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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ブロー成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 23/04 20060101AFI20241007BHJP
   B65D 1/02 20060101ALI20241007BHJP
   B29C 49/46 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
B65D23/04
B65D1/02 100
B29C49/46
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021076640
(22)【出願日】2021-04-28
(65)【公開番号】P2022170486
(43)【公開日】2022-11-10
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006909
【氏名又は名称】株式会社吉野工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉野 慶
【審査官】長谷川 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-019516(JP,A)
【文献】特開2002-321224(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194625(WO,A1)
【文献】特開2017-019249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 23/04
B65D 1/02
B29C 49/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面張力が25mN/m以下の樹脂によって内面が形成される前駆体内に気体と霧状のアルコールを供給することにより、前記前駆体を内面の中心線平均粗さRaが60nm以上150nm以下であるブロー成形品に成形する押し出しブロー成形工程を有し、
前記中心線平均粗さRaは、JIS B 0601に規定されている中心線平均粗さRaを測定面に対し適用できるように三次元に拡張したものであり、
前記樹脂は、15重量%以上30重量%以下のシリコーンを含有するシリコーン含有オレフィン系樹脂であり、
前記アルコールはエタノールであり、
前記押し出しブロー成形工程は、準備工程、加圧工程及び乾燥工程を有し、
前記準備工程は、型締めされたブロー成形型内に有底筒状の前記前駆体が設けられた状態にする工程であり、
前記加圧工程は、前記ブロー成形型のキャビティ内の前記前駆体内に加圧した前記気体と前記霧状のアルコールを供給することにより、前記前駆体を、前記霧状のアルコールが前記内面に衝突して付着し前記キャビティの形状に沿う形状をなす前記ブロー成形品に成形する工程であり、
前記乾燥工程は、前記ブロー成形品の前記内面に付着した前記アルコールを蒸発させる工程であることを特徴とするブロー成形品の製造方法。
【請求項2】
前記ブロー成形品は容器の少なくとも一部を形成する、請求項1に記載のブロー成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はブロー成形品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面が液体をはじく撥液性(撥水性)を有する成形品は、様々な用途において有用である。例えば、液体を収容する容器の内面に撥液性を与えた場合には、容器の内面に付着して残ることで使いきれない液体の残量を低減することができる。例えば特許文献1には、表面が撥液性を有する射出成形品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6732372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内面が良好な撥液性を有するブロー成形品が望まれている。
【0005】
そこで本発明の目的は、内面が良好な撥液性を有するブロー成形品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のブロー成形品の製造方法は、表面張力が25mN/m以下の樹脂によって内面が形成される前駆体内に気体と霧状のアルコールを供給することにより、前記前駆体を内面の中心線平均粗さRaが60nm以上150nm以下であるブロー成形品に成形する押し出しブロー成形工程を有し、前記中心線平均粗さRaは、JIS B 0601に規定されている中心線平均粗さRaを測定面に対し適用できるように三次元に拡張したものであり、前記樹脂は、15重量%以上30重量%以下のシリコーンを含有するシリコーン含有オレフィン系樹脂であり、前記アルコールはエタノールであり、前記押し出しブロー成形工程は、準備工程、加圧工程及び乾燥工程を有し、前記準備工程は、型締めされたブロー成形型内に有底筒状の前記前駆体が設けられた状態にする工程であり、前記加圧工程は、前記ブロー成形型のキャビティ内の前記前駆体内に加圧した前記気体と前記霧状のアルコールを供給することにより、前記前駆体を、前記霧状のアルコールが前記内面に衝突して付着し前記キャビティの形状に沿う形状をなす前記ブロー成形品に成形する工程であり、前記乾燥工程は、前記ブロー成形品の前記内面に付着した前記アルコールを蒸発させる工程であることを特徴とするブロー成形品の製造方法である。
【0008】
また、本発明のブロー成形品の製造方法は、上記構成において、前記ブロー成形品は容器の少なくとも一部を形成するブロー成形品の製造方法であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、内面が良好な撥液性を有するブロー成形品及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態のブロー成形品を製造するために前駆体を成形型で挟み込んだ時(型締め工程)の状態を示す概念図である。
図2図1に示す状態から前駆体内への気体と霧状のアルコールの供給(加圧工程)を開始した時の状態を示す概念図である。
図3図2に示す状態から気体と霧状のアルコールの供給(加圧工程)が更に進行した時の状態を示す概念図である。
図4図3に示す状態から気体と霧状のアルコールの供給(加圧工程)が完了し、アルコールが蒸発した時(乾燥工程)の状態を示す概念図である。
図5】実施例における撥液性の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を例示説明する。
【0013】
本発明の一実施形態のブロー成形品1(図4参照)は、表面張力が25mN/m以下の樹脂によって形成される内面1dの中心線平均粗さRaが60nm以上150nm以下であることを特徴とするブロー成形品1である。
【0014】
ブロー成形品1は、容器の少なくとも一部を形成してもよい。また、ブロー成形品1は、図1図4に示すブロー成形工程を経ることで製造される容器であってよい。このような容器を液体を収容する容器として用いる場合には、容器の内面1dに付着して残ることで使いきれない液体の残量を低減することができる。また、液体として水、ソース、醤油などの食品を用いる場合、フードロスを低減し、環境適合性(持続可能性)を高めることができる。
【0015】
内面1dを形成する樹脂は表面張力が25mN/m以下であれば特に限定されないが、例えば、シリコーン含有オレフィン系樹脂であるのが好ましい。シリコーン含有オレフィン系樹脂は特に限定されないが、例えば、シリコーン含有ポリプロピレン、シリコーン含有ポリエチレン、これらの組合せ等である。また、シリコーン含有量は特に限定されないが、例えば15重量%以上30重量%以下である。
【0016】
ブロー成形品1は、内面1dを有する最内層に加え、第1層としての最内層の外側に隣接する第2層を有してもよい。なお、第2層の外側に隣接する1つ以上の層を設けてもよい。第1層の厚さは特に限定されないが、例えば30μm以上70μm以下である。また、第2層の厚さは特に限定されないが、例えば650μm以上700μm以下である。
【0017】
第2層を形成する材料は特に限定されないが、例えばオレフィン系樹脂である。第2層を形成するオレフィン系樹脂は特に限定されないが、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE:Low Density Polyethylene)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE: Linear Low density Polyethylene)、高密度ポリエチレン(HDPE: High Density Polyethylene)などのポリエチレン、ポリプロピレン、これらの組合せ等である。
【0018】
前述した中心線平均粗さRaは、JIS B 0601に規定されている中心線平均粗さRaを測定面に対し適用できるように三次元に拡張したもので、例えば原子間力顕微鏡(AFM)によって測定することができる。ブロー成形品1の内面1d、すなわち最内層の内面1dは、中心線平均粗さRaが60nm以上150nm以下となるように形成することで、特にソースなどの食品に対し、良好な撥液性を発揮することができる。
【0019】
図1図4に示すブロー成形工程は、表面張力が25mN/m以下の樹脂によって内面が形成される前駆体2内に気体と霧状のアルコール3を供給することにより、前駆体2を内面1dの中心線平均粗さRaが60nm以上150nm以下であるブロー成形品1に成形する工程である(以下、霧ブロー工程ともいう)。より具体的に、霧ブロー工程は準備工程、加圧工程及び乾燥工程を有している。この霧ブロー工程は、押し出しブロー成形(EBM:Extrusion Blow Molding)によって行われる。なお、この霧ブロー工程は押し出しブロー成形に限らず、前駆体2として有底筒状に形成されたプリフォームを用いる2軸延伸ブロー成形によって行ってもよい。
【0020】
図1に示すように、準備工程は、型締めされたブロー成形型4内に有底筒状の前駆体2が設けられた状態にする工程である。ブロー成形型4は、ブロー成形品1の外形に対応する形状のキャビティ5(成形面)を有し、型締め・型開きが可能な分割型として設けられる。霧ブロー工程では、ブロー成形品1は筒状の口部1a、口部1aに連なる胴部1b及び胴部1bに連なる底部1cを有するボトル状の容器である。準備工程では、ブロー成形品1の積層構造に対応する積層構造を有するパリソンとも呼ばれる筒状の前駆体2を押し出し機から下方に押し出し、型締めにより前駆体2の底部を食い切ることで、図1に示すようにキャビティ5内に有底筒状の前駆体2が設けられた状態にする。
【0021】
図2図3に示すように、加圧工程は、キャビティ5内の前駆体2内に加圧した気体と霧状のアルコール3(図2図3内に白丸で示す)を供給することにより、前駆体2をキャビティ5の形状に沿う形状のブロー成形品1に成形する工程である。加圧工程では、適切な量のアルコール3を霧化し、気体とともに前駆体2内に供給することで、霧状のアルコール3が内面1dに衝突して付着したブロー成形品1を得ることができる。
【0022】
アルコール3は特に限定されないが、例えばエタノールである。
【0023】
図4に示すように、乾燥工程は、ブロー成形品1の内面1dに付着したアルコール3を蒸発させる工程である。アルコール3の蒸発は成形直後のブロー成形品1が保有する熱によって自然に行われるが、加熱によって行ってもよい。また、アルコール3の蒸発は、型開き前に行ってもよいし、型開き後に行ってもよい。乾燥工程を経ることで、内面1dの中心線平均粗さRaが60nm以上150nm以下のブロー成形品1を得ることができる。
【0024】
本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0025】
したがって、前述した実施形態のブロー成形品1及びその製造方法は、例えば以下に述べるような種々の変更が可能である。
【0026】
前述した実施形態のブロー成形品1は、表面張力が25mN/m以下の樹脂によって形成される内面1dの中心線平均粗さRaが60nm以上150nm以下であることを特徴とするブロー成形品1である限り、種々変更可能である。
【0027】
例えば、ブロー成形品1は、表面張力が25mN/m以下の樹脂によって内面が形成される前駆体2内に気体と霧状のアルコール3を供給することにより、前駆体2を内面1dの中心線平均粗さRaが60nm以上150nm以下であるブロー成形品1に成形するブロー成形工程(霧ブロー工程)によって製造されるブロー成形品1に限らない。
【0028】
すなわち、前述したように霧状のアルコール3を用いることで内面1dが粗面化されたブロー成形品1を形成するブロー成形工程に代えて、例えば、微粒子を前駆体2の材料に混ぜることで内面1dが微粒子で粗面化されたブロー成形品1を形成するブロー成形工程や、前駆体2を非相溶性の異種材料の混合によって形成することで内面1dが海島構造で粗面化されたブロー成形品1を形成するブロー成形工程などを用いてもよい。
【0029】
なお、前述した実施形態のブロー成形品1は、上記構成において、前記樹脂がシリコーン含有オレフィン系樹脂であるブロー成形品1であるのが好ましい。
【0030】
また、前述した実施形態のブロー成形品1は、上記構成において、容器の少なくとも一部を形成するブロー成形品1であるのが好ましい。
【実施例
【0031】
サンプル番号1~10のブロー成型品を製造し、撥液性を評価した。いずれのサンプルも円筒形の胴部を有する容量200mlの容器とし、層構造は最内層をシリコーン含有ポリプロピレン、外層をポリエチレンとする2層構造とし、押し出しブロー成形で製造した。サンプル番号1~7は、シリコーン含有ポリプロピレンとしてプライムポリマー社製のポリファイン(登録商標)(MF18R)を使用した。サンプル番号8~10は、ポリプロピレンをベースにシリコーン含有量を調整した材料を使用した。上記ポリファイン(登録商標)中のシリコーン含有量は15重量%であり、サンプル番号8では20重量%、サンプル番号9では25重量%、サンプル番号10では30重量%とした。なお、上記ポリファイン(登録商標)の表面張力は25mN/mである。
【0032】
また、サンプル番号1はブロー成形工程で空気のみを前駆体内に供給して製造し、サンプル番号2はブロー成形工程で霧状のエタノール1mlを前駆体内に供給して製造し、サンプル番号3はブロー成形工程で霧状のエタノール3mlを前駆体内に供給して製造し、サンプル番号4はブロー成形工程で霧状のエタノール5mlを前駆体内に供給して製造し、サンプル番号5はブロー成形工程で霧状の水1mlを前駆体内に供給して製造し、サンプル番号6はブロー成形工程で霧状の水3mlを前駆体内に供給して製造し、サンプル番号7はブロー成形工程で霧状の水5mlを前駆体内に供給して製造し、サンプル番号8~10はブロー成形工程で霧状のエタノール3mlを前駆体内に供給して製造した。
【0033】
各々のサンプルについて原子間力顕微鏡(AFM:Nanoscope 3a、日本ビーコ社製)を用いて測定した表面形状とその中心線平均粗さRaを図5に示す。
【0034】
また、各々のサンプルにおたふく社製お好みソースを収容し、胴部内面全体に付着させた後、10分間容器を正立状態で放置した直後のソースの滑落状態により、ソースに対する撥液性を評価した。その結果を図5に示す。○は初期位置まで液面が戻り、撥液性が良好であったことを示し、×は初期位置まで液面が戻らず、撥液性が乏しかったことを示している。また、「開始時」は10分間の放置直前の容器外観を示し、「10分後」は10分間の放置直後の容器外観を示している。
【0035】
図5に示す結果から分かるように、本発明の実施形態に該当しないサンプル番号1、2及び4~7は撥液性が乏しかったのに対し、本発明の実施形態に該当するサンプル番号3及び8~10は良好な撥液性が確認された。
【符号の説明】
【0036】
1 ブロー成形品
1a 口部
1b 胴部
1c 底部
1d 内面
2 前駆体
3 アルコール
4 ブロー成形型
5 キャビティ
図1
図2
図3
図4
図5