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特許7566352CD19を標的とする完全ヒト抗体およびその応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】CD19を標的とする完全ヒト抗体およびその応用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20241007BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20241007BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241007BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241007BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241007BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241007BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20241007BHJP
【FI】
C07K16/28
C07K19/00
C12N5/10
C12N15/13 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
A61K35/17
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022516254
(86)(22)【出願日】2020-05-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-27
(86)【国際出願番号】 CN2020091235
(87)【国際公開番号】W WO2020233589
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】201910419089.8
(32)【優先日】2019-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521511830
【氏名又は名称】南京馴鹿生物技術股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】タン タオチャオ
(72)【発明者】
【氏名】タイ チェンユイ
(72)【発明者】
【氏名】チア シアンイン
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ チアオー
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ヨンクン
【審査官】坂井田 京
(56)【参考文献】
【文献】Jennifer N. BRUDNO et al.,T Cells Expressing a Novel Fully-Human Anti-CD19 Chimeric Antigen Receptor Induce Remissions of Advanced Lymphoma in a First-in-Humans Clinical Trial,Blood,2016年12月02日,Vol. 128,No. 22: 999,p.1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD19を標的とする完全ヒト抗体またはその一本鎖抗体もしくは抗原結合断片であって、前記完全ヒト抗体またはその一本鎖抗体もしくは抗原結合断片が軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を含み、前記軽鎖可変領域がLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、前記重鎖可変領域がHCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、前記LCDR1、LCDR2、LCDR3、HCDR1、HCDR2およびHCDR3が、
(1)LCDR1のアミノ酸配列がSSNIGAGYDであり、
LCDR2のアミノ酸配列がENTであり、
LCDR3のアミノ酸配列がQSYDSSLSGWRVであり、
HCDR1のアミノ酸配列がGYSFTNSWであり、
HCDR2のアミノ酸配列がIYPDDSDTであり、
HCDR3のアミノ酸配列がARQSTYIYGGYYDTである組合せ、および、
(2)LCDR1のアミノ酸配列がSSNIGNNAであり、
LCDR2のアミノ酸配列がYDDであり、
LCDR3のアミノ酸配列がAAWDDSLNGWVであり、
HCDR1のアミノ酸配列がGYSFTSYWであり、
HCDR2のアミノ酸配列がIYPGDSDTであり、
HCDR3のアミノ酸配列がARLSYSWSSWYWDFである組合せ、から1つ選択される、完全ヒト抗体またはその一本鎖抗体もしくは抗原結合断片。
【請求項2】
前記軽鎖可変領域が、SEQ ID NO:8に示すアミノ酸配列を含み、前記重鎖可変領域がSEQ ID NO:9に示すアミノ酸配列を含み、
あるいは、
前記軽鎖可変領域がSEQ ID NO:11に示すアミノ酸配列を含み、前記重鎖可変領域がSEQ ID NO:12に示すアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の完全ヒト抗体またはその一本鎖抗体もしくは抗原結合断片。
【請求項3】
前記一本鎖抗体がSEQ ID NO:7または10に示すアミノ酸配列を含む、請求項1または請求項2に記載の完全ヒト抗体またはその一本鎖抗体もしくは抗原結合断片。
【請求項4】
CD19を標的とする一本鎖抗体を含むCD19を標的とするキメラ抗原受容体であって、前記一本鎖抗体は、軽鎖可変領域がLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、重鎖可変領域がHCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、前記LCDR1、LCDR2、LCDR3、HCDR1、HCDR2およびHCDR3が、
(1)LCDR1のアミノ酸配列がSSNIGAGYDであり、
LCDR2のアミノ酸配列がENTであり、
LCDR3のアミノ酸配列がQSYDSSLSGWRVであり、
HCDR1のアミノ酸配列がGYSFTNSWであり、
HCDR2のアミノ酸配列がIYPDDSDTであり、
HCDR3のアミノ酸配列がARQSTYIYGGYYDTである組合せ、および、
(2)LCDR1のアミノ酸配列がSSNIGNNAであり、
LCDR2のアミノ酸配列がYDDであり、
LCDR3のアミノ酸配列がAAWDDSLNGWVであり、
HCDR1のアミノ酸配列がGYSFTSYWであり、
HCDR2のアミノ酸配列がIYPGDSDTであり、
HCDR3のアミノ酸配列がARLSYSWSSWYWDFである組合せ、から1つ選択される、CD19を標的とするキメラ抗原受容体。
【請求項5】
前記軽鎖可変領域が、SEQ ID NO:8に示すアミノ酸配列を含み、前記重鎖可変領域がSEQ ID NO:9に示すアミノ酸配列を含み、
あるいは、
前記軽鎖可変領域がSEQ ID NO:11に示すアミノ酸配列を含み、前記重鎖可変領域がSEQ ID NO:12に示すアミノ酸配列を含む、請求項4に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項6】
前記一本鎖抗体がSEQ ID NO:7または10に示すアミノ酸配列を含む、請求項4または請求項5に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体を発現する改変T細胞。
【請求項8】
請求項1に記載の完全ヒト抗体またはその一本鎖抗体もしくは抗原結合断片、または請求項7に記載のT細胞を含む、CD19を細胞表面に発現する腫瘍を治療する薬物。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか一項に記載の完全ヒト抗体またはその一本鎖抗体もしくは抗原結合断片をコードする、単離核酸分子。
【請求項10】
前記完全ヒト抗体またはその一本鎖抗体もしくは抗原結合断片の軽鎖可変領域をコードする配列がSEQ ID NO:2に示すヌクレオチド配列を含み、かつ、重鎖可変領域をコードする配列がSEQ ID NO:3に示すヌクレオチド配列を含み、
あるいは、
前記完全ヒト抗体またはその一本鎖抗体もしくは抗原結合断片の軽鎖可変領域をコードする配列がSEQ ID NO:5に示すヌクレオチド配列を含み、かつ、重鎖可変領域をコードする配列がSEQ ID NO:6に示すヌクレオチド配列を含む、
請求項9に記載の核酸分子。
【請求項11】
前記一本鎖抗体をコードする配列は、SEQ ID NO:1または4に示すヌクレオチド配列を含む、請求項9または10に記載の核酸分子。
【請求項12】
請求項10または11に記載の核酸分子を含む発現ベクター。
【請求項13】
EGFRコード配列をさらに含む、請求項12に記載の発現ベクター。
【請求項14】
請求項1に記載の完全ヒト抗体またはその一本鎖抗体もしくは抗原結合断片、または請求項7に記載のT細胞を含む、薬物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD19を標的とする完全ヒト抗体に関し、さらに当該完全ヒト抗体の一本鎖抗体(scFv)を含むキメラ抗原受容体(CAR)に関する。当該完全ヒト抗体、そのscFvおよびCARは、CD19を標的とするCAR-T細胞の構築に用いられる。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞免疫療法技術、特にキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)技術は、飛躍的に進歩している。2017年、NovartisのKymriah(Tisagenlecleucel)およびKite PharmaのYescartaは、それぞれ米国FDAにより承認されて市販されている。Kymriahは、世界初の承認されたCAR-T治療製品であり、3~25歳の急性リンパ性白血病患者および再発性または難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)を有する成人患者の治療に用いられる。Yescartaは、世界で承認された2番目の市販CAR-T製品であり、成人の再発性または難治性のB細胞リンパ腫および非ホジキンリンパ腫の治療に使用されている。図1は、一般的に使用されるCARの分子構造を示す概略図である。
CAR-Tという技術は、手術、化学療法、放射線療法などの従来の治療法とはまったく異なる治療原理を持ち、難治性および再発性の血液腫瘍性疾患に対して革新的な治療効果をもたらすため、腫瘍治療の新時代を切り開いた。現在、世界中で多数のCAR-T臨床試験が実施されており、その中で中国と米国が最も多くの関連臨床試験を行っている国である。
【0003】
CAR-T療法で広く使用されている標的の1つとして、CD19はBリンパ球腫瘍を適応症とする。現在市販されている製品および研究されている製品において、CD19は、治療効果が明確で、副作用が制御可能であるため、その製品が最も多い。臨床研究の深まりに伴い、CD19 CAR-T治療の短期的な効果は非常に良好であるが、時間が経つにつれて、患者の約50%が再発することを示す証拠は、ますます増えている。再発には多くの原因があるが、主にCD19抗原の陰性再発と陽性再発に分けられる。CD19抗原陽性再発では、患者の体内でのCAR-T細胞の生存時間が短いことが主な理由である。既存のCAR-T注入患者に対する研究によると、人体はCAR-Tで使用される異種抗体に対する抗抗体(ADA)またはキラーTリンパ球(CTL)を産生することは、一部の患者で体内のCAR-T細胞が急速に排除される主な原因であると考えられる。
【0004】
現在、市販されている2つの製品と臨床試験中のほとんどの製品は、CD19抗原を認識するために異種抗体を使用している。例えば、KymriahおよびYescartaは、いずれもマウス抗体を用い、南京伝奇のLCAR-B38Mはアルパカ抗体を用いている。完全ヒト抗体は、異種抗体よりも低い免疫原性を有するため、抗体医薬品開発の分野において主な方向となっている。同様に、完全ヒト抗体をCAR-T製品に適用することは、CAR-T細胞の免疫原性を低下させ、ヒトにおけるCAR-T細胞の生存時間を延長し、CAR-T製品の長期治療効果を高めることができる。したがって、完全ヒトCD19抗体の開発は、次世代においてより長期の存続期間を有し、よりよい長期治療効果を有するCAR-T製品を開発するには、非常に重要な意味を有する。
【発明の概要】
【0005】
本発明の一態様は、CD19を標的とする完全ヒト抗体またはその一本鎖抗体もしくは断片であって、前記完全ヒト抗体は、軽鎖可変領域がLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、重鎖可変領域がHCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、前記LCDR1、LCDR2、LCDR3、HCDR1、HCDR2およびHCDR3が、
(1)LCDR1のアミノ酸配列がSSNIGAGYDであり、
LCDR2のアミノ酸配列がENTであり、
LCDR3のアミノ酸配列がQSYDSSLSGWRVであり、
HCDR1のアミノ酸配列がGYSFTNSWであり、
HCDR2のアミノ酸配列がIYPDDSDTであり、
HCDR3のアミノ酸配列がARQSTYIYGGYYDTである組合せ、および、
(2)LCDR1のアミノ酸配列がSSNIGNNAであり、
LCDR2のアミノ酸配列がYDDであり、
LCDR3のアミノ酸配列がAAWDDSLNGWVであり、
HCDR1のアミノ酸配列がGYSFTSYWであり、
HCDR2のアミノ酸配列がIYPGDSDTであり、
HCDR3のアミノ酸配列がARLSYSWSSWYWDFである組合せからなる群から選ばれる1つである、完全ヒト抗体またはその一本鎖抗体もしくは断片を提供する。
【0006】
いくつかの実施形態において、前記軽鎖可変領域は、SEQ ID NO:8に示すアミノ酸配列を含み、前記重鎖可変領域はSEQ ID NO:9に示すアミノ酸配列を含み、
あるいは、
前記軽鎖可変領域はSEQ ID NO:11に示すアミノ酸配列を含み、前記重鎖可変領域はSEQ ID NO:12に示すアミノ酸配列を含む。
いくつかの実施形態において、前記一本鎖抗体は、SEQ ID NO:7または10に示すアミノ酸配列を含む。
【0007】
本発明の他の1つの態様は、CD19を標的とする一本鎖抗体を含むCD19を標的とするキメラ抗原受容体であって、前記一本鎖抗体は、軽鎖可変領域がLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、重鎖可変領域がHCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、前記LCDR1、LCDR2、LCDR3、HCDR1、HCDR2およびHCDR3が、
(1)LCDR1のアミノ酸配列がSSNIGAGYDであり、
LCDR2のアミノ酸配列がENTであり、
LCDR3のアミノ酸配列がQSYDSSLSGWRVであり、
HCDR1のアミノ酸配列がGYSFTNSWであり、
HCDR2のアミノ酸配列がIYPDDSDTであり、
HCDR3のアミノ酸配列がARQSTYIYGGYYDTである組合せ、および、
(2)LCDR1のアミノ酸配列がSSNIGNNAであり、
LCDR2のアミノ酸配列がYDDであり、
LCDR3のアミノ酸配列がAAWDDSLNGWVであり、
HCDR1のアミノ酸配列がGYSFTSYWであり、
HCDR2のアミノ酸配列がIYPGDSDTであり、
HCDR3のアミノ酸配列がARLSYSWSSWYWDFである組合せからなる群から選ばれる1つである、キメラ抗原受容体を提供する。
【0008】
いくつかの実施形態において、前記軽鎖可変領域は、SEQ ID NO:8に示すアミノ酸配列を含み、前記重鎖可変領域は、SEQ ID NO:9に示すアミノ酸配列を含み、
あるいは、
前記軽鎖可変領域は、SEQ ID NO:11に示すアミノ酸配列を含み、前記重鎖可変領域は、SEQ ID NO:12に示すアミノ酸配列を含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記一本鎖抗体は、SEQ ID NO:7または10に示すアミノ酸配列を含む。
【0010】
本発明のもう1つの態様は、前記のキメラ抗原受容体を発現する改変T細胞を提供する。
本発明の他の1つの態様は、前記のT細胞を含む、CD19を細胞表面に発現する腫瘍を治療する薬物を提供する。
【0011】
本発明のもう1つの態様は、前記の完全ヒト抗体またはその一本鎖抗体もしくは断片をコードする、単離核酸分子を提供する。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記完全ヒト抗体の軽鎖可変領域をコードする配列がSEQ ID NO:2に示すヌクレオチド配列を含み、かつ、重鎖可変領域をコードする配列がSEQ ID NO:3に示すヌクレオチド配列を含み、あるいは、
前記完全ヒト抗体の軽鎖可変領域をコードする配列が、SEQ ID NO:5に示すヌクレオチド配列を含み、かつ、重鎖可変領域をコードする配列が、SEQ ID NO:6に示すヌクレオチド配列を含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記一本鎖抗体をコードする配列は、SEQ ID NO:1または4に示すヌクレオチド配列を含む。
【0014】
本発明のもう1つの態様は、前記の核酸分子を含む発現ベクターを提供する。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記発現ベクターは、さらに上皮成長因子受容体(EGFR)またはトランケートされたEGFR(tEGFR)のコード配列をさらに含む。
【0016】
本発明による完全ヒト抗体は、マウス抗体またはヒト化マウス抗体よりも免疫原性が低く、抗体薬物またはCAR-Tへの応用においてより優れた可能性を有する。マウス抗体を使用するCAR-T細胞と比較して、本発明による完全ヒト抗体を使用して構築したCAR-T細胞は、人体との適合性が高く、それらの体内での長期増殖および生存に有益である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】細胞表面に発現するキメラ抗原受容体(CAR)の構造の模式図である。CARは、特定の標的抗原(例えば、CD19)に結合するための通常一本鎖抗体(scFv)の形とする細胞外結合領域、細胞膜と細胞外結合領域の間のヒンジ領域、細胞外結合領域の結合シグナルを伝達し、かつ細胞を活性化するための細胞質ドメインを含む。
図2】本発明のファージ抗体ライブラリーからCD19を標的とする特異的抗体をスクリーニングする一般的手順を示す図である。
図3】異なるsgRNAでRaji細胞をノックアウトして得られた細胞クローンのフローサイトメトリー分析結果を示す図である。
図4】パニングされたファージモノクローンの標的抗原、対照抗原との酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)の結果を示す図である。コントロール1は、FMC-63(ヒト化マウス抗ヒトCD19ファージ抗体クローン)であり、コントロール2は、非CD19結合scFvファージ抗体クローンである。
図5】一部のファージモノクローンのRaji及びRaji-CD19ko細胞への結合のフローサイトメトリー分析結果を示す図である。
図6】選別されたファージモノクローンの複数の異なるCD19陽性および陰性細胞株への結合のフローサイトメトリー分析結果(MFI値)を示す図である。コントロール1は、FMC-63(ヒト化マウス抗ヒトCD19ファージ抗体クローン)であり、コントロール2は、陰性対照のファージ抗体クローンである。
図7】FMC-63抗体の#62、#78、FMC-63ファージとの競合結合試験結果を示す図である。
図8】レポーター遺伝子法でCAR分子を選別する試験原理を示す概略図である。
図9】ルシフェラーゼが産生する化学発光の強度で表される、様々な標的細胞によるレポーター遺伝子法により構築されたCAR-T細胞の活性化を示す図である。
図10】レポーター遺伝子法で使用された5種類の標的細胞の表面でのCD19発現状況を示す図である。
図11】異なる標的細胞によるCAR-T細胞のCD107a脱顆粒作用の結果を示す図である。
図12】CAR-T細胞による複数の標的細胞(Nalm-6、Reh、Jvm-2、Jeko-1、Bv173、K562-CD19、K562、Thp-1およびSkm-1)の殺傷結果を示す図である。
図13】マイトマイシンで処理されたRaji細胞でCAR-Tを2回刺激した後の、CAR-T細胞によるNalm-6、Reh、Skm-1、およびThp-1細胞の殺傷状況を示す図である。
図14】FMC-63、#62および#78 scFvのCD19抗原との親和力測定プロセスの概略図である。
図15】FMC-63、#62および#78scFvのCD19抗原との親和力測定の動的結合曲線およびKD、kon、kdisパラメーターを示す図である。
図16】#78抗体のメンブレンプロテオームアレイ(MPA)試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
特に明記しない限り、本明細書で使用されるすべての技術的用語および科学的用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有する。
【0019】
抗体とは、形質細胞(エフェクターB細胞)によって分泌され、体の免疫系によって異物(ポリペプチド、ウイルス、細菌など)を中和する免疫グロブリンを意味する。当該異物は、それに応じて抗原と呼ばれる。抗体分子の基本構造は、2本の同一の重鎖と2本の同一の軽鎖からなる4量体である。アミノ酸配列の保存性の違いによって、重鎖と軽鎖はアミノ末端の可変領域(V)とカルボキシ末端の定常領域(C)に分けられる。1本の重鎖と1本の軽鎖の可変領域は相互作用して抗原結合部位(Fv)を形成する。可変領域において、アミノ酸残基の組成と配列は、可変領域の他の領域(フレームワーク領域、FR)よりも変化しやすい特定の領域は、高可変領域(HVR)と呼ばれる。高可変領域は実際に抗体と抗原が結合する重要な部位である。これらの高可変領域は、配列が抗原決定基と相補的であるため、相補性決定領域(complementarity-determining region,CDR)とも呼ばれる。重鎖と軽鎖には、それぞれHCDR1、HCDR2、HCDR3およびLCDR1、LCDR2、LCDR3と呼ばれる3つの相補性決定領域がある。
【0020】
一本鎖抗体(single chain 断片 variable,scFv)は、抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域を短ペプチドによりペプチド鎖に接続して構成されている。scFvは、正しく折り畳むことにより、重鎖と軽鎖の可変領域が非共有結合を介して相互作用してFvセグメントを形成するため、抗原に対する親和活性をよく保持できる。
【0021】
マウス抗体は、特異的抗原に対してマウスによって産生される抗体であり、通常、マウスBリンパ球によって産生される抗体を指す。多くの場合、当該マウス抗体はハイブリドーマ細胞によって産生されるモノクローン抗体である。本発明における完全ヒト抗体は、ヒトファージ抗体ライブラリーからスクリーニングして得られたものであり、マウス抗体と比較して免疫原性がより低下し、ヒトの治療的使用により有利である。
【0022】
キメラT細胞受容体、キメラ免疫受容体とも呼ばれるキメラ抗原受容体(CAR)は、免疫エフェクター細胞に所望の特異性、例えば、特定の腫瘍抗原に結合する能力を付与することができる遺伝子工学によるタンパク質受容体分子である。キメラ抗原受容体は、通常、細胞外抗原結合ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞内シグナルドメインからなる。多くの場合、抗原結合ドメインは、特定の抗原の認識と結合を担うscFv配列である。細胞内シグナルドメインは通常、免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)、例えば、CD3ζ分子由来シグナル伝達ドメインを含み、免疫エフェクター細胞を活性化させ、殺傷効果を果たす。さらに、キメラ抗原受容体はまた、アミノ末端に新生タンパク質の細胞内局在化に関与するシグナルペプチドを含み得、および抗原結合ドメインと膜貫通ドメインとの間にヒンジ領域を含み得る。シグナル伝達ドメインに加えて、細胞内シグナルドメインはまた、例えば、4-1BB分子に由来する共刺激ドメインを含み得る。
【0023】
CAR-T細胞とは、CARを発現するT細胞を指し、通常、CARをコードする発現ベクターをT細胞に形質導入することによって得られる。一般的に使用される発現ベクターは、ウイルスベクターであり、例えば、レンチウイルス発現ベクターがある。キメラ抗原受容体改変T細胞(CAR-T)は、主要組織適合性複合体によって限定されず、特異的に標的殺滅活性および持続的な増幅能力を有する。
【0024】
CD19は、Bリンパ球の表面にあるマーカー分子であり、B細胞の活性化と増殖を調節する役割を果たす。CD19が正常なB細胞だけでなく、多くの悪性B細胞腫瘍にも発現されることは、臨床的にB細胞関連腫瘍を治療するCD19を標的とするCAR-Tのベースである。
【0025】
研究の概要
【0026】
大容量のファージ抗体ライブラリーを使用して完全ヒトCD19特異的抗体をスクリーニングし、機能的試験によってこれらの抗体による腫瘍細胞殺滅のCAR-Tレベルでの有効性と安全性を評価した。最終的に、優れた特異性と有効性を備えた完全ヒト抗体クローンをいくつか入手した。これらの完全ヒト抗体を、引き続き試験を通じてさらに評価し、最適な候補クローンを選択してCD19CAR-T製品を開発することに用いられる。
【0027】
異なる抗体ライブラリーを使用し、組換えCD19タンパク質パニングとタンパク質/細胞交互パニングを経って、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)による予備スクリーニングのために合計894個のモノクローンを選択し、そのうち176個のクローンはCD19-hFc-Bioタンパク質に特異的に結合するが対照タンパク質BCMA-hFc-Bio(タンパク質パニング/ELISA予備スクリーニング)には結合しない。シークエンシングして79種類の異なるモノクローン配列を得た。続いて、これらのモノクローンのCD19陽性細胞株RajiおよびCD19ノックアウトRaji細胞株(Raji-CD19ko)への結合をフローサイトメトリー(FACS)で測定し、細胞表面のCD19抗原に特異的に結合できるモノクローン抗体を13種類スクリーニングした。これらの13種類の抗体に対して、さらに複数種類のCD19陽性細胞株(Raji、JVM-2、K562-CD19)および陰性細胞株(Raji-CD19ko、Jurkat、K562)を使用してフローサイトメトリー分析(FACS)によってさらに同定され、そのうち2つのクローン(#62および#78)は、複数の細胞株で良好な特異性を示した。当該2つのクローン(#62および#78)をCAR-T形態に構築し、インビトロ機能試験を行った。その結果、これらのクローンは、CAR-TレベルでCD19陽性細胞株によってNFATシグナル伝達経路を活性化させ、CD107aタンパク質(CAR-T細胞が殺傷機能を開始するマーカーである)を発現し、かつ、CD19陰性細胞株を殺さずにCD19陽性細胞株を特異的に殺すことができ、対照マウスモノクローン抗体FMC63 CAR-Tと類似する活性と特異性を持っていることを表明した。これらのクローンの取得と初期的機能検証は、完全ヒトCD19 CAR-T製品のその後の開発の基礎であった。プロジェクト全体のプロセスを図2に示す。
【0028】
前記の2つのクローンのシークエンシング結果は、以下の通りである。
SEQ ID NO:1 #62 scFv DNA配列:765bp
CAGTCTGTCGTGACGCAGCCGCCCTCAGTGTCTGGGGCCCCAGGGCAGAGGGTCACCATCTCCTGCACTGGGAGCAGCTCCAACATCGGGGCAGGTTATGATGTACACTGGTACCAGCAACTTCCAGGAACAGCCCCCAAACTCCTCATCTATGAGAACACCAATCGGCCCTCAGGGGTCCCTGACCGATTCTCTGGCTCCAAGTCTGGCACCTCAGCCTCCCTGGCCATCACTGGGCTCCAGGCTGAGGATGAGGCTGATTATTACTGCCAGTCCTATGACAGCAGCCTGAGTGGTTGGAGGGTGTTCGGCGGAGGGACCAAGCTGACCGTCCTAGGTTCTAGAGGTGGTGGTGGTAGCGGCGGCGGCGGCTCTGGTGGTGGTGGATCCCTCGAGATGGCCGAAGTGCAGCTGGTGCAGTCTGGGGCAGAGGTGAAAAAGCCCGGGGAGTCTCTGAAGATCTCCTGTAAGGGGTCTGGATACAGCTTTACCAACTCCTGGATCGGATGGGTGCGCCAGATGCCCGGGAAAGGCCTGGAGTGGATGGGACTCATTTACCCTGATGACTCTGATACCAGATACAGCCCATCCTTCCAAGGCCAGGTCACCATCTCAGCCGACAGCGCCATCAACACCGCCTACCTGCAGTGGAGCAGCCTGAAGGCCTCGGACACCGCCATGTATTACTGTGCGCGCCAGTCTACCTACATCTACGGTGGTTACTACGATACCTGGGGTCAAGGTACTCTGGTGACCGTCTCCTCA
【0029】
SEQ ID NO:2 #62 VL DNA配列:339bp
CAGTCTGTCGTGACGCAGCCGCCCTCAGTGTCTGGGGCCCCAGGGCAGAGGGTCACCATCTCCTGCACTGGGAGCAGCTCCAACATCGGGGCAGGTTATGATGTACACTGGTACCAGCAACTTCCAGGAACAGCCCCCAAACTCCTCATCTATGAGAACACCAATCGGCCCTCAGGGGTCCCTGACCGATTCTCTGGCTCCAAGTCTGGCACCTCAGCCTCCCTGGCCATCACTGGGCTCCAGGCTGAGGATGAGGCTGATTATTACTGCCAGTCCTATGACAGCAGCCTGAGTGGTTGGAGGGTGTTCGGCGGAGGGACCAAGCTGACCGTCCTAGGT
【0030】
SEQ ID NO:3 #62 VH DNA配列:369bp
ATGGCCGAAGTGCAGCTGGTGCAGTCTGGGGCAGAGGTGAAAAAGCCCGGGGAGTCTCTGAAGATCTCCTGTAAGGGGTCTGGATACAGCTTTACCAACTCCTGGATCGGATGGGTGCGCCAGATGCCCGGGAAAGGCCTGGAGTGGATGGGACTCATTTACCCTGATGACTCTGATACCAGATACAGCCCATCCTTCCAAGGCCAGGTCACCATCTCAGCCGACAGCGCCATCAACACCGCCTACCTGCAGTGGAGCAGCCTGAAGGCCTCGGACACCGCCATGTATTACTGTGCGCGCCAGTCTACCTACATCTACGGTGGTTACTACGATACCTGGGGTCAAGGTACTCTGGTGACCGTCTCCTCA
【0031】
SEQ ID NO:4 #78 scFv DNA配列:753bp
CAGGCTGTGCTGACTCAGCCACCCTCGGTGTCTGAAGCCCCCAGGCAGAGGGTCACCATCTCCTGTTCTGGAAGCAGCTCCAACATCGGAAATAATGCTGTAAGCTGGTACCAGCAGCTCCCAGGAAAGGCTCCCAAACTCCTCATCTATTATGATGATCTGCTCCCCTCAGGGGTCTCTGACCGATTCTCTGGCTCCAAGTCTGGCACCTCAGCCTCCCTGGCCATCAGTGGGCTCCAGTCTGAGGATGAGGCTGATTATTACTGTGCAGCATGGGATGACAGCCTGAATGGTTGGGTGTTCGGCGGAGGGACCAAGGTCACCGTCCTAGGTTCTAGAGGTGGTGGTGGTAGCGGCGGCGGCGGCTCTGGTGGTGGTGGATCCCTCGAGGAGGTGCAGCTGGTGCAGTCTGGAGCAGAGGTGAAAAAGCCCGGGGAGTCTCTGAAGATCTCCTGTAAGGGTTCTGGATACAGCTTTACCAGCTACTGGATCGGCTGGGTGCGCCAGATGCCCGGGAAAGGCCTGGAGTGGATGGGGATCATCTATCCTGGTGACTCTGATACCAGATACAGCCCGTCCTTCCAAGGCCAGGTCACCATCTCAGCCGACAAGTCCATCAGCACCGCCTACCTGCAGTGGAGCAGCCTGAAGGCCTCGGACACCGCCATGTATTACTGTGCGCGCCTGTCTTACTCTTGGTCTTCTTGGTACTGGGATTTCTGGGGTCAAGGTACTCTGGTGACCGTCTCCTCA
【0032】
SEQ ID NO:5 #78 VL DNA配列:333bp
CAGGCTGTGCTGACTCAGCCACCCTCGGTGTCTGAAGCCCCCAGGCAGAGGGTCACCATCTCCTGTTCTGGAAGCAGCTCCAACATCGGAAATAATGCTGTAAGCTGGTACCAGCAGCTCCCAGGAAAGGCTCCCAAACTCCTCATCTATTATGATGATCTGCTCCCCTCAGGGGTCTCTGACCGATTCTCTGGCTCCAAGTCTGGCACCTCAGCCTCCCTGGCCATCAGTGGGCTCCAGTCTGAGGATGAGGCTGATTATTACTGTGCAGCATGGGATGACAGCCTGAATGGTTGGGTGTTCGGCGGAGGGACCAAGGTCACCGTCCTAGGT
【0033】
SEQ ID NO:6 #78 VH DNA配列:363bp
GAGGTGCAGCTGGTGCAGTCTGGAGCAGAGGTGAAAAAGCCCGGGGAGTCTCTGAAGATCTCCTGTAAGGGTTCTGGATACAGCTTTACCAGCTACTGGATCGGCTGGGTGCGCCAGATGCCCGGGAAAGGCCTGGAGTGGATGGGGATCATCTATCCTGGTGACTCTGATACCAGATACAGCCCGTCCTTCCAAGGCCAGGTCACCATCTCAGCCGACAAGTCCATCAGCACCGCCTACCTGCAGTGGAGCAGCCTGAAGGCCTCGGACACCGCCATGTATTACTGTGCGCGCCTGTCTTACTCTTGGTCTTCTTGGTACTGGGATTTCTGGGGTCAAGGTACTCTGGTGACCGTCTCCTCA
【0034】
SEQ ID NO:7# 62 scFvアミノ酸配列:255aa
QSVVTQPPSVSGAPGQRVTISCTGSSSNIGAGYDVHWYQQLPGTAPKLLIYENTNRPSGVPDRFSGSKSGTSASLAITGLQAEDEADYYCQSYDSSLSGWRVFGGGTKLTVLGSRGGGGSGGGGSGGGGSLEMAEVQLVQSGAEVKKPGESLKISCKGSGYSFTNSWIGWVRQMPGKGLEWMGLIYPDDSDTRYSPSFQGQVTISADSAINTAYLQWSSLKASDTAMYYCARQSTYIYGGYYDTWGQGTLVTVSS
【0035】
SEQ ID NO:8 #62 VLアミノ酸配列:113aa
QSVVTQPPSVSGAPGQRVTISCTGSSSNIGAGYDVHWYQQLPGTAPKLLIYENTNRPSGVPDRFSGSKSGTSASLAITGLQAEDEADYYCQSYDSSLSGWRVFGGGTKLTVLG
【0036】
SEQ ID NO:9 #62 VHアミノ酸配列:123aa
MAEVQLVQSGAEVKKPGESLKISCKGSGYSFTNSWIGWVRQMPGKGLEWMGLIYPDDSDTRYSPSFQGQVTISADSAINTAYLQWSSLKASDTAMYYCARQSTYIYGGYYDTWGQGTLVTVSS
【0037】
SEQ ID NO:10 #78 scFvアミノ酸配列:251aa
QAVLTQPPSVSEAPRQRVTISCSGSSSNIGNNAVSWYQQLPGKAPKLLIYYDDLLPSGVSDRFSGSKSGTSASLAISGLQSEDEADYYCAAWDDSLNGWVFGGGTKVTVLGSRGGGGSGGGGSGGGGSLEEVQLVQSGAEVKKPGESLKISCKGSGYSFTSYWIGWVRQMPGKGLEWMGIIYPGDSDTRYSPSFQGQVTISADKSISTAYLQWSSLKASDTAMYYCARLSYSWSSWYWDFWGQGTLVTVSS
【0038】
SEQ ID NO:11 #78 VLアミノ酸配列:111aa
QAVLTQPPSVSEAPRQRVTISCSGSSSNIGNNAVSWYQQLPGKAPKLLIYYDDLLPSGVSDRFSGSKSGTSASLAISGLQSEDEADYYCAAWDDSLNGWVFGGGTKVTVLG
【0039】
SEQ ID NO:12 #78 VHアミノ酸配列:121aa
EVQLVQSGAEVKKPGESLKISCKGSGYSFTSYWIGWVRQMPGKGLEWMGIIYPGDSDTRYSPSFQGQVTISADKSISTAYLQWSSLKASDTAMYYCARLSYSWSSWYWDFWGQGTLVTVSS
【0040】
対応する抗原決定基のアミノ酸配列は、下記の表に示す。
【表1】
【0041】
以下、具体的な実施例を照らして本発明を詳しく説明する。
実施例1 CD19ノックアウトされた細胞株Raji-CD19koの構築
ファージ抗体ライブラリー(天然ライブラリーおよび半合成ライブラリーを含む完全ヒト抗体ライブラリー)から特異的モノクローン抗体をパニングするために、当該ファージ抗体ライブラリーを、それぞれ標的抗原を発現する細胞および発現しない細胞と接触させ、結合状況によって特異的抗体をパニングまたは同定することができる。好ましくは、標的抗原をコードする遺伝子がノックアウトされた細胞を構築する。このように、一対の細胞の相違点は、主にこのノックアウトされた遺伝子にある。この一対の細胞は、モノクローン抗体の結合特異性の同定とアフィニティーパニングに重要な役割を果たす。したがって、CRISPR/Cas9技術を採用し、CD19を高度に発現するRaji細胞におけるCD19遺伝子をノックアウトし、かつ、モノクローンスクリーニングによってCD19陰性のモノクローン化Raji-CD19ko細胞を取得した。
【0042】
概要的な試験手順は次のとおりである。
(1)複数種類のsgRNA配列(sgRNA1~sgRNA6)の設計およびプライマー合成、
(2)PCRによるsgRNA転写テンプレートの調製、
(3)sgRNA逆転写およびカラム精製、
(4)sgRNA/Cas9 RNPエレクトロポレートしたRaji細胞、
(5)FACSによる異なるsgRNAの遺伝子のノックアウト効率検出、ノックアウト効率の高い細胞プールの選択、限界希釈法によるモノクローンの分離、
(6)モノクローンのFACS同定およびノックアウト効率の分子生物学的同定、
(7)Raji-CD19ko細胞バンクの構築と保存。
【0043】
主な素材と試薬:
sgRNA調製用oligoDNA:Sangon Biotech(Shanghai) Co.Ltd.
TranscriptAid T7高収率転写キット,Thermo,K0441
TrueCutTM Cas9タンパク質v2,thermo,A36498
PE抗ヒトCD19抗体,Biolegend,302254
【0044】
試験結果:
図3に示したように、sgRNA5の細胞CD19ノックアウト効率は、最も高く、CD19の75.4%がノックアウトされた。したがって、sgRNA5エレクトロポレートした細胞プールを選択してモノクローンスクリーニングを行った。限界希釈法により当該細胞プールからモノクローンを分離し、モノクローンを増幅した後、FACSによってこれらのモノクローンのCD19発現を検出した。検出結果は、表2に示し、番号Raji-CD19ko-1、11、14クローンでは、CD19発現が基本的に検出されず、ノックアウトに成功したモノクローンであると考えられる。これらの3つのクローンを培養して凍結保存した。その後の研究ではクローン1を使用した。
【0045】
【表2】
【0046】
実施例2 アフィニティーパニングによるファージ抗体ライブラリーからCD19タンパク質を標的とする特異的抗体クローンの濃縮
適切なネガティブパニング及びポジティブパニングストラテジーを用いて、ファージ抗体ライブラリーから所望する特異的抗体クローンを濃縮した。
【0047】
ファージ抗体ライブラリーの構築
半合成ファージ抗体ライブラリーを構築し、天然ライブラリーと共に使用した。これにより、CD19高親和力抗体クローンを欠く可能性があるという天然ライブラリーの問題を解決した。CD19は、ヒトにおいてBリンパ球により正常に発現される抗原である。このような抗原に対して、体は、クローニングおよびスクリーニングメカニズムを利用して、CD19抗体を発現するB細胞を発達過程に不活性化させ、正常な体内でこのような抗原に対する高親和力抗体の欠如をもたらす。クローニングおよびスクリーニングは、体の正常の自己認識および自己防御メカニズムである。しかし、ファージ抗体ライブラリーの最も一般的な形態は、健康なヒトリンパ球における抗体遺伝子を直接クローニングすることによって構築される天然ライブラリーであり、CD19のようなヒトに通常存在する抗原に対する抗体クローンがない可能性が高い。このことを考慮して、抗体ライブラリーを構築する際に、天然ライブラリーだけでなく、半合成抗体ライブラリーも構築した。半合成抗体ライブラリーは、天然抗体配列からの軽鎖および重鎖FR1-FR3と人工的に設計された重鎖CDR3からなり、抗体の多様性を大幅に高め、通常存在する抗原(例えばCD19)に対する高親和力を有する抗体をスクリーニングする可能性を高める。
【0048】
CD19タンパク質パニング
ネガティブパニングタンパク質としてBCMA-Fcを使用し、ポジティブパニングタンパク質としてCD19-Fcを使用し、複数ラウンドのパニングを実行し、標的抗体クローンを濃縮したファージプール(pool)を得た。試験手順は次のように簡単に説明する。
(1)Fcタグ付き標的抗原(CD19-Fc)または対照抗原(BCMA-Fc)を高結合96ウェルELISAプレートにコーティングし、ELISAプレートをブロッキング溶液でブロックした。
(2)Fcタグまたはブロッキング液成分に非特異的に結合したファージ抗体クローンを差し引くために、ファージライブラリー(1x1012個のファージ粒子を含む)を加え、対照抗原とコンインキュベートした。
(3)インキュベートした後、上清を標的抗原でコーティングされたプレートに移し、ファージを標的抗原に結合させるように引き続きインキュベートした。
(4)固体担体の表面を洗浄液で洗浄して、結合していないファージを除去した。
(5)溶離液で標的抗原から陽性ファージを溶離した。
(6)溶離したファージで再び宿主細菌XL1-blueを感染し、回収されたファージを増幅した。少量のサンプルを勾配希釈して宿主細菌を感染し、Amp耐性プレートに塗り、回収されたファージの量を計算した。
(7)ステップ(1)~(6)を繰り返し、通常、ファージの回収率(溶離されたファージの数/投与されたファージの数)が大幅に増やすと観察されるまでは、3~4ラウンドのパニングが必要である。
濃縮されたファージプールは、その後のモノクローンスクリーニングおよびELISA/FACS同定に用いられた。
【0049】
Raji/Raji-CD19ko細胞パニング
ネガティブパニングセルとして実施例1で調製したRaji-CD19ko細胞を使用し、ポジティブパニングタンパク質としてRaji細胞を使用し、複数ラウンドのパニングを実行し、標的抗体クローンを濃縮したファージプールを得た。
【0050】
試験手順は次のように簡単に説明する。
(1)タンパク質パニングによって特異的クローンが濃縮されたファージプール(1x1012個のファージ粒子を含む)を1x10個のネガティブパニング細胞Raji-CD19koと均一に混合し、ロータリーミキサーで、室温で2時間インキュベートしてネガティブパニング細胞株に結合している抗体クローンをこれらの細胞に十分に結合させる。
(2)1500rpmで5分間遠心分離し、細胞を沈殿し、上清を新しいチューブに移し、5x10個のRaji細胞(CD19陽性細胞)と均一に混合し、ロータリーミキサーで、室温で2時間結合した。
(3)PBSで細胞を6回洗浄し、毎回上清を吸引して廃棄し、再懸濁して、結合していないファージを除去するように1500rpmで5分間遠心分離した。
(4)溶離液で標的抗原から陽性ファージを溶離した。
(5)溶離したファージで再び宿主細菌を感染し、回収されたファージを増幅した。少量のサンプルを勾配希釈して宿主細菌を感染し、Amp耐性プレートに塗り、回収されたファージの量を計算した。
(6)ステップ(1)~(5)を繰り返し、通常、ファージ回収率(溶離されたファージの数/投与されたファージの数)が大幅に増やすと観察されるまでは、3~4ラウンドのパニングが必要である。
濃縮されたファージプールは、その後のモノクローンスクリーニングおよびELISA/FACS同定に用いられる。
【0051】
主な素材と試薬:
天然ライブラリーおよび半合成ライブラリーを含む完全ヒトファージ抗体ライブラリー
ヘルパーファージKO7、Thermo/Invitrogen、18311019;
ヒトCD19 (20-291)タンパク質、Fcタグ,ACRObiosystem、CD9-H5251;
ヒトBCMA/TNFRSF17タンパク質、Fcタグ,ACRObiosystem、BC7-H5254;
高結合ELSIAプレート、Costar、#3590
ブロッキング液:PBS+3%BSA
リンス液:PBS+0.1%Tween20
溶離液:1mg/mL トリプシン(Trypsin) in PBS
【0052】
試験結果:
異なる抗体ライブラリーを使用して、3ラウンドのタンパク質パニングを行った。各パニングで回収率の明らかな増加が観察されたこと(表3)は、抗体クローンが効果的に濃縮されたことを検証した。
【0053】
【表3】
【0054】
3ラウンドのパニングの後、さまざまな抗体ライブラリーが濃縮されていることが分かった(3ラウンド目の回収率は前のラウンドよりも大幅に高くなった)。しかし、その後のFACS試験では、これらのファージプールから選択したクローンはいずれも、CD19抗原を高度に発現するRaji細胞株に結合できなかった。つまり、細胞表面の天然状態のCD19抗原を認識できなかった。したがって、その後の試験では、タンパク質と細胞を交互にパニングする方法を使用して、他のファージ抗体ライブラリーから特異的抗体クローンを単離した。表4は、組換えCD19タンパク質とRaji/Raji-CD19ko細胞株を使用したジョイントパニングの結果を示した。回収率から判断すると、5つのパニングは、すべて濃縮され、次のステップでモノクローンをスクリーニングするために用いられる。
【0055】
【表4】
【0056】
実施例3 酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)およびフローサイトメトリー(FACS)を使用した、濃縮ファージプールからの特異的クローンのスクリーニング
目的と原理:アフィニティーパニングステップによって濃縮されたファージプールには、特異的なクローン、非特異的なクローンおよびネガティブクローンなどのさまざまなファージ抗体が含まれている。特異的なクローンを得るには、そこからモノクローンを分離し、それをモノクローンファージにパッケージ化し、酵素結合免疫測定法(ELISA)によってたくさんのモノクローンの予備スクリーニングを行い、CD19タンパク質に特異的に結合するモノクローンを選択した。これらのELISA特異的クローンに対して、さらにフローサイトメトリーを使用してスクリーニングを行い、細胞表面の天然状態のCD19分子に結合できるかどうかを判断した。特異的モノクローンは、DNAシークエンシングによって、その中に含まれる一本鎖抗体配列を決定することができる。
【0057】
ELISA予備スクリーニングでは、ストレプトアビジン(Streptavidin)とビオチン(Biotin)の結合により、ビオチン化標的タンパク質(CD19-hFc-Bio)と対照タンパク質(BCMA-hFc-Bio)は、反応液中で天然状態の抗原のコンフォメーションにより近くなる。CD19-hFc-Bioのみに結合し、BCMA-hFc-Bioおよびストレプトアビジン(Streptavidin)には結合しないものは、特異的クローンとみなされる。FACS予備スクリーニングでは、CD19発現の高い細胞株であるRajiとCD19分子をノックアウトしたRaji-CD19koを用いて行った。Raji細胞のみに結合し、Raji-CD19ko細胞に結合しないものは、特異的クローンとみなされる。ELISAとFACSという2つの予備スクリーニングを通じて、組換え発現されたCD19タンパク質に結合できるだけでなく、細胞表面の天然状態のCD19分子を認識できる候補抗体を得られ、引き続きスクリーニングに用いられた。
【0058】
ELISA試験の概要的な手順:
(1)96ディープウェルプレートでモノクローンファージを培養し、パッケージングした。
(2)StrepavidinをPBSで2μg/mLに希釈し、高結合マイクロタイタープレートに100μL/ウェルにて加え、室温で2時間結合した。
(3)コーティング液を廃棄し、各ウェルにブロッキング液250μLを加え、4℃で一晩ブロッキングした。
(4)リンス液250μLでプレートを2回洗浄した。
(5)ビオチンタグ付き標的タンパク質、及び対照タンパク質をPBSで2μg/mLに希釈し、Strepavidinでプレコートされたマイクロタイタープレートに100μg/ウェルにて加え、室温で1時間結合した。
(6)リンス液250μLでプレートを2回洗浄した。
(7)ステップ(1)で培養したファージ上清100μLを標的抗原、対照抗原でコーティングされたウェルに加え、室温で2時間結合した。
(8)リンス液250μLでプレートを4回洗浄した。
(9)1:2000に希釈したマウス抗M13一次抗体を100μL/ウェルになるように加え、室温で45minインキュベートした。
(10)リンス液250μLでプレートを4回洗浄した。
(11)1:1000に希釈したHRPロバ抗ヒトIgGを100μL/ウェルになるように加え、室温で45minインキュベートした。
(12)リンス液250μLでプレートを6回洗浄した。
(13)TMB発色基質100μLを加え、5~10min発色させた。
(14)2M HSO 100μLを加えて反応を終了させ、マイクロプレートリーダーで結果を読み取った。
【0059】
FACS予備スクリーニング試験の概要的なステップ:
(1)96ディープウェルプレートでモノクローンファージを培養し、パッケージングした。
(2)Raji、Raji-CD19ko細胞をPBSで2回洗浄し、PBSで濃度1x10/mLになるように再懸濁し、96ディープウェルプレートに50μLを分注した。
(3)パッケージ化されたモノクローンファージ50μL(1E11 pfu/mL)を各ウェルに加え、均一に混合し、4℃で2時間結合した。
(4)PBS 200μLで2回洗浄した。
(5)1:2000に希釈したマウス抗M13一次抗体100μL/ウェルを加え、ピペッティングで均一に混合した後、室温で45minインキュベートした。
(6)PBS 200μLで2回洗浄した。
(7)1:300に希釈したFITC馬抗マウス-IgG(H+L) 100μL/ウェルを加え、ピペッティングで混合後、室温で45minインキュベートした。
(8)200μL PBSで2回洗浄し、最後にPBS 200μLで細胞を再懸濁させた。
(9)フローサイトメーターでサンプルのFITCチャネルの蛍光強度を検出し、結果を分析した。
【0060】
主な素材と試薬:
ヘルパーファージ KO7,Thermo/Invitrogen,18311019
Streptavidin,Pierce,21125
ビオチン化ヒトCD19,Fcタグ,超高感度(1級アミン標識),ACRObiosystem,CD9-H8259;
ビオチン化ヒトBCMA/TNFRSF17タンパク質,Fcタグ,Aviタグ(AvitagTM),ACRObiosystem,BC7-H82F0;
高結合ELSIAプレート,Costar,#3590
コーニング96ウェルクリア丸底TC処理されたマイクロプレート,Costar,#3799
ブロッキング液:PBS+3% BSA
リンス液:PBS+0.1% Tween20
可溶性一液型TMB基質溶液:Tiangen、PA-107-02
抗M13バクテリオファージコートタンパク質g8p抗体,abcam,ab9225
HRPヤギ抗マウスIgG(最小の交叉反応性)抗体,Biolegend,405306
FITC馬抗マウス-IgG(H+L),Vector,FI2000
【0061】
試験結果:
ファージ抗体プールから濃縮されたモノクローンをランダムに選択し、ファージにパッケージングした後、モノクローンファージのCD19-hFc-Bioタンパク質、BCMA-hFc-Bioタンパク質への結合をファージELISAによって検出し、CD19特異的ファージ抗体クローンを見出した。一部のクローンのELISA結果を図4に示した。コントロール1は、FMC-63(ヒト化マウス抗ヒトCD19ファージ抗体クローン)であり、コントロール2は、非CD19結合scFvファージ抗体クローンであった。図4からわかるように、#1、#4、#62、#78のクローンは、標的抗原CD19(CD19-hFc-Bio)への結合が良好であり、かつ、対照抗原BCMA(BCMA-hFc-Bio)およびストレプトアビジン(Streptavidin)に結合せず、特異性が良好であった。#58および#59のクローンは、標的抗原CD19(CD19-hFc-Bio)、非関連抗原BCMA(BCMA-hFc-Bio)およびストレプトアビジン(Streptavidin)のいずれとも結合せず、陰性クローンであった。#79および#81のクローンは、標的抗原CD19(CD19-hFc-Bio)に結合できるが、対照抗原BCMA(BCMA-hFc-Bio)にも結合できるため、非特異的クローンであった。
【0062】
一部のクローンのFACS予備スクリーニングの結果を図5に示した。矢印で示した#62のクローンはRaji-CD19koに結合しないが、Raji細胞に結合するため、特異的クローンであった。他のクローンは非特異的(2種類の細胞とも結合できる)または陰性クローン(2種類の細胞とも結合しない)であった。ELISA検出とFACS予備スクリーニングによって、合計13つの特異的クローンを得た。
【0063】
実施例4.複数の細胞株を用いるFACSによるモノクローン特異性の同定
試験目的および原理:治療に使用される抗体は、標的抗原のみに結合し、非関連抗原には結合しない標的特異性が非常に優れると要求されている。一方、異なる細胞株上の同一抗原のアミノ酸配列は異なる(異性体または変異体)か、または結合するリガンドが異なることもあるため、抗体がさまざまな標的タンパク質陽性細胞に結合できるか否かを調べる必要がある。これらのモノクローン抗体の特異性と普遍性をさらに分析し、最適な候補クローンを見つけるために、フローサイトメトリーによって予備スクリーニングされたクローンの特異性をさらに評価した。この試験において、複数のCD19陽性細胞株及び複数のCD19陰性細胞株を用いて、これらのモノクローンファージ抗体と反応させ、これらのクローンが異なる細胞株におけるCD19抗原に結合できるがどうか、及びCD19を発現しない他の細胞株に対する任意の非特異的結合を有するかどうかを分析した。この試験により、特異性に優れたクローンをいくつか得た。これらのクローンを、CAR-T形態の構築に使用し、CAR-T機能試験を通じてさらにスクリーニングする。
【0064】
試験方法:FACS予備スクリーニングと同じであった。
主なサンプルおよび試薬:
Raji細胞株、CD19陽性細胞株;
Raji-CD19ko細胞株、CD19陰性細胞株;
JVM2、CD19陽性細胞株;
Jurkat、CD19陰性細胞株;
K562-CD19、CD19陽性細胞株;
K562、CD19陰性細胞株;
他の試薬は、FACS予備スクリーニングと同じであった。
【0065】
試験結果:
治療に使用される抗体は、標的特異性が非常に優れると要求されている。これらのモノクローン抗体の特異性をさらに分析するために、実施例3にて得られた複数のクローンを、より多い細胞株でフローサイトメーターにて同定した。結果を表5および図6に示した。コントロール1は、FMC-63(ヒト化マウス抗ヒトCD19ファージ抗体クローン)であり、コントロール2は、陰性対照ファージ抗体クローンであった。#62および#78のクローンは、3種類のCD19陽性細胞のいずれにも結合でき、中位蛍光強度(MFI)が高く、CD19陰性細胞株のいずれにも結合せず、MFIが低く、特異性が良好であった。一方、#50および#52のクローンは、CD19陽性細胞株Rajiに結合でき、かつ、CD19ノックアウトRaji細胞(Raji-CD19ko)、CD19陰性細胞株JurkatおよびCD19陰性細胞株K562に結合しないが、CD19陽性細胞株JVM-2およびCD19陽性細胞株K562-CD19にも結合しないため、それらの結合は、非特異的結合である可能性があり、試験のニーズを満たしていない。
【0066】
【表5】
【0067】
実施例5.フロー競合法による特異的クローンの結合エピトープの判定
試験目的および原理:
FMC63は最も広く使用されている抗CD19マウスクローンである。当該クローンを使用したCAR-T療法は、印象的な臨床結果が得られた。その原因として、このクローンとCD19抗原との結合エピトープの特性に関連しているかもしれない。本願発明に得られた特異的クローンがFMC63認識とオーバーラップするCD19エピトープを標的とするか否かを確認するために、フロー競合試験を実施した。本試験において、試験されるクローンのファージを異なる濃度勾配のFMC63抗体とプレミックスしてから、陽性標的細胞NALM6に結合し、一次抗体であるマウス抗M13抗体および二次抗体であるFITC馬抗マウス-IgG(H+L)抗体をインキュベートしてFITCの蛍光強度を測定することにより、FMC63抗体が#62ファージおよび#78ファージの陽性標的細胞NALM6への結合に影響を及ぼしたかどうかを判断した上、これら2つのクローンがマウスFMC63に由来したscFvと類似の結合特性を持っているかどうかを判断した。
【0068】
フロー競合試験の基本的な手順:
(1)抗体勾配希釈:FMC63 AbおよびCD22(クローン:M971)を抗体原濃度に基づき400μg/mLに希釈し、そしてそれぞれ40μg/mL、4μg/mL、0.4μg/mL、0.04μg/mL、0.004μg/mLに希釈し、各ウェルに50μLずつの抗体を加えた。
(2)ファージパッケージングおよび希釈:前述したように#62ファージ、#78ファージおよびFMC63ファージに対してKO7感染を行い、パッケージングし、初期力価に基づき4×1010pfu/mL、2×1010pfu/mLという2つの濃度に希釈し、ファージ50μLずつを各ウェルに加え、抗体と均一にプレミックスした。
(3)NALM6細胞をPBSで1回洗浄してから、PBSで6x10/mLに再懸濁し、細胞50μL、プレミックスした抗体ファージ混合液100μLずつを各ウェルに加え、よく混合し、4℃で1時間インキュベートした。
(4)プレートをPBSで2回洗浄し、PBSで1000倍に希釈されたマウス抗M13抗体を100μL/ウェル加え、4℃で0.5時間インキュベートした。
(5)プレートをPBSで2回洗浄し、PBSで100倍に希釈されたFITC 馬抗マウス-IgG(H+L)抗体を100μL/ウェル加え、4℃で0.5時間インキュベートした。
(6)プレートをPBSで2回洗浄し、マシン上でフローした。
(7)FLOWJOソフトウェアで分析し、MFIを計算し、graphpad prismソフトウェアで曲線を描いた。
【0069】
主なサンプルと試薬:
標的細胞NALM6
FMC63 AbおよびCD22(クローン:M971)抗体、IASO BIO自己発現
ヘルパーファージ KO7,Thermo/Invitrogen、18311019
抗M13バクテリオファージコートタンパク質g8p抗体,abcam,ab9225
FITC馬抗マウス-IgG(H+L),Vector,FI2000
【0070】
試験結果:
結果を図7に示した。MFIで描いた曲線によると、FMC63抗体の濃度が高くなると、#62、#78、FMC63ファージは、いずれもMFIが減少し、競合阻害が起こり、かつ用量依存的であるが、CD22(クローン:M971)抗体は、FMC63ファージMFIに対して明らかな影響を与えず、CD19抗原と作用するときに#62、#78、およびFMC63抗体は、結合エピトープがクロスオーバーしており、#62、#78およびFMC63はCD19抗原と類似の結合特性を持っている可能性があると示された。
【0071】
実施例6.レポーター遺伝子法によるCAR分子のスクリーニング
試験目的および原理:
実施例4で得られたこれらの特異的クローンをCAR-Tに構築した後、標的細胞を特異的に認識し、CAR-T細胞を活性化できるかどうかを確認するために、効率的なCAR-Tスクリーニング法、すなわちレポーター遺伝子法を開発した。その原理を図8に示した。CAR-T細胞の活性化は、CAR分子の細胞内ドメインにあるCD3ζと共刺激因子によって達成される。そのうち、CD3ζは、CAR-T細胞の活性化に必要である細胞内のNFATシグナル伝達経路を活性化できる。したがって、NFATレポーター遺伝子法を使用して、NFATシグナル伝達経路を活性化する機能を有するCAR分子をスクリーニングすることができる。本試験では、NFAT-ffLuc(ffLuc、ホタルルシフェラーゼ)レポーター遺伝子と統合されたJurkat細胞をレポーター細胞として使用した。CARをコードする核酸分子を、プラスミドエレクトロポレーションによってレポーター細胞表面に一時的に発現した。CAR分子を発現したレポーター細胞と標的細胞をコンインキュベートした後、標的細胞の表面抗原は、CAR分子を特異的に活性化でき、さらにレポーター遺伝子の発現を活性化することができる。次に、ルシフェラーゼの活性を検出することにより、CAR分子のNFATシグナル伝達経路を活性化する能力を評価することができる。このプラスミドには、トランケートされたEGFR(tEGFR)をコードする配列も含まれ、細胞表面にtEGFRが発現されている場合、CARを成功に発現した細胞をマークすることができる。さらに、異なるCAR分子はエレクトロポレーション中の異なる効率を持っているため、CARをコードする核酸分子とブレンドされた内部参照プラスミド(CMV-hRLuc、レニラルシフェラーゼをコードするもの)を使用してエレクトロポレーション効率を較正した。レンチウイルスをパッケージ化し、T細胞を再感染させてCAR-Tを調製して機能を検出する従来の方法と比較して、本願発明におけるレポーター遺伝子法は簡単な手順で、候補CAR分子の腫瘍細胞を認識する能力と特異性を迅速かつ効率的に初期評価できる。
【0072】
レポーター遺伝子法の概要的な試験ステップ:
(1)試験されるCAR分子をコードするプラスミドと内部参照プラスミドを一定の比率で混合した後、レポーター細胞をエレクトロポレーション法でトランスフェクトした。
(2)トランスフェクトした後48時間、トランスフェクトされたレポーター細胞の一部を採取し、PE-抗ヒトEGFR抗体で染色し、フローサイトメトリーでCAR分子の発現状況を検出した。
(3)トランスフェクトした後72時間、レポーター細胞と標的細胞を1:1の比率で混合した後、それらをそれぞれU底96ウェルプレートに広げ、24時間インキュベートした。各ウェルに3x10レポーター細胞を加え、各標的細胞に3つの複数のウェルを設定した。
(4)インキュベーションが完了したら、1000gで5min、4°Cで遠心分離し、培養上清を除去し、ウェルあたりライセート100μLで細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性検出のためにそこから細胞ライセート20μLを取り出した。
【0073】
主なサンプルと試薬:
標的細胞Raji、JVM2、REH、K562、Raji-CD19ko;
【表6】
エレクトロポレーションキット,Celetrix、Cat.No.1207;
PE-抗ヒトEGFR,BioLegend,Cat.No.352904;
デュアルルシフェラーゼ検出キット、翊聖、11402ES60;
コーニング96ウェルクリア丸底TC処理されたマイクロプレート,Costar,#3799。
【0074】
試験結果:
レポーター遺伝子法により、図8に示す結果を得た。そのうち、Raji、JVM2およびREHは、CD19抗原を発現する陽性標的細胞であり、それらは異なるCD19抗原発現密度を有する(図9に示す)。Raji-CD19koおよびK562は、陰性標的細胞として、表面にCD19抗原を発現しない。PXL092は、FMC63-bbzをコードする陽性参照CAR分子である。57-1、62-1、69-1、70-1は、試験されるCAR分子であり、そのうち、62-1は、上記のNo.62ファージクローンを使用して構築された。表面にCAR分子を発現しているレポーター細胞を単独でインキュベートする(バッファグループ)と、弱いバックグラウンドシグナルを生成する。バックグラウンドシグナルは、レポーター遺伝子の上流プロモーターの効果に由来することもあるし、CAR分子の自発的活性化によって生成されることもある。したがって、バックグラウンドシグナルが高いほど、CAR分子が自発的に活性化する可能性が高くなる。レポーター細胞と陰性標的細胞をコンインキュベートした場合、CAR分子が非特異的に結合しない場合、得られるシグナルはBuffeグループと同じはずである。レポーター細胞と陽性標的細胞をコンインキュベートした場合、CAR分子は、陽性標的細胞の表面抗原によって特異的に活性化されてシグナルを生成し、シグナル強度が抗原密度に関連している。図から示されたように、CAR分子No.62-1は、対照PXL092と近いNFATシグナル伝達経路を活性化する能力を持っており、明らかな非特異的活性化の問題がない。CAR分子No.57-1およびNo.69-1もNFATシグナル伝達経路を活性化できるが、PXL092より劣っている。CAR分子No.70-1は比較的に強いバックグラウンド活性化シグナルを持っており、陽性標的細胞の特異性による能力が弱い。
【0075】
実施例7.CAR-T細胞のインビトロ機能検証
試験目的と原理:
上記のレポーター遺伝子法によって予備スクリーニングして得られた活性化機能を有するCAR分子に対して、CAR-T細胞における機能をさらに確認する必要がある。このために、これらのクローン化されたレンチウイルスベクターを調製し、T細胞に形質導入してCAR-T細胞を調製した。そして、CD107a脱顆粒アッセイ(CD107a degranulation assay)およびインビトロ細胞殺傷アッセイ(invitro cytotoxicity assay)によってCAR-T細胞のインビトロ生物学的有効性評価を行った。これらのCAR-Tレベルの機能検証を通じて、最終的に、下流のCAR-T製品開発に理想的な有効性と安全性を備えた候補一本鎖抗体クローンを選択した。
【0076】
CD107a脱顆粒アッセイ
CD107aは細胞内微小胞のマーカーであり、グランザイムがロードされた微小胞が細胞膜と融合すると、細胞膜上のCD107aが増加し、モネンシン(monesin、BioLegendから購入)を使用してその回収をブロックすると、微小胞放出の強度を定量的に反映できる。CAR-Tが標的細胞上の標的抗原によって刺激されると、グランザイムの放出を引き起こし、フローサイトメトリーによってCD107aの増加を検出することによりT細胞の活性化状況を判断することができる。
【0077】
CD107a脱顆粒の概要的な試験手順:
(1)試験されるCAR-T細胞および標的細胞を300gで、室温で5min遠心分離し、上清を捨て、T細胞培地に1×10細胞/mLに再懸濁した。
(2)24ウェルプレートに試験されるCAR-T細胞500μLと標的細胞500μLを加え、均一に混合した。
(3)各ウェルの細胞にPE/Cy7マウス抗ヒトCD107a抗体5μLおよびmonensin 1μLを加え、細胞インキュベーター(37℃、5%CO)に入れ、3時間インキュベートした。
(4)インキュベーションが完了したら、24ウェルプレートから細胞懸濁液500μLを取り出し、300gで、4℃で5min遠心分離し、上清を捨て、1mLのPBS+1%HSAで細胞を2回洗浄した。
(5)細胞を100μLのPBS+1%HSAで再懸濁し、APC マウス抗ヒトCD8 5μLおよびAlexaFluor 488抗ヒトEGFR抗体5μL(またはFITC-CD19タンパク質)をそれぞれ添加し、均一に混合して、氷上で、20min暗所でインキュベートした。
(6)インキュベーションが完了した後、細胞を1mLのPBS+1%HSAで3回洗浄し、400μLのPBS+1%HSAで再懸濁し、フローサイトメトリーで検出した。
【0078】
主なサンプルと試薬:
標的細胞Raji,REH,NALM6,K562-CD19,K562,Raji-CD19ko,;
Monensin,BioLegend,Cat.No.420701;
PE/Cy7マウス抗ヒトCD107a,BD,Cat.No.561348;
APCマウス抗ヒトCD8,BD,Cat.No.555369;
Alexa Fluor 488抗ヒトEGFR,BioLegend,Cat.No.352908;
FITC-CD19タンパク質,Acro Biosystems,Cat.No.CD9-HF251。
【0079】
試験結果:
レンチウイルス形質導入によってCAR-T細胞を得、当該CAR-T細胞をインビトロで9~12日間培養してCD107a脱顆粒アッセイを行った。試験されるCAR-T細胞、標的細胞、モネンシンおよびCD107a抗体を3時間コンインキュベートし、CAR-T細胞と標的細胞は、細胞密度がいずれも5×10細胞/mLであった。次に、サンプルをCD8抗体、EGFR抗体(またはCD19-FITCタンパク質)で標識した後、フローサイトメトリーを行った。FSC:SSC散布図で生細胞ゲート(P1)を選択して細胞破片を除去した。P1ゲート中の細胞をFSC-H:SSC-A分析した後、単分散細胞ゲート(P2)を選択し、次に、P2ゲートからさらにCD8陽性細胞(P3)を選択し、最後にP3ゲートにおいて、EGFR抗体またはCD19-FITC染色陽性細胞(すなわち、CAR陽性細胞)におけるCD107a陽性の割合を分析した。分析結果は、図11(3回の独立した試験の結果)に示され、#62および#78クローンのCAR-T細胞は、対照CAR-T細胞(FMC63)と近いCD107a脱顆粒機能を持っていることが示唆されている。
【0080】
インビトロ細胞殺傷試験
試験の目的と原理:インビトロ細胞殺傷試験では、CD19陽性標的細胞としてNalm-6、Reh、Jvm-2、Jeko-1、Bv173およびK562-CD19を用い、CD19陰性標的細胞としてK562、Thp-1およびSkm-1細胞を用いて、CD19 CAR-T細胞の抗原特異的殺傷能力を評価した。そのうち、上記の細胞に対して、それぞれレンチウイルス形質導入によって、ホタルルシフェラーゼを安定して発現する標的細胞を得るため、サンプルのルシフェラーゼ活性は標的細胞の数を反映することができる。CAR-T細胞と標的細胞をコンインキュベートし、培養した。標的細胞がCAR-T細胞によって殺傷されると、ルシフェラーゼが放出され、すぐに不活化された(ホタルルシフェラーゼの半減期は約0.5時間である)。一方、標的細胞がCAR-T細胞によって殺傷されたり阻害されたりしない場合、標的細胞が増殖し、ルシフェラーゼが発現し続けるにつれて、より多くのルシフェラーゼが産生される。したがって、ルシフェラーゼの活性に基づいてCAR-Tによる標的細胞の殺傷状況を検出できる。
【0081】
インビトロ細胞殺傷の概要的な試験手順:
(1)上記の細胞を300gで、室温で5min遠心分離し、上清を捨て、T細胞培地に2x10細胞/mLまで再懸濁した。96ウェルプレートの各ウェルに標的細胞100μLずつを加えた。
(2)試験されるCAR-TサンプルのCAR陽性率およびエフェクター細胞と標的細胞の比率に応じて、CAR-T細胞100μLずつを96ウェルプレートの各ウェルに添加し、標的細胞と均一に混合した後、それを二酸化炭素インキュベーターに入れ、24時間インキュベートした。
(3)ルシフェラーゼ検出キットを使用して、各ウェルサンプルのルシフェラーゼ活性をそれぞれ検出した。
【0082】
主なサンプルと試薬:
標的細胞Nalm-6、Reh、Jvm-2、Jeko-1、Bv173、K562-CD19、K562、Thp-1およびSkm-1;
Steady-Gloルシフェラーゼアッセイシステム、Promega,Cat.No.E2520。
【0083】
試験結果:
CAR-T細胞サンプルと一定数の標的細胞(1x10個)をエフェクター細胞と標的細胞の比率(E:T)4:1で混合し、24時間コンインキュベートした後、サンプルのルシフェラーゼ活性(RLU)を検出した。そのうち、コントロールは、標的細胞のみを含む対照サンプルであった。ルシフェラーゼ活性はサンプル中の標的細胞の数を反映できるため、サンプル中のルシフェラーゼ活性の変化に基づいて、標的細胞に対するCAR-T細胞の殺傷/阻害能力を得ることができる。ルシフェラーゼ活性の読み取り値(RLU)が低いほど、より多くの標的細胞が殺傷されたことが示される。
【0084】
図12に示すように、3グループのCAR-T細胞サンプル(#62、#78クローン、および対照FMC63から調製されたCAR-T細胞)は、エフェクター細胞と標的細胞の比率4:1の場合、いずれも、陽性標的細胞を効果的に殺傷ことができる。T細胞と陽性標的細胞をコンインキュベートした場合、明らかな殺傷はなかった。すべてのCAR-TおよびT細胞サンプルは、陰性標的細胞とコンインキュベートされた場合は、明らかな殺傷はなかった。したがって、3グループのCAR-Tサンプルは、いずれもCD19陽性標的細胞を特異的に殺傷することができ、かつCD19陰性標的細胞を非特異的に殺傷しなかった。
【0085】
繰り返し刺激後の殺傷試験
試験目的と原理:
マイトマイシン(Mitomycin)で処理した標的細胞(Raji)を異なるグループのCD19 CAR-T細胞と混合して3回刺激した後、CAR-T細胞と標的細胞をコンインキュベートし、培養して、標的細胞によって繰り返し刺激された後の異なるscFv CAR-Tの殺傷能力が変化するかどうかを確定した。
【0086】
繰り返し刺激した後の殺傷試験の概要的な試験手順:
(1)Raji細胞を4x10取り出し、300g、室温で5分間遠心分離した。
(2)完全培地を密度0.2x10細胞/mLに調整し、Mitomycin母液(5μg/μL)4μLを加えてよく混合し、24時間インキュベートして置いた。
(3)24時間処理したRaji-Mitomycin細胞を300gで遠心分離して培地を交換し、PBSで6回洗浄し、Raji-Mitomycin細胞をCTS培地に再懸濁し、カウントし、密度2x10細胞/mLに調整して置いた。
(4)CAR-T CARの陽性率に従って、1x10CAR+細胞を取り、24ウェルプレートに移した。Raji-Mitomycin細胞50μLをCAR-Tの各ウェルに加え、エフェクター細胞と標的細胞の比率E:T=1:1になるように調整した(エフェクター細胞はCAR+として計算された)。CTS完全培地を最終培養液体積500μLまで補充し、よく混合し、37℃、5%COで72時間培養し、カウントして、標的細胞(Raji)を再びMitomycinで処理し、CAR-T CAR陽性率を検出し、前述したステップを3回繰り返した後、CAR-T CARの陽性率を検出し、陽性標的細胞Nalm-6、Rehおよび陰性標的細胞Thp-1、Skm-1をコンインキュベートして殺傷活性を検出し、そのプロセスはインビトロ細胞殺傷試験と同じであった。
【0087】
試験結果:
図13に示したように、3つのグループのCAR-T細胞サンプル(#62、#78クローンおよび対照FMC63)は、いずれも、陽性標的細胞を効果的に殺傷でき、かつ用量依存的であり、繰り返し刺激後の殺傷強度が#78クローン>対照FMC63>#62クローンであった。T細胞と陽性標的細胞をコンインキュベートした場合、明らかな殺傷はなかった。すべてのCAR-TおよびT細胞サンプルは、陰性標的細胞とコンインキュベートした場合に明らかな殺傷がなかった。したがって、3つのグループのCAR-Tサンプルは、陽性標的細胞で繰り返し刺激された後、いずれも、CD19陽性標的細胞を特異的に殺傷することができ、かつCD19陰性標的細胞を非特異的に殺傷しなかった。
【0088】
実施例8.抗CD19 scFvs親和力測定
試験目的と原理:
CD19scFvsと抗原との間の親和力は、患者体内のCAR-Tの殺傷効果と生存時間に重要な影響を与える可能性があり、この重要な特性を確定するために、ForteBio社のOctet分子相互作用技術を使用して測定した。Octetシステムで使用される生体膜干渉技術は、リアルタイムでハイスループット生体分子相互作用情報を提供するラベルフリー技術である。当該機器はセンサーの表面に白色光を放射し、かつ反射光を収集する。バイオセンサーの光学フィルムの厚さは、異なる周波数の反射スペクトルに影響を与え、一部の周波数の反射光は建設的な干渉(青)を形成し、他の周波数の反射光は相殺的な干渉(赤)を形成する。これらの干渉を、分光計によって検出し、干渉スペクトルを形成し、かつ干渉スペクトルの位相シフト強度(nm)によって表示される。したがって、センサー表面に結合する分子の数が増減すると、分光計で干渉スペクトルの位相シフトは、リアルタイムで検出され、この位相シフトはセンサー表面の生体膜の厚さを直接反映するため、生体分子の相互作用に関する高品質のデータを得ることができ、生体分子間の相互作用の動力学的パラメーターを測定でき(Kon、Kdis、KD)、開発プロセスに重要な情報を提供する。
【0089】
概要的な試験手順を図14に示した。
(1)ローディングバッファー(1×PBS,pH7.4,0.01% BSAおよび0.02% Tween 20)で抗CD19 scFv-rFcsを20μg/mLに希釈し、サンプルをバイオセンサーに約0.8nMロードした。
(2)60sの平衡段階の後、複数の抗原濃度(400~12.5nM)でのCD19抗原の結合動力学をモニターした。各濃度で160秒間結合および300秒間解離まで行った。
(3)10mMグリシン-HCl、pH1.5で3回洗浄して、チップを再生した。
(4)1:1結合部位モデル(Biacore X-100評価ソフトウェア)を使用して結合定数を分析した。
【0090】
試験結果:
親和力とは、単一分子のリガンドへの結合の強さを指す。通常、平衡解離定数(KD)によって測定および報告される。平衡解離定数は、2つの分子間の相互作用の強さを評価およびランキングするために使用される。抗体のその抗原への結合は可逆プロセスであり、結合反応の速度が反応物の濃度に比例する。KD値が小さいほど、抗体の標的に対する親和力が高くなる。図15に示すように、FMC63、#62、および#78はすべてCD19抗原に結合でき、親和力の順番がFMC63>#78>#62であった。
【0091】
実施例9.メンブレンプロテオームアレイ(Membrane Proteome Array)
試験目的と原理:
メンブレンプロテオームアレイ(MPA)は、細胞に基づくハイスループットプラットフォームであり、膜タンパク質に結合する単離抗体やその他のリガンドの標的の同定に用いられる。膜タンパク質は、ヒトゲノムによってコードされるすべてのタンパク質の約4分の1を占め、通常、細胞外に保持することが困難な複雑なコンフォメーション構造に折りたたまれている。MPAの重要な特徴として、膜タンパク質を細胞内で自然な状態で直接発現およびテストできるため、その構造的完全性と自然な翻訳後修飾は維持される。MPAは、これまでに組み立てられた最大の膜タンパク質ライブラリーを利用しており、5,000種類を超えるユニークな膜タンパク質を表している。MPAプラットフォームを通じて、#78の特異的テストを行って、CD19以外の抗原に非特異的に結合するかどうかを検証し、かつオフターゲット効果のリスクを評価した。
【0092】
概要的な試験手順は次のとおりであった。
(1)MPAには約5000種類の異なる膜タンパク質クローンが含まれており、ヒト膜プロテオームの90%以上を占めている。各クローンは、cDNAプラスミドを含むHEK-293T細胞で過剰発現され、当該プラスミドは、384ウェル細胞培養プレートの別々のウェルに独立にトランスフェクトされ、膜タンパク質の発現を保証するために36時間インキュベーションした。
(2)MPAの特異性を測定する前に、陽性(タンパク質A)、陰性(ブランクベクタートランスフェクション)対照を発現するHEK-293T、QT6細胞上でスクリーニングするための#78抗体のテスト濃度を決定し、AlexaFluor 647標識二次抗体を使用し、フローサイトメトリーで検出した。
(3)クローン78抗体を20μg/mLに希釈し、上記の二次抗体を使用してIntellicytiQueでタンパク質ライブラリー全体の結合活性を測定した。プレート間の適合性と再現性を確保するために、各アレイプレートにはいずれも陽性および陰性対照が含まれている。
(4)#78抗体を段階希釈した後、2回目のフローサイトメトリー試験により、MPAスクリーニングによって決定された各標的が再現性よく結合できるかどうか、および用量依存性であるかどうかを確認し、シークエンシングによって標的の同一性を再確認した。
【0093】
主なサンプルと試薬:
細胞株:HEK-293T,Q6T
Alexa Fluor標的同一性AffiniPure F(ab’)断片ヤギ抗ウサギIgG,Fc断片特異的,Jackson ImmunoResearch,111-606-046
ヤギ血清,Sigma,G6767
【0094】
試験結果:
図16に示したように、試験の予備スクリーニング段階では、#78抗体は5000種類を超える膜タンパク質のほとんどに非特異的に結合しなかったが、SDC1、Frizzled 4、およびHTR5Aを高く発現するHEK-293T細胞への結合が観察された。この結合は再現性があるかどうかを確認するために、#78抗体の濃度勾配希釈を実行し、試験を繰り返した。試験結果は、#78抗体がCD19と陽性対照(タンパク質A)を高く発現するHEK-293T細胞に結合でき、かつ結合の平均蛍光強度が用量依存的であることを示した。検証試験において、#78抗体は、どの濃度でもSDC1、Frizzled 4およびTR5Aを高く発現するHEK-293T細胞に結合しなかった。これは、#78抗体が優れた特異性を持ち、患者体内のオフターゲットのリスクが少なく、安全性が良いであることを証明した。
【0095】
本発明は、抗体スクリーニングに完全ヒトファージを使用し、完全ヒトモノクローン抗体を直接得た。従来のハイブリドーマ技術と比較して、マウス抗体のヒト化という難しいステップが省略され、完全ヒト抗体は、ヒト化マウス抗体に比べて免疫原性が低くなり、抗体薬やCAR-Tアプリケーションでより良い展望がある。
【0096】
抗体スクリーニングの過程で、組換え発現されたCD19タンパク質を直接使用してスクリーニングされた抗体クローンは、いずれも、CD19を高度に発現する細胞株Rajiに結合できないことを発見した。これは、組換え発現されたCD19タンパク質抗原と細胞膜表面上の天然状態のCD19との間のコンフォメーションおよびアクセス可能なエピトープの大きな違いによって引き起こされる可能性がある。この問題を克服するために、CRISP技術を使用してCD19遺伝子ノックアウトされたRaji-CD19ko細胞株を調製した。タンパク質/細胞株交互パニング法を用いて、組換え発現されたCD19タンパク質とRaji細胞に同時に結合できるファージ抗体を濃縮し、細胞膜表面のCD19抗原に特異的に結合できるモノクローン抗体をスクリーニングした。
【0097】
開発プロセスでは、ファージレベルの抗体スクリーニング/特異性同定を通じて、特異的抗体クローンを迅速かつ効率的にスクリーニングし、CAR-T機能テストに直接接続して最適な候補抗体を選択できた。このプロセスは、時間のかかる面倒な抗体タンパク質の発現と機能の同定試験をスキップし、CAR-T開発のための抗体スクリーニングプロセスを最適化した。これにより、研究の質を確保しながら研究開発の効率が向上した。
【0098】
参考文献:-
1. Albert T. Gacerez1, Benjamine Arellano1, and Charles L. Sentman, How chimeric antigen receptor design affects adoptive T cell therapy, Cell Physiol. 2016 December ; 231(12): 2590-2598. doi:10.1002/jcp.25419
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