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▶ 古城 敬之の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ヨウ素滴定を用いたアミノ酸の定量方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/16 20060101AFI20241007BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
G01N31/16 Z
G01N31/00 V
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2024068679
(22)【出願日】2024-04-03
【審査請求日】2024-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2024015253
(32)【優先日】2024-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和5年12月22日掲載のウェブサイト https://event.yomiuri.co.jp/jssa/storage/archives/67/HC034CE.pdf
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524045770
【氏名又は名称】古城 敬之
(72)【発明者】
【氏名】古城 敬之
(72)【発明者】
【氏名】中村 裕次郎
(72)【発明者】
【氏名】古川 咲綾
(72)【発明者】
【氏名】小田 紡己
(72)【発明者】
【氏名】川井 剛太
(72)【発明者】
【氏名】重見 杏
(72)【発明者】
【氏名】後藤 優奈
(72)【発明者】
【氏名】窪田 愛子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 萌恵
(72)【発明者】
【氏名】蜷川 晃平
(72)【発明者】
【氏名】木村 洸政
(72)【発明者】
【氏名】蛯谷 航世
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 豪
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 萌果
(72)【発明者】
【氏名】園田 爽夏
(72)【発明者】
【氏名】日高 瑞紀
(72)【発明者】
【氏名】冨田 敬央
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 一生
(72)【発明者】
【氏名】矢野 史門
(72)【発明者】
【氏名】東 澪
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 蓮生
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 向葵
(72)【発明者】
【氏名】早見 璃音
(72)【発明者】
【氏名】曽根 匠真
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特許第7278513(JP,B1)
【文献】特開2017-133978(JP,A)
【文献】特表2015-536464(JP,A)
【文献】岩下伸行,外3名,ニンヒドリン比色法によるアミノ酸態窒素の定量について,関税中央分析所報,2005年,第45号,49-54
【文献】小木修,微分方程式で理解する反応速度論,ぶんせき,日本,2014年,3,94-100
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00,31/16,31/22,
G01N 33/68,
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
40℃以上の任意の温度条件Tにおけるヨウ素濃度[Iのヨウ素溶液を添加したアミノ酸であるLeu溶液と、同一の温度条件Tにおける濃度既知のニンヒドリン溶液を混合すると同時に、前記温度条件に保持し、前記混合溶液のヨウ素の褐色が視認できる任意の時刻tにおいて、前記混合溶液を直ちに5℃以下になるよう冷却し、酸化還元滴定によって算出される時刻tにおける前記混合溶液のヨウ素濃度[I及び、[Iを下記の式(1)に代入することでアミノ酸濃度を算出する方法。
[I-[I=(1-e-kt)[アミノ酸] ・・・(1)
式中、[アミノ酸]は前記混合溶液中のアミノ酸初期濃度(mol/L)、kはニンヒドリン濃度(mol/L)及び、温度条件Tに依存する定数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素溶液を添加したニンヒドリン反応によって、ルーエマン紫の生成を抑制したアミノ酸の分解反応を起こし、この時のアミノ酸の分解量と一致するヨウ素の減少量をヨウ素滴定によって求め、アミノ酸の種類と濃度に起因するニンヒドリン反応速度に基づいて、前記ヨウ素の減少量からアミノ酸濃度を算出することを特徴とする、アミノ酸の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸溶液にニンヒドリン溶液を加えて加温すると、ルーエマン紫が生じ青紫色を呈する。この反応はニンヒドリン反応と呼ばれ、アミノ酸及び、タンパク質や各種ペプチドの検出に利用される。また、アミノ酸濃度が高いほど、ニンヒドリン反応で生じるルーエマン紫の生成量が増え濃い発色を示すため、この発色の度合いからアミノ酸を定量できる比色法を用いたアミノ酸の定量装置は広く活用されている。
【0003】
また、ニンヒドリン反応における反応開始時刻から、反応で生じるルーエマン紫の呈色を視認できる時刻の最小値までの時間が示す呈色時間は、アミノ酸溶液濃度によって決まるため、ニンヒドリン反応の反応速度式を用いて、前記呈色時間からアミノ酸を定量することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許7278513
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ニンヒドリン反応の中間生成物(還元型ニンヒドリン)及び、反応で生じるルーエマン紫は容易に空気酸化されるため、反応で生じるルーエマン紫の生成量は必ずしもアミノ酸の分解量を示さない。従って、このルーエマン紫の収率を高めるよう酸化防止剤を添加するなどの処理が必要となる。このため、アミノ酸濃度とルーエマン紫の呈色の度合いを数式によって定量化することはできず、比色法では経験的にアミノ酸を定量している。比色法でアミノ酸を定量する際、この酸化反応に起因するルーエマン紫の収率の低下によって、アミノ酸濃度とルーエマン紫の呈色の度合いを対比させることが難しいという課題がある。さらに、この比色法によって、アミノ酸が複数の種類含まれるアミノ酸混合溶液を分離することなく定量することは困難である。
【0006】
ニンヒドリン反応において、ルーエマン紫の呈色をはじめて視認できる瞬間までのごく短い時間を測定することでも、アミノ酸濃度と相関を持つこの時間を指標にアミノ酸を定量できるが、目視によって呈色の瞬間を測定することに客観性はなく、より明確な指標が必要とされることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ヨウ素共存下でニンヒドリン反応を起こすと、反応溶液中のニンヒドリン濃度は一定に保たれ、ルーエマン紫の生成は抑制されるにも関わらずアミノ酸は分解され、この時、ヨウ素の減少量とアミノ酸の分解量が一致するアミノ酸一次分解反応の反応機構を見出した。
【0008】
本発明は、40℃以上の任意の温度条件Tにおけるヨウ素濃度[Iのヨウ素溶液を添加したアミノ酸であるLeu溶液と、同一の温度条件Tにおける濃度既知のニンヒドリン溶液を混合すると同時に、前記温度条件に保持し、前記混合溶液のヨウ素の褐色が視認できる任意の時刻tにおいて、前記混合溶液を直ちに5℃以下になるよう冷却し、酸化還元滴定によって算出される時刻tにおける前記混合溶液のヨウ素濃度[I及び、[Iを下記の式(1)に代入することでアミノ酸濃度を算出する方法である。
[I-[I=(1-e-kt)[アミノ酸] ・・・(1)
式中、[アミノ酸]は前記混合溶液中のアミノ酸初期濃度(mol/L)、kはニンヒドリン濃度(mol/L)及び、温度条件Tに依存する定数である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ヨウ素共存下でニンヒドリン反応を起こすことで、中間生成物(還元型ニンヒドリン)を酸化してニンヒドリン濃度を一定に保ちながら、ルーエマン紫の生成を抑制したアミノ酸一次分解反応を可能にし、アミノ酸の分解量と等しいヨウ素の減少量をヨウ素滴定によって求めるだけでアミノ酸を定量できる。高価な分析機器を必要とせず、アミノ酸を簡易に定量できる効果がある。
【0010】
さらに、本発明は前記アミノ酸一次分解反応の反応速度に基づいてアミノ酸を定量する方法であるため、アミノ酸の種類によるニンヒドリン反応の反応速度の違いを用いることで、アミノ酸が複数の種類含まれるアミノ酸混合溶液でも、それぞれのアミノ酸を同時に定量できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ニンヒドリン反応の経時変化を示す図である。
図2】ニンヒドリン反応の反応機構を示す図である。
図3】過酸化水素水共存下のニンヒドリン反応の経時変化を示す図である。
図4】過酸化水素水を添加したニンヒドリン溶液の350nmの吸光度の変化を示す図である。
図5】過酸化水素水共存下のニンヒドリン反応溶液の自作の旋光度測定装置で測定したロイシン溶液の旋光度の経時変化を示す図である。
図6】自作の旋光度測定装置を示す図である。
図7】蒸留水とトレオニン溶液の自作の旋光度測定装置で測定した照度の、偏光板の回転角度に対する関係及び、旋光度の定義を示す図である。
図8】自作の旋光度測定装置で測定した様々なアミノ酸溶液の旋光度を示す図である。
図9】自作の旋光度測定装置で測定した旋光度のアミノ酸溶液濃度に対する関係を示す図である。
図10】ヨウ素溶液共存下のニンヒドリン反応溶液の経時変化を示す図である。
図11】ヨウ素溶液を添加したニンヒドリン溶液の350nmの吸光度の変化を示す図である。
図12】ヨウ素溶液を添加したアミノ酸溶液の自作の旋光度測定装置で測定した旋光度の経時変化を示す図である。
図13】ヨウ素溶液共存下のニンヒドリン反応溶液の自作の旋光度測定装置で測定したロイシン溶液の旋光度の経時変化を示す図である。
図14】ヨウ素溶液共存下のニンヒドリン反応溶液の350nmの吸光度の変化を示す図である。
図15】ヨウ素溶液共存下のニンヒドリン反応(アミノ酸一次分解反応)の反応機構を示す図である。
図16】ヨウ素溶液共存下のニンヒドリン反応溶液のアミノ酸濃度の変化率を示す図である。
図17】アミノ酸一次分解反応の反応速度からアミノ酸を定量する理論を示す図である。
図18】反応時間に対するlog[アミノ酸]の関係を示す図である。
図19】ヨウ素溶液共存下のニンヒドリン反応(アミノ酸一次分解反応)を用いてアミノ酸を定量する方法を示す図である。
図20】アミノ酸定量の検証結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ニンヒドリン反応とは、ニンヒドリンとアミノ酸からなる混合溶液を加温すると紫色に呈色する反応で、アミノ酸の定性分析法として広く知られている(図1)。ニンヒドリン反応を起こすには、その反応速度を高める必要があり、一定の反応温度が必要になる。ロイシンなど多種のアミノ酸は、常温ではほとんど反応せず、40℃以上で反応を起こす。また、5℃以下の温度条件下ではニンヒドリン反応は起こらない。この反応機構は、まず、一段階目にニンヒドリンとアミノ酸が反応して、中間生成物である還元型ニンヒドリンが生成する。次いで、二段階目に還元型ニンヒドリンと未反応のニンヒドリンが縮合してルーエマン紫を生成して呈色する(図2)。
【0013】
ニンヒドリン反応を酸化剤共存下で起こせば、図2の還元型ニンヒドリンは酸化され、ルーエマン紫の生成を抑制しつつ(二段階目へは反応は進まない)、アミノ酸は分解されるような反応機構を実現できると構想した。この時、アミノ酸の分解量を酸化剤の減少量に置き換えることができるような関係が示されるならば、この酸化剤の減少量とニンヒドリン反応の反応速度式を用いてアミノ酸を定量できる。
【0014】
まず、酸化剤に過酸化水素を用いた。60℃の温度条件下で、蒸留水及び、30%過酸化水素水をそれぞれ1mL添加した0.15mol/Lロイシン溶液10mLに、0.05mol/Lニンヒドリン溶液10mLを加えてニンヒドリン反応を起こし、過酸化水素が還元型ニンヒドリンを酸化し、ルーエマン紫を生じることなくアミノ酸を分解できるかその経時変化を観察すると、図3のように過酸化水素共存下ではルーエマン紫は生成しないことがわかった。
【0015】
しかしながら、60℃の温度条件下で、0.05mol/Lニンヒドリン溶液20mLに3%過酸化水素水1mLを加え、混合直後及び、5、10、15分後における350nmの吸光度を測定し、過酸化水素とニンヒドリンの反応を調べると、ニンヒドリンの吸光度(350nm)は、反応時間に対し減少した(図4)。つまり、過酸化水素は還元型ニンヒドリンには作用せず、ニンヒドリンに直接作用したと考えられる。
【0016】
後述する自作の旋光度測定装置を用い、60℃の温度条件下で、30%過酸化水素水5mLを添加した0.15mol/Lロイシン溶液140mLに0.05mol/Lニンヒドリン溶液70mLを加え、混合直後及び、10、20、30分後の反応溶液をそれぞれ5℃以下となるよう直ちに急冷して反応を抑制した反応溶液の旋光度を測定すると、反応時間に対し旋光度の変化は無く(図5)、アミノ酸は分解されないこともわかった。強い酸化力を持つ過酸化水素の添加では、そもそもニンヒドリン反応自体が起こらず、[0013]で構想した目的の反応機構は作れないことがわかった。
【0017】
前記自作の旋光度測定装置を、アミノ酸濃度を直接測るため用いた(図6)。アミノ酸溶液を充填したパイプの両端を培養試験管で塞ぎ、二枚の偏光板を左右にそれぞれ配置する。LED光源から照射され、アミノ酸溶液を透過した光を照度計で測定する。照度計側の偏光板は固定し、LED光源側の偏光板を回転させ、二枚の偏光板が直交する位置を0°とし、-25°、-20°、-15°、-10°、-5°、0°、5°、10°、15°、20°、25°の角度に変化させ、偏光板の回転角度に対する照度を測定した。
【0018】
蒸留水及び、0.15mol/Lトレオニン溶液の前記自作の旋光度測定装置を用いて測定した回転角度に対する照度の関係を示す(図7)。蒸留水は二枚の偏光板が直交する0°付近で最も暗く、y軸対称の照度を示した。トレオニン溶液は、最も暗くなる位置が、蒸留水に対し左側に移動した。ここで、この自作の旋光度測定装置で求めることができる旋光度を定義する(図7)。偏光板の回転角度と照度の関係を二次関数で近似し、照度が極小となるx、すなわち二次関数の軸-b/2aを旋光度とした。
【0019】
前記旋光度の定義に基づき、様々なアミノ酸(Ala、Val、Thr、Cys、Leu、Ile、Phe、Arg)溶液の旋光度を測定すると、アミノ酸の種類に対し異なる旋光度を示し、アミノ酸の濃度を変化させても同様の傾向が見られた(図8)。アミノ酸で異なる立体構造によって、固有の旋光度を持つと考えられる。さらに、アミノ酸濃度と旋光度の関係を調べると、どのアミノ酸も濃度に対し、旋光度は比例関係を示した(図9)。旋光度から、アミノ酸濃度を直接測定できる。ただ、この旋光度を用いたアミノ酸の定量法には、多量の試料溶液が必要で、アミノ酸の種類によっては旋光度が小さく低濃度の測定が難しいこと、さらにアミノ酸が複数の種類混合された状態では定量できないなどの課題がある。
【0020】
次に、酸化力の比較的弱いヨウ素を酸化剤に用い、[0013]で構想した目的の反応機構によって還元型ニンヒドリンを酸化し、ルーエマン紫の生成を抑制するような反応を見出せるか同様に検証した。ヨウ素(分子量253.8)25.38gとヨウ化カリウム(分子量166)50.76gを500mLのメスフラスコで調製した0.2mol/LI 溶液を希釈して、各実験のヨウ素溶液として用いた。図10に各濃度のヨウ素溶液を添加したニンヒドリン反応溶液の経時変化を示す。60℃の温度条件下で、各濃度のヨウ素溶液1mLを添加した0.15mol/Lロイシン溶液20mLに、0.05mol/Lニンヒドリン溶液20mLを加えた反応溶液の経時変化を観察した。どれもヨウ素共存下では二段階目の反応へは進まない。また、添加したヨウ素溶液の濃度が高い程、一段階目の反応で止めることが出来る時間が長くなることもわかる。つまり、ニンヒドリン反応溶液にヨウ素を過剰量添加すれば、ルーエマン紫の生成を抑制できる。
【0021】
構想通り、本当にヨウ素が還元型ニンヒドリンに作用しルーエマン紫の生成を抑制しているか以下の実験で確認した。まず、60℃の温度条件下で、0.05、0.025、0.0125mol/L各濃度のニンヒドリン溶液5mLに0.2mol/Lヨウ素溶液1mLをそれぞれ添加して、各反応時間において、1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液1mLを添加してヨウ素の呈色を消失させて350nmの吸光度を測定し、ヨウ素のニンヒドリンへの作用を調べると、反応時間に対しニンヒドリンの吸光度(350nm)は一定値を示した(図11)。ヨウ素はニンヒドリンには作用しないと考えられる。
【0022】
次に、60℃の温度条件下で、0.15mol/Lロイシン溶液及び、トレオニン溶液140mLに0.2mol/Lヨウ素溶液30mLをそれぞれ加え、0、10、20、30分後に1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液20mLを添加してヨウ素の呈色を消失させ、各反応時間における溶液の旋光度を自作の旋光度測定装置で測定し、ヨウ素のアミノ酸への作用を調べると、同様に旋光度は変化せず(図12)、添加したヨウ素はアミノ酸にも作用しないことを確かめた。つまり、ヨウ素はニンヒドリンとアミノ酸には直接作用せず、還元型ニンヒドリンに作用し、ヨウ素の添加によって目的の反応機構を見出せる可能性が示された。
【0023】
この時、アミノ酸の分解が本当に起こっているか、60℃温度条件下で、0.2mol/Lヨウ素溶液30mLを添加した0.15mol/Lロイシン溶液140mLに、0.05mol/Lニンヒドリン溶液70mLを加え、自作の旋光度測定装置を用いて旋光度の経時変化を測定して調べた。30%過酸化水素水5mLを添加してニンヒドリンの呈色を、2mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液20mLを添加してヨウ素の呈色を消失させ、さらに、緩衝液pH5で調整した。結果、反応時間に対しヨウ素溶液を添加したニンヒドリン反応溶液の自作の旋光度計によって測定した旋光度の絶対値は減少し(図13)、[0016]の酸化剤として過酸化水素水を添加した場合とは異なり、アミノ酸が分解されることを確かめた。つまり、ヨウ素の添加で[0013]で構想した反応が起こる。
【0024】
さらに、ヨウ素共存下のニンヒドリン反応溶液中のニンヒドリン濃度の経時変化を、60℃の温度条件下で、0.2mol/Lヨウ素溶液3mLを添加した0.15mol/Lグリシン溶液14mLに、それぞれ0.01、0.02、0.05mol/Lニンヒドリン溶液7mLを加えた反応溶液を、0、10、20、30分後に5℃以下となるよう直ちに急冷し、1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液2mLを添加してヨウ素の呈色を消失させ、350nmの吸光度を測定して調べた。この時、図2のニンヒドリン反応で生じる副産物であるアルデヒドの呈色が吸光度の測定に影響を及ぼさないよう、生じるアルデヒドが無色であるグリシンをアミノ酸に用いた。結果、ニンヒドリンの吸光度(350nm)は変化しないことがわかった(図14)。すなわち、ヨウ素によって酸化された還元型ニンヒドリンが、元のニンヒドリンに戻るループが起こると考えられる。このニンヒドリン濃度は一定に保たれながら、アミノ酸が分解される反応を、アミノ酸一次分解反応とした(図15)。
【0025】
図15のように、一分子のアミノ酸に対し、一分子の還元型ニンヒドリンが生成する。また、還元型ニンヒドリンとヨウ素も一対一で反応するため、アミノ酸の減少量とヨウ素の減少量は一致すると予想した。そこで、[0023]の実験で測定した旋光度から算出したアミノ酸濃度の変化率と、同実験条件における以下の方法で求めたヨウ素濃度の変化率を比較した。60℃の温度条件下で、0.2mol/Lヨウ素溶液30mLを添加した0.15mol/Lロイシン溶液140mLに、それぞれ0.05mol/Lニンヒドリン溶液7mLを加えた反応溶液を0、10、20、30分後に5℃以下となるよう直ちに急冷してアミノ酸の分解を抑制し、0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液で酸化還元滴定し、ヨウ素の減少量を測定した。このアミノ酸一次分解反応におけるニンヒドリン濃度は一定に保たれるため任意の濃度で構わないが、測定条件(反応時間・反応温度)を決める要因となる。また、冷却によってアミノ酸の分解が停止されれば、前記酸化還元滴定は、この状態における任意の時間に行えばよい。この時、ヨウ素の揮発による影響を補正するため、精製水10mLと0.2mol/Lヨウ素溶液2mLの混合溶液について同様の操作を行い、その滴定値を反応溶液の滴定値から減じることで、純粋に反応によって減少したヨウ素濃度を算出した。結果、旋光度から算出したアミノ酸濃度の変化率と、同実験条件におけるヨウ素濃度の変化率は極めて近い値を示した(図16)。すなわち、アミノ酸の分解速度をヨウ素の減少速度に置き換えることができる。つまり、ヨウ素滴定によって、アミノ酸の分解量を算出できる。
【0026】
図17に従って、アミノ酸一次分解反応の反応速度からアミノ酸を定量する理論を立てた。ニンヒドリン濃度は一定なので、アミノ酸の分解速度vは式▲1▼で表せる。kは、反応の過程で一定に保たれるニンヒドリン初期濃度を含む、アミノ酸の種類と反応温度に依存する反応速度定数である。これを変形して積分すると式▲2▼が得られる。反応時間tに対し、log[アミノ酸]は一次関数の関係にあり、傾きからkを算出できる。実験から求めたこの一次関数の関係をグラフに示す(図18)。傾きから、各温度のkが求まる。ここで、式▲2▼を変形して式▲3▼とし、ヨウ素の減少量とアミノ酸の分解量は等しいので、式▲4▼が成り立つ。つまり、k、t、ヨウ素滴定によるヨウ素の減少量から、反応溶液中のアミノ酸初期濃度[アミノ酸]が求まるため、測定に用いたアミノ酸濃度を算出できる。混合溶液の場合は、そのアミノ酸の数に相当する条件で式▲4▼の連立方程式を立てれば同様にそれぞれのアミノ酸を定量できる。
【0027】
図19の方法でアミノ酸一次分解反応を起こし、前述の理論で本当にアミノ酸を定量できるか検証した。[Iは反応直前の濃度を、[Iは反応で減少したヨウ素量を差し引いた濃度を示すため、それぞれ加温によるヨウ素の揮発量を事前に測定しておき補正した。任意の反応温度と反応時間を定め、その反応時間で直ちに5℃以下となるよう反応溶液を急冷して反応を抑制し、その後、反応で減少したヨウ素量を還元剤であるチオ硫酸ナトリウム溶液による酸化還元滴定によって求め、前記理論に基づいてアミノ酸濃度を算出すると、表のように、検証に用いた標準溶液の濃度と、算出した濃度は、すべての濃度域で近い値を示した(図20)。さらに、混合溶液においても、どの混合比でも同様に近い値を示し(図20)、混合された状態でも定量できることを検証した。これまでの理論に基づいて、残存ヨウ素量を滴定するだけでアミノ酸を定量できる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本来、ニンヒドリン反応は、酸化防止剤を加えルーエマン紫の収率を高めることが一般的であるのに対し、本発明では、逆に、酸化剤であるヨウ素を添加することで、ニンヒドリン濃度を一定に保った、一次分解反応とし、アミノ酸の分解量をヨウ素滴定だけで求めることを可能とする。現在、様々なアミノ酸の定量法によってタンパク質のアミノ酸組成分析を中心にアミノ酸の定量が行われている。特に医学分野では必須の解析である。従来の方法に対し、本発明は、ヨウ素滴定だけで、混合された状態でもアミノ酸を簡易に定量できる。今後、アミノ酸の定量分析方法の一つの選択肢となる期待が持てる。
【要約】      (修正有)
【課題】ニンヒドリン反応を用いるアミノ酸の定量方法ではルーエマン紫の収率が酸化反応によって低下するため、アミノ酸濃度と呈色の対比が難しく、また、アミノ酸が複数種類含まれる溶液の定量は困難である。
【解決手段】40℃以上の任意の温度Tにおけるヨウ素濃度[Iのヨウ素溶液を添加したアミノ酸であるLeu溶液と、同一温度のニンヒドリン溶液を混合して温度を保持し、ヨウ素の褐色が視認できる任意の時刻tにおいて混合溶液を直ちに5℃以下に冷却し、酸化還元滴定によって算出される時刻tにおける混合溶液のヨウ素濃度[I及び、[Iを下記の式(1)に代入することでアミノ酸濃度を算出する方法。
[I-[I=(1-e-kt)[アミノ酸]・・・(1)
式中、[アミノ酸]は混合溶液中のアミノ酸初期濃度(mol/L)、kはニンヒドリン濃度(mol/L)及び、温度条件Tに依存する定数である。
【選択図】図19
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