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特許7566469被覆顔料粒子、被覆顔料粒子の製造方法、及びインク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】被覆顔料粒子、被覆顔料粒子の製造方法、及びインク
(51)【国際特許分類】
   C09C 3/06 20060101AFI20241007BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20241007BHJP
   C09C 1/46 20060101ALI20241007BHJP
   C09C 1/48 20060101ALI20241007BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241007BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
C09C3/06
C09D11/322
C09C1/46
C09C1/48
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020014475
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021120443
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】芳野 斉
(72)【発明者】
【氏名】渡部 大輝
(72)【発明者】
【氏名】小林 遊磨
(72)【発明者】
【氏名】木下 賀雄
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-043462(JP,A)
【文献】特開平09-272816(JP,A)
【文献】国際公開第2016/143437(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/007668(WO,A1)
【文献】特表2009-525367(JP,A)
【文献】特表2001-525441(JP,A)
【文献】米国特許第06770367(US,B1)
【文献】特開平01-020267(JP,A)
【文献】特開2001-106937(JP,A)
【文献】特開平08-259838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 3/06
C09D 11/322
C09C 1/46
C09C 1/48
B41J 2/01
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック及び有機顔料からなる群より選択される少なくとも1種の顔料と、前記顔料の粒子表面の少なくとも一部に配置された非晶質のアルミナ水和物で形成された被覆層と、を備え、
前記顔料が、その粒子表面にアニオン性基が直接又は他の原子団を介して結合した自己分散顔料であり、
ゼータ電位が、+30mV以上+100mV以下であることを特徴とする被覆顔料粒子。
【請求項2】
前記顔料が、カーボンブラックである請求項1に記載の被覆顔料粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の被覆顔料粒子の製造方法であって、
カーボンブラック及び有機顔料からなる群より選択される少なくとも1種の顔料、並びにアルミニウム塩を含有するpH6.0以下の顔料水分散液を得る工程と、
前記顔料水分散液をpH6.0以下に保持しながら加熱して、前記顔料の粒子表面の少なくとも一部に非晶質のアルミナ水和物で形成された被覆層を配置する工程と、
を有し、
前記顔料が、その粒子表面にアニオン性基が直接又は他の原子団を介して結合した自己分散顔料であることを特徴とする被覆顔料粒子の製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウム塩が、ポリ塩化アルミニウムである請求項に記載の被覆顔料粒子の製造方法。
【請求項5】
前記顔料の使用量100質量部に対する、前記アルミニウム塩の使用量が、30質量部以上200質量部以下である請求項又はに記載の被覆顔料粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の被覆顔料粒子及び樹脂を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項7】
請求項に記載の樹脂組成物で形成されたことを特徴とする樹脂成形物。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の被覆顔料粒子及び液媒体を含有することを特徴とするインク。
【請求項9】
インクジェット用である請求項に記載のインク。
【請求項10】
インクと、前記インクを収容するインク収容部とを備えたインクカートリッジであって、
前記インクが、請求項に記載のインクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項11】
インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記インクが、請求項に記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆顔料粒子、被覆顔料粒子の製造方法、樹脂組成物、樹脂成形物、インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被覆顔料粒子は、顔料の粒子表面を所望とする化合物によって形成された被覆層で被覆することで製造される。例えば、カーボンブラックにアルミナゾルを噴霧した後、乾燥することで被覆顔料粒子を得る方法が提案されている(特許文献1)。また、顔料を塩化アルミニウム水溶液中に分散させた後、析出及び乾燥させることで被覆顔料粒子を得る方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-323191号公報
【文献】特開平11-172170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の方法によって製造された被覆顔料粒子は、水などの液媒体を加えると粘度の高いゲルが生成しやすく、分散状態にすることが困難であった。これは、顔料の表面に被覆層が形成されておらず、顔料とアルミニウム化合物の単なる混合物が形成されていたか、又は被覆層が容易に欠落してしまったためであると推測される。すなわち、特許文献1及び2で提案された方法では、樹脂組成物やインクなどの製品に配合される、優れた分散性が要求される被覆顔料粒子を製造することは困難であった。
【0005】
したがって、本発明の目的は、樹脂組成物やインクなどの製品に優れた分散状態で配合される被覆顔料粒子を提供することにある。また、本発明の別の目的は、この被覆顔料粒子の製造方法、この被覆顔料粒子を用いた樹脂組成物、樹脂成形物、インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明によれば、カーボンブラック及び有機顔料からなる群より選択される少なくとも1種の顔料と、前記顔料の粒子表面の少なくとも一部に配置された非晶質のアルミナ水和物で形成された被覆層と、を備え、前記顔料が、その粒子表面にアニオン性基が直接又は他の原子団を介して結合した自己分散顔料であり、ゼータ電位が、+30mV以上+100mV以下であることを特徴とする被覆顔料粒子が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、樹脂組成物やインクなどの製品に優れた分散状態で配合される被覆顔料粒子を提供することができる。また、本発明によれば、この被覆顔料粒子の製造方法、この被覆顔料粒子を用いた樹脂組成物、樹脂成形物、インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の被覆顔料粒子の一実施形態を示す模式図である。
図2】本発明の被覆顔料粒子の一実施形態を示す透過電子顕微鏡写真である。
図3】本発明のインクカートリッジの一実施形態を模式的に示す断面図である。
図4】本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置の一例を模式的に示す図であり、(a)はインクジェット記録装置の主要部の斜視図、(b)はヘッドカートリッジの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。また、インクジェット用の水性のインクのことを、単に「インク」と記載することがある。物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。
【0010】
<被覆顔料粒子>
(被覆層)
アルミナ水和物の水分散液を紙などの繊維状物質に塗工すると、アルミナ水和物は繊維状物質の表面近傍に付着する。その後、アルミナ水和物は繊維状物質を構成する各繊維を覆うように広がって繊維状物質に強固に付着することが、国際公開第2005-118304号に記載されている。この文献では、結晶質のアルミナ水和物が利用されている。アルミナ水和物の水分散性及び繊維状物質への付着力は、アルミナ水和物のヒドロキシ基により発揮されると推測される。すなわち、ヒドロキシ基によって水親和性が向上し、水分散性が高まると考えられる。さらに、アルミナ水和物のヒドロキシ基と、繊維状物質の表面に存在するヒドロキシ基との水素結合などの相互作用によって、付着力が高まると考えられる。
【0011】
本発明者らは、非晶質のアルミナ水和物で形成された被覆層で顔料の粒子表面を被覆することで、結晶質のアルミナ水和物と同等の水分散性及び付着力が得られることを見出し、本発明に至った。図1は、本発明の被覆顔料粒子の一実施形態を示す模式図である。図1に示すように、本実施形態の被覆顔料粒子10は、顔料2と、顔料2の粒子表面の少なくとも一部に配置された非晶質のアルミナ水和物で形成された被覆層4とを備える。一般的な顔料は、その粒子表面にヒドロキシ基などの極性基が存在する。顔料2の粒子表面に存在するヒドロキシ基と非晶質のアルミナ水和物との間で反応が生ずるため、粒子表面とアルミニウム原子とがエーテル結合により結合すると推測される。この反応は、脱水縮合であると推測される。また、非晶質のアルミナ水和物はヒドロキシ基(-OH基)を有するため、被覆層4の表面にはヒドロキシ基が存在する。非晶質のアルミナ水和物で被覆した顔料は、結晶質のアルミナ水和物よりもチクソ性が小さいため、粘度の変動による影響を考慮する必要がないという利点がある。チクソ性とは、せん断力が加わることで粘度が低下する特性をいう。
【0012】
非晶質のアルミナ水和物は、結晶構造が観察されないアルミナ水和物であり、AlOOHの組成で表され、ベーマイトと呼ばれる。被覆層が非晶質のアルミナ水和物で形成されていることは、透過型電子顕微鏡及び元素分析を使用して確認することができる。図2は、本発明の被覆顔料粒子の一実施形態を示す透過型電子顕微鏡写真である。図2では、顔料(房状に連なった多数のカーボンブラック)の粒子表面に非晶質のアルミナ水和物によって形成された被覆層が配置された顔料被覆粒子が観察される。カーボンブラックには結晶構造を示す縞状の模様が観察される。これに対して、被覆層には結晶構造を示す縞状の模様が観察されない。このように、透過型電子顕微鏡写真により、被覆層に縞状の模様が認められない場合、被覆層が非晶質の物質で形成されていると判断することができる。
【0013】
また、元素分析装置を備えた透過型電子顕微鏡を利用して被覆層及び顔料粒子を元素分析し、被覆層からアルミニウム、酸素原子、及び水素原子が検出されるとともに、顔料粒子からアルミニウムが検出されないことを確認する。これにより、被覆層がアルミナ水和物で形成されていると判断することができる。なお、物質の結晶構造を分析する手法としてはX線回折が汎用されるが、非晶質のアルミナ水和物で形成される被覆層の厚さは薄いので、その結晶構造をX線回折によって観察することは困難である。
【0014】
被覆層の厚さは、1nm以上10nm以下であることが好ましい。被覆層の厚さは、透過電子顕微鏡を使用し、被覆顔料粒子を観察して測定することができる。
【0015】
顔料の粒子表面に被覆層が存在することは、透過電子顕微鏡を使用して観察する方法以外に、以下に示す方法によっても確認することができる。被覆層を有しない顔料のゼータ(ζ)電位は、通常、マイナス(-)の値を示す。また、汎用の自己分散顔料はアニオン性基を有するため、ゼータ電位はマイナスの値を示す。これに対し、被覆層を有する被覆顔料粒子のゼータ電位は、粒子の表面電荷が反転しているため、プラス(+)の値を示す。表面電荷は、顔料の粒子表面が非晶質のアルミナ水和物によってある程度被覆された場合に反転する。このため、非晶質のアルミナ水和物によって被覆されていないと、表面電荷は反転せず、ゼータ電位はプラスの値とならない。
【0016】
分散性の観点では、被覆顔料粒子のゼータ電位は、+25mV以上であれば十分であり、+30mV以上であることが好ましい。一方、ゼータ電位が+25mV未満であると、被覆層による被覆が十分になされておらず、分散性が十分に得られない場合がある。被覆顔料粒子のゼータ電位は、+100mV以下であることが好ましく、+70mV以下であることが好ましい。被覆顔料粒子のゼータ電位は、ゼータ電位測定装置により測定することができる。
【0017】
被覆顔料粒子のゼータ電位のピークトップは一つであり、ピークトップが複数存在することはない。また、被覆顔料粒子のゼータ電位のピーク形状は、シャープな形状であり、ブロードな形状ではない。このため、ゼータ電位のピーク形状から、被覆層の均一性を推定することができる。
【0018】
(顔料)
顔料(顔料種)としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、炭酸カルシウム、酸化チタンなどの無機顔料;アゾ、フタロシアニン、キナクリドンなどの有機顔料などを用いることができる。なかでも、カーボンブラックや黒鉛などの無機顔料、及び有機顔料を用いることが好ましく、カーボンブラック及び黒鉛の少なくとも一方を用いることがさらに好ましい。黒鉛(グラファイト)としては、グラフェンなどを使用することができる。特に、他の顔料と比して粒子表面の反応活性点がより多く、効率的に被覆層を形成することができるため、カーボンブラックを顔料として用いることが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックなどいずれのカーボンブラックも使用することができる。
【0019】
カーボンブラックのDBP吸油量は、50mL/100g以上200mL/100g以下であることが好ましい。なかでも、120mL/100g以上170mL/100g以下であることがさらに好ましく、120mL/100g以上150mL/100g以下であることが特に好ましい。DBP吸油量は、JIS K6221やASTM D 2414に準拠した方法により測定することができる。これらの方法は、100gのカーボンブラックに撹拌下でフタル酸ジブチルを滴下し、トルクが最大となった時点でのフタル酸ジブチルの添加量を測定する方法である。
【0020】
BET法によるカーボンブラックの比表面積は、100m/g以上600m/g以下であることが好ましい。BET法による比表面積は、JIS K 6217やASTM D 6556などに準拠した方法により測定することができる。これらの方法は、脱気したカーボンブラックを液体窒素に浸漬し、平衡に至った際のカーボンブラックの粒子表面に吸着している窒素量を測定する方法である。
【0021】
カーボンブラックの一次粒子径は、10nm以上40nm以下であることが好ましい。カーボンブラックは、通常、複数の一次粒子がブドウの房のように立体的に連なった状態で存在する。一次粒子径とは、1つの顔料粒子を形成する最小単位のカーボンブラック(一次粒子)の粒子径を意味する。カーボンブラックの一次粒子径は、透過型又は走査型の電子顕微鏡により、顔料粒子を形成する最小単位のカーボンブラックの粒子径を100点程度観察して測定し、その算術平均値として求めることができる。
【0022】
カーボンブラックの平均粒子径は、50nm以上200nm以下であることが好ましい。平均粒子径とは、通常存在する形態としてのカーボンブラックの粒子径を意味する。本発明においては、体積基準の粒子径分布の50%累積値[D50(nm)]として、動的光散乱方式の粒度分布測定装置などを用いて測定することができる。
【0023】
また、有機顔料の一次粒子径は、50nm以上150nm以下であることが好ましい。さらに、有機顔料の平均粒子径は、50nm以上250nm以下であることが好ましい。有機顔料の一次粒子径及び平均粒子径の定義は、いずれもカーボンブラックの一次粒子径及び平均粒子径の定義と同様である。
【0024】
顔料としては、分散剤として樹脂を用いた樹脂分散顔料や、顔料の粒子表面にアニオン性基などのイオン性基が結合している自己分散顔料などを用いることができる。また、顔料の粒子表面に樹脂を含む有機基を化学的に結合させた樹脂結合型顔料や、顔料の粒子の表面を樹脂などで被覆したマイクロカプセル顔料などを用いることができる。なかでも、自己分散顔料を用いることが好ましい。本発明では、非晶質のアルミナ水和物をその粒子表面に配置する対象が、樹脂分散剤やイオン性基の処理を行っていない顔料である場合だけでなく、樹脂分散顔料や自己分散顔料であっても、便宜上、「顔料」と記載する。
【0025】
自己分散顔料としては、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基などのアニオン性基が、顔料の粒子表面に直接又は他の原子団(-R-)を介して結合しているものを用いることができる。アニオン性基は、酸型及び塩型のいずれであってもよく、塩型である場合は、その一部が解離した状態及び全てが解離した状態のいずれであってもよい。アニオン性基が塩型である場合において、カウンターイオンとなるカチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アンモニウム、有機アンモニウムなどを挙げることができる。他の原子団(-R-)の具体例としては、炭素原子数1乃至12の直鎖又は分岐のアルキレン基;フェニレン基やナフチレン基などのアリーレン基;カルボニル基;イミノ基;アミド基;スルホニル基;エステル基;エーテル基などを挙げることができる。また、これらの基を組み合わせた基であってもよい。
【0026】
自己分散顔料の場合、顔料の粒子表面に直接又は他の原子団を介して結合したイオン性基が存在するため、被覆層を効率よく形成することができる。自己分散顔料のイオン性基密度(mmol/g)は、0.05mmol/g以上1.00mmol/g以下であることが好ましく、0.10mmol/g以上0.50mmol/g以下であることがさらに好ましい。イオン性基密度は、顔料1g当たりのイオン性基のモル数(mmol)で表される物性値であり、コロイド滴定法により求める。コロイド滴定法によるアニオン性基の分析にはメチルグリコールキトサンを用いることができ、カチオン性基の分析には塩酸を用いることができる。
【0027】
顔料を水性媒体中に分散させるための樹脂分散剤としては、アニオン性基の作用によって顔料を水性媒体中に分散させうるものを用いることが好ましい。樹脂分散剤としては、後述の樹脂、なかでも水溶性樹脂を用いることができる。インク中の顔料の含有量(質量%)は、樹脂分散剤の含有量に対する質量比率で、0.3倍以上10.0倍以下であることが好ましい。
【0028】
被覆層を形成する対象の顔料としては、未処理の顔料よりも、自己分散顔料又は樹脂分散顔料を用いることが好ましく、自己分散顔料を用いることがさらに好ましい。これは、安定な被覆層が効率よく形成されやすいためである。また、自己分散顔料や樹脂分散顔料を用いた場合、これらの処理を行っていない顔料と比較して、アルミニウム塩が反応しやすく、未反応のアルミニウム塩が反応系内に残存しにくいという点でも有利である。自己分散顔料を用いた場合、樹脂分散顔料と比較して、反応後の精製も容易である。
【0029】
<被覆顔料粒子の製造方法>
本発明の被覆顔料粒子の製造方法は、上述の被覆顔料粒子を製造する方法である。
本発明の被覆顔料粒子の製造方法は、顔料水分散液調製工程及び被覆工程を有する。顔料水分散液調製工程は、顔料及びアルミニウム塩を含有する顔料水分散液を得る工程である。また、被覆工程は、顔料水分散液をpH6.0以下に保持しながら加熱して、顔料の粒子表面の少なくとも一部に非晶質のアルミナ水和物で形成された被覆層を配置する工程である。
【0030】
顔料水分散液調製工程では、顔料及びアルミニウム塩を含有する顔料水分散液を得る。次の被覆工程では、顔料水分散液をpH6.0以下に保持して加熱するので、アルミニウム塩としては、酸性アルミニウム塩を用いることが好ましい。酸性アルミニウム塩としては、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩酸アルミニウム、(ポリ)塩化アルミニウムなどを挙げることができる。なかでも、酸性アルミニウム塩としては、ポリ塩化アルミニウムを用いることが好ましい。ポリ塩化アルミニウムは、他のアルミニウム塩と比べて、被覆工程でのpHが低くなりすぎず、顔料と混合して得られる顔料水分散液がゲル化しにくくなる。
【0031】
顔料に対するアルミニウム塩の量は、形成しようとする被覆層の厚さに応じて適宜設定することができる。具体的には、顔料100質量部に対して、アルミニウム塩30質量部以上200質量部以下を用いることが好ましい。また、顔料水分散液中の固形分(顔料及びアルミニウム化合物)の含有量(質量%)は、顔料水分散液全質量を基準として、1.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましい。
【0032】
顔料水分散液を構成する液媒体としては、水系の液媒体を用いる。この液媒体は、顔料の分散液やアルミニウム化合物の水溶液を構成するものであってもよい。具体的には、水のみ、又は、水を主体として有機溶剤を併用した水性媒体を用いることができる。有機溶剤としては、水と任意の割合で混和又は溶解するものを用いることが好ましい。なかでも、水を50質量%以上含有する均一な混合溶媒を水性媒体として用いることが好ましい。水としては、イオン交換水や純水を用いることが好ましい。
【0033】
例えば、(i)顔料の水分散液と、アルミニウム塩を混合する;(ii)顔料と、アルミニウムの水溶液を混合する;(iii)顔料の水分散液と、アルミニウムの水溶液を混合する;ことで、顔料水分散液を得ることができる。これらに限らず、得られる顔料水分散液のpHを6.0以下に保持しうる方法であれば、いずれの方法であってもよい。また、顔料水分散液のpHが6.0以下となるように調整するために、必要に応じて、酸やアルカリを顔料水分散液に添加してもよい。
【0034】
被覆工程では、得られた顔料水分散液をpH6.0以下に保持しながら加熱する。これにより、顔料の粒子表面の少なくとも一部に非晶質のアルミナ水和物で形成された被覆層を配置することができ、目的とする被覆顔料粒子が生成する。例えば、オートクレーブなどの装置を使用して顔料水分散液を加熱することができる。加熱時のpHを6.0以下に保持することで、非晶質の被覆層となる無定形アルミナ水和物が生成する。加熱時のpHが6.0を超えて11.0以下であると、結晶質の被覆層となるベーマイトが生成する。さらに、加熱時のpHが11.0を超えると、結晶質の被覆層となるバイヤライトが生成する。つまり、加熱時のpHが6.0超であると、結晶質のアルミナ水和物が生成するため、非晶質の被覆層を得ることはできない。
【0035】
顔料水分散液を、好ましくは撹拌しながら加熱する。アルミニウムは水中で水和し、ヒドロキシ基が形成される。形成されたヒドロキシ基は、顔料の粒子表面に存在するヒドロキシ基などの極性基と反応し、顔料の粒子表面に非晶質のアルミナ水和物が形成される。顔料水分散液を加熱する温度は、80℃以上150℃以下とすることが好ましい。加熱温度が80℃未満であると、顔料の粒子表面を非晶質のアルミナ水和物で被覆して被覆層を形成することがやや困難になる場合がある。一方、加熱温度が150℃超であると、形成されるアルミナ水和物が結晶化しやすくなる場合がある。
【0036】
上記の被覆工程によって、目的とする被覆顔料粒子が形成される。より具体的には、被覆顔料粒子の水分散液を得ることができる。必要に応じて精製し、水分散液中に残存した原料や反応副生物などを除去してもよい。限外ろ過などのろ過方法や、イオン交換樹脂を用いるイオン交換方法などの方法によって被覆顔料粒子を精製することができる。限外ろ過によって精製する場合、水分散液の電気伝導率が50mS/m以下となるまで精製することが好ましい。
【0037】
<樹脂組成物及び樹脂成形物>
本発明の樹脂組成物は、前述の被覆樹脂粒子及び樹脂を含有する。前述の被覆顔料粒子は、構成成分である顔料の種類を選択することで、種々の物理的特性又は化学的特性を示すようになる。例えば、カーボンブラック又は黒鉛の粒子表面に被覆層が配置された被覆顔料粒子である場合、このような構成の被覆顔料粒子は、熱伝導性又は導電性を示す。このため、このような被覆顔料粒子を樹脂に配合した樹脂組成物を成形することで、熱伝導性又は導電性を示す様々な形態の樹脂成形物を得ることができる。被覆顔料粒子と、樹脂とを含有する樹脂組成物を成形した、熱伝導性又は導電性を示す樹脂成形物としては、マスターバッチなどの着色材料;樹脂シート、トレーなどの樹脂製品;ガスケットなどのシール材;電極部材などを挙げることができる。グラフェンの粒子表面に被覆層が配置された被覆顔料粒子と、樹脂とを含有する樹脂組成物を成形することで、導電性シートや熱伝導性シートなどの樹脂成形物の他、強度部材や摺動性部材などの樹脂成形物とすることができる。
【0038】
(樹脂)
一般的に、有機顔料などの顔料を樹脂中に分散させるには、顔料の凝集などの課題が生じやすいとともに、顔料と樹脂との親和性が課題となる場合が多い。このため、顔料を樹脂中に分散させるには、高度な凝集抑制技術が必要となり、界面活性剤や分散剤などの分散を補助する成分を添加することが必要とされる。これに対して、前述の被覆顔料粒子は、非晶質のアルミナ水和物で形成された被覆層を有するため、その表面が無機物質に特有の性質を示す。したがって、被覆顔料粒子は、被覆層を有しない通常の顔料に比して各種樹脂との相溶性に優れているので、界面活性剤や分散剤などの分散を補助する成分を添加しなくとも、良好な状態で樹脂中に分散させることができる。
【0039】
樹脂組成物中の被覆顔料粒子の含有量は、目的とする樹脂成形物の種類や用途によって適宜設定することができ、特に限定されない。樹脂組成物中の被覆顔料粒子の含有量(質量%)は、樹脂組成物全体を基準として、通常、0.1質量%以上70.0質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以上50.0質量%以下である。上記の範囲内であれば、被覆顔料粒子を用いることによる熱伝導性又は導電性のような所望の性能が得られやすく、また、機械強度又は硬度のような樹脂の特性が損なわれることもない。
【0040】
樹脂としては、ポリエチレン、ポリスチレン、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、酢酸セルロース樹脂、硝酸セルロース樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、天然ゴムなどを挙げることができる。
【0041】
上記のなかでも、シリコーン樹脂が好ましい。シリコーン樹脂としては、メチルシリコーン樹脂、メチルフェニルシリコーン樹脂、フェニルシリコーン樹脂などの一般的なシリコーン樹脂を用いることができる。また、上記の一般的なシリコーン樹脂の他に、アルキッド変性シリコーン樹脂、ポリエステル変性シリコーン樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、ウレタン変性シリコーン樹脂、アクリル変性シリコーン樹脂などの変性シリコーン樹脂を用いることもできる。
【0042】
シリコーン樹脂としては、2液タイプのシリコーン樹脂(反応性シリコーン樹脂)を用いることもできる。反応性シリコーン樹脂としては、付加型硬化シリコーン樹脂、縮合型硬化シリコーン樹脂、過酸化物硬化シリコーン樹脂、カチオン型UVシリコーン樹脂などを挙げることができる。なかでも、入手が容易であるとともに、室温でも硬化しうる付加型硬化シリコーン樹脂が好ましい。付加型硬化シリコーン樹脂は、ビニルポリシロキサンとヒドロポリシロキサンで形成される。
【0043】
被覆顔料粒子及び樹脂を含有する樹脂組成物を成形することで、先に挙げたような各種の樹脂成形物を得ることができる。2液タイプのシリコーン樹脂を樹脂として用いる場合、樹脂組成物を基材などに塗工して硬化させることで、樹脂シートなどの樹脂成形物を得ることができる。また、被覆顔料粒子を樹脂に配合した後、二軸押出機などの成形機を使用して成形することで、ペレット化することもできる。さらに、得られたペレットを押出成形することで、所望とする形状を有する樹脂成形物とすることもできる。
【0044】
<インク>
本発明のインクは、前述の被覆顔料粒子及び液媒体を含有する、インクジェット用として好適なインクである。すなわち、本発明のインクは、被覆顔料粒子を色材として含有する。インク中の被覆顔料粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。インクには、調色などのために、染料などの色材をさらに含有させてもよい。
【0045】
(液媒体)
インクは、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体などの液媒体を含有する。なかでも、水性媒体として少なくとも水を含有する、水性のインクとすることが好ましい。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
【0046】
水溶性有機溶剤としては、アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、グリコールエーテル、含窒素極性溶剤、含硫黄極性溶剤などを用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、5.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましく、10.0質量%以上50.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
(樹脂)
インクには、樹脂を含有させることができる。インク中の樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上15.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0048】
樹脂は、(i)被覆顔料粒子の分散状態を安定化させるため、すなわち、樹脂分散剤やその補助としてインクに添加することができる。また、(ii)記録される画像の各種特性を向上させるためにインクに添加することができる。樹脂の形態としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、及びこれらの組み合わせなどを挙げることができる。樹脂は、水性媒体に溶解しうる水溶性樹脂であってもよく、水性媒体中に分散する樹脂粒子であってもよい。樹脂粒子は、色材を内包する必要はない。
【0049】
樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂などを挙げることができる。なかでも、アクリル系樹脂やウレタン樹脂が好ましく、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリレートに由来するユニットで構成されるアクリル系樹脂がさらに好ましい。
【0050】
アクリル系樹脂としては、親水性ユニット及び疎水性ユニットを構成ユニットとして有するものが好ましい。なかでも、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、芳香環を有するモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーの少なくとも一方に由来する疎水性ユニットと、を有する樹脂が好ましい。特に、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、スチレン及びα-メチルスチレンの少なくとも一方のモノマーに由来する疎水性ユニットとを有する樹脂が好ましい。これらの樹脂は、顔料との相互作用が生じやすいため、顔料を分散させるための樹脂分散剤として好適に利用することができる。
【0051】
親水性ユニットは、アニオン性基などの親水性基を有するユニットである。親水性ユニットは、例えば、親水性基を有する親水性モノマーを重合することで形成することができる。親水性基を有する親水性モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボン酸基を有する酸性モノマー、これらの酸性モノマーの無水物や塩などのアニオン性モノマーなどを挙げることができる。酸性モノマーの塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、有機アンモニウムなどのイオンを挙げることができる。疎水性ユニットは、アニオン性基などの親水性基を有しないユニットである。疎水性ユニットは、例えば、アニオン性基などの親水性基を有しない、疎水性モノマーを重合することで形成することができる。疎水性モノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、(メタ)アクリル酸ベンジルなどの芳香環を有するモノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル系モノマーなどを挙げることができる。
【0052】
ウレタン系樹脂は、例えば、ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得ることができる。また、鎖延長剤をさらに反応させたものであってもよい。オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを挙げることができる。
【0053】
(その他の添加剤)
インクには、必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、及びキレート化剤などの種々の添加剤を含有させることができる。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などを挙げることができる。インク中の界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上2.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0054】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、インクと、このインクを収容するインク収容部とを備える。そして、このインク収容部に収容されているインクが、上記で説明した本発明のインクである。図3は、本発明のインクカートリッジの一実施形態を模式的に示す断面図である。図3に示すように、インクカートリッジの底面には、記録ヘッドにインクを供給するためのインク供給口12が設けられている。インクカートリッジの内部はインクを収容するためのインク収容部となっている。インク収容部は、インク収容室14と、吸収体収容室16とで構成されており、これらは連通口18を介して連通している。また、吸収体収容室16はインク供給口12に連通している。インク収容室14には液体のインク20が収容されており、吸収体収容室16には、インクを含浸状態で保持する吸収体22及び24が収容されている。インク収容部は、液体のインクを収容するインク収容室を持たず、収容されるインク全量を吸収体により保持する形態であってもよい。また、インク収容部は、吸収体を持たず、インクの全量を液体の状態で収容する形態であってもよい。さらには、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【0055】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、上記で説明した本発明のインクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出して記録媒体に画像を記録する方法である。インクを吐出する方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式や、インクに熱エネルギーを付与する方式が挙げられる。本発明においては、インクに熱エネルギーを付与してインクを吐出する方式を採用することが特に好ましい。本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。
【0056】
図4は、本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置の一例を模式的に示す図であり、(a)はインクジェット記録装置の主要部の斜視図、(b)はヘッドカートリッジの斜視図である。インクジェット記録装置には、記録媒体32を搬送する搬送手段(不図示)、及びキャリッジシャフト34が設けられている。キャリッジシャフト34にはヘッドカートリッジ36が搭載可能となっている。ヘッドカートリッジ36は記録ヘッド38及び40を具備しており、インクカートリッジ42がセットされるように構成されている。ヘッドカートリッジ36がキャリッジシャフト34に沿って主走査方向に搬送される間に、記録ヘッド38及び40から記録媒体32に向かってインク(不図示)が吐出される。そして、記録媒体32が搬送手段(不図示)により副走査方向に搬送されることによって、記録媒体32に画像が記録される。
【実施例
【0057】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0058】
<アニオン性基密度の測定方法>
滴定試薬としてメチルグリコールキトサンを用いたコロイド滴定により、自己分散顔料のアニオン性基密度(mmol/g)を測定した。
【0059】
<顔料>
表1に示す種類の顔料を用意した。
【0060】
【0061】
また、表2に示す種類の顔料を定法にしたがってそれぞれ自己分散処理又は樹脂分散処理し、表2に示す種類の顔料を調製した。顔料21は、特表2009-518524号公報の記載に準じて、カーボンブラックを樹脂分散剤で封入して調製した樹脂分散顔料である。樹脂分散剤としては、スチレン/アクリル酸/メタクリル酸共重合体(共重合〔質量〕比77/10/13、酸価152mgKOH/g、重量平均分子量8,600)を用いた。
【0062】
【0063】
<処理剤>
顔料を被覆処理するための処理剤として、以下に示すアルミニウム塩1及びアルミナゾル1を用意した。
・アルミニウム塩1:ポリ塩化アルミニウム(商品名「タキバイン#1500」、多木化学製、固形分濃度(酸化アルミニウム換算)23.6%)
・アルミナゾル1:アルミナゾル(商品名「アルミナゾル520-A」、日産化学製)
【0064】
<被覆顔料粒子の製造>
(実施例1)
顔料1と水を混合し、顔料1の5%水分散液を得た。得られた顔料1の水分散液に、顔料100部に対して10部のアルミニウム塩1を添加した後、撹拌機(商品名「T.K.ロボミックス」、プライミクス製)を使用し、1,500rpmで30分間撹拌して、pH5.8の顔料水分散液を得た。得られた顔料水分散液をフラスコに入れ、80℃に加熱しながら3時間撹拌した後に25℃になるまで冷却した。撹拌後のpHは5.8であった。次いで、限外ろ過装置を使用し、電気伝導率が50mS/m以下になるまで精製して被覆顔料粒子を得た。透過電子顕微鏡を使用して観察することで、被覆層が非晶質のアルミナ水和物で形成されていることを確認した。
【0065】
(実施例2~32)
顔料の種類、顔料100部に対する処理剤の量、pH、及び加熱温度を表3-1に示すようにしたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、被覆顔料粒子を得た。
【0066】
(比較例1~6)
顔料の種類、顔料100部に対する処理剤の量、加熱前の顔料水分散液のpH、及び加熱温度を表3-2に示すようにしたこと以外は、前述の実施例1と同様の操作を行った。顔料水分散液のpHは、0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液により調整した。しかし、顔料水分散液がゲル化してしまい、被覆樹脂粒子を得ることができなかった。
【0067】
(比較例7~10)
顔料1、2、6、及び9を表面被覆処理せず、比較例7~10とした。
【0068】
(比較例11及び12)
特許文献1(特開2001-323191号公報)の「実施例2」の記載に準拠し、アルミナゾル1を顔料2及び6にそれぞれ噴霧添加した。その結果、全体がゲル化して以降の操作が不可能となり、顔料を被覆することができなかった。
【0069】
(比較例13~16)
特許文献2(特開平11-172170号公報)の記載にしたがって、アルミニウム塩1を用いて顔料粒子2、4、6、及び18をそれぞれ表面改質処理した。具体的には、各顔料とアルミニウム塩1を混合した後、遠心分離装置を使用し、10,000rpm、10分間処理した。その結果、全体がゲル化してしまい、顔料を被覆することができなかった。
【0070】
【0071】
【0072】
<評価>
製造した被覆顔料粒子について、以下に示す各評価を行った。下記の各項目の評価基準で、「A」及び「B」を許容できるレベル、「C」を許容できないレベルとした。評価結果を表4-1及び4-2に示す。
【0073】
(被覆顔料粒子の生成)
TEMグリッド(商品名「ハイレゾカーボンHRC-C10 STEM」、応研商事製)上に顔料水分散液を滴下した後、乾燥させて試料とした。透過型電子顕微鏡(商品名「TecnaiF20」、FEI製)を使用し、倍率100万倍で試料を観察するとともに画像を撮影し、被覆層の状態を観察した。また、調製した顔料水分散液の流動性を目視にて観察した。これらの結果から、以下に示す評価基準にしたがって被覆顔料粒子の生成を評価した。
A:結晶構造を示す縞模様が観察されず、非晶質の被覆層が顔料の粒子表面に配置されており、顔料水分散液にも流動性があった。
C:結晶構造を示す縞模様が観察され、被覆層が結晶質であった、又は、顔料水分散液がゲル化して流動性を示さなかった。
【0074】
(精製容易性)
顔料水分散液の電気伝導率が10mS/m以下になるまでに要した限外ろ過のサイクル数を計測し、以下に示す評価基準にしたがって精製容易性を評価した。
A:5回以下であった。
B:5回を超えて10回以下であった。
C:10回を超えても10mS/m以下にならなかった。
【0075】
(ゼータ電位)
ゼータ電位計(商品名「ZETASISER NANO」、MALVERN製)を使用して、被覆顔料粒子のゼータ電位(mV)を測定した。
【0076】
(分散性)
被覆顔料粒子の5%水分散液を調製し、密閉容器に入れて、25℃の環境で3ヶ月保存した。保存後の水分散液を目視にて観察し、以下に示す評価基準にしたがって分散性を評価した。
A:3ヶ月保存しても沈降物が生じていなかった。
B:1ヶ月の時点では沈降物が生じていなかったが、3ヶ月後には沈降物が生じていた。
C:1ヶ月の時点で沈降物が生じていた。
【0077】
(付着力)
被覆顔料粒子の0.1%水分散液を調製し、スポイトを用いてろ紙に一滴滴下して、ろ紙上で円形に広げた。円形に広がった水分散液のうち、着色した部分(着色部)と、その外側に形成された着色のない部分(無色部)の直径をそれぞれ測定した。そして、下記式(1)にしたがって「にじみ率」を算出し、以下に示す評価基準にしたがって紙基材に対する被覆顔料粒子の付着力を評価した。この評価は、被覆顔料粒子を含有するインクを用いて記録する場合の画像品位の指標として利用することができる。Bランクであれば、一般的な普通紙に2ポイント程度の文字を記録しても、細線に滲みがない鮮明な画像を記録することができる。
にじみ率=着色部の直径/無色部の直径 ・・・(1)
A:にじみ率が0.5以下であった。
B:にじみ率が0.5超0.8以下であった。
C:にじみ率が0.8超であった。
【0078】
(樹脂組成物の粘度)
被覆顔料粒子とシリコーンオイル(商品名「シリコーンオイル-V41」、信越シリコーン製)を混合し、被覆顔料粒子の含有量が20体積%である樹脂組成物を調製した。25℃において、コーンプレート型のE型粘度計を使用して調製した樹脂組成物の粘度を測定し、以下に示す評価基準にしたがって樹脂組成物の粘度を評価した。
A:粘度が5,000Pa・s未満であった。
B:粘度が5,000Pa・s以上10,000Pa・s未満であった。
C:粘度が10,000Pa・s以上であった。
【0079】
【0080】
【0081】
(インクジェット記録方法による画像の評価)
実施例3の被覆顔料粒子及び比較例7の顔料をそれぞれ用いて、以下に示す組成のインクを調製した。界面活性剤としては、商品名「アセチレノールE100」(川研ファインケミカル製)を用いた。
・被覆顔料粒子(顔料):3.0%
・グリセリン:10.0%
・トリエチレングリコール:10.0%
・界面活性剤:0.3%
・イオン交換水:残部
【0082】
調製したインクをインクジェット記録装置(商品名「PIXUS TS-5130」、キヤノン製)のブラックインクカートリッジに充填し、記録デューティ100%のベタ画像を普通紙(商品名「PB紙」、キヤノン製)に記録した。このインクジェット記録装置では、1/600インチ×1/600インチの単位領域に11.2ng±10%のインクを2滴付与する条件で記録した画像を、記録デューティが100%であると定義する。濃度計(商品名「FD-7」、コニカミノルタ製)を使用して記録した画像の光学濃度を測定した。その結果、実施例3の被覆顔料粒子を用いて調製したインクで記録した画像の光学濃度は1.2であった。一方、比較例7の顔料を用いて調製したインクで記録した画像の光学濃度は1.0であった。

図1
図2
図3
図4