(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】立体造形用の光硬化性樹脂組成物、及び、物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/106 20170101AFI20241007BHJP
B29C 64/268 20170101ALI20241007BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20241007BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20241007BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241007BHJP
B29C 64/30 20170101ALI20241007BHJP
B29C 64/188 20170101ALI20241007BHJP
C08F 290/00 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
B29C64/106
B29C64/268
B33Y80/00
B33Y70/00
B33Y10/00
B29C64/30
B29C64/188
C08F290/00
(21)【出願番号】P 2020156653
(22)【出願日】2020-09-17
(62)【分割の表示】P 2020054575の分割
【原出願日】2020-03-25
【審査請求日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2019075945
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】西浦 千晶
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-352781(JP,A)
【文献】特開2005-250438(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170465(WO,A1)
【文献】特開平07-026060(JP,A)
【文献】特開2001-342204(JP,A)
【文献】国際公開第2016/024357(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 10/00 - 99/00
C08C 19/00 - 19/44
C08F 6/00 -246/00
C08F301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多官能ラジカル重合性化合物(A)と、単官能ラジカル重合性化合物(B)と、ポリエチレン粒子(C)と、硬化剤(D)とを有する樹脂組成物であって、
前記ポリエチレン粒子(C)の平均粒子径が50μm以下であり、かつ、粘度平均分子量が150万以上であり、
前記ポリエチレン粒子(C)の含有量は、前記多官能ラジカル重合性化合物(A)と前記単官能ラジカル重合性化合物(B)の合計100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下であり、
前記樹脂組成物の25℃における粘度が、50mPa・s以上30,000mPa・s以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記多官能ラジカル重合性化合物(A)のエチレン性不飽和基当量が700g/eq以上8000g/eq以下であることを特徴とする請求項
1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記多官能ラジカル重合性化合物(A)が、エチレン不飽和基当量が700g/eq以上8000g/eq以下である単一の多官能ラジカル重合性化合物であることを特徴とする請求項1
または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記多官能ラジカル重合性化合物(A)が、複数種類の多官能ラジカル重合性化合物からなる混合物であって、それぞれのエチレン不飽和基当量を重量比で加重平均したエチレン不飽和基当量が700g/eq以上8000g/eq以下であることを特徴とする請求項1
または2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記多官能ラジカル重合性化合物(A)が、エチレン性不飽和基当量が700g/eq以上8000g/eq以下の多官能ラジカル重合性化合物と、エチレン性不飽和基当量が700g/eq未満の多官能ラジカル重合性化合物との混合物であることを特徴とする請求項1
または2に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記多官能ラジカル重合性化合物(A)と、前記単官能ラジカル重合性化合物(B)との合計100質量部に対して、前記多官能ラジカル重合性化合物(A)の含有量が、20質量部以上75質量部以下であることを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記多官能ラジカル重合性化合物(A)と、前記単官能ラジカル重合性化合物(B)との合計100質量部に対して、前記単官能ラジカル重合性化合物(B)の含有量が20質量部以上80質量部以下であることを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記多官能ラジカル重合性化合物(A)と、前記単官能ラジカル重合性化合物(B)との合計100質量部に対して、前記硬化剤(D)の含有量が0.1質量部以上15質量部以下であることを特徴とする請求項1乃至
7のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリエチレン粒子(C)の平均粒子径が1μm以上であることを特徴とする請求項1乃至
8のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリエチレン粒子(C)の平均粒子径が10μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項1乃至
9のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記ポリエチレン粒子(C)の粘度平均分子量が、180万以上であることを特徴とする請求項1乃至
10のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記ポリエチレン粒子(C)の粘度平均分子量が、200万以下であることを特徴とする請求項1乃至
11のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記単官能ラジカル重合性化合物(B)は、アクリルアミド系化合物、(メタ)アクリレート系化合物、マレイミド系化合物、N-ビニル化合物の中から選ばれることを特徴とする請求項1乃至
12のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記多官能ラジカル重合性化合物(A)は、ポリエーテル構造、ポリエステル構造、ポリカーボネート構造のいずれかを有する(メタ)アクリレート系化合物またはウレタン(メタ)アクリレート系化合物であることを特徴とする請求項1乃至
13のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
前記多官能ラジカル重合性化合物(A)がウレタン構造を有することを特徴とする請求項1乃至
14のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
前記硬化剤(D)は、光ラジカル重合開始剤を有することを特徴とする請求項1乃至
15のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項17】
請求項1乃至
16のいずれか一項に記載の樹脂組成物が共重合してなることを特徴とする樹脂硬化物。
【請求項18】
前記樹脂硬化物のシャルピー衝撃強さが1.0kJ/m
2以上であることを特徴とする請求項
17に記載の樹脂硬化物。
【請求項19】
前記樹脂硬化物の比摩耗量が0.5mm
3・N
-1・Km
-1未満であることを特徴とする請求項
17または
18に記載の樹脂硬化物。
【請求項20】
前記樹脂硬化物の摩擦係数が0.7未満であることを特徴とする請求項
17乃至
19のいずれか一項に記載の樹脂硬化物。
【請求項21】
光造形法を用いた物品の製造方法であって、
造形面の上に光硬化性樹脂組成物を配置する工程と、
造形モデルのスライスデータに基づいて、前記光硬化性樹脂組成物に光エネルギーを照射して硬化させる工程と、
を含み、
前記光硬化性樹脂組成物が、請求項1
乃至16のいずれか一項に記載の光硬化性樹脂組成物であることを特徴とする立体物の製造方法。
【請求項22】
さらに、前記光エネルギーの照射によって得られた造形物に、熱処理を施す工程を含むことを特徴とする請求項
21に記載の立体物の製造方法。
【請求項23】
前記光エネルギーが、レーザー光源またはプロジェクターから照射される光であることを特徴とする請求項
21または
22に記載の立体物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体造形用の光硬化性樹脂組成物及びそれを用いた立体物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液状の硬化性樹脂組成物の用途の一例として、硬化性樹脂組成物を紫外線等の光によって層毎に硬化させ、それを順次積層することにより、所望の立体物を作製する光学的立体造形法(光造形法)が鋭意研究されている。光造形法は、他の方式に比べて高い精度で造形することができるため、形状確認のための試作品の造形(ラピッドプロトタイピング)にとどまらず、機能性検証のためのワーキングモデルの造形や型の造形(ラピッドツーリング)へと用途が広がってきている。さらに、実製品の造形(ラピッドマニュファクチャリング)にまで広がりつつある。
【0003】
このような背景から、硬化性樹脂組成物に対する要求は高度化してきている。例えば、汎用のエンジニアリングプラスチックに匹敵する、低い摩擦係数と高い耐摩耗性を示す摺動特性と、高い剛性や靭性などの機械特性とを有する物品を造形することのできる、硬化性樹脂組成物が求められている。特許文献1には熱硬化性樹脂に、ポリオレフィン粉末とチタン酸カリウム繊維とを添加することによって、熱硬化性樹脂が有する優れた機械強度を維持したまま、優れた摺動性及び耐摩耗性を付与する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実製品として用いられる造形物には、摺動特性が高いだけでなく、適度な靭性を持っていることが望まれる。しかし、これらの物性を同時に満足することは難しい。
【0006】
特許文献1には、機械強度の記載はあるものの、靱性については何ら開示がない。また、特許文献1に記載の樹脂組成物は、熱硬化樹脂が主成分であるため、光造形法に用いることができない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、本発明では、靱性および摺動特性が高い物品の造形が可能な、立体造形用の光硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0008】
本発明にかかる立体造形用の光硬化性樹脂組成物は、多官能ラジカル重合性化合物(A)と、単官能ラジカル重合性化合物(B)と、ポリエチレン粒子(C)と、硬化剤(D)とを有する樹脂組成物であって、
前記ポリエチレン粒子(C)の平均粒径が50μm以下であり、かつ、粘度平均分子量が150万以上であり、
前記ポリエチレン粒子(C)の含有量は、前記多官能ラジカル重合性化合物(A)と前記単官能ラジカル重合性化合物(B)の合計100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下であり、
前記樹脂組成物の25℃における粘度が、50mPa・s以上30,000mPa・s以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかる立体造形用の光硬化性樹脂組成物を用いることにより、靱性および摺動特性に優れた造形物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の光硬化性樹脂組成物が用いられる造形装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。尚、以下に説明する実施形態は、本発明の実施形態の一つに過ぎず、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
【0012】
<多官能ラジカル重合性化合物(A)>
本発明の立体造形用の光硬化性樹脂組成物(単に硬化性樹脂組成物あるいは樹脂組成物と記述する場合がある)に含まれる多官能ラジカル重合性化合物(A)は、分子内に2個以上のラジカル重合性官能基を有する化合物である。ラジカル重合性官能基としては、エチレン性不飽和基が挙げられる。エチレン性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、などが挙げられる。多官能ラジカル重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリレート系化合物、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリレート系化合物、(メタ)アクリロイル基含有イソシアヌレート系化合物、(メタ)アクリルアミド系化合物、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物、マレイミド系化合物、ビニルエーテル系化合物、芳香族ビニル系化合物などが挙げられる。中でも、入手容易性と硬化性の観点から、(メタ)アクリレート系化合物、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物が好ましい。
【0013】
本発明の多官能ラジカル重合性化合物(A)には種々の化合物を用いることができるが、合成が容易であり入手し易く、得られる造形物の靭性が高いため、ウレタン構造を有する多官能ラジカル重合性化合物が特に好ましい。また、ポリエーテル構造を有する多官能ラジカル重合性化合物は、粘度が低く、造形時における液切れが良く、精度の高い造形物が得られるため好ましい。また、ポリエステル構造、あるいは、ポリカーボネート構造を有する多官能ラジカル重合性化合物は、靱性の高い造形物が得られるため好ましい。多官能ラジカル重合性化合物(A)は、これらの単一化合物であっても良いし、2種類以上を含有していても良い。本発明における多官能ラジカル重合性化合物(A)とは、光硬化性樹脂組成物に含まれる1種あるいは複数種の多官能ラジカル重合性化合物を、まとめて指す呼称である。
【0014】
本発明において、JIS K 7111に従って測定したシャルピー衝撃試験の値が1.0kJ/m2以上の場合を良好な靭性とし、シャルピー衝撃試験の値が3.0kJ/m2以上の場合を優れた靭性とする。試験片の靭性が1.0kJ/m2未満であったり、試験不可(例えば試験片にノッチを入れる際に破損する)であったりする場合、サポート材を取り除く際に、造形物を破損する可能性が高い。また、造形物を別の部材にはめ込んだり、造形物に二次加工を施したりする際に、造形物を破損する恐れもある。なお、サポート材とは、造形過程で、目的とする形状を保持するために作製される部分であり、造形完了後には除去されるのが一般的である。
【0015】
ウレタン構造を有する多官能ラジカル重合性化合物(A)は、例えば、水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物と、多価イソシアネート系化合物との反応によって得られるものが挙げられる。他に、水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物と、多価イソシアネート系化合物と、ポリオール系化合物との反応によって得られるものが挙げられる。中でも特に、高い靱性を実現できる点から、水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物と、多価イソシアネート系化合物と、ポリオール系化合物とを反応させてなるものが好ましい。
【0016】
前記水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレート、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、脂肪酸変性-グリシジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイル-オキシプロピルメタクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これら水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物は単独でも、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0017】
前記多価イソシアネート系化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリフェニルメタンポリイソシアネート、変性ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族系ポリイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート等の脂肪族系ポリイソシアネート、水添化ジフェニルメタンジイソシアネート、水添化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の脂環式系ポリイソシアネート、或いはこれらポリイソシアネートの3量体化合物又は多量体化合物、アロファネート型ポリイソシアネート、ビュレット型ポリイソシアネート、水分散型ポリイソシアネート等が挙げられる。これら多価イソシアネート系化合物は単独でも、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0018】
前記ポリオール系化合物としては、例えば、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、ポリブタジエン系ポリオール、(メタ)アクリル系ポリオール、ポリシロキサン系ポリオール等が挙げられる。これらのポリオール系化合物は、単独でも、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0019】
ポリエーテル系ポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール等のアルキレン構造含有ポリエーテル系ポリオールや、これらポリアルキレングリコールのランダム或いはブロック共重合体が挙げられる。
【0020】
ポリエステル系ポリオールとしては、例えば、多価アルコールと多価カルボン酸との縮合重合物、環状エステル(ラクトン)の開環重合物、多価アルコール、多価カルボン酸及び環状エステルの3種類の成分による反応物などが挙げられる。
【0021】
前記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-テトラメチレンジオール、1,3-テトラメチレンジオール、2-メチル-1,3-トリメチレンジオール、1,5-ペンタメチレンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサメチレンジオール、3-メチル-1,5-ペンタメチレンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタメチレンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、シクロヘキサンジオール類(1,4-シクロヘキサンジオールなど)、ビスフェノール類(ビスフェノールAなど)、糖アルコール類(キシリトールやソルビトールなど)などが挙げられる。
【0022】
前記多価カルボン酸としては、例えば、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸等の芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0023】
前記環状エステルとしては、例えば、プロピオラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトンなどが挙げられる。
【0024】
ポリカーボネート系ポリオールとしては、例えば、多価アルコールとホスゲンとの反応物、環状炭酸エステル(アルキレンカーボネートなど)の開環重合物などが挙げられる。
【0025】
前記多価アルコールとしては、前記ポリエステル系ポリオールの説明中で例示した多価アルコール等が挙げられる。前記アルキレンカーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、ヘキサメチレンカーボネートなどが挙げられる。
【0026】
なお、ポリカーボネートポリオールは、分子内にカーボネート結合を有し、末端がヒドロキシル基である化合物であればよく、カーボネート結合とともにエステル結合を有していてもよい。
【0027】
ポリエーテル構造、ポリエステル構造、および、ポリカーボネート構造を持つ多官能ラジカル重合性化合物(A)は、例えば前記のポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、およびポリカーボネート系ポリオールと、(メタ)アクリル酸塩化物あるいは(メタ)アクリル酸臭化物と反応させてなるものがあげられる。
【0028】
本発明では、光硬化性樹脂組成物に含まれる多官能ラジカル重合性化合物(A)のエチレン性不飽和基当量を700g/eq以上8000g/eq以下とする。光硬化性樹脂組成物に含まれる多官能ラジカル重合性化合物(A)が単一の化合物である場合は、エチレン性不飽和基当量が700g/eq以上8000g/eq以下の多官能ラジカル重合性化合物を用いる。ここで言うエチレン性不飽和基等量とは、多官能ラジカル重合性化合物の重量平均分子量を一分子中のエチレン性不飽和基の数で序した値である。エチレン性不飽和基当量が大きいほど、光硬化後の樹脂組成物中の架橋密度が小さくなり、良好な靭性を持った造形物(物品)が得られる。光硬化性樹脂組成物が複数種類の多官能ラジカル重合性化合物を含む場合は、それぞれの多官能ラジカル重合性化合物のエチレン性不飽和基当量を光硬化性樹脂組成物に含有される重量比で加重平均した値を、多官能ラジカル重合性化合物(A)のエチレン性不飽和基当量とする。そして、その値が700g/eq以上8000g/eq以下となるように、複数種類の多官能ラジカル重合性化合物を混合して用いる。
【0029】
多官能ラジカル重合性化合物(A)のエチレン性不飽和基当量が大きいほど、靭性に優れた造形物が得られるが、エチレン性不飽和基当量が8000g/eqよりも大きいと、次のような課題が生じる。
【0030】
多官能ラジカル重合性化合物(A)のエチレン性不飽和基当量が大きすぎる場合、光硬化後の樹脂組成物中の架橋密度が小さくなりすぎてしまう。その結果、造形物の耐熱性及び弾性率が低下し、造形物の形状安定性が低下する。例えば、造形物に未反応のモノマーを反応させる目的で造形後に加熱処理を行うと、造形物が変形を起こしてしまう。また、造形物に力が加わった際にも変形を起こしやすく、造形物の形状安定性に関しても好ましくない。
【0031】
一方、多官能ラジカル重合性化合物(A)のエチレン性不飽和基等量が700g/eqより小さい場合、光硬化後の樹脂組成物の架橋密度が大きくなりすぎてしまう。その結果、造形物の靭性が低下してしまい、部品同士を嵌合させる時や、ねじ締めなどの機械加工時に割れが生じてしまう。従って、多官能ラジカル重合性化合物(A)のエチレン性不飽和基当量は700g/eq以上8000g/eq以下が好ましく、得られる造形物の靭性と形状安定性とが優れる点で、700g/eq以上4000g/eq以下がより好ましい。
【0032】
なお、本発明の多官能ラジカル重合性化合物(A)の重量平均分子量(Mw)は、標準ポリスチレン分子量換算による重量平均分子量である。重量平均分子量は、高速液体クロマトグラフィー(東ソー社製、高速GPC装置「HLC-8220GPC」)に、カラム:Shodex GPCLF-804(排除限界分子量:2×106、分離範囲:300~2×106)2本を直列に接続して、測定することができる。
【0033】
本発明にかかる光硬化性樹脂組成物に含まれる多官能ラジカル重合性化合物(A)の量は、多官能ラジカル重合性化合物(A)と後述する単官能ラジカル重合性化合物(B)との合計100質量部に対して、20質量部以上75質量部以下が好ましい。多官能ラジカル重合性化合物(A)の含有量が20質量部より少ないと、硬化性樹脂組成物の硬化性と得られる造形物の靭性が低下する傾向にある。一方、多官能ラジカル重合性化合物(A)の含有量が75質量部より多いと、硬化性樹脂組成物の粘度が高くなる傾向にあり、立体造型法に用いるのが難しくなる。従って、立体造形用の光硬化性樹脂組成物に含まれる多官能ラジカル重合性化合物(A)の含有量は、単管能ラジカル重合性化合物(B)との合計100質量部に対して、好ましくは20質量部以上75質量部以下、より好ましくは30質量部以上75質量部以下である。
【0034】
<単官能ラジカル重合性化合物(B)>
本発明にかかる光硬化性樹脂組成物に含まれる単官能ラジカル重合性化合物(B)は、分子内に1つのラジカル重合性官能基を有する化合物である。硬化性樹脂組成物が単官能ラジカル重合性化合物(B)を含有することで、立体造形に好適な粘度を実現することができる。また、単官能ラジカル重合性化合物(B)の添加量を調整したり種類を適切に選択したりすることで、硬化性樹脂組成物を硬化して得られる造形物の機械特性を、所望の範囲に調整することができる。
【0035】
単官能ラジカル重合性化合物(B)としては、アクリルアミド系化合物、(メタ)アクリレート系化合物、マレイミド系化合物、スチレン系化合物、アクリロニトリル系化合物、ビニルエステル系化合物、N-ビニルピロリドンなどの、N-ビニル系化合物、共役ジエン系化合物、ビニルケトン系化合物、ハロゲン化ビニル・ハロゲン化ビニリデン系化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。中でもアクリルアミド系化合物、(メタ)アクリレート系化合物、マレイミド系モノマー、N-ビニル系化合物は、樹脂組成物の硬化性、得られる造形物の機械特性が優れる点で、特に好ましい。
【0036】
アクリルアミド系化合物としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-tert-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-フェニル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジブチル(メタ)アクリルアミド、N-(メタ)アクリロイルモルフォリン、N-(メタ)アクリロイルピペリジン、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド、N-tert-オクチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0037】
また、(メタ)アクリレート系化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、i-オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-1-アタマンチル(メタ)アクリレート、3,5-ジヒドロキシ-1-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-メチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-エチルー2-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-イソプロピル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、3-メチル-3-オキセタニル-メチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フェニルグリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、フェニルセロソルブ(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ビフェニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリロイルフォスフェート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ブトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェニルポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、トリフルオロメチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチルアクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H,オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレートエピクロロヒドリン変性ブチル(メタ)アクリレート、エピクロロヒドリン変性フェノキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド(EO)変性フタル酸(メタ)アクリレート、EO変性コハク酸(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モルホリノ(メタ)アクリレート、EO変性リン酸(メタ)アクリレート、アリルオキシアクリル酸メチル(製品名:AO-MA、日本触媒社製)、イミド基を有する(メタ)アクリレート類(製品名:M-140、東亞合成社製)、シロキサン構造を有する単官能(メタ)アクリレート類、などが挙げられる。
【0038】
マレイミド系モノマーとしては、マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなどが挙げられる。
【0039】
その他の単官能ラジカル重合性化合物として、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩、などのスチレン誘導体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニルなどのビニルエステル類、(メタ)アクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルモルフォリン、N-ビニルアセトアミドなどのN-ビニル化合物などが挙げられる。
【0040】
これらの単官能ラジカル重合性化合物は、単独でも、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0041】
本発明にかかる硬化性樹脂組成物が含有する単官能ラジカル重合性化合物(B)の量は、多官能ラジカル重合性化合物(A)と単官能ラジカル重合性化合物(B)との合計100質量部に対して、25質量部以上80質量部以下が好ましい。単官能ラジカル重合性化合物(B)の割合が25質量部より少ないと、硬化性樹脂組成物の粘度が著しく高くなる傾向にあり、立体造形に用いるのが難しくなる。また、単管能ラジカル重合性化合物(B)の割合が80質量部より多いと、硬化性樹脂組成物の硬化性と得られる造形物の靭性が共に低下する傾向にあり好ましくない。より好ましくは25質量部以上70質量部以下である。
【0042】
<ポリエチレン粒子(C)>
本発明にかかる硬化性樹脂組成物に含まれるポリエチレン粒子(C)の粘度平均分子量は、150万以上である。ポリエチレンは、粘度平均分子量が大きくなるほど耐摩耗性に優れる。
【0043】
従って、硬化性樹脂組成物に十分に高い分子量のポリエチレン粒子を含有させることで、樹脂組成物を硬化して得られる物品の摩擦係数を下げつつ、耐摩耗性を向上させることができる。ポリエチレン粒子の粘度平均分子量が150万以上であると、実用に耐える高い耐摩耗性が得られるためより好ましい。入手し易いという点でも、粘度平均分子量180万以上のポリエチレン粒子がより好ましい。本発明では、粘度平均分子量は、特開2013-170231に記載の方法で極限粘度を求めることによって算出した。
【0044】
本発明にかかる硬化性樹脂組成物に含まれるポリエチレン粒子(C)の平均粒子径は、50μm以下であるのが好ましい。光造形法では、200μm以下の層厚単位で積層されることが多いため、平均粒子径50μmより大きいと、層内のポリエチレン粒子の分布にムラが生じる恐れがある。また、一方、ポリエチレン粒子(C)平均粒子径が小さくなりすぎると、硬化性樹脂組成物の粘度が著しく上昇することから、1μm以上が好ましい。すなわち、ポリエチレン粒子(C)の平均粒子径は1μm以上50μm以下が好ましい。入手が容易であることから、10μm以上30μm以下がより好ましい。また、硬化性樹脂組成物中における分散のしやすさから、ポリエチレン粒子(C)は球状であることが好ましい。
【0045】
ここで、ポリエチレン粒子(C)の平均粒子径は、コールターカウンター法による球体積相当径の算術平均値をいう。コールターカウンター法の具体的な測定原理は、次の通りである。
【0046】
粒子が分散された電解液を入れた容器を、貫通した1つの細孔を有する壁によって2つに仕切る。壁を挟んで電極を配置し、電極間に定電流を流しておく。壁で仕切られた一方の側で、一定の吸引力で電解液を吸引すると、粒子が電解液と共に細孔を通過する。この時、細孔中の電解液が粒子の体積に相当する量だけ減少し、細孔の電気抵抗は電解液の減少量に比例して大きくなる。細孔に流れる電流が一定であるため、細孔の電気抵抗の変化量に比例して電極間の電圧が変化する。この電圧の変化量から粒子の体積を計測し、この体積から粒子の球体積相当径を求め、粒子径分布を得ることができる。
【0047】
具体的な測定方法は次の通りである。まず、ポリエチレン粒子5mgに対して、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2mlを混合し、ベックマン・コールター製電解液ISOTON-II100mlに加えた。その後、超音波分散器で約5分間分散処理を行い試料を調製した。コールターカウンター法の測定装置として、ベックマン・コールター製マルチサイザー3を用い、200μmアパーチャーまたは400μmアパーチャーを使用した。前記装置でポリエチレン粒子の球体積相当径と個数を測定し、その結果より球体積相当径の算術平均値を求めた。
【0048】
本発明に用いられるポリエチレン粒子(C)は、硬化性樹脂組成物中への分散性向上、分散安定性向上、凝集防止などの目的で、表面に化学的処理がなされていても構わない。例えば、大気中プラズマ処理や、フレイム処理、UV処理、オゾン処理、過酸化物の水素引抜反応による処理などが挙げられる。また、前記の処理後の表面が低分子や高分子でグラフト処理されていてもよい。あるいは、ポリエチレン粒子表面が、低分子や高分子でコートされていてもよい。
【0049】
硬化性樹脂組成物に含まれるポリエチレン粒子(C)は、単一種類の粒子でもよいし互いに異なる複数の材料からなる複数種類の粒子を含んでいてもよい。
【0050】
硬化性樹脂組成物に含まれるポリエチレン粒子(C)の量は、多官能ラジカル重合性化合物(A)と単官能ラジカル重合性化合物(B)の合計100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下が好ましい。ポリエチレン粒子(C)の含有量がこの範囲にあれば、立体造形法に適用可能な粘度が得られ、樹脂組成物を硬化して得られる造形物の耐摩耗性も高くなる。
【0051】
<硬化剤(D)>
硬化剤(D)としては、光ラジカル重合開始剤を用いることがより好ましい。硬化性樹脂組成物は、光ラジカル重合開始剤に加えて熱ラジカル重合開始剤を含有してもよい。硬化性樹脂組成物が熱ラジカル重合開始剤を含有することで、光照射による造形後に熱処理を施すことで、造形物の機械特性をより高めることができる。
【0052】
[光ラジカル重合開始剤]
光ラジカル重合開始剤は、主に分子内開裂型と水素引抜き型に分類される。分子内開裂型では、特定波長の光を吸収することで、特定の部位の結合が切断され、その切断された部位にラジカルが発生し、それが重合開始剤となり多官能ラジカル重合性化合物(A)と単官能ラジカル重合性化合物(B)の重合が始まる。水素引き抜き型では、特定波長の光を吸収し励起状態になり、その励起種が周囲にある水素供与体から水素引き抜き反応を起こし、ラジカルが発生する。そして、発生したラジカルが重合開始剤となって、多官能ラジカル重合性化合物(A)と単官能ラジカル重合性化合物(B)の重合が始まる。
【0053】
分子内開裂型光ラジカル重合開始剤としては、アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤、オキシムエステル系光ラジカル重合開始剤が知られている。これらはカルボニル基に隣接した結合がα開裂して、ラジカル種を生成するタイプのものである。アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤としては、ベンジルメチルケタール系光ラジカル重合開始剤、α-ヒドロキシアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤、アミノアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤等がある。具体的な化合物としては、例えば、ベンジルメチルケタール系光ラジカル重合開始剤としては、2,2’-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(イルガキュア(R)651、BASF社製)等があり、α-ヒドロキシアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤としては2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(ダロキュア(R)1173、BASF社製)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(イルガキュア(R)184、BASF社製)、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(イルガキュア(R)2959、BASF社製)、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン(イルガキュア(R)127、BASF社製)等があり、アミノアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤としては、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン(イルガキュア(R)907、BASF社製)あるいは2-ベンジルメチル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン(イルガキュア(R)369、BASF社製)等があるが、これに限定されることはない。アシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(ルシリン(R)TPO、BASF社製)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド(イルガキュア(R)819、BASF社製)等があるが、これに限定されることはない。オキシムエステル系光ラジカル重合開始剤としては、(2E)-2-(ベンゾイルオキシイミノ)-1-[4-(フェニルチオ)フェニル]オクタン-1-オン(イルガキュア(R)OXE-01、BASF社製)等が挙げられるが、これに限定されることはない。
【0054】
水素引き抜き型光ラジカル重合開始剤としては、2-エチル-9,10-アントラキノン、2-t-ブチル-9,10-アントラキノン等のアントラキノン誘導体、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン等のチオキサントン誘導体が挙げられるが、これに限定されることはない。
【0055】
本発明では、光ラジカル重合開始剤を2種類以上併用してもよいが、単独で用いてもよい。また、造形後の熱処理で重合反応を進めるために、熱ラジカル重合開始剤を含有していてもよい。
【0056】
硬化性樹脂組成物に含まれる光ラジカル重合開始剤の添加量としては、多官能ラジカル重合性化合物(A)と単官能ラジカル重合性化合物(B)の合計100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上15質量部以下である。より好ましくは0.1質量部以上10質量部以下である。光ラジカル重合開始剤量が少ないと、重合が不十分となる傾向がある。光ラジカル重合開始剤量が多いと、光の透過性が低下し、重合が不均一になる傾向がある。
【0057】
[熱ラジカル重合開始剤]
熱ラジカル重合開始剤としては、加熱によりラジカルを発生するものであれば特に制限されず従来既知の化合物を用いることが可能であり、例えば、アゾ系化合物、過酸化物及び過硫酸塩等を好ましいものとして例示することができる。アゾ系化合物としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(メチルイソブチレ-ト)、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)等が挙げられる。過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート及びジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等が挙げられる。過硫酸塩としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム及び過硫酸カリウム等の過硫酸塩等が挙げられる。
【0058】
熱ラジカル重合開始剤の添加量としては、多官能ラジカル重合性化合物(A)と単官能ラジカル重合性化合物(B)の合計100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上15質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上10質量部以下である。熱ラジカル重合開始剤を過剰に添加すると分子量が伸びず、物性の低下するおそれがある。
【0059】
<その他の成分>
本発明の硬化性樹脂組成物には、本発明の目的、効果を損なわない範囲において、その他の任意成分として各種の添加剤が含有されていてもよい。添加剤の例としては、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ポリエステル、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、ポリシロキサン、石油樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、セルロース樹脂などの樹脂、あるいはポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニルスルホン、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、液晶ポリマー、ポリトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのエンジニアリングプラスチック、フッ素系オリゴマー、シリコーン系オリゴマー、ポリスルフィド系オリゴマー、フッ素含有モノマー、シロキサン構造含有モノマーなど反応性モノマー、金、銀、鉛などの軟質金属、黒鉛、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化リチウム、窒化ケイ素、セレン化モリブデンなどの層状結晶構造物質、フェノチアジン、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール等の重合禁止剤、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アントラキノン化合物、チオキサントン化合物、ケタール化合物、ベンゾフェノン化合物、3級アミン化合物、及びキサントン化合物などの光増感剤、重合開始助剤、レベリング剤、濡れ性改良剤、界面活性剤、可塑剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、無機充填剤、顔料、染料、酸化防止剤、難燃剤、増粘剤、消泡剤等を挙げることができる。
【0060】
<硬化性樹脂組成物>
本発明の硬化性樹脂組成物は、必須成分である多官能ラジカル重合性化合物(A)、単官能ラジカル重合性化合物(B),ポリエチレン粒子(C)、および硬化剤(D)に、必要に応じてその他の任意成分の適量を添加して製造される。具体的には、これらの成分を攪拌容器に仕込み、通常、30℃以上120℃以下、好ましくは50℃以上100℃以下で攪拌することにより製造することができる。その際の攪拌時間は、通常1分以上6時間以下、好ましくは10分以上2時間以下である。多官能ラジカル重合性化合物(A)、単官能ラジカル重合性化合物(B)、ポリエチレン粒子(C)の合計の含有量は、硬化剤(D)を除いた硬化性樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは25質量部以上100質量部以下である。さらに好ましくは75質量部以上100質量部以下である。なお、硬化性樹脂組成物100質量部のうち、多官能ラジカル重合性化合物(A)、単官能ラジカル重合性化合物(B)、ポリエチレン粒子(C)の合計を除いた残りの質量部は、硬化剤(D)や前述のその他の成分によって占められる。
【0061】
本発明の硬化性樹脂組成物の25℃における粘度は、好ましくは50mPa・s以上30,000mPa・s以下であり、より好ましくは50mPa・s以上10,000mPa・s以下である。
【0062】
以上のようにして得られる本発明の硬化性樹脂組成物は、光造形法の造形用材料として好適に使用される。すなわち、本発明の硬化性樹脂組成物に、造形する物品(造形モデル)の三次元形状データから生成したスライスデータに応じて光エネルギー線を照射し、硬化に必要なエネルギーを供給することにより、所望の形状の造形物を製造することができる。
【0063】
<硬化物>
本発明の樹脂硬化物は、前述の硬化性樹脂組成物を、光エネルギー線照射を用いて硬化せしめることで得ることができる。光エネルギー線としては、紫外線・赤外線などを挙げることができる。なかでも、入手が容易で、光ラジカル重合開始剤にエネルギーが吸収されやすいことから、300nm以上450nm以下の波長を有する光線を好ましく用いることができる。光エネルギー線の光源として、紫外線または赤外線レーザー(例えばArレーザー、He-Cdレーザーなど)、水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、蛍光灯などを使用することができる。なかでも、レーザー光源が、エネルギーレベルを高めることで造形時間を短縮することができ、しかも集光性に優れるため、照射径を小さくして高い造形精度を得ることができるため、好ましく採用される。光エネルギー線は、硬化性樹脂組成物が含有するラジカル重合開始剤の種類に合わせて適宜選択することができ、複数組み合わせて用いることもできる。
【0064】
<硬化性樹脂組成物の機能>
本発明の硬化性樹脂組成物は、多官能ラジカル重合性化合物(A)のエチレン性不飽和基当量が700g/eq以上8000g/eq以下であるため、良好な靭性と形状安定性を有する物品を実現することができる。
【0065】
また、本発明の硬化性樹脂組成物から得られる物品は、粘度平均分子量が150万以上のポリエチレン粒子(C)を含んでいるため、摩擦係数が低く、高い耐摩耗性を有する。さらに、ポリエチレン粒子(C)は吸水性が著しく低いため、硬化物全体の吸水率を低減することができる。
【0066】
<造形物の製造方法>
本発明の硬化性樹脂組成物は、硬化剤(D)として光ラジカル重合開始剤等の光重合開始剤を含有することで、光造形法を用い造形に好適に用いることができる。硬化性樹脂組成物からなる造形物は、公知の光造形法を使用して製造することができる。好ましい光造形法の代表例としては、造形する物品の三次元形状データから生成したスライスデータに基づいて光硬化性樹脂組成物を層状に順次硬化させる工程を有する方法であり、大きく分けて自由液面法と規制液面法の2種類がある。
【0067】
図1に、自由液面法を用いた光造形装置100の構成例を示す。光造形装置100は、液状の光硬化性樹脂組成物10を満たした槽11を有している。槽11の内側には、造形ステージ12が、駆動軸13によって鉛直方向に駆動可能に設けられている。光源14から射出された光硬化性樹脂組成物10を硬化するための光エネルギー線15は、スライスデータに従って制御部18によって制御されるガルバノミラー16で照射位置が変更され、槽11の表面を走査される。図では、走査範囲を太い破線で示している。
【0068】
光エネルギー線15によって硬化される液状の光硬化性樹脂組成物10の厚さdは、スライスデータの生成時の設定に基づいて決まる値で、得られる造形物の精度(造形する物品の三次元形状データの再現性)に影響を与える。厚さdは、制御部18が駆動軸13の駆動量を制御することによって達成される。
【0069】
まず、制御部18が設定に基づいて駆動軸13を制御し、ステージ12の上に厚さdで光硬化性樹脂組成物が供給される。ステージ12上の液状の硬化性樹脂組成物に、所望のパターンを有する硬化樹脂層が得られるように、スライスデータに基づいて光エネルギー線が選択的に照射され、硬化樹脂層が形成される。次いで、ステージ12を白抜きの矢印の方向に移動させることによって、硬化樹脂層の表面に厚さdで未硬化の硬化性樹脂組成物が供給される。そして、スライスデータに基づいて光エネルギー線15が照射され、先に形成した硬化樹脂層と一体化した硬化物が形成される。この層状に硬化させる工程を繰り返すことによって目的とする立体的な造形物を得ることができる。
【0070】
このようにして得られる立体造形物を槽11から取り出し、その表面に残存する未反応の硬化性樹脂組成物を除去した後、必要に応じて洗浄する。洗浄剤としては、イソプロピルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類に代表されるアルコール系有機溶剤を用いることができる。他に、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン等に代表されるケトン系有機溶剤や、テルペン類に代表される脂肪族系有機溶剤を用いても良い。なお、洗浄剤で洗浄した後には必要に応じて、光照射又は熱照射によるポストキュアーを行っても良い。ポストキュアーは、立体造形物の表面及び内部に残存することのある未反応の硬化性樹脂組成物を硬化させることができ、立体造形物の表面のべたつきを抑えることができる他、立体造形物の初期強度を向上させることができる。
【0071】
製造に用いる光エネルギー線としては、紫外線、電子線、X線、放射線などを挙げることができる。なかでも、300nm以上450nm以下の波長を有する紫外線が経済的な観点から好ましく用いられる。紫外線を発生させる光源としては、紫外線レーザー(例えばArレーザー、He-Cdレーザーなど)、水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、蛍光灯などを使用することができる。なかでも、レーザー光源は、集光性に優れ、エネルギーレベルを高めて造形時間を短縮することができ、高い造形精度を得ることができるため好ましく採用される。
【0072】
硬化性樹脂組成物よりなる面に活性エネルギー線を照射して、所定の形状パターンの硬化樹脂層を形成するに当たっては、点状あるいは線状に絞られた光エネルギー線を使用して、点描方式または線描方式で樹脂を硬化させることができる。あるいは、液晶シャッターまたはデジタルマイクロミラーシャッターなどのような微小光シャッターを複数配列して形成した面状描画マスクを通して、活性エネルギー線を面状に照射して樹脂を硬化させてもよい。
【0073】
同様に、規制液面法による造形も好ましい。規制液面法を用いる光造形装置は、
図1の光造形装置100のステージ12が造形物を液面の上方に引き上げるように設けられ、光照射手段が槽11の下方に設けられた構成となる。規制液面法の代表的な造形例は、次のとおりである。まず、昇降自在に設けられた支持ステージの支持面(造形面)と硬化性樹脂組成物を収容した槽の底面とが所定の距離となるように設置され、支持ステージの支持面と槽の底面との間、即ち造形面の上に硬化性樹脂組成物が供給される。次いで、硬化性樹脂組成物を収容した槽の底面側から、レーザー光源あるいは、プロジェクターによって、ステージ支持面と槽の底面との間の所定の厚さdの硬化性樹脂組成物に、スライスデータに応じて選択的に光が照射される。光の照射により、ステージ支持面と槽の底面との間の硬化性樹脂組成物が硬化し、固体状の硬化樹脂層が形成される。その後、支持ステージを上昇させて、硬化樹脂層を槽の底面から引きはがされる。
【0074】
次いで、支持ステージの上に形成された硬化樹脂層の表面(造形面)と槽の底面との間が所定の距離となるように支持ステージの高さを調整する。そして、先ほどと同様に選択的に光を照射することによって、硬化樹脂層と槽の底面との間、即ち造形面の上に、先に形成した硬化樹脂層と一体化する新しい硬化樹脂層を形成する。そして、光照射されるパターンを変化させながら或いは変化させずに、この工程を所定回数繰り返すことにより、複数の硬化樹脂層が一体的に積層されてなる立体造形物が造形される。
【0075】
<用途>
本発明に係る硬化性樹脂組成物およびその硬化物である物品の用途は特に限定はされない。例えば、光造形法の3Dプリンター用の樹脂、スポーツ用品、医療・介護用品、義肢・義歯・義骨などの特注品、産業用機械・機器、精密機器、電気・電子機器、電気・電子部品、建材用品等の様々な用途に利用可能である。
【実施例】
【0076】
以下に本発明を詳しく説明するために実施例を挙げるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
<実施例1>
以下の処方に従い各成分を配合し、75℃に加熱して2時間撹拌装置で撹拌し、硬化性樹脂組成物を調製した。表1に他の実施例と共に、調製した硬化性樹脂組成物が含有する樹脂組成及び含有量を示す。
【0078】
[多官能ラジカル重合性化合物(A)]
日本化薬製「KAYARAD UX6101」 55質量部
KAYARAD UX6101は重量平均分子量が6,500、ラジカル重合性置換基として、アクリロイル基が1分子中に2つあるウレタンアクリレートであり、エチレン性不飽和基当量は3,250g/eqである。
【0079】
[単官能ラジカル重合性化合物(B)]
メタクリル酸イソボルニル 45質量部
メタクリル酸イソボルニルは下記に示す構造を持つ、メタクリル酸エステルである。
【0080】
【0081】
[ポリエチレン粒子(C)]
三井化学製「ミペロンXM-221U」25質量部
ミペロンXM-221Uは粘度平均分子量200万、球状の粒子であり、コールターカウンタ法による球体積相当径の算術平均値が25μmである。
【0082】
[硬化剤(D)]
Omnirad184(IGM Resins社製光ラジカル重合開始剤、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)2質量部
【0083】
[試験片Xの作成]
調製した光硬化性樹脂組成物から、下記の方法で試験片を作成した。まず、二枚の石英ガラスの間に長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの金型、あるいは長さ30mm、幅30mm、厚さ4mmのシリコン型を挟み、ここに硬化性樹脂組成物を流し込んだ。流し込んだ硬化性樹脂組成物に対して紫外線照射機(HOYA CANDEO OPTRONICS社製、商品名「LIGHT SOURCE EXECURE3000」)で5mW/cm2の紫外線を金型の両面から360秒間ずつ照射し、硬化物を得た。光硬化性樹脂組成物を硬化させるために照射した総エネルギーは、3600mJ/cm2であった。得られた硬化物を50℃の加熱オーブン内に入れて1時間、100℃の加熱オーブン内に入れて2時間熱処理を行うことで、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの試験片Xを得た。試験片Xは後述するシャルピー衝撃試験に使用した。結果を表2に示す。
【0084】
[試験片Yの作成]
調製した硬化性樹脂組成物を用いて、3Dプリンター(DWS社製DWS-020X、規制液面法の光造形装置)を用い、30mm×30mm×4mmの大きさの直方体の三次元形状に基づくスライスデータに従って造形した。造形物は、30mm×4mm×厚さ50μmの硬化樹脂層を30mmの高さになるまで積層して作成した。得られた造形物を、UVCuring Unit M(DWS社製)を用いて30分間紫外光を照射し、その後50℃の加熱オーブン内に入れて1時間、さらに100℃の加熱オーブン内に入れて2時間熱処理を行うことで、試験片Yを作成した。試験片Yは後述する造型性、摩擦係数、耐摩耗性の評価に使用した。結果を表2に示す。
【0085】
[評価]
(造型性)
造型性の成否は、前記した試験片Yの寸法誤差が、30mm×30mm×4mmの形状に対する誤差を評価した。評価基準は下記のとおりである。評価基準Bを満たしていれば良好な造形性が得られており、評価基準Aを満たしていれば優れた造形性が得られていると判断する。
A:寸法誤差が±3%以内
B:寸法誤差が±3%より大きい
C:造形ができない
なお、各辺の寸法測定は、3Dプリンターで造型後、100℃で熱処理を行う前に行った。
【0086】
(シャルピー衝撃試験)
JIS K 7111に準じて、切欠き形成機(東洋精機製作所製、商品名「ノッチングツール A-4」)にて試験片A中央部に深さ2mm、45°の切欠き(ノッチ)を入れた。衝撃試験機(東洋精機製作所製、商品名「IMPACT TESTER IT」)を用い、試験片の切欠きの背面から2Jのエネルギーで破壊する。150°まで振り上げたハンマーが試験片破壊後に振りあがる角度から破壊に要したエネルギーを算出し、それをシャルピー衝撃強さとし靱性の指標とした。なお、ノッチを入れる際に試験片Xが破壊した場合は、シャルピー衝撃強さを0.0KJ/m2とした。靱性の評価基準を以下に示す。評価基準Bを満たしていれば良好な靭性が得られており、評価基準Aを満たしていれば優れた靭性が得られている、と判断する。
A:3.0kJ/m2以上
B:1.0kJ/m2以上3.0kJ/m2未満
C:1.0kJ/m2未満
【0087】
(比摩耗量と摩擦係数)
比摩耗量と摩擦係数の測定は、JIS K 7218 A法に準拠し、下記に示す条件で行った。
測定装置:エー・アンド・デイ製 摩擦摩耗試験機MODEL EMF-III-F
試験環境:23℃±2℃、湿度50%RH±5%RH
試験片:試験片Y(大きさ30mm×30mm、厚さ4mm)
相手材:S45C製、リング形状、表面粗さ約0.8μmRa、接触面積2cm2、荷重:50N
摺動速度:50cm/s
試験時間:100分
摺動距離:3Km
前記の試験片Yに相手材を上記の荷重で押し付け、上記の速度で摺動させた。100分後に摺動を止め、摺動前後の試験片Yの重量から摩耗重量を測定した。測定した摩耗重量と、試験片Yの比重から摩耗体積を算出した。算出した摩耗体積を、摺動距離と荷重で除した値を比摩耗量(単位:mm3・N-1・Km-1)とし、これを耐摩耗性の指標とした。耐摩耗性の評価基準を以下に示す。評価基準Bを満たしていれば良好な耐摩耗性が得られており、評価基準Aを満たしていれば優れた耐摩耗性が得られていると判断する。
A:0.1mm3・N-1・Km-1未満
B:0.1mm3・N-1・Km-1以上0.5mm3・N-1・Km-1未満C:0.5mm3・N-1・Km-1以上
【0088】
摩擦係数は、摺動開始後60分の前後10秒間の摩擦力の平均値を、荷重で除した値を摩擦係数とした。摩擦係数の評価基準を以下に示す。評価基準Bを満たしていれば良好な摩擦係数が得られており、評価基準Aを満たしていれば優れた摩擦係数が得られていると判断する。
A:0.3未満
B:0.3以上0.7未満
C:0.7以上
【0089】
<実施例2~6、比較例1~4>
硬化性樹脂組成物に含まれる(A)、(B)、(D)の各成分の含有量と、ポリエチレン粒子の種類または含有量を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして硬化性樹脂組成物を調製し、実施例1と同様に評価した。結果を表2にまとめて示す。表に記載の多官能ラジカル重合性化合物と単官能ラジカル重合性化合物それぞれの含有量は、多官能ラジカル重合性化合物と単官能ラジカル重合性化合物との合計100質量部に対する、多官能ラジカル重合性化合物の含有量を質量部で示している。また、ポリエチレン粒子(C)の添加量は、多官能ラジカル重合性化合物(A)と単官能ラジカル重合性化合物(B)の合計100質量部に対するポリエチレン粒子(C)の含有量を質量部で示している。
【0090】
用いたポリエチレン粒子(C)の種類は下記の通りである。
【0091】
[ポリエチレン粒子(C)]
三井化学製「ミペロンPM-200」
ミペロンPM-200は、粘度平均分子量が180万、球状の粒子であり、コールターカウンタ法による球体積相当径の算術平均値が10μmである。
【0092】
三井化学製「ミペロンXM-220」
ミペロンXM-220は、粘度平均分子量が200万、球状の粒子であり、コールターカウンタ法による球体積相当径の算術平均値が30μmである。
【0093】
住友精化製「フローセンUF20S」
フローセンUF20Sは、粘度平均分子量が15万であり、コールターカウンタ法による球体積相当径の算術平均値が30μmである。
【0094】
三井化学製「ハイゼックスミリオン240M」
ハイゼックスミリオン240Mは、粘度平均分子量が240万であり、コールターカウンタ法による球体積相当径の算術平均値が160μmである。
【0095】
<実施例7~15、比較例5~6>
硬化性樹脂組成物に含まれる(A)、(B)、(D)の各成分の種類または含有量と、ポリエチレン粒子の含有量を、表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして硬化性樹脂組成物を調製し、実施例1と同様に評価した。実施例11~15、比較例5~6は、多官能ラジカル重合性化合物(A)として複数種類の多官能ラジカル重合性化合物を含む例である。実施例11~15は、エチレン性不飽和基当量が700g/eq以上8000g/eq以下の多官能ラジカル重合性化合物と、エチレン性不飽和基当量が700g/eq未満の多官能ラジカル重合性化合物との混合物である。その混合比は、多官能ラジカル重合性化合物(A)のエチレン性不飽和基当量が700g/eq以上8000g/eq以下となるように調製されている。一方、比較例5~6は、多官能ラジカル重合性化合物(A)のエチレン性不飽和基当量が700g未満となるように調製されている。結果を表4にまとめて示す。
【0096】
なお、用いた各成分の種類は下記の通りである。
【0097】
[多官能ラジカル重合性化合物(A)]
日本合成化学工業製「紫光UV-7550B」
紫光UV-7550Bは重量平均分子量が2,400、ラジカル重合性置換基として、アクリロイル基が1分子中に3つあるウレタンアクリレートであり、エチレン性不飽和基当量は700g/eqである。
【0098】
日本合成化学工業製「紫光UV-3550AC」
紫光UV-3550ACは、ウレタンアクリレートが70質量部と、単官能ラジカル重合性化合物(B)であるACMO30部の混合物である。前記ウレタンアクリレートの重量平均分子量は14,000、ラジカル重合性置換基として、アクリロイル基が1分子中に2つあり、エチレン性不飽和基当量は7,000g/eqである。
【0099】
なお、表3中の樹脂組成は、ウレタンアクリレート成分を多官能ラジカル重合性化合物(A)の質量部、ACMOを単官能ラジカル重合性化合物(B)の質量部として記載した。
【0100】
日本合成化学工業製「紫光UV-6630B」
紫光UV-6630Bは重量平均分子量は3,000、ラジカル重合性置換基として、アクリロイル基が1分子中に2つあるウレタンアクリレートであり、エチレン性不飽和基当量は1,500g/eqである。
【0101】
ダイセル・オルネクス製「EBECRYL8210」
EBECRYL8210は重量平均分子量が600、ラジカル重合性置換基として、アクリロイル基が1分子中に4つあるウレタンアクリレートであり、エチレン性不飽和基当量は150g/eqである。
【0102】
新中村化学工業製「NKエステルA-BPE-4」
NKエステルA-BPE-4は分子量が512、ラジカル重合性置換基として、アクリロイル基が1分子中に2つあるエトキシ化ビスフェノールAジアクリレートであり、エチレン性不飽和基当量は256g/eqである。
【0103】
新中村化学工業製「NKエステルA-9300」
NKエステルA-9300は分子量が423、ラジカル重合性置換基として、アクリロイル基が1分子中に3つあるエトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレートであり、エチレン性不飽和基当量は141g/eqである。
【0104】
新中村化学工業製「NKエステルA-DCP」
NKエステルA-DCPは分子量が304、ラジカル重合性置換基として、アクリロイル基が1分子中に2つある脂環構造を持つジアクリレートであり、エチレン性不飽和基当量は152g/eqである。
【0105】
新中村化学工業製「NKエステルABE-300」
NKエステルABE-300は分子量が466、ラジカル重合性置換基として、アクリロイル基が1分子中に2つあるエトキシ化ビスフェノールAジアクリレートであり、エチレン性不飽和基当量は233g/eqである。
【0106】
[単官能ラジカル重合性化合物(B)]
アクリル酸イソボルニル(脂環エステルアクリレートモノマー)、下記に構造を示す。
【0107】
【0108】
KJケミカルズ製「ACMO」(アクリルアミド系モノマー)、下記に構造を示す。
【0109】
【0110】
日本触媒製「イミレックスP」(マレイミド系モノマー)、下記に構造を示す。
【0111】
【0112】
日本触媒製「イミレックスC」(マレイミド系モノマー)、下記に構造を示す。
【0113】
【0114】
KJケミカル製「DMAA」(アクリルアミド系モノマー)、下記に構造を示す。
【0115】
【0116】
KJケミカル製「DAAM」(アクリルアミド系モノマー)、下記に構造を示す。
【0117】
【0118】
東京化成工業製「N-ビニルーεーカプロラクタム」(N-ビニル系モノマー)、下記に構造を示す。
【0119】
【0120】
[硬化剤(D)]
Omnirad819(IGM Resins社製光ラジカル重合開始剤ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド)
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
表2および表4からわかるように、本発明に係る実施例1乃至15は、いずれも造型性が良好であった。また、本発明の硬化性樹脂組成物を硬化して作製した、試験片Xのシャルピー衝撃強さは1.0KJ/m2以上、試験片Yの摩擦係数は0.7未満、比摩耗量は0.5mm3・N-1・Km-1未満であった。すなわち、本発明にかかる光硬化性樹脂組成物を用いれば、良好な靭性と高い摺動性を両立する物品が得られることが確認できた。
【0126】
また、表2の結果において、ポリエチレン粒子(C)を添加しなかった比較例1は、比摩耗量および摩擦係数が評価基準Bを満たすことができなかった。また、ポリエチレン粒子(C)の添加量が66.7質量部の比較例2は、粘度が上昇してしまったために立体造形物を作成することができなかった。これらの結果と実施例1~6の結果により、ポリエチレン粒子(C)の添加量は、多官能ラジカル重合性化合物(A)と単官能ラジカル重合性化合物(B)の合計100質量部に対して、5乃至50質量部が好ましいことが確認された。
【0127】
さらに、添加したポリエチレン粒子(C)の粘度平均分子量が15万の比較例3は、比摩耗量が評価基準Bを満たすことができなかった。この結果と実施例1~6の結果から、ポリエチレン粒子(C)の粘度平均分子量は、150万以上が好ましいことがわかった。
【0128】
また、3Dプリンターを用いた造形において、添加したポリエチレン粒子(C)の平均粒子径が50μmを超える比較例4は、粒子径が一層の層厚よりも大きかったため、立体造形物を作成することができなかった。造形に用いる装置の使用や造形条件にもよるが、実施例1~6の結果を考慮すると、ポリエチレン粒子(C)の平均粒子径は、50μm以下が好ましいと考えられる。
【0129】
表4の結果より、光硬化性樹脂組成物に含まれる多官能ラジカル重合性化合物(A)のエチレン性不飽和基当量が700g/eq以上である実施例7~15は、いずれの項目も良好であった。しかし、光硬化性樹脂組成物に含まれる多官能ラジカル重合性化合物(A)のエチレン性不飽和基当量が700g/eq未満である比較例5および6は、シャルピー衝撃試験が評価基準Bを満たさず、良好な靱性が得られなかった。これらの結果より、ラジカル重合性化合物(A)のエチレン性不飽和基当量は、700g/eq以上が好ましいことがわかった。
【符号の説明】
【0130】
10 光硬化性樹脂組成物
11 槽
12 造形ステージ
13 駆動
14 光源
15 光エネルギー線
17 造形物
18 制御部
100 光造形装置