSV F変異体の、鼻洗浄液中のRSV/A/Tracy力価に対する効果。記載の対照および処理群の各々について、RSV力価を示す。
【
図10】コットンラットにおける、DT架橋428Y RSV F変異体(DT-AVR02/DT-preF)のインビボでの有効性。+39日目における、肺洗浄液中のRSV/A/Tracy力価に対する、Alhydrogel(登録商標)2%のアジュバントが追加されたDT架橋428Y RSV F変異体。記載の対照および処理群の各々について、RSV力価を示す。
【
図11】コットンラットにおける、DT架橋428Y RSV F変異体(DT-AVR02/DT-preF)のインビボでの有効性。Alhydrogel(登録商標)2%のアジュバントが追加されたDT-preFの、RSV/A/Tracy血清中和抗体の生成に対する効果。
【
図12】コットンラットにおける、DT架橋428Y RSV F変異体(DT-AVR02/DT-preF)のインビボでの有効性。Alhydrogel(登録商標)2%のアジュバントが追加されたDT-preFの、RSV/B/1853交差反応性中和抗体の生成に対する効果。
【
図13】第427位(447Y)ではなく第428位(448Y)におけるチロシン置換は、RSV F変異体の抗原プロファイルを劇的に改善する。Streptactin(登録商標)で精製された可溶型427Y(DT-Cav1)変異体(
図13A~B)または428Y(DT-AVR02)変異体(
図13C~D)をDT架橋に供し、精製し、記載のmAbを用いて抗原性について分析した。ELISAを、モタビズマブを用いて総タンパクについて規格化し、Ni-NTA被覆プレート上で実施した。DSCav1を陽性対照として使用した。2つのコンフォメーションの抗体、部位「O」に特異的なmAbおよび抗原部位IV/Vの間で結合する融合前特異的mAbを用いて、融合前の構造を詳しく調べた。
【
図14】サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)およびSDS-PAGE分析により、DT架橋427Y RSV F変異体(DT-Cav1)とDT架橋428Y RSV F変異体(DT-AVR02)の顕著に異なるプロファイルが明らかとなる。ジチロシン架橋反応の直後における記載のRSV F変異体(427Y/DT-Cav1
図14A上、左、および428Y/DT-AVR02
図14B下左)のサイズ排除クロマトグラフィープロファイルを示す。428Y変異により、架橋反応後に高次種の劇的な減少が実現される。SDS-PAGEゲル上還元および変性条件下で分離後、クーマシー染色を行った後における最終生成物を
図14C(右)に示す。矢印は、高次種(427Y/DT-Cav1)と架橋三量体型種(428Y/DT-AVR02)を示す。
【
図15】DT架橋428Y RSV F変異体(DT-AVR02)でワクチン接種した動物の血清中和力価は、DT架橋427Y RSV F変異体(DT-Cav1)でワクチン接種した動物の中和力価より劇的に高い。プライム-ブーストレジメンにより、DS-Cav1対照(ベンチマーク比較基準)または記載のDT架橋分子のいずれか(
図15A(左)が427Y/DT-Cav1、
図15B(右)が428Y/DT-AVR02)を10μg用い、動物にワクチン接種を行った。追加免疫後に血清を採取し、加熱失活させ、RSV-ウミシイタケルシフェラーゼレポーターウイルスを用いて中和力価を取得した。記載の中和力価は5動物/群の平均であり、ルシフェラーゼ活性の50%阻害をもたらす逆数血清希釈度として計算される。
【
図16】スクロースを用いた調合により、RSV F凝集体の形成が減少する。実験は、DT架橋428Y変異体(DT-AVR02)を用いて実施した。最終濃縮後、分析用サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を実施した。
図16Aに示されるように、3つのピークが同定され、それらのうちピークCは三量体であり、ピークAおよびBは凝集体である。精製工程の溶出中に10%スクロースを用いてDT-AVR02分子を調合することにより、凝集体の形成がなくなったように見える。
図16Bに示されるように、10%スクロースを用いて調合された試料では、ピークC(三量体)は残存したがピークAおよびB(凝集体)は明白ではなかった。
【発明の詳細な説明】
【0038】
本発明は、その一部において、1つ以上のチロシンへの変異を含み、1つ以上のDT架橋を導入することにより融合前のコンフォメーションで安定化され得る、または安定化されている変異RSV F分子を提供する。本発明はまた、かかる変異RSV F分子をコードする核酸分子、かかる変異RSV F分子を作製する方法、かかる変異RSV F分子を含む組成物、ならびに、ワクチン接種方法、治療方法、および抗体製造方法が含まれるがこれらに限定されない、かかる変異RSV F分子を使用する方法を提供する。
【0039】
定義
本開示において使用される科学技術用語は当業者が一般に理解する意味を有し、および/または、それらの意味は、本明細書で具体的に別段の定義がない限り、用語が使用される文脈から明らかである。以下でいくつかの用語を定義する。他の用語は、本明細書のいずれかの箇所で定義される。
【0040】
本明細書および特許請求の範囲で使用される単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈により明確に別段の規定がなされない限り、複数の指示対象を含む。「a」(または「an」)ならびに「1つ以上」および「少なくとも1つの」という用語は、交換可能に使用することができる。
【0041】
さらに、「および/または」は、他方を伴っているかまたは伴っていない、2つの明記された特徴または構成要素の各々を具体的に開示していると解釈されるものとする。よって、「Aおよび/またはB」のような語句で使用される場合の「および/または」という用語は、AおよびB、AまたはB、A(単独)、ならびにB(単独)を含むことが意図される。同様に、「A、B、および/またはC」のような語句で使用される場合の「および/または」という用語は、A、B、およびC;A、B、またはC;AまたはB;AまたはC;BまたはC;AおよびB;AおよびC;BおよびC;A(単独);B(単独);ならびにC(単独)を含むことが意図される。
【0042】
単位、接頭辞、および記号は、国際単位系(SI)に認可された形式で記載される。本明細書で提示される数値範囲は、その範囲を規定している数字を含む。
【0043】
本明細書で使用される「約」および「およそ」という用語は、数値との関連で使用される場合、その値の+または-20%の範囲内であることを意味する。
【0044】
本明細書で使用される「例示的な」という用語は、例、事例、または例示となることを意味する。
【0045】
本明細書で使用される「RSV F分子」という用語は、F1ポリペプチドとF2ポリペプチドとを含むRSV Fタンパク質のあらゆる形態を指し、すなわち、F0前駆体ポリペプチド、F0前駆体ポリペプチドの三量体、RSV Fプロトマー、および成熟RSV F三量体が含まれ、これらは膜結合型であっても可溶型であってもよい。本明細書で使用される「変異RSV F分子」という用語は、人工的に導入された/人の手による1つ以上の変異を含むRSV F分子を指す。
【0046】
本明細書で使用される「F1ポリペプチド」という用語は、RSV F F0前駆体配列の第137~513位のアミノ酸残基を含むポリペプチドを指す。第137~513位のアミノ酸残基はRSV F膜貫通および細胞質ドメインを含まない。一部の態様において、F1ポリペプチドはまた、RSV F膜貫通および細胞質ドメイン(RSV F F0前駆体配列の第514~574位の残基内に位置する)を含んでいてもよい。
【0047】
本明細書で使用される「F2ポリペプチド」という用語は、RSV F F0前駆体配列の第26~109位のアミノ酸残基を含むポリペプチドを指す。
【0048】
本明細書で使用される「タンパク質」および「ポリペプチド」という用語は、別段の記載がない限り、交換可能に使用される。本明細書で使用される「タンパク質複合体」という用語は、2つ以上のタンパク質またはタンパク質サブユニット、たとえば、2つ以上の単量体またはプロトマーの集合体である。別段の記載がない限り、タンパク質またはポリペプチドに関する本明細書のすべての記載はタンパク質複合体にも等しく適用され、逆もまた同様である。
【0049】
本明細書で使用される「核酸分子」、「核酸配列」、および「塩基配列」という用語は、交換可能に使用される。
【0050】
本明細書で使用される「安定化」および「固定」という用語は、たとえば、RSV Fタンパク質をその融合前のコンフォメーションで安定化させるかまたは固定する際の架橋の効果に関連して、交換可能に使用される。これらの用語は100%の安定性を必要としない。これらの用語はむしろ、ある程度改善または増加した安定性を意味する。たとえば、一部の態様において、融合前のコンフォメーションにおいて架橋されているRSV Fタンパク質に関連して「安定化」という用語が使用される場合、この用語は、融合前のコンフォメーションが、かかる架橋の前またはそれがない状態で有すると考えられるより大きい安定性を有することを意味する。安定性および相対的安定性は、本出願の他の部分で記載される、たとえば、RSVの融合前のコンフォメーションの半減期に基づいた様々な様式で測定してもよい。安定性の改善または増加は、意図する用途にとって有用または重要である、いかなる程度であってもよい。たとえば、一部の態様において、安定性は、約10%、25%、50%、100%、200%(すなわち、2倍)、300%(すなわち、3倍)、400%(すなわち、4倍)、500%(すなわち、5倍)、1000%(すなわち、10倍)、またはそれより大きく増加してもよい。
【0051】
本明細書で使用される「アジュバント」という用語は、免疫原または免疫原性組成物、たとえば、ワクチンに対する身体の免疫応答を、増強、加速、または延長することが可能な物質を指す。
【0052】
本明細書で使用される「DS-Cav1」という用語は、McLellanら, Science, 342(6158), 592-598, 2013に記載される変異RSV Fタンパク質を指し、これは、S155C、S290C、S190F、およびV207L変異を含む。
【0053】
本明細書で使用される「融合前のコンフォメーション」という用語は、融合前特異的抗体によって特異的に結合され得るRSV F分子の立体構造を指す。
【0054】
本明細書で使用される「融合前特異的抗体」という用語は、融合前のコンフォメーションにあるRSV F分子に特異的に結合するが、融合後のコンフォメーションにあるRSV Fタンパク質に結合しない抗体を指す。融合前特異的抗体としては、D25、AM22、5C4、およびAM14抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
本明細書で使用される「AM14」という用語は、国際公開第2008/147196号(A2)に記載される抗体を指す。
【0056】
本明細書で使用される「AM22」という用語は、国際公開第2011/043643号(A1)に記載される抗体を指す。
【0057】
本明細書で使用される「D25」という用語は、国際公開第2008/147196(A2)に記される抗体を指す。
【0058】
本明細書で使用される「5C4」という用語は、McLellanら, 2010, Nat. Struct. Mol. Biol., Feb 17(2): 248-50に記載される抗体を指す。McLellanら(Science 340: 1113-1117 (2013))。
【0059】
変異RSV F 分子
RSV融合または「F」タンパク質は、RSウイルスのエンベロープ糖タンパク質である。自然界では、RSV Fタンパク質は、単一の前駆体ポリペプチドとして翻訳される(F0と表記)。F0前駆体ポリペプチドは、一般に長さが574アミノ酸である。F0前駆体の第1~25位のアミノ酸が一般にシグナルペプチドを構成する。前駆体ポリペプチドF0は前駆体三量体を形成し、これは典型的に、1つ以上の細胞プロテアーゼにより、保存されたフリンコンセンサス切断部位においてタンパク質分解で切断されて、Pep 27ポリペプチド、F1ポリペプチド、およびF2ポリペプチドを生じる。Pep 27ポリペプチド(一般に、F0前駆体の第110~136位のアミノ酸)は取り除かれ、成熟RSV F三量体の一部を形成することはない。F2ポリペプチド(以下、「F2」または「F2領域」という場合がある)は、一般に、F0前駆体の第26~109位のアミノ酸残基からなる。F1ポリペプチド(以下、「F1」または「F1領域」という場合がある)は、一般に、F0前駆体の第137~574位のアミノ酸残基からなり、細胞外領域(一般に、第137~524位の残基)と、膜貫通ドメイン(一般に、第525~550位の残基)と、細胞質ドメイン(一般に、第551~574位の残基)とを含む。F1ポリペプチドとF2ポリペプチドとはジスルフィド結合によって連結されて、RSV F「プロトマー」と呼ばれるヘテロ二量体を形成する。かかる3つのプロトマーが、成熟RSV F三量体、すなわち、3つのプロトマーによるホモ三量体を形成する。自然界では、成熟RSV F三量体は一般に膜結合型である。しかし、成熟RSV F三量体の可溶型(すなわち、非膜結合型)を、膜貫通および細胞質ドメインを除去することによって作製することができる。たとえば、RSV Fタンパク質を第513位のアミノ酸で切断することによって(すなわち、第514位以降のアミノ酸を除去することによって)、可溶型形態への変換を実現することができる。
【0060】
自然界では、成熟RSV F三量体は、ウイルス膜と細胞膜との融合を媒介する。成熟RSV F三量体の融合前のコンフォメーション(以下、「pre-F」という場合がある)は、非常に不安定(準安定)である。しかし、RSVウイルスが細胞膜と合体すると、RSV Fタンパク質三量体は、一連のコンフォメーションの変化および遷移を経て、非常に安定な融合後の(「post-F」)コンフォメーションになる。成熟RSV Fタンパク質はRSVに対する防御に関係する強力な中和抗体(「nAb」)を誘導することが知らている。たとえば、RSV Fタンパク質を用いた免疫化により、ヒトにおいて保護作用のあるnAbが誘導される(たとえば、シナジス(登録商標))。RSV Fタンパク質の融合後形態には、いくつかの中和エピトープ(部位I、II、およびIV)が存在する。しかしながら、近年、Magroらは、融合後のコンフォメーションにあるRSV Fタンパク質とヒト血清のインキュベーションでは、Fタンパク質に対する中和活性の大半の枯渇に失敗したことを示しており、このことは、融合前のコンフォメーションに特有の中和抗原部位の存在を示唆した(Magro et al, 2012, PNAS 109(8): 3089)。X線結晶構造解析により、パリビズマブ(シナジス(登録商標))、モタビズマブ(Numax)、およびより最近に発見された101Fモノクローナル抗体(McLellanら, 2010, J. Virol., 84(23): 12236-44;およびMcLellanら, 2010, Nat. Struct. Mol. Biol., Feb 17(2): 248-50)によって認識されるエピトープがマッピングされた。McLellanら(Science 340: 1113-1117 (2013))は融合前のコンフォメーションにあるFタンパク質の構造を解明し、これにより、新規の中和エピトープである部位「o」が明らかとなった。部位「o」は融合前のコンフォメーションにのみ提示され、部位「o」には、最大でシナジス(登録商標)およびNumaxの50倍強力な中和力のある一連の抗体、たとえば、5C4が結合する。したがって、この融合前のコンフォメーションにあって部位「o」を提示するRSVワクチン用免疫原が効果的な保護作用を誘発し得るという証拠が、ますます増えている。しかし、RSV Fタンパク質の融合前のコンフォメーションが有する非常に不安定(準安定)な性質は、かかるワクチンの開発にとって大きな障害であることが判明している。McLellanらの融合前後のRSV Fの構造を比較すると、大きなコンフォメーションの変化(>5Å)を生じるFタンパク質の2つの領域があるように思われる。これらの領域は、F1サブユニットのNおよびC末端(それぞれ、第137~216位および第461~513位の残基)に位置している。部位「o」エピトープに結合したD25抗体によって融合前のコンフォメーションに保持されたRSV Fタンパク質の結晶構造において、フォールドン(foldon)三量体形成ドメインを付属させることで、C末端F1残基を融合前のコンフォメーションで安定化させることができる。F1のN末端領域を安定化させるべく、McLellanらは、抗体D25の結合が結晶構造研究に十分であることを見出した。しかし、ワクチン用免疫原の製造には別の安定化戦略、たとえば、大きな抗体分子に結合させるRSV Fタンパク質が要求されない安定化戦略が必要である。これまでに試みられた1つの代替的な手法は、F1 N末端の近くに対形成したシステイン変異(ジスルフィド結合形成用)および空洞充填変異を導入することを伴っている(McLellan et al, (2013) Science 342: 592-598に記載のDS-Cav1 RSV Fタンパク質バリアントを参照、同文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。しかし、かかるバリアントの結晶学的解析により、その構造は融合前のコンフォメーション中に部分的に存在しているにすぎないことが明らかとなった。したがって、臨床用ワクチンの開発のための免疫原を獲得するためには、RSV Fタンパク質のさらなる操作が必要である。
【0061】
本発明は、RSV Fタンパク質をその融合前のコンフォメーションで安定化させるためのいくつかの代替的な手法を提供し、これらは、RSV F分子の特定の位置に1つ以上の「チロシンへの」変異と1つまたは1つ以上のDT架橋とを導入することに基づく。
【0062】
いくつかの例示的なRSV Fおよび変異RSV F分子のアミノ酸配列を、表1および配列表に示す。表1に提示されている配列の多くは「F0」配列として表されており、すなわち、これらの配列は、シグナルペプチドと、F0前駆体中に存在するが成熟RSV Fタンパク質中に存在しないpep27ペプチドとを含む。同様に、表1に提示されている配列のうちのいくつかは、一部の態様において除去して成熟RSV三量体の可溶型を形成することが可能な、本来備わっている膜貫通および細胞質ドメインを含む。よって、これらの例示的な変異RSV分子の最終/成熟形態(すなわち、DT架橋されていてもよい形態)は、典型的に、表1中の配列に示されたアミノ酸のすべてを含むとは限らない。しかし、これらの例示的な変異RSV分子の最終/成熟形態は、これらの配列のうち、F2領域と、F1領域の少なくとも一部分とを含む。典型的に、これらの例示的な変異RSV分子の最終/成熟形態は、これらの配列のうち、第26~109位のアミノ酸残基と、第137~513位のアミノ酸残基とを含む。特定の例示的なアミノ酸配列を有するRSV F分子に言及する、本明細書のすべての態様において、完全F0配列、またはそれについての第26~109位のアミノ酸残基および第137~513位のアミノ酸残基のいずれかが想定されていることは、留意しなくてはならない。
【0063】
本明細書全体を通じて、アミノ酸残基番号によってRSV F分子の特定のアミノ酸位置/残基に言及がなされる場合(たとえば、第428位のアミノ酸残基)、別段の記載がない限り、アミノ酸の番号付けは、本出願の配列表および表1に提示されるRSV Fアミノ酸配列に対して使用されている番号付けである(たとえば、配列番号1~91を参照)。これは、RSV F配列を記述する際に当該技術分野で常用されるものと同じ付番法である。しかし、異なる付番法を使用できることには留意しなければならず、当業者はこれを理解するはずである。たとえば、配列番号1~91のいずれかと比較して付加または欠失されたさらなるアミノ酸残基が存在する場合。そういうものとして、理解されたい点は、特定のアミノ酸残基がその番号を用いて言及される場合、その記載は、所与のアミノ酸配列の開始位置から数えて番号付けされた位置に正確に位置するアミノ酸だけに限らず、むしろ、任意のすべてのRSV F配列において、その残基が所与の分子における番号付けされた正確に同じ位置にあるのではない場合、たとえば、RSV配列が配列番号1より短いもしくは長い、または配列番号1と比較して挿入もしくは欠失を有する場合であっても、「相当する」アミノ酸残基が意図されていることである。当業者は、本明細書で記載される番号付けされた特定の残基のいずれかについて、「相当する」アミノ酸位置がいずれであるかを、たとえば、所与のRSV F配列を配列番号1または本明細書に示される他のRSV Fアミノ酸配列のいずれか(すなわち、配列番号1~91)とアライメントすることによって、容易に決定することができる。かかるアライメントは、RSV F配列がRSVサブタイプおよびRSV株間で高度に保存的な性質を有していると仮定すれば、コンピュータによってであれ目視によってであれ、容易に行うことができる。異なるRSVサブタイプおよび株に由来する数多くのWT/天然RSV F分子のアミノ酸配列、ならびに、かかるRSV F分子をコードする核酸配列が、当該技術分野において知られている。いくつかの例示的なWT/天然RSV F分子のアミノ酸配列を、配列番号1~20および82~85に示す。他のかかる配列は公共の配列データベース中に見出すことができる。他のかかる配列は、国際特許出願PCT/US2014/048086、米国特許第9738689号、および米国特許第9950058号に記載されており、これらの各々の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0064】
WT/天然RSV F分子は、RSVサブタイプ間とRSV株間の両者で、驚くほど高いレベルの配列保存性を示す。たとえば、国際公開第2014/160463号を参照されたい。たとえば、RSVサブタイプAおよびBは、F0前駆体分子において90%の配列同一性を有する。所与のRSVサブタイプ(たとえば、サブタイプAまたはB)内で、株間での配列同一性は約98%である。さらに、これまでに同定されたほぼすべてのRSV F F0前駆体は、574個のアミノ酸からなる。長さに幾分の小さな相違があり得るが、そのような相違は一般に細胞質ドメインで生じる。
【0065】
本明細書に記載されるチロシンへの特定の変異を、任意の適切なRSV F「バックグラウンド」配列中に導入することができる。
【0066】
一部の態様において、かかる「バックグラウンド」配列は、WT/天然RSV F分子(すなわち、自然界に存在するRSV F分子)の配列である。当該技術分野において、異なるRSVサブタイプおよび株に由来する数多くのWT/天然RSV F分子のアミノ酸および塩基配列が知られている。いくつかの例示的なWT/天然RSV F分子のアミノ酸配列を、配列番号1~20および82~85に示す(表1および配列表を参照)。他のかかる配列は、国際特許出願PCT/US2014/048086、米国特許第9738689号、および米国特許第9950058号に記載されており、これらの各々の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0067】
一部の態様において、かかる「バックグラウンド」配列は、変異RSV F分子の配列、すなわち、WT/天然RSV F分子と比較した場合に1つ以上の人工的に導入された変異を含む配列である。たとえば、一部の態様において、「バックグラウンド」RSV F配列は、「Cav1」変異、「DS」変異、またはこれらの組合せを含んでいてもよい。本明細書に記載される特定の変異を導入してもよい、適切な変異バックグラウンドRSV分子の非限定的な例としては、配列番号86~91のいずれかのアミノ酸配列を有するもの、または配列番号86~91のいずれかの第26~109位のアミノ酸(すなわちF2)と第137~513位のアミノ酸(すなわち、F1)とを含むものが挙げられる(表1および配列表を参照)。本明細書に記載される特定の変異を導入してもよい、他の適切な変異バックグラウンドRSV分子としては、国際特許出願PCT/US2014/048086、米国特許第9738689号、および米国特許第9950058号に記載されるものが挙げられる。
【0068】
一部の態様において、本明細書に記載される特定の変異を導入してもよい「バックグラウンド」RSV F分子は、「完全長」RSV F分子、すなわち、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含むRSV F分子であってもよい。本明細書に記載される特定の変異および架橋を導入してもよい、適切な「完全長」バックグラウンドRSV分子の非限定的な例としては、配列番号1~9、11~29、31~49、51~80、83、85、87、もしくは89のいずれかのアミノ酸配列を有するもの、または配列番号1~9、11~29、31~49、51~80、83、85、87、もしくは89のいずれかの第26~109位のアミノ酸(F2)と第137~513位のアミノ酸(F1)とを含むものが挙げられる(表1および配列表を参照)。
【0069】
一部の態様において、本明細書に記載される特定の変異および架橋を導入してもよい「バックグラウンド」RSV F分子は、「可溶型」RSV F分子、すなわち、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含まないRSV F分子であってもよい。本明細書に記載される特定の変異および架橋を導入してもよい、適切な「可溶型」バックグラウンドRSV分子の非限定的な例としては、配列番号10、30、50、81、82、84、86、88、もしくは90のいずれかのアミノ酸配列を有するもの、または配列番号10、30、50、81、82、84、86、88、もしくは90のいずれかの第26~109位のアミノ酸(すなわち、F2)と第137~513位のアミノ酸(すなわち、F1)とを含むものが挙げられる。
【0070】
同様に、一部の態様において、本明細書に記載される特定の変異および架橋を導入してもよい可溶型「バックグラウンド」RSV F分子は、「完全長」RSV F分子から膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを除去することによって、たとえば、第514位以降のアミノ酸を「完全長」RSV F分子、たとえば、上述のもののうちの1つから除去することによって創出することができる。
【0071】
一部の態様において、本発明は、第428位のアミノ酸残基におけるチロシンへの点変異(428Y点変異という場合もある)、または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、第428位に相当するアミノ酸におけるチロシンへの点変異を含む変異RSV F分子を提供する。
【0072】
一部の態様において、428Y変異を含むかかる変異RSV F分子は、第185位のアミノ酸残基におけるチロシンへの点変異(185Y点変異という場合もある)、または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、第185位に相当するアミノ酸におけるチロシンへの点変異をさらに含む。よって、かかる変異体は、428Y変異と185Y変異の両者を含む。
【0073】
一部の態様において、428Y変異を含むかかる変異RSV F分子は、第226位のアミノ酸残基におけるチロシンへの点変異(226Y点変異という場合もある)、または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、第226位に相当するアミノ酸におけるチロシンへの点変異をさらに含む。よって、かかる変異体は、428Y変異と226Y変異の両者を含む。
【0074】
一部の態様において、428Y変異を含むかかる変異RSV F分子は、(a)第226位のアミノ酸残基におけるチロシンへの点変異(226Y点変異という場合もある)、または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、第226位に相当するアミノ酸におけるチロシンへの点変異と、(b)第185位のアミノ酸残基におけるチロシンへの点変異(185Y点変異という場合もある)、または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、第185位に相当するアミノ酸におけるチロシンへの点変異の両者をさらに含む。よって、かかる変異体は、428Y変異と、185Y変異と、226Y変異とを含む。
【0075】
一部の態様において、変異RSV F分子は、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む。一部の態様において、変異RSV F分子は、膜貫通ドメインおよび/または細胞質ドメインを含まない、すなわち、可溶型(非膜結合型)RSV F分子である。
【0076】
一部の態様において、変異RSV F分子は、RSV A型またはRSV B型分子である。
【0077】
一部の態様において、変異RSV F分子は、融合前特異的抗体に結合することができる。一部の態様において、変異RSV F分子は、抗原部位「o」を認識する抗体、たとえば、米国特許第9738689号、米国特許第9950058号、またはMcLellanら(2013) Science 342: 592-598に記載されているもののうちの1つに結合することができ、これらの文献の各々は、その全体がこの目的のために参照により本明細書に組み込まれる。かかる抗体の非限定的な例としては、D25、5C4、およびAM22が挙げられる。抗原部位「o」を認識する他の抗体は、本明細書に開示されているか、または当該技術分野において知られている。
【0078】
一部の態様において、変異RSV F分子は、F2ポリペプチドとF1ポリペプチドとを含み、F2ポリペプチドのC末端がジスルフィド結合によってF1ポリペプチドのN末端に連結している。一部の態様において、変異RSV F分子はF2ポリペプチドとF1ポリペプチドとを含み、F2ポリペプチドのC末端が人工的に導入されたペプチドリンカーによってF1ポリペプチドのN末端に連結している。
【0079】
一部の態様において、変異RSV F分子は、(a)およそ84個のアミノ酸残基を含むか、またはこれらからなるF2ポリペプチドと、(b)アミノ酸残基およそ375個のアミノ酸残基を含むか、またはこれらからなるF1ポリペプチドとを含む。
【0080】
一部の態様において、変異RSV F分子は、(a)およそ74~84個の酸残基を含むか、またはこれらからなるF2ポリペプチドと、(b)アミノ酸残基およそ365~375個のアミノ酸残基を含むか、またはこれらからなるF1ポリペプチドとを含む。
【0081】
一部の態様において、変異RSV F分子は、(a)配列番号21~81のいずれかの第26~109位のアミノ酸残基を含むか、またはこれらからなるF2ポリペプチドと、(b)配列番号21~81のいずれかの第137~513位のアミノ酸残基を含むか、またはこれらからなるF1ポリペプチドとを含む。
【0082】
一部の態様において、変異RSV F分子は、(a)配列番号21~81のいずれかの第26~109位のアミノ酸残基のうちのおよそ74~84個のアミノ酸を含むか、またはこれらからなるF2ポリペプチドと、(b)配列番号21~81のいずれかの第137~513位のアミノ酸残基のうちのおよそ365~375個のアミノ酸を含むか、またはこれらからなるF1ポリペプチドとを含む。
【0083】
一部の態様において、変異RSV F分子は、(a)配列番号81の第26~109位のアミノ酸残基を含むか、またはこれらからなるF2ポリペプチドと、(b)配列番号81の第137~513位のアミノ酸残基を含むか、またはこれらからなるF1ポリペプチドとを含む。
【0084】
一部の態様において、変異RSV F分子は、(a)配列番号81の第26~109位のアミノ酸残基のうちのおよそ74~84個のアミノ酸を含むか、またはこれらからなるF2ポリペプチドと、(b)配列番号81の第137~513位のアミノ酸残基のうちのおよそ365~375個のアミノ酸を含むか、またはこれらからなるF1ポリペプチドとを含む。
【0085】
一部の態様において、変異RSV F分子は、1つ以上のジチロシン架橋により融合前のコンフォメーションで安定化されている。
【0086】
一部の態様において、変異RSV F分子は成熟RSV F三量体である。一部のかかる態様において、RSV F分子は、3つ以上のジチロシン架橋により融合前のコンフォメーションで安定化されている、成熟RSV F三量体である。
【0087】
一部の態様において、変異RSV F分子は、第428位のアミノ酸位置(または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、これに相当するアミノ酸位置)におけるチロシンと、第185位のアミノ酸位置(または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、これに相当するアミノ酸位置)におけるチロシンの間に、ジチロシン架橋を含む。
【0088】
一部の態様において、変異RSV F分子は、第198位のアミノ酸位置(または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、これに相当するアミノ酸位置)におけるチロシンと、第226位のアミノ酸位置(または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、これに相当するアミノ酸位置)におけるチロシンの間に、ジチロシン架橋を含む。
【0089】
一部の態様において、変異RSV F分子は、(a)第198位のアミノ酸位置(または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、これに相当するアミノ酸位置)におけるチロシンと、第226位のアミノ酸位置(または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、これに相当するアミノ酸位置)におけるチロシンの間のジチロシン架橋と、(b)第428位のアミノ酸位置(または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、これに相当するアミノ酸位置)におけるチロシンと、第185位のアミノ酸位置(または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、これに相当するアミノ酸位置)におけるチロシンの間のジチロシン架橋の、両者を含む。
【0090】
一部の態様において、変異RSV F分子は3つのジチロシン架橋を含む成熟RSV F三量体であり、ジチロシン架橋の各々は、第428位のアミノ酸位置(または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、これに相当するアミノ酸位置)におけるチロシンと、第185位のアミノ酸位置(または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、これに相当するアミノ酸位置)におけるチロシンの間にある。
【0091】
一部の態様において、変異RSV F分子は3つのジチロシン架橋を含む成熟RSV F三量体であり、ジチロシン架橋の各々は、第198位のアミノ酸位置(または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、これに相当するアミノ酸位置)におけるチロシンと、第226位のアミノ酸位置(または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、これに相当するアミノ酸位置)におけるチロシンの間にある。
【0092】
一部の態様において、変異RSV F分子は6つのジチロシン架橋を含む成熟RSV F三量体であり、ジチロシン架橋のうち、3つは、198位のアミノ酸位置(または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、これに相当するアミノ酸位置)におけるチロシンと、第226位のアミノ酸位置(または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、これに相当するアミノ酸位置)におけるチロシンの間にあり、3つは、第428位のアミノ酸位置(または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、これに相当するアミノ酸位置)におけるチロシンと、第185位のアミノ酸位置(または、たとえば、配列番号1とアライメントして決定した場合に、および/もしくは、配列番号1のアミノ酸番号付けを用いて決定した場合に、これに相当するアミノ酸位置)におけるチロシンの間にある。
【0093】
一部の態様において、変異RSV F分子は、1つ以上の人工的に導入された非DT架橋をさらに含む。一部のかかる態様において、かかる非DT架橋はジスルフィド結合である。一部のかかる態様において、かかるRSV F分子は、システインへの1つ以上の点変異を含む。一部のかかる態様において、ジスルフィド結合のうちの1つ以上は2つのシステインの間に形成され、これらのうちの一方または両方は、点変異によって導入されたものである。一部のかかる態様において、RSV F分子は、第155位のアミノ酸残基におけるシステインへの点変異(すなわち、155C変異)を含む。一部のかかる態様において、RSV F分子は、第290位のアミノ酸残基におけるシステインへの点変異(すなわち、290C変異)を含む。一部のかかる態様において、RSV F分子は、第155位のアミノ酸残基におけるシステインへの点変異(すなわち、155C変異)と、第290位のアミノ酸残基におけるシステインへの点変異(すなわち、290C変異)の両者を含む。一部のかかる態様において、RSV F分子は、米国特許第9738689号、米国特許第9950058号、またはMcLellanら(2013) Science 342: 592-598のいずれかに開示されているシステインへの点変異のうちの1つ以上を含み、これらの文献の各々は、その全体がこの目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0094】
一部の態様において、変異RSV F分子は、1つ以上の人工的に導入された空洞充填変異(たとえば、置換)をさらに含む。一部のかかる態様において、RSV F分子は、第190位のアミノ酸残基におけるFへの変異(190F変異)を含む。一部のかかる態様において、RSV F分子は、第207位のアミノ酸残基におけるLへの点変異(207L変異)を含む。一部のかかる態様において、RSV F分子は、第190位のアミノ酸残基におけるFへの変異(190F変異)と、第207位のアミノ酸残基におけるLへの点変異(207L変異)の両者を含む。一部のかかる態様において、RSV F分子は、58W、83W、87F、90L、153W、190F、203W、207L、220L、260W、296F、および298Lからなる群から選択される1つ以上の空洞充填アミノ酸置換を含む。一部のかかる態様において、RSV F分子は、米国特許第9738689号、米国特許第9950058号またはMcLellanら(2013) Science 342: 592-598のいずれかに開示されている空洞充填アミノ酸置換のうちの1つ以上を含み、これらの文献の各々は、その全体がこの目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0095】
一部の態様において、変異RSV F分子はオリゴマー形成ドメイン、たとえば、三量体形成ドメインを含む。一態様において、三量体形成ドメインは、T4フォールドン(foldon)ドメイン、GCN4ドメイン、またはT4フィブリニチンドメインである。使用可能な他の三量体形成ドメインの例としては、Habazettlら、2009(Habazettl et al., 2009. NMR Structure of a Monomeric Intermediate on the Evolutionarily Optimized Assembly Pathway of a Small Trimerization Domain. J.Mol.Biol. pp. null);Kammererら、2005(Kammerer et al., 2005. A conserved trimerization motif controls the topology of short coiled coils. Proc Natl Acad Sci USA 102 (39): 13891-13896);Innamoratiら、2006(Innamorati et al., 2006. An intracellular role for the C1q-globular domain. Cell signal 18(6): 761-770);Schellingら、2007(Schelling et al., 2007. The reovirus σ-1 aspartic acid sandwich: A trimerization motif poised for conformational change. Biol Chem 282(15): 11582-11589);Panceraら、2005(Soluble Mimetics of Human Immunodeficiency Virus Type 1 Viral Spikes Produced by Replacement of the Native Trimerization Domain with a Heterologous Trimerization Motif: Characterization and Ligand Binding A
nalysis. J Virol 79 (15): 9954-9969);Gutheら、2004(Very fast folding and association of a trimerization domain from bacteriophage T4 fibritin. J.Mol.Biol. v337 pp. 905-15);およびPapanikolopoulouら、2008(Creation of hybrid nanorods from sequences of natural trimeric fibrous proteins using the fibritin trimerization motif. Methods Mol Biol 474: 15-33)に記載されているものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0096】
一部の態様において、変異RSV F分子は、配列番号93のフォールドン(foldon)ドメインを含む。
【0097】
一部の態様において、変異RSV F分子は、RSV F分子の検出および/または精製に有用な1つ以上のタグ(たとえば、C末端タグ)をさらに含む。例示的なタグとしては、Strepタグ、Strep IIタグ、FLAGタグ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)タグ、緑色蛍光タンパク質(GFP)タグ、ヘマグルチニンA(HA)タグ、ヒスチジン(His)タグ、ルシフェラーゼタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)タグ、c-Mycタグ、プロテインAタグ、およびプロテインGタグ等が挙げられるが、これらに限定されない。一部のかかる態様において、かかるRSV F分子は、配列番号95のHisタグを含む。一部のかかる態様において、かかるRSV F分子は、配列番号96のStrep IIタグを含む。一部のかかる態様において、かかるタグは切断可能なタグであり、すなわち、所望であればこれを変異RSV F分子から切断/除去することができる。一部のかかる態様において、かかるタグは、プロテアーゼを使用してタグを除去できる、タンパク質分解切断部位に隣接して(たとえば、C末端に)位置している。一部のかかる態様において、かかるRSV F分子は、配列番号94のトロンビン切断部位を含む。
【0098】
一部の態様において、変異RSV F分子は、1つ以上のペプチド「リンカー」配列をさらに含む。適切なリンカー配列としては、G、GG、GGG、GS、およびSAIG(配列番号92の第1~4位のアミノ酸)リンカー配列が挙げられるが、これらに限定されない。かかるリンカーは、F2のC末端とF1のN末端の間、F1のC末端と任意の人工三量体形成ドメインのN末端の間、および/または他の任意の人工的に導入された配列同士、たとえば、三量体形成ドメイン、タンパク質分解切断ドメイン、ならびに検出および/または精製に有用なタグ同士の間に設けられてもよい。
【0099】
一部の態様において、変異RSV F分子は、1つ以上のリーダー配列、前駆体ポリペプチド配列、分泌シグナル、および/または局在化シグナルを含む。
【0100】
変異RSV F分子の特定の例示的なアミノ酸配列(たとえば、配列番号21~81のアミノ酸配列)または「バックグラウンド」RSV F分子の特定の例示的なアミノ酸配列(たとえば、配列番号1~20または82~91のアミノ酸配列)に関する、またはかかる配列の特定の領域(たとえば、これらのF1および/またはF2領域)に関する本発明の上記態様において、かかるアミノ酸配列と等価なバリアント形態もまた使用することができる。たとえば、一部の態様において、本明細書に記載されるRSV Fアミノ酸配列のいずれかに対して、そのF1およびF2領域にわたって(具体的には、第26~109位(F2)および第137~513位(膜貫通および細胞質ドメインを除いたF1の一部)のアミノ酸残基にわたって)少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を使用することができる。一部の態様において、かかるアミノ酸配列に対して、そのF1およびF2領域にわたって少なくとも約80%または少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を使用することができる。かかるバリアント形態は、本明細書に示される特定のアミノ酸配列のうちの1つ以上と比較した場合に、付加、欠失、または置換されたアミノ酸を有してもよい。よって、それらは、明記された配列より長くても短くてもよい。
【0101】
同様に、本明細書に示される例示的なRSV Fアミノ酸配列の各々の第514位以降のアミノ酸残基は、欠失されていても変化していてもよい。たとえば、本明細書に示されるアミノ酸配列のいくつかにおいて、第514位以降のアミノ酸残基は、天然のRSV F膜貫通および細胞質ドメインを含む。一部の態様において、これらの天然のRSV F膜貫通および細胞質ドメインを除去してRSV F分子の可溶型(すなわち、非膜結合型)を生成することも、異なる膜貫通および/または細胞質ドメインと置きかえることもできる。同様に、本明細書に示されるアミノ酸配列のいくつかにおいて、第514位以降のアミノ酸残基は、様々な人工的に付加されたC末端配列、たとえば、フォールドン(foldon)ドメイン(配列番号93)、トロンビン切断部位(配列番号94)、ヒスチジンタグ(配列番号95)、Strep IIタグ(配列番号96)、および各種リンカーを含む、配列番号92に提示される人工C末端配列の組合せを含む。一部の態様において、かかる人工C末端配列は、必要に応じて、欠失、改変、再配置、または置換することができる。たとえば、一部の態様において、異なる三量体形成ドメインを使用してもよく、および/または異なる切断部位を使用してもよく、および/または異なるエピトープタグを使用してもよい。
【0102】
一部の態様において、本明細書に記載される特定の変異RSV F分子の中の1つ以上のアミノ酸残基を、別のアミノ酸で置換することができる。一部の態様において、1つ以上のアミノ酸残基を、類似の極性を有し機能的な等価物として作用し得る別のアミノ酸で置換して、サイレント変化をもたらしてもよい。一部の態様において、配列内のアミノ酸に対する置換は、そのアミノ酸が属するクラスの他のメンバーから選択して、たとえば、保存的置換を生じさせてもよい。たとえば、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびメチオニンが挙げられる。極性的に中性のアミノ酸としては、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、およびグルタミンが挙げられる。正に帯電した(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、リシン、およびヒスチジンが挙げられる。負に帯電した(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。一般に、かかる置換は保存的置換であると理解されている。
【0103】
一部の態様において、人工、合成、または非古典的なアミノ酸または化学的アミノ酸類似体を使用して、本明細書に記載される変異RSV F分子を作製することができる。非古典的なアミノ酸としては、一般的なアミノ酸のD異性体、フルオロアミノ酸、および「デザイナー」アミノ酸、たとえば、β-メチルアミノ酸、Cγ-メチルアミノ酸、Nγ-メチルアミノ酸、およびアミノ酸類似体全般が挙げられるが、これらに限定されない。非古典的なアミノ酸のさらなる非限定的な例としては、α-アミノカプリル酸、Acpa;(S)-2-アミノエチル-L-システイン/HCl、Aecys;アミノフェニルアセテート、Afa;6-アミノヘキサン酸、Ahx;γ-アミノイソ酪酸およびα-アミノイソビチル酸、Aiba;アロイソロイシン、Aile;L-アリルグリシン、Alg;2-アミノ酪酸、4-アミノ酪酸、およびα-アミノ酪酸、Aba;p-アミノフェニルアラニン、Aphe;b-アラニン、Bal;p-ブロモフェニルアライン、Brphe;シクロヘキシルアラニン、Cha;シトルリン、Cit;β-クロロアラニン、Clala;シクロロイシン、Cle;p-コロルフェニルアラニン、Clphe;システイン酸、Cya;2,4-ジアミノ酪酸、Dab;3-アミノプロピオン酸および2,3-ジアミノプロピオン酸、Dap;3,4-デヒドロプロリン、Dhp;3,4-ジヒドロキシルフェニルアラニン、Dhphe;p-フルロフェニルアラニン、Fphe;D-グルコサミン酸、Gaa;ホモアルギニン、Hag;δ-ヒドロキシリシン/HCl、Hlys;DL-β-ヒドロキシノルバリン、Hnvl;ホモグルタミン、Hog;ホモフェニルアラニン、Hoph;ホモセリン、Hos;ヒドロキシプロリン、Hpr;p-ヨードフェニルアラニン、Iphe;イソセリン、Ise;α-メチルロイシン、Mle;DL-メチオニン-S-メチルスルホニウムクロリド、Msmet;3-(1-ナフチル)アラニン、1Nala;3-(2-ナフチル)アラニン、2Nala;ノルロイシン、Nle;N-メチルアラニン、Nmala;ノルバリン、Nva;O-ベンジルセリン、Obser;O-ベンジルチロシン、Obtyr;O-エチルチロシン、Oetyr;O-メチルセリン、Omser;O-メチルトレオニン、Omthr;O-メチルチロシン、Omtyr;オルニチン、Orn;フェニルグリシン;ペニシラミン、Pen;ピログルタミン酸、Pga;ピペコリン酸、Pip;サルコシン、Sar;t-ブチルグリシン;t-ブチルアラニン;3,3,3-トリフルロアラニン、Tfa;6-ヒドロキシドーパ、Thphe;L-ビニルグリシン、Vig;(-)-(2R)-2-アミノ-3-(2-アミノエチルスルホニル)プロパン酸ジヒドロキソクロリド、Aaspa;(2S)-2-アミノ-9-ヒドロキシ-4,7-ジオキサノナン酸、Ahdna;(2S)-2-アミノ-6-ヒドロキシ-4-オキサヘキサン酸、Ahoha;(-)-(2R)-2-アミノ-3-(2-ヒドロキシエチルスルホニル)プロパン酸、Ahsopa;(-)-(2R)-2-アミノ-3-(2-ヒドロキシエチルスルファニル)プロパン酸、Ahspa;(2S)-2-アミノ-12-ヒドロキシ-4,7,10-トリオキサドデカン酸、Ahtda;(2S)-2,9-ジアミノ-4,7-ジオキサノナン酸、Dadna;(2S)-2,12-ジアミノ-4,7,10-トリオキサドデカン酸、Datda;(S)-5,5-ジフルオロノルロイシン、Dfnl;(S)-4,4-ジフルオロノルバリン、Dfnv;(3R)-1-1-ジオキソ-[1,4]チアジアン-3-カルボン酸、Dtca;(S)-4,4,5,5,6,6,6-ヘプタフルオロノルロイシン、Hfnl;(S)-5,5,6,6,6-ペンタフルオロノルロイシン、Pfnl;(S)-4,4,5,5,5-ペンタフルオロノルバリン、Pfnv;ならびに(3R)-1,4-チアジナン-3-カルボン酸、Tcaが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、アミノ酸はD(右旋性)であってもL(左旋性)であってもよい。古典的および非古典的アミノ酸の総説については、Sandbergら、1998(Sandberg et al., 1998. New chemical descriptors relevant for the design of biologically active peptides. A multivariate characterization of 87 amino acids. J Med Chem 41(14): pp. 2481-91)を参照されたい。
【0104】
変異RSV F分子の特性
本発明の変異RSV F分子は、本明細書に示される例示的なアミノ酸配列(たとえば、配列番号21~81)のうちの1つのアミノ酸配列を含む変異RSV F分子、かかる例示的なアミノ酸配列のうちの1つの第26~109位および/または第137~513位の残基を含む変異RSV F分子、かかる例示的なアミノ酸配列のうちの1つのF1および/またはF2ポリペプチド、ならびにかかる特定のアミノ酸配列のバリアント形態を含むが、本発明の変異RSV F分子は、(a)F1ポリペプチドおよびF2ポリペプチドを含み、かつ、(b)(本明細書に記載/定義される)融合前のコンフォメーションをとることが可能な成熟RSV F三量体を形成することが可能であるか、または、(たとえば、F0のような前駆体が)処理されてそのような三量体を形成することが可能でなければならない。本発明の変異RSV F分子はまた、一部の態様において、以下の特性のうちの1つ以上を有してもよい:(1)pre-F特異的抗体に結合する、(2)部位「o」に結合する抗体に結合する、(3)中和抗体に結合する、(4)広域中和抗体に結合する、(5)D25、AM22、5C4、101Fからなる群から選択される抗体に結合する、(6)パリビズマブ(シナジス(登録商標))に結合する、(7)B細胞受容体に結合する、および/もしくは、これを活性化する、(8)動物中で抗RSV抗体応答を誘発する、(9)動物中で防御的抗RSV抗体応答を誘発する、(10)動物中で抗RSV中和抗体の産生を誘発する、(11)動物中で抗RSV広域中和抗体の産生を誘発する、(12)動物中で四次中和エピトープ(QNE)を認識する抗RSV抗体の産生を誘発する、ならびに/または、(13)動物中で抗RSV防御的免疫応答を誘発する。
【0105】
DT架橋
一部の態様において、本発明は、少なくとも1つの人工的に導入されたDT架橋を含む変異RSV
F分子を提供する。かかるDT架橋は、本明細書に記載される変異RSV F分子をその融合前のコンフォメーションで安定化させる働きをする。
【0106】
一部の態様において、かかるDT架橋は、2つの内在的なチロシン残基の間、2つの人工的に導入されたチロシン残基の間(すなわち、「チロシンへの」変異に起源を持つ)、または人工的に導入されたチロシン残基と内在的なチロシン残基の間に導入されてもよい。
【0107】
一部の態様において、少なくとも1つのDT架橋の少なくとも1つのチロシンは、チロシンへの点変異に由来する(すなわち、チロシンへの点変異によって導入された)。一部の態様において、本発明は、少なくとも3つのDT架橋を含む変異三量体型RSV F分子を提供し、ここで、少なくとも3つのDT架橋の各々の少なくとも1つのチロシンは、チロシンへの点変異に由来する(すなわち、チロシンへの点変異によって導入された)。
【0108】
たとえば、一部の態様において、本発明は、第198位の残基におけるチロシン(典型的に、天然に存在するチロシン)と第226位の残基における導入されたチロシン(すなわち、226Y変異の結果生じたもの)の間にDT架橋を含む、すなわち、分子内198Y-226Y DT架橋を含む変異RSV F分子を提供する。よって、変異RSV F分子が三量体である態様において、三量体は3つの分子内198Y-226Y DT架橋を含む。
【0109】
一部の態様において、本発明は、第185位の残基における導入されたチロシン(すなわち、185Y変異の結果生じたもの)と第428位の残基における導入されたチロシン(すなわち、428Y変異の結果生じたもの)の間にDT架橋を含む、すなわち、185Y-428Y分子間DT架橋を含む変異RSV F分子を提供する。よって、変異RSV F分子が三量体である態様において、三量体は3つの分子間185Y-428Y DT架橋を含む。
【0110】
そして一部の態様において、本発明は、198Y-226Y分子内DT架橋と185Y-428Y分子間DT架橋の両者を含む変異RSV F分子を提供する。よって、変異RSV F分子が三量体である態様において、三量体は6つのDT架橋、すなわち、3つの分子内198Y-226Y DT架橋と3つの分子間185Y-428Y DT架橋とを含む。
【0111】
上述したように、成熟RSV F三量体の各プロトマーは、F1およびF2と名付けられた2つの別個のポリペプチドを含み、これらが非共有結合的に会合してプロトマーを形成している。同一プロトマー内でのF1ポリペプチドとF2ポリペプチドの間の結合は、分子間結合およびプロトマー内結合の例である。185Y-428YDT架橋は、三量体の2つのプロトマーを一緒に保持するように設計され、すなわち、分子間プロトマー間結合である。一方のプロトマー上の第185位におけるチロシンは、もう一方のプロトマー上の第428位におけるチロシンとジチロシン結合を形成する。
【0112】
DT架橋反応を行う例示的な方法は、本明細書の実施例に示される。さらに、DT架橋を行う方法は当該技術分野において知られており、たとえば、Marshallらの米国特許第7037894号および第7445912号に記載されており、これらの内容は参照により本明細書に組み込まれる。ジチロシン架橋により、最小限の変化であり、長さがゼロである炭素-炭素共有結合が導入される。DT架橋は生理的条件下では加水分解されない。ジチロシン架橋はインビボで自然に形成され、一般的な食物中に多量に存在するため、安全であることが知られている。たとえば、DT結合はコムギグルテンの構造を形成している。ジチロシン結合はインビトロでは自発的に形成されない。むしろ、チロシル側鎖を有するタンパク質をDT結合の形成をもたらす反応条件下に供する、酵素的架橋反応を行わなければならない。DT結合形成反応は酸化的架橋反応であるため、かかる条件は酸化的反応条件であるか、またはそうなる。一部の態様において、DT架橋反応条件により、他の点で改変されていない、または検出可能には改変されていないタンパク質が得られる。かかる条件は、H
2O
2の形成を触媒する酵素、たとえば、ペルオキシダーゼを使用することによって達成してもよい。DT結合形成を、320nm付近の励起波長を用いた分光光度法と400nm付近の波長で測定される蛍光とによってモニタリングしてもよく(たとえば、
図34を参照)、チロシル蛍光の消失を標準的な手順でモニタリングしてもよい。チロシル蛍光の消失がもはやDT結合形成と化学量論的に合致しないとき、当業者に公知の任意の方法、たとえば、還元剤の添加とその後の試料の冷却(氷上)または凍結によって、反応を停止させてもよい。適切なDT架橋法のさらなる詳細は、米国特許第7037894号および第7445912号に、また、本明細書の実施例に記載されている。
【0113】
核酸分子
一部の態様において、本発明は、本明細書に記載される変異RSV F分子をコードする核酸分子、およびかかる核酸分子を含むベクターを提供する。当業者間で普遍的に知られており、また、理解されている遺伝コードの性質を前提にすれば、当業者は、本明細書に記載される変異RSV F分子のいずれか1つをコードする核酸分子の核酸配列を容易に決定することができる。
【0114】
一部の態様において、核酸分子は、適当な細胞中で発現させたときに適正に処理されて変異RSV F分子を生成する、前駆体F0ポリペプチドをコードする。たとえば、一部の態様において、核酸分子は、表1および配列表に提示されたアミノ酸配列の前駆体(F0)ポリペプチドのうちの1つをコードしていてもよい。一部の態様において、核酸分子は、F2ポリペプチドのみ、またはF1ポリペプチドのみをコードしていてもよい。
【0115】
本明細書に記載される変異RSV F分子をコードする核酸分子は、当該技術分野で知られた適切な方法により取得または作製することができる。たとえば、変異RSV F分子をコードする核酸分子を、クローニングされたDNAから取得しても、化学合成によって作製してもよい。一部の態様において、核酸分子は、当業者に知られた方法で調製された逆転写RNAによって取得してもよい。点変異、または本明細書に記載されるその他の改変(たとえば、C末端配列の除去、C末端配列の置換など)を、当業者に周知であり理解されている標準的な組換えDNA手法によって作製することができる。たとえば、当業者は、チロシンに変異させる特定のアミノ酸残基をコードする(たとえば、第185位、第226位、または第428位のアミノ酸残基をコードする)ヌクレオチドコドンを探し出し、必要に応じてそのコドンのヌクレオチドを変異させてチロシンをコードするコドンを生成することにより、本明細書に記載される「チロシンへの」変異を容易に作り出すことができる。
【0116】
供給源が何であれ、本発明の変異RSV F分子をコードする核酸分子を、任意の適切なベクター、たとえば、核酸分子の増殖に使用されるベクターまたは核酸分子の発現に使用されるベクター中にクローニングすることができる。発現が必要な態様において、核酸を、所望の細胞型、たとえば、哺乳動物細胞または昆虫細胞中で発現させるのに適したプロモーターに操作可能に連結することができ、任意の適切な発現ベクター、たとえば、哺乳動物または昆虫発現ベクター中に組み込んでもよい。
【0117】
一部の態様において、本発明の変異RSV F分子をコードする核酸分子は、特定の生物または種の細胞中での発現に向けてコドン最適化することができる。たとえば、国際特許出願PCT/US2014/048086は、ヒト、ハムスター、マウス、および昆虫細胞中での発現に向けてコドン最適化された、RSV F分子の塩基配列を提示している。RSV Fタンパク質をコードするかかるコドン最適化された塩基配列を、本明細書に記載される特定の変異のいずれかを導入するための「バックグラウンド」配列として使用することができる。
【0118】
製造方法
本発明の変異RSV F分子は、当該技術分野において知られた適切な手段によって作製することができる。一般に、変異RSV F分子は、組換えタンパク質の製造に用いられる標準的な方法を使用して作製される。たとえば、本発明の変異RSV F分子をコードする核酸分子を、哺乳動物細胞および昆虫細胞が挙げられるがこれらに限定されない、任意の適切な細胞型中で(たとえば、SF9またはHi5細胞、たとえば、バキュロウイルス発現系を使用して)発現させることができる。核酸分子からタンパク質を発現させるための方法は当該技術分野で常用され、周知であり、当該技術分野において知られた適切な方法、ベクター、系、および細胞型を使用することができる。たとえば、典型的に、本発明の変異RSV F分子をコードする核酸分子を、適切なプロモーターを含む適切な発現構築物中に挿入し、次いでこれを発現用の細胞に送ることになる。
【0119】
一部の態様において、本発明の変異RSV F分子は、pre-Fコンフォメーションで安定化された成熟RSV F三量体である。かかる態様において、変異RSV F分子をコードする核酸分子は、典型的に、細胞中において可溶型形態で発現され、次いで、通常の三量体型pre-Fコンフォメーションへと会合させた後、これらの分子を酵素的DT架橋反応に供する。一部の態様において、酵素的架橋反応の前および/または最中に、たとえば、架橋を行いながら、pre-Fコンフォメーションにある(および/またはそれに維持された)変異RSV F分子を取得してもよい。一部の態様において、ほとんどまたは実質的にすべての変異RSV F分子がpre-Fコンフォメーションで存在するように、変異RSV F分子を製造および/または単離してもよい。一部の態様において、pre-Fコンフォメーションにある一部と他のコンフォメーションにある一部とを含むRSV Fタンパク質分子の混合集団から、pre-Fコンフォメーションにある変異RSV F分子を分離してもよい。一部の態様において、RSV Fタンパク質は細胞内で発現され(たとえば、その膜結合型または可溶型形態として)、自発的にその通常のpre-Fコンフォメーションへと会合する。一部の態様において、DT架橋の前に変異RSV F分子をそのpre-F形態に維持するために、さらなる安定化は必要でない。一部の態様において、変異RSV F分子を、pre-Fコンフォメーションの形成および/または維持に適した特定の条件下、または特定の組成中に留めてもよい。たとえば、一部の態様において、細胞との接触がpost-Fコンフォメーションへの変化を引き起こす可能性があるため、pre-Fコンフォメーションの変異RSVF分子は、細胞の不在下で維持される。イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、および/またはアフィニティークロマトグラフィー法のような標準的なタンパク質精製法が含まれるがこれらに限定されない、当該技術分野において知られた適切な方法により、変異RSV F分子をpre-Fコンフォメーションで取得、および/または単離、および/または維持してもよい。一部の態様において、変異RSV F分子は、RSV Fタンパク質に結合し、RSV Fタンパク質をそのpre-Fコンフォメーションで安定化する分子の存在下で発現されてもよく、該分子と共発現されてもよく、該分子と接触させてもよく、該分子としては、抗体、小分子、ペプチド、および/またはペプチド模倣物が挙げられるが、これらに限定されない。融合前RSV Fタンパク質に結合する抗体の非限定的な例としては、5C4、AM22、およびD25抗体が挙げられる(McLellanら(2013) Science 342: 592-598を参照。同文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。一部の態様において、変異RSV F分子を、タンパク質が存在する媒体/緩衝液のイオン強度を制御することによって(たとえば、高または低イオン強度の媒体を使用することによって)、そのpre-Fコンフォメーションで、取得、単離、または維持してもよい。一部の態様において、変異RSV F分子を、pre-Fコンフォメーションの保存に好適な1つ以上の温度で、取得、単離、または維持してもよい。一部の態様において、変異RSV F分子を、pre-Fコンフォメーションが失われる程度が少ない期間にわたって、取得、単離、または維持してもよい。
【0120】
一部の態様において、分析を行って、変異RSV F分子において望ましいコンフォメーション、たとえば、pre-Fコンフォメーションが形成および/または維持されていることを確認してもよい。かかる分析は、架橋の前、架橋処理の最中、架橋処理の後、またはこれらの段階の任意の組合せにおいて行ってもよい。かかる分析は、機能解析および結晶学的解析などを含む、タンパク質またはタンパク質複合体の三次元構造を調べるための、当該技術分野において知られた適切な方法を含んでいてもよい。一部の態様において、かかる分析は、ある抗体、たとえば、pre-Fコンフォメーションに特異的な抗体および/または「o」部位に結合することが知られた抗体に対する、変異RSV F分子の結合を調べることを含んでいてもよく、本明細書に記載されているように、こうした抗体としては、5C4、AM22、およびD25抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0121】
一部の態様において、製造過程中の1つ以上の工程の前、最中、または後で、本発明の変異RSV F分子を精製してもよい。たとえば、一部の態様において、製造工程のすべてが完了した後で、変異RSV F分子を精製してもよい。一部の態様において、架橋処理を開始する前、または処理中の中間体法工程のうちの1つ以上の後、たとえば、変異RSV F分子を発現後、変異RSV F分子を成熟三量体へと会合させた後、pre-Fコンフォメーションにある変異RSV F分子を取得後、またはDT架橋反応の実施の最中もしくは後で、変異RSV F分子を精製してもよい。本発明の変異RSV F分子を、当該技術分野において知られた適切な方法を使用して単離または精製してもよい。かかる方法としては、クロマトグラフィー(たとえば、イオン交換、アフィニティー、および/またはサイズ排除クロマトグラフィー)、硫酸アンモニウム沈殿法、遠心分離、分画溶解法、またはタンパク質を精製するための、当業者に知られた他の技法が挙げられるが、これらに限定されない。特定の態様において、DT架橋成熟三量体型変異RSV F分子を、十分に架橋されていないもの、またはpre-Fコンフォメーションが十分に安定化されていないものから分離する必要があり得る。これを、当該技術分野において知られた適切な系を使用して行うことができる。たとえば、pre-Fコンフォメーションにある変異RSV F分子を、pre-Fまたはpost-F特異的抗体を用いる抗体ベースの分離法を使用して、pre-Fコンフォメーションにないものから分離することができる。本発明の変異RSV F分子を、それを製造するために使用される任意の供給源から精製してもよい。純度は変動してもよいが、様々な態様において、精製された本発明の変異RSV F分子は、該分子が最終組成物中の総タンパク質の約10%、20%、50%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、または、99.9%を構成する形態で提供される。一部の態様において、本発明の変異RSV F分子を、標準的な方法によって他のタンパク質または他のいずれかの望ましくない生成物(たとえば、非架橋または非pre-F RSV F)から単離または精製してもよく、標準的な方法としては、クロマトグラフィー、グリセロール勾配法、アフィニティークロマトグラフィー、遠心分離、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、およびアフィニティークロマトグラフィー、またはタンパク質を精製するための、当該技術分野において知られた他の標準的な技法が挙げられるが、これらに限定されない。単離する変異RSV F分子を高または低イオン性の媒体中で発現させてもよく、高または低イオン性の緩衝液または溶液中で単離してもよい。また、本発明の変異RSV F分子を、望ましいコンフォメーションの保存に好適な1つ以上の温度で単離してもよい。また、本発明の変異RSV F分子を、調製物が望ましいコンフォメーションを失ってしまう程度が少ない期間にわたって単離してもよい。生化学的、生物物理学的、免疫学的、およびウイルス学的分析が挙げられるがこれらに限定されない、当該技術分野において知られた適切な方法を使用して、タンパク質の調製物が1つ以上の望ましいコンフォメーション(たとえば、pre-Fコンフォメーション)を維持する程度について、アッセイを行ってもよい。かかるアッセイとしては、免疫沈降法、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)もしくは酵素結合免疫吸着スポット(ELISPOT)アッセイ、結晶学的解析(抗体との共結晶化を含む)、沈降法、分析用超遠心分離、動的光散乱法(DLS)、電子顕微鏡観察(EM)、低温EM断層撮影、熱量測定、表面プラズモン共鳴法(SPR)、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、円二色性解析およびX線小角散乱法、中和アッセイ、抗体依存性細胞傷害性アッセイ、ならびに/またはインビボにおけるウイルス感染試験が挙げられるが、これらに限定されない。
【0122】
本発明の変異RSV F分子の収率は、当該技術分野において知られた手段、たとえば、操作された最終的なタンパク質(たとえば、架橋pre-F RSV)の量を出発材料の量、または製造法のいずれかの先行する工程で存在する材料の量と比較することによって決定することができる。タンパク質濃度は、標準的な手順、たとえば、ブラッドフォードまたはローリータンパク質アッセイによって決定することができる。ブラドッフォードアッセイは還元剤および変性剤と適合する(Bradford, M, 1976. Anal. Biochem. 72: 248)。ローリーアッセイは界面活性剤とより良好な適合性を有し、その反応は、タンパク質濃度および読み出し値についてより線形である(Lowry, O J, 1951. Biol. Chem. 193: 265)。
【0123】
特性のアッセイ
一部の態様において、本発明の変異RSV F分子またはその製造における任意の中間体を分析して、それらが望ましい特性、たとえば、上述されているか、または本特許明細書の他の箇所で認定された特性のうちの1つ以上を有していることを確認してもよい。たとえば、一部の態様において、インビトロまたはインビボのアッセイを実施して、RSV Fタンパク質の立体構造、安定性(たとえば、熱安定性)、半減期(たとえば、対象の身体内での)、溶液中での凝集、抗体(たとえば、中和抗体、広域中和抗体;pre-F特異的抗体;部位「o」を認識する抗体、コンフォメーション特異的抗体、準安定なエピトープを認識する抗体、D25、AM22、5C4、101F、またはパリビズマブ)への結合、B細胞受容体への結合、B細胞受容体の活性化、抗原性、免疫原性、抗体応答を誘発する能力、防御的抗体/免疫応答を誘発する能力、中和抗体の産生を誘発する能力、または広域中和抗体の産生を誘発する能力を調べることができる。本発明の変異RSV F分子を動物においてインビボで試験する態様において、動物は任意の適切な動物種であってもよく、かかる動物種としては、哺乳動物(たとえば、齧歯類種(たとえば、マウスまたはラット)、ウサギ、フェレット、ブタ種、ウシ種、ウマ種、ヒツジ種、または霊長類種(たとえば、ヒトまたは非ヒト霊長類))、または鳥類(たとえば、ニワトリ)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0124】
タンパク質の立体構造を調べるためのアッセイは当該技術分野において周知であり、任意の適切なアッセイを使用することができ、かかるアッセイとしては、結晶学的解析(たとえば、X線結晶構造解析または電子結晶構造解析)、沈降分析、分析用超遠心分離、電子顕微鏡観察(EM)、低温電子顕微鏡観察(低温EM)、低温EM断層撮影、核磁気共鳴法(NMR)、X線小角散乱法、および蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
タンパク質の安定性を調べるためのアッセイは当該技術分野において周知であり、任意の適切なアッセイを使用することができ、かかるアッセイとしては、変性および非変性電気泳動、等温滴定型熱量測定、ならびに、タンパク質をインキュベートし、タンパク質濃度、温度、pH、または酸化還元条件を変えて経時的に分析する、タイムコース実験が挙げられるが、これらに限定されない。また、タンパク質をタンパク質分解に対する感受性について分析してもよい。
【0126】
タンパク質の抗体への結合を調べるためのアッセイは当該技術分野において周知であり、任意の適切なアッセイを使用することができ、かかるアッセイとしては、免疫沈降アッセイ、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、酵素結合免疫吸着スポットアッセイ(ELISPOT)、結晶学的アッセイ(抗体との共結晶化を含む)、表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイ、および蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0127】
中和活性を調べるためのアッセイは当該技術分野において周知であり、任意の適切なアッセイを使用することができる。たとえば、アッセイを実施して、本発明のRSV Fポリペプチド、タンパク質、および/またはタンパク質複合体を用いた動物のワクチン接種/免疫化によって生成される抗体または抗血清の中和活性を決定することができる。当該技術分野において公知の中和アッセイとしては、Deyら、2007(Dey et al., 2007, Characterization of Human Immunodeficiency Virus Type 1 Monomeric and Trimeric gp120 Glycoproteins Stabilized in the CD4-Bound State: Antigenicity, Biophysics, and Immunogenicity. J Virol 81(11): 5579-5593)、および、Beddowsら、2006(Beddows et al., 2007, A comparative immunogenicity study in rabbits of disulfide-stabilized proteolytically cleaved, soluble trimeric human immunodeficiency virus type 1 gp140, trimeric cleavage-defective gp140 and momomeric gp120. Virol 360: 329-340)によって記載されているものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0128】
ワクチン用免疫原が免疫応答を誘発することができるかどうかを調べ、および/または防御的な免疫を立証するためのアッセイは、当該技術分野において周知であり、任意の適切なアッセイを使用することができる。たとえば、アッセイを実施して、本発明のRSV Fポリペプチド、タンパク質、および/またはタンパク質複合体を用いた動物のワクチン接種/免疫化が、RSVによる8に対して免疫応答および/または防御的免疫をもたらすかどうかを決定することができる。一部の態様において、プラセボとワクチン接種した被験群の間で、感染もしくはセロコンバージョン率、またはウイルス量について比較を行ってもよい。
【0129】
タンパク質の薬物動態および体内分布を調べるためのアッセイもまた当該技術分野において周知であり、任意の適切なアッセイを使用して、本発明のRSV Fポリペプチド、タンパク質、および/またはタンパク質複合体の上記特性を調べることができる。
【0130】
組成物
一部の態様において、本発明は、本明細書に記載される変異RSV F分子のうちの1つ以上を含む組成物を提供する。一部の態様において、かかる組成物は医薬組成物であってもよく、すなわち、生きた対象への投与に適する成分を含んでいてもよい。
【0131】
一部の態様において、本発明の変異RSV F分子は、1つ以上のさらなる活性成分、たとえば、1つ以上のさらなるワクチン用免疫原または治療剤を含む組成物で提供されてもよい。一部の態様において、本発明の変異RSV F分子は、1つ以上の他の成分を含む組成物、たとえば、医薬組成物で提供されてもよく、かかる他の成分としては、薬学的に許容される担体、アジュバント、免疫賦活剤、湿潤もしくは乳化剤、pH緩衝剤、保存剤、および/または組成物の意図される使用に適する他の任意の成分が挙げられるが、これらに限定されない。かかる組成物は、液剤、懸濁剤、および乳剤などの形態をとることができる。「薬学的に許容される担体」という用語は、その中で、またはそれを用いて本発明の変異RSV F分子を提供することができる、様々な希釈剤、賦形剤、および/またはビヒクルを含み、該用語は、ヒトおよび/もしくは他の動物への送達にとって安全であることが知られており、ならびに/または連邦もしくは州政府の規制当局によって認可されており、ならびに/または米国薬局方および/もしくは他の一般に認知されている薬局方に記載されており、ならびに/または1つ以上の一般に認知されている規制当局からヒトおよび/もしくは他の動物において使用するための明示的もしくは個別の認可を受けている担体を含むが、これに限定されない。かかる薬学的に許容される担体としては、水、水溶液(たとえば、生理食塩水溶液および緩衝液など)、および有機溶媒(たとえば、ある種のアルコールおよび油であって、油としては、石油、動物、植物、または合成起源のもの、たとえば、ラッカセイ油、ダイズ油、鉱物油、ゴマ油が挙げられる)などが挙げられるが、これらに限定されない。一部の態様において、本発明の組成物はまた、1つ以上のアジュバントを含む。例示的なアジュバントとしては、アラムアジュバント、無機または有機アジュバント、油性アジュバント、ビロソーム、リポソーム、リポ多糖(LPS)、抗原用の分子ケージ(たとえば、免疫刺激複合体(「ISCOM」)、流入領域リンパ節に輸送される安定なかご状構造を形成する、Ag改質サポニン/コレステロールミセル、細菌細胞壁のコンポーネント、エンドサイトーシスを受けた核酸(たとえば、二本鎖RNA(dsRNA)、一本鎖DNA(ssDNA)、および脱メチル化CpGジヌクレオチド含有DNA)、AUM、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、およびスクアレンが挙げられるが、これらに限定されない。一部の態様において、ビロソームをアジュバントとして使用する。本発明に従って使用することのできるさらなる市販のアジュバントとしては、Ribi Adjuvant System(RAS、2%スクアレン中に脱毒化エンドトキシン(MPL)と、マイコバクテリウムの細胞壁コンポーネントとを含む、水中油型エマルション(Sigma M6536))、TiterMax(安定な、代謝可能な油中水型アジュバント(CytRx Corporation 150 Technology Parkway Technology Park/Atlanta Norcross, Georgia 30092))、Syntex Adjuvant Formulation(SAF、Tween(登録商標)80およびプルロニック(登録商標)ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンブロックコポリマーL121で安定化された、水中油型エマルション(Chiron Corporation, Emeryville, CA))、フロイントの完全アジュバント、フロイントの不完全アジュバント、ALUM-水酸化アルミニウム、Al(OH)3、(Alhydrogel(登録商標)として入手可能、Accurate Chemical & Scientific Co, Westbury, NY)、SuperCarrier(Syntex Research 3401 Hillview Ave. P.O. Box 10850 Palo Alto, CA 94303)、Elvax 40W1,2(エチレン-酢酸ビニルコポリマー((DuPont Chemical Co. Wilmington, DE))、抗原と共沈させたL-チロシン(多数の化学会社から入手可能);Montanide(オレイン酸マニド、ISA Seppic Fairfield, NJ))、AdjuPrime(炭水化物ポリマー)、ニトロセルロースに吸収させたタンパク質、およびGerbuアジュバント(C-C Biotech, Poway, CA)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0132】
一部の態様において、本発明の変異RSV F分子は、糖を含む組成物で提供されてもよい。一部の態様において、本発明のRSV Fポリペプチド、タンパク質、および/またはタンパク質複合体は、スクロースを含む組成物で提供されてもよい。一部の態様において、本発明のRSV Fポリペプチド、タンパク質、および/またはタンパク質複合体は、約5%のスクロースを含む組成物で提供されてもよい。一部の態様において、本発明のRSV Fポリペプチド、タンパク質、および/またはタンパク質複合体は、約10%のスクロースを含む組成物で提供されてもよい。一部の態様において、本発明のRSV Fポリペプチド、タンパク質、および/またはタンパク質複合体は、約15%のスクロースを含む組成物で提供されてもよい。一部の態様において、本発明のRSV Fポリペプチド、タンパク質、および/またはタンパク質複合体は、約20%のスクロースを含む組成物で提供されてもよい。一部の態様において、本発明のRSV Fポリペプチド、タンパク質、および/またはタンパク質複合体は、約25%のスクロースを含む組成物で提供されてもよい。重要なことに、スクロースを含有させることにより、本発明のRSV Fポリペプチド、タンパク質、および/またはタンパク質複合体の組成物中で、凝集体の形成が減少することが見出されている。
【0133】
一部の態様において、本発明は、「有効量」の本発明の変異RSV F分子を含む組成物を提供する。同様に、一部の態様において、本発明は、「有効量」の変異RSV F分子または変異RSV Fを含む組成物を対象に投与することを伴う方法を提供する。「有効量」とは、望ましい最終結果を達成するのに要求される量である。望ましい最終結果の例としては、RSVに対する体液性免疫応答の発生、RSVに対する中和抗体応答の発生、RSVに対する広域中和抗体応答の発生、RSVに対する防御的免疫の発生、阻害またはRSVウイルス複製、およびRSV感染症の1つ以上の症状の改善が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の変異RSV F分子またはかかる分子を含む組成物の、望ましい最終結果を達成するのに有効な量は、様々な要素に依存し得るが、かかる要素として、RSVウイルスのタイプ、サブタイプ、および株、対象の種(たとえば、ヒトか他の何らかの動物種であるか)、対象の年齢、対象の性、対象の重量、企図される投与経路、企図される投与レジメン、およびいずれかの進行中のRSV感染症の重症度(たとえば、治療的使用の場合)などが挙げられるが、これらに限定されない。有効量はある範囲の有効量であってもよく、過度な実験法を何ら用いることのない標準的な技法で、たとえば、意図する対象種または任意の適切な動物モデル種でインビトロアッセイおよび/またはインビボアッセイを使用して決定することができる。適切なアッセイとしては、インビトロおよび/またはインビボモデル系に由来する用量応答曲線および/または他のデータからの外挿を伴うものが挙げられるが、これに限定されない。一部の態様において、具体的な状況に基づき、医師または獣医師の判断に従って有効量を決定してもよい。
【0134】
変異RSV F分子の使用
一部の態様において、本発明の変異RSV F分子は、研究ツールとして、診断用ツールとして、治療剤として、抗体試薬または治療用抗体の製造のための標的として、および/またはワクチンもしくはワクチン組成物の成分として有用であり得る。たとえば、一部の態様において、本発明の変異RSV F分子は、動物対象、たとえば、ヒトを含む哺乳動物対象におけるワクチン用免疫原として有用である。本発明の変異RSV F分子のこれらおよび他の使用について、以下でより十分に説明する。本発明の変異RSV F分子が他の様々な用途にも有用であり得ること、そしてそのような用途および使用のすべてが本発明の範囲にあることが意図されていることを、当業者は理解するはずである。
【0135】
RSV F抗体を研究するためのツール
一態様において、本発明の変異RSV F分子は、たとえば、ELISAアッセイ、Biacore/SPR結合アッセイ、および/または抗体結合に関する当該技術分野において知られた他のアッセイにおいて、抗RSV F抗体の結合および/または力価のアッセイおよび/または測定のための分析物として有用であり得る。たとえば、本発明の変異RSV F分子を、抗RSV F抗体の有効性を分析および/または比較するために使用することができる。
【0136】
抗体の生成のためのツール
本発明の変異RSV F分子は、治療用抗体および/もしくは研究ツールとして、または他の任意の所望の用途に使用することができる抗体の生成にも有用であり得る。たとえば、本発明の変異RSV F分子を、研究ツールとして、および/または治療薬として使用するための、RSV Fタンパク質に対する抗体を取得するための免疫化に使用することができる。一部の態様において、抗体を生成するために、本発明の変異RSV F分子を使用して、非ヒト動物、たとえば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、非ヒト霊長類等が挙げられるがこれらに限定されない脊椎動物を免疫化することができる。その後、かかるモノクローナルであってもポリクローナルであってもよい抗体および/またはかかる抗体を産生する細胞を、動物から得ることができる。たとえば、一部の態様において、本発明の変異RSV F分子を使用して、マウスを免役し、モノクローナル抗体および/またはかかるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製および取得してもよい。かかる方法を、ハイブリドーマ製造のための標準的な方法を含む、当該技術分野において公知のマウスモノクローナル抗体を製造するための標準的な方法を使用して行うことができる。一部の態様において、本発明の変異RSV F分子を、たとえば、現在、当該技術分野において公知のキメラ(たとえば、部分ヒト)、ヒト化、および完全ヒト抗体を製造するための方法のいずれかを用いた、キメラ、ヒト化、または完全ヒト抗体の製造に使用してもよく、かかる方法としては、CDR移植法、ファージディスプレイ法、トランスジェニックマウス法(たとえば、遺伝子改変されて完全ヒト抗体を産生することができるようになったマウス、たとえば、Xenomouseの使用)、および/または当該技術分野において公知の他の適切な方法が挙げられるが、これらに限定されない。かかる系を使用して作製された本発明の変異RSV F分子に対する抗体を、好ましくは本発明の変異RSV F分子それ自体を含む1つまたはいくつかの抗原の組を使用して、抗原性に関して特徴付けすることができる。かかる抗体のさらなる特徴付けを当業者に公知の標準的な方法によって行ってもよく、かかる方法としては、ELISAに基づく方法、SPRに基づく方法、生化学的方法(たとえば等電点測定であるが、これに限定されない)、ならびに、たとえば、前臨床および臨床研究において抗体の体内分布、安全性、および有効性を研究するための、当該技術分野において公知の方法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0137】
対象への投与
一部の態様において、本発明は、本発明の変異RSV F分子、またはかかる変異RSV F分子を含む組成物を対象に投与することを含む、方法を提供する。かかる方法は、RSVを有する個体を治療するための方法(すなわち、治療法)、および/または将来的なRSV感染から個体を防護するための方法(すなわち、予防法)を含んでいてもよい。
【0138】
本発明の変異RSV F分子、またはかかるRSV Fポリペプチド、タンパク質および/もしくはタンパク質複合体を含む組成物を投与することができる(たとえば、治療の方法またはワクチン接種の方法の過程で)対象には、任意のあらゆる動物種が含まれ、そのような動物種としては、特に、RSV感染を受けやすいか、またはRSV感染の研究のためのモデル動物系となり得る動物種が挙げられる。一部の態様において、対象は哺乳動物種である。一部の態様において、対象は鳥類である。哺乳動物対象としては、ヒト、非ヒト霊長類、齧歯類、ウサギ、およびフェレットが挙げられるが、これらに限定されない。鳥類としては、ニワトリ、たとえば、家禽農場のニワトリが挙げられるが、これらに限定されない。一部の態様において、本発明の変異RSV F分子、またはかかる変異RSV F分子を含む組成物を投与する対象は、RSVを有するか、またはRSV感染のリスクを有するかのいずれかである。一部の態様において、対象は免疫不全である。一部の態様において、対象は心疾患または障害を有する。一部の態様において、対象は約50歳超、または約55歳超、または約60歳超、または約65歳超、または約70歳超、または約75歳超、または約80歳超、または約85歳超、または約90歳超のヒトである。一部の態様において、対象は、生後約1ヶ月未満、または生後約2ヶ月未満、または生後約3ヶ月未満、または生後約4ヶ月未満、または生後約5ヶ月未満、または生後約6ヶ月未満、または生後約7ヶ月未満、または生後約8ヶ月未満、または生後約9ヶ月未満、または生後約10ヶ月未満、または生後約11ヶ月未満、または生後約12ヶ月未満、または生後約13ヶ月未満、または生後約14ヶ月未満、または生後約15ヶ月未満、または生後約16ヶ月未満、または生後約17ヶ月未満、または生後約18ヶ月未満、または生後約19ヶ月未満、または生後約20ヶ月未満、または生後約21ヶ月未満、または生後約22ヶ月未満、または生後約23ヶ月未満、または生後約24ヶ月未満のヒトである。
【0139】
様々な送達系が当該技術分野において知られており、任意の適切な送達系を使用して本発明の組成物を対象に投与することができる。かかる送達系としては、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、および経口送達系が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の組成物を任意の好都合な経路によって、たとえば、点滴もしくはボーラス投与によって、上皮もしくは粘膜(たとえば、口腔粘膜、直腸および腸管粘膜等)を通じた吸収によって投与してもよく、他の生物学的に活性な薬剤と共に投与してもよい。投与は全身的であっても局所的であってもよい。たとえば、吸入器またはネブライザーとエアゾール剤を含む製剤とを用いた、肺内投与を採用することもできる。
【0140】
一部の態様において、本発明の医薬組成物を、変異RSV F分子が望ましい治療成績を生むために最も効果的であり得る組織に、局所的に投与することが望ましい可能性がある。これを、たとえば、局所的な点滴、注射、カテーテルを使用した送達、またはインプラント、たとえば、多孔質、非多孔質、もしくはゼラチン状のインプラント、または、そこからもしくはそれを通じてタンパク質もしくはタンパク質複合体を局所的に放出し得る、1つ以上の膜(たとえば、シアラスティック製の膜)もしくは繊維を含むインプラントを用いて達成してもよい。一部の態様において、徐放系を使用してもよい。一部の態様において、ポンプを使用してもよい(Langer, supra; Sefton, 1987. CRC Crit. Ref. Biomed. Eng. 14: 201; Buchwaldら, 1980. Surgery 88: 507; Saudekら, 1989. N. Engl. J. Med. 321: 574を参照)。一部の態様において、ポリマー材料を使用して、本発明の変異RSV F分子の放出を促進および/または制御してもよい(Medical Applications of Controlled Release, Langer and Wise (eds.), 1974. CRC Pres., Boca Raton, Florida; Controlled Drug Bioavailability, 1984. Drug Product Design and Performance, Smolen and Ball (eds.), Wiley, New York; Ranger & Peppas, 1983 Macromol. Sci. Rev. Macromol. Chem. 23: 61; see also Levy ら, 1985. Science 228: 190; Duringら, 1989. Ann. Neurol. 25: 351; Howardら, 1989. J. Neurosurg 71: 105も参照)。一部の態様において、RSV融合前Fタンパク質またはポリペプチドを送達する組織/器官の近くに徐放系を設置することができる(たとえば、Goodson, 1984. Medical Applications of Controlled Release, supra, vol. 2: 115 138を参照)。本発明と組み合わせて使用してもよいいくつかの適切な徐放系が、Langer, 1990, Science; vol. 249: pp. 527-1533に記載されている。
【0141】
一部の態様において、本発明の組成物の投与を、1つ以上の免疫賦活剤の投与と組み合わせて実施することができる。かかる免疫賦活剤の非限定的な例としては、各種サイトカイン、免疫賦活、免疫強化、および炎症促進活性を有するリンホカインおよびケモカイン、たとえば、インターロイキン(たとえば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-12、IL-13);増殖因子(たとえば、顆粒球マクロファージ(GM)コロニー刺激因子(CSF));ならびに他の免疫賦活剤、たとえば、マクロファージ炎症性因子、Flt3リガンド、B7.1;B7.2が挙げられる。免疫賦活剤を変異RSV F分子と同じ製剤で投与することができ、別個に投与することもできる。
【0142】
一部の態様において、本発明の変異RSV F分子またはそれを含む組成物を、様々な異なるRSVワクチン接種方法またはレジメンで対象に投与することができる。一部のかかる態様において、単回用量の投与を実施する。しかしながら、他の態様において、同じまたは異なる経路によってさらなる投与量を投与して、所望の予防効果を達成することができる。たとえば、新生児および乳幼児においては、十分なレベルの免疫を誘発するためには複数回の投与が必要であり得る。必要であれば、小児期全体にわたって間隔を設けて投与を継続して、RSV感染に対する十分なレベルの防御を維持することができる。同様に、RSV感染を特に受けやすい成人、たとえば、高齢および免疫不全の個体は、防御的免疫応答を確立および/または維持するために、複数回の免疫化が必要であり得る。所望のレベルの防御を誘発および維持するために、誘起された免疫のレベルを、たとえば、分泌および血清中和抗体の量を測定することによってモニタリングすることができ、必要に応じて、投与量を調整することもワクチン接種を繰り返すこともできる。
【0143】
一部の態様において、投与レジメンは、単回の投与/免疫化を含んでいてもよい。他の態様において、投与レジメンは、複数回の投与/免疫化を含んでいてもよい。たとえば、ワクチンを、一次免疫およびその後の1回以上の追加免疫として与えてもよい。本発明の一部の態様において、こうした「プライム-ブースト」ワクチン接種レジメンを使用してもよい。たとえば、一部のかかるプライム-ブーストレジメンにおいて、本明細書に記載される変異RSV F分子を含む組成物を、別々の時間に複数回(たとえば、2回、3回、またはさらに多くの回数)個体に投与してもよく、この場合、初回の投与は「初回免疫」投与であり、後続の投与は「追加免疫」投与である。他のかかるプライム-ブーストレジメンにおいて、RSVポリペプチド、タンパク質、またはタンパク質複合体をコードするウイルスまたはDNAベクターを含む組成物を「初回免疫」投与として最初に個体に投与し、その後、本明細書に記載されるRSV Fポリペプチド、タンパク質、またはタンパク質複合体を含む組成物を1回以上「追加免疫」投与することで、本明細書に記載される変異RSV F分子を含む組成物を個体に投与してもよい。追加免疫は、初回免疫免疫と同じおよび/または異なる経路で送達されてもよい。追加免疫は一般に、初回免疫免疫または以前に投与された追加免疫からある一定の期間後に投与される。たとえば、追加免疫を初回免疫免疫の約2週間以上後に行うことができ、および/または2回目の追加免疫を1回目の追加免疫の約2週間以上後に行うことができる。追加免疫を、対象の生存期間の全体にわたって、たとえば、約2週間以上の期間をおいて繰り返し行ってもよい。追加免疫は、初回免疫免疫後、または以前の追加免疫後、たとえば、約2週間、約3週間、約4週間、約1ヶ月、約2ヶ月、約3ヶ月、約4ヶ月、約5ヶ月、約6ヶ月、約7ヶ月、約8ヶ月、約9ヶ月、約10ヶ月、約11ヶ月、約1年、約1.5年、約2年、約2.5年、約3年、約3.5年、約4年、約4.5年、約5年、またはそれよりも長く間隔をおいてもよい。
【0144】
一部の態様において、本発明の医薬組成物を、適宜に単位剤形で供給してもよい。単位剤形は、単回用量もしくは単位(たとえば、有効量)、またはそれらの適当な分割量の本発明の変異RSV F分子を含有するものである。単位剤形を、単回用量または複数回用量用の容器中にて提供してもよい。
【0145】
一部の態様において、本発明の組成物を密閉されたアンプルまたはバイアル中にて供給してもよく、使用の直前に滅菌された液体担体(たとえば、水)の添加のみが必要な、凍結乾燥状態で保存してもよい。
【0146】
キット
本発明は、本発明の変異RSV F分子またはかかる変異RSV F分子を含有する組成物を含む、キットをさらに提供する。本発明の方法および組成物の使用を容易にするために、本明細書に記載される成分および/または組成物のいずれかと、実験または治療用またはワクチンの目的に有用なさらなる成分とを、キットの形態で包装することができる。典型的に、キットは、上記成分に加え、たとえば、成分、包装材料、容器、および/または送達用の器具を使用するための取扱説明書を含み得る、さらなる構成物を収容する。
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
【0161】
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
表1中、配列番号1~91は例示的なWTおよび変異RSV Fアミノ酸配列であり、配列番号92~96は、RSV F分子のC末端に導入することができる例示的な人工配列である。配列番号1~91において、下線が引かれた残基はF1およびF2ポリペプチドであり、太字の残基は導入された変異であり、斜字体の残基は、一部の態様において欠失または置換されてもよい残基であり、二重下線が引かれた残基は人工的に導入されたC末端配列である。
【0166】
【0167】
また、本発明の様々な態様を、以下の非限定的な実施例によってさらに説明する:
【0168】
例1
選択した材料および方法
変異RSV Fタンパク質をヒト細胞中で発現させ、以下で説明するようにジチロシン結合の導入によって改変した。
【0169】
標準的な方法を使用して、5’BamHIおよび3’XhoI制限エンドヌクレアーゼ部位を介して、変異RSV F分子をコードするcDNAをpCDNA3.1/zeo+発現ベクター(Invitrogen)中にクローニングした(
図1を参照)。
【0170】
HEK 293細胞(ATCC)を、10%ウシ胎児血清および50μg/mlのゲンタマイシンを加えたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Invitrogen)中で増殖させた。細胞を6ウェル組織培養プレート(Corning)中に播種し、80%のコンフルエンシーになるまで増殖させた(約24時間)。DNAとポリエチレンイミン(25kDa、直鎖状)の1:4(M/V)を用い、細胞を1ウェル当たり2μgの各RSV F発現プラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクションから16時間後、培地を除去し、2ml/ウェルの血清不含Freestyle-293発現培地(Invitrogen)で置きかえた。回収および分析に先立ち、細胞を37℃、5%CO2中でさらに48時間~72時間培養した。
【0171】
ELISAによる細胞上清中のRSV-Fの検出
回収後、EIA/RIA高結合96ウェルプレート(Corning)中で、室温において1時間、細胞上清から総RSV Fタンパク質を直接捕捉した。次いで、タンパク質含有ウェルおよび対照ウェルを、室温において1時間、PBS-tween(登録商標)20(0.05%)中の4%脱脂乳でブロッキングした。プレートをPBS-T(400μl/ウェル)で3回洗浄した。RSV Fの融合前と融合後の両者の形態を認識する高親和性ヒト抗hRSV抗体(PBS中100ng/ml)を使用して、総RSV Fを1時間検出した。部位「o」を認識するpre-F特異的ヒトモノクローナル抗体(PBS中2μg/ml)を使用して。融合前Fを検出した。ウェルを再びPBS-T中で3回洗浄した後、PBSで1:5000に希釈したHRPコンジュゲートヤギ抗ヒトF(ab)2(Jackson Immunoresearch)を用いて室温で1時間インキュベーションした。ウェルをPBS-Tで6回洗浄し、発色シグナルを発する3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)を100μl用いて、総RSV-Fを検出し定量した。等体積の4N硫酸を添加することで発色反応を停止させた。BioRad Benchmark Plusマイクロプレート吸光度分光光度計を用いて、最終光学濃度の読み値を450nmで取得した。各上清の2倍の連続希釈シリーズを用いて、試料間におけるRSV-Fの相対量の正確な比較が可能な、各試料の検出可能なシグナルの線形範囲を決定した。
【0172】
細胞上清中のジチロシン架橋
回収後すぐに、100μlのトランスフェクトされた細胞上清および対照細胞上清を黒色平底非結合96ウェルFIAプレート(Greiner bio-one)のウェルに移した。300ngのアルスロマイセス・ラモサス(Arthromyces ramosus)ペルオキシダーゼを各試料に添加して、架橋させた。次いで、1μlの1.2mM H2O2を対照とDT反応物の両者に加えて、120μM H2O2の最終反応濃度とした。室温で20分間反応を進行させ、その後、等体積のpH10のリン酸ナトリウム緩衝液を添加することで反応物をアルカリ化した。Thermo Scientific Fluoroskan Ascent FLを用いて、励起波長320nmおよび発光波長405nmでジチロシンに特異的な蛍光を読み取った。
【0173】
トランスフェクションから72時間後、上清を架橋させるか(DT)または未架橋のままとし、RSV-Fの融合前と融合後の両者の形態を認識する高親和性ヒト抗hRSV抗体(PBS中100ng/ml)を用いたELISAにより、総タンパク質を測定した。一部の実験では、4℃で16日間保存した後、部位「o」を認識するpreF特異的ヒトモノクローナル抗体(PBS中2μg/ml)を用いたELISAにより、部位「o」の提示を測定した。
【0174】
例2
428Y、185Y、226Y変異RSV F分子の製造およびインビトロでの特徴付け
図2は、3つのチロシンへの変異、すなわち、428Y変異、185Y変異、および226Y変異を含む、例示的な変異RSV F分子の概略図である。この例示的な変異RSV F分子を、「AVR02」という。AVR02のF0前駆体形態は、配列番号81のアミノ酸配列を有する。成熟AVR02分子(配列番号81をコードする核酸分子のトランスフェクションおよび細胞中での発現後に形成される)は、配列番号81の第26~109位および第137~568位のアミノ酸残基を含み、第26~109位のアミノ酸残基はRSV F F2残基であり、第137~513位のアミノ酸残基はRSV F F1残基であり、第514~568位のアミノ酸残基は異種配列であり、フォールドン(foldon)ドメイン、Hisタグ、StrepIIタグ、およびトロンビン切断部位を含む。第1~25位のアミノ酸に由来するシグナルペプチドおよび第100~136位のアミノ酸に由来するpep27ペプチドは、最終的な成熟三量体型AVR02分子中に存在しない。
【0175】
図4は、DT架橋AVR02(「DT-AVR02」という)を製造する方法の概略図である。PEIを用いた標準的な方法によって非架橋AVR02を一時的に293 Freestyle細胞(Invitrogen)にトランスフェクトし、5日間分泌/可溶型形態として発現させる。5日目に細胞を採取し、スイングバケットローター中で低速遠心回転によりペレット化し(1000xg×10分)、第2のチューブにデカントし、より高速で回転して清澄化し(3000xg×15分)、その後、精製の前に70uMのセルストレーナーを通過させる。Streptactin(登録商標)樹脂(IBA Lifesciences)を用いて、製造業者による取扱説明書に従ってAVR02を精製する。AVR02は、1mM EDTAおよび2.5mMデスチオビオチンを含有するPBS系溶出バッファーを用いて溶出し、接線流濾過(Pall Corporation)を用いて濃縮し、最終遠心分離工程(4℃、>20,000xg×5分)によって清澄化する。
【0176】
20~40ug/mLのアルスロマイセス・ラモサス(arthromyces ramosus)由来のペルオキシダーゼ酵素および濃度10~20ug/mLのAVR02を用いて、150mMのNaClを含むリン酸含有緩衝液中で架橋反応を行う。39℃で300~600uMのH2O2を20分間添加することによって反応を開始し、アスコルビン酸(80ng/mL~50ug/mL)の添加によって反応を停止させ、このときイミダゾールを20mMになるように添加する。次いで、ペルオキシダーゼを取り除くために、IMACクロマトグラフィーカラム(Ni-NTA)を通じたFPLCを用いてAVR02タンパク質を精製し、その後PBSを溶離液として用いたサイズ排除クロマトグラフィー(Superdex 200 pg)を行う。次いで、AVR02を含有する画分をプールし、500ug/mLまで濃縮し、2単位/mLのビオチン化トロンビン(Millipore)を用いて4℃で終夜(20時間)切断を行う。次いで、トロンビンを製造業者による取扱説明書に従って取り除き、RTでStreptactin(登録商標)ビーズを用いたバッチ形式の30分のインキュベーションにより、切断されていないあらゆるAVR02タンパク質を取り除く。タンパク質の定量のための最終的なアッセイを行う前に、ビーズを取り除くために、タンパク質はスピンフィルターを通過させ、最後に4℃で回転させる。最終的なタンパク質アッセイは、Starcher, B. Analytical Biochemistry 292: 125-129 (2001)の方法に従った、ニンヒドリンによるタンパク質アッセイである。タンパク質を液体窒素中で瞬間凍結し、使用まで-80℃で保存する。
【0177】
図3は、AVR02中に組み込まれた2つの「設計」の各々がジチロシン結合を形成することを示すデータである。
図3A;架橋反応を適用した後、部位「O」に結合する融合前特異的mAbであるD25を用いたELISAにより、198Yと226Yの間の分子内架橋(設計1)によって導入された安定性を、4℃で2週間にわたって測定した。
図3B;ウェスタンブロッティングによりWTと比較することで、185Yと428Yの間の分子間DT結合形成(設計2)についてアッセイを行った(モタビズマブは一次Abである)。F
1タンパク質は三量体(TM)の大きさまで移動する。
【0178】
図5A~Bは、DS-Cav1と呼ばれるRSV変異体(McLellanら(2013) Science 342: 592-598に記載され、S155C、S290C、S190F、およびV207L変異を含む)と比較したときの、部位IV/V抗体(
図5A)および部位「O」抗体(
図5B)の結合に基づいて決定した、AVR02およびDT架橋AVR02のコンフォメーションの完全性を示すデータである。
【0179】
図6A~Bは、DT-AVR02の温度安定性を示すデータである。
図6Cは、4℃での5週間の保存後、AVR02が0特異的mAb(5C4)への結合を失わなかったことを示すデータである。
【0180】
例3
マウスにおける428Y、185Y、226Y変異RSV F分子のインビボ試験
DS-Cav1と比較したDT架橋AVR02(DT-AVR02)の免疫原性を試験した。AVR02およびDT-AVR02分子の詳細は上述されている。DS-Cav1変異体は、McLellanら(2013) Science 342: 592-598に記載され、S155C、S290C、S190F、およびV207L変異を含む。10匹の6~8週齢メス病原体非保持balb/cマウス(Jackson Labs)からなる2つの群を、プライム(0日目)-ブースト(21日目)レジメンにおいて、筋肉内注射で免疫化した。群1には、動物1匹1回用量当たり10μgのアラム アジュバントが追加されたDT-AVR02を用い、群2には、動物1匹1回用量当たり10μgのアラム アジュバントが追加されたDS-Cav1を用いた。2回目の免疫化(追加免疫)から2週間後である35日目に、血清を採取した。
【0181】
熱失活血清を、glutamax、5%FBS、およびペニシリン/ストレプトマイシンを加えたフェノール不含MEM中で1:800に希釈し、4倍で連続希釈した(最終体積50uL)。次いで、RSV-ウミシイタケルシフェラーゼウイルスを同じ培地中で上述したように希釈して2×104pfu/mLとし、50uLを、ウイルスのみまたはモタビズマブ対照と共に各ウェルに添加した(10,000pfu/ウェル)。ウイルスおよび血清を37℃、5%CO2で2時間インキュベートした。次いで、Hep-2細胞(ATCC)をトリプシン処理し、計数し、同じ培地中で1×106個/mLに希釈し、25uLを各ウェルに添加した(2.5×104個/ウェル)。次いで、細胞を37℃、5%CO2で60~72時間インキュベートし、ウミシイタケ-グロー ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)を用いて、製造業者による取扱説明書に従ってルシフェラーゼ活性を定量化した。各血清希釈物のIC50濃度を計算するため、非線形回帰を用いてデータを解析した(Graphpad Prism)。
【0182】
図7はこの研究の結果を提示し、アラムを追加したDS-Cav1またはDT-AVR02のいずれかでワクチン接種した動物から得た、RSV-ウミシイタケルシフェラーゼ中和力価を示す。
【0183】
例4
コットンラットにおける428Y、185Y、226Y変異RSV F分子のインビボ試験
この実施例および図面で使用される「DT-preF」という用語は、上記実施例において「DT-AVR02」と呼ばれた分子を指し、DT-preFという用語はDT-AVR02という用語と交換可能に使用することができる。DT-AVR02分子の構造およびその製造の詳細は上述されている。
【0184】
概要/全体像
本実験の目標は、コットンラット(CR)におけるRSVに対する防御に関して、DT-AVR02の有効性および安全性を評価することであった。アジュバント(4mg/CRの2%Alhydrogel(登録商標)(ALH))を添加することの効果も評価した。ブライム-ブースト戦略を使用し、ワクチンを筋肉内注射した。RSV/A/Tracy感染(+35日目)後の+39日目、右肺の大きい肺葉の2つ(2)からの肺洗浄液と鼻洗浄液とを得て、プラークアッセイによってRSV力価を決定した。右肺の1つ(1)の肺葉を液体窒素中で瞬間凍結し、-80℃で保存した。実験の全体を通じて血清試料を取得し、RSV/A/TracyおよびRSV/B/18537に対する中和抗体活性を測定するために使用した。
【0185】
DT-AVR02タンパク質/コットンラットの用量として、2μgと10μgのいずれもが、生理食塩水対照と比較して、肺においてはおよそ4log10PFU/g肺、鼻においてはおよそ1.5log10総PFUだけRSV/A/Tracyを減少させるのに非常に有効であった。これら無感作のコットンラットにおいて、すべてのワクチンが2回目(追加免疫)のワクチン接種後にRSV/A/Tracy特異的中和抗体応答を発生させ、これは0日目の生きたRSV/A/Tracyによる感染によって発生したものより大きかった。
【0186】
2用量レジメンを用いて2μgまたは10μgのいずれかの用量で投与された、DT-AVR02(DT-preF)アジュバント追加ワクチンは、RSV無感作コットンラットに頑強な免疫応答をもたらした。2μgと10μgの両者の用量が、肺においてはRSV/A/Tracy複製に対する優れた防御を、鼻においては有意ではあるが中程度の減少をもたらし、RSV/A/Tracy特異的およびRSV/B/18537特異的血清中和抗体を誘発した。データは、これらのワクチンが、RSV免疫前集団、たとえば、高齢の成人集団において特に有効であることを示唆している。
【0187】
実験設計の詳細、結果および結論
本発明者らは、目的とするジチロシン架橋(DT)を導入してRSV Fタンパク質をその融合前のコンフォメーションにコンフォメーションを固定することが可能なチロシン置換を有する、一連のRSV F変異体を設計し、試験した。1つのかかる分子を、本明細書ではDT-AVR02という(本明細書ではDT-preFとも呼ばれる)。この分子の構造および製造の詳細は、上記実施例に記述されている。マウスにおける予備研究(上記実施例参照)により、DT-AVR02は、部分的に安定化され、同時に劇的に改善された熱安定性を有する現在「最高」とされる2つのpreF設計(DS-Cav1およびSC-DM)の1つであるDS-Cav1と、免疫原性的に少なくとも等価であることが示された。DS-Cav1およびSC-DMはpreF抗原として有望であることが示されているが、それでもこれらのタンパク質は比較的不安定であり、4℃においてたった数週間後に抗原性を失う。本研究者らによるインビトロの安定性アッセイが示すところによれば、DT-AVR02はDS-Cav1およびSC-DMより熱的に安定であり、37℃で少なくとも100時間、preF抗原性を保持する。このことは、DT-AVR02は臨床開発にとって十分に安定である可能性が高く、さらにその改善された安定性により、インビボでのワクチンの曝露および有効性も改善されることを示している。
【0188】
この実施例で記載する実験の目標は、コットンラットにおける、2つの用量(2または10μg/CR)でのインビボでのDT-AVR02/DT-preF RSV融合前Fタンパク質ワクチンを評価することであった。
【0189】
製剤にアジュバントである2%Alhydrogel(登録商標)(ALH)を添加することの効果も評価した。プライム-ブースト戦略を使用し、ワクチンを筋肉内注射した。RSV/A/Tracy感染(+35日目)後の+39日目、右肺の大きい肺葉の2つ(2)からの肺洗浄液と鼻洗浄液とを得て、プラークアッセイによってRSV力価を決定した。実験の全体を通じて血清試料を取得し、RSV/A/TracyおよびRSV/B/18537に対する中和抗体活性を測定するために使用した。
【0190】
図8に示すワクチン接種スケジュール-0日目にワクチン接種、21日目に追加免疫、その14日後にウイルス感染、でワクチン接種(筋肉内)を実施した。
【0191】
+35日目に、すべての動物に生きたRSV/A/Tracyを感染させた。群1は、生理食塩水を筋肉内注射した5匹のコットンラット(CR)とした(陽性ウイルス感染対照)。群2は、0日目に生きたRSV/A/Tracyに感染させた5匹のCRとした(「ゴールドスタンダード」)。群3は、2μgのDT-preFを筋肉内注射し、100μgの2%ALH/CRのアジュバントを追加した5匹のCRとした。群4~5は、10μgのDT-preFを筋肉内注射し、100μgの2%ALH/CRのアジュバントを追加したCRとした。
【0192】
使用したコットンラットは、約75~150gの範囲の体重を有していた(開始時の年齢によって決まる)。実験の終了時にも体重を測定した。開始時、動物の体重、年齢、および性別の分布は、すべての群間で同様であった。NIHおよび米国農務省のガイドラインである、The Public Health Service Policy on Humane Care and Use of Laboratory Animalsを利用して実験を実施し、実験プロトコールは動物実験委員会(Investigational Animal Care and Use Committee:IACUC)によって認可された。
【0193】
イソフルランで軽く麻酔したコットンラットに、1.21×105PFUのRSV/A/Tracy(RSV/A/Tracy)(P3 w.p. 3/13/2015)を鼻腔内投与した(100μL)。0日目(群2)および35日目(すべての群)の接種後、ウイルス接種材料を逆滴定して、初期濃度(log10TCID50/mL)を確認した。
【0194】
Alhydrogel(登録商標)(水酸化アルミニウムゲル;ALH)をRT[21℃]で保存した。DT-AVR02原液のタンパク質濃度は、PBS中160μg/mLであった(-80℃で保存)。すべての工程を滅菌フード下で実施した。Alhydrogel(登録商標)2%調合物を、動物1匹当たり100μLの用量で、7回(計700μL)にわたって使用した。
【0195】
タンパク質試料を、水で濡らした氷の上で解凍した。10μgの用量は、タンパク質をPBS中105.26μg/mL(計665μL、437μLのDT-PreF、228μLのPBS)の濃度に希釈した。2μgの用量は、タンパク質をPBS中21.05μg/mL(計665、87.4μLのDT-PreF、577.6μLのPBS)の濃度に希釈した。タンパク質試料を逆さにして混合した。Alhydrogel(登録商標)(2%、Brenntag)を逆さにすることによって十分に混合した。Alhydrogel(登録商標)のボトルを開封し、35μLを各用量中にピペットで移し、手で十分に混合して、均一な懸濁液とした。ワクチン接種の前に、調合した溶液を数回混合し、各々の注射の前に混合を再度行って均一な溶液を確実に維持した。
【0196】
DT-AVR02およびアジュバント(100μLのDT-AVR02およびALH(群3、4))を左前脛骨筋(TA)に筋肉内注射した(ツベルクリンシリンジ)。反対側の脚を、2回目のワクチン接種に用いた(+21日目の追加免疫)。
【0197】
0日目、各群の中の1匹のコットンラットの眼窩神経叢から血液を採取した。指定された他のすべての日に、すべてのコットンラット(5CR/群;4つの群)から血液を採取した。
【0198】
CO2による安楽死の後、右肺を結紮した。右肺から2つの肺葉を切り出し、滅菌水ですすいで血液による外部の汚れを除去し、秤量した。26G3/8針付きの3mLシリンジに入った15%グリセリンと2%FBS-MEMとが混合した(1:1、v/v)3mLのIscove培地を用い、肺葉が全体的に膨張するように複数の部位に注射することで、同じ2つの右肺葉を経胸膜洗浄した。膨張した一方の肺葉をそっと平らに押しつけることで洗浄液を回収し、これを使用して、同じ技法に従って他方の肺葉を経胸膜洗浄した。洗浄液を採収し、滴定を行うまで氷上で保存した。上部気道の鼻洗浄液は、顎の関節を外すことで得た。頭部を切り出し、15%グリセリンと2%FBS-MEMとが混合した(1:1、v/v)1mLのIscove培地を各鼻孔に押し流した(計2mL)。パレットの後部開口から流出液を採取し、滴定を行うまで氷上で保存した。試料は滴定前に凍結させず、滴定は試料の採取の終了時に行った。血清試料の一定分量を抗体分析のために取っておいた。
【0199】
RSV Tracy肺洗浄液力価(PFU/g肺)および鼻洗浄液力価(総PFU)を以下のように決定した。アッセイ開始の24時間前に10%FBSでほぼコンフルエント(約2×105個/ウェル)なHEp-2細胞の単層を調製し、これを収容した24ウェル組織培養プレートを用いてプラークアッセイを実施した。各アッセイの開始時に、被験試料から希釈物(通常は連続log10)を作製した。次いで、各々の0.2mLの試料をウェルに二重に添加し、ときどきそっとかき混ぜながら90分間吸着させた。接種材料を除去した後、次いで、抗生物質、ビタミン類、および他の栄養塩類を含有するMEM中の0.75%メチルセルロースで単層の上を覆った。各アッセイは、組織培養および陽性ウイルス対照を含んでいた。プレートを36℃、5%CO2のインキュベーター中に置いた。6日目(±1日)、プレートを0.01%クリスタルバイオレット/10%ホルマリン溶液(約1.5mL/ウェル)で染色し、室温で24~48時間静置した。ウェルを水ですすいだ。存在する場合、プラークは容易に視認可能であった(非常に濃い青の背景上に明瞭な円)。約20~100個のプラークを含むウェル中のすべてのプラークを計数し、平均化し、ウイルス力価を、鼻洗浄液については総log10PFUとして、肺または他の器官についてはlog10PFR/g組織として計算した。この方法による検出の下限値は、それぞれ、0.70log10総PFU、またはおよそ1.4log10PFUg肺組織である。
【0200】
0、21、35、および39日目における抗RSV中和抗体の試験を、以下のように行った。RSV/A/TracyおよびRSV/B/18537に対する血清中和抗体の試験を、HEp-2細胞を含む96ウェルマイクロタイタープレート中で実施した。プラーク精製したRSVウイルスをマイクロ中和(Nt)アッセイで使用した。試料を56℃で30分間熱失活させた。3log2で始まる繰返しによる2倍連続希釈を実施して、各試料について中和抗体(Ab)力価を決定した。中和抗体力価を、ウイルスによる細胞壊死効果(Cytopathic effect:CPE)において50%以上の減少が観察された血清希釈度と定義した。CPEを組織破壊量として定義し、ウェルを10%中性緩衝化ホルマリンで固定し、クリスタルバイオレットで染色した後、目視によって決定した。中和抗体(NtAb)力価はカテゴリカルなlog数であって、連続的でない値として提示した。検出可能な最小のNtAb力価は2.5log2であった。検出可能でないNtAb力価を有する試料には、2log2という値を与えた。NtAb力価は0.5log2の倍数(たとえば、2.5、3.0、3.5、4.0等)で報告した。試料が試験の上限値以上(14log2以上)のNtAb力価を有していた場合、希釈度を26log2まで延長することでNtAb力価を決定することができるように、その試料を再試験した。内部標準として、40μg/mLのパリビズマブを含めた。
【0201】
RSV特異的抗体力価をELISAによって決定した。ELISAアッセイを実施する前に、血清試料を-20℃で保存した。最初に、Excel(Microsoft Office 2013)の両側スチューデントt検定を使用して、log10変換ウイルス力価またはlog2変換抗体力価により、対照とワクチン群の間でウイルス感染またはRSV特異的中和抗体濃度を分析した。事後テユーキー比較を用いたInStat3(GraphPad)を使用したANOVAにより、さらなる比較を分析することができる。
【0202】
実験設計のさらなる詳細を表Aに示す。結果は上述されている。結果のさらなる詳細を、表B~Lを含む以下に示す。
【0203】
【0204】
【0205】
【0206】
【0207】
【0208】
【0209】
【0210】
【0211】
【0212】
【0213】
【0214】
【0215】
コットンラット2Bは9日目にそのケージ内で死んでいるのが発見された。死因は不明である。
【0216】
Alhydrogel(登録商標)2%のアジュバントが追加されたDT-preF/DT-AVR02の鼻洗浄液におけるRSV/A/Tracy力価に対する効果:生理食塩水対照(群1)と比較して、0日目における生きたRSV/A/Tracyの感染(群2)では、力価が4.42log
10総PFU(P<0.00001;両側スチューデントt検定)減少した(
図9、表B)。ワクチンの組合せのいずれにおいても、ウイルス力価が1.37~1.77log
10総PFU(P≦0.00024;両側スチューデントt検定)減少した。ワクチンの組合せの間で統計的な差異はなかった。
【0217】
Alhydrogel(登録商標)2%のアジュバントが追加されたDT-preF/DT-AVR02の肺洗浄液におけるRSV/A/Tracy力価に対する効果:生理食塩水対照(群1)と比較して、0日目における生きたRSV/A/Tracyの感染(群2)により、力価が検出限界未満まで減少した(4.03log
10PFU/g肺;P<0.00001;両側スチューデントt検定)(
図10、表C)。群3および4に対するワクチンの組合せにより、RSV力価は検出限界未満まで減少した(4.04~4.13log
10PFU/g肺;P<0.00001;両側スチューデントt検定)。ワクチンの組合せ間で統計的な差異はなかった。
【0218】
Alhydrogel(登録商標)2%のアジュバントが追加されたDT-preF/DT-AVR02のRSV/A/TracyまたはRSV/B/18537特異的中和抗体の生成に対する効果:RSV/A/Tracy特異的中和抗体(NtAb)については、21日目までに生きたRSV/A/Tracyによる自然な感染(群2)によってNtAbが生じ(約5.5log
2/0.05mL)、39日目までその濃度のままであった(
図11;表D~G)。21日目において、これはいずれのDT-AVR02とも統計的に異なっていた(P≦0.0036;両側スチューデントt検定)。しかし、21日目における2回目のワクチン接種後、いずれのワクチンによっても、生きたRSV/A/Tracyによる感染よりも大きな、頑強なNtAb応答があった。
【0219】
生きたRSV/A/Tracyによる感染および2つのワクチンにより、RSV/B/1853架橋NtAbが生じた(
図12;表H~L)。2つのワクチンに対するNtAb応答のパターンはRSV/A/Tracyの場合と類似していたが、1~2log
2低いレベルであった。
【0220】
例5
インビトロおよびインビボでの428Yおよび427Y変異RSV F分子の比較
上記実施例に記載した方法を使用して、pre-Fコンフォメーションで安定化された2種類のDT架橋変異RSV F分子を生成した。この2種類の変異体は、一方が第428位のアミノ酸においてチロシンへの点変異(428Y変異)を有し、他方が第427位のアミノ酸においてチロシンへの点変異(427Y変異)を有している点のみが異なっていた。いずれの分子もS190FおよびV207L変異(すなわち、「Cav1」変異)と、第185位および第226位のアミノ酸残基におけるチロシンへの変異(すなわち、185Y変異および226Y変異)とを含んでいた。
【0221】
本明細書では、428Y変異体(V185Y、K428Y、K226Y、S190F、およびV207L変異を含む)は、「428Y変異体」または「DT-AVR02」のいずれかと交換可能に呼ばれる。428Y変異体のF0前駆体形態は、配列番号81のアミノ酸配列を有する。成熟428Y変異体分子(配列番号81をコードする核酸分子のトランスフェクションおよび細胞中での発現後に形成される)は、配列番号81の第26~109位および第137~568位のアミノ酸残基を含み、第26~109位のアミノ酸残基はRSV F F2残基であり、第137~513位のアミノ酸残基はRSV F F1残基であり、第514~568位のアミノ酸残基は異種配列であり、フォールドン(foldon)ドメイン、Hisタグ、Strep IIタグ、およびトロンビン切断部位を含む。第1~25位のアミノ酸に由来するシグナルペプチドおよび第100~136位のアミノ酸に由来するpep27ペプチドは、最終的な成熟三量体型428Y変異体分子中に存在しない。
【0222】
本明細書では、427Y変異体(V185Y、K427Y、K226Y、S190F、およびV207L変異を含む)は、「427Y変異体」または「DT-CAV1」のいずれかと交換可能に呼ばれる。428Y変異体のF0前駆体形態は配列番号81のアミノ酸配列を有するが、ただし、第428位のアミノ酸位置におけるリシン(K)残基を含み、第427位のアミノ酸位置におけるチロシンを含む点が異なる。成熟427Y変異体分子(配列番号81のこの改変版をコードする核酸分子のトランスフェクションおよび細胞中での発現後に形成される)は、この改変された配列の第26~109位および第137~568位のアミノ酸残基を含み、第26~109位のアミノ酸残基はRSV F F2残基であり、第137~513位のアミノ酸残基はRSV F F1残基であり、第514~568位のアミノ酸残基は異種配列であり、フォールドン(foldon)ドメイン、Hisタグ、Strep IIタグ、およびトロンビン切断部位を含む。第1~25位のアミノ酸に由来するシグナルペプチドおよび第100~136位のアミノ酸に由来するpep27ペプチドは、最終的な成熟三量体型427Y変異体分子中に存在しない。
【0223】
427Yおよび428Y変異体を上記方法に従って発現させ、精製し、総タンパク質を規格化するためのモタビズマブ、ならびにコンフォメーション的な5C4(部位「O」、融合前特異的)抗体および抗原部位IVと抗原部位Vの間の領域に結合する融合前特異的モノクローナル抗体を用いたELISAにより、コンフォメーションの完全性について分析した。Ni-NTA被覆プレート(Qiagen)を使用し、one-step TMB試薬(Pierce)でアッセイを展開した。
図13に示すように、K427Yの代わりにN428Y置換を行うことで、部位IV-V抗体への結合が大幅に改善され(
図13BおよびD)、部位「O」抗体への結合も改善される(
図13AおよびC)。
【0224】
K427Yの代わりにN428Yの置換を行うことは、架橋反応後における分子の凝集状態にも影響を与える。本明細書に記載されている方法に従ってタンパク質を精製し、両タンパク質を同一の条件下で架橋し、本明細書に記載されているように処理した。溶離液としてPBSを用い、Superdex 200 26/60pgカラムを用いたサイズ排除クロマトグラフィーを行っている間、架橋された材料のクロマトグラムは著しく異なっている。
図14Aに示すように、架橋反応後、427Y変異体(DT-CAV1)は、
図14中の対応する最終生成物のクーマシー染色SDS-PAGE分析(
図14C、左側の2つのゲル)に示されるように、高次凝集体種を主に生成する。428Y変異体(DT-AVR02)を同じ処理で生成したとき、クロマトグラム(
図14B)および対応する最終生成物のクーマシー染色SDS-PAGEゲル(
図14C、右側のゲル)から明らかなように、タンパク質の大部分が三量体型画分に存在していた。
【0225】
また、427Y変異体(DT-CAV1)、427Y変異体(DT-AVR02)、およびMcLellanら(2013) Science 342:592-598に記載されたDS-Cav1(S155C、S290C、S190F、およびV207L変異を含む)の免疫原性を試験した。10匹の6~8週齢病原体非保持メスCB6/F1Jマウス(Jackson Labs)からなる2つの群を、プライム(0日目)-ブースト(21日目)レジメンによって免疫化した。両実験において、群1を10μgのアラムのアジュバントが追加されたDS-Cav1でワクチン接種し、他方、群2を、第1の研究では、アラムのアジュバントが追加された427Y変異体(DT-CAV1)の1用量につき、1匹当たり10μg、第2の研究では、アラムのアジュバントが追加された428Y変異体(DT-AVR02)の1用量につき、1匹当たり10μgでワクチン接種した。2回目のワクチン接種(追加免疫)から2週間後の35日目に血清を採取した。結果を
図15A~Bに示す。この結果は、428Y変異体(DT-AVR02)でワクチン接種した動物の血清中和力価(
図15B)が、427Y変異体(DT-Cav1)でワクチン接種したものの血清中和力価より劇的に高い(
図15A)ことを示している。
【0226】
例6
スクロースを用いた調合によりRSV F凝集体の形成が減少する
スクロースを本発明の変異RSV F分子の調合物に含有させることで、望ましくない凝集体の形成が著しく減少することが見出されている。上記例示的なDT架橋428Y変異体(DT-AVR02)を用いて実験を実施した。最終濃縮後、分析用サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により、所望のDT-AVR02三量体(
図16A中のピークC)と、さらに凝集体(
図16A中のピークAおよびB)の存在も実証された。精製工程の溶出中に10%スクロースを含むDT-AVR02分子を調合することにより、凝集体の形成が防がれたようであった。
図16Bに示すように、スクロースを用いて調合した試料中では、ピークC(三量体)は残ったが、ピークAおよびB(凝集体)は見えなかった。
【0227】
例7
非ヒト霊長類におけるAVR02のインビボ試験
5匹の非ヒト霊長類からなる6つの群を、プライム(0日目)-ブースト(28日目)レジメンで筋肉内注射によって免疫化する。群1および2を、高用量(50mg/匹/注射)のDT-AVR02で、アジュバントあり(群1)、なし(群2)でワクチン接種し;群3および4を、低用量(10mg/匹/注射)のDT-AVR02で、アジュバントあり(群3)、なし(群4)でワクチン接種し;群5および6を、高用量(50mg/匹/注射)の本発明における比較対照であるDS-Cav1で、アジュバントあり(群1)、なし(群2)でワクチン接種する。
【0228】
0日目および28日目に、すべての群の動物に2回注射する。0日目の初回免疫の前および28日目の2回目の免疫化の前に、すべての動物から血液を採取する。42および49日目に、再び血液を採取/採収する。RSV特異的T細胞応答の頻度および表現型(Th1/Th2)の特徴付けを行うため、標準的な方法によって末梢血単核細胞を単離し;血清を分析して、NHP抗F応答(IgM、総IgG、IgG1、IgG2、IgG3)を定量化し、標準的な方法による競合分析によってエピトープ解析を実施し(部位「O」および部位II)、これも標準的な方法によって中和力価を定量化する。
【0229】
例8
AVR02の第I相ヒト臨床試験
健康な(妊娠していない)成人(18~50歳)における、安定化された融合前RSV Fサブユニットタンパク質ワクチンDT-AVR02の、単独またはアラム アジュバントありにおける安全性、認容性、および免疫原性を調べるための、無作為化プラセボ対照盲検用量漸増試験
150人の対象を7つのコホートに分配し、6つの調合物とプラセボを試験する。対象に4:1の比で無作為にワクチン処理または生理食塩水プラセボを割り当て、各コホートが、活性ワクチンを受ける20人の対象(群A、B、C、D、E、およびF)と、プラセボを受ける5人の対象(群G)とを含むようにする。20人(活性ワクチン)および5人(プラセボ)の対象からなる6つの群を試験する。6×25=150対象。低、中、および高用量(1回の注射当たり50mcg、150mcg、および500mcg)で、各用量はアジュバントとしてアラムありまたはなしで調合される。
【0230】
0日目および90日目(±5日)に、対象は2回筋肉内注射される。各ワクチン接種時(0および90日目)からワクチン接種後の30日にわたって、重篤な有害事象(SAE)および重篤でないAEを含むあらゆるAEについて、対象を追跡する。さらに、60、150、180、210、および310日目)に、電話によって対象と連絡を取り、SAEおよび新たな目立った医学的状態の発生について質問する。
【0231】
第1の目的は、44週間にわたってモニタリングされる健康な成人に筋肉内注射された場合、単独またはアラムありの3つの用量のDT-AVR02による安全性、反応原性、および認容性を評価することである。第2の目的は、総Ab応答を評価するためのELISA(Abサブタイプ分析を含む)、各注射から2および4週間後におけるエピトープ特異的応答を評価するための競合ELISA、ならびに各注射から2および4週間後における中和アッセイによって測定した場合に、被験対象におけるアジュバント追加のなしまたはありの3つの用量のDT-AVR02に対する抗体の応答を評価することである。
【0232】
前述の発明を明確化および理解の目的で幾分詳細に説明したが、本開示を読むことにより、本発明の真の範囲から逸脱することなく形態および詳細に様々な変化を施すことが可能であることは、当業者には明らかなはずである。本発明はまた、以下の特許請求の範囲の用語でさらに規定することができる。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 第428位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合に第428位の残基に相当するアミノ酸におけるチロシンへの点変異を含む変異RSV F分子。
[2] 第185位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合に第185位の残基に相当するアミノ酸におけるチロシンへの点変異をさらに含む、[1]に記載の変異RSV F分子。
[3] 第226位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合に第226位の残基に相当するアミノ酸におけるチロシンへの点変異をさらに含む、[1]に記載の変異RSV F分子。
[4] (a)第185位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合に第185位の残基に相当するアミノ酸におけるチロシンへの点変異、及び(b)第226位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合に第226位の残基に相当するアミノ酸におけるチロシンへの点変異をさらに含む、[1]に記載の変異RSV F分子。
[5] 膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを含む、[1]~[4]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[6] 前記分子が、膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを含まない、[1]~[4]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[7] 前記分子が、RSV A型又はRSV B型分子である、[1]~[6]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[8] 前記分子が融合前特異的抗体に結合する、[1]~[7]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[9] 前記分子が抗原部位
【数2】
を認識する抗体に結合する、[1]~[8]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[10] 前記分子が、D25、5C4、AM22、及びAM14からなる群から選択される抗体に結合する、[1]~[9]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[11] 前記分子が、F2ポリペプチド及びF1ポリペプチドを含み、前記F2ポリペプチドのC末端が、ジスルフィド結合によって前記F1ポリペプチドのN末端に連結している、[1]~[10]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[12] 前記分子が、F2ポリペプチド及びF1ポリペプチドを含み、前記F2ポリペプチドのC末端が、人工的に導入されたペプチドリンカーによって前記F1ポリペプチドのN末端に連結している、[1]~[11]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[13] およそ84個のアミノ酸残基を有するF2ポリペプチド、及びおよそ375個のアミノ酸残基を有するF1ポリペプチドを含む、[1]~[12]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[14] およそ74~84個のアミノ酸残基を有するF2ポリペプチド、及び、およそ365~375個のアミノ酸残基を有するF1ポリペプチドを含む、[1]~[13]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[15] (a)配列番号21~81のいずれかの第26~109位のアミノ酸残基を含むか、又はこれらからなるF2ポリペプチド、及び、(b)配列番号21~81のいずれかの第137~513位のアミノ酸残基を含むか、又はこれらからなるF1ポリペプチドを含む、[1]~[14]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[16] (a)配列番号21~81のいずれかの第26~109位のアミノ酸残基のおよそ74~84個のアミノ酸を含むか、又はこれらからなるF2ポリペプチド、及び、(b)配列番号21~81のいずれかの第137~513位のアミノ酸残基のおよそ365~375個のアミノ酸を含むか、又はこれらからなるF1ポリペプチドを含む、[1]~[15]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[17] (a)配列番号81の第26~109位のアミノ酸残基を含むか、又はこれらからなるF2ポリペプチド、及び、(b)配列番号81の第137~513位のアミノ酸残基を含むか、又はこれらからなるF1ポリペプチドを含む、[1]~[16]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[18] (a)配列番号81の第26~109位のアミノ酸残基のおよそ74~84個のアミノ酸を含むか、又はこれらからなるF2ポリペプチド、及び、(b)配列番号81の第137~513位のアミノ酸残基のおよそ365~375個のアミノ酸を含むか、又はこれらからなるF1ポリペプチドを含む、[1]~[17]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[19] 前記分子が、1つ以上のジチロシン架橋により融合前のコンフォメーションで安定化されている、[1]~[18]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[20] 前記分子が成熟RSV F三量体である、[1]~[19]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[21] 前記分子が、3つ以上のジチロシン架橋により融合前のコンフォメーションで安定化されている成熟RSV F三量体である、[1]~[20]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[22] 前記分子が、(a)第428位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシン、及び、(b)第185位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシンの間に、ジチロシン架橋を含む、[1]~[21]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[23] 前記分子が、(a)第198位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合に相当するアミノ酸残基おけるチロシン、及び、(b)第226位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシンの間に、ジチロシン架橋を含む、[1]~[22]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[24] 前記分子が、(i)第198位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシン、及び、第226位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシンの間のジチロシン架橋、並びに、(ii)第428位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシン、及び、第185位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシンの間のジチロシン架橋の両者を含む、[1]~[23]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[25] 前記分子が、3つのジチロシン架橋を含む成熟RSV F三量体であり、前記架橋の各々が、(a)第428位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシン、及び、(b)第185位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシンの間にある、[1]~[24]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[26] 前記分子が、3つのジチロシン架橋を含む成熟RSV F三量体であり、前記架橋の各々が、(a)第198位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシン、及び、(b)第226位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシンの間にある、[1]~[25]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[27] 前記分子が、6つのジチロシン架橋を含む成熟RSV F三量体であり、前記ジチロシン架橋のうち、(i)3つが、第198位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシン、及び、第226位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシンの間にあり、(ii)3つが、第428位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシン、及び、第185位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるチロシンの間にある、[1]~[26]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[28] 前記分子が、1つ以上の人工的に導入された非DT架橋をさらに含む、[1]~[27]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[29] 前記分子が、1つ以上の人工的に導入されたジスルフィド結合をさらに含む、[1]~[28]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[30] 前記分子がシステインへの1つ以上の点変異をさらに含む、[1]~[29]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[31] 前記ジスルフィド結合が2つのシステインの間に形成され、前記システインのうちの一方又は両方が点変異によって導入されたものである、[29]に記載の変異RSV F分子。
[32] 前記分子が、第155位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるシステインへの点変異を含む、[1]~[31]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[33] 前記分子が、第290位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるシステインへの点変異を含む、[1]~[32]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[34] 前記分子が、(a)第155位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるシステインへの点変異、及び、(b)第290位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるシステインへの点変異の両者を含む、[1]~[33]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[35] 前記分子が、1つ以上の人工的に導入された空洞充填変異を含む、[1]~[34]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[36] 前記分子が、第190位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるフェニルアラニンへの点変異を含む、[35]に記載の変異RSV F分子。
[37] 前記分子が、第207位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるロイシンへの点変異を含む、[35]に記載の変異RSV F分子。
[38] 前記分子が、(a)第190位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるフェニルアラニンへの点変異、及び、(b)第207位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるロイシンへの点変異の両者を含む、[35]に記載の変異RSV F分子。
[39] 前記分子が、58W、83W、87F、90L、153W、190F、203W、207L、220L、260W、296F、及び298Lからなる群から選択される1つ以上の空洞充填変異を含む、[35]に記載の変異RSV F分子。
[40] 前記分子が異種オリゴマー形成ドメインを含む、[1]~[39]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[41] 前記異種オリゴマー形成ドメインが三量体形成ドメインである、[40]に記載の変異RSV F分子。
[42] 前記三量体形成ドメインが、フォールドン(foldon)ドメイン、GCN4ドメイン、又はT4フィブリニチンドメインである、[41]に記載の変異RSV F分子。
[43] 前記三量体形成ドメインが、配列番号93を含むフォールドン(foldon)ドメインである、[41]に記載の変異RSV F分子。
[44] 前記分子が、前記RSV F分子の検出に有用な1つ以上のタグを含む、[1]~[43]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[45] 前記分子が、前記RSV F分子の精製に有用な1つ以上のタグを含む、[1]~[44]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[46] 前記タグが、Strepタグ、StrepIIタグ、FLAGタグ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)タグ、緑色蛍光タンパク質(GFP)タグ、ヘマグルチニンA(HA)タグ、ヒスチジン(His)タグ、ルシフェラーゼタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)タグ、c-Mycタグ、プロテインAタグ、及びプロテインGタグからなる群から選択される、[44]又は[45]に記載の変異RSV F分子。
[47] 前記タグが配列番号95を含む、[44]又は[45]に記載の変異RSV F分子。
[48] 前記タグが配列番号96を含む、[44]又は[45]に記載の変異RSV F分子。
[49] 前記タグがタンパク質分解で切断可能なタグである、[44]~[48]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子。
[50] (a)第428位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸、(b)第226位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸、及び(c)第185位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸の各々におけるチロシンへの点変異を含む変異RSV F分子。
[51] 配列番号81の第26~109位及び第137~513位のアミノ酸残基を含む、[50]に記載の変異RSV F分子。
[52] (i)(a)第428位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸、(b)第226位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸、及び(c)第185位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸の各々におけるチロシンへの点変異、(ii)第190位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるフェニルアラニンへの点変異、並びに、(iii)第207位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるロイシンへの点変異、を含む変異RSV F分子。
[53] 配列番号81の第26~109位及び第137~513位のアミノ酸残基を含む、[52]に記載の変異RSV F分子。
[54] (a)第428位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸、(b)第226位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸、及び(c)第185位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸の各々におけるチロシンへの点変異を含む、可溶型成熟三量体型RSV F分子。
[55] 配列番号81の第26~109位及び第137~513位のアミノ酸残基を含む、[54]に記載の可溶型成熟三量体型RSV F分子。
[56] (i)(a)第428位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸、(b)第226位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸、及び(c)第185位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸の各々におけるチロシンへの点変異、(ii)第190位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるフェニルアラニンへの点変異、並びに、(iii)第207位のアミノ酸残基、又は配列番号1とアライメントして決定した場合にこれに相当するアミノ酸残基におけるロイシンへの点変異を含む、可溶型成熟三量体型RSV F分子。
[57] 配列番号81の第26~109位及び第137~513位のアミノ酸残基を含む、[56]に記載の可溶型成熟三量体型RSV F分子。
[58] 前記分子が1つ以上のDT架橋を含み、pre-Fコンフォメーションで安定化されている、[50]~[57]のいずれか一つに記載のRSV F分子。
[59] [1]~[58]のいずれか一つに記載の変異RSV F分子をコードする核酸。
[60] [59]に記載の核酸分子を含むベクター。
[61] [59]に記載の核酸分子を含む細胞。
[62] [60]に記載のベクターを含む細胞。
[63] [1]~[58]のいずれか一つに記載の変異RSV分子を含む医薬組成物。
[64] アジュバントをさらに含む、[63]に記載の医薬組成物。
[65] RSVに対するワクチン接種を行う方法であって、それを必要とする対象に有効量の[64]に記載の医薬組成物を投与することを含む方法。
【配列表】