(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】中間転写ベルト及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/16 20060101AFI20241007BHJP
【FI】
G03G15/16
(21)【出願番号】P 2020170035
(22)【出願日】2020-10-07
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】軽部 圭二
(72)【発明者】
【氏名】五月女 清典
(72)【発明者】
【氏名】内野 めぐみ
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-024898(JP,A)
【文献】特開2016-099440(JP,A)
【文献】特開2020-201317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/16
G03G 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナー像が転写される中間転写ベルトにおいて、
前記中間転写
ベルトは、少なくともポリイミドを主成分とする基層と、前記基層の外周上側に設けられた表層の2層以上の層を有し、前記表層の収縮量が4mm以上、6mm以下、かつ、前記表層のナノインデンター硬度が110MPa以上、230MPa以下であることを特徴とする
中間転写ベルト。
【請求項2】
トナー像が転写される中間転写ベルトにおいて、
前記中間転写
ベルトは、少なくともポリイミドを主成分とする基層と、前記基層の外周上側に設けられたアクリルを主成分とする表層の2層以上の層を有し、前記表層の[平均アクリル当量/硬化率]が192以上、201以下、かつ、前記表層のナノインデンター硬度が110MPa以上、230MPa以下であることを特徴とする中間転写
ベルト。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の中間転写ベルトを使用することを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンタなどの電子写真方式の画像形成装置において用いられる電子写真用部材、装置等に係り、特に、中間転写ベルト及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置においては、中間転写ベルト上にYMCKの各色のトナー像を重ね合わせた後に、紙上に一括転写することで、フルカラー画像を得るタンデム方式が広く採用されている。一般に、中間転写ベルトは電気的な特性や機械強度に加え、クリーニング性や光学センサの読み取り等の観点から、平滑度や光沢度などの表面性に関する機能を求められる。
【0003】
特許文献1では、ラッピングフィルムを用いて中間転写ベルトの外周面を回転研磨することによって、表面性を制御する手段が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-181767号公報
【文献】特開2006-53492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように研磨加工された中間転写ベルトにおいて、巻癖による画像不良や光学センサの読み取りエラー等の不具合が生じることがあった。通常、中間転写ベルトは内側に配置された複数の支持体によって一定張力を与えられた状態で張架され、駆動ローラ等で回転し、トナー像を搬送する。
【0006】
しかし、長期に亘る停止時間が発生した際に、支持体等で中間転写ベルトが屈曲された箇所に応力が長時間集中するため、巻癖が残る場合がある。特に、特許文献1のように研磨時に大きな張力(周方向の応力)を与えて加工された中間転写ベルトにおいては、研磨後も応力が残り、巻癖がつきやすい状態となってしまう。
【0007】
巻癖は、支持体によって中間転写ベルトが屈曲される角度が大きくなるほど厳しい。つまり、一般的には屈曲角度が大きくなる傾向がある、小型装置で使用される際に巻癖がつきやすくなる。このような小型装置の場合、コストや配置等の関係から、特許文献2のような張力付与手段を移動させるような機構を持たせることが難しく、課題となっていた。
【0008】
本発明の目的は、中間転写ベルトの巻癖を悪化させることなく、パッチセンサーの読み取り不良にかかわる画像不良を抑制することができる中間転写ベルト及び画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る中間転写ベルトは、基層及び表面層を有する中間転写ベルトであり、該基層は少なくともポリイミドを主成分としており、該表層においては収縮量が4mm以上、6mm以下かつナノインデンター硬度が110MPa以上、230MPa以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、中間転写ベルトの表層をある一定範囲の収縮量を持つものにすることにより、中間転写ベルトの巻癖を悪化させることなく、パッチセンサーの読み取り不良にかかわる画像不良を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の中間転写ベルトの断面の概略図である。
【
図2】本発明の中間転写ベルトを用いた画像形成装置の断面を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を詳しく説明する。
【0013】
(画像形成装置)
本発明の中間転写ベルトを用いた画像形成装置の例について
図2で説明する。なお、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0014】
図2の電子写真画像形成装置100は、カラー電子写真画像形成装置(カラーレーザープリンタ)である。この電子写真画像形成装置には、中間転写体である中間転写ベルト7の平坦部分に沿って、その移動方向に順にイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色の画像形成ユニットPy、Pm、Pc、Pkが配設されている。ここで、1Y、1M、1C、1Kはそれぞれ電子写真感光体、2Y、2M、2C、2Kはそれぞれ帯電ローラ、3Y、3M、3C、3Kはそれぞれレーザー露光装置、4Y、4M、4C、4Kはそれぞれ現像器、5Y、5M、5C、5Kはそれぞれ1次転写ローラを示す。各画像形成ユニットの基本的な構成は同一であるので、画像形成ユニットの詳細については、イエロー画像形成ユニットPyについてのみ説明する。
【0015】
イエロー画像形成ユニットPyは、像担持体としてドラム型の電子写真感光体(以下、「感光ドラム」又は「第1の画像担持体」とも称する)1Yを有する。感光ドラム1Yは、アルミニウム製のシリンダを基体として、その上に電荷発生層、電荷輸送層及び表面保護層を順に積層して形成したものである。
【0016】
また、イエロー画像形成ユニットPyは、帯電手段としての帯電ローラ2Yを備えている。帯電ローラ2Yに帯電バイアスを印加することで、感光ドラム1Yの表面は一様に帯電される。
【0017】
感光ドラム1Yの上方には、画像露光手段としてのレーザー露光装置3Yが配設されている。レーザー露光装置3Yは、一様に帯電された感光ドラム1Yの表面を画像情報に応じて走査露光して、イエロー色成分の静電潜像をその感光ドラム1Yの表面に形成する。
【0018】
感光ドラム1Yに形成された静電潜像は、現像手段としての現像器4Yによって現像剤であるトナーによって現像される。つまり、現像器4Yは、現像剤担持体である現像ローラ4Ya、現像剤量規制部材である規制ブレード4Ybを備えており、また現像剤であるイエロートナーを収容している。イエロートナーが供給された現像ローラ4Yaは、現像部において感光ドラム1Yと軽圧接されており、感光ドラム1Yと順方向に速度差を持って回転される。現像ローラ4Yaによって現像部に搬送されたイエロートナーは、現像ローラ4Yaに現像バイアスを印加することで、感光ドラム1Yに形成された静電潜像に付着する。これにより、感光ドラム1Yに可視像(イエロートナー画像)が形成される。
【0019】
中間転写ベルト7は、駆動ローラ71、テンションローラ72、従動ローラ73に張架されており、感光ドラム1Yと接触して図中矢印の方向に移動(回転駆動)される。
【0020】
1次転写部Tyに到達した感光ドラム上(第1の画像担持体上)に形成されたイエロートナー画像は、中間転写ベルト7を介して感光ドラム1Yに対向して配置されている1次転写体(1次転写ローラ5Y)によって中間転写ベルト7上に1次転写される。
【0021】
同様に、以上の作像動作を、中間転写ベルト7の移動に伴ってマゼンダ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各ユニットPm、Pc、Pkにおいて行い、中間転写ベルト7上にイエロー、マゼンダ、シアン、ブラックの4色のトナー画像を積層する。4色のトナー層は中間転写ベルト7の移動に従って搬送され、2次転写部T’において、2次転写手段としての2次転写ローラ8により、所定のタイミングで搬送されてくる転写材S(以下、「第2の画像担持体」とも称する)上に一括転写される。このような2次転写においては通常十分な転写率を確保するために数kVの転写電圧を印加する。
【0022】
転写材Sは、転写材Sが収納されているカセット12から、ピックアップローラ13によって搬送路に供給される。搬送路に供給された転写材Sは、搬送ローラ対14及びレジストローラ対15によって中間転写ベルト7に転写された4色のトナー画像と同期をとられて2次転写部T’まで搬送される。
【0023】
転写材Sに転写されたトナー画像は、定着器9によって定着されて、例えばフルカラーの画像となる。定着器9は、加熱手段を備えた定着ローラ91と加圧ローラ92とを有し、転写材S上の未定着トナー画像を加熱、加圧することで定着する。その後、転写材Sは搬送ローラ対16、排出ローラ対17などによって機外に排出される。
【0024】
中間転写ベルト7のクリーニングユニットが、中間転写ベルト7の駆動方向の2次転写部T’の下流に配設されており、2次転写部T’において転写材Sに転写されずに中間転写ベルト7に残った転写残トナーを除去する。
【0025】
以上説明したように感光体から中間転写ベルト、中間転写ベルトから転写材へトナー画像の電気的転写プロセスが繰り返し行われる。また、多数の転写材へ記録を繰り返すことで電気的転写プロセスが更に繰り返し行われることになる。
【0026】
(中間転写ベルト)
本発明の中間転写ベルト7は
図1に示すように、基層10と前記基層10の外周上に設けられた表層11の2層よりなる。
【0027】
(基層)
<樹脂材料>
基層10を構成する樹脂材料としては、主成分として、ポリイミド(PI)が用いられ、その他に、副成分として、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)等の樹脂が使用できる。
【0028】
<導電性フィラー>
ベルト部材に導電性を付与する等の目的で、樹脂材料には導電性フィラーとして少なくとも1種のカーボンブラックや金属微粒子が配合される。このうち機械物性の観点からカーボンブラックが好ましい。
【0029】
カーボンブラックには、その製法や原料により様々な呼称がある。具体的には、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ガスブラックなどである。
【0030】
カーボンブラックとしては、公知の種々のものを用いることができる。具体的には次のものが挙げられる。ケッチェンブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ガスブラックが挙げられる。これらの中でも、不純物が少なく、前記熱可塑性樹脂とともにフィルム形状に成形した時に、異物不良の頻度が少なく、また、所望の導電性を得やすいアセチレンブラック、ファーネスブラックが好ましい。アセチレンブラックとしては、具体的には、「デンカブラック」シリーズ(電気化学工業株式会社製)、「三菱導電フィラー」シリーズ(三菱化学株式会社製)、「バルカン」シリーズ(キャボット社製)、「ブリンテックス」シリーズ(デグッサ社製)、「SRF」(旭カーボン社製)が挙げられる。ファーネスブラックとしては、具体的には「トーカブラック」シリーズ(東海カーボン株式会社製)、「旭カーボンブラック」シリーズ(旭カーボン株式会社製)が挙げられる。
【0031】
(基層の製造方法)
中間転写ベルト7の基層10は、以下の方法によって作製することが可能である。
【0032】
例えば、導電フィラーであるカーボンブラックを、ポリイミド(熱硬化性樹脂)の前駆体又は可溶性の熱硬化性樹脂、溶剤とともにワニスとして分散し、このワニスを遠心成型装置の成形型にコーティングする。次に、コーティングされた膜の焼成工程を経て半導電性フィルムを形成する。この基層となる半導電性フィルムの膜厚みは、50μm以上80μm以下であることが好ましい。
【0033】
さらに、平滑度や光沢度等の表面性を制御する目的で研磨加工を実施する。本発明で使用するラッピングフィルムは、公知の市販品を用いて良い。例えば、砥粒種としては、酸化アルミニウム(WA)、炭化ケイ素(GC)、ダイアモンド(D)等があり、フィルム番手は#600、#800、#1000、#2000等の中から選択して用いてよい。また、回転研磨する際の中間転写ベルトの張架手段としては、中間転写ベルト内面側から外側に向かって張架ローラが移動することによって張力を与える、張架ローラ移動方式や、中間転写ベルトの内周長よりも、数%程度大きい外周長を有する円筒状の中子に保持することによって張力を与える、中子方式があるが、何れの張架手段を用いても良い。
【0034】
(表面層)
表層11を構成する材料としては、主に、紫外線硬化性樹脂、光重合開始剤、導電性物質等で構成される。また、離型性を向上させる為に、フッ素系樹脂等を添加してもよい。
【0035】
紫外線硬化性材料を硬化することによって得られる紫外線硬化性樹脂としては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、マレイミド樹脂、オキセタン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニルエーテル樹脂などが挙げられる。中でも、感光体やクリーニングブレード等の他部材と摺擦することを考慮すると、高硬度を有するアクリル系樹脂であることが特に好ましい。このような紫外線硬化性樹脂は、紫外線硬化性のモノマー、オリゴマー、プレポリマーなどを硬化させることによって得ることができる。
【0036】
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、チオキサントン系、ベンジルジメチルケタール、α-ヒドロキシケトン、α-ヒドロキシアルキルフェノン、α-アミノケトン、α-アミノアルキルフェノン、モノアシルフォスフィンオキサイド、ビスアシルフォスフィンオキサイド、ヒドロキシベンゾフェノン、アミノベンゾフェノン、チタノセン系、オキシムエステル、オキシフェニル酢酸エステルなどのラジカル発生型の光重合開始剤が挙げられる。
【0037】
導電性物質としては、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブなどのカーボン系の無機系導電粒子やアンチモン酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタンなどの金属酸化物などが挙げられる。
【0038】
表層の形成方法としては、まず上記、構成部材を適当な有機溶媒中に溶解、分散して、表層用塗工液を得る。次にリングコート、ディップコート、スプレーコートなどの方法により、前記基層の外周上に塗布し、有機溶媒を除去する目的で乾燥を実施する。前記、乾燥においては、ラジカル反応を誘発しないよう50~80℃程度の環境下での乾燥が望ましい。その後、紫外線照射機を用いて、紫外線硬化させて、本発明の中間転写ベルト7を得る。
【0039】
また、表層の厚みは、4μm以上、10μm以下であることが望ましい。表層の厚みが4μm未満であると表層の収縮応力が弱くなってしまうため、巻癖を緩和することができなくなってしまう恐れがあり、10μmより厚くなると基層と表層の密着性が悪化し、剥がれが発生する恐れがある。
【0040】
また、表層11が硬化する際に収縮することにより、基層10についた内周面側に働く巻癖に対し、表層11が硬化する際に働く収縮により外周面側に応力が作用し巻癖を緩和することができる。この収縮の際の応力と相関のある物性が収縮量(表層の反り量を測定したもので測定方法は後述する)である。そして表層11は、この収縮量を4mm以上、6mm以下、表層表面のナノインデンター硬度を110MPa以上、230MPa以下にする必要がある。収縮量が4mm未満だと基層10に働く巻癖応力を緩和する力が小さくなってしまうため、中間転写体7として巻癖が大きくなり、センサ読み取りエラーが発生する恐れがある。また、6mmより大きくなると表層11の外周面側に働く応力の為、剥がれが発生してしまう恐れがある。
【0041】
この収縮量を調整する方法としては、樹脂組成、紫外線照射量、コート厚みなどが挙げられる。
【0042】
また、表層表面のナノインデンター硬度については、110MPa未満だと、低い表面硬度であるとクリーニングブレードからの押圧により、ベルト側が窪んでしまい、ベルト側に出来た窪みを超える際に、より大きな圧力が加わることでブレードめくれを誘発してしまうことがある。また、230MPaより大きいと膜が硬くなったことにより耐折性が低下してしまう恐れがある。
【0043】
また、表層11の収縮量と同様に材料的な観点から、表層11の硬化する際に働く収縮応力は、個々の重合反応の際に分子レベルでの収縮が起きた結果、発生する応力であり、表層11中での重合反応数の総和と相関があると考えられる。
【0044】
その反応数の総和を示す値が[平均アクリル当量/硬化率]となる。そして表層11は、この[平均アクリル当量/硬化率]を192以上、201以下とする必要がある。
【0045】
この[平均アクリル当量/硬化率]が192未満だと表層11の外周面側に働く応力の為、剥がれが発生してしまう恐れがあり、201より大きくなると基層10に働く巻癖応力を緩和する力が小さくなってしまうため、中間転写ベルト7として巻癖が大きくなり、センサ読み取りエラーが発生する恐れがある。
【0046】
ここでアクリル当量とは、モノマーの固有値であるモノマー分子量/官能基数のことであり、その平均アクリル当量とは、各モノマーのアクリル当量を各モノマー配合比のモル平均として算出し、表層11中のアクリル成分の体積比率で除した値としている。また、硬化率とは、UV硬化の際の官能基の重合反応比率のことであり、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)により測定することが可能であり、測定方法については後述する。
【実施例1】
【0047】
中間転写ベルトは以下の方法にて作製した。
基層は、厚み60μm、体積抵抗率ρv=5E+9(Ω・cm)、表面抵抗率ρs=1E+10(Ω/□)の電子導電材を含む、ポリイミド樹脂からなる円筒形状のフィルムの外周面は、研磨フィルム(KOVAX社製ラピカWA#800)を用いて、ホリバ製グロス計IG-320で60となるように研磨加工を実施し、
図1の基層10を得た。
【0048】
[コート液1]
表層形成の為の塗布液は以下に示す通りである。
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 31.0質量部
ペンタエリスリトールトリアクリレート 4.0質量部
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 11.0質量部
メチルエチルケトン 60質量部
PTFE粒子0.2μm(ダイキン社製ルブロン) 35.0質量部
分散剤(東亞合成社製 アロンGF-420) 20.0質量部
アンチモンドープ酸化錫微粒子(石原産業社製 SN-100P)
7.0質量部
光重合開始剤(IGMレジン製オムニラッド184)
5.0質量部
表層は、上記のコート液1を撹拌式ホモジナイザーで混合分散したのち、分散装置ナノマイザー(吉田機械興業社製)により分散を行い、混合分散液を得た。
【0049】
上記混合分散液を研磨加工後のポリイミド樹脂からなる基層にリングコート法により、塗布し、60℃の乾燥炉に2分間投入する。その後、1500mJ/cmの紫外線で硬化し、表層の膜厚が5μmの中間転写ベルト1を得た。
【0050】
この中間転写ベルト1の表層の収縮量は、5.2mmで、表層のナノインデンター硬度は150MPaで、硬化率は92%であった。表層の収縮量、表層のナノインデンター硬度及び硬化率の測定方法については後述する。
【0051】
また、作製した中間転写ベルト1については、評価装置に装着し、画像形成を行い、出力画像の評価、膜剥がれ有無の確認をするクロスカット試験及び中間転写ベルトの耐屈曲性を確認するMIT試験を行った。これらについても詳細な画像評価方法、クロスカット試験方法、及びMIT試験方法については後述する。
【0052】
評価結果については、表1に示す。
【0053】
【実施例2】
【0054】
下記のコート液2を使用した以外は実施例1と同様にして中間転写ベルト2を得た。測定結果並びに評価結果は上記表1に示す。
【0055】
[コート液2]
表層形成の為の塗布液は以下に示す通りである。
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 26.0質量部
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 20.0質量部
メチルエチルケトン 60質量部
PTFE粒子0.2μm(ダイキン社製ルブロン) 35.0質量部
分散剤(東亞合成社製 アロンGF-420) 20.0質量部
アンチモンドープ酸化錫微粒子(石原産業社製 SN-100P)
7.0質量部
光重合開始剤(IGMレジン製オムニラッド184)
5.0質量部
【実施例3】
【0056】
下記のコート液3を使用した以外は実施例1と同様にして中間転写ベルト3を得た。測定結果並びに評価結果は、上記表1に示す。
【0057】
[コート液3]
表層形成の為の塗布液は以下に示す通りである。
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 37.0質量部
ペンタエリスリトールトリアクリレート 8.0質量部
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 1.0質量部
メチルエチルケトン 60質量部
PTFE粒子0.2μm(ダイキン社製ルブロン) 35.0質量部
分散剤(東亞合成社製 アロンGF-420) 20.0質量部
アンチモンドープ酸化錫微粒子(石原産業社製 SN-100P)
7.0質量部
光重合開始剤(IGMレジン製オムニラッド184)
5.0質量部
【実施例4】
【0058】
下記のコート液4を使用し、紫外線照射量を3000mJ/cm2にした以外は実施例1と同様にして中間転写ベルト4を得た。
【0059】
[コート液4]
表層形成の為の塗布液は以下に示す通りである。
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 31.0質量部
ペンタエリスリトールトリアクリレート 4.0質量部
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 11.0質量部
メチルエチルケトン 60質量部
PTFE粒子0.2μm(ダイキン社製ルブロン) 37.0質量部
分散剤(東亞合成社製 アロンGF-420) 22.8質量部
アンチモンドープ酸化錫微粒子(石原産業社製 SN-100P)
8.0質量部
光重合開始剤(IGMレジン製オムニラッド184)
5.0質量部
【実施例5】
【0060】
実施例4のコート液4を使用し、紫外線照射量を4000mJ/cm2にした以外は実施例1と同様にして中間転写ベルト5を得た。
【比較例1】
【0061】
実施例2のコート液2を使用し、紫外線照射量を800mJ/cm2にした以外は実施例1と同様にして中間転写ベルト6を得た。
【比較例2】
【0062】
実施例3のコート液2を使用し、紫外線照射量を3000mJ/cm2にした以外は実施例1と同様にして中間転写ベルト7を得た。
【比較例3】
【0063】
実施例1のコート液1を使用し、紫外線照射量を3000mJ/cm2にした以外は実施例1と同様にして中間転写ベルト8を得た。
【比較例4】
【0064】
実施例4のコート液4を使用し、紫外線照射量を1500mJ/cm2にした以外は実施例1と同様にして中間転写ベルト9を得た。
【0065】
続いて、表層の収縮力、ナノインデンター硬度、表層の硬化率の測定方法、画像評価、クロスカット試験、MIT試験などの評価方法について説明する。
【0066】
[収縮量測定]
50mm×100mmのサイズでシート状にカットしたポリイミド樹脂からなる基層上(実施例に記載の研磨加工はせず)に実施例で示す、混合分散液を卓上型バーコート装置(RKプリントコートインスツルメント製Kコントロールコーター)を用いて5μm厚みとなるよう塗布し、60℃の乾燥炉に2分間投入したのち、紫外線で硬化させサイズ50mm×100mmの中間転写体を作製した。その長辺端部の短辺側中央位置の反り高さを測定し、収縮量とした。
【0067】
[ナノインデンター硬度測定]
前記記載の表層のナノインデンター硬度の測定には、超微小硬度計ナノインデンター(MTSシステムズ社製)を用いている。中間転写ベルトの測定は、温度23℃-湿度50%RHの環境下で24時間放置後に同環境にて行った。測定法は連続剛性測定法(CSM)で圧子はダイヤモンドチップからなる三角錐(バーコビッチ型)で、振動周波数45Hz、変位応答振幅の目標値を1nmとし、深さを1.5μmまで測定し、変位量-硬度の曲線において、飽和した硬度の値を評価した。なお測定は5回行い、その平均値を採用している。
【0068】
[硬化率測定]
アクリル樹脂は、UV 光照射によりモノマー中のC=C 結合(オレフィン)が単結合に開裂し、重合していくことで硬化する。すなわち、まだ単結合に開裂していないC=C結合の残存量を調べることで、アクリル樹脂の硬化の程度(硬化度)を推測可能である。C=C基残量を調べるため、C=C-H 面内変角振動(1408cm-1)に帰属されるバンドを選択し、同一膜中のアクリル由来の1470 cm-1付近にあるCH2 変角振動に帰属されるバンドのピーク高さで規格化した。紫外線照射後と紫外線照射前の表層11におけるC=C-H面内変角振動(1408 cm-1)のバンドの強度(ピーク高さ)を求め、次式を用いて硬化率を算出した。
硬化率(%)={1-(紫外線照射後のバンド強度/紫外線照射前のバンド強度)×100}
【0069】
[画像評価方法]
実施例、及び比較例の各中間転写ベルトを、
図2に示した画像形成装置に装着し、高温高湿環境(30℃/80%)において100時間放置した。放置後、A3サイズの普通紙(CS068、キヤノン社製)にハーフトーンのマゼンダを5枚連続通紙し、巻癖起因の横スジの評価を、以下に示す基準で実施した。
(横スジ評価)
A:横スジは確認されない。
B:幅1mm未満の横スジが確認された。
C:幅1mm以上の横スジが確認された。
【0070】
[クロスカット試験]
膜の剥がれ度合を評価する方法として、クロスカット試験を実施した。クロスカット試験の測定方法はJIS K5600-5-6に従い行った。またテストは、それぞれの弾性転写ベルトのカット端部から5mm内側位置にて実施した。
剥がれの判断としては、以下とした。
○:25マス中、剥がれ箇所は1マスも見られない。
×:25マス中、剥がれ箇所が1マス以上。
【0071】
[MIT試験]
中間転写ベルトの耐屈曲性試験として、JIS P8115に規定のMIT試験を実施した。実施方法としては、50000回のMIT試験を行い、50000回で破断しなかった場合を○、50000回未満で破断した場合を×とした。
【0072】
尚、MIT試験は、MIT-D(東洋精機社製)を用いた。条件は、巻き付け曲率直径20mm、角度 90度、荷重 0.5kg/mm2で行った。
【0073】
各実施例または比較例に係る中間転写ベルト1~8の収縮率、ナノインデンター硬度、硬化率などの測定結果、画像評価、クロスカット試験などの評価結果をまとめて上述の表1に示した。
【0074】
表1の結果より、収縮量が4mm以上、6mm以下かつナノインデンター硬度を120MPa以上、230MPa以下とすることで、膜剥がれなく、また画像評価での横スジのない中間転写ベルトとなっていることがわかる。
【符号の説明】
【0075】
7 中間転写ベルト
10 基層
11 表面層