IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

特許7566553電子写真用部材、及び電子写真画像形成装置
<>
  • 特許-電子写真用部材、及び電子写真画像形成装置 図1
  • 特許-電子写真用部材、及び電子写真画像形成装置 図2
  • 特許-電子写真用部材、及び電子写真画像形成装置 図3
  • 特許-電子写真用部材、及び電子写真画像形成装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】電子写真用部材、及び電子写真画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/16 20060101AFI20241007BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20241007BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20241007BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
G03G15/16
G03G15/00 552
B32B27/18 Z
B32B27/30 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020162298
(22)【出願日】2020-09-28
(65)【公開番号】P2021060577
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2019182996
(32)【優先日】2019-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】竹永 正裕
(72)【発明者】
【氏名】阿部 敬介
(72)【発明者】
【氏名】大沼 健次
(72)【発明者】
【氏名】内田 光一
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-028613(JP,A)
【文献】特開2019-012124(JP,A)
【文献】特開2015-230456(JP,A)
【文献】特開2014-132329(JP,A)
【文献】特開2013-044878(JP,A)
【文献】特開2020-095249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/16
G03G 15/00
B32B 27/18
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に、基層と、表層とがこの順で積層されている電子写真用部材であって、
該表層は、バインダー樹脂、パーフルオロポリエーテルおよびイオン液体を含み、
該バインダーに対する該パーフルオロポリエーテルの含有割合が、20質量%以上、100質量%以下であり、
該イオン液体は、下記式(1)で示されるアニオンを有することを特徴とする電子写真用部材:
【化1】
(構造式(1)中、mおよびnは、各々独立して、1以上4以下の整数を表す。)。
【請求項2】
表層の該基層に対向する側とは反対側の表面のヘキサデカンに対する接触角が65°以上である、請求項1に記載の電子写真用部材。
【請求項3】
前記イオン液体は、下記構造式(2)~(7)で示される構造群から選ばれるカチオンを有する、請求項1または2に記載の電子写真用部材:
【化2】
(構造式(2)~(7)中、R~R15は、各々独立して、炭素数1~8の炭化水素基を表す。)。
【請求項4】
前記イオン液体は、下記構造式(8)で示されるカチオンを有する、請求項1または2に記載の電子写真用部材:
【化3】
(構造式(8)中、R16~R18は、各々独立して、炭素数1~8の炭化水素基を表す。また、R19は水素またはメチル基を表し、lは1以上8以下の整数を表す。)。
【請求項5】
前記パーフルオロポリエーテルに対するイオン液体の含有割合が25質量%以上、150質量%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の電子写真用部材。
【請求項6】
前記バインダー樹脂が、アクリル系樹脂であることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の電子写真用部材。
【請求項7】
前記電子写真用部材が、エンドレス形状を有する電子写真用ベルトである、請求項1~のいずれか一項に記載の電子写真用部材。
【請求項8】
前記電子写真用ベルトは、前記表層の前記基層に対向する側とは反対側の表面に複数本の溝を有する請求項に記載の電子写真用部材。
【請求項9】
前記複数本の溝は、前記表面に、前記電子写真用ベルトの周方向に直交する方向に直線をおいたと仮定したとき、該直線と交差し、かつ、該周方向に対して非平行な方向に延在している請求項に記載の電子写真用部材。
【請求項10】
前記表層の前記基層に対向する側とは反対側の表面は、
前記直線と交差する前記溝の本数がn本である第1領域と、
前記直線と交差する該溝の本数がn本より多い第2領域と、のみで構成されており、
該第1領域と該第2領域とは、該電子写真用ベルトの周方向に交互に配置されている請求項に記載の電子写真用部材(但し、nは、1以上の整数を表す)。
【請求項11】
前記電子写真用ベルトが、中間転写ベルトである請求項10のいずれか一項に記載の電子写真用部材。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の電子写真用部材を具備する電子写真画像形成装置。
【請求項13】
前記電子写真用部材における前記表層の前記基層に対向する側とは反対側の表面に接して配置されているクリーニング部材をさらに具備する請求項12に記載の電子写真画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真用部材、及び該電子写真用部材を具備した電子写真画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置において用いられる部材の一つに中間転写ベルトがある。高画質が求められる電子写真装置においては、中間転写ベルトの更なる転写特性の向上が求められている。その一つとして、中間転写ベルトの表面に種々の加工を施すことで転写特性を向上させる取り組みが行われている。特許文献1には、電子写真用部材のトナー担持面である外表面へのトナーの付着力を低減するために、撥水性及び撥油性を有するパーフルオロポリエーテルを含有する表層を設けた電子写真用部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-028613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子写真画像に対するより一層の高画質化の要求が高まっている。それに伴って、中間転写ベルトの如き、電子写真画像形成プロセスにおいて、トナーを担持する機能を担う電子写真用部材に対しては、トナー担持面である外表面へのトナー付着性のより一層の低減が必要であると本発明者らは認識した。
本発明者らの検討によれば、特許文献1に係る電子写真用部材において、表層中におけるパーフルオロポリエーテル含有量を単に増加させても、それによる電子写真用部材の外表面へのトナー付着性の低減効果は限定的であった。
【0005】
本開示の一態様は、外表面へのトナーの付着性をより低減した電子写真用部材の提供に向けたものである。また、本開示は、高品位な電子写真画像を形成することができる電子写真画像形成装置の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の少なくとも一つの態様によれば、厚み方向に、基層と表層とがこの順で積層されている電子写真用部材であって、該表層は、バインダー樹脂、パーフルオロポリエーテルおよびイオン液体を含み、
該バインダーに対する該パーフルオロポリエーテルの含有割合が、20質量%以上、100質量%以下であり、
該イオン液体は、下記構造式(1)で示されるアニオンを有する電子写真用部材が提供される:
【0007】
【化1】
(構造式(1)中、mおよびnは、各々独立して、1以上4以下の整数を表す。)。
【0008】
本開示の少なくとも一つの態様によれば、
厚み方向に、基層と表層とがこの順で積層されている電子写真用部材であって、該表層は、バインダー樹脂、パーフルオロポリエーテルおよびイオン液体を含み、該バインダーに対する該パーフルオロポリエーテルの含有割合が、20質量%以上、100質量%以下であり、かつ、該表層の該基層に対向する側とは反対側の表面のヘキサデカンに対する接触角が65°以上である電子写真用部材が提供される。
【0009】
また、本開示の少なくとも一つの態様によれば、前記電子写真用部材を具備する電子写真画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様によれば、外表面へのトナーの付着がより一層低減された電子写真用部材を得ることができる。また、本開示の一態様によれば、高品位な電子写真画像を形成することができる電子写真画像形成装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の一態様に係る電子写真画像形成装置の一例を示す断面概略図である。
図2】本開示の一態様に係る電子写真用部材の厚み方向の概略断面図である。
図3】本開示の一態様に係る電子写真用部材の効果発現の想定メカニズムの説明図である。
図4】外表面に溝を有する、本開示の他の態様に係る電子写真用ベルトの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
前記した通り、本発明者らの検討によれば、特許文献1に係る電子写真用部材に関して、表層中のパーフルオロポリエーテル(PFPE)の含有量を増加しても当該電子写真用部材の外表面へのトナーの付着性の低減効果が限定的であった。
その理由は、バインダー樹脂と、該バインダー樹脂中に分散してなるPFPEとを含む表層においては、PFPEは表面自由エネルギーが小さいため、表層22と空気との界面、すなわち、表層の外表面側に偏在し易い。それゆえ、電子写真用部材の外表面には、トナーが付着しにくくなっている。しなしながら、表層の外表面近傍に存在し得るPFPEの量には上限があり、一定量以上のPFPEの表層に含有させても、過剰量のPFPEは、表層の内部に存在するだけである。そのため、過剰量のPFPEの添加では、電子写真用部材の外表面のトナー付着性のより一層の低減を図ることは困難であった。
そこで、本発明者らは、PFPEの含有量の増加以外の方法によって電子写真用部材の外表面へのトナー付着性のより一層の低減を図るべく検討を重ねた。その結果、PFPEと、下記構造式(1)で示されるアニオンを有するイオン液体とを含有する表層が、トナーの付着性が極めて低い外表面を与え得ることを見出した。
【0013】
【化2】
(構造式(1)中、mおよびnは、各々独立に1以上、4以下の整数を表す)。
【0014】
PFPEと上記構造式(1)で示される構造を有するアニオンを含むイオン液体を含む表面層が、トナー付着性の極めて低い外表面を与える理由を本発明者らは以下のように推測している。
【0015】
PFPEのエーテル構造部分には非共有電子対が存在する。そのため、図3に示したように、PFPEのエーテル構造部分と、イオン液体のカチオンとが相互作用し、エーテル構造部分の近傍に、より多くの該カチオンが存在している。そして、カチオンの近傍には、対イオンであるアニオンが存在する。このとき、アニオンが、分子内に複数個のパーフルオロアルキル基を有する上記構造式(1)で示される構造を有するアニオンであることにより、PFPEの近傍に、より多くのパーフルオロアルキル基が存在するようになる。そして、パーフルオロアルキル基は、表層の外表面側に配向するため、表層の外表面へのトナーの付着性をより低下させることができると考えられる。なお、図3に示すPFPEは一例であって、p、qはそれぞれ0または1以上の整数を示し、pとqが同時に0となることはない。RはPFPEの末端基を示し、後述する反応性官能基あるいは非反応性官能基から選択される。また、イオン液体のカチオンも好ましい一例を示す。
そして、かかる特定のアニオンを含むイオン液体をPFPEと併用することで、PFPE単独では困難であると考えられる、外表面のヘキサデカンに対する接触角(以降、単に「接触角」ともいう)が65°以上である電子写真用部材を得ることが可能となる。接触角が65°以上となることで、従来に無いトナー低付着性が発現する。
このように高い接触角は、例えば、表層にPFPEと共に含有させるイオン液体が、トリフルオロメタンスルホン酸アニオンの如き、パーフルオロアルキル基を一つのみ有するアニオンを含むイオン液体では達成できない値であると本発明者らは考えている。
さらに、当該特定のアニオンを含むイオン液体をPFPEと併用することにより、特定の量のPFPEを表層中に含有させることで達成できる接触角を、PFPEの含有量を当該特定の量から減らしても達成することができる。すなわち、PFPEの使用量を減らすことができ、電子写真用部材の製造コストを削減できる。
【0016】
以下に、本開示の一態様にかかる電子写真用部材について、エンドレス形状を有する電子写真用部材(以降、電子写真用ベルト)ともいう)を例に説明する。なお、本開示に係る電子写真用部材は、以下の実施形態に限定されるものではない。具体的には、例えば他の形態として、ローラ形状を有する電子写真用部材が挙げられる。
【0017】
<電子写真用部材>
図2に示す電子写真用ベルト7は、基層21と前記基層21の外周面上に設けられた表層22とを有する。すなわち、厚み方向に基層と表層がこの順で積層されている。
表層22は、バインダー樹脂、PFPEおよびイオン液体を含む。該表層中における、該バインダーに対する該PFPEの含有割合は、20質量%以上、100質量%以下である。さらに、該イオン液体は、上記構造式(1)で示される構造を有するアニオンを含む。
【0018】
本発明者らの検討の結果、次のことが明らかとなった。電子写真用部材のトナー担持面である、該表層の該基層に対向する側とは反対側の表面(外表面)のヘキサデカンに対する接触角と、外表面へのトナー付着性との間には正の相関がある。つまり、当該接触角の値が大きいほど、トナーの付着性は小さくなる。そのため、本開示では、ヘキサデカンに対する接触角を用いて、電子写真用部材のトナー低付着性を規定している。
【0019】
該電子写真用部材は、上記2層のみから構成されてもよいし、この2層の他に、該基層の該表層に対向する側とは反対側の表面(電子写真用部材裏面)に他の部材を有していてもよい。
【0020】
<基層>
基層21には、通常、導電性を付与するために、導電性物質を添加することができる。導電性物質としては、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ等のカーボン系の無機系導電粒子やアンチモン酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン等の金属酸化物等の無機系導電粒子が挙げられる。中間転写ベルトとして用いられる場合、基層21はその体積抵抗率が1×10Ω・cm以上1×1012Ω・cm以下の範囲に調整されていることが好ましい。また、基層21は、その表面抵抗率が1×10Ω/□以上1×1014Ω/□以下の範囲に調整されていることが好ましい。
基層21の体積抵抗率を1×1012Ω・cm以下とすることにより、所定の転写バイアス印加による一次転写性及び二次転写性の低下を抑制できる。また、基層21の体積抵抗率を1×10Ω・cm以上とすることにより、抵抗ムラの発生を抑制し、転写ムラ等の発生、画像不良の発生を防止することができる。また、基層21の表面抵抗率を上記の範囲に設定することによって、転写材が中間転写ベルトから離れる際の剥離放電やトナー飛散による画像不良を低減することができる。基層21の厚みは、機械的強度及び耐屈曲性から30μm以上150μm以下が好ましい。
【0021】
<表層>
表層22は、バインダー樹脂、PFPE及びイオン液体を含有する。また、これら以外に、光重合開始剤、分散剤、導電剤等の添加剤を含有してもよい。
【0022】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、スチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、シリコーン樹脂、及びポリビニルブチラール樹脂、並びに、それらの混合樹脂を用いることができる。
バインダー樹脂は、PFPEを分散させたり、基層21との密着性を確保したり、機械的強度の特性を確保したりするために用いられる。上記バインダー樹脂の中でも、本開示に係る表層22を構成するPFPEを良好に分散させることが可能であるため、メタクリル樹脂又はアクリル樹脂が好ましく用いられる。以下、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂を総称してアクリル系樹脂と呼ぶ。
【0023】
アクリル系樹脂を形成するための重合性モノマーとしては、例えば、下記(i)又は(ii)が挙げられる。重合性モノマーとしては、塗料として上市されているものを用いることも可能である。
(i)ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、アルキルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェニルアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、及びビスフェノールAジアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種のアクリレート。
(ii)ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、アルキルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート及びビスフェノールAジメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1種のメタクリレート。
これらの中でも、感光体やクリーニングブレード等の他部材と摺擦することを考慮すると、高硬度であることが好ましい。このため、アクリル系樹脂についても2官能以上の架橋性モノマーを多く使用し、より高硬度とすることが好ましい。
【0024】
また、このような重合性モノマーからアクリル系樹脂を形成するには、光重合開始剤を添加し、電子線又は、紫外線によって重合させるといった方法がある。
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、チオキサントン系、ベンジルジメチルケタール、α-ヒドロキシケトン、α-ヒドロキシアルキルフェノン、α-アミノケトン、α-アミノアルキルフェノン、モノアシルフォスフィンオキサイド、ビスアシルフォスフィンオキサイド、ヒドロキシベンゾフェノン、アミノベンゾフェノン、チタノセン系、オキシムエステル、オキシフェニル酢酸エステル等のラジカル発生型の光重合開始剤が挙げられる。
【0025】
上記バインダー樹脂の含有量は、表層22の全固形分の質量に対して、表層強度の観点から20質量%以上であることが好ましい。また含有量の増加に伴い相対的にPFPE及びイオン液体成分が減少することによるトナー低付着性不足の防止の観点から、70質量%以下であることが好ましい。
【0026】
また、表層22の厚みは、1μm以上20μm以下であることが望ましい。表層22の厚みを1μm以上とすることでトナー低付着性の維持と剥がれの抑制を両立して耐久性を担保できる。表層22の厚みを20μm以下とすることで必要な耐屈曲性能が得られる。
【0027】
(PFPE)
パーフルオロポリエーテル(PFPE)は、パーフルオロアルキレンオキシを繰り返し単位として有するオリゴマー又はポリマーである。
パーフルオロアルキレンオキシの繰り返し単位としては、ジフルオロメチレンオキシ(-CFO-)、テトラフルオロエチレンオキシ(-CFCFO-)、及びヘキサフルオロプロピレンオキシ(-CFCFCF-O-または-C(CF)FCFO-)の繰り返し単位が挙げられる。
PFPEとしては、上記バインダー樹脂と結合又は結合に近い状態を形成することができる反応性官能基を有するPFPE、及び、上記バインダー樹脂と結合又は結合に近い状態を形成しない非反応性官能基を有するPFPEのいずれであっても用い得る。
上記の反応性官能基を有するPFPEは、バインダー樹脂との相互作用によって、バインダー樹脂とPFPEとの相溶性が良好となり、PFPEをバインダー樹脂中に安定して分散させ得る。バインダー樹脂が付加反応で形成される場合において、バインダー樹脂を形成するためのモノマーと付加反応を生じる上記反応性官能基としては、例えば、アクリル基、メタクリル基、オキシシラニル基が挙げられる。
アクリル基又はメタクリル基を有するPFPEとしては、例えば、「フルオロリンク MD500」、「フルオロリンク MD700」、「フルオロリンク 5101X」、「フルオロリンク 5113X」、「フルオロリンク AD1700」(いずれも商品名、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製)、「オプツールDAC」(商品名、ダイキン工業社)が挙げられる。
【0028】
また、バインダー樹脂が付加反応によって形成される場合において、バインダー樹脂を形成するためのモノマーと付加反応を生じない非反応性官能基としては、ヒドロキシル基、トリフルオロメチル基又はメチル基が挙げられる。
このようなPFPEとして、例えば、「フォンブリンD2」、「フォンブリンM60」、「フルオロリンク S10」(いずれも商品名、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製)「デムナム S-20」、「デムナム S-65」、「デムナム S200」(いずれも商品名、ダイキン工業社製)が挙げられる。
その中でも、電子写真用部材表面のトナー低付着性の観点からPFPEは非反応性官能基を有しているものが好ましい。
【0029】
また、表層中におけるPFPEの含有量は、表層22の基層21に対向する側とは反対側の表面近傍に十分にPFPEを存在させるため、バインダー樹脂(100質量%)に対して20質量%以上であることが必要である。また、オイル状であるPFPEが多すぎると、電子写真用部材表面からPFPEが染み出してトナーに付着し、トナー低付着性が低下するため、表層中におけるPFPEの含有量は、バインダー樹脂に対して100質量%以下であることが必要である。
【0030】
(イオン液体)
イオン液体とは、カチオンとアニオンとからなる液体であって、幅広い温度範囲で液体として存在する塩であり、特に、かかる塩を構成するイオン種に比較的大きな有機イオンを用いることにより、100℃以下の融点を有する塩を指す。
本開示におけるイオン液体は、電子写真用部材に用いた際に、トナー低付着性、すなわちヘキサデカンに対する接触角向上の観点から、複数のパーフルオロアルキル基を含むアニオンを有するイオン液体を用いることが好ましい。
【0031】
・アニオン(陰イオン)
上記イオン液体を構成するアニオン種としては、下記構造式(1)で示されるパーフルオロアルキル基を2つ有するスルホニルイミドイオンを用いることができる。
【0032】
【化3】
【0033】
構造式(1)中、mおよびnは、各々独立して、1以上4以下の整数を表す。
構造式(1)を満たすアニオンの具体例としては、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミドイオン、ビス(パーフルオロプロパンスルホニル)イミドイオン、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドイオン(ビス(パーフルオロブタンスルホニル)イミドイオンともいう)、トリフルオロメタンスルホニルパーフルオロプロパンスルホニルイミドイオン、トリフルオロメタンスルホニルパーフルオロブタンスルホニルイミドイオン等が挙げられる。
【0034】
・カチオン(陽イオン)
上記イオン液体を構成するカチオン種としては、特に限定されず、上記構造式(1)で示されるスルホニルイミドイオンと対になりイオン液体を構成する陽イオンを用いることができる。
このカチオンの好ましい具体例としては、下記構造式(2)~(7)で示される構造群から選択されるカチオン、あるいは下記構造式(8)で示される反応性官能基を有するカチオン等が挙げられる。
【0035】
【化4】
【0036】
構造式(2)~(7)中、R~R15は、各々独立して、炭素数1~8の炭化水素基を表す。
該炭化水素基の例としては、例えば、以下の如き炭化水素基が挙げられる。i)炭素数1~8の直鎖状または分岐鎖状の飽和炭化水素基。ii)炭素数2~8の直鎖状または分岐鎖状の不飽和炭化水素基。iii)置換もしくは未置換の、炭素数3~8の飽和脂環式炭化水素基。iv)置換もしくは未置換の、炭素数4~8の不飽和脂環式炭化水素基。v)置換もしくは未置換の、炭素数6の芳香族炭化水素基(フェニル基)。ここで、前記飽和脂環式炭化水素基、前記不飽和脂環式炭化水素基および前記芳香族炭化水素基の置換基としては、例えば、炭素数1~3のアルキル基が挙げられる。なお、「炭素数1~8の炭化水素基」の炭素数は、置換基の炭素数をも含めた炭素の数である。
【0037】
【化5】
【0038】
構造式(8)中、R16~R18は、各々独立して、炭素数1~8の炭化水素基を表す。該炭化水素基としては、前記構造式(2)~(7)のR~R15と同様の基を挙げることができる。また、R19は水素またはメチル基を表し、lは1以上8以下の整数を表す。
【0039】
以下、各カチオンについて詳細を説明する。ここでは順にa)イミダゾリウム系イオン(構造式(2))、b)アンモニウム系イオン(構造式(3))、c)ピリジニウム系イオン(構造式(4))、d)ピペリジニウム系イオン(構造式(5))、e)ピロリジニウム系イオン(構造式(6))、f)ホスホニウム系イオン(構造式(7))、g)アクリロイルもしくはメタクリロイル系イオン(構造式(8))について説明する。
【0040】
a)イミダゾリウム系イオン
上記構造式(2)に示すイミダゾリウム系イオンの具体例を以下に挙げる。
1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムイオン、1-(tert-ブチル)-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-フェニル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-(2,4-ジメチルフェニル)-3-メチルイミダゾリウムイオン。
【0041】
b)アンモニウム系イオン
上記構造式(3)に示すアンモニウム系イオンの具体例を以下に挙げる。
N,N,N-トリメチル-N-プロピルアンモニウムイオン(TMPA)、N,N,N-トリブチル-N-メチルアンモニウムイオン、N,N,N-トリオクチル-N-メチルアンモニウムイオン、N-ブチル-N,N,N-トリメチルアンモニウムイオン、N-(tert-ブチル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムイオン、N-フェニル-N,N,N-トリメチルアンモニウムイオン、N-(2,4-ジメチルフェニル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムイオン。
【0042】
c)ピリジニウム系イオン
上記構造式(4)に示すピリジニウム系イオンの具体例を以下に挙げる。
1-エチルピリジニウムイオン、1-ブチルピリジニウムイオン、1-ヘキシルピリジニウムイオン、1-(tert-ブチル)ピリジニウムイオン、1-フェニルピリジニウムイオン、1-(2,4-ジメチルフェニル)ピリジニウムイオン。
【0043】
d)ピペリジニウム系イオン
上記構造式(5)に示すピペリジニウム系イオンの具体例を以下に挙げる。
N-メチル-N-エチルピペリジニウムイオン、N-メチル-N-プロピルピペリジニウムイオン、N-(tert-ブチル)-N-メチルピペリジニウムイオン、N-フェニル-N-メチルピペリジニウムイオン、N-(2,4-ジメチルフェニル)-N-メチルピペリジニウムイオン。
【0044】
e)ピロリジニウム系イオン
上記構造式(6)に示すピロリジニウム系イオンの具体例を以下に挙げる。
N-メチル-N-プロピルピロリジニウムイオン、N-メチル-N-ブチルピロリジニウムイオン、N-(tert-ブチル)-N-メチルピロリジニウムイオン、N-フェニル-N-メチルピロリジニウムイオン、N-(2,4-ジメチルフェニル)-N-メチルピロリジニウムイオン。
【0045】
f)ホスホニウム系イオン
上記構造式(7)に示すホスホニウム系イオンの具体例を以下に挙げる。
トリメチルプロピルホスホニウムイオン、トリブチルメチルホスホニウムイオン、トリエチルペンチルホスホニウムイオン、(tert-ブチル)-トリメチルホスホニウムイオン、フェニル-トリメチルホスホニウムイオン、(2,4-ジメチルフェニル)-トリメチルホスホニウムイオン。
【0046】
g)メタクリロイルもしくはアクリロイル系イオン
上記構造式(8)に示すメタクリロイルもしくはアクリロイル系イオンの具体を以下に挙げる。
(2-アクリロイルオキシエチル)トリメチルアンモニウムイオン、(2-メタクリロイルオキシエチル)トリメチルアンモニウムイオン、(2-アクリロイルオキシエチル)トリブチルアンモニウムイオン、(2-メタクリロイルオキシエチル)トリブチルアンモニウムイオン。
【0047】
上記構造式(2)~(8)で示されるカチオンの内、平面環状構造を有するカチオン(構造式(2)、構造式(4)、構造式(5)、構造式(6))は、PFPEと作用する際、立体障害が小さい。このため、PFPEのパーフルオロアルキル基部を覆わずにエーテル基部と作用し、電子写真用部材のトナー低付着性をより向上させ易い点で、好ましい。中でも、構造式(2)で示されるイミダゾリウム系イオンは、最も立体障害が小さい点でより好ましい。
また、上記構造式(8)に示すメタクリロイルもしくはアクリロイル系イオンは、バインダー樹脂としてアクリル系樹脂を用いる際、バインダー樹脂と結合又は結合に近い状態を形成することができる反応性官能基を有する。そのため、バインダー樹脂との相互作用によって、バインダー樹脂とイオン液体との相溶性が良好となり、イオン液体が安定して分散されるため、等量の他のイオン液体を用いた際と比べて、表層強度の観点で好ましい。
【0048】
また、表層中の上記イオン液体の含有量は、PFPEの含有量(100質量%)に対して、PFPEのエーテル構造部分にイオン液体のカチオンを確実に相互作用させるために、25質量%以上、特には、50質量%以上とすることが好ましい。また、PFPEのパーフルオロアルキル基部分を該表面の接触角の向上に有効に活用するために、イオン液体の含有量は、150質量%以下とすることが好ましい。
なお、イオン液体の含有割合は、イオン液体を表層から抽出して定量することで判断できる。抽出に用いる溶媒としては、前記イオン液体を溶解し得る溶媒を選択する。具体例としては、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。そして、抽出後の抽出液中の溶媒を、ロータリーエバポレーター等を用いて除去し、各種クロマトグラフィーによりイオン液体を単離することで、表層中のイオン液体の含有割合を定量できる。
【0049】
(添加剤)
表層は、本開示の効果の発現を妨げない範囲で、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。
電子写真用部材の表層中にPFPEをドメインとしてより安定して形成させるために分散剤を用いてもよい。分散剤としては、パーフロオロアルキル鎖と炭化水素鎖にそれぞれ親和性のある部位を持つ化合物、つまりは親フッ素と嫌フッ素の両親媒性を持つ化合物で、界面活性剤、両親媒性ブロックコポリマー及び両親媒性グラフトコポリマーが好ましく用いられる。
その中でも、分散剤は下記(i)または(ii)であることが好ましい。(i)フルオロアルキル基を有するビニルモノマーと、アクリレートまたはメタクリレートとを共重合させて得られるブロック共重合体。(ii)フルオロアルキル基を有するアクリレートまたはメタクリレートと、ポリメチルメタクリレートを側鎖に有するメタクリレートマクロモノマーとを共重合させて得られる櫛型グラフト共重合体。
上記(i)のブロック共重合体としては、日本油脂社製の「モディパー」(登録商標)F200、F210、F2020、F600、FT-600がある。
また、上記(ii)の櫛型グラフト共重合体としては、フッ素系グラフトポリマーとしては、東亜合成社製の「アロン」(登録商標)GF-150、GF-300、GF-400、GF-420がある。
【0050】
また、表層22には、導電性を付与するために、導電剤を含有することができる。導電剤としては、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ等のカーボン系導電粒子や、アンチモン酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン等の金属酸化物等が挙げられる。
その他の添加剤の例としては、この分野に公知のフィラー粒子、潤滑剤、導電補助剤、硬化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、架橋剤、顔料、増粘剤等が挙げられる。
【0051】
<電子写真用部材の製造方法>
図1を用いて、本開示に係る電子写真用部材の一態様としての中間転写ベルトを具備する本開示の電子写真画像形成装置(電子写真装置)について、以下に詳しく説明するが、本開示はこの実施形態に限定されない。
中間転写ベルトの基層21は、以下の方法によって作製することが可能である。
例えば、ポリイミドの如き熱硬化性樹脂を用いた場合、導電剤並びに必要に応じて添加剤を熱硬化性樹脂の前駆体又は可溶性の熱硬化性樹脂、及び溶剤と共にワニスとして分散し、このワニスを遠心成形装置の成形型にコーティングする。次いで、コーティングされた膜の焼成工程を経て半導電性フィルムを形成する。
【0052】
また、熱可塑性樹脂を用いた場合、導電剤と熱可塑性樹脂、必要に応じてさらに添加剤を混合し、2軸の混練装置等で溶融混練して半導電性の樹脂組成物を作製する。
次にこの樹脂組成物を溶融押し出しによりシート形状、フィルム形状又は、円筒形状に押し出し成形することで基層を得ることができる。
エンドレス形状を有する基層は、例えば、円筒ダイスから樹脂組成物を溶融押し出しすることによって得られる樹脂チューブから形成することができる。または、シート形状またはフィルム形状に押出し成形して得た樹脂シートまたは樹脂フィルムの端部同士をつなぎ合わせて円筒形状とすることによっても形成することができる。また、押出成形方法の他に、熱プレス法、射出成形法、ストレッチブロー成形法、あるいはインフレーション成形法など公知の成形方法を用いて成形することもできる。また、成形した基層に、処理剤の塗布、研磨処理等の表面処理を施してもよい。
【0053】
中間転写ベルトの表層22の形成方法としては、例えば、次の方法が挙げられる。まず表層22の上記記載の構成材料であるバインダー樹脂を形成するための重合性モノマー、重合開始剤、PFPE、イオン液体、その他必要に応じて分散剤、導電剤、その他添加剤を適当な有機溶媒中に溶解、分散して、表層用塗工液を得る。次にリングコート、ディップコート、スプレーコート等の方法により、前記基層21の外周上に該表層用塗工液を塗布し、有機溶媒を除去する目的で60~90℃で乾燥を実施する。その後、紫外線照射機を用いて、紫外線硬化させて、本実施形態の中間転写ベルトが得られる。
【0054】
さらに、該表層は、その外表面には、溝の如き凹凸形状を有していることが好ましい。外表面が、凹凸形状を有することで、クリーニングブレードの如き他の接触部材との接触面積が小さくなり、外表面へのトナーの付着をより一層低減させ得る。
凹凸形状の付与方法としては、特に限定されない。例えば、中子などに支持された上記表層を有する中間転写ベルトを、砥粒を含有するラッピングフィルムと当接させながら周方向に回転させて、該表層の該表面を研磨し、凹凸形状を付与する方法が挙げられる。また、予め所望の形状に加工した型を当接するインプリント加工などの方法も用いることができる。
【0055】
図4は、外表面に溝を有する、本開示の他の態様に係る電子写真用ベルトの説明図である。電子写真用ベルト405の外周側の表面(以降、「外表面」とも称する)には、複数本の溝401が付与されている。溝401の各々は電子写真用ベルト405の周方向に直交する方向に直線をおいたと仮定したとき、該直線に対して交差し、かつ、周方向に対して非平行に延在している。具体的には、溝401の各々は、周方向に対してなす狭角θが0°を超えて±3°未満であることが好ましい。より好ましくは狭角θが±1°未満である。溝401が周方向に対してなす狭角が上記の範囲内である場合、クリーニングブレードの、電子写真用ベルトの、隣接する2本の溝401で挟まれている領域と当接する箇所が固定されないため、その部分のみが摩耗することを抑制できる。
【0056】
溝401は、電子写真用ベルトの外表面に複数本設けられている。該電子写真用ベルトの外表面は、その周方向に直交する方向においた仮想直線に交差する溝の本数がn本である第1領域402、および、該仮想直線に交差する溝の本数がn本より多い第2領域403、のみで構成されている。該第1領域と該第2領域とは、周方向に交互に配置されている。溝401の本数nは、1以上の整数であり、トナークリーニングを安定的に行うことができれば、特には問わないが、2,000~120,000本であることが好ましい。2,000本以上であると、溝401が付与されていない部分と当接するクリーニング部材(クリーニングブレード)部分の面積が減ることで、クリーニングブレードと電子写真用ベルト405との間に発生する摩擦力を小さくすることができる。120,000本以下であると、溝401上にあるトナーを、より良く転写することができる。
【0057】
該第2領域の溝の本数は、2n-10本以上、2n+10本以下であることが好ましい。該第2領域の溝の本数が2n-10本以上であると、該第1領域と該第2領域の境界におけるクリーニングブレードの当接部の場所の変化を安定して生じさせることができる。また、該第2領域の溝の本数が、2n+10本以下であると、溝上にあるトナーを、より良く転写させることができる。
【0058】
該溝の各々について、隣り合う溝の間隔については、特に制限はないが、トナークリーニングの観点からおよそ均等であることが好ましい。間隔を均等にすることで、局所的なブレードの摩耗を抑えることができる。
【0059】
該第2領域の周方向の長さは、0.01~50mmであることが好ましい。また該溝の各々は、周方向に非連続であり、該第2領域は、各々の溝の端部を含んでいてもよい。該第2領域の周方向の長さが50mm以下であると、溝上にあるトナーをより良く転写させることができる。
【0060】
該第2領域が、電子写真用ベルト405の外表面に少なくとも1個存在する。特には、1~3個存在することが好ましく、周方向に2~3個存在することがより好ましい。第2領域を、電子写真用ベルトの周方向に2~3個存在させることで、溝上にあるトナーをより良く転写させることができる。
溝401の深さは0.10μm以上5.0μm未満であることが好ましく、0.20μm以上2.0μm以下であることがさらに好ましい。溝の深さを上記範囲内とすることで、電子写真用ベルトへのクリーニングブレードの当接状態を長期にわたって安定させることができる。
【0061】
該溝の幅は0.10μm以上3.0μm未満であることが好ましく、0.20μm以上2.0μm以下であることがさらに好ましい。溝の幅を上記範囲内とすることで、トナーの転写性を維持し、電子写真用ベルトの画像品位を保つことが可能となる。該溝を形成するための加工方法としては、例えば、切削加工、エッチング加工、インプリント加工など公知の加工方法を用いて加工することができる。該溝の加工再現性や加工コストの観点からは、インプリント加工が好ましい。
【0062】
電子写真用ベルト405の厚みは10μm以上500μm以下が好ましく、30μm以上150μm以下が特に好ましい。また、本実施形態の電子写真用ベルト5は、ベルトとして使用するほか、電子写真用部材として使われているドラムあるいはロールなどに巻き付けたり、被覆したりして使用してもよい。
【0063】
<電子写真画像形成装置>
図1は本開示の一態様に係る電子写真用部材を中間転写ベルトとして具備する、本開示の一態様に係る電子写真画像形成装置(以降、「電子写真装置」ともいう)の概略断面図である。
該電子写真装置は、図1に示すように、像担持体としてのドラム形状の電子写真感光体(以下、感光ドラムと記す)の周囲に、帯電手段、露光手段、現像手段、クリーナ等を有して構成される画像形成手段たるプロセスユニットが色毎に計4個設けられている。各プロセスユニットにて形成された感光ドラム上の画像が、ドラムに隣接して移動通過する中間転写ベルトへ、複数の1次転写部において順次多重転写され、フルカラーのトナー像が形成される。その後、2次転写部において中間転写ベルト上に形成されたトナー像が記録材上に一括転写される。記録材上のトナー像は、その後定着部で、記録材上に熱や圧力によって溶融固着され定着される構成となっている。
【0064】
以下、該電子写真装置についての詳細を説明する。
この画像形成装置は、図面上左から右に順に並列配設された第1から第4の4つの画像形成ユニットY・M・C・Kを有する。各画像形成ユニットY・M・C・Kは何れも同様の構成を有するレーザー走査露光方式の電子写真プロセス機構であり、像担持体としての感光ドラム1を有する。そして、この感光ドラム1に作用する電子写真プロセス手段である、帯電手段としての帯電ローラ2、露光手段としての露光装置3、現像手段としての現像装置4、1次転写手段としての1次転写ローラ5、ドラムクリーナ6等を有する。
中間転写ベルト7は、駆動ローラを兼ねる2次転写対向ローラ8と、テンションローラを兼ねる寄り補正ローラ9と、従動ローラ10と、の平行3本のローラ間に張架してある。寄り補正ローラ9は第1の画像形成ユニットY側に、2次転写対向ローラ8は第4の画像形成ユニットK側に、従動ローラ10は2次転写ローラ8の下方に位置させて配設してある。寄り補正ローラ9と従動ローラ10との間の中間転写ベルトの下面と各画像形成ユニットY・M・C・Kの感光ドラム1の上面とを接触させてある。また、寄り補正ローラ9はアライメント調整することで、中間転写ベルトの寄りを制御可能となっている。
各画像形成ユニットY・M・C・Kの1次転写ローラ5は、寄り補正ローラ9と従動ローラ10との間の中間転写ベルトの内側に配設されていて、それぞれ、中間転写ベルト7を挟んで感光ドラム1の上面に圧接させてある。各画像形成ユニットY・M・C・Kの感光ドラム1と中間転写ベルト7との接触部が、それぞれ、1次転写ニップ部T1である。中間転写ベルト7と2次転写ローラ12との接触部が2次転写ニップ部T2である。2次転写ニップ部T2よりも記録材搬送方向上流側にはレジストローラ対13が配設されている。また、2次転写ニップ部T2よりも記録材搬送方向下流側には、不図示の記録材搬送ベルト装置と、定着装置が順次配設されている。
【0065】
フルカラー画像を形成するための動作は次の通りである。第1から第4の画像形成ユニットY・M・C・Kを画像形成シーケンスの所定の制御タイミングで駆動する。その駆動により、各感光ドラム1が矢印の時計方向に所定の同じ速度で回転駆動される。そして、中間転写ベルト7も2次転写対向ローラ8により矢印の反時計方向に感光ドラム1の回転速度と同じ速度で回転される。
回転する感光ドラム1の表面が帯電ローラ2により所定の極性・電位に一様に帯電される。そのドラム1の帯電面が露光装置3により画像露光される。本実施の形態においては、露光装置3はレーザースキャナであり、画像情報信号に対応して変調したレーザー光を出力して、感光ドラム1の帯電面を走査露光する。これにより、ドラム面に走査露光パターンに対応した静電像(静電潜像)が形成される。形成された静電像は現像装置4によりトナー像として現像される。
【0066】
上記のような電子写真プロセスにより、第1の画像形成ユニットYでは、感光ドラム1の面上にフルカラー原画像の色分解成分像の内、イエロー成分像に対応したイエロートナー像が形成される。第2の画像形成ユニットMでは、マゼンタ成分像に対応のマゼンタトナー像が、第3の画像形成ユニットCでは、シアン成分像に対応のシアントナー像が、それぞれ、所定の制御タイミングで形成される。また、第4の画像形成部Kでは、ブラック成分像に対応のブラックトナー像が所定の制御タイミングで形成される。
そして、第1の画像形成ユニットYの1次転写ニップ部T1において、感光ドラム1に形成されたイエロートナー像が回転駆動されている中間転写ベルト7上に1次転写されていく。次いで、第2の画像形成ユニットMの1次転写ニップ部T1において、感光ドラム1に形成されるマゼンタトナー像が、中間転写ベルト7上の上記イエロートナー像に重ねられて1次転写される。更に、同様にして、第3の画像形成ユニットCと第4の画像形成ユニットKの各1次転写ニップ部T1において、中間転写ベルト7上にシアントナー像とブラックトナー像が順次1次転写される。
【0067】
すなわち、中間転写ベルト7上に、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの都合4色の色トナー像が順次、所定の位置に重ね合わされて重畳(多重)転写されて、フルカラーの未定着トナー画像が合成形成される。各1次転写ニップ部T1において、感光ドラム1から中間転写ベルト7へのトナー像の1次転写は、次の通りである。即ち、1次転写ローラ5に対して不図示の1次転写電源部から所定の1次転写バイアスが印加されて、感光ドラム1から中間転写ベルト7へトナー像が静電転写されることでなされる。
1次転写バイアスは、トナーの帯電極性とは逆極性で、所定電位の直流電圧である。また、各画像形成ユニットY・M・C・Kにおいて、1次転写ニップ部通過後の感光ドラム1の表面はドラムクリーナ6により1次転写残トナーの除去を受けて清掃され、繰り返して作像に供される。
【0068】
上記のようにして中間転写ベルト7上に合成形成されたフルカラーの未定着トナー画像は、中間転写ベルト7の引き続く回転により搬送されて、2次転写ローラ12と中間転写ベルト7との接触部である2次転写ニップ部T2に至る。そして、中間転写ベルト7上に形成されたフルカラーの未定着トナー画像の画像先端が2次転写ニップ部T2に到達するタイミングで、その2次転写ニップ部T2に記録材Pのプリント開始位置が一致するようにレジストローラ対13の回転開始が制御される。記録材Pが2次転写ニップ部T2を挟持搬送されていく過程において、2次転写ローラ12に対して2次転写電源部からトナーの帯電極性とは逆極性で、所定電位の2次転写バイアスが印加される。2次転写バイアスは、トナーの帯電極性とは逆極性で、所定電位の直流電圧である。
【0069】
これにより、中間転写ベルト7上のフルカラーの未定着トナー画像が記録材Pに対して一括して2次転写される。2次転写ニップ部T2を出た記録材Pは、中間転写ベルト7から分離され、記録材搬送ベルト装置により定着装置に導入される。そこで、各色トナー像のトナーが溶融混色してフルカラープリント画像として記録材表面に定着(固着画像化)され、フルカラープリントが機外に排出される。
【0070】
記録材分離後の中間転写ベルト7の表層面は、引き続く中間転写ベルト7の回転過程で中間転写ベルトクリーナ11によって2次転写残トナーの除去を受けてクリーニングされ、次の作像工程に備える。中間転写ベルトクリーナ11では、クリーニング部材(ブレード)を中間転写ベルト7の表面に当接させて、ベルト表面に付着している2次転写残トナーを掻き取る。そして残トナーを回収トナーとして中間転写ベルトクリーナ11中の回収トナーボックスへ回収する。
画像濃度を検知する機能を持つパッチ検知センサ20(トナー像検知手段)は、張架ローラ10が張架する中間転写ベルト部に対向する位置に設けられる。中間転写ベルト上に形成された調整用トナー像(パッチ画像)に照射した光の反射光や散乱光を光学的に検知するセンサである。
記録材に二次転写されるトナー像が中間転写ベルト上に一次転写される期間以外の期間で、中間転写ベルト上に調整用トナー像(パッチ画像)を形成する。その結果に応じて、画像形成条件を調整する。
【実施例
【0071】
以下に、実施例および比較例を示し、本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。なお、各例では、本開示の電子写真用部材として、中間転写ベルトを作製した。
【0072】
以下に、各例において用いた測定方法及び評価方法について説明する。
<トナー低付着性評価(接触角)>
付着性の評価はノルマルヘキサデカン(n-HD)の接触角にて判定した。n-HD接触角は接触角計(商品名:PCA-11、共和界面化学社製)を用いて測定した。
【0073】
<画像評価>
実施例又は比較例の中間転写ベルトを、フルカラー電子写真画像形成装置(商品名:iRC2620;キヤノン社製)に備え付けられている中間転写ベルトの代わりに取り付けた。そして記録材(ゼロックス社普通紙4024)の全面に青色のベタ画像を印刷することによって画像評価を行った。印刷画像を目視により観察し、下記の基準にて評価した。
A:画像に全くムラが見られない。
B:画像にムラがほとんどない。
C:画像にムラがいくつか見られる。
【0074】
<表層強度評価>
表層強度の評価は、硬度の測定値にて判定した。表層22の硬度は、微小押し込み硬さ試験機(商品名:ナノインデンターG200型、Agilent Technologies,Inc製)を用いて、バーコビッチ型圧子を使用して測定した。なお、測定領域は、表層22の最表面から厚さ方向に100~200nmの領域とし、この領域における平均硬度を算出した。この測定値について、下記の基準に基づき評価した。
ランクA:硬度=0.15GPa以上
ランクB:硬度=0.10GPa以上、0.15Pa未満
ランクC:硬度=0.1GPa未満
【0075】
(実施例及び比較例に係る表層形成用塗料の調製に用いた材料)
実施例及び比較例に係る表層形成用塗料の調製に用いた材料を以下の表1~表4に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
(表層形成用塗料1~21の調製)
下記表5-1~5-2に記載の配合量にて各材料を,撹拌式ホモジナイザー(アズワン社製)で混合して表層形成用塗料1~21を調製した。
【0081】
(表層形成用塗料C-1~C-3の調製)
下記表5-3に記載の配合量にて各材料を,撹拌式ホモジナイザー(アズワン社製)で混合して表層形成用塗料C-1~C-3を調製した。
【0082】
【表5-1】
【0083】
【表5-2】
【0084】
【表5-3】
【0085】
〔実施例1〕
フルカラー複写機((商品名:iRC2620、キヤノン社製)に装着されているポリイミド製の中間転写ベルト自体を基層21に用いて本実施例に係る電子写真用ベルト1を作製した。
すなわち、基層21の外周面上に、表面層形成用塗料1の塗膜を形成し、該塗膜を温度70℃で3分間乾燥させた。その後、紫外線を積算光量が500mJ/cmとなるように該塗膜に照射して該塗膜を硬化させた。こうして、膜厚が4μmの表層を有する電子写真用ベルト1を作製した。
得られた中間転写ベルト1を、前記した各種評価に供した。
【0086】
〔実施例2~21〕
表層の形成に表層形成用塗料2~21を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2~21に係る電子写真用ベルト2~21を作製し、評価した。
電子写真用ベルト1~21の評価結果を表6に示す。
【0087】
【表6】
【0088】
〔比較例1~3〕
表層の形成に表層形成用塗料C-1~C-3を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1~3に係る電子写真用ベルトC-1~C-3を作製し、評価した。
電子写真用ベルトC-1~C-3の評価結果を表7に示す。
【0089】
【表7】
【符号の説明】
【0090】
7 中間転写ベルト
21 基層
22 表層
図1
図2
図3
図4