(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】スピロアクリダン系化合物、該化合物を含有する正孔輸送材料および該化合物を正孔輸送層に含む有機電子デバイス
(51)【国際特許分類】
C07D 221/20 20060101AFI20241007BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20241007BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20241007BHJP
H10K 50/15 20230101ALI20241007BHJP
H10K 30/50 20230101ALI20241007BHJP
C07D 405/10 20060101ALI20241007BHJP
C07D 405/14 20060101ALI20241007BHJP
C07D 409/14 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
C07D221/20 CSP
C09K11/06 630
H05B33/14 B
H05B33/22 D
H10K30/50
C07D405/10
C07D405/14
C07D409/14
(21)【出願番号】P 2020110333
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2019119937
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591045677
【氏名又は名称】関東化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 輝幸
(72)【発明者】
【氏名】西尾 太一
(72)【発明者】
【氏名】吉廣 大佑
(72)【発明者】
【氏名】岩井 新
(72)【発明者】
【氏名】新内 聡暢
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2018-0054502(KR,A)
【文献】特表2008-511155(JP,A)
【文献】特開2017-210464(JP,A)
【文献】特表2017-524699(JP,A)
【文献】特開2013-178217(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0219386(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0137235(KR,A)
【文献】国際公開第2018/164510(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0098122(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第108117539(CN,A)
【文献】特表2015-505819(JP,A)
【文献】特表2014-521593(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0020208(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 201/00-521/00
C09K 11/06
H10K 50/10
H10K 50/15
H10K 30/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
からなる群から選択される化合物。
【請求項2】
一般式(1-2)または(1-3)
【化8】
式中、
nは、0または1であり;
Lは、単結合、フェニレン基、ナフチレン基、または、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、もしくはトリアジン環のいずれかの環から形成される2価の芳香族複素環基を表し、当該フェニレン基、当該ナフチレン基、もしくは当該2価の芳香族複素環基は、さらに置換基を有していてもよく;
式(1-2)において、
Ar
1
~Ar
5
は、それぞれ互いに独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、または、置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基であり
ここでAr
4
~Ar
5
の少なくとも1つは、置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基であり
式(1-3)において、
Ar
1~Ar
4
は、それぞれ互いに独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、または、置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基であり;
Rは、水素、重水素、ハロゲン基、置換基を有していてもよい直鎖状、分枝鎖状もしくは環状のアルキル基、置換基を有していてもよい直鎖状、分枝鎖状もしくは環状のアルコキシ基、または置換基を有してもよい芳香族炭化水素基であり、
で表される化合物。
【請求項3】
Lが、単結合、フェニレン基、またはナフチレン基である、請求項
2に記載の化合物。
【請求項4】
式(1-2)において、Ar
4、Ar
5
の少なくとも1つが、ナフチレン基であ
り、
式(1-3)において、Ar
4
がフェニレン基、ビフェニレン基、またはナフチレン基である、請求項
2に記載の化合物。
【請求項5】
Rが、水素またはフェニル基である、請求項2~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物を含有する、正孔輸送材料。
【請求項7】
陰極と陽極との間に正孔輸送層を備えた有機エレクトロルミネセンス素子または有機光電変換素子を含む有機電子デバイスであって、
正孔輸送層が、請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物を含むことを特徴とする有機電子デバイス。
【請求項8】
正孔輸送層と陰極との間に発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を含むことを特徴とする、請求項7に記載の有機電子デバイス。
【請求項9】
発光層が、ホスト材料と、発光材料からなるゲスト材料とを含み、
ホスト材料が、電子輸送性材料、または、正孔輸送性および電子輸送性を有する両電荷輸送性材料であることを特徴とする、請求項8に記載の有機電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物の提供、該化合物の正孔輸送材料または有機電子デバイス用材料としての利用、および該化合物を用いた有機電子デバイスの提供に関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーと光エネルギーとを相互に変換する有機電子デバイスとして、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)または有機光電変換素子を含むものが知られている。
【0003】
これらのうち、有機EL素子は、電界により発光する発光材料を陰極と陽極で挟んだ構造を有している。有機EL素子は、電極から注入された正孔と電子とが発光層内で再結合することにより、発光材料を発光させる素子である。
【0004】
有機EL素子は、自発光型であり、視野角が広く、視認性に優れている。このため、有機EL素子は、ディスプレイなどの表示素子として用いられている。また、有機EL素子は、薄型固体素子であり、軽量化が可能で、強度も優れている。このため、有機EL素子を用いたディスプレイは、テレビなどの据え置き型のみならず、モバイル用途にも有用である。さらに、有機EL素子を用いた表示素子は、大きさを容易に変えることができ、面全体で発光するため、照明用途としても有用である。
【0005】
有機EL素子の課題としては、発光効率(外部量子効率)の向上と長寿命化が挙げられる。上記課題を解決するために、これまで様々な工夫がされてきた。
例えば、有機EL素子には、電極と発光層のほかに、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層が設けられている場合が多い。通常これらの層は、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極の順序で積層されている。電極と発光層のほかに、これらの層を設けることで、正孔と電子とが発光層内で再結合をする確率を高めることができ、有機EL素子の発光効率を向上させることができる。
【0006】
有機EL素子の発光層は、ホスト材料と称される電荷輸送性の化合物に、ゲスト材料と称される蛍光性化合物や燐光性化合物をドープして作製されるのが一般的である。電極から注入された正孔と電子は、ホスト材料とゲスト材料で形成された発光層で再結合し、励起されたホスト材料のエネルギーはゲスト材料に移動し、そのエネルギーによりゲスト材料が励起され、光エネルギーとして放出されることで効率的な発光を得ることができる。
【0007】
正孔と電子との再結合確率を向上させるためには両電荷を効率よく発光層に受け渡すことが重要となるため、正孔と電子の輸送バランスを調整する必要がある。
正孔と電子の輸送バランスを調整するには、正孔注入材料、正孔輸送材料の正孔移動度や、電子注入材料、電子輸送材料の電子移動度、層界面での電荷注入障壁、またそれぞれの膜の厚さなど、多くのファクターを考慮した上でバランスを調整しなければならない。
しかし、材料自体がもつ正孔と電子の輸送性は材料によって異なり、また異なる材料で形成された層の界面では電荷注入障壁が生じるため、発光層内で正孔と電子とをバランスよく再結合させることは容易ではない。電荷注入および輸送のバランスが悪い例としては、正孔または電子のどちらかが少ない場合、あるいは、どちらかが極端に多く再結合せずに通り抜けてしまう場合が考えられる。電荷が対極へ流れ出てしまう場合には、電荷をブロックする層を設けて電荷を発光層内に閉じ込め、再結合効率を高める方法もある。更には、発光層内で生成した励起エネルギーを閉じ込める効果によって、高発光効率を得ることもできる。通常、流出する電荷および励起エネルギーを発光層内に閉じ込める役割は、正孔輸送層や電子輸送層が担うことが多いため、正孔輸送材料の果たす役割は非常に重要である。
【0008】
有機EL素子の再結合効率を高めるために用いられる正孔輸送材料に求められる特性は、正孔輸送性が高く、電子輸送性が低いことに加え、バンドギャップやイオン化ポテンシャル(IP)、電子親和力(Ea)の値が適切な値を有することが重要である。正孔輸送材料のイオン化ポテンシャルは、陽極の仕事関数または正孔注入材料のイオン化ポテンシャルと発光材料のイオン化ポテンシャルとの間の値となることが望ましく、これにより発光層への正孔注入障壁を小さくできる。正孔輸送材料の電子親和力は、発光材料の電子親和力よりも大きくなることが望ましく、これにより電子ブロック効果を得ることができる。なお、電荷注入特性の指標の一つであるイオン化ポテンシャル(IP)とほぼ同義で、HOMOレベルが用いられ、電子親和力(Ea)とほぼ同義で、LUMOレベルが用いられる場合がある。
【0009】
有機EL素子の寿命に関しては、材料の光安定性および電気的安定性が重要である(例えば、非特許文献1および非特許文献2参照)。光安定性が低い材料では、発光層内の励起エネルギーにより材料が劣化してしまう。また、正孔輸送層の励起エネルギーが発光層の励起エネルギーより小さいと発光層で生成した励起エネルギーが正孔輸送層に移動し、正孔輸送材料の劣化を促進し、また、素子の低効率化にも繋がるため正孔輸送層の励起エネルギーは発光層の励起エネルギーより高いことが望ましい。一方、電気的安定性が低い材料では素子を流れる正孔と電子により材料が劣化してしまい、低効率および短寿命の原因となる。
【0010】
耐熱性やアモルファス性も同様に素子の長寿命化には重要である。耐熱性が低い材料では、素子駆動時の熱により熱分解が起こり、材料が劣化する。アモルファス性が低い材料では結晶化が起こりやすく、素子の劣化を促進する。そのため素子に使用する材料は耐熱性が高く、アモルファス性が良好な性質が求められる。
アモルファス性を示す尺度としてガラス転移温度(Tg)が用いられ、材料のTgが低い場合には、室温条件下でも長時間経つと結晶化して不均一な膜に変化してしまうため、有機EL材料のTgは高い程良いとされる。素子の使用環境を考えると、Tgは少なくとも135℃以上であることが好ましい。
【0011】
同様の課題が、有機光電変換素子においても生じ得る。
【0012】
例えば、特許文献1には、正孔輸送層に用いられる正孔輸送材料として、下記式により表される化合物(P)が報告されている。化合物(P)は、本発明の対応する化合物が有するアクリダン骨格のメチレン基の置換基が異なり、置換基としてフェニル基を有しているため、電気的安定性および熱的安定性が低くなることが考えられる。他方、特許文献1に記載された合成手法では本発明のスピロアクリダン骨格を含む化合物を得ることが不可能であり、当該化合物の優れた効果を予測するための手掛かりすら見当たらない。
【0013】
【0014】
また、特許文献2には、正孔輸送層に用いられる正孔輸送材料として、下記式により表される化合物(Q)が報告されている。化合物(Q)は、本発明の対応する化合物が有するアクリダン骨格のメチレン基の置換基が異なり、置換基としてメチル基を有しているため、電気的安定性および熱的安定性が低くなることが考えられる。他方、特許文献2に記載された合成手法では本発明のスピロアクリダン骨格を含む化合物を得ることが不可能であり、当該化合物の優れた効果を予測するための手掛かりすら見当たらない。
【0015】
【0016】
さらに、特許文献3には、正孔輸送層に用いられる正孔輸送材料として、下記式により表される化合物(R)が報告されている。特許文献3に記載された合成手法では本発明のスピロアクリダン骨格を含む化合物を得ることが不可能であり、当該化合物の優れた効果を予測するための手掛かりすら見当たらない。
【0017】
【0018】
また、特許文献4には、本発明のスピロアクリダン骨格を有する材料として、下記式により表される化合物(S)が報告されている。化合物(S)は、遅延蛍光材料として発光層に用いられるため、本発明のスピロアクリダン骨格を含む化合物とは用途が異なっている。
【0019】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【文献】特許第6279647号
【文献】特許第6193215号
【文献】欧州特許第1840120号
【文献】国際公開第2018/207750号
【非特許文献】
【0021】
【文献】Adv.Mater.,24,3212(2012)
【文献】Adv.Mater.,22,2468(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、正孔の注入または輸送性能、電子ブロック性能、光安定性、電気的安定性および熱的安定性に優れる正孔輸送材料として用いることができる化合物の提供を課題とする。
また、本発明は、上記の化合物を含有する正孔輸送材料を提供すること、および、上記の化合物を含む正孔輸送層を備えた有機EL素子または有機光電変換素子を含む有機電子デバイス、特に、長寿命で発光効率の高い有機EL素子を含む有機電子デバイス、を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
発明者らは、種々検討した結果、以下に示す一般式(1-1)~(1-3)で表される新規化合物の合成に成功し、さらに同化合物が、有機電子デバイスに含まれる有機EL素子または有機光電変換素子の正孔輸送材料として極めて有用であり、特に、有機EL素子の高効率化、長寿命化、および低電圧駆動を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0024】
発明者らは、下記一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物を正孔輸送層材料として用いることにより、有機電子デバイスに含まれる有機EL素子または有機光電変換素子を高効率化および長寿命化できる理由を、以下に示すように推定している。
すなわち、下記一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物は、同一般式に規定されるスピロアクリダン骨格を含むことにより材料が嵩高く剛直な構造となり、分子同士のスタッキングが抑制される。これにより、該化合物が高い励起エネルギーを示すことで発光層からのエネルギー移動が抑制され、素子が高効率化したと推定される。また、化合物の剛直性が増すことで、電気的安定性、光安定性および熱的安定性が増加し、有機電子デバイスに含まれる有機EL素子または有機光電変換素子の長寿命化にも寄与したと推定される。
【0025】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]一般式(1-1)
【0026】
【0027】
式中、
nは、0または1であり;
Lは、単結合、フェニレン基、ナフチレン基、または、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、もしくはトリアジン環のいずれかの環から形成される2価の芳香族複素環基を表し、当該フェニレン基、当該ナフチレン基、もしくは当該2価の芳香族複素環基は、さらに置換基を有していてもよく;
Ar
1~Ar
5は、それぞれ互いに独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、または、置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基であり、
で表される化合物であって、ただし下記化合物(T)を除く、前記化合物。
【化6】
【0028】
[2]一般式(1-2)または(1-3)
【0029】
【0030】
式中、
nは、0または1であり;
Lは、単結合、フェニレン基、ナフチレン基、または、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、もしくはトリアジン環のいずれかの環から形成される2価の芳香族複素環基を表し、当該フェニレン基、当該ナフチレン基、もしくは当該2価の芳香族複素環基は、さらに置換基を有していてもよく;
Ar1~Ar5は、それぞれ互いに独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、または、置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基であり;
Rは、水素、重水素、ハロゲン基、置換基を有していてもよい直鎖状、分枝鎖状もしくは環状のアルキル基、置換基を有していてもよい直鎖状、分枝鎖状もしくは環状のアルコキシ基、または置換基を有してもよい芳香族炭化水素基であり、
で表される化合物。
【0031】
[3]Lが、単結合、フェニレン基、またはナフチレン基である[1]または[2]に記載の化合物。
[4]Ar4、Ar5が、それぞれ互いに独立して、フェニレン基、ビフェニレン基、またはナフチレン基である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の化合物。
[5]Rが、水素またはフェニル基である、[2]~[4]のいずれか一つに記載の化合物。
[6][1]~[5]のいずれか一つに記載の化合物を含有する、正孔輸送材料。
【0032】
[7]陰極と陽極との間に正孔輸送層を備えた有機エレクトロルミネセンス素子または有機光電変換素子を含む有機電子デバイスであって、
前記正孔輸送層が、前記[1]~[5]のいずれか一つに記載の化合物を含むことを特徴とする有機電子デバイス。
【0033】
[8]正孔輸送層と陰極との間に発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を含むことを特徴とする、前記[7]に記載の有機電子デバイス。
[9]発光層が、ホスト材料と、発光材料からなるゲスト材料とを含み、
前記ホスト材料が、電子輸送性材料、または、正孔輸送性および電子輸送性を有する両電荷輸送性材料であることを特徴とする、前記[8]に記載の有機電子デバイス。
【発明の効果】
【0034】
本発明の化合物は、光安定性、ならびに、電気的安定性および熱的安定性に優れる正孔輸送層が得られる正孔輸送性材料として、用いることができる。
特に、本発明の有機EL素子は、本発明の化合物を含む正孔輸送層を備えた有機EL素子 を含む有機電子デバイスは、長寿命で発光効率が高く、低電圧駆動が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、本発明の有機電子デバイスに含まれる有機EL素子の一例を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明について、さらに詳しく説明する。
本発明は、一般式(1-1)
【0037】
【0038】
式中、
nは、0または1であり;
Lは、単結合、フェニレン基、ナフチレン基、または、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、もしくはトリアジン環のいずれかの環から形成される2価の芳香族複素環基を表し、当該フェニレン基、当該ナフチレン基、もしくは当該2価の芳香族複素環基は、さらに置換基を有していてもよく;
Ar
1~Ar
5は、それぞれ互いに独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、または、置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基であり、
で表される化合物に関する。
ただし、一般式(1-1)で表される化合物から、下記化合物(T)は除かれる。
【化9】
【0039】
本発明はまた、一般式(1-2)または(1-3)
【0040】
【0041】
式中、
nは、0または1であり;
Lは、単結合、フェニレン基、ナフチレン基、または、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、もしくはトリアジン環のいずれかの環から形成される2価の芳香族複素環基を表し、当該フェニレン基、当該ナフチレン基、もしくは当該2価の芳香族複素環基は、さらに置換基を有していてもよく;
Ar1~Ar5は、それぞれ互いに独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、または、置換基を有していてもよい縮合多環芳香族基であり;
Rは、水素、重水素、ハロゲン基、置換基を有していてもよい直鎖状、分枝鎖状もしくは環状のアルキル基、または、置換基を有していてもよい直鎖状、分枝鎖状もしくは環状のアルコキシ基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基であり、
で表される化合物に関する。
【0042】
一般式(1-1)~(1-3)中のLは、単結合、フェニレン基、ナフチレン基がより好ましい。
一般式(1-1)~(1-3)中のnは、0または1であり、一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物の電気的安定性、熱的安定性、成膜性、ならびに、合成および精製のし易さ等を総合して判断すると、好ましくは1である。
【0043】
一般式(1-1)~(1-3)中のAr1~Ar3における芳香族炭化水素基、芳香族複素環基および縮合多環芳香族基、またはRにおける芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ピリジル基、ピリミジル基、トリアジニル基、フリル基、ピロリル基、チエニル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、ナフチルジニル基、フェナントロリニル基、アクリジニル基、およびカルボリニル基が挙げられる。
Ar1~Ar3における芳香族炭化水素基、芳香族複素環基および縮合多環芳香族基としては、環を形成する炭素およびヘテロ原子の合計が6~25のものが好ましく、6~20のものがより好ましく、6~18のものがさらに好ましい。
【0044】
一般式(1-1)~(1-3)中のAr1~Ar3における芳香族炭化水素基、芳香族複素環基および縮合多環芳香族基が有していてもよい置換基、Rにおける芳香族炭化水素基が有していてもよい置換基、またはLが有していてもよい置換基としては、例えば、重水素原子;シアノ基;ニトロ基;ハロゲン基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基などの直鎖状もしくは分枝状のアルキル基;メチルオキシ基、エチルオキシ基、プロピルオキシ基などのアルキルオキシ基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基;フェニルオキシ基、フェニルトリオキシ基などのアリールオキシ基;ベンジルオキシ基などのアリールアルキルオキシ基;フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基などの芳香族炭化水素基もしくは縮合多環芳香族基;ピリジル基、ピリミジル基、トリアジニル基、フリル基、ピロリル基、チエニル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、ナフチルジニル基、フェナントロリニル基、アクリジニル基、およびカルボリニル基などの芳香族複素環基もしくは縮合多環芳香族基;スチリル基、ナフチルビニル基などのアリールビニル基;アセチル基などのアシル基をあげることができる。
前記置換基は二つ以上存在してもよく、二つ以上存在する場合は各々が異なっていてもよい。
【0045】
一般式(1-1)~(1-3)中のAr1~Ar3における芳香族炭化水素基、芳香族複素環基および縮合多環芳香族基が有していてもよい置換基としては、電気的安定性、熱的安定性、成膜性、ならびに、合成および精製のし易さ等を総合して判断すると、上記の例のうち、炭素数1~10の直鎖アルキル基、または、炭素数1~5の直鎖アルキル基が一つまたは二つ以上置換していてもよいフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基もしくはナフチル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基もしくはブチル基、または、炭素数1~3の直鎖アルキル基が一つまたは二つ以上置換していてもよいフェニル基もしくはビフェニル基がより好ましく、メチル基またはフェニル基が最も好ましい。
【0046】
一般式(1-1)~(1-3)中のAr3は、Lと任意の位置で結合してよく、置換基を有していてもよいフェニル基、ビフェニル基、タ-フェニル基、ナフチル基、カルバゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基が好ましく、Lと任意の位置で結合してよく、置換基を有していてもよいナフチル基、カルバゾリル基、ジベンゾフラニル基が特に好ましい。
【0047】
一般式(1-1)~(1-3)中のAr4、Ar5における芳香族炭化水素基、芳香族複素環基および縮合多環芳香族基としては、例えば、フェニレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基、ナフチレン基、フルオレニレン基、トリフェニレニル基、ベンゾフラニレン基、ベンゾチエニレン基、カルバゾリレン基、ジベンゾフラニル基、およびジベンゾチエニル基が挙げられる。
Ar4、Ar5における芳香族炭化水素基、芳香族複素環基および縮合多環芳香族基としては、環を形成する炭素およびヘテロ原子の合計が6~18のものが好ましく、6~12のものがより好ましい。
【0048】
一般式(1-1)におけるAr4とAr5とを結ぶ曲線は 、任意の位置で結合してもよい単結合を示す。Ar4またはAr5が2以上の環を含む、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、または縮合多環芳香族基である場合、かかる単結合によって、当該2以上の環芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、または縮合多環芳香族基は、Ar4またはAr5の他方と、2以上の環のいずれの環と結合していてもよい。
また、一般式(1-2)および(1-3)中、Ar4およびAr5は、実線で表される結合を介して、当該実線を共有する五員環または六員環のスピロ環とともに縮合環を形成する。
【0049】
一般式(1-1)~(1-3)中のAr4、Ar5における芳香族炭化水素基、芳香族複素環基および縮合多環芳香族基が有していてもよい置換基としては、例えば、重水素原子;シアノ基;ニトロ基;ハロゲン基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などの直鎖状もしくは分枝状のアルキル基;メチルオキシ基、エチルオキシ基などのアルキルオキシ基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基;置換基を有していてもよい、フェニルオキシ基、フェニルトリオキシ基などのアリールオキシ基;置換基を有していてもよい、ベンジルオキシ基などのアリールアルキルオキシ基;置換基を有していてもよい、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、トリフェニレニル基などの芳香族炭化水素基もしくは縮合多環芳香族基;置換基を有していてもよい、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、ナフチルジニル基、およびフェナントロリニル基などの芳香族複素環基もしくは縮合多環芳香族基;置換基を有していてもよい、スチリル基、ナフチルビニル基などのアリールビニル基;アセチル基などのアシル基をあげることができる。
前記置換基は二つ以上存在してもよく、二つ以上存在する場合は各々が異なっていてもよい。
【0050】
一般式(1-1)~(1-3)中のAr4、Ar5における芳香族炭化水素基、芳香族複素環基および縮合多環芳香族基が有していてもよい置換基としては、電気的安定性、熱的安定性、成膜性、ならびに、合成および精製のし易さ等を総合して判断すると、上記の例のうち、炭素数1~10の直鎖アルキル基、または、炭素数1~5の直鎖アルキル基が一つまたは二つ以上置換していてもよいフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基もしくはナフチル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基もしくはブチル基、または、炭素数1~3の直鎖アルキル基が一つまたは二つ以上置換していてもよいフェニル基もしくはビフェニル基がより好ましく、メチル基またはフェニル基が最も好ましい。
【0051】
一般式(1-3)中のRにおける直鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基が挙げられる。
一般式(1-3)中のRにおける分枝鎖状のアルキル基としては、例えば、1-メチルエチル基、1-メチルプロピル基、1-エチルプロピル基、1-n-プロピルプロピル基、1-メチルブチル基、1-エチルブチル基、1-プロピルブチル基、1-n-ブチルブチル基、1-メチルペンチル基、1-エチルペンチル基、1-n-プロピルペンチル基、1-n-ペンチルペンチル基、1-メチルヘキシル基、1-エチルヘキシル基、1-n-プロピルヘキシル基、1-n-ブチルヘキシル基、1-n-ペンチルヘキシル基、1-n-ヘキシルヘキシル基、1-メチルヘプチル基、1-エチルヘプチル基、1-n-プロピルヘプチル基、1-n-ブチルヘプチル基、1-n-ペンチルヘプチル基が挙げられる。
【0052】
一般式(1-3)中のRにおける環状のアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等のシクロアルキル基、または、ビシクロアルキル基、トリシクロアルキル基等の多環アルキル基が挙げられる。
一般式(1-3)中のRにおける直鎖状、分枝鎖状もしくは環状のアルコキシ基としては、例えば、上記の直鎖状、分枝鎖状もしくは環状のアルキル基の1位に酸素原子が位置するアルコキシ基が挙げられる。
上記直鎖状、分枝鎖状もしくは環状のアルキル基またはアルコキシ基は、ガラス転移温度および立体障害等の観点から、炭素数1~25であることが好ましく、炭素数1~15であることがより好ましく、炭素数1~8であることがさらに好ましい。
【0053】
一般式(1-3)中のRにおける直鎖状、分枝鎖状もしくは環状のアルキル基、または、直鎖状、分枝鎖状もしくは環状のアルコキシ基が有していてもよい置換基としては、例えば、アルコキシ基およびハロゲン基が挙げられる。
前記置換基は二つ以上存在してもよく、二つ以上存在する場合は各々が異なっていてもよい。
【0054】
Rは、一般式(1-3)で表される化合物の電気的安定性、熱的安定性、成膜性、ならびに、合成および精製のし易さ等を総合して判断すると、それぞれ互いに独立して、水素またはフェニル基であることが最も好ましい。
【0055】
一般式(1-1)~(1-3)のアクリダン骨格のメチレン部が二つの所定の(ヘテロ)アリール基で置換され、その(ヘテロ)アリール基が単結合により環を形成すること、かつアクリダン骨格のベンゼン環がAr2で置換されることで、化合物が嵩高く剛直な分子構造となり分子同士のスタッキングが抑制される。これにより、化合物が高い励起エネルギーを示し、発光層から該化合物を含む正孔輸送層へのエネルギー移動が抑制されるため、有機EL素子を含む電子デバイスが高効率化すると推定される。
また、一般式(1-1)~(1-3)のアクリダン骨格のメチレン部が二つの所定の(ヘテロ)アリール基で置換され、その(ヘテロ)アリール基が単結合により環を形成すること、かつアクリダン骨格のベンゼン環がAr2で置換されることで、化合物の剛直性が増すため、電気的安定性、光安定性および熱的安定性が増加し、該化合物を正孔輸送層に含む有機EL素子または有機光電変換素子を含む有機電子デバイスの長寿命化にも寄与すると推定される。
さらに、一般式(1-1)~(1-3)のアクリダン骨格のメチレン部が二つの所定の(ヘテロ)アリール基で置換され、その(ヘテロ)アリール基が単結合により環を形成すること、かつアクリダン骨格のベンゼン環がAr2で置換されることで、N原子への求核化合物や求電子化合物の攻撃が立体的に抑制されるため、電気的安定性、光安定性および熱的安定性が増加し、該化合物を正孔輸送層に含む有機EL素子または有機光電変換素子を含む有機電子デバイスの長寿命化にも寄与すると推定される。
一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物が示す高い励起エネルギーは、特に青色発光有機EL素子を含む電子デバイスへの使用に有利である。
【0056】
以下に、一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物の具体例を示すが、特にこれらに限定されるものではない。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
上記具体例として示される化合物のうち、電荷注入特性、電荷輸送特性、電気的安定性、および熱的安定性の観点などから、特に好ましい化合物の例として、以下の化学式で表される化合物(A)~(I)が挙げられる。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物は、前記特性を有するため、有機電子デバイスに含まれる有機EL素子用材料または有機光電変換素子用材料として用いることができ、特に、有機EL素子の正孔輸送層、好ましくは青色発光有機EL素子の正孔輸送層、に好適に用いることができる。前記化合物は、特に、有機電子デバイスに含まれる有機EL素子の高効率化および長寿命化を可能とする。
本発明は、また、一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物を含有する正孔輸送材料にも関する。
【0075】
一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物の純度の測定は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により行うことができる。高速液体クロマトグラフィーは試料を導入した移動相に圧力をかけ、溶媒を高流速で移動相に通し、カラムで試料(混合物)を分離して、分離された試料を検出器で検出することにより、試料の純度を測定する方法である。
【0076】
一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物の分子量の測定は、質量分析法(MS)により行うことができる。質量分析は、試料導入部から導入された試料に、真空中で高電圧をかけることで、試料をイオン化し、イオンを質量電荷比に応じて分離して、検出部で検出することにより行われる。
試料導入部は、ガスクロマトグラフィー(GC/MS)、高速液体クロマトグラフィー(LC/MS)、キャピラリー電気泳動(CE/MS)に直結することができ、分子量を測定するとともに、純度の測定も行うことができる。なお、試料を直接イオン化する、ダイレクトインジェクション方式(DI/MS)も採用される場合がある。
イオン源には様々なイオン化の方式が採用される。例えば、電子イオン化法(EI)、高速原子衝突法(FAB)、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)、誘電結合プラズマ法(ICP)等が挙げられる。
【0077】
一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物の同定には、核磁気共鳴スペクトル(NMR)を用いることができる。NMR測定では、原子の結合状態などによって、化学シフトやカップリングの情報を知ることができるため、化合物固有のスペクトルを得ることができ、化合物を同定することができる。測定は、少量の試料を各種重溶媒に溶かし行われる。
一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物の熱安定性の評価は、示差走査熱量測定(DSC)により行うことができる。DSC測定は、試料が相転移や融解等の熱変化が生じた場合に、標準試料との熱量の差を検出することにより行われる。DSC測定では、化合物の融点や、ガラス転移温度を知ることができる。
【0078】
一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物の紫外可視吸収スペクトル(UV/VIS)、蛍光スペクトル(PL)、燐光スペクトルを測定することで、化合物特有のUV吸収波長、蛍光波長、燐光波長を知ることができるだけでなく、化合物のバンドギャップ、蛍光量子収率、三重項エネルギー等の情報を知ることができる。
一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物のHOMOレベルおよびLUMOレベルは、サイクリックボルタンメトリー(CV)により測定することができる。また、HOMOレベルと同様の指標として、イオン化ポテンシャル(IP)も用いられる。
さらに、UV吸収波長から、光学的バンドギャップを求め、HOMOレベル(またはIP)から、LUMOレベル(またはEa)を計算で求める手法も用いられる。
【0079】
本発明の有機電子デバイスの一態様は、陰極と陽極との間に、発光層と、前記発光層の前記陽極側に配置された正孔輸送層とを備え、前記正孔輸送層が、一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物を含む有機EL素子を含み、好ましくは青色発光有機EL素子を含む。
図1は、本発明の有機電子デバイスに含まれる有機EL素子の一例を説明するための概略断面図である。
図1に示す有機EL素子1は、基板2上に第1電極9(陽極)と、正孔注入層8と、正孔輸送層7と、発光層6と、電子輸送層5と、電子注入層4と、第2電極3(陰極)とがこの順に形成された積層構造を有している。
本発明の有機電子デバイスに含まれる有機EL素子は、1層または2層以上を積層した正孔輸送層を有していてもよい。同様に、本発明の有機EL素子の他の層(例えば、発光層および電子輸送層)もまた、1層または2層以上が積層された態様であってよい。
【0080】
図1に示す有機EL素子1は、基板2上に形成された有機EL素子を構成する積層構造の全てが有機化合物からなるものである。
なお、
図1に示す有機EL素子1は、基板2上に形成された有機EL素子1を構成する積層構造に無機化合物からなる層が含まれている、ハイブリッド有機-無機電界発光素子(HOILED素子)であってもよい。この場合、例えば、
図1に示す有機EL素子1において、無機化合物からなる層として、無機の酸化物からなる電子注入層4と、無機の酸化物からなる正孔注入層8とが設けられているものとすることができる。無機化合物は有機化合物と比較して安定であるため、HOILED素子は、無機化合物からなる層を含まない有機EL素子と比較して、酸素や水に対する耐性が高く、好ましい。
【0081】
また、
図1に示す有機EL素子1においては、電子注入層4と正孔注入層8とが設けられている場合を例に挙げて説明するが、例えば、電子注入層4および/または正孔注入層8はなくてもよい。また、
図1に示す有機EL素子1においては、有機化合物からなる電子注入層4に代えて無機化合物からなる電子注入層を設けてもよいし、有機化合物からなる正孔注入層8に代えて無機化合物からなる正孔注入層を設けてもよい。
【0082】
図1に示す有機EL素子1は、基板2側と反対側に光を取り出すトップエミッション型のものであってもよいし、基板2側に光を取り出すボトムエミッション型のものであってもよい。
また、
図1に示す有機EL素子1は、基板2と発光層6との間に陽極として機能する第1電極9が配置された順構造のものである。
【0083】
基板2の材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレートのような樹脂材料や、石英ガラス、ソーダガラスのようなガラス材料等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0084】
有機EL素子1がボトムエミッション型のものである場合には、基板2の材料として、透明のものを用いる。
有機EL素子1がトップエミッション型のものである場合には、基板2の材料として、透明のものだけでなく不透明のものも用いることができる。不透明基板としては、例えば、アルミナのようなセラミックス材料で構成された基板、ステンレス鋼のような金属基板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成したもの、樹脂材料で構成された基板が挙げられる。
【0085】
図1に示す有機EL素子1における第1電極9は、陽極として機能するものである。第1電極9の材料としては、例えば、ITO(インジウム酸化錫)、IZO(インジウム酸化亜鉛)、FTO(フッ素酸化錫)、In
3O
3、SnO
2、Sb含有SnO
2、Al含有ZnO等の酸化物が挙げられる。この中でも、第1電極9の材料として、ITO、IZO、FTOを用いることが好ましい。
【0086】
正孔注入層8に用いられる材料は、陽極の仕事関数と正孔輸送層のIPの関係、電荷輸送特性等の観点から選ばれる。例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホネート)(略称:PEDOT:PSS)、銅フタロシアニン(略称:CuPc)に代表されるフタロシアニン化合物、モリブデン酸化物(MoOx)、酸化バナジウム(V2O5)、2,3,6,7,10,11-ヘキサシアノ-1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン(HAT-CN)のようなアクセプター性の複素環化合物を用いることができる。適切なIPと電荷輸送特性を有する化合物であれば、低分子、高分子問わず、各種の有機化合物、無機化合物を選択することができる。また、これらの材料を2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0087】
正孔輸送層7は、一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物を含む。該化合物は、前記一般式に規定される2-置換フルオレン骨格を有することにより、適切なHOMOレベルおよびLUMOレベルを有し、光安定性、電気的安定性および熱的安定性に優れる。したがって、発光層内での電荷の再結合効率を高めることができ、より高い発光効率で、長寿命な有機EL素子を実現することができる。
【0088】
一般式(1-1)~(1-3)で表される化合物は単独で正孔輸送材料として用いることもできるが、既存の正孔輸送性材料を1種または2種以上と混合して用いることもできる。既存の正孔輸送性材料としては、例えば、N,N-ジビフェニル-N’-ターフェニル-N’-フェニルベンジジン(略称:HT1)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(α-ナフチル)ベンジジン(略称:NPD)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(m-トリル)ベンジジン(略称:TPD)、1,1-ビス[4-[N,N-ジ(p-トリル)アミノ]フェニル]シクロヘキサン(略称:TAPC)等の芳香族アミン化合物、または、4,4’,4’’-トリ-9-カルバゾリルトリフェニルアミン(略称:TCTA)、1,3-ビス(カルバゾール-9-イル)ベンゼン(略称:mCP)等のカルバゾール誘導体を用いることができる。
【0089】
発光層6には、蛍光材料、または燐光材料を用いることができる。発光材料は、電荷輸送および電荷再結合を行うホスト材料に、発光材料(ゲスト材料)を含有させて用いることもできる。
ホスト材料は、正孔輸送性および電子輸送性を有する両電荷輸送性の材料を用いることができる。また、本発明の正孔輸送材料は電子阻止性能にも優れるため、ホスト材料に電子輸送性の材料を用いることもできる。
【0090】
ホスト材料としては、例えば、アルミニウム錯体、ベリリウム錯体等の金属錯体、アントラセン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、フェナントレン誘導体を用いることができる。
【0091】
発光材料は特に限定されないが、蛍光材料としては、例えば、キナクリドン、クマリン、ルブレン、ペリレンおよびその誘導体、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、アミノスチリル誘導体、ピレン誘導体、芳香族アミン誘導体、テトラセン誘導体を用いることができる。また、燐光材料としては、例えば、イリジウムや白金等の金属錯体を用いることができる。Ir(ppy)3などの緑色用発光材料、FIrpicなどの青色用発光材料、(Btp)2Ir(acac)などの赤色用発光材料が用いられる。
【0092】
電子輸送層5に用いる材料としては、例えば、Alq3、BAlqをはじめとするキノリノール誘導体の金属錯体、アントラセン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、トリアジン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体を用いることができる。
適切なLUMOレベルの材料を含む電子輸送層を発光層と陰極または電子注入層との間に設けると、陰極または電子注入層から電子輸送層への電子注入障壁を緩和し、さらに、電子輸送層から発光層への電子注入障壁を緩和することができる。また、該材料が適切なHOMOレベルを有すると、発光層で再結合せずに対極へ流出する正孔を阻止し、発光層内に正孔を閉じ込め、発光層内での再結合効率を高めることができる。
【0093】
電子注入層4に用いられる材料は、陰極の仕事関数と電子輸送層のLUMOレベル等の観点から選ばれる。電子輸送層を設けない場合には、発光材料または後述するホスト材料のLUMOレベルを考慮して選ばれる。電子注入材料は有機化合物でも無機化合物でもよい。
電子注入層が、無機化合物からなるものである場合には、例えば、アルカリ金属や、アルカリ土類金属の他、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、炭酸セシウムを用いることができる。
【0094】
有機EL素子の陰極は、電子注入層または電子輸送層に電子を注入する役割を担う。陰極には、仕事関数の比較的小さな各種金属材料、各種合金等、陰極として作用する材料が用いられる。例えば、アルミニウム、銀、マグネシウム、カルシウム、金、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、マグネシウムインジウム合金(MgIn)、銀合金が挙げられる。
ボトムエミッション方式を採用する場合、陰極には、金属からなる不透明電極を用いることができる。また、陰極を反射電極とすることもできる。
トップエミッション方式を採用する場合、陰極には、ITO、IZO等の透明電極を用いることができる。ここで、ITOは仕事関数が大きいため、電子注入が困難となることに加え、ITO膜を形成するためには、スパッタ法やイオンビーム蒸着法が用いられるが、成膜時に電子輸送層等にダメージを与える可能性がある。そこで、電子注入を改善するとともに、成膜時の電子輸送層へのダメージを低減するために、電子輸送層と、ITOとの間に、マグネシウム層や銅フタロシアニン層を設けることもできる。
【0095】
本発明の有機電子デバイスに含まれる有機光電変換素子も、上記の有機EL素子に準じて作製することができる。
【実施例】
【0096】
以下に、本発明の実施例を参照してより詳細に説明するが、これは本発明の特定の具体例を示すものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0097】
[化合物の合成]
実施例1
化合物(A)を以下に示す合成経路により合成した。
【0098】
【0099】
化合物(a-1)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した500mLの4つ口フラスコに、2-ブロモトリフェニルアミン(5.31g、16.4mmol)およびテトラヒドロフラン(328mL)を入れ、攪拌し、-78℃まで冷却した。そこに、n-ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液、12.5mL、19.7mmol)を滴下した。1時間攪拌した後、フルオレノン(4.43g、24.6mmol)を加え、さらに1時間攪拌した。蒸留水(50mL)を少しずつ添加して、反応を停止させた。内容物を分液ロートに移し、酢酸エチルを加えて、有機相と水相を分離させ、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=3/1)により精製し、目的とする化合物(a-1)を得た(収量6.21g、収率89%)。
【0100】
化合物(a-2)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した500mLの1つ口フラスコに、化合物(a-1)(6.21g、14.6mmol)、ジクロロメタン(292mL)、およびトリフルオロメタンスルホン酸(0.50mL、5.65mmol)を入れ、室温で30分間攪拌した。その後、そこに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(30mL)少しずつ添加して、反応を停止させた。内容物を分液ロートに移し、有機相と水相を分離させた後、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。得られた混合物をメタノールで洗浄することにより精製し、目的とする化合物(a-2)を得た(収量5.41g、収率91%)。
【0101】
化合物(a-3)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した300mLのシュレンク管に、化合物(a-2)(2.00g、4.91mmol)、およびジクロロメタン(98mL)を入れ、攪拌し、そこに臭素(0.78mL、15.2mmol)を滴下した。室温で3時間攪拌した。その後、反応容器を0℃まで冷却し、そこに飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液(30mL)少しずつ添加して、反応を停止させた。内容物を分液ロートに移し、有機相と水相を分離させた後、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。得られた混合物をメタノールで洗浄することにより精製し、目的とする化合物(a-3)を得た(収量2.96g、収率94%)。
【0102】
化合物(A)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した300mLのシュレンク管に、化合物(a-3)(2.96g、4.60mmol)、1-ナフタレンボロン酸(2.45g、14.2mmol)、炭酸カリウム(2.54g、18.4mmol)、トルエン(83mL)、水(9.2mL)、およびテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)(212mg、0.184mmol)を入れ、密閉した後に、100℃で2時間攪拌した。その後、反応容器を室温付近まで放冷した。内容物を分液ロートに移し、有機相と水相を分離させた後、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。濃縮した得られた混合物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=30/1)により精製し、その後、ヘキサンで洗浄することで目的とする化合物(A)を得た(収量928mg、収率26%)。MS:m/z=785
【0103】
実施例2
化合物(B)を以下に示す合成経路により合成した。
【0104】
【0105】
化合物(B)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した300mLのシュレンク管に、化合物(a-3)(3.21g、4.99mmol)、2-ナフタレンボロン酸(2.66g、15.5mmol)、炭酸カリウム(2.76g、19.9mmol)、トルエン(90mL)、水(10mL)、およびテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)(231mg、0.199mmol)を入れ、密閉した後に、100℃で3時間攪拌した。その後、反応容器を室温付近まで放冷した。内容物を分液ロートに移し、有機相と水相を分離させた後、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。濃縮した得られた混合物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=1/1)により精製し、その後、酢酸エチルで洗浄することで、目的とする化合物(B)を得た(収量1.42g、収率36%)。MS:m/z=785
【0106】
実施例3
化合物(C)を以下に示す合成経路により合成した。
【0107】
【0108】
化合物(C)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した300mLのシュレンク管に、化合物(a-3)(2.92g、4.53mmol)、ジベンゾフラン-4-ボロン酸(3.07g、14.5mmol)、炭酸カリウム(2.50g、18.1mmol)、トルエン(65mL)、水(26mL)、およびテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)(209mg、0.181mmol)を入れ、密閉した後に、100℃で2時間攪拌した。その後、反応容器を室温付近まで放冷した。内容物を分液ロートに移し、有機相と水相を分離させた後、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。濃縮した得られた混合物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)により精製し、その後、ヘキサンで洗浄することで目的とする化合物(C)を得た(収量900mg、収率22%)。MS:m/z=905
【0109】
実施例4
化合物(D)を以下に示す合成経路により合成した。
【0110】
【0111】
化合物(d-1)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した300mLの4つ口フラスコに、10H-スピロ[アクリジン-9,9’-フルオレン](2.43g、7.34mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(147mL)、および1,3-ジブロモ-5,5-ジメチルヒダントイン(2.31g、8.08mmol)を入れ、室温で2時間攪拌した。その後、反応容器を0℃まで冷却し、そこに飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液(30mL)少しずつ添加して、反応を停止させた。内容物を分液ロートに移し、トルエンを加えて、有機相と水相を分離させた後、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)により精製し、目的とする化合物(d-1)を得た(収量2.60g、収率72%)。
【0112】
化合物(d-2)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した50mLのシュレンク管に、化合物(d-1)(1.17g、2.93mmol)、ジベンゾフラン-4-ボロン酸(1.06g、5.02mmol)、リン酸カリウム(870mg、7.17mmol)、トルエン(16mL)、水(4mL)、およびジクロロビス[ジ-tert-ブチル(4-ジメチルアミノフェニル)ホスフィン]パラジウム(II)(16.9mg、0.0239mmol)を入れ、密閉した後に、100℃で3時間攪拌した。その後、反応容器を室温付近まで放冷した。内容物を分液ロートに移し、ジクロロメタンを加えて、有機相と水相を分離させた後、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。得られた混合物をヘキサンで洗浄することで、目的とする化合物(d-2)を得た(収量1.47g、収率92%)。
【0113】
化合物(D)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した50mLのシュレンク管に、化合物(d-2)(1.46g、2.19mmol)、2-(4-ブロモフェニル)ナフタレン(682mg、2.41mmol)、ビス(トリ-tert-ブチルホスフィン)パラジウム(0)(11.2mg、0.0219mmol)、トルエン(22mL)、およびtert-ブトキシナトリウム(316mg、3.29mmol)を入れ、密閉した後に、100℃で2時間攪拌した。その後、反応容器を室温付近まで放冷し、そこに水(30mL)を入れた。内容物を分液ロートに移し、ジクロロメタンを加えて、有機相と水相を分離させた後、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。濃縮した得られた混合物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=2/1)により精製し、その後、トルエンで洗浄することで、目的とする化合物(D)を得た(収量1.52g、収率80%)。MS:m/z=865
【0114】
実施例5
化合物(E)を以下に示す合成経路により合成した。
【0115】
【0116】
化合物(e-1)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した100mLのシュレンク管に、化合物(d-1)(3.35g、6.84mmol)、2-ナフタレンボロン酸(2.59g、15.0mmol)、炭酸カリウム(2.84g、20.5mmol)、トルエン(31mL)、水(3.4mL)、およびジクロロビス[ジ-tert-ブチル(4-ジメチルアミノフェニル)ホスフィン]パラジウム(II)(14.5mg、0.0205mmol)を入れ、密閉した後に、100℃で3時間攪拌した。その後、反応容器を室温付近まで放冷し、そこにヘキサン(30mL)を入れ、析出物をろ取した。得られた析出物を、ヘキサンで洗浄することで、目的とする化合物(e-1)を得た(収量3.42g、収率86%)。
【0117】
化合物(E)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した100mLのシュレンク管に、化合物(e-1)(1.80g、3.08mmol)、2-ブロモ-9,9’-スピロビ[9H-フルオレン](1.34g、3.39mmol)、ビス(トリ-tert-ブチルホスフィン)パラジウム(0)(15.8mg、0.0308mmol)、トルエン(32mL)、およびtert-ブトキシナトリウム(445mg、3.73mmol)を入れ、密閉した後に、100℃で4時間攪拌した。その後、反応容器を室温付近まで放冷し、そこに水(30mL)を入れた。内容物を分液ロートに移し、有機相と水相を分離させた後、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。濃縮した得られた混合物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:シクロヘキサン/トルエン=1/1)により精製し、その後、酢酸エチルで洗浄することで、目的とする化合物(E)を得た(収量1.29g、収率42%)。MS:m/z=897
【0118】
実施例6
化合物(F)を以下に示す合成経路により合成した。
【0119】
【0120】
化合物(F)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した200mLのシュレンク管に、化合物(d-2)(1.65g、2.48mmol)、9-(4-ブロモフェニル)カルバゾール(1.04g、3.23mmol)、ビス(トリ-tert-ブチルホスフィン)パラジウム(0)(50.8mg、0.0993mmol)、トルエン(60mL)、およびtert-ブトキシナトリウム(358mg、3.73mmol)を入れ、密閉した後に、100℃で23時間攪拌した。その後、反応容器を室温付近まで放冷し、そこに水(30mL)を入れた。内容物を分液ロートに移し、有機相と水相を分離させた後、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。濃縮した得られた混合物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=3/1)により精製し、その後、ヘキサンで洗浄することで、目的とする化合物(F)を得た(収量862mg、収率38%)。MS:m/z=904
【0121】
実施例7
化合物(G)を以下に示す合成経路により合成した。
【0122】
【0123】
化合物(g-1)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した200mLのシュレンク管に、2-ブロモアニリン(5.00g、29.1mmol)、1-クロロ-4-ヨードベンゼン(17.3g、72.7mmol)、ビス(トリ-tert-ブチルホスフィン)パラジウム(0)(594mg、1.16mmol)、トルエン(291mL)、およびtert-ブトキシナトリウム(6.98g、72.7mmol)を入れ、密閉した後に、100℃で15時間攪拌した。その後、反応容器を室温付近まで放冷し、そこに水(30mL)を入れた。内容物を分液ロートに移し、有機相と水相を分離させた後、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。濃縮した得られた混合物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=25/1)により精製し、目的とする化合物(g-1)を得た(収量6.49g、収率57%)。
【0124】
化合物(g-2)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した500mLの4つ口フラスコに、化合物(g-1)(9.11g、23.2mmol)およびテトラヒドロフラン(232mL)を入れ、攪拌し、-78℃まで冷却した。そこに、n-ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液、17.7mL、27.8mmol)を滴下した。1時間攪拌した後、フルオレノン(6.27g、34.8mmol)を加え、さらに1時間攪拌した。その後、そこに蒸留水(50mL)を少しずつ添加して、反応を停止させた。内容物を分液ロートに移し、酢酸エチルを加えて、有機相と水相を分離させ、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=3/1)により精製し、目的とする化合物(g-2)を得た(収量4.54g、収率40%)。
【0125】
化合物(g-3)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した500mLの1つ口フラスコに、化合物(g-2)(4.64g、9.39mmol)、ジクロロメタン(188mL)、およびトリフルオロメタンスルホン酸(0.25mL、2.82mmol)を入れ、室温で1時間攪拌した。その後、そこに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(30mL)少しずつ添加して、反応を停止させた。内容物を分液ロートに移し、有機相と水相を分離させた後、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。得られた混合物をヘキサンで洗浄することで、目的とする化合物(g-3)を得た(収量2.68g、収率60%)。
【0126】
化合物(G)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した300mLのシュレンク管に、化合物(g-3)(2.68g、5.61mmol)、ジベンゾフラン-4-ボロン酸(4.17g、19.7mmol)、リン酸カリウム(4.77g、22.5mmol)、ジオキサン(112mL)、およびビス(ジ-tert-ブチル(4-ジメチルアミノフェニル)ホスフィン)ジクロロパラジウム(II)(159mg、0.225mmol)を入れ、密閉した後に、110℃で30時間攪拌した。その後、反応容器を室温付近まで放冷した。内容物を分液ロートに移し、水を加えて、有機相と水相を分離させた後、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。濃縮した得られた混合物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=1/1)により精製し、その後、ヘキサンで洗浄することで、目的とする化合物(G)を得た(収量1.45g、収率35%)。MS:m/z=739
【0127】
実施例8
化合物(H)を以下に示す合成経路により合成した。
【0128】
【0129】
化合物(h-1)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した200mLのシュレンク管に、2-ブロモ-9―フルオレノン(2.50g、9.65mmol)、フェニルボロン酸(1.29g、10.6mmol)、炭酸カリウム(2.67g、19.3mmol)、トルエン(87mL)、水(9.7mL)、およびテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)(223mg、0.193mmol)を入れ、密閉した後に、100℃で4時間攪拌した。その後、反応容器を室温付近まで放冷した。内容物を分液ロートに移し、有機相と水相を分離させた後、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。濃縮した得られた混合物を、ヘキサンで洗浄することで、目的とする化合物(h-1)を得た(収量2.33g、収率94%)。
【0130】
化合物(h-2)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した500mLの4つ口フラスコに、2-ブロモトリフェニルアミン(2.60g、8.02mmol)およびテトラヒドロフラン(160mL)を入れ、攪拌し、-78℃まで冷却した。そこに、n-ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液、6.13mL、9.62mmol)を滴下した。1時間攪拌した後、化合物(h-1)(2.45g、9.62mmol)を加え、さらに1時間攪拌した。蒸留水(50mL)を少しずつ添加して、反応を停止させた。内容物を分液ロートに移し、酢酸エチルを加えて、有機相と水相を分離させ、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=3/1)により精製し、目的とする化合物(h-2)を得た(収量3.63g、収率90%)。
【0131】
化合物(h-3)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備えた300mLの1つ口フラスコに、化合物(h-2)(3.63g、7.24mmol)、ジクロロメタン(145mL)、およびトリフルオロメタンスルホン酸(0.25mL、2.82mmol)を入れ、室温で30分間攪拌した。その後、そこに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(30mL)少しずつ添加して、反応を停止させた。内容物を分液ロートに移し、有機相と水相を分離させた後、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。得られた混合物をメタノールで洗浄することで、目的とする化合物(h-3)を得た(収量3.22g、収率92%)。
【0132】
化合物(h-4)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した300mLのシュレンク管に、化合物(h-3)(3.22g、6.66mmol)、およびジクロロメタン(133mL)を入れ、攪拌し、そこに臭素(1.20mL、23.3mmol)を滴下した。室温で2時間攪拌した。その後、反応容器を0℃まで冷却し、そこに飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液(30mL)少しずつ添加して、反応を停止させた。内容物を分液ロートに移し、有機相と水相を分離させた後、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。得られた混合物をメタノールで洗浄することで、目的とする化合物(h-4)を得た(収量5.01g、収率100%)。
【0133】
化合物(H)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した100mLのシュレンク管に、化合物(h-4)(3.46g、4.80mmol)、2-ナフタレンボロン酸(2.64g、15.4mmol)、炭酸カリウム(2.65g、19.2mmol)、トルエン(22mL)、水(2.4mL)、およびビス(ジ-tert-ブチル(4-ジメチルアミノフェニル)ホスフィン)ジクロロパラジウム(II)(34.0mg、0.0480mmol)を入れ、密閉した後に、100℃で3時間攪拌した。その後、反応容器を室温付近まで放冷した。内容物を分液ロートに移し、有機相と水相を分離させた後、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。濃縮した得られた混合物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン)により精製し、その後、酢酸エチルで洗浄することで、目的とする化合物(H)を得た(収量734mg、収率18%)。MS:m/z=861
【0134】
実施例9
化合物(I)を以下に示す合成経路により合成した。
【0135】
【0136】
化合物(i-1)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した500mLの4つ口フラスコに、2-ブロモジフェニルアミン(2.50g、10.1mmol)およびtert-ブチルメチルエーテル(50mL)を入れ、攪拌し、0℃まで冷却した。そこに、n-ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液、13.0mL、20.2mmol)を滴下した。1時間攪拌した後、11H-ベンゾ[b]フルオレン-11-オン(4.64g、20.2mmol)を加え、さらに1時間攪拌した。その後、そこに蒸留水(20mL)を少しずつ添加して、反応を停止させた。内容物を分液ロートに移し、酢酸エチルを加えて、有機相と水相を分離させ、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。得られた混合物を、攪拌子を備えた200mLの1つ口フラスコに入れ、ジクロロメタン(34mL)、およびトリフルオロメタンスルホン酸(0.267mL、3.02mmol)を入れ、室温で30分間攪拌した。その後、そこに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(30mL)少しずつ添加して、反応を停止させた。内容物を分液ロートに移し、有機相と水相を分離させた後、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=3/1)により精製し、目的とする化合物(i-1)を得た(収量3.78g、収率98%)。
【0137】
化合物(i-2)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した300mLのシュレンク管に、化合物(i-1)(3.78g、9.91mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(99mL)、および1,3-ジブロモ-5,5-ジメチルヒダントイン(2.85g、9.91mmol)を入れ、室温で1時間攪拌した。その後、そこに5%亜硫酸ナトリウム水溶液(20mL)少しずつ添加して、反応を停止させた。内容物を分液ロートに移し、トルエンを加えて、有機相と水相を分離させた後、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。得られた混合物をヘキサンで洗浄することで、目的とする化合物(i-2)を得た(収量4.31g、収率81%)。
【0138】
化合物(i-3)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した100mLのシュレンク管に、化合物(i-2)(2.30g、4.27mmol)、2-ナフタレンボロン酸(1.64g、9.38mmol)、炭酸カリウム(1.77g、12.8mmol)、トルエン(19mL)、水(2.1mL)、およびビス(ジ-tert-ブチル(4-ジメチルアミノフェニル)ホスフィン)ジクロロパラジウム(II)(9.1mg、0.0128mmol)を入れ、密閉した後に、100℃で3時間攪拌した。その後、反応容器を室温付近まで放冷した。そこに蒸留水(5mL)、ヘキサン(20mL)を入れ、析出物をろ取することで、目的とする化合物(i-3)を得た(収量2.35g、収率87%)。
【0139】
化合物(I)を以下に示す方法により合成した。
攪拌子を備え、アルゴン置換した150mLのシュレンク管に、化合物(i-3)(2.94g、4.65mmol)、2-(4-ブロモフェニル)ナフタレン(1.45g、5.11mmol)、ビス(トリ-tert-ブチルホスフィン)パラジウム(0)(23.7mg、0.047mmol)、トルエン(67mL)、およびtert-ブトキシナトリウム(670mg、6.97mmol)を入れ、密閉した後に、100℃で2時間攪拌した。その後、反応容器を室温付近まで放冷し、そこに水(30mL)を入れた。内容物を分液ロートに移し、有機相と水相を分離させた後、水相を取り除き、さらに有機相を水洗した。有機相は硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過により硫酸ナトリウムを取り除き、有機相を濃縮した。濃縮した得られた混合物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:シクロヘキサン/テトラヒドロフラン=1/1)により精製し、その後、酢酸エチルで洗浄することで、目的とする化合物(I)を得た(収量1.67g、収率35%)。MS:m/z=835
【0140】
実施例10
上記実施例1で合成した化合物(A)、上記実施例2で合成した化合物(B)、上記実施例3で合成した化合物(C)、上記実施例4で合成した化合物(D)、上記実施例5で合成した化合物(E)、上記実施例6で合成した化合物(F)、上記実施例7で合成した化合物(G)、上記実施例8で合成した化合物(H)、上記実施例9で合成した化合物(I)、および下記比較化合物(X)~(Z)のDSC測定を行った。
【化36】
【0141】
Tgおよび分解温度を表1に示す。
【0142】
【0143】
表1に示すように、本発明の化合物は、135℃以上のTgを有し、また分解温度が高く、熱安定性に優れる材料であることが分かる。一般式(1-1)~(1-3)のアクリダン骨格のメチレン部が二つの所定の(ヘテロ)アリール基で置換され、その(ヘテロ)アリール基が単結合により環を形成すること、かつアクリダン骨格のベンゼン環がAr2で置換されることが、好適な熱安定性をもたらす一つの要因として作用したと考えられる。
【0144】
[有機EL素子の作成]
実施例11
膜厚110nmのITO(酸化インジウムスズ)が成膜されたガラス基板に下記構造式の化合物HAT-CNを10nmの厚さに真空蒸着して、正孔注入層を形成した。正孔注入層上に下記構造式の化合物HT1を80nmの厚さに真空蒸着して第1正孔輸送層を形成した。次に、第1正孔輸送層上に前記製造された化合物(A)を10nmの厚さに真空蒸着して第2正孔輸送層を形成した。次に、第2正孔輸送層上にゲスト材料として下記構造式の化合物BD1を用い、ホスト材料として下記構造式の化合物BH1を用い、発光層中のゲスト材料の含有量を4重量%とした厚み25nmの発光層を形成した。次に、発光層上に下記構造式の化合物HB1(25nm)、および下記構造式の化合物ET1(10nm)を順次に真空蒸着して電子輸送層を形成した。次に、電子輸送層上にフッ化リチウム(LiF)(1nm)、およびアルミニウム(80nm)を順次に真空蒸着して、電子注入層および陰極とした。
【0145】
【0146】
実施例12
第2正孔輸送層の材料を化合物(B)に代えたこと以外は、実施例11と同様にして、有機EL素子を形成した。
【0147】
実施例13
第2正孔輸送層の材料を化合物(C)に代えたこと以外は、実施例11と同様にして、有機EL素子を形成した。
【0148】
実施例14
第2正孔輸送層の材料を化合物(D)に代えたこと以外は、実施例11と同様にして、有機EL素子を形成した。
【0149】
実施例15
第2正孔輸送層の材料を化合物(E)に代えたこと以外は、実施例11と同様にして、有機EL素子を形成した。
【0150】
実施例16
第2正孔輸送層の材料を化合物(F)に代えたこと以外は、実施例11と同様にして、有機EL素子を形成した。
【0151】
実施例17
第2正孔輸送層の材料を化合物(H)に代えたこと以外は、実施例11と同様にして、有機EL素子を形成した。
【0152】
実施例18
第2正孔輸送層の材料を化合物(I)に代えたこと以外は、実施例11と同様にして、有機EL素子を形成した。
【0153】
比較例1
第2正孔輸送層の材料を上記比較化合物(X)に代えたこと以外は、実施例11と同様にして、有機EL素子を形成した。
【0154】
比較例2
第2正孔輸送層の材料を上記比較化合物(Y)に代えたこと以外は、実施例11と同様にして、有機EL素子を形成した。
【0155】
比較例3
第2正孔輸送層の材料を上記比較化合物(Z)に代えたこと以外は、実施例11と同様にして、有機EL素子を形成した。
【0156】
得られた実施例11~19および比較例1~3の有機EL素子について、輝度1000cd/m2時の電圧、外部量子効率、および色度座標を測定した。また、素子寿命を測定し、結果を以下の表2に示した。
素子寿命は100mA/cm2の定電流測定において、素子の発光輝度(初期輝度)が50%に減衰するまでの時間として測定した。
【0157】
【0158】
実施例11~18ならびに比較例1~3の有機EL素子は、いずれも青色に発光した。
表2に示すように、本発明の化合物を含む正孔輸送層を有する実施例11~18の有機EL素子は、低電圧駆動が可能であり、かつ高い外部量子効率と長期間の素子寿命を示した。式(1-1)~(1-3)のアクリダン骨格のメチレン部が二つの所定の(ヘテロ)アリール基で置換され、その(ヘテロ)アリール基が単結合により環を形成すること、かつアクリダン骨格のベンゼン環がAr2で置換されることにより、熱安定性に優れた材料となり、かつ、N原子への求核化合物や求電子化合物の攻撃が立体的に抑制され、光安定性および電気的安定性に優れた材料となり、当該化合物を正孔輸送層に含む有機EL素子の低電圧化、ならびに、高効率化および長寿命化を達成することができたものと考えられる。
他方、比較化合物を含む正孔輸送層を有する比較例1~3の有機EL素子は、駆動電圧および外部量子効率が必ずしも良好とはいえず、さらに、素子寿命が著しく短いため、ディスプレイまたは照明等に用いるための十分な特性を得ることができなかった。
【符号の説明】
【0159】
1 有機EL素子
2 基板
3 第2電極(陰極)
4 電子注入層
5 電子輸送層
6 発光層
7 正孔輸送層
8 正孔注入層
9 第1電極(陽極)