(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】輸送用保冷容器
(51)【国際特許分類】
B65D 81/38 20060101AFI20241007BHJP
B65D 25/10 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
B65D81/38 Q
B65D25/10
(21)【出願番号】P 2021042589
(22)【出願日】2021-03-16
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】593025619
【氏名又は名称】トーホー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084375
【氏名又は名称】板谷 康夫
(74)【代理人】
【識別番号】100142077
【氏名又は名称】板谷 真之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】阿部 政男
(72)【発明者】
【氏名】西山 禎一
(72)【発明者】
【氏名】小田 徹
【審査官】宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-156472(JP,A)
【文献】特開2005-247411(JP,A)
【文献】実開昭54-028551(JP,U)
【文献】米国特許第04434890(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 81/38
B65D 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に開口を有する箱形状の容器本体と、前記容器本体の開口を施蓋する蓋体と、を備えた発泡樹脂製の輸送用保冷容器であって、
円筒形状の被輸送物が嵌め込まれる保持穴を複数有する平板形状のホルダ部材を更に備え、
前記ホルダ部材は、
第1ホルダ部材及び第2ホルダ部材を含み、
前記第1ホルダ部材及び前記第2ホルダ部材は、対峙する2辺から夫々水平方向に突出した複数の保持片を有し、
前記容器本体は、対向する2内側面において鉛直方向に形成され前記保持片が挿通される複数の保持溝を有し、
前記複数の保持溝は、
前記第1ホルダ部材と前記容器本体の上底面との間に所定の収容空間が設けられる第1の位置で前記第1ホルダ部材を保持する第1保持溝と、前記第2ホルダ部材と第1ホルダ部材との間に所定の収容空間が設けられる第2の位置で前記第2ホルダ部材を保持する第2保持溝と、を含むことを特徴とする輸送用保冷容器。
【請求項2】
前記第1保持溝及び前記第2保持溝は、夫々の下端部の前記容器本体の上底面からの高さが異なり、
前記第1ホルダ部材と第2ホルダ部材とは、互いに同形状であることを特徴とする請求項1に記載の輸送用保冷容器。
【請求項3】
前記ホルダ部材は、前記保持片がない2辺と前記容器本体の内側面との間に所定の収容空間が設けられる幅寸法に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の輸送用保冷容器。
【請求項4】
前記容器本体の上底面は、上方に向けて突出した複数の突起を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の輸送用保冷容器。
【請求項5】
前記蓋体の底面は、下方に向けて突出した複数の突起を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の輸送用保冷容器。
【請求項6】
前記保持穴は、その内周面に内方に突出した保持突起を有することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の輸送用保冷容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新型コロナウイルスワクチンや医薬品といった保冷を要する被輸送物が収容される発泡樹脂製の輸送用保冷容器に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年12月初旬に中国で第1例目の感染者が報告されてから、わずか数ケ月ほどの間にパンデミックと呼ばれる世界的な流行となった。この脅威に対抗すべく、世界各国の医薬メーカーや研究機関でワクチン開発が進められ、2020年末には英国や米国の一部で、ワクチン接種が開始されるに至った。
【0003】
日本において、ワクチン供給を受けることが決まっているのは、米国ファイザー社、米国モデルナ社、英国アストラゼネカ社であり、例えば、ファイザー社製ワクチンの保管温度は-75℃(±15℃)、モデルナ社製ワクチンの保管温度は-20℃(±5℃)とされている。これらは、mRNAタイプのワクチンと呼ばれ、構造が壊れ易い遺伝子で作られているため、低温を維持し、且つ振動や衝撃を与えない状態で保管しなければ、ワクチンの効果が失われる虞がある。このようなワクチンや医薬品等といった温度管理を要する被輸送物を収容する保冷容器として、収容部の周囲に保冷剤を配置できるように構成された運搬容器が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、日本でのワクチン接種が進められているファイザー社製ワクチンは、海外工場から空輸された後、国内倉庫のディープフリーザーで保管され、各地域の医療機関や接種会場には、約1000回接種分を1単位として、保冷ボックスとドライアイスを利用して輸送することになっている。しかしながら、接種会場ごとに接種数の規模は異なり、規模の小さな会場では約1000回分もの接種を行うことができない。そのため、現実的には、ワクチンが封入されたバイアル瓶を小分けして、各接種会場に搬送することになる。ところが、従来の運搬容器では、上記目的に特化したものではないので、ワクチンが封入されたバイアル瓶を安定的に収容することができない虞がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、簡易な構造でありながら、必要とされる保冷性能を確保することができ、ワクチンや医薬品が封入されたバイアル瓶といった被輸送物を安定的に収容することができる輸送用保冷容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、上面に開口を有する箱形状の容器本体と、前記容器本体の開口を施蓋する蓋体と、を備えた発泡樹脂製の輸送用保冷容器であって、円筒形状の被輸送物が嵌め込まれる保持穴を複数有する平板形状のホルダ部材を更に備え、前記ホルダ部材は、第1ホルダ部材及び第2ホルダ部材を含み、前記第1ホルダ部材及び前記第2ホルダ部材は、対峙する2辺から夫々水平方向に突出した複数の保持片を有し、前記容器本体は、対向する2内側面において鉛直方向に形成され前記保持片が挿通される複数の保持溝を有し、前記複数の保持溝は、前記第1ホルダ部材と前記容器本体の上底面との間に所定の収容空間が設けられる第1の位置で前記第1ホルダ部材を保持する第1保持溝と、前記第2ホルダ部材と第1ホルダ部材との間に所定の収容空間が設けられる第2の位置で前記第2ホルダ部材を保持する第2保持溝と、を含むことを特徴とする。
【0009】
上記輸送用保冷容器において、前記第1保持溝及び前記第2保持溝は、夫々の下端部の前記容器本体の上底面からの高さが異なり、前記第1ホルダ部材と第2ホルダ部材とは、互いに同形状であることが好ましい。
【0010】
上記輸送用保冷容器において、前記ホルダ部材は、前記保持片がない2辺と前記容器本体の内側面との間に所定の収容空間が設けられる幅寸法に形成されていることが好ましい。
【0011】
上記輸送用保冷容器において、前記容器本体の上底面は、上方に向けて突出した複数の突起を有することが好ましい。
【0012】
上記輸送用保冷容器において、前記蓋体の底面は、下方に向けて突出した複数の突起を有することが好ましい。
【0013】
前記保持穴は、その内周面に内方に突出した保持突起を有することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の輸送用保冷容器。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る輸送用保冷容器によれば、断熱性が高く且つ弾力性のある発泡樹脂で構成されているので、簡易な構成ながら、容器内の温度を一定に維持することができ、振動や衝撃から被輸送物を保護することができる。特に、保冷容器の底面に保冷剤を配置することができるので、保冷容器の底面からの熱をブロックし、被輸送物の温度上昇を効果的に抑制することができる。また、被輸送物を保持するホルダ部材が、容器本体とは別構成であり、容器本体内に架橋されて、被輸送物が保冷容器とは直接的に接触していないので、保冷容器に衝撃が加わったとしても、被輸送物にはその衝撃が伝わり難く、被輸送物を安定的に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)本発明の一実施形態に係る輸送用保冷容器の蓋体を開けた状態を示す斜視図、(b)は蓋体を閉めた状態を示す斜視図。
【
図2】(a)同輸送用保冷容器の正面図、(b)は側面図、(c)は平面図、(d)は(c)のA-A線断面図、(e)は(c)のB-B線断面図、(f)は(c)のC-C線断面図。
【
図3】(a)上記輸送用保冷容器に用いられるホルダ部材の平面を主とした斜視図、(b)は底面を主とした斜視図。
【
図4】(a)上記ホルダ部材の平面図、(b)は側面図、(c)は底面図、(d)は(a)のX領域拡大図、(e)は(a)のD-D線断面図、(f)は正面図、(g)は背面図、(h)は(a)のE-E線断面図。
【
図5】(a)上記保冷容器に用いられる容器本体の正面を主とした斜視図、(b)は同容器本体の背面を主とした斜視図。
【
図6】(a)上記容器本体の正面図、(b)は側面図、(c)は平面図、(d)は(c)のF-F線断面図、(e)は(c)のG-G線断面図。
【
図7】(a)上記保冷容器に用いられる蓋体の平面を主とした斜視図、(b)は底面を主とした斜視図。
【
図8】(a)上記蓋体の正面図、(b)は側面図、(c)は底面図、(d)は(c)のH-H線断面図、(e)は(c)のI-I線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る輸送用保冷容器について、図面を参照して説明する。
図1(a)(b)及び
図2(a)乃至(f)に示すように、本実施形態の輸送用保冷容器(以下、保冷容器1)は、上面に開口20を有する箱形状の容器本体2と、容器本体2の開口20を施蓋する蓋体3と、を備える。なお、以下の説明において、
図1(b)に示した保冷容器1の左下側の面(図中矢印方向からの視点)を正面とし、右下側の面を右側面とする。
【0017】
容器本体2は、上面に開口20を有する有底箱形状の容器であり、その内部に円筒形状の被輸送物4(ワクチンを封入したバイアル瓶が想定される)や保冷剤5が収容される。また、保冷容器1は、被輸送物4が嵌め込まれる保持穴60を複数有するホルダ部材6を更に備える。図例では、2つのホルダ部材6が用いられ、下段のホルダ部材6(第1ホルダ部材6A)の下に2個の保冷剤5が水平に配置され、ホルダ部材6の両側に夫々1個の保冷剤5が鉛直に配置され、上段のホルダ部材6(第2ホルダ部材6B)の上に2個の保冷剤5が水平に配置される。
【0018】
容器本体2、蓋体3及びホルダ部材6は、いずれも発泡樹脂製であり、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂といった発泡合成樹脂製であり、本実施形態では、発泡ポリスチレン(EPS(expanded polystyrene))により成型される。容器本体2、蓋体3及びホルダ部材6は、夫々同じ樹脂材料により構成されていてもよいが、夫々発泡倍率(密度)や硬さが異なるものが用いられてもよい。容器本体2及び蓋体3は、樹脂に遮光性材料を添加した特殊発泡ポリスチレンで成型されることがより好ましい。
【0019】
図3(a)(b)及び
図4(a)乃至(h)に示すように、ホルダ部材6は、平板形状のホルダ本体61と、ホルダ本体61の対峙する2辺から夫々水平方向に突出した複数の保持片62を有し、ホルダ本体61に複数の保持穴60が形成されている。なお、ここでは、
図1(a)で示した下段のホルダ部材6(第1ホルダ部材6A)の配置に基づき、ホルダ部材6の左下側面を正面とする。
【0020】
ホルダ本体61は、平面視で一方の辺が他方の辺よりも長い略長方矩形であり、そのサイズは、例えば、188mm×136mmである。ホルダ本体61の短辺の長さは、開口20の短辺の長さ(140mm)より僅かに小さい。一方、ホルダ本体61の長辺の長さは、開口20の長辺の長さ(250mm)よりも小さい。すなわち、ホルダ部材6は、保持片62がない2辺と容器本体2の内側面との間に所定の収容空間が設けられる幅寸法に形成されている。そのため、この収容空間に、鉛直に配置した保冷剤5を収容することができる。
【0021】
また、ホルダ本体61の厚みは、保持穴60の内周面で被輸送物4を保持できる厚みとされ、例えば、10~20mm(図例では、15mm)の厚みとされる。ホルダ本体61は、上面のサイズが下面のサイズよりも僅かに大きく、側面視において僅かにテーパ形状となっていることが好ましい(
図4(f)(g)参照)。本実施形態では、保持穴60は、格子状に5×5の25個、配置されている。この場合、隣り合う保持穴60の間隔は、各保持穴60の中心から25mmとされる。
【0022】
保持穴60は、ホルダ本体61の上面側から下面側に貫通しているが、上面側の開口が大きく(
図4(a)(d)参照)、下面側の開口が小さく(
図4(c))なるように、段部60aが設けられている。この段部60aで被輸送物4(ワクチンを封入したバイアル瓶)の底部が支持される。段部60aより上方の保持穴60の深さは、例えば、10mm、段部60aより下方の保持穴60の深さは、例えば、5mmとされる。保持穴60のうち段部60aより下方の口径は、例えば、10mmとされる。保持穴60は、ホルダ本体61の下面にも開口しているので、ホルダ部材6の下方に配置された保冷剤5の冷気を被輸送物4に伝えることができる。
【0023】
段部60aより上方の保持穴60の口径は、例えば、円筒形状の被輸送物4(バイアル瓶)の外径より僅かに大きくなるように設定される。なお、被輸送物4を差し込み易くするため、上面側の口径が、段部60a側の口径よりも僅か大きくなるテーパ状に形成されることが好ましい(例えば、16~17.4mm)。また、ホルダ本体61の側面から底面にかけての縁部は、例えば、R1程度のRかけた湾曲状に形成されていてもよい(不図示)。
【0024】
また、
図4(d)に示すように、保持穴60のうち段部60aより上方は、その内周面に保持穴60の内方に突出した保持突起60bを有する。本実施形態では、保持突起60bは、保持穴60の内周面の4箇所にそれぞれ設けられる。保持突起60bによって保持穴60の最小口径は、被輸送物4の外径よりも僅かに小さくなることが望ましい。容器本体2は、弾力性のある発泡樹脂で成型されているので、保持穴60に被輸送物4が嵌め込まれた際に、保持突起60bは押し潰されて被輸送物4に圧着し、被輸送物4を保持穴60に安定的に保持させる。
【0025】
保持片62は、ホルダ本体61と一体成型されており、ホルダ本体61の正面側の側面の中央に設けられた1つの保持片62Aと、背面側の側面に間隔を開けて設けられた2つの保持片62Bと、を含む。保持片62は、ホルダ本体61と同じ厚みであり、ホルダ本体61の側面から例えば6.5mm突出している。ホルダ部材6の平面視形状は、
図4(a)に示すD-D線を中心として左右対称である。従って、ホルダ部材6を水平状態のまま180°回転させれば、背面側に1つの保持片62Aがあり、正面側に2つの保持片62Bがある状態となる。
【0026】
図5(a)(b)及び
図6(a)乃至(e)に示すように、容器本体2は、平面視で一方の辺が他方の辺よりも長い略長方矩形であり、略長方矩形の底面21と、底面21の4辺に立設された正面22、左側面23、右側面24及び背面25と、を有する。保冷容器1のサイズは、例えば、330mm×220mmである。容器本体2に蓋体3を積み重ねたときの高さは、例えば、190mmである。容器本体2の開口20のサイズは、例えば、250mm×140mmである。なお、以下の説明において、底面21、正面22、左側面23、右側面24及び背面25の記載は、いずれも容器本体2の内側面と外側面との両方を含む意味で用いる。
【0027】
底面21、正面22、左側面23、右側面24及び背面25の厚みは、例えば、30mm以上であることが望ましく、本例では40mmとされる。容器本体2は、これらの5面によって所定の収容空間を成す。この収容空間の最も深い位置から開口20の最も高い位置までの高さは、例えば、100~150mm(図例は120mm)である。正面22、左側面23、右側面24及び背面25の上縁には、開口20の周縁を成すように、蓋体3の凹枠部33と篏合する凸枠部26が設けられている。なお、図示を省略しているが、底面21の外側面は平坦面であり、適宜に製品名や製品番号等が形成されていてもよい。
【0028】
容器本体2は、対向する2内側面(図例では、正面22及び背面25の各内側面)において鉛直方向に形成され、ホルダ部材6の保持片62が挿通される複数の保持溝27を有する。本実施形態では、正面22及び背面25の内側面に夫々3本ずつの保持溝27が設けられている。
【0029】
保持溝27には、下段に配置される第1ホルダ部材6Aと容器本体2の底面21(上底面)との間に所定の収容空間が設けられる第1の位置H1で第1ホルダ部材6Aを保持する第1保持溝27Aが含まれる(
図6(e)参照)。また、保持溝27には、上段に配置される第2ホルダ部材6Bと第1ホルダ部材6Aとの間に所定の収容空間が設けられる第2の位置H2で第2ホルダ部材6Bを保持する第2保持溝27Bが含まれる。
【0030】
本実施形態では、第1保持溝27Aは、正面22側の中央と(
図5(b))、背面25の両サイドに(
図5(a))設けられ、第2保持溝27Bは、正面22側の両サイドと(
図5(a))、背面25の中央に(
図5(b))設けられる。すなわち、第1保持溝27A及び第2保持溝27Bは、夫々の下端部の容器本体2の底面21からの高さが異なる。
図6(e)に示すように、第1保持溝27Aの下端部は、例えば、容器本体2の底面21(上底面)から30mmの高さ(第1の位置H1)とされ、第2保持溝27Bの下端部は、例えば、容器本体2の底面21から69mmの高さ(第2の位置H2)とされる。
【0031】
容器本体2の底面21(上底面)には、上方に向けて突出するよう形成された複数の突起28を有する(
図6(c)参照)。本実施形態では、突起28は、4×2の8個形成されている。容器本体2の底面21に保冷剤5を横向きに配置し、その上から第1ホルダ部材6Aを配置した際に、複数の突起28の一部はその形が潰れると共に、保冷剤5の形状にフィットし、保冷剤5を安定的に保持することができる(
図2(e)参照)。なお、図例では、作図上、規則正しい形状の保冷剤5を示しており、下段の保冷剤5と第1ホルダ部材6Aとの間には十分な隙間があるように示されている。しかし、保冷剤5が、例えば、再利用可能なソフトゲルタイプの保冷剤であれば、凍結時には、デコボコしたいびつな形状になることがあり、保冷剤5の配置が図例よりも不規則になり易い。そのため、保冷剤5の形状にフィットする突起28を設けることで、保冷剤5をより安定的に保持することができる。また、突起28を設けたことで、容器本体2の底面21と保冷剤5の間に隙間ができ、容器内で冷気が循環し易くなり、被輸送物4を良好な保冷状態に維持することができる。なお、容器本体2の上縁部には、対角にある2角に、蓋体3の取り外しを容易にするための切欠き29が設けられている(
図5(a)、
図1(b)参照)。
【0032】
図7(a)(b)及び
図8(a)乃至(e)に示すように、蓋体3は、保冷容器1の上面を成す板状部材である。蓋体3の天面31は平坦面である。蓋体3の底面32には、容器本体2の凸枠部26と篏合する凹枠部33が設けられている。また、凹枠部33の内塀の更に内方は、凹枠部33より浅い凹平面34とされている。
【0033】
また、蓋体3は、凹平面34から下方に向けて突出するよう形成された複数の突起35を有する。本実施形態では、突起35は、4×2の8個形成されている。突起35は、蓋体3が施蓋されたとき、上段に配置された保冷剤5に押し込まれて形が潰れると共に、保冷剤5の形状にフィットし、保冷剤5の安定的な保持に寄与する。
【0034】
上記のように構成された保冷容器1の使用手順について、再び
図1(a)(b)を参照して説明する。まず、容器本体2の底面21(上底面)に2個の保冷剤5を横向きに配置する。そして、保冷剤5の上に、保持穴60に被輸送物4を保持させたホルダ部材6(第1ホルダ部材6A)を配置する。このとき、第1ホルダ部材6Aの第1保持片62Aが容器本体2の第1保持溝27Aに嵌まるように、第1ホルダ部材6Aを容器本体2内に差し込む。これにより、第1ホルダ部材6Aは、第1の位置H1で保持される(
図6(e)、
図2(e)参照)。
【0035】
次に、第2ホルダ部材6Bを、第1ホルダ部材6Aとは180°水平回転させた状態で、第2保持片62Bが容器本体2の第2保持溝27Bに嵌まるように、容器本体2内に差し込む。これにより、第2ホルダ部材6Bは、第2の位置H2で保持される。第2ホルダ部材6Bは、被輸送物4の上面よりも僅かに高く、直接的に被輸送物4に接触しない位置で保持される。
【0036】
続いて、両ホルダ部材6の両側に、夫々保冷剤5が1個づつ鉛直に配置される。更に、第2ホルダ部材6Bの上に2個の保冷剤5を横向きに配置する。これにより、被輸送物4は、下方向の保冷剤4からは、第1ホルダ部材6Aの下面に開口した保持穴60を介して冷気が伝わり、両横方向の保冷剤5からは、第1ホルダ部材6Aと第2ホルダ部材6Bの間隔から冷気が流入し、上方向の保冷剤4からは、第2ホルダ部材6Bの保持穴60を介して冷気が伝わる。このように、被輸送物4は、下方向、両横方向、上方向の4方に保冷剤5が配置されるので、低温条件を安定保持することができる。
【0037】
また、保冷容器1は、断熱性が高く、且つ弾力性のある発泡樹脂で構成されているので、簡易な構成ながら、容器内の温度を一定に維持することができ、振動や衝撃から被輸送物4を保護することができる。保冷容器1は、載置面と接する容器本体2の底面21から外部の熱が伝わり易く、被輸送物4が保冷容器1の底面21に直接接していると、被輸送物4の温度が上昇し易い。一方、本実施形態の保冷容器1によれば、保冷容器1の底面21には保冷剤5を配置することができるので、容器本体2の底面21からの熱をブロックし、被輸送物4の温度上昇を効果的に抑制することができる。更に、被輸送物4を保持するホルダ部材6が容器本体2内に架橋されており、被輸送物4が保冷容器1とは直接的に接触していないので、保冷容器1に衝撃が加わったとしても、被輸送物4にはその衝撃が伝わり難く、被輸送物4を安定的に保持することができる。また、新型コロナウイルスワクチンは、温度や衝撃だけでなく、紫外線によっても品質劣化のリスクがあることが知られている。そこで、容器本体2及び蓋体3に遮光性材料を添加した特殊発泡ポリスチレンを用いることにより、被輸送物4の光による品質劣化を抑制することができる。
【0038】
また、ホルダ部材6には、複数の被輸送物4を保持でき、容器本体2とは分離可能に構成されているので、容器本体2からホルダ部材6を取り出せば、多くの被輸送物4を同時に持ち運ぶことができる、そのため、例えば、接種会場において、被輸送物4を保冷容器1から据え置きの冷凍庫に移し替える際にも、被輸送物4を個別に取り出すのではなく、ホルダ単位で一括して被輸送物4を取り出すことができ、簡便で手早く、被輸送物4に対する負荷を抑制した状態で移し替えをすることができる。
【0039】
また、第1ホルダ部材6Aと第2ホルダ部材6Bとは、互いに同形状であり、同じ金型で成型することができるので、部品点数を少なくし、製造コストを抑制することができる。また、上段に第2ホルダ部材6Aを設けたことで、下段の第1ホルダ部材6Aに保持された被輸送物4が保持穴60から外れてしまった場合でも、被輸送物4の上方への移動が規制されるので、被輸送物4が容器本体2内で散乱することもなく、被輸送物4を安全に輸送することができる。なお、被輸送物4と第2ホルダ部材6Aとの間にウレタン等の緩衝材(不図示)が挟持されてもよい。
【0040】
なお、本発明は、上記実施の形態の構成に限られず、発明の趣旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。上記実施形態では、被輸送物4を保持したホルダ部材6の上下左右の4方向に計6個の保冷剤5を配置する構成を示したが、上下の2方向に4個の保冷剤5を配置する構成であってもよく、保冷時間や被輸送物4の保冷温度に応じて最適な数の保冷剤5が用いられる。また、保冷容器1を用いて輸送する被輸送物4は、上述した新型コロナウイルスワクチンが封入されたバイアル瓶を想定しているが、これに限らず、保冷容器1は、低温条件で輸送する必要がある他の医薬品の輸送に利用することができる。また、ホルダ部材6の保持穴60のサイズや個数も被輸送物4に応じて適宜に変更し得ることは言うまでもない。
【0041】
また、上記実施形態では、2個のホルダ部材6を用い、下段の第1ホルダ部材6Aに被輸送物4を保持させた構成を示したが、例えば、容器本体2の内寸を本例の内寸よりも高くし、3個以上のホルダ部材6を用いて、2個以上のホルダ部材に被輸送物4を保持させてもよい。このとき、保持溝27には、所定の高さに形成されたスペーサ(不図示)が嵌め込まれて、1本の保持溝27に2個以上のホルダ部材6の保持片62が保持されるようにしてもよい。なお、上記実施形態では、汎用の再利用可能な保冷剤5を用いることを前提としているが、保冷剤5はしてドライアイスを用いることもできる。発泡樹脂製の保冷容器1は、所定の通気性を有しているので、ドライアイスが昇華して発生した二酸化炭素を緩やかに排出することができ、好適に使用され得る。
【符号の説明】
【0042】
1 輸送用保冷容器
2 容器本体
20 開口
21 底面(上底面)
23 左側面(内側面)
24 右側面(内側面)
27 保持溝
27A 第1保持溝
27B 第2保持溝
28 突起
3 蓋体
32 底面
35 突起
4 被輸送物
5 保冷剤
6 ホルダ部材
6A 第1ホルダ部材
6B 第2ホルダ部材
60 保持穴
62 保持片
62A 第1の保持片
62B 第2の保持片
H1 第1の位置
H2 第2の位置