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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】プレス装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 24/02 20060101AFI20241007BHJP
   B30B 15/02 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
B21D24/02 D
B30B15/02 A
B21D24/02 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020142610
(22)【出願日】2020-08-26
(65)【公開番号】P2022038228
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】竹腰 健太郎
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特許第4820564(JP,B2)
【文献】特許第4722558(JP,B2)
【文献】特許第5937024(JP,B2)
【文献】特許第3308463(JP,B2)
【文献】特開2019-206014(JP,A)
【文献】特許第5278733(JP,B2)
【文献】特許第5445173(JP,B2)
【文献】特許第5440838(JP,B2)
【文献】特許第4838047(JP,B2)
【文献】特許第5951591(JP,B2)
【文献】特開2014-205158(JP,A)
【文献】特開2014-151361(JP,A)
【文献】特開2010-253540(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0175141(US,A1)
【文献】特許第6002285(JP,B1)
【文献】特許第5296415(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 24/02
B30B 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金型と、
前記第1金型に対向し、当該第1金型と共に被成形品のプレス成形を行う第2金型と、
前記第1金型を前記第2金型に対して可動させる油圧クッション装置と、
前記油圧クッション装置による可動位置を検出する位置検出部と、
前記油圧クッション装置による荷重を検出する荷重検出部と、
前記油圧クッション装置を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記荷重検出部の検出荷重が所定値を超えると、前記荷重検出部による検出荷重と前記油圧クッション装置の動作速度に基づくフィードフィードフォワード制御を開始すると共に、当該開始からの実行期間を定めて、プレス成型速度に基づいて油圧シリンダの油量を調節するサーボバルブの開度を制御して前記油圧クッション装置による荷重を調整する調整制御を行い、
前記調整制御の実行期間は、当該調整制御を行わなかった場合にオーバーシュートが生じた期間の計測値に基づいて定め、
前記調整制御は、前記フィードフィードフォワード制御に基づく前記サーボバルブの開度に所定の倍率を乗じた前記サーボバルブの開度を加算する制御であるプレス装置。
【請求項2】
前記調整制御は、前記油圧クッション装置による荷重を低下させる制御である
請求項1に記載のプレス装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記荷重検出部の検出荷重が所定値に達するまでは前記油圧クッション装置の位置制御を行い、前記所定値に達すると前記フィードフィードフォワード制御を開始する
請求項1又は2に記載のプレス装置。
【請求項4】
前記油圧クッション装置は、前記第1金型の前記第2金型に対する対向側とは反対側に設けられている
請求項1から3のいずれか一項に記載のプレス装置。
【請求項5】
プレス成形速度と目標荷重を設定する設定入力部を備え、
前記制御部は、前記プレス成形速度と前記目標荷重とに基づいて前記調整制御の実行期間及び荷重調整量を決定する
請求項1から4のいずれか一項に記載のプレス装置。
【請求項6】
第1金型と、前記第1金型に対向し、当該第1金型と共に被成形品のプレス成形を行う第2金型と、前記第1金型を前記第2金型に対して可動させる油圧クッション装置と、前記油圧クッション装置による可動位置を検出する位置検出部と、前記油圧クッション装置による荷重を検出する荷重検出部と、を備えるプレス装置の制御方法であって、
前記荷重検出部の検出荷重が所定値を超えると、前記荷重検出部による検出荷重と前記油圧クッション装置の動作速度に基づくフィードフィードフォワード制御を開始すると共に、当該開始からの実行期間を定めて、プレス成型速度に基づいて油圧シリンダの油量を調節するサーボバルブの開度を制御して前記油圧クッション装置による荷重を調整する調整制御を行い、
前記調整制御の実行期間は、当該調整制御を行わなかった場合にオーバーシュートが生じた期間の計測値に基づいて定め、
前記調整制御は、前記フィードフィードフォワード制御に基づく前記サーボバルブの開度に所定の倍率を乗じた前記サーボバルブの開度を加算する制御であるプレス装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス装置に油圧クッション装置を搭載すると、低コストで大荷重を発生させることができるため、広く利用されている。
油圧クッション装置は、プレス加工動作中に、スライドに対して所要の力を加える必要があることから、一般的に圧力制御(荷重制御)が用いられている。
しかしながら、油圧クッション装置を位置制御から荷重制御に切り替える際に、オーバーシュート荷重が発生する問題がある。このオーバーシュート荷重が大きくなると、最終製品に欠肉等の不具合が発生する。
【0003】
このため、従来のプレス装置では、記憶部に成形速度及び目標クッション荷重と油圧のバルブ開度とを対応づけるマップを設けて、マップを参照して適正なバルブ開度でフィードフォワード制御を行い、動作中の荷重の安定化を図っていた(例えば、特許文献1参照)。
また、他のプレス装置では、スライドによる荷重の増加を検出すると、位置制御操作量を漸次減少させるとともに、荷重制御操作量を漸次増加させることで、制御切り替え時のオーバーシュート荷重の抑制を図っていた(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-151332号公報
【文献】特開2014-151361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術は、いずれも、オーバーシュート荷重の抑制が十分に達成できているとは言えず、改善の余地があった。
【0006】
本発明は、オーバーシュート荷重の抑制を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るプレス装置は、
第1金型と、
前記第1金型に対向し、当該第1金型と共に被成形品のプレス成形を行う第2金型と、
前記第1金型を前記第2金型に対して可動させる油圧クッション装置と、
前記油圧クッション装置による可動位置を検出する位置検出部と、
前記油圧クッション装置による荷重を検出する荷重検出部と、
前記油圧クッション装置を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記荷重検出部の検出荷重が所定値を超えると、前記荷重検出部による検出荷重と前記油圧クッション装置の動作速度に基づくフィードフィードフォワード制御を開始すると共に、当該開始からの実行期間を定めて、プレス成型速度に基づいて油圧シリンダの油量を調節するサーボバルブの開度を制御して前記油圧クッション装置による荷重を調整する調整制御を行い、
前記調整制御の実行期間は、当該調整制御を行わなかった場合にオーバーシュートが生じた期間の計測値に基づいて定め、
前記調整制御は、前記フィードフィードフォワード制御に基づく前記サーボバルブの開度に所定の倍率を乗じた前記サーボバルブの開度を加算する制御である、という構成となっている。
【0008】
本発明に係るプレス装置の制御方法は、
第1金型と、前記第1金型に対向し、当該第1金型と共に被成形品のプレス成形を行う第2金型と、前記第1金型を前記第2金型に対して可動させる油圧クッション装置と、前記油圧クッション装置による可動位置を検出する位置検出部と、前記油圧クッション装置による荷重を検出する荷重検出部と、を備えるプレス装置の制御方法であって、
前記荷重検出部の検出荷重が所定値を超えると、前記荷重検出部による検出荷重と前記油圧クッション装置の動作速度に基づくフィードフィードフォワード制御を開始すると共に、当該開始からの実行期間を定めて、プレス成型速度に基づいて油圧シリンダの油量を調節するサーボバルブの開度を制御して前記油圧クッション装置による荷重を調整する調整制御を行い、
前記調整制御の実行期間は、当該調整制御を行わなかった場合にオーバーシュートが生じた期間の計測値に基づいて定め、
前記調整制御は、前記フィードフィードフォワード制御に基づく前記サーボバルブの開度に所定の倍率を乗じた前記サーボバルブの開度を加算する制御である、という構成となっている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、オーバーシュート荷重を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るプレス装置の正面視断面図である。
図2図1のII‐II線に沿ったプレス装置の断面図である。
図3】プレス装置の制御に係る機能ブロック図である。
図4】プレス動作時のプレス装置の制御ブロック図である。
図5】調整制御を実施しない場合のスライド位置、クッション位置、クッション荷重、クッションバルブ開度の変化を示すタイミングチャートである。
図6】調整制御を実施する場合のスライド位置、クッション位置、クッション荷重、クッションバルブ開度の変化を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態にかかるプレス装置1について説明する。
図1はプレス装置1の正面視断面図、図2図1のII‐II線に沿った断面図である。なお、以下の説明において、水平面内の一の方向をX軸方向、水平面内においてX軸に垂直な方向をY軸方向、鉛直方向をZ軸方向とする。
【0012】
[プレス装置の機械的構成]
図1及び図2に示すように、プレス装置1は、フレーム2と、ベッド3と、を備える。フレーム2及びベッド3は、鉛直方向に延びる4本のタイロッド4により結合されている。
【0013】
フレーム2には、エキセン軸5が取り付けられている。
エキセン軸5は、X軸方向に延在する。エキセン軸5の軸方向中心部には、偏心部5aが設けられている。エキセン軸5において、偏心部5aの両端には、一対の同軸部5b,5bが設けられている。
一対の同軸部5b,5bは、フレーム2に回転自在に支持されている。
偏心部5a及び同軸部5bは、ともに、円柱形状を有する。偏心部5aの径は、同軸部5bの径よりも大きくされている。エキセン軸5の軸線方向から見た場合に、偏心部5aの中心軸は、同軸部5bの中心軸に対して偏心している。エキセン軸5には、減速機等を介してサーボモータ等の駆動機構(不図示)が連結されている。エキセン軸5は、この駆動機構により、回転駆動される。
【0014】
エキセン軸5の偏心部5aには、スライド7が取り付けられている。スライド7は、ベッド3に対向して配置されている。スライド7には、摺動室7hが設けられている。摺動室7hは、エキセン軸5の軸方向(X軸方向)と直交する水平方向(Y軸方向)に、スライド7を貫通する。スライド7は、スライドガイドにより、上下方向(Z軸方向)への移動が案内される。
【0015】
スライド7の摺動室7hには、ヨーク6が嵌められている。ヨーク6は、摺動室7hにおいて、Y軸方向に摺動自在とされている。ヨーク6には、エキセン軸5の偏心部5aが嵌められ、エキセン軸5の軸方向回りに回転自在とされている。
【0016】
このような構成により、駆動機構を作動させると、エキセン軸5が回転する。エキセン軸5の回転に伴って、ヨーク6がY軸方向の動きとZ軸方向の動きとを組み合わせた動作を行う。このヨーク6の動作に伴い、スライド7が、スライドガイドに案内されて上下方向に移動する。このようにして、スライド7は、ベッド3に対して可動とされている。
【0017】
ベッド3の上部には、油圧シリンダ9を備える油圧クッション装置8が設けられている。
油圧シリンダ9は、枠体10と、ピストン12とを備える。枠体10の内部には、油室11が設けられる。ピストン12は、油室11の内側に、上下方向に移動可能な状態で収容されている。油室11は、ピストン12により、上側油室11aと下側油室11bとに区切られている。
【0018】
プレス装置1は、さらに、サーボバルブ13a,13bを備える。サーボバルブ13aは、配管14aを介して上側油室11aに連結されている。サーボバルブ13aは、上側油室11a内の油の量を調整する。サーボバルブ13bは、配管14bを介して下側油室11bに連結され、下側油室11b内の油の量を調整する。なお、以下の説明で、サーボバルブ13a及びサーボバルブ13bを、サーボバルブ13と称することがある。
【0019】
ピストン12には、鉛直方向上向きに延びるシリンダロッド15が取り付けられている。シリンダロッド15の、ピストン12と反対側の端部には、下金型16(第1金型)が取り付けられている。下金型16は、上金型17に対して上下に対向して配置され、下金型16は、上金型17に対する対向側とは反対側から油圧クッション装置8に支持されている。すなわち、下金型16は、ピストン12の動作により、鉛直上下方向に可動できる状態でベッド3上に設けられている。
【0020】
スライド7の下部には、上金型17(第2金型)が設けられている。プレス装置1は、スライド7をベッド3に対して降下させて、上金型17と下金型16でワークW(被成形品)を挟み込み、さらに下金型16に対しピストン12で鉛直方向の荷重を調整することで、ワークWにかかる荷重を調整して、ワークWに対して所望の成形加工を行う。
【0021】
[プレス装置の制御系]
次に、図3を参照して、プレス装置の制御に係る機能ブロックについて説明する。
【0022】
プレス装置1は、制御部21を備える。この制御部21は、油圧シリンダ9への油の供給量を制御する。より具体的には、制御部21は、サーボバルブ13に開度指令値Iを与え、サーボバルブ13の開度をXとして、油圧シリンダ9の上側油室11a及び下側油室11bへの油の供給量を制御する。
【0023】
また、制御部21は、積分器22を有する。積分器22は、油圧シリンダ9によって加えられる荷重の指令値と実測値との差分を積分して出力する。
【0024】
プレス装置1は、さらに荷重検出部23、速度検出部24及び位置検出部25を備える。
【0025】
荷重検出部23は、油圧シリンダ9によって加えられる荷重であるシリンダ荷重を検出する。このシリンダ荷重として、例えば、下側油室11bでの油圧と上側油室11aでの油圧との差分である差圧を検出してよい。
シリンダ荷重として、センサ類で得られた検出値をそのまま用いてもよく、当該検出値に基づいて演算された値を用いてもよい。
なお、油圧シリンダ9によって加えられる荷重を示すものであれば、シリンダ荷重としてどのような値を検出してもよい。
【0026】
速度検出部24は、油圧シリンダ9の速度であるシリンダ速度を検出する。シリンダ速度として、例えば、枠体10に対するピストン12の相対速度を検出してよい。
シリンダ速度として、センサ類で得られた検出値をそのまま用いてもよく、当該検出値に基づいて演算された値を用いてもよい。
なお、油圧シリンダ9の速度を示すものであれば、シリンダ速度としてどのような値を検出してもよく、油圧シリンダ9の絶対速度でもよいし、スライド7に対する相対速度でもよい。
また、油圧シリンダ9の位置検出を行い、経時的な位置変化からシリンダ速度を求めてもよい。
【0027】
位置検出部25は、油圧シリンダ9の位置であるシリンダ位置を検出する。このシリンダ位置として、例えば、枠体10に対するピストン12の相対位置を検出してよい。言い換えれば、位置検出部25は、シリンダロッド15が枠体10からどの位置まで出ているかを示すシリンダロッド位置を検出してよい。
シリンダ位置として、センサ類で得られた検出値をそのまま用いてもよく、当該検出値に基づいて演算された値を用いてもよい。
なお、油圧シリンダ9の位置を示すものであれば、シリンダ位置としてどのような値を検出してもよく、油圧シリンダ9の絶対位置などを採用してもよいし、スライド7に対する相対位置でもよい。
【0028】
プレス装置1は、さらに記憶部26を備える。記憶部26は、第1マップ27及び第2マップ28を記憶する。第1マップ27は、シリンダ荷重、シリンダ速度及びシリンダ位置と、バルブ開度(すなわち、油圧シリンダ9への油の供給量)とを対応付ける。この第1マップ27は、プレス運転の前段階においてあらかじめ準備されるデータの集合である。
プレス装置1において、制御部21は、シリンダ荷重の目標値及び荷重検出部23により検出されたシリンダ荷重に基づくフィードフォワード制御であって、シリンダ荷重の目標値及び速度検出部24により検出されたシリンダ速度に対応して記憶部26の第1マップ27から読み出された油圧シリンダ9への油の供給量に基づいてフィードフォワード制御を行うことにより、油圧クッション装置8の油圧シリンダ9を制御する。なお、油圧シリンダ9への油の供給量を示すものであれば、バルブ開度に代えて、他の数値を使用してもよい。また、油圧シリンダ9への油の供給量を第1マップ27から読み出す際には、速度検出部24により検出されたシリンダ速度の実測値に代えて、シリンダ速度を制御するためのシリンダ速度の指令値に対応した油の供給量を読み出してもよい。
【0029】
第2マップ28は、シリンダ荷重の目標値(目標荷重)及びプレス成形速度と、後述する調整制御における調整制御の実行期間及び荷重調整量(バルブ開度)とを対応付ける。この第2マップ28は、プレス運転の前段階においてあらかじめ準備されるデータの集合である。
制御部21は、入力インターフェイスである設定入力部29が接続されている。シリンダ荷重の目標値とプレス成形速度は、予め、設定入力部29からその数値が設定入力される。なお、プレス成形速度とは、ワークWに荷重を加えた状態でスライド7を下降させる際の下降速度を示す。
【0030】
プレス装置1によるプレス加工を開始する際に、予め、制御部21は、油圧クッション装置8の油圧シリンダ9に対して、シリンダ位置が加工開始位置となるように位置制御を実行する。そして、スライド7の下降により、油圧クッション装置8に対して検出されたシリンダ荷重が、予め定められた開始荷重に達すると、前述したフィードフィードフォワード制御及びシリンダ荷重の目標値となるようにフィードバック制御を開始する。このような位置制御から荷重制御に切り替えが行われると、切替時にオーバーシュート荷重が発生する。調整制御は、これを抑制するために、位置制御から荷重制御への切り替えから調整制御の実行期間が経過するまでの間、荷重調整量に基づいてシリンダ荷重を調整する。
つまり、制御部21は、設定入力部29から設定されたシリンダ荷重の目標値とプレス成形速度の設定値に基づいて、記憶部26の第2マップ28から読み出された調整制御の実行期間と荷重調整量に基づいて調整制御を行うことにより、油圧シリンダ9を制御する。
【0031】
[プレス装置1のプレス動作]
次に、図4を参照して、プレス装置1のプレス動作時において行われる油圧クッション装置8の制御を説明する。図4は、プレス動作時のプレス装置1の制御ブロック図である。
【0032】
図4に示される制御系では、シリンダ差圧指令値R(目標値)が入力され、油圧シリンダ9から、シリンダ差圧値PLとシリンダ変位値Y(シリンダロッド位置を示す)とが出力される。この制御系について、入力から出力まで順を追って説明する。なお、以下の説明で用いられる加算器、減算器、乗算器は、独立したハードウェアである必要はなく、例えば1個のマイクロプロセッサ等により実現することができる。また、以下の説明では、シリンダ荷重を示す値としてシリンダ差圧値を用い、シリンダ速度を示す値として枠体10に対するピストン12の相対速度である動作速度を用い、シリンダ位置を示す値としてシリンダロッド位置を用いている。ただし、シリンダ荷重、シリンダ速度、シリンダ位置として、上述で説明したような他の値を用いて制御が行われてもよい。
【0033】
まず、減算器31により、シリンダ差圧指令値Rと、シリンダ差圧値PLとの差分が計算される。次に、計算された差分値に基づいてPI制御が行われる。具体的には、乗算器32により、差分値に、比例ゲインKPが乗算されるとともに、積分器22により、差分値が積分され、その後、積分ゲインKIが乗算される。そして、乗算器32の出力と積分器22の出力とが加算器33により加算される。
【0034】
ここで、積分器22の出力は、制御部21を介して第1マップ27にも出力される。制御部21は、シリンダロッド位置、指令荷重値及び動作速度に基づいて、第1マップ27からバルブ開度を読み出す。すなわち、制御部21は、シリンダロッド位置、指令荷重値及び動作速度を第1マップ27に対して照会し、各条件に対応するバルブ開度を読み出す。
加算器33の出力と第1マップ27から読み出されたバルブ開度とは、加算器34により加算される。
【0035】
さらに、制御部21は、予め設定されたシリンダ荷重の目標値及びプレス成形速度に基づいて、第2マップ28から調整制御の実行期間及び荷重調整量(バルブ開度)を読み出す。
加算器34の出力と第2マップ28から読み出された荷重調整量(バルブ開度)とは、加算器35により加算される。
加算器35の出力は、乗算器36によりKa倍され、開度指令値Iとなる。
【0036】
サーボバルブ13は、開度指令値Iに基づいてバルブ開度Xを調整して、油圧シリンダ9に供給される油の量を調整する。サーボバルブ13は、二次遅れ系の伝達特性を有する。開度指令値I及びバルブ開度Xをそれぞれサーボバルブ13の入力及び出力であるとした場合、サーボバルブ13の伝達関数は、図4に示す通りである。
【0037】
油圧シリンダ9を制御対象として見た場合、油圧シリンダ9は、バルブ開度Xを入力とし、シリンダ差圧PL及びシリンダ変位Yを出力とするブロックとみなすことができる。シリンダ差圧は、下金型16がワークWに対して加える荷重であるシリンダ荷重に相当する量である。シリンダ変位は、シリンダにおけるピストンの変位を示す量である。
【0038】
以上説明したプレス装置1の制御において、定常状態では、シリンダ差圧指令Rとシリンダ差圧の実測値PLとは一致するため、乗算器32及び積分器22の出力は0となり、マップ27から読み出されるバルブ開度がそのまま乗算器36でKa倍されてサーボバルブの開度指令値Iとなる。
【0039】
なお、第2マップ28からの荷重調整量(バルブ開度)の読み出しと加算器35による加算は、位置制御から荷重制御に切り替えられてから第2マップ28から読み出された調整制御の実行期間が経過するまでの間だけ実行される。従って、調整制御の実行期間が経過すると、図4に示す制御系から第2マップ28と加算器35を除いた制御が実行される。
【0040】
次に、プレス装置1によるプレス加工におけるスライド7及び油圧クッション装置8の動作について図5及び図6に基づいて説明する。図5及び図6は、スライド位置、クッション位置、クッション荷重、クッションバルブ開度の変化を示すタイミングチャートであって、図5は調整制御を実施しない場合を示し、図6は調整制御を実施する場合を示す。
【0041】
プレス加工において、スライド7は、上死点位置から所定の下降速度で下降する。そして、上金型17が下金型16上のワークWに達する前に、スライド7は、予め設定されたプレス成形速度まで速度を落として下死点まで下降を続ける。下死点到達後は、スライド7は、上昇に転じて、上死点まで上昇する。
【0042】
油圧クッション装置8の動作制御は、スライド7のストローク動作と同期的に行われる。
油圧クッション装置8の油圧シリンダ9は、スライド7が上死点に位置する時点で、位置制御により所定の開始高さまでシリンダロッド15及び下金型16を上昇させた状態で待機している。
そして、スライド7の下降によりシリンダ荷重が予め定められた開始荷重Ltまで上昇したことが検出されると、位置制御から荷重制御に切り替えられる。
荷重制御は、前述したフィードフォワード制御及びフィードバック制御が実施される。図5において、符号bはフィードバック制御による制御量を示し、符号bはフィードフォワード制御による制御量を示している。これにより、油圧シリンダ9は、スライド7と共に下降する上金型17に対して退避する下降方向に下金型16を可動させ、シリンダ荷重が目標値Lsを維持するように制御される。
この荷重制御の実施期間は、予め決められており、スライド7が下死点に到達するより幾分早いタイミングで位置制御に切り替えられる。この位置制御により、油圧シリンダ9は、下金型16を下限位置までより高速で下降させて待機する。
そして、スライド7が上昇に転じて、その上昇速度を低速化させるタイミングで、油圧シリンダ9は、下金型16の上昇を開始し、当初の開始高さに復帰させる。
【0043】
上記油圧クッション装置8の動作制御において、位置制御から荷重制御に切り替えられると、図5に示すように、シリンダ荷重にオーバーシュート荷重Vが発生する。プレス装置1は、このオーバーシュート荷重Vを油圧クッション装置8の調整制御により抑制している。
調整制御では、オーバーシュート荷重Vの発生期間に合わせて一時的に油圧シリンダ9による下降方向に操作量を増やすことにより、荷重増加を抑制する。即ち、調整制御では、図6に示すように、実行期間t1の間、荷重調整量bに基づいて弁開度を調整する制御を油圧シリンダ9に対して実施する。
【0044】
実行期間t1、荷重調整量bの決定方法について説明する。
まず、荷重調整量bをゼロ(調整制御を行わない)状態でワークWに対するプレス成形を実行する。このときに位置制御から荷重制御に切り替えられたタイミングで発生したオーバーシュート荷重の大きさと時間を計測する。
次に、荷重調整量bをフィードフォワード制御による操作量(バルブ開度)の10%程度の大きさに設定し、実行期間t1は、計測されたオーバーシュート荷重の発生時間相当を設定する。この状態で再度、ワークWに対するプレス成形を実行し、荷重調整量bがゼロの場合のオーバーシュート荷重の特性と比較する。オーバーシュート荷重が許容値以上発生していれば、荷重調整量bにさらにフィードフォワード制御による操作量の10%程度を加算する。
また、実行期間t1が足りておらず、実行期間t1の経過後にオーバーシュート荷重が発生している場合には、10%程度、実行期間t1を延長する。
これらをオーバーシュート荷重が許容値以下に低減されるまで繰り返すことで実行期間t1、荷重調整量bを決定する。
【0045】
また、前述した第2マップ28では、シリンダ荷重の目標値(目標荷重)及びプレス成形速度に対応付けて調整制御の実行期間及び荷重調整量(バルブ開度)を定めている。このため、シリンダ荷重の目標値(目標荷重)を一定の数値範囲で区分し、当該各区分について、プレス成形速度について一定の数値間隔ごとに変化させて、それぞれ、上記手法によって、適正な実行期間t1、荷重調整量bを決定することで、第2マップ28を作成する。
【0046】
[発明の実施形態の技術的効果]
上記プレス装置1は、油圧クッション装置8を制御する制御部21が、荷重制御であるフィードバック制御及びフィードフィードフォワード制御を開始すると共に、当該開始からの実行期間t1を定めて、油圧クッション装置8の油圧シリンダ9による荷重を荷重調整量bに基づいて調整する調整制御を行っている。
このため、調整制御により、荷重制御を開始する際に発生するオーバーシュート荷重を効果的に抑制することが可能となる。
また、実行期間t1を定めて調整制御を行っているので、目標荷重を維持するために本来的に行われるフィードバック制御及びフィードフィードフォワード制御に対する調整制御の影響を最小限に押さえることが可能となる。
【0047】
また、上記調整制御は、油圧クッション装置8による荷重を低下させる制御であるため、シリンダ荷重を増加させるオーバーシュート荷重を効果的に抑制することが可能となる。
【0048】
また、制御部21は、荷重検出部23の検出荷重が開始荷重Ltに達するまでは油圧クッション装置8の位置制御を行い、開始荷重Ltに達すると荷重制御であるフィードバック制御及びフィードフィードフォワード制御に切り替えている。
このため、下金型16を適正な位置に待機した状態でプレス成形を開始することができ、成形品質の均一化を図ることが可能となる。
【0049】
また、油圧クッション装置8は、下金型16の上金型17に対する対向側とは反対側に設けられているので、下金型16の上金型17とが接近してプレス動作を行う場合に、下金型16を可動させることでクッション荷重を容易且つ適正に制御することが可能となる。
【0050】
また、油圧クッション装置8は、プレス成形速度と目標荷重を設定する設定入力部29を備え、制御部21は、プレス成形速度と目標荷重とに基づいて第2マップ28により調整制御の実行期間及び荷重調整量を決定することができるので、任意のプレス成形速度及び任意の目標荷重を設定して、オーバーシュート荷重を効果的に抑制することが可能となる。
【0051】
[その他]
制御部21により行われる調整制御について、実行期間t1の間、油圧シリンダ9の操作量に荷重調整量bを加える場合を例示したが、油圧シリンダ9の操作量を適正に調整可能であればこれに限定されない。例えば、荷重調整量bとして、油圧シリンダ9の操作量に乗算する倍率値を設定しても良い。
また、上記実施形態では、制御部21がフィードバック制御とフィードフォワード制御の双方を行うことを例示したが、これに限定されず、制御部21がフィードバック制御を伴わずにフィードフォワード制御を実行しても良い。
【符号の説明】
【0052】
1 プレス装置
2 フレーム
3 ベッド
7 スライド
8 油圧クッション装置
9 油圧シリンダ
12 ピストン
13,13a,13b サーボバルブ
15 シリンダロッド
16 下金型(第1金型)
17 上金型(第2金型)
21 制御部
23 荷重検出部
24 速度検出部
25 位置検出部
26 記憶部
27 第1マップ
28 第2マップ
29 設定入力部
Ls 目標値
Lt 開始荷重
PL シリンダ差圧値
R シリンダ差圧指令値
V オーバーシュート荷重
W ワーク(被成形品)
荷重調整量
t1 実行期間
図1
図2
図3
図4
図5
図6