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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20241007BHJP
【FI】
G03G15/20 515
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020182965
(22)【出願日】2020-10-30
(65)【公開番号】P2022073160
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 佑介
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-195003(JP,A)
【文献】特開2002-049259(JP,A)
【文献】特開2015-152637(JP,A)
【文献】特開2019-211701(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0035843(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 13/02
G03G 13/14-13/16
G03G 13/20
G03G 13/34
G03G 15/00
G03G 15/02
G03G 15/14-15/16
G03G 15/20
G03G 15/36
G03G 21/00
G03G 21/02
G03G 21/14
G03G 21/20
H05B 1/00- 3/00
H05B 3/02- 3/18
H05B 3/40- 3/82
H01G 9/00
H01G 9/07- 9/18
H01G 9/21- 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する筒状のフィルムと、
前記フィルムを加熱するヒータを有し、前記フィルムの内周側に配置されたニップ形成部材と、
前記フィルムを介して前記ニップ形成部材に当接するように配置された加圧部材と、
を有し、前記ニップ形成部材と前記加圧部材との間のニップ部において、前記フィルム及び前記加圧部材によって記録材を挟持搬送しながら前記記録材上の画像を加熱して前記記録材に定着させる定着装置であって、
前記ヒータは、導電性を有する基板と、前記基板上に絶縁材料で形成された第1の層と、前記第1の層上に形成され、通電により発熱する抵抗発熱体と、前記抵抗発熱体を覆うように絶縁材料で形成された第2の層と、を有し、
前記基板は、接地電位と電気的に接続されており、
前記抵抗発熱体から前記第1の層を介して前記接地電位に至る経路のインピーダンスが、前記抵抗発熱体から前記第2の層を介して前記ニップ部に至る経路のインピーダンスより低い、
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記第1の層の厚さは、前記第2の層の厚さより小さい、
ことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記第1の層の前記基板に接する面の面積は、前記第2の層の前記フィルムの内周面に対向する面の面積より大きい、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記第1の層のインピーダンスが、前記第2の層のインピーダンスより低い、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項5】
前記ニップ形成部材は、前記ヒータと前記フィルムの内周面との間に配置されて前記フィルムの内周面と接触する摺動部材をさらに有し、
前記第1の層のインピーダンスが、前記第2の層と前記摺動部材の合成インピーダンスより低い、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項6】
前記基板と前記接地電位との間に配置された回路素子を有し、
前記第1の層と前記回路素子の合成インピーダンスが、前記抵抗発熱体と前記ニップ部との間のインピーダンスより低い、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項7】
回転する像担持体と、
転写電圧を印加されることで、前記像担持体の表面に担持されたトナー像を記録材に転
写する転写手段と、
前記転写手段によって記録材に転写されたトナー像を記録材に定着させる請求項1乃至のいずれか1項に記載の定着装置と、
を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像を記録材に定着させる定着装置及びこれを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式のプリンタや複写機に搭載される熱定着方式の定着装置として、セラミック製等の基板上に抵抗発熱体を有するヒータと、ヒータに接触しつつ回転するフィルムと、フィルムを介してヒータに対向する加圧ローラを有するものがある。未定着トナー像を担持する記録材は、定着フィルムと加圧ローラの間のニップ部(定着ニップ)で挟持搬送されつつ加熱され、これにより記録材上のトナー像は記録材に加熱定着される。また、熱応力に対する強度の観点でセラミック材よりも優れる金属をヒータの基板に用いた金属基板ヒータの提案もされている。
【0003】
ところで、熱定着方式の定着装置においては、高温高湿環境に長時間放置されることで吸湿しインピーダンスが低下した記録材を用いた場合に、以下のような画像不良が発生するおそれがある。トナー像の転写が行われている状態で記録材が定着ニップに挟持されると、ヒータを発熱させるために印加される交流電圧が記録材を介して転写ニップに伝わり、転写部材に印加されている転写電圧に重畳してしまう。これにより、転写部材から像担持体に向かって流れる転写電流が交流電圧の波形成分によって振れてしまい、転写性にムラが生じ、結果として、画像に副走査方向の濃度ムラ(ACバンディングとも呼ばれる)が現れるおそれがある。特許文献1では、ヒータ上の抵抗発熱体を覆うガラスコーティング内に導電層を形成し、該導電層を接地電位に接続することで、抵抗発熱体に印加される交流電圧の転写電圧への影響を低減することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-253072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記文献に記載の構成では、画像の濃度ムラへの対策としてガラスコーティング内に導電層を形成するため、製造工数の増加やコストの増加が生じてしまう。
【0006】
そこで、本発明は、より簡易な構成で、画像の濃度ムラを抑制可能な定着装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、可撓性を有する筒状のフィルムと、前記フィルムを加熱するヒータを有し、前記フィルムの内周側に配置されたニップ形成部材と、前記フィルムを介して前記ニップ形成部材に当接するように配置された加圧部材と、を有し、前記ニップ形成部材と前記加圧部材との間のニップ部において、前記フィルム及び前記加圧部材によって記録材を挟持搬送しながら前記記録材上の画像を加熱して前記記録材に定着させる定着装置であって、前記ヒータは、導電性を有する基板と、前記基板上に絶縁材料で形成された第1の層と、前記第1の層上に形成され、通電により発熱する抵抗発熱体と、前記抵抗発熱体を覆うように絶縁材料で形成された第2の層と、を有し、前記基板は、接地電位と電気的に接続されており、前記抵抗発熱体から前記第1の層を介して前記接地電位に至る経路のインピーダンスが、前記抵抗発熱体から前記第2の層を介して前記ニップ部に至る経路のインピーダンスより低いことを特徴とする定着装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、より簡易な構成で、画像の濃度ムラを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1に係るプリンタの概略図。
図2】実施例1に係るプリンタの転写部~定着部の構成を示す図。
図3】実施例1に係る定着装置の断面図。
図4】比較例に係るプリンタの等価回路を表す図(a、b)。
図5】転写ニップにおける電圧波形を表す図。
図6】実施例1に係るプリンタの等価回路を表す図(a、b)。
図7】実施例2に係る定着装置の断面図。
図8】実施例2に係るプリンタの等価回路を表す図。
図9】実施例3に係るプリンタの等価回路を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0011】
第1の実施形態(実施例1)について説明する。図1は本実施形態に係る画像形成装置としてのレーザービームプリンタ(以下、プリンタ118とする)の構成を表す概略図である。
【0012】
プリンタ118は、電子写真式の画像形成ユニットであるプロセスカートリッジ109と、定着装置119と、シート給送部116と、排出ローラ115と、を備えている。プリンタ118に対して外部から画像データを含む印刷指示が送信されると、プリンタ118による通紙動作(画像形成動作、印刷動作とも呼ばれる)が開始される。通紙動作においては、まず、シート給送部116から、記録材101が給送ローラ102にピックアップされて搬送ローラ103,104により搬送される。記録材101の搬送が開始されると、通紙検知フラグ120により記録材101の先端及び後端を検知する。記録材101の先端を検知することにより、次に説明する各電子写真プロセスの開始タイミングを決定することが可能である。
【0013】
プロセスカートリッジ109には像担持体(電子写真感光体)である感光ドラム105、帯電ローラ106、現像ローラ107が設けられ、カートリッジ内部に現像剤としてのトナー108が収容されている。通紙動作の開始と共に帯電ローラ106に電圧が印加され、回転する感光ドラム105の表面が均一に帯電させられる。その後、感光ドラム105に対して走査光学装置110からレーザー光111が画像形成範囲に照射されて走査露光が行われ、感光ドラム105の表面に画像データに応じた静電潜像が形成される。トナー108を担持する現像ローラ107に電圧が印加されることで、感光ドラム105上の静電潜像がトナー像として可視化(現像)される。感光ドラム105上に形成されたトナー像は、転写部材としての転写ローラ112に電圧が印加されることにより、記録材101へと転写される。
【0014】
定着装置119は、記録材101上のトナー像を加熱するための加熱装置113と、加熱装置113に対向する加圧部材としての加圧ローラ114とを有し、記録材101を挟持して搬送しながら記録材101上のトナー像を記録材101に定着させる。定着装置119の詳細については後述する。定着装置119を通過した記録材101は、排出ローラ115によりプリンタ118の上部に設けられた排出トレイ排出される。これにより、1枚の記録材101に対する通紙が完了する。複数枚の記録材101に対して連続的に画像形成する場合、通紙検知フラグ120が先行する記録材101の後端を検知することにより、給送ローラ102による次の記録材101の搬送開始タイミングを決定することが可能である。
【0015】
また、プリンタ118にはファン117が備え付けられている。ファン117は、加熱装置113の熱によりプリンタ118の構成要素が劣化・変質すること(特に、プロセスカートリッジ109内のトナー108の固着)を防止する。また、ファン117は、帯電ローラ106等に電圧を印加する電源等の電装部品の過熱を抑制する機能を有する。
【0016】
なお、本実施例では画像形成装置の例として直接転写方式の構成を説明したが、像担持体に形成したトナー像を中間転写ベルト等の中間転写体を介して記録材に転写する中間転写方式であってもよい。その場合、転写部材とは、中間転写体との間に転写ニップを形成し、中間転写体から記録材にトナー像を転写する転写ローラ等を指す。
【0017】
<転写―定着間の詳細説明>
図2は、画像形成過程のうち転写工程から定着工程までの範囲に関する構成を表す模式図である。前述したように、感光ドラム105上に形成されたトナー像は転写ローラ112に電圧が印加されることにより、記録材101に転写される。転写ローラ112は感光ドラム105に対して押圧されており、感光ドラム105と転写ローラ112との間に転写ニップNtが形成される。また、転写ローラ112には転写電源205により直流の高電圧が印加される。転写ローラ112に高電圧が印加されることで転写ニップNtに形成される電界によって、記録材101が転写ニップNtを通過する間に感光ドラム105から記録材101へとトナー像が転写される。
【0018】
記録材101上に転写されたトナー像は、図2の右方向に搬送され定着装置119に到達する。定着装置119の加熱装置113は、ヒータ202、定着フィルム203及び保持部材204を含む。加圧ローラ114は、加熱装置113に対して押圧されており、加熱装置113と加圧ローラ114との間に定着ニップNfが形成される。
【0019】
ヒータ202には、商用電源201(商用交流電源)及び制御回路206が電気的に接続されている。制御回路206は、商用電源201とヒータ202との間の電気回路上に介在し、制御部としてのCPU207からの制御信号に基づいてヒータ202への通電の有無及び供給電力量を制御する。加熱装置113には、例えばヒータ202と保持部材との間に、サーミスタ等の温度検知素子が配置されている。CPU207は、温度検知素子によって検知される温度が所定の温度(画像の定着を行うための温度)となるように制御回路206に制御信号を送る。
【0020】
<定着装置の断面構成>
図3は、加熱装置113の断面構成(ヒータ202の長手方向に垂直な断面を長手方向に見た場合の図)を表している。ヒータ202は、長手方向に細長い板状の基板302に、通電により発熱する抵抗発熱体301と、抵抗発熱体301に電圧を印加するための導電体(不図示)が長手方向に形成されたものである。基板302には、アルミナ等のセラミック材を用いたものやSUS等の金属材料を用いたものがある。本実施例では、ヒータ202の基板302として金属材料を用いている。なお、ヒータ202の長手方向とは、定着ニップNfにおける記録材の搬送方向に対して垂直な方向(画像形成時の主走査方向、定着フィルム203及び加圧ローラ114の回転軸線方向)である。
【0021】
導電性を有する基板302と商用電源電圧が印加される抵抗発熱体301とを絶縁するため、基板302の主面に垂直な方向から見て抵抗発熱体301が形成される領域には、基板302上にガラス等の絶縁材料からなる絶縁層303が形成されている。抵抗発熱体301は、第1の層としての絶縁層303上(第1の層上)に形成されている。また、抵抗発熱体301を保護するため、抵抗発熱体301を覆うように絶縁材料からなる第2の層としての保護層304が形成されている。
【0022】
さらに、製造時の基板302の反りを防止するために、基板302の抵抗発熱体301がある面とは反対側の面にも絶縁層305が形成されている。絶縁層303,305と保護層304の材質は特に限定はされないが、実使用上の温度を鑑みて耐熱性のある材料を選択する必要がある。絶縁層303,305及び保護層304の材質としては、例えばガラスやPI(ポリイミド)が好ましい。
【0023】
保持部材204は、ヒータ202及び定着フィルム203を保持している。ヒータ202は、長手方向に沿って保持部材204に形成された溝の内側に保持され、保持部材204と共に定着フィルム203の内周側の空間(内部空間)に配置されている。定着フィルム203は、耐熱性及び可撓性を有する筒状のフィルムである。
【0024】
加圧ローラ114は、弾性層を有するローラであり、不図示の加圧機構により加圧されて定着フィルム203を介してヒータ202に当接されることで、定着ニップNfを形成している。つまり、ヒータ202及び保持部材204は、加圧部材としての加圧ローラ114と共にニップ部(以下、定着ニップNfとする)を形成するニップ形成部材として機能する。
【0025】
加圧ローラ114が不図示のモータから駆動力を供給されて回転することにより、定着フィルム203は、その内周面をヒータ202の最表層(ここでは保護層304)に対して摺動させながら、保持部材204にガイドされて回転する。そして、定着ニップNfにおいて加圧ローラ114及び定着フィルム203に記録材101が挟持搬送されると共に、記録材101上のトナー像に対し、ヒータ202からの熱が定着フィルム203を介して付与される。これにより、トナーが加熱及び加圧されて軟化した後に記録材101に対して固着することで、記録材101に定着した定着画像が得られる。
【0026】
<比較例の等価回路>
図4図5を用いて、比較例の構成におけるプリンタ118の等価回路とACバンディングについて説明する。図4(a)は、転写ニップNtと定着ニップNfに記録材101が挟持されたときのプリンタ118の電気的な回路構成を表し、図4(b)はその等価回路図である。図4(a)のように転写ニップNtと定着ニップNfの両方に記録材101が挟持された状態では、記録材101を介して、転写ニップNtと定着ニップNfが電気的に接続される。言い換えると、転写ニップNtと定着ニップNfの両方に記録材101が挟持された状態では、等価回路上で転写ニップNtと定着ニップNfとが記録材101のインピーダンスを介して接続される(図4(b))。
【0027】
ここで、ヒータ202の抵抗発熱体301と定着フィルム203は、保護層304を介して容量結合されている(図3参照)。図3において、Cg1は保護層304を介して抵抗発熱体301と定着フィルム203との間に形成される容量成分を表す。
【0028】
図4(a)に示すように、転写ニップNtは転写ローラ112のインピーダンス401を介して転写電源205に接続されている。転写電源205で生成された直流電圧が転写ローラ112に印加されることで、転写ニップNtには転写ニップ電圧VNtが印加される。一方、定着ニップNfには、抵抗発熱体301に印加される商用電源201の交流電圧が、保護層304による容量Cg1を介して、定着ニップ電圧VNfに印加される。
【0029】
このとき、記録材101のインピーダンスにより、転写ニップ電圧VNtは定着ニップ電圧VNfの影響を受ける。特に高湿環境においては、記録材101が吸湿することで記録材101のインピーダンスが低下する。記録材101のインピーダンスが低下した状態において、転写ニップNtと定着ニップNfの両方に記録材101が挟持されると、記録材101を介して伝わる定着ニップ電圧VNfが転写ニップ電圧VNtに重畳される(図5)。
【0030】
これにより、転写ニップNtから感光ドラム105に流れる電流が、商用電源周波数で振れてしまう。図5の期間T1は、転写電源205による電圧の印加が開始されてから定着ニップNfに記録材101の先端が到達するまでの期間である。期間T2は、記録材101が転写ニップNt及び定着ニップNfの両方に挟持されている期間(定着ニップNfを記録材101の先端が通過してから記録材101の後端が転写ニップNtを通過するまでの期間)である。図に示すように、記録材101が転写ニップNt及び定着ニップNfの両方に挟持される期間T2では、定着装置119のヒータ202に印加される交流電圧の商用電源周波数で転写ニップNtから感光ドラム105に流れる電流が振動する。これにより感光ドラム105から記録材101へのトナー像の転写が影響を受け、記録材101に転写された画像には商用電源周波数に相当するピッチの帯状の濃度ムラ(ACバンディング)が発生する。
【0031】
<実施例に係る等価回路>
ここで、本実施例に係るプリンタ118の等価回路を図6(a、b)に示す。ヒータ202の抵抗発熱体301と基板302は、絶縁層303を介して容量結合され、抵抗発熱体301と定着フィルム203は、保護層304を介して容量結合されている(図3参照)。Cg1は保護層304を介して抵抗発熱体301と定着フィルム203との間に形成される容量成分を表し、Cg2は絶縁層303を介して抵抗発熱体301と基板302との間に形成される容量成分を表す。
【0032】
保護層304による容量Cg1のインピーダンスをZg1[Ω]、絶縁層303による容量Cg2のインピーダンスをZg2[Ω]とすると、各インピーダンスZg1、Zg2は以下の式(1)、(2)で表される。
【0033】
【数1】
【数2】
ただし、fは商用電源201の周波数[Hz]であり、jは虚数単位を表す。
【0034】
本実施例では、基板302を接地電位に接続すると共に、上記式(1)、(2)で表されるインピーダンスZg1,Zg2が、次の不等式(3)を満たすようにする。言い換えると、絶縁層303のインピーダンスZg2が、保護層304のインピーダンスZg1より低くなるように構成する。言い換えると、絶縁層303(第1の層)を介して容量結合された抵抗発熱体301と基板302との間のインピーダンスZg2は、保護層304(第2の層)を介して容量結合された抵抗発熱体301と定着ニップNfとの間のインピーダンスZg1より低い。
【0035】
【数3】
【0036】
具体的な例として、商用電源周波数fが50Hz、保護層304の容量Cg1が400pFであった場合、保護層304のインピーダンスZg1の大きさは、式(1)より、8.0MΩとなる。式(3)を満たすために、本実施例として、絶縁層303に用いる材料を保護層304に用いた材料よりも誘電率の低い材料とし、容量Cg2が600pF程度とした。この場合、式(2)より、絶縁層303のインピーダンスZg2の大きさは5.3MΩとなる。
【0037】
以上のように、本実施例では絶縁層303のインピーダンスZg2を保護層304のインピーダンスZg1より低くし、基板302を接地電位に接続している。これにより、抵抗発熱体301に商用電源電圧が印加された際に記録材101を介して転写ニップ電圧VNtに重畳される交流電圧成分を低減することができる。
【0038】
図4(b)に示す比較例と比較しながら、本実施例の構成により転写ニップ電圧VNtに重畳される交流電圧成分が低減される理由を説明する。図6(b)に示すように、本実施例では、保護層304のインピーダンスZg1を介して定着ニップNfを経由する経路に対し、絶縁層303のインピーダンスZg2を経由する経路が並列的に接続されている。ここで、比較例において保護層304を経由する経路のインピーダンスをZref(図4(b))とし、本時実施例において保護層304を経由する経路と絶縁層303を経由する経路の合成インピーダンスをZeq(図6(b))とする。合成インピーダンスZeqの大きさは比較例のインピーダンスZrefより小さくなるから、図6(b)の電圧V0の振幅は図4(b)の電圧V0の振幅より小さくなる。このため、絶縁層303を経由する経路が並列的に接続されたことで、保護層304を介して定着ニップNfに印加される定着ニップ電圧VNfの振幅は小さくなる。
【0039】
さらに、本実施例では、絶縁層303のインピーダンスZg2が保護層304のインピーダンスZg1より小さい構成としている。言い換えると、本実施例は、抵抗発熱体301から絶縁層303を介して接地電位に至る経路のインピーダンスが、抵抗発熱体301から保護層304を介して定着ニップNfに至る経路のインピーダンスより低い構成である。この場合、絶縁層303と保護層304のインピーダンスZg1,Zg2が同等である場合に比べて、絶縁層303を経由する経路を並列的に接続したことによる電圧V0の振幅の減少幅が大きくなる。その結果、保護層304を介して定着ニップNfに印加される定着ニップ電圧VNfの振幅をさらに小さく抑えることができる。
【0040】
以上説明したように、導電性の基板302を接地電位に接続し、絶縁層303を経由する経路のインピーダンスを保護層304を経由する経路のインピーダンスより低くする簡易な構成により、定着ニップ電圧VNfの振幅を効果的に減少させることができる。そして、定着装置119から記録材101を介して転写ニップ電圧VNtに印加される交流電圧成分を抑制し、吸湿等により記録材101のインピーダンスが低い場合であっても、ACバンディングを効果的に抑制することができる。
【0041】
なお、抵抗発熱体301から絶縁層303を介して接地電位に至る経路のインピーダンスには、定着フィルム203の容量成分によるインピーダンスも含まれる。そのため、好ましくは、抵抗発熱体301から絶縁層303を介して接地電位に至る経路のインピーダンスが、抵抗発熱体301から絶縁層303を介して定着フィルム203の内周面に至る経路のインピーダンスより低い構成とする。さらに好ましくは、本実施例のように、絶縁層303の容量成分に対応するインピーダンスZg2が保護層304の容量成分に対応するインピーダンスZg1より低い構成とする。これにより、定着ニップ電圧VNfの振幅を抑制する効果をより確実に得ることができる。
【0042】
(変形例)
本実施例では、絶縁層303と保護層304を誘電率の異なる材料で構成したが、例えば、絶縁層303及び保護層304の厚さや面積を変えることで式(3)の条件を満たすようにしてもよい。具体的には、絶縁層303の厚さを保護層304の厚さより小さくすることが考えられる。また、絶縁層303の基板302と接する面の面積を、保護層304の表面(定着フィルム203の内周面と対向する面)の面積より大きくすることが考えられる。
【実施例2】
【0043】
実施例2に係る定着装置について、図7及び図8を用いて説明する。本実施例では、ヒータ202と定着フィルム203との間に摺動保護板701を配置する点で実施例1と異なっている。以下、実施例1と共通の符号を付した要素は実施例1と実質的に同一の構成及び作用を有するものとする。
【0044】
図7は本実施例におけるヒータ202及び加熱装置113の断面図(ヒータ202の長手方向に垂直な断面を長手方向に見た場合の図)を表す。図7に示すように、本実施例ではヒータ202と、内周面においてヒータ202に対向しつつ回転する定着フィルム203との間に、インピーダンス成分をもつ摺動部材としての摺動保護板701を配置する。
【0045】
摺動保護板701は、少なくとも金属・合金を主剤とした細長い板形状の基板702と、摺動する定着フィルム203を保護する摺動保護層703を有している。基板702に使用する材料としては、ステンレス、ニッケル、銅、アルミ、及びそれらを主材とする合金など、適宜選択されればよい。摺動保護層703の材質は特に限定はされないが、実使用上の温度を鑑みて耐熱性のある材料を選択する必要がある。材質としてはガラスやPI(ポリイミド)が耐熱性の観点で好ましい。
【0046】
ここで、ヒータ202の抵抗発熱体301と摺動保護板701の基板702は、保護層304を介して容量結合されている。また、摺動保護板701の基板702と定着フィルム203は、摺動保護層703を介して容量結合されている。Cg1は、保護層304を介して抵抗発熱体301と定着フィルム203との間に形成される容量成分を表す。Cg3は、摺動保護層703を介して、抵抗発熱体301と定着フィルム203との間に形成される容量成分を表す。
【0047】
本実施例における等価回路を図8に示す。摺動保護層703による容量Cg3のインピーダンスをZg3とすると、インピーダンスZg3は次の式(4)で表される。
【0048】
【数4】
【0049】
さらに、保護層304による容量Cg1のインピーダンスZg1と摺動保護層703のインピーダンスZg3との合成インピーダンスZ1は、次の式(5)で表される。
【0050】
【数5】
【0051】
本実施例では、基板302を接地電位に接続すると共に、上記式(5)で表される合成インピーダンスZ1と式(2)で表されるインピーダンスZg2との関係が、次の不等式(6)で表されるようにする。言い換えると、絶縁層303のインピーダンスZg2が、保護層304と摺動保護板701の合成インピーダンスZ1より低くなるように構成する。
【0052】
【数6】
【0053】
具体的な例として、商用電源周波数fが50Hz、保護層304の容量Cg1を800pF、絶縁層303の容量Cg2を600pFとする。この場合、式(1)、(2)より、インピーダンスZg1の大きさは4.0MΩ、インピーダンスZg2の大きさは5.3MΩとなる。
【0054】
不等式(6)を満たすために、本実施例では摺動保護層703の容量Cg3が800pFとなるように構成する。この場合、式(5)より、合成インピーダンスZ1の大きさは8.0MΩとなり、絶縁層303のインピーダンスZg2より大きくなる。
【0055】
このように、本実施例も、実施例1と同じく、抵抗発熱体301から絶縁層303を介して接地電位に至る経路のインピーダンスが、抵抗発熱体301から保護層304を介して定着ニップNfに至る経路のインピーダンスより低い構成を採用している。これにより、保護層304を介して定着ニップNfに印加される定着ニップ電圧VNfの振幅を効果的に減少させることができ、簡易な構成により、ACバンディングの発生を抑制することができる。
【0056】
また、本実施例では摺動保護板701を用いることで、定着フィルム203がヒータ202と直接摺動する実施例1に比べて定着装置119の耐久性向上を期待することができる。また、摺動保護板701を介して定着フィルム203が加熱されるため、長手方向に関する均熱性を向上することが可能である。
【0057】
なお、抵抗発熱体301から絶縁層303を介して接地電位に至る経路のインピーダンスが、絶縁層303及び摺動保護板701を介して容量結合される抵抗発熱体301と定着ニップNfの内周面との間のインピーダンスより低い構成としてもよい。
【実施例3】
【0058】
実施例3について説明する。本実施例は、ヒータの基板が容量性インピーダンスを介して接地電位に接続される点が実施例1と異なっている。以下、実施例1と共通の符号を付した要素は実施例1と実質的に同一の構成及び作用を有するものとする。
【0059】
本実施例における等価回路を図9に示す。図9に示すように、本実施例ではヒータ202の基板302と接地電位との間に、容量性インピーダンスを有する回路素子としてコンデンサ901を挿入する。コンデンサ901がもつ容量成分をCcとする。また、コンデンサ901のインピーダンスをZcとすると、インピーダンスZcは次の式(7)で表される。
【0060】
【数7】
【0061】
また、コンデンサ901のインピーダンスZcと絶縁層303による容量Cg2のインピーダンスZg2との合成インピーダンスZ2は、次の式(8)で表される。
【0062】
【数8】
【0063】
本実施例では、式(8)で表される合成インピーダンスZ2と保護層304による容量Cg1のインピーダンスZg1との関係が、次の不等式(9)を満たすものとする。
【0064】
【数9】
【0065】
具体的な例として、商用電源周波数fが50Hz、保護層304の容量Cg1を400pF、絶縁層303の容量Cg2を1200pFとする。この場合、式(1)、(2)より、インピーダンスZg1の大きさは8.0MΩ、インピーダンスZg2の大きさは2.7MΩとなる。例えばコンデンサ901として1200pFのものを選択することで、式(8)より、合成インピーダンスZ2は5.3MΩとなり、式(9)の関係が満たされる。
【0066】
このように、本実施例も、実施例1と同じく、抵抗発熱体301から絶縁層303を介して接地電位に至る経路のインピーダンスが、抵抗発熱体301から保護層304を介して定着ニップNfに至る経路のインピーダンスより低い構成を採用している。これにより、保護層304を介して定着ニップNfに印加される定着ニップ電圧VNfの振幅を効果的に減少させることができ、簡易な構成により、ACバンディングの発生を抑制することができる。
【0067】
さらに、容量性インピーダンスであるコンデンサ901は式(7)に示すように周波数特性をもつため、例えば転写電源205の直流電圧に対しては高インピーダンス、商用電源201に対しては低インピーダンスとすることができる。従って、想定される商用電源周波数に応じて適切なコンデンサ901を選択することによりACバンディングを効果的に抑制することが可能である。
【0068】
(変形例)
なお、基板302と接地電位との間に他の回路素子(例えば抵抗素子)を介在させた場合でも、式(9)の関係が満たされていれば本実施例と同様の効果を期待できる。また、実施例2の摺動保護板701と本実施例のコンデンサ901を組み合わせた場合も、合成インピーダンスZ2が合成インピーダンスZ1より低く(|Z1|>|Z2|)なるように構成すれば実施例2、3と同様の効果を期待できる。
【0069】
また、抵抗発熱体301から絶縁層303及びコンデンサ901を介して接地電位に至る経路のインピーダンスが、絶縁層303を介して容量結合される抵抗発熱体301と定着ニップNfの内周面との間のインピーダンスより低い構成としてもよい。
【0070】
その他、上記実施例1~3で説明した構成及びその均等物は、より簡易な構成でACバンディングの抑制を可能とするものであるが、ACバンディングを抑制する効果のある他の技術と組み合わせて適用することを妨げるものではない。
【符号の説明】
【0071】
109…画像形成部/114…加圧部材(加圧ローラ)/118…画像形成装置(プリンタ)/119…定着装置/203…フィルム(定着フィルム)/202…ニップ形成部材、ヒータ/204…ニップ形成部材(保持部材)/301…抵抗発熱体/302…基板/303…第1の層(絶縁層)/304…第2の層(保護層)/701…摺動部材(摺動保護板)/901…回路素子(コンデンサ)/Nf…ニップ部(定着ニップ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9