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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 21/00 20060101AFI20241007BHJP
   G03G 21/14 20060101ALI20241007BHJP
   G03G 15/16 20060101ALI20241007BHJP
   G03G 9/097 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
G03G21/00 512
G03G21/14
G03G21/00 318
G03G15/16
G03G9/097 372
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020091673
(22)【出願日】2020-05-26
(65)【公開番号】P2021189226
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】石角 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】石尾 昌平
(72)【発明者】
【氏名】片桐 真史
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-125900(JP,A)
【文献】特開2019-109495(JP,A)
【文献】特開2019-211774(JP,A)
【文献】特開2018-112697(JP,A)
【文献】特開2005-172931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 13/02
G03G 13/14-13/16
G03G 13/34
G03G 15/00
G03G 15/02
G03G 15/14-15/16
G03G 15/36
G03G 21/00
G03G 21/02
G03G 21/04
G03G 21/10-21/12
G03G 21/14
G03G 21/20
G03G 9/00- 9/113
G03G 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナー像を担持する像担持体と、
トナーを収容する収容部と、前記像担持体に形成される潜像をトナーによって現像する現像部材と、を有する現像手段と、
移動可能であって、前記像担持体と対向して配置される無端状の中間転写体と、
前記中間転写体と接触して転写部を形成し、前記中間転写体から転写材にトナー像を転写する転写部材と、
前記中間転写体の移動方向に関して、前記転写部材よりも下流側であって且つ前記像担持体よりも上流側に配置されたクリーニングブレードを有し、前記転写部を通過した後に前記中間転写体に残留したトナーを前記クリーニングブレードによって回収する回収手段と、
前記像担持体と前記中間転写体とが回転した状態で前記現像手段から前記像担持体と前記中間転写体を介して前記クリーニングブレードに向かってトナーを供給する供給動作と、前記供給動作とは別の動作であって前記像担持体の表面に形成された前記潜像に現像されたトナー像が前記中間転写体の表面に介在しない状態で前記像担持体と前記中間転写体を回転させる回転動作であって前記供給動作よりも前記中間転写体が回転する時間が長い回転動作と、を実行可に制御する制御手段と、を備える画像形成装置において、
前記現像手段に収容されたトナーは、トナー母粒子及び前記トナー母粒子の表面に有機ケイ素重合体を含有しており、
前記制御手段は、
i)前記クリーニングブレードに付着する前記有機ケイ素重合体の量と相関する値の積算値が第1閾値よりも小さい場合に、前記供給動作を実行する、
ii)前記クリーニングブレードに付着する前記有機ケイ素重合体の量と相関する値の積算値が第1閾値よりも大きい値である第2閾値を超えた場合に、前記回転動作を実行する
ように制御することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記有機ケイ素重合体の量と相関する値は、1枚の転写材に形成される画像の印字率に基づいて得られる値であることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記積算値は、画像形成動作を継続していくにつれて、前記印字率に基づいて設定されたカウント値を足し合わせて得られる値であることを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記中間転写体を回転させる動作と前記中間転写体の回転を停止させる動作を前記回転動作において交互に繰り返し、前記回転動作を実行している間は前記像担持体から前記中間転写体へのトナー像の転写を行わないことを特徴とする請求項に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記積算値が前記第1閾値以上であって且つ前記第2閾値以下である場合には前記供給動作と前記回転動作のいずれも実行しないことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記制御手段は、転写材の搬送方向と交差する転写材の幅方向に関して1枚の転写材の画像領域を分割し、分割された画像領域のぞれぞれの領域において、前記積算値に基づいて前記供給動作又は前記回転動作の実行要否を判断することを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記供給動作を実行する場合、画像形成を行う最後の転写材に形成する画像に対応したトナー像を前記像担持体から前記中間転写体に転写した後に前記供給動作を実行し、
前記供給動作において、前記制御手段は、前記クリーニングブレードにトナーを供給するためのトナー像を前記像担持体から前記中間転写体に転写し、前記クリーニングブレードにトナーを供給するためのトナー像が前記転写部を通過する間は、前記転写部材にトナーの正規の帯電極性と逆極性の電圧を印加することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記有機ケイ素重合体は、下記式(1)で表される構造を有することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【化1】

(式中、Rは炭素数1以上6以下のアルキル基又はフェニル基を示す。)
【請求項9】
前記有機ケイ素重合体は、前記トナー母粒子の表面に凸部を形成した状態で前記トナー母粒子に含有されており、
前記凸部は、前記クリーニングブレードがトナーを回収する位置において、前記中間転写体の移動に伴い前記トナー母粒子の表面から移行することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項10】
前記中間転写体の表面は、アクリル樹脂から構成されることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項11】
前記クリーニングブレードの表面は、ポリウレタンによって構成されることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザープリンタ、複写機、ファクシミリ等の電子写真方式を用いる画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式のカラー画像形成装置においては、従来から、各色の画像形成部から中間転写体に順次トナー像を転写し、さらに中間転写体から転写材に一括してトナー像を転写する中間転写方式を用いる構成が知られている。
【0003】
このような画像形成装置では、各色の画像形成部がそれぞれ像担持体としてのドラム状の感光体(以下、感光ドラムと称する)を有している。また、中間転写体としては、無端状のベルトで形成された中間転写ベルトが広く用いられている。各画像形成部の感光ドラムに形成されたトナー像は、中間転写ベルトを介して感光ドラムに対向して設けられた一次転写部材に一次転写電源から電圧を印加することによって、中間転写ベルトに一次転写される。各色の画像形成部から中間転写ベルトに一次転写された各色のトナー像は、二次転写部において二次転写電源から二次転写部材へ電圧を印加することによって、中間転写ベルトから紙やOHPシートなどの転写材に一括して二次転写される。転写材に転写された各色のトナー像は、その後、定着手段により転写材に定着される。
【0004】
中間転写方式の画像形成装置では、中間転写ベルトから転写材にトナー像を二次転写した後に中間転写ベルトにトナー(転写残トナー)が残留する。そのため、次の画像に対応したトナー像を中間転写ベルトに一次転写する前に中間転写ベルトに残留した転写残トナーを除去する必要がある。
【0005】
転写残トナーを除去するクリーニング方式としては、ブレードクリーニング方式が広く用いられている。ブレードクリーニング方式では、中間転写ベルトの移動方向に関して二次転写部よりも下流側に配置され、中間転写ベルトに当接する当接部材としてのクリーニングブレードによって転写残トナーを掻き取ってクリーニング容器に回収する。クリーニングブレードとしては、一般的に、ウレタンゴムなどの弾性体が用いられている。このクリーニングブレードは、中間転写ベルトの移動方向に対向するような方向(カウンター方向)から、クリーニングブレードのエッジ部を中間転写ベルトに対して圧接された状態で配置されることが多い。
【0006】
特許文献1には、クリーニングブレードの磨耗を抑制するために、中間転写ベルトの表面に、中間転写ベルトの移動方向に沿った溝を形成する構成が開示されている。この構成においては、クリーニングブレードと中間転写ベルトとの接触面積を低減させることによって、クリーニングブレードと中間転写ベルトとの間の摩擦係数を低くし、クリーニングブレードの摩耗を抑制することでクリーニング不良の発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-125187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、中間転写体に当接する当接部材によって中間転写体に残留したトナーを回収する構成において、中間転写体の構成によらずクリーニング不良の発生を抑制することが可能な画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、トナー像を担持する像担持体と、トナーを収容する収容部と、前記像担持体に形成される潜像をトナーによって現像する現像部材と、を有する現像手段と、移動可能であって、前記像担持体と対向して配置される無端状の中間転写体と、前記中間転写体と接触して転写部を形成し、前記中間転写体から転写材にトナー像を転写する転写部材と、前記中間転写体の移動方向に関して、前記転写部材よりも下流側であって且つ前記像担持体よりも上流側に配置されたクリーニングブレードを有し、前記転写部を通過した後に前記中間転写体に残留したトナーを前記クリーニングブレードによって回収する回収手段と、前記像担持体と前記中間転写体とが回転した状態で前記現像手段から前記像担持体と前記中間転写体を介して前記クリーニングブレードに向かってトナーを供給する供給動作と、前記供給動作とは別の動作であって前記像担持体の表面に形成された前記潜像に現像されたトナー像が前記中間転写体の表面に介在しない状態で前記像担持体と前記中間転写体を回転させる回転動作であって前記供給動作よりも前記中間転写体が回転する時間が長い回転動作と、を実行可に制御する制御手段と、を備える画像形成装置において、前記現像手段に収容されたトナーは、トナー母粒子及び前記トナー母粒子の表面に有機ケイ素重合体を含有しており、前記制御手段は、i)前記クリーニングブレードに付着する前記有機ケイ素重合体の量と相関する値の積算値が第1閾値よりも小さい場合に、前記供給動作を実行する、ii)前記クリーニングブレードに付着する前記有機ケイ素重合体の量と相関する値の積算値が第1閾値よりも大きい値である第2閾値を超えた場合に、前記回転動作を実行する、ように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、中間転写体に当接する当接部材によって中間転写体に残留したトナーを回収する構成において、中間転写体の構成によらずクリーニング不良の発生を抑制することが可能な画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1における画像形成装置の構成を説明する概略断面図である。
図2】実施例1における画像形成装置の動作制御を説明するためのブロック図である。
図3】実施例1における画像形成シーケンスについて説明するタイミングチャートである。
図4】実施例1における、クリーニングブレードと中間転写ベルトとの当接状態を説明する模式図である。
図5】実施例1の中間転写ベルトの構成を説明する模式図である。
図6】実施例1における、トナー及び有機ケイ素重合体について説明する模式図である。
図7】実施例1において、クリーニングブレードにコート層が形成された状態を説明する模式図である。
図8】クリーニングブレードに付着した有機ケイ素重合体が過剰である場合を説明する模式図である。
図9】実施例1における制御について説明するフローチャートである。
図10】実施例1における、印字率とカウンタ変動値との関係を示す模式的なグラフである。
図11】実施例1において、供給制御を実行する場合の画像形成シーケンスについて説明するタイミングチャートである。
図12】実施例1において、回転制御を実行する場合の画像形成シーケンスについて説明するタイミングチャートである。
図13】実施例1における、クリーニングブレードに到達したトナーの挙動を説明する模式図である。
図14】クリーニングブレードの摩耗量、及び、コート層の付着量の測定について説明する模式図である。
図15】実施例2における、カウンタ変動値算出の分割領域を示す模式図である。
図16】実施例2における、供給制御及び回転制御を実行する場合の画像形成シーケンスについて説明するタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照して、本発明の実施例を例示する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものであり、この発明の範囲を以下の実施形態に限定する趣旨のものではない。
【0013】
(実施例1)
[画像形成装置]
図1は、本実施例の画像形成装置100の構成を示す概略断面図である。なお、本実施例の画像形成装置100は、a~dの複数の画像形成部を設けている、いわゆるタンデム型の画像形成装置である。第1の画像形成部aはイエロー(Y)、第2の画像形成部bはマゼンタ(M)、第3の画像形成部cはシアン(C)、第4の画像形成部dはブラック(Bk)の各色のトナーによって画像を形成する。これら4つの画像形成部は一定の間隔をおいて一列に配置されており、各画像形成部の構成は収容するトナーの色を除いて実質的に共通である部分が多い。したがって、以下、第1の画像形成部aを用いて本実施例の画像形成装置100について説明する。
【0014】
第1の画像形成部aは、ドラム状の感光体である感光ドラム1aと、帯電手段である帯電ローラ2aと、現像手段4aと、ドラムクリーニング手段5aと、を有する。
【0015】
感光ドラム1aは、トナー像を担持する像担持体であり、図示矢印R1方向に所定のプロセススピード(本実施例では200mm/sec)で回転駆動される。現像手段4aは、イエローのトナーを収容する現像容器41a(収容部)と、現像容器41aに収容されたイエロートナーを担持し、感光ドラム1aにイエロートナー像を現像するための現像部材としての現像ローラ42aと、を有する。ドラムクリーニング手段5aは、感光ドラム1aに付着したトナーを回収するための手段である。ドラムクリーニング手段5aは、感光ドラム1aに接触するクリーニングブレードと、クリーニングブレードによって感光ドラム1aから除去されたトナーなどを収容する廃トナーボックスと、を有する。
【0016】
制御部としてのフォーマッタ273が画像信号を受信すると、制御手段であるCPU276によって画像形成動作が開始され、感光ドラム1aは回転駆動される。感光ドラム1aは回転過程で、帯電ローラ2aにより所定の極性(本実施例では負極性)で所定の電位(帯電電位)に一様に帯電処理され、露光手段3aにより画像信号に応じた露光を受ける。これにより、目的のカラー画像のイエロー色成分像に対応した静電潜像が形成される。次いで、その静電潜像は現像位置において現像手段4aにより現像され、イエロートナー像(以下、単にトナー像と称する。)として可視化される。ここで、現像手段4aに収容されたトナーの正規の帯電極性は、負極性である。この実施例では帯電部材による感光ドラムの帯電極性と同極性に帯電したトナーにより静電潜像を反転現像しているが、本発明は、感光ドラムの帯電極性とは逆極性に帯電したトナーにより静電潜像を正現像するようにした画像形成装置にも適用できる。
【0017】
無端状で移動可能な中間転写体としての中間転写ベルト10は、各画像形成部a~dの各感光ドラム1a~1dと当接する位置に配置され、張架部材である支持ローラ11、張架ローラ12、対向ローラ13の3軸で張架されている。中間転写ベルト10は、張架ローラ12により総圧60Nの張力で張架されており、駆動力を受けて回転する対向ローラ13の回転によって図示矢印R2方向に移動する。なお、詳細は後述するが、本実施例における中間転写ベルト10は、複数の層によって構成されている。
【0018】
感光ドラム1aに形成されたトナー像は、感光ドラム1aと中間転写ベルト10とが接触する一次転写部N1aを通過する過程で、一次転写電源23から一次転写ローラ6aに正極性の電圧を印加することで中間転写ベルト10に一次転写される。その後、中間転写ベルト10に一次転写されることなく感光ドラム1aに残留したトナーは、ドラムクリーニング手段5aによって回収されることで感光ドラム1aの表面から除去される。
【0019】
ここで、一次転写ローラ6aは、中間転写ベルト10を介して感光ドラム1aに対応する位置に設けられ、中間転写ベルト10の内周面に接触する一次転写部材(接触部材)である。また、一次転写電源23は、一次転写ローラ6a~6dに正極性又は負極性の電圧を印加することが可能な電源である。本実施例においては、複数の一次転写部材に対して共通の一次転写電源23から電圧を印加する構成について説明するが、これに限らず、各一次転写部材に対応させて複数の一次転写電源を設ける構成であっても本発明を適用できる。
【0020】
以下、同様にして、第2色のマゼンタトナー像、第3色のシアントナー像、第4色のブラックトナー像が形成され、中間転写ベルト10に順次重ねて転写される。これにより、中間転写ベルト10には、目的のカラー画像に対応した4色のトナー像が形成される。その後、中間転写ベルト10に担持された4色のトナー像は、二次転写ローラ20と中間転写ベルト10とが接触して形成する二次転写部を通過する過程で、給紙手段50により給紙された紙やOHPシートなどの転写材Pの表面に一括で二次転写される。
【0021】
二次転写ローラ20は、外径8mmのニッケルメッキ鋼棒に、体積抵抗率10Ω・cm、厚さ5mmに調整したNBRとエピクロルヒドリンゴムを主成分とする発泡スポンジ体で覆った外径18mmのものを用いている。なお、発泡スポンジ体のゴム硬度はアスカー硬度計C型を用いて測定し、500g荷重時に硬度30°であった。二次転写ローラ20は、中間転写ベルト10の外周面に接触しており、中間転写ベルト10を介して二次転写ローラ20に対向する位置に配置された対向ローラ13に対して50Nの加圧力で押圧され、二次転写部N2を形成している。
【0022】
二次転写ローラ20は中間転写ベルト10に対して従動回転しており、二次転写電源21から電圧が印加されることにより、二次転写ローラ20から対向ローラ13に向かって電流が流れる。これにより、中間転写ベルト10に担持されていたトナー像は二次転写部において転写材Pに二次転写される。なお、中間転写ベルト10のトナー像を転写材Pに二次転写する際には、中間転写ベルト10を介して二次転写ローラ20から対向ローラ13に向かって流れる電流が一定になるように、二次転写電源21から二次転写ローラ20に印加される電圧が制御される。また、二次転写を行うための電流の大きさは、画像形成装置100が設置される周囲環境や転写材Pの種類により、予め決定されている。二次転写電源21は、二次転写ローラ20に接続しており、転写電圧を二次転写ローラ20に印加する。また、二次転写電源21は、100[V]から4000[V]の範囲の出力が可能である。
【0023】
二次転写によって4色のトナー像を転写された転写材Pは、その後、定着手段30において加熱および加圧されることにより、4色のトナーが溶融混色して転写材Pに定着される。二次転写後に中間転写ベルト10に残ったトナーは、中間転写ベルト10の移動方向に関して二次転写部N2よりも下流側に設けられたベルトクリーニング手段16(回収手段)により清掃、除去される。ベルトクリーニング手段16は、対向ローラ13に対向する位置で中間転写ベルト10の外周面に当接可能な当接部材としてのクリーニングブレード16aと、クリーニングブレード16aによって回収されたトナーを収容する廃トナー容器16bと、を有する。なお、以下の説明においては、クリーニングブレード16aを単にブレード16aと称する。
【0024】
本実施例の画像形成装置100においては、以上の動作により、フルカラーのプリント画像が形成される。
【0025】
[制御ブロック図の説明]
図2は、画像形成装置の動作を制御するための制御ブロック図である。図2に示すように、ホスト機器であるパーソナルコンピュータ271は、画像形成装置100の内部にあるフォーマッタ273に対して印刷指令を出し、印刷画像の画像データをフォーマッタ273に送信する。フォーマッタ273は、パーソナルコンピュータ271からの画像データを露光データに変換し、DCコントローラ274内にある露光制御部277に転送する。露光制御部277は、CPU276(制御手段)からの指示により、露光データのオンオフを制御することにより露光手段3a~3dの制御を行なう。また、図2の画像形成装置100において、露光データのオンオフ面積の調整を行うことによって、画像の中間調制御が実行される。
【0026】
CPU276は、フォーマッタ273から印刷指令を受け取ると画像形成シーケンスをスタートさせる。DCコントローラ274は、CPU276、メモリ275等を有し、予めプログラムされた動作を行う。CPU276は、帯電手段、現像手段、一次転写電源、二次転写電源、定着手段等を制御することによって、静電潜像の形成や、現像されたトナー像の転写材への転写及び定着等を制御し画像形成を行う。また、CPU276は、印字率演算部を制御することによって、画像データをもとにそれぞれの色の印字率を演算し、演算された印字率に応じた各種手段の調整や、動作シーケンスの調整を行うことが可能である。
【0027】
図3は、本実施例の画像形成装置100における画像形成シーケンスについて説明する模式的なタイミングチャートである。図3を用いて、A4サイズの転写材P一枚に画像形成を行う場合の画像形成シーケンスについて説明する。
【0028】
図3で示すように、CPU276は、まず、帯電ローラ2a~2dに印加する電圧(帯電電圧)を立ち上げた後に現像ローラ42a~42dを感光ドラム1a~1dに当接させる前処理動作を実行する。前処理動作に要する時間は約1secである。次に、CPU276は、露光制御部277、現像電源、一次転写電源23等を制御することによって、画像形成動作を実行する。画像形成動作に要する時間は約1.5secである。
【0029】
そして、CPU276は、二次転写電源21や定着手段を制御することによって転写材Pへの画像の形成を完了させる。この時、CPU276は、現像ローラ42a~42dを感光ドラム1a~1dから離間させ、中間転写ベルト10に残留したトナーをブレード16aによって廃トナー容器16bに回収する回収動作(クリーニング)を所定時間実施する。中間転写ベルト10のクリーニングが終了すると、CPU276は中間転写ベルト10の回転動作を停止する。本実施例においては、感光ドラム1a~1dから中間転写ベルト10へのトナー像の一次転写が完了したタイミングから、中間転写ベルト10の回転動作を停止させるタイミングまでの動作を後処理動作、後処理動作に要する時間を後処理時間とする。図3に示すように、本実施例における後処理時間は約3secである。
【0030】
[ベルトクリーニング手段16]
次に、ベルトクリーニング手段について説明する。図4(a)は、ブレード16aと中間転写ベルト10の当接状態を説明する模式図であり、図4(b)はブレード16aと中間転写ベルト10との接触点を拡大した模式図である。本実施例におけるブレード16aは、中間転写ベルト10の移動方向(以下、ベルト搬送方向と称する)と交差する中間転写ベルト10の幅方向(以下、ベルト幅方向と称する)に関して長い板状部材である。
【0031】
本実施例におけるブレード16aは、中間転写ベルト10に接触しトナーをかきとる弾性部53と、その弾性部53を支持する板金部52を有し、弾性部53は、ポリウレタンから形成されたブレード部材である。ブレード16aは、中間転写ベルト10と接触する弾性部53の幅が長さ230mmのブレード形状となっており、弾性部53と板金部52が接着されて構成されている。ブレード16aの弾性部53は、ベルト幅方向の長手幅が230mm、厚さが2mmであり、板金部52との接着点からの長さである自由長が13mmである。また、ブレード16aの硬度はJIS K 6253規格で77度である。
【0032】
ブレード16aに対向して、中間転写ベルト10の内周側には、対向ローラ13が配置されている。ブレード16aは、対向ローラ13に対向する位置で、ベルト搬送方向に対してカウンター方向で中間転写ベルト10の表面に当接されている。すなわち、ブレード16aは、ベルト搬送方向側の自由端がベルト搬送方向の上流側を向くようにして、中間転写ベルト10の表面に当接されている。これにより、ブレード16aと中間転写ベルト10との間に図4(a)のようなブレードニップ部Nbが形成されている。ブレード16aは、ブレードニップ部Nbにおいて、移動する中間転写ベルト10の表面からトナーを掻き取り、廃トナー容器16bに回収する。なお、本実施例においては、ブレード16aと中間転写ベルト10とが接触するブレードニップNbの、ベルト搬送方向の幅は75μmである。
【0033】
図4(b)に示すように、本実施例の構成によれば、ブレード16aがカウンター方向で配置されているため、ブレード16aの中間転写ベルト10と接触する先端部は、ベルト搬送方向に関して摩擦力を受ける。ブレード16aの先端部が受ける摩擦力は、ブレード16aの先端部をベルト搬送方向に追従して曲げる方向の力となる。その結果、接触部分の摩擦力により、ブレード16aの接触部が図4(b)に示すように湾曲し、ブレード16aが中間転写ベルト10に巻き込まれる形状となる。このときのブレード16aが巻き込まれた領域を巻き込み部M、ベルト搬送方向に関する巻き込み部Mの距離(長さ)を巻き込み量mと定義する。また、図4(c)に示すように、ブレード16aが中間転写ベルトに接触して押し込まれた際、湾曲せずに伸ばした仮想線において、ブレード先端面方向において対向ローラ13に侵入した深さを侵入量δと定義する。
【0034】
ブレード16aから中間転写ベルト10に印加された圧が巻き込み部Mに集中することで、ブレード16aに到達したトナーが、ブレード16aをすり抜けてクリーニング不良となることを防止できる。
【0035】
本実施例では、ブレード16aは、設定角θが22°、侵入量δが1.5mm、当接圧が20Nとなるようにして、中間転写ベルト10に対して配置されている。ここで、設定角θは、中間転写ベルト10とブレード16a(より詳細にはその自由端側の端面)との交点における対向ローラ13の接線と、ブレード16a(より詳細にはその厚さ方向に略直交する一方の表面)とがなす角度である。また、侵入量δは、ブレード16aが対向ローラ13に対して重なる厚さ方向の長さである。また、当接圧は、ブレードニップ部Nbにおけるブレード16aからの押圧力(長手方向における線圧)で定義され、フィルム式加圧力測定システム(商品名:PINCH,ニッタ社製)を用いて測定される。
【0036】
なお、ブレード16aは、中間転写ベルト10との間の摩擦力によって巻き込まれたブレード16aの巻き込み部Mが中間転写ベルト10に対して圧をかけることで、中間転写ベルト10に残留したトナーをせき止める。その後、ブレード16aによってせき止められたトナーは廃トナー容器16bに回収される。したがって、トナーの回収性を確保するために、ブレード16aは中間転写ベルト10に対して、トナーのすり抜けがないように所定の圧をかけて当接されている。
【0037】
[中間転写ベルト]
次に、本実施例における中間転写ベルト10の構成について説明する。図5(a)は、中間転写ベルト10の全体構成を説明する模式図である。図5(b)は、ベルト搬送方向に略直交する方向に中間転写ベルト10を切った(ベルト搬送方向に沿って見た)場合の、中間転写ベルト10の模式的な拡大部分断面図である。
【0038】
図5(a)~(b)に示すように、中間転写ベルト10は、基層81と表層80との2層からなる無端状のベルト部材(或いはフィルム状部材)であり、中間転写ベルト10の周長は700mm、ベルト幅方向の長手幅は250mmである。ここで、基層とは、中間転写ベルト10の厚さ方向に関して、中間転写ベルト10を構成する層のうち、最も厚い層であると定義する。本実施例では基層81は、ポリエチレンナフタレート樹脂に電気抵抗の調整剤としてイオン導電剤である第4級アンモニウム塩を分散した、厚さ70μmの層である。
【0039】
基層81の材料は上記のものに限るものではなく、例えば、基層81としてはポリエチレンナフタレート樹脂以外でもポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン-1、ポリスチレン、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルニトリル、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、サーモトロピック液晶ポリマー、ポリアミド酸などの熱可塑性樹脂が挙げられる。これらは混合して2種以上使用することもできる。また、基層81に添加するイオン導電剤としては、イオン液体、導電性オリゴマー及び第4級アンモニウム塩なども使用することができる。これらの導電材料の中から1種又はそれ以上が適宜選択されたり、電子導電性材料とイオン導電性材料を混合して用いてもよい。
【0040】
表層80は、中間転写ベルト10の外周面側に形成される層である。本実施例における表層80は、基材45としてのアクリル樹脂に、電気抵抗調整剤43としてアンチモンドープの酸化亜鉛を分散し、固体潤滑剤44として、フッ素含有粒子であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子を添加した厚さ3μmの層である。なお、本実施例では、表層80にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子を20重量部添加している。
【0041】
表層80の基材45については、アクリル樹脂以外の有機材料として、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、フッ素系硬化性樹脂(含フッ素硬化性樹脂)などの硬化性樹脂が挙げられる。無機材料としては、アルコキシシラン・アルコキシジルコニウム系材料、ケイ酸塩系材料などが挙げられる。有機・無機ハイブリッド材料としては、無機微粒子分散有機高分子系材料、無機微粒子分散オルガノアルコキシシラン系材料、アクリルシリコン系材料、オルガノアルコキシシラン系材料などが挙げられる。
【0042】
また、表層80に添加する導電剤料としては、他にも、カーボンブラック、PAN系炭素繊維及び膨張化黒鉛粉砕品などの粒子状、繊維状又はフレーク状のカーボン系導電性フィラーが挙げられる。また、例えば、銀、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス及び鉄などの粒子状、繊維状又はフレーク状の金属系導電性フィラーが挙げられる。また、例えば、アンチモン酸亜鉛、アンチモンドープの酸化スズ、アンチモンドープの酸化亜鉛、スズドープの酸化インジウム及びアルミニウムドープの酸化亜鉛などの粒子状の金属酸化物系導電性フィラーが挙げられる。
【0043】
表層80は耐摩耗性、耐クラック性などの強度の観点から、硬化性材料の中でも樹脂材料(硬化性樹脂)が好ましく、硬化性樹脂の中でも、不飽和二重結合含有アクリル共重合体を硬化させて得られるアクリル樹脂が好ましい。本実施例においては、中間転写ベルト10の表層80は、基層81の表面に、紫外線硬化性モノマー及び/又はオリゴマー成分を含有してなる液を塗布し、これに紫外線等のエネルギー線を照射して硬化させることで得た。
【0044】
本実施例における中間転写ベルト10の体積抵抗率は、1×1010Ω・cmである。体積抵抗率は、三菱化学株式会社のHiresta-UP(MCP-HT450)にURプローブ(型式MCP-HTP12)を接続し、印加電圧100V、測定時間10秒で測定した。体積抵抗率を測定する測定室の環境は、温度23℃、湿度50%に設定し、測定室内に4時間放置した後の中間転写ベルト10の体積抵抗率を測定した。
【0045】
[トナー]
次に本実施例で使用したトナーについて説明する。
【0046】
本実施例におけるトナーは、トナー粒子表面に有機ケイ素重合体を含む凸部を有する。該凸部は、トナー母粒子表面に面接触している。面接触することにより、該凸部の移動・脱離・埋没に対する抑制効果が顕著に期待できる。面接触の程度を表すために、トナーのSTEMによる断面観察を行った。図6(a)~(d)にトナー粒子の該凸部の模式図を示す。
【0047】
図6(a)に示す130がSTEM像であり、トナー粒子の断面構成の約1/4程度が分かる像であり、Tpはトナー母粒子、Tpsはトナー母粒子表面、eが凸部である。すなわち、トナー粒子の断面中心を原点とする座標系の4つの象限のうちの1つにおける断面構成を示す像であり、残り3つの象限は対称的に同様の構成を有していると推定する。
【0048】
トナーの断面画像を観察し、トナー母粒子表面の周に沿った線を描く。その周に沿った線を基準に水平画像へ変換を行う。該水平画像において、該凸部と該トナー母粒子とが連続した界面を形成している部分における該周に沿った線の長さを凸幅wとする。また、該凸幅wの法線方向において該凸部の最大長を凸径dとし、該凸径dを形成する線分における該凸部の頂点から該周に沿った線までの長さを凸高さhとする。
【0049】
後述する本実施例の製造方法によって製造されるトナーにおいて形成される凸部の構成としては、図6(b)に示す凸部eが大半を占め、この凸部eが、後述する平面部epと曲面部ecを有する凸部eである。
【0050】
図6(b)及び図6(d)においては凸径dと凸高さhは同じであり、図6(c)において凸径dは凸高さhより大きくなる。また、図6(d)は、中空粒子を潰す・割るなどして得られた、半球粒子の中心部が凹んだ、ボウル形状の粒子に類する粒子の固着状態を模式的に表したものである。図6(d)において、凸幅wはトナー母粒子表面と接している有機ケイ素化合物の長さの合計とする。すなわち、図6(d)における凸幅wはW1とW2の合計となる。
【0051】
上記条件に基づき、有機ケイ素化合物の凸部において、該凸幅wに対する該凸径dの比d/wが、0.33以上0.80以下の凸形状であれば、凸部が移動・脱離・埋没しにくいことを見出した。すなわち、該凸高さhが40nm以上300nm以下である凸部において、該比d/wが0.33以上0.80以下の凸部の個数割合P(d/w)が70個数%以上であれば、長寿命化に耐えうる優れた転写性を発現することを見出した。
【0052】
40nm以上の凸部によって、トナー母粒子表面との転写部材との間にスペーサー効果が生じることで、転写性が良化しているものと考えられる。一方、300nm以下の凸部によって、耐久評価を通じて、移動・脱離・埋没への抑制効果が著しく発現していると考えられる。
【0053】
40nm以上300nm以下の凸部の割合として、個数割合P(d/w)が70個数%以上であれば、耐久を通じて転写性を維持しつつ、さらに高い部材汚染抑制効果が発現することが判った。P(d/w)は、75個数%以上であることが好ましく、80個数%以上であることがより好ましい。一方、上限は特に制限されないが、好ましくは99個数%以下であり、より好ましくは98個数%以下である。
【0054】
また、走査透過型電子顕微鏡STEMによるトナーの断面観察において、上記水平画像の幅(トナー母粒子表面の周に沿った線の長さ)を周囲長Lとした際に以下のように各値を設定することが好ましい。即ち、上記水平画像に存在する有機ケイ素重合体の凸部のうち、凸高さhが40nm以上300nm以下となる凸部の該凸幅wの合計をΣwとしたとき、Σw/Lが0.30以上0.90以下であることが好ましい。
【0055】
Σw/Lが0.30以上であれば転写性と部材汚染の抑制効果がより良好になり、Σw/Lが0.90以下であると転写性がより優れる。Σw/Lは、0.45以上0.80以下であればより好ましい。
【0056】
さらに、トナーの有機ケイ素重合体の固着率が80質量%以上であることが好ましい。固着率が80質量%以上であれば、転写性及び部材汚染の抑制効果が耐久使用を通じてより持続させやすい。該固着率は、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上である。一方、上限は特に制限されないが、好ましくは99質量%以下であり、より好ましくは98質量%以下である。該固着率を制御する方法の一例として、有機ケイ素化合物を添加し重合する際の、有機ケイ素重合体の添加速度、反応温度、反応時間、反応時のpH及びpH調整のタイミングなどが挙げられる。
【0057】
また、転写性をより良好にする観点から、以下のように該凸高さを設定することが好ましい。即ち、該凸高さhが40nm以上300nm以下である凸部において、該凸高さhの累積分布をとり、該凸高さhの小さい方から積算して80個数%にあたる該凸高さをh80としたとき、該h80は65nm以上であることが好ましい。より好ましくは75nm以上である。上限は特に制限されないが、好ましくは120nm以下であり、より好ましくは100nm以下である。
【0058】
走査型電子顕微鏡SEMによるトナーの観察において、有機ケイ素重合体の凸部の最大径を凸径Rとしたときに、該凸径Rの個数平均径が20nm以上80nm以下であることが好ましい。より好ましくは、35nm以上60nm以下である。上記範囲であると、部材汚染が発生しにくくなる。
【0059】
トナーは、下記式(1)で表される構造を有する有機ケイ素重合体を含む。
【0060】
【化1】
【0061】
(式中、Rは炭素数1以上6以下のアルキル基又はフェニル基を示す。)
式(1)の構造を有する有機ケイ素重合体において、Si原子の4個の原子価のうち1個はRと、残り3個はO原子と結合している。O原子は、原子価2個がいずれもSiと結合している状態、つまり、シロキサン結合(Si-O-Si)を構成する。有機ケイ素重合体としてのSi原子とO原子を考えると、Si原子2個でO原子3個を有することになるため、-SiO3/2と表現される。この有機ケイ素重合体の-SiO3/2構造は、多数のシロキサン結合で構成されるシリカ(SiO2)と類似の性質を有することが考えられる。
【0062】
式(1)で表される部分構造において、Rは炭素数1以上6以下のアルキル基であることが好ましく、炭素数が1以上3以下のアルキル基であることがより好ましい。炭素数が1以上3以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基が好ましく例示できる。さらに好ましくは、Rはメチル基である。
【0063】
有機ケイ素重合体は、下記式(Z)で表される構造を有する有機ケイ素化合物の縮重合物であることが好ましい。
【0064】
【化2】
【0065】
(式(Z)中、Rは、炭素数1以上6以下の炭化水素基(好ましくはアルキル基)を表し、R、R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アセトキシ基、又は、アルコキシ基を表す。)R1は炭素数1以上3以下の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0066】
、R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アセトキシ基、又は、アルコキシ基である(以下、反応基ともいう)。これらの反応基が加水分解、付加重合及び縮重合させて架橋構造を形成する。加水分解性が室温で穏やかであり、トナー母粒子の表面への析出性の観点から、炭素数1~3のアルコキシ基であることが好ましく、メトキシ基やエトキシ基であることがより好ましい。
【0067】
また、R、R及びRの加水分解、付加重合及び縮合重合は、反応温度、反応時間、反応溶媒及びpHによって制御することができる。本発明に用いられる有機ケイ素重合体を得るには、上記に示す式(Z)中のR1を除く一分子中に3つの反応基(R、R及びR)を有する有機ケイ素化合物(以下、三官能性シランともいう)を1種又は複数種を組み合わせて用いるとよい。
【0068】
また、本発明の効果を損なわない程度に、式(Z)で表される構造を有する有機ケイ素化合物とともに、以下を併用して得られた有機ケイ素重合体を用いてもよい。一分子中に4つの反応基を有する有機ケイ素化合物(四官能性シラン)、一分子中に2つの反応基を有する有機ケイ素化合物(二官能性シラン)又は1つの反応基を有する有機ケイ素化合物(一官能性シラン)。
【0069】
さらに、トナー粒子中の有機ケイ素重合体の含有量は1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0070】
上記特定の凸形状をトナー粒子表面に形成する好ましい手法として、水系媒体にトナー母粒子を分散しトナー母粒子分散液を得たところへ、有機ケイ素化合物を添加し凸形状を形成させトナー粒子分散液を得る方法が挙げられる。
【0071】
トナー母粒子分散液は固形分濃度を25質量%以上50質量%以下に調整することが好ましい。そして、トナー母粒子分散液の温度は35℃以上に調整しておくことが好ましい。また、該トナー母粒子分散液のpHは有機ケイ素化合物の縮合が進みにくいpHに調整することが好ましい。有機ケイ素重合体の縮合が進みにくいpHは物質によって異なるため、最も反応が進みにくいpHを中心として、±0.5以内が好ましい。
【0072】
一方、有機ケイ素化合物は加水分解処理を行ったものを用いることが好ましい。例えば、有機ケイ素化合物の前処理として別容器で加水分解しておく。加水分解の仕込み濃度は有機ケイ素化合物の量を100質量部とした場合、イオン交換水やRO水などイオン分を除去した水40質量部以上500質量部以下が好ましく、100質量部以上400質量部以下がより好ましい。加水分解の条件としては、好ましくはpHが2~7、温度が15~80℃、時間が30~600分である。
【0073】
得られた加水分解液とトナー母粒子分散液とを混合して、縮合に適したpH(好ましくは6~12、又は1~3、より好ましくは8~12)に調整する。加水分解液の量はトナー母粒子100質量部に対して有機ケイ素化合物5.0質量部以上30.0質量部以下に調整することで、凸形状を形成しやすくする。凸形状の形成と縮合の温度と時間は、35℃~99℃で、60分~72時間保持して行うことが好ましい。
【0074】
また、トナー粒子の表面の凸形状を制御するにあたって、pHを2段階に分けて調整することが好ましい。pHを調整する前の保持時間及び、二段階目にpH調整する前の保持時間を適宜調整し有機ケイ素化合物を縮合することで、トナー粒子表面における凸形状を制御できる。例えばpH4.0~6.0で0.5時間~1.5時間保持した後に、pH8.0~11.0で3.0時間~5.0時間保持することが好ましい。また、有機化合物の縮合温度を35℃~80℃の範囲で調整することによっても凸形状が制御できる。
【0075】
例えば、凸幅wは、有機ケイ素化合物の添加量、反応温度及び一段階目の反応pHや反応時間などにより制御できる。例えば、一段回目の反応時間が長くなると凸幅が大きくなる傾向がある。
【0076】
また、凸径d及び凸高さhは、有機ケイ素重合体の添加量、反応温度及び二段階目のpHなどにより制御できる。例えば、二段階目の反応pHが高いと凸径d及び凸高さhが大きくなる傾向がある。
【0077】
以下、トナーの具体的な製造方法について説明するが、これらに限定されるわけではない。トナー母粒子を水系媒体中で製造し、トナー母粒子表面に有機ケイ素重合体を含む凸部を形成することが好ましい。
【0078】
トナー母粒子の製造方法として、懸濁重合法・溶解懸濁法・乳化凝集法が好ましく、中でも懸濁重合法がより好ましい。懸濁重合法では有機ケイ素重合体がトナー母粒子の表面に均一に析出し易く、有機ケイ素重合体の接着性に優れ、環境安定性、帯電量反転成分抑制効果、及びそれらの耐久持続性が良好になる。以下、懸濁重合法についてさらに説明する。
【0079】
懸濁重合法は、結着樹脂を生成しうる重合性単量体、及び必要に応じて着色剤などの添加剤を含有する重合性単量体組成物を水系媒体中で造粒し、該重合性単量体組成物に含まれる重合性単量体を重合することにより、トナー母粒子を得る方法である。
【0080】
重合性単量体組成物には、必要に応じて離型剤、その他の樹脂を添加してもよい。また、重合工程終了後は、公知の方法で、生成した粒子を洗浄、濾過により回収することができる。なお、上記重合工程の後半に昇温してもよい。さらに未反応の重合性単量体又は副生成物を除去する為に、重合工程後半又は重合工程終了後に一部分散媒体を反応系から留去することも可能である。
【0081】
このようにして得られたトナー母粒子を用い、上記方法により有機ケイ素重合体の凸部を形成させることが好ましい。
【0082】
トナーには離型剤を用いてもよい。離型剤としては、以下のものが挙げられる。パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムのような石油系ワックス及びその誘導体、モンタンワックス及びその誘導体、フィッシャートロプシュ法による炭化水素ワックス及びその誘導体、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィンワックス及びその誘導体、カルナバワックス、キャンデリラワックスのような天然ワックス及びその誘導体、高級脂肪族アルコール、ステアリン酸、パルミチン酸のような脂肪酸、あるいはその酸アミド、エステル、又はケトン、硬化ヒマシ油及びその誘導体、植物系ワックス、動物性ワックス、シリコ-ン樹脂。
【0083】
なお、誘導体には酸化物や、ビニル系モノマーとのブロック共重合物、グラフト変性物を含む。離型剤は単独で用いてもよいし複数を混合し使用してもよい。離型剤の含有量は、結着樹脂又は結着樹脂を生成する重合性単量体100質量部に対して2.0質量部以上30.0質量部以下であることが好ましい。
【0084】
また、重合性単量体の重合に際して、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤は、重合性単量体100質量部に対して0.5質量部~30.0質量部の添加が好ましく、単独で用いても複数を併用してもよい。
【0085】
また、トナー母粒子を構成する結着樹脂の分子量をコントロールする為に、重合性単量体の重合に際して、連鎖移動剤を添加してもよい。好ましい添加量としては、重合性単量体100質量部に対し0.001質量部~15.000質量部である。
【0086】
一方、トナー母粒子を構成する結着樹脂の分子量をコントロールする為に、重合性単量体の重合に際して、架橋剤を添加してもよい。好ましい添加量としては、重合性単量体100質量部に対して、0.001質量部~15.000質量部である。
【0087】
上記懸濁重合の際に用いられる媒体が水系媒体の場合には、重合性単量体組成物の粒子の分散安定剤として以下のものを使用することができる。リン酸三カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、メタ珪酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ベントナイト、シリカ、アルミナ。また、有機系の分散剤としては、以下のものが挙げられる。ポリビニルアルコール、ゼラチン、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、デンプン。また、市販のノニオン、アニオン、カチオン型の界面活性剤の利用も可能である。
【0088】
トナーには着色剤を用いてもよく、特に限定されず公知のものを使用することができる。
【0089】
なお、着色剤の含有量は、結着樹脂又は結着樹脂を生成しうる重合性単量体100質量部に対して3.0質量部~15.0質量部であることが好ましい。
【0090】
トナー製造時に荷電制御剤を用いることができ、公知のものが使用できる。これらの荷電制御剤の添加量としては、結着樹脂又は重合性単量体100質量部に対して、0.01質量部~10.00質量部であることが好ましい。
【0091】
トナー粒子はそのままトナーとして用いてもよいし、必要に応じて、トナー粒子に各種有機又は無機微粉体を外添してもよい。該有機又は無機微粉体は、トナー粒子に添加した時の耐久性から、トナー粒子の重量平均粒径の1/10以下の粒径であることが好ましい。
【0092】
有機又は無機微粉体としては、例えば、以下のようなものが用いられる。
(1)流動性付与剤:シリカ、アルミナ、酸化チタン、カーボンブラック及びフッ化カーボン。
(2)研磨剤:金属酸化物(例えばチタン酸ストロンチウム、酸化セリウム、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化クロム)、窒化物(例えば窒化ケイ素)、炭化物(例えば炭化ケイ素)、金属塩(例えば硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム)。
(3)滑剤:フッ素系樹脂粉末(例えばフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン)、脂肪酸金属塩(例えばステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム)。
(4)荷電制御性粒子:金属酸化物(例えば酸化錫、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ)、カーボンブラック。
【0093】
トナーの流動性の改良及びトナーの帯電均一化のために有機又は無機微粉体の表面処理を行ってもよい。有機又は無機微粉体の疎水化処理の処理剤としては、未変性のシリコーンワニス、各種変性シリコーンワニス、未変性のシリコーンオイル、各種変性シリコーンオイル、シラン化合物、シランカップリング剤、その他有機ケイ素化合物、有機チタン化合物が挙げられる。これらの処理剤は単独で用いてもよいし複数を併用してもよい。
【0094】
本実施例での有機ケイ素重合体の特徴として、ブレード16aによってトナーが中間転写ベルト10から回収されたときに、有機ケイ素重合体がトナー母粒子から移行する性質がある。これは、回収されたトナー母粒子同士は、ブレード16aの近傍で密集し互いに摺擦するためであり、この摺擦によってトナー母粒子からの有機ケイ素重合体の移行が発生する。
【0095】
有機ケイ素重合体は硬度が低く変形を起こしやすい特徴を持つ。即ち、トナー母粒子から移行した有機ケイ素重合体は、一定以上の圧を加えることで押しつぶして引き伸ばすことができる。この性質によって、ブレード16aの近傍でトナー母粒子から移行した有機ケイ素重合体は、ブレード16aと中間転写ベルト10との間で圧接されることで、ブレード16aの表面に展延して介在する状態となる。
【0096】
[有機ケイ素重合体のブレードへの付着]
図7は、有機ケイ素重合体がブレード16aに付着した状態を説明する模式図である。有機ケイ素重合体はブレード16aと接触した際、ブレード16aへの当接圧によって展延され、展延された有機ケイ素重合体は中間転写ベルト10の表面が有する凹凸形状のうち、凹部においてブレードニップ部Nbを通過する。この時、ブレードニップ部Nbをすり抜ける有機ケイ素重合体は、巻き込み部Mにわたってブレード16aに付着する。その結果、図7に示すように、ブレード16aと中間転写ベルト10との間に有機ケイ素重合体によって構成されるコート層61が介在する状態となる。コート層61がブレード16aと中間転写ベルト10の間に介在することによって、中間転写ベルト10との接触によるブレード16aの摩耗を抑制することが可能となる。
【0097】
図8は、有機ケイ素重合がブレード16aに過剰に付着した状態を説明する模式図である。図8に示すように、ブレード16aに過剰に有機ケイ素重合が付着すると、付着した有機ケイ素重合体によってブレード16aが中間転写ベルト10から持ち上がった状態となる。このような状態では、ブレード16aの先端に巻き込み部Mが形成されず、トナーのすり抜けを防止するために必要なブレード16aの当接圧が得られない。その結果、ブレード16aと中間転写ベルト10との間に形成された有機ケイ素重合体のコート層の位置にトナーが侵入しブレードニップ部Nbを通過してしまった場合に、クリーニング不良が発生してしまうおそれがある。
【0098】
一方、ブレード16aへの有機ケイ素重合体の付着が少なすぎる場合は、ブレード16aと中間転写ベルト10が直接接触する状態が形成されることで、コート層を形成することによるブレード16aの摩耗の抑制が十分に達成できない可能性がある。また、ブレードニップ部Nbにおいてブレード16aと中間転写ベルト10が直接接触する状態が継続すると、ブレード16aの先端にかかる摩擦力が大きくなることで、ブレード16aの巻き込み部Mの巻き込み量mも大きくなる。巻き込み量mが大きくなり過ぎると、カウンター方向で中間転写ベルト10に対して当接しているブレード16aが、ベルト搬送方向の下流側にめくれてしまうおそれがある。
【0099】
[ブレードへの付着量の調整]
次に、有機ケイ素重合体のブレード16aへの過剰な付着を防止しつつ、過小な付着によるブレード16aのめくれを防止するための、有機ケイ素重合体のブレード16aへの付着量を調整する調整制御について説明する。
【0100】
図9は、有機ケイ素重合体のブレード16aへの付着量を調整する調整制御を実行する際のフローチャートである。パーソナルコンピュータ271から受けた印刷ジョブ情報を基に、CPU276は、印字率演算部を制御することによって、1枚の転写材Pに形成される画像の、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの印字率を算出する(S1)。
【0101】
次に、CPU276は、S1で算出した印字率に対応したカウンタ変動値CT(カウント値)を設定する(S2)。ここで、本実施例における印字率とは、ベタ画像におけるトナー消費量を1とした時の割合を示している。また、本実施例におけるベタ画像とは、LTRサイズの転写材Pの左右、及び上下の余白をそれぞれ5mm設けた場合において、余白を除く転写材Pの面積全域に露光及びトナーによる現像を行った時に形成される画像のことである。例えば、ベタ画像のトナー消費量が0.4gであった場合に、印字率50%の条件で形成された画像のトナー消費量は0.2gとなる。印字率の定義をこのようにすることで、カウンタ変動値CTは消費されたトナー量に応じた値となり、ブレード16aに到達する有機ケイ素重合体の量に対応した量として考えることができる。本実施例におけるカウンタ変動値CTの設定に関しては後述する。
【0102】
一方、現像手段の耐久に応じてベタ画像におけるトナー消費量が変動する場合がある。また、使用する転写材Pの種類や画像形成装置100の動作環境によって、中間転写ベルト10から転写材Pへと転写されるトナー量が変動する場合がある。これらの影響を考慮してブレード16aに到達するとされる有機ケイ素重合体量を補正し、カウンタ変動値CTへと反映することも可能である。
【0103】
また、トナーに含有される有機ケイ素重合体の量は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックトナーの種類によって異なる場合がある。カウンタ変動値CTは、ブレード16aに到達する有機ケイ素重合体量に対応した値であるため、トナーの種類に応じて有機ケイ素重合体の量が異なると想定される場合は、トナーの種類ごとに印字率に対するカウンタ変動値CTを設定することもできる。
【0104】
次に、CPU276は、S2で決定したカウンタ変動値CTを足し合わせてカウンタ積算値Xを算出する(S3)。上述のように、カウンタ変動値CTはブレード16aに到達する有機ケイ素重合体の量を表しているため、カウンタ積算値Xはブレード16aに到達した有機ケイ素重合体の総量に対応する値となる。
【0105】
そして、CPU276は、カウンタ積算値Xが、予め設定された第1閾値Xa以上であって、且つ、第2閾値Xb以下であるか否かを判断する(S4)。CPU276は、これを満たしている場合(YES)には有機ケイ素重合体の付与又は除去するための制御を実行せずに調整制御を終了し、満たしていない場合(NO)にはS5へと進む。なお、第1閾値は第2閾値よりも大きい値である。
【0106】
続いて、S5において、CPU276は、カウンタ積算値Xが第1閾値Xa未満であるか否かを判断する。カウンタ積算値Xが第1閾値Xa未満であった場合(YES)、CPU276は、ブレード16aに付着する有機ケイ素重合体が少ないと判断し、S6に進む。そしてS6において、ブレードニップ部Nbに有機ケイ素重合体を付与するためにブレードニップ部Nbに向けてトナーを供給する供給制御を実行する。一方、カウンタ積算値Xが第1閾値Xa未満でない場合、即ち、カウンタ積算値Xが第2閾値Xbより大きい場合(NO)、CPU276は、ブレード16aに有機ケイ素重合体が過剰に付着していると判断する。そして、S7に進み、ブレード16aに付着した有機ケイ素重合体の量を低減するために中間転写ベルト10を所定時間以上回転させる回転制御を実行する。S6又はS7のいずれかの制御が終わった後、CPU276は、カウンタ積算値Xの値をリセットし、調整制御を終了する。
【0107】
<カウンタ変動値CTの設定>
図10は、印字率とカウンタ変動値CTとの関係を表す模式的なグラフである。図10においては、印字率をそれぞれ区間Ra、区間Rb、区間Rc、区間Rdの4つに分けて、印字率とカウンタ変動値CTとの関係を定義している。以下の説明においては、印字率を符号Pdを用いて表す。
【0108】
図10の区間Raは、0%<印字率Pd≦20%の区間であり、ブレード16aへ付着する有機ケイ素重合体が少なく、ブレード16aの摩耗、もしくはめくれが発生する可能性がある区間である。この区間における印字率Pdの画像形成が継続すると、カウンタ積算値Xが第1閾値Xa未満となる可能性が高い。本実施例の画像形成装置100における区間Raは、実験によってその範囲を0%<印字率Pd≦20%と定義した。尚、本実施例では、印字率Pdは、画像形成部a~dごとの印字率の合計値としている。
【0109】
区間Raにおいては,カウンタ変動値CTは下記式3に従って算出される。
【0110】
CT=0.1×Pd-2 (式3)
本実施例では第1閾値Xaを-1500に設定する。すなわち、例えば、印字率Pdが5%の画像を1000枚の転写材Pに形成すると、有機ケイ素重合体を付与するための供給制御が実施される。
【0111】
図10の区間Rbは、20%<印字率Pd≦50%の区間であり、ブレード16aへの有機ケイ素重合体の付着は適量であり、供給制御と回転制御のどちらも実施せずに良好なブレード16aの耐久性、及びクリーニング性を得ることが可能な区間である。本実施例の画像形成装置100における区間Rbは、実験によってその範囲を20%<印字率Pd≦50%と定義した。
【0112】
区間Rbにおいては、カウンタ変動値CTは0に設定した。即ち、形成する画像の印字率Pdが区間Rbに含まれている場合はカウンタを変化させない。
【0113】
次に、図10の区間Rcは、50%<印字率Pd≦200%の区間であり、ブレード16aへ付着する有機ケイ素重合体の量が多く、過剰なコート層の形成によってブレード16aが持ち上がり、巻き込み部Mが解放される可能性がある区間である。この区間における印字率Pdの画像形成が継続すると、カウンタ積算値Xが第2閾値Xbよりも大きくなる可能性が高い。本実施例の画像形成装置100における区間Rcは、実験によってその範囲を50%<印字率Pd≦200%と定義した。
【0114】
区間Rcにおいては,カウンタ変動値CTは下記式4に従って算出される。
【0115】
CT=0.1×Pd-5 (式4)
本実施例では第2閾値Xbを1500に設定する。すなわち、例えば、印字率Pdが200%の画像を100枚の転写材Pに形成すると、ブレードニップ部Nbにおける有機ケイ素重合体の量を低減する回転制御が実施される。
【0116】
区間Rdは、200%<印字率Pdの区間であり、区間Rcと同様に、ブレード16aへ付着する有機ケイ素重合体の量が過剰となることでブレード16aが持ち上がり、巻き込み部Mが解放される可能性がある区間である。この区間における印字率Pdの画像形成が継続すると、カウンタ積算値Xが第2閾値Xbよりも大きくなるため、回転制御が必要となる。本実施例の画像形成装置100における区間Rcは、実験によってその範囲を200%<印字率Pdと定義した。
【0117】
[供給制御]
次に、ブレードニップ部Nbに有機ケイ素重合体を付与するためにブレードニップ部Nbにトナーを供給する供給制御について説明する。本実施例では供給制御は、カウンタ積算値Xが-1500に到達したタイミングにおけるプリントジョブの、最後の転写材Pに対応するトナー像を中間転写ベルト10に転写し終えた後の後処理動作で実施される。
【0118】
図11は,供給制御を実行する場合における、画像形成シーケンスについて説明するタイミングチャートである。図11に示すように、供給制御を実行する場合、プリントジョブの最終画像が現像されても、現像ローラ42a~42dを感光ドラム1a~1dに当接させたままの状態とする。即ち、現像ローラ42a~42dを感光ドラム1a~1dから離間させない。
【0119】
また、本実施例では最終プリント画像の二次転写(図11における二次転写電源21から正極性の電圧を出力する期間)が終了してから、ブレードニップ部Nbに有機ケイ素重合体を付与するためのトナー像の形成が各画像形成部a~dで行われる。本実施例においては、ブレードニップ部Nbに有機ケイ素重合体を付与するためのトナー像(以下、供給トナー像像)として、ベルト搬送方向に関する長さが10mmであって、ベルト幅方向に関して画像形成領域の全域に形成された帯状のトナー像を形成する。この帯状の供給トナー像は、各画像形成部a~dにおいてそれぞれ形成し、また、各画像形成部a~dにおいて形成された供給トナー像が中間転写ベルト10上で重ならないように、現像タイミングを調整して形成する。そして、各画像形成部a~dにおける供給トナー像の現像の終了とともに、現像ローラ42a~42dは感光ドラム1a~1dから離間される。
【0120】
なお、本実施例においては、4つの画像形成部a~dにおいて供給トナー像を形成しているが、これに限らず、いずれか1つの画像形成部、若しくは、選択的な2つの画像形成部や3つの画像形成部において供給トナー像を形成する構成としてもよい。また、供給トナー像のベルト搬送方向に関する長さやベルト幅方向に関して形成する領域に関しては、ブレードニップ部Nbへ十分な量の有機ケイ素重合体を供給できるのであれば、本実施例の構成に限らない。例えばベルト幅方向に関して供給トナー像が重ならないように複数の画像形成部において供給トナー像を形成してもよい。この場合、複数の画像形成部において画像形成領域の全域に供給トナー像を形成する場合と比べて、消費トナー量を少なくすることが可能である。
【0121】
図11に示すように、供給トナー像が二次転写ローラ20を通過する際には、二次転写電源21からトナーの帯電極性と同極性の電圧を二次転写ローラ20に出力する。これにより、中間転写ベルト10上に一次転写された供給トナー像が二次転写ローラ20へ付着することを抑制し、ブレードニップ部Nbに供給トナー像を供給することが可能である。
【0122】
供給トナー像がブレードニップ部Nbに到達すると、ブレード16aや中間転写ベルト10、トナー同士の摺擦によってトナー表面に形成されている有機ケイ素重合体がブレード16a、もしくは中間転写ベルト10上に移行する。供給制御においては、各画像形成部a~dにおいて形成した供給トナー像がブレードニップ部Nbに到達し終わると、中間転写ベルト10の回転駆動を停止させ、一連のシーケンスを終了する。本実施例において、供給制御を実行する場合における後処理動作は終了までに6secを要する。
【0123】
ここで、本実施例にて説明したシーケンスのように、供給トナー像がブレードニップ部Nbに到達したタイミングで中間転写ベルト10の回転駆動を停止する場合、供給トナー像に含まれる有機ケイ素重合体の移行は完全には行われていない可能性がある。即ち、一部の有機ケイ素重合体が移行した状態となる可能性があるが、次のプリントジョブを実行する際に中間転写ベルト10が再度回転駆動されることで、ブレードニップ部Nbにおいて再度有機ケイ素重合体の移行が行われる。
【0124】
一方で、供給制御の実施回数を抑制するために、第1閾値Xaの値を-1500よりも大きく設定してもよい。この場合、後処理動作を実行している間に有機ケイ素重合体の移行量を最大量に近づけ、ブレード16aに対して十分な量の有機ケイ素重合体を付与することが望ましい。したがってこの場合においては、有機ケイ素重合体の移行時間を鑑みて、後処理動作の実行時間を延長し、中間転写ベルト10を回転させる距離を伸ばしてもよい。
【0125】
[回転制御]
次に、ブレード16aに付着した有機ケイ素重合体の量を低減するために、後処理動作における中間転写ベルト10の回転時間が長くなるように中間転写ベルト10を回転駆動させる回転制御について説明する。本実施例では回転制御は、カウンタ積算値Xが1500に到達したタイミングにおけるプリントジョブの、最後の転写材Pに対応するトナー像を中間転写ベルト10に転写し終えた後の後処理動作で実施される。
【0126】
図12は、回転制御を実行する場合における、画像形成シーケンスについて説明するタイミングチャートである。図12に示すように、回転制御を実行する場合、図3において説明した後処理動作と同様に、プリントジョブの最後の画像が現像されると、現像ローラ42a~42dは感光ドラム1a~1dから離間される。一方で、図3における通常の後処理動作では中間転写ベルト10のクリーニング終了とともに中間転写ベルト10の回転動作を停止するが、回転制御を実行する場合においては、クリーニング終了後も中間転写ベルト10を所定時間の間回転させ続ける。即ち、CPU276は、カウンタ積算値Xが1500よりも大きく回転制御を実行する場合、回転制御を実行しない場合の後処理時間(図3に図示)よりも中間転写ベルト10が回転する時間が長くなるように、中間転写ベルト10を回転駆動させる。
【0127】
本実施例では、クリーニング終了後から、30secに渡って中間転写ベルト10を回転させ続ける回転制御を実行することで、ブレード16aに付着した有機ケイ素重合体を、回転駆動される中間転写ベルト10とブレード16aの摺擦によって除去する。なお、以下の説明において、二次転写部を通過した後であってブレードニップ部Nbにおいてトナー母粒子から有機ケイ素重合体が移行する可能性のあるトナーを潤滑剤トナーと称する。また、二次転写部を通過した後でってブレードニップ部Nbにおいてトナー母粒子から有機ケイ素重合体が移行し終えたトナーを移行後トナーと称する。
【0128】
図13(a)は、中間転写ベルト10において、潤滑剤トナーがブレード16aと中間転写ベルト10との当接面に到達した状態を表す模式図である。潤滑剤トナーがブレード16aに衝突した際、ブレード16aに衝突したことによる反作用と、後続する潤滑剤トナーからの衝突とによって、ブレードニップ部Nb付近のトナーは、図13(a)に示すような挙動を取る。即ち、図13(a)の矢印のように、ベルト搬送方向に関してブレード16aよりも上流側へと移動する。
【0129】
この時、トナー同士の衝突やブレード16aとの摺擦によって、潤滑剤トナーのトナー母粒子表面に形成されている有機ケイ素重合体はトナー母粒子表面から移行し、先に説明したようにコート層61となりブレード16aと中間転写ベルト10との間に介在する。また、潤滑剤トナーは、図13(a)の矢印で示されるように、重力方向に関して上部へと移動した後に重力によって落下し、再び中間転写ベルト10に搬送されることでブレードニップ部Nbに到達し、再度ブレード16aへと衝突する。このような動作を繰り返す度に、潤滑剤トナーに形成されている有機ケイ素重合体はトナー母粒子表面から移行し、やがて移行量はゼロとなり、潤滑剤トナーは移行後トナーとなる。
【0130】
このように、トナー母粒子に形成された有機ケイ素重合体の量や、その形成の強さに応じて、有機ケイ素重合体の移行量や移行スピードは異なる。したがって、トナーの製造時に、例えば色毎にトナーの製造方法を変えることで有機ケイ素重合体の量に差が生じている場合がある。このような場合においては、有機ケイ素重合体の形成量や形成状態に応じて、各種制御を実行するための閾値や各種制御の実行時間などを適宜変更しても良い。
【0131】
中間転写ベルト10の移動に伴ってブレードニップ部Nbに到達する潤滑剤トナーは、図13(a)のような回転循環をしつつ、ブレード16aによって廃トナー容器16bへと移動し、図13(b)に示す平衡状態となる。
【0132】
図13(b)は、潤滑剤トナーと移行後トナーが除去されて平衡状態に達した状態を示した模式図である。平衡状態では廃トナー容器16bへと移動しなかった潤滑剤トナーと移行後トナーがブレード16aの巻き込み部M付近で滞留する。このような状態では、潤滑剤トナーからの有機ケイ素重合体の移行は生じない。したがって、中間転写ベルト10を回転駆動させることで、ブレードニップ部Nbにおいてブレード16aと中間転写ベルト10との間に生じる摺擦によって、ブレード16aに付着している有機ケイ素重合体の量を低減することが可能である。
【0133】
[作用効果]
次に、本実施例における、供給制御や回転制御を実行した時の作用効果について説明する。本実施例の効果の検証として、実験1~5及び比較実験1~4を行い、その評価結果を表1にまとめた。評価実験としては、表1に示す印字率ごとに、2枚間欠で転写材Pに画像形成を行い、供給制御や回転制御の実施有無又は実行頻度の違いによる、画像形成の累積枚数ごとにおけるクリーニング性を評価した。表1における「〇」は、クリーニング不良が発生しなかったことを示し、「×」はクリーニング不良が発生したことを示している。
【0134】
なお、評価実験は、25000枚、50000枚、75000枚、100000枚の転写材Pに対する2枚間欠での画像形成がそれぞれ完了する度に、クリーニング不良が発生したかどうかを評価した。ここで、2枚間欠での画像形成とは、2枚の転写材Pに連続して画像形成を行って後処理動作まで完了させた後に、再度前処理動作を行って2枚の転写材Pに連続して画像を形成することを繰り返し実行することである。即ち、2枚の転写材Pに画像形成を行うプリントジョブを連続して行うことともいえる。
【0135】
また、評価実験においては、クリーニング不良が発生したと判断された時点で評価を終了とし、評価終了後にブレードを中間転写ベルトから離間させてその摩耗量及びコート層の付着量を測定した。100000枚の転写材Pに対して2枚間欠で画像形成を行った後であってもクリーニング不良が発生しなかった実験に関しては、100000枚の転写材Pに対する評価実験が終了した後にブレード16aの摩耗量とコート層61の付着量を測定した。
【0136】
図14(a)は、ブレードの摩耗量の定義について説明する模式図である。図4(b)で説明した通り、ブレード16aは中間転写ベルト10との間の摩擦力によって、ブレード16aの先端が引き込まれることで巻き込み部Mを形成する。本実施例の評価検討においては、図14(a)で示す深さDを測定し、深さDの値をブレードの摩耗量として定義した。
【0137】
また、図14(b)は、コート層の付着量の定義について説明する模式図である。図8で説明した通り、ブレードへの有機ケイ素重合体の付着量が多すぎる場合、ブレードの先端で形成される巻き込み部Mは解放されることになる。本実施例の評価検討においては、図14(b)で示す高さHを測定し、高さHの値をコート層の付着量として定義した。
【0138】
【表1】
【0139】
表1に示すように、実験1においては、印字率が1%の画像を形成している。この場合、有機ケイ素重合体のブレード16aへの供給が少ないと想定されるため、式3と第1閾値Xa(ここでは-1500)に基づいて、790枚の転写材Pに画像形成を行うごとに1回の割合で供給制御を実行した。その結果、実験1においては、100000枚の転写材Pに画像形成を終えた時点でもクリーニング不良の発生が確認されなかった。また、100000枚の転写材Pへの画像形成が終了した後にブレード16aを観察したところ、コート層61の付着量である高さHは2μmであり、ブレード16aの摩耗は発生していなかった。
【0140】
一方、実験1と同様に印字率を1%として画像を形成した比較実験1においては、供給制御を一度も実施しなかった。その結果、比較実験1では、25000枚の転写材Pに画像を形成した時点でブレードのめくれが発生し、クリーニング不良の発生が確認された。比較実験1においてはこの時点で評価を終了とした。
【0141】
次に、実験2においては、印字率が5%の画像を形成している。この場合、有機ケイ素重合体のブレード16aへの供給が少ないと想定されるため、式3と第1閾値Xa(ここでは-1500)に基づいて、1000枚の転写材Pに画像形成を行うごとに1回の割合で供給制御を実行した。その結果、実験2においては、100000枚の転写材Pに画像形成を終えた時点でもクリーニング不良の発生が確認されなかった。また、100000枚の転写材Pへの画像形成が終了した後にブレード16aを観察したところ、コート層61の付着量である高さHは3μmであり、ブレード16aの摩耗は発生していなかった。
【0142】
一方、実験2と同様に印字率を5%として画像を形成した比較実験2においては、供給制御を一度も実施しなかった。その結果、比較実験2では、75000枚の転写材Pに画像を形成した時点でクリーニング不良の発生が確認された。クリーニング不良が発生した時点でブレードの観察を行ったところ、ブレードの摩耗量である深さDは6μmであり、ブレードへのコート層の付着はなかった。
【0143】
実験3においては、印字率が25%の画像を形成している。この場合、有機ケイ素重合体のブレード16aへの供給は適切であると想定されるため、図10のグラフに基づいて、供給制御及び回転制御のいずれも実行しなかった。実験3の評価結果においては、100000枚の転写材Pに画像形成を終えた時点でもクリーニング不良の発生が確認されなかった。また、100000枚の転写材Pへの画像形成が終了した後にブレード16aを観察したところ、コート層61の付着量である高さHは6μmであった。
【0144】
実験4においては、印字率が75%の画像を形成している。この場合、有機ケイ素重合体のブレード16aへの供給が過多であると想定されるため、式4と第2閾値Xb(ここでは1500)に基づいて、600枚の転写材Pに画像形成を行うごとに1回の割合で回転制御を実行した。その結果、実験4においては、100000枚の転写材Pに画像形成を終えた時点でもクリーニング不良の発生が確認されなかった。また、100000枚の転写材Pへの画像形成が終了した後にブレード16aを観察したところ、コート層61の付着量である高さHは5μmであり、ブレード16aの摩耗は発生していなかった。
【0145】
一方、実験4と同様に印字率を75%として画像を形成した比較実験3においては、回転制御を一度も実行しなかった。その結果、比較実験3では、75000枚の転写材Pに画像を形成した時点でクリーニング不良の発生が確認された。クリーニング不良が発生した時点でブレードの観察を行ったところ、コート層の付着量である高さHは12μmであり、ブレードの摩耗は発生していなかった。
【0146】
次に、実験5においては、印字率が100%の画像を形成している。この場合、有機ケイ素重合体のブレード16aへの供給が過多であると想定されるため、式4と第2閾値Xb(ここでは1500)に基づいて、300枚の転写材Pに画像形成を行うごとに1回の割合で回転制御を実行した。その結果、実験5においては、100000枚の転写材Pに画像形成を終えた時点でもクリーニング不良の発生が確認されなかった。また、100000枚の転写材Pへの画像形成が終了した後にブレード16aを観察したところ、コート層61の付着量である高さHは5μmであり、ブレード16aの摩耗は発生していなかった。
【0147】
一方、実験5と同様に印字率を100%として画像を形成した比較実験4においては、回転制御を一度も実行しなかった。その結果、比較実験4では、25000枚の転写材Pに画像を形成した時点でクリーニング不良の発生が確認された。クリーニング不良が発生した時点でブレードの観察を行ったところ、コート層の付着量である高さHは13μmであり、ブレードの摩耗は発生していなかった。
【0148】
以上の評価結果から、本実施例の構成においては、ブレード16aへの付着量が6μm以下であれば、クリーニング不良が発生しなかった。これは、ブレード16aへの有機ケイ素重合体の付着によるコート層61を形成しつつも、十分な巻き込み部Mが形成されることで中間転写ベルト10との間にかかる当接圧を確保することが可能であることによるものと考えられる。これにより、ブレード16aの摩耗を抑制して耐久性を向上させつつ、クリーニング不良の発生を抑制することが可能である。
【0149】
以上説明した通り、本実施例では、形成する画像の印字率が低く、ブレードニップ部Nbに十分な有機ケイ素重合体が付与されない場合には、供給制御を実行することで有機ケイ素重合体を付与し、クリーニング不良の発生を抑制している。また、本実施例では、形成する画像の印字率が高く、ブレードニップ部Nbに過剰な有機ケイ素重合体が滞留する場合には、回転制御を実行する。これにより、ブレードニップ部Nbにおける有機ケイ素重合体の量を低減して過剰な有機ケイ素重合体を除去し、クリーニング不良の発生を抑制している。本実施例の構成によれば、コート層61を形成しつつクリーニング不良の発生を抑制でき、即ち、ブレード16aの耐久性を向上させつつクリーニング不良の発生を抑制することが可能である。
【0150】
なお、本実施例では、供給制御を後処理動作において実施したが、これに限らない。後処理動作以外にも、例えば、画像形成を実施している間の所定タイミングにおいて、連続して搬送される転写材Pの搬送方向に関する間隔である紙間を広げ、その紙間において供給制御を実行することも可能である。また、フォーマッタ273が次のプリントジョブの画像信号を受信した場合に、そのプリントジョブの前処理動作において供給制御を実行することも可能である。
【0151】
また、本実施例では、回転制御として、後処理動作において中間転写ベルト10のクリーニング終了後に、30secの間中間転写ベルト10を回転駆動させることで、過剰な有機ケイ素重合体を除去する構成について説明した。しかし、これに限らず、回転制御において、中間転写ベルト10を回転させる動作と停止させる動作を交互に繰り返すことで過剰な有機ケイ素重合体を除去しても良い。この場合、中間転写ベルト10の停止時にブレード16aと中間転写ベルト10との間に静止摩擦力が作用する。このため、ブレード16aの先端が中間転写ベルト10の停止動作によって振動し、付着している過剰な有機ケイ素重合体の除去を効率よく実施することができる。
【0152】
(実施例2)
実施例1では、画像領域全体から算出した印字率からカウンタ変動値CTを設定し、カウンタ変動値CTの累積値であるカウンタ積算値Xの値に基づいて供給制御又は回転制御の実行要否を判断する構成について説明した。これに対し、実施例2は、画像領域を分割し、それぞれの画像領域において、印字率に基づいて得られたカウンタ積算値Xの値に基づいて供給制御又は回転制御の実行要否を判断する点で実施例1と異なる。なお、以下の説明においては、実施例1と共通する部分に関しては同一の符号を付して説明を省略する。
【0153】
転写材Pに形成される画像によっては、その画像領域において、形成されるトナー像に偏りがある場合がある。即ち、一部の領域では印字率の高いトナー像が形成される一方で、他の領域では印字率が低いトナー像が形成される場合がある。この場合、ブレード16aの幅方向において、有機ケイ素重合体によって形成されるコート層61の付着量が多い領域と少ない領域とが混在する可能性が考えられる。
【0154】
このような状況を鑑み、実施例2では、ブレード16aの幅方向に関して画像領域を分割し、それぞれの画像領域において実施例1で説明した供給制御又は回転制御の実行要否を判断する。ここで、ブレード16aの幅方向とは、ベルト搬送方向に直交する中間転写ベルト10の幅方向であり、感光ドラム1の回転軸線方向であり、露光手段3が感光ドラム1を露光する際の主走査方向であり、且つ、転写材Pの搬送方向と直交する方向である。
【0155】
図15は、転写材Pの画像形成領域を3つに分割した模式図である。本実施例においては、図15に示される各領域(領域A、領域B、領域C)における印字率を算出し、各領域においてカウンタ変動値CTの設定およびカウンタ積算値Xの算出を行う。なお、本実施例においては、一例として画像形成領域を3分割した構成について説明するが、これに限らず、分割する領域の数は適宜設定してよい。ただし、画像領域をより細分化することによって、精度の高い制御を実行することが可能となる一方で、制御が煩雑化するおそれがある。
【0156】
本実施例において、それぞれの領域におけるカウンタ変動値CTは実施例1と同様、図10のグラフ及び式3又は式4に基づいて設定される。また、供給制御又は回転制御を実行するための第1閾値Xa及び第2閾値Xb、そして各領域における制御フローも実施例1と同様とする。
【0157】
本実施例では、分割された領域ごとに供給制御又は回転制御の実行要否判断を行うため、形成される画像の種類によっては、それぞれの領域ごとに供給制御の実施タイミングと回転制御の実行タイミングが混在する可能性がある。この場合、それぞれの領域において、供給制御と回転制御を並行して実施する。
【0158】
図16は、領域ごとに供給制御と回転制御を並行して実施する場合における、画像形成シーケンスについて説明するタイミングチャートである。図16を用いて、一例として、領域Aで供給制御を実行し、領域Cで回転制御を実行する場合について説明する。図16における供給制御では、領域Aに対応する感光ドラム1a~1dの画像領域上においてのみ現像動作を実行し、感光ドラム1a~1dから中間転写ベルト10に向かって供給トナー像の1次転写を行う。この供給トナー像は二次転写部を通過した後にブレードニップ部Nbに到達し、ブレード16aの幅方向に関して領域Aに対応する領域のみに有機ケイ素重合体が供給される。
【0159】
そしてこの動作と並行して回転制御が実施される。具体的には、定着動作が終了した後から、30secの間、中間転写ベルト10の回転駆動を停止させない。なお、供給制御を行っている間及びクリーニング動作が実施されている間は、中間転写ベルト10は回転し続けているため、図16に示すように、供給制御と回転制御の実施タイミングは一部重複する。そして、回転制御の終了と共に、中間転写ベルト10の回転駆動を停止する。
【0160】
このように複数の領域ごとに供給制御と回転制御を並行して実施する場合、領域Bは供給制御及び回転制御のいずれの実施条件にも到達していないにも関わらず、回転制御が実施されたこととなる。このような状況を考慮して、領域Bにおいては、回転制御が実施された時間は印字率が0%の画像形成を行ったものとみなして、カウンタ積算地Xの値を補正してもよい。
【0161】
以上説明したように、本実施例の構成によれば、実施例1と同様の効果を得ることができるだけでなく、形成される画像に合わせてより適切な有機ケイ素重合体の供給制御又は除去制御を実行することが可能である。
【0162】
(実施例3)
実施例1では印字率に応じたカウンタ変動値CTを設定して、カウンタ積算値Xが所定の閾値に達したタイミングで供給制御、もしくは回転制御を実行した。これに対し、実施例3では、ブレード16aへのコート層61の付着量と相関あるパラメータとして、中間転写ベルト10の回転駆動トルクの値に基づいて、供給制御又は回転制御の実行要否の判断を行う。なお、以下の説明においては、実施例1と共通する構成に関しては同一の符号を付して説明を省略する。
【0163】
表2は、コート層の付着量と、中間転写ベルト10とブレード16aとの間に作用する摩擦係数及び摩擦力と、中間転写ベルト10の回転駆動トルクとの関係を示す表である。
【0164】
【表2】
【0165】
中間転写ベルト10の回転駆動トルクは、ブレード16aの中間転写ベルト10への当接によって生じる摩擦力と、中間転写ベルト10の回転時における中間転写ベルト10と3つの張架ローラとの間にかかる摩擦力との合計値となる。表2に示すように、コート層の付着量とブレード16aの当接によって生じる摩擦力との間には相関関係があるため、中間転写ベルト10を駆動する回転駆動トルクの変化を検知することで、コート層の付着量を想定することができる。
【0166】
中間転写ベルト10の回転駆動トルクは、ブレード16aから当接圧を受けるローラであり、且つ中間転写ベルト10を回転駆動する対向ローラ13の回転駆動トルクを測定することで疑似的に求めることが可能である。そこで、本実施例では、ブレード16aに対向して配置され、中間転写ベルト10を張架する対向ローラ13にかかる回転駆動トルクを検知するトルク検知手段を設け、トルク検知手段の検知結果に基づいて、供給制御又は回転制御の実行要否を判断する。
【0167】
本実施例では、一例として、供給制御を実行するための回転駆動トルクの閾値(第1閾値)として、27Nを設定し、回転制御を実行するための回転駆動トルクの閾値(第2閾値)として17Nを設定した。即ち、対向ローラ13の回転駆動トルクが27Nを超えた場合には、ブレードニップ部Nbにおける有機ケイ素重合体の量が少ないと想定して供給制御によって有機ケイ素重合体の付与を行う。また、対向ローラ13の回転駆動トルクが17Nを下回った場合に、コート層の付着量が過剰であると想定して回転制御によって過剰な有機ケイ素重合体の除去を行う。
【0168】
このような制御によって実施例1と同様に2枚間欠で画像形成を行う評価実験を行ったところ、100000枚の転写材Pへの画像形成が完了した時点でも、ブレード16aのめくれ又は摩耗やクリーニング不良の発生は確認されなかった。なお、本実施例において、対向ローラ13の回転駆動トルクを検知する検知手段は、対向ローラ13に駆動力を伝達する駆動源(モータ)の駆動電流を検知する。駆動電流を検知した後に、CPU276は、予めメモリ275に記憶させた駆動電流と回転駆動トルクとの関係を示すルックアップテーブルを参照することで、回転駆動トルクの値を得ることが可能である。
【0169】
以上説明したように、本実施例の構成によれば、ブレード16aの耐久性を向上させつつクリーニング不良の発生を抑制することが可能である。また、本実施例のように、対向ローラ13の回転駆動トルクの測定値に基づいて供給制御又は回転制御の実行要否を判断することで、ブレード16aに形成されたコート層61の実際の付着量に応じた制御を実行することが可能である。
【符号の説明】
【0170】
1 感光ドラム
10 中間転写ベルト
16 クリーニング手段
16a クリーニングブレード
61 コート層
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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図10
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図16