(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20241007BHJP
【FI】
F04D19/04 D
F04D19/04 E
(21)【出願番号】P 2020152347
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】三輪田 透
(72)【発明者】
【氏名】高井 慶行
(72)【発明者】
【氏名】坂口 祐幸
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/188732(WO,A1)
【文献】特開2015-086856(JP,A)
【文献】特開2015-031153(JP,A)
【文献】特表平07-508082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
F04B 37/14
F04C 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口と排気口を有するケーシングと、
前記ケーシングの内側に、回転自在に支持されたロータ軸と、
前記ロータ軸と共に回転可能な複数段の回転翼と、
前記ケーシングに対して固定され、かつ、前記複数段の回転翼間に配置される複数段の固定翼と、
前記複数段の固定翼を所定間隔に保持する冷却側ステータ及び加熱側ステータと、
を備えた真空ポンプであって、
前記冷却側ステータと前記加熱側ステータとの間を断熱する所定幅の隙間の開口部を、前記ロータ軸の軸方向において前記回転翼の外周面と対向しない位置に設け、
前記開口部は、前記冷却側ステータによって冷却される冷却範囲内に位置する前記複数段の回転翼のうち最下段の回転翼と前記加熱側ステータによって加熱される加熱範囲内に位置する前記複数段の回転翼のうち最上段の回転翼との間の中央位置に設けられ、
前記開口部の前記軸方向における幅寸法は、0.1mm~2.0mmに設定されている、
ことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記隙間の形状は、前記軸方向と垂直な径方向の外側に向かって水平に延びる第1の隙間部分と、前記第1の隙間部分の外端から更に前記径方向の外側、かつ、前記軸方向の下流側に沿って延びる第2の隙間部分を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記隙間の形状は、前記軸方向の下流側に沿って延びる第3の隙間部分を有する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記隙間の形状は、前記軸方向と垂直な径方向の外側、かつ、前記軸方向の上流側に延びる第4の隙間部分を有する、ことを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記隙間の形状は、前記開口部の上部に、前記開口部よりも前記ケーシングの内側に向かって突き出している軒部を有する、ことを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空ポンプに関するものであり、特に、真空ポンプ内にガスが固化して生成される堆積物(通称「デポ」という)等が隙間に堆積する量を減らすことができる真空ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、被処理基板であるウエハから半導体素子を形成するプロセスにおいて、ウエハを、高真空に保持された半導体製造装置の処理室内で処理して、製品の半導体素子を作る方法が取られている。ウエハを真空室で加工処理する半導体製造装置では、高真空度を達成して保持するためにターボ分子ポンプ部及びネジ溝ポンプ部などを備えた真空ポンプが用いられている。
【0003】
ターボ分子ポンプ部は、ケーシングの内部に、薄い金属製の回転可能な回転翼とケーシングに固定された固定翼を有している。そして、回転翼を、例えば数百m/秒の高速で運転させ、吸気口側から入って来る加工処理に用いたプロセスガスをポンプ内部で圧縮して排気口側から排気するようにしている。
【0004】
ところで、真空ポンプの吸気口側より取り込まれたプロセスガスの分子は、吸気された直後は高温で、真空ポンプ内で回転翼の回転に伴う排気口側への移動に伴う圧縮過程で冷却される。プロセスガスが冷却されると固体化し、固体化された副生成物が固定翼や外筒(ケーシング)内面等に付着されてデポとして堆積する。副生成物としては、塩素系や硫化フッ素系のガスが一般的である。これらのガスは、真空度が低くなり、圧力が高くなるほど昇華温度が高くなり、真空ポンプ内部にガスが固化して堆積しやすくなる。反応生成物が真空ポンプ内部に堆積すると、反応生成物の流路を狭めて真空ポンプの圧縮性能、排気性能が低下する虞がある。一方、回転翼や固定翼にアルミニウムやステンレス材等を使用している気体移送部では、余り高い温度になると、回転翼や固定翼の強度が低下して運転中に破断を起す虞がある。また、真空ポンプ内に設けられた電装品やロータを回転させる電動モータは、温度が高くなると所望の性能を発揮しない虞等がある。そのため、真空ポンプは所定の温度を維持するように温度制御が必要となる。
【0005】
そこで、反応生成物が堆積するのを抑制する真空ポンプとして、ステータの周囲に冷却装置又は加熱装置を設けてガス流路内の温度を制御し、ガス流路内のガスが固化することなく移送できるようにした構造も知られている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、真空ポンプ内の吸入されたガスは、真空度が増して圧力が高くなるほど昇華温度が高くなり、真空ポンプ内部にガスが固化して堆積しやすくなるという特性がある。一方、回転翼や固定翼等で構成される気体移送部は、余り高い温度になると強度が低下する問題や、真空ポンプ内の電装品や電動モータの性能に悪い影響を与えることがある。したがって、真空ポンプ内の電装品や電動モータの性能に悪い影響を与えずに、また、気体移送部の強度を低下させることなく、真空ポンプを正常に運転させながら真空ポンプ内部におけるガスの固化を抑制できるように温度制御を行うことが好ましい。
【0007】
そこで、例えば
図9及び
図10に示す真空ポンプ10のように、冷却を必要とする冷却範囲内に配置される冷却側ステータ17Aを有した上段群気体移送部11と加熱を必要とする加熱範囲内に配置される加熱側ステータ17Bを有した下段気体移送部12とに分け、冷却側ステータ17Aと加熱側ステータ17Bとの間に隙間15を設けて、冷却側ステータ17Aと加熱側ステータ17Bをそれぞれ独立化させ、上段群気体移送部11の温度と下段気体移送部12の温度が互いに影響し合わないようにしている。なお、冷却側ステータ17Aと加熱側ステータ17Bとの間は、固定翼スペーサ14をボルト19で押さえて位置決めをしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
冷却側ステータ17Aと加熱側ステータ17Bとの間を、ボルト19で押さえて位置決めする構造にあっては、ボルト19を締め付ける力の大きさや、締め付けによるOリング18の変形量、又は固定翼スペーサ14の種類等によって、冷却側ステータ17Aと加熱側ステータ17Bとの間の隙間15の大きさ(軸方向における寸法)が変わる。そして、隙間15が、回転翼16の半径方向周面と対向した状態で位置決めされた場合、回転翼16が回転するときに、回転翼16により、接線方向及び下流方向に移送されたプロセスガスの分子は、隙間15内に向かい易くなる(ガス分子の数が増える)。そして、隙間15内に入ったガスは、冷却側ステータ17Aによって冷却され、隙間15内で固体化し、副生成物として堆積する。この堆積物は、隙間15の幅を狭めて断熱効果を低下させ、ポンプ内温度分布を変化させる。したがって、定期的に真空ポンプ10を分解する等して、隙間15に溜まった堆積物を取り除く、メンテナンス作業が必要になる。このメンテナンス作業により、生産性が悪いという問題点があった。
【0010】
そこで、断熱用に設けられた隙間に向かうガスの流れ(ガス分子の数)を少なくして、隙間に堆積する副生成物の量を減らし、メンテナンス作業を必要とする間隔を延ばして生産性を向上させることができる真空ポンプを提供するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1に記載の発明は、吸気口と排気口を有するケーシングと、前記ケーシングの内側に、回転自在に支持されたロータ軸と、前記ロータ軸と共に回転可能な複数段の回転翼と、前記ケーシングに対して固定され、かつ、前記複数段の回転翼間に配置される複数段の固定翼と、前記複数段の固定翼を所定間隔に保持する冷却側ステータ及び加熱側ステータと、を備えた真空ポンプであって、前記冷却側ステータと前記加熱側ステータとの間を断熱する所定幅の隙間の開口部を、前記ロータ軸の軸方向において前記回転翼の外周面と対向しない位置に設け、前記開口部は、前記冷却側ステータによって冷却される冷却範囲内に位置する前記複数段の回転翼のうち最下段の回転翼と前記加熱側ステータによって加熱される加熱範囲内に位置する前記複数段の回転翼のうち最上段の回転翼との間の中央位置に設けられ、前記開口部の前記軸方向における幅寸法は、0.1mm~2.0mmに設定されている、真空ポンプを提供する。
【0012】
この構成によれば、冷却側ステータと加熱側ステータとの間を断熱するための所定幅の隙間の開口部を、ロータ軸の軸方向において回転翼の外周面と対向しない位置に設けている。したがって、回転翼の回転による遠心力で、ガスの一部がステータの内周面に向かって飛ばされても、隙間の開口部は、回転翼の外周面とは対向しないずれた位置に設けているので、隙間の開口に入り込む量も極めて少なく、隙間内に堆積する堆積物の量を減らすことができる。これにより、メンテナンス作業を必要とする間隔を延ばすことができ、生産性の向上に寄与する。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成において、前記隙間の形状は、前記軸方向と垂直な径方向の外側に向かって水平に延びる第1の隙間部分と、前記第1の隙間部分の外端から更に前記径方向の外側、かつ、前記軸方向の下流側に沿って延びる第2の隙間部分を有する、真空ポンプを提供する。
【0014】
この構成によれば、開口部から第1の隙間部分に入り込んだプロセスガスが、更に奥へ進もうとしたとき、次の第2の隙間部分の壁に一度ぶつかるので、その壁が、隙間内に向かう流れの抵抗となる。これにより、開口部から隙間内に入り込むプロセスガスの量を減らして、プロセスガスで生成される堆積物の量を更に少なくすることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成において、前記隙間の形状は、前記軸方向の下流側に沿って延びる第3の隙間部分を有する、真空ポンプを提供する。
【0016】
この構成によれば、開口部からプロセスガスが隙間内に入り込もうしたとき、開口部を入って直ぐの正面の処に、下側に向かう第3の隙間部分が壁となってぶつかり、プロセスガスが隙間内に向かう流れの抵抗となる。これにより、開口部から隙間内に入り込むプロセスガスの量を減らして、プロセスガスで生成される堆積物の量を更に少なくすることができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3までのいずれか1項に記載の構成において、前記隙間の形状は、前記軸方向と垂直な径方向の外側、かつ、前記軸方向の上流側に延びる第4の隙間部分を有する、真空ポンプを提供する。
【0018】
この構成によれば、隙間の縦断面の形状が、軸方向と垂直な径方向の外側、かつ、軸方向の上流側に延びる第4の隙間部分を有している。したがって、開口部から隙間内に入ったプロセスガスは、一度第4の隙間部分とぶつかり、プロセスガスが隙間内に向かう流れの抵抗となる。これにより、開口部から隙間内に入り込むプロセスガスの量を減らし、プロセスガスで生成される堆積物の量を更に少なくすることができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4までのいずれか1項に記載の構成において、前記隙間の形状は、前記開口部の上部に、前記開口部よりも前記ケーシングの内側に向かって突き出している軒部を有する、真空ポンプを提供する。
【0020】
この構成によれば、隙間の縦断面の形状が、ケーシングを軸方向に縦断面したとき、ケーシング内周面に形成される隙間の開口部の上部に、開口部よりもケーシングの内側に向かって突き出している軒部を設けているので、上流側から流れて来るプロセスガスは軒部に流れが制御されて、隙間の開口部の方向には進まずに、開口部とは異なる下流側に向かわせることができる。これにより、開口部から隙間内に入り込むプロセスガスの量を減らして、プロセスガスで生成される堆積物の量を更に少なくすることができる。
【発明の効果】
【0021】
発明によれば、断熱用に設けられた隙間内に入り込むプロセスガスの量を減らして、プロセスガスで生成される堆積物が、隙間内に堆積する量を減らすことができる。これにより、隙間内の堆積物を取り除くメンテナンス作業を必要とする間隔を延ばして、生産性を向上させることができる。
また、隙間の断熱効果も向上して、真空ポンプ内に設けられた電装品やロータを回転させる電動モータの性能に悪い影響をあたえることのない範囲、及び、ロータやステータの強度低下に影響を与えない範囲で、温度を細かく制御することが可能になる。
また、プロセスガスの固化を制御しながら真空ポンプの正常運転を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施の形態に係る真空ポンプの実施例として示すターボ分子ポンプの縦断面図である。
【
図2】同上ターボ分子ポンプにおけるアンプ回路の一例を示す図である。
【
図3】同上ターボ分子ポンプにおけるアンプ回路で検出した電流指令値が検出値より大きい場合の一制御例を示すタイムチャートである。
【
図4】同上ターボ分子ポンプにおけるアンプ回路で検出した電流指令値が検出値より小さい場合の一制御例を示すタイムチャートである。
【
図5】
図1に示すターボ分子ポンプの一部拡大断面図で、(a)は
図1のA部の拡大図、(b)は隙間の形状を説明するための更に一部を拡大した断面図である。
【
図6】本発明の一変形例を示し、(a)は
図1のA部に相当する部分拡大図、(b)は隙間の形状を説明するための更に(a)の一部を拡大した断面図である。
【
図7】本発明の他の変形例を示し、(a)は
図1のA部に相当する部分拡大図、(b)は隙間の形状を説明するための更に(a)の一部を拡大した断面図である。
【
図8】本発明の更に他の変形例を示し、(a)は
図1のA部に相当する部分拡大図、(b)は隙間の形状を説明するための更に(a)の一部を拡大した断面図である。
【
図9】従来における真空ポンプの一例として示すターボ分子ポンプの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、断熱用に設けられた隙間に向かうガスの流れ(ガス分子の数)を少なくして、隙間に堆積する副生成物の量を減らし、メンテナンス作業を必要とする間隔を延ばして生産性を向上させることができる真空ポンプを提供するという目的を達成するために、吸気口と排気口を有するケーシングと、前記ケーシングの内側に、回転自在に支持されたロータ軸と、前記ロータ軸と共に回転可能な複数段の回転翼と、前記ケーシングに対して固定され、かつ、前記複数段の回転翼間に配置される複数段の固定翼と、前記複数段の固定翼を所定間隔に保持する加熱側ステータ及び冷却側ステータと、を備えた真空ポンプであって、前記加熱側ステータと前記冷却側ステータとの間を断熱する所定幅の隙間の開口部を、前記ロータ軸の軸方向において前記回転翼の外周面と対向しない位置に設け、前記開口部は、前記冷却側ステータによって冷却される冷却範囲内に位置する前記複数段の回転翼のうち最下段の回転翼と前記加熱側ステータによって加熱される加熱範囲内に位置する前記複数段の回転翼のうち最上段の回転翼との間の中央位置に設けられ、前記開口部の前記軸方向における幅寸法は、0.1mm~2.0mmに設定されている、ことにより実現した。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施形態に係る一実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例において、構成要素の数、数値、量、範囲等に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも構わない。
【0025】
また、構成要素等の形状、位置関係に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含む。
【0026】
また、図面は、特徴を分かり易くするために特徴的な部分を拡大する等して誇張する場合があり、構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、断面図では、構成要素の断面構造を分かり易くするために、一部の構成要素のハッチングを省略することがある。
【0027】
また、以下の説明において、上下や左右等の方向を示す表現は、絶対的なものではなく、本発明のターボ分子ポンプの各部が描かれている姿勢である場合に適切であるが、その姿勢が変化した場合には姿勢の変化に応じて変更して解釈されるべきものである。また、実施例の説明の全体を通じて同じ要素には同じ符号を付している。
【0028】
図1は本発明に係る真空ポンプとしてのターボ分子ポンプ100の一実施例を示すもので、
図1はその縦断面図である。
【0029】
図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状のハウジングとしての外筒127の上端に吸気口101が形成されている。外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。
【0030】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104の近接に、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応されて4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、図示せぬ制御装置に送るように構成されている。
【0031】
この制御装置においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、
図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0032】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0033】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置に送られるように構成されている。
【0034】
そして、制御装置において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0035】
このように、制御装置は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0036】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0037】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0038】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。
【0039】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0040】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0041】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102Eが垂下されている。この円筒部102Eの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0042】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0043】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0044】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0045】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102Eの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102Eの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0046】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0047】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0048】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0049】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0050】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0051】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0052】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を
図2に示す。
【0053】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0054】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0055】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0056】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0057】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0058】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0059】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0060】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0061】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0062】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、
図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0063】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、
図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0064】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0065】
ところで、ケーシングとしての外筒127内においては、冷却を必要とする冷却範囲内に配置した冷却側ステータ110A(固定翼123a~123f)及び冷却側回転翼102A(回転翼102a~102g)を有する上段群気体移送部と、加熱を必要とする加熱範囲内に配置した加熱側ステータ110B(固定翼123h~123j)及び冷却側回転翼102B(回転翼102h~102k)を有する下段群気体移送部とでなる。そして、冷却側ステータ110Aと加熱側ステータ110Bの間にOリング112を配設して、冷却側ステータ110Aと加熱側ステータ110Bの間を所定量離して隙間114を設けることにより、冷却側ステータ110Aと加熱側ステータ110Bをそれぞれ独立化させ、冷却側ステータ110Aの温度と加熱側ステータ110Bの温度が互いに影響し合わないようにしている。なお、冷却側ステータ110Aと加熱側ステータ110Bとの間は、固定翼スペーサ125をボルト115で押さえて位置決めをしている。また、
図1中の符号152は、冷却側ステータ110A側の温度を検出する温度センサ、符号153は、加熱側ステータ110B側の温度を検出する温度センサ、符号154は加熱側ステータ110Bを加熱するためのヒータ、符号155は冷却側ステータ110Aを冷却する冷却管である。
【0066】
一方、冷却側ステータ110Aと加熱側ステータ110Bの間の隙間114の開口部114Aと近接する上段群気体移送部の冷却側の回転翼102gと下段群気体移送部の加熱側の回転翼102hとの間は、冷却側の回転翼102gの外周面と加熱側の回転翼102hの外周面のどちらも、隙間114の開口部114Aと真っ正面から向き合わないように、回転翼102gと回転翼102hの位置をそれぞれ開口部114Aに対して軸方向、すなわち上下方向にずらし、回転翼102gと回転翼102hとの間に距離Sの隙間を設けている。その距離Sは、冷却側ステータ110Aと加熱側ステータ110Bとの間を、ボルト115で押さえて位置決めした際、冷却側ステータ110A又は加熱側ステータ110Bのいずれか一方あるいは両方が軸方向に移動しても、隙間114の開口部114Aと真っ正面から向き合わないだけの大きさを確保するのが好ましい。
また、開口部114Aの好ましい位置としては、回転翼102gと回転翼102hによるプロセスガスの分子の移動を考慮し、回転翼102gと回転翼102hの軸方向距離の略中央が考えられる。ただし、開口部114Aの位置は略中央に限定されず、例えば、回転翼102gによるプロセスガスの分子の移動を重視し、略中央位置から下流側にあってもよい。
【0067】
また、隙間114における開口部114Aの幅の大きさ(軸方向の寸法)は、プロセスガスの分子が他の分子に衝突して進路を変えられることなく進むことのできる距離の平均値である平均自由行程や、断熱効果等を考慮して、分子ができるだけ入り込みにくい所定幅の大きさに設定される。例えば、隙間114および開口部114Aの大きさとしては、0.1mmから2.0mmであり、より好ましくは、0.5mmから1.0mmが考えられる。
【0068】
なお、本実施例の構造では、
図5に
図1のA部を拡大して示しているように、ケーシングである外筒127を軸方向に縦断面したときにおける、隙間114の縦断面の形状は、開口部114Aから軸方向と垂直な径方向の外側に向かって水平に延びる第1の隙間部分としての水平隙間部分114aと、水平隙間部分114aの外側端から更に径方向の外側、かつ、軸方向の下流側に沿って斜め下側に延びる傾斜した第2の隙間部分としての傾斜隙間部分14bとを一体に有して、開口部114Aから逆L字状に形成された部分を有する構造とした。以下の説明では、軸方向の上流側とは吸気口101側で、軸方向の下流側とは排気口133側とする。また、軸方向とは、ロータ軸113の軸線方向で、径方向とは軸線に対して垂直な方向、すなわち外筒127の径方向である。
【0069】
この実施例のように構成された真空ポンプ10では、冷却側ステータ110Aと加熱側ステータ110Bとの間を断熱している所定幅の隙間114の開口部14Aを、回転体103の軸方向において回転翼102(回転翼102gと回転翼102h)の外周面と対向しない、軸方向にずれた位置に設けている。したがって、回転翼102の回転による遠心力で、プロセスガスの一部が、円筒部102Eの冷却側ステータ110Aと加熱側ステータ110Bの内周面に向かって飛ばされても、隙間114の開口部114Aに入り込むプロセスガスの量も極めて少なく、隙間114内に堆積する堆積物の量を減らすことができる。これにより、隙間114内に堆積した堆積物等を除去するためのメンテナンス作業を必要とする間隔を延ばすことができ、生産性の向上に寄与することになる。
【0070】
なお、
図1及び
図5に示す実施例では、ケーシングである外筒127を軸方向に断面したときの、隙間114の縦断面の形状を、開口部114Aから外側に向かって水平に延びる水平隙間部分114aと、水平隙間部分114aの外端から更に径方向の外側、かつ、軸方向の下流側に沿って斜めに延びる傾斜した傾斜隙間部分114bとを一体に設けて、概略逆L字状に形成してなる構造を示した。
【0071】
この
図1及び
図5に示す構造では、開口部114Aから水平隙間部分114a内に入ると、次に水平隙間部分114aの外側端から外側に向かって斜め下側に折れ曲がって延びる傾斜した傾斜隙間部分114bがあるので、開口部114Aから水平隙間部分114aに入って、次に傾斜隙間部分114bに流れ込むとき、傾斜隙間部分114bが壁となってぶつかり、プロセスガスが更に内側に向かう流れの抵抗となる。これにより、開口部114Aから隙間114内に入り込むプロセスガスの量を減らし、プロセスガスで生成される堆積物の量を更に少なくすることができる。
【0072】
なお、隙間114の構造は、
図1及び
図5に示す構造に限ることなく、例えば、
図6、
図7、
図8に示すような構造にしてもよい。また、傾斜隙間部分114bは、水平隙間部分114aの外端から更に径方向の外側、かつ、軸方向の上流側に沿って斜め上側に向かって延びる隙間部分としてもよい。
【0073】
図6に示す隙間114の構造では、ケーシングである外筒127を軸方向に断面したときの、隙間114の縦断面の形状を、開口部114Aを入ると直ぐに軸方向の下流側に向かう第3の隙間部分としての垂直隙間部分114cと、垂直隙間部分114cの下端から径方向の外側に向かって水平に延びる水平隙間部分114aを一体に設けて、開口部114Aから略I字状に形成している部分を有する構造にしている。
【0074】
この
図6の構造では、隙間114の断面形状を略I字状に形成することにより、開口部114Aからプロセスガスが隙間114内に入り込もうとしたとき、開口部114Aを入って直ぐの正面の処に、軸方向の下流側に向かう垂直隙間部分114cの壁が存在するので、その壁が、プロセスガスが内側に向かう流れの抵抗となる。これにより、開口部114Aから隙間114内に入り込むプロセスガスの量を減らし、同時に、堆積物ができる量を更に少なくすることができる。なお、垂直隙間部分114cは、開口部114Aを入ると直ぐに軸方向の下流側に向かう構造にしているが、反対に、開口部114Aを入ると直ぐに軸方向の上流側に向かう構造にしてもよい。
【0075】
図7に示す隙間114の構造では、ケーシングである外筒127を軸方向に断面したときの、隙間114の縦断面の形状を、開口部114Aを入ると直ぐに、開口部11Aから軸方向と垂直な径方向の外側、かつ、軸方向の上流側に向かって斜めに延びる第4の隙間部分としての傾斜隙間部分114dと、傾斜隙間部分114dの外端から軸方向の下流側に向かって斜めに延びる第5の隙間部分としての傾斜隙間部分114eとを一体に設けて、開口部114Aから略逆V字状に形成している部分を有する構造にしている。
【0076】
この
図7の構造では、開口部114Aから傾斜隙間部分114d内に入ると直ぐに、外側斜め上方に昇るので、開口部114Aから傾斜隙間部分114d内に入ったプロセスガスは、外側斜め上方に傾斜している傾斜隙間部分114dが壁となってぶつかり、プロセスガスが内側に向かう流れの抵抗となる。これにより、開口部114Aから隙間114内に入り込むプロセスガスの量を減らし、プロセスガスで生成される堆積物の量を更に少なくすることができる。
【0077】
なお、
図7の構成では、開口部114Aから軸方向と垂直な径方向の外側、かつ、軸方向の上流に向かって斜めに延びる傾斜隙間部分114dと、傾斜隙間部分114dの外端から軸方向の下流側に向かって斜めに延びる傾斜隙間部分114eとを一体に設けて、開口部114Aから略逆V字状に形成している部分を有する構造にしているが、開口部114Aから上流側に傾斜して延びる傾斜隙間部分114d、又は、開口部114Aから下流側に向かって傾斜して延びる傾斜隙間部分114eのいずれか一方を設けた構造にしてもよいものである。
【0078】
図8に示す隙間114の構造では、ケーシングである外筒127を軸方向に断面したとき、外筒127の内周面に形成される隙間114における開口部114Aの上部に、開口部114Aよりも外筒127の内側に向かって突き出している軒部116を設けた構造にしている。すなわち、軒部116は、開口部114Aとの間に段差を作り、上流側から流れて来るプロセスガスが開口部114Aの方向へは向かわずに、真っ直ぐ下流側へ進むように流れを制御することができる。また、隙間114は、開口部114Aを入ると直ぐに下流側へ向かう第3の隙間部分としての垂直隙間部分114cと、垂直隙間部分114cの下端から軸方向と垂直な径方向の外側に向かって水平に延びる水平隙間部分114aとを一体に設けて、開口部114Aから略I字状に形成している部分を有する構造にしている。
【0079】
図8の構造では、隙間114の断面形状を略I字状に形成することにより、開口部114Aからプロセスガスが隙間114内に入り込もうとしたとき、開口部114Aを入って直ぐの正面の処に、下側に向かう垂直隙間部分114cの壁が存在するので、その壁にプロセスガスがぶつかり、プロセスガスが内側に向かう流れの抵抗となる。これにより、開口部114Aから隙間114内に入り込むプロセスガスの量を減らし、プロセスガスで生成される堆積物の量を更に少なくすることができる。また、軒部116の下面エッジ部分(軒先下面)116aと開口部114Aの下側エッジ部分114gには、それぞれR面取り加工を施している。R面取り加工は、下面エッジ部分116a又は下側エッジ部分114gに、外筒127内で回転翼102にぶつかって跳ね返って来たプロセスガスの一部がぶつかったとき、そのぶつかったプロセスガスの一部を開口部114A内とは異なるロータ軸113の方向に向け、開口部114A内に入り込まないようにするものである。
【0080】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を成すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0081】
100 :ターボ分子ポンプ
101 :吸気口
102 :回転翼
102A :冷却側回転翼
102B :冷却側回転翼
102E :円筒部
102a :回転翼
102b :回転翼
102c :回転翼
102d :回転翼
102e :回転翼
102f :回転翼
102g :回転翼
103 :回転体
104 :上側径方向電磁石
105 :下側径方向電磁石
106A :軸方向電磁石
106B :軸方向電磁石
107 :上側径方向センサ
108 :下側径方向センサ
109 :軸方向センサ
110A :冷却側ステータ(上段群気体移送部)
110B :加熱側ステータ(下段群気体移送部)
111 :金属ディスク
112 :Oリング
113 :ロータ軸
114 :隙間
114A :開口部
114a :水平隙間部分(第1の隙間部分)
114b :傾斜隙間部分(第2の隙間部分)
114c :垂直隙間部分(第3の隙間部分)
114d :傾斜隙間部分(第4の隙間部分)
114e :傾斜隙間部分(第5の隙間部分)
114g :下側エッジ部分
115 :ボルト
116 :軒部
116a :下面エッジ部分
120 :保護ベアリング
121 :モータ
122 :ステータコラム
123 :固定翼
123a :固定翼
123b :固定翼
123c :固定翼
123d :固定翼
123e :固定翼
123f :固定翼
123g :固定翼
123h :固定翼
123i :固定翼
125 :固定翼スペーサ
127 :外筒
129 :ベース部
131 :ネジ付スペーサ
131a :ネジ溝
133 :排気口
141 :電子回路部
143 :基板
145 :底蓋
149 :水冷管
150 :アンプ回路
151 :電磁石巻線
152 :温度センサ
153 :温度センサ
154 :電磁石巻線
155 :水冷管
161 :ヒータ
161a :カソード端子
161b :アノード端子
162 :トランジスタ
162a :カソード端子
162b :アノード端子
165 :ダイオード
165a :カソード端子
165b :アノード端子
166 :ダイオード
166a :カソード端子
166b :アノード端子
171 :電源
171a :正極
171b :負極
181 :電流検出回路
191 :アンプ制御回路
191a :ゲート駆動信号
191b :ゲート駆動信号
191c :電流検出信号
S :距離
Tp1 :パルス幅時間
Tp2 :パルス幅時間
Ts :制御サイクル
iL :電磁石電流
iLmax :電流値
iLmin :電流値