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特許7566472セルロースナノファイバー乾固体、及びセルロースナノファイバーの再分散液の製造方法
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  • 特許-セルロースナノファイバー乾固体、及びセルロースナノファイバーの再分散液の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバー乾固体、及びセルロースナノファイバーの再分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/00 20060101AFI20241007BHJP
   C08J 3/11 20060101ALI20241007BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20241007BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
C08B15/00
C08J3/11 CEP
C08L1/02
C08L101/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020022573
(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2021127383
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-11-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】内村 洋文
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-070747(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189318(WO,A1)
【文献】特開2018-095761(JP,A)
【文献】特開2019-073661(JP,A)
【文献】国際公開第2011/093147(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/010016(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 15/00
C08J 3/11
C08L 1/02
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーの再分散液の製造方法であって、
セルロースナノファイバーを第1の分散媒に分散させてなる分散液を調製する分散工程と、
前記分散液を乾燥させてセルロースナノファイバー乾固体を得る乾燥工程と、
前記セルロースナノファイバー乾固体を第2の分散媒に再分散させて再分散液を調製する再分散工程と、
を含み、
前記セルロースナノファイバー乾固体のみかけ密度が210g/L~1500g/Lであり、
前記第2の分散媒が非プロトン性極性溶媒であり、
前記再分散液のセルロースナノファイバーを固形分率0.5質量%の水分散体に調整した再分散液の水分散体のシェアレート100秒-1における粘度が、前記分散液のセルロースナノファイバーを固形分率0.5質量%の水分散体に調整した分散液の水分散体のシェアレート100秒-1における粘度の30%以上である、方法。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバー乾固体の平均置換度DSが、0.5以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバー乾固体における分散剤の含有率が1質量%未満である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記再分散を、撹拌による剪断力の付与によって行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記剪断力を、超音波、ビーズミル、ボールミル、及びホモミキサーからなる群から選択される1つ以上を用いて付与する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記非プロトン性極性溶媒が、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、及びジメチルホルムアミドからなる群から選択される1種以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
再分散工程中及び/又は再分散工程後に、セルロースナノファイバーを化学修飾することを更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
セルロースナノファイバーと有機バインダーとを含むセルロースナノファイバー複合体の製造方法であって、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法でセルロースナノファイバーの再分散液を調製する工程、及び
前記再分散液又はその乾燥体と有機バインダーとを混合する工程、
を含む、方法。
【請求項9】
セルロースナノファイバーと樹脂とを含む樹脂複合体の製造方法であって、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法でセルロースナノファイバーの再分散液を調製する工程、及び
前記再分散液、前記再分散液の第2の分散媒を水に置換した水分散液又はそれらの乾燥体と樹脂とを混合する混合工程、
を含む、方法。
【請求項10】
セルロースナノファイバーと熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
解繊されたセルロースナノファイバーの乾固体であるセルロースナノファイバー固形体を得るセルロースナノファイバー固形体形成工程、
前記セルロースナノファイバー固形体を第2の分散媒に再分散させて再分散液を調製する再分散工程、及び
前記再分散液、前記再分散液の第2の分散媒を水に置換した水分散液又はそれらの乾燥体と熱可塑性樹脂とを混練する混練工程、
を含み、
前記セルロースナノファイバー固形体のみかけ密度が210g/L~1500g/Lであり、
前記第2の分散媒が非プロトン性極性溶媒であり、
前記再分散液のセルロースナノファイバーを固形分率0.5質量%の水分散体に調整した再分散液の水分散体のシェアレート100秒-1における粘度が、前記解繊されたセルロースナノファイバーを固形分率0.5質量%の水分散体に調整した分散液の水分散体のシェアレート100秒-1における粘度の30%以上である、方法。
【請求項11】
前記セルロースナノファイバー固形体において、セルロースナノファイバーが水酸基の水素結合によって互いに固着している、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記セルロースナノファイバー固形体を、20℃の水中、2時間静置した後に水中から取り出したときの乾燥固形分の質量(X)の、静置前のセルロースナノファイバー固形体の質量(Y)に対する変化率(Y-X)/Yが30質量%以下である、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の分散媒が、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、及びジメチルホルムアミドからなる群から選択される、請求項1012のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバー乾固体、及びセルロースナノファイバーの再分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、軽く、加工特性に優れるため、自動車部材、電気・電子部材、事務機器ハウジング、精密部品等の多方面に広く使用されているが、樹脂単体では、機械特性、寸法安定性等が不十分である場合が多いことから、樹脂と各種フィラーとをコンポジットしたものが一般的に用いられている。近年、このようなフィラーとして、セルロースナノファイバー(CNF)等のナノ繊維を使用することが検討されている。CNFをはじめとしたナノ繊維は、乾燥状態では凝集し易いという性質があるため、安定分散が可能な分散液として製造される。セルロースナノファイバーを各種用途に適用する際には、上記分散液を一旦乾燥した後、分散媒中に再度分散させて再分散液を調製する場合がある。
【0003】
特許文献1は、製造されたセルロースナノファイバー分散液を乾燥させて生成されたセルロースナノファイバーの粉粒体を再度水系溶媒に分散させてセルロースナノファイバー分散液を再分散する方法において、セルロースナノファイバーの粉粒体を水系溶媒に再分散させる際に、攪拌すると共に、機械的せん断力を付与することを特徴とするセルロースナノファイバー分散液の再分散方法を記載する。
【0004】
特許文献2は、化学修飾されたフィブリルセルロースを処理する方法であって、化学修飾されたフィブリルセルロース材料を、ベルト(22)を含む熱乾燥装置(20)に導入し、フィブリルセルロース材料がベルト(22)上に少なくとも1つの棒状体を形成することと、少なくとも40℃の温度を有する加熱された空気流を用いて、化学修飾されたフィブリルセルロース材料をベルト(22)上において脱水し、熱乾燥装置(20)後にフィブリルセルロース材料の乾燥固体含有量が少なくとも10%であるように、化学修飾されたフィブリルセルロース材料を濃縮および/または乾燥させることと、を含むことを特徴とする方法を記載する。
【0005】
特許文献3は、(A)粉末状のナノファイバーに対し、(B)分散剤を固形分換算で1~40重量%配合してなり、かつ嵩密度が90~200g/Lであることを特徴とする粉末状ナノファイバーを記載する。
【0006】
特許文献4は、有機溶媒の存在下、セルロースナノファイバーをホモジナイズ処理した後、有機溶媒を除去し、水分含有量0~1質量%の乾燥した微小繊維を製造する方法を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2017/154568号
【文献】特表2015-512964号公報
【文献】特開2017-210596号公報
【文献】特開2012-224960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
セルロースナノファイバーを分散液の形態で貯蔵又は輸送する場合、セルロースナノファイバーが湿潤環境下に置かれるために劣化(腐敗等)し易いこと、並びに、分散媒が余分な容積及び重量を占めることによる保管コスト及び輸送コストの増大が問題となる。セルロースナノファイバーを乾燥状態で貯蔵及び輸送すれば、容積及び重量を低減できるとともに、用途に応じた他の材料との複合化が容易であるという利点も得られる。しかし、セルロースナノファイバーを分散液の状態から一旦乾燥させてしまうと、その後分散媒中に再分散させても乾燥前のセルロースナノファイバーの良好な分散状態を再現することは困難であった。
【0009】
本発明は上記の課題を解決し、良好な再分散性を示すセルロースナノファイバー乾固体、及び、分散液を乾燥させることで得たセルロースナノファイバー乾固体を分散媒中に再分散させた際に、乾燥前のセルロースナノファイバーの良好な分散状態を再現できる、セルロースナノファイバーの再分散液の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のみかけ密度となるように乾燥されてなるセルロースナノファイバーが、分散媒への分散性に優れることを見出し、本発明をなすに至った。すなわち本発明は以下の態様を包含する。
[1] セルロースナノファイバーの再分散液の製造方法であって、
セルロースナノファイバーを第1の分散媒に分散させてなる分散液を調製する分散工程と、
前記分散液を乾燥させてセルロースナノファイバー乾固体を得る乾燥工程と、
前記セルロースナノファイバー乾固体を第2の分散媒に再分散させて再分散液を調製する再分散工程と、
を含み、
前記再分散液のセルロースナノファイバーを固形分率0.5質量%の水分散体に調整した再分散液の水分散体のシェアレート100秒-1における粘度が、前記分散液のセルロースナノファイバーを固形分率0.5質量%の水分散体に調整した分散液の水分散体のシェアレート100秒-1における粘度の30%以上である、方法。
[2] 前記セルロースナノファイバー乾固体のみかけ密度が210g/L~1500g/Lである、上記態様1に記載の方法。
[3] 前記セルロースナノファイバー乾固体の平均置換度DSが、0.5以下である、上記態様1又は2に記載の方法。
[4] 前記セルロースナノファイバー乾固体における分散剤の含有率が1質量%未満である、上記態様1~3のいずれかに記載の方法。
[5] 前記第2の分散媒が、非プロトン性極性溶媒であり、
前記再分散を、撹拌による剪断力の付与によって行う、上記態様1~4のいずれかに記載の方法。
[6] 前記剪断力を、超音波、ビーズミル、ボールミル、及びホモミキサーからなる群から選択される1つ以上を用いて付与する、上記態様1~5のいずれかに記載の方法。
[7] 前記非プロトン性極性溶媒が、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、及びジメチルホルムアミドからなる群から選択される1種以上である、上記態様1~6のいずれかに記載の方法。
[8] 再分散工程中及び/又は再分散工程後に、セルロースナノファイバーを化学修飾することを更に含む、上記態様1~7のいずれかに記載の方法。
[9] みかけ密度が210g/L~1500g/Lである、セルロースナノファイバー乾固体。
[10] 平均置換度DSが、0.5以下である、上記態様9に記載のセルロースナノファイバー乾固体。
[11] 分散剤の含有率が、1質量%未満である、上記態様9又は10に記載のセルロースナノファイバー乾固体。
[12] セルロースナノファイバーと有機バインダーとを含むセルロースナノファイバー複合体の製造方法であって、
上記態様1~8のいずれかに記載の方法でセルロースナノファイバーの再分散液を調製する工程、及び
前記再分散液又はその乾燥体と有機バインダーとを混合する工程、
を含む、方法。
[13] セルロースナノファイバーと樹脂とを含む樹脂複合体の製造方法であって、
上記態様1~8のいずれかに記載の方法でセルロースナノファイバーの再分散液を調製する工程、及び
前記再分散液、前記再分散液の第2の分散媒を水に置換した水分散液又はそれらの乾燥体と樹脂とを混合する混合工程、
を含む、方法。
[14] セルロースナノファイバーと熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
解繊されたセルロースナノファイバーの乾固体であるセルロースナノファイバー固形体を得るセルロースナノファイバー固形体形成工程、
前記セルロースナノファイバー固形体を第2の分散媒に再分散させて再分散液を調製する再分散工程、及び
前記再分散液、前記再分散液の第2の分散媒を水に置換した水分散液又はそれらの乾燥体と熱可塑性樹脂とを混練する混練工程、
を含み、
前記再分散液のセルロースナノファイバーを固形分率0.5質量%の水分散体に調整した再分散液の水分散体のシェアレート100秒-1における粘度が、前記分散液のセルロースナノファイバーを固形分率0.5質量%の水分散体に調整した分散液の水分散体のシェアレート100秒-1における粘度の30%以上である、方法。
[15] 前記セルロースナノファイバー固形体において、セルロースナノファイバーが水酸基の水素結合によって互いに固着している、上記態様14に記載の方法。
[16] 前記セルロースナノファイバー固形体を、20℃の水中、2時間静置した後に水中から取り出したときの乾燥固形分の質量(X)の、静置前のセルロースナノファイバー固形体の質量(Y)に対する変化率(Y-X)/Yが30質量%以下である、上記態様14又は15に記載の方法。
[17] 前記第2の分散媒が、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、及びジメチルホルムアミドからなる群から選択される、上記態様14~16のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、良好な再分散性を示すセルロースナノファイバー乾固体、及び、分散液を乾燥させることで得たセルロースナノファイバー乾固体を分散媒中に再分散させた際に、乾燥前のセルロースナノファイバーの良好な分散状態を再現できる、セルロースナノファイバーの再分散液の製造方法が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】IRインデックス1730及びIRインデックス1030の算出法の説明図である。
図2】セルロースの水酸基の平均置換度の算出法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の例示の態様について以下具体的に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0014】
≪セルロースナノファイバーの再分散液の製造方法、及びセルロースナノファイバー乾固体≫
本開示の一態様は、セルロースナノファイバーの再分散液の製造方法であって、セルロースナノファイバーを第1の分散媒に分散させてなる分散液を調製する分散工程と、分散液を乾燥させてセルロースナノファイバー乾固体を得る乾燥工程と、セルロースナノファイバー乾固体を第2の分散媒に再分散させて再分散液を調製する再分散工程とを含む方法を提供する。
本発明の一態様はまた、再分散性に優れるセルロースナノファイバー乾固体を提供する。当該セルロースナノファイバー乾固体は、一態様においてみかけ密度210g/L~1500g/Lを有する。
【0015】
セルロースナノファイバーとは、パルプ等を100℃以上の熱水等で処理し、ヘミセルロースを加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル、ミキサー(例えばホモミキサー)等の粉砕法により解繊した微細なセルロースを指す。セルロースナノファイバーは後述のように化学修飾されたものであってもよい。セルロースナノファイバーは、乾燥状態で極めて凝集しやすいことから、通常のセルロースナノファイバー乾固体においてはセルロースナノファイバー同士が互いに強固に凝集しており、当該乾固体を分散媒中に再分散させても容易に再分散しないと考えられていた。本発明者は、予想外にも、特定範囲の高いみかけ密度を有するセルロースナノファイバー乾固体が、分散媒中で良好に再分散し得ることを発見した。分散媒中への再分散性が良好なセルロースナノファイバー乾固体は、例えばセルロースナノファイバーと樹脂との複合化の際に樹脂中に良好に分散できるため、セルロースナノファイバーと樹脂とを含む複合体(本開示で、樹脂複合体ともいう。)の物性向上効果に優れる。また本開示のセルロースナノファイバー乾固体は、高いみかけ密度を有することから、保管スペース及び輸送コストの低減という利点も有する。一態様において、セルロースナノファイバー乾固体のみかけ密度は、210g/L以上、又は300g/L以上、又は400g/L以上、又は500g/L以上であり、1500g/L以下、又は1400g/L以下、又は1300g/L以下、又は1200g/L以下である。
本開示のみかけ密度は、アルキメデス法によって求められ、電子天秤(例えばエー・アンド・デイ社製の電子天秤GR-202)及び比重計(例えばエー・アンド・デイ社製のAD-1653)を用いて得られる値である。
【0016】
セルロース原料としては、天然セルロース及び再生セルロースを用いることができる。天然セルロースとしては、木材種(広葉樹又は針葉樹)から得られる木材パルプ、非木材種(綿、竹、麻、バガス、ケナフ、コットンリンター、サイザル、ワラ等)から得られる非木材パルプ、動物(例えばホヤ類)や藻類、微生物(例えば酢酸菌)、が産生するセルロース繊維集合体を使用できる。再生セルロースとしては、再生セルロース繊維(ビスコース、キュプラ、テンセル等)、セルロース誘導体繊維、エレクトロスピニング法により得られた再生セルロース又はセルロース誘導体の極細糸等を使用できる。
【0017】
前記セルロース原料は、アルカリ可溶分、及び硫酸不溶成分(リグニン等)を含有するため、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程を経て、アルカリ可溶分及び硫酸不溶成分を減らしても良い。他方、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程はセルロースの分子鎖を切断し、重量平均分子量、及び数平均分子量を変化させてしまうため、セルロース原料の精製工程及び漂白工程は、セルロースの重量平均分子量、及び重量平均分子量と数平均分子量との比が、適切な範囲から逸脱しない程度にコントロールされていることが望ましい。
【0018】
また、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程はセルロース分子の分子量を低下させるため、これらの工程によって、セルロースが低分子量化すること、及びセルロース原料が変質してアルカリ可溶分の存在比率が増加することが懸念される。アルカリ可溶分は耐熱性に劣るため、セルロース原料の精製工程及び漂白工程は、セルロース原料に含有されるアルカリ可溶分の量が一定の値以下の範囲となるようにコントロールされていることが望ましい。
【0019】
前記セルロース原料は乾式粉砕処理によってセルロース原料を得る。乾式粉砕において用いられる粉砕機はどのような形式のものでも用いることができるが、その中でも高速回転衝撃式粉砕機が良好な形状のセルロース原料が得られるため、好ましい。高速回転衝撃式粉砕機とは粉砕室内で回転するピンや特殊な構造を有するローターがセルロース原料に衝撃、あるいは剪断等を与え、これを粉砕する方式の粉砕機である。また、乾式粉砕時の繊維ダメージを抑制するために、セルロース原料重量のある程度水分を含有させても構わない。
【0020】
この形式を有する粉砕機としては自由粉砕機、ニューコスモマイザー((株)奈良機械製作所製)、ヴィクトリーミル、ファーインヴィクトリーミル(ホソカワミクロン(株)製)、ターボミル(ターボ工業(株)製)、ウルトラローター((株)W.I.R製)、マキノ式粉砕機、ウルトラプレックス(槙野産業(株)製)、ファインミル(日本ニューマチック工業(株)製)、インペラーミル((株)セイシン企業製)、ディスクリファイナー(相川鉄工(株)製)等が挙げられる。
【0021】
前記セルロース原料をセルロースナノファイバーとするために繊維径を小さくする方法としては、特に制限はないが、解繊の処理条件(剪断場を与える方法、剪断場の大きさ等)をより高効率にすることが好ましい。又、剪断による結晶化度の低下を抑制するために溶媒を用いた湿式での解繊が好ましい。解繊溶媒としては特に制限されないが、例えば、水、非プロトン性溶媒が挙げられる。水は溶媒として安価であり、製造設備の防爆化等が不要であるため、好ましい。非プロトン性溶媒は、セルロース原料を浸漬させると、セルロースの膨潤が短時間で起こり、わずかな攪拌と剪断エネルギーを与えるだけで微細化していく。又、微細化前又は微細化時又は微細化後にセルロース修飾化剤を加えることにより、化学修飾されたセルロースナノファイバー(化学修飾セルロースナノファイバーともいう)を溶媒置換せずに直接得ることができる。したがって、非プロトン性溶媒は製造効率の観点から好ましい。
【0022】
非プロトン性溶媒としては、例えば、アルキルスルホキシド類、アルキルアミド類、ピロリドン類等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0023】
アルキルスルホキシド類としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メチルエチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のジC1-4アルキルスルホキシド等が挙げられる。
【0024】
アルキルアミド類としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジエチルホルムアミド等のN,N-ジC1-4アルキルホルムアミド;N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド等のN,N-ジC1-4アルキルアセトアミド等が挙げられる。
【0025】
ピロリドン類としては、例えば、2-ピロリドン、3-ピロリドン等のピロリドン;N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のN-C1-4アルキルピロリドン等が挙げられる。
【0026】
これらの非プロトン性溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの非プロトン性溶媒のうち、DMSO、DMF、DMAc、NMP等、特に、DMSOを用いれば、化学修飾セルロースナノファイバーをより効率的に製造することができる。この作用機序は必ずしも明らかではないが、非プロトン性溶媒中でのセルロース原料の均質なミクロ膨潤に起因するものと推察される。
【0027】
セルロース原料の微細化は、セルロース原料に剪断が効果的に掛かる装置であって、例えば、離解機、叩解機、リファイナー、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、乳化機、ホモミキサー、グラインダー、マスコロイダー、カッターミル、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、単軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。中でも、非プロトン性溶媒を用いたホモミキサーでの微細化は低エネルギーで解繊できるとともに、非水系でのセルロースナノファイバーの化学修飾が可能となるため、好ましい。
【0028】
一態様において、セルロースナノファイバーの数平均繊維径は、セルロースナノファイバーによる物性向上効果を良好に得る観点から、好ましくは1~1000nmである。セルロースナノファイバーの数平均繊維径は、より好ましくは4nm以上、又は5nm以上、又は10nm以上、又は15nm以上、又は20nm以上であり、より好ましくは500nm以下、又は450nm以下、又は400nm以下、又は350nm以下、又は300nm以下、又は250nm以下である。
【0029】
セルロースナノファイバーの平均L/Dは、セルロースナノファイバーを含む樹脂複合体の機械的特性を少量のセルロースナノファイバーで良好に向上させる観点から、好ましくは、50以上、又は80以上、又は100以上、又は120以上、又は150以上である。上限は特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは5000以下である。
【0030】
本開示で、セルロースナノファイバーの各々の長さ、径、及びL/D比は、セルロースナノファイバーの水分散液を水溶性溶媒(例えば、水、エタノール、tert-ブタノール等)で0.01~0.1質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(例えばIKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数25,000rpm×5分間で分散させ、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、高分解能走査型顕微鏡(SEM)又は原子間力顕微鏡(AFM)で計測して求める。具体的には、少なくとも100本の繊維状物質が観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本の繊維状物質の長さ(L)及び径(D)を計測し、比(L/D)を算出する。セルロースナノファイバーについて、長さ(L)の数平均値、径(D)の数平均値、及び比(L/D)の数平均値を算出する。
【0031】
なお、樹脂複合体中のセルロースナノファイバーの長さ、径、及びL/D比は、固体である樹脂複合体を測定サンプルとして、上述の測定方法により測定することで確認することができる。又は、樹脂複合体中のセルロースナノファイバーの長さ、径、及びL/D比は、樹脂複合体の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に樹脂複合体中の樹脂成分を溶解させ、セルロースナノファイバーを分離し、前記溶媒で充分に洗浄した後、水溶性溶媒(例えば、水、エタノール、tert-ブタノール等)で置換し、0.01~0.1質量%分散液を調製し、高剪断ホモジナイザー(例えばIKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)で再分散する。再分散液をマイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとして上述の測定方法により測定することで確認することができる。この際、測定するセルロースナノファイバーは無作為に選んだ100本以上での測定を行う。
【0032】
セルロースナノファイバーの結晶化度は、好ましくは55%以上である。結晶化度がこの範囲にあると、セルロース繊維自体の力学物性(強度、寸法安定性)が高いため、セルロース繊維を樹脂に分散した際に、樹脂複合体の強度、寸法安定性が高い傾向にある。より好ましい結晶化度の下限は、60%であり、さらにより好ましくは70%であり、最も好ましくは80%である。セルロースナノファイバーの結晶化度についても上限は特に限定されず、高い方が好ましいが、生産上の観点から好ましい上限は99%である。
【0033】
植物由来のセルロースのミクロフィブリル同士の間、及びミクロフィブリル束同士の間には、ヘミセルロース等のアルカリ可溶多糖類、及びリグニン等の酸不溶成分が存在する。ヘミセルロースはマンナン、キシラン等の糖で構成される多糖類であり、セルロースと水素結合して、ミクロフィブリル間を結びつける役割を果たしている。またリグニンは芳香環を有する化合物であり、植物の細胞壁中ではヘミセルロースと共有結合していることが知られている。セルロースナノファイバー中のリグニン等の不純物の残存量が多いと、加工時の熱により変色をきたすことがあるため、押出加工時及び成形加工時の樹脂複合体の変色を抑制する観点からも、セルロースナノファイバーの結晶化度は上述の範囲内にすることが望ましい。
【0034】
ここでいう結晶化度は、セルロースナノファイバーがセルロースI型結晶(天然セルロース由来)である場合には、サンプルを広角X線回折により測定した際の回折パターン(2θ/deg.が10~30)からSegal法により、以下の式で求められる。
結晶化度(%)=([2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]-[2θ/deg.=18の非晶質に起因する回折強度])/[2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]×100
【0035】
また結晶化度は、セルロースナノファイバーがセルロースII型結晶(再生セルロース由来)である場合には、広角X線回折において、セルロースII型結晶の(110)面ピークに帰属される2θ=12.6°における絶対ピーク強度h0 とこの面間隔におけるベースラインからのピーク強度h1 とから、下記式によって求められる。
結晶化度(%) =h1 /h0 ×100
【0036】
セルロースの結晶形としては、I型、II型、III型、IV型などが知られており、その中でも特にI型及びII型は汎用されており、III型、IV型は実験室スケールでは得られているものの工業スケールでは汎用されていない。本開示のセルロースナノファイバーとしては、構造上の可動性が比較的高く、当該セルロースナノファイバーを樹脂に分散させることにより、線膨張係数がより低く、引っ張り、曲げ変形時の強度及び伸びがより優れた樹脂複合体が得られることから、セルロースI型結晶又はセルロースII型結晶を含有するセルロース繊維が好ましく、セルロースI型結晶を含有し、かつ結晶化度が55%以上のセルロースナノファイバーがより好ましい。
【0037】
また、セルロースナノファイバーの重合度は、好ましくは400以上、より好ましくは420以上であり、より好ましくは430以上、より好ましくは440以上、より好ましくは450以上であり、好ましくは3500以下、より好ましく3300以下、より好ましくは3200以下、より好ましくは3100以下、より好ましくは3000以下である。
【0038】
加工性と機械的特性発現との観点から、セルロースナノファイバーの重合度を上述の範囲内とすることが望ましい。加工性の観点から、重合度は高すぎない方が好ましく、機械的特性発現の観点からは低すぎないことが望まれる。
【0039】
セルロースナノファイバーの重合度は、「第十五改正日本薬局方解説書(廣川書店発行)」の確認試験(3)に記載の銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法に従って測定される平均重合度を意味する。
【0040】
一態様において、セルロースナノファイバーの重量平均分子量(Mw)は100000以上であり、より好ましくは200000以上である。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は6以下であり、好ましくは5.4以下である。重量平均分子量が大きいほどセルロース分子の末端基の数は少ないことを意味する。また、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)は分子量分布の幅を表すものであることから、Mw/Mnが小さいほどセルロース分子の末端の数は少ないことを意味する。セルロース分子の末端は熱分解の起点となるため、セルロースナノファイバーのセルロース分子の重量平均分子量が大きいだけでなく、重量平均分子量が大きいと同時に分子量分布の幅が狭い場合に、特に高耐熱性のセルロースナノファイバー、及びセルロースナノファイバーと樹脂とを含む樹脂複合体が得られる。セルロースナノファイバーの重量平均分子量(Mw)は、セルロース原料の入手容易性の観点から、例えば600000以下、又は500000以下であってよい。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)はセルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、例えば1.5以上、又は2以上であってよい。Mwは、目的に応じたMwを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mw/Mnもまた、目的に応じたMw/Mnを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mwの制御、及びMw/Mnの制御の両者において、上記物理的処理としては、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等の乾式粉砕若しくは湿式粉砕、擂潰機、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波装置等による衝撃、せん断、ずり、摩擦等の機械的な力を加える物理的処理を例示でき、上記化学的処理としては、蒸解、漂白、酸処理、再生セルロース化等を例示できる。
【0041】
ここでいうセルロースの重量平均分子量及び数平均分子量とは、セルロースを塩化リチウムが添加されたN,N-ジメチルアセトアミドに溶解させたうえで、N,N-ジメチルアセトアミドを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィによって求めた値である。
【0042】
セルロースナノファイバーの重合度(すなわち平均重合度)又は分子量を制御する方法としては、加水分解処理等が挙げられる。加水分解処理によって、セルロースナノファイバー内部の非晶質セルロースの解重合が進み、平均重合度が小さくなる。また同時に、加水分解処理により、上述の非晶質セルロースに加え、ヘミセルロースやリグニン等の不純物も取り除かれるため、繊維質内部が多孔質化する。
【0043】
加水分解の方法は、特に制限されないが、酸加水分解、アルカリ加水分解、熱水分解、スチームエクスプロージョン、マイクロ波分解等が挙げられる。これらの方法は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。酸加水分解の方法では、例えば、繊維性植物からパルプとして得たα-セルロースをセルロース原料とし、これを水系媒体に分散させた状態で、プロトン酸、カルボン酸、ルイス酸、ヘテロポリ酸等を適量加え、攪拌しながら加温することにより、容易に平均重合度を制御できる。この際の温度、圧力、時間等の反応条件は、セルロース種、セルロース濃度、酸種、酸濃度等により異なるが、目的とする平均重合度が達成されるよう適宜調整されるものである。例えば、2質量%以下の鉱酸水溶液を使用し、100℃以上、加圧下で、10分間以上セルロースを処理するという条件が挙げられる。この条件のとき、酸等の触媒成分がセルロースナノファイバー内部まで浸透し、加水分解が促進され、使用する触媒成分量が少なくなり、その後の精製も容易になる。なお、加水分解時のセルロース原料の分散液は、水の他、本発明の効果を損なわない範囲において有機溶媒を少量含んでいてもよい。
【0044】
セルロースナノファイバーが含み得るアルカリ可溶多糖類は、ヘミセルロースのほか、β-セルロース及びγ-セルロースも包含する。アルカリ可溶多糖類とは、植物(例えば木材)を溶媒抽出及び塩素処理して得られるホロセルロースのうちのアルカリ可溶部として得られる成分(すなわちホロセルロースからα-セルロースを除いた成分)として当業者に理解される。アルカリ可溶多糖類は、水酸基を含む多糖であり耐熱性が悪く、熱がかかった場合に分解すること、熱エージング時に黄変を引き起こすこと、セルロース繊維の強度低下の原因になること等の不都合を招来し得ることから、セルロースナノファイバー中のアルカリ可溶多糖類含有量は少ない方が好ましい。
【0045】
一態様において、セルロースナノファイバー中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、セルロースナノファイバーの良好な分散性を得る観点から、セルロースナノファイバー100質量%に対して、好ましくは、20質量%以下、又は18質量%以下、又は15質量%以下である。上記含有率は、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上であってもよい。
【0046】
アルカリ可溶多糖類平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載の手法より求めることができ、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求められる。なおこの方法は当業界においてヘミセルロース量の測定方法として理解されている。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均をアルカリ可溶多糖類平均含有率とする。
【0047】
一態様において、セルロースナノファイバー中の酸不溶成分平均含有率は、セルロースナノファイバーの耐熱性低下及びそれに伴う変色を回避する観点から、セルロースナノファイバー100質量%に対して、好ましくは、10質量%以下、又は5質量%以下、又は3質量%以下である。上記含有率は、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、0.1質量%以上、又は0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってもよい。
【0048】
酸不溶成分平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載のクラーソン法を用いた酸不溶成分の定量として行う。なおこの方法は当業界においてリグニン量の測定方法として理解されている。硫酸溶液中でサンプルを撹拌してセルロース及びヘミセルロース等を溶解させた後、ガラスファイバーろ紙で濾過し、得られた残渣が酸不溶成分に該当する。この酸不溶成分重量より酸不溶成分含有率を算出し、そして、3サンプルについて算出した酸不溶成分含有率の数平均を酸不溶成分平均含有率とする。
【0049】
セルロースナノファイバーは、化学処理(例えば酸化、又は修飾化剤を用いた化学修飾)がされていてもよい。一例として、Cellulose(1998)5,153-164に示されているような2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカルによってセルロース繊維を酸化させた後に、洗浄、機械解繊を経ることにより得られる、微細化セルロース繊維を使用してもよい。
【0050】
セルロースの修飾化剤としては、セルロースの水酸基と反応する化合物を使用でき、エステル化剤、エーテル化剤、及びシリル化剤が挙げられる。好ましい態様において、化学修飾は、エステル化剤を用いたアシル化である。エステル化剤としては、酸ハロゲン化物、酸無水物、及びカルボン酸ビニルエステル、カルボン酸が好ましい。
【0051】
酸ハロゲン化物は、下記式(1)で表される化合物からなる群より選択された少なくとも1種であってよい。
1-C(=O)-X (1)
(式中、R1は炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基、炭素数3~24のシクロアルキル基、又は炭素数6~24のアリール基を表し、XはCl、Br又はIである。)
酸ハロゲン化物の具体例としては、塩化アセチル、臭化アセチル、ヨウ化アセチル、塩化プロピオニル、臭化プロピオニル、ヨウ化プロピオニル、塩化ブチリル、臭化ブチリル、ヨウ化ブチリル、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、ヨウ化ベンゾイル等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、酸塩化物は反応性と取り扱い性の点から好適に採用できる。尚、酸ハロゲン化物の反応においては、触媒として働くと同時に副生物である酸性物質を中和する目的で、アルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。アルカリ性化合物としては、具体的には:トリエチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン化合物;及びピリジン、ジメチルアミノピリジン等の含窒素芳香族化合物;が挙げられるが、これに限定されない。
【0052】
酸無水物としては、任意の適切な酸無水物類を用いることができる。例えば、
酢酸、プロピオン酸、(イソ)酪酸、吉草酸等の飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;(メタ)アクリル酸、オレイン酸等の不飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;
シクロヘキサンカルボン酸、テトラヒドロ安息香酸等の脂環族モノカルボン酸無水物;
安息香酸、4-メチル安息香酸等の芳香族モノカルボン酸無水物;
二塩基カルボン酸無水物として、例えば、無水コハク酸、アジピン酸等の無水飽和脂肪族ジカルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の無水不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物、無水1-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸等の無水脂環族ジカルボン酸、及び、無水フタル酸、無水ナフタル酸等の無水芳香族ジカルボン酸無水物等;
3塩基以上の多塩基カルボン酸無水物類として、例えば、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の(無水)ポリカルボン酸等が挙げられる。
尚、酸無水物の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、燐酸等の酸性化合物、又はルイス酸、(例えば、MYnで表されるルイス酸化合物であって、MはB、As,Ge等の半金属元素、又はAl、Bi、In等の卑金属元素、又はTi、Zn、Cu等の遷移金属元素、又はランタノイド元素を表し、nはMの原子価に相当する整数であり、2又は3を表し、Yはハロゲン原子、OAc、OCOCF3、ClO4、SbF6、PF6又はOSO2CF3(OTf)を表す。)、又はトリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。
【0053】
カルボン酸ビニルエステルとしては、下記式(1):
R-COO-CH=CH2 …式(1)
{式中、Rは、炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基、炭素数3~16のシクロアルキル基、又は炭素数6~24のアリール基のいずれかである。}で表されるカルボン酸ビニルエステルが好ましい。カルボン酸ビニルエステルは、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニルアジピン酸ジビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、安息香酸ビニル、及び桂皮酸ビニルからなる群より選択された少なくとも1種であることがより好ましい。カルボン酸ビニルエステルによるエステル化反応のとき、触媒として、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、1~3級アミン、4級アンモニウム塩、イミダゾール及びその誘導体、ピリジン及びその誘導体、並びにアルコキシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上を添加しても良い。
【0054】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。 アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム等が挙げられる。
【0055】
1~3級アミンとは、1級アミン、2級アミン、及び3級アミンのことであり、具体例としては、エチレンジアミン、ジエチルアミン、プロリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミン、トリス(3-ジメチルアミノプロピル)アミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0056】
イミダゾール及びその誘導体としては、1-メチルイミダゾール、3-アミノプロピルイミダゾール、カルボニルジイミダゾール等が挙げられる。
【0057】
ピリジン及びその誘導体としては、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、ピコリン等が挙げられる。
【0058】
アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム-t-ブトキシド等が挙げられる。
【0059】
カルボン酸としては、下記式(1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
R-COOH …(1)
(式中、Rは、炭素数1~16のアルキル基、炭素数2~16のアルケニル基、炭素数3~16のシクロアルキル基、又は炭素数6~16のアリール基を表す。)
【0060】
カルボン酸の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、シクロヘキサンカルボン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、メタクリル酸、クロトン酸、ピバリン酸、オクチル酸、安息香酸、及び桂皮酸からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0061】
これらカルボン酸の中でも、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸からなる群から選択される少なくとも一種、特に酢酸が、反応効率の観点から好ましい。
尚、カルボン酸の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、燐酸等の酸性化合物、又はルイス酸、(例えば、MYnで表されるルイス酸化合物であって、MはB、As,Ge等の半金属元素、又はAl、Bi、In等の卑金属元素、又はTi、Zn、Cu等の遷移金属元素、又はランタノイド元素を表し、nはMの原子価に相当する整数であり、2又は3を表し、Yはハロゲン原子、OAc、OCOCF3、ClO4、SbF6、PF6又はOSO2CF3(OTf)を表す。)、又はトリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。
【0062】
これらエステル化反応剤の中でも、特に、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、及び酪酸ビニル、酢酸からなる群から選択された少なくとも一種、中でも無水酢酸及び酢酸ビニルが、反応効率の観点から好ましい。
【0063】
セルロースナノファイバーが疎水化(例えばアシル化等の化学修飾によって)されている場合、乾固体の再分散性は良好である傾向があるが、本開示のセルロースナノファイバー乾固体は、非置換又は低置換度であっても良好な再分散性を示すことができる点で有利である。したがって、一態様において、セルロースナノファイバー乾固体の平均置換度(DS)(セルロースの基本構成単位であるグルコース当たりの置換された水酸基の平均数)は、0.5以下、又は0.3以下、又は0.1以下、又は0であることができる。一態様において、平均置換度(DS)は、セルロースナノファイバーの使用目的に応じて、0以上、又は0.1以上、又は0.2以上であってよい。
【0064】
化学修飾セルロースナノファイバーの修飾基がアシル基の場合、アシル置換度(DS)は、エステル化セルロースナノファイバーの反射型赤外吸収スペクトルから、アシル基由来のピークとセルロース骨格由来のピークとのピーク強度比に基づいて算出することができる。アシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピークは1730cm-1に出現し、セルロース骨格鎖に基づくC-Oの吸収バンドのピークは1030cm-1に出現する(図1及び2参照)。エステル化セルロースナノファイバーのDSは、後述するエステル化セルロースナノファイバーの固体NMR測定から得られるDSと、セルロース骨格鎖C-Oの吸収バンドのピーク強度に対するアシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピーク強度の比率で定義される修飾化率(IRインデックス1030)との相関グラフを作製し、相関グラフから算出された検量線
置換度DS = 4.13 × IRインデックス(1030)
を使用することで求めることができる。
【0065】
固体NMRによるエステル化セルロースナノファイバーのDSの算出方法は、凍結粉砕したエステル化セルロースナノファイバーについて13C固体NMR測定を行い、50ppmから110ppmの範囲に現れるセルロースのピラノース環由来の炭素C1-C6に帰属されるシグナルの合計面積強度(Inp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるシグナルの面積強度(Inf)より下記式で求めることができる。
DS=(Inf)×6/(Inp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、-CH3に帰属される23ppmのシグナルを用いれば良い。
用いる13C固体NMR測定の条件は例えば以下の通りである。
装置 :Bruker Biospin Avance500WB
周波数 :125.77MHz
測定方法 :DD/MAS法
待ち時間 :75sec
NMR試料管 :4mmφ
積算回数 :640回(約14Hr)
MAS :14,500Hz
化学シフト基準:グリシン(外部基準:176.03ppm)
【0066】
化学修飾セルロースナノファイバーの繊維全体の修飾度(DSt)(これは上記のアシル置換度(DS)と同義である。)に対する繊維表面の修飾度(DSs)の比率で定義されるDS不均一比(DSs/DSt)は、好ましくは1.05以上である。DS不均一比の値が大きいほど、鞘芯構造様の不均一構造(すなわち、繊維表層が高度に化学修飾される一方で繊維中心部が元の未修飾に近いセルロースの構造を保持している構造)が顕著であり、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性を有しつつ、樹脂との複合化時の樹脂との親和性の向上、及び樹脂組成物の寸法安定性の向上が可能である。DS不均一比は、より好ましくは、1.1以上、又は1.2以上、又は1.3以上、又は1.5以上、又は2.0以上であり、化学修飾セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、好ましくは、30以下、又は20以下、又は10以下、又は6以下、又は4以下、又は3以下である。
DSsの値は、エステル化セルロースの修飾度に応じて変わるが、一例として、好ましくは、0.1以上、又は0.2以上、又は0.3以上、又は0.5以上であり、好ましくは、3.0以下、又は2.5以下、又は2.0以下、又は1.5以下、又は1.2以下、又は1.0以下である。DStの好ましい範囲は、アシル置換基(DS)について前述したとおりである。
【0067】
化学修飾セルロースナノファイバーのDS不均一比の変動係数(CV)は、小さいほど、樹脂組成物の各種物性のバラつきが小さくなるため好ましい。上記変動係数は、好ましくは、50%以下、又は40%以下、又は30%以下、又は20%以下である。上記変動係数は、例えば、セルロース原料を解繊した後に化学修飾を行って化学修飾セルロースナノファイバーを得る方法(すなわち逐次法)ではより低減され得る一方、セルロース原料の解繊と化学修飾とを同時に行う方法(すなわち同時法)では増大され得る。この作用機序は明確になっていないが、同時法では、解繊の初期に生成した細い繊維において化学修飾がより進行しやすく、そして、化学修飾によってセルロースミクロフィブリル間の水素結合が減少すると解繊がさらに進行する結果、DS不均一比の変動係数が増大すると考えられる。
【0068】
DS不均一比の変動係数(CV)は、化学修飾セルロースナノファイバーの水分散体(固形分率10質量%以上)を100g採取し、10gずつ凍結粉砕したものを測定サンプルとし、10サンプルのDSt及びDSsからDS不均一比を算出した後、得られた10個のサンプル間でのDS不均一比の標準偏差(σ)及び算術平均(μ)から、下記式で算出できる。
DS不均一比=DSs/DSt
変動係数(%)=標準偏差σ/算術平均μ×100
【0069】
DSsの算出方法は以下のとおりである。すなわち、凍結粉砕により粉末化したエステル化セルロースを2.5mmφの皿状試料台に載せ、表面を抑えて平らにし、X線光電子分光法(XPS)による測定を行う。XPSスペクトルは、サンプルの表層のみ(典型的には数nm程度)の構成元素及び化学結合状態を反映する。得られたC1sスペクトルについてピーク分離を行い、セルロースのピラノース環由来の炭素C2-C6帰属されるピーク(289eV、C-C結合)の面積強度(Ixp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるピークの面積強度(Ixf)より下記式で求めることができる。
DSs=(Ixf)×5/(Ixp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、C1sスペクトルを285eV、286eV,288eV,289eVでピーク分離を行った後、Ixpには289evのピークを、Ixfにはアセチル基のO-C=O結合由来のピーク(286eV)を用いれば良い。
用いるXPS測定の条件は例えば以下の通りである。
使用機器 :アルバックファイVersaProbeII
励起源 :mono.AlKα 15kV×3.33mA
分析サイズ :約200μmφ
光電子取出角 :45°
取込領域
Narrow scan:C 1s、O 1s
Pass Energy:23.5eV
【0070】
本開示のセルロースナノファイバー乾固体は、分散剤不存在下であっても良好な再分散性を有することができる。したがって一態様において、セルロースナノファイバー乾固体は実質的にセルロースのみで構成されている(すなわち分散剤不含有である)。分散剤不含有のセルロースナノファイバー乾固体は、例えば樹脂複合体中で分散剤由来の不都合(物性低下等)を回避できる点で有利である。一態様において、当該乾固体は、微量の(例えば、乾固体総質量100質量%に対して、1質量%未満、又は0.5質量%以下、又は0.3質量%以下)の分散剤を含んでもよい。セルロースナノファイバー乾固体が含み得る分散剤としては、親水性基(例えば、水酸基、アミノ基等)を有する化合物を例示できる。一態様において、分散剤は23℃において液体である。一態様において、分散剤は、親水性基を有するモノマー(例えば、プロピレングリコール、N-ビニルアセトアミド等)であり、一態様において、界面活性剤(すなわち、親水性の置換基を有する部位と疎水性の置換基を有する部位とが共有結合した化学構造を有する化合物)である。
【0071】
界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤、及び陽イオン系界面活性剤のいずれも使用することができるが、セルロースナノファイバーの良好な分散性を得る点で、非イオン系界面活性剤が好ましい。
【0072】
界面活性剤の親水基としては、セルロースナノファイバーとの親和性の点で、ポリオキシエチレン鎖、カルボキシル基、及び水酸基が好ましく、ポリオキシエチレン鎖が特に好ましい。非イオン系のポリオキシエチレン誘導体は特に好ましい。ポリオキシエチレン誘導体のポリオキシエチレン鎖長は、1以上、又は4以上、又は10以上、又は15以上であってよい。鎖長が長いほど疎水性のセルロースナノファイバーに対しては親和性が高まるが、樹脂複合体の特性(例えば機械特性等)とのバランスの観点から、ポリオキシエチレン鎖長は、60以下、又は50以下、又は40以下、又は30以下、又は20以下であってよい。
【0073】
界面活性剤の疎水基の構造としては、樹脂との親和性が高い点で、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型、及び硬化ひまし油型が好ましい。疎水基のアルキル鎖の炭素数(アルキルフェニルの場合はフェニル基を除いた炭素数)は、好ましくは、5以上、又は10以上、又は12以上、又は16以上である。例えば樹脂がポリオレフィン系樹脂の場合、界面活性剤の炭素数が多いほど、樹脂との親和性が高まる。上記炭素数は、例えば30以下、又は25以下であってよい。
【0074】
以下、セルロースナノファイバーの再分散液の製造方法の各工程の好適例について説明する。
【0075】
<分散工程>
本工程では、セルロースナノファイバーを第1の分散媒に分散させてなる分散液を調製する。第1の分散媒としては、水、有機溶媒等の液体媒体を1種単独又は2種以上の組合せで使用できる。有機溶媒としては、一般的に用いられる水混和性有機溶媒、例えば、ポリオール(例えばポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールのようなポリエーテルポリオール等)、エタノール、メタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、アセトン、酢酸、t-ブタノール等を使用できる。分散工程は、セルロースナノファイバーの製造工程におけるセルロース原料の解繊工程であってもよい。第1の分散媒は、液体媒体に加えて、添加剤(分散剤等)を含んでもよいが、一態様において添加剤を含まない。
【0076】
分散液中のセルロースナノファイバーの濃度は、後続の乾燥工程等におけるプロセス効率の観点から、好ましくは、0.5質量%以上、又は1質量%以上、又は1.5質量%以上であり、分散液の粘度の過度な増大を回避して良好な取扱い性を保持する観点から、好ましくは、10質量%以下、又は8質量%以下、又は5質量%以下である。
【0077】
<乾燥工程>
本工程では、分散工程で得た分散液を乾燥させて、セルロースナノファイバー乾固体を得る。乾燥方法としては撹拌機中での減圧乾燥等を例示でき、例えば温度50~150℃で60~180分間、常圧、又は減圧条件下で乾燥を行うことができる。また、熱プレス乾燥、又はスプレードライを用いてもよい。一態様において、≪セルロースナノファイバー乾固体≫の項で前述した特性(特に、みかけ密度)を有するセルロースナノファイバー乾固体を本工程で得ることができる。
【0078】
<再分散工程>
本工程では、乾燥工程で得られたセルロースナノファイバー乾固体を第2の分散媒に再分散させて再分散液を得る。第2の分散媒は、第1の分散媒と同種でも異なる種類でもよく、水、有機溶媒等の液体媒体を1種単独又は2種以上の組合せで使用できる。好ましい態様において、第2の分散媒は、非プロトン性極性溶媒である。非プロトン性極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、及びジメチルホルムアミド(DMF)からなる群から選択される1種以上が好ましい。第2の分散媒は、液体媒体に加えて、添加剤(分散剤、有機バインダー等)を含んでもよいが、一態様において添加剤を含まない。再分散は、撹拌による剪断力(例えば超音波、ビーズミル、ボールミル、及びホモミキサーからなる群から選ばれる1つ以上による剪断力)の付与によって行うことができる。
再分散工程中及び/又は再分散工程後に、セルロースナノファイバーを化学修飾してもよい。化学修飾は前述の修飾化剤を用いて行うことができる。
【0079】
一態様において、上記再分散液のセルロースナノファイバーを固形分率0.5質量%の水分散体に調整した再分散液の水分散体(本開示で、模擬再分散液ともいう。)のシェアレート100秒-1における粘度は、上記分散液のセルロースナノファイバーを固形分率0.5質量%の水分散体に調整した分散液の水分散体(本開示で、模擬分散液ともいう。)のシェアレート100秒-1における粘度の30%以上である。上記粘度は、二重円筒型のレオメーターによるヒステリシスループ測定法で測定される値である。上記比率は、セルロースナノファイバーの乾燥前の分散性が再分散後にどの程度再現できるか(すなわち再分散性)を示す指標である。上記比率は、好ましくは、40%以上、又は50%以上、又は60%以上である。上記比率は高い程好ましく、最も好ましくは100%であるが、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、例えば、90%以下、又は80%以下であってもよい。なお、模擬再分散液は、再分散液に対し、5質量倍の水の添加、撹拌、遠心分離、上澄み液の廃棄のサイクルを5回繰り返した後、水を添加して得られる固形分率0.5質量%の水分散体である。模擬分散液も同様に、分散液に対し、5質量倍の水の添加、撹拌、遠心分離、上澄み液の廃棄のサイクルを5回繰り返した後、水を添加して得られる固形分率0.5質量%の水分散体である。
【0080】
模擬分散液のシェアレート100秒-1における粘度は、セルロースナノファイバーが高度に分散している分散液を得る観点から、セルロース固形分率0.5質量%の水分散体として、好ましくは、10mPa・s以上、又は13mPa・s以上、又は15mPa・s以上であってよく、分散液の取扱い性の観点から、好ましくは、150mPa・s以下、又は140mPa・s以下、又は130mPa・s以下であってよい。
【0081】
模擬再分散液のシェアレート100秒-1における粘度は、セルロースナノファイバーが高度に分散している再分散液を得る観点から、好ましくは、6mPa・s以上、又は7.5mPa・s以上、又は9mPa・s以上であってよく、再分散液の取扱い性の観点から、好ましくは、150mPa・s以下、又は140mPa・s以下、又は130mPa・s以下であってよい。
【0082】
再分散液中のセルロースナノファイバーの濃度は、例えばセルロースナノファイバー複合体又は樹脂複合体に当該再分散液を利用する際のプロセス効率及びセルロースナノファイバーと他の成分との複合化を良好に行う観点から、好ましくは、1質量%以上、又は3質量%以上、又は5質量%以上であり、再分散液の取扱い性の観点から、好ましくは、10質量%以下、又は8質量%以下、又は5質量%以下である。
【0083】
≪セルロースナノファイバー複合体≫
前述のセルロースナノファイバーの再分散液は、再分散液の状態で、又はその乾燥体の状態で、他の材料と更に組合されてよい。一態様においては、本開示の方法でセルロースナノファイバーの再分散液を調製する工程、及び当該再分散液又はその乾燥体と有機バインダーとを混合する混合工程とを含む方法で、セルロースナノファイバー複合体を製造できる。再分散液の乾燥体は、再分散液を撹拌下で減圧乾燥させる方法等で形成できる。
【0084】
有機バインダーとしては、親水性基(例えば、水酸基、アミノ基等)を有するポリマー(例えば、ポリアクリルアミド、ポリアルキレンオキシド、ポリアクリル酸及びその塩、多糖類(例えば、セルロース誘導体、デンプン、アルギン酸及びその塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)、グアーガム、ジェランガム、ゼラチン等)、ポリビニルアルコール等)が挙げられる。一態様において、有機バインダーは、23℃において固体である。
【0085】
ポリアルキレンオキシドのアルキレンオキシド単位としては、炭素数2~4のアルキレンオキシド、好ましくはエチレンオキシド及びプロピレンオキシドを例示できる。好ましい態様において、ポリアルキレンオキシドは、エチレンオキシド単位及び/又はプロピレンオキシド単位で構成される。特に好ましいポリアルキレンオキシドはポリエチレンオキシドである。
【0086】
セルロース誘導体としては、セルロースエーテル(例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)を例示できる。
【0087】
有機バインダーの重量平均分子量は、好ましくは1000以上、より好ましくは5000以上、更に好ましくは10000以上であり、好ましくは5×108以下、より好ましくは108以下、更に好ましくは5×107以下である。
【0088】
有機バインダーの量は、セルロースナノファイバー100質量部に対して、好ましくは、1質量部以上、又は10質量部以上、又は20質量部以上であってよく、好ましくは、50質量部以下、又は40質量部以下、又は30質量部以下であってよい。
【0089】
≪樹脂複合体≫
本発明の一態様によれば、本開示の方法でセルロースナノファイバーの再分散液を調製する工程、及び当該再分散液又はその乾燥体と樹脂とを混合する混合工程とを含む方法で、樹脂複合体(樹脂組成物)を製造できる。再分散液の乾燥体は、再分散液を撹拌下で減圧乾燥させる方法等で形成できる。なお前述の有機バインダーは、セルロースナノファイバーと樹脂との親和性向上効果を有することから、一態様においては、セルロースナノファイバーの再分散液又はその乾燥体を有機バインダーと組み合わせた後、更に樹脂と組み合わせることが好ましい。
【0090】
一態様において、セルロースナノファイバーの分散液の乾燥によって得られるセルロースナノファイバー乾固体は、セルロースナノファイバー固形体であってよい。セルロースナノファイバー固形体とは、セルロースナノファイバーが互いに強固に固着してなる固形物を意味する。典型的な態様において、セルロースナノファイバー固形体は、サイズ(一態様において、固形体における最小寸法)が1mm以上であることができ、粉末、繊維状物等とは区別される。一態様において、セルロースナノファイバー固形体においては、セルロースナノファイバーが水酸基の水素結合によって互いに固着している。一方、セルロースナノファイバー固形体は、第2の分散媒によって良好に再分散して再分散液を形成できるという特性も有し、これにより、当該再分散液又はその乾燥体を樹脂と混練して樹脂組成物を形成できる。セルロースナノファイバー固形体に対して適用される第2の分散媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)及びジメチルホルムアミド(DMF)からなる群から選択されることが特に好ましい。好ましい一態様においては、第2の分散媒中の水の量が、10質量%以下、又は5質量%以下、又は0質量%である。
【0091】
一態様においては、セルロースナノファイバー固形体を、20℃の水中、2時間静置した後に水中から取り出したときの乾燥固形分の質量(X)の、静置前のセルロースナノファイバー固形体の質量(Y)に対する変化率(Y-X)/Yが、好ましくは、30質量%以下、又は20質量%以下、又は10質量%である(すなわち水中での崩壊が少ない)。上記変化率は、0質量%であってよいが、一態様において、0.01質量%以上であり得る。なお上記質量(X)は、固形体を水中から取り出した後、120℃、真空条件下、2時間乾燥させて得た乾燥固形分の質量である。
【0092】
また、一態様においては、セルロースナノファイバー固形体を、20℃の水中、2時間静置した後に水中から取り出したときの質量(Z)の、静置前のセルロースナノファイバー固形体の質量(Y)に対する変化率(Z-Y)/Yが、10質量%以下である(すなわち水を殆ど吸収しない)。上記変化率は、0質量%であってよいが、一態様において、0.01質量%以上であり得る。なお上記質量(Z)は、固形体を水中から取り出した後、表面の水分を濾紙で拭き取った上で、取り出し後5分以内に(したがって乾燥の影響を受けないようにして)測定される値である。
【0093】
<樹脂>
樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び光硬化性樹脂を用いることができる。樹脂はエラストマーであってもよい。成形性及び生産性の観点から、熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0094】
(熱可塑性樹脂)
樹脂が熱可塑性樹脂である場合の当該熱可塑性樹脂の融点は、樹脂複合体の用途等に応じて適宜選択してよい。熱可塑性樹脂の融点としては、例えば比較的低融点の樹脂(例えばポリオレフィン系樹脂)について、150℃~190℃、又は160℃~180℃、また例えば比較的高融点の樹脂(例えばポリアミド系樹脂)について、220℃~350℃、又は230℃~320℃、を例示できる。
【0095】
熱可塑性樹脂は、好ましくは、ポリオレフィン系樹脂、ポリアセテート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びアクリル系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であることができる。
【0096】
熱可塑性樹脂として好ましいポリオレフィン系樹脂は、オレフィン類(例えばα-オレフィン類)及び/又はアルケン類をモノマー単位として重合して得られる高分子である。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン(例えば線状低密度ポリエチレン)、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等に例示されるエチレン系(共)重合体、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体等に例示されるポリプロピレン系(共)重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体等に代表されるエチレンとα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。
【0097】
ここで最も好ましいポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンが挙げられる。特に、ISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されたメルトマスフローレイト(MFR)が、3g/10分以上30g/10分以下であるポリプロピレンが好ましい。MFRの下限値は、より好ましくは5g/10分であり、さらにより好ましくは6g/10分であり、最も好ましくは8g/10分である。また、上限値は、より好ましくは25g/10分であり、さらにより好ましくは20g/10分であり、最も好ましくは18g/10分である。MFRは、樹脂複合体の靱性向上の観点から上記上限値を超えないことが望ましく、樹脂複合体の流動性の観点から上記下限値を超えないことが望ましい。
【0098】
また、セルロースナノファイバーとの親和性を高めるため、酸変性されたポリオレフィン系樹脂も好適に使用可能である。酸変性に用いる酸としては、モノ又はポリカルボン酸を使用でき、例えば、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、フタル酸及びこれらの無水物、並びにクエン酸等を例示できる。変性率の高めやすさから、マレイン酸又はその無水物が特に好ましい。変性方法については特に制限はないが、過酸化物の存在下又は非存在下でポリオレフィン系樹脂を融点以上に加熱して溶融混練する方法が一般的である。酸変性するポリオレフィン樹脂としては前出のポリオレフィン系樹脂をすべて使用可能であるが、ポリプロピレンが特に好適である。酸変性されたポリプロピレン系樹脂は、単独で用いても構わないが、樹脂全体としての変性率を調整するため、変性されていないポリプロピレン系樹脂と混合して使用することがより好ましい。この際のすべてのポリプロピレン系樹脂に対する酸変性されたポリプロピレン系樹脂の割合は、好ましくは0.5質量%~50質量%である。より好ましい下限は、1質量%、又は2質量%、又は3質量%、又は4質量%、又は5質量%である。また、より好ましい上限は、45質量%、又は40質量%、又は35質量%、又は30質量%、又は20質量%である。樹脂とセルロースナノファイバーとの界面強度を維持するためには、下限以上が好ましく、樹脂としての延性を維持するためには、上限以下が好ましい。
【0099】
酸変性されたポリプロピレン系樹脂の、ISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されるメルトマスフローレイト(MFR)は、樹脂とセルロースナノファイバーとの界面における親和性を高める観点から、好ましくは、50g/10分以上、又は100g/10分以上、又は150g/10分以上、又は200g/10分以上である。上限は特に限定されないが、機械的強度の維持から、好ましくは500g/10分である。
【0100】
熱可塑性樹脂として好ましいポリアミド系樹脂としては:ラクタム類の重縮合反応により得られるポリアミド(例えばポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12等);ジアミン類(例えば1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、2-メチル-1-6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,7-ヘプタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、m-キシリレンジアミン等)とジカルボン酸類(例えばブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン-1,2-ジカルボン酸、ベンゼン-1,3-ジカルボン酸、ベンゼン-1,4ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸等)との共重合体として得られるポリアミド(例えばポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6、C、ポリアミド2M5,C等);及びこれらがそれぞれ共重合された共重合体(例えばポリアミド6,T/6,I等)、が挙げられる。
【0101】
これらポリアミド系樹脂の中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12等の脂肪族ポリアミド、及び、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,C等の脂環式ポリアミドがより好ましい。
【0102】
樹脂複合体の耐熱性を良好にする観点から、ポリアミド系樹脂の融点は、好ましくは220℃以上、又は230℃以上、又は240℃以上、又は245℃以上、又は250℃以上であり、樹脂複合体の製造容易性の観点から、上記融点は、好ましくは、350℃以下、又は320℃以下、又は300℃以下である。
【0103】
ポリアミド系樹脂の末端カルボキシル基濃度に特に制限はないが、好ましくは、20μモル/g以上、又は30μモル/g以上であり、好ましくは、150μモル/g以下、又は100μモル/g以下、又は80μモル/g以下である。
【0104】
ポリアミド系樹脂において、全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])は、セルロースナノファイバーの樹脂複合体中での分散性の観点から、好ましくは、0.30以上、又は0.35以上、又は0.40以上、又は0.45以上であり、樹脂複合体の色調の観点から、好ましくは、0.95以下、又は0.90以下、又は0.85以下、又は0.80以下である。
【0105】
ポリアミド系樹脂の末端基濃度は、公知の方法で調整できる。調整方法としては、ポリアミドの重合時に、所定の末端基濃度となるように末端基と反応する末端調整剤(例えば、ジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル、モノアルコール等)を重合液に添加する方法が挙げられる。
【0106】
末端アミノ基と反応する末端調整剤としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;及びこれらから任意に選ばれる複数の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格等の点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及び安息香酸からなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましく、酢酸が最も好ましい。
【0107】
末端カルボキシル基と反応する末端調整剤としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン及びこれらの任意の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格等の点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン及びアニリンからなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましい。
【0108】
ポリアミド系樹脂のアミノ末端基及びカルボキシル末端基の濃度は、1H-NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求めることができる。この方法は、精度及び簡便さの点で好ましい。より具体的には、特開平7-228775号公報に記載された方法を用い、測定溶媒として重トリフルオロ酢酸を用い、積算回数を300スキャン以上とすることが推奨される。
【0109】
ポリアミド系樹脂の、濃硫酸中30℃の条件下で測定した固有粘度[η]は、樹脂複合体を例えば射出成形する際に、金型内流動性が良好で成形片の外観が良好であるという観点から、好ましくは、0.6~2.0dL/g、又は0.7~1.4dL/g、又は0.7~1.2dL/g、又は0.7~1.0dL/gである。本開示において、「固有粘度」とは、一般的に極限粘度と呼ばれている粘度と同義である。固有粘度は、96%濃硫酸中、30℃の温度条件下で、濃度の異なるいくつかの測定溶媒のηsp/cを測定し、そのそれぞれのηsp/cと濃度(c)との関係式を導き出し、濃度をゼロに外挿する方法で求められる。このゼロに外挿された値が固有粘度である。上記方法の詳細は、例えば、Polymer Process Engineering(Prentice-Hall,Inc 1994)の291ページ~294ページ等に記載されている。上記の濃度の異なるいくつかの測定溶媒における濃度は、少なくとも4点(例えば、0.05g/dL、0.1g/dL、0.2g/dL、0.4g/dL)とすることが精度の観点から望ましい。
【0110】
熱可塑性樹脂として好ましいポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリアリレート(PAR)等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。中でも、PET、PBS、PBSA、PBT及びPENがより好ましく、PBS、PBSA、及びPBTが特に好ましい。
【0111】
ポリエステル系樹脂の末端基は、重合時のモノマー比率、末端安定化剤の添加の有無及び量、等によって任意に変えることができる。ポリエステル系樹脂の全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])は、樹脂複合体中のセルロースナノファイバーの分散性の観点から、好ましくは、0.30以上、又は0.35以上、又は0.40以上であり、又は0.45以上であり、樹脂複合体の色調の観点から、好ましくは、0.95以下、又は0.90以下、又は0.85以下、又は0.80以下である。
【0112】
熱可塑性樹脂として好ましいポリアセタール系樹脂としては、ホルムアルデヒドを原料とするホモポリアセタールと、トリオキサンを主モノマーとし、1,3-ジオキソランをコモノマー成分として含むコポリアセタールとが一般的であり、両者とも使用可能であるが、加工時の熱安定性の観点から、コポリアセタールが好ましい。コモノマー成分(例えば1,3-ジオキソラン)由来構造の量は、押出加工及び成形加工時の熱安定性の観点から、好ましくは、0.01モル%以上、又は0.05モル%以上、又は0.1モル%以上、又は0.2モル%以上であり、機械的強度の観点から、好ましくは、4モル%以下、又は3.5モル%以下、又は3.0モル%以下、又は2.5モル%以下、又は2.3モル%以下である。
【0113】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、グリシジルメタアクリレート共重合系エポキシ樹脂、シクロヘキシルマレイミドとグリシジルメタアクリレートとの共重合エポキシ樹脂、エポキシ変性のポリブタジエンゴム誘導体、CTBN変性エポキシ樹脂、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、フェニル-1,3-ジグリシジルエーテル、ビフェニル-4,4’-ジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコール又はプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリス(2,3-エポキシプロピル)イソシアヌレート、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、未変性のレゾールフェノール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油等で変性した油変性レゾールフェノール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂、フェノキシ樹脂、尿素(ユリア)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環含有樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、ノルボルネン系樹脂、シアネート樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリアゾメチン樹脂、熱硬化性ポリイミド等が挙げられる。
【0114】
(光硬化性樹脂)
光硬化性樹脂としては、(メタ)アクリレート樹脂、ビニル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、反応機構により、概ね光により発生したラジカルによりモノマーが反応するラジカル反応型と、モノマーがカチオン重合するカチオン反応型とに分類される。ラジカル反応型のモノマーには、(メタ)アクリレート化合物、ビニル化合物(例えばある種のビニルエーテル)等が該当する。カチオン反応型としては、エポキシ化合物、ある種のビニルエーテル等が該当する。なお、例えば、カチオン反応型として用いることができるエポキシ化合物は、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂の両者のモノマーとなり得る。
【0115】
(メタ)アクリレート化合物は、(メタ)アクリレート基を分子内に一つ以上有する化合物である。(メタ)アクリレート化合物としては、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート等が挙げられる。
【0116】
ビニル化合物としては、ビニルエーテル、スチレン及びスチレン誘導体等が挙げられる。ビニルエーテルとしては、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル等が挙げられる。スチレン誘導体としては、メチルスチレン、エチルスチレン等が挙げられる。その他のビニル化合物としては、トリアリルイソイシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0117】
光硬化性樹脂の原料として、いわゆる反応性オリゴマーを用いてもよい。反応性オリゴマーとしては、(メタ)アクリレート基、エポキシ基、ウレタン結合、及びエステル結合から選ばれる任意の組合せを同一分子内に併せ持つオリゴマー、例えば、(メタ)アクリレート基とウレタン結合とを同一分子内に併せ持つウレタンアクリレート、(メタ)アクリレート基とエステル結合とを同一分子内に併せ持つポリエステルアクリレート、エポキシ樹脂から誘導され、エポキシ基と(メタ)アクリレート基とを同一分子内に併せ持つエポキシアクリレート、等が挙げられる。
【0118】
(エラストマー)
エラストマー(すなわちゴム)としては、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、クロロプレンゴム、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、改質天然ゴム(エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム、脱タンパク天然ゴム等)、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。
【0119】
樹脂が熱可塑性樹脂である場合、セルロースナノファイバーの再分散液又はその乾燥体(以下、セルロースナノファイバー成分ともいう。)を熱可塑性樹脂と混練して樹脂複合体を製造できる。樹脂複合体のより具体的な製造方法としては、
-樹脂モノマーとセルロースナノファイバー成分とを混合し、重合反応を行い、得られた樹脂複合体をストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体を得る方法、
-単軸又は二軸押出機を用いて、樹脂とセルロースナノファイバー成分との混合物を溶融混練し、ストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体を得る方法、
-単軸又は二軸押出機を用いて、樹脂とセルロースナノファイバー成分との混合物を溶融混練し、棒状又は筒状に押出し冷却して押出成形体を得る方法、
-単軸又は二軸押出機を用いて、樹脂とセルロースナノファイバー成分との混合物を溶融混練し、Tダイより押出しシート、又はフィルム状の成形体を得る方法、
等が挙げられる。好ましい態様においては、単軸又は二軸押出機を用いて、樹脂とセルロースナノファイバー成分との混合物を溶融混練し、ストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体を得る。
樹脂とセルロースナノファイバー成分の溶融混練方法の具体例としては、樹脂と、所望の比率で搬送されたセルロースナノファイバー成分とを混合した後、溶融混練する方法が挙げられる。
樹脂が熱可塑性樹脂である場合、熱可塑性樹脂供給業者が推奨する最低加工温度は、ナイロン66では255~270℃、ナイロン6では225~240℃、ポリアセタール樹脂では170℃~190℃、ポリプロピレンでは160~180℃である。加熱設定温度は、これらの推奨最低加工温度より20℃高い温度の範囲が好ましい。混合温度をこの温度範囲とすることにより、セルロースナノファイバーと樹脂とを均一に混合することができる。
【0120】
樹脂として熱可塑性樹脂を含む樹脂複合体は、種々の形状での提供が可能である。具体的には、樹脂ペレット状、シート状、繊維状、板状、棒状等が挙げられるが、樹脂ペレット形状が、後加工の容易性や運搬の容易性からより好ましい。この際の好ましいペレット形状としては、丸型、楕円型、円柱型などが挙げられ、これらは押出加工時のカット方式により異なる。アンダーウォーターカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは、丸型になることが多く、ホットカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは丸型又は楕円型になることが多く、ストランドカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは円柱状になることが多い。丸型ペレットの場合、その好ましい大きさは、ペレット直径として1mm以上、3mm以下である。また、円柱状ペレットの場合の好ましい直径は、1mm以上3mm以下であり、好ましい長さは、2mm以上10mm以下である。上記の直径及び長さは、押出時の運転安定性の観点から、下限以上とすることが望ましく、後加工での成形機への噛み込み性の観点から、上限以下とすることが望ましい。
【0121】
樹脂として熱可塑性樹脂を含む樹脂複合体は、種々の樹脂成形体として利用が可能である。樹脂成形体の製造方法に関しては特に制限はなく、いずれの製造方法でも構わないが、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、インフレーション成形法、発泡成形法などが使用可能である。これらの中では射出成形法がデザイン性とコストの観点より、最も好ましい。
【0122】
樹脂が熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂である場合、例えば、樹脂溶液又は樹脂粉末分散体中にセルロースナノファイバー成分を十分に分散させて乾燥する方法、樹脂モノマー液中にセルロースナノファイバー成分を十分に分散させて熱、UV照射、重合開始剤等によって重合する方法、セルロースナノファイバー分散液の乾固体からなる成形体(例えば、シート、粉末粒子成形体等)に樹脂溶液又は樹脂粉末分散体を十分に含浸させて乾燥する方法、セルロースナノファイバー分散液の乾固体からなる成形体に樹脂モノマー液を十分に含浸させて熱、UV照射、重合開始剤等によって重合する方法等によって、樹脂複合体を製造できる。硬化に際し、種々の重合開始剤、硬化剤、硬化促進剤、重合禁止剤等を配合することができる。
【0123】
樹脂が熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂である場合、未硬化又は半硬化のプリプレグと呼ばれるシートを作製した後、プリプレグを単層又は積層にして、加圧及び加熱によって樹脂を硬化及び成形する方法を用いてよい。加圧及び加熱の方法としては、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法等が挙げられる。
【0124】
樹脂が光硬化性樹脂である場合、活性エネルギー線を用いた各種硬化方法を用いて樹脂成形体を製造できる。
【0125】
樹脂がエラストマーである場合、セルロースナノファイバー分散液の乾固体と原料ゴムとを乾式で混練する方法、セルロースナノファイバー成分と原料ゴムとを分散媒中に分散又は溶解させた後、乾燥させて混合する方法等によって、樹脂複合体を製造できる。混合方法としては、高い剪断力と圧力とをかけ、分散を促進できる点で、ホモジナイザーによる混合方法が好ましいが、その他、プロペラ式攪拌装置、ロータリー攪拌装置、電磁攪拌装置、手動による攪拌、等の方法を用いることもできる。エラストマーを含む樹脂複合体を、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等の所望の成形方法を用いて成形し、シート、ペレット、粉末等の所望の形状の未加硫の成形体を得ることができる。未加硫の成形体を、必要に応じて熱処理等で加硫して、樹脂成形体を得ることができる。
【0126】
熱可塑性樹脂又はエラストマーを含む樹脂成形体は、その一部(例えば数箇所)を加熱処理して溶融させ、例えば樹脂又は金属の基板に接着して用いても構わない。また、樹脂成形体は、樹脂又は金属の基板に塗布された塗膜であってもよく、基板との積層体を形成してもよい。また、シート状、フィルム状又は繊維状の樹脂成形体には、アニール処理、エッチング処理、コロナ処理、プラズマ処理、シボ転写、切削、表面研磨等の二次加工を行っても構わない。
【0127】
樹脂複合体において、樹脂100質量部に対するセルロースナノファイバーの量は、加工性と機械的特性のバランスの観点から、好ましくは、0.001質量部以上、又は0.01質量部以上、又は0.1質量部以上、又は1質量部以上であってよく、好ましくは、100質量部以下、又は80質量部以下、又は70質量部以下、又は50質量部以下であってよい。
【実施例
【0128】
本発明を実施例に基づいて更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0129】
≪セルロースナノファイバーの分散液、乾固体及びその再分散液の製造≫
[製造例1]
コットンリンターパルプと水を混合し、固形分率1.5質量%の分散体を調製し、ディスクリファイナー装置として相川鉄工(株)製SDR14型ラボリファイナー(加圧型DISK式)を用い、ディスク間のクリアランスを1mmとして該水分散体を30分間叩解処理した。それに引き続き、クリアランスをほとんどゼロに近いレベルにまで低減させた条件下で徹底的に叩解を行い、叩解水分散体(固形分率:1.5質量%)を得た。得られたセルロースナノファイバースラリー(分散液として)を希釈して得た固形分率0.5質量%の水分散体のシェアレート100秒-1における粘度は40.1mPa・sであった。
【0130】
得られたセルロースナノファイバースラリーを抄紙機を用いて固形分率10~20質量%程度にろ過濃縮し、得られたシート状のウェットケーキをスチームオーブン中で水分率7質量%以下になるまで乾燥させてセルロースナノファイバーの凝集乾燥物(セルロースナノファイバー乾固体として)を得た。得られた乾固体のみかけ密度は685g/Lであった。なおセルロースナノファイバーは、乾燥前の状態で、重合度:2900、平均繊維径:32nmを有していた。
【0131】
[製造例2]
コットンリンターパルプと水を混合し、固形分率1.5質量%の分散体を調製し、ディスクリファイナー装置として相川鉄工(株)製SDR14型ラボリファイナー(加圧型DISK式)を用い、ディスク間のクリアランスを1mmとして該水分散体を30分間叩解処理した。それに引き続き、クリアランスをほとんどゼロに近いレベルにまで低減させた条件下で徹底的に叩解を行い、叩解水分散体(固形分率:1.5質量%)を得た。得られた叩解水分散体を、そのまま高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社(伊)製NSO15H)を用いて操作圧力100MPa下で10回微細化処理し、セルロースナノファイバースラリー(分散液として)(固形分率:1.5質量%)を得た。得られたセルロースナノファイバースラリーを希釈して得た固形分率0.5質量%の水分散体のシェアレート100秒-1における粘度は141.3mPa・sであった。
【0132】
得られたセルロースナノファイバースラリーを抄紙機を用いて固形分率10~20質量%程度にろ過濃縮し、得られたウェットシートを旭化成製のシルキーファイン(不織布)で挟み込み、その外側にろ紙10枚を配置した。その一番外側に金属プレートを設置し、プレス圧410kPAで5分間プレスする操作を行い、膨潤した厚紙を交換してプレス操作を繰り返し、水分率55質量%まで濃縮した。得られたセルロースナノファイバー湿潤シートをプレス圧410kPa、150℃で水分率5質量%以下になるまで真空乾燥し、セルロースナノファイバー乾燥物(セルロースナノファイバー乾固体として)を得た。得られた乾固体のみかけ密度は1150g/Lであった。なおセルロースナノファイバーは、乾燥前の状態で、重合度:2700、平均繊維径:18nmを有していた。
【0133】
[製造例3]
固形分率0.5質量%の希釈水分散体のシェアレート100秒-1における粘度が14.9mPa・sであるセリッシュKY-100G(ダイセル化学工業)(セルロースナノファイバー)を密閉式プラネタリーミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM-5LVT」、撹拌羽根はフック型)中、-0.1MPaの減圧条件で、60℃の温浴をセットし、回転数307rpmで、水分率5質量%以下になるまで減圧乾燥処理を行い、セルロースナノファイバーの凝集乾燥物(セルロースナノファイバー乾固体として)を得た。得られた乾固体のみかけ密度は291g/Lであった。なおセルロースナノファイバーは、乾燥前の状態で、重合度:1450、平均繊維径:125nmを有していた。
【0134】
[再分散例1~6]
NETZSCH VAKUMIX社製 KAPPA VITA HM35に、得られたセルロースナノファイバー乾固体0.5質量部、ジメチルスルホキシド24.5質量部を加え、2時間撹拌後、ホモミキサーにて回転数 6500rpmで表1に示す時間処理してセルロースナノファイバーを再分散させ、セルロースナノファイバー/DMSOスラリー(再分散液として)を得た。
表1に、再分散条件、得られた再分散液から後述の方法で調製した固形分率0.5質量%の水分散体のシェアレート100秒-1における粘度、及び粘度回復率として(再分散液から得た水分散体の粘度)/(分散液から得た水分散体の粘度)の比(%)を示す。
【0135】
[再分散例7~9]
NETZSCH VAKUMIX社製 KAPPA VITA HM35に、製造例1~3で得られたセルロースナノファイバー乾固体をそれぞれ0.5質量部、及び純水を24.5質量部加え、2時間静置した後、セルロースナノファイバー乾固体を取り出し、
120℃、真空条件下、2時間乾燥させて得た乾燥固形分の質量(X)を測定した。静置前のセルロースナノファイバー乾固体の質量(Y)に対する変化率(Y-X)/Yは、製造例1:6質量%、製造例2:2質量%、製造例3:10質量%であった。得られたセルロース/水分散体を、ホモジナイザー回転数 6500rpmで再分散させようとしたが、再分散せず、装置目詰まりを起こして停止した。
【0136】
[再分散例10]
(再分散後のセルロースナノファイバーのアセチル化)
再分散例5で得たセルロースナノファイバー/DMSOスラリー(再分散液)50質量部に対し、重曹0.321質量部、酢酸ビニル1質量部を加え、60℃で1時間反応させることにより、表面をアセチル化したアセチル化セルロースナノファイバーを得た。
【0137】
≪樹脂複合体の製造≫
[実施例1~7、並びに対照例1~3]
各製造例で得たセルロースナノファイバースラリー(分散液)、及び各再分散例で得たセルロースナノファイバーDMSOスラリー(再分散液)を、表2に示すようにそれぞれ用い、以下の手順で樹脂複合体を製造した。セルロースナノファイバーDMSOスラリー(再分散液)については、当該スラリー1質量部に水5質量部を加え、撹拌後、遠心分離を行い上澄み液を廃棄した。上記の水5質量部の添加、撹拌、遠心分離、上澄み液の廃棄のサイクルを5回繰り返した後、残渣に水2質量部を加えて水分散体を得た。上記分散液、及び再分散液から得た上記水分散体のそれぞれに、セルロース固形分100質量部に対して43質量部のPEG-PPG(GL-3000 三洋化成製)を加え、密閉式プラネタリーミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM-5LVT」、撹拌羽根はフック型)中、回転数70rpmで80分間、25℃、大気圧で撹拌処理した後、-0.1MPaの減圧条件で、60℃の温浴をセットし、回転数307rpmで5時間、減圧乾燥処理を行い、セルロース/PEG-PPG乾燥体を得た。得られたセルロース/PEG-PPG乾燥体と熱可塑性樹脂(宇部興産株式会社製のUBEナイロン1013B)とを、表2に示す配合で用い、下記手順で樹脂複合体を製造した。
【0138】
得られた樹脂複合体を小型混練機(Xplore instruments社製、製品名「Xplore」)を用いて、260℃、100rpm(シアレート1570(1/s))で5分間循環混練後に、ダイスを経てφ1mmの樹脂複合体のストランドを得た。当該ストランドから得られた樹脂複合体ペレット(前記ストランドを1cm長さにカットしたもの)を、付属の射出成型機にて260℃で溶融し、JIS K7127規格のダンベル状試験片を作製し、評価に用いた。得られた薄膜、ペレット、ダンベル状試験片の各形体とした樹脂複合体1を用いて適宜各評価を行った。
【0139】
≪評価≫
<測定サンプル作製>
各製造例で得たセルロースナノファイバースラリーをろ過することで固形分濃度10質量%に調整して得たセルローススラリー4gをtert-ブタノール96g中に分散させ、さらにホモジナイザー(IKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)で処理条件:回転数25,000rpm×5分間で凝集物が無い状態まで分散処理した(固形分濃度0.4質量%)。得られたtert-ブタノール分散液100gをろ紙(5C,アドバンテック,直径90mm)上で濾過した。ろ過で得られた湿紙を、ろ紙が貼りついた状態で、かつ、直径150mmろ紙2枚に挟んで、かつ、湿紙の周囲を300g程度の円筒状(内径110mm)の重りで抑えた状態で、150℃にて5分間加熱し、多孔質シートを得た。この多孔質シートを測定サンプルとして使用した。
【0140】
<セルロースナノファイバーの平均置換度(DS)(アセチル化度)>
多孔質シートのATR-IR法による赤外分光スペクトルを、フーリエ変換赤外分光光度計(JASCO社製 FT/IR-6200)で測定した。赤外分光スペクトル測定は以下の条件で行った。
積算回数:64回、
波数分解能:4cm-1
測定波数範囲:4000~600cm-1
ATR結晶:ダイヤモンド、
入射角度:45°
得られたIRスペクトルよりIRインデックスを、下記式(1):
IRインデックス= H1730/H1030(1)
に従って算出した。式中、H1730およびH1030は1730cm-1、1030cm-1(セルロース骨格鎖C-O伸縮振動の吸収バンド)における吸光度である。ただし、それぞれ1900cm-1と1500cm-1を結ぶ線と800cm-1と1500cm-1を結ぶ線をベースラインとして、このベースラインを吸光度0とした時の吸光度を意味する。
そして、平均置換度(DS)をIRインデックスより下記式(2)に従って算出した。
DS=4.13×IRインデックス・・・(2)
【0141】
<セルロースナノファイバーの重合度>
「第14改正日本薬局方」(廣川書店発行)の結晶セルロース確認試験(3)に規定される銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法により測定した。
【0142】
<セルロースナノファイバーの結晶化度>
多孔質シートのX線回折測定を行い、下記式より結晶化度を算出した。
結晶化度(%)=[I(200)-I(amorphous)]/I(200)×100
(200):セルロースI型結晶における200面(2θ=22.5°)による回折ピーク強度
(amorphous):セルロースI型結晶におけるアモルファスによるハローピーク強度であって、200面の回折角度より4.5°低角度側(2θ=18.0°)のピーク強度
【0143】
(X線回折測定条件)
装置 MiniFlex(株式会社リガク製)
操作軸 2θ/θ
線源 CuKα
測定方法 連続式
電圧 40kV
電流 15mA
開始角度 2θ=5°
終了角度 2θ=30°
サンプリング幅 0.020°
スキャン速度 2.0°/min
サンプル:試料ホルダー上に多孔質シートを貼り付け
【0144】
<セルロースナノファイバーの平均繊維径>
セルロースナノファイバースラリーを、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」、処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させた水分散体を、0.1~0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを、原子間力顕微鏡(AFM)で測定した。測定は、少なくとも100本のセルロースナノファイバーが観測されるように倍率を調整して行い、無作為に選んだ100本のセルロースナノファイバーの繊維径を求め、100本のセルロースナノファイバーの加算平均を算出した。
【0145】
<セルロースナノファイバー乾固体のみかけ密度>
セルロースナノファイバー乾固体のみかけ密度は、アルキメデス法に従い、エー・アンド・デイ社製の電子天秤GR-202及び比重計AD-1653を用いて求めた。
【0146】
<セルロースナノファイバーの分散液及び再分散液から得た水分散体の粘度>
分散液に対して前述のように水を添加して固形分率0.5質量%の水分散体を得た。また、再分散液に対して、5質量倍の水の添加、撹拌、遠心分離、上澄み液の廃棄のサイクルを5回繰り返した後、水を添加して固形分率0.5質量%の水分散体を得た。これらの水分散体について、粘度測定を行った。測定にはサーモフィッシャーサイエンティフィック社レオメーターHAAKE MARSを用い、共軸円筒型の配置にて粘度測定を行った。シェアレート100秒-1の粘度を読み取るにあたり、データのばらつきを抑制するため、一定のせん断履歴を与えた後にシェアレート100秒-1における粘度を読み取った。具体的には、0.5質量%の水分散体(分散液又は再分散液から得たもの)を共軸円筒用カップに入れた後、レオメーターを用いて1秒-1から100秒-1まで100秒かけてせん断速度を上げ、その後、シェアレートを100秒-1から1秒-1まで100秒かけてせん断速度を減少させ、その後、再度、1秒-1から100秒-1まで100秒かけてせん断速度を上げ、100秒-1に達した時点での粘度を読み取った。
【0147】
<樹脂複合体の引張破断強度>
最大型締圧力75トンの射出成形機を用いて、ISO294-3に準拠した多目的試験片を成形し、JIS K6920-2に準拠した条件で、n=10で引張破断強度を測定した。なお、ポリアミド樹脂は、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋に保管し、吸湿を抑制した。
【0148】
<樹脂複合体の線熱膨張率(CTE)>
蒸気多目的試験片を、3mm幅×25mm長に切断し、測定サンプルとした。SII製TMA6100型装置を用いて、圧縮モードでチャック間10mm、荷重5g、窒素雰囲気下、室温から120℃まで5℃/min.で昇温した後、25℃まで5℃/min.で降温し、再び25℃から120℃まで5℃/min.で昇温した。この際、2度目の昇温時における30℃~100℃の間の平均の線熱膨張率を測定した。
【0149】
【表1】
【0150】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明によれば、良好な再分散性を示す乾固体として提供され得ることによって、貯蔵、輸送コストに優れるとともに、樹脂複合体に対する物性向上剤として極めて有用なセルロースナノファイバーが提供され得る。
図1
図2