(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】アニソマイシン誘導体、アニソマイシン及びその誘導体をGLP-1R作動薬としての使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/40 20060101AFI20241007BHJP
A61K 31/155 20060101ALI20241007BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241007BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20241007BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
A61K31/40
A61K31/155
A61K45/00
A61P3/10
A61P43/00 105
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2023544598
(86)(22)【出願日】2021-05-27
(86)【国際出願番号】 CN2021096473
(87)【国際公開番号】W WO2022160530
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-08-22
(31)【優先権主張番号】202110103556.3
(32)【優先日】2021-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518383024
【氏名又は名称】山西医科大学
【氏名又は名称原語表記】SHANXI MEDICAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.56 Xinjian South Road Taiyuan, Shanxi 030001 China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】章 毅
(72)【発明者】
【氏名】薛 歓
(72)【発明者】
【氏名】張 敏
(72)【発明者】
【氏名】路 志紅
(72)【発明者】
【氏名】支 淋萍
(72)【発明者】
【氏名】温 芝潼
(72)【発明者】
【氏名】崔 麗娟
(72)【発明者】
【氏名】白 涛
(72)【発明者】
【氏名】劉 云峰
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-089659(JP,A)
【文献】特開平07-196607(JP,A)
【文献】Syntheses and biological evaluation of 1-heteroaryl-2-aryl- 1H-benzimidazole derivatives as c-Jun N-terminal kinase inhibitors with neuroprotective effects,Bioorganic & Medicinal Chemistry,2013年,21,pp.2271-2285,http://dx.doi.org/10.1016/j.bmc.2013.02.021
【文献】Paracrine neuroprotective effect of nitric oxide in the developing retina,Journal of Neurochemistry,2001年,76,pp.1233-1241
【文献】Astragaloside IV as Potential Antioxidant Against Diabetic Ketoacidosis in Juvenile Mice Through Activating JNK/Nrf2 Signaling Pathway,Archives of Medical Research,2020年,51,pp.654-663,https://doi.org/10.1016/j.arcmed.2020.06.013
【文献】Systems Approach to Pathogenic Mechanism of Type2 Diabetes and Drug Discovery Design Based on Deep Learning and Drug Design Specifcations,Int.J.Mol.Sci.,2020年12月26日,22,166,pp.1-33,https://doi.org/10.3390/ijms22010166
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 3/00- 3/14
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GLP-1R作動薬であって、アニソマイシン、化合物1、化合物2またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有し、
Ra及びRbは独立に、C1-C6アルキル、及びC6-C20アリールから選ばれることを特徴とするGLP-1R作動薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学の技術分野に属し、具体的には、アニソマイシン誘導体、アニソマイシン及びその誘導体をGLP-1R作動薬としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
グルカゴン様ペプチド-1(glucagon-likepeptide-1、GLP-1)は、消化管内のL細胞によって分泌され、グルコース及びその他の栄養素を摂取した後に血糖降下効果を発揮する。GLP-1の生理学的効果に関する研究では、β細胞のインスリン分泌を促進するだけでなく、α細胞に作用することでグルカゴンの分泌を低減させ、それによってグリコーゲンの生産量を減少させ、中枢神経系や胃に作用して食欲を抑制し、胃内容排出を遅らせることによって、β細胞負荷が軽減することなどができる。しかし、GLP-1は生体内でジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)によって急速に分解されるため、その作用の持続時間が制限される。したがって、現在、血糖コントロールを改善するためのGLP-1ベースの方法には、外因性GLP-1作用を模擬し、内因性GLP-1の活性を延長する薬物が含まれる。GLP-1受容体作動薬はこれに基づいて血糖降下効果を発揮する。
【0003】
これまでのところ、2型糖尿病(T2DM)の治療に臨床で使用されているインスリンやスルホニル尿素などの従来の薬剤は、高血糖を効果的に軽減できるが、血糖を正常範囲に制御した後も血糖降下作用を発揮し続けることができ、T2DM患者に低血糖のリスクをもたらす。研究によると、GLP-1受容体作動薬は、GLP-1受容体(GLP-1R)を介してグルコース濃度依存的にインスリン分泌を刺激することは、他の血糖降下薬に対するGLP-1受容体作動薬の最大の利点であり、低血糖のリスクが避けられる。さらに、GLP-1受容体作動薬には、体重減少、心血管のベネフィット、アルツハイマー病や脂肪肝の改善など、血糖降下以外にもいくつかの効果がある。
【0004】
インクレチンは、食物刺激に応答して腸管細胞から分泌されるホルモンとして、食事に対するインスリンの反応を調節することができ、また、そのインスリン分泌促進作用は食後の総インスリン分泌量の約60%を占め、血糖値の調節に重要な役割を果たしている。GLP-1とグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)は2つの主要なインクレチンである。そのうち前者の分泌は、2型糖尿病患者(ひいては耐糖能異常患者)では著しく減少するため、重要な治療ターゲットとなっている。GLP-1の生理的作用に関する研究では、β細胞の反応を増強させるだけでなく、α細胞に作用してグルカゴンの分泌を低下させ、それによってグリコーゲンの生産量を減少させ、摂食中枢や胃に作用して食欲を抑制し、胃内容排出を遅らせることによって、β細胞負荷を軽減することなどができる。しかし、GLP-1は生体内でジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)によって急速に分解されるため、その作用時間は制限される。したがって、現在、血糖コントロールを改善するためのGLP-1ベースの方法には、外因性GLP-1作用を模擬し、内因性GLP-1の活性を延長する薬物が含まれる。GLP-1受容体作動薬はこれに基づいて血糖降下作用を発揮する。
【0005】
GLP-1(7-36)アミドはGLP-1の主な活性形態として、GLP-1(7-36)アミドが血液循環に入ると、血液及び細胞膜上のジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-IV)によって急速に不活性型GLP-1(9-36)に分解され、その半減期はわずか1~2minであるため、2型糖尿病(T2DM)の長期治療には適さない。さらに、科学的な研究では、半減期を延長し、生体内での生物学的効果を延長するために、GLP-1の構造に対応する改造と修飾が行われている。糖尿病は、インスリン分泌(相対的または絶対的)不足またはインスリン作用障害による高血糖を特徴とする慢性疾患である。2型糖尿病は時間の経過とともに病状が悪化する進行性の疾患であり、通常の薬物治療を行っても長期間にわたって血糖を良好にコントロールすることは困難である。メトホルミン、スルホニル尿素、またはインスリン単剤で治療しても、糖化ヘモグロビン(HbA1c)の目標を継続的に達成することは困難である。その理由を探ると、β細胞の機能の進行的な減退と関係している。また、GLP-1は、生体内でのインスリン合成を増加させ、β細胞の増殖と分化を促進し、β細胞のアポトーシスを抑制することができ、これらの特性は糖尿病の逆転または予防に役立つ可能性がある。
【0006】
糖尿病の治療または予防のための従来技術で知られているGLP-1R作動薬は、一般的に、リキシセナチド、リラグルチド、及びエクセナチドなどの高分子ポリペプチドであるが、これらは合成及び調製が難しく、コストが高く、注射による投与が必要なため患者のコンプライアンスが悪いが、小分子GLP-1R作動薬の開発は患者のコンプライアンス、投薬の利便性を改善し、薬剤コストを削減するという点で、幅広い臨床市場の見通しを持っている。したがって、小分子構造に基づくGLP-1R作動薬の開発は、非常に重要な研究意義とビジネス価値がある。
【0007】
アニソマイシン(Anisomycin)の化学構造は次のとおりである。
【0008】
CAS番号:22862-76-6、分子量:265.30、化学名は(2R,3S,4S)-2-[(4-メトキシフェニル)メチル]-3,4-ピロリジンジオール3-酢酸メチルエステルであり、Streptomyces griseusから単離されたピロリジン系抗生物質である。アニソマイシンはタンパク質合成阻害剤であり、一部の真菌や病原体に対して優れた阻害効果を持ち、トリコモナスによる膣炎やアメーバなどによる赤痢の治療に臨床で使用され成功している。また、植物の真菌性疾患の防除にも広く使用されている。この研究では、アニソマイシンがTリンパ球の反応性を明らかに抑制することができ、細胞毒性の現象は見られないことがわかった。アニソマイシンは、マウス皮膚移植の拒絶反応を抑制する効果があり、免疫抑制剤であるシクロスポリンAよりも免疫抑制効果が高く、毒性が低いため、自己免疫疾患を治療するための免疫抑制剤の開発に試行可能である。さらに、アニソマイシンはp38MAPK及びJNKを活性化することができ、p38及びJNKシグナル伝達経路は細胞の増殖と分化、アポトーシスなどのさまざまな細胞活動に関与し、アニソマイシンには潜在的な抗腫瘍活性があり、抗腫瘍薬の開発に使用できることが示唆されている。発明者は、アニソマイシンがGLP-1Rを作動させる効果を有し、インスリン分泌の促進、血糖降下、糖尿病の治療などGLP-1R作動薬として医療に使用できること、およびGLP-1R作動薬としての他の効果を有することを予想外に発見した。アニソマイシン及びその誘導体がGLP-1Rを作動させる作用があることはこれまで報告されていない。
【発明の概要】
【0009】
GLP-1R受容体作動薬はすべて高分子ポリペプチドであるため、その合成及び応用に不利である従来技術の欠点を克服するために、本発明は、GLP-1R作動薬の調製におけるアニソマイシンの使用を提供する。
【0010】
本発明の目的は、以下の技術的解決策によって実現される。
【0011】
一般式(I)で表されるアニソマイシン誘導体またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物及び立体異性体である。
【0012】
R1は、水素、任意に置換されたC1-6アルキル、-C(O)R4から選ばれ;R2は、水素、任意に置換されたC1-6アルキル、任意に置換されたC1-6アルコキシ、-NH-R4から選ばれ;R3は、水素、任意に置換されたC1-6アルキル、任意に置換されたC1-6アルキル、任意に置換されたC6-12アリール、任意に置換されたヘテロアリール、-C(O)R4から選ばれ;R4は、H、任意に置換されたC1-6アルキル、任意に置換されたC1-6アルコキシから選ばれ;R5、R6、R7、R8は独立して、ハロゲン原子、ニトロ、-COOR9、CONHR9、任意に置換されたC1-6アルキル、任意に置換されたC1-6アルコキシから選ばれ;R9は、H、任意に置換されたC1-6アルキルから選ばれ;一般式(I)の化合物がアニソマイシンではないことが条件である。
【0013】
好ましくは、本発明により提供されるアニソマイシン誘導体は、以下の化合物1及び化合物2である。
【0014】
Ra、Rbは、任意に置換されたC1-C6アルキル、C1-6アルコキシ、C6-C20アリールから独立に選ばれる。
【0015】
前記C1-C6アルキルは、メチル、エチル、プロピル、ブチルから選ばれ、C6-20アリールはフェニル、ナフチル、アントラセニルから選ばれ、前記任意の置換とは、任意のH原子がヒドロキシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、C1-4アルキル基、またはC1-4アルコキシ基で置換されることを意味する。
【0016】
GLP-1R作動薬であって、アニソマイシン、式(1)に表されるアニソマイシン誘導体、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、立体異性体の少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする。
【0017】
前記誘導体には、アニソマイシンを母体としていくつかの基置換または反応して得られた生成物、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、アリール基またはヘテロアリール基で置換されたもの、または反応性官能基を有する他の物質と反応することにより得られる生成物、例えば、エステル化、エーテル化、アミド化、エステル交換などの反応生成物、またはその塩、例えば第四級アンモニウム塩、あるいはその重水素化誘導体を含み、重水素化水素は特に限定されないが、アミン基上の水素や水酸基上の水素などの活性水素が好ましい。
【0018】
GLP-1R作動薬の調製におけるアニスマイシン、式(I)で表されるアニスマイシン誘導体またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、立体異性体の少なくとも1種の使用。
【0019】
さらに、本発明は、GLP-1Rが媒介する疾患を治療する薬剤の調製におけるアニソマイシン、式(I)で表されるアニソマイシン誘導体、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、及び立体異性体の少なくとも1種の使用を提供する。
【0020】
前記GLP-1Rが媒介する疾患としては、肥満、糖尿病、体重減少、収縮圧低下、てんかん、脳虚血性疾患、アルツハイマー病、脂肪肝、脂質異常症の改善、及び神経保護などが含まれるが、これらに限定されない。
【0021】
本発明はまた、糖尿病、脂質異常症、メタボリックシンドローム、高インスリン血症、夜間低血糖、肥満、体重減少、収縮圧の低下アルツハイマー病の改善、脂肪肝、神経保護の治療薬を調製するためのアニソマイシン、式(I)で表されるアニソマイシン誘導体、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、及び立体異性体の少なくとも1種の使用を提供する。
【0022】
好ましくは、前記糖尿病は2型糖尿病から選ばれる。
【0023】
本発明者は、アニソマイシン及びその誘導体がGLP-1R作動薬としての作用を有し、糖尿病の治療薬として使用できることを予想外に発見した。GLP-1受容体(GLP-1R)を介してグルコース濃度依存的にインスリン分泌を刺激し、つまり、インスリン分泌の促進作用は特定の血糖濃度では発揮し、より低い血糖濃度では発揮しない。そのため、糖尿病の治療と同時に低血糖も避けられる。これが、通常の薬剤と比べ、糖尿病治療薬としてのGLP-1R作動薬の利点である。
【0024】
さらに、本発明は、アニソマイシン、式(I)で表されるアニソマイシン誘導体、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、立体異性体の少なくとも1種を有効成分とするGLP-GLP1R作動薬を提供し、有効量が0.5-50mg/kgで、好ましくは、有効量は5-30mg/kgである。
【0025】
本発明はまた、アニソマイシン、式(I)で表されるアニソマイシン誘導体、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、立体異性体の少なくとも1種を有効成分として含有するGLP-1R作動薬活性を有する医薬組成物を提供する。
【0026】
さらに、本発明はアニソマイシン、式(I)で表されるアニソマイシン誘導体、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、立体異性体の少なくとも1種を有効成分として含有する糖尿病の治療または予防のための医薬組成物を提供する。
【0027】
前記医薬組成物はさらに、メトホルミン、SGLT-2阻害剤など及び補助物質を含むことができる。
【0028】
前記医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、注射剤などの当該技術分野で周知の剤形で使用される。
【0029】
特に、本発明は、血中のグルコースレベルを低下させる方法を提供し、具体的にはアニソマイシンまたはその誘導体、塩、及び溶媒和物の少なくとも1種の有効用量を投与する。
【0030】
本発明のアニソマイシン及びその誘導体のGLP-1R作動薬効果は血糖濃度依存性があるため、本発明の上記方法は、糖尿病の治療又は予防のみならず、低血糖の発生を効果的に軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】ラットのインスリン分泌に対するアニソマイシンの影響である。
【
図2】ラットのインスリン分泌に対する異なる用量のアニソマイシンの影響である。
【
図3】異なるグルコース濃度下でのラットのインスリン分泌に対するアニソマイシンの影響である。
【
図4】GLP-1RブロッカーExendin(9-39)の存在下または非存在下でのラットのインスリン分泌に対するアニソマイシンの影響である。
【
図5】アニソマイシンとGLP-1Rの親和性のForteBio Octet分子相互作用検出である。
【
図6】Aは経口グルコース負荷試験における血糖値の経時変化であり;Bは血糖曲線下面積である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
調製例
アニソマイシンを原料として、以下の合成ルートに従ってさまざまなアニソマイシン誘導体を得た。
【0033】
実施例1
以下、本発明で使用される材料及び方法を説明する。
【0034】
1.1実験動物
体重180~250gの雄のWistarラットを山西省人民病院の実験動物センターから購入し、20~22℃の温度で飼育し、標準的なげっ歯類の餌と飲料水を備えている。すべての操作手順は、山西医科大学の実験動物の管理及び使用ガイドラインに適合している。
【0035】
【0036】
【0037】
3.ラット膵島組織の単離及び培養は、当業者の通常の実験操作である。
【0038】
4.データ処理と統計
関連するデータはSigmaPlot12.5ソフトウェアで処理され、±SEMで表される。Student’st‐test、one‐way ANOVAまたはpairedt‐testを用いて統計分析を行い、p<0.05の場合に統計学的意義があると考えられる。
【0039】
具体的な操作
5.1ラットのインスリン分泌に対するアニソマイシンの影響
【0040】
実験前の準備:1)実験は4群に分けられ、Ep(エッペンドルフ)チューブに番号を付け(各群に7個)、2)KRBH溶液を調製し、インキュベーター内で30分間インキュベートし、NaOHでpHを7.4まで調整し、3)テストするサンプルの2.8mmol/Lグルコース溶液(2.8G)、2.8G+10μMアニソマイシン、11.1mmol/Lグルコース溶液(11.1G)、11.1G+10μMアニソマイシンを調製する。
【0041】
実験手順:1)各Epチューブに500μLの2.8Gを加え、実体顕微鏡下で5個の膵島(均一なサイズで、滑らかなエッジ)をEpチューブに採取し、インキュベーター内に30分間インキュベートし、2)膵島を吸い取らないようにピペットガンを使用して上澄み液を吸引して廃棄し、その後500μL2.8G、2.8G+10μMアニソマイシン、11.1G、11.1G+10μMアニソマイシンを各群に順番に加え、インキュベーター内で30分間インキュベートし、3)ピペットガンを使用して上澄み液をあらかじめマークされたEpチューブに吸い出し、よく混合し、密封し、4°Cで保存する。インスリン放射免疫により各群のインスリン含有量を測定する。
【0042】
実験結果を
図1に示すように、ラットのインスリン分泌に対するアニソマイシンの影響としては、+アニソマイシンはアニソマイシンを一定量添加することを意味し、以下の図も同様の意味を示す。ラット膵島を、それぞれ低グルコース(2.8G)及び高グルコース(11.1G)下でアニソマイシン(10μM)でインキュベートする。n=7.***P<0.001である。基礎グルコース濃度(2.8G)下では、アニソマイシンはインスリン分泌の促進に役割を果たさなかった。高グルコース濃度(11.1G)では、アニソマイシンによるインスリン分泌促進作用が顕著である促進効果。これは、アニソマイシンが高血糖下でインスリン分泌を促進することを示している。
【0043】
5.2ラットのインスリン分泌に対する異なる用量のアニソマイシンの影響
【0044】
実験前の準備:1)実験は4群に分けられ、Ep(エッペンドルフ)チューブに番号を付け(各群に7個)、2)テストするサンプルの2.8mmol/Lグルコース溶液(2.8G)、11.1mmol/Lグルコース溶液(11.1G)、11.1G+0.1μMアニソマイシン、11.1G+1μMアニソマイシン、11.1G+10μMアニソマイシンを調製する。
【0045】
実験手順:1)2.8Gで30分間プレインキュベーションし、2)Epチューブを取り出し、上澄み液を捨て、500μL11.1G、11.1G+0.1μMアニソマイシン、11.1G+1μMアニソマイシン、11.1G+10μMアニソマイシンを各群に順番に加え、インキュベーター内で30分間インキュベートし、3)上澄み液をあらかじめマークされたEpチューブに吸い出し、よく混合し、密封し、4°Cで保存する。インスリン放射免疫により各群のインスリン含有量を測定する。
【0046】
実験結果を
図2に示すように、ラットのインスリン分泌に対する異なる用量のアニソマイシンの影響である。ラット膵島を、11.1mmol/Lグルコース(11.1G)の濃度で異なる濃度のアニソマイシン(0.1μM、1μM、10μM)でインキュベートした。n=7.*P<0.05;***P<0.001である。11.1mmol/Lグルコース(11.1G)単独の投与と比較し、アニソマイシン濃度の増加に伴い、アニソマイシンのインスリン促進効果は徐々に強化され、さらにアニソマイシンの濃度が1μM及び10μMである場合、顕著なインスリン分泌促進効果が見られた。したがって、アニソマイシンは、高グルコース(11.1G)において濃度依存的なインスリン分泌促進効果を示す。
【0047】
5.3異なるグルコース濃度下でのラット島におけるインスリン分泌に対するアニソマイシンの影響
【0048】
実験前の準備:1)実験は3群に分けられ、Ep(エッペンドルフ)チューブに番号を付け(各群に7個)、3)テストするサンプルの2.8mmol/Lグルコース溶液(2.8G)、2.8G+10μMアニソマイシン、11.1mmol/Lグルコース溶液(11.1G)、11.1G+10μMアニソマイシン、16.7mmol/Lグルコース溶液(16.7G)、16.7G+10μMアニソマイシンを調製する。
【0049】
実験手順:1)2.8Gで30分間プレインキュベーションし、2)Epチューブを取り出し、上澄み液を捨て、500μLの2.8G、11.1G、16.7Gを各群に順番に加え、インキュベーター内で30分間インキュベートし、3)上澄み液をあらかじめマークされたEpチューブに吸引し、よく混合し、密封して4°Cで保存し、前回の投薬順に500μLの2.8G+10μMアニソマイシン、11.1G+10μMアニスマイシン、16.7G+10μMアニソマイシンを加え、インキュベーター内で30分間インキュベートし、4)Epチューブを取り出し、上澄み液を番号の付いたEpチューブに吸い出し、よく混ぜて密閉し、4℃で保存する。インスリ(INS)ン放射免疫により各群のインスリン含有量を測定する。
【0050】
実験結果を
図3に示すように、異なるグルコース濃度下でのラットのインスリン分泌に対するアニソマイシンの効果である。ラット島を、2.8mmol/Lグルコース溶液(2.8G)、11.1mmol/Lグルコース溶液(11.1G)及び16.7mmol/Lグルコース溶液(16.7G)の濃度で、10μMアニソマイシンでインキュベートし、n=7,*p<0.5,**p<0.01,***p<0.001である。基礎グルコース濃度(2.8G)では、アニソマイシンにはインスリン促進効果がないが、11.1mmol/Lグルコース溶液(11.1G)の濃度では、アニソマイシンはインスリン分泌を顕著に促進した。グルコース濃度の増加に伴い、16.7mmol/Lグルコース溶液(16.7G)の濃度では、アニソマイシンはインスリン分泌をさらに促進することができ、かつ有意な差が見られる。したがって、アニソマイシンはグルコース濃度依存的なインスリン促進効果を示す。アニソマイシンは血糖濃度に依存するため、糖尿病の治療または予防時に低血糖の発生を回避できることも説明できる。
【0051】
実施例2ラットにおけるインスリン分泌のアニソマイシン調節におけるGLP-1Rの役割
【0052】
【0053】
【0054】
2.1アニソマイシンによるインスリン分泌の調節におけるGLP-1Rの役割
【0055】
実験前の準備:1)実験は4群に分けられ、Ep(エッペンドルフ)チューブに番号を付け(各群に7個)、2)テストするサンプルの2.8mmol/Lグルコース溶液(2.8G)、11.1mmol/Lグルコース溶液(11.1G)、11.1G+100nMExendin(9-39)、11.1G+10μMアニソマイシン、11.1G+100nMExendin(9-39)+10μMアニソマイシンを調製する。
【0056】
実験手順:1)2.8Gで30分間プレインキュベーションを行い、2)Epチューブを取り出し、上澄み液を捨て、500μL11.1G、11.1G+0.1μMアニソマイシン、11.1G+1μMアニソマイシン、11.1G+10μMアニソマイシンを各群に順番に加え、インキュベーター内で30分間インキュベートし、3)ピペットガンを使用して上澄み液をあらかじめマークされたEpチューブに吸い出し、よく混合し、密封し、4°Cで保存する。インスリン放射免疫により各群のインスリン含有量を測定する。
【0057】
実験結果は
図4に示すように、アニソマイシンによるインスリン分泌の調節におけるGLP-1Rの役割を示している。ラット膵島を、11.1mmol/Lグルコース溶液(11.1G)の濃度で10μMアニソマイシン及び100nMエキセンジン(9-39)でインキュベートし、n=7,**p<0.01,***p<0.001である。Exendin(9-39)は、GLP-1Rに対するGLP-1R作動薬の作動薬効果をブロックできる、特異的な競合的GLP-1Rアンタゴニストである。11.1mmol/Lグルコース溶液(11.1G)の濃度では、Exendin(9-39)がアニソマイシンのインスリン促進効果を遮断し、アニソマイシンのインスリン促進効果がGLP-1Rの刺激に関連していることが示された。
【0058】
2.2アニソマイシンとGLP-1Rの親和性のForteBio Octet分子相互作用検出
【0059】
無細胞GLP-1Rタンパク質の発現:1)ラットGLP-1Rベクターを構築する。ラットGLP-1Rの配列断片をPCR増幅技術により取得し、GLP-1Rラット遺伝子断片をアガロースゲルにより回収し、標的遺伝子GLP-1RをベクターpEX-3にクローニングし、EcoRI和BamHI二重酵素切断であるpEX-3を用いて、電気泳動し、ベクターpEX-3を回収し、ClonExpressREntryOneStepCloningKitを使用して、増幅されたフラグメントをpEX-3ベクターに組換えクローニングする。組換えライゲーション産物をコンピテントセルに変換し、クローン化されたコロニーを選択し、少量抽出してプラスミドを取得し、EcoRI及びBamHI二重酵素切断で同定し、電気泳動を行い、陽性クローンを選択する。組換えプラスミドの配列を決定して検証した後、大量の抽出を実施し、陽性クローンを取り、組換えプラスミドの配列測定検証後に大量抽出を行い、陽性クローンに対応する菌液の配列測定を行い、残りの菌液はグリセリンで保存した。配列決定結果を標的遺伝子配列と比較し、検証が正しければ、グリセロール細菌溶液をLB培地に接種し、大量のプラスミドを抽出し、十分な量の組換えプラスミドを取得し、2)無細胞GLP-1Rタンパク質の発現:Hangzhou Jin Ao Bioscience Co., Ltd.Z1ハイフィディリティDNAポリメラーゼG-POL-001またはZ2ウルトラフィディリティDNAポリメラーゼG-POL-002を使用して標的遺伝子を増幅し、タンパク質発現の成功率を向上させるために、それぞれ大腸菌透析型無細胞タンパク質発現系、TOB透析型無細胞タンパク質発現系、酵母透析型無細胞タンパク質発現系を用いて発現し、最終的に発現結果をSDS-PAGEで観察する。
【0060】
GLP-1Rタンパク質の精製と濃縮:1)Histrapカラムを使用して標的タンパク質を精製し、2)精製サンプルを取得し、SDS-PAGEを実行して精製結果を観察する。
【0061】
ForteBio Octet分子相互作用の実験手順:1)モル比1:1により、GLP-1Rタンパク質をビオチン化し、適量のビオチン化試薬を加え、30℃のウォーターバス中で2時間反応させ、反応後、重力脱塩カラムを用いて余分なビオチンを除去し、PBSで溶出し、SSAチップの固化に使われ、2)化合物をDMSOで溶解し、完全に溶解した後、PBSTで100倍に希釈し、その後の検出のために1%DMSO+PBSTで21.2μM、42.4μM、84.8μM、169.5μM、339μMにそれぞれ希釈し、3)上記のサンプルと試薬をサンプルプレートに順番に加え、4)プログラムを設定し、テストを実行する。
【0062】
Konは分子間の結合の速度を表す結合速度定数であり、Koffは分子間の解離速度を表す解離速度定数であり、Kdは解離定数であり、標的に対する化合物の親和性を反映し、値が小さいほど親和性が強くなる(Kd=Koff/Kon)。低分子(<2kDa)に対し、Kd値は10-4~10-7Mにあれば、強い親和性を示す。結果を
図5に示すように、ForteBio Octet分子相互作用の結果は、アニソマイシンKd=2.41×10-04Mを示し、アニソマイシンがGLP-1Rと強い親和性を有することを示している。
【0063】
実施例1及び実施例2のデータから、アニソマイシンはより高い血糖濃度で効果的にインスリン分泌を促進することができ、一定の血糖濃度依存性を有することがわかった。さらに、GLP-1Rアンタゴニストの作用下では、インスリン分泌促進効果が低下または消失することから、GLP-1Rがアニソマイシンのインスリン分泌促進効果を媒介していることが示された。本発明はまた、ForteBio Octet分子相互作用検出を通じて、アニソマイシンとGLP-1Rとの間に明らかな相互作用及び強い親和性が存在することを証明した。上記のデータは、アニソマイシンが有効な小分子GLP-1R作動薬であることを十分に説明できる。
【0064】
実施例3C57BL/6マウスにおける血糖に対するアニソマイシンの影響
【0065】
1.材料と方法
1.1実験動物
体重18~22gの雄C57BL/6マウスは山西省人民病院の実験動物センターから購入し、飼育温度が20~22℃であり、標準的なげっ歯類の餌と飲料水を備えている。すべての操作手順は、山西医科大学の実験動物の管理及び使用ガイドラインに適合している。
【0066】
【0067】
【0068】
1.4データ処理と統計
関連するデータはSigmaPlot12.5ソフトウェアで処理され、±SEMで表される。Student’st‐test、one‐way ANOVAまたはpairedt‐testを用いて統計分析を行い、p<0.05の場合に統計学的意義があると考えられる。
【0069】
2実験結果
2.1経口グルコース負荷試験(OGTT)
薬剤の調製:アニソマイシンをDMSOに溶解し、次にPEG200を添加し、最後に生理食塩水で希釈する(DMSO:PEG200:生理食塩水=1:4:5)。
【0070】
SPFグレードの6週齢C57BL/6マウス21匹を1週間適応的に飼育したら、ランダムに以下の3群に分ける。対照群:溶媒の腹腔内注射(DMSO:PEG200:生理食塩水=1:4:5)、5mg/kgアニソマイシン群:5mg/kgアニソマイシン溶液の腹腔内注射、15mg/kg群アニソマイシン:アニソマイシン溶液15mg/kgの腹腔内注射、投与体積は0.1ml/10gで、各群7匹で、自由に飲み食いさせる。実験前に各群のマウスは12時間断食して水を禁止せず、実験当日、各群のマウスは投与後40%グルコース溶液(2mg/kg)を胃内注入し、胃内注入後0min、15min、30min、60min、90min、120minで尾静脈採血を行い、血糖値を血糖計で測定し、血糖曲線下面積(AUC)を算出する。
【0071】
実験結果は
図6に示すように、Aは経口グルコース耐量試験(OGTT)血糖の経時変化グラフを示し、Bは血糖曲線下面積図である。アニスマイシン投与群は、対照群と比較してグルコース経口投与後、糖負荷への耐性が異なる程度に向上し、そのうち15mg/kgアニスマイシンは5mg/kgアニスマイシンよりも降糖効果が顕著であることがわかる(n=7,*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001)。
【0072】
実施例4ラットにおけるインスリン分泌に対するアニソマイシン誘導体の影響
化合物1-1、1-2、2-1、2-2は調製例で調整した。
【0073】
実験前の準備:1)実験は4群に分けられ、Ep(エッペンドルフ)チューブに番号を付け(各群に7個)、2)KRBH溶液を調製し、インキュベーター内で30分間インキュベートし、NaOHでpHを7.4に調整し、3)テストするサンプルの2.8mmol/Lグルコース溶液(2.8G)、2.8G+10μM化合物1-1、2.8+10μM化合物1-2、2.8G+10μM化合物2-1、2.8G+10μM化合物2-2、11.1mmol/Lグルコース溶液(11.1G)、11.1G+10μM化合物1-1、11.1G+10μM化合物1-2、11.1G+10μM化合物2-1、11.1G+10μM化合物2-2を調製する。
【0074】
実験手順:1)各Epチューブに500μLの2.8Gを加え、実体顕微鏡下で5個の膵島(均一なサイズ、滑らかなエッジ)をEpチューブに採取し、インキュベーター内で30分間インキュベートし、2)ピペットガンを使用して上澄み液を吸引して捨て、膵島を吸い取らないように注意し、500μL2.8G、2.8G+10μM化合物1-1、2.8+10μM化合物1-2、2.8G+10μM化合物2-1、2.8G+10μM化合物2-2、11.1G、11.1G+10μM化合物1-1、11.1G+10μM化合物1-2、11.1G+10μM化合物2-1、11.1G+10μM化合物2-2を加え、インキュベーターに入れて30分間インキュベートし、3)ピペットガンを使用して上澄み液をあらかじめマークされたEpチューブに吸い出し、よく混合し、密封し、4°Cで保存する。インスリン放射免疫により各群のインスリン含有量を測定する。
【0075】
実験結果を表1に示すように、ラットのインスリン分泌に対するアニソマイシン誘導体の効果である。2.8G群と比較して、各アニソマイシン誘導体(10μM)は低血糖下(2.8G)でインスリン促進効果を示さなかった。11.1 G群と比較して、各アニスマイシン誘導体(10μM)は高糖(11.1 G)下でインスリン分泌促進作用が顕著であった。(n=7.**P<0.01,*P<0.05)
表1
【0076】
表1のデータから、高血糖濃度下でのインスリン分泌促進に対するアニソマイシンの明らかな効果に加え、一部のアニソマイシン誘導体も同様の生理活性を有することがわかった。本出願は、限られた数の誘導体、すなわちいくつかの基置換を具体的に実施したが、本発明の実質は、アニソマイシン及び同じ親核を有するその誘導体が高血糖濃度でインスリン分泌を促進する効果を有するという創造的な発見にある。さらにこの効果はGLP-1Rの作動によって発揮されることから、このような化合物は効果的な小分子GLP-1R作動薬の一種であることが示されており、化合物への保護は上記の特定の誘導体に限定されるべきではない。