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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】無線電力伝送システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/70 20160101AFI20241007BHJP
   H02J 50/40 20160101ALI20241007BHJP
   H02J 50/12 20160101ALI20241007BHJP
   H02M 7/21 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
H02J50/70
H02J50/40
H02J50/12
H02M7/21 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020040787
(22)【出願日】2020-03-10
(65)【公開番号】P2021145400
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】江口 正
【審査官】白井 孝治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-176692(JP,A)
【文献】国際公開第2015/189959(WO,A1)
【文献】特開2015-208150(JP,A)
【文献】特開2012-235674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J50/00~50/90
H02M 7/00~ 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の送電コイルと、
第1の直流電圧を第1の周波数でスイッチングした電圧を前記第1の送電コイルに印加する第1のスイッチング回路と、
前記第1の送電コイルから電力を無線受電する第1の受電コイルと、
前記第1の受電コイルの電圧を前記第1の周波数でスイッチングすることにより整流する第1の同期整流器と、
第2の送電コイルと、
第2の直流電圧を前記第1の周波数とは異なる第2の周波数でスイッチングした電圧を前記第2の送電コイルに印加する第2のスイッチング回路と、
前記第2の送電コイルから電力を無線受電する第2の受電コイルと、
前記第2の受電コイルの電圧を前記第2の周波数でスイッチングすることにより整流する第2の同期整流器と
前記第1の同期整流器により整流された電圧に対して、前記第1の周波数と前記第2の周波数の差周波数の成分を減衰させる第1のフィルタと、
前記第2の同期整流器により整流された電圧に対して、前記第1の周波数と前記第2の周波数の差周波数の成分を減衰させる第2のフィルタと
を有することを特徴とする無線電力伝送システム。
【請求項2】
前記第1の同期整流器と前記第2の同期整流器は、それぞれ、双方向スイッチを有することを特徴とする請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【請求項3】
前記第1のフィルタおよび前記第2のフィルタは、少なくとも1つのコンデンサから構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の無線電力伝送システム。
【請求項4】
前記第1のフィルタおよび前記第2のフィルタは、ローパスフィルタであることを特徴とする請求項1または2に記載の無線電力伝送システム。
【請求項5】
前記第1のフィルタおよび前記第2のフィルタは、バンドエリミネーションフィルタであることを特徴とする請求項1または2に記載の無線電力伝送システム。
【請求項6】
前記第1のフィルタは前記第1の同期整流器の後に接続され、前記第2のフィルタは前記第の同期整流器の後に接続されることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項7】
前記第1のフィルタはさらに、前記第1の同期整流器により整流された電圧に対して、前記第1の周波数の成分を減衰させ、
前記第2のフィルタはさらに、前記第2の同期整流器により整流された電圧に対して、前記第2の周波数の成分を減衰させることを特徴とする請求項1または2に記載の無線電力伝送システム。
【請求項8】
前記第1の同期整流器により整流された電圧に対して、前記第1の周波数の成分を減衰させる第のフィルタと、
前記第2の同期整流器により整流された電圧に対して、前記第2の周波数の成分を減衰させる第のフィルタとをさらに有することを特徴とする請求項1または2に記載の無線電力伝送システム。
【請求項9】
前記第1の送電コイルの長手方向の長さは、前記第1の受電コイルの長手方向の長さより長く、
前記第2の送電コイルの長手方向の長さは、前記第の受電コイルの長手方向の長さより長いことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項10】
前記第1の受電コイルは、前記第1の送電コイルの長手方向に移動可能であり、
前記第2の受電コイルは、前記第2の送電コイルの長手方向に移動可能であることを特徴とする請求項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項11】
前記第1の送電コイルと前記第2の送電コイルは、第1の面上で相互に隣接し、
前記第1の受電コイルと前記第2の受電コイルは、前記第1の面とは異なる第2の面上で相互に隣接していることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項12】
前記第1の送電コイルと前記第1の受電コイルは、積層方向で相互に隣接し、
前記第2の送電コイルと前記第2の受電コイルは、積層方向で相互に隣接していることを特徴とする請求項11に記載の無線電力伝送システム。
【請求項13】
前記第1の同期整流器により整流された電圧を基に、駆動される第1のモータと、
前記第2の同期整流器により整流された電圧を基に、駆動される第2のモータとをさらに有することを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項14】
前記第1の同期整流器により整流された電圧を基に、前記第1のモータを駆動する第1の駆動回路と、
前記第2の同期整流器により整流された電圧を基に、前記第2のモータを駆動する第2の駆動回路とを有することを特徴とする請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線電力伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、装置内の送電部から受電部へケーブル等を介して行われていた電力供給を、無線電力伝送に置き換えるための技術が考えられている。特許文献1には、モータを動かすための電力を無線で伝送する技術の一例が開示されている。
【0003】
一方、装置内の送電部から受電部へ電力を伝送する装置の例として、半導体露光装置がある。半導体露光装置では、ウエハを露光位置に移動させるためのステージ上に、ウエハパターンを形成するためステージを微細移動させる複数のモータが搭載されている。それらのモータを駆動する電力を伝送するためのケーブルがステージ上に接続されている。このケーブルは、ステージの移動にあわせて動くため、ケーブルによる張力が発生してしまい、ステージの位置決め精度が低下する。そこで、このケーブルを用いた電力伝送を無線化することが考えられる。
【0004】
特許文献2には、送電共振子と受電共振子の組を複数用いて無線で送電するシステムにおいて、共振子の組ごとに異なる周波数を用いて送電することで干渉を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-93706号公報
【文献】国際公開第2015/189959号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載の技術では、第1の送電共振子の動作帯域に、第2の送電共振子に入力される交流電力の周波数が含まれないようにすることで、干渉を抑制する。そのため、第1の送電共振子と第2の送電共振子の動作帯域が大きく異なるように設計しなければならず、設計の自由度が低くなる。
【0007】
本発明の目的は、無線送電を行うシステムにおいて干渉を効率的に抑制できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の無線電力伝送システムは、第1の送電コイルと、第1の直流電圧を第1の周波数でスイッチングした電圧を前記第1の送電コイルに印加する第1のスイッチング回路と、前記第1の送電コイルから電力を無線受電する第1の受電コイルと、前記第1の受電コイルの電圧を前記第1の周波数でスイッチングすることにより整流する第1の同期整流器と、第2の送電コイルと、第2の直流電圧を前記第1の周波数とは異なる第2の周波数でスイッチングした電圧を前記第2の送電コイルに印加する第2のスイッチング回路と、前記第2の送電コイルから電力を無線受電する第2の受電コイルと、前記第2の受電コイルの電圧を前記第2の周波数でスイッチングすることにより整流する第2の同期整流器と、前記第1の同期整流器により整流された電圧に対して、前記第1の周波数と前記第2の周波数の差周波数の成分を減衰させる第1のフィルタと、前記第2の同期整流器により整流された電圧に対して、前記第1の周波数と前記第2の周波数の差周波数の成分を減衰させる第2のフィルタとを有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、無線送電を行うシステムにおいて干渉を効率的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】無線電力伝送システムの構成例を示すブロック図である。
図2】送電コイルと受電コイルを示す図である。
図3】無線電力伝送システムの構成例を示す回路図である。
図4】同期整流による干渉信号抑制を説明する図である。
図5】無線電力伝送システムの出力電圧を示すグラフである。
図6】送電コイルと受電コイルを示す図である。
図7】無線電力伝送システムの出力電圧を示すグラフである。
図8】無線電力伝送システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態による無線電力伝送システム300の構成例を示すブロック図である。無線電力伝送システム300は、電磁界結合により、具体的には磁界または電界と磁界の双方を用いて、電力を伝送する。無線電力伝送システム300は、例えば、半導体露光装置に用いられるが、これに限定されない。例えば、無線電力伝送システム300は、複数のモータ等を駆動する機器や、モータ駆動の他に制御回路の駆動も無線で伝送する必要がある機器に適用できる。例えば、無線電力伝送システム300は、インクジェットプリンタや工場で用いられるロボット装置、自動搬送車(AGV)など、複数の電力供給が必要な機器に適用できる。特に、機器内の狭い範囲に無線電力伝送システム300を配置する場合に好適である。
【0012】
無線電力伝送システム300を半導体露光装置に適用する場合、モータ400の数量は例えば10個程度であるが、図1では3個のモータ400を示す。無線電力伝送システム300は、送電装置100と、受電装置200とを有する。送電装置100と受電装置200の間は、物理的には固定されていない。3個の送電コイル101から3個の受電コイル201へ各々電力が非接触で送られる。
【0013】
送電装置100は、1個のコントローラ103と、1個の電源104と、複数のスイッチング回路106と、複数の送電コイル101とを有する。受電装置200は、複数の受電コイル201と、複数の受電回路204と、複数のモータ駆動回路206と、複数のモータとを有する。
【0014】
電源104は、直流電圧を出力する。コントローラ103は、光学センサなどから得られる現在のモータ400の位置情報を基に、次のモータ400の位置の指令を出す。具体的には、コントローラ103は、モータ400の推力を決める電源104の出力電圧の振幅値と、モータ400の動く向きを決めるモータ印加電圧の符号の指令を出す。コントローラ103は、直接電源104へ、出力電圧の振幅値の指令信号を送る。電源104は、出力電圧の振幅値の指令信号を基に、出力電圧の振幅値を変える。コントローラ103は、モータ印加電圧の符号の指令信号をモータ駆動回路206に無線送信する。モータ駆動回路206は、モータ印加電圧の符号の指令信号に応じて、整流動作を0°または180°反転させる。
【0015】
例として、正の電圧をモータ400に印加する場合の無線電力伝送システム300の動作を説明する。電源104は、コントローラ103からの指令信号に基づく振幅の直流電圧を各々のスイッチング回路106へ出力する。スイッチング回路106の各々は、所定の周波数のクロック信号の生成器を有する。スイッチング回路106の各々は、クロック信号を基に、スイッチング素子を駆動し、電源104の出力電圧をスイッチングし、直流電圧を交流電圧に変換する。スイッチング回路106の各々は、交流電圧を送電コイル101の各々に印加する。送電コイル101の各々は、受電コイル201の各々に電力を無線送電する。
【0016】
送電コイル101の各々から受電コイル201の各々へ電磁界結合により電力が伝達される。受電回路204の各々は、受電コイル201の各々に接続される。スイッチング回路106と受電回路204は、コイルとコンデンサを含んだ共振電源回路で形成されている。共振電源回路の各素子値は、送電コイル101と受電コイル201のインダクタンス値とレジスタンス値、送電コイル101と受電コイル201の結合係数、スイッチング周波数、最大電源出力電圧値、最大モータ印加電圧値、モータ400のレジスタンス値で決まる。電源出力電圧値とモータ印加電圧値は、コントローラ103からの指令信号により変化する。そのため、所定の電圧範囲において、電源出力電圧値とモータ印加電圧値が略等しくなるように共振電源回路の各素子値を調整する。さらに、電源出力電圧値とモータ印加電圧値の関係を予め測定してテーブル化し、所望のモータ印加電圧値を得るための電源出力電圧値を指令するようにすれば、モータ400を高精度に駆動できる。
【0017】
3個の送電コイル101と3個の受電コイル201は、各々隣接する送電コイル101からの干渉を受けることなく、高精度に駆動する必要がある。モータ400の電圧精度として求められるのは数mV程度の誤差である。そのため、隣接する送電コイル101からの干渉電圧を数mV以内に抑える必要がある。
【0018】
図2は、2個の送電コイル101a,101bと2個の受電コイル201a,201bを平置きした場合の構成図である。送電コイル101aは、3個の送電コイル101のうちの一つの送電コイルである。送電コイル101bは、3個の送電コイル101のうちの他の送電コイルである。受電コイル201aは、3個の受電コイル201のうちの一つの受電コイルである。受電コイル201bは、3個の受電コイル201のうちの他の受電コイルである。
【0019】
送電コイル101aの長手方向の長さは、受電コイル201aの長手方向の長さより長い。送電コイル101bの長手方向の長さは、受電コイル201bの長手方向の長さより長い。受電コイル201aは、送電コイル101aの長手方向に移動可能である。受電コイル201bは、送電コイル101bの長手方向に移動可能である。
【0020】
送電コイル101aと送電コイル101bは、第1の面上で相互に隣接している。受電コイル201aと受電コイル201bは、第1の面とは異なる第2の面上で相互に隣接している。送電コイル101aと受電コイル201aは、積層方向で相互に隣接している。送電コイル101bと受電コイル201bは、積層方向で相互に隣接している。
【0021】
送電コイル101a上を受電コイル201aがスライド移動する。送電コイル101b上を受電コイル201bがスライド移動する。送電コイル101aおよび受電コイル201a間の結合係数は、4MHzで0.43程度である。送電コイル101bおよび受電コイル201b間の結合係数は、4.5MHzで0.43程度である。また、隣接する送電コイル101aおよび受電コイル201b間の結合係数は、4.5MHzで0.0037程度である。送電コイル101aから受電コイル201bに伝わる干渉電圧は、図8(A)のように、受電回路204がダイオード整流器で構成されている場合、負荷の大きさ、フィルタ等の条件により1V以上になる場合があり、モータ400が誤動作してしまう。
【0022】
図8(A)は、受電回路204がダイオード整流器で構成されている1系統の無線電力伝送システム300の主要部の構成例を示す図である。スイッチング回路106は、4個のスイッチング素子U1~U4を有し、電源104に接続される。送電コイル101は、キャパシタC1およびC2を介して、スイッチング回路106に接続される。
【0023】
受電回路204は、ダイオード整流器2040と、ローパスフィルタ2042と、バンドイリミネーションフィルタ2043とを有する。受電コイル201は、キャパシタC3およびC4を介して、ダイオード整流器2040に接続される。ダイオード整流器2040は、ダイオードD1~D4を有し、受電コイル201が受電した電圧を整流する。ローパスフィルタ2042は、コイルL3と、キャパシタC5,C6とを有し、スイッチング周波数成分を除去する。バンドイリミネーションフィルタ2043は、コイルL4~L6と、キャパシタC7~C9とを有する。モータ400は、バンドイリミネーションフィルタ2043に接続される。
【0024】
図8(B)は、送電コイル101aから受電コイル201aへの入力電圧と、送電コイル101bから受電コイル201aへの干渉波の入力電圧と、受電コイル201aに接続される受電回路204の出力電圧を示すシミュレーション波形図である。送電コイル101aは、受電コイル201aに対して、4MHzで送電する。送電コイル101bは、受電コイル201bに対して、4.5MHzで送電する。受電コイル201aは、送電コイル101aからの入力電圧に対して、送電コイル101bからの干渉波の入力電圧が重畳される。そのため、受電コイル201aに接続される受電回路204の出力電圧は、1.58Vの干渉波の電圧が生じ、モータ400の誤動作を引き起こす。
【0025】
そこで、第1の実施形態では、図3に示すように、受電回路204を双方向スイッチの整流器で構成する。
【0026】
図3は、第1の実施形態による1系統の無線電力伝送システム300の主要部の構成例を示す図である。スイッチング回路106は、4個のスイッチング素子U1~U4を有し、電源104に接続される。送電コイル101は、キャパシタC1およびC2を介して、スイッチング回路106に接続される。
【0027】
受電回路204は、同期整流器2041と、ローパスフィルタ2042と、バンドイリミネーションフィルタ2043とを有する。受電コイル201は、キャパシタC3およびC4を介して、同期整流器2041に接続される。同期整流器2041は、スイッチング素子U5~U12を有し、受電コイル201が受電した電圧を整流する。スイッチング素子U5およびU6は、双方向スイッチを構成する。スイッチング素子U7およびU8は、双方向スイッチを構成する。スイッチング素子U9およびU10は、双方向スイッチを構成する。スイッチング素子U11およびU12は、双方向スイッチを構成する。
【0028】
ローパスフィルタ2042は、コイルL3と、キャパシタC5,C6とを有し、スイッチング周波数成分を除去する。バンドイリミネーションフィルタ2043は、コイルL4~L6と、キャパシタC7~C9とを有し、スイッチング回路106とそれに隣接するスイッチング回路106のクロック周波数の差周波数成分を除去する。モータ400は、バンドイリミネーションフィルタ2043に接続される。
【0029】
受電回路204が、双方向スイッチを用いた同期整流器2041を有する。スイッチング回路106は、D級プッシュプル回路で構成されているが、別の構成でもよい。スイッチング回路106内のスイッチング素子U1~U4は、一定の周波数でスイッチングされる。スイッチング素子U1およびU4がオンの時、スイッチング素子U2およびU3がオフすることで、送電コイル101のキャパシタC1側からキャパシタC2側に電流が流れる。逆に、スイッチング素子U2およびU3がオンの時、スイッチング素子U1およびU4がオフすることで、送電コイル101のキャパシタC2側からキャパシタC1側に電流が流れる。ここで、キャパシタC1,C2および送電コイル101は、スイッチング素子U1~U4の周波数と同じ周波数で共振する共振回路になっている。
【0030】
受電コイル201は、キャパシタC3およびC4とともに共振回路を構成し、受電回路204を含めた回路がスイッチング素子U1~U4の周波数と同じ周波数で共振する。同期整流器2041は、スイッチング素子U1~U4の周波数と同じ周波数でスイッチングする双方向スイッチによるフルブリッジ同期整流器であり、受電効率が最もよくなる位相でスイッチングするように調整されている。ここで、同期整流器2041のクロック信号は、送電装置100のスイッチング回路106に入力されるスイッチング周波数のクロック信号を別の方法で伝送してもよいし、受電コイル201やそれに接続される回路に流れる電流等から検出してもよい。
【0031】
ローパスフィルタ2042は、スイッチング周波数の信号を除去し、隣接する送電コイル101の信号が入力されても除去できる。ローパスフィルタ2042は、図3では、3次のローパスフィルタになっているが、他の次数のフィルタでもよいし、平滑コンデンサだけで構成されていてもよい。バンドイリミネーションフィルタ2043は、スイッチング回路106とそれに隣接するスイッチング回路106のクロック周波数の差周波数成分を除去する。バンドイリミネーションフィルタ2043は、図3では、3次のバンドイリミネーションフィルタになっているが、他の次数のフィルタでもよい。また、ローパスフィルタ2042がその差周波数成分を十分除去できれば、バンドイリミネーションフィルタ2043はなくてもよい。次に、同期整流器2041が異なる周波数の信号を排除できる理由を説明する。
【0032】
図4(A)は、同期整流器2041aが送電コイル101aの4MHzの信号を整流した信号と、同期整流器2041bが送電コイル101bの4.5MHzの信号を整流した信号を示す図である。同期整流器2041aは、受電コイル201aに接続される同期整流器2041である。同期整流器2041bは、受電コイル201bに接続される同期整流器2041である。
【0033】
同期整流器2041aが、送電コイル101aの4MHzの信号(細い点線)をそれと周波数および位相が合っている4MHzのクロック信号(細い実線)のスイッチングにより全波整流した信号(太い実線)を示す。同期整流器2041aは、細い実線で示されるクロック信号がハイレベルのときは、細い点線で示される4MHzの信号をそのまま出力し、細い実線で示されるクロック信号がローレベルのときは、細い点線で示される4MHzの信号を反転して出力する。ローパスフィルタ2042aは、同期整流器2041aに接続されるローパスフィルタ2042である。ローパスフィルタ2042aは、同期整流器2041aが出力する信号(太い実線)に対して、4MHz以上の周波数成分を除去し、電源104の出力電圧の振幅に比例した直流信号(太い点線)を出力する。
【0034】
同期整流器2041bが、送電コイル101bの4.5MHzの信号(細い点線)をそれと周波数および位相が合っている4.5MHzのクロック信号(細い実線)のスイッチングにより全波整流した信号(太い実線)を示す。同期整流器2041bは、細い実線で示されるクロック信号がハイレベルのときは、細い点線で示される4.5MHzの信号をそのまま出力し、細い実線で示されるクロック信号がローレベルのときは、細い点線で示される4.5MHzの信号を反転して出力する。ローパスフィルタ2042bは、同期整流器2041bに接続されるローパスフィルタ2042である。ローパスフィルタ2042bは、同期整流器2041bが出力する信号(太い実線)に対して、4.5MHz以上の周波数成分を除去し、電源104の出力電圧の振幅に比例した直流信号(太い点線)を出力する。
【0035】
図4(B)は、同期整流器2041aが送電コイル101bの4.5MHzの信号を整流した信号と、同期整流器2041bが送電コイル101aの4MHzの信号を整流した信号を示す図である。
【0036】
同期整流器2041aが、送電コイル101bの4.5MHzの信号(細い点線)をそれと周波数が異なる4MHzのクロック信号(細い実線)のスイッチングにより全波整流した信号(太い実線)を示す。同期整流器2041aは、細い実線で示されるクロック信号がハイレベルのときは、細い点線で示される4.5MHzの信号をそのまま出力し、細い実線で示されるクロック信号がローレベルのときは、細い点線で示される4.5MHzの信号を反転して出力する。ローパスフィルタ2042aは、同期整流器2041aが出力する信号(太い実線)に対して、4MHz以上の周波数成分を除去した信号(太い点線)を出力する。
【0037】
同期整流器2041bが、送電コイル101aの4MHzの信号(細い点線)をそれと周波数が異なる4.5MHzのクロック信号(細い実線)のスイッチングにより全波整流した信号(太い実線)を示す。同期整流器2041bは、細い実線で示されるクロック信号がハイレベルのときは、細い点線で示される4MHzの信号をそのまま出力し、細い実線で示されるクロック信号がローレベルのときは、細い点線で示される4MHzの信号を反転して出力する。ローパスフィルタ2042bは、同期整流器2041bが出力する信号(太い実線)に対して、4.5MHz以上の周波数成分を除去した信号(太い点線)を出力する。
【0038】
同期整流器2041では、入力信号(細い点線)の周波数とクロック信号(細い実線)の周波数が異なる。そのため、ローパスフィルタ2042の出力信号(太い点線)は、最初はプラスであるが、中央付近ではマイナスになり、再びプラスになる。ローパスフィルタ2042の出力信号(太い点線)は、4MHzと4.5MHzの差周波数の500kHzの正弦波のみとなる。バンドイリミネーションフィルタ2043は、4MHzと4.5MHzの差周波数の500kHzの成分を除去する。
【0039】
以上のように、受電コイル201aに接続された受電回路204は、送電コイル101bが送電する4.5MHzの信号を除去し、送電コイル101aが送電する4MHzの信号に対して、全波整流および平滑化した信号を出力する。受電コイル201bに接続される受電回路204は、送電コイル101aが送電する4MHzの信号を除去し、送電コイル101bが送電する4.5MHzの信号に対して、全波整流および平滑化した信号を出力する。
【0040】
一方、図8(A)のダイオード整流器2040は、入力信号がプラスであれば、入力信号をそのまま出力し、入力信号がマイナスであれば、入力信号を反転して出力し、周波数による区別なく整流する。そのため、図8(B)に示すように、受電コイル201aに接続されるダイオード整流器2040は、送電コイル101aの4MHzの信号と送電コイル101bの4.5MHzの信号とが重畳された信号を整流して出力する。そのため、1.58Vの干渉波が生じ、モータ400の誤動作を引き起こす。
【0041】
図3の同期整流器2041は、スイッチング特性が良いMOSFETのスイッチング素子U5~U12を用いるが、ボディダイオード、すなわち、スイッチングするMOSFETに並列のダイオードが構造的に入ってしまう。このため、ボディダイオードによる整流によって、異なる周波数成分の信号も整流されることとなる。よって、同期整流器2041は、図3に示すように、双方向スイッチの構造になっていることが望ましい。
【0042】
図5は、図3の送電コイル101aから受電コイル201aへの入力電圧と、送電コイル101bから受電コイル201aへの干渉波の入力電圧と、受電コイル201aに接続される受電回路204の出力電圧を示すシミュレーション波形図である。
【0043】
送電コイル101aは、4MHzの信号を送電する。送電コイル101bは、4.5MHzの信号を送電する。受電コイル201aは、送電コイル101aの4MHzの信号と、送電コイル101bの4.5MHzの信号を受電する。受電コイル201aに接続される受電回路204の出力電圧は、干渉波が50mV程度まで抑制されている。これにより、モータ400の誤動作を防止することができる。上記のように、図3の受電回路204は、双方向スイッチを用いて整流を行い、さらに整流に係るスイッチング周波数に応じたフィルタを用いることにより、所望の電力伝送の性能を劣化させることなく、干渉の影響を抑制することができる。
【0044】
受電回路204は、理解の容易のため、隣接するスイッチング回路106のクロック周波数の差周波数成分を除去するバンドイリミネーションフィルタ2043を有する。受電回路204に接続されるモータ400等の駆動上限周波数が上記の差周波数成分以下である場合等、受電回路204に接続される回路が上記の差周波数成分に応答できない場合がある。その場合には、差周波数成分を除去するバンドイリミネーションフィルタ2043を省略してもよい。
【0045】
また、送電コイル101aに接続されるスイッチング回路106のクロック周波数が4MHzであり、送電コイル101bに接続されるスイッチング回路106のクロック周波数が4.5MHzの場合を例に説明したが、この周波数に限定されるものではない。
【0046】
第1の系統の無線電力伝送システム300は、スイッチング回路106aと、送電コイル101aと、受電コイル201aと、受電回路204aと、モータ駆動回路206aと、モータ400aとを有する。受電回路204aは、同期整流器2041aと、ローパスフィルタ2042aと、バンドイリミネーションフィルタ2043aとを有する。
【0047】
第2の系統の無線電力伝送システム300は、スイッチング回路106bと、送電コイル101bと、受電コイル201bと、受電回路204bと、モータ駆動回路206bと、モータ400bとを有する。受電回路204bは、同期整流器2041bと、ローパスフィルタ2042bと、バンドイリミネーションフィルタ2043bとを有する。
【0048】
スイッチング回路106aは、第1の直流電圧を第1の周波数でスイッチングした電圧を送電コイル101aに印加する。第1の周波数は、例えば4MHzである。スイッチング回路106bは、第2の直流電圧を第1の周波数とは異なる第2の周波数でスイッチングした電圧を送電コイル101bに印加する。第2の周波数は、例えば4.5MHzである。
【0049】
受電コイル201aは、送電コイル101aから電力を無線受電する。同期整流器2041aは、複数の双方向スイッチを有し、受電コイル201aの電圧を第1の周波数でスイッチングすることにより全波整流する。ローパスフィルタ2042aは、同期整流器2041aにより整流された電圧に対して、第1の周波数の成分を減衰させる。バンドイリミネーションフィルタ2043aは、ローパスフィルタ2042aの出力電圧に対して、第1の周波数と第2の周波数の差周波数の成分を減衰させる。なお、ローパスフィルタ2042aは、同期整流器2041aにより整流された電圧に対して、第1の周波数の成分と、第1の周波数と第2の周波数の差周波数の成分とを減衰させるようにしてもよい。モータ駆動回路206aは、バンドイリミネーションフィルタ2043aの出力電圧を基に、モータ400aを駆動する。モータ400aは、モータ駆動回路206aにより駆動される。
【0050】
受電コイル201bは、送電コイル101bから電力を無線受電する。同期整流器2041bは、複数の双方向スイッチを有し、受電コイル201bの電圧を第2の周波数でスイッチングすることにより全波整流する。ローパスフィルタ2042bは、同期整流器2041bにより整流された電圧に対して、第2の周波数の成分を減衰させる。バンドイリミネーションフィルタ2043bは、ローパスフィルタ2042bの出力電圧に対して、第1の周波数と第2の周波数の差周波数の成分を減衰させる。なお、ローパスフィルタ2042bは、同期整流器2041bにより整流された電圧に対して、第2の周波数の成分と、第1の周波数と第2の周波数の差周波数の成分とを減衰させるようにしてもよい。モータ駆動回路206bは、バンドイリミネーションフィルタ2043bの出力電圧を基に、モータ400bを駆動する。モータ400bは、モータ駆動回路206bにより駆動される。
【0051】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、送電コイル101aおよび101bが異なる周波数で無線電力伝送を行い、受電回路204は、双方向スイッチの同期整流器2041を用いる。これにより、送電コイル101bおよび受電コイル201a間の干渉による受電電圧の変化を抑制する。第2の実施形態では、さらに金属構造体によるシールド効果で干渉の抑制効果を増大させることが可能であることを示す。
【0052】
図6は、送電コイル101a~101dおよび受電コイル201a~201d間の干渉を抑制する構成例を示す。送電コイル101a~101dは、4系統の送電コイル101である。受電コイル201a~201dは、4系統の受電コイルである。
【0053】
半導体露光装置等に無線電力伝送システム300を搭載する場合、複数系統の無線電力伝送システム300の送電コイル101および受電コイル201を平面に並べるだけでなく、省スペース化のため、層状に重ねる。また、送電コイル101が受電コイル201より大きい場合、受電コイル201が対向していない部分の送電コイル101から不要輻射が出力されるため、不要輻射を抑制するためにも、送電コイル101を全面的に覆う金属が必要となる。
【0054】
受電コイル201aおよび201bは、平面に並べられる。送電コイル101aおよび101bは、平面に並べられる。受電コイル201a,201bと送電コイル101a,101bは、層状に重ねられる。
【0055】
受電コイル201cおよび201dは、平面に並べられる。送電コイル101cおよび101dは、平面に並べられる。受電コイル201c,201dと送電コイル101c,101cは、層状に重ねられる。
【0056】
受電コイル201a,201bと受電コイル201c,201dは、層状に重ねられる。送電コイル101a,101bと送電コイル101c,101dは、層状に重ねられる。
【0057】
金属板6011は、送電コイル101aおよび101bを支持するための金属板であり、送電コイル101aおよび101bのFR-4基板と、FR-4基板と金属板の間に置かれる磁性シートが埋め込まれる構造となっている。金属板6012は、送電コイル101cおよび101dを支持するための金属板であり、送電コイル101cおよび101dのFR-4基板と、FR-4基板と金属板の間に置かれる磁性シートが埋め込まれる構造となっている。金属板6013は、送電コイル101aおよび101bから出される不要輻射を抑制するための金属板であり、送電コイル101aおよび101b側に磁性シートが貼られている。
【0058】
金属板6021は、受電コイル201aおよび201bを支持するための金属板であり、受電コイル201aおよび201bのFR-4基板と、FR-4基板と金属板の間に置かれる磁性シートが埋め込まれる構造となっている。金属板6022は、受電コイル201cおよび201dを支持するための金属板であり、受電コイル201cおよび201dのFR-4基板と、FR-4基板と金属板の間に置かれる磁性シートが埋め込まれる構造となっている。
【0059】
実際には、金属板6011、6012および6013を支える支持部材と、金属板6021および6022を支える支持部材が必要であるが、ここでは省略している。このように、送電コイルと受電コイルを積層することにより、省スペース化を図る。また、送電コイルと受電コイルを金属板と磁性シートで被うことによりシールドされ、隣接する系統のコイル間の結合効率が1/20程度になる。ここで、金属板による送電コイルと受電コイルのインダクタンス値と損失への影響は、磁性シートによって抑制され、無線電力伝送の伝送効率にはほとんど影響せずに伝送できる。
【0060】
ここで、送電コイルと受電コイル間の結合係数の電磁界シミュレーションを示す。送電コイル101aと受電コイル201a間の結合係数は、4MHzで0.45程度である。送電コイル101bと受電コイル201b間の結合係数は、4.5MHzで0.45程度である。また、送電コイル101aと受電コイル201b間の結合係数は、4.5MHzで0.0001程度である。
【0061】
図7(A)は、図6および図8(A)の構成を有する無線電力伝送システム300のシミュレーション波形図である。図7(A)は、送電コイル101aから受電コイル201aへの入力電圧と、送電コイル101bから受電コイル201aへの干渉波の入力電圧と、受電コイル201aに接続される受電回路204の出力電圧を示すシミュレーション波形図である。無線電力伝送システム300は、図6の送電コイル101a~101dおよび受電コイル201a~201dと、図8(A)のスイッチング回路106および受電回路204を有する。受電回路204は、ダイオード整流器2040を有する。受電コイル201aに接続される受電回路204の出力電圧は、11.5mVの干渉波の電圧が生じる。
【0062】
図7(B)は、図6および図3の構成を有する無線電力伝送システム300のシミュレーション波形図である。図7(B)は、送電コイル101aから受電コイル201aへの入力電圧と、送電コイル101bから受電コイル201aへの干渉波の入力電圧と、受電コイル201aに接続される受電回路204の出力電圧を示すシミュレーション波形図である。無線電力伝送システム300は、図6の送電コイル101a~101dおよび受電コイル201a~201dと、図3のスイッチング回路106および受電回路204を有する。受電回路204は、双方向スイッチを用いた同期整流器2041を有する。受電コイル201aに接続される受電回路204の出力電圧は、干渉波による電圧変化がほとんど生じない。
【0063】
以上のように、無線電力伝送システム300は、送電コイルの支持と受電コイルの支持と不要輻射防止のための金属板によってシールドされることによって、干渉の影響を除去することができる。
【0064】
なお、第1および第2の実施形態の送電コイルと受電コイルは、FR-4基板のような誘電体基板に構成されてもよいし、リッツ線などの銅線でコイル状に巻かれたコイルでもよいし、フレキ基板のように、折り曲げ可能であってもよい。
【0065】
第1および第2の実施形態によれば、受電回路204aは、送電コイル101bから受電コイル201aへの干渉波を抑制することができ、受電回路204bは、送電コイル101aから受電コイル201bへの干渉波を抑制することができる。これにより、送電コイル101aおよび受電コイル201aの組みと、送電コイル101bおよび受電コイル201bの組みとを相互に近接して配置することができるので、省スペース化することができる。また、スイッチング回路106aがスイッチングする第1の周波数と、スイッチング回路106bがスイッチングする第2の周波数とを大きくずらす必要がないので、送電コイル101および受電コイル201の設計が容易になる。
【0066】
なお、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0067】
100 送電装置、101 送電コイル、106 スイッチング回路、200 受電装置、201 受電コイル、204 受電回路、2041 同期整流器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8