(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】めっき用樹脂組成物及びめっき成形品
(51)【国際特許分類】
C25D 5/56 20060101AFI20241007BHJP
C08F 279/02 20060101ALI20241007BHJP
C08K 5/521 20060101ALI20241007BHJP
C08L 25/12 20060101ALI20241007BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20241007BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
C25D5/56 B
C08F279/02
C08K5/521
C08L25/12
C08L51/04
C08L69/00
(21)【出願番号】P 2020119185
(22)【出願日】2020-07-10
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】399034220
【氏名又は名称】日本エイアンドエル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】浅野 宏徳
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-193157(JP,A)
【文献】特開2003-147154(JP,A)
【文献】特開2006-083242(JP,A)
【文献】国際公開第2009/084638(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2003-0095537(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 279/02
C08K 5/521
C08L 25/12
51/04
69/00
C23C 18/00 - 20/08
C25D 5/00 - 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)と、ゴム質重合体(b-1)と芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体から選ばれる少なくとも1種を含む単量体成分(b-2)とがグラフト重合して成るグラフト共重合体(B)と、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体を含む単量体成分を重合して成る共重合体(C)、及びリン酸エステル(D)を含む樹脂組成物であって、ポリカーボネート樹脂(A)が40~70質量%、ゴム質重合体(b-1)が8~20質量%、リン酸エステル(D)が0質量%を超えて
3.5質量%
以下であることを特徴とする((A)+(B)+(C)+(D)の合計を100質量%とする)めっき用樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のリン酸エステル(D)が0.5質量%以上
3.5質量%
以下であることを特徴とするめっき用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のめっき用樹脂組成物からなる成形品に、めっき膜とを有するめっき成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、流動性及びめっき密着強度のバランスに優れるめっき用樹脂組成物及びめっき成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂とゴム強化スチレン系樹脂からなる組成物(以下、PCアロイ樹脂と記す)は、耐衝撃性、耐熱性、成形加工性に優れることから、車両用部品、家庭電化製品、事務機器部品をはじめとする多様な用途に使用されている。特に、車両用部品等は大型化の傾向が見られ、形状がより複雑なデザインになる傾向にある。また、車両重量の軽量化のために、成形品肉厚は薄肉化に設計される方向にあるため、成形加工性、耐衝撃性、及び耐熱性などの性能に優れている材料が求められる。その選択肢の一つとしてPCアロイ樹脂が採用されるケースが見られる。
【0003】
加えて、これら用途において、意匠的に金属調外観を有し、かつ軽量化を求められる部品にはPCアロイ樹脂に装飾用のめっきを施して使用する例が多い。PCアロイ樹脂のめっき方法としては、脱脂、化学エッチング、中和、触媒付与、活性化、無電解めっき、酸活性、電気めっきなどの工程からなる、いわゆるキャタリスト-アクセレーター法や、このうち、無電解めっき浴を省略したダイレクトめっき法等が用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1では耐衝撃性、成形加工性、めっき性能が良好なめっき基材用の難燃性樹脂組成物が開示されている。しかしながら、成形加工性、サーマルサイクル性は良好であるものの、リン酸エステル系難燃剤を多量に添加する必要があるため、樹脂組成物の耐熱性は低下する傾向にある。
【0005】
また、特許文献2では、めっき性、耐衝撃性を損なうことなく、流動性が改良された熱可塑性樹脂組成物が提案されているが、大型や薄肉の車両用部品等に求められる耐熱性、流動性、めっき密着強度のバランスは未だ満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、耐熱性、流動性及びめっき密着強度のバランスに優れるめっき用樹脂組成物及びめっき成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、ポリカーボネート樹脂、グラフト共重合体、共重合体及びリン酸エステルを特定量含有することで、上記課題を解消できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の[1]~[3]で構成される。
[1] ポリカーボネート樹脂(A)と、ゴム質重合体(b-1)と芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体から選ばれる少なくとも1種を含む単量体成分(b-2)とがグラフト重合して成るグラフト共重合体(B)と、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体を含む単量体成分を重合して成る共重合体(C)、及びリン酸エステル(D)を含む樹脂組成物であって、ポリカーボネート樹脂(A)が40~70質量%、ゴム質重合体(b-1)が8~20質量%、リン酸エステル(D)が0質量%を超えて5質量%未満であることを特徴とする((A)+(B)+(C)+(D)の合計を100質量%とする)めっき用樹脂組成物。
[2] [1]に記載のリン酸エステル(D)が0.5質量%以上4質量%未満であることを特徴とするめっき用樹脂組成物。
[3] [1]又は[2]に記載のめっき用樹脂組成物からなる成形品に、めっき膜とを有するめっき成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、耐熱性、流動性及びめっき密着強度のバランスに優れるめっき用樹脂組成物及びめっき成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明につき詳細に説明する。
【0013】
本発明のめっき用樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)、グラフト共重合体(B)、共重合体(C)、及びリン酸エステル(D)を含有するものである。
【0014】
ポリカーボネート樹脂(A)としては、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、;“ビスフェノールA”から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0015】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4-ヒドロキシジフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-第3ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルファイド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルファイドのようなジヒドロキシジアリールスルファイド類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0016】
これらは単独又は2種類以上混合して使用されるが、これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシジフェニル類等を混合しても良い。
【0017】
さらに、上記のジヒドロキシジアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用しても良い。3価以上のフェノールとしてはフロログルシノール、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプテン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプタン、1,3,5-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)ベンゾール、1,1,1-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)エタン及び2,2-ビス-[4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル]プロパン等が挙げられる。なお、これらポリカーボネート樹脂を製造するに際し、ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量は、通常10000~80000であり、好ましくは15000~60000である。分子量調整剤、触媒等を必要に応じて使用することが出来る。なお、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定することができる。
【0018】
グラフト共重合体(B)は、ゴム質重合体(b-1)に、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体から選ばれる少なくとも1種を含む単量体成分(b-2)がグラフト重合して得られるものである。
【0019】
グラフト共重合体(B)を構成するゴム質重合体(b-1)としては特に制限はなく、公知の重合方法により得られる、ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)等の共役ジエン系ゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-非共役ジエン(エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等)ゴム等のエチレン-プロピレン系ゴム、ポリブチルアクリレートゴム等のアクリル系ゴム、シリコーン系ゴムを1種又は2種以上用いることができる。上記アクリル系ゴムには、多層構造を有するゴムも含まれる。多層構造を有するゴムとしては、例えば、共役ジエン系ゴム/アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム/アクリル系ゴム、硬質重合体(ガラス転移温度が20℃以上)/アクリル系ゴム等が挙げられる。硬質重合体(ガラス転移温度が20℃以上)としては、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体から選ばれる1種以上を含有する単量体を重合してなる重合体等が挙げられる。上記の中でも、ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、共役ジエン系ゴム/アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム/アクリル系ゴム、硬質重合体(ガラス転移温度が20℃以上)/アクリル系ゴムが好ましく、ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴムがより好ましい。硬質重合体のガラス転移温度は、FOXの式より算出することができる。
【0020】
ゴム質重合体(b-1)の質量平均粒子径に特に制限はないが、耐衝撃性、めっき密着強度の点から、0.1~2.0μmが好ましく、0.15~1.0μmがより好ましい。また、質量平均粒子径が0.05~0.3μmのゴム質重合体を凝集肥大化させることで調整することもできる。
【0021】
単量体成分(b-2)の芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、ブロムスチレン等が挙げられ、1種又は2種以上用いることができる。
【0022】
単量体成分(b-2)のシアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等が挙げられ、1種又は2種以上用いることができる。
【0023】
単量体成分(b-2)の(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸4-t-ブチルフェニル、(メタ)アクリル酸(ジ)ブロモフェニル、(メタ)アクリル酸クロルフェニル等が挙げられ、1種又は2種以上用いることができる。
【0024】
単量体成分(b-2)には、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合可能なその他の単量体が含まれていてもよく、マレイミド系単量体、アミド系単量体、不飽和カルボン酸系単量体、多官能性単量体等が挙げられ、1種又は2種以上用いることができる。
【0025】
マレイミド系単量体としては、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。
【0026】
アミド系単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド等が挙げられる。
【0027】
不飽和カルボン酸系単量体としては、(メタ)アクリル酸、2-エチルアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸等が挙げられる。
【0028】
多官能性単量体としては、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジシクロペンタジエンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0029】
ゴム質重合体(b-1)にグラフト重合される、上記単量体の組成比率に特に制限はないが、芳香族ビニル系単量体50~90質量%、シアン化ビニル系単量体10~50質量%及び共重合可能な他の単量体0~40質量%の組成比率、芳香族ビニル系単量体0~50質量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体50~100質量%及び共重合可能な他のビニル系単量体0~50質量%の組成比率、芳香族ビニル系単量体20~70質量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体20~70質量%、シアン化ビニル系単量体10~60質量%及び共重合可能な他の単量体0~50質量%の組成比率であることが好ましい(ゴム質重合体にグラフト重合される単量体合計量を100質量%とする)。
【0030】
グラフト共重合体(B)中のゴム質重合体(b-1)の含有量は、耐衝撃性、流動性などの物性バランスから、20~80質量%が好ましく、40~70質量%がより好ましい。
【0031】
グラフト共重合体(B)のグラフト率及びアセトン可溶分の還元粘度に特に制限はないが、耐衝撃性、流動性などの物性バランスの観点から、グラフト率は20~150%であることが好ましく、30~100%がより好ましく、36~75%が特に好ましい。アセトン可溶分の還元粘度は、0.2~1.5dl/gであることが好ましく、0.3~1.0dl/gであることがより好ましい。
【0032】
上記グラフト率及びアセトン可溶分の還元粘度は、下記により求めることができる。
【0033】
分別方法
三角フラスコにグラフト共重合体(B)を約2g、アセトンを60ml投入し、24時間浸漬させた。その後、遠心分離器を用いて15,000rpmで30分間、遠心分離することで可溶部と不溶部に分離する。不溶分は、真空乾燥により常温で一昼夜乾燥させることで得られる。可溶分は、アセトン可溶部をメタノールに沈殿させ、真空乾燥により常温で一昼夜乾燥させることで得られる。
グラフト率
グラフト率(%)=(X―Y)/Y×100
X:真空乾燥後のアセトン不溶分量(g)
Y:グラフト共重合体中のゴム質重合体量(g)
アセトン可溶分の還元粘度(dl/g)
アセトン可溶分をN,N-ジメチルホルムアミドに溶解し、0.4g/100mlの濃度の溶液とした後、キャノンフェンスケ型粘度管を用い30℃で測定した流下時間より還元粘度を求める。
【0034】
上述のようにして得られたグラフト共重合体(B)には、通常、ゴム質重合体(b-1)に単量体成分(b-2)を含む単量体成分がグラフトしたグラフト化重合体(B1成分)が主として含有される他、ゴム質重合体(b-1)にグラフトしていない単量体成分(b-2)を含む単量体成分が共重合された共重合体(B2成分と呼ぶ)が含まれる。そのため、本発明ではグラフト共重合体(B)に含まれるB2成分が、共重合体(C)を構成する単量体成分を満たす場合、共重合体(C)を含有していることを意味する。
【0035】
共重合体(C)は、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体を含む単量体成分を重合して得られるものである。
【0036】
共重合体(C)を構成する芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、ブロムスチレン等が挙げられ、1種又は2種以上用いることができる。
【0037】
共重合体(C)を構成するシアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等が挙げられ、1種又は2種以上用いることができる。
【0038】
さらに、共重合体(C)には、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体と共重合可能なその他の単量体が含まれていてもよく、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、マレイミド系単量体、アミド系単量体、不飽和カルボン酸系単量体、多官能性単量体等が挙げられ、1種又は2種以上用いることができる。これら単量体としては、上述の単量体成分(b-2)と同様のものを用いることができる。
【0039】
共重合体(C)を構成する単量体の組成比率に特に制限はないが、芳香族ビニル系単量体50~90質量%、シアン化ビニル系単量体10~50質量%及び共重合可能な他の単量体0~40質量%の組成比率、芳香族ビニル系単量体20~70質量%、シアン化ビニル系単量体10~60質量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体20~70質量%及び共重合可能な他の単量体0~50質量%の組成比率が挙げられる。中でも、共重合体(C)を構成するシアン化ビニル系単量体の含有量が25~40質量%であることがめっき析出性の点で好ましい。
【0040】
共重合体(C)の還元粘度に特に制限はないが、耐衝撃性、流動性などの物性バランスの観点から0.2~1.5dl/gであることが好ましく、0.3~1.0dl/gであることがより好ましい。
【0041】
上記還元粘度は、下記式により求めることができる。
【0042】
共重合体(C)を、N,N-ジメチルホルムアミドに溶解し、0.4g/100mlの濃度の溶液とした後、キャノンフェンスケ型粘度管を用い30℃で測定した流下時間より還元粘度を求める。
【0043】
上記めっき用樹脂組成物を構成するグラフト共重合体(B)、共重合体(C)の重合方法には特に制限はなく、例えば乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法及びこれらを組み合わせた方法により製造することができる。
【0044】
リン酸エステル(D)は、リン酸とアルコール化合物またはフェノール化合物とのエステル化合物をいう。
【0045】
リン酸エステルの具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2-エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2-アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル-2-アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル-2-メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチル、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ-2,6-キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6-キシリル)ホスフェートならびにこれらの縮合物などの縮合リン酸エステルを挙げることができる。縮合リン酸エステルとしては、レゾルシノールビス(ジ-2,6-キシリル)ホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)などが挙げられる。レゾルシノールビス(ジ-2,6-キシリル)ホスフェートの市販品としては、PX-200(大八化学工業(株)製)、アデカスタブFP-500((株)ADEKA製)が挙げられる。レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)の市販品としては、CR-733S(大八化学工業(株)製)、ファイロールフレックスRDP(ICL JAPAN(株)製)が挙げられる。ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)の市販品としては、CR-741(大八化学工業(株)製)、レオフォスBAPP(味の素ファインテクノ(株)製)、アデカスタブFP-600((株)ADEKA製)が挙げられる。中でも、耐加水分解性や、耐熱性、低揮発性に優れる点から、レゾルシノールビス(ジ-2,6-キシリル)ホスフェートやビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)が好ましく用いられる。
【0046】
本発明のめっき用樹脂組成物を構成するポリカーボネート樹脂(A)の含有量は、40~70質量%である必要があり、42~68質量%であることが好ましく、45~65質量%であることがより好ましい((A)+(B)+(C)+(D)の合計を100質量%とする)。上記範囲に調整することで耐衝撃性、流動性及びめっき密着強度のバランスを向上させることができる。
【0047】
本発明のめっき用樹脂組成物を構成するゴム質重合体(b-1)の含有量は、8~20質量%である必要があり、9~18質量%であることが好ましく、10~15質量%であることがより好ましい((A)+(B)+(C)+(D)の合計を100質量%とする)。上記範囲に調整することでめっき密着強度を向上させることができる。
【0048】
本発明のめっき用樹脂組成物を構成するリン酸エステル(D)の含有量は、0質量%を超えて5質量%未満である必要があり、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上がさらに好ましい。また、4質量%未満であることが好ましく、3.5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい((A)+(B)+(C)+(D)の合計を100質量%とする)。上記範囲に調整することで流動性、耐熱性、めっき密着強度のバランスを向上させることができる。
【0049】
本発明のめっき用樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂を配合することもできる。このような他の熱可塑性樹脂として、例えば、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ乳酸樹脂等のポリエステル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド系樹脂等を使用することができる。
【0050】
さらに、本発明のめっき用樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ヒンダードアミン系の光安定剤;ヒンダードフェノール系、含硫黄有機化合物系、含リン有機化合物系等の酸化防止剤;フェノール系、アクリレート系等の熱安定剤;ベンゾエート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系等の紫外線吸収剤;有機ニッケル系、高級脂肪酸アミド類等の滑剤;ポリブロモフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノール-A、臭素化エポキシオリゴマー、臭素化等の含ハロゲン系化合物、三酸化アンチモン等の難燃剤・難燃助剤;臭気マスキング剤;カーボンブラック、酸化チタン等の顔料;染料等を添加することもできる。さらに、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスウール、炭素繊維、金属繊維等の補強剤や充填剤を添加することもできる。
【0051】
本発明のめっき用樹脂組成物は、上述の成分を溶融混練することで得ることができる。溶融混練するためには、例えばロール、バンバリーミキサー、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー等公知の混練機を用いることができる。
【0052】
このようにして得られためっき用樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形、射出圧縮成形、ブロー成形等により成形され、得られた成形品は、公知のめっき方法、例えば通常のABS樹脂のめっき条件と同様の条件にてめっき加工することができる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、実施例中にて示す部及び%は質量に基づくものである。
また、各実施例、比較例での各種物性の測定は次の方法による。
【0054】
シャルピー衝撃強度(NC)
各実施例及び比較例で得られたペレットを用い、ISO試験方法294に準拠して各種試験片を成形し、ISO試験方法179に準拠し、4mm厚みで、ノッチ付きシャルピー衝撃値を測定した。単位:kJ/m2
【0055】
メルトボリュームフローレイト(MVR)
各実施例及び比較例で得られたペレットを用い、ISO試験方法1133に準拠して、220℃、98.07N荷重の条件でメルトボリュームフローレイトを測定した。単位: cm3/10分
【0056】
荷重たわみ温度(HDT)
各実施例及び比較例で得られたペレットを用い、ISO試験方法294に準拠して各種試験片を成形し、ISO75に準拠し、荷重1.8MPaの荷重たわみ温度を測定した。単位:℃
【0057】
めっき密着強度
各実施例及び比較例で得られたペレットを射出成形機にてめっき用平板成形品(55mm×90mm×3mm)を成形し、以下の方法にてめっきを施した後、析出しためっき膜の密着強度を、JIS H-8630に基づき、めっき成形品の金属膜に、基材に達するように1cm間隔の切傷を入れ、金属膜を垂直な方向に引き剥がす時の応力(N/cm)で評価した。
<めっき処理工程>
上記のめっき用平板を用いて、下記の手順で実施した。
脱脂(界面活性剤水溶液、55℃×3分間)、エッチング(硫酸-無水クロム酸混液、68℃×10分間)、水洗、中和(塩酸水溶液、室温×2分間)、水洗、キャタリスト(塩化パラジウム-塩化第一スズ-塩酸水溶液、35℃×5分間)、水洗、アクセレーター(硫酸水溶液、40℃×5分間)、水洗、無電解メッキ(硫酸ニッケル-次亜燐酸ソーダ-クエン酸ソーダを主体とするニッケルメッキ液、50℃×8分間)、水洗、電気銅めっき(室温×2時間、電流密度3A/dm2、膜厚50μm)、水洗、乾燥。
【0058】
ポリカーボネート樹脂(A)
ホスゲンとビスフェノールAからなる粘度平均分子量20,500のポリカーボネート樹脂。
【0059】
グラフト共重合体(B)の製造
ガラスリアクターに、凝集肥大化スチレン-ブタジエンゴム(b-1)ラテックス(スチレン5質量%、ブタジエン95質量%、質量平均粒子径440nm)を固形分換算で60質量部仕込み、撹拌を開始させ、窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し65℃に到達したところで、ブドウ糖0.06質量部、無水ピロリン酸ナトリウム0.03質量部及び硫酸第1鉄0.001質量部を脱イオン水10質量部に溶解した水溶液を添加した後に、70℃に昇温した。その後、アクリロニトリル10質量部、スチレン30質量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.3部、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.1質量部の混合液及びオレイン酸カリウム1.0質量部(固形分換算)を脱イオン水20質量部に溶解した乳化剤水溶液を4時間かけて連続的に滴下した。滴下後、3時間保持してグラフト共重合体ラテックスを得た。その後、塩析、脱水、乾燥し、グラフト共重合体(B)のパウダーを得た。得られたグラフト共重合体(B)のグラフト率は42%、アセトン可溶部の還元粘度は0.28dl/gであった。
また、上記凝集肥大化スチレン-ブタジエンゴムラテックスの質量平均粒子径は下記のように求めた。
四酸化オスミウム(OsO4)で染色し、乾燥後に透過型電子顕微鏡で写真撮影した。画像解析処理装置(装置名:旭化成(株)製IP-1000PC)を用いて800個のゴム粒子の面積を計測し、その円相当径(直径)を求め、質量平均粒子径を算出した。
【0060】
共重合体(C)の製造
公知の塊状重合法により、スチレン75質量部、アクリロニトリル25質量部からなる共重合体(C)を得た。上述の方法により、得られた共重合体(C)の還元粘度は0.50dl/gであった。
【0061】
リン酸エステル(D)
大八化学工業株式会社製、芳香族縮合リン酸エステル:PX-200
【0062】
実施例1及び比較例1~2
ポリカーボネート樹脂(A)、グラフト共重合体(B)、共重合体(C)及びリン酸エステル(D)を表1記載の配合割合で混合した後、シリンダー温度250℃に設定したφ26mmの2軸押出機にて主スクリュー回転数400rpm、吐出量20kg/hrの条件で溶融混練し、ペレット化した。また、このペレットを用いて射出成形機(シリンダー温度250℃、金型温度60℃)にて物性測定用試験片及びめっき用平板を成形した。次いで、その試験片及び平板を用いて物性ならびにめっき密着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
表1から明らかなように、本発明のめっき用樹脂組成物を使用した実施例1は、耐熱性、流動性及びめっき密着強度のバランスに優れるものが得られた。
比較例1は、リン酸エステル(D)の含有量が本願規定範囲の下限未満であることから、流動性とめっき密着強度に劣るものであった。
比較例2は、リン酸エステル(D)の含有量が本願規定範囲の上限を超えることから、耐熱性とめっき密着強度に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
上記のとおり、本発明のめっき用樹脂組成物は、耐熱性、流動性及びめっき密着強度のバランスに優れることから、例えば車両内装用部品、車両外装用部品等、めっきされる部品の多彩な用途に使用することができる。