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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】鋼矢板割り治具
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/04 20060101AFI20241007BHJP
   E02D 7/00 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
E02D5/04
E02D7/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024019745
(22)【出願日】2024-02-13
【審査請求日】2024-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】592047319
【氏名又は名称】株式会社高脇基礎工事
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三品 孝之
(72)【発明者】
【氏名】小鹿 大介
(72)【発明者】
【氏名】野口 淳志
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-214433(JP,A)
【文献】特開2020-186577(JP,A)
【文献】特開2001-19343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/00~5/20
E02D 7/00~7/30
E04G 21/14~21/30
B66C 1/00~1/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼矢板割り治具であって、
前記鋼矢板割り治具の前方部は、前方部下部が前方に向かって上方向に湾曲した湾曲部分を有し、前記前方部は鋼矢板ウェブ間に挿入され、前記湾曲部分は下側鋼矢板ウェブと接触する部分であり、
前記鋼矢板割り治具の中央部は、前記中央部上部に鋼矢板ウェブ挿入部を有し、
前記鋼矢板ウェブ挿入部は、後方に向かって、前記前方部上部よりも上方及び下方にわたり形成される部分を有し、鋼矢板ウェブを挿入可能となっており、
前記鋼矢板割り治具の後方部は、上方持ち上げ部を有する、
鋼矢板割り治具。
【請求項2】
前記鋼矢板ウェブ挿入部は、鋼矢板ウェブ挿入部上部、鋼矢板ウェブ挿入部前部、鋼矢板ウェブ挿入部後部よりなり、
前記鋼矢板ウェブ挿入部上部は、鋼矢板ウェブを前記鋼矢板ウェブ挿入部に挿入可能な高さで後方に向かって形成されており、
前記鋼矢板ウェブ挿入部前部は前方部上部後端部から下方に向かって形成されており、
前記鋼矢板ウェブ挿入部後部は、鋼矢板ウェブ挿入部上部後端部から鋼矢板ウェブ挿入部前部下端部にわたって、前記鋼矢板割り治具の下方に向かって凸状かつ曲面状に形成されている、
請求項1記載の鋼矢板割り治具。
【請求項3】
鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部が、前方部上部後端部よりも後方に位置する、
請求項1記載の鋼矢板割り治具。
【請求項4】
鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部が、前記前方部上部後端部よりも後方に位置する、
請求項2記載の鋼矢板割り治具。
【請求項5】
前記前方部先端部から後方部後端部までの長さが30~70cmであり、前記前方部先端部から前記前方部上部後端部までの長さが10~30cmである、
請求項1~4のいずれか1項記載の鋼矢板割り治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数が重ねて置かれた鋼矢板を、一枚ずつ剥離させて吊り上げる際に使用する工事用工具に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼矢板は、鋼材で形成されていることから高剛性壁体を比較的短い施工期間で構築することができ、また比較的止水性にすぐれている等の理由により、地下構造物を建設する際の土留め壁や港湾・水域施設を建設する際の仮締切り等として広く使用されている。
【0003】
複数の鋼矢板は通常、積み重ねられて束になった状態で現場に配置されている。そして、これら積み重ねられた状態の鋼矢板の束から鋼矢板を割る、つまり分離させる場合、分離させるべき鋼矢板をクレーンに接続して吊り上げることにより行われている。しかし、このように積み重ねられた状態で保管されていると、鋼矢板自体の重さにより上側の鋼矢板が下側の鋼矢板に食い込んでしまい、鋼矢板が剥がれず鋼矢板の束全体がつり上がってしまうことがある。このような場合には、鋼矢板同士の隙間にバールを差し込んで間隙を広げてやる作業を人間が行なうことになるが、この作業は、労力と時間を要するものであった。
【0004】
特許文献1には、互いに食い込んだ鋼矢板を、簡単且つ安全に剥離して吊り上げることのできる鋼矢板剥離吊り冶具として、鋼矢板ウェブ面を挟み付ける挟持部を有するクランプ部材と、長尺形状を成し、略中央部にてクランプ部材に軸支されるアーム部材とから構成され、クランプ部材にてウェブ面を挟み付け、アーム部材の先端部を吊り上げ対象となる鋼矢板のウェブ面及びこの下側の鋼矢板ウェブ面との間に挿入し、アーム部材の根元部を吊り上げることにより、梃子の原理でアーム部材先端部が下側鋼矢板ウェブ面を下側に押しつけ、互いに食い込んだ鋼矢板を剥離させて、上側の鋼矢板を吊り上げる治具が開示されている。
本治具においては、鋼矢板のウェブ面を挟み込むクランプ部材と、下側の鋼矢板を梃子の原理により下側に押し付けるアーム部材からなっており、両部材は、クランプ部材に設けられた軸部材をアーム部位に設けられた軸受け用透孔に軸支して構成されるものであり、構造が複雑であるばかりか、鋼矢板の重量を軸部が受けるため耐久性にも問題があるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-118947
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記先行技術は、鋼矢板を挟持する部材と挟持された鋼矢板の下側にある鋼矢板を梃子の原理で引き剥がすための部材が回転軸により支持されて形成されているものである。この場合、回転軸及び回転軸受け部分には大きな力がかかることになり、使用のたびに劣化が促進されることとなる。また、構造も複雑なものにならざるを得ず、製造面、取り扱い面からも課題がある。
【0007】
本発明は、積み重ねられ束状態にある鋼矢板を1枚ずつ剥がすための工具であり、鋼矢板を長期にわたって取り扱っても劣化しにくい鋼矢板割り治具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決した本発明は次記のとおりである。
【0009】
(第1の態様)
鋼矢板割り治具であって、
前記鋼矢板割り治具の前方部は、前方部下部が前方に向かって上方向に湾曲した湾曲部分を有し、前記前方部は鋼矢板ウェブ間に挿入され、前記湾曲部分は下側鋼矢板ウェブと接触する部分であり、
前記鋼矢板割り治具の中央部は、前記中央部上部に鋼矢板ウェブ挿入部を有し、
前記鋼矢板ウェブ挿入部は、後方に向かって、前記前方部上部よりも上方及び下方にわたり形成される部分を有し、鋼矢板ウェブを挿入可能となっており、
前記鋼矢板割り治具の後方部は、上方持ち上げ部を有する、
鋼矢板割り治具。
【0010】
(作用効果)
鋼矢板割り治具は、側面視下部(前方部下部)が先端部に向かって上方向に湾曲した部分を有している。鋼矢板割り治具は、後方部を上部に持ち上げることにより、梃子の原理で鋼矢板を引きはがすものであり、前方部下部が先端部に向かって上部方向に湾曲しているため、後方部を持ち上げることにより、鋼矢板割り治具が円滑に回転し、前方部下部の湾曲部と下側鋼矢板ウェブとの接触部分を支点として梃子の原理を発揮しやすい。
先端部は鋭角状であるのが好ましい。これにより、はがす対象である上部鋼矢板のウェブ下面と下側鋼矢板のウェブ上面の隙間に挿入しやすいという特徴がある。
【0011】
前記前方部上部からの鋼矢板ウェブ挿入部上部までの高さが前記ウェブの厚さよりも大きくなっている。これにより、鋼矢板ウェブを鋼矢板引きはがし工具の前記鋼矢板ウェブ挿入部に挿入することが可能となっている。
【0012】
また、鋼矢板ウェブ挿入部は、その上部及び下部は、後方に向かって、前記前方部上部よりもそれぞれ上方及び下方にわたり形成されている。このため、鋼矢板ウェブを前記鋼矢板ウェブ挿入部に挿入したあと、鋼矢板割り治具後方部を上方に回転するように持ち上げた際、鋼矢板ウェブの先端部分が、鋼矢板割り治具の鋼矢板ウェブ挿入部において前記前方部上部よりも相対的に下方へ移動することが可能となる。このため鋼矢板割り治具後方部を持ち上げた際鋼矢板割り治具の回転が可能となり、梃子の原理が発揮されやすい。
【0013】
鋼矢板割り治具の後方部は、上方持ち上げ部を有する。上方持ち上げ部は、たとえば、吊り具接続部であってもよい。ワイヤ等を連結し、クレーン等で上部に引き上げることにより、鋼矢板割り治具は、鋼矢板ウェブ挿入部に鋼矢板ウェブを挟んだ状態で、前方部下部の湾曲部と下側鋼矢板ウェブとの接触部分を支点として回転する。この回転により、梃子の原理が作用し、上側鋼矢板を下側鋼矢板から引きはがすことが可能となる。鋼矢板の重なり具合により、引きはがすために大きな力を必要としない場合には、人力で引きはがすことも可能であり、この場合には特に吊り具接続部等の構造は必要なく、上方持ち上げ部として鋼矢板割り治具の後方部端部を上方に持ち上げればよい。
【0014】
(第2の態様)
前記鋼矢板ウェブ挿入部は、鋼矢板ウェブ挿入部上部、鋼矢板ウェブ挿入部前部、鋼矢板ウェブ挿入部後部よりなり、
前記鋼矢板ウェブ挿入部上部は、鋼矢板ウェブを前記鋼矢板ウェブ挿入部に挿入可能な高さで後方に向かって形成されており、
前記鋼矢板ウェブ挿入部前部は前方部上部後端部から下方に向かって形成されており、
前記鋼矢板ウェブ挿入部後部は、鋼矢板ウェブ挿入部上部後端部から鋼矢板ウェブ挿入部前部下端部にわたって、前記鋼矢板割り治具の下方に向かって凸状かつ曲面状に形成されている、
請求項1記載の鋼矢板割り治具。
【0015】
(作用効果)
第2の態様においては、鋼矢板ウェブ挿入部は、鋼矢板ウェブ挿入部上部、鋼矢板ウェブ挿入部前部、鋼矢板ウェブ挿入部後部よりなる。前記鋼矢板ウェブ挿入部上部は、鋼矢板ウェブを前記鋼矢板ウェブ挿入部に挿入可能な高さで形成されている。このため、鋼矢板割り治具の前記前方部を上下の鋼矢板の間に挿入し、鋼矢板ウェブを前記鋼矢板ウェブ挿入部に円滑に挿入することができる。前記鋼矢板ウェブ挿入部上部は平面状であることが好ましい。これにより、鋼矢板ウェブを前記鋼矢板ウェブ挿入部に挿入した後、前記鋼矢板ウェブ挿入部上部が鋼矢板ウェブの上に安定に配置されることが可能となる。
【0016】
鋼矢板ウェブ挿入部前部は、前記前方部上部後端部から下方に向かって形成されている。このため、鋼矢板割り治具の後方部を上方に回転するように持ち上げた際、鋼矢板ウェブの先端が、前記前方部上部後端部を基軸として前方部上面高さよりも相対的に下方へ回転することが可能となる。このため、鋼矢板割り治具の回転が容易となり、梃子の原理が発揮されやすいという特徴がある。
【0017】
鋼矢板ウェブ挿入部後部は、前記鋼矢板割り治具の下方に向かって凸状かつ曲面状に形成され、前記鋼矢板ウェブ挿入部上部後端部から前記鋼矢板ウェブ挿入部前部下端部にわたって形成されている。このため、鋼矢板割り治具後方部を持ち上げる際、鋼矢板ウェブ先端部が、鋼矢板割り治具の鋼矢板ウェブ挿入部後部に接している状態で円滑に移動可能となるため、鋼矢板割り治具は円滑に回転可能となり、梃子の原理が円滑に発揮され、鋼矢板の引きはがしを円滑に行うことができる。
【0018】
(第3の態様)
鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部が、前方部上部後端部よりも後方に位置する、
請求項1記載の鋼矢板割り治具。
【0019】
(作用効果)
第3の態様では、鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部が、前記前方部上部後端部よりも後部に位置している。
鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部が、前記前方部上部後端部よりも前方にある場合、前記後方部を上方へ持ち上げて回転させる途中で、鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部が、鋼矢板ウェブ上面と接触し、下方へ抑え込む形となる。このため、鋼矢板ウェブ挿入部に挟まれている鋼矢板ウェブの一端部分と反対側にある他端部分は下方に力を受け、下側にある鋼矢板との重なりがより強くなる可能性がある。
一方、鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部が、前記前方部上部後端部よりも後方に位置している場合には、鋼矢板割り治具の前記後方部を上方へ持ち上げて回転させる際、鋼矢板ウェブ挿入部上部の前方端は鋼矢板ウェブ上面と接触しにくくなる。このため、上側の鋼矢板と下側にある鋼矢板との重なりが強くなることを抑止することが可能となる。
したがって、鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部は、前記前方部上部後端部よりも後方に位置していることが好ましい。
なお、鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部は、前記前方部上部後端部よりも後方に位置しているとは、鋼矢板割り治具を使用状態で水平においた場合、鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部が、前記前方部上部後端部の垂直上方よりも後方にあることをいう。
【0020】
(第4の態様)
鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部が、前記前方部上部後端部よりも後方に位置する、
請求項2記載の鋼矢板割り治具。
【0021】
(作用効果)
第4の態様においても、鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部が、前記前方部の前記側面視上部後端部(前方部上部後端部)よりも後方に位置している。
鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部が、前記前方部上部後端部よりも前方にある場合、前記後方部を上方へ回転させる途中で、鋼矢板ウェブ挿入部上部の前方端部が、鋼矢板ウェブと接触し、下方へ抑え込む形となる。このため、鋼矢板ウェブ挿入部に挟まれている鋼矢板ウェブの一端部分と反対側にある他端部分は下方に力を受け、下側にある鋼矢板との重なりがより強くなる可能性がある。
一方、鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部が、前記前方部上部後端部よりも後部に位置している場合、鋼矢板割り治具の前記後方部を上方へ回転させる際、鋼矢板ウェブ挿入部上部の前方端は鋼矢板ウェブと接触しにくくなる。このため、上部鋼矢板と下側にある鋼矢板との重なりが強くなることを緩和することが可能となる。
したがって、鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部が、前記前方部上部後端部よりも後方に位置していることが好ましい。
【0022】
(第5の態様)
前記前方部先端部から前記後方部後端部までの長さが30~70cmであり、前記前方部先端部から前記前方部上部後端部までの長さが10~30cmである、
請求項1~4のいずれか1項記載の鋼矢板割り治具。
【0023】
(作用効果)
鋼矢板割り治具の大きさは、対象とする鋼矢板の形状、大きさに対応してかえることができる。しかしながら、持ち運び、操作性等を考慮すると、全長が30~70cmが好ましい。
また、前記前方部先端部から前記前方部上部後端部までの長さは、鋼矢板間の距離にもよるが、操作性等を考慮すると、10~30cmであることが好ましい。この部分の長さに比較し、全長が長くなるほど、梃子の原理により、より小さい力で鋼矢板を引きはがすことができる。
本発明の鋼矢板割り治具を用いて、重なった鋼矢板を引きはがす場合、鋼矢板割り治具の前記前方部下部と下側鋼矢板ウェブの接触部分を支点として、鋼矢板割り治具後方部にある吊り具接続部付近に上方向の力を加えることとなり、吊り具接続部付近が力点となる。このとき前記前方部上部後端部が鋼矢板ウェブに対し上向きの力を与える作用点となる。このため、支点から作用点までの距離と支点から力点までの距離の比が大きいほうが、より作用点に働く力が大きくなる。したがって、前記前方部先端部から前記前方部上部後端部までの長さに比較し、鋼矢板割り治具の全長が長くなるほど、効果的に鋼矢板を引きはがすことができる。
【0024】
この観点からすると、鋼矢板割り治具の中央部から後方部の長さをより長くするほうが、鋼矢板へ加わる力が大きくなるので有利となる。
一方、鋼矢板を引きはがす距離に注目すると、前記前方部の長さが長いほうが有利となる。
しかしながら、鋼矢板割り治具全体が大きくなると取り扱いが困難となる。
以上を考慮すると、上記大きさが好ましいものとなる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、積み重ねられた状態の鋼矢板の束から鋼矢板を、容易に、また複雑な操作を要することなくはがすことができる。また、本発明の鋼矢板割り治具は、可動部を有さず、引きはがし作業を通じて形状が変化しないため、使用による破損等が起きにくく耐久性に優れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本願発明に係る鋼矢板割り治具の平面図(a)、側面図(b)およびM1部分の拡大図(c)である。
図2】本願発明に係る別の形態の鋼矢板割り治具の平面図(a)および側面図(b)である。
図3】本願発明に係る別の形態の鋼矢板割り治具の平面図(a)および側面図(b)である。
図4】吊り金具、持ち手部を取り付けた本願発明に係る鋼矢板割り治具の平面図(a)、および側面図(b)である。
図5】積み重ねられた状態の鋼矢板の束を示す図である。
図6A】本願発明に係る鋼矢板割り治具の使用状態を表す側面から見た概略図である(鋼矢板はウェブ部のみ表している)。 (a)鋼矢板割り治具挿入前 (b)鋼矢板割り治具挿入後
図6B図6AにおけるM2部分の拡大図である。
図7A】本願発明に係る鋼矢板割り治具の使用状態を表す側面から見た概略図である(鋼矢板はウェブ部のみ表している)。 (a)鋼矢板割り治具後方部を上方に引き上げた状態 (b)鋼矢板割り治具後方部を上方にさらに引き上げた状態
図7B図7AにおけるM3部分の拡大図である (a)鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部4Fが、前方部上部後端部2Bよりも後方にある場合 (b)鋼矢板ウェブ挿入部上部全端部4Fが、前方部上部後端部2Bよりも前方にある場合
図7C図7AにおけるM3部分の拡大図である (a)鋼矢板ウェブ挿入部前部4Vが、前方部上部後端部2Bよりも下方に形成されている場合 (b)鋼矢板ウェブ挿入部前部4Vが設けられていない場合
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下の説明及び図面は、本発明の一実施形態を示したものにすぎず、本発明の内容をこの実施形態に限定して解釈すべきでない。
【0028】
(鋼矢板)
鋼矢板には、U字形、ハット形、Z形、直線形、H形などの様々なパターンがあり、凹凸状に成型加工した鋼板の両端に継ぎ手が設けられており、これをつなぎ合わせて壁をつくる。例えばU字形鋼矢板の場合、図5に示すように、長手方向に垂直な切断面は、底面(ウェブ)が略平面状であり、その両側から上部に外側に広がるような壁部(フランジ)を有している。壁部上部両端には、継ぎ手部が設けられている。単位重量は数十~数百kg/mの重量を有するものである。用途としては、大別して本設用と仮設用の二つがあり、本設用の鋼矢板は永久構造物として用いられるが、仮設用の鋼矢板は、主に本体構造構築前の仮設土留め壁として使用される。具体的な用途としては、河川護岸、港湾岸壁、土留め、止水壁、耐震補強など建設工事に幅広く用いられている。
【0029】
幅、長さ、高さ、厚さなど様々であり、通常金属製のため、基本的に重量が大きい。通常複数の鋼矢板を使用するため、使用前には積み重ねた状態で保管される。基本的に重量が大きいものであるため、これらを積み重ねて保管した場合、重量によって多少の変形が生じる。また、鋼矢板を再利用する場合には、場所によって、傷があったり、変形があったり、錆があったりするものである。積み重ねられたこのような鋼矢板は、場所によっては自重で上下の鋼矢板が強固に密着している場合がある。図5に示したように、複数枚の鋼矢板が重ね置きされている場合には、下部の鋼矢板には、上部にある鋼矢板全体の大きな重さがかかり、単純に上側の鋼矢板を持ち上げようとすると、下部の鋼矢板もはがされずに一体となって持ち上げられることとなる。このような場合には、鋼矢板ウェブとウェブの間にバール等を挿入して、人力で上下の鋼矢板を引きはがすことも考えられるが、通常これは容易でない。
【0030】
本発明の鋼矢板割り治具は、このような場合に使用されるものである。なお、鋼矢板割り治具とは、複数枚が重ねられて保管されている鋼矢板の上部にある鋼矢板をその直下にある鋼矢板から引きはがす際に使用する工具をいう。
なお、はがすとは、重なり合った鋼矢板において、上部にある鋼矢板ウェブの一端を、下部にあるウェブの一端から引き離すことをいう。
【0031】
(鋼矢板割り治具)
図1に示される鋼矢板割り治具1を例にとって、各部の構成と機能について説明する。
本発明に係る鋼矢板割り治具1は、図1に示されるように、積み重ねられた鋼矢板10(図5参照)の鋼矢板10ウェブ間に挿入する部分である鋼矢板割り治具1の前方部KF、鋼矢板10ウェブの端部を挿入し鋼矢板割り治具1が回転することにより鋼矢板10に引きはがし方向の力を伝達する部分である鋼矢板ウェブ挿入部4が設けられている中央部KM、上方持ち上げ部が設けられている後方部KBを有する。
【0032】
鋼矢板割り治具1は、鉄、アルミニウム等の金属、樹脂等が使用可能であるがこれらに限定されない。鋼矢板割り治具1は、可動部を有さない構造が好ましい。回転部分等を有すると、重量物を取り扱う際、回転軸等の可動部には大きな力がかかるため、劣化しやすく、破損を起こしやすいからである。
前方部KF、中央部KM、後方部KBは単一の部材により形成されている構造が好ましい。このような構造をとることにより、使用に際し、故障しにくく、耐久性に優れ、また構造が簡潔であるため取り扱いが容易であるという特徴を出すことが可能となる。
この場合、鋼矢板ウェブ挿入部4は、鋼矢板割り治具1の中央部KMを切り欠くことにより、切り欠き部として形成することができる。
あるいは、各々の部分を作製し、溶接等により最終的に鋼矢板割り治具1を作製してもよい。
【0033】
前記前方部KFは前方部上部2が略平面状で、側面視略直線状となっている形状が好ましい。この形状をとることにより、鋼矢板10、鋼矢板10のウェブ間への挿入が容易となる。また、はがす対象である上部鋼矢板10ウェブの下面に、鋼矢板割り治具1の前方部上部2が密着するように接触することができる。さらに、鋼矢板10ウェブを、中央部KMにある鋼矢板ウェブ挿入部4へスムーズに挿入することが可能となる。
【0034】
前方部下部3は前方に向かって上方に湾曲した前方部下部湾曲部3Cを有しており、前方部KFの前方部先端部2Fは、鋭角状に形成されている構造が好ましい。これにより、前記前方部KFを積み重ねられた鋼矢板10と鋼矢板10の間に挿入する際、スムーズに挿入することができる。
鋼矢板10ウェブを鋼矢板ウェブ挿入部4に挿入した後、鋼矢板10を引きはがすために、鋼矢板割り治具1の後方部KBは回転するように上方に持ち上げられる。このとき、前方部下部3の前方部下部湾曲部3Cは下側の鋼矢板10ウェブ上面と接触し、接触部分が支点となって梃子の原理が働くことになる。
図1において、後方部に設けられている、上方持ち上げ部としての吊り具接続部6は、たとえば吊り具接続孔6Aとすることができる。吊り具接続孔6Aには、吊り金具7等が連結され、ワイヤ9等が係止されおり、鋼矢板割り治具1が前方に回転するような形で上部に引き上げられる。この時、前述のとおり、前方部下部3の前方部下部湾曲部3Cは下側の鋼矢板ウェブ上面部分と接触し、接触部分が支点となる。吊り具接続部6は力点となり、前方部上部後端部2Bが作用点となり、上部鋼矢板10を上方向に持ち上げることとなる。
【0035】
鋼矢板割り治具1が前方に回転するような形で上方に引き上げられると、前方部下部3の前方部下部湾曲部3Cは下側の鋼矢板10ウェブと接する。そしてその接触部分は、鋼矢板割り治具1の回転が進むにしたがって前方部下部湾曲部3Cの前方方向に移動することとなる。前方部下部湾曲部3Cは前方上方に向かって滑らかに湾曲した形状を有しているため、この移動が円滑に進行することとなる。なお、前方部下部湾曲部3Cは、前方部先端部2Fまで形成されている必要はないが、前方部先端部2Fまで形成されていたほうが、前記効果が発揮されやすいので好ましい。
【0036】
図1に示されるように、中央部KMには、突出部5が設けられ、その下方に鋼矢板ウェブ挿入部4が設けられている。前記前方部KFは積み重ねられた鋼矢板10と鋼矢板10の間に挿入され、上側鋼矢板10ウェブ部分は鋼矢板ウェブ挿入部4に挿入される。
鋼矢板ウェブ挿入部上部4Uは略平面状をなし、側面視略直線状をなしていることが好ましい。鋼矢板ウェブ挿入部上部4Uは前記前方部KFの前方部上部2がなす面と平行であってもよいが、前後いずれかの方向に傾斜していてもよい。前方上方に傾斜している形態が好ましい。鋼矢板10ウェブの挿入が容易であるためである。また、鋼矢板割り治具の回転の際、鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部4Fが、鋼矢板10ウェブに接触しにくくなるからである。
【0037】
鋼矢板ウェブ挿入部前部4Vは、前記前方部KFの前方部上部2の後端である前方部上部後端部2Bから下方に向かって形成されている。鋼矢板ウェブ挿入部前部4Vは前記前方部上部後端部2Bから垂直下方に形成されていてもよいが、図1に示されるように斜め後方に向かって形成されていてもよい。鋼矢板割り治具1が回転し、垂直に近い状態になったとしても、鋼矢板10ウェブ部は、鋼矢板ウェブ挿入部前部4Vには密着しないためである。
【0038】
鋼矢板ウェブ挿入部後部4Wは、鋼矢板ウェブ挿入部上部4Uの後端部と鋼矢板ウェブ挿入部前部4Vの下端部4T(鋼矢板ウェブ挿入部前部下端部4T)を接続するように形成されている。梃子の原理で鋼矢板10を引きはがす際、鋼矢板割り治具1は回転する。回転前の段階では、鋼矢板10のウェブ部分端部は、鋼矢板ウェブ挿入部上部4Uに接し、また、鋼矢板ウェブ挿入部後部4W上部(鋼矢板ウェブ挿入部上部後端4B)に接しているか、または鋼矢板ウェブ挿入部後部4W上部(鋼矢板ウェブ挿入部上部後端部4B)付近に存在している。
鋼矢板割り治具1が回転するとき、鋼矢板10のウェブ部分端部は鋼矢板ウェブ挿入部後部4Wの下方向にずれ動くこととなる。このとき、鋼矢板10のウェブ端部は鋼矢板ウェブ挿入部後部4Wに接しながら動く場合も考えられる。したがって、鋼矢板ウェブ挿入部後部4Wに凹凸があると、鋼矢板10のウェブ部分端部の円滑な移動が妨げられる。このような理由から、鋼矢板ウェブ挿入部後部4Wは凹凸を有さない構造が好ましい。鋼矢板ウェブ挿入部後部4Wの形状としては、鋼矢板割り治具1の下方に凸型の曲面形状が好ましい。鋼矢板10のウェブ部分端部の移動が円滑に進行するからである。なお、鋼矢板ウェブ挿入部後部4Wは、円筒の側面状(側面視円弧状)であってもよい。
【0039】
図2に示されるように、鋼矢板ウェブ挿入部4は、鋼矢板ウェブ挿入部上部4Uと略円筒の側面状部(側面視略円弧状部4C)からなるものであってもよい。図示されているように、鋼矢板ウェブ挿入部4は前方部上部後端部2Bから下方に向かって形成されており、また、鋼矢板ウェブ挿入部上部後端部4Bから下方および後方に向かって凸状かつ曲面上に形成されている。このような形態であっても、図1に示されるような鋼矢板ウェブ挿入部4と同様の効果が発揮される。すなわち、鋼矢板10のウェブ部分端部は、鋼矢板ウェブ挿入部4への挿入時、鋼矢板ウェブ挿入部4の側面視略円弧状部4Cに接するように位置される。この状態から、鋼矢板割り治具1後方部KBを持ち上げることにより回転させると、鋼矢板10のウェブ部分端部は、前記側面視略円弧状部4Cに沿って鋼矢板ウェブ挿入部4の下方に円滑に移動することができる。したがって小さい力で鋼矢板10を引きはがすことができる。なお、図2においては鋼矢板ウェブ挿入部4は、鋼矢板ウェブ挿入部上部4Uと略円筒の側面状部(側面視略円弧状部4C)とからなるものを例示したが、同様の効果を奏するものであれば、略円筒の側面状部(側面視略円弧状部4C)でなくともよい。例えば、側面視楕円状の他、下方に向かって凸状の曲面上の形状であれば同様の効果を奏することができる。
【0040】
鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部4Fは、前方部上部後端部2Bよりも後方にあるのが好ましい。図1(c)には、鋼矢板ウェブ挿入部4の拡大図が示されている。垂直の2点鎖線で示されている仮想線Iは、前方部上部後端部2Bより垂直上方に描かれたものである。鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部4Fは、前方部上部後端部2BよりもΔLだけ後方にあることを示している。
鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部4Fが、前記前方部KFの前方部上部後端部2Bよりも前方にある場合、後方部KBを上方へ回転させる途中で、鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部4Fが、鋼矢板10のウェブ部分と接触し、鋼矢板10を下方へ抑え込む形となり、下側にある鋼矢板10との重なりがより強くなり、結果として引きはがしにくくなる可能性がある。
一方、鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部4Fが、前記前方部上部後端部2Bよりも後方に位置している場合、鋼矢板割り治具1の前記後方部を上方へ回転させる際、鋼矢板ウェブ挿入部上部前端4F部は鋼矢板10のウェブ部分と接触しにくくなるため、上記のような問題が起こり難くなるためである。
したがって、鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部4Fが、前記前方部KFの前記前方部上部後端部2Bよりも後方に位置していることが好ましい。
【0041】
鋼矢板ウェブ挿入部上部4Uは、鋼矢板10ウェブ部を保持する役割を有する。鋼矢板割り治具1は、鋼矢板ウェブ挿入部上部4Uを有さなくてもよいが、この場合、鋼矢板割り治具1を積層された鋼矢板10に挿入した場合に、鋼矢板割り治具1の位置が不安定となる。したがって、鋼矢板割り治具1は、鋼矢板ウェブ挿入部上部4Uを有することが好ましい。
【0042】
図1には、鋼矢板割り治具1の後方部KBに、上方持ち上げ部として吊り具接続部6(吊り具用孔6A)が設けられた例が示されている。図4に示すように、吊り具用孔(6A)にはシャックル7A等の吊り金具7を取り付けることができる。吊り金具7にワイヤ9等を係止し、ワイヤ9をクレーンなどに接続して鋼矢板割り治具1の後方部KBを上部に持ち上げることができる。
【0043】
図1では、鋼矢板割り治具1の後方部KBに設けた吊り具接続孔6Aを示したが、ワイヤ等を係止することができれば吊り具接続孔6Aに限定されない。例えば、あらかじめ鋼矢板割り治具1の後方部に取付軸を形成し、ワイヤ9等を係止する方法でもよい。なお、吊り具接続部6はできるだけ鋼矢板割り治具1の後部に設けることが好ましい。梃子の原理を効率よく利用できるからである。
【0044】
鋼矢板同士の食い込みが緩く、機械力を利用せずに、人力だけで引き剥がすことが可能な場合も考えられる。このような場合には、クレーン等の使用を想定した吊り具接続部6は必要ない。人力で、後方部KBを上方に持ち上げることで、上部鋼矢板を直下部鋼矢板から引きはがすことも可能である。このような場合には、上方持ち上げ部は、後方部KBと同一視することができる。
【0045】
図1図2では、鋼矢板ウェブ挿入部4上部に突出部5を備えた形態のものが示されているが、図3に示すように、突出部を有さず、中央部KM上面、後方部KB上面が平面状を成す形態であってもよい。この場合、鋼矢板割り治具1の、中央部KMから後方部KBにわたる上部の位置に連通孔をあけ、持ち手部11とすることも可能である。
【0046】
図4には、鋼矢板割り治具1に、吊り金具7(7A)、持ち手部8を取り付けたものが示されている。この形態の吊り具接続部6は、吊り具接続孔6Aとなっている。吊り金具7としては、例えば、シャックル7A等を使用することができる。鋼矢板割り治具1の後方部KBに設けられた吊り具接続孔6Aに吊り金具7を連結することができる。吊り金具7に、ワイヤ先端をスリーブ、サーキュラースリーブ、ワイヤークリップ等で閉じたワイヤを係止することができる。
鋼矢板割り治具1上部には、持ち手部8を取り付けることができる。持ち運び時、鋼矢板10間に鋼矢板割り治具1を挿入するときに使用することができる。持ち手部8の素材としては金属、プラスチック等が使用可能である。
【0047】
(鋼矢板割り治具の使用形態)
以下、図を参照しながら鋼矢板割り治具1の使用形態について説明する。鋼矢板10は通常複数枚が積層されて静置されている。フランジ10F部分は上部にいくにしたがって広がっているため、図5のように積層した場合、上下の鋼矢板10A、10Bは固く密着した状態になっており、これを引きはがすのは容易ではない。
図6Aの右側には、積層した鋼矢板10を図5に表示されている面と垂直方向に切断した場合の鋼矢板10のウェブ部分を示している。図6Aの例においては、鋼矢板割り治具1は先端2Fが鋭角状の形態をしており、前方部KFの前方部上部2は平たんな形態をしており、前方部下部3は先端付近が上部に湾曲し前方部先端部2Fを形成している。この形状により、鋼矢板割り治具1は、鋼矢板ウェブ10A、10B間にスムーズに挿入することができる。
図6Bに示すように、鋼矢板10ウェブは、その先端が鋼矢板割り治具1の鋼矢板ウェブ挿入部上部4Uの後端部4B(鋼矢板ウェブ挿入部上部後端部4B)、もしくは鋼矢板ウェブ挿入部後部4Wに接する位置まで挿入される。この時、鋼矢板ウェブ挿入部上部4Uの下面が鋼矢板10ウェブの上面に位置し、鋼矢板割り治具1の態勢の安定が保たれる。
【0048】
次に、鋼矢板割り治具1の後方部KBに設けられた吊り具接続部6に取り付けられたシャックル7等に係止されたワイヤ9を、たとえばクレーンなどの吊り上げ機により上方向に引き上げる。鋼矢板10Aは、主として前方部上部2の前方部上部後端部2Bから上向きの力を受け、図7Aに示すように、鋼矢板10Aの一端が上方向に持ち上げられる。この時、前方部下部3の前方部下部湾曲部3Cの1部分が鋼矢板10Bに接触し、支点Sとなる。鋼矢板割り治具1の後方部KBは、吊り上げ機等により上方に持ち上げられるので、鋼矢板割り治具1は右方向に回転する形となる。したがって、前記支点Sは、前方部下部湾曲部3C上を前方方向に移動し、図7Aにおいて鋼矢板10Bを左方向に移動することとなる。支点Sの移動が円滑に行われるためには、前方部下部湾曲部3Cは滑らかな形状であることが好ましい。例えば、前方部下部湾曲部3Cは略円弧状、略楕円弧状等の曲線状であることが好ましい。
【0049】
ここで、鋼矢板ウェブ挿入部4の好ましい形状について説明する。鋼矢板ウェブ挿入部4の代表的形態である、鋼矢板ウェブ挿入部4が鋼矢板ウェブ挿入部上部4U、鋼矢板ウェブ挿入部前部4V、鋼矢板ウェブ挿入部後部4Wを有する場合について説明するが、鋼矢板ウェブ挿入部の形状はたとえば、図2に示した形状等でもよくこれに限定されない。
【0050】
鋼矢板割り治具1は、吊り上げ機等により上方に持ち上げられ、前方部KFが下方向に回転する形となる。図7Aに示すように、この場合、鋼矢板10のウェブ10Wの鋼矢板ウェブ挿入部4にある一端部は鋼矢板ウェブ挿入部後部4Wに接しながら鋼矢板ウェブ挿入部後部4Wを下方に移動すると考えられる。鋼矢板ウェブ挿入部後部4Wに凹凸があると、鋼矢板10のウェブ10W端部の円滑な移動が妨げられる。このような理由から、鋼矢板ウェブ挿入部後部4Wは凹凸を有さない構造が好ましい。鋼矢板ウェブ挿入部後部4Wの形状としては、鋼矢板割り治具1の下方に向かって凸型の曲面形状が好ましい。鋼矢板10のウェブ10Wの一端部が円滑に移動できるからである。なお、鋼矢板ウェブ挿入部後部4Wは、円筒の側面状(側面視円弧状)であってもよい。
【0051】
上述のとおり、鋼矢板割り治具1の前方部上部2の前方部上部後端部2Bと鋼矢板10Aのウェブ10Wが接した状態で、鋼矢板10Aのウェブ10Wの鋼矢板ウェブ挿入部4にある一端部は鋼矢板ウェブ挿入部後部4Wを下方に移動することとなる。
鋼矢板ウェブ挿入部4は、前方に開口部を有し、後方に向かって前方部上部の上方及び下方にわたって形成されている形態が好ましい。図7C(a)、(b)は図7AのM3部分を拡大したものである。図7C(a)は、鋼矢板ウェブ挿入部4が、後方に向かって前方部上部2よりも上方及び下方にわたり形成されている形状のものであり、図7C(b)は、鋼矢板ウェブ挿入部4が、後方に向かって前方部上部2よりも下方に形成されていない形状のものである。すなわち、鋼矢板ウェブ挿入部前方部4Vが設けられていない場合のものである。
図7C(b)に拡大図で示したように、鋼矢板ウェブ挿入部前方部4Vが設けられていない場合、鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部4Fが鋼矢板10Aのウェブ部分上面に接触し、これ以上鋼矢板割り治具1は回転できないため図7A(b)に示す状態まで鋼矢板割り治具1は回転できず、したがって梃子の効果が十分に発揮されず、鋼矢板10Aを鋼矢板10Bから十分に引きはがすことができない結果となる。
したがって、鋼矢板ウェブ挿入部前部4Vと鋼矢板ウェブ挿入部後部4Wが、鋼矢板割り治具1の前方部KFの前方部上部2の下方にわたって形成されていることが好ましい。
【0052】
図6Bに鋼矢板ウェブ挿入部4の詳細が示されている。図6B図6AのM2部分の拡大図であり、鋼矢板割り治具1および鋼矢板10ウェブの側面図である。図6Bにおいて、鋼矢板10ウェブの後下端部10ABは鋼矢板ウェブ挿入部後部4Wと接触している状態である。鋼矢板Aの前方部上部後端部2Bの垂直上方位置10ACは、前方部上部後端点2Bから垂直上方にある鋼矢板10Aのウェブ上にある。鋼矢板ウェブ挿入部前部4V上の鋼矢板ウェブ挿入部前部下端部4Tと前方部上部後端部2B間の長さL1は、鋼矢板10Aのウェブ上の鋼矢板後端部10ABと鋼矢板Aの前方部上部後端点2Bの垂直上方位置10ACとの間の長さL2と略同程度であるのが好ましい。しかしながら、L1とL2の長さが著しく異ならなければ、梃子による効果を発揮することができる。
前方部上部2と鋼矢板ウェブ挿入部前部4Vのなす角θは、鋼矢板割り治具1の回転できる範囲に影響する。例えば、θが180度であると、前述したように鋼矢板割り治具1の十分な回転が妨げられ、梃子の原理が発揮されにくい。角度θは、90度以上170度以下が好ましい。100度以上150度以下がさらに好ましい。この間であれば、鋼矢板割り治具1は十分に回転可能であり、梃子による効果が発揮される。
【0053】
鋼矢板割り治具1は、吊り上げ機等により上方に持ち上げられ、前方部KFが下方向に回転する形となる。図7B(a)は、図7A(a)のM3の部分を拡大したものである。図7B(a)は、鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部4Fが、鋼矢板割り治具1の前方部KFの前方部上部後端部2Bよりも後方にある場合のものであり、図7B(b)は前方にある場合のものである。図7B(a)と図7B(b)は、鋼矢板割り治具1の回転の程度が同じ状態のものである。図7B(a)に示すように、前記先端4Fが、前記前方部上部後端部2Bよりも後方にある場合には、前記先端4Fは鋼矢板10Aのウェブ部分に接していない。この場合、鋼矢板割り治具1は図7A(b)に示すような更なる回転が可能であり、梃子の原理により鋼矢板10A、10Bはさらに引きはがすことができる。
一方、図7B(b)に示す、鋼矢板ウェブ挿入部上部先端4Fが、前方部上部後端部2Bよりも前方にある場合には、鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部4Fが鋼矢板10Aのウェブ部分と接している。この場合、鋼矢板10Aは鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部4Fから下向きの力Fを受けることとなり鋼矢板割り治具1はもはや鋼矢板10Aに対して回転できなくなり、梃子の原理が有効に作用しなくなる。その結果、鋼矢板10Aのウェブの鋼矢板ウェブ挿入部4にある一端部とは他の他端部は、鋼矢板10B方向の力を受けることとなり、その重なりがより強力となり、引きはがしに支障をきたすこととなる。
したがって、鋼矢板ウェブ挿入部上部先端部4Fは、鋼矢板割り治具1の前方部KFの前方部上部後端部2Bよりも後方にあるほうが、前方にあるものよりも好ましい。
【0054】
鋼矢板ウェブ挿入部上部4Uは略平面状をなし、側面視略直線状をなす形状が好ましい。鋼矢板ウェブ挿入部上部4Uは前記前方部KFの前方部上部2がなす面と平行であってもよいが、前後いずれか方向に傾斜していてもよい。前方上方に傾斜している形態が好ましい。鋼矢板ウェブの挿入が容易であるためである。
【0055】
図7Bにおいて、鋼矢板ウェブ挿入部上部4Uの長さである、鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部4Fと鋼矢板ウェブ挿入部上部後端部4Bとの間の長さL3は、短すぎると鋼矢板10Aのウェブの一端部を鋼矢板ウェブ挿入部4に挿入した際、鋼矢板割り治具1の安定性が悪くなる。また、長すぎると上述のとおり、鋼矢板10Aは鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部4Fから下向きの力を受けることとなり鋼矢板割り治具1はもはや鋼矢板10Aに対して回転できなくなる。よってL3は、これらの条件を考慮して決定されるものである。
【0056】
鋼矢板割り治具1は、後方部KBを上部に持ち上げることにより前方に回転させ、梃子の原理により鋼矢板10を引きはがすものである。後方部KBの持ち上げは、機械力を使用することが効果的である。
後方部KBには、吊り具接続部6が設けられている。例えば、吊り具接続部6に連結されたシャックル7Aにワイヤが係止され、ワイヤをクレーン等で上部に引き上げることにより、鋼矢板割り治具1は、後方部KBを上方に持ち上げられ、鋼矢板割り治具1は回転する。この時、前方部下部3の前方部下部湾曲部3Cが下側の鋼矢板Bと接触部Sで接することとなり、接触部Sを支点、吊り具接続部6を力点、前方部上部後端部2Bを力点として、鋼矢板10Aは上方向に引きはがされることとなる。
【0057】
本発明による鋼矢板割り治具1は、本体に可動部分を有さず、たとえば、単一の部材により形成されることにより、従来開示されているものに比較し、耐久性に優れ、製造が容易であり、簡潔な使用が可能であるという特徴がある。また、メンテナンスも容易であるという特徴がある。
【0058】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0059】
1…鋼矢板割り治具、2…前方部上部、2F…前方部先端部、2B…前方部上部後端部、3…前方部下部、3C…前方部下部湾曲部、4…鋼矢板ウェブ挿入部、4U…鋼矢板ウェブ挿入部上部、4V…鋼矢板ウェブ挿入部前部、4W…鋼矢板ウェブ挿入部後部、4F…鋼矢板ウェブ挿入部上部前端部、4B…鋼矢板ウェブ挿入部上部後端部、4T…鋼矢板ウェブ挿入部前部下端部、4C…側面視略円弧状部、5…突出部、6…吊り具接続部、6A…吊り具接続孔、7…吊り金具、7A…吊り金具(シャックル)、8…持ち手部、9…ワイヤ、10…鋼矢板、10A鋼矢板、10AB…鋼矢板A後端部、10AC…鋼矢板Aの前方部上部後端点2Bの垂直上方位置、10B鋼矢板、10C鋼矢板、10D鋼矢板、11…持ち手部、KF…前方部、KM…中央部、KB…後方部、I…仮想線、S…前方部下部湾曲部3Cと鋼矢板10Bの接触部
【要約】
【課題】鋼矢板を1枚ずつ剥がすための工具であり、製造が容易であり、また取り扱いが容易であり、さらに鋼矢板を長期にわたって取り扱っても劣化しにくい鋼矢板割り治具を提供すること。
【解決手段】前記課題を解決する鋼矢板割り治具は、前記鋼矢板割り治具の前方部は前方部下部が前方に向かって上方向に湾曲した部分を有し、前記鋼矢板割り治具の中央部は前記中央部上部に鋼矢板ウェブ挿入部を有し、前記鋼矢板ウェブ挿入部は後方に向かって前記前方部上部よりも上方及び下方にわたり形成され鋼矢板ウェブを挿入可能となっており、前記鋼矢板割り治具の後方部は吊り具接続部を有することを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C